IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイディア マシーン デベロップメント デザイン アンド プロダクション エルティーディーの特許一覧

<>
  • 特許-ディスクレーザ 図1
  • 特許-ディスクレーザ 図2A
  • 特許-ディスクレーザ 図2B
  • 特許-ディスクレーザ 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】ディスクレーザ
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/08 20230101AFI20240617BHJP
   H01S 3/041 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
H01S3/08
H01S3/041
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022506537
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-03
(86)【国際出願番号】 IB2020057127
(87)【国際公開番号】W WO2021019447
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】62/881,139
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516145747
【氏名又は名称】アイディア マシーン デベロップメント デザイン アンド プロダクション エルティーディー
【氏名又は名称原語表記】IDEA MACHINE DEVELOPMENT DESIGN & PRODUCTION LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ブレステル,モルデチャイ
(72)【発明者】
【氏名】トゥルゲマン, シュロモ
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04945547(US,A)
【文献】特開平05-129679(JP,A)
【文献】特開昭63-029987(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0105581(US,A1)
【文献】特表2000-511005(JP,A)
【文献】米国特許第06788722(US,B1)
【文献】特開昭61-281569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 -3/02
H01S 3/04 -3/0959
H01S 3/10 -3/102
H01S 3/105-3/131
H01S 3/136-3/213
H01S 3/23 -4/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザシステムであって、
前記レーザシステムが放出するレーザの波長に対して、内面が高い反射率を有する環状鏡、
前記環状鏡の軸に垂直な、前記環状鏡の対向する縁に近接して配置された一対の平面金属電極、
少なくとも1つの開口部に配置された一対の末端鏡、および
前記環状鏡の内部容積に配置されたディスクの形のセラミック材料を備え、
前記鏡はこの表面に前記少なくとも1つの開口部を有し、
前記電極は、前記電極間にRFフィールドを印加するように構成され、
前記末端鏡の一方は高反射率鏡であり、前記末端鏡のもう一方は部分反射器であり、
前記セラミック材料は、前記セラミック材料の中にジグザグ経路を生成するように前記セラミック材料中に形成された一連のチャネルを有し、前記ジグザグ経路の各区間は、前記区間が前記環状鏡の軸を通過せず、且つ前記環状鏡の円周の異なる一対の点で前記環状鏡にぶつかるような角度でアライメントされ、
(i)利得媒質で満たされるときの前記ジグザク経路、(ii)前記環状鏡および(iii)前記一対の末端鏡は、共にレーザキャビティを構成する、レーザシステム。
【請求項2】
前記少なくとも1つの開口部は、前記ジグザク経路の2つの隣接する区間が単一の開口部で出会うような前記単一の開口部であり、
前記一対の末端鏡は共に、一方の末端鏡が前記1つの開口部で出会う前記ジグザク経路の区間の一方に垂直で、もう一方の末端鏡が前記1つの開口部で出会う前記ジグザク経路の前記2つの区間のもう一方に垂直であるような角度で前記単一の開口部に位置する、請求項1記載のレーザシステム。
【請求項3】
前記一対の末端鏡のうちの一方は、前記ジグザグ経路の第1の区間に垂直に位置し、
前記末端鏡のうちのもう一方は、前記ジグザグ経路の第2の区間に垂直に位置し、
前記第2の区間は、前記環状鏡と前記ジグザグ経路が複数回ぶつかった後、前記第1の区間に関連した前記ジグザグ経路に位置する、請求項2記載のレーザシステム。
【請求項4】
前記少なくとも1つの開口部は一対の開口部であり、
前記ジグザグ経路は前記一対の開口部の一方から始まり、前記一対の開口部のもう一方で終わる、請求項1に記載のレーザシステム。
【請求項5】
前記一対の末端鏡のうちの一方は、前記一対の開口部のうちの第1の開口部に位置し、前記ジグザグ経路の第1の区間に垂直にアライメントされ、
前記末端鏡のうちのもう一方は、前記一対の開口部のうちの第2の開口部に位置し、前記ジグザグ経路の第2の区間に垂直にアライメントされ、
前記第2の区間は、前記環状鏡と前記ジグザグ経路が複数回ぶつかった後、前記第1の区間の前記ジグザグ経路に位置する、請求項4に記載のレーザシステム。
【請求項6】
前記一対の平面金属電極に取り付けられた冷却通路をさらに備える、請求項1~5のいずれか1項に記載のレーザシステム。
【請求項7】
前記環状鏡は、(a)直円筒形状、及び、(b)環の平面外にも湾曲を有する形状の少なくとも一方を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のレーザシステム。
【請求項8】
前記セラミック材料は、酸化ベリリウムおよび酸化アルミニウムからなる群から選択される、請求項1~のいずれか一項に記載のレーザシステム。
【請求項9】
前記レーザは、炭酸ガスレーザ、または、一酸化炭素レーザである、請求項1~のいずれか一項に記載のレーザシステム。
【請求項10】
前記チャネル内に入れられた利得媒質を有する請求項1~9のいずれか一項に係るレーザシステムの前記一対の平面金属電極間にRFフィールドを印加するステップを含み、これによって利得媒質のレージングを引き起こす、レーザビームの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
【0002】
本出願は、2019年7月31日に出願された「ディスクレーザ」と題する米国仮出願第62/881139号の利益および、該仮出願からの優先権を主張するものであり、この内容は、参照により本明細書に援用される。
【0003】
本発明は、コンパクトRF励起レーザの分野に関し、特にコンパクトさを高めるためにディスク形状を有するものに関する。
【背景技術】
【0004】
DC軸方向放電励起レーザは一般に80W/mレーザキャビティ長程度の出力に制限されるため、一方ではファストフロー技術、他方ではフラットスラブ間拡散冷却などの他の技術が開発されている。いずれの技術も、本来の単純なDC軸方向放電励起レーザより非常に高い、長さあたりの出力パワーを提供している。加えて、拡散冷却を用いたスラブレーザでは、レーザギャップ中のセラミックインサート内のチャネルへのガス状レージング媒質の閉じ込めも、達成可能なレーザ出力を実質的に増加させる。セラミックスラブ素子中のチャネルによって規定されるビーム経路を備えるこのようなRF励起スラブレーザは、周知であり、V. Seguinほかの「CO2 Laser with Beryllium Oxide Waveguides」(米国特許7,046,709号)、R. A. Hartほかの「RF Excited Waveguide Laser」(米国特許6,192,061号)、およびA. J DeMariaほかの「Folded Tapered-Waveguide CO2 Laser」(米国特許6,798,816号)などに記載されている。
【0005】
しかし、このようなスラブレーザは、スラブの全幅に対応するために十分な幅が必要である。本願と共に所有され、共通の発明者を有するコンパクト同軸レーザに関する同時係属中の国際特許出願PCT/IB2019/050724では、新しい円筒型RF励起レーザキャビティが記載されており、円筒の両端に取り付けられる球面鏡によって規定された折り返し型の光共振器キャビティを有し、鏡間の多通路ビーム経路を生成することができ、各ビーム経路が鏡間の軸に対して小さな角度で傾斜し、ビーム経路はチャネル付きセラミック円筒状素子内のチャネル内に含まれる。このようなキャビティジオメトリーの利点は、短い物理的構造内で長い光路を実現することである。これにより、短い機械的構造で良好なモードと高パワー出力を達成することができる。
【0006】
本明細書の本セクションおよび他のセクションにおいて記載されている各刊行物の開示は、参照により、各その全体が本明細書に援用される。
【発明の概要】
【0007】
本発明の実施形態係る、レーザシステムが提供される。レーザシステムは、
レーザシステムが放出するレーザの波長に対して、内面が高い反射率を有する環状鏡(環状鏡はこの表面に少なくとも1つの開口部を有する)、
環状鏡の軸に垂直な、環状鏡に対向する縁に近接して配置された一対の平面金属電極(電極は電極間にRFフィールドが印加されるように構成される)、
少なくとも1つの開口部に配置された一対の末端鏡(末端鏡の一方は高反射率鏡であり、末端鏡のもう一方は部分反射器である)、および
環状鏡の内部容積に配置されたディスクの形のセラミック材料(セラミック材料中にジグザグ経路を生成するようにセラミック材料中に形成された一連のチャネルを有し、ジグザグ経路の各区間は、区間が環状鏡の軸を通過せず、且つ環状鏡の円周の異なる一対の点で環状鏡にぶつかるような角度でアライメントされる)を備え、
(i)利得媒質で満たされるときのジグザク経路、(ii)環状鏡および(iii)一対の末端鏡は、共にレーザキャビティを構成する。
【0008】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの開口部は、ジグザク経路の2つの隣接する区間が単一の開口部で出会うような単一の開口部であり、前記一対の末端鏡は、一方の末端鏡が1つの開口部で出会う前記ジグザク経路の区間のうちの1つに対して垂直で、もう一方の末端鏡が1つの開口部で出会う前記ジグザク経路の2つの区間のうちのもう一方に対して垂直であるような角度で、両方とも単一の開口部に配置される。いくつかの実施形態では、一対の末端鏡のうちの一方は、ジグザグ経路の第1の区間に垂直に配置され、末端鏡のうちのもう一方は、ジグザグ経路の第2の区間に垂直に配置され、第2の区間は、環状鏡とジグザグ経路が複数回ぶつかった後に、第1の区間のジグザグ経路に位置する。
【0009】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの開口部は一対の開口部であり、ジグザグ経路は一対の開口部のうちの一方から始まり、一対の開口部のうちのもう一方で終わる。いくつかの実施形態では、一対の末端鏡のうちの一方は、一対の開口部のうちの第1の開口部に配置され、ジグザグ経路の第1の区間に対して垂直にアライメントされ、末端鏡のうちのもう一方は、一対の開口部のうちの第2の開口部に配置され、ジグザグ経路の第2の区間に対して垂直にアライメントされ、環状鏡とジグザグ経路が複数回ぶつかった後、第2の区間は第1の区間に関連したジグザグ経路に位置する。
【0010】
いくつかの実施形態では、レーザシステムは、一対の平面金属電極に取り付けられた冷却通路をさらに含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、環状鏡は、直円筒形状を有する。いくつかの実施形態では、環状鏡は、環の平面外にも湾曲を有する。
【0012】
いくつかの実施形態では、セラミック材料は、酸化ベリリウムおよび酸化アルミニウムからなる群から選択される。
【0013】
いくつかの実施形態では、レーザは、炭酸ガスレーザである。いくつかの実施形態では、レーザは、一酸化炭素レーザである。
【0014】
いくつかの実施形態では、チャネルと接触する前記平面金属電極のいずれか一方は、チャネルと接触する中間層を有し、チャネル内のRF励起ガス状利得媒質との反応に耐性をもたらす。いくつかの実施形態では、中間層は、前記平面金属電極上のコーティング、または中間金属シートのいずれかである。いくつかの実施形態では、中間層は、銀箔である。いくつかの実施形態では、銀箔は、前記チャネルに面する側の箔に金がコーティングされる。
【0015】
いくつかの実施形態では、環状鏡の反射率は、少なくとも90%である。いくつかの実施形態では、環状鏡の反射率は、少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%である。
【0016】
いくつかの実施形態では、高反射率末端鏡の反射率は、少なくとも90%である。いくつかの実施形態では、高反射率末端鏡の反射率は、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%である。
【0017】
いくつかの実施形態では、レーザシステムは、チャネル内に入れられた利得媒質をさらに備える。
【0018】
また、本明細書に記載のレーザシステムの一対の平面金属電極の間にRFフィールドを印加するステップを含み、これによって利得媒質のレージングを引き起こす、レーザビームの生成方法が提供される。
【0019】
本開示は、高いビーム品質を維持しながら、PCT/IB2019/050724に記載のレーザよりもさらに優れたコンパクトさを有するレーザジオメトリーを提供するための新しい例示的なレーザシステムを説明する。このシステムは、全体の寸法が小さいなかで大きな光路の生成が可能であり、したがって、先行技術のレーザシステムのいくつかの欠点を改善する。
【0020】
本開示のシステムの第1の例示的な実装によれば、このようなレーザシステムは、レーザシステムが動作する波長に対して円周内面の反射率が高い環状鏡を含んでよい。高い熱伝導性を有するセラミック媒質は、薄いディスクの形態で、ディスクの厚さの少なくとも一部に形成された一連のチャネルを除いて、環状鏡の内部容積を本質的に満たし、チャネルは、円周環状鏡上の選択された点間のジグザグパターンに従う。このパターンは、環状鏡の円周上の一点から始まる光路に沿うようにモデル化されており、光路は環状鏡とディスクの中心軸を通過する線に対して傾斜して方向づけられ、光路に沿って伝播するビームが環状鏡の内面で何回か反射するようになっている。所定の回数反射した後、光路は再び光路が始まった一点に戻る。また、この経路を実現するためには、ビームが光路に沿って単一平面を伝播し、この平面がディスクの軸に垂直であるように、光路をアライメントしなければならない。
【0021】
このようなキャビティジオメトリーの利点は、小さな寸法の物理構造内で長い光路を実現できることである。これにより、最小限のサイズ構造で、良好なモードと高いパワー出力を達成することができる。
【0022】
したがって、選択された角度でディスクに入射したビームは、所定回数の反射を行った後、ディスクに入射した点と同じ点でディスクから出射することができる。入射点と出射点を、出力結合開口部として機能する環状鏡の開口部によって実現することができる。セラミック内のチャネルは、この所定の光路に正確に沿うようにモデル化され、ディスクの内部容積をカバーしている。したがって、共振器の光路は、高反射率円周鏡の内面で連続的に反射することにより、細長い経路を実現する。幾何学的および物理的に好ましい場合、最もコンパクトで、エネルギー密度の観点から最も有利な構成は、入射点および出射点が一致するときに得られる。これは円筒状の鏡の長さを最大限に利用するからである。しかし、別の実装として、光路の両端は同じ点にある必要はなく、最後のチャネルは、開始点とは異なる円周の点で終了する。
【0023】
ジグザグ光路の両端には、末端鏡間でレーザキャビティが形成されるように、末端鏡が設けられている。一方は、キャビティの後方反射器となる反射率の高い末端鏡であり、もう一方は、ビームの出力結合を実現するための部分反射器である。各末端鏡は、ビームが反射することを意図したジグザグ経路のチャネルに垂直になるようにアライメントされたい。したがって、提案するレーザの光路ジオメトリーは、3次元円筒ヘリオットセルの光路ジオメトリーと類似するように視覚化することが可能である。すべての光路が単一平面上になるように、キャビティ反射器を含む端板を互いに押しつぶし、この平面上でビーム反射を生成するために、ヘリオットセル共振器の末端にある平面鏡の代わりに円周鏡を用いる。
【0024】
チャネル内に位置する利得媒質が電極間に印加されるRF電界によって励起され、圧力、温度、およびRFパワーの適切な条件下で、利得媒質にレージングが生じることができるように、ディスクの上面および下面には導電性電極を設けるべきである。先端鏡の1つとして部分反射鏡を使用することにより、レーザのエネルギーは、共振器の光路の外で結合されることができる。このような平面電極の利点は、電極に熱的に取り付けられた管の中を流れる水や、ファンからの空気の流れを利用した強制対流によって、電極の表面全体を容易に冷却することができることである。ディスク全体の機械的完全性が保たれるように、チャネルはセラミックディスクの厚みの一部だけに切り込まれたい。電極から電極へとチャネルを切ると、セラミックが多数のパーツに分かれてしまい、これらのアライメントを維持することが難しくなる。
【0025】
光学ビームの選択入射角度および選択出射角度は、ビームの多重反射経路がディスクの中心軸領域を通過しないように選択され、反射回数が比較的少なくなるようにする。反射回数が非常に多いと、入射角のわずかなずれでビームが元の入射点に戻らなくなるため、レージング共振器の安定性が低下してしまう。さらに、鏡は100%の反射率を示すことができず、反射ごとに損失するパワーを利得媒質で補う必要があるため、円周環状鏡からの反射回数が多いと吸収が大きくなってしまう。この点で、現在説明されるレーザキャビティ構造は、分光分析に使用される環状キャビティとは非常に明確に異なっている。分光分析用キャビティの目的は、分光分析されるガスを通過する際にビームを最大限吸収するために、キャビティ内に可能な限り最も長い経路を提供することである。したがって、このような分光分析用キャビティのジオメトリーは、環状鏡での反射と横断の回数が非常に多く生ずるように、ビームがキャビティの半径方向に非常に近い角度で分光分析用キャビティに入射する点で、現在説明されるレーザキャビティとは異なる。このような分光分析用キャビティは、例えば、B. Bernackiほかの米国特許第7,876,443号、「Multipass Optical Device and Process for Gas and Analyte Determination」、および、B. Tuzsonほかによる「Compact Multi-Pass Optical Cell for Laser Spectroscopy」と題する論文(Optics Letters出版、38巻、No.3、2013年2月、257-259ページ)に記載されている。さらに、ディスクの軸を通る複数のビーム通路を有するディスクキャビティは、P. Chenauskyほかの米国特許第3,950,712号「Unstable Laser Resonator having Radial Propagation」や、L. Caspersonの米国特許第3,940,711号「Cylindrical Laser Resonator」などがあり、レーザキャビティとして用いるために説明されてきた。これらの特許のいずれにおいても、重要な特徴は、ディスクの軸上に強い集束があり、したがってエネルギー密度が高いことである。したがって、この位置は、ディスクの軸の方向、すなわちディスクの平面に垂直にビームを抽出するために使用される。
【0026】
円周鏡は、環状鏡の軸方向に沿った、すなわち環状鏡の高さに沿った、表面プロファイルが本質的に無限曲率半径を有する円筒環状鏡として形成されることができるが、有利には、共振器のモードを改善するために、環の平面外が湾曲している、凹状に曲がった内部プロファイルを有するトーラス状のセクションとして形成されることができる。この配置の有利な実装の一つは、曲率半径が環状鏡の半径に等しくすることである。これにより、ビームが環の中心に向かって集束され、この最適な集束位置から離れて、中心領域の反対側で鏡に衝突する。この位置の曲率半径は、衝突する点と正反対の鏡の位置における曲率半径とほぼ同じである。したがって、共振器内のビームのプロファイルは、ディスクジオメトリーの断面に対して対称になる。これにより、レーザパワーの発散損失を最小限に抑えることができる。部分トーラス状鏡の正確な光学的形状は、上で概説したような単純化された幾何学的考察からではなく、光学設計によって決定されたい。次いで、例えば、従来のダイヤモンド加工技術によって、平坦な垂直プロファイルを有する鏡であれ、球状または非球状のプロファイル有する鏡であれ、製造することができる。
【0027】
上記の特徴に基づく典型的なレーザキャビティは、ビームが結合開口部から出射するまでに、ディスクを10~20回程度通過することがある。したがって、末端反射器間の共振器内の光路長は、例えば、小型の産業用レーザまたは医療用レーザの場合、1~10メートル程度であってよい。多重反射によって発生する吸収損失を抑えるため、キャビティを横切るビームの通過回数を20回程度に制限するべきであるが、非常に高反射率の環状鏡コーティングが使用されている場合には、いくぶん回数が多くなってもよい。
【0028】
「高反射率」鏡の反射率の要求水準は、ビームがキャビティの全経路を通過する間に鏡と反射する回数によって決定される。通過の回数が多ければ多いほど、反射のたびに損失が発生するため、より高い反射率が必要となる。一方、通過の回数が多ければ多いほど、各反射は垂直入射により近くなり、より大きな入射角で反射するよりも損失が少なくなる。このため、これらの効果は打ち消し合う傾向にある。さらに、要求される反射率は、レージング媒質の利得と、出力カプラの反射率にも依存する。なぜなら、利得は、キャビティを通過する多経路ビームの多通路中のパワー損失を補って余りある必要があるからである。このようなキャビティ中の損失を減らすために、より高い反射率を有する鏡のコスト増加に見合った、できるだけ高い反射率であるべきである。さらに、非常に反射率が高いコーティングは、一般に、より複雑なコーティングを必要とし、コスト増加のほか、反射コーティングが複雑になると損傷閾値が低下することが多いという知識も考慮して、反射率の水準を選択されたい。約0.7μm~20μmの範囲で動作するレーザの場合、単純な保護金コーティングの反射率は約96%であるが、より精巧なコーティングでは、この反射率を99%、またさらにはこれよりもわずかに高くすることも可能である。したがって、選択される反射率の水準は、ディスクレーザの幾何学的構成、利得媒質、出力カプラの反射率、レーザ波長、鏡のコスト予算、要求される寿命期待値、および要求される任意の他の特性に依存するものとして、当業者には既知である。このように、当業者のレーザ設計者は、関係するすべての要素を組み合わせて、特定のディスクレーザ設計にどの程度の高反射率が要求されるかを判断することができる。いくつかの実施形態では、環状鏡の反射率は、少なくとも90%である。いくつかの実施形態では、環状鏡の反射率は、少なくとも91%である。いくつかの実施形態では、環状鏡の反射率は、少なくとも92%である。いくつかの実施形態では、環状鏡の反射率は、少なくとも93%である。いくつかの実施形態では、環状鏡の反射率は、少なくとも94%である。いくつかの実施形態では、環状鏡の反射率は、少なくとも95%である。いくつかの実施形態では、環状鏡の反射率は、少なくとも96%である。いくつかの実施形態では、環状鏡の反射率は、少なくとも97%である。いくつかの実施形態では、環状鏡の反射率は少なくとも98%である。いくつかの実施形態では、環状鏡の反射率は、少なくとも99%である。同様に、いくつかの実施形態では、高反射率末端鏡の反射率は、少なくとも90%である。いくつかの実施形態では、高反射率末端鏡の反射率は、少なくとも91%である。いくつかの実施形態では、高反射率末端鏡の反射率は、少なくとも92%である。いくつかの実施形態では、高反射率末端鏡の反射率は、少なくとも93%である。いくつかの実施形態では、高反射率末端鏡の反射率は、少なくとも94%である。いくつかの実施形態では、高反射率末端鏡の反射率は、少なくとも95%である。いくつかの実施形態では、高反射率末端鏡の反射率は、少なくとも96%である。いくつかの実施形態では、高反射率末端鏡の反射率は、少なくとも97%である。いくつかの実施形態では、高反射率末端鏡の反射率は、少なくとも98%である。いくつかの実施形態では、高反射率末端鏡の反射率は、少なくとも99%である。
【0029】
上述したレーザキャビティの構造とジオメトリーは、先行技術のレーザ技術にまさる、いくつかの重要な構造的利点を有している。これらの利点のいくつかは、以下のように要約することができる。
【0030】
(a)キャビティ内で複数回レーザビームを通過させるために、単一環状鏡を折り返し鏡として機能させ、キャビティをより単純に構成し、キャビティ内でビームを正確にアライメントする。
(b)大きな平面電極により、複雑な完全な真空状態を必要とせず、レーザ構造の両側から効率的に冷却することが可能である。
(c)真空筐体を貫通する必要がなく、RF電圧の調整と調節をするのに外部からのアクセスが簡単である。
(d)RF構造の対称性により、単純なRF供給手順が可能である。
(e)セラミックディスクと、このチャネルを一体化したコンパクトさにより、貯留ガス容積とレージングチャネル容積の比率の改善を実現する。
(f)単純な機械-光学構造により、レーザの高い堅牢性を実現する。
(g)平面セラミックインサートの形状は、単純な構造、およびこれゆえに低コストでの製造(例えば、3D印刷や焼結などによる)を可能にする。
(h)出力ビームの方向と平坦な構造形状により、レーザの設置や使用が簡便になる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本発明の実施形態は、添付の図面と併せ、以下の発明を実施するための形態から、より完全に理解され、認識されるであろう。
【0032】
図1図1は、本願のレーザシステムの例示的な共振器を横断するビームが辿る、ジグザグの軌跡の概略的な平面図を示している。
【0033】
図2図2Aは、プラズマ放電をチャネル内にのみ閉じ込めるためにチャネルを使用する例示的なチャネル付きセラミックディスクインサートを等角投影的に示し、図2Bは、環の平面外に湾曲を有する代替の環状鏡を示している。
【0034】
図3図3は、図2Aのセラミックディスクの概略断面図であり、ビーム経路チャネルと平面電極が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、図1を参照して、本願のレーザシステムの例示的な共振器を横断するビームが辿る軌跡14、17の平面図を概略的に示す。ビーム経路は、頂点の数と、頂点間のビームの軌跡においてビームがなす角度αとによって特徴付けられる多角形形状を定める点15における円周環状形の鏡10上での連続的な反射によって決定される。したがって、環状形の鏡は、ビームが鏡からの一連の反射で環状形の鏡10の円周を移動するという点で、ウィスパリングギャラリーのように作用する。有利には、環状鏡10の壁に形成された開口部11によって、ビームをキャビティに結合することができる。ビームは出力結合開口部11でキャビティに入射した後、環状形の鏡の円周全体を横断し、次いで、同じ出力結合開口部に戻らなければならないので、レーザの全反射器12と出力カプラ13との角度で定義されるビームの入射角は、限られた回数で横断した後、ビームが再びビーム結合開口部に衝突するように選択されなければならない。前述したように、ビームが円周に対してあまりに近い角度で伝播するような角度にすると、ビーム角度αに対する感度により、ビーム結合開口部11への結合およびビーム結合開口部11からの結合が困難となる。つまり、環状鏡に非常に近接して伝播するビームは、所望の角度から入射角度が少しずれただけで、キャビティから一周して戻ってきたビーム経路が開口部から外れることになる。したがって、キャビティ内のビームの反射間の通路の数は、ビームがこの入射点においてビーム自体で容易に閉じられるように、所定数、典型的には10~20回程度に制限されたい。ビーム経路セグメントの角度感度を低くするために、各セグメントは、隣の利用可能な反射頂点に衝突せず、少数の頂点をスキップするように方向付けられ、これにより、入射点における円周鏡の法線に対する、キャビティに入射するビームの実効角度を小さくすることができる。キャビティを所定回数横断した後、ビームが正確にビーム結合開口部に到達するように、やはり角度を慎重にアライメントしなければならない。したがって、例えば、図1に示す例示的なキャビティでは、ビーム角度αは、頂点15で鏡に衝突した後、ビームが次に円周環状鏡を周る星形のビーム軌跡の4番目の頂点18に衝突するようにアライメントされる。図示の例では、末端鏡12、13は頂角αが約49°になるような角度でアライメントされている。この角度は、ビームが環状鏡空間を11回横断するように計算されており、折り畳まれたビーム経路の頂点で11回に対応する反射を有する。この角度によって、各反射ビームは、次に星形のビーム軌跡における前の反射から4番目の頂点位置で環状鏡に衝突することが確実となる。
【0036】
また、前述したように、角度αを小さくしすぎるべきではない。角度αを小さくしすぎると、横断や反射の回数が多くなる。また、円周鏡の反射率は100%ではないため、例えば、金鏡ではCO2レーザ発振波長で約99%であり、円周鏡でのビーム経路の反射が過度に多いと、キャビティ損失が過剰となり、レーザ発振効率が低下する。さらに、前述のように角度がより小さいと、末端鏡のアライメントに対する感度がより高くなる可能性がある。
【0037】
図1に示す例示的なキャビティ経路において、出力ビーム16は、部分反射光学特性を有する出力カプラ13を通過してキャビティから引き出される。出力カプラ13および全反射器末端鏡12は、環状鏡の単一の開口部11に位置し、これにより、キャビティの内部容積を最適に使用できる。しかし、同じ角度構成を使用して、例えば、頂点19にさらなる開口部を設け、一方の末端鏡をこの開口部に、もう一方を元の開口部11に配置することも可能であろう。この手段により、全反射器と出力カプラを空間的に分離することができ、これにより、より便利な機械的設計が提供されるが、これは、キャビティ容積を横切るビームが3回分の横断を損失する。同様に、これらの損失した横断を補うために、頂角αを幾分小さくすることができる。しかし、図1に示した単一の開口部11を持つ配置が、最も空間効率の良い構成を実現する。
【0038】
完全なアセンブリを、任意の便利な位置に真空窓を有する真空タイトボックス内に構成することができるので、ビームの出射開口部および入射開口部は、環状鏡10に物理的な窓を有している必要はない。開口部における入射角が垂直入射とは著しく異なる場合があり、このような入射角のための反射防止コーティングは、設計およびコーティングがより複雑になる可能性があるため、これは有利である。
【0039】
ジグザグ経路の設計が斬新なため、末端反射器間の共振器内の光路長を、キャビティの横方向の寸法に比べて不釣り合いに長くすることができる。したがって、例えば、図1に示すキャビティでは、鏡径がたったの120mmであるが、11セグメントのビーム経路が示され、約1210mmのビーム経路が得られており、レーザキャビティのコンパクトさが分かる。多数の反射が生ずることによる影響が、レーザ発振効率に大きな影響を与えない程度の経路数であれば、レーザキャビティ内のビーム経路を比較的長くすることで、発振効率とポインティングの安定性を高めることができる。
【0040】
次に、図2Aを参照すると、プラズマ放電をチャネル内にのみ閉じ込めるためにチャネル21が使用されている、チャネル付きセラミックディスクインサート20が等角投影的に図示されている。セラミック素子のチャネルは予め計算された形状と寸法を有し、環状鏡22の内部に取り付けられると、環状鏡の半径と末端鏡からのビームの入射角で規定されるジグザグの光学ビーム経路を複製する。励起プラズマの容積は、先行技術のレーザと比較して著しく容積が減少したセラミックチャネルによって規定される。そのため、特定のパワー出力を提供するために必要なRF励起パワー水準は減少し、これによって、米国特許第4,847,852号に記載されている「Ultra Compact RF Excited Gaseous Lasers」(本願と共通の発明者である)などの先行の環状レーザのものと比較してビーム品質が改善されている。したがって、チャネル付きセラミックインサートを使用していない他の先行技術の多通路レーザと比較して、レーザ効率が向上している。さらに、チャネル容積が小さいということは、比較的小容量のガス溜めを使用することができ、装置の体積を節約することができることを意味する。さらに、熱伝導性セラミックインサートは、チャネル内の放電に近接しているため、冷却水準が向上し、またこれによって、レーザ効率の向上にも寄与している。また、図2Aには、セラミックディスクインサートの外周に配置された円周環状鏡22の位置も示されている。単一素子の環は、その単一ピース構造のため、使用するのに最も便利な折り曲げ鏡であるが、セラミックディスクの円周上に配置された平面鏡のセグメントを使用する方が経済的な場合もある。
【0041】
次に図2Bは、環状円周鏡の代替構成35を示し、この構成では、図2Aのような円筒状の反射面の代わりに、反射面36は、本明細書の上記の要約で説明したように、環の中心のウエストに向かってビームを集束させるように、環の外方向にも曲率半径を有する曲がった形状を有して形成されている。この形状は、ビームの発散を補正するために使用することができ、ビームのモード構造に対してより良い安定性を提供する。
【0042】
次に、図3を参照すると、図2Aのセラミックディスク20の概略断面図が示されており、ビーム経路チャネル21と、平面電極31、32(平面電極31、32の間に高周波(RF)励起電圧が印加されている)が示されている。この電圧の印加は、図3に概略的に示されているが、実際には、上下の電極、最も便利にはこの中心に位置する、従来のRFコネクタ(図3に示さず)を使用することによって印加することができる。すべての整合素子はキャビティ構造の外部にあるため、キャビティの光学構造に干渉することなくRF整合を行うことができる。図3に示す例では、環状反射鏡33を概略的に示している。有利には、電極は、良好な電気伝導率および熱伝導率を有するアルミニウムで構成されてもよい。アルミニウムは、チャネル21内のRF励起ガス放電に対して優れた耐性を有しない場合があるので、プレート31のチャネルと接触する面を、より不活性な層37でコーティングする(金コーティングなど)必要がある。または、長寿命を提供し、レーザガス充填の汚染を避けるために、中間金属シート37(チタンなど)を設ける必要がある場合がある。電極に取り付けられた水管(図3に示さず)を用いて、または電極の表面を横切る強制冷却空気流によって、電極を容易に冷却することができるが、電極を備えるレーザキャビティ全体が外側の真空気密筐体内に入れられている場合、後者の方法は使用することができない。
【0043】
本発明は、本明細書で特に示され、説明されたものによって限定されないことを、当業者は理解するであろう。むしろ、本発明の範囲は、本明細書に記載された様々な特徴の組み合わせとサブコンビネーションの両方、および上記の説明を読み、当業者が思い浮かぶであろう、先行技術にはないこの変形および修正を含む。
図1
図2A
図2B
図3