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特許7504497加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極、その製造方法及び前記陰極を用いて製造したリチウム硫黄電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極、その製造方法及び前記陰極を用いて製造したリチウム硫黄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240617BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240617BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240617BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240617BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240617BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/38 Z
H01M4/139
H01M10/052
H01M10/0566
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022202706
(22)【出願日】2022-12-20
(65)【公開番号】P2024066376
(43)【公開日】2024-05-15
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】111141393
(32)【優先日】2022-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】504455908
【氏名又は名称】国立成功大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍾 昇恆
(72)【発明者】
【氏名】呉 承哲
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-517656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/38
H01M 4/139
H01M 10/052
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄を担持する前の比表面積が1~100m/gである導電性多孔質基材と、
前記導電性多孔質基材に形成された硫黄層と、を含む加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極であって、
前記陰極は、硫黄担持量が少なくとも3mg/cmであり、硫黄含有量が少なくとも60wt%であり、
前記導電性多孔質基材はエレクトロスピニング繊維カーボン紙である、
加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極。
【請求項2】
前記導電性多孔質基材の単位面積重量は1.0~2.0mg/cmである、請求項1に記載の陰極。
【請求項3】
硫黄を担持する前の前記導電性多孔質基材の平均孔径は10.22nmである、請求項1に記載の陰極。
【請求項4】
エレクトロスピニング法により高分子繊維を製造することでエレクトロスピニング繊維基材を得、前記エレクトロスピニング繊維基材を大気下で安定化した後、窒素雰囲気で加熱し炭化処理を行うことでエレクトロスピニング繊維カーボン紙を得る、基材準備工程と、
硫黄粉を一枚の前記エレクトロスピニング繊維カーボン紙に均等に分散させ、一番上の層にもう一枚の前記エレクトロスピニング繊維カーボン紙を被せ、そして前記二枚のエレクトロスピニング繊維カーボン紙を加熱プレスし、加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極を形成させる、加熱プレス工程と、を含む、
加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極の製造方法。
【請求項5】
前記基材準備工程は、10wt%ポリアクリロニトリルの紡糸溶液を用いて、電圧18~20kV、溶液推進速度1.5mL/minで、ドラムコレクターを使用し回転速度70rpmで紡糸繊維の収集を行い、エレクトロスピニング繊維基材を得る、請求項に記載の陰極の製造方法。
【請求項6】
前記加熱プレス工程は、温度145℃、圧力200psiの条件で行う、請求項に記載の陰極の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の陰極と、電解液とを備え、且つ硫黄に対する前記電解液の比は7~4μL/mgである、リチウム硫黄電池。
【請求項8】
前記リチウム硫黄電池の面積比容量は5.9~4.3mA・h/cmである、請求項に記載のリチウム硫黄電池。
【請求項9】
前記リチウム硫黄電池のエネルギー密度は8.5~11.8mW・h/cmである、請求項に記載のリチウム硫黄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム硫黄電池に用いられる陰極、その製造方法及びリチウム硫黄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム硫黄電池は、近年、リチウム電池に関する研究開発において、発展の可能性があるものと見なされているが、今までのリチウム硫黄電池に関する研究開発の成果には、電池のサイクル寿命が短く、エネルギー密度不足等の欠陥がある。一般的に、電池のサイクル寿命を延ばすため、電池の陰極と高分子セパレータとの間に活性物質トラッピング層を別途設置することで、硫化物の流失を阻止する。
【0003】
また、従来の炭素/硫黄複合陰極の製造方法は、主に硫黄粉や硫黄含有複合材料、導電性カーボンブラック及び粘着剤でスラリーに調製し、前記スラリーをブレードでアルミニウム箔集電体上に塗布し、炭素/硫黄複合陰極を製造する。上記の陰極製造工程にはスラリー混合、電極塗布、極片の加熱乾燥、及び打錠成型が含まれており、工程が複雑であるゆえ、電池の製造工程は時間がかかる。なお、別途添加したトラッピング層の製造によって製造工程のコストと、電池部品及び素子の製造フロー及び難易度も増加する。
【0004】
リチウム硫黄電池の高エネルギー密度を実現するためには、高い硫黄担持量を有する電極が必要であるが、硫黄担持量を向上させると共に、純硫黄の高い絶縁性が障害となる。純硫黄による絶縁性問題を解決するため、陰極の製造工程において大量の導電性カーボンブラックを混入し、硫黄含有複合材料(即ち多孔質炭素、炭素管(カーボンチューブ)、炭素繊維、導電性高分子等を用いる)を製造することはよく見られる解決法であるが、導電性カーボンブラックと他の複合成分の添加は粘着剤を併用する必要があるため、陰極における活性物質の比率が低下し、且つ電極における活性物質の担持量が製造方法によって制限され、向上することができない。別途添加したトラッピング層も電池における活性物質含有量を低下させるため、活性物質含有量を向上させることができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような事情に鑑み、本発明はリチウム硫黄電池に用いられる陰極、その製造方法及びリチウム硫黄電池を提供し、その目的は電池のサイクル寿命を延ばし、活性物質の担持量及びエネルギー密度を高レベルに向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、硫黄を担持する前の比表面積が1~100m/gである導電性多孔質基材と、前記導電性多孔質基材に形成された硫黄層と、を含む加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極であって、前記陰極は、硫黄担持量が少なくとも3mg/cmであり、硫黄含有量が少なくとも60wt%である、加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極である。
【0007】
本発明に係る硫黄担持量は、電池内部に添加された活性物質硫黄の総重量(mg)に定義される。また、電気化学反応の特性及び電池の構造によって、硫黄元素は電池の陰極領域のみに添加するため、陰極領域の硫黄の総重量のみを算出する。一部の実施形態において、本発明の加熱プレス陰極の硫黄担持量は少なくとも3mg/cmであり、少なくとも5mg/cmであることが好ましく、少なくとも8mg/cmであることがより好ましい。一部の実施形態において、本発明の加熱プレス陰極の硫黄担持量は3~15mg/cmであり、5~12mg/cmであることが好ましく、7~10mg/cmであることがより好ましい。一部の実施形態において、本発明の加熱プレス陰極の硫黄担持量は8mg/cmである。
【0008】
一部の実施形態において、本発明の加熱プレス陰極の硫黄含有量は少なくとも60wt%であり、60~95wt%であることが好ましく、70~80wt%であることがより好ましい。一部の実施形態において、本発明の加熱プレス陰極の硫黄含有量は約73wt%である。
【0009】
本発明の加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極は、前記導電性多孔質基材はエレクトロスピニング繊維カーボン紙であることが好ましい。
【0010】
本発明の加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極は、前記導電性多孔質基材の単位面積重量は1.0~2.0mg/cmであることが好ましい。
【0011】
本発明の加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極は、硫黄を担持する前の前記導電性多孔質基材の平均孔径は10.22nmであることが好ましい。
【0012】
本発明の他の一態様は、エレクトロスピニング法により高分子繊維を製造することでエレクトロスピニング繊維基材を得、前記エレクトロスピニング繊維基材を大気下で安定化した後、窒素雰囲気で加熱し炭化処理を行うことでエレクトロスピニング繊維カーボン紙を得る、基材準備工程と、
硫黄粉を一枚の前記エレクトロスピニング繊維カーボン紙に均等に分散させ、一番上の層にもう一枚の前記エレクトロスピニング繊維カーボン紙を被せ、そして前記二枚のエレクトロスピニング繊維カーボン紙を加熱プレスし、加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極を形成させる、加熱プレス工程と、を含む、
加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極の製造方法である。
【0013】
本発明の加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極の製造方法は、前記基材準備工程は、10wt%ポリアクリロニトリルの紡糸溶液を用いて、電圧18~20kV、溶液推進速度1.5mL/minで、ドラムコレクターを使用し回転速度70rpmで紡糸繊維の収集を行い、エレクトロスピニング繊維基材を得ることが好ましい。
【0014】
本発明の加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極の製造方法は、前記加熱プレス工程は、温度145℃、圧力200psiの条件で行うことが好ましい。
【0015】
また、本発明の他の一態様は、前記陰極と、電解液とを備え、且つ硫黄に対する前記電解液の比は7~4μL/mgである、リチウム硫黄電池である。
【0016】
本発明のリチウム硫黄電池は、前記リチウム硫黄電池の面積比容量は5.9~4.3mA・h/cmであることが好ましい。
【0017】
本発明のリチウム硫黄電池は、前記リチウム硫黄電池のエネルギー密度は8.5~11.8mW・h/cmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の陰極で構成されたリチウム硫黄電池によれば、電極活性物質の含有量及び担持量を向上させることができる。本発明における電極活性物質は硫黄粉を採用する。また、本発明の陰極を採用することによれば、集電体及びトラッピング層を別途設置する必要がなく、本発明の陰極は集電体及びトラッピング層の役割を同時に果たすことができる。
【0019】
また、本発明の陰極は加熱プレス法により製造するため、短時間で連続大量に陰極材料を製造でき、製造工程が複雑で且つ集電体及びトラッピング層を別途設置する必要がある先行文献に対し、本発明の製造方法は簡単且つ迅速に生産を行うことができる。
【0020】
本発明のリチウム硫黄電池は、加熱プレス法と低気孔率のエレクトロスピニング繊維カーボン紙との組み合わせで、活性物質及び導電性物質の接合性を有効に向上させ、電解液の用量を減らすことに成功し、7~4μL/mgのみの低い活性物質に対する電解液の比を達成する。先行文献の高すぎる活性物質に対する電解液の比に対し、本発明のリチウム硫黄電池はより優れた電池性能を奏することができる。なお、リチウム硫黄電池における活性物質の含有量及び担持量を大幅に向上させることで、電池の長いサイクル寿命及び高エネルギー密度を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1a】は、実施例に係る加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極のサイクル前の熱重量分析図を示す。
図1b】は、実施例に係る加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極のサイクル後の熱重量分析図を示す。
図2】は、実施例に係るリチウム硫黄電池における高担持加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極のリチウムイオン拡散係数を示す。
図3】は、実施例に係る高担持硫黄陰極のナイキストプロットを示す。
図4】は、実施例に係る速度に関するサイクリックボルタンメトリーグラフを示す。
図5】は、実施例に係るリチウム硫黄電池のC/20~C/2での倍率性能を示す。
図6】は、実施例に係るリチウム硫黄電池のサイクル性能を示すテストチャートである。
図7】は、実施例及び比較例に係るリチウム硫黄電池のサイクル性能を示すテストチャートである。
図8a】は、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析(SEM/EDS)により本実施例に係る加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極を測定して得た製造した直後の陰極の外部のトポグラフィーを示す。
図8b】は、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析(SEM/EDS)により本実施例に係る加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極を測定して得た製造した直後の陰極の内部のトポグラフィーを示す。
図8c】は、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析(SEM/EDS)により本実施例に係る加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極を測定して得たサイクル後の陰極の外部のトポグラフィーを示す。
図8d】は、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析(SEM/EDS)により本実施例に係る加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極を測定して得たサイクル後の陰極の内部のトポグラフィーを示す。
図9】は、本実施例に係る陰極のX線回折法分析を示す。
図10】は、本実施例に係る陰極のラマン分光法分析を示す。
図11】は、本実施例に係る陰極の外部のX線光電子分光法分析を示す。
図12】は、本実施例に係る陰極の内部のX線光電子分光法分析を示す。
図13】は、本実施例に係る異なるサイクルレートでの希薄電解質リチウム硫黄電池における高担持陰極の充/放電電圧曲線を示す。
図14】は、本実施例に係る(a)C/10、(b)C/7.5、(c)C/5及び(d)C/3のレートでの希薄電解質リチウム硫黄電池における高担持陰極の充/放電電圧曲線を示す。
図15】は、本実施例に係る硫黄に対する電解液の比が(a)7、(b)6、(c)5及び(d)4μL/mgである希薄電解質リチウム硫黄電池における高担持陰極のC/10のレートでの充/放電電圧曲線を示す。
図16】は、本実施例に係る陰極の製造フロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に実施例により本発明の内容を説明する。本発明の実施例は本発明を実施例に記載された特定な環境、応用又は特殊方式で実施しなければならないものに限定するものではないため、実施例に関する説明は本発明の目的を解釈するためのものに過ぎず、本発明を制限するものではない。
【0023】
本実施形態に係る加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極は、具体的に、導電性多孔質基材として多孔質炭素エレクトロスピニング基材、即ちエレクトロスピニング繊維カーボン紙を採用し、低ナノ気孔率を有するカーボンナノ繊維の不織布により構成され、且つ前記エレクトロスピニング繊維カーボン紙は多孔質集電体及び中間層としても役割を果たす。このような陰極は、陰極の中に加熱プレスにより硫黄を浸漬し、そして硫黄はサイクル過程において陰極の構造により安定化される。
【0024】
また、本実施形態に係るエレクトロスピニング繊維カーボン紙は軽量なものであるため、本実施形態に係る陰極は少なくとも3mg/cmの高硫黄担持量及び少なくとも60wt%の高硫黄含有量を有する。具体的に、本実施形態に係るエレクトロスピニング繊維カーボン紙の単位面積重量は1.0~2.0mg/cmであり、且つ硫黄を担持する前の比表面積は1~100m/gである。なお、前記エレクトロスピニング繊維カーボン紙は、20S/cmの高電気伝導率を有する。これにより、陰極に活性材料を収容する多孔質空間を提供し、且つ基底(基材)がゆるいものではない。
【0025】
本実施形態に係る導電性多孔質基材は電子が非導電性活性固体材料に迅速に移動することを可能とし、低ナノ気孔率及び低表面積を有する導電性炭素繊維で製造した多孔質陰極により電解質の急激な消耗を抑制し、リチウムイオンの拡散を阻止する。また、陰極に配置された網状空間は活性液体材料の急激な損失を緩和し、これにより活性液体材料の再堆積及びその後のサイクル過程において陰極基板外に絶縁性活性固体材料が形成されることを阻止し、先行技術の活性物質流失問題及び絶縁性問題を解決する。
【0026】
上記の構成により、本実施形態に係るリチウム硫黄電池は、希薄電解質電池で使用するような、7~4μL/mgの低い硫黄に対する電解質の比という少量の電解質を有しても良い。また、加熱プレスの工程により硫黄、電極基材、及び電解液の三相界面を改善することで、電気化学的安定性及び可逆性を向上させる。本実施形態に係るリチウム硫黄電池は、740mAh/gの高放電容量及びC/10~C/3の倍率におけるサイクル寿命を200サイクル延長するという優れた倍率性能等の優れた電池性能を有する。
【0027】
本実施形態に係る加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極リチウム硫黄電池の構造は、活性物質の担持量及び含有量を大幅に向上させ、先行技術の活性物質不足の問題を改善し、少量電解液電池の電気化学的サイクル試験において優れた電気化学的利用率及び安定性性能を示すことができ、6mA・h/cmの高面積容量及び12mW・h/cmの高エネルギー密度を達成することができる。上記の性能はいずれも今までの電気駆動車両の最低面積容量及びエネルギー密度(2~4mA・h/cm及び10mW・h/cm)を超えている。このほか、先行技術の高硫黄含有量電極又は少量電解液電池それぞれの電気性能が100サイクル又はそれ以下のサイクル性しか有さず、且つC/10以上でサイクルを実行できないことに対し、本実施形態に係る加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極リチウム硫黄電池の構造は、長期サイクルの安定性(200サイクル)及び優れた倍率性能(C/20~C/2)を有する。
【0028】
本実施形態に係る加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極の製造方法は、エレクトロスピニング法により高分子繊維を製造することでエレクトロスピニング繊維基材を得、前記エレクトロスピニング繊維基材を大気下で安定化した後、窒素雰囲気で加熱し炭化処理を行うことでエレクトロスピニング繊維カーボン紙を得る、基材準備工程と、硫黄粉を一枚の前記エレクトロスピニング繊維カーボン紙に均等に分散させ、一番上の層にもう一枚の前記エレクトロスピニング繊維カーボン紙を被せ、そして前記二枚のエレクトロスピニング繊維カーボン紙を加熱プレスし、加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極を形成させる、加熱プレス工程と、を含む、加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極の製造方法である。本実施形態に係る加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極の製造フロー図は図16に示されており、詳しい製造工程は後述の実施例において説明する。
【実施例
【0029】
[エレクトロスピニング繊維カーボン紙]
1.2gのポリアクリロニトリル(Sigma Aldrich社製、質量平均モル質量は150,000)を量り取り、10.8gのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を加えて室温で淡黄色透明な清澄液体になるまで撹拌し、ポリアクリロニトリルを10wt%含有する紡糸溶液を製造した。前記の紡糸溶液を用いてエレクトロスピニング法を行い、エレクトロスピニング過程において18~20kVの高電圧及び溶液推進速度1.5mL/minで、ドラムコレクターを使用し回転速度70rpmで紡糸繊維の収集を行い、エレクトロスピニング繊維基材を得た。得られたエレクトロスピニング繊維基材は、大気下で280℃で5時間安定化させ、そして窒素雰囲気で1000℃で2℃/minの加熱速度で1時間炭化させ、単位面積重量が1.5±0.2mg/cm且つ厚さが20~30μmであるエレクトロスピニング繊維カーボン紙を得た。
【0030】
[電解液]
電解液は、5.05gのビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミノリチウム(LiCNS、1.85M)及び0.13gの硝酸リチウム(LiNO、0.2M)を、4mLのエチレングリコールジメチルエーテル(C10)及び5.5mLの1,3-ジオキソラン(C)に加え、室温で清澄液体になるまで撹拌することで得た。
【0031】
[加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極]
前記エレクトロスピニング繊維カーボン紙及び純硫黄(Alfa Aesar社製、99.5%)粉末を使用し、加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極を製造した。まず、エレクトロスピニング繊維カーボン紙を1×1cmのサイズに切割し、二層のエレクトロスピニング繊維カーボン紙の間にある硫黄粉を145℃にまで加熱した。そして約200psiの圧力で溶融した硫黄を炭素基材の中に押入れ、加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極を形成した。この実施例及び後述の材料分析において、本工程の二層のエレクトロスピニング繊維カーボン紙の間に添加された硫黄粉は8mgであり、これにより硫黄担持量8mg/cm、硫黄含有量73wt%の陰極を形成するが、当業者にとって、本発明の効果を達成できれば、硫黄粉の添加量を需要に応じて調整できることは明らかであり、本発明はこれを制限するものではない。
本実施例に係る陰極の製造工程に必要な時間は、自動化により約5秒だけで、ごく短い時間で製造することができ、且つ連続大量に製造することに適する。
【0032】
[リチウム硫黄電池]
本実施例に係るリチウム硫黄電池は、前記加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極、ポリマー隔膜(Celgard)及びリチウム箔カウンター/基準陽極によりアルゴン雰囲気でボタン型リチウム電池を組み立てた。前記電解液を用いて電池に添加し、硫黄に対する電解質の比を7μL/mgに調整する希薄電解質リチウム硫黄電池であった。また、硫黄に対する電解質の比が6、5及び4μL/mgである希薄電解質リチウム硫黄電池をそれぞれ組み立てた。これらの希薄電解質リチウム硫黄電池は、設定されたサイクル条件で後述の方法により電池性能を測定し、詳しくは表2及び実施例1~5を参照する。
【0033】
[比較例]
陰極材料以外に、比較例に係る電池は上記リチウム硫黄電池と同じ方法で組み立てた。比較例に係る陰極は、70wt%硫黄、15wt%導電性炭素(Super P、Alfa Aesar、99+%)、及び粘着剤としての15wt%ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(電極の硫黄含有量が70wt%)で調製したブレード塗布用のスラリーを使用し、ブレード法を用いてスラリーをアルミニウム箔集電体上に均一に塗布し、硫黄担持量が8mg/cmである極片を選んで電池の組み立てを行った。
【0034】
[熱重量分析]
熱重量分析装置(Perkin Elmer社製、TGA4000)により、窒素雰囲気で50~400℃で行い、測定結果は図1に示すように、硬い炭素基底(基材)の有限分解と硫黄の完全分解との重量減少範囲で、製造した直後の陰極(図1a)と100サイクルした後の陰極(図1b)との硫黄含有量はそれぞれ73wt%と51wt%であった。測定した結果より陰極における活性材料の高含有量(73と51wt%)及び保留率(70%)が示されている。この結果が、加熱プレスの方式は素晴らしい密閉性を提供し、導電性エレクトロスピニングにより製造した多孔質電極基材における硫黄ネットワークを安定化させることを示す。
【0035】
[気孔率分析]
エレクトロスピニング繊維カーボン紙及び加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極の比表面積及び気孔率分析は、表面積/孔径分析装置(Anton Paar社製、Autosorb-iQ、-196℃で10-5~1.0P/P0に設定する)により分析し、分析結果が下表1に示されている。
【表1】
【0036】
気孔率分析は炭化エレクトロスピニング纖維の硫黄が加熱プレスされる前と後との低ナノポア構造を示す。低ナノ多孔質炭素基材における硫黄結晶の分析結果から、活性物質は導電性基材の高度な多孔質表面とゆるい架構(骨格)との中にではなく、炭素繊維及び電極配置の隙間にあることが分かる。この点により、本実施例に係る陰極は希薄電解質の条件を耐えることができた。
【0037】
[電気化学分析]
ポテンショスタット(Biologic社製、BCS-805)を使用して分析を行い、0.1MHz~10mHzのナイキストプロット及び1.5~3.0Vの電圧における電位掃引速度が0.020、0.025、0.030及び0.035mV/sであるサイクリックボルタンメトリーグラフ(CV)を得た。電気化学インピーダンスデータを分析し(データ点で示す)、等価回路モデルをフィッティングする(フィッティングカーブで示す)ことでインピーダンス単位を研究した。速度に関するCVデータを集め、定式化されたRandles-Sevcik式により、ピーク値の電流(iピーク値)及び電位掃引速度(rate)を得ることで、リチウムイオン拡散係数(coefficient(Li-ion))を研究した。iピーク値=268,600×e1.5×面積×係数(Li-ion) 0.5×濃度(Li-ion)×速度0.5。eは電子数であり、面積は陰極の面積であり、濃度(Li-ion)は電解液におけるリチウムイオンの濃度である。電池の電気化学の基礎により、C/10、C/7.5、C/5及びC/3の一定のサイクルレートで200サイクルにおけるサイクル可能性と、C/20、C/10、C/7.5、C/5、C/3、C/2及びC/20の可変的なサイクルレートでの倍率性能とを室温で1.6~2.6Vのプログラム化できる電池サイクル装置(NEWARE社製、CT-4008-5V10mA)を用いて評価した。対応する充/放電電圧曲線を集めることで、放電反応及び充電反応を研究した。
【0038】
図2に示すように、速度に関するCV測定は安定した酸化還元反応、硫黄と硫化物との間の低分極率、及びピーク値の電流と電位掃引速度から得られた2.4×10-8、1.3×10-7及5.6×10-7cm/sの高リチウムイオン拡散係数を開示している。
図3は、本実施例に係る高担持硫黄陰極のナイキストプロットである。図4は、本実施例に係る速度に関するサイクリックボルタンメトリーグラフであり、掃引速度は0.020~0.035mV/sであった。導電性陰極基板における非導電性硫黄を安定させたため、それぞれ低電気抵抗及び高可逆性、安定性を示している。希薄電解質リチウム硫黄電池において、高硫黄担持量及び高硫黄含有量を有する本実施例に係る加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極は、サイクル前後にそれぞれ372と30Ωの低電気抵抗を有した。この結果より、導電性基底(基材)は、電子が非導電性活性固体材料に迅速に移動することを可能とし、低ナノ気孔率及び低表面積を有する導電性炭素繊維で製造した多孔質陰極により電解質の急激な消耗を抑え、リチウムイオンの拡散を阻止したことが分かる。また、陰極に配置された網状空間は活性液体材料の急激な損失を緩和し、これにより活性液体材料の再堆積及びその後のサイクル過程において陰極基板外に絶縁性活性固体材料が形成されることを阻止した。そして、図4に示す重なる曲線は、硫黄から多硫化物、硫化物になるまでの安定した陰極反応(右下枠と左下枠)、及び硫化物から多硫化物、硫黄になるまでの陽極可逆反応(上方枠)を証明した。
【0039】
プログラム化できる電池サイクル装置(NEWARE社製、CT-4008-5V10mA)により評価した。図5は、本実施例に係るリチウム硫黄電池のサイクルレートC/20~C/2での倍率性能を示す。図6は、C/10、C/7.5、C/5及びC/3のレートでのリチウム硫黄電池(硫黄に対する電解質の比は7μL/mg)の高サイクル性能を示す。図7は、高担持加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極がC/10の倍率で、硫黄に対する電解質の比が異なるリチウム硫黄電池(硫黄に対する電解質の比がそれぞれ7、6、5、4、単位:μL/mg)及び比較例のサイクル性能を示す。
【0040】
図5及び図13に示すように、本実施例に係る陰極の高導電性、迅速なイオン移動及び多硫化物の遅い拡散により、大量の硫黄はサイクルレートC/20で831mAh/gの高電荷貯蔵容量に対して貢献を果たした。C/2の倍率で優れた高倍率性能を有し、希薄電解質の条件でC/20の倍率に戻しても95%の高維持率を保持した。図6及び図14に示すように、レート性能を測定した後、希薄電解質電池を設置することで、サイクル安定性としてC/10のレートでさらに100回のサイクルを示すことを証明した。同一の加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極は、C/10、C/7.5、C/5及びC/3の倍率で行った200サイクルで素晴らしい長期的倍率性能を有し、740、690、447及び440mAh/gの高放電容量を実現するとともに、それぞれ95%超えの安定した放電・充電効率を有していた。
【0041】
図7における本実施例に係るリチウム硫黄電池の性能データを、下記の表2にまとめる。
【表2】
【0042】
図7は、希薄電解質電池における加熱プレスエレクトロスピニング陰極の電池性能として、硫黄に対する電解質の比(E-to-S)がこれらの臨界値で低下するとともに、加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極が安定したサイクル性を保持し、高電荷貯蔵容量及び高容量維持率を有することを示す。(図7及び図15参照)。また、上記の分析結果より、加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極は8mg/cmの高硫黄担持量と73wt%の高硫黄含有量を有し、豊富な硫黄がその化学エネルギーを740mAh/gの最高放電容量及び8.5~11.8mW・h/cmの高エネルギー密度に変換し、高面積比容量が5.9~4.3mA・h/cmに相当することが分かる。本実施例に係るリチウム硫黄電池は電力需要が2.0~4.0mA・h/cmである電気自動車に動力を提供でき、且つエネルギー密度が約10mW・h/cmである産業用リチウムイオン電池陰極に比べ、本実施例に係るリチウム硫黄電池の性能が産業上の利用可能性の要件を完全に満たした。
【0043】
本実施例1~5に対し、比較例における先行技術のブレード法で製造したリチウム硫黄電池は、硫黄担持量、硫黄含有量、硫黄に対する電解液の比の条件を本実施例1とほぼ一致させても、サイクル性能の表現は明らかに良くなく、且つサイクル性能の表現が良くないことにより容量維持率を算出できなかった。
【0044】
加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極は低質量担持を有する導電性エレクトロスピニング炭素繊維ネットワークを陰極基板として使用した。加熱プレス法は非導電性硫黄を溶融させ、溶融した硫黄を導電性基体の中に押入れ、収容させた。導電性ネットワーク基体における硫黄の緊密なパッケージにより、加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極は良好な高担持硫黄陰極となった。また、繊維が低表面積及び細孔体積を有し、電解質の順調な浸透を可能とするため、加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極は希薄電解質電池においてより長い使用寿命を有し、優れた低い硫黄含有量に対する電解質の比7~4μL/mgを有していた。また、希薄電解質電池における加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極の安定したサイクル性はエネルギー密度及び容量維持率を向上させ得るため、新規陰極の材料、配置及び製造設計は電解質と活性材料の急激な消耗問題を解決することに成功し、陰極の全体性能を向上させた。
【0045】
更に、また図7に示すように、本実施例に係るリチウム硫黄電池は、7~4μL/mgの低い硫黄に対する電解質の比の条件でも、安定したサイクル性を保持し、高い電荷貯蔵容量を有していた。これに対し、比較例に係るリチウム硫黄電池は7μL/mgの低い硫黄に対する電解質の比の条件で、サイクル性及び電荷貯蔵容量の表現が良くなかった。
【0046】
[陰極材料の分析及び検証]
使用した装置及び条件は下記の通りである。エネルギー分散型X線分析装置(EDAX, Octane Elite EDS System)を有する電界放出走査型電子顕微鏡(HITACHI, SU5000)を用いて、透過型電子顕微鏡(HR-TEM,JEOL, JEM-2100F)のサポートで微細構造及び元素測定を行った。X線回折法分析(Bruker, D8 DISCOVER)は10°~90°、CuKα輻射(λ=1.4506Å)に設定した。ラマン分光法分析(ULVAC, Jobin Yvon/Labram HR)は150~3500cm-1に設定し、波長532nmのレーザーを使用した。X線光電子分光法(PHI 5000 VersaProbe)。
【0047】
図8は、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析(SEM/EDS)により本実施例に係る加熱プレス炭素/硫黄複合エネルギー貯蔵陰極を測定して得たトポグラフィーを示し、図(a)及び図(b)は製造した直後の陰極の外部及び内部を測定した図(a:外部;b:内部)であり、図(c)及び図(d)はC/10のレートで100サイクルした後の陰極の外部及び内部を測定した図(c:外部;d:内部)である。図8のミクロ構造及び元素分析に示すように、製造した直後の陰極の硫黄を含有していない外表面(a)及び溶融した硫黄が充満している内側(b)は、著しい対照をなしていた。本実施例に係る陰極をサイクルさせ、サイクル後の希薄電解質リチウム硫黄電池の中から取り出した陰極は、外部及び内部の形態と元素分布に変化がなかった。走査型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分析によって陰極外部を測定し、硫黄の痕跡量や元素信号がない(c)ことを証明した。陰極内部について同じ測定を行った結果、大量の硫黄が確認され、その特徴は元素硫黄の強い信号(d)であった。上記の測定は本実施例に係る陰極は優れた硫黄に対する適応と保留能力を有することを証明した。
【0048】
図9は、本実施例に係る陰極のX線回折法分析を示す。図10は、本実施例に係る陰極のラマン分光法分析を示す。図9における測定結果は加熱プレス溶融硫黄が冷却した後、炭化エレクトロスピニング繊維基材用の結晶硫黄の浸漬を示す。図10において、炭素基材は高安定性を保持し、加熱プレスと硫黄溶融処理した後も殆ど損壊していないことが示されている。図11は、本実施例に係る陰極の外部のX線光電子分光法分析を示す。図12は、本実施例に係る陰極の内部のX線光電子分光法分析を示す。図11及び図12に示すように、測定結果において硫黄ピークと強い硫黄ピークが表れず、前記測定は本実施例に係る陰極の優れた硫黄パッケージを証明した。
【0049】
以上より、本発明は陰極及び電池開発に用いられる材料、配置、及び製造方式を集結した。低ナノ気孔率を有するカーボン繊維の不織布の多孔質基材は、炭素基底(基材)に大量の硫黄をパッケージすることを可能とし、希薄電解質リチウム硫黄電池における低い硫黄に対する電解質の比を低下させることができる。加熱プレス法は非導電性硫黄及び導電性炭素ネットワークの緊密な繋がりを確保でき、活性材料を陰極配置に閉じ込めることができる。従って、本発明の陰極は高硫黄含有量、高硫黄担持量、低い硫黄に対する電解質の比、高放電容量、優れた倍率性能、長いサイクル寿命を同時に有する。更に、高担持硫黄陰極を用いて硫黄の高電気化学的利用率を実現することは更に高面積比容量及び高エネルギー密度を提供する。
【0050】
上記の実施例は、本発明の実施形態を例示するため、及び本発明の技術的特徴を解釈するためのものに過ぎず、本発明の保護範囲はそれに制限されていない。当業者が容易に完成できる変更や均等物は全て本発明が主張する範囲に属するものであり、本発明の権利保護範囲は特許請求の範囲に準ずる。
【符号の説明】
【0051】
無し。
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b
図8c
図8d
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16