(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】多様な湿潤表面用の生体から着想を得た分解性の強靭な接着剤
(51)【国際特許分類】
A61L 24/00 20060101AFI20240617BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
A61L24/00 240
A61L24/00 210
A61K9/06
(21)【出願番号】P 2021519729
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(86)【国際出願番号】 US2019055779
(87)【国際公開番号】W WO2020077173
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-10-11
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507044516
【氏名又は名称】プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】フリードマン, ベンジャミン ロス
(72)【発明者】
【氏名】ウズン, オクタイ アール.
(72)【発明者】
【氏名】ムーニー, デイビッド ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】マルドナド ルナ, ナジャ エム.
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/165490(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0009223(US,A1)
【文献】Biodegradable Hydrogels for Drug Delivery,1993年,pp.35-66
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 24/00
A61K 9/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、
a)第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含む生分解性相互侵入網目(IPN)ヒドロゲルであって、前記第1の高分子網目は、生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目は、イオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含む、IPNヒドロゲルと;
b)高密度第一級アミンポリマーであって、前記高密度第一級アミンポリマーが、モノマー単位当たり少なくとも1つの第一級アミンを含み、ならびに/またはキトサン、ゼラチン、コラーゲン、ポリアリルアミン、ポリリジンおよびポリエチレンイミンからなる群から選択される、高密度第一級アミンポリマーと;
c)カップリング剤と;
を含む生分解性の強靭な接着性材料を含み、
前記生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)アクリラート、ゼラチンアクリラート、ヒアルロン酸アクリラート、アルギナートアクリラート、ポロキサマーアクリラート、ジスルフィド系架橋剤からなる群から選択される、組成物。
【請求項2】
第1のポリマーが、ポリアクリルアミド、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリラート)(PHEMA)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリホスファゼン、コラーゲン、ゼラチン、ポリ(アクリラート)、ポリ(メタクリラート)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)、ポリ(N,N-ジメンチルアクリルアミド)、ポリ(アリルアミン)およびこれらのコポリマーからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
第1のポリマーがポリアクリルアミドを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)アクリラート、ゼラチンアクリラート、ヒアルロン酸アクリラートおよびアルギナートアクリラートからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)、アルギナートメタクリラート(AlgMA)、ヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)、ポロキサマーアクリラート、ジスルフィド系アクリラートおよびN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート250(PEGDA 250)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)、ヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)、酸化アルギナートメタクリラート(OxAlgMA)、ポロキサマージアクリラート(Polox DA)、ビス(2-メタクリロイル)オキシエチルジスルフィド(Bis)およびN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)からなる群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)およびメタクリル化アルギナート(AlgMA)からなる群から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
生分解性共有結合性架橋剤が、約100Da~約40,000Daの分子量を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
生分解性共有結合性架橋剤が約250Da~約20,000Daの分子量を有する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記ヒドロゲル中の前記ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA)の濃度が、前記第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%である、請求項5に記載の組成物。
【請求項11】
前記ヒドロゲル中の前記ポロキサマーアクリラートの濃度が、前記第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%である、請求項5に記載の組成物。
【請求項12】
前記ヒドロゲル中の前記ゼラチンメタクリラート(GelMA)の濃度が、前記第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%である、請求項5に記載の組成物。
【請求項13】
前記ヒドロゲル中の前記酸化アルギナートメタクリラート(OxAlgMA)の濃度が、前記第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%である、請求項6に記載の組成物。
【請求項14】
前記ヒドロゲル中の前記ヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)の濃度が、前記第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%である、請求項5に記載の組成物。
【請求項15】
前記ヒドロゲル中の前記ジスルフィド系アクリラートの濃度が、前記第1のポリマーの重量を基準として約0.005重量%~0.03重量%である、請求項5に記載の組成物。
【請求項16】
前記ヒドロゲル中のN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)の濃度が、前記第1のポリマーの重量を基準として約0.0005重量%~0.01重量%である、請求項5に記載の組成物。
【請求項17】
前記第2のポリマーが、アルギナート、ペクタート、カルボキシメチルセルロース、酸化カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナート、キトサン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナンおよびλ-カラギーナンからなる群から選択され、前記アルギナート、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナート キトサン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナンおよびλ-カラギーナンはそれぞれ必要に応じて酸化されており、前記アルギナート、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナート キトサン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナンおよびλ-カラギーナンは、メタクリラート、アクリラート、アクリルアミド、メタクリルアミド、チオール、ヒドラジン、テトラジン、ノルボルネン、トランスシクロオクテンおよびシクロオクチンからなる群から選択される1またはそれを超える基を必要に応じて含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記第2のポリマーがアルギナートを含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記アルギナートが酸化アルギナートである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記アルギナートが、高分子量アルギナートと低分子量アルギナートとの混合物を含む、請求項18または19に記載の組成物。
【請求項21】
前記低分子量アルギナートに対する前記高分子量アルギナートの比が約5:1~約1:5である、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記第1の高分子網目と前記第2の高分子網目が共有結合で結合している、請求項1~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
前記高密度第一級アミンポリマーがキトサンである、請求項1~22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
前記カップリング剤が第1のカルボキシル活性化剤を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
前記第1のカルボキシル活性化剤がカルボジイミドである、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記カルボジイミドが、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC、EDACまたはEDCI)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびジイソプロピルカルボジイミド(DIC)からなる群から選択される、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記カップリング剤が、第2のカルボキシル活性化剤をさらに含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項28】
前記第2のカルボキシル活性化剤が、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS)、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、ジメチルアミノピリジン(DMAP)、ヒドロキシ-3,4-ジヒドロ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジン(HOOBt/HODhbt)、1-ヒドロキシ-7-アザ-1H-ベンゾトリアゾール(HOAt)、エチル2-シアノ-2-(ヒドロキシイミノ)アセタート、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリス(ジメチルアミノ)-ホスホニウムヘキサフルオロホスファート(BOP)、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリピロリジノ-ホスホニウムヘキサフルオロホスファート、7-アザ-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート)、エチルシアノ(ヒドロキシイミノ)アセタト-O2)-トリ-(1-ピロリジニル)-ホスホニウムヘキサフルオロホスファート、3-(ジエトキシ-ホスホリルオキシ)-1,2,3-ベンゾ[d]トリアジン-4(3H)-オン、2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルアミニウムテトラフルオロボラート/ヘキサフルオロホスファート、2-(6-クロロ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルアミニウムヘキサフルオロホスファート)、N-[(5-クロロ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-ジメチルアミノ-モルホリノ]-ウロニウムヘキサフルオロホスファートN-オキシド、2-(7-アザ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルアミニウムヘキサフルオロホスファート、1-[1-(シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)-ジメチルアミノ-モルホリノ]-ウロニウムヘキサフルオロホスファート、2-(1-オキシ-ピリジン-2-イル)-1,1,3,3-テトラメチルイソチオウロニウムテトラフルオロボラート、テトラメチルフルオロホルムアミジニウムヘキサフルオロホスファート、N-エトキシカルボニル-2-エトキシ-1,2-ジヒドロキノリン、2-プロパンホスホン酸無水物、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウム塩、(ビス-トリクロロメチルカーボナート、1,1’-カルボニルジイミダゾールである、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含む生分解性IPNヒドロゲルを含む組成物であって、前記第1の高分子網目はポリアクリルアミドと生分解性共有結合性架橋剤とを含み、前記第2の高分子網目はアルギナートポリマーを含み、前記生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)アクリラート、ゼラチンアクリラート、ヒアルロン酸アクリラート、アルギナートアクリラート、ポロキサマーアクリラート、ジスルフィド系架橋剤からなる群から選択される、組成物。
【請求項30】
組成物であって、
a)第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含む生分解性IPNヒドロゲルであって、前記第1の高分子網目はポリアクリルアミドと生分解性共有結合性架橋剤とを含み、前記第2の高分子網目はアルギナートポリマーを含む、生分解性IPNヒドロゲルと;
b)キトサンを含む接着性橋架けポリマーと;
c)EDCと硫酸化NHSを含むカップリング剤と;
を含む生分解性接着性材料を含み、
前記生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)アクリラート、ゼラチンアクリラート、ヒアルロン酸アクリラート、アルギナートアクリラート、ポロキサマーアクリラート、ジスルフィド系架橋剤からなる群から選択される、組成物。
【請求項31】
前記生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA 250)、ポロキサマージアクリラート(Polox DA)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)、酸化アルギナートメタクリラート(OxAlgMA)、ヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)、ビス(2-メタクリロイル)オキシエチルジスルフィド(Bis)およびN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)からなる群から選択される、請求項29または30に記載の組成物。
【請求項32】
第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含む生分解性IPNヒドロゲルを作製する方法であって、前記第1の高分子網目は、生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目は、イオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含み、
前記方法は、
第1のポリマーと第2のポリマーとを混合することと;
その混合物を生分解性共有結合性架橋剤およびイオン性架橋剤と接触させ、それによりIPNヒドロゲルを作製することと;を含み、
前記生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)アクリラート、ゼラチンアクリラート、ヒアルロン酸アクリラート、アルギナートアクリラート、ポロキサマーアクリラート、ジスルフィド系架橋剤からなる群から選択される、方法。
【請求項33】
前記生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA 250)、ポロキサマージアクリラート(Polox DA)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)、酸化アルギナートメタクリラート(OxAlgMA)、ヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)、ビス(2-メタクリロイル)オキシエチルジスルフィド(Bis)およびN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)からなる群から選択され、前記イオン性架橋剤がCaSO
4を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
a)第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含むヒドロゲルであって、前記第1の高分子網目は、生分解性共有結合架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目は、イオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含む、ヒドロゲルと;
b)高密度第一級アミンポリマーと;
c)表面に接着させるためのカップリング剤と;
を含み、
前記高密度第一級アミンポリマーが、モノマー単位当たり少なくとも1つの第一級アミ
ンを含み、ならびに/またはキトサン、ゼラチン、コラーゲン、ポリアリルアミン、ポリ
リジンおよびポリエチレンイミンからなる群から選択され、
前記生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)アクリラート、ゼラチンアクリラート、ヒアルロン酸アクリラート、アルギナートアクリラート、ポロキサマーアクリラート、ジスルフィド系架橋剤からなる群から選択され、
前記高密度第一級アミンポリマーおよび前記カップリング剤は、前記ヒドロゲルの1つの面に適用される、
生分解性接着性材料。
【請求項35】
前記表面が、湿潤であり、動的であり、またはこれらの両方である組織表面である、請求項34に記載の
生分解性接着性材料。
【請求項36】
前記表面が医療器具である、請求項35に記載の
生分解性接着性材料。
【請求項37】
治療活性剤を対象に送達する方法において使用するための組成物であって、治療活性剤を含み、前記方法は、
a)高密度第一級アミンポリマーとカップリング剤とを含む溶液をヒドロゲルに適用することと;
b)前記ヒドロゲルを前記対象中の表面上に配置することと;
を含み、
前記ヒドロゲルは、第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含み、前記第1の高分子網目は、生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目は、イオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含み、前記高密度第一級アミンポリマーが、モノマー単位当たり少なくとも1つの第一級アミン
を含み、ならびに/またはキトサン、ゼラチン、コラーゲン、ポリアリルアミン、ポリリ
ジンおよびポリエチレンイミンからなる群から選択され、
前記生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)アクリラート、ゼラチンアクリラート、ヒアルロン酸アクリラート、アルギナートアクリラート、ポロキサマーアクリラート、ジスルフィド系架橋剤からなる群から選択され、
少なくとも1つの治療活性剤は、前記ヒドロゲルおよび/または高密度第一級アミンポリマー中に封入され、またはその表面に付着されており、それによって前記組成物を前記対象に送達する、組成物。
【請求項38】
生分解性接着性材料であって、a)第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含むヒドロゲルであって、前記第1の高分子網目は生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目はイオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含む、ヒドロゲルと、b)高密度第一級アミンポリマーと;c)カップリング剤と;を含み、
前記高密度第一級アミンポリマーが、モノマー単位当たり少なくとも1つの第一級アミン
を含み、ならびに/またはキトサン、ゼラチン、コラーゲン、ポリアリルアミン、ポリリ
ジンおよびポリエチレンイミンからなる群から選択され、
前記生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)アクリラート、ゼラチンアクリラート、ヒアルロン酸アクリラート、アルギナートアクリラート、ポロキサマーアクリラート、ジスルフィド系架橋剤からなる群から選択され、
前記高密度第一級アミンポリマーおよび前記カップリング剤は、前記ヒドロゲルの1つの面に適用される、生分解性接着性材料。
【請求項39】
材料が、予め形成されたパッチまたは注射可能なゲルの形態である、請求項38に記載の生分解性接着性材料。
【請求項40】
前記第1の高分子網目が2つの反応性部分で修飾されており、前記反応性部分は、メタクリラート、アクリラート、アクリルアミド、メタクリルアミド、チオール、ヒドラジン、テトラジン、ノルボルネン、トランスシクロオクテンおよびシクロオクチンからなる群からそれぞれ独立に選択される、請求項38または請求項39に記載の生分解性接着性材料。
【請求項41】
前記第1の高分子網目が、ノルボルネンで修飾されたポリエチレングリコール(PEG)およびテトラジンで修飾されたポリエチレングリコール(PEG)を含む、請求項38~40のいずれか一項に記載の生分解性接着性材料。
【請求項42】
前記2つの反応性部分がCa
2+の存在下で反応する、請求項40に記載の生分解性接着性材料。
【請求項43】
前記2つの反応性部分がUV光の存在下で反応する、請求項40に記載の生分解性接着性材料。
【請求項44】
生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA 250)、ポロキサマージアクリラート(Polox DA)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)、酸化アルギナートメタクリラート(OxAlgMA)、ヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)、ビス(2-メタクリロイル)オキシエチルジスルフィド(Bis)およびN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)からなる群から選択される、請求項38~43のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項45】
前記生分解性IPNヒドロゲルが、2.5kJ/m
2
~20kJ/m
2
の破壊靱性値を有する、請求項1~31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項46】
前記生分解性IPNヒドロゲルが、10kJ/m
2
またはそれを超える破壊靱性値を有する、請求項1~31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項47】
前記生分解性IPNヒドロゲルが、14kJ/m
2
またはそれを超える破壊靱性値を有する、請求項1~31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項48】
前記生分解性IPNヒドロゲルが、10kJ/m
2
~20kJ/m
2
の破壊靱性値を有する、請求項1~31のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年10月12日に出願された米国仮出願第62/744,756号の優先権を主張し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
政府の支援
【0002】
本発明は、国立衛生研究所によって授与されたAG057135の下でアメリカ合衆国政府の支援を得て為された。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
ヒドロゲルは、多くの生物医学的および薬学的用途を有する架橋親水性ポリマー構造である。ヒドロゲルは、とりわけ、組織工学のための足場、薬物送達のためのビヒクル、医療器具のためのコーティング、創傷被覆材として使用することができる。最近の研究によって、天然の組織よりも数倍大きい破壊エネルギーを有するヒドロゲルが開発されている(「強靭なゲル(tough gels)」と呼ばれる)。これらの材料は、アルギナートとポリアクリルアミドの相互侵入網目(IPN)から形成される。従来のヒドロゲルは硬くて脆い傾向があるが、これらの強靭なゲルは優れた機械的特性を示し、破断することなく当初の長さの最大20倍まで伸長することができる。さらに、アルギナートとポリアクリルアミドの強靱なゲルの生体適合性に関する研究は、インビトロおよびインビボでの有望性を示しており、これらの強靭なゲルを潜在的な生体材料として使用するのに適したものにしている。接着性橋架けポリマーと組み合わせると、これらの強靭なゲルは、動的に動いている湿潤した組織表面への強力な接着を達成することができる。これらの強靭なゲルは、非常に高い破壊エネルギー、湿潤組織表面への接着性および優れた生体適合性を達成しているが、様々な医学的処置、例えばバイオサージェリー用途での使用を可能にするために、これらの強靭なゲルの調整可能な分解に対して満たされていない要求が依然として存在している。
【0004】
したがって、所望の表面、特に生体組織の湿潤表面に強力な結合を示し、著しい機械的応力および歪みに耐えることができ、生分解性である組織接着剤に対する満たされていない要求がなお存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に開示される組成物および方法は、少なくとも部分的には、生体適合性生分解性共有結合性架橋剤を使用した分解性の強靭なゲルおよび強靭な接着性材料の開発に基づく。特に、本発明者らは、高い破壊靱性を達成するために、異なる生分解性共有結合性架橋剤を使用して分解性の強靭なヒドロゲルを合成した。これらの強靭なヒドロゲルおよび強靭な接着性材料は、共有結合性架橋剤の濃度および組成を調整することによって調整可能な分解特性を有するように操作することができ、様々な生物医学的用途において、例えば過剰な失血を防止し、創傷シーリングを提供するためのバイオサージェリー製品の開発において使用するために材料の分解が自然に起こることを可能にする。
【0006】
さらに、本発明に開示される生分解性の強靭な接着性材料は、天然の軟骨よりも高い、極めて高い破壊エネルギー(例えば、約10kJ/m2~約20kJ/m2)をもたらす。接着は速く(数分以内)、血液曝露とは無関係であり、インビボでの動的な動き(例えば、拍動している心臓)と適合性である。生分解性接着性材料は、標的表面上にインサイチュで接着することができる(例えば、無縫合接着剤を与える外科用接着剤として作用することができる)予め形成されたパッチまたは注射可能なゲルの形態であり得る。
【0007】
したがって、一態様において、本発明は、第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含む生分解性相互侵入網目(IPN)ヒドロゲルを含む組成物であって、前記第1の高分子網目は、生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目は、イオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含む、組成物を提供する。
【0008】
別の態様において、本発明は、組成物であって、a)第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含むIPNヒドロゲルであって、前記第1の高分子網目は、生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目は、イオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含む、IPNヒドロゲルと;b)接着性橋架けポリマーと;c)カップリング剤と;を含む生分解性の強靭な接着性材料を含む、組成物を提供する。
【0009】
いくつかの実施形態において、第1のポリマーは、ポリアクリルアミド、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリホスファゼン、コラーゲン、ゼラチン、ポリ(アクリラート)、ポリ(メタクリラート)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N,N-ジメンチルアクリルアミド)、ポリ(アリルアミン)およびこれらのコポリマーからなる群から選択される。特定の実施形態において、第1の高分子網目はポリアクリルアミドである。
【0010】
いくつかの実施形態において、第1のポリマーは、ポリアクリルアミド、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリラート)(PHEMA)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリホスファゼン、コラーゲン、ゼラチン、ポリ(アクリラート)、ポリ(メタクリラート)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)、ポリ(N,N-ジメンチルアクリルアミド)、ポリ(アリルアミン)およびこれらのコポリマーからなる群から選択される。特定の実施形態において、第1の高分子網目はポリアクリルアミドであり、これはフリーラジカル重合、クリックケミストリーなどを介して共有結合で架橋した高分子網目を形成することができる。
【0011】
いくつかの実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、ポリ(エチレングリコール)アクリラート、ゼラチンアクリラート、ヒアルロン酸アクリラート、アルギナートアクリラート、ポロキサマーアクリラートおよびジスルフィド系架橋剤からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、ポリ(エチレングリコール)アクリラート、ゼラチンアクリラート、ヒアルロン酸アクリラートおよびアルギナートアクリラートからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)、アルギナートメタクリラート(AlgMA)、ヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)、ポロキサマーアクリラート、ジスルフィド系アクリラートおよびN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート250(PEGDA 250)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)、ヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)、酸化アルギナートメタクリラート(OxAlgMA)、ポロキサマージアクリラート(Polox DA)、ビス(2-メタクリロイル)オキシエチルジスルフィド(Bis)およびN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)、メタクリル化アルギナート(AlgMA)からなる群から選択される。
【0012】
いくつかの実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、約100Da~約40,000Daの分子量を有する。一実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、約250Da~約20,000Daの分子量を有する。いくつかのさらなる実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、約250Da、約10,000Daまたは約20,000Daの分子量を有するPEGDAである。一実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤はGelMAである。別の実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、AlgMA-5Mrad(低分子量を作り出すために照射されたアルギナート)である。さらに別の実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、約10,000Daの分子量を有するPEGDA(PEGDA 10k)である。特定の実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、約250Daの分子量を有するPEGDA(PEGDA 250)である。
【0013】
一実施形態において、ヒドロゲル中のPEGDA 250などのポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA)の濃度は、第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%、例えば、第1のポリマーの重量を基準として約0.005重量%~0.02重量%である。別の実施形態において、ヒドロゲル中のPEGDA 250の濃度は、ポリアクリルアミドの重量を基準として約0.0015重量%~0.06重量%である。
【0014】
別の実施形態において、ヒドロゲル中のPEGDA 10kの濃度は、ポリアクリルアミドの重量を基準として約0.003重量%~0.06重量%である。
【0015】
一実施形態において、ヒドロゲル中のポロキサマージアクリラート(Polox DA)などのポロキサマーアクリラートの濃度は、第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%、例えば、第1のポリマーの重量を基準として約0.01重量%~0.025重量%である。
【0016】
さらに別の実施形態において、ヒドロゲル中のゼラチンメタクリラート(GelMA)の濃度は、ポリアクリルアミドの重量を基準として約0.012重量%~0.2重量%である。一実施形態において、ヒドロゲル中のゼラチンメタクリラート(GelMA)の濃度は、第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%、例えば、第1のポリマーの重量を基準として約0.003重量%~0.01重量%である。
【0017】
一実施形態において、ヒドロゲル中のAlgMA-5Mradの濃度は、ポリアクリルアミドの重量を基準として約0.012重量%~0.2重量%である。
【0018】
一実施形態において、ヒドロゲル中の酸化アルギナートメタクリラート(OxAlgMA)の濃度は、第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%、例えば、第1のポリマーの重量を基準として約0.005重量%~0.02重量%である。
【0019】
一実施形態において、ヒドロゲル中のヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)の濃度は、第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%、例えば、第1のポリマーの重量を基準として約0.005重量%~0.02重量%である。
【0020】
一実施形態において、ヒドロゲル中のジスルフィド系アクリラートの濃度は、第1のポリマーの重量を基準として約0.005重量%~0.03重量%、例えば、第1のポリマーの重量を基準として約0.01重量%~0.025重量%である。
【0021】
一実施形態において、ヒドロゲル中のN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)の濃度は、第1のポリマーの重量を基準として約0.0005重量%~0.01重量%、例えば、第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.002重量%である。
【0022】
いくつかの実施形態において、第2のポリマーは、アルギナート、ペクタート、カルボキシメチルセルロース、酸化カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナート、キトサン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナンおよびλ-カラギーナンからなる群から選択され、アルギナート、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナート キトサン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナンおよびλ-カラギーナンはそれぞれ必要に応じて酸化されており、アルギナート、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナート キトサン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナンおよびλ-カラギーナンは、メタクリラート、アクリラート、アクリルアミド、メタクリルアミド、チオール、ヒドラジン、テトラジン、ノルボルネン、トランスシクロオクテンおよびシクロオクチンからなる群から選択される1またはそれを超える基を必要に応じて含む。特定の実施形態において、第2の高分子網目はアルギナートを含む。一実施形態において、アルギナートは、修飾されたアルギナートまたは酸化アルギナートである。以下に限定するものではないが、修飾されたアルギナート、官能化されたアルギナート、酸化されたアルギナート(部分的に酸化されたアルギナートを含む)および国際特許出願公開第2015/154082号、同第2017/075055号に記載されている酸化/還元されたアルギナート(これらの全内容は両方とも参照により本明細書に組み込まれる*)などの修飾されたアルギナート。
【0023】
いくつかの実施形態において、アルギナートは、高分子量アルギナートと低分子量アルギナートの混合物から構成される。特定の実施形態において、低分子量アルギナートに対する高分子量アルギナートの比は、0%~100%、例えば10~90%、10~80%、10~70%、10~60%、10~50%、10~40%、10~30%、10~20%、20~90%、20~80%、20~70%、20~60%、20~50%、20~40%、20~30%、30~70%、30~60%、30~50%、30~40%、40~60%、60~40%である。特定の実施形態において、低分子量アルギナートに対する高分子量アルギナートの比は約50%である。
【0024】
いくつかの実施形態において、イオン性架橋を促進する架橋剤としては、CaCl2、CaSO4、CaCO3、ヒアルロン酸およびポリリジンが挙げられる。
【0025】
いくつかの実施形態において、ヒドロゲルは、約30%~約98%の水を含む。
【0026】
いくつかの実施形態において、ヒドロゲルはパッチの形態で製造される。
【0027】
いくつかの実施形態において、第1の網目および第2の網目は共有結合で結合している。第1の網目と第2の網目の間の結合の性質は、フーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルまたは熱重量分析(TGA)を使用して決定される。生分解性相互侵入網目ヒドロゲルは、自己治癒能力、増加した破壊靱性、増加した極限引張強度および増加した破断伸びからなる群から選択される増強された機械的特性を含む。いくつかの実施形態において、ヒドロゲルは、約2.5kJ/m2~約20kJ/m2の破壊エネルギーを有する。特定の実施形態において、ヒドロゲルは約20kJ/m2の破壊エネルギーを有する。
【0028】
いくつかの実施形態において、ヒドロゲルは加水分解的に分解可能である。いくつかのさらなる実施形態において、ヒドロゲルは酵素的に分解可能である。
【0029】
いくつかの実施形態において、接着性橋架けポリマーは、高密度第一級アミンポリマーである。いくつかの実施形態において、高密度第一級アミンポリマーは、モノマー単位当たり少なくとも1つの第一級アミンを含む。特定の実施形態において、高密度第一級アミンポリマーは、キトサン、ゼラチン、コラーゲン、ポリアリルアミン、ポリリジンおよびポリエチレンイミンからなる群から選択される。特定の実施形態において、高密度第一級アミンポリマーは、キトサンである。
【0030】
いくつかの実施形態において、カップリング剤は、第1のカルボキシル活性化剤を含む。ある特定の実施形態において、第1のカルボキシル活性化剤は、カルボジイミドである。いくつかの実施形態において、カルボジイミドは、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC、EDACまたはEDCI)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびジイソプロピルカルボジイミド(DIC)からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、カップリング剤は、第2のカルボキシル活性化剤をさらに含む。ある特定の実施形態において、第2のカルボキシル活性化剤は、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS)、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、ジメチルアミノピリジン(DMAP)、ヒドロキシ-3,4-ジヒドロ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジン(HOOBt/HODhbt)、1-ヒドロキシ-7-アザ-1H-ベンゾトリアゾール(HOAt)、エチル2-シアノ-2-(ヒドロキシイミノ)アセタート、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリス(ジメチルアミノ)-ホスホニウムヘキサフルオロホスファート(BOP)、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリピロリジノ-ホスホニウムヘキサフルオロホスファート、7-アザ-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート)、エチルシアノ(ヒドロキシイミノ)アセタト-O2)-トリ-(1-ピロリジニル)-ホスホニウムヘキサフルオロホスファート、3-(ジエトキシ-ホスホリルオキシ)-1,2,3-ベンゾ[d]トリアジン-4(3H)-オン、2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルアミニウムテトラフルオロボラート/ヘキサフルオロホスファート、2-(6-クロロ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルアミニウムヘキサフルオロホスファート)、N-[(5-クロロ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-ジメチルアミノモルホリノ]-ウロニウムヘキサフルオロホスファートN-オキシド、2-(7-アザ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルアミニウムヘキサフルオロホスファート、1-[1-(シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)-ジメチルアミノ-モルホリノ]-ウロニウムヘキサフルオロホスファート、2-(1-オキシ-ピリジン-2-イル)-1,1,3,3-テトラメチルイソチオウロニウムテトラフルオロボラート、テトラメチルフルオロホルムアミジニウムヘキサフルオロホスファート、N-エトキシカルボニル-2-エトキシ-1,2-ジヒドロキノリン、2-プロパンホスホン酸無水物、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウム塩、(ビス-トリクロロメチルカーボナート、1,1’-カルボニルジイミダゾールである。
【0031】
いくつかの実施形態において、高密度第一級アミンポリマーとカップリング剤は別々に包装される。特定の実施形態において、高密度第一級アミンポリマーは溶液中にあり、カップリング剤は固体形態である。いくつかの実施形態において、カップリング剤は高密度第一級アミンポリマー溶液に添加される。いくつかの実施形態において、溶液中の高密度第一級アミンポリマーの濃度は、約0.1%~約50%である。特定の実施形態において、カップリング剤は、少なくとも第1のカルボキシル活性化剤および必要に応じて第2のカルボキシル活性化剤を含み、溶液中の第1のカルボキシル活性化剤の濃度は、約3mg/ml~約50mg/mlである。いくつかの実施形態において、高密度第一級アミンポリマーは溶液中にあり、カップリング剤は高密度第一級アミンポリマー溶液に添加され、溶液はヒドロゲルに適用される。
【0032】
一態様において、本発明は、第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含む生分解性IPNヒドロゲルを含む組成物であって、前記第1の高分子網目はポリアクリルアミドと生分解性共有結合性架橋剤とを含み、前記第2の高分子網目はアルギナートポリマーを含む、組成物を提供する。
【0033】
別の態様において、本発明は、組成物であって、(a)第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含む生分解性相互侵入網目ヒドロゲルであって、前記第1の高分子網目はポリアクリルアミドと生分解性共有結合性架橋剤とを含み、前記第2の高分子網目はアルギナートポリマーを含む、生分解性相互侵入網目ヒドロゲルと;(b)キトサンを含む接着性橋架けポリマーと;(c)EDCと硫酸化NHSを含むカップリング剤と;を含む生分解性接着性材料を含む、組成物を開示する。
【0034】
一実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA 250)、ポロキサマージアクリラート(Polox DA)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)、酸化アルギナートメタクリラート(OxAlgMA)、ヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)、ビス(2-メタクリロイル)オキシエチルジスルフィド(Bis)またはN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)である。
【0035】
いくつかの好ましい実施形態において、第1の高分子網目および第2の高分子網目は共有結合で結合している。
【0036】
一態様において、本発明は、第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含む生分解性IPNヒドロゲルを作製する方法であって、前記第1の高分子網目は、生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目は、イオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含み、前記方法は、第1のポリマーと第2のポリマーとを混合すること、ならびに混合物を生分解性共有結合性架橋剤およびイオン性架橋剤と接触させ、それによりIPNヒドロゲルを作製することを含む、方法を開示する。
【0037】
いくつかの実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA 250)、ポロキサマージアクリラート(Polox DA)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)、酸化アルギナートメタクリラート(OxAlgMA)、ヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)、ビス(2-メタクリロイル)オキシエチルジスルフィド(Bis)またはN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)であり、イオン性架橋剤はCaSO4・2H2O(カルシウム二水和物)を含む。好ましい実施形態において、第1の高分子網目および第2の高分子網目は共有結合で結合している。
【0038】
いくつかの実施形態において、CaSO4*2H2Oと第2のポリマーの比は、約3.32重量%~53.15重量%である。いくつかの実施形態において、第一のポリマーはアクリルアミドポリマーであり、第二のポリマーはアルギナートであり、ポリアクリルアミドポリマーとアルギナートポリマーのポリマー比は約66.67重量%~94.12重量%、約88.89重量%または約85.71重量%である
【0039】
別の態様において、本発明は、生分解性IPNヒドロゲルを表面(例えば、組織)に接着させる方法であって、(a)高密度第一級アミンポリマーとカップリング剤とを含む溶液をヒドロゲルに適用する工程と;b)ヒドロゲルを前記表面上に配置する工程と;を含み、ヒドロゲルは、第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含み、前記第1の高分子網目は、生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目は、イオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含む、方法を提供する。
【0040】
特定の実施形態において、表面は組織である。特定の実施形態において、組織は、心臓組織、皮膚組織、血管組織、腸組織、肝臓、腎臓、膵臓、肺、気管、眼、軟骨組織および腱組織からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、生分解性接着性材料は、湿潤性である表面、動的に動いている表面、または湿潤性および動的な動きの組み合わせである表面への適用に適している。いくつかの実施形態において、表面は医療器具である。
【0041】
いくつかの実施形態において、ヒドロゲルは医療器具を封入する。一実施形態において、除細動器、ペースメーカー、ステント、カテーテル、組織インプラント、ねじ、ピン、プレート、ロッド、人工関節、空気圧式アクチュエータ、センサ、エラストマーベースのデバイスおよびヒドロゲルベースのデバイスからなる群から選択される医療器具。
【0042】
いくつかの実施形態において、ヒドロゲルは、創傷を封鎖するために表面に接着される。特定の実施形態において、ヒドロゲルは、バイオサージェリー用途のために表面に接着される。
【0043】
一態様において、本発明は、治療活性剤を対象に送達する方法であって、(a)高密度第一級アミンポリマーとカップリング剤とを含む溶液をヒドロゲルに適用すること;および(b)ヒドロゲルを対象中の表面上に配置すること;を含み、前記ヒドロゲルは、第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含み、前記第1の高分子網目は、生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目は、イオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含み、少なくとも1つの治療活性剤は、ヒドロゲルおよび/または高密度第一級アミンポリマー中に封入され、またはその表面に付着されており、それによって治療活性剤を対象に送達する、方法を開示する。
【0044】
別の態様において、本発明は、生分解性接着性材料であって、(a)第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含む生分解性IPNヒドロゲルであって、第1の高分子網目は生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、第2の高分子網目はイオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含む、生分解性IPNヒドロゲルと、(b)高密度第一級アミンポリマーと;(c)カップリング剤と;を含み、高密度第一級アミンポリマーおよびカップリング剤は、ヒドロゲルの1つの面に適用される、生分解性接着性材料を開示する。
【0045】
いくつかの実施形態において、生分解性接着性材料は、予め形成されたパッチの形態である。いくつかの実施形態において、生分解性接着性材料は、注射可能なゲルの形態である。
【0046】
生分解性接着性材料のいくつかの実施形態において、第1の高分子網目は、2つの反応性部分で修飾されており、反応性部分は、メタクリラート、アクリラート、アクリルアミド、メタクリルアミド、チオール、ヒドラジン、テトラジン、ノルボルネン、トランスシクロオクテンおよびシクロオクチンからなる群からそれぞれ独立に選択される。
【0047】
生分解性接着性材料のいくつかの実施形態において、第2の高分子網目はアルギナートである。
【0048】
生分解性接着性材料のいくつかの実施形態において、第1の高分子網目は、ノルボルネンで修飾されたポリエチレングリコール(PEG)およびテトラジンで修飾されたポリエチレングリコール(PEG)を含む。
【0049】
生分解性接着性材料のいくつかの実施形態において、2つの反応性部分は、Ca2+(例えば、CaSO4)の存在下で反応する。生分解性接着性材料のいくつかの実施形態において、2つの反応性部分はUV光の存在下で反応する。
【0050】
本発明は、以下の図面および詳細な説明によって例示され、以下の図面および詳細な説明は特許請求の範囲に記載された発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】
図1は、異なる重量パーセント濃度のPEGDA 250共有結合性架橋剤を有する強靭なゲルについての破壊エネルギー値を比較するプロットである。データは平均±標準偏差として示されている。N=3/群。
【0052】
【
図2】
図2は、異なる重量パーセント濃度のPEGDA 10k共有結合性架橋剤を有する強靭なゲルについての破壊エネルギー値を比較するプロットである。データは平均±標準偏差として示されている。N=3/群。事後t検定による二元配置ANOVA。
【0053】
【
図3】
図3は、異なる重量パーセント濃度のPEGDA 250およびPEGDA 10k共有結合性架橋剤を有する強靭なゲルについての破壊エネルギー値を比較するプロットである。データは平均±標準偏差として示されている。N=3/群。
【0054】
【
図4】
図4は、異なる重量パーセント濃度のGelMA共有結合性架橋剤を有する強靭なゲルについての破壊エネルギー値を比較するプロットである。データは平均±標準偏差として示されている。N=3/群。事後t検定による二元配置ANOVA。
【0055】
【
図5】
図5は、異なる重量パーセント濃度のAlgMA-5Mrad共有結合性架橋剤を含む強靭なゲルについての破壊エネルギー値を比較するプロットである。データは平均±標準偏差として示されている。N=3/群。
【0056】
【
図6】
図6は、各架橋剤の最良性能濃度に対するkJ/m
2で表した破壊エネルギー値を比較するプロットである。データは平均±標準偏差として示されている。N=3/群。事後t検定による二元配置ANOVA。
【0057】
【
図7】
図7A、7Bおよび7Cは、1倍または2倍濃度の加水分解性共有結合性架橋剤ビス(2-メタクリロイル)オキシエチルジスルフィド(Bis)を有する強靭なゲルの機械的特性(応力、伸び、靭性)を比較するプロットである。
【0058】
【
図8】
図8A、8Bおよび8Cは、1倍または2倍濃度の還元切断性共有結合性架橋剤N,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)を有する強靭なゲルの機械的特性(応力、伸び、靭性)を比較するプロットである。
【0059】
【
図9】
図9A、9Bおよび9Cは、1倍または2倍濃度の酵素的に切断可能な共有結合性架橋剤ゼラチンメタクリラート(GelMA)を有する強靭なゲルの機械的特性(応力、伸び、靭性)を比較するプロットである。
【0060】
【
図10】
図10A、10Bおよび10Cは、1倍または2倍濃度の酵素的に切断可能な共有結合性架橋剤ヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)を有する強靭なゲルの機械的特性(応力、伸び、靭性)を比較するプロットである。
【0061】
【
図11】
図11A、11Bおよび11Cは、1倍または2倍濃度の加水分解性共有結合性架橋剤酸化アルギナートメタクリラート(OxAlgMA)を有する強靭なゲルの機械的特性(応力、伸び、靭性)を比較するプロットである。
【0062】
【
図12】
図12A、12Bおよび12Cは、1倍または2倍濃度の加水分解性共有結合性架橋剤ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート250(PEGDA 250)を有する強靭なゲルの機械的特性(応力、伸び、靭性)を比較するプロットである。
【0063】
【
図13】
図13A、13Bおよび13Cは、1倍または2倍濃度の加水分解性共有結合性架橋剤ポロキサマージアクリラート(Polox DA)を有する強靭なゲルの機械的特性(応力、伸び、靭性)を比較するプロットである。
【0064】
【
図14】
図14A、14Bおよび14Cは、生分解性共有結合性架橋剤ビス(Bis)、CysおよびGelMA、HAMA、OxAlgMa、PEGDA 250およびPolox DAを有する強靭なゲルの機械的特性(応力、伸び、靭性)を比較するプロットである。
【0065】
【
図15】
図15は、非生分解性共有結合性架橋剤、またはPEGDA 10kおよびGelMA生分解性共有結合性架橋剤を有する強靭なゲルの質量減少百分率を比較するプロットである。
【0066】
【
図16】
図16A、16Bおよび16Cは、回収されたゲルの割合、ゲルの厚さおよびゲルの質量の測定を通じて、異なる生分解性共有結合性架橋剤(GelMA、HAMA、OxAlgMa、PEGDA 250およびPolox DA)を有する強靭なゲルの分解を16週間にわたって評価する。(MBAA非分解性共有結合性架橋剤を有する強靭なゲルと比較)
【0067】
【
図17】
図17は、1週間、2週間、4週間、8週間および16週間の、対照非生分解性MBAA架橋剤を有する皮下に埋め込んだ強靭なゲル(アルギナートまたは酸化アルギナートを含む)の一連の高周波ヘマトキシリンおよびエオシン染色(HE染色)画像である。
【0068】
【
図18】
図18は、1週間、2週間、4週間、8週間および16週間の、生分解性PEGDA 250架橋剤を有する皮下に埋め込んだ強靭なゲル(アルギナートまたは酸化アルギナートを含む)の一連の高周波ヘマトキシリンおよびエオシン染色(HE染色)画像である。
【0069】
【
図19】
図19は、1週間、2週間、4週間および8週間の、生分解性Polox DA架橋剤を有する皮下に埋め込んだ強靭なゲル(アルギナートまたは酸化アルギナートを含む)の一連の高周波ヘマトキシリンおよびエオシン染色(HE染色)画像である。
【0070】
【
図20】
図20は、4週間、8週間および16週間の、生分解性HAMA架橋剤を有する皮下に埋め込んだ強靭なゲル(アルギナートまたは酸化アルギナートを含む)の一連の高周波ヘマトキシリンおよびエオシン染色(HE染色)画像である。
【0071】
【
図21】
図21は、4週間、8週間および16週間の、生分解性GelMA架橋剤を有する皮下に埋め込んだ強靭なゲル(アルギナートまたは酸化アルギナートを含む)の一連の高周波ヘマトキシリンおよびエオシン染色(HE染色)画像である。
【0072】
【
図22】
図22は、4週間、8週間および16週間の、生分解性OxAlgMA架橋剤を有する皮下に埋め込んだ強靭なゲル(アルギナートまたは酸化アルギナートを含む)の一連の高周波ヘマトキシリンおよびエオシン染色(HE染色)画像である。
【0073】
【
図23】
図23A、23B、23C、23D、23Eおよび23Fは、様々な化学的または酵素的溶液で1分間処理した後の強靭なゲルの引張機械的特性における効果を比較するプロットである。
【0074】
【
図24】
図24Aおよび24Bは、強靭なゲルの引張機械的特性(靭性および最大応力)に対する様々な溶液の効果を比較するプロットである。
【0075】
【
図25】
図25Aおよび25Bは、100分間にわたる強靭なゲルの機械的特性(靭性および最大応力)に対するアルギン酸リアーゼ処理の効果を比較するプロットである。
【0076】
【
図26】
図26Aおよび26Bは、マウスの背中の皮膚(対照);強靭なゲル接着剤を付けた皮膚、強靭なゲル接着剤を付けてアルギン酸リアーゼで処理した皮膚;ダーマボンドを接着した後に剥いだ皮膚;シアノアクリラートを接着した後に剥いだ皮膚の高周波超音波ならびにヘマトキシリンおよびエオシン染色(HE染色)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0077】
本発明は、生分解性相互侵入網目(IPN)ヒドロゲルを開示する。本発明は、少なくとも部分的には、湿潤および動的環境においてさえも生物学的表面(例えば、組織)に接着することができる生分解性の強靭な接着性材料の発見に基づいている。したがって、本発明は、生分解性相互侵入網目ヒドロゲルを含む生分解性の強靭な接着性材料を生物学的表面に接着させる組成物および方法を提供する。
【0078】
本明細書に記載されている生分解性の強靭な接着性材料は、創傷被覆材、バイオサージェリー用途、薬物送達および組織修復を含む医療用途において多大な利点を提供する。例えば、筋肉または心臓などの湿潤した動的組織上で使用されるヒドロゲルには、応力および歪みが繰り返しかかる。本明細書に記載の生分解性ヒドロゲルは、機械的により堅牢で、より耐久性があり、より高い界面靭性を特徴とするため、このような用途により適している。
I.定義
【0079】
本発明がより容易に理解され得るように、まず、一定の用語を定義する。さらに、パラメータの値または値の範囲が列挙されるときは常に、列挙された値の中間の値および範囲も本発明の一部であることが意図されることに留意すべきである。
【0080】
以下の記述においては、説明の目的で、本発明の完全な理解を与えるために、具体的な数、材料および構成が記載されている。しかしながら、本発明がこれらの具体的な詳細なしに実施され得ることが当業者には明らかである。いくつかの事例では、本発明を不明瞭にしないようにするため、周知の特徴は省略または簡略化され得る。さらに、本明細書における「1つの実施形態」または「一実施形態」などの語句への言及は、当該実施形態に関連して記載されている特定の特徴、構造または特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。本明細書中の様々な箇所での「一実施形態において」などの語句の出現は、必ずしもすべてが同一の実施形態を指すとは限らない。
【0081】
冠詞「a」および「an」は、本明細書では、冠詞の文法的目的語の1つまたは1つを超える(すなわち、少なくとも1つ)を表すために使用される。例として、「1つの要素(an element)」は、1つの要素(one element)または1を超える要素(more than one element)を意味する。
【0082】
本明細書で使用される場合、「含んでいる(comprising)」または「含む(comprises)」という用語は、本発明にとって必須であり、ただし明示されていない要素(必須であるか否かを問わない)を含む余地がある組成物、方法およびそれらのそれぞれの構成成分に関して使用される。
【0083】
「からなる」という用語は、本明細書に記載の組成物、方法およびそれらのそれぞれの構成成分を指し、実施形態のその記述中に記載されていない一切の要素を除外する。
【0084】
本明細書で使用される場合、「対象」は、ヒトまたは動物を意味する。通常、動物は、脊椎動物、例えば霊長類、齧歯類、飼育動物または狩猟動物である。霊長類には、チンパンジー、カニクイザル(cynomologous monkey)、クモザルおよびマカク、例えばアカゲザルが含まれる。齧歯類には、マウス、ラット、ウッドチャック、フェレット、ウサギおよびハムスターが含まれる。飼育動物および狩猟動物には、ウシ、ウマ、ブタ、シカ、バイソン、バッファロー、ネコ種、例えばイエネコ、イヌ種、例えばイヌ、キツネ、オオカミ、トリ種、例えばニワトリ、エミュー、ダチョウ、ならびに魚、例えばマス、ナマズおよびサケが含まれる。患者または対象は、上記の任意のサブセット、例えば、上記の全てを含むが、ヒト、霊長類またはげっ歯類などの1またはそれを超える群または種を除外する。特定の実施形態において、対象は、哺乳動物、例えば霊長類、例えばヒトである。「患者」および「対象」という用語は、本明細書において互換的に使用される。好ましくは、対象は哺乳動物である。哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマまたはウシであり得る。ヒト以外の哺乳動物は、組織もしくは器官損傷、または他の関連する病状の動物モデルに相当する対象として有利に使用することができる。対象は男性または女性であり得る。対象は、成体、青年または小児であり得る。対象は、組織損傷、組織損傷に関連する疾患もしくは状態に罹患しているもしくはこれらを発症するリスクを有すると以前に診断されもしくは特定されたことがある者、または対象の体内もしくは身体上にデバイスを取り付ける必要がある者であり得る。
II.本発明の組成物
A.生分解性相互侵入網目ヒドロゲル
【0085】
本発明は、第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含む生分解性IPNヒドロゲルを含む組成物であって、前記第1の高分子網目は、生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目は、イオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含む、組成物を提供する。驚くべきことに、本発明のIPNヒドロゲルは、高い機械的強度および調整可能な生分解性を示す。
【0086】
一実施形態において、本発明は、第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含む生分解性IPNヒドロゲルを含む組成物であって、前記第1の高分子網目はポリアクリルアミドと生分解性共有結合性架橋剤PEGDAとを含み、前記第2の高分子網目はイオン的に架橋したアルギナートポリマーを含む、組成物を提供する。
【0087】
本明細書で使用される生分解性共有結合性架橋剤は、1またはそれを超えるアクリラート部分を有する生分解性化合物またはポリマーである。本明細書で使用されるアクリラート部分は、アルキル化アクリラート、例えば、アクリル酸メチル(メタクリラート)、アクリル酸ジメチル、アクリル酸エチルなど、モノアクリラート(アクリラート)およびジアクリラートからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、生分解性アクリル化ポリマーを含む生分解性共有結合性架橋剤は、アクリル化多糖、アクリル化タンパク質、アクリル化ポリエステル、アクリル化ポリオール(ポリアルコール)およびアクリル化ポリエーテル、またはこれらの組み合わせからなる群から選択され、多糖、タンパク質、ポリオールおよびポリエーテルは、必要に応じて酸化され得る。例示的な生分解性アクリル化ポリマーとしては、ポリ(エチレングリコール)アクリラート、ゼラチンアクリラート、ヒアルロン酸アクリラート、ポリカプロラクトン(PCL)アクリラート、ポリ(ラクチド)-ポリ(エチレングリコール)-ポリ(ラクチド)(PLA-PEG-PLA)アクリラートおよびアルギナートアクリラートが挙げられる。いくつかの実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、約100Da~約40,000Daの分子量を有する、ポリカプロラクトンジメタクリラート、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA)、ポリ(ラクチド)-ポリ(エチレングリコール)-ポリ(ラクチド)ジアクリラート(アクリラート-PLA-PEG-PLA-アクリラート)、ポリ(d,l-ラクチド)-ポリ(エチレングリコール)-ポリ(d,l-ラクチド)ジメタクリラート(MA-PDLLA-PEG-PDLLA-MA)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)、メタクリル化アルギナート(AlgMA)、酸化メタクリル化アルギナート(OxAlgMA)およびAlgMA-5Mradからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、生分解性アクリル化化合物、例えば、ジウレタンジメタクリラート、ビス(2-(メタクリロイルオキシ)エチル)ホスファート、グリセロールジメタクリラートおよびエチレングリコールジアクリラートを含む。
【0088】
いくつかの実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、ポリ(エチレングリコール)アクリラート、ゼラチンアクリラート、ヒアルロン酸アクリラート、アルギナートアクリラート、ポロキサマーアクリラートおよびジスルフィド系架橋剤からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、ポリ(エチレングリコール)アクリラート、ゼラチンアクリラート、ヒアルロン酸アクリラートおよびアルギナートアクリラートからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)、アルギナートメタクリラート(AlgMA)、ヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)、ポロキサマーアクリラート、ジスルフィド系アクリラートおよびN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート250(PEGDA 250)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)、ヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)、酸化アルギナートメタクリラート(OxAlgMA)、ポロキサマージアクリラート(Polox DA)、ビス(2-メタクリロイル)オキシエチルジスルフィド(Bis)およびN,N-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、生分解性共有結合性架橋剤は、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)およびメタクリル化アルギナート(AlgMA)からなる群から選択される。
【0089】
本明細書で使用される場合、ポロキサマーは、PEO-PPO-PEOとしてトリブロック構造で配置された親水性ポリ(エチレンオキシド)(PEO)および疎水性ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)ブロックのブロックポリマーである。ポロキサマーアクリラートは、1またはそれを超えるアクリラート部分で官能化されたポロキサマーである。
【0090】
一実施形態において、ヒドロゲル中のPEGDA 250などのポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA)の濃度は、第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%、例えば、第1のポリマーの重量を基準として約0.002重量%~0.05重量%、約0.005重量%~0.05重量%、0.001重量%~0.05重量%、0.005重量%~0.02重量%、0.005重量%~0.01重量%である。別の実施形態において、ヒドロゲル中のPEGDA 250の濃度は、ポリアクリルアミドの重量を基準として約0.0015重量%~0.06重量%である。特定の実施形態において、ヒドロゲル中のPEGDA 250などのポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA)の濃度は、ポリアクリルアミドなどの第1のポリマーの重量を基準として約0.01重量%である。
【0091】
別の実施形態において、ヒドロゲル中のPEGDA 10kの濃度は、ポリアクリルアミドの重量を基準として約0.003重量%~0.06重量%である。
【0092】
一実施形態において、ヒドロゲル中のポロキサマージアクリラート(Polox DA)などのポロキサマーアクリラートの濃度は、第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%、例えば、第1のポリマーの重量を基準として約0.01重量%~0.05重量%、0.01重量%~0.025重量%、0.01重量%~0.02重量%、0.001重量%~0.02重量%、0.001重量%~0.01重量%である。特定の実施形態において、ヒドロゲル中のポロキサマージアクリラート(Polox DA)などのポロキサマーアクリラートの濃度は、ポリアクリルアミドなどの第1のポリマーの重量を基準として約0.02重量%である。
【0093】
さらに別の実施形態において、ヒドロゲル中のゼラチンメタクリラート(GelMA)の濃度は、ポリアクリルアミドの重量を基準として約0.012重量%~0.2重量%である。一実施形態において、ヒドロゲル中のゼラチンメタクリラート(GelMA)の濃度は、第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%、例えば、第1のポリマーの重量を基準として約0.003重量%~0.01重量%、0.002重量%~0.05重量%、0.002重量%~0.02重量%、0.002重量%~0.01重量%、0.005重量%~0.01重量%、0.0025重量%~0.005重量%である。特定の実施形態において、ヒドロゲル中のゼラチンメタクリラート(GelMA)の濃度は、ポリアクリルアミドなどの第1のポリマーの重量を基準として約0.005重量%である。
【0094】
一実施形態において、ヒドロゲル中のAlgMA-5Mradの濃度は、ポリアクリルアミドの重量を基準として約0.012重量%~0.2重量%である。
【0095】
一実施形態において、ヒドロゲル中の酸化アルギナートメタクリラート(OxAlgMA)の濃度は、第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%、例えば、第1のポリマーの重量を基準として約0.002重量%~0.05重量%、約0.005重量%~0.05重量%、0.001重量%~0.05重量%、0.005重量%~0.02重量%、0.005重量%~0.01重量%である。特定の実施形態において、ヒドロゲル中の酸化アルギナートメタクリラート(OxAlgMA)の濃度は、ポリアクリルアミドなどの第1のポリマーの重量を基準として約0.01重量%である。
【0096】
一実施形態において、ヒドロゲル中のヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)の濃度は、第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%、例えば、第1のポリマーの重量を基準として約0.002重量%~0.05重量%、約0.005重量%~0.05重量%、0.001重量%~0.05重量%、0.005重量%~0.02重量%、0.005重量%~0.01重量%である。特定の実施形態において、ヒドロゲル中のヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)の濃度は、ポリアクリルアミドなどの第1のポリマーの重量を基準として約0.01重量%である。
【0097】
一実施形態において、ヒドロゲル中のビス(2-メタクリロイル)オキシエチルジスルフィドなどのジスルフィド系アクリラートの濃度は、第1のポリマーの重量を基準として約0.005重量%~0.03重量%、例えば、第1のポリマーの重量を基準として約0.005重量%~0.025重量%、0.01重量%~0.025重量%、0.01重量%~0.03重量%、0.01重量%~0.02重量%、0.005重量%~0.02重量%である。特定の実施形態において、ヒドロゲル中のビス(2-メタクリロイル)オキシエチルジスルフィドなどのジスルフィド系アクリラートの濃度は、ポリアクリルアミドなどの第1のポリマーの重量を基準として約0.02重量%である。
【0098】
一実施形態において、ヒドロゲル中のN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)の濃度は、第1のポリマーの重量を基準として約0.0005重量%~0.01重量%、例えば、第1のポリマーの重量を基準として約0.0005重量%~0.002重量%、0.0005重量%~0.001重量%、0.001重量%~0.002重量%、0.001重量%~0.002重量%である。特定の実施形態において、ヒドロゲル中のN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)の濃度は、ポリアクリルアミドなどの第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%である。
【0099】
本明細書で使用される「生分解性」という用語は、生物学的手段によって、環境中に消失する天然の原料への安全かつ比較的迅速な材料の分解を指す。本明細書に開示される生分解性接着性材料(以下のセクションB.でさらに説明される。)またはヒドロゲルは、(例えば、様々なpHまたは酵素のシミュレートされた(体外での)加水分解溶液または酵素溶液に基づいて)約12時間、24時間、2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、10週間、12週間、15週間、16週間、20週間、24週間、1ヶ月、2ヶ月または3ヶ月以内に分解する。例えば、生分解性ヒドロゲルおよび接着性材料は、1~6日、1~4週間、または1~4ヶ月以内に分解することができる。いくつかの実施形態において、本明細書で使用される「生分解性共有結合性架橋剤」は、加水分解可能である共有結合性架橋剤を指す。加水分解性共有結合性架橋剤の例としては、ポリ(エチレングリコール)アクリラート、ポロキサマーアクリラート、ジスルフィド系アクリラート、アルギナートアクリラート、酸化アルギナートアクリラートが挙げられる。いくつかの実施形態において、本明細書で使用される「生分解性共有結合性架橋剤」は、酵素的に切断可能である共有結合性架橋剤を指す。還元切断性共有結合性架橋剤の例としては、N,N’-ビス(アクリロイル)シスチンおよびN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)が挙げられる。いくつかの実施形態において、本明細書で使用される「生分解性共有結合性架橋剤」は、酵素的に切断可能である共有結合性架橋剤を指す。酵素的に切断可能な架橋剤の例としては、ゼラチンアクリラートおよびヒアルロン酸アクリラートが挙げられる。
【0100】
従来、第1の高分子網目中で使用されるポリアクリルアミドは、ヒドロゲルに高い機械的強度または靭性を付与するために、N,N-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)共有結合性架橋剤で架橋される。驚くべきことに、ポリアクリルアミドおよび生分解性共有結合性架橋剤、例えばPEGDAを含む本発明のIPNヒドロゲルは、極めて高い機械的強度または靭性および調整可能な生分解性を示す。
【0101】
本明細書で使用される場合、相互侵入網目(IPN)は、分子的規模で少なくとも部分的に絡み合っているが、互いに共有結合しておらず、化学結合が切断されない限り分離することができない2またはそれを超える網目(例えば、第1の高分子網目および第2の高分子網目)を含む高分子網目である。あるいは、第1の高分子網目と第2の高分子網目は共有結合で結合している。この混合は、IPNヒドロゲルの強化された機械的特性をもたらす。これらの生分解性ヒドロゲルの高い破壊靱性は、エネルギーを散逸させる能力のためである。一例として、アルギナート-ポリアクリルアミドヒドロゲルは、変形下においてエネルギーを遮断および散逸することができる、アルギナートとカルシウムイオン間の静電的相互作用を介して形成されるイオン性架橋を有する。IPNは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際特許出願公開第2013/103956 A1号に記載されている。
【0102】
特に、第1の高分子網目は、共有結合架橋を含み、ポリアクリルアミド、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(エチレンオキシド)およびそのコポリマー、ポリエチレングリコール(PEG)およびポリホスファゼンからなる群から選択されるポリマーを含む。また、メタクリル化された任意のポリマー(例えば、メタクリル化PEG)も同様に使用することができる。特定の実施形態において、ポリマーは、ポリアクリルアミド(PAAM)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリラート)(PHEMA)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリホスファゼン、コラーゲン、ゼラチン、ポリ(アクリラート)、ポリ(メタクリラート)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)、ポリ(N,N-ジメンチルアクリルアミド)、ポリ(アリルアミン)およびこれらのコポリマーからなる群から選択される。特定の実施形態において、第1のポリマーはポリエチレングリコール(PEG)である。いくつかの実施形態において、第1のポリマーは、ポリアクリルアミド(PAAM)である。
【0103】
第2の高分子網目は、イオン性架橋を含み、アルギナート(アルギン酸またはalign)、ペクタート(ペクチン酸またはポリガラクツロン酸)、カルボキシメチルセルロース(CMCまたはセルロースガム)、ヒアルロナート(ヒアルロン酸またはヒアルロナン)、キトサン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナンおよびλ-カラギーナンからなる群から選択されるポリマーであり、アルギナート、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナート、キトサン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナンおよびλ-カラギーナンはそれぞれ必要に応じて酸化されており、アルギナート、ヒアルロナート、キトサン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナンおよびλ-カラギーナンは必要に応じてメタクリラート、アクリラート、アクリルアミド、メタクリルアミド、チオール、ヒドラジン、テトラジン、ノルボルネン、トランスシクロオクテンおよびシクロオクチンからなる群から選択される1またはそれを超える基を含む。イオン性架橋を促進する架橋剤としては、CaCl2、CaSO4、CaCO3、ヒアルロン酸およびポリリジンが挙げられる。
【0104】
特定の実施形態において、第2の高分子網目は、ポリマー鎖に沿って量および連続的分布が様々である(1-4)結合型b-D-マンヌロン酸(M)およびa-L-グルロン酸(G)モノマーで構成されるアルギナートである。アルギナートは、連続したM単位(Mブロック)、連続したG単位の領域(Gブロック)、および分子にその固有の特性を与えるM単位とG単位が交互する領域(M-Gブロック)で構成されるブロックコポリマーも考えられる。アルギナートは、隣接するアルギナート鎖のGブロック間でCa+2などの二価陽イオンを結合する能力を有し、Mブロックの柔軟な領域間にイオン性鎖間橋架けを生成する。いくつかの実施形態において、アルギナートは、高分子量アルギナートと低分子量アルギナートの混合物である。例えば、低分子量アルギナートに対する高分子量アルギナートの比は、約0%および100%;約10%および90%;約20%および80%;約30%および70%;約40%および60%;約50%および50%;約60%および40%;約70%および30%;約80%および20%;約90%および10%;約100%および0%である。高分子量アルギナートは、約100,000Da~約300,000Da、約150,000Da~約250,000Daの分子量を有するか、または約200,000Daである。低分子量アルギナートは、約1,000Da~約100,000Da、約5,000Da~約50,000Da、約10,000Da~約30,000Daの分子量を有するか、または約20,000Daである。
【0105】
本発明のヒドロゲルは、高度に吸収性であり、約30%~約98%の水(例えば、約40%、約、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約98%、約40~約98%、約50~約98%、約60~約98%、約70~約98%、約80~約98%、約90~約98%または約95~約98%の水)を含み、本発明のヒドロゲルの著しい含水量のために、天然組織と類似の程度の柔軟性を有する。特に、本発明のヒドロゲルは、その当初の長さの最大20倍まで伸ばすことができ、例えば、本発明のヒドロゲルは、亀裂または断裂なしに、その当初の長さの2~20倍、その当初の長さの5~20倍、その当初の長さの10~20倍、その当初の長さの15~20倍、その当初の長さの2~10倍、その当初の長さの10~15倍、およびその当初の長さの5~15倍伸ばすことができる。
【0106】
高い破壊エネルギー(靭性)を有するヒドロゲルは、低い破壊エネルギー(靭性)を有するヒドロゲルよりも機械的に堅牢である。本発明の生分解性IPNヒドロゲルは、2.5kJ/m2~20kJ/m2、例えば、10kJ/m2~20kJ/m2、12kJ/m2~20kJ/m2、13kJ/m2~20kJ/m2または15kJ/m2~20kJ/m2の破壊靱性値を含む。相互侵入高分子網目は、少なくとも5kJ/m2、少なくとも10kJ/m2、少なくとも10kJ/m2、または少なくとも20kJ/m2の破壊靱性値を含む。好ましい実施形態において、相互侵入高分子網目は、少なくとも10kJ/m2、少なくとも11kJ/m2、少なくとも12kJ/m2、少なくとも13kJ/m2、少なくとも14kJ/m2、少なくとも15kJ/m2、少なくとも16kJ/m2、少なくとも17kJ/m2、少なくとも18kJ/m2、少なくとも19kJ/m2または少なくとも20kJ/m2の破壊靱性値を含む。高い破壊靱性を有するヒドロゲルは、破断前の大きな変形に耐えることができる。これは、機械的エネルギーを散逸させ、周期的な疲労負荷に耐えるために重要であり得る。異なる架橋剤を有するこれらの強靭なゲルの接着エネルギーは、一端を開放して強靭な接着剤が組織表面に接着される剥離試験によって測定され得る。
【0107】
相互侵入高分子網目の破壊靱性を増加させるために、ヒドロゲルは、20℃~100℃の間、例えば、40℃~90℃の間、60℃~80℃の間、または約70℃の温度で硬化され得る。例えば、ヒドロゲルは、20℃~36℃、例えば21℃、22℃、23℃、24℃、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃または35℃の温度で硬化される。他の例では、硬化は約50℃で行われる。この熱処理は、フリーラジカル重合の前に行われる。
【0108】
いくつかの例では、硬化は、多孔性を誘導するために、凍結温度、例えば約約0℃~約-30℃で行われる。アルギナートおよびアクリルアミドの混合物は、選択された温度で少なくとも10分、20分、30分、45分、60分、90分または120分間硬化される。
【0109】
第1のポリマー、例えばポリアクリルアミドポリマーと第2のポリマー、例えばアルギナートポリマーのポリマー比は、約66.67重量%~94.12重量%、約88.89重量%または約85.71重量%である。
【0110】
いくつかの事例では、CaSO4とアルギナートの比は約3.32重量%~53.15重量%、例えば約13.28重量%である。
【0111】
生分解性IPNヒドロゲルは、約0.0015重量%~0.2重量%、約0.006重量%~0.06重量%、約0.0015重量%~0.06重量%、約0.012重量%~0.2重量%または約0.003重量%の重量比で、生分解性共有結合性架橋剤/第一のポリマー、例えば、アクリルアミドを含む。
【0112】
生分解性IPNヒドロゲルは、加水分解的または酵素的分解を受けることができる。生分解性IPNヒドロゲルは、加速加水分解溶液中で少なくとも12時間、24時間、48時間、3日間、4日間、5日間、6日間または7日間インキュベートした後に加水分解的分解を受ける。いくつかの事例において、ゲルは、この溶液中でのインキュベーションの24時間以内に30Gの針を通過することができる。
B.生分解性の強靭な接着性材料
【0113】
本発明は、組成物であって、(a)第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含む生分解性IPNヒドロゲルであって、前記第1の高分子網目は、生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目は、イオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含む、生分解性IPNヒドロゲルと;(b)接着性橋架けポリマーと;(c)カップリング剤と;を含む生分解性の強靭な接着性材料を含む、組成物も提供する。
【0114】
生分解性の強靭な接着性材料は、生分解性IPNヒドロゲルに接着性表面を提供する。接着性表面は、相互侵入性の正に帯電したポリマーを含み、ヒドロゲルは、変形下においてエネルギーを効果的に散逸させることができるバルクマトリックス(散逸マトリックスとも呼ばれる)を提供する。接着性表面は、静電的相互作用、共有結合、および基材(例えば、組織、細胞、またはデバイス)の付着性(adherent)表面との物理的な相互侵入を形成することができるが、バルクマトリックスは、変形下におけるヒステリシスを通じてエネルギーを散逸させる。例えば、アミンおよびカルボン酸のような官能基を有する基材の場合、接着は、静電的相互作用および生分解性の強靭な接着剤(TA)と基材との間の共有結合を介して形成されることができる。親水性であり、かつ高分子に対して透過性である基材の場合、高密度第一級アミンポリマー(本明細書では「橋架けポリマー(bridging plymer)」とも呼ばれる)は、基材中に相互侵入して物理的な絡み合いを形成することができ、強靭なゲル接着性マトリックスと共有結合を形成することもできる。界面が応力を受けると、マトリックスはイオン性架橋を破壊することによってエネルギーを散逸させる。高い接着エネルギーとバルク靭性を同時に達成するために、この組み合わせが指定される。強靭な接着性組成物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際特許出願公開第2017/165490 A1号に詳細に記載されている。
【0115】
いくつかの実施形態において、ヒドロゲルはパッチの形態で製造される。パッチは、予め形成されており、そのまま表面に適用することができ、またはパッチは、適用前に所望のサイズおよび形状に切断することができる。
【0116】
あるいは、いくつかの実施形態において、本発明の生分解性接着性材料は、注射によって送達され得る。水溶性アルギン酸ナトリウムはカルシウムを容易に結合し、不溶性アルギン酸カルシウム親水コロイドを形成する(Sutherland,1991,Biomaterials,Palgrave Macmillan UK:307-331)。これらの穏やかなゲル化条件は、アルギナートを注射可能な細胞送達ビヒクルとして一般的な材料にした(Atalaら、1994、J.Urol.152(2 Pt 2):641-3)。したがって、いくつかの実施形態において、生分解性接着性材料は、対象中への注射に適している。注射可能な接着剤は、注射すると反応して第1の高分子網目を形成する少なくとも2つの反応性部分を含むポリマーを含み得る。2つの反応性部分は、各ポリマー上に存在してもよく、またはポリマーは、それぞれが異なる反応性部分を有する、ポリマーの2つの集団から構成される。例示的な反応性部分としては、メタクリラート、アクリラート、アクリルアミド、メタクリルアミド、チオール、ヒドラジン、テトラジン、ノルボルネン、トランスシクロオクテンおよびシクロオクチンが挙げられる。特定の実施形態において、2つの反応性部分は、UV光の存在下で反応する。特定の実施形態において、2つの反応性部分はCa2+(例えば、CaSO4)の存在下で反応する。
【0117】
生分解性接着性材料は、高密度第一級アミンポリマー(本明細書では「橋架けポリマー」とも呼ばれる)を含む。高密度第一級アミンポリマーは、ヒドロゲルおよび表面の両方と共有結合を形成し、両者を橋架けする。高密度第一級アミンポリマーは、生理的条件下で、正に帯電した第一級アミン基を有する。いくつかの実施形態において、高密度第一級アミンポリマーは、静電的相互作用を介して表面(例えば、組織、細胞またはデバイス)に吸収され、ヒドロゲル中および表面上の両方のカルボン酸基と共有結合するための第一級アミン基を提供することができる。表面が透過性である場合、高密度第一級アミンポリマーは表面の中に浸透して、物理的な絡み合いを形成し、次いでヒドロゲルを化学的に固着することもできる。
【0118】
本明細書で使用される場合、高密度第一級アミンポリマーは、モノマー単位当たり少なくとも1つの第一級アミンを含む。いくつかの実施形態において、高密度第一級アミンポリマーは、キトサン、ゼラチン、コラーゲン、ポリアリルアミン、ポリリジンおよびポリエチレンイミンからなる群から選択される。特に、キトサンは、以下の構造式によって表される。
【化1】
【0119】
生分解性接着性材料は、カップリング剤も含む。本明細書で使用される場合、カップリング剤は、高密度第一級アミンポリマー中に存在する第一級アミンの1つまたはそれより多くを活性化する。カップリング剤で活性化されると、第一級アミンはヒドロゲルおよび標的表面(例えば、組織、器官または医療器具)とアミド結合を形成する。いくつかの実施形態において、カップリング剤は、第1のカルボキシル活性化剤を含み、第1のカルボキシル活性化剤は、カルボジイミドである。例示的なカルボジイミドは、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC、EDACまたはEDCI)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびジイソプロピルカルボジイミド(DIC)からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、第1のカルボキシル活性化剤はEDCである。
【0120】
いくつかの実施形態において、カップリング剤は、第2のカルボキシル活性化剤をさらに含む。例示的な第2のカルボキシル活性化剤には、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS)、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、ジメチルアミノピリジン(DMAP)、ヒドロキシ-3,4-ジヒドロ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジン(HOOBt/HODhbt)、1-ヒドロキシ-7-アザ-1H-ベンゾトリアゾール(HOAt)、エチル2-シアノ-2-(ヒドロキシイミノ)アセタート、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリス(ジメチルアミノ)-ホスホニウムヘキサフルオロホスファート(BOP)、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリピロリジノ-ホスホニウムヘキサフルオロホスファート、7-アザ-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート)、エチルシアノ(ヒドロキシイミノ)アセタト-O2)-トリ-(1-ピロリジニル)-ホスホニウムヘキサフルオロホスファート、3-(ジエトキシ-ホスホリルオキシ)-1,2,3-ベンゾ[d]トリアジン-4(3H)-オン、2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルアミニウムテトラフルオロボラート/ヘキサフルオロホスファート、2-(6-クロロ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルアミニウムヘキサフルオロホスファート)、N-[(5-クロロ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-ジメチルアミノ-モルホリノ]-ウロニウムヘキサフルオロホスファートN-オキシド、2-(7-アザ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルアミニウムヘキサフルオロホスファート、1-[1-(シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)-ジメチルアミノ-モルホリノ]-ウロニウムヘキサフルオロホスファート、2-(1-オキシ-ピリジン-2-イル)-1,1,3,3-テトラメチルイソチオウロニウムテトラフルオロボラート、テトラメチルフルオロホルムアミジニウムヘキサフルオロホスファート、N-エトキシカルボニル-2-エトキシ-1,2-ジヒドロキノリン、2-プロパンホスホン酸無水物、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウム塩、(ビス-トリクロロメチルカーボナート、1,1’-カルボニルジイミダゾールが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、第1のカルボキシル活性化剤はNHSである。
【0121】
いくつかの実施形態において、高密度第一級アミンポリマーとカップリング剤は別々に包装される。
【0122】
いくつかの実施形態において、高密度第一級アミンポリマーは溶液中にあり、カップリング剤は固体形態である。特に、カップリング剤は、高密度第一級アミンポリマー溶液に添加される。いくつかの実施形態において、高密度第一級アミンポリマーは溶液中にあり、カップリング剤は高密度第一級アミンポリマー溶液に添加され、溶液はヒドロゲルに適用される。
【0123】
いくつかの実施形態において、溶液中の高密度第一級アミンポリマーの濃度は、約0.1%~約50%、例えば、約0.2%~約40%、約0.5%~約30%、約1.0%~約20%、約1%~約10%、約0.2%~約10%、約10%~約20%、約20%~約30%または約40%~約50%である。いくつかの実施形態において、カップリング剤は、少なくとも第1のカルボキシル活性化剤および必要に応じて第2のカルボキシル活性化剤を含み、溶液中の第1のカルボキシル活性化剤の濃度は、約3mg/ml~約50mg/ml、例えば約5mg/ml~約40mg/ml、約7mg/ml~約30mg/ml、約9mg/ml~約20mg/ml、約3mg/ml~約45mg/ml、3mg/ml~約40mg/ml、3mg/ml~約35mg/ml、約3mg/ml~約30mg/ml、3mg/ml~約25mg/ml、約3mg/ml~約20mg/ml、3mg/ml~約15mg/ml、約3mg/ml~約10mg/ml、約5mg/ml~約50mg/ml、約10mg/ml~約50mg/ml、約15mg/ml~約50mg/ml、約20mg/ml~約50mg/ml、約25mg/ml~約50mg/ml、約30mg/ml~約50mg/ml、約35mg/ml~約50mg/ml、約40mg/ml~約50mg/mlまたは約3mg/ml~約45mg/mlである。
【0124】
いくつかの実施形態において、接着性材料は、第1の治療活性剤を含む。第1の治療活性剤は、ヒドロゲルの表面中に封入されてもよく、またはヒドロゲルの表面に付着されてもよい。あるいは、第1の治療活性剤は、高密度第一級アミンポリマーの表面中に封入されまたは表面に付着される。特定の実施形態において、接着性材料は、第2の治療活性剤をさらに含む。第2の治療活性剤は、ヒドロゲルの表面中に封入されまたは表面に付着される。あるいは、第2の治療活性剤は、高密度第一級アミンポリマーの表面中に封入されまたは表面に付着される。第1および第2の治療活性剤は、小分子、生物製剤、ナノ粒子および細胞からなる群から独立して選択される。生物製剤は、成長因子、抗体、ワクチン、サイトカイン、ケモカイン、ホルモン、タンパク質および核酸からなる群から選択される。本発明の組成物中に含まれる治療活性剤の量は、例えば、特定の薬剤;本発明の組成物が行うべき機能;薬剤の放出に必要な期間;投与されるべき量を含む様々な要因に依存する。一般に、治療活性剤の投与量、すなわち系中の治療活性剤の量は、約0.001%(w/w)~約10%(w/w);約1%(w/w)~約5%(w/w);または約0.1%(w/w)~約1%(w/w)の範囲から選択される。
【0125】
本発明は、デバイスを封入するための、またはデバイスの表面を被覆するための生分解性接着性材料も提供する。特に、ヒドロゲルおよび高密度第一級アミンポリマーおよびカップリング剤はヒドロゲルの外面に適用され、次いでヒドロゲルがデバイスの表面に適用される。カップリング剤および高密度第一級アミンポリマーは、デバイスの表面にヒドロゲルを接着させる。所望の結果に応じて、デバイスは、ヒドロゲルによって完全に封入されることができ、または部分的に封入されることができ、デバイスの一部の表面は露出したままとなる。具体的には、「部分的に封入された」デバイスは、デバイスの1つの表面(例えば、デバイスの背面、前面または側面)またはデバイスの1つの部分(例えば、下半分または上半分)のいずれかで、デバイスを被覆することを指す。特定の実施形態において、高密度第一級アミンポリマーおよびカップリング剤は、ヒドロゲルがデバイスおよび別の表面(例えば、組織または器官)の両方に接着することができるように、ヒドロゲルの複数の部位に適用されてもよい。例示的な医療器具には、除細動器、ペースメーカー、ステント、カテーテル、組織インプラント、ねじ、ピン、プレート、ロッド、人工関節、エラストマーベースの(例えば、PDMS、PTU)デバイス、ヒドロゲルベースのデバイス(例えば、薬物もしくは細胞送達またはセンサのための足場)、ならびに例えば、温度、pHおよび局所的な組織の歪みを測定するためのセンサが含まれるが、これらに限定されない。
【0126】
表面は、官能基(例えば、アミンまたはカルボン酸基)を有することができ、または化学的に不活性であり得る。本発明の生分解性接着性材料は、静電的相互作用、共有結合、および付着性表面との物理的相互侵入を形成することができる。アミンおよびカルボン酸のような官能基を有する基材の場合、接着は、強靭なゲル接着剤と基材間の静電的相互作用および共有結合を介して形成されることができる。親水性であり、かつ高分子に対して透過性である基材の場合、高密度第一級アミンポリマーは、基材中に相互侵入して物理的な絡み合いを形成することができ、強靭なゲル接着性マトリックスと共有結合を形成することもできる。
【0127】
ヒドロゲルと表面(例えば、組織またはデバイス)の間の界面の接着は、ヒドロゲルの機械的強度および信頼性に影響を与え、これは接着剤としてのヒドロゲルの性能に対応する。この相互作用の性質は、界面の破壊靱性として測定することができる。界面の破壊靱性を測定する方法は、当業者に公知である。
【0128】
いくつかの実施形態において、生分解性接着性材料は透明であり、下の表面またはその中に封入されたデバイスを容易にモニタリングすることを可能にする。
【0129】
いくつかの実施形態において、生分解性接着性材料は、湿潤性である表面、動的である表面、または湿潤性と動的の組み合わせである表面への適用に適している。生分解性の強靭な接着性材料は、中腔器官吻合のための縫合に代わる防水シーラントから止血性創傷治癒にわたる非侵襲性手技を必要とする多くの医学的処置のためのツールとして役立ち得る。
III.本発明の方法
【0130】
本発明は、第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含む生分解性IPNヒドロゲルを作製する方法であって、前記第1の高分子網目は、生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目は、イオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含む、方法を提供する。この方法は、第1のポリマー、例えば、アルギナートと、第2のポリマー、例えば、アクリルアミドポリマーとを混合すること、ならびに混合物を生分解性共有結合性架橋剤およびイオン性架橋剤と接触させ、それによりIPNヒドロゲルを作製することを含む。
【0131】
本発明は、生分解性IPNヒドロゲルを表面に接着させる方法も提供する。この方法は、a)高密度第一級アミンポリマーとカップリング剤とを含む溶液を生分解性IPNヒドロゲルに適用する工程と、b)生分解性IPNヒドロゲルを表面上に配置する工程とを含み、前記ヒドロゲルは、第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含み、前記第1の高分子網目は、生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目は、イオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含む。
【0132】
特定の実施形態において、表面は組織である。材料は、心臓組織、皮膚組織、血管組織、腸組織、肝臓組織、腎臓組織、膵臓組織、肺組織、気管組織、眼組織、軟骨組織、腱組織を含むがこれらに限定されない任意の組織に適用することができる。
【0133】
固体形態のカップリング剤は、高密度第一級アミンポリマーの水溶液に添加され、指定された期間、例えば10秒、30秒、60秒、2分、5分または10分間混合され得る。次いで、この溶液はヒドロゲルに適用される。次いで、ヒドロゲルの処理された面を表面、例えば組織上に配置し、ヒドロゲル、高密度アミンポリマーおよび表面の間での共有結合の形成によりヒドロゲルを接着させる。
【0134】
あるいは、表面は医療器具である。材料は、除細動器、ペースメーカー、ステント、カテーテル、組織インプラント、ねじ、ピン、プレート、ロッド、人工関節、エラストマーベースの(例えば、PDMS、PTU)デバイス、ヒドロゲルベースのデバイス(例えば、薬物もしくは細胞送達またはセンサのための足場)、ならびに例えば、温度、pHおよび局所的な組織の歪みを測定するためのセンサからなる群を含むがこれらに限定されない任意のデバイスに適用することができる。
【0135】
本明細書で使用される場合、「接触する」(例えば、表面と接触する)という用語は、ヒドロゲルと表面(例えば、組織またはデバイス)の相互作用の任意の形態を含むことが意図される。表面を組成物と接触させることは、インビボまたはエクスビボのいずれかで行われ得る。特定の実施形態において、表面はエクスビボで生分解性接着性材料と接触され、その後対象中に移される。あるいは、表面はインビボで生分解性接着性材料と接触される。インビボで表面を生分解性接着性材料と接触させることは、例えば、生分解性接着性材料を表面へと注入することによって、または生分解性接着性材料を表面へともしくは表面周囲に注入することによって行われ得る。
【0136】
本発明は、医療器具を封入する方法、またはデバイスの表面を被覆する方法も含む。特に、生分解性IPNヒドロゲルおよび高密度第一級アミンポリマーおよびカップリング剤はヒドロゲルの外面に適用され、次いでヒドロゲルはデバイスの表面に適用される。カップリング剤および高密度第一級アミンポリマーは、デバイスの表面にヒドロゲルを接着させる。所望の結果に応じて、デバイスは、ヒドロゲルによって完全に封入されることができ、または部分的に封入されることができ、デバイスの一部の表面は露出したままとなる。具体的には、「部分的に封入された」デバイスは、デバイスの1つの表面(例えば、デバイスの背面、前面または側面)またはデバイスの1つの部分(例えば、下半分または上半分)のいずれかで、デバイスを被覆することを指す。特定の実施形態において、高密度第一級アミンポリマーおよびカップリング剤は、ヒドロゲルがデバイスおよび別の表面(例えば、組織)の両方に接着することができるように、ヒドロゲルの複数の部位に適用されてもよい。
【0137】
本発明は、創傷または傷害を閉鎖し、創傷治癒を促進する方法も含む。特に、生分解性IPNヒドロゲルおよび高密度第一級アミンポリマーおよびカップリング剤はヒドロゲルの外面に適用され、次いでヒドロゲルは創傷または傷害の部位に適用される。特定の実施形態において、生分解性IPNヒドロゲルは、心臓の欠陥を修復するために心臓に適用される。
【0138】
本発明は、治療活性剤を対象に送達する方法も含む。この方法は、(a)高密度第一級アミンポリマーとカップリング剤とを含む溶液を生分解性IPNヒドロゲルに適用すること;および(b)前記生分解性IPNヒドロゲルを表面上に配置すること;を含み、前記生分解性IPNヒドロゲルは、第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含み、前記第1の高分子網目は、生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目は、イオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含み、少なくとも1つの治療活性剤は、前記ヒドロゲルおよび/または高密度第一級アミンポリマー中に封入され、またはその表面に付着されており、それによって治療活性剤を前記対象に送達する。
【0139】
本発明の方法は、表面、例えば組織またはデバイスを本発明の生分解性接着性材料と接触させることを含む。表面は、当技術分野における任意の公知の経路によって組成物と接触させることができる。本明細書で使用される場合、「送達」という用語は、所望の効果が生じるように所望の部位での組成物の少なくとも部分的な局在化をもたらす方法または経路による対象中への本発明の組成物の配置を指す。
【0140】
例示的な送達様式としては、限定されないが、標的表面、例えば組織または器官に本発明の組成物を封入する足場内への注射、挿入、埋め込みまたは送達が挙げられる。本発明の組成物が溶液中に溶解される場合、本発明の組成物は注射器によって表面へと注入することができる。
【0141】
本発明の方法は、対象における医療目的、例えば創傷閉鎖、バイオサージェリー用途、治療剤の送達または医療器具の取り付けに適しており、対象は哺乳動物である。いくつかの実施形態において、哺乳動物は霊長類、例えばヒトまたは動物である。通常、動物は、脊椎動物、例えば霊長類、齧歯類、飼育動物または狩猟動物である。霊長類には、チンパンジー、カニクイザル、クモザルおよびマカク、例えばアカゲザルが含まれる。齧歯類には、マウス、ラット、ウッドチャック、フェレット、ウサギおよびハムスターが含まれる。飼育動物および狩猟動物には、ウシ、ウマ、ブタ、シカ、バイソン、バッファロー、ネコ種、例えばイエネコ、イヌ種、例えばイヌ、キツネ、オオカミ、トリ種、例えばニワトリ、エミュー、ダチョウ、ならびに魚、例えばマス、ナマズおよびサケが含まれる。いくつかの実施形態において、対象は、ヒト、イヌ、ブタ、ウシ、ウサギ、ウマ、ネコ、マウスおよびラットからなる群から選択される。好ましい実施形態において、対象はヒトである。
【0142】
本明細書で使用される場合、「バイオサージェリー」という用語は、手術において出血を止め、創傷を封止するための天然または人工の材料(生体材料)の使用を指す。生体材料とは、外科的切開を封止するための生物学的に適合性の接着剤(glue)、関節運動を助けるための潤滑剤、および生体組織がその上で成長または形成される支持体である。
【0143】
例示的な送達様式としては、標的組織に本発明の組成物を封入する足場内への注射、挿入、埋め込み、または送達が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、組成物は、注射によって、対象の歯の天然または人工の腔または室に送達される。本発明の組成物が溶液中に溶解される場合、本発明の組成物は注射器によって組織へと注入することができる。
【0144】
本発明は、組織表面を損傷することなく組織表面から強靭なゲル接着剤(任意の強靭なゲル接着剤、本開示に記載の強靭なゲル接着剤に限定されない)を除去する方法も含む。特に、本発明は、強靭なゲル接着剤を要求に応じて(on-demand)取り外すための生体適合性で便利な方法を開示する。この方法は、a)強靭なゲルを除去溶液で処理する工程と;b)強靭なゲルを前記除去溶液に約1~100分間曝露する工程と;c)前記強靭なゲル接着剤を前記組織表面から除去する工程と;を含む。
【0145】
いくつかの実施形態において、除去溶液は、強靭なゲルの相互侵入網目(IPN)または接着剤層の共有結合性相互作用を効果的に弱める。一実施形態において、除去溶液は、エタノール、クエン酸、過酸化水素、アルギン酸リアーゼおよびリゾチーム、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される物質を含む。一実施形態において、除去溶液は、約40~90%v/vのエタノール、約1~50mMのEDTA、約20~70mMのクエン酸、約20~50%w/wの過酸化水素、約1.0mg/ml~約10mg/mlのアルギン酸リアーゼ、および/または約10mg/ml~100mg/mlのリゾチームを含む。一実施形態において、除去溶液は、約40%、50%、60%、70%、80%または90%v/vのエタノールを含む。一実施形態において、除去溶液は、約1mM、3mM、5mM、10mM、15mM、20mM、25mM、30mM、35mM、40mMまたは50mMのEDTAを含む。一実施形態において、除去溶液は、約20mM、30mM、40mM、50mM、60mMまたは70mMのクエン酸を含む。一実施形態において、除去溶液は、約20%、25%、30%、35%、40%、45%または50%w/wの過酸化水素を含む。一実施形態において、除去溶液は、約1.0mg/ml、1.5mg/ml、2.0mg/ml、2.5mg/ml、3.0mg/ml、3.5mg/ml、4.0mg/ml、4.5mg/ml、5.0mg/ml、6.0mg/ml、7.0mg/ml、8.0mg/ml、9.0mg/mlまたは10.0mg/mlのアルギン酸リアーゼを含む。一実施形態において、除去溶液は、約10mg/ml、20mg/ml、25mg/mlm 30mg/ml、40mg/mlm、50mg/ml、60mg/ml、70mg/ml、75mg/ml、80mg/ml、90mg/mlまたは100mg/mlのリゾチームを含む。
【0146】
一実施形態において、除去溶液による処理時間は、約1分~約100分、例えば約1分、2分、3分、5分、10分、15分、20分、30分、40分、50分、60分、70分、75分、80分、90分または100分の範囲である。特定の実施形態において、除去溶液による処理時間は、約1分または約10分である。
IV.キット
【0147】
本発明は、キットも提供する。このようなキットは、本明細書に記載の生分解性接着性材料、および特定の実施形態においては、投与のための指示を含むことができる。このようなキットは、本明細書に記載の方法の実施を容易にすることができる。キットとして供給される場合、生分解性接着性材料の異なる成分は、別々の容器中に包装され、使用直前に混合することができる。成分としては、予め形成された生分解性IPNヒドロゲル、高密度第一級アミン成分を含有する溶液および固体形態のカップリング剤が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、本発明は、予め形成された生分解性IPNアルギナートベースのヒドロゲルと;EDC/NHSの乾燥粉末混合物と;高密度第一級アミンポリマーの水溶液と;を含む3成分系を対象とする。成分のこのような個別の包装は、所望であれば、組成物を含有する1またはそれを超える単位剤形を含有し得るパックまたはディスペンサーデバイスで提示され得る。パックは、例えば、ブリスターパックなどの金属またはプラスチック箔を含み得る。成分のこのような個別の包装は、特定の事例では、成分の活性を失うことなく長期保存も可能にし得る。
【0148】
特定の実施形態において、キットには、本発明の方法の実施を記載する説明資料を付けることができる。詳細な指示は、キットと物理的に付随していなくてもよく、代わりに、ユーザは、キットの製造業者または販売業者によって指定されたインターネットのウェブサイトに誘導され得る。
【0149】
以下の実施例によって本発明をさらに説明するが、以下の実施例は決して限定することを意図するものではない。本出願および図面を通じて引用されたすべての参考文献、特許および公開された特許出願の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0150】
[実施例1]材料および方法
異なる生分解性共有結合性架橋剤を用いて合成された強靭なゲルは、従来の非分解性MBAA強靭なゲルよりも高い最大破壊靱性値を達成した。加速加水分解研究は、24時間より前での加水分解溶液中におけるPEGDA 250およびPEGDA 10k強靭なゲルの分解を示唆している。これらの結果は、大きなプロトコル変更を必要とすることなく、または有益なMBAA強靭ゲル特性のいずれをも犠牲にすることなく、PEGDAが、強靭ゲルの合成における共有結合性架橋剤としてMBAAの代替物になり得ることを実証している。分解可能かつ強靭なヒドロゲルの設計を可能にする。本研究において得られた結果は、強靭な接着性材料の設計において基本的な進歩をもたらし、生物医学分野における強靭な接着性材料の有用性をさらに広げることを可能にする。
生分解性共有結合性架橋剤
【0151】
PEGベースの共有結合性架橋剤、例えばPEGDA 250およびPEGDA 10kは、商業的供給源から入手した。
ゼラチンメタクリラート(GelMA)架橋剤の合成
【0152】
10%(w/v)のA型ブタ皮膚ゼラチン(市販)を、撹拌したダルベッコのリン酸緩衝食塩水(DPBS)中に50℃で1時間溶解させることによって、ゼラチンメタクリラート(GelMA)を合成した。1:4のメタクリル酸無水物:ゼラチン溶液の最終体積比まで、メタクリル酸無水物(市販)を滴加添加した。これにより、80%の置換度を有するGelMAが得られた。溶液を50℃で1時間撹拌した後、DPBSで5倍希釈した。12~14kDaの分子量カットオフチューブ内で、4日間、頻繁に水を交換して、得られた混合物を蒸留水に対して透析した。透析した溶液を凍結乾燥し、使用するまで、得られたGelMAを-20℃で保存した。
アルギナートメタクリラート(AlgMA)架橋剤の合成
【0153】
GelMA合成と同様の手順を使用して、AlgMAを合成した。アルギナートポリマーを2-アミノエチルメタクリラート(AEMA)と反応させてAlgMAを得た。
酸化アルギナートメタクリラート(OxAlgMa)架橋剤の合成
【0154】
200mgの2.5%酸化アルギナート(MVG、Nova matrix、ノルウェー)を2-アミノエチルメタクリルアミドヒドロクロリド-AEME(Sigma-900652)と反応させることによって、メタクリル化酸化アルギナートを調製した。2.5%酸化アルギン酸ナトリウムを100mM MESの10ml緩衝液[0.75%(wt/vol)、pH~6.5]中に溶解した。カップリング試薬を添加して、アルギナートのカルボン酸基を活性化した(130mgのN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)および280mgの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC))。5分後に、AEMA(224mg;NHS:EDC:AEMAのモル比=1:1.3:1.1)を生成物に添加し、溶液を室温で24時間攪拌した。混合物をアセトン中に沈殿させ、濾過し、真空中で、一晩、室温で乾燥させた。
異なる生分解性共有結合性架橋剤を含む強靭なゲルの合成
【0155】
強靭な接着剤は、強靭なゲル散逸マトリックスおよび橋架けポリマーをカップリング試薬と組み合わせる。アルギナート(LF20/40および5Mrad)およびアクリルアミドをハンクス平衡塩溶液(HBSS)中に溶解し、完全に均一になるまで室温で一晩撹拌した。次いで、この溶液を生分解性共有結合性架橋剤であるN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMEDまたはTMEDA)、硫酸カルシウム(CaSO4・H2O)および過硫酸アンモニウム(APS)と混合し、ガラスカバーで密封したガラス鋳型(80×15×1.5mm3)中に注いだ。最後に、完全な反応を確保するために、混合物を室温で一晩鋳型中に放置した。特定の一実施形態において、HBSS中の2%アルギン酸ナトリウムおよび12%アクリルアミドの溶液を特定の共有結合性架橋剤、TEMED、過硫酸アンモニウムおよび硫酸カルシウム無水物と組み合わせることによって、強靭なゲルを合成した。
強靭な接着性調製物
【0156】
キトサンを4%w/wでddH2O中に溶解し、カップリング試薬(12mg/ml)としての1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)および硫酸化N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)と合わせた。接着剤(約300μl)を強靭なゲル(15×1.5×40mm2)の表面に適用した後、組織表面と接触させ、45~60分間圧縮した。
機械的試験
【0157】
機械的試験装置(Instron、Norwood、MA)を引張試験のために使用した。引張試験のために、強靭なゲルの矩形片(25×15×1.5mm3)を2枚のサンドペーパーの各面の間に接着した。破壊エネルギー試験のために、強靭なゲルの矩形片(15×40×1.5mm3)を2枚の矩形アクリル片の各面上に接着し、長さ20mmの水平方向のエッジクラックを作る意図で、サンプルゲージ部の中央においてカミソリ刃を使用して切断した。引張試験の伸び速度は100mm/分であり、破壊エネルギー試験の引張速度は20mm/分であった。力および伸長は、試験全体を通して50 HzでInstron機(最大10Nのロードセルを有するモデル3342)によって記録した。応力-伸び曲線から、マトリックス最大伸び、最大応力および靭性を算出した。
接着エネルギー測定
【0158】
単軸引張(100mm/分)下で機械的試験装置(Instron、Norwood、MA)を使用して、剥離試験によって接着エネルギーを測定した。強靭な接着剤の一方の面を薄いプラスチックフィルムにくっつけ、他方の面を組織に接着した。接着エネルギーは、力の最大値と幅比率に2を乗じて計算した。
強靭なゲルのインビトロ加水分解または酵素分解
【0159】
共有結合性架橋剤を有する強靭なゲルの生分解性の程度をアッセイするための予備実験を行った。実験は、加速加水分解溶液中でMBAAおよびPEGDA強靭ゲルを6日間インキュベートすることによって行った。PEGDA 250およびPEGDA 10k強靭ゲルは、溶液中で24時間以内に30Gの針を通過することができ、これは強靭なゲルの分解を示唆する。しかしながら、従来のMBAA強靭ゲルは、加水分解溶液中で6日間安定なままであった。
【0160】
加水分解緩衝液または酵素分解緩衝液中にヒドロゲルを配置することによって、強靭なゲルの分解を経時的に評価した。加速加水分解のために、5mM水酸化ナトリウム(NaOH)中で、毎日溶液を交換しながら、PEGDAおよびMBAA強靭ゲルの円板(直径8mm)を24、48、72、96、120および144時間インキュベートした。膨潤率は毎日モニターし、当初乾燥質量と比較して各時点で計算した。パーセント分解は、消化後の乾燥重量を未処理の強靭なゲルの重量で割ることによって計算した(n=3/群)。PEGDA強靭ゲル加水分解試験についても、0.1mM NaOH溶液を使用して、同じ手順に従った。
【0161】
または、1.5mM塩化カルシウムを含む10mM水酸化ナトリウム(NaOH)溶液中で、37℃で6日間、毎日溶液を交換して、3つの円形ゲル(直径6mm、厚さ1.5mm)をインキュベートした。サンプルを毎日集め、脱イオン水ですすぎ、凍結乾燥して総重量変化をモニターした。
【0162】
加速酵素分解のために、25U/mlのコラゲナーゼIIを含み、1.5mM塩化カルシウムを添加したHBSS緩衝液中で、37℃で、毎日溶液を交換して、GelMA架橋ゲルをインキュベートした。サンプルを毎日集め、DI水ですすぎ、凍結乾燥して総重量変化をモニターした。
破壊エネルギー
【0163】
最大破壊靱性のための強靭なゲル中の共有結合性架橋剤の最適濃度を決定するために、一連の実験において、短鎖および長鎖アルギナートの比を1:1に固定し、共有結合性架橋剤の重量パーセント濃度を変化させた。評価される濃度は、従来のMBAA強靭ゲルにおいて使用される最適な共有結合性架橋剤濃度(J.Y.Sunら、’’Highly stretchable and tough hydrogels,’’Nature,vol.489,no.7414,pp.133-136,2012)から出発して選択した。その後、純粋剪断試験手順(X.Zhao,’’Multi-scale multi-mechanism design of tough hydrogels:Building dissipation into stretchy networks,’’Soft Matter,vol.10,no.5,pp.672-687,2014)に従って、切れ目ありおよび切れ目なしのサンプルに対して引張試験を行うことによって、異なる共有結合性架橋剤を有する強靭なゲルについての破壊エネルギーを測定した。
高周波超音波画像化(HFUS)
【0164】
高周波超音波(HFUS)(VisualSonics Vevo 770およびVevo 3100;35~50MHz)を使用して、インビボでのゲルの膨潤および分解を評価した。皮膚およびヒドロゲルを捕捉した軸位像(解像度30~40μm)を取得した。ヒドロゲルおよび周囲のカプセルの厚さについて画像を定量した。MBAA、PEGDA 250およびポロキサマージアクリラート(Polox DA)で架橋した強靭なゲルについては、埋め込みの1、2、4および8週間後に画像化を完了した。MBAA、GelMA、HAMAおよびOxAlgMAで架橋した強靭なゲルについては、4、8および16週間後に画像化を完了した。ImageJ(NIH)を使用してヒドロゲルの厚さについて画像を分析した。
リゾチームによるキトサン分解のGPC分析
【0165】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析は、GPCmax溶媒およびサンプル送達モジュール、TDA 305三重検出器、UV検出器2600、溶媒節約装置およびOmniSecソフトウェアを備えたViscotek TDAmaxを用いて行い、GPCカラムは、リン酸でpH3.0に緩衝化した流速0.75ml/分の移動相-0.1M硝酸ナトリウム(NaNO3)、0.01Mリン酸一ナトリウムNaH2PO4および0.075%アジ化ナトリウム(NaN3)を用いる単一のG4000PWxl(Tosoh Bioscience)であった。0.1μmのPESフィルターを通して3回濾過し、サンプル注入量は100μLであった。
皮下傷害モデル
【0166】
6~8週齢のBalb/Cマウスに、強靭なヒドロゲルを皮下に埋め込んだ(IACUC承認)。簡潔に述べると、動物をイソフルラン(2~2.5%)で麻酔し、疼痛管理のためにブプレノルフィン(0.5mg/kg)を与えた。マウス背部の毛をバリカンおよび脱毛クリームで除去した後、ベタジンおよびエタノールの3回の別々の洗浄を加えた。次いで、動物を滅菌野に移し、別々の滅菌有窓布の下に置いた。背中の正中線に垂直に動物の背中の皮膚を通して小さな6mmの切開を行い、ハサミを使用してポケット(pocked)を設けた。次いで、4つの別個のゲル(D=3mm,th=1.5mm)を皮下に埋め込み、4-0 Vicryl縫合糸で皮膚を閉じた。動物は毎日モニタリングし、その後のアッセイのために評価した。
[実施例2]生分解性共有結合性架橋剤または非生分解性共有結合性架橋剤を有する強靭なゲル接着剤の機械的特性の比較
破壊エネルギー
【0167】
結果は、PEGDA 250の場合、強靭なゲルは、0.003% w/wで、破断最大の臨界伸びに達し、破壊エネルギー値が約20kJ/m
2であったことを示す(
図1)。PEGDA 10kを共有結合性架橋剤として有する強靭なゲルは、0.01および0.016% w/wの共有結合性架橋剤濃度で約10kJ/m
2の最大破壊靱性値を示し、PEGDA 250強靭ゲルの20kJ/m
2破壊エネルギー値(
図3)と比較して、両重量パーセント濃度に対して得られた値の間に統計的な差は認められなかった(
図2)。
図4および
図5に示されているように、GelMAおよびAlgMA-5Mard強靭ゲルは、それぞれ約2.5kJ/m
2および約4.5kJ/m
2の低い破壊靱性値を示した。
図6は、強靭なゲル中の各共有結合性架橋剤の最高の性能を発揮する重量パーセント濃度に対する破壊靱性値を示す。PEGDA 250強靭ゲルでは、約20kJ/m
2の最大破壊エネルギー値が達成された。この値は、従来の非分解性の強靭なゲルの値より1.7倍高い。これらの結果は、強靭なゲル合成のために使用される共有結合性架橋剤およびその濃度が、アルギナート-ポリアクリルアミド強靭ゲルの特性に強く影響することを実証している。さらに、強靭なゲルの合成における共有結合性架橋剤としてMBAAの代わりに、PEGDA 250およびPEGDA 10kを使用できることを示している。
最大応力、伸びおよび靭性
【0168】
図7A~14Cを参照すると、加水分解性架橋剤(すなわち、PEGDA 250、Polox DA、Bis、OxAlgMA)、酵素的に切断可能な架橋剤(GelMA、HAMA)または還元的に切断可能な架橋剤(Cys)を取り込んだ全てのヒドロゲルは、引張試験で試験された場合、非生分解性架橋剤を用いて作製された従来のヒドロゲル系よりも優れた最大伸び、応力および靭性を示した。これらの図において、10mlの緩衝液中の16mgの架橋剤は、1倍濃度、すなわち0.01重量%に相当する)。
【0169】
Bisについて異なる共有結合性架橋剤濃度を比較すると、最大応力、伸びおよび靭性について2倍が総合的に最高の成績を示した(
図7A~7C)。
【0170】
Cysについて異なる共有結合性架橋剤濃度を比較すると、最大応力、伸びおよび靭性について0.1倍濃度が総合的に最高の成績を示した(
図8A~8C)。
【0171】
GelMAについて異なる共有結合性架橋剤濃度を比較すると、最大応力、伸びおよび靭性について0.5倍濃度が総合的に最高の成績を示した(
図9A~9C)。
【0172】
HAMAについて異なる共有結合性架橋剤濃度を比較すると、最大応力、伸びおよび靭性について1倍濃度が総合的に最高の成績を示した(
図10A~10C)。
【0173】
OxAlgMAについて異なる共有結合性架橋剤濃度を比較すると、最大応力、伸びおよび靭性について1倍濃度が総合的に最高の成績を示した(
図11A~11C)。
【0174】
PEGDA 250について異なる共有結合性架橋剤濃度を比較すると、最大応力、伸びおよび靭性について1倍濃度が総合的に最高の成績を示した(
図12A~12C)。
【0175】
Polox DAについて異なる共有結合性架橋剤濃度を比較すると、最大応力、伸びおよび靭性について2倍濃度が総合的に最高の成績を示した(
図13A~13C)。
【0176】
架橋剤間で比較すると、PEGDA 250およびCysが最も優れた最大応力(>75kPa)を達成し、PEGDA 250、GelMAおよびBisが最も優れた最大伸びを有し(約25mm/mm)、PEGDA 250が最も高い靭性(7kJ/m
2)を有していた(
図14A~14C)。
[実施例3]生分解性共有結合性架橋剤または非生分解性共有結合性架橋剤を有する強靭なゲル接着剤のインビトロおよびインビボでの分解速度の比較
【0177】
図15を参照すると、時間が経過するにつれて、MBAAで架橋した非分解性ゲルは、6日目まで質量減少の変化を示さないことが観察された。対照的に、PEGDA 10kおよびGelMAゲルは、6日目まで質量減少の急激な低下を示した。GelMA架橋ゲルの質量減少の速度は、添加されたコラゲナーゼII酵素の量に依存したことが注目される(データは示さず)。
【0178】
皮下埋め込み後、非分解性MBAA架橋剤を使用することによって作製された対照ゲルは、仮説どおり、分解しなかった。加水分解性架橋剤PEGDA 250およびPolox DAは4週間以内に急速に分解した。HAMA、GelMAおよびOxAlgMA架橋ゲルは、皮下埋め込み後の分解がより遅く、すべてのゲルが8週間を通じて存在した。GelMAおよびOxAlgMA架橋ゲルは、16週間を通じて存在した(
図16A)。安楽死のときの肉眼的観察と一致して、ヒドロゲルの乾燥重量およびゲルの厚さは、PEGDAおよびPolox DAヒドロゲルについて4週までに減少した。対照的に、GelMAおよびOxAlgMAの乾燥重量およびゲルの厚さは、研究の期間を通じて維持された(
図16Bおよび16C)。
【0179】
強靭なゲルの皮下埋め込みを、1、2、4、8または16週間後に組織学についてさらに評価した。これらの分解性架橋剤には、PEGDA 250(
図18)、ポロキサマージアクリラート(Polox DA)(
図19)、HAMA(
図20)、GelMA(
図21)およびOxAlgMA(
図22)が含まれた。非分解性架橋剤MBAAを対照として使用した(
図17)。いくつかの例では、酸化アルギナートを取り替えることによって、イオン性に架橋したアルギナート網目を分解可能にした。経時的な乾燥重量測定と一致して、PEGDA 250およびPolox DA架橋ゲルは、埋め込み後4週後には検出できなかった。同様に、HAMA架橋ゲルは埋め込み後16週後には検出できなかった。全体として、サンプルの生体適合性は陽性であり、MBAAヒドロゲルと同様であった。
[実施例4]強靭なゲル接着剤の除去
【0180】
強靭なゲル接着剤は、湿潤性のおよび動く組織表面への前例のない接着エネルギーならびに優れた生体適合性を実証した。強靭なゲル接着剤は、散逸マトリックス(強靭なゲル)ならびに静電的に相互作用し、強靭なゲルおよび組織表面と共有結合を形成する正に帯電した接着剤層という2層構造を通じて、高い接着エネルギーを達成することができる。強い接着が生成されるが、多くの適応例では、要求に応じて強靭なゲル接着剤を除去する必要がある。目的は、要求に応じた、使いやすく、生体適合性の剥離戦略を強靭なゲル接着剤に対して開発することであった。これは、散逸マトリックスを弱める溶液で強靭なゲルを処理することによって達成された。
強靭なゲルの合成
【0181】
カルシウムおよびマグネシウムを含まないHBSS中にアルギナートおよびアクリルアミドを一晩溶解した。次いで、この溶液をTEMED、硫酸カルシウムおよび過硫酸アンモニウムと混合し、ガラスカバーで密封したガラス鋳型中に注いだ。
異なる溶液中での強靭なゲルの処理
【0182】
分解を促進するために、水、エタノール(40および70%)、クエン酸(50mM)、EDTA(3および30mM)、過酸化水素(35重量%)またはアルギン酸リアーゼ中に、強靭なゲルを1、10および100分間浸漬した(
図23A~23F、24Aおよび24B)。次いで、ゲルを溶液から取り出し、機械的引張試験のために準備した。
【0183】
あるいは、リゾチーム溶液の濃度を17mg/ml、37mg/mlおよび75mg/mlと増加させながら、ならびにインキュベーション時間を1分、10分、30分および100分と増加させながら、3mg/mlのキトサン(54046;90%脱アセチル化)溶液をリゾチームの溶液とともにインキュベートした。使用したリゾチームは、sigmaから入手した、90%以上、40,000単位/mg以上のニワトリ卵白タンパク質由来L6876であった。最高濃度のリゾチーム(75mg/ml)が、280kDから178kDへと重量平均分子量の最大の減少をもたらした。100分間にわたる75mg/mLリゾチーム分解から生じたキトサン重量(重量平均(Mw)および数平均(Mn)分子量)の変化を表1に要約する。
表1
【表1】
【0184】
さらに、3mg/mLキトサン(54046;90%脱アセチル化;54039 85%脱アセチル化)溶液を75mg/mlまたは150mg/mlリゾチームの溶液とともにインキュベートした。使用したリゾチームは、sigmaから入手した、90%以上、40,000単位/mg以上のニワトリ卵白タンパク質由来L6876であった。Mwの減少は、75mg/mlまたは150mg/mlリゾチームとともにインキュベートしたこれら2つのサンプル間で同様であり、異なる脱アシル化レベルの2つのキトサンサンプル間でも同様であった。100分間にわたるリゾチーム分解から生じたキトサン重量(重量平均(Mw)および数平均(Mn)分子量)の変化を表2および3に要約する。
表2
【表2】
表3
【表3】
【0185】
引張試験
強靭なゲルの片(15×15×1.5mm3)を、2つのアクリルの間に接着した。機械的試験装置(Instron、Norwood、MA)を使用して、引張機械的特性(速度:100mm/分)を評価した。記録された力および伸長データを使用して、靭性、最大応力および最大伸びを計算した。ボンフェローニ補正による事後T検定を用いた一元配置ANOVAを使用して、ヒドロゲル機械的特性に対する化学処理および時間の影響を評価した。
処理後の引張機械的特性の低下
【0186】
強靭なゲルの引張機械的特性は、多くの溶液(すなわち、水、EDTA、クエン酸、EDTA、過酸化水素およびアルギン酸リアーゼ)で処理した後に有意な変化を示した。ゲル機械的特性の低下が処理の1分以内に観察された(
図23A~23F、24Aおよび24B)。特に、アルギン酸リアーゼで処理された強靭なゲルは、1分後に靭性(約77%)および最大応力(約74%)の劇的な減少を示した(
図25Aおよび25B)。溶液への短期間の曝露は、強靭なゲルの引張機械的特性に大きく影響することが実証された。
処置後の組織学的分析
【0187】
市販の接着剤および強靭なゲル接着剤をマウスの背部に塗布し、剥がして組織表面(皮膚)に対する接着剤除去の効果を調べた。比較のために、接着剤除去後に、詳細なマイクロスケールでの皮膚評価を行った(
図26Aおよび26B)。組織学的分析から明らかなように(
図26Aおよび26B)、アルギン酸リアーゼでの処理ありまたはなしでの強靭なゲル接着剤の除去は表皮に対する損傷を示さなかったのに対して、市販の接着剤は組織表面(表皮)を損傷した。
均等物
【0188】
当業者は、本明細書に記載されている本発明の具体的な実施形態に対する多くの均等物を認識し、または日常的な実験のみを使用して確認することができる。そのような均等物は、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。本出願を通じて引用されたすべての参考文献、特許および公開された特許出願の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含む生分解性相互侵入網目(IPN)ヒドロゲルを含む組成物であって、前記第1の高分子網目は、生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目は、イオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含む、組成物。
(項目2)
組成物であって、
a)第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含むIPNヒドロゲルであって、前記第1の高分子網目は、生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目は、イオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含む、IPNヒドロゲルと;
b)接着性橋架けポリマーと;
c)カップリング剤と;
を含む生分解性の強靭な接着性材料を含む、組成物。
(項目3)
第1のポリマーが、ポリアクリルアミド、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリラート)(PHEMA)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリホスファゼン、コラーゲン、ゼラチン、ポリ(アクリラート)、ポリ(メタクリラート)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)、ポリ(N,N-ジメンチルアクリルアミド)、ポリ(アリルアミン)およびこれらのコポリマーからなる群から選択される、項目1または2に記載の組成物。
(項目4)
第1のポリマーがポリアクリルアミドを含む、項目3に記載の組成物。
(項目5)
生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)アクリラート、ゼラチンアクリラート、ヒアルロン酸アクリラート、アルギナートアクリラート、ポロキサマーアクリラート、ジスルフィド系架橋剤からなる群から選択される、項目1~4のいずれか一項に記載の組成物。
(項目6)
生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)アクリラート、ゼラチンアクリラート、ヒアルロン酸アクリラートおよびアルギナートアクリラートからなる群から選択される、項目1~5のいずれか一項に記載の組成物。
(項目7)
生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)、アルギナートメタクリラート(AlgMA)、ヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)、ポロキサマーアクリラート、ジスルフィド系アクリラートおよびN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)からなる群から選択される、項目5に記載の組成物。
(項目8)
生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート250(PEGDA 250)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)、ヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)、酸化アルギナートメタクリラート(OxAlgMA)、ポロキサマージアクリラート(Polox DA)、ビス(2-メタクリロイル)オキシエチルジスルフィド(Bis)およびN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)からなる群から選択される、項目7に記載の組成物。
(項目9)
生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)およびメタクリル化アルギナート(AlgMA)からなる群から選択される、項目6に記載の組成物。
(項目10)
生分解性共有結合性架橋剤が、約100Da~約40,000Daの分子量を有する、項目1~9のいずれか一項に記載の組成物。
(項目11)
生分解性共有結合性架橋剤が約250Da~約20,000Daの分子量を有する、項目10に記載の組成物。
(項目12)
前記ヒドロゲル中の前記ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA)の濃度が、前記第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%である、項目7に記載の組成物。
(項目13)
前記ヒドロゲル中の前記ポロキサマーアクリラートの濃度が、前記第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%である、項目7に記載の組成物。
(項目14)
前記ヒドロゲル中の前記ゼラチンメタクリラート(GelMA)の濃度が、前記第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%である、項目7に記載の組成物。
(項目15)
前記ヒドロゲル中の前記酸化アルギナートメタクリラート(OxAlgMA)の濃度が、前記第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%である、項目8に記載の組成物。
(項目16)
前記ヒドロゲル中の前記ヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)の濃度が、前記第1のポリマーの重量を基準として約0.001重量%~0.05重量%である、項目7に記載の組成物。
(項目17)
前記ヒドロゲル中の前記ジスルフィド系アクリラートの濃度が、前記第1のポリマーの重量を基準として約0.005重量%~0.03重量%である、項目7に記載の組成物。
(項目18)
前記ヒドロゲル中のN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)の濃度が、前記第1のポリマーの重量を基準として約0.0005重量%~0.01重量%である、項目7に記載の組成物。
(項目19)
前記第2のポリマーが、アルギナート、ペクタート、カルボキシメチルセルロース、酸化カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナート、キトサン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナンおよびλ-カラギーナンからなる群から選択され、前記アルギナート、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナート キトサン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナンおよびλ-カラギーナンはそれぞれ必要に応じて酸化されており、前記アルギナート、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナート キトサン、κ-カラギーナン、ι-カラギーナンおよびλ-カラギーナンは、メタクリラート、アクリラート、アクリルアミド、メタクリルアミド、チオール、ヒドラジン、テトラジン、ノルボルネン、トランスシクロオクテンおよびシクロオクチンからなる群から選択される1またはそれを超える基を必要に応じて含む、項目1~18のいずれか一項に記載の組成物。
(項目20)
前記第2のポリマーがアルギナートを含む、項目19に記載の組成物。
(項目21)
前記アルギナートが酸化アルギナートである、項目20に記載の組成物。
(項目22)
前記アルギナートが、高分子量アルギナートと低分子量アルギナートとの混合物を含む、項目20または21に記載の組成物。
(項目23)
前記低分子量アルギナートに対する前記高分子量アルギナートの比が約5:1~約1:5である、項目22に記載の組成物。
(項目24)
前記第1の高分子網目と前記第2の高分子網目が共有結合で結合している、項目1~23のいずれか一項に記載の組成物。
(項目25)
前記接着性橋架けポリマーが高密度第一級アミンポリマーである、項目2~24のいずれか一項に記載の組成物。
(項目26)
前記高密度第一級アミンポリマーが、キトサン、ゼラチン、コラーゲン、ポリアリルアミン、ポリリジンおよびポリエチレンイミンからなる群から選択される、項目25に記載の組成物。
(項目27)
前記高密度第一級アミンポリマーがキトサンである、項目26に記載の組成物。
(項目28)
前記カップリング剤が第1のカルボキシル活性化剤を含む、項目2~27のいずれか一項に記載の組成物。
(項目29)
前記第1のカルボキシル活性化剤がカルボジイミドである、項目28に記載の組成物。
(項目30)
前記カルボジイミドが、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC、EDACまたはEDCI)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびジイソプロピルカルボジイミド(DIC)からなる群から選択される、項目29に記載の組成物。
(項目31)
前記カップリング剤が、第2のカルボキシル活性化剤をさらに含む、項目2~30のいずれか一項に記載の組成物。
(項目32)
前記第2のカルボキシル活性化剤が、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS)、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、ジメチルアミノピリジン(DMAP)、ヒドロキシ-3,4-ジヒドロ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジン(HOOBt/HODhbt)、1-ヒドロキシ-7-アザ-1H-ベンゾトリアゾール(HOAt)、エチル2-シアノ-2-(ヒドロキシイミノ)アセタート、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリス(ジメチルアミノ)-ホスホニウムヘキサフルオロホスファート(BOP)、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリピロリジノ-ホスホニウムヘキサフルオロホスファート、7-アザ-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート)、エチルシアノ(ヒドロキシイミノ)アセタト-O2)-トリ-(1-ピロリジニル)-ホスホニウムヘキサフルオロホスファート、3-(ジエトキシ-ホスホリルオキシ)-1,2,3-ベンゾ[d]トリアジン-4(3H)-オン、2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルアミニウムテトラフルオロボラート/ヘキサフルオロホスファート、2-(6-クロロ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルアミニウムヘキサフルオロホスファート)、N-[(5-クロロ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-ジメチルアミノ-モルホリノ]-ウロニウムヘキサフルオロホスファートN-オキシド、2-(7-アザ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルアミニウムヘキサフルオロホスファート、1-[1-(シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)-ジメチルアミノ-モルホリノ]-ウロニウムヘキサフルオロホスファート、2-(1-オキシ-ピリジン-2-イル)-1,1,3,3-テトラメチルイソチオウロニウムテトラフルオロボラート、テトラメチルフルオロホルムアミジニウムヘキサフルオロホスファート、N-エトキシカルボニル-2-エトキシ-1,2-ジヒドロキノリン、2-プロパンホスホン酸無水物、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウム塩、(ビス-トリクロロメチルカーボナート、1,1’-カルボニルジイミダゾールである、項目31に記載の組成物。
(項目33)
第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含む生分解性IPNヒドロゲルを含む組成物であって、前記第1の高分子網目はポリアクリルアミドと生分解性共有結合性架橋剤とを含み、前記第2の高分子網目はアルギナートポリマーを含む、組成物。
(項目34)
組成物であって、
a)第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含む生分解性IPNヒドロゲルであって、前記第1の高分子網目はポリアクリルアミドと生分解性共有結合性架橋剤とを含み、前記第2の高分子網目はアルギナートポリマーを含む、生分解性IPNヒドロゲルと;
b)キトサンを含む接着性橋架けポリマーと;
c)EDCと硫酸化NHSを含むカップリング剤と;
を含む生分解性接着性材料を含む組成物。
(項目35)
前記生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA 250)、ポロキサマージアクリラート(Polox DA)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)、酸化アルギナートメタクリラート(OxAlgMA)、ヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)、ビス(2-メタクリロイル)オキシエチルジスルフィド(Bis)およびN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)からなる群から選択される、項目33または34に記載の組成物。
(項目36)
第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含む生分解性IPNヒドロゲルを作製する方法であって、前記第1の高分子網目は、生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目は、イオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含み、
前記方法は、
第1のポリマーと第2のポリマーとを混合することと;
その混合物を生分解性共有結合性架橋剤およびイオン性架橋剤と接触させ、それによりIPNヒドロゲルを作製することと;を含む、方法。
(項目37)
前記生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA 250)、ポロキサマージアクリラート(Polox DA)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)、酸化アルギナートメタクリラート(OxAlgMA)、ヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)、ビス(2-メタクリロイル)オキシエチルジスルフィド(Bis)およびN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)からなる群から選択され、前記イオン性架橋剤がCaSO
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を含む、項目36に記載の方法。
(項目38)
アルギナートが酸化アルギナートである、項目37に記載の方法。
(項目39)
生分解性ヒドロゲルを表面に接着させる方法であって、
a)高密度第一級アミンポリマーとカップリング剤とを含む溶液を前記ヒドロゲルに適用する工程と;
b)前記ヒドロゲルを前記表面上に配置する工程と;
を含み、
前記ヒドロゲルは、第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含み、前記第1の高分子網目は、生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目は、イオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含む、方法。
(項目40)
前記表面が、湿潤であり、動的であり、またはこれらの両方である組織表面である、項目39に記載の方法。
(項目41)
前記表面が医療器具である、項目40に記載の方法。
(項目42)
治療活性剤を対象に送達する方法であって、
a)高密度第一級アミンポリマーとカップリング剤とを含む溶液をヒドロゲルに適用することと;
b)前記ヒドロゲルを前記対象中の表面上に配置することと;
を含み、
前記ヒドロゲルは、第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含み、前記第1の高分子網目は、生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目は、イオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含み、少なくとも1つの治療活性剤は、前記ヒドロゲルおよび/または高密度第一級アミンポリマー中に封入され、またはその表面に付着されており、それによって治療活性剤を前記対象に送達する、方法。
(項目43)
生分解性接着性材料であって、a)第1の高分子網目と第2の高分子網目とを含むヒドロゲルであって、前記第1の高分子網目は生分解性共有結合性架橋剤で共有結合的に架橋した第1のポリマーを含み、前記第2の高分子網目はイオン性のまたは物理的な架橋で架橋した第2のポリマーを含む、ヒドロゲルと、b)高密度第一級アミンポリマーと;c)カップリング剤と;を含み、前記高密度第一級アミンポリマーおよび前記カップリング剤は、前記ヒドロゲルの1つの面に適用される、生分解性接着性材料。
(項目44)
材料が、予め形成されたパッチまたは注射可能なゲルの形態である、項目43に記載の生分解性接着性材料。
(項目45)
前記第1の高分子網目が2つの反応性部分で修飾されており、前記反応性部分は、メタクリラート、アクリラート、アクリルアミド、メタクリルアミド、チオール、ヒドラジン、テトラジン、ノルボルネン、トランスシクロオクテンおよびシクロオクチンからなる群からそれぞれ独立に選択される、項目43または項目44に記載の生分解性接着性材料。
(項目46)
前記第1の高分子網目が、ノルボルネンで修飾されたポリエチレングリコール(PEG)およびテトラジンで修飾されたポリエチレングリコール(PEG)を含む、項目43~45のいずれか一項に記載の生分解性接着性材料。
(項目47)
前記2つの反応性部分がCa
2+
の存在下で反応する、項目45に記載の生分解性接着性材料。
(項目48)
前記2つの反応性部分がUV光の存在下で反応する、項目45に記載の生分解性接着性材料。
(項目49)
生分解性共有結合性架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート(PEGDA
250)、ポロキサマージアクリラート(Polox DA)、ゼラチンメタクリラート(GelMA)、酸化アルギナートメタクリラート(OxAlgMA)、ヒアルロン酸メタクリラート(HAMA)、ビス(2-メタクリロイル)オキシエチルジスルフィド(Bis)およびN,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン(Cys)からなる群から選択される、項目43~48のいずれか一項に記載の組成物。
(項目50)
アルギナートが酸化アルギナートである、項目43~49のいずれか一項に記載の生分解性接着性材料。