(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】潜熱蓄熱材組成物、及び潜熱蓄熱特性制御方法
(51)【国際特許分類】
C09K 5/06 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
C09K5/06 J
(21)【出願番号】P 2021537392
(86)(22)【出願日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2020030257
(87)【国際公開番号】W WO2021025134
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2019145175
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日:2019年6月24日 集会名:第8回JACI/GSCシンポジウム 公開者:重原武浩、廣森浩祐、高橋厚、北川尚美
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日:2019年6月24日 集会名:第8回JACI/GSCシンポジウム プログラム 公開者:重原武浩、廣森浩祐、高橋厚、北川尚美
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日:2019年7月25日 刊行物:化学工学会横浜大会2019 研究発表プログラム集 公開者:重原武浩、廣森浩祐、高橋厚、北川尚美
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129159
【氏名又は名称】黒沼 吉行
(72)【発明者】
【氏名】廣森 浩祐
(72)【発明者】
【氏名】北川 尚美
(72)【発明者】
【氏名】重原 武浩
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0244971(US,A1)
【文献】特開2015-137807(JP,A)
【文献】特開昭63-205385(JP,A)
【文献】特表2018-504417(JP,A)
【文献】国際公開第2011/099871(WO,A1)
【文献】特開2003-183636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/06
F28D20/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸エステル類を主成分とする潜熱蓄熱材組成物であって、
脂肪酸と、当該脂肪酸とアルコールから製造された脂肪酸エステルとからなり、
脂肪酸及び脂肪酸エステルの含有量が、組成物中、それぞれ1wt%以上である、潜熱蓄熱材組成物。
【請求項2】
脂肪酸エステル類を主成分とする潜熱蓄熱材組成物であって、
原料油脂と、当該原料油脂とアルコールから製造された脂肪酸エステルとからなり、
脂肪酸エステルの含有量が、組成物中、1wt%以上、99wt%以下である、潜熱蓄熱材組成物。
【請求項3】
潜熱蓄熱材における潜熱蓄熱特性の制御方法であって、
当該潜熱蓄熱材は脂肪酸エステル類を主成分として構成されており、
当該脂肪酸エステル類はエステル化反応又はエステル交換反応によって製造されており、何れかの反応における脂肪酸エステルへの反応率によって潜熱蓄熱特性を制御する潜熱蓄熱特性の制御方法。
【請求項4】
脂肪酸エステル類を主成分とする潜熱蓄熱材組成物の製造方法であって、
原料油脂又は脂肪酸とアルコールの混合溶液をイオン交換体に接触させることにより、該イオン交換体を触媒として、連続的に脂肪酸エステルを製造することを含む潜熱蓄熱材組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潜熱蓄熱材組成物、及び潜熱蓄熱特性制御方法に関し、主として脂肪酸エステルを用いて形成した潜熱蓄熱材組成物と、エステル化反応又はエステル交換反応の反応率によって凝固/融解温度又は転移エンタルピー等の潜熱蓄熱特性を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
省エネ技術の1つとして、潜熱蓄熱材をマイクロカプセル化して分散させた材料や製品が開発されている。かかる潜熱蓄熱材としては、石油由来のパラフィンなどが主であったが、近年、脂肪酸エステルを利用することも提案されている。脂肪酸エステルは、脂肪酸とアルコールの炭素鎖長や二重結合数に応じた幅広い融点と高い潜熱を持つため新たな潜熱蓄熱材として期待されている。
【0003】
このような脂肪酸エステルを用いた潜熱蓄熱材として、特許文献1(特開昭63-205385号公報)が提案されている。この文献では、10~20℃の温度領域で、過冷却現象を起こすことなく、略一定温度で安定な潜熱を取り出すことができ、且つ長期間安定に蓄熱、放熱の繰り返しを行うことのできる潜熱蓄熱材組成物として、脂肪酸エステル類を主成分とする潜熱蓄熱材組成物において、パルミチン酸のn-ブチルエステルを50~100重量%含有する潜熱蓄熱材組成物を提案している。
【0004】
また特許文献2(WO2011/099871号公報)では、相変化材料としての使用に適した飽和脂肪酸エステルの製造方法を提案している。即ち、この文献では、トリグリセリド含有出発材料の加工によって得られた脂肪酸エステルを水素化する工程を含んでおり、その好ましい実施形態では、水素化される脂肪酸エステルは、トリグリセリド含有出発材料とアルコールとのエステル交換によって得られたものとなっている。
【0005】
更に非特許文献1(Binary mixtures of fatty acid methyl esters as phase change materials for low temperature applications)では、低温用途の相変化材料としての脂肪酸メチルエステルの二成分混合物として、脂肪酸メチルエステルの二元混合物を提案している。即ち、氷結防止対策の改善手段として相変化材料をコンクリート舗装に取り入れることに関し、脂肪酸メチルエステルの二元混合物は氷結防止対策を改善するための低温相変化材料としての使用に望ましい熱的性質を提供すること、特に、ラウリン酸メチルとミリスチン酸メチル、およびラウリン酸メチルとパルミチン酸メチルの二元混合物は、共晶融解温度と融解潜熱が、それぞれ0.21℃および2.4℃、174.3J・g-1および166.5 J・g-1であることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭63-205385号公報
【文献】WO2011/099871号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Leah C. Liston, Yaghoob Farnam, Matthew Krafcik, JasonWeiss, Kendra Erk, Bernard Y. Tao, "Binary mixtures of fatty acid methyl esters as phase change materials for low temperature applications" Applied Thermal Engineering 96 (2016) 501-507
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の如く、従前においても潜熱蓄熱材又は相変化材料(以下「PCM」とする)として脂肪酸エステルを使用する技術は幾つか提案されている。しかしながら、従来提供されている脂肪酸エステルからなるPCMは、脂肪酸エステルの選択に着目するものであり、脂肪酸エステル製造に際しての反応率に着目するものではなかった。
【0009】
そこで本発明は、脂肪酸とアルコールのエステル化反応、又は原料油脂とアルコールのエステル交換反応で製造される脂肪酸エステルへの反応率により、PCMの潜熱蓄熱特性を制御する事のできる潜熱蓄熱材組成物、及び潜熱蓄熱特性制御方法を提供することを課題の1つとする。
【0010】
また、当該PCMについては、近年、持続性や安全性の高いバイオマス由来品への切替が望まれている。脂肪酸エステルは、天然由来の油脂や脂肪酸とアルコールで製造することができ、それらの炭素鎖長や二重結合数に応じた幅広い融点と高い潜熱を持つため、バイオマス由来PCMとして期待されている。
【0011】
そこで本発明は、天然由来の油脂や脂肪酸とアルコールを用いて製造した脂肪酸エステルを主とするPCMを提供することも課題の1つとする。
【0012】
更に、使用する脂肪酸エステルについても、工業的には食用の精製油を原料とした均相触媒による回分反応で製造されている為コスト高であり、また数種の脂肪酸基のメチルエステルしか販売されていないのが実情である。その結果、PCMとして使用する脂肪酸エステルの製造効率の問題も生じる。
【0013】
そこで本発明では、様々な脂肪酸とアルコールの組み合わせ、又は様々な原料油脂とアルコールの組み合わせで、脂肪酸エステルを連続製造できる不均相樹脂触媒法により、目的の融点/凝固点を持つ脂肪酸エステルを容易に合成することも課題の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題の少なくとも何れかを解決する為に、脂肪酸とアルコールによるエステル化反応、又は原料油脂とアルコールのエステル交換反応における反応率に応じて、所望の潜熱蓄熱特性を有するPCMを製造できることに成功し、本発明を完成するに至ったものである。
【0015】
即ち、本発明では前記課題の少なくとも何れかの課題を解決する為に、脂肪酸エステル類を主成分とする潜熱蓄熱材組成物であって、脂肪酸と、当該脂肪酸とアルコールから製造された脂肪酸エステルとからなり、脂肪酸及び脂肪酸エステルの含有量が、組成物中、それぞれ1wt%以上である、潜熱蓄熱材組成物を提供する。
【0016】
また本発明では、前記潜熱蓄熱材組成物に関連し、脂肪酸エステル類は、アルコール1種と脂肪酸2種以上、アルコール2種以上と脂肪酸1種、又はアルコール2種以上と脂肪酸2種以上で製造されている潜熱蓄熱材組成物を提供する。
【0017】
また本発明では、前記課題の少なくとも何れかの課題を解決する為に、脂肪酸エステル類を主成分とする潜熱蓄熱材組成物であって、原料油脂と、当該原料油脂とアルコールから製造された脂肪酸エステルとからなり、脂肪酸エステルの含有量が、組成物中、1wt%以上、99wt%以下である、潜熱蓄熱材組成物を提供する。
【0018】
かかる潜熱蓄熱材組成物においては、原料油脂は1種である他、2種以上を組み合わせても良く、また脂肪酸エステルの製造に使用するアルコールも、1種である他、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0019】
上記脂肪酸エステルの製造に使用する脂肪酸は、市販のものであっても良いが、天然油を原料として使用する事ができる。例えば、植物油などにおける廃棄物油を原料とするエステル合成を行い、これにより脂肪酸エステルを製造することができる。
【0020】
また本発明では、前記本発明に係る潜熱蓄熱材組成物を用いた潜熱蓄熱材の他、他の潜熱蓄熱材における潜熱蓄熱特性の制御方法であって、当該潜熱蓄熱材は脂肪酸エステル類を主成分として構成されており、当該脂肪酸エステル類は、脂肪酸とアルコールのエステル化反応、又は油脂とアルコールのエステル交換反応によって製造されており、何れかの反応において製造した脂肪酸エステルの存在割合(換言すれば、脂肪酸又は油脂の反応率)によって潜熱蓄熱特性を制御する潜熱蓄熱特性の制御方法を提供する。
【0021】
そして本発明では、前記潜熱蓄熱材組成物の他、脂肪酸エステル類を主成分とする各種潜熱蓄熱材組成物の製造方法であって、原料油脂又は脂肪酸とアルコールの混合溶液をイオン交換体に接触させることにより、該イオン交換体を触媒として、連続的に脂肪酸エステルを製造することを含む潜熱蓄熱材組成物の製造方法を提供する。特に原料油脂を用いたエステル交換反応では、陰イオン交換樹脂触媒を使用する事ができ、脂肪酸を用いたエステル化反応では、陽イオン交換樹脂触媒を使用する事ができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の潜熱蓄熱材組成物は、脂肪酸と、当該脂肪酸とアルコールから製造された脂肪酸エステルとからなり、脂肪酸及び脂肪酸エステルの含有量が、組成物中、それぞれ1wt%以上として形成されている。そして当該組成物中の脂肪酸エステルの含有量又は脂肪酸の含有量を任意に調整する(即ちエステル化の反応率を調整する)ことにより、潜熱蓄熱特性を制御する事のできる潜熱蓄熱材組成物を提供することができる。即ち、脂肪酸とアルコールとのエステル化反応において、製造される脂肪酸エステルへの反応率を調整することにより、任意の潜熱蓄熱特性を有する潜熱蓄熱材組成物を製造することができる。その結果、本発明においては、エステル化反応の進行具合を調整することにより、任意の潜熱蓄熱特性を有する潜熱蓄熱材組成物を製造することができる。
【0023】
また本発明においては原料油脂と、当該原料油脂とアルコールから製造された脂肪酸エステルとからなり、脂肪酸エステルの含有量が、組成物中、1wt%以上、99wt%以下である潜熱蓄熱材組成物とすることにより、原料油脂として天然由来の油、例えば植物性の廃棄油などを使用する事もできる。その結果、天然由来の油脂や脂肪酸とアルコールを用いて製造した脂肪酸エステルを主とするPCMを提供することができ、持続性や安全性の高いバイオマス由来のPCMを提供することができる。
【0024】
そして、脂肪酸エステル類を主成分とするPCMにおいて、潜熱蓄熱材組成物に使用する脂肪酸エステルの製造に際しての反応率によって、潜熱蓄熱材における潜熱蓄熱特性を制御することにより、脂肪酸エステルの製造時における反応率を制御するだけで、所望の特性を有するPCMを簡易に製造することができる。
【0025】
そして当該PCMの潜熱蓄熱材組成物に使用する脂肪酸エステルを、原料油脂又は脂肪酸とアルコールの混合溶液をイオン交換体(即ち、陰イオン交換樹脂触媒及び/又は陽イオン交換樹脂触媒)に接触させることにより、該イオン交換体を触媒として、連続的に製造することにより、所望の反応率となるように製造工程を制御すれば、目的とする潜熱蓄熱特性を有する潜熱蓄熱材組成物を簡易に製造することができる。そして当該製造方法によれば、様々な脂肪酸とアルコールの組み合わせで脂肪酸エステルを連続製造できる不均相樹脂触媒法により、目的の融点及び/又は凝固点を持つ脂肪酸エステルを容易に合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】従来法と本実施の形態に係る手法のプロセスフロー
【
図2】実験例1における各二元混合物のDSC融解曲線
【
図4】実施例2における4種の廃棄物油由来の脂肪酸エステルについてのDSC融解曲線
【
図5】実験例2におけるカカオバターのメチルエステル化のDSC融解曲線
【
図6】実験例3におけるパルミチン酸濃度と反応率の経時変化
【
図7】実験例3におけるパルミチン酸メチルエステル化のDSC曲線
【
図8】実験例3における組成がT
onset、T
offset、T
peakとΔHに及ぼす影響を示すグラフ
【
図9】実験例4におけるエステル濃度、反応率の経時変化
【
図10】実験例4におけるパルミチン酸と混合アルコールによるエステル化のDSC曲線
【
図11】実験例4における組成がT
onset、T
offset、T
peakとΔHに及ぼす影響を示すグラフ
【
図12】実験例5におけるエステル濃度、反応率の経時変化
【
図13】実験例5における混合脂肪酸とメタノールによるエステル化のDSC曲線
【
図14】実験例5における組成がT
onset、T
offset、T
peakとΔHに及ぼす影響を示すグラフ
【
図15】実験例6における混合脂肪酸とエタノールによるエステル化のDSC曲線
【
図16】実験例6における組成がT
onset、T
offset、T
peakとΔHに及ぼす影響を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本実施の形態にかかる潜熱蓄熱材組成物、及び潜熱蓄熱特性制御方法を具体的に説明する。特に本実施の形態は、脂肪酸エステルの製造過程における反応率によって、所望の潜熱蓄熱特性の潜熱蓄熱材組成物を製造する技術を具体的に説明する。
【0028】
本実施の形態に係る潜熱蓄熱材組成物は、原料油脂または脂肪酸と、これら原料油脂または脂肪酸とアルコールとの反応によって製造した脂肪酸エステルとで構成することができる。
【0029】
前記原料油脂は、大豆油、菜種油、ひまわり油、綿油、ピーナッツ油、ゴマ油、パーム油、オリーブ油、米ぬか油などの植物油や、及び牛脂、豚脂、バター、魚油、鯨油等の動物油の他、食用油製造時の脱臭工程で排出する脱臭留出物(スカム油)等の廃棄物油を使用する事ができる。
【0030】
また脂肪酸は、飽和脂肪酸の他、不飽和脂肪酸を使用する事ができ、また直鎖脂肪酸に限らず、分岐脂肪酸、環式脂肪酸又は芳香族脂肪酸であっても良く、更に短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸であって良い。これら脂肪酸のうち、飽和脂肪酸としては、例えば、酢酸(C2)、カプリル酸(C8)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)、ベヘニン酸(C22)を使用する事ができ、不飽和脂肪酸としては、パルミトレイン酸(C16:不飽和度1)、オレイン酸(C18:不飽和度1)、リノール酸(C18:不飽和度2)、リノレン酸(C18:不飽和度3)を使用する事ができる。かかる脂肪酸は、特に飽和脂肪酸であることが望ましいが、目的とする潜熱蓄熱特性に応じて適宜選択することができる。
【0031】
また脂肪酸エステルの製造に使用するアルコールは、メタノール、エタノール等の直鎖の低級アルコール、2-エチルヘキサノール等の分岐アルコール、プロピレングリコール、エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール、フェネチルアルコール等の芳香族アルコールを使用する事ができる。また当該アルコールは炭素数2から30の範囲のものを使用する事ができる。
【0032】
また、上記脂肪酸とアルコールとのエステル化反応は、例えばアルカリ触媒下又は酸触媒下にてエステル化する等の公知の方法で行うことができ、また原料油脂とアルコールとのエステル交換反応は、硫酸や塩酸などの酸、あるいは水酸化ナトリウムなどの塩基を触媒としてエステル交換する等の公知の方法で行うことができる。但し、当該脂肪酸エステルの製造は、油脂とアルコールの混合溶液をイオン交換体(陰イオン交換体及び/又は陽イオン交換体)に接触させて連続的に製造する不均相樹脂触媒法によって行うことが望ましい。この方法を用いれば、目的の融点を持つ脂肪酸エステルを容易に合成できる為である。
【0033】
図1に、従来法と本実施の形態に係る手法のプロセスフローを示す。従来法である均相触媒法では触媒活性低下防止のための脱水操作、触媒や不純物の除去など煩雑な操作が、混合する脂肪酸エステルの数だけ必要となる。一方、本手法である不均相触媒法では、固体樹脂触媒を用いているため生成物との分離が容易であり、さらに不純物や水分が樹脂に吸着されるため、反応に用いたアルコールを蒸留除去するだけで目的の潜熱蓄熱材を得ることができる。従って、本手法は従来法と比較して有効であるといえる。
【0034】
かかる不均相樹脂触媒法においては、油脂に含まれる遊離脂肪酸は陽イオン交換体を触媒としてエステル化を行なうことができる。陽イオン交換体としては、例えば、ダイヤイオンPK-208(三菱化学社製)のような当業者に公知の陽イオン樹脂を使用することが出来る。また油脂に含まれるトリグリセリドは陰イオン交換体を触媒としてエステル交換を行なうことができる。陰イオン交換体としては、ダイヤイオンPA-306(三菱化学社製)、ダイヤイオンPA-306S(同)、ダイヤイオンPA-308(同)、ダイヤイオンHPA-25(同)、ダイヤイオンSA20A(銅)、ダイヤイオンSA21A(同)、並びに、多孔質型のII型強塩基陰イオン交換樹脂であるダイヤイオンPA408(同)、ダイヤイオンPA412(同)及びダイヤイオンPA418(同)、ダウエックス1-X2(ダウケミカル社製)、アンバーライトIRA-45(オルガノ社製)、アンバーライトIRA-94(同)等の当業者に公知の陰イオン樹脂を使用することが出来る。これらイオン交換樹脂は架橋度が小さい方が望ましく、特に架橋度が4%以下(モル換算)であることが望ましい。
【0035】
但し、上記イオン交換樹脂を用いて脂肪酸エステルを製造する場合には、当該イオン交換樹脂の耐熱温度を考慮した上で、使用するアルコールや脂肪酸は、イオン交換樹脂の耐熱温度以下の温度で融解するものであることが望ましい。
【0036】
そして本実施の形態に係る潜熱蓄熱材組成物は、脂肪酸エステル類を主成分とし、脂肪酸と、当該脂肪酸とアルコールから製造された脂肪酸エステルとを、組成物中、それぞれ1wt%以上含有して構成される。即ち、脂肪酸と脂肪酸エステルの混合物として形成することができる。かかる潜熱蓄熱材組成物には、更にアルコール、望ましくは相変化温度が近い中鎖以上アルコールを含有することもできる。
【0037】
上記潜熱蓄熱材組成物中にける脂肪酸の含有量は、相変化の温度を一点に集中させる場合(即ち、DSC曲線のピークを1つにする場合)には、75wt%以上、特に80wt%以上であることが望ましい。但し、相変化の温度を2つ以上に分散させる場合(即ち、DSC曲線のピークを2つ以上にする場合)には、75wt%未満であっても良い。
【0038】
また本実施の形態に使用する潜熱蓄熱材組成物は、前記の通り脂肪酸と脂肪酸エステルの混合物として形成することができ、当該脂肪酸エステルを製造する脂肪酸及びアルコールの少なくとも何れかは、2種以上の組み合わせを使用する事ができる。これにより潜熱蓄熱材組成物を構成する脂肪酸エステルが複数の組み合わせからなる混合組成とすることができる。
【0039】
前記潜熱蓄熱材組成物に使用する脂肪酸エステルは、脂肪酸とアルコールのエステル化反応で製造する他、原料油脂とアルコールによるエステル交換反応によって製造することもできる。特に原料油脂とアルコールから脂肪酸エステルを製造する際には、原料油脂中の遊離脂肪酸をアルコールによってエステル化し、また原料油脂中のトリグリセリドをアルコールでエステル交換して脂肪酸エステルを製造することができる。特に原料油脂とアルコールとの反応により脂肪酸エステルを製造する場合には、潜熱蓄熱材組成物中における脂肪酸エステルの含有量が、1wt%以上、99wt%以下であって良い。特に、相変化の温度を一点に集中させる場合(即ち、DSC曲線のピークを1つにする場合)には、当該エステル交換で製造した脂肪酸エステルの含有量は、75wt%以上、特に80wt%以上であることが望ましい。但し、相変化の温度を2つ以上に分散させる場合(即ち、DSC曲線のピークを2つ以上にする場合)には、当該脂肪酸エステルの含有量は、75wt%未満であっても良い。
【0040】
上記エステル化反応又はエステル交換反応を、組成物中における脂肪酸エステルの含有量(混合モル分率)が任意の値となった時に反応を終了させることで、所期の潜熱蓄熱特性を得るものである。よって、目的とする潜熱蓄熱特性となる段階で、エステル化又はエステル交換反応を終了させ、脂肪酸エステルの他、原料となる油脂や脂肪酸が混在する組成物を製造する。通常であれば、組成物中に混在している脂肪酸や脂肪酸エステルの種類によって、DSC曲線のピークが別々に観察されることから潜熱が小さくなる。しかし本実施の形態においては、特定の脂肪酸エステルについては、脂肪酸や、これから製造された脂肪酸エステルが混在していても、DSCピークが1つになる共融状況とすることができ、これにより潜熱を大きくすることができる。
【0041】
かかる潜熱蓄熱特性は、例えば所定の脂肪酸エステルへの反応率(モル分率)を変化させた複数の混合物を調製し、示差走査熱量計(DSC)の測定により融解曲線や凝固曲線を得て、各反応率における相変化温度と、移転エンタルピーを特定することができる。そしてこの測定結果に基づいて、目的とする温度領域に相変化温度を有し、所望の潜熱を有する反応率(又はモル分率)を特定することができる。
【0042】
潜熱蓄熱材として使用する場合には、融解曲線や凝固曲線において、ピークが1つであり、そのピーク面積から求めた潜熱(移転エンタルピー)が大きいことが望ましい。また、相変化における開始点(温度)と終了点(温度)の間隔が狭い方が望ましく、よって融解曲線においては融解開始点(融解開始温度)と融解終了点(融解終了温度)との間隔、凝固曲線においては凝固開始点(融解開始温度)と凝固終了点(融解終了温度)との間隔は、何れも狭い方が望ましい。そしてDSC曲線(融解曲線や凝固曲線)において、現れるピークがシャープな反応率であることが望ましい。ここで、「ピークがシャープ」であるとは、同じ分析条件において得られるDSC曲線での比較であり、同じ分析条件下で比較した場合において、より一層、ピークがシャープとなる反応率とすることが望ましい。
【実験例1】
【0043】
〔実験方法〕
この実験では、植物油に広く含まれる2種の(飽和)脂肪酸とそのメチルおよびエチルエステルを取り上げ、、それらを組み合わせた二成分混合系で熱特性の測定を行い、融点や潜熱に及ぼす影響を検討した。取り上げた4種の脂肪酸エステルの融点と潜熱を以下の表1示す。
【0044】
【0045】
基本となる脂肪酸骨格は、炭素鎖長16の飽和パルミチン酸(PA)と、炭素鎖長18の飽和ステアリン酸(SA)とし、それらのメチルエステル(PM,SM)と、エチルエステル(PE,SE)とした。混合系は、近い融点を持つ系としてPM+SM,PM+PE,PM+SEとした。熱特性は、パルミチン酸メチル(PM)のモル分率(XPM)を0.00~1.00まで変化させた混合物を調製し、示差走査熱量計(DSC)で測定した。温度範囲は-20℃~60℃、昇温速度は10℃/minとした。
【0046】
〔結果と考察〕
図2にPM+SM,PM+PE混合系での融解曲線を示す。下向きのピークは相変化の際の吸熱を表している。(a)のPM+SM系では、X
PM=0.22の混合物になるとピークが小さくブロードになり、X
PM=0.61では成分毎の2つのピークが観察された。このピークが小さくブロードになる傾向はPM+SE系でも観察された。一方、(b)のPM+PE系では、いずれのX
PMでも大きな1つのピークが観察された。これより、この混合系が共融状態にあると考えられる。
【0047】
図3に、
図2の各X
PM でのピークトップから求めた融点(T
peak)とそのピーク面積から求めた潜熱(ΔH)を示す。いずれの系でも、混合により融点および潜熱量が低下することが分かる。しかし、その低下の程度は系によって異なっている。図中に点線で示しているのは、人の生活温度域である。今回取り上げた混合系では、この温度域に融点を持ち、かつ、潜熱が高い条件は、PM+PE系でX
PM=0.20の混合物となった。
【実験例2】
【0048】
〔実験方法〕
この実験では、イオン交換樹脂を触媒とする手法の利用で可能となる、廃棄物油を原料とするエステル合成を行い、得られたエステルの脂肪酸組成と熱化学特性を検討した。廃棄物油には、食用油製造工場でサンプルとして所定期間保存された後に廃棄される4種の油を用いた。エステル合成では、強塩基性樹脂である三菱化学社製の製品名DiaionPA306S(多孔性、粒径0.150~0.425mm)を触媒とし、油とアルコールを化学量論比で混合した反応液に33wt%の強塩基性樹脂を投入し、反応温度50℃で十分に振盪した。そして、油の残存率が1%以下(即ち、脂肪酸基の転化率99%以上)となった時点で反応を終了し、強塩基性樹脂を濾過除去した後、残留アルコールを蒸留除去した。
【0049】
以下の表2(各種廃油からのメチルエステルの組成)に、4種の廃棄物油から合成された脂肪酸エステルの脂肪酸組成の測定結果を示す。参考のため、各エステルの融点も示した。
【0050】
【0051】
〔結果と考察〕
上記4種の廃棄物油由来の脂肪酸エステルについての示差走査熱量計によるDSC融解曲線を
図4に示す。合成した各植物油のエステルには、含有量の多い脂肪酸由来のピークが複数観察され、融点が30℃以上の二重結合のない飽和脂肪酸のものと、―20℃以下の二重結合を有する不飽和脂肪酸のものが含まれていた。しかし、成分数とピーク数は一致しておらず、ココアバターの20℃付近のピークのように、パルミチン酸 (PA)とステアリン酸(SA)のメチル体で1つのピークを形成しているものも観察された。建材用蓄熱材では、融点が10~30℃程度にあり、潜熱の大きな1つのピークを持つことが望ましい。そこで
図5に、ココアバター由来のエステルの融点の測定結果を、純成分の各脂肪酸エステルの融点と比較して示す。25℃付近の大きなピークは、ステアリン酸とパルミチン酸の各エステルの混合物依存の融点、―40℃付近の2つのピークは、オレイン酸とリノール酸の各エステル由来の融点に対応していると考えられる。
【実験例3】
【0052】
この実験では、パルミチン酸(PA)のエステル化実験と生成物の熱分析を行った。なお、この実験例における分析には以下の装置を使用した。
「分析装置」
・FAME濃度:分析装置 GC-FID(GL Sciences)
カラム InertCap WAX-HT
内部標準 ペンタデカン酸メチル(256.4 g/mol)
・酸価測定 :分析装置 自動滴定システム AT-710(京都電子工業株式会社)
滴定溶液 エタノール性0.1mol/L KOH溶液
・熱分析 :分析装置 DSC 7000X(日立ハイテクサイエンス)
【0053】
〔エステル化実験〕
パルミチン酸は、東京化成工業社製の製品名3ZINJ(純度97.9%、256.4 g/mol)を使用し、エステル化実験では、強酸性樹脂である三菱化学社製の製品名Diaion PK208LHを触媒とし、以下の条件でエステル化を行った。
「エステル化の実験条件」
メタノール量:量論比の3倍
樹脂量 :反応液総量の33wt%
反応温度 :50℃
振盪速度 :充分に混合(150spm)
【0054】
具体的には、エステル化実験で使用した反応液組成(仕込み量)は、パルミチン酸(PA):54.9g、メタノール:21.1g、強酸性樹脂触媒(三菱化学社製の製品名「Diaion PK208LH」):37.8gであり、これを前記エステル化の実験条件で反応させた。エステル化を行った。そして反応開始から12時間までは1時間毎にサンプリングし、更に反応開始後28時間後にサンプリングを行い、パルミチン酸濃度と反応率を求めた。その結果を
図6に示す。また、以下の表3には反応時間と反応率を示す。
なお、反応率は以下の式で算出した。
[反応率の算出]
【0055】
【0056】
【0057】
〔熱分析実験〕
上記エステル化実験における各サンプルを示差走査熱量計(DSC)で測定し、各反応率(パルミチン酸の反応率:Y
PM)における凝固曲線と融解曲線を得た。その結果を
図7に示す。また、この
図7に示した凝固曲線と融解曲線から、凝固、融解ピークのピークトップの温度(それぞれ、T
peak,f、T
peak,m)を求め、また凝固、融解潜熱(それぞれΔH
f、ΔH
m)を求め、その結果を以下の表4及び
図8に示した。
【0058】
【0059】
なお、
図8中、DSC曲線において、凝固曲線の凝固開始点であるT
onset,f(図面中の〇)、融解曲線の融解終了点であるT
offset,m(図面中の□)については、DSC微分値のうち最も高温側にあるピークをDSC曲線の最大傾斜点とし、その接線とベースライン(DSC値が1.0 mW/mgを下回った点の接線)との交点の値である。また凝固曲線の凝固終了点であるT
offset,f(図面中の□)、融解曲線の融解開始点であるT
onset,m(図面中の〇)については、DSC微分値のうち最も低温側にあるピークをDSC曲線の最大傾斜点とし、ベースライン(DSC値が1.0 mW/mgを下回った点の接線)との交点の値である。
【0060】
〔考察〕
脂肪酸としてパルミチン酸を用いてエステル化を行った場合には、反応率0.821(反応時間7時間)以上で、15℃以上、25℃以下の温度領域に、パルミチン酸メチル由来の1つのピーク、かつ180 J/g程度の大きな潜熱をもつことを確認した。また反応率が低くなるにつれて蓄熱温度領域が上昇し且つ潜熱も小さくなり、また反応率が1.0に近づくにつれて、蓄熱温度領域が上昇し且つ潜熱も大きくなることを確認した。
【実験例4】
【0061】
この実験では、2種類のアルコールを使用して、前記実験例3と同様の処理により、エステル化実験を行い、生成物の熱分析を行った。即ち、パルミチン酸(PA)と混合アルコール(メタノールとエタノール)によるエステル化実験と生成物の熱分析を行った。なお、この実験例における分析装置は前記実験例3と同じである。
【0062】
〔エステル化実験〕
パルミチン酸は、東京化成工業社製の製品名3ZINJ(純度97.9%、256g/mol)を使用し、メタノールは、Wako Pure Chemical Industries, Ltd.,社製のもの(≧99.5vol%、32.04 g/mol1)、エタノールはJapan Alcohol Corp., Ltd.,社製のもの( ≧99vol%、46.1g/mol1)を使用した。その他、強酸性樹脂やエステル化の実験条件は前記実験例3と同じである。
【0063】
特に、エステル化実験で使用した反応液組成(仕込み量)は、パルミチン酸(PA):66.9g、メタノール:19.9g(アルコールモル比:0.797)、エタノール:7.3g(アルコールモル比:0.203)、強酸性樹脂触媒(三菱化学社製の製品名「Diaion PK208LH」):47.1gを使用した。
【0064】
そしてエステル化反応を行い、反応開始から12時間までは1時間毎にサンプリングし、更に反応開始後28時間後にサンプリングを行い、実験例3と同様にして脂肪酸エステル(パルミチン酸メチル、パルミチン酸エチル、及び全エステル)の濃度と反応率を求めた。その結果を
図9に示す。また、以下の表5には反応時間と反応率を示す。
【0065】
【0066】
〔熱分析実験〕
実験例3と同様に、上記エステル化実験における各サンプルを示差走査熱量計(DSC)で測定し、各反応率(パルミチン酸の反応率:Y
PM)における凝固曲線と融解曲線を得た。その結果を
図10に示す。また、この
図10に示した凝固曲線と融解曲線から、凝固、融解ピークのピークトップの温度(それぞれ、T
peak,f、T
peak,m)を求め、また凝固、融解潜熱(それぞれΔH
f、ΔH
m)を求め、その結果を以下の表6及び
図11に示した。
【0067】
【0068】
〔考察〕
脂肪酸基を同じにして、アルコール基を変えたものを混合した方が、DSC曲線におけるピークの立ち上がりから収束までが狭くなる傾向を持つことが分かった。そして目的とする温度帯にシャープなピーク(ピークの立ち上がりから収束までが狭くなる傾向)であると潜熱量が大きくなる傾向があることから、蓄熱材としての性能(潜熱蓄熱特性)が高くなる事を確認した。
【実験例5】
【0069】
この実験では、2種類の脂肪酸を使用して、前記実験例3と同様の処理により、エステル化実験を行い、生成物の熱分析を行った。即ち、パルミチン酸(PA)、ステアリン酸(SA)の混合脂肪酸とメタノールを用いてエステル化実験を行い、その生成物の熱分析を行った。なお、この実験例における分析装置は前記実験例3と同じである。
【0070】
〔エステル化実験〕
パルミチン酸は、東京化成工業社製の製品名3ZINJ(純度97.9%、256g/mol)を使用し、ステアリン酸は、東京化成工業社製の製品名FL3YJ(純度97.0%、 284.5g/mol1)を使用し、メタノールは、Wako Pure Chemical Industries, Ltd.,社製のもの(≧99.5vol%、32.0g/mol1)を使用した。その他、強酸性樹脂やエステル化の実験条件は前記実験例3と同じである。混合脂肪酸は、質量基準でPA:SA=80mol%:20mol%とした。
【0071】
特に、エステル化実験で使用した反応液組成(仕込み量)は、パルミチン酸(PA):54.1g(脂肪酸モル比:0.800)、ステアリン酸(SA):15.0g(脂肪酸モル比:0.200)、メタノール:25.3g、強酸性樹脂触媒(三菱化学社製の製品名「Diaion PK208LH」):47.1gを使用した。
【0072】
そしてエステル化反応を行い、反応開始から12時間までは1時間毎にサンプリングし、更に反応開始後28時間後にサンプリングを行い、実験例3と同様にして脂肪酸エステル(パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、及び全エステル)の濃度と反応率を求めた。その結果を
図12に示す。また、以下の表7には反応時間と反応率を示す。
【0073】
【0074】
〔熱分析実験〕
実験例3と同様に、上記エステル化実験における各サンプルを示差走査熱量計(DSC)で測定し、各反応率(脂肪酸の反応率:Y
FA)における凝固曲線と融解曲線を得た。その結果を
図13に示す。また、この
図13に示した凝固曲線と融解曲線から、凝固、融解ピークのピークトップの温度(それぞれ、T
peak,f、T
peak,m)を求め、また凝固、融解潜熱(それぞれΔH
f、ΔH
m)を求め、その結果を以下の表8及び
図14に示した。
【0075】
【0076】
〔考察〕
脂肪酸の反応率(YFA)が0.80以上であれば、DSC曲線においてピークが単一になりやすく、また相変化開始点(Tonset)と相変化終了点(Toffset)の温度間隔が狭いことから、当該ピークが大きくなりやすいので、目的の温度帯での蓄熱蓄熱性能が高いものとなる。
また前記実験例4を考慮すれば、脂肪酸エステルの組み合わせとして、パルミチン酸メチルとステアリン酸メチルの組み合わせより、パルミチン酸メチルとパルミチン酸エチルの組み合わせの方が、DSC曲線において、より上記の良いピークになる傾向が高いことを確認した。
【実験例6】
【0077】
この実験では、2種類の脂肪酸を使用して、前記実験例3と同様の処理により、エステル化実験を行い、生成物の熱分析を行った。即ち、パルミチン酸(PA)、ステアリン酸(SA)の混合脂肪酸とエタノールを用いてエステル化実験を行い、その生成物の熱分析を行った。なお、この実験例における分析装置は前記実験例3と同じである。
【0078】
〔エステル化実験〕
パルミチン酸は、東京化成工業社製の製品名3ZINJ(純度97.9%、256.4 g/mol)を使用し、ステアリン酸は、東京化成工業社製の製品名FL3YJ(純度97.0%、 284.48g/mol1)を使用し、エタノールはJapan Alcohol Corp., Ltd.,社製のもの( ≧99vol%、46.07g/mol1)を使用した。その他、強酸性樹脂やエステル化の実験条件は前記実験例3と同じである。混合脂肪酸は、質量基準でPA:SA=80mol%:20mol%とした。
【0079】
特に、エステル化実験で使用した反応液組成(仕込み量)は、パルミチン酸(PA):54.1g(脂肪酸モル比:0.800)、ステアリン酸(SA):15.0g(脂肪酸モル比:0.200)、エタノール:25.3g、強酸性樹脂触媒(三菱化学社製の製品名「Diaion PK208LH」):47.1gを使用した。
【0080】
そしてエステル化反応を行い、反応開始から12時間までは1時間毎にサンプリングし、更に反応開始後28時間後にサンプリングを行い、実験例3と同様にして脂肪酸エステル(パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、及び全エステル)の濃度と反応率を求めた。
【0081】
〔熱分析実験〕
実験例3と同様に、上記エステル化実験における各サンプルを示差走査熱量計(DSC)で測定し、各反応率(脂肪酸の反応率:Y
FA)における凝固曲線と融解曲線を得た。その結果を
図15に示す。また、この
図15に示した凝固曲線と融解曲線から、凝固、融解ピークのピークトップの温度(それぞれ、T
peak,f、T
peak,m)を求め、また凝固、融解潜熱(それぞれΔH
f、ΔH
m)を求め、その結果を以下の表9及び
図16に示した。
【0082】
【0083】
〔考察〕
脂肪酸の反応率(YFA)が0.80以上であれば、DSC曲線においてピークが単一になりやすく、また相変化開始点(Tonset)と相変化終了点(Toffset)の温度間隔が狭いことから、当該ピークが大きくなりやすいので、目的の温度帯での蓄熱蓄熱性能が高いものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の潜熱蓄熱材組成物、及び潜熱蓄熱特性制御方法は、建材用蓄熱シートなどの建築材料の他、繊維製品などの他、任意の温度域における熱的安定を必要とするなどの各種分野で使用する事ができる。また、本発明の潜熱蓄熱材組成物、及び潜熱蓄熱特性制御方法は、15℃~25℃の生活温度域における潜熱蓄熱特性を得る他、凍結温度域(低温温度域)、或いは加熱温度域(高温温度域)などの、広範な温度域において熱的安定性を得る為に使用する事ができる。