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特許7504490重度腎不全に罹患するネコ科動物における尿毒症の悪化を抑制するための剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】重度腎不全に罹患するネコ科動物における尿毒症の悪化を抑制するための剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20240617BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240617BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
A61K38/17
A61K48/00
A61P13/12
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022139482
(22)【出願日】2022-09-01
(65)【公開番号】P2024034914
(43)【公開日】2024-03-13
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】521558592
【氏名又は名称】合同会社AiMIYA
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100170184
【弁理士】
【氏名又は名称】北脇 大
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】新井 郷子
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/119253(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/079869(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Apoptosis inhibitor of macrophage(AIM)、AIMの生物学的活性を有するAIM断片、又は該AIM又はAIM断片をコードする核酸を含む、重度腎不全に罹患するネコ科動物における尿毒症の悪化を抑制するための剤であって、重度腎不全が、血中のインドキシル硫酸の濃度が5μg/mL以上、且つ、血中の無機リンの濃度が7.5 mg/dL以下で定義され、且つ、
AIMの前記生物学的活性が、以下の群から選択されるいずれか一つ以上である、剤:
<群>
・マクロファージへのエンドサイトーシス活性、
・マクロファージのアポトーシス抑制活性、
・動脈硬化の維持/促進活性、
・脂肪細胞分化抑制活性、
・脂肪細胞の脂肪滴融解活性、
・脂肪細胞縮小活性、
・CD36結合活性、
・脂肪細胞へのエンドサイトーシス活性、
・FAS結合活性、
・FAS機能抑制活性、抗肥満活性、
・脂肪肝、NASH、肝硬変または肝がんの予防もしくは治療活性、及び、
・急性腎不全、慢性腎炎、慢性腎不全、ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症、腎硬化症、IgA腎症、高血圧性腎症、膠原病に伴う腎症もしくはIgM腎症の予防または治療活性
【請求項2】
Apoptosis inhibitor of macrophage(AIM)、AIMの生物学的活性を有するAIM断片、又は該AIM又はAIM断片をコードする核酸を含む、重度腎不全に罹患するネコ科動物における血中の尿毒素の濃度を低減するための剤であって、重度腎不全が、血中のインドキシル硫酸の濃度が5μg/mL以上、且つ、血中の無機リンの濃度が7.5 mg/dL以下で定義され、且つ、
AIMの前記生物学的活性が、以下の群から選択されるいずれか一つ以上である、剤:
<群>
・マクロファージへのエンドサイトーシス活性、
・マクロファージのアポトーシス抑制活性、
・動脈硬化の維持/促進活性、
・脂肪細胞分化抑制活性、
・脂肪細胞の脂肪滴融解活性、
・脂肪細胞縮小活性、
・CD36結合活性、
・脂肪細胞へのエンドサイトーシス活性、
・FAS結合活性、
・FAS機能抑制活性、抗肥満活性、
・脂肪肝、NASH、肝硬変または肝がんの予防もしくは治療活性、及び、
・急性腎不全、慢性腎炎、慢性腎不全、ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症、腎硬化症、IgA腎症、高血圧性腎症、膠原病に伴う腎症もしくはIgM腎症の予防または治療活性
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重度腎不全に罹患するネコ科動物における尿毒症の悪化を抑制するための剤等に関し、詳細には、Apoptosis inhibitor of macrophage (AIM)を含む、重度腎不全に罹患するネコ科動物の尿毒症の悪化を抑制するための剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
Apoptosis inhibitor of macrophage (AIM、CD5 antigen-like(CD5L)とも呼ばれる)は、組織マクロファージによって生産される血中タンパク質であり、マクロファージの生存を支持する物質として本発明者らが初めて同定したタンパク質である。AIMは今や多くの疾患における修復プロセスを誘導する分子として認識されている(非特許文献1~3)。AIMは3つのシステインリッチドメイン(SRCRドメインと称される)からなり、カルボキシ末端にある3つ目のSRCRドメイン内に、ユニークな正電荷を帯びたアミノ酸クラスターが存在する。このクラスターは、その表面が高レベルのホスファチジルセリンの露出により強く負に帯電している死細胞と電荷ベースの相互作用を形成する(非特許文献1、2)。AIMは複数のスカベンジャー受容体を介して貪食細胞に効率よく取り込まれることから、この結合は貪食細胞による死細胞の貪食を強く亢進する(非特許文献3)。
【0003】
ヒトにおいてAIMは通常はIgM五量体と結合した状態で存在しているが、急性腎障害等が生じるとIgM五量体から分離してフリーAIMとなり、死細胞やデブリと結合することでこれらのクリアランスを促進させる。かかるメカニズムは哺乳動物の多くにおいて保存されているが、ネコ科動物においては、AIMとIgM五量体との結合が非常に強固であるために、かかるメカニズムが十分に機能しないことが知られている(非特許文献4)。従って、ネコ科動物では腎組織における死細胞デブリのクリアランスが十分行われない。その結果、ネコ科動物は加齢とともに腎組織に死細胞デブリが蓄積することによって腎機能が低下し、最終的に重度の慢性腎不全を発症し、その結果、尿毒症を発症して死に至る。
【0004】
本発明者らは、このような背景を考慮して、AIMを投与することによるヒトやネコ科動物の腎疾患の治療又は予防手段を報告している(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、大部分の腎機能が失われた重度腎不全の場合、仮にAIMを投与したとしても腎機能の回復は期待できないため尿毒症の進行を抑えることができず、その結果、重度腎不全に罹患したネコ科動物の尿毒症の発症や進行を抑制できる効果的な方法は存在しないと考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2015/119253号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Arai, S. et al., Nat Med. 2016 Feb;22(2):183-93.
【文献】Tomita, T. et al. Sci Rep. 2017 Jul 25;7(1):6450.
【文献】Arai, S. and Miyazaki, T. Semin Immunopathol. 2018 Nov;40(6):567-575
【文献】Sugisawa R. et al., Sci Rep. 2016 Oct 12;6:35251
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、重度腎不全に罹患するネコ科動物における尿毒症の悪化を抑制し得る手段の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、腎機能の回復が見込めない重度腎不全のネコに対してAIMを投与すると、腎機能が改善しないにもかかわらず、血中の各種尿毒素の濃度が低下し、その結果、重度腎不全に罹患するネコにおける尿毒症の悪化を抑制できることを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
[1]
Apoptosis inhibitor of macrophage(AIM)、AIMの生物学的活性を有するAIM断片、又は該AIM又はAIM断片をコードする核酸を含む、重度腎不全に罹患するネコ科動物における尿毒症の悪化を抑制するための剤であって、重度腎不全が、血中のインドキシル硫酸の濃度が5μg/mL以上、且つ、血中の無機リンの濃度が7.5 mg/dL以下で定義される、剤。
[2]
Apoptosis inhibitor of macrophage(AIM)、AIMの生物学的活性を有するAIM断片、又は該AIM又はAIM断片をコードする核酸を含む、重度腎不全に罹患するネコ科動物における血中の尿毒素の濃度を低減するための剤であって、重度腎不全が、血中のインドキシル硫酸の濃度が5μg/mL以上、且つ、血中の無機リンの濃度が7.5 mg/dL以下で定義される、剤。
[3]
Apoptosis inhibitor of macrophage(AIM)、AIMの生物学的活性を有するAIM断片、又は該AIM又はAIM断片をコードする核酸を含む、哺乳動物における血中の尿毒素の濃度を低減するための剤。
[4]
哺乳動物がヒト、ウシ、サル、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、又はハムスターである、[3]記載の剤。
[5]
哺乳動物がヒトである、[3]記載の剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、腎機能の回復が見込めない重度腎不全に罹患するネコ科動物における尿毒症の悪化を抑制することができる。また、本発明によれば、腎機能の回復が見込めない重度腎不全に罹患するネコ科動物の延命が可能となる。また、本発明によれば、腎機能の回復が見込めない重度腎不全に罹患するネコ科動物における血中の尿毒素の濃度を低減することができる。また、本発明によれば、哺乳動物における血中の尿毒素の濃度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、重度腎不全(ステージ3b)に罹患するネコにAIMを投与したときの生存率を生存曲線として示した図である。(左)最短の観察期間が340日であるため340日までの生存曲線を作成した。(右)500日までの生存曲線。観察期間が500日に満たない個体は500日生存すると仮定して生存曲線を作成した。投与開始平均年齢は、コントロール群(n=9):14才、AIM投与群(n=6):16才である。
図2図2は、AIM投与群とコントロール群のDay0及びDay70の時点における血中のCre濃度を示す図である。エラーバーはS.D.を意味する。Two-way repeated measures ANOVA及びBonferroni's post-hoc testを用いて統計解析を行った。
図3図3は、AIM投与群とコントロール群のDay0及びDay70の時点における血中のIP濃度を示す図である。エラーバーはS.D.を意味する。Two-way repeated measures ANOVA及びBonferroni's post-hoc testを用いて統計解析を行った。
図4図4は、AIM投与群とコントロール群のDay0及びDay70の時点における血中のSAA濃度を示す図である。エラーバーはS.D.を意味する。Two-way repeated measures ANOVA及びBonferroni's post-hoc testを用いて統計解析を行った。
図5図5は、AIM投与群とコントロール群のDay0及びDay70の時点における血中のIS濃度を示す図である。エラーバーはS.D.を意味する。Two-way repeated measures ANOVA及びBonferroni's post-hoc testを用いて統計解析を行った。
図6図6は、健常ネコの血清、ステージ3bのネコの血清、AIM又はPBSを2週間おきに計6回静脈投与した後のステージ3bのネコの血清(Day70)、及び、AIMの投与終了後50日後(Day120)のステージ3bのネコの血清を、GC-Mass spectrometerを用いて解析した結果を示す図である。本図では、代表的な尿毒素として、グルカル酸、メソエリトリトール、チオジグリコール酸、アコニット酸、及びグルクロン酸を示した。縦軸は、健常ネコでの値を1としたときのFold changeである。
図7図7は、健常ネコの血清、ステージ3bのネコの血清、AIM又はPBSを2週間おきに計6回静脈投与した後のステージ3bのネコの血清(Day70)、及び、AIMの投与終了後50日後(Day120)のステージ3bのネコの血清を、LC-Mass spectrometerを用いて解析した結果を示す図である。本図では、ネコにおける全身炎症マーカーであるSAAのほか、Apolipoprotein B、Vacuolar protein sorting-associated protein 53 homolog、Anionic trypsin、Galectin-3-binding protein、及びLipopolysaccharide-binding proteinの結果のみを示した。縦軸は、健常ネコでの値を1としたときのFold changeである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
[定義]
[重度腎不全]
本明細書において、ネコ科動物における「重度腎不全」とは、「ネコ科動物における血中のインドキシル硫酸の濃度が5μg/mL以上、且つ、血中の無機リンの濃度が7.5 mg/dL以下」と定義する。また、一態様において、ネコ科動物における重度腎不全は、「ネコ科動物における血中のインドキシル硫酸の濃度が5μg/mL以上、且つ、血中の無機リンの濃度が6.8 mg/dL以下」と定義されてもよい。このように定義される腎不全に罹患するネコ科動物は、通常、腎機能の大部分(約80~90%)が失われている状態を有する。
尚、「ネコ科動物における血中のインドキシル硫酸の濃度が5μg/mL以上、且つ、血中の無機リンの濃度が7.5 mg/dL以下」及び「ネコ科動物における血中のインドキシル硫酸の濃度が5μg/mL以上、且つ、血中の無機リンの濃度が6.8 mg/dL以下」は、いずれも、国際獣医腎臓病研究グループ(International Renal Interest Society, IRIS)が提供するネコ科動物(特にイエネコ)の慢性腎疾患のステージングにおいては、ステージ3の後期に相当する状態である。尚、IRISステージングにおいては、腎機能の95%程度が失われた状態がステージ4と分類される。
【0015】
[ネコ科動物]
本明細書において、「ネコ科動物」とは、ネコ科(Felidae)に分類される動物を意味する。ネコ科動物としては、例えば、ライオン(Panthera leo)、ヒョウ(Panthera pardus)、トラ(Panthera tigris)、ユキヒョウ(Panthera uncia)、ジャガー(Panthera onca)、ウンピョウ(Neofelis nebulosa)、スンダウンピョウ(Neofelis diardi)、クーガー(Puma concolor)、チーター(Acinonyx jubatus)、ジャガランディ(Herpailurus yagouaroundi)、アフリカゴールデンキャット(Caracal aurata)、カラカル(Caracal caracal)、サーバル(Leptailurus serval)、ボルネオヤマネコ(Catopuma badia)、アジアゴールデンキャット(Catopuma temminckii)、マーブルキャット(Pardofelis marmorata)、コロコロ(Leopardus colocola)、ジョフロイネコ(Leopardus geoffroyi)、コドコド(Leopardus guigna)、サザンタイガーキャット(Leopardus guttulus)、アンデスネコ(Leopardus jacobita)、オセロット(Leopardus pardalis)、ジャガーネコ(Leopardus tigrinus)、マーゲイ(Leopardus wiedii)、カナダオオヤマネコ(Lynx canadensis)、オオヤマネコ(Lynx lynx)、スペインオオヤマネコ(Lynx pardinus)、ボブキャット(Lynx rufus)、ベンガルヤマネコ(Prionailurus bengalensis)、ジャワヤマネコ(Prionailurus javanensis)、マレーヤマネコ(Prionailurus planiceps)、サビイロネコ(Prionailurus rubiginosus)、スナドリネコ(Prionailurus viverrinus)、マヌルネコ(Otocolobus manul)、ハイイロネコ(Felis bieti)、イエネコ(Felis catus)、ジャングルキャット(Felis chaus)、リビアヤマネコ(Felis lybica)、スナネコ(Felis margarita)、クロアシネコ(Felis nigripes)、ヨーロッパヤマネコ(Felis silvestris)、及び、これらの亜種が例示されるが、これらに限定されない。
【0016】
[尿毒素]
本明細書において、「尿毒素」とは、慢性腎臓病/腎不全が進行するにつれて、血中における濃度が上昇する様々な分子を意味することとする。本明細書における「尿毒素」としては、例えば、インドキシル硫酸(indoxyl sulfate)、無機リン(inorganic phosphorus)、グルカル酸(glucaric acid)、メソエリトリトール(meso-Erythritol)、チオジグリコール酸(thiodiglycolic acid)、アコニット酸(aconitic acid)、グルクロン酸(glucuronic acid)、2-ヒドロキシイソ吉草酸(2-Hydroxyisovaleric acid)、ガラクツロン酸(galacturonic acid)、ホモゲンチジン酸(homogentisic acid)、イノシトール(Inositol)、尿素(urea)、ホスホン酸(phosphonic acid)、アラビノース(arabinose)、マンノース(mannose)、アラビトール(arabitol)、SAA(serum amyloid A protein)、アポリポプロテインB(apolipoprotein B)、KIAA0100、Vacuolar protein sorting-associated protein 53 homolog、アニオン性トリプシン(Anionic trypsin)、IgH可変領域(IgH variable region)、ガレクチン3結合タンパク質(galectin-3-binding protein)、Igλ可変領域(Ig lambda variable region)、凝固第IX因子(coagulation factor IX)、及び、ホスホグリセリン酸ムターゼ(phosphoglycerate mutase)等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0017】
1.重度腎不全に罹患するネコ科動物における尿毒症の悪化を抑制するための剤
本発明は、Apoptosis inhibitor of macrophage (AIM)、AIMの生物学的活性を有するAIM断片、又は該AIM又はAIM断片をコードする核酸を含む、重度腎不全に罹患するネコ科動物における尿毒症の悪化を抑制するための剤(以下、「本発明の尿毒症の悪化抑制剤」と称することがある)を提供する。
【0018】
本発明の尿毒症の悪化抑制剤に含まれるAIMは、配列番号1(ネコ由来AIMタンパク質のアミノ酸配列)で表されるアミノ酸配列と同一、又はこれと実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質であり得る。AIMは、例えば、温血動物(例えば、ネコ、マウス、ヒト、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、サル、チンパンジー、トリなど)の免疫細胞であるマクロファージから単離・精製されるタンパク質であってよい。また、化学合成もしくは無細胞翻訳系で生化学的に合成されたタンパク質であってもよいし、あるいは上記アミノ酸配列をコードする塩基配列を含む核酸を導入された形質転換体から産生される組換えタンパク質であってもよい。本発明の尿毒症の悪化抑制剤に含まれるAIMの由来となる生物種は、適用対象となるネコ科動物の生物種と一致させてもよいし、一致させなくてもよい。例えば、本発明の尿毒症の悪化抑制剤の適用対象がネコである場合、本発明の尿毒症の悪化抑制剤に含まれるAIMは、ネコAIMでも良いし、マウスAIMであってもよい。
【0019】
配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、配列番号1で表されるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の同一性又は類似性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。ここで「同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸及び類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。また、「類似性」とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときにその両方の配列に同一又は類似アミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換はタンパク質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247: 1306-1310(1990)を参照)。
【0020】
本明細書におけるアミノ酸配列の同一性又は類似性は、同一性又は類似性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。アミノ酸配列の同一性又は類似性を決定するための他のアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:5873-5877(1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLAST及びXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら, Nucleic Acids Res., 25:3389-3402(1997))]、Needlemanら, J .Mol. Biol., 48:444-453(1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、Myers及びMiller, CABIOS, 4: 11-17(1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version 2.0)に組み込まれている]、Pearsonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85:2444-2448(1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられ、それらも同様に好ましく用いられ得る。より好ましくは、配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号1で表されるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の同一性を有するアミノ酸配列である。
【0021】
配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質としては、例えば、前記の配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含み、且つ、野生型のAIMが有する生物学的活性と実質的に同質の活性を有するタンパク質が挙げられる。野生型のAIMが有する生物学的活性としては、例えば、マクロファージ(マイクログリアを含む)へのエンドサイトーシス活性、マクロファージのアポトーシス抑制活性、動脈硬化の維持/促進活性、脂肪細胞分化抑制活性、脂肪細胞の脂肪滴融解活性、脂肪細胞縮小活性、CD36結合活性、脂肪細胞へのエンドサイトーシス活性、FAS結合活性、FAS機能抑制活性、抗肥満活性、肝疾患(脂肪肝、NASH、肝硬変、肝がん)の予防又は治療活性、腎疾患(急性腎不全、慢性腎炎、慢性腎不全、ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症、腎硬化症、IgA腎症、高血圧性腎症、膠原病に伴う腎症又はIgM腎症)の予防又は治療活性などが挙げられるが、本発明においては、特にマクロファージへのエンドサイトーシス活性が好ましい指標となり得る。該活性は、本願の実施例において詳述される、インビトロにおけるマクロファージ(又はマイクログリア)の貪食試験を用いて確認することができるが、これに限定されるものではない。また、本明細書において「実質的に同質」とは、それらの活性が定性的(例えば、生理学的又は薬理学的)に同じであることを示す。したがって、前記活性は同等であることが好ましいが、これらの活性の程度(例えば、約0.1~約10倍、好ましくは約0.5~約2倍)やタンパク質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。前記活性の測定は、自体公知の方法に準じて行うことができる。
【0022】
また、本発明に用いられるAIMには、例えば、(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1又は2個以上(好ましくは、1~100個程度、好ましくは1~50個程度、さらに好ましくは1~10個程度、特に好ましくは1~数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列に1又は2個以上(好ましくは、1~100個程度、好ましくは1~50個程度、さらに好ましくは1~10個程度、特に好ましくは1~数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列に1又は2個以上(好ましくは、1~50個程度、好ましくは1~10個程度、さらに好ましくは1~数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1又は2個以上(好ましくは、1~50個程度、好ましくは1~10個程度、さらに好ましくは1~数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、又は(5)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含むタンパク質なども含まれる。上記のようにアミノ酸配列が挿入、欠失又は置換されている場合、その挿入、欠失又は置換の位置は、該タンパク質の所望の生物学的活性(例、マクロファージ(マイクログリアを含む)へのエンドサイトーシス活性)が保持される限り特に限定されない。
【0023】
本発明のAIMは、好ましくは、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するネコAIMタンパク質、あるいは他の哺乳動物におけるそのホモログ[例えば、GenBankにアクセッション番号:AAD01445として登録されているマウスホモログ(配列番号3)等]であり、より好ましくは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるネコAIMタンパク質である。尚、ネコはAIMを2種類(3ドメインタイプ(SRCR1-SRCR2-SRCR3、配列番号1)と4ドメインタイプ(SRCR1-SRCR1-SRCR2-SRCR3))を有するが、いずれを用いてもよい。
【0024】
本明細書において、タンパク質及びペプチドは、ペプチド標記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)で記載される。配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質をはじめとする、本発明に用いられるAIMは、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO-)、アミド(-CONH2)又はエステル(-COOR)の何れであってもよい。
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
【0025】
本発明に用いられるAIMがC末端以外にカルボキシル基(又はカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化又はエステル化されているものも本発明のタンパク質に含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
【0026】
さらに、本発明に用いられるAIMには、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成し得るN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖タンパク質などの複合タンパク質なども含まれる。
【0027】
本明細書において「AIM」とは、野生型のAIMのみならず、野生型のAIMの生物学的活性と実質的に同質又は向上した活性を有するこれらの改変体等をも含む概念とする。ここで「実質的に同質の活性」とは上記と同意義を示す。また、「実質的に同質の活性」の測定はAIMの場合と同様に行うことができる。
【0028】
また、本発明の尿毒症の悪化抑制剤の成分としては、AIMのみならず、AIMの生物学的活性を有するAIM断片を用いることもできる。AIM断片が野生型AIMの生物学的活性を有するか否かは、前記した方法により決定すればよい。
【0029】
AIM断片の一例としては、例えば、インタクトなAIMタンパク質は、システインを多く含む3つのSRCR(Scavenger-Receptor Cysteine-Rich)ドメイン含んでいることから、それぞれのSRCRドメインを、野生型AIMが有する生物学的活性と実質的に同質の活性を有するAIM断片の例として挙げることができる。より具体的には、例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、SRCR1ドメイン(配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号24~125)、SRCR2ドメイン(配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号139~239)、SRCR3ドメイン(配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号244~346)をそれぞれ含む部分アミノ酸配列やSRCRドメインの任意の組合せを含む部分アミノ酸配列を有するものなどを、AIM断片として用いることができる。野生型AIMの生物学的活性と実質的に同質の活性を有するAIM断片は、上記の機能ドメインを含む限りそのサイズに特に制限はないが、通常20個以上の部分アミノ酸配列を含むもの、好ましくは50個以上の部分アミノ酸配列を含むもの、より好ましくは100個以上の部分アミノ酸配列を含むもの、さらに好ましくは200個以上の部分アミノ酸配列を含むものが挙げられる。該部分アミノ酸配列は一個の連続した部分アミノ酸配列であってもよく、あるいは不連続な複数の部分アミノ酸配列が連結されたものであってもよい。
【0030】
また、本発明に用いられるAIM断片は、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO-)、アミド(-CONH2)又はエステル(-COOR)の何れであってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、AIMについて前記したと同様のものが挙げられる。本発明の部分ペプチドがC末端以外にカルボキシル基(又はカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化又はエステル化されているものも本発明の部分ペプチドに含まれる。この場合のエステルとしては、例えば、C末端のエステルと同様のものなどが用いられる。
【0031】
さらに、本発明に用いられるAIM断片には、上記したAIMと同様に、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基で保護されているもの、N末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基が適当な保護基で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖ペプチドなどの複合ペプチドなども含まれる。
【0032】
本発明に用いられるAIM(AIM断片を含む)は、塩の形態であってもよい。例えば、生理学的に許容される酸(例:無機酸、有機酸)や塩基(例:アルカリ金属塩)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。
【0033】
AIM(AIM断片を含む)は、公知のペプチド合成法に従って製造することもできる。ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。AIMを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とするタンパク質を製造することができる。
ここで、縮合や保護基の脱離は、自体公知の方法、例えば、以下の(1)及び(2)に記載された方法に従って行われる。
(1)M. Bodanszky及びM. A. Ondetti, Peptide Synthesis, Interscience Publishers, New York(1966年)
(2)Schroeder及びLuebke, The Peptide, Academic Press, New York(1965年)
【0034】
このようにして得られたAIMは、公知の精製法により精製単離することができる。ここで、精製法としては、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶、これらの組み合わせなどが挙げられる。
【0035】
上記方法で得られるAIMが遊離体である場合には、該遊離体を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆にAIMが塩として得られた場合には、該塩を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体又は他の塩に変換することができる。
【0036】
さらに、AIMは、それをコードする核酸を含有する形質転換体を培養し、得られる培養物からAIMを分離精製することによって製造することもできる。AIM又はAIM断片をコードする核酸は、DNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAである。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNA又はDNA:RNAのハイブリッドでもよい。一本鎖の場合は、センス鎖(即ち、コード鎖)であっても、アンチセンス鎖(即ち、非コード鎖)であってもよい。
【0037】
AIM(AIM断片を含む)をコードするDNAとしては、ゲノムDNA、温血動物(例えば、ヒト、ウシ、サル、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター、トリなど)のマクロファージ由来のcDNA、合成DNAなどが挙げられる。AIM又はAIM断片をコードするゲノムDNAであれば、前記動物のあらゆる細胞[例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、肝細胞もしくは間質細胞、又はこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくはガン細胞など]もしくはそれらの細胞が存在するあらゆる組織[例えば、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、脂肪組織(例、褐色脂肪組織、白色脂肪組織)、骨格筋など]より調製したゲノムDNA画分を鋳型として用い、Polymerase Chain Reaction(以下、「PCR法」と略称する)によって直接増幅することができ、AIM又はAIM断片をコードするcDNAであれば、マクロファージより調製した全RNAもしくはmRNA画分をそれぞれ鋳型として用い、PCR法及びReverse Transcriptase-PCR(以下、「RT-PCR法」と略称する)によって直接増幅することもできる。あるいは、AIM又はそのペプチド断片をコードするゲノムDNA及びcDNAは、上記したゲノムDNA及び全RNAもしくはmRNAの断片を適当なベクター中に挿入して調製されるゲノムDNAライブラリー及びcDNAライブラリーから、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション法又はPCR法などにより、それぞれクローニングすることもできる。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。
【0038】
AIMをコードする核酸としては、例えば、配列番号2で表される塩基配列と同一又は実質的に同一な塩基配列を含む核酸などが挙げられる。配列番号2で表される塩基配列と実質的に同一な塩基配列を含む核酸としては、例えば、配列番号2で表される塩基配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上の同一性又は類似性を有する塩基配列を含有し、前記したAIMと実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードする核酸などを用いることができる。一態様において、配列番号2で表される塩基配列と実質的に同一な塩基配列を含む核酸は、配列番号2で表される塩基配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上の同一性を有する塩基配列を含有し、且つ、前記したAIMと実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードする核酸である。AIMをコードする核酸には、適用対象となる生物での発現効率を高める目的で、コドン最適化を行った核酸配列等も含まれる。
【0039】
本明細書における塩基配列の同一性又は類似性は、同一性又は類似性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。塩基配列の同一性又は類似性を決定するための他のアルゴリズムとしては、上記したアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムが同様に好ましく例示される。
【0040】
AIMをコードする核酸は、好ましくは配列番号2で表される塩基配列で示されるネコAIMタンパク質をコードする塩基配列を含む核酸あるいは他の哺乳動物におけるそのホモログ[例えば、GenBankにアクセッション番号:AF011428として登録されているマウスホモログ(配列番号4)等]である。
【0041】
さらに、本発明の尿毒症の悪化抑制剤の成分としては、AIM、又はAIMの生物学的活性を有するAIM断片をコードする核酸を用いることもできる。
【0042】
本発明に用いられるAIM又はAIM断片をコードする核酸は、配列番号1で表されるアミノ酸配列の一部と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含むペプチドをコードする塩基配列を含むものであればいかなるものであってもよい。具体的には、AIM断片をコードする核酸としては、例えば、(1)配列番号2で表される塩基配列の部分塩基配列を含む核酸、又は(2)配列番号2で表される塩基配列の部分塩基配列を含む核酸と約60%以上、好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上の同一性又は類似性を有する塩基配列を含み、前記したAIMと実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードする核酸などが用いられる。
【0043】
AIM又はAIM断片をコードする核酸は、該AIM又はAIM断片をコードする塩基配列の一部分を有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅するか、又は適当な発現ベクターに組み込んだDNAを、AIMの一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを標識したものとハイブリダイゼーションすることによってクローニングすることができる。ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(J. Sambrook et al., Cold Spring HarborLab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ストリンジェントな条件に従って行うことができる。
【0044】
ハイストリンジェントな条件としては、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)中45℃でのハイブリダイゼーション反応の後、0.2×SSC/0.1%SDS中65℃での一回以上の洗浄などが挙げられる。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、該ライブラリーに添付された使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
【0045】
AIM又はAIM断片をコードする核酸は、適当なプロモーターを有する発現ベクター等に機能的に連結させてもよい。また、プロモーターに加えて、Poly A付加シグナル、Kozakコンセンサス配列、タグ配列、リンカー配列、及びNLS等の公知の配列を、目的に応じて適宜AIM又はAIM断片をコードする核酸と合わせてウイルスベクター等に搭載してもよい。
【0046】
好ましい一態様において、AIM又はAIM断片をコードする核酸をウイルスベクターに搭載する。好適なウイルスベクターとしては、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス、及びセンダイウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。遺伝子治療における利用を考慮すれば、導入遺伝子を長期にわたり発現させられる点や非病原性ウイルス由来で安全性が高い等の理由から、アデノ随伴ウイルスが好ましい。また、アデノ随伴ウイルスの血清型としては、本発明の所望の効果が得られる限りは、特に限定されず、血清型1、2、3、4、5、6、7、8、9、及び10のいずれを用いてもよい。なお、本発明に用いられるウイルスベクターには、その派生物も含まれる。ウイルスベクターの派生物とは、カプシドを改変したものなどが公知であり、特にAAVの派生物としては例えば、WO2012/057363等に開示されるものが例示されるがこれらに限定されない。
【0047】
AIM又はAIM断片をコードする核酸を含むウイルスベクターは、公知の方法により調製することができる。簡潔には、AIM又はAIM断片をコードする核酸と、必要に応じて、所望の機能を有する核酸を挿入したウイルス発現用プラスミドベクターを調製し、これを適切な宿主細胞にトランスフェクトし、本発明のポリヌクレオチドを含むウイルスベクターを一過性に産生させ、これを回収すればよい。
【0048】
例えばAAVベクターを調製する場合、まず、野生型のAAVのゲノム配列のうち両端のITRを残し、それ以外のRepタンパク質及びカプシドタンパク質をコードするDNAの代わりに、AIM又はAIM断片をコードする核酸を挿入したベクタープラスミドを作成する。一方で、ウイルス粒子の形成に必要とされるRepタンパク質及びカプシドタンパク質をコードするDNAは、別のプラスミドに挿入する。さらに、AAVの増殖に必要なアデノウイルスのヘルパー作用を担う遺伝子(E1A、E1B、E2A、VA、及びE4orf6)を含むプラスミドを、アデノウイルスヘルパープラスミドとして作成する。これら3種のプラスミドを、宿主細胞にコトランスフェクションすることにより、該細胞内において組換えAAV(即ち、AAVベクター)が産生されるようになる。宿主細胞としては、前記ヘルパー作用を担う遺伝子の遺伝子産物(タンパク質)のうちの一部を供給し得る細胞(例えば、293細胞等)を用いることが好ましく、そのような細胞を用いる場合には、該宿主細胞より供給され得るタンパク質をコードする遺伝子を、前記アデノウイルスヘルパープラスミドに搭載する必要がない。産生されたAAVベクターは核内に存在するため、宿主細胞を凍結融解して回収し、塩化セシウムを用いた密度勾配超遠心法やカラム法等により、分離及び精製を行うことにより、所望のAAVベクターが調製される。
【0049】
本発明の尿毒症の悪化抑制剤の投与経路は、特に限定されない。好ましい投与経路としては、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0050】
本発明の尿毒症の悪化抑制剤が非経口投与用に製剤化される場合、例えば、注射剤、坐剤等として製剤化できる。注射剤は、静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、AIM、AIMをコードする核酸、及び/又はAIMをコードする核酸を搭載したウイルス等の成分を通常注射剤に用いられる無菌の水性液、または油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製できる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。
【0051】
本発明の尿毒症の悪化抑制剤の対象への投与量は、所望の効果を得られる限り特に限定されず、有効成分の種類及び形態、対象の年齢及び体重、投与スケジュール、並びに投与方法等に応じて適宜最適化すればよい。
【0052】
本発明の尿毒症の悪化抑制剤を対象に投与するタイミングは所望の効果を得られる限り特に限定されない。
【0053】
本発明の尿毒症の悪化抑制剤は、重度腎不全を治療するための他の治療剤や食餌療法等と併用してもよい。
【0054】
本発明の尿毒症の悪化抑制剤は、重度腎不全に罹患するネコ科動物における尿毒症の悪化を抑制することができる。本明細書において「尿毒症(uremia)」とは、腎機能の低下により、尿中に排泄されるべき代謝老廃物(以下に「尿毒素」として詳述する)が血液中に蓄積される状態を意味する。尿毒症の症状には以下が挙げられるが、これらに限定されない:
中枢神経:意識障害、不眠、記憶障害、頭痛、混乱、けいれんなど
末梢神経:末梢神経障害、足の不快感など
消化管:食欲不振、嘔吐、腹部膨満など
肺:呼吸困難、肺水腫、低酸素血症など
心臓又は血管:動悸、高血圧など
代謝:カリウム上昇、アシドーシスなど
眼:視力障害など
血液:貧血など
皮膚:皮下出血、浮腫、色素沈着、掻痒感など。
【0055】
また、本明細書において「尿毒症の悪化を抑制する」とは、ある時点において、重度腎不全に罹患するネコ科動物において観察された尿毒症の症状が、一定期間経過後に、さらに悪い状態へと移行しないことを意味する。「尿毒症の悪化を抑制する」とは「尿毒症の進行を抑制する」とも言い換えられる。
【0056】
また、本明細書において、「尿毒症の悪化を抑制する」とは、尿毒症の症状を悪化させないことのみならず、尿毒症の悪化の速度を遅らせることをも包含する。従って、本発明の尿毒症の悪化抑制剤は、対象において尿毒症を悪化させない目的で使用され得るほか、対象において尿毒症の悪化を遅らせる目的でも使用され得る。加えて、「尿毒症の悪化を抑制する」とは、一態様において、尿毒症の発症を抑制することも包含する。従って、本発明の尿毒症の悪化抑制剤は、対象における尿毒症を発症させない目的で使用され得るほか、対象における尿毒症の発症の時期を遅らせる目的でも使用され得る。
【0057】
ところで、ネコ科動物は、重度腎不全の進行に伴って尿毒症が進行し、IRISステージ4に分類される状態に到達すると、平均的には、数か月以内(平均103日)で死亡することが報告されている。しかしながら、本発明の尿毒症の悪化抑制剤を適用したIRISステージ3後期のネコは、IRISステージ4への移行が抑制され、その結果、生存日数が大幅に延長される。かかる状況を考慮すれば、本発明は、重度腎不全に罹患するネコ科動物の延命を可能にするとも言い換えられる。従って、一態様において、本発明の尿毒症の悪化抑制剤は、重度腎不全に罹患するネコ科動物の延命剤と言い換えることもできる。
【0058】
また、以下の実施例において示される通り、重度腎不全に罹患するネコへAIMを投与すると、当該ネコにおいて、腎機能の回復を伴わずに血中の尿毒素の濃度を低減させることができる。従って、本発明は、Apoptosis inhibitor of macrophage(AIM)、AIMの生物学的活性を有するAIM断片、又は該AIM又はAIM断片をコードする核酸を含む、重度腎不全に罹患するネコ科動物における血中の尿毒素の濃度を低減するための剤(以下、「本発明の尿毒素低減剤」と称することがある)も提供する。
【0059】
本発明の尿毒素低減剤において用いられるAIM等や適用対象となるネコ科動物等は、本発明の尿毒症の悪化抑制剤において説明したものと同様である。
【0060】
本明細書において「尿毒素」とは、通常は、腎臓の糸球体でろ過され、尿中に排泄される物質を意味する。本明細書において「尿毒素」は、生体に直接的に悪影響を与える物質のみならず、生体に直接的に悪影響を与えないが、腎機能の低下の結果として血中濃度が高まる物質(例えば、毒性を有する物質の前駆体等)をも包含する概念である。本発明の尿毒素低減剤により、血中濃度を低減させることができる尿毒素としては、例えば、インドキシル硫酸(indoxyl sulfate)、無機リン(inorganic phosphorus)、グルカル酸(glucaric acid)、メソエリトリトール(meso-Erythritol)、チオジグリコール酸(thiodiglycolic acid)、アコニット酸(aconitic acid)、グルクロン酸(glucuronic acid)、2-ヒドロキシイソ吉草酸(2-Hydroxyisovaleric acid)、ガラクツロン酸(galacturonic acid)、ホモゲンチジン酸(homogentisic acid)、イノシトール(Inositol)、尿素(urea)、ホスホン酸(phosphonic acid)、アラビノース(arabinose)、マンノース(mannose)、アラビトール(arabitol)、SAA(serum amyloid A protein)、アポリポプロテインB(apolipoprotein B)、KIAA0100、Vacuolar protein sorting-associated protein 53 homolog、アニオン性トリプシン(Anionic trypsin)、IgH可変領域(IgH variable region)、ガレクチン3結合タンパク質(galectin-3-binding protein)、Igλ可変領域(Ig lambda variable region)、凝固第IX因子(coagulation factor IX)、及び、ホスホグリセリン酸ムターゼ(phosphoglycerate mutase)等が挙げられるがこれらに限定されない。本発明の尿毒素低減剤の投与により、これらの尿毒素のうちの少なくとも1、好ましくは、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、より好ましくは、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、さらに好ましくはこれらすべての血中濃度を低減させ得る。
【0061】
ところで、重度の腎不全に罹患するネコに対してAIMを投与することで、腎機能の改善を伴わずに、血中の尿毒素の濃度を低減させることができる事実に基づけば、AIMの投与による血中の尿毒素の濃度の低減は、腎機能を介さないメカニズムに拠るものであることは明らかである。従って、AIMは、何らかのメカニズムを介して、直接的に尿毒素の排出を促進しているものと考えられる。かかる事実を考慮すれば、AIMの血中尿毒素の低減作用は腎不全の状態や動物種に依存しないと考えられる。従って、一態様において、本発明は、Apoptosis inhibitor of macrophage(AIM)、AIMの生物学的活性を有するAIM断片、又は該AIM又はAIM断片をコードする核酸を含む、哺乳動物における血中の尿毒素の濃度を低減するための剤(以下、「本発明の哺乳動物の尿毒素低減剤」と称することがある)を提供する。
【0062】
本発明の哺乳動物の尿毒素低減剤が適用され得る哺乳動物としては、AIMによる尿毒素の低減が実現できる哺乳動物であれば、特に限定されない。哺乳動物としては、例えば、ヒト、ウシ、サル、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、又はハムスターなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
本発明の哺乳動物の尿毒素低減剤において用いられるAIM等は、本発明の尿毒症の悪化抑制剤において説明したものと同様である。
【0064】
好ましい一態様において、本発明の哺乳動物の尿毒素低減剤は、透析を必要とする程度の、末期腎不全に罹患する哺乳動物に適用され得る。本発明の哺乳動物の尿毒素低減剤を投与することにより、当該哺乳動物の血中の尿毒素の濃度を低減することができるため、透析を行う頻度を低減させることが可能となる。尚、本実施形態において、哺乳動物は、好ましくはヒト又はイヌであり、特に好ましくはヒトである。ヒトに対しては、ヒトのAIM(配列番号5)又はヒトのAIMをコードする核酸(配列番号6)を用いることが好ましい。上述した通り、これらはAIMの生物学的な活性を保持する限り、改変体であってもよい。
【0065】
例えば、ヒトAIMの改変体の一例としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない。
本発明の変異型ヒトAIMは、好ましくは、以下の(1b)から(5b)のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。
(1b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号191のシステインがセリンに置換されたアミノ酸配列。
(2b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号300のシステインがセリンに置換されたアミノ酸配列。
(3b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号191のシステインがセリンに置換され、かつ配列番号1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号300のシステインがセリンに置換されたアミノ酸配列。
(4b)(1b)から(3b)のいずれか1つのアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつ(1b)から(3b)のいずれか1つのアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換されたセリンは残されている、アミノ酸配列。
(5b)(1b)から(3b)のいずれか1つのアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換されたセリン以外の箇所において、さらに1から数個のアミノ酸を欠失、付加、挿入または置換あるいはその組み合わせを含むアミノ酸配列。
尚、野生型組換えAIMと同等又は向上した機能を有するAIM改変体については、特願2017-220733等に開示されるものを用いることができる。
【0066】
また、別の一態様において、本発明の哺乳動物の尿毒素低減剤は、軽度又は中等度の腎不全に罹患する哺乳動物に投与することもできる。本発明の哺乳動物の尿毒素低減剤を当該哺乳動物に投与することで、低下した腎機能を補助することができる。
【0067】
2.重度腎不全に罹患するネコ科動物における尿毒症の悪化抑制方法
本発明はまた、Apoptosis inhibitor of macrophage (AIM)、AIMの生物学的活性を有するAIM断片、又は該AIM又はAIM断片をコードする核酸を、重度腎不全に罹患するネコ科動物に投与すること含む、重度腎不全に罹患するネコ科動物における尿毒症の悪化を抑制するための方法(以下、「本発明の尿毒症の悪化抑制方法」と称することがある)を提供する。
【0068】
本発明の尿毒症の悪化抑制方法は、本発明の尿毒症の悪化抑制剤を、重度腎不全に罹患するネコ科動物に投与することにより達成される。本発明の尿毒症の悪化抑制方法におけるAIM等や適用対象、投与タイミング等については本発明の尿毒症の悪化抑制剤において説明したものと同様である。
【0069】
一態様において、本発明の尿毒症の悪化抑制方法は、重度腎不全に罹患するネコ科動物の延命方法とも言い換えられる。
【0070】
また、本発明は、本発明の尿毒素低減剤を、重度腎不全に罹患するネコ科動物へ投与することを含む、ネコ科動物における血中の尿毒素の濃度を低減する方法(以下、「本発明の尿毒素の低減方法」と称することがある)を提供する。
【0071】
また、別の一態様において、本発明は、本発明の哺乳動物の尿毒素低減剤を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物の血中の尿毒素の濃度を低減する方法を提供する。
【0072】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例
【0073】
[実施例1]重度腎不全に罹患するネコへのAIMの投与
重度腎不全に罹患するネコに対してAIMを投与し、その影響を確認した。本試験に用いたネコ(n=15)は、次の条件を満たす状態のネコとした:
(1)血中のインドキシル硫酸(IS)の濃度が5μg/mL以上、且つ
(2)血中の無機リン(IP)の濃度が7.5mg/dL以下。
【0074】
インドキシル硫酸は尿毒素の一つとして知られており、ネコにおける腎不全の状態を示すマーカーとして公知である。(1)と(2)によって定義される腎不全の状態は、IRIS staging ではステージ3の後期に相当する腎不全の状態(換言すれば、腎機能の大部分(90%程度)が失われており、中等度の尿毒症を発症している状態)を意味する。尚、本明細書において、(1)と(2)の条件を満たす腎不全の状態を「ステージ3b」又は「stage 3b」等と称することがある。
【0075】
ステージ3bに分類される15匹のネコをコントロール群(n=9)とAIM投与群(n=6)に振り分け、AIM投与群にはリコンビナントマウスAIMを2 mg/dayを1~数時間かけてゆっくり静脈投与した。これを1クールとして、ネコが死亡するまで、2週間に1回、計6回AIM投与を継続した。一方で、コントロール群にはAIMを投与しなかった。AIM投与群とコントロール群の生存率を図1に示す。
【0076】
図1に示される通り、AIM投与群はコントロール群と比較して、生存率が顕著に改善した。
【0077】
また、各群における、観察0日目(D0)と観察70日目(D70)における、Cre(腎機能マーカー)、IP(尿毒素)、SAA(炎症マーカー)、及びIS(尿毒素)を測定した結果を図2~5に示す。
【0078】
図2に示される通り、AIMを投与しても、D0とD70においてCre値に変化はなかった。これは、AIMの投与により腎機能の更なる悪化は抑えられるが、腎機能は改善されないことを意味する。
一方で、尿毒素であるIPやISの血中濃度は、腎機能が回復していないにもかかわらず、AIMの投与により上昇が抑制されていた(図3及び図5)。
また、炎症マーカーであるSAAについてもAIMの投与により有意に濃度が低下した(図4)。
【0079】
以上から、ステージ3bの重度腎不全に罹患するネコにAIMを投与すると、腎機能を改善できないにもかかわらず、重度腎不全に罹患するネコにおける血中の尿毒素の濃度を顕著に低下させることができ、その結果、尿毒症の悪化を抑制できることが示された。
【0080】
[実施例2]AIM投与による尿毒素の低減
健常ネコ、ステージ3bのネコ、リコンビナントマウスAIM(2 mg)又はPBSを2週間おきに計6回静脈投与した後のステージ3bのネコ(Day 70)それぞれ6匹分、さらにリコンビナントマウスAIM投与終了後50日後(Day 120)のネコ3匹分の血清のミックスを、GC-mass spectrometer (MS)及びLC-MSにて解析した。
尚、GC-MS及びLC-MSの解析は以下の方法及び条件で行った。
【0081】
[GC-MSの解析方法]
データベース(SHIMADZU Smart Metabolites Database)に収載されている401種類の成分(メトオキシム化体又はTMS誘導体化物の異性体を含めると568種類の化合物)のうち、試料溶液でピークが検出された化合物をピックアップし、これらの化合物のピーク面積をIS(2-イソプロピルリンゴ酸-3TMS)のピーク面積で割り、IS補正値を算出した。群間比較を行うため、各化合物のIS補正値について、健常ネコの値を1とし、各群の相対値をグラフにした。
【0082】
[LC-MS TMT比較解析条件]
比較解析は、各タンパク質において特異な配列のペプチド(Unique peptide)及びRazor Peptides(*)を対象として解析を実施した。各サンプル間のタンパク質量比Abundance Ratioにおいては、それぞれ全タンパク質のAbundance Ratioの中央値にて除することにより規格化した結果を示した。群間比較を行うため、健常ネコの値を1とし、各群の相対値をグラフにした。
(*タンパク質間で共有されるペプチドは、同定ペプチドが最も多いタンパク質由来として割り振られ、これらをRazor Peptidesという。)
【0083】
GC-MS及びLC-MSにより得られた代表的な結果を図6及び図7に示す。
【0084】
多数の尿毒素がステージ3bの猫の血中で顕著に上昇(蓄積)しており、rAIM投与後その上昇が抑制され低下していた(Day 70)。なお、これらの尿毒素は、透析を受ける末期腎不全のヒト患者の血中でも同様に上昇する物質であることが確認された(データ示さず)。一方、PBS投与群では蓄積が維持もしくはさらに上昇していた(Day70)。rAIMを投与した猫では、投与終了後50日後(Day120)でもこれらの因子の低値は維持されていた(PBS投与群の3bネコは試験開始後120日までに多数が死亡したためDay120の解析は行わなかった)。全身炎症のマーカーであるSAAでも同様の結果が得られた。
【0085】
これらの結果から、ステージ3bのネコにAIMを投与することにより、血中の尿毒素の濃度を低減させることができること、及び、炎症を極めて効率よく抑えることができることが示された。
理論に拘束されることを望むものではないが、ステージ3bのネコにAIMを投与しても腎機能の改善は見られないことから、AIMによる血中の尿毒素の低減作用は、AIMが直接的に尿毒素に作用し、その結果、当該尿毒素の血中からの排出が促進されている可能性がある。従って、AIMによる血中の尿毒素の濃度の低減は、腎不全のステージやネコに限定されるメカニズムではない可能性が極めて高いと考えられる。従って、AIMの投与による血中の尿毒素の低減は、AIMを有するあらゆる哺乳動物に適用可能であり、また、腎不全のステージも限定されるものではないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、腎機能の回復が見込めない重度腎不全に罹患するネコ科動物における尿毒症の悪化を抑制することができる。また、本発明によれば、腎機能の回復が見込めない重度腎不全に罹患するネコ科動物の延命が可能となる。また、本発明によれば、腎機能の回復が見込めない重度腎不全に罹患するネコ科動物の血中の尿毒素の濃度を低減することができる。従って、本発明は、獣医学分野において極めて有用である。加えて、本発明は、哺乳動物における血中の尿毒素の濃度を低減することができる。従って、例えば、本発明により、透析を必要とするヒト末期腎不全患者における透析の回数を減らすことが可能となり得る。従って、本発明は、ヒトの医療分野においても極めて有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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