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特許7504457一括成型マルチ光伝送シート、一括成型マルチ光伝送シートコネクタおよびその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】一括成型マルチ光伝送シート、一括成型マルチ光伝送シートコネクタおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/44 20060101AFI20240617BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20240617BHJP
   G02B 6/028 20060101ALI20240617BHJP
   G02B 6/122 20060101ALI20240617BHJP
   G02B 6/134 20060101ALI20240617BHJP
   G02B 6/32 20060101ALI20240617BHJP
   G02B 6/36 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
G02B6/44 371
G02B6/02 366
G02B6/02 461
G02B6/028
G02B6/122
G02B6/134 301
G02B6/32
G02B6/36 301
G02B6/44 391
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020506630
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2019010419
(87)【国際公開番号】W WO2019177068
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2018045877
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591061046
【氏名又は名称】小池 康博
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 康博
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-101924(JP,A)
【文献】特開2011-095762(JP,A)
【文献】特開2015-028645(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0018985(US,A1)
【文献】特開2014-021439(JP,A)
【文献】特開2007-094148(JP,A)
【文献】YAMASHITA et al.,Light Scattering Measurement in PMMA Optical Fibers,Japanese Journal of Applied Physics,日本,The Japan Society of Applied Physics,1987年11月,Vol. 26, No. 11,pp. L1797-pp. L1799
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02-6/036
6/12-6/14
6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックからなるシート状の被覆部と、
前記被覆部の内部に、該被覆部の延伸方向に沿って延伸するように設けられており、プラスチックからなるコア領域と、プラスチックからなり前記コア領域の外周を囲むクラッド領域と、を有する複数の光伝送領域と、
を備える一括成型マルチ光伝送シートであって、
前記複数の光伝送領域は、前記被覆部の主表面に沿って互いに略平行に一列に並んで配列され、
前記一括成型マルチ光伝送シートの端部にて前記被覆部が前記複数の光伝送領域を囲むとともに、当該端部にて前記複数の光伝送領域の相対位置が前記被覆部によって位置決めされており、
前記複数の光伝送領域の前記コア領域は、材料のミクロな不均一性の相関長が100オングストローム以上のコア材料からなり、
前記複数の光伝送領域の一端面側から光を入射して該光を他端面側に向けて伝送させた場合に、出射光のM値が1.7以上であることを特徴とする一括成型マルチ光伝送シート。
【請求項2】
前記M値が5.0以下であることを特徴とする請求項1に記載の一括成型マルチ光伝送シート。
【請求項3】
プラスチックからなるシート状の被覆部と、
前記被覆部の内部に、該被覆部の延伸方向に沿って延伸するように設けられており、プラスチックからなるコア領域と、プラスチックからなり前記コア領域の外周を囲むクラッド領域と、を有する複数の光伝送領域と、
を備える一括成型マルチ光伝送シートであって、
前記複数の光伝送領域は、前記被覆部の主表面に沿って互いに略平行に一列に並んで配列され、
前記一括成型マルチ光伝送シートの端部にて前記被覆部が前記複数の光伝送領域を囲むとともに、当該端部にて前記複数の光伝送領域の相対位置が前記被覆部によって位置決めされており、
前記複数の光伝送領域の前記コア領域は、材料のミクロな不均一性の相関長が100オングストローム以上のコア材料からなり、
前記複数の光伝送領域の一端面側から光を入射して該光を他端面側に向けて伝送させた場合に、前記他端面側から出力した光を受光素子にて受光して電気信号に変換したときに、前記電気信号の雑音スペクトルの低周波領域における最大ノイズパワー密度が-108dBm/Hz未満であることを特徴とする一括成型マルチ光伝送シート。
【請求項4】
プラスチックからなるシート状の被覆部と、
前記被覆部の内部に、該被覆部の延伸方向に沿って延伸するように設けられており、プラスチックからなるコア領域と、プラスチックからなり前記コア領域の外周を囲むクラッド領域と、を有する複数の光伝送領域と、
を備える一括成型マルチ光伝送シートであって、
前記複数の光伝送領域は、前記被覆部の主表面に沿って互いに略平行に一列に並んで配列され、
前記一括成型マルチ光伝送シートの端部にて前記被覆部が前記複数の光伝送領域を囲むとともに、当該端部にて前記複数の光伝送領域の相対位置が前記被覆部によって位置決めされており、
前記複数の光伝送領域の前記コア領域は、材料のミクロな不均一性の相関長が100オングストローム以上のコア材料からなり、所定の波長においてシングルモード条件を満たすことを特徴とする一括成型マルチ光伝送シート。
【請求項5】
前記複数の光伝送領域は、所定の距離で略等間隔に配列されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の一括成型マルチ光伝送シート。
【請求項6】
前記所定の距離は、前記複数の光伝送領域のそれぞれに入射させる光を出射する複数の光源の配列距離と等しいことを特徴とする請求項5に記載の一括成型マルチ光伝送シート。
【請求項7】
前記コア領域がグレーデッドインデックス型の屈折率分布を有することを特徴とする請求項1~6のいずれか一つに記載の一括成型マルチ光伝送シート。
【請求項8】
前記コア領域が全フッ素系、部分フッ素系、部分塩素系、または部分重水素化系の材料からなることを特徴とする請求項1~7のいずれか一つに記載の一括成型マルチ光伝送シート。
【請求項9】
端面に設けられたマイクロレンズアレイをさらに備えることを特徴とする請求項1~8のいずれか一つに記載の一括成型マルチ光伝送シート。
【請求項10】
端面に設けられたコーティング層をさらに備えることを特徴とする請求項1~9のいずれか一つに記載の一括成型マルチ光伝送シート。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一つに記載の一括成型マルチ光伝送シートと、
前記一括成型マルチ光伝送シートの断面の外形状に対応した内形状の挿入孔を有し、前記挿入孔に前記一括成型マルチ光伝送シートの少なくとも一端が挿入されているフェルールと、
を備えることを特徴とする一括成型マルチ光伝送シートコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一括成型マルチ光伝送シート、一括成型マルチ光伝送シートコネクタおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバは、中距離、長距離幹線系において、高速通信の長距離化を目的として開発、使用されてきた。
【0003】
一方、主に家庭内等において100m以下の映像機器間の短距離通信を行うことを目的とする場合には、HDMI(登録商標)(High-Definition Multimedia Interface)をはじめとする電気ケーブルが用いられてきた。
【0004】
近年、実用放送が予定されている4K、8K映像などの大容量データ伝送では、電気ケーブルの伝送容量の不足、消費電力の増加、電磁ノイズの増大が大きな問題となってきている。そこで、大容量の通信信号を伝送可能な光ファイバを家庭内におけるコンシューマ用光通信をはじめとする短距離伝送に用いることが検討されてきている。
【0005】
しかしながら、このような家庭内等の短距離の伝送に従来の光ファイバを用いると、長距離通信の場合にはほとんど考慮されていなかったノイズに関連する全く新たな課題が生じ、高品位の高速信号伝送が、このノイズの影響により困難になることが明らかとなった。
【0006】
光通信システムに使用される半導体レーザモジュールには、光ファイバからの反射戻り光を減衰させて、反射戻り光によるノイズが発生しにくいようにするために、光アイソレータを採用しているものもある。
【0007】
特許文献1には、光アイソレータを採用する半導体レーザモジュールにおいて、出射される光の偏波面と一致するように偏光子を設置して、偏光子と光アイソレータの両方によって反射戻り光を減衰させる技術が開示されている。
【0008】
一方、従来の光ファイバは、テープ心線の状態で使用される場合があった。テープ心線とは、複数、たとえば4本の光ファイバを平面状に平行に配列し、その外周を囲むように樹脂テープ層で一括して覆い、さらにその外周を囲むように一括被覆層で一括して覆った構造を有するものである。このようなテープ心線は、一端にMTコネクタを取り付けて、機器や他のテープ心線と接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-014992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、短距離の伝送に従来の光ファイバを用いると、ノイズに関連する全く新たな課題が生じ、高品位の高速信号伝送が困難になるという課題がある。
【0011】
また、従来のテープ心線は、光部品や光機器などの他の光学要素(他のテープ心線を含む)と接続するために、たとえばMTコネクタを取り付ける際に、樹脂テープ層と一括被覆層とを剥がし、光ファイバを取り出して、各光ファイバをMTコネクタのコネクタハウジングに形成された各孔に1本ずつ挿入する作業が必要であった。そのため、MTコネクタの取り付けが煩雑であり、作業に時間が掛かるという問題があった。
【0012】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、従来の光ファイバとは全く異なるものであり、短距離、高品位の高速信号伝送を実現でき、他の光学要素と接続する際の作業性も高い一括成型マルチ光伝送シート、一括成型マルチ光伝送シートコネクタおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る一括成型マルチ光伝送シートは、プラスチックからなるシート状の被覆部と、前記被覆部の内部に、該被覆部の延伸方向に沿って延伸するように設けられており、プラスチックからなるコア領域と、プラスチックからなり前記コア領域の外周を囲むクラッド領域と、を有する複数の光伝送領域と、を備え、前記複数の光伝送領域は、前記被覆部の主表面に沿って互いに略平行に一列に並んで配列され、前記複数の光伝送領域の一端面側から光を入射して該光を他端面側に向けて伝送させた場合の出射光のビームのM値が1.7以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係る一括成型マルチ光伝送シートは、プラスチックからなるシート状の被覆部と、前記被覆部の内部に、該被覆部の延伸方向に沿って延伸するように設けられており、プラスチックからなるコア領域と、プラスチックからなり前記コア領域の外周を囲むクラッド領域と、を有する複数の光伝送領域と、を備え、前記複数の光伝送領域は、前記被覆部の主表面に沿って互いに略平行に一列に並んで配列され、前記複数の光伝送領域の一端面側から光を入射して該光を他端面側に向けて伝送させた場合に、前記他端面側から出力した光を受光素子にて受光して電気信号に変換したときに、前記電気信号の雑音スペクトルの低周波領域における最大ノイズパワー密度が-108dBm/Hz未満であることを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係る一括成型マルチ光伝送シートは、プラスチックからなるシート状の被覆部と、前記被覆部の内部に、該被覆部の延伸方向に沿って延伸するように設けられており、プラスチックからなるコア領域と、プラスチックからなり前記コア領域の外周を囲むクラッド領域と、を有する複数の光伝送領域と、を備え、前記複数の光伝送領域は、前記被覆部の主表面に沿って互いに略平行に一列に並んで配列され、前記複数の光伝送領域の前記コア領域は、材料のミクロな不均一性の相関長が100オングストローム以上のコア材料からなり、所定の波長においてシングルモード条件を満たすことを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様に係る一括成型マルチ光伝送シートコネクタは、前記一括成型マルチ光伝送シートと、前記一括成型マルチ光伝送シートの断面の外形状に対応した内形状の挿入孔を有し、前記挿入孔に前記光伝送シートの少なくとも一端が挿入されているフェルールと、を備えることを特徴とする。なお、本発明はこれに限定されるものでなく、前記一括成型マルチ光伝送シートを光源および検出器に直接接続することも可能である。
【0017】
本発明の一態様に係る一括成型マルチ光伝送シートの製造方法は、コア材料を、所定の方向において互いに間隔を開けて一列に並んだ複数の領域に供給するステップと、前記コア材料の外周を囲むようにクラッド材料を供給するステップと、前記クラッド材料の外周を囲むように被覆材料を供給するステップと、前記供給したコア材料、クラッド材料、および被覆材料を一体的に、かつ前記所定の方向に主表面が形成されるようにシート状に押し出すステップと、を含み、前記被覆材料からなるシート状の被覆部と、前記コア材料からなるコア領域と前記クラッド材料からなるクラッド領域とを有する複数の光伝送領域と、を備える光伝送シートを形成する、ことを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様に係る一括成型マルチ光伝送シートコネクタの製造方法は、前記製造方法で製造された一括成型マルチ光伝送シートの一端を、前記一括成型マルチ光伝送シートの断面の外形状に対応した内形状の挿入孔を有するフェルールの前記挿入孔に挿入する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、短距離、高品位の高速信号伝送を実現でき、他の光学要素と接続する際の作業性も高いという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施形態1に係る一括成型マルチ光伝送シートの模式図である。
図2図2は、一括成型マルチ光伝送シートの製造方法を説明する図である。
図3A図3Aは、ダイスにおける各材料の供給状態を説明する図である。
図3B図3Bは、Tダイの構造を説明する図である。
図4図4は、一括成型マルチ光伝送シートとVCSELアレイとの光学接続状態を示す図である。
図5図5は、端面にマイクロレンズアレイを備える光伝送シートの模式図である。
図6A図6Aは、実施形態2に係る一括成型マルチ光伝送シートの模式図である。
図6B図6Bは、実施形態3に係る一括成型マルチ光伝送シートの模式図である。
図6C図6Cは、実施形態4に係る一括成型マルチ光伝送シートの模式図である。
図7A図7Aは、従来のテープ心線用のフェルールの模式図である。
図7B図7Bは、従来のテープ心線用のフェルールの模式図である。
図8A図8Aは、一括成型マルチ光伝送シートコネクタを説明する図である。
図8B図8Bは、一括成型マルチ光伝送シートコネクタの製造方法を説明する図である。
図9図9は、一括成型マルチ光伝送シートを用いた短距離通信用光リンクを示す図である。
図10図10は、NFPおよびFFPの測定系を示す図である。
図11図11は、2つのマルチモード光ファイバについて、M値を示す図である。
図12図12は、短距離の光リンクの実験系を示す図である。
図13図13は、光散乱強度の散乱角度依存性の測定系を示す図である。
図14図14は、光散乱強度の角度依存性を示す図である。
図15図15は、ノイズパワー密度スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0022】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る一括成型マルチ光伝送シートの模式図である。一括成型マルチ光伝送シート10は、被覆部11と、被覆部11の内部に設けられた複数の光伝送領域12とを備えている。図1の一括成型マルチ光伝送シート10は4心であり、光伝送領域12は4本であるが、光伝送領域12の数には特に限定はない。なお、一括成型マルチ光伝送シート10では各光伝送領域12は全て同じ構成であるが、本発明は必ずしもこれに限定されず、1本以上が他のものと異なっていてもよい。
【0023】
被覆部11はプラスチックからなり、シート状の形状を有し、延伸方向D1に延伸している。各光伝送領域12は、延伸方向D1に沿って延伸するように設けられており、被覆部11の主表面11aに沿って互いに平行に一列に並んで配列されている。ただし、許容された精度の範囲であれば、正確に平行でなくてもよく、略平行に配列されていればよい。
【0024】
図1の実線枠内は、光伝送領域12の具体的な構成を示す。光伝送領域12は、プラスチックからなる断面円形のコア領域12aと、プラスチックからなり、コア領域12aの外周を囲む断面円形のクラッド領域12bとを有する。コア領域12aとクラッド領域12bとは略同軸に形成されている。
【0025】
コア領域12aはグレーデッドインデックス(GI)型(例えば2乗分布)の屈折率分布を有しており、クラッド領域12bはコア領域12aよりも屈折率が低い。光伝送領域12はこのような屈折率分布を有するため、光がマルチモードで伝搬する際に、基底モードでは矢印Ar1のように直線状に伝搬し、高次モードでは矢印Ar2のように正弦波状に伝搬する。その結果、光伝送領域12は、モード間での伝搬速度差を抑制し、パルス光を少ない歪みで伝送することができる。コア領域12aの直径はたとえば50μmや62μmであるが、特に限定されない。さらには、例えば、コア領域12aの直径を10μm以下に制御することも可能であり、シングルモード条件を満足するように構成することも可能である。また、クラッド領域12bの外側に更にクラッド領域12bより屈折率の低い層を設ける、いわゆるダブルクラッド構造を付与することも何ら制限を受けない。
【0026】
また、各光伝送領域12は、距離d1で等間隔に配列されている。ここで、距離d1は、隣接するコア領域12aの中心軸間の距離である。ただし、許容された精度の範囲であれば、正確に等間隔でなくてもよく、略等間隔に配列されていればよい。更に、意図的に距離d1を設計することも容易である。
【0027】
このような一括成型マルチ光伝送シートの製造方法の一例について説明する。図2は、12心の一括成型マルチ光伝送シートの製造方法を説明する図である。
【0028】
製造装置1000は、押出装置1001、1002、1003と、ダイス1004と、Tダイ1005と、冷却ロール1006と、キャプスタンロール1007と、延伸ロール1008、1009、1010と、不図示の巻取ロールと、を備えている。
【0029】
押出装置1001、1002、1003は、透明な光学用途のプラスチック材料を所定の温度にて溶融し、ダイス1004に向けて押し出す装置である。押出装置1001は、一括成型マルチ光伝送シート10のコア領域12aの材料となるコア材料を押し出す。押出装置1002は、一括成型マルチ光伝送シート10のクラッド領域12bの材料となるクラッド材料を押し出して供給する。押出装置1003は、一括成型マルチ光伝送シート10の被覆部11の材料となる被覆材料を押し出して供給する。これらの押出装置1001、1002、1003としては、公知のプラスチック材料押出装置を使用できる。一般的にはスクリュー押出装置を使用するが、窒素ガス等の圧力で溶融押出してもよい。
【0030】
各プラスチック材料は、それぞれ別の流路を経由してダイス1004に供給される。このとき、ダイス1004は、図3Aに、材料の流れの方向から見た図を示すように、Tダイ1005に対して、コア材料M1を、方向D2において互いに間隔を開けて一列に並んだ複数の領域(図3Aでは領域A1、A2、A3、A4を図示する)に供給し、各領域のそれぞれのコア材料M1の外周を囲むようにクラッド材料M2を供給し、クラッド材料の外周を囲むように被覆材料M3を供給する。コア材料M1とクラッド材料M2と被覆材料M3とは合流するが、混合することなく、それぞれ別に流れる。
【0031】
Tダイ1005は、図3Bに示すように、コア材料M1およびクラッド材料M2が二重構造で流れる流路P1と被覆材料M3が流れる流路P2とを備える。流路P1は流路P2内を通るたとえば管材で構成されており、先端がノズル状になっている。Tダイ1005は、コア材料M1、クラッド材料M2、および被覆材料M3を、そのスリット状の吐出口から一体的にシート状に押し出す。これにより、押し出されたシート状体の主表面は、コア材料M1が一列に並んだ方向D2に沿って形成される。
【0032】
コア材料M1がクラッド材料M2と合流してTダイ1005から吐出される過程において、コア材料M1のドーパントである屈折率付与材が半径方向に段階的に広がることで、GI型の屈折率分布が形成される。
【0033】
図2に戻って、押し出されたシート状体を、キャプスタンロール1007にて冷却ロール1006の表面に接触させて均一に冷却する。十分冷却されたシート状体をさらに延伸ロール1008、1009、1010で所望の倍率で延伸することで、一括成型マルチ光伝送シートを製造することができる。製造された光伝送シートは巻取ロールに巻き取られる。
【0034】
ここで、Tダイ1005における流路P2の位置を高精度に設計することによって、一括成型マルチ光伝送シート10における4つの光伝送領域12の配列の距離d1を所望の距離に対して高精度に一致させることができる。
【0035】
たとえば、図4は、4心の一括成型マルチ光伝送シート10とVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)アレイ20との光学接続状態を示す図である。VCSELアレイ20は、基板21上に4つのVCSEL22が、配列距離d2で一列に並んで配列されている。配列距離d2はたとえば250μmである。VCSELアレイ20は、4つの光伝送領域12のそれぞれに入射させる光を出射する光源の一例である。
【0036】
図4に示すように、一括成型マルチ光伝送シート10の端面13とVCSELアレイ20とを近接させ、レンズなどの不図示の光学結合系を介して、一括成型マルチ光伝送シート10とVCSELアレイ20とを光学的に接続する。このとき、一括成型マルチ光伝送シート10における距離d1がVCSELアレイ20における配列距離d2との一致の正確性が、光学結合の品質を決定する要素となる。
【0037】
一括成型マルチ光伝送シート10では、距離d1を配列距離d2に対して高精度に等しくすることができるので、高品質な光学結合が可能となる。
【0038】
また、従来のテープ心線では、樹脂テープ層と一括被覆層とを剥がし、光ファイバを取り出して、光ファイバを1本ずつ、VCSELアレイ20に対して位置合わせする作業が必要であったが、一括成型マルチ光伝送シート10では、VCSELアレイ20と光学的に接続させる場合の煩雑な作業が不要である。そのため、一括成型マルチ光伝送シート10は、VCSELアレイ20などの光源に対して光学接続するための作業性も高い。
【0039】
また、一括成型マルチ光伝送シート10の端面13には、図5に示すようにマイクロレンズアレイ14を設けてもよい。マイクロレンズアレイ14は、たとえばコリメートレンズや集光レンズなどのレンズが、4つの光伝送領域12に対応して形成されたものであり、一括成型マルチ光伝送シート10と他の光学要素との結合効率を高める作用がある。マイクロレンズアレイ14はガラス材料やプラスチック材料などの透明な光学材料からなる。また、一括成型マルチ光伝送シート10の端面13には反射防止用や端面保護用のためのコーティング層を設けてもよい。
【0040】
(実施形態2、3、4)
図6A、6B、6Cは、実施形態2、3、4に係る一括成型マルチ光伝送シートの模式図である。一括成型マルチ光伝送シート10A、10B、10Cは、いずれも、被覆部11と、被覆部11の内部に設けられた複数の光伝送領域12とを備えている。被覆部11、光伝送領域12は、いずれも一括成型マルチ光伝送シート10の対応する要素と同様の構成なので、説明を省略する。
【0041】
一括成型マルチ光伝送シート10Aでは8つの光伝送領域12が一列に配列されている。一括成型マルチ光伝送シート10Bでは4つの光伝送領域12が一列に配列された構造が3段に積層している。
【0042】
一括成型マルチ光伝送シート10A、10Bは、いずれも、一括成型マルチ光伝送シート10と同様に、他の光学要素に対して光学接続する際の作業性が高い。また、一括成型マルチ光伝送シート10Aは、切断線CLに沿って切断すれば、2つの4心の一括成型マルチ光伝送シート10にすることができる。一括成型マルチ光伝送シート10Aはプラスチック製であるので、このような切断は、例えばカッター等の切断具を用いて容易に実施することができる。
【0043】
本発明のさらなる実施形態として、光伝送領域が16、24など、2の倍数の数だけ含まれる光伝送シートが含まれる。この場合、光伝送領域は、1列に並べられたり、2段以上の複数段で積層されたりする。図6Cの一括成型マルチ光伝送シート10Cは、被覆部11の内部に光伝送領域12を12本×4段の48本配列したものである。ここで、光伝送領域12の中心間の距離を250μmとし、最も外周側の光伝送領域12の外縁から被覆部11の外縁までの最短距離を125μmとすると、一括成型マルチ光伝送シート10Cの断面サイズは、幅3000μm、高さ1000μmときわめて小型である。
【0044】
ここで、図7A、7Bに示す、従来の24心テープ心線用のフェルール30は、12個×2段=24個の光ファイバ挿通孔31と、ガイドピン孔32とを有しており、上部には孔33が形成されている。孔33内には、光ファイバを配置するための12本の上段ガイド溝34と12本の下段ガイド溝35とが形成されている。このフェルール30を24心テープ心線に取り付ける際には、24心テープ心線の樹脂テープ層と一括被覆層とを剥がし、24本の光ファイバを個々に取り出して、光ファイバを1本ずつ、上段ガイド溝34、下段ガイド溝35のそれぞれに載置して、各光ファイバ挿通孔31に挿入するというきわめて煩雑な作業が必要であった。
【0045】
これに対して、一括成型マルチ光伝送シート10Cを用いれば、図8A、8Bに示すようにきわめて簡易に、一括成型マルチ光伝送シートコネクタ50を構成できる。フェルール41は、一括成型マルチ光伝送シート10Cの断面の外形状に対応した内形状の挿入孔41aを有している。挿入孔41aには一括成型マルチ光伝送シート10Cの一端が挿入されている。一括成型マルチ光伝送シートコネクタ50を製造する際には、図8Bに示すように、一括成型マルチ光伝送シート10Cの一端を、フェルール41の挿入孔41aに挿入し、接着剤等で固定する。フェルール41の側面には、挿入孔41aと連通し、そこから接着剤を注入する孔が形成されていてもよい。フェルール41は、たとえばMTフェルールと互換性を有してもよく、一括成型マルチ光伝送シートコネクタ50は、48心のMTフェルール付テープ心線と接続可能に構成されてもよい。
【0046】
一括成型マルチ光伝送シートコネクタ50の製造の際は、従来のテープ心線のように、樹脂テープ層と一括被覆層とを剥がし、光ファイバを取り出して、光ファイバを1本ずつ、フェルールの各光ファイバ挿通孔に挿入する作業が不要である。そのため、一括成型マルチ光伝送シートコネクタ50は、VCSELアレイなどの光源に対して光学接続するための作業性も高い。
【0047】
しかも、一括成型マルチ光伝送シート10Cは、48本の光伝送領域12の配列の距離d1を高精度にできる。その結果、一括成型マルチ光伝送シートコネクタ50は、歩留まりがよく、高品質な光学結合が可能となる。なお、本発明の実施形態に係る一括成型マルチ光伝送シートを光源および検出器に直接接続することも可能である。
【0048】
(一括成型マルチ光伝送シートの特性)
つぎに、本発明の一括成型マルチ光伝送シートの特性について、一括成型マルチ光伝送シート10を例としてより具体的に説明する。一括成型マルチ光伝送シート10は、光伝送領域12の一端面側から光を入射して該光を他端面側に向けて伝送させた場合の出射光のビームのM値が1.7以上である。また、延伸方向D1における長さは、200m以下が好ましく、100m以下がより好ましく、50m以下がさらに好ましい。
【0049】
図9は、一括成型マルチ光伝送シート10を用いた短距離通信用光リンク100を示す図である。戻り光とは、VCSELなどの発光素子101から出射され、一括成型マルチ光伝送シート10の発光素子側の端面である一端面側(端部A)から入射して伝搬した光の一部が、受光素子102の側の一括成型マルチ光伝送シート10の端部である他端面側(端部B、受光素子(PD)、あるいはコネクタ等)で反射されて、再び発光素子側に戻る、遠方からの戻り光のことである。発光素子側に戻る光としては、発光素子近傍(端部A等)からの戻り光も考えられるが、このような近傍からの戻り光は、発光素子を不安定化させる原因になるものではないと考えられる。
【0050】
本発明者等は、鋭意研究した末に、遠方からの戻り光が引き起こす、発光素子の緩和周波数よりも低周波の揺らぎが、特に短距離伝送における伝送品質の劣化の主たる原因であるとの知見を得た。
【0051】
本発明者等はまた、遠方からの戻り光を低減させることのできる光ファイバの特性を表す因子として、光ビームの品質を表すパラメータとして従来使用されているM値に着目した。
【0052】
値とは、ガウシアンビーム(TEM00モード)を基準として、波長λと、2次モーメントを用いて定義されるビーム半径W(D4σ)と、ビームの広がり角θ(半角)とを用いて、次式(1)のように表される、光ビームの集光度に関する品質を示すパラメータである:
【数1】
【0053】
ここで、ビーム半径W(D4σ)は、出射されるレーザ光の近視野像(Near Field Pattern (NFP))から求めることができ、広がり角θ(半角)は、レーザ光の遠視野像(Far Field Pattern (FFP))から求めることができる。理想的なガウシアンビームでは、M値は1になる。
【0054】
光ファイバから出射されるレーザ光の場合、そのM値は伝搬モードに依存する。シングルモード光ファイバでは、伝搬モードは一つ(HE11モード)であるため、光散乱等により長さによってM値が変化することはない。一方、伝搬モードが複数存在するマルチモード光ファイバでは、出射光のM値は異なるM値のモードの重ね合わせとなり、光散乱に起因するモード結合により高次モード成分が多くなる(集光性が悪くなる)ほどM値が大きくなり、ビーム品質が悪くなる。その結果、放射損失が大きくなることに加えて、光ファイバからの出射光のすべてを受光できなくなることから、光信号の伝送品質が低下することになる。このため、マルチモード光ファイバから出射されるレーザ光のM値を小さくしておくことが、光信号の伝送品質の維持に重要であると考えられていた。
【0055】
本発明者等は、従来レーザビームの品質を表すパラメータとして用いられてきたM値を、マルチモード光ファイバの設計値として使用することについて鋭意研究した結果、特に短距離通信の場合には、M値が特定の値に制御されるような光ファイバを使用することで、遠方からの戻り光の影響を低減することができるとの知見を得た。
【0056】
さらに、本発明者らは、この知見は、一括成型マルチ光伝送シート10の光伝送領域12にも適用可能であるとの知見を得た。
【0057】
いかなる理論にも拘束されるものではないが、光伝送領域12が数100オングストローム程度の相関長のミクロな不均一構造を有している場合、前方性散乱によるモード結合を大きくすることが可能となり、伝搬損失を制御しながら光伝送領域12から出射される光のM値を効果的に制御することが可能であると考えられる。M値が特定の値に制御されるような光伝送領域12を有する一括成型マルチ光伝送シート10を使用することにより、モード結合による高次モードの増加に伴って生じる伝送損失よりも、遠方からの反射戻り光の影響が減少することによるノイズの低減の方が優勢となり、伝送品質が向上するものと考えられる。
【0058】
図10は、NFP及びFFPの測定系を示す図である。中心波長850nmの単一周波数のDBRレーザ201の偏波保持シングルモード光ファイバ202ピグテール(APC研磨)からの出射光203(モードフィールド径5.3μm)をレンズ204を用いて光ファイバ205に入射した。この際CCDカメラ206による顕微観察を用いて光ファイバ205のコア中心に光がレンズ204を介して入射するようにし、中心励振条件での評価を行うこととする。そして光ファイバ205の入射端面とは反対側の端面から出射された光207のNFPをNFP測定装置208(浜松フォトニクス製A6501)を、FFPをFFP測定装置(浜松フォトニクス製A3267-12)を用いて測定し、2次モーメントを用いた定義のビーム径W(Dσ4)及び広がり角θ(半角)を特定する。これによりM値を算出できる。なお、この測定系は一括成型マルチ光伝送シート10のNFP及びFFPの測定にも用いることができ、これによりM値を算出できる。
【0059】
図11は、直線偏光の近似的なガウシアンビームによる中心励振において、M値が1.7以上のマルチモード光ファイバ(low-noise GI POF)と、従来の石英ガラス系のマルチモード光ファイバ(silica GI MMF)とについて、M値を示す図である。入射光源は偏波保持シングルモード光ファイバ(SMF)ピグテール出力の直線偏波単一周波数レーザ(Thorlabs製,DBR852P)である。入射光のM値は1.32である。このファイバピグテールからの出射光をレンズによりコリメート、集光し、評価ファイバ中心に入射した。当実験系により、入射時に励振されるガウシアンビームに近似可能な最低次モードから、光散乱を介したモード結合によるM値の変化の推移を測定することが可能となり、low-noise GI POFの雑音低減効果を表す指標とすることが可能となる。また、ピグテールの出射端面がAPCであるのはレーザを不安定化させないためであり、安定したM値の測定が可能となる。横軸は光ファイバの長さ、縦軸はM値を示す。
【0060】
従来の光ファイバでは、光ファイバの長さによらず、M値はM=1.3-1.5付近でほぼ一定の値を示している。一方、low-noise GI POFの場合、M=1.7以上であって、光ファイバの長さが大きくなるにしたがって、M値も大きくなっていることがわかる。一括成型マルチ光伝送シート10においても、M=1.7以上であって、長さが大きくなるにしたがってM値も大きくなる。
【0061】
従来は、主にレーザ加工の分野において長さに依存せず安定で高品質な出射光ビームを得る等の観点から、M値が小さく、しかも光ファイバの長さが大きくなってもM値は大きくならない光ファイバが望ましいと考えられていた。マルチモード光ファイバを用いた光通信用においても、当然、M値が大きくなると伝送損失が大きくなるため、同様の特性が求められる。本発明者等は、驚くべきことに、マルチモード光ファイバを用いた短距離伝送の場合、むしろM値が比較的大きい場合に、伝送損失よりも遠方からの反射戻り光の影響が減少することにより、伝送品質が向上することを見出したものである。そして、この結果は、一括成型マルチ光伝送シート10にも適用できる。
【0062】
値の大きさは、一括成型マルチ光伝送シート10における光伝送領域12内のコア領域12aを構成する材料の種類、コア屈折率分布及び一括成型マルチ光伝送シート10の製造条件により、制御することができる。また、使用するレーザのレーザ径や入射条件にも依存するが、実験系および評価条件に従って測定された出射光のM値を基準とすることにより、ミクロ不均一構造によるM値の評価および制御を再現性良く行うことが可能となる。M値の変動要因になりうるものは、基本的には光学系にはなく、レーザ径が変化すると発散角が狭くなり、その積は保存されるので、M値には影響を与えない。そのため、M値の変動要因になり得るものは波長のみと考えられる。
【0063】
一括成型マルチ光伝送シート10は、実用的に使用できる長さの下限長において、M値が1.7以上となるものである。M値が1.7よりも小さいと、反射戻り光による影響により伝送品質が低下するため好ましくない。
【0064】
一括成型マルチ光伝送シート10はまた、その長さが例えば200m以下であるところ、使用する長さの上限長において、M値が5.0以下であることが好ましい。M値が5.0よりも大きいと、高次モードの増加によって生じる伝送損失が大きくなるため好ましくない。
【0065】
一括成型マルチ光伝送シート10の長さは、200m以下が好ましく、100m以下がより好ましく、50m以下がさらに好ましい。長さが長すぎると、前方散乱による散乱損失の影響が戻り光の低減効果よりも大きくなってしまい、かえって伝送品質が低下する。
【0066】
上記のとおり、一括成型マルチ光伝送シート10のM値は、コア材料の種類や製造条件により得ることができる。
【0067】
値を大きくするには、例えば、コア領域12a内に数100オングストローム程度の相関長のミクロな不均一構造を有するようなものとすることが考えられる。これにより、石英系ガラス系の光ファイバで観測されるいわゆるレイリー散乱とは異なる前方性散乱を大きくすることが可能となる。その結果、伝搬損失を制御しながら、有効なモード結合を誘起してノイズを低減することができる。
【0068】
例えば、アクリル系ポリマーは、分子内に存在するエステル基により分子内および分子間での相互作用が存在する。これに対して、ジオキソレン等の全フッ素化ポリマーは、そのようなエステル基が存在しない。このため、分子内、分子間相互作用は、アクリル系ポリマーに比べて小さい。この違いにより、高分子鎖自身のコンフォメーションが変化し、不均一構造の大きさならびに屈折率揺らぎを制御することができる。いずれにしても、ポリマーは一般に数百オングストロームの大きさの慣性半径を持つ分子コイルの集合体であるが、そのような分子を持たない石英ガラスには、ミクロな不均一構造は存在しない。
【0069】
または、一括成型マルチ光伝送シート10の別の特性として、一括成型マルチ光伝送シート10は、光伝送領域12の一端面側から光を入射して該光を他端面側に向けて伝送させた場合に、他端面側から出力した光を受光素子にて受光して電気信号に変換したときに、電気信号の雑音スペクトルの低周波領域における最大ノイズパワー密度が-108dBm/Hz未満である。
【0070】
本発明者らは、図12に示すような光リンクの実験系を構築し、実験を行った。具体的には、VCSEL(発振波長850nm、14Gbps、以下VCSEL301)から出力されるレーザ光Lを集光レンズ302にて光伝送体303の第1端面303aに入力し、第2端面13bに向けて伝搬させた。そして、光伝送体303の第2端面303bから出力したレーザ光Lを集光レンズ系3044にてPD305に入力した。そして、PD305から出力される電流信号をスペクトラムアナライザ306にて解析した。
【0071】
すると、光伝送体303として、長さが1mのシリカ光ファイバ(GI型マルチモード光ファイバ(MMF))を用いた場合、低周波領域(例えば1GHz以下の領域)に略周期的なノイズピークが現れることを見出した。
【0072】
本発明者らは、このような周期的なノイズピークは、レーザ光Lの一部が、光源であるVCSEL301から遠端側の反射面、すなわち第2端面303bやPD305の表面で反射して戻り光となってVCSEL301に戻り、VCSEL301の動作不安定を引き起こし、発生したものと考えた。一方、VCSEL301から近端側の反射面、すなわち第1端面303aからの反射はこのようなVCSEL301の動作不安定を引き起こさないと考えた。
【0073】
そこで、このような遠端側からの反射に起因するノイズピークの発生を抑制するために、光ファイバの特性について精査したところ、ある種の材料を用いて作製した光ファイバでは、低周波領域の略周期的なノイズピークが抑制されることを見出した。本発明者がさらに精査を行ったところ、材料のミクロな不均一性の相関長が100オングストローム以上の材料を用いて製造した光ファイバでは、低周波領域の略周期的なノイズピークが抑制されることに想到した。
【0074】
光ファイバを製造するための材料のミクロな不均一性の相関長が100オングストローム以上の材料からなるか否かについては、光ファイバ母材に光を照射してその光散乱強度の角度依存性を測定することで判定することができる。したがって、当該角度依存性の測定結果から、低周波領域の略周期的なノイズピークを抑制することができる光ファイバを製造できるように、光ファイバ母材を選別することができる。
【0075】
図13は、光散乱強度の散乱角度依存性の測定系の一例を示す図である。図13に示すように、光ファイバ母材の円筒状ポリマーバルク401を作製し、円筒状ポリマーバルク401の側面からレーザ光源402からのレーザ光Lを照射し、受光素子403にて光散乱強度を測定する。受光素子403を、円筒状ポリマーバルク401を中心として公転するように移動させることで、光散乱強度の角度θ依存性を測定できる。
【0076】
なお、光ファイバは、200m以下が好ましく、100m以下がより好ましく、50m以下がさらに好ましい。長すぎる場合、高次モード成分の増加による非線形歪低減効果に伴う伝送損失の増加が、戻り光の影響の抑制の効果を上回るからである。
【0077】
ここで、材料のミクロな不均一性の相関長が100オングストローム以上の材料を用いて光ファイバを製造することで、レイリー散乱とは異なる前方性散乱を大きくすることが可能となる。その結果、伝搬損失を制御しながら、有効なモード結合を誘起してノイズを低減することができると考えられる。
【0078】
さらに、上記の知見は、一括成型マルチ光伝送シート10に対しても適用できる。すなわち、材料のミクロな不均一性の相関長が100オングストローム以上のコア材料を用いて製造した一括成型マルチ光伝送シート10では、低周波領域の略周期的なノイズピークが抑制される。また、一括成型マルチ光伝送シート10は、200m以下が好ましく、100m以下がより好ましく、50m以下がさらに好ましい。なお、光散乱強度の散乱角度依存性を測定する際には、光ファイバ母材のかわりに、ロッド状のコア材料を用いればよい。以上のポリマーに固有のミクロ不均一構造を有する一括成型マルチ光伝送シートでは、前記最大ノイズパワー密度が-108dBm/Hz未満であることが好ましい。一方、シリカ光ファイバはこの値を上回る最大ノイズパワー密度を有すると考えられる。材料のミクロな不均一性の相関長が100オングストローム以上のコア材料を用いて製造した一括成型マルチ光伝送シート10は、コア領域12aの直径を10μm以下に制御するなどして、所定の波長においてシングルモード条件を満足するように構成してもよい。
【0079】
つぎに、一括成型マルチ光伝送シート10におけるコア材料、クラッド材料、被覆材料の好適な例について説明する。これらの透明なプラスチック材料は、当該分野で公知の方法によって製造することができる。一般的にはコア材料及びクラッド材料は、光を伝送する必要があるため、使用する光源の波長帯で透明であり、異物が少ない材料であることが好ましく、たとえば全フッ素系樹脂材料、部分フッ素系樹脂材料、部分塩素系樹脂材料、アクリル系材料が用いられるが特に限定されるものではない。また樹脂中の水素原子を重水素原子に置換された部分重水素化系樹脂を用いてもよい。被覆材料には、透明で低価格なアクリル系材料、ポリカーボネート材料等を用いるがこれらに限定されるものではない。これらのプラスチック材料は、モノマーを用いて重合する一般的な重合法を用いて製造することができる。例えば、重合法としては、溶液重合、塊状重合、乳化重合又は懸濁重合等などが挙げられる。なかでも、異物、不純物の混入を防ぐという観点から、塊状重合法が好ましい。
【0080】
この際の重合温度は、特に限定されず、例えば、80~150℃程度が適している。反応時間は、モノマーの量、種類、後述する重合開始剤、連鎖移動剤等の量、反応温度等に応じて適宜調整することができ、20~60時間程度が適している。
【0081】
全フッ素材料としては、一般的に製品名TEFRON-AF(DuPont社)やHyflonAD(Solvay社)や、CYTOP(旭硝子株式会社)を用いる事ができる。またこれらの主環構造にテトラフルオロエチレン等で共重合した全フッ素重合体を用いてもよい。またジオキソレン骨格を有する全フッ素重合体も用いる事ができる。
【0082】
コア領域を構成する重合体は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル系化合物として、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル等;スチレン系化合物として、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等;ビニルエステル類として、ビニルアセテート、ビニルベンゾエート、ビニルフェニルアセテート、ビニルクロロアセテート等;マレイミド類として、N―n-ブチルマレイミド、N―tert-ブチルマレイミド、N―イソプロピルマレイミド、N―シクロヘキシルマレイミド等、これらモノマーのC-H結合の水素原子の一部が塩素置換、フッ素置換、重水素置換された物質が例示される。
【0083】
重合体を製造する際、重合開始剤及び/又は連鎖移動剤を使用することが好ましい。重合開始剤としては、通常のラジカル開始剤が挙げられる。例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサネート、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、n-ブチル4,4,ビス(t-ブチルパーオキシ)バラレートなどのパーオキサイド系化合物;2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1'―アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2'-アゾビス(2-メチルプロパン)、2,2'-アゾビス(2-メチルブタン)、2,2'-アゾビス(2-メチルペンタン)、2,2'-アゾビス(2,3-ジメチルブタン)、2,2'-アゾビス(2-メチルヘキサン)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルペンタン)、2,2'-アゾビス(2,3,3-トリメチルブタン)、2,2'-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、3,3'-アゾビス(3-メチルペンタン)、3,3'-アゾビス(3-メチルヘキサン)、3,3'-アゾビス(3,4-ジメチルペンタン)、3,3'-アゾビス(3-エチルペンタン)、ジメチル-2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ジエチル-2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ジ-t-ブチル-2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)などのアゾ系化合物等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0084】
重合開始剤は、全モノマーに対して0.01~2重量%程度で用いることが適している。連鎖移動剤としては、特に限定されることなく、公知のものを用いることができる。例えば、アルキルメルカプタン類(n-ブチルメルカプタン、n-ペンチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ラウリルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン等)、チオフェノール類(チオフェノール、m-ブロモチオフェノール、p-ブロモチオフェノール、m-トルエンチオール、p-トルエンチオール等)等が挙げられる。なかでも、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ラウリルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタンが好適に用いられる。また、C-H結合の水素原子が重水素原子又はフッ素原子で置換された連鎖移動剤を用いてもよい。これらは、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0085】
連鎖移動剤は、通常、成形上及び物性上、適当な分子量に調整するために用いられる。各モノマーに対する連鎖移動剤の連鎖移動定数は、例えば、ポリマーハンドブック第3版(J.BRANDRUP及びE.H.IMMERGUT編、JOHN WILEY&SON発行)「高分子合成の実験法」(大津隆行、木下雅悦共著、化学同人、昭和47年刊)等を参考にして、実験によって求めることができる。よって、連鎖移動定数を考慮して、モノマーの種類等に応じて、適宜、その種類及び添加量を調整することが好ましい。例えば、全モノマー成分100重量部に対して0.1~4重量部程度が挙げられる。
【0086】
コア領域12a及び/又はクラッド領域12bを構成する重合体は、重量平均分子量が、5~30万程度の範囲のものが適しており、10~25万程度のものが好ましい。適当な可撓性、透明性等を確保するためである。コア領域12aとクラッド領域12bとにおいては、例えば、粘度調整等のために、分子量が異なっていてもよい。重量平均分子量は、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定されたポリスチレン換算の値を指す。
【0087】
一括成型マルチ光伝送シート10を構成する重合体には、光伝送のための透明性、耐熱性等の性能を損なわない範囲で、必要に応じて、配合剤、例えば、熱安定化助剤、加工助剤、耐熱向上剤、酸化防止剤、光安定剤等を配合してもよい。これらは、それぞれ、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができ、これらの配合物とモノマー又は重合体とを混合する方法は、例えば、ホットブレンド法、コールドブレンド法、溶液混合法等が挙げられる。
【0088】
<パーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソランの合成>
2-クロロ-1-プロパノールと1-クロロ-2-プロパノールとトリフルオロピルビン酸メチルを脱水縮合反応により2-カルボメチル-2-トリフルオロメチル-4-メチル-1,3-ジオキソランの精製物を得る。次にパーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソランのフッ素化を行う。溶媒として1,1,2-トリクロロトリフルオロエタンを用い、窒素ガス及び、フッ素ガスを各々一定の流速で流し、窒素/フッ素の雰囲気下において、先に準備した2-カルボメチル-2-トリフルオロメチル-4-メチル-1,3-ジオキソランを反応槽にゆっくり加えることによりフッ素化処理を行いパーフルオロ-2,4-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-カルボン酸を得る。上記蒸留物を水酸化カリウム水溶液で中和し、パーフルオロ-2,4-ジメチル-2-カルボン酸カリウム-1,3-ジオキソランを得る。このカリウム塩を真空乾燥し、更にアルゴン雰囲気下で、塩を分解することで、パーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソランを得る。上記にて得られたパーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソランとパーフルオロベンゾイルパーオキサイドをガラスチューブにいれ、これを冷凍/解凍真空機で脱気した後、アルゴンを再充填し、数時間加熱する。内容物は固体となり、透明なポリマーが得られる。このポリマーを用いて一括成型マルチ光伝送シート10を作製できる。
【0089】
含フッ素重合体(全フッ素、部分フッ素材料を含む)の溶融状態における粘度は、溶融温度200℃~300℃において103~105ポイズが好ましい。溶融粘度が高過ぎるとコア領域12aとクラッド領域12bとの形成が困難なばかりでなく、屈折率分布の形成に必要な、ドーバントの拡散が起こりにくくなり屈折率分布の形成が困難になる。また、溶融粘度が低過ぎると実用上問題が生じる。すなわち、電子機器や自動車等での光伝送体として用いられる場合に高温にさらされ軟化し、光の伝送性能が低下する。
【0090】
含フッ素重合体の数平均分子量は、10,000~5000,000が好ましく、より好ましくは50,000~1000,000である。分子量が小さ過ぎると耐熱性を阻害することがあり、大き過ぎると屈折率分布を有する光伝送体の形成が困難になるため好ましくない。
【0091】
一括成型マルチ光伝送シート10のコア材料として部分塩素系材料を使用する場合、上述した、一般的作成方法である全フッ素材料の合成方法と同様の方法により合成することができる。
【0092】
[部分塩素材料の合成(特許第5419815号参照)]
次に部分塩素系材料の作成方法について、簡単に述べる。予め蒸留精製したトリクロロエチルメタクリレートと昇華精製したシクロヘキシルマレイミドと屈折率付与剤のドーパントとしてジフェニルスルフィドを各々精秤し、ガラス容器に入れた。更に、全重量中の濃度に対し所定量の重合開始剤としてジターシャリーブチルパーオキサイド及び連鎖移動剤としてノルマル-ラウリルメルカブタンを添加する。この溶液を十分混合後、細孔径のメンブレンフィルタを通すことによりガラス製重合容器に入れ濾過を行う。次にこの溶液の入ったガラス製重合管にアルゴンガスを導入しながら、凍結脱気法により溶存空気を除去する。このガラス重合管をオーブンに入れアルゴンガスを導入しながら重合容器の温度を上げ、モノマーを重合し、更に温度をあげることで重合反応を完了させる。このガラス管を開封し、固化した透明な重合ロッドを得る。
【0093】
ドーパントの溶解性パラメータがポリマーの溶解性パラメータと等しく相溶性が良い場合には、ドーパントはポリマーマトリクス内に均一に存在する。一方、ドーパントとポリマーの溶解性パラメータの差が大きくなるにつれ、ドーパント同士が凝集しあう傾向が増加し、ドーパントの濃度分布による屈折率不均一構造が形成される。一般的な溶解性パラメータの知見にとどまらず、ドーパントとポリマーとの局所的相互作用(例えば、特定の官能基間に相当するセカンダリーな電子分極等)を加えることによってもドーパントのミクロな濃度分布を形成することが可能となる。全フッ素系のコア材料向けのドーパントとしては通常は全フッ素重合体よりも高屈折率の物質を用いる。すなわち、物質ドーパントは、全フッ素重合と同様な理由から実質的にC-H結合を有しない物質であり、全フッ素重合体より屈折率が0.05以上大きいことがより好ましい。より屈折率が大きいと所望の屈折率分布を形成するために必要なドーパントの含有量がより少なくて良いため、ガラス転移温度の低下が少なくてすみ、その結果、光ファイバの耐熱性が高まるので、0.1以上大きいことが特に好ましい。
【0094】
ドーパントとしては、ベンゼン環等の芳香族環、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、エーテル結合等の結合基を含む、低分子化合物、オリゴマ、ポリマーが好ましいが、ポリマーの場合、分子量が大きくなると全フッ素重合体との相溶性が低下し、その結果光散乱損失が大きくなるため、あまり分子量が大きいものは好ましくない。また、逆に分子量の小さな化合物の場合、含フッ素重合体との混合物におけるガラス転移温度が低くなり光ファイバの耐熱温度が低下する原因となるため、小さすぎても好ましくない。ゆえに、ドーパントの数平均分子量は3×10~2×10が好ましく、3×10~1×10がより好ましい。
【0095】
ドーパントの具体的な化合物としては、特開平8-5848号公報に記載されるようなクロロトリフルオロエチレンの5~8量体であるオリゴマ、ジクロロジフルオロエチレンの5~8量体であるオリゴマ、または前記全フッ素重合体を形成する単量体の内高い屈折率のオリゴマを与える単量体(例えば塩素原子を有する単量体)を重合することによって得られる2~5量体オリゴマがある。
【0096】
上記オリゴマのような含ハロゲン脂肪族化合物以外に、炭素原子に結合した水素原子を含まないハロゲン化芳香族炭化水素や含ハロゲン多環式化合物なども使用できる。特に、ハロゲン原子としてフッ素原子のみを含む(またはフッ素原子と相対的に少数の塩素原子を含む)フッ化芳香族炭化水素や含フッ素多環式化合物が、含フッ素重合体との相溶性の面で好ましい。また、これらのハロゲン化芳香族炭化水素や含ハロゲン多環式化合物は、カルボニル基、シアノ基などの極性のある官能基を有していないことがより好ましい。
【0097】
このようなハロゲン化芳香族炭化水素としては、例えば式Φr-Zb[Φrは水素原子のすべてがフッ素原子に置換されたb価のフッ素化芳香環残基、Zはフッ素以外のハロゲン原子、-Rf、-CO-Rf、-O-Rf、あるいは-CN。ただし、Rfはペルフルオロアルキル基、ポリフルオロペルハロアルキル基、または1価のΦr。bは0または1以上の整数。]で表される化合物がある。芳香環としてはベンゼン環やナフタレン環がある。Rfであるペルフルオロアルキル基やポリフルオロペルハロアルキル基の炭素数は5以下が好ましい。フッ素以外のハロゲン原子としては、塩素原子や臭素原子が好ましい。具体的な化合物としては例えば、1,3-ジブロモテトラフルオロベンゼン、1,4-ジブロモテトラフルオロベンゼン、2-ブロモテトラフルオロベンゾトリフルオライド、クロペンタフルオロベンゼン、ブロモペンタフルオロベンゼン、ヨードペンタフルオロベンゼン、デカフルオロベンゾフェノン、ペルフルオロアセトフェノン、ペルフルオロビフェニル、クロロヘプタフルオロナフタレン、ブロモヘプタフルオロナフタレンなどがある。含フッ素多環式化合物の例として特に好ましいドーパントは、全フッ素重合体、特に主鎖に環構造を有する含フッ素重合体との相溶性が良好であり、かつ耐熱性が良好であること等から、クロロトリフルオロエチレンオリゴマ、ペルフルオロ(トリフェニルトリアジン)、ペルフルオロターフェニル、ペルフルオロクアトロフェニル、ペルフルオロ(トリフェニルベンゼン)、ペルフルオロアントラセンである。相溶性が良好であることにより、含フッ素重合体、特に主鎖に環構造を有する含フッ素重合体と混合すべき物質とを200~300℃で加熱溶融により容易に混合させることができる。また、含フッ素溶媒に溶解させて混合した後、溶媒を除去することにより両者を均一に混合させることができる。
【0098】
部分塩素系、又は部分フッ素系のコア材料に用いるドーパントとしては、(低分子化合物又はこれら化合物中に存在する水素原子を重水素原子に置換した化合物等が挙げられる。高い屈折率をもつ低分子化合物としては、ジフェニルスルホン(DPSO)及びジフェニルスルホン誘導体(例えば、4,4'-ジクロロジフェニルスルホン、3,3',4,4'-テトラクロロジフェニルスルホン等の塩化ジフェニルスルホン)、ジフェニルスルフィド(DPS)、ジフェニルスルホキシド、ジベンゾチオフェン、ジチアン誘導体等の硫黄化合物;トリフェニルホスフェート(TPP)、リン酸トリクレジル等のリン酸化合物;安息香酸ベンジル;フタル酸ベンジルn-ブチル;フタル酸ジフェニル;ビフェニル;ジフェニルメタン等が挙げられる。低い屈折率をもつ低分子化合物としては、トリス-2-エチルヘキシルホスフェート(TOP)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、ドーパントとしてデカフルオロビフェニル、パーフルオロジフェニルスルフィド、パーフルオロトリアジンも使用できる。
【0099】
ミクロな不均一構造を作りやすくするために、一括成型マルチ光伝送シート10を形成する際の温度や押し出し速度を制御してもよい。
【0100】
コア材料、クラッド材料、被覆材料を共押出しした後の熱処理工程により、ミクロ不均一構造を形成することも可能となる。例えば、共押出の後急冷を行うと、ポリマーのエンタルピー緩和が生じる前にポリマーは大きな体積を持ったままガラス状態化される。一方、十分な熱処理工程をガラス転移温度近辺で行うと、エンタルピー緩和により体積はわずかに減少する。そのエンタルピー緩和がミクロ領域で形成された場合、いわゆるミクロ不均一構造を形成する。また、共押出の後さらに延伸工程を加えると、溶融押出されたファイバの分子は配向を受けその配向度により配向複屈折が生じる。その配向複屈折は、光伝送領域の延伸方向のみならず、結果的に半径方向ならびに特異な方向においても複屈折を生じることになる。この複屈折構造もモード結合を促進する。
【0101】
図2に示す製造装置と同様の製造装置を用いて一括成型マルチ光伝送シートを製造できる。コア材料は屈折率付与材としてデカフルオロビフェニルを所定量含有するCYTOP(旭硝子株式会社)を母材ロッドから原料として使用できる。クラッド材料としては、屈折率付与材が入っていないCYTOPを使用できる。被覆材料としては、ポリカ-ボネート(製品名:Xylex7200 Sabic社製)樹脂を用いることができる。各材料に対する押出装置として一般的なスクリュー型押出装置を用いてもよいが、スクリューに限らず、高圧ガス、例えば窒素ガス、アルゴンガス、空気等の気体ガスを用いる成型方法も何ら制限を受けない。ここで用いるTダイは、図3(b)に示すように、目的の一括成型マルチ光伝送シートを作製するうえで極めて重要な部品であり、このTダイの構造の精度により一括成型マルチ光伝送シートの精度が決まる。このTダイの構造は、いわゆる一般的なTダイとは全く違う構造である。すなわち、用いるTダイは、コア材料の樹脂、クラッド材料の樹脂、さらにはこれを保護する被覆材料の樹脂の3種類の樹脂が溶融し、それぞれ独立した流路を通る構造を有する。特にコア材料用流路とクラッド材料用流路とは、二重構造になるため、特に加工精度が求められる。また、コア材料用流路の長さを調整することで、ドーパントのコア半径方向における濃度分布、すなわちコア半径方向における屈折率分布(GI分布の形状)が決まる。図3(b)にコア材料およびクラッド材料の流路P1を示すが、これらの流路P1の1本1本が精度よくTダイ1005の中に配列する。加えて、図3の方向D2で示すように、一つの流路P1とそれと隣り合う流路P1の間隔の精度も極めて重要であり、方向D2における流路P1間の間隔は、どこをとっても一定の間隔となるように設計される。こうして極めて精度のよい一括成型マルチ光伝送シート用のTダイが作られる。このTダイの材質は、加工のしやすさからSUS系を用いてもよいが、高温での耐蝕性を有するハステロイを用いてもよい。
【0102】
これらの材料を押出装置のホッパー部に供給し、約200℃~230℃で溶融してダイスに供給し、上記Tダイから共押出を行うことで均一な厚みを持つシート状体が得られる。このシート状体は、幅約1cm、厚み約1.5mm程度である。更にこのシート状体を延伸ロールにて約8倍の延伸を施す事で、幅1mm厚み約170μmの薄い一括成型マルチ光伝送シートを得ることができる。一括成型マルチ光伝送シートの断面を確認すると、8つのコア領域、クラッド領域を有する光伝送領域が形成されている。またコア領域の中心からクラッド領域にかけてGI型の屈折率分布が付与されていることを確認できる。8つのコア領域に光を入射し、出射強度を測定した結果、クロストークがないことを確認できる。また、この一括成型マルチ光伝送シートを1mの長さに切断しM値を測定すると、8つの光伝送領域ともに、1.8であることを確認できる。
【0103】
図2に示す製造装置と同様の製造装置を用いて4心の一括成型マルチ光伝送シートを製造した。上述したように、コア材料は屈折率付与材としてデカフルオロビフェニルを所定量含有するCYTOP(旭硝子株式会社)を母材ロッドから原料として使用した。クラッド材料としては、屈折率付与材が入っていないCYTOPを使用した。被覆材料としては、ポリカ-ボネート(製品名:Xylex7200 Sabic社製)樹脂を用いた。これらを一括で押出すため、高圧窒素ガスを用いて溶融押出成形を行った。
【0104】
これらの樹脂材料を押出装置のコア、クラッドのホッパーに各々供給し、コア部をバンドヒーターにより約210℃~230℃で加熱し、クラッド部も同様に約220℃~230℃で加熱し、内部の樹脂を溶融させた。樹脂が均一に加熱溶融した状態から一定時間静置し安定化させた。その後、コア、クラッドの供給部の上部に連結された窒素ガス導入部から窒素ガスを平均で0.5MPaの圧力で供給し、共押出を行った。Tダイから吐出した樹脂を延伸、冷却する事でシート状物を得た。このシート状物は、幅約1mm厚み約600μmで長さ方向に均一であった。シート状物の断面を確認したところ、4つのコアが直線状に250μmの間隔で配置しており、4心の一括成型マルチ光伝送シートであることを確認した。また、4つのコアのコア径はいずれも約30μmであり、コア領域の中心からクラッド領域にかけてGI型の屈折率分布が付与されていることを確認した。
【0105】
前記の窒素ガスの圧力を0.5MPaから0.1MPaまで徐々に減少させることによって、10μm以下のコア径のコアを有する一括成型マルチ光伝送シートも作製された。これらは、一括成型マルチ光伝送シートにおいて、マルチモード導波路のみならずシングルモード導波路が容易に製造されることを意味する。コア径の制御は、圧力制御のみならず延伸諸条件との組み合わせにより達成されることは言うまでもない。例えば、溶融押出後に拡散工程領域を含まず急冷するなどの製法を用いることにより、実質コアとクラッドの屈折率分布が階段分布(SI型)を有するシングルモード導波路を含む一括成型マルチ光伝送シートが製造される。本製造例で用いたコア材料(全フッ素化ポリマー+ドーパント)とクラッド材料(全フッ素化ポリマーのみ)の屈折率差の一例はおおよそ0.005である。SI型の場合、コア径が10μm以下であれば、所定の波長、例えば光源波長1550nmにおいてシングルモード条件が満足される。屈折率差が同じであるGI型の場合はより大きなコア径でシングルモード条件が満足される。
【0106】
また、上記のコア材料のロッドを用いて光散乱強度の角度依存性を測定した。また、比較例として、シリカガラス系光ファイバ母材を用いて光散乱強度の角度依存性を測定した。すると、実施例については図14のようになったが、比較例では散乱光強度が非常に微弱で検出が困難であり、ミクロな不均一構造は存在しないことが分かった。図14の結果から、実施例では相関長が590オングストローム、比誘電率ゆらぎが5.8×10-12であると算出された。
【0107】
実施例1の一括成型マルチ光伝送シート、シリカガラス系光ファイバ母材から製造した比較例のシリカガラス系GI型MMFを1mだけ切り出し、図12に示す実験系にて測定を行ったところ、ノイズパワー密度スペクトルは図15のようになった。すなわち、最大ノイズパワー密度については、実施例は-114dBm/Hzと-108dBm/Hz未満であり、比較例は-108dBm/Hzであった。
【0108】
つづいて、図12の実験系にBER(Bit Error Rate)測定装置を追加し、VCSEL301を10GbpsのNRZ疑似ランダムパターン信号で直接変調して、レーザ光Lをレーザ信号光として生成し、実施例の一括成型マルチ光伝送シート、比較例の光ファイバを光伝送体303としてレーザ信号光を伝搬後、PD305で受光し、BERを測定した。その結果、長さ1mに対するLog10(BER)値は、実施例では-7.14であったが、比較例では-6.00と良好ではなかった。
【0109】
以上説明したように、本発明によって、最大ノイズパワー密度が小さく、短距離、高品位の高速信号伝送を実現でき、他の光学要素と接続する際の作業性も高い一括成型マルチ光伝送シートを実現できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、高速信号伝送に適用して好適なものである。
【符号の説明】
【0111】
10、10A、10B、10C 一括成型マルチ光伝送シート
11 被覆部
12 光伝送領域
12a コア領域
12b クラッド領域
41 フェルール
50 一括成型マルチ光伝送シートコネクタ
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15