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特許7504499呼気およびエアロゾルの分析を用いた呼吸器疾患の診断
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】呼気およびエアロゾルの分析を用いた呼吸器疾患の診断
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/02 20060101AFI20240617BHJP
   G01N 33/497 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
G01N1/02 W
G01N33/497 A
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022560195
(86)(22)【出願日】2020-08-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-06
(86)【国際出願番号】 US2020048035
(87)【国際公開番号】W WO2021201905
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】63/005,179
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/069,029
(32)【優先日】2020-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/010,029
(32)【優先日】2020-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520148932
【氏名又は名称】ゼテオ テック、 インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100086531
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100093241
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 正昭
(74)【代理人】
【識別番号】100101801
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 英治
(74)【代理人】
【識別番号】100095496
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 榮二
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ダペン
(72)【発明者】
【氏名】ブライデン、ウェイン、エイ.
(72)【発明者】
【氏名】マクローリン、マイケル
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-504074(JP,A)
【文献】特開2019-184288(JP,A)
【文献】特開2011-102747(JP,A)
【文献】特開平10-227725(JP,A)
【文献】特開平09-089863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/02
G01N 33/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼気を使用して少なくとも1つの呼吸器疾患を診断するための呼気サンプル収集システムにおいて、
呼気中のエアロゾル化されたバクテリアおよびウィルス粒子を収集するために個人の顔を収容するように構成された呼気収集要素であって、上記個人の顔にタイトフィットする上記呼気収集要素と、
上記呼気収集要素が上記個人の顔に位置付けられるときに、上記個人の顎の近くにおいて上記呼気収集要素に配されたポートと、
上記エアロゾル化されたバクテリアおよびウィルス粒子を選択的に捕捉するための充填ベッドカラムを有するサンプル捕捉要素であって、当該サンプル捕捉要素は、上記ポートに取り外し可能に接続された上記サンプル捕捉要素と、
上記サンプル捕捉要素と流体連通し、呼気を上記サンプル捕捉要素に引き込むように構成されたポンプとを有し、
上記呼気サンプル収集システムの粒子捕捉効率が99%より大きいことを特徴とする呼気サンプル収集システム。
【請求項2】
上記充填ベッドカラムが、樹脂、セルロース、シリカ、アガロース、および水和Feナノ粒子のうちの少なくとも1つを有する固体粒子を有する、請求項1に記載の呼気サンプル収集システム。
【請求項3】
上記充填ベッドカラムが、表面にC18官能基を具備する樹脂ビーズを有する、請求項1に記載の呼気サンプル収集システム。
【請求項4】
上記樹脂ビーズが、約12μmから約20μmの間の公称直径を具備する、請求項3に記載の呼気サンプル収集システム。
【請求項5】
上記ポンプによって上記充填ベッドカラムを通じて引かれる公称流量が約200ml/分および約600ml/分の間である、請求項1に記載の呼気サンプル収集システム。
【請求項6】
上記呼気収集要素は、CPRレスキューマスク、CPAPマスク、および人工呼吸器マスクのうちの少なくとも1つを有する、請求項1に記載の呼気サンプル収集システム。
【請求項7】
上記サンプル捕捉要素と上記ポンプとの間に配置され、上記充填ベッドカラムを通過する水蒸気、揮発性有機成分、および不揮発性有機成分のうちの少なくとも1つを含む呼気凝縮液(EBC)を捕捉するように構成されたトラップをさらに有し、上記トラップが周囲温度未満に冷却される請求項1に記載の呼気サンプル収集システム。
【請求項8】
上記固体粒子が、上記粒子の表面に固定化された官能基を含み、上記官能基が、C18(オクタデシル)、オクチル、エチル、シクロヘキシル、フェニル、シアノプロピル、アミノプロピル、2,3-ジヒドロキシプロポキシプロピル、トリメチルアミノプロピル、カルボキシプロピル、ベンゼンスルホン酸、プロピルスルホン酸、イオン交換相、ポリマー相、抗体、糖鎖、脂質、DNA、およびRNAの少なくとも1つを有する、請求項2に記載の呼気サンプル収集システム。
【請求項9】
上記サンプル捕捉要素が周囲温度またはそれ未満の温度に冷却される、請求項1に記載の呼気サンプル収集システム。
【請求項10】
呼気を使用した呼吸器疾患の診断のためのサンプル捕捉要素において、
充填ベッドカラムであって、ポンプを用いて当該充填ベッドカラムを通じて引き込まれる呼気中のエアロゾル化されたバクテリアおよびウィルス粒子を選択的に捕捉するための上記充填ベッドカラムを有し、
上記充填ベッドカラムが、
樹脂、セルロース、シリカ、アガロース、および水和Feナノ粒子のうちの少なくとも1つを有して公称直径が約12μmおよび約20μmの間である固体粒子と、
上記粒子の表面に固定化された官能基であって、当該官能基がC18(オクタデシル)、オクチル、エチル、シクロヘキシル、フェニル、シアノプロピル、アミノプロピル、2,3-ジヒドロキシプロポキシプロピル、トリメチル-アミノプロピル、カルボキシプロピル、ベンゼンスルホン酸、プロピルスルホン酸、イオン交換相、ポリマー相、抗体、グリカン、脂質、DNA、およびRNAのうちの少なくとも1つを有する上記官能基とを有し、
上記呼気が上記ポンプによって約200mLおよび約600mLの間のフローレートで上記充填ベッドカラムを通じて引き込まれるときに上記サンプル捕捉要素の粒子捕捉効率が99%より大きいことを特徴とするサンプル捕捉要素。
【請求項11】
上記固体粒子が、2つの多孔性ポリマーフリットディスクの間に詰め込まれている、請求項10に記載のサンプル捕捉要素。
【請求項12】
呼気を使用して呼吸器疾患を診断するための呼吸器疾患診断システムにおいて、
呼気を使用して少なくとも1つの呼吸器疾患を診断するための呼気サンプル収集システムであって、
呼気中のエアロゾル化されたバクテリアおよびウィルス粒子を収集するために個人の顔を収容するように構成された呼気収集要素であって、上記個人の顔にタイトフィットする上記呼気収集要素と、
上記呼気収集要素が上記個人の顔に位置付けられるときに、上記個人の顎の近くにおいて上記呼気収集要素に配されたポートと、
上記エアロゾル化されたバクテリアおよびウィルス粒子を選択的に捕捉するための充填ベッドカラムを有するサンプル捕捉要素であって、当該サンプル捕捉要素は、上記ポートに取り外し可能に接続された上記サンプル捕捉要素と、
上記サンプル捕捉要素と流体連通し、呼気を上記サンプル捕捉要素に引き込むように構成されたポンプとを有する、上記呼気サンプル収集システムと、
上記充填ベッドカラムからウィルスおよびバクテリア粒子を抽出するサンプル抽出システムと、
サンプル分析システムであって、サンプルプレート上で収集されたサンプルを処理および濃縮するためのサンプル処理システムと、サンプルを分析するための診断装置とを有する、上記サンプル分析システムとを有し、

記呼気サンプル収集システムの粒子捕捉効率が99%より大きいことを特徴とする呼吸器疾患診断システム。
【請求項13】
上記診断装置が、PCR、ELISA、rt-PCR、質量分析計(MS)、MALDI-MS、ESI-MS、およびMALDI-TOFMSのうちの少なくとも1つを有する、請求項12に記載の呼吸器疾患診断システム。
【請求項14】
上記サンプル抽出システムが、上記充填ベッドカラムを溶媒でフラッシュし、エアロゾル化されたバクテリアおよびウィルス粒子を有する溶媒を上記充填ベッドカラムから除去する手段を有する、請求項12に記載の呼吸器疾患診断システム。
【請求項15】
上記溶媒が、アセトニトリル、メタノール、酸、イソプロパノールのうちの少なくとも1つを有し、残りが水である、請求項14に呼吸器疾患診断記載のシステム。
【請求項16】
呼気を使用して少なくとも1つの呼吸器疾患を診断するための呼気サンプル収集システムにおいて、
エアロゾル化されたバクテリアおよびウィルス粒子を収集するために個人の顔を収容するように構成されたマスクであって、上記マスクが上記個人の顔に位置付けられたときに上記個人の顎の近くにおいてステムおよび上記ステムの下に配置されたポートを含む上記マスクと、
上記マスクの上記ステムに取り外し可能かつ流体的に接続されたHEPAフィルタと、
上記エアロゾル化されたバクテリアおよびウィルス粒子選択的に捕捉するための充填ベッドカラムを有するサンプル捕捉要素であって、上記サンプル捕捉要素が上記ポートに取り外し可能に接続される上記サンプル捕捉要素と、
上記サンプル捕捉要素と流体連通し、呼気をサンプル捕捉要素に引き込むように構成されたポンプとを有し、
上記呼気が上記ポンプによって約200mLおよび約600mLの間のフローレートで上記充填ベッドカラムを通じて引き込まれるときに上記サンプル捕捉要素の粒子捕捉効率が99%より大きいことを特徴とする呼気サンプル収集システム。
【請求項17】
上記充填ベッドカラムが、樹脂、セルロース、シリカ、アガロース、および水和Fe3O4ナノ粒子のうちの少なくとも1つを有する固体粒子を有する、請求項16に記載の呼気サンプル収集システム。
【請求項18】
上記充填ベッドカラムが、表面にC18官能基を具備する樹脂ビーズを有する、請求項16に記載の呼気サンプル収集システム。
【請求項19】
上記樹脂ビーズが、約12μmから約20μmの間の公称直径を具備する、請求項18に記載の呼気サンプル収集システム。
【請求項20】
上記サンプル処理システムが、
上記サンプル抽出システムから抽出された上記バクテリアおよびウイルス粒子を熱酸消化して、上記粒子に特徴的なペプチドサンプルを生成し、
上記ペプチドサンプルをMALDIマトリックスと混合して混合サンプルを得
当該混合サンプルとMALDIマトリックスとをサンプルプレートに被着するように構成される、請求項12に記載の呼吸器疾患診断システム。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
この出願は、2020年4月3日に出願され、「呼気を使用した呼吸器疾患の診断」と題された米国仮出願63/005179、2020年4月14日に出願され、「呼気を使用した呼吸器疾患の診断」と題された米国仮出願63/010029、および、2020年8月22日に出願され、「呼気およびエアロゾルの分析を使用した呼吸器疾患の診断」と題された米国仮出願63/069029に関連し、その利益を主張し、それらの開示全体は参照によりここに組み込まれる。
【連邦政府の資金提供による研究開発】
【0002】
なし。
【技術分野】
【0003】
この開示は、気道疾患に対する迅速、低コスト、および自律的なポイントオブケアアッセイを可能にする種々の診断ツールを使用して、呼気および他のエアロゾル中の不揮発性有機物を分析するための方法およびデバイスに関する。より具体的には、これに限定するものではないけれども、この開示は、MALDI-TOFMSを含む質量分析法を使用して、COVID-19などの呼吸器疾患の検出および結核診断を行うために、呼気中の不揮発性有機物を分析する方法およびデバイスに関する。
【背景技術】
【0004】
コロナウイルス病(COVID-19)は、新たに出現したコロナウイルスSARS-CoV-2によって引き起こされる疾患である。この新しいコロナウイルスは呼吸器ウイルスであり、主に感染者が咳やくしゃみをしたときに発生する飛沫、または唾液の飛沫や鼻からの分泌物を介して広がる。新しいコロナウイルスは非常に伝染性が高く、進行中のCOVID-19パンデミックを引き起こした。これは、このウイルスがインフルエンザよりも急速に広がっていることを示唆している。緩和を支援するには、迅速な検出ツールが必要である。
【0005】
さらに、結核(TB)は、毎日4000人を超える死者を出し、世界的な死因(殺人者)としてHIV/AIDSを上回っている。(Patterson,B等、2018)。発生率の低下率は、報告されている年率1.5%と不十分なままであり、治療だけで疾患の負担が大幅に軽減されるとは考えにくい。HIVが非常に蔓延しているコミュニティでは、結核菌(Mtb)のジェノタイピング研究により、再発ではなく、最近の感染が結核症例の大部分(54%)を占めることがわかる。結核感染の物理的プロセスはよくわかっていないままであり、感染性エアロゾルの生成、放出、および吸入における重要なイベントを解明するための新しい技術の適用は遅れている。空気中の感染性粒子を特徴付ける実証研究はほとんどない。調査を悩ませている2つの主要な問題は、自然に生成されたMtb粒子が低濃度であることと、空気中のサンプルの環境および患者由来の細菌および真菌汚染の合併症である。それにもかかわらず、空中浮遊探知の多くの試みがなされてきた。ウガンダでの2004年の概念実証研究とその後の実現可能性研究では、肺結核患者から咳によって生成されたエアロゾルがサンプリングされた。2つの実行可能なカスケードインパクターを備えたサンプリングチャンバに直接咳をすると、1~6日間の化学療法を受けたにもかかわらず、参加者の4分の1以上から陽性培養が得られた。同じ装置を使用した追跡調査では、エアロゾルの細菌負荷が高い参加者は、家庭での感染率が高くなり、定量的な空中サンプリングが臨床的に関連する感染性の尺度として役立つ可能性があることを示唆する病気の発見につながる可能性があることがわかった。したがって、伝染の中断は、結核の発生率に急速で測定可能な影響を与える可能性がある。
【0006】
結核の伝染を制御する最良の方法は、活動性TB症例を迅速に特定して治療することである(Wood,R.C.等、2015)。肺結核の診断は、通常、患者の喀痰の微生物学的、顕微鏡的、または分子的分析によって行われる。ほとんどの発展途上国における結核感染の「ゴールドスタンダード」検査は、喀痰サンプルに基づく塗抹培養である。サンプルを培養プレートに塗抹し、Mtbに特異的な染色剤を加え、顕微鏡を使用して染色した細胞を数える。塗抹標本の細胞の濃度が設定されたしきい値よりも高い場合、サンプルは陽性として分類される。TB数がこのしきい値を下回っている場合は、陰性と分類される。診断には数時間かかる場合がある。診断サンプルとしての喀痰の必要性は、患者から喀痰を採取するという課題とその複雑な組成のために制限要因となっている。材料の粘度は、テストの感度を制限し、サンプル間の不均一性を高め、テストに関連するコストと労力を増加させる。さらに、喀痰(咳を必要とする)は、医療従事者にとって職業上の危険となる。喀痰には、サンプル媒体としていくつかの欠点がある。まず、良好な喀痰サンプルを提供できる患者は約50%にすぎない。たとえば、8歳前後の子供は、通常、喉の奥から痰を「咳き込む」能力が発達していないため、要求に応じてサンプルを作成できないことがよくある。お年寄りや病気の方はたんを吐き出す力がないかもしれない。他の人は単に喉に痰がないかもしれない。したがって、喀痰分析に基づく診断方法では、診断が必要な患者の50%もの患者に診断を提供できない可能性がある。喀痰は、患者が抗生物質で治療されてから1~2日後に採取された場合、診断サンプルとしては有用ではない。これは、検体が肺の奥深くにある病状を代表するものではなくなったためであり、治療開始後数日以内に、喀痰中の生きているMtbの数が大幅に減少する。結核感染の診断のためのサンプル媒体として、尿と血液が提案されている。血液は侵襲性が高く、多くの場合HIV陽性である血液サンプルの処理コストが高くなる。これは、世界の一部の地域では、多くの結核患者がHIVの重複感染も抱えているためである。さらに、活動性結核に感染している患者は、血中に多くの結核細胞が循環していない可能性がある。尿ベースの診断法も提案されているけれども、これらの検査は生きている結核菌以外の病気のバイオマーカーを探しており、広範な臨床使用が検証されていない。
【0007】
採取および取り扱いがより容易で、より安全で、より均一なサンプルは、TB診断を単純化するであろう。呼気はエアロゾル(「EBA」)と蒸気を含み、これらを非侵襲的に収集して特徴を分析し、肺の生理学的および病理学的プロセスを解明する(Hunt、2002)。アッセイ用に呼気を捕らえるために、呼気を凝縮装置に通して、呼気凝縮液(「EBC」)と呼ばれる流体の蓄積を生成する。EBCは主に水蒸気に由来するけれども、サイトカイン、脂質、界面活性剤、イオン、酸化生成物、アデノシン、ヒスタミン、アセチルコリン、セロトニンなどの不揮発性化合物に溶解している。さらに、EBCは、アンモニア、過酸化水素、エタノール、その他の揮発性有機化合物など、潜在的に揮発性の水溶性化合物をトラップする。EBCのpHは容易に測定できる。EBCには、エアロゾル化された気道内膜液と揮発性化合物が含まれており、肺で進行中の生化学的および炎症性活動を非侵襲的に示す。EBCへの関心が急速に高まったのは、肺疾患において、EBCには感染者と健康な個人を区別するために使用できる測定可能な特徴があるという認識から生じている。これらのアッセイは、急性および慢性喘息、慢性閉塞性肺疾患、成人呼吸窮迫症候群、職業病、および嚢胞性線維症における気道および肺の酸化還元偏差、酸塩基状態、および炎症の程度と種類の証拠を提供する。希釈度が不確実で可変であることを特徴とするEBCは、本来の気道内膜液内の個々の溶質濃度を正確に評価できない場合がある。ただし、濃度が健康状態と病気の間で大幅に異なる場合、またはサンプルに含まれる溶質の比率に基づいている場合は、有用な情報を提供できる。
【0008】
Patterson等(2018)は、特注の呼吸エアロゾルサンプリングチャンバ(RASC)を使用した。これは、患者由来の呼気エアロゾルサンプリングを最適化し、1人の患者から呼吸可能なエアロゾルを分離して蓄積するように設計された新しい装置である。環境サンプリングにより、チャンバ内の空気中のエージング期間後に存在するMtbが検出される。新たに診断された35人のGeneXpert(Cepheid,Inc.,Sunnyvale,CA)の喀痰陽性結核患者が、約1.4mの容積を有するRASCチャンバ内で1時間の監禁中に監視された。GeneXpert遺伝子アッセイは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づいており、結核診断のためにサンプルを分析し、結核サンプルに薬剤耐性遺伝子があるかどうかを示すために使用して良い。TBのGeneXpertPCRアッセイでは、喀痰サンプルを受け入れ、約1時間で陽性または陰性の結果を得ることができる。チャンバには、空気力学的な粒子サイズの検出、実行可能および実行不可能なサンプリングデバイス、リアルタイムのCOモニタリング、および咳の録音が組み込まれていた。微生物培養と液滴デジタルポリメラーゼ連鎖反応(ddPCR)を使用して、各バイオエアロゾルコレクションデバイスでMtbを検出した。Mtbはエアロゾルサンプルの77%で検出され、サンプルの42%が抗酸菌培養で陽性であり、92%がddPCRで陽性であった。咳の発生率と培養可能なバイオエアロゾルとの間に相関関係が見つかった。Mtbは、実行可能なすべてのカスケードインパクターステージで検出され、エアロゾルサイズ2.0~3.5μmにピークがあった。これは、エアロゾル培養陽性の呼気1リットルあたり0.09CFUの中央値と、呼気微粒子バイオエアロゾルの推定濃度中央値4.5x10CFU/mlを示唆している。Mtbは、RASCチャンバを使用して未治療のTB患者の大多数が吐き出したバイオエアロゾルで検出された。分子検出は、固体培地でのMtb培養よりも感度が高いことがわかった。
【0009】
Mtbは、培養、ddPCR、電子顕微鏡法、イムノアッセイ、および細胞染色(例えば、oramineおよびdmn-Tre)によってEBAにおいて同定することができる。これらのうち、PCRおよびイムノアッセイは、迅速かつ種レベルに特異的な可能性を秘めている。PCRおよびその他のゲノミクスに基づく技術は、菌株レベルに特異的である。質量分析は、細菌感染から得られた培養物のひずみレベルに特異的であることも示されている。たとえば、Bruker Daltonics(ドイツ)のBiotyperは、ヒトに感染を引き起こす最大15,000株の細菌を特定できることが示されている。これらの技術は、EBAから結核感染を特定できることが示されている。リポアラビノマンナンに基づくものなど、Mtb検出のためのイムノアッセイもよく知られている。
【0010】
TBの場合、TBに感染した人々は、個人が診療所に出向いたときに受動的な症例発見を通じて診断されることが多い。能動的症例発見(「ACF」)は、一次医療制度の外で結核感染が疑われる人々に連絡する他の方法を含むと一般に考えられている。WHOによると、ACFは「迅速に適用できる検査、審査、またはその他の手順を使用して、活動性結核が疑われる人々を体系的に特定すること」である。ACFの目標は、感染者を早期に治療して、感染の平均期間を短縮し、それによって病気の蔓延を減らすことである。結核の場合、診療所に助けを求めるまでに、その人は約10人から約115人に結核を感染させている可能性がある。ACFは重大な結核感染の減少または防止に役立つ。喀痰分析や血液分析などの診断システムと方法は、自動化されておらず、自律的に操作されていないか、迅速ではない。多くは分析ごとに消費される高価なアッセイを伴っているため、特に発展途上国や発展途上国では、積極的な症例発見には一般的な有用性がない。前述のように、EBA分析は、高価なアッセイや消耗品の必要性が排除されるため、迅速な分析、携帯性、および低コストを提供する結核検出のための説得力のある診断ツールであると思われる。McDevitt等(2013)は、インフルエンザ診断のためのEBA分析装置および方法を報告している。インパクターを使用して呼気から大きな粒子(>4μm)を除去し、続いて小さな粒子(<4μm)を湿式フィルムコレクターで除去している。収集された粒子の2つのサイズのビンは、ゲノミクスに基づく方法である逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(rt-PCR)を使用して、インフルエンザウイルスについて分析された。PCR技術は、酵素を含む他の生体分子と組み合わせた生体分子プローブを使用して、特定の配列がサンプルに存在する場合、DNAの特定の配列を増幅する。標的配列は、同定されている疾患に特異的であると考えられている。McDevitt等は、EBAサンプルを使用してインフルエンザを診断できることを示した。開示された装置および方法には、実用的な観点からいくつかの欠点がある。まず、呼気エアロゾルのサンプルは、体積が数ミリリットルの個別のサンプルに収集されるため、サンプルを濃縮するにはかなりの労力が必要である。さらに、診断装置は、サンプル収集器に結合または統合されておらず、ACFツールとして使用するのに適していない。RNAアッセイを自動化して、結核分析のための自律的な診断ツールを作成する機能は明らかではない。特定の患者によって十分な量の咳または呼気エアロゾルが生成されたかどうかを判断する方法は記載されていない。その結果、サンプルがインフルエンザに対して陰性であることが判明した場合、それは不適切なサンプル収集に起因する偽陰性が原因である可能性がある。種々の呼吸操作中に生成されるエアロゾル化された肺液の量に関して、個々の人の間で大きなばらつきがあることはよく知られている。
【0011】
GeneXpert Ultraは、PCR技術を使用する最先端のゲノミクスベースのポイントオブケア診断装置である。結核やその他の呼吸器疾患のACFを実行するためにEBAサンプル収集方法と統合することができるけれども、サンプル収集時間が長すぎて実用的ではない。Patterson等は、20~200の結核菌が通常EBAで生成され、1時間のサンプリング期間で収集できることを示している。GeneXpertUltraを診断アッセイとして使用するには、最低1時間のサンプリングが必要である。GeneXpertは、空気中の病原体について空気サンプルを分析するために空気をサンプリングするシステムと統合することができる。BDSシステム(Northup Grumman,Edgewood,MD)は、郵便物が配送センターを通過する際に炭疽菌を引き起こす細菌胞子について、米国郵政公社の郵便物をスクリーニングするために使用されている。湿式壁サイクロンとGeneXpertPCRシステムを組み合わせて、自律的に空気をサンプリングし、病原体が存在するかどうかを報告する。ただし、GeneXpertUltraアッセイは、テストあたりのコストが比較的高く、アッセイを完了して結果を出すまでに約1時間かかる。一般に、PCRベースの診断は、サンプリングと分析に必要な時間が長く、検査あたりのコストが比較的高いため、ACFアプリケーションの結核スクリーニングには適していない。
【0012】
診断アッセイに関連する時間は、フィールドテストまたは「ポイントオブケア」テストにとって重要なパラメータである。定義上、ACFは医療システムの外で行われるため、ACFはフィールド診断アッセイの一例である。米国では、ポイントオブケア検査で20分以内に回答が得られる必要がある。そうでない場合、検査は遅すぎて、短い患者待ち時間を達成するには受け入れられないと見なされる。発展途上国、特に結核の流行歴のある国では、GeneXpertを使用して約1時間で診断を下すことができる。前述のように、このアッセイは「テストあたりのコスト」ベースで実装するには費用がかかるため、まだ広く展開されていない。費用がかかるため、健康そうに見える(無症候性)が結核に感染している可能性がある患者のスクリーニングには使用されず、他の検査や要因に基づいて強く疑われる診断を確認するために使用される。
【0013】
Fennelly等(2004)は、活動的な患者であることが知られている個人を使用して、咳エアロゾルおよび2つのアンダーソンカスケードインパクタを含む収集チャンバを使用するTB分析を記載した。個人は、激しい咳を5分間ずつ2回繰り返すように求められた。影響を受けたサンプルの培養には30~60日かかったため、このアプローチは自動化に適していない。臨床サンプルとしてのEBAの困難な側面は、息から収集できる呼気微粒子のサンプル量が比較的少ないことである。さらに、収集された質量のかなりの部分が水であることである。診断情報を含む分子(「バイオマーカー」)は、ナノリットルまたはピコグラムの量しかない。さらに、エアロゾル収集方法は、呼気中のバイオマスの大部分を捕捉するのに効果的でなければならない。呼気には、潮呼吸、深呼吸、咳、くしゃみなど、種々の操作によって肺から吐き出される空気が含まれる。強制肺活量(FVC)などの特定のタイプの深呼吸操作を使用して、肺活量の最大量を測定するために、可能な限り息を吸い込み、可能な限り遠く(または深く)息を吐き出して肺活量を最大化することができる。強制呼気量(FEV)は、人が強制的に息を吐き出すことができる空気の量を測定する。吐き出された空気の量は、強制呼吸の最初の秒(FEV1)、2番目の秒(FEV2)、および/または3番目の秒(FEV3)の間に測定することができる。強制肺活量(FVC)は、FEVテスト中に吐き出された空気の総量である。努力呼気量と努力肺活量は、スパイロメトリーで測定される肺機能検査である。強制呼気量は、肺機能の重要な測定値である。
【0014】
呼吸器疾患は呼気エアロゾルおよび呼気凝縮物から検出できることが研究により示されているけれども、結核、インフルエンザ、肺炎などの感染症または疾患の最新の臨床検査では、喀痰、血液、または鼻腔スワブを利用し続けている。呼気分析ツールは、呼気中に存在する微量の検体を効率的に収集および濃縮する方法およびデバイスが不足しているため、商品化されていない。さらに、特定の診断に十分な呼気量を評価する基準や方法論がない。開示された例示的なデバイスおよび方法は、呼気エアロゾルおよび呼気凝縮物を高流速、高効率で、比較的濃縮されたサンプルに収集することによって、これらの制限を克服する。さらに、エアロゾルのサイズ選別を組み込んで、特定の検体の信号対雑音比を増加させてから、検体を収集することができる。次に、濃縮されたサンプルをいくつかの方法で分析することができるけれども、好ましくは、目的の分析物に対して感度が高く、迅速で、高度に特異的な方法を使用する。より好ましくは、分析は迅速かつほぼリアルタイムである。質量分析、リアルタイムPCR、およびイムノアッセイは、感度が高く、特異的で、ほぼリアルタイムである可能性が最も高い。
【0015】
喀痰分析よりも迅速かつ信頼性が高く、血液分析よりも侵襲性が低い、質量分析(「MS」)などの高速診断ツールと組み合わせることができ、高速で、感度が高く、特異的で、好ましくは、テストあたりのコストが低いことを特徴としている診断アッセイを実現できるサンプル収集方法が必要とされている。このようなシステムは、結核やその他の肺や気道の病気の積極的な症例発見(ACF)に使用できる。効果的であるためには、ACFのシステムは「診断ごと」に迅速かつ安価でなければならない。結核の伝染を予防的に防ぎ、実際に結核に感染している少数の人を探索するために、多数の個人をスクリーニングするためには、検査あたりのコストが低いことが必要条件である。おそらく「風邪」に感染している患者がライノウイルスに感染している可能性があるため、インフルエンザやその他の病原性ウイルスのポイントオブケア診断にも低コストのデバイスおよび方法が必要になる。場合によっては、呼吸器感染症は細菌または真菌微生物によって引き起こされ、抗生物質で治療できる場合がある。それ以外の場合、微生物は抗生物質に耐性がある可能性があり、抗生物質に対する微生物の耐性を特定できる診断方法が望ましい。不十分なサンプル量による偽陰性の発生を最小限に抑えながら、気道内のウイルス感染と細菌感染を区別するための迅速なEBAメソッドが望まれる。質量分析、PCRを含むゲノミクス法、およびイムノアッセイは、感度と特異性が高い可能性がある。質量分析、特にMALDI飛行時間型質量分析(MALDI-TOFMS)は、感度が高く、特異的で、ほぼリアルタイムであることが実証されているため、EBAおよびEBCサンプルの分析に適した診断ツールである。
【発明の概要】
【0016】
呼気を使用して少なくとも1つの呼吸器疾患を診断するための呼気サンプル収集システムが開示され、この呼気サンプル収集システムは、水、揮発性有機成分(VOC)、および不揮発性有機成分を有する呼気を収集するために個人の顔を収容するように構成された呼気収集要素と、呼気中の不揮発性有機成分を選択的に捕捉するための充填ベッドカラムを有し、上記呼気収集要素に取り外し可能かつ流体的に接続されたサンプル捕捉要素と、上記サンプル捕捉要素と流体連通し、呼気を上記サンプル捕捉要素に引き込むように構成されたポンプとを有する。呼気中の上記不揮発性成分は、呼吸器疾患に特徴的な微生物、ウイルス、代謝物バイオマーカー、脂質バイオマーカー、およびプロテオームバイオマーカーのうちの少なくとも1つを有する呼気エアロゾル粒子を有して良い。開示されたシステムは、呼気の流れの第1の部分が上記サンプル捕捉要素に向けられ、呼気の流れの第2の部分がHEPAフィルタに向けられるように、呼気の流れを分割するために、上記呼気収集要素と上記サンプル捕捉要素との間に配置されたフロースプリッタをさらに有して良い。このシステムは、上記サンプル捕捉要素の下流に配置され、上記ポンプに向かって上記サンプル捕捉要素から出る流れの下で開位置になるように配置され、それ以外の場合は閉位置になるように配置される一方向弁をさらに有して良い。このシステムは、呼気凝縮物の大きな粒子が上記充填サンプル捕捉要素に到達しないように捕捉するための大粒子トラップ(第1のトラップ)をさらに有して良い。上記大きな粒子のサイズが少なくとも約10ミクロンであって良い。上記充填ベッドカラムが、樹脂、セルロース、シリカ、アガロース、および水和Feナノ粒子のうちの少なくとも1つを有する固体粒子を有して良い。上記充填ベッドカラムが、表面にアクリル酸オクタデシル(C18)官能基を具備する樹脂ビーズを有して良い。上記樹脂ビーズが、約12μmから約20μmの間の公称直径を具備して良い。上記樹脂ビーズが2つの多孔性ポリマーフリットディスクの間に充填されて良い。上記充填カラムの入口端に配置された上記ポリマーフリットディスクが、少なくとも35μmの平均孔径によって特徴付けられて良い。上記充填カラムの出口端に配置された上記ポリマーフリットディスクが、約10μmの平均孔径によって特徴付けられて良い。裏打ちされたベッドの重量が約25mgであって良い。上記ポンプがダイヤフラムポンプであって良い。上記ポンプの公称流量が約200ml/分および約600ml/分の間であって良い。上記呼気抽出要素は、CPRレスキューマスク、CPAPマスク、人工呼吸器マスク、および医療用万能マウスピースのうちの少なくとも1つを有して良い。このシステムは、上記サンプル捕捉要素と上記ポンプとの間に配置され、上記充填ベッドを通過する水蒸気、揮発性有機成分、および不揮発性有機成分のうちの少なくとも1つを含む呼気凝縮液(EBC)を捕捉するように構成された第2のトラップをさらに有して良い。上記第2のトラップが周囲温度未満に冷却されて良い。上記固体粒子が、上記粒子の表面に固定化された官能基を含んで良く、上記官能基が、C18(オクタデシル)、オクチル、エチル、シクロヘキシル、フェニル、シアノプロピル、アミノプロピル、2,3-ジヒドロキシプロポキシプロピル、トリメチルアミノプロピル、カルボキシプロピル、ベンゼンスルホン酸、プロピルスルホン酸、イオン交換相、ポリマー相、抗体、糖鎖、脂質、DNA、およびRNAの少なくとも1つを有して良い。上記イオン交換相が、ジエチルアミノエチルセルロース、QAEセファデックス、Qセファロース、およびカルボキシメチルセルロースのうちの少なくとも1つを有して良い。上記ポリマー相が、ポリスチレン-コ-1,4-ジビニルベンゼン、メタクリレート、ポリビニルアルコール、デンプン、およびアガロースのうちの少なくとも1つを有して良い。上記抗体は、抗ヒトアルブミン、抗インフルエンザAウイルスNP、および抗SARS-CoV-2ウイルスのうちの少なくとも1つを有して良い。上記抗体は、プロテインA/Gアガロースビーズに固定化されて良い。上記捕捉要素が周囲温度またはそれ未満の温度に冷却されて良い。上記呼気サンプル収集システムは、呼気を加湿し、上記充填ベッドカラム内の湿度を上昇させるために、上記捕捉要素への入口の上流に配置された加湿器をさらに有して良い。
【0017】
呼気を使用して少なくとも1つの呼吸器疾患を診断するための呼気サンプル収集システムが開示され、この呼気サンプル収集システムは、水、揮発性有機成分(VOC)および不揮発性有機成分を有する呼気を収集するために個人の顔を収容するように構成された呼気収集要素と、当該システムが2つ以上の捕捉要素を含む場合、互いに平行に配置された少なくとも1つのサンプル捕捉要素であって、各要素が、不揮発性有機成分を選択的に捕捉するための充填ベッドカラムを含み、呼気収集要素に取り外し可能かつ流体的に接続される、上記少なくとも1つのサンプル捕捉要素と、上記少なくとも1つのサンプル捕捉要素と流体連通し、呼気を上記少なくとも1つのサンプル捕捉要素に引き込むように構成された少なくとも1つのポンプとを有する。上記少なくとも1つのポンプの公称流量が約2.5リットル/分であって良い。1つの側面において、複数のサンプル捕捉要素が互いに平行に配置される場合、これらの捕捉要素のそれぞれは、それ自体のポンプに流体接続される。
【0018】
呼気を使用した呼吸器疾患の診断のためのサンプル捕捉要素が開示され、このサンプル捕捉要素は、呼気中の不揮発性有機成分を選択的に捕捉するための充填ベッドカラムを有し、この充填ベッドカラムが、樹脂、セルロース、シリカ、アガロース、および水和Feナノ粒子のうちの少なくとも1つを有する固体粒子と、上記粒子の表面に固定化された官能基であって、当該官能基がC18(オクタデシル)、オクチル、エチル、シクロヘキシル、フェニル、シアノプロピル、アミノプロピル、2,3-ジヒドロキシプロポキシプロピル、トリメチル-アミノプロピル、カルボキシプロピル、ベンゼンスルホン酸、プロピルスルホン酸、イオン交換相、ポリマー相、抗体、グリカン、脂質、DNA、およびRNAのうちの少なくとも1つを有する上記官能基とを有する。上記固体粒子は約12μmおよび約20μmの間の公称直径を具備して良い。上記固体粒子は、2つの多孔性ポリマーフリットディスクの間に詰め込まれて良い。上記充填カラムの入口端に配置された上記ポリマーフリットディスクが、少なくとも35μmの平均孔径によって特徴付けられて良い。上記充填カラムの出口端に配置された上記ポリマーフリットディスクは、約10μmの平均孔径によって特徴付けられて良い。上記イオン交換相が、ジエチルアミノエチルセルロース、QAEセファデックス、Qセファロース、およびカルボキシメチルセルロースのうちの少なくとも1つを有して良い。上記ポリマー相が、ポリスチレン-コ-1,4-ジビニルベンゼン、メタクリレート、ポリビニルアルコール、デンプン、およびアガロースのうちの少なくとも1つを有して良い。上記抗体が、抗ヒトアルブミン、抗抗A型インフルエンザウイルスNPのうちの少なくとも1つを有して良い。上記抗体は、プロテインA/Gアガロースビーズに固定化されて良い。
【0019】
呼気を使用して呼吸器疾患を診断するための呼吸器疾患診断システムが開示され、この呼吸器疾患診断システムは、呼気サンプル収集システムと、サンプル抽出システムと、サンプル分析システムとを有し、上記呼気サンプル収集システムは、水、揮発性有機成分(VOC)および不揮発性有機成分を含む呼気を収集するために個人の顔を収容するように構成された呼気収集要素と、不揮発性有機成分を選択的に捕捉するための充填ベッドカラムを有し、上記呼気収集要素に取り外し可能かつ流体的に接続されたサンプル捕捉要素と、上記サンプル捕捉要素と流体連通し、呼気を上記サンプル捕捉要素に引き込むように構成されたポンプとを有し、上記サンプル抽出システムは上記充填ベッドカラムから非揮発性有機物を抽出し、上記サンプル分析システムは、サンプルプレート上で収集されたサンプルを処理および濃縮するためのサンプル処理システムと、サンプルを分析するための診断装置とを有する。上記診断装置は、PCR、ELISA、rt-PCR、質量分析計(MS)、MALDI-MS、ESI-MS、およびMALDI-TOFMSのうちの少なくとも1つを有して良い。上記診断装置はMALDI-TOFMSを有して良い。上記抽出システムは、上記充填ベッドカラムを溶媒でフラッシュし、不揮発性有機物を有する溶媒を上記充填ベッドから除去する手段を有して良い。上記溶媒は、アセトニトリル、メタノール、酸、イソプロパノールのうちの少なくとも1つを有し、残りが水であって良い。上記溶媒は、水中に約50体積%および約70体積%の間のアセトニトリルを有して良い。上記溶媒は、水中に約50体積%および約70体積%の間のイソプロパノールを有して良い。上記溶媒は、水中に約50体積%および約70体積%の間のメタノールを有して良い。上記抽出システムは、約12.5%酢酸、約5%TFA、約5%ギ酸および約10%HClの少なくとも1つで上記充填ベッドカラムをフラッシュする手段を有して良い。
【0020】
呼気中のSARS-CoV、MERS-CoV、およびSARS-CoV-2のうちの少なくとも1つを有するウイルスによって引き起こされる呼吸器疾患の診断のための呼吸器疾患診断システムが開示され、この呼吸器疾患診断システムは、当該呼吸器疾患診断システムは、呼気サンプル収集システムと、サンプル抽出システムと、サンプル処理システムと、診断装置とを有し、上記呼気サンプル収集システムは、水、揮発性有機成分(VOC)および不揮発性有機成分を含む呼気を収集するために個人の顔を収容するように構成された呼気収集要素と、不揮発性有機成分を選択的に捕捉するための充填ベッドカラムを有し、上記呼気収集要素に取り外し可能かつ流体的に接続されたサンプル捕捉要素と、上記サンプル捕捉要素と流体連通し、呼気を上記サンプル捕捉要素に引き込むように構成されたポンプとを有し、上記サンプル抽出システムは上記充填ベッドカラムから非揮発性有機物を抽出し、上記サンプル処理システムは、ウイルスに特徴的なペプチドサンプルを生成するために、上記サンプル抽出システムから抽出された、ウイルス粒子を有する不揮発性有機物の熱酸消化する手段を有し、上記診断装置は、上記ペプチドサンプルを分析する。上記抽出システムは、約12.5%酢酸、約5%TFA、約5%ギ酸および約10%HClの少なくとも1つで上記充填ベッドカラムをフラッシュする手段を有して良い。上記充填ベッドカラムは、粒子の表面に固定化された官能基を有する固体粒子を有し、上記官能基が、グリカン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、およびデキストランなどの炭水化物のうちの少なくとも1つを有して良い。
【0021】
呼気中にSARS-CoV、MERS-CoV、およびSARS-CoV-2の少なくとも1つを有するウイルスによって引き起こされる呼吸器疾患の診断方法が開示され、この呼吸器疾患の診断方法は、個人から呼気サンプルを収集する呼気サンプル収集ステップであって、水、揮発性有機成分(VOC)、および不揮発性有機成分を含む呼気を収集するために、個人の顔を受け入れるように構成された呼気収集要素を提供するステップと、ポンプを使用して非揮発性有機成分を選択的に捕捉するために、充填ベッドカラムを有するサンプル捕捉要素に呼気を引き込むステップとを有する、上記呼気サンプル収集ステップと、サンプル抽出システムにおいて、約12.5%の酢酸、約5%のTFA、約5%のギ酸、および約10%のHClのうちの少なくとも1つを使用して、上記充填ベッドカラムからウイルス粒子を含む不揮発性有機物を抽出するステップと、抽出された不揮発性有機物を消化して、ウイルスに特徴的なペプチドサンプルを生成するステップと、診断装置を使用して上記ペプチドサンプルを分析するステップとを有する。上記分析ステップは、上記ペプチドサンプルをMALDIマトリックス被覆サンプルプレート上にプレーティングし、MALDI-TOFMSを用いてプレーティングサンプルを分析するステップを有して良い。上記充填ベッドカラムは、粒子の表面に固定化された官能基を有する固体粒子を有し、上記官能基が、グリカン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、および炭水化物、例えばデキストランの少なくとも1つを有して良い。
【0022】
呼気を使用して少なくとも1つの呼吸器疾患を診断するための呼気サンプル収集システムが開示され、この呼気サンプル収集システムは、水、揮発性有機成分(VOC)、および不揮発性有機成分を有する呼気を収集するために個人の顔を収容するように構成されたマスクであって、ステムおよび上記ステムの下に配置されたポートを含む上記マスクと、上記マスクの上記ステムに取り外し可能かつ流体的に接続されたHEPAフィルタと、呼気中の不揮発性有機成分を選択的に捕捉するための充填ベッドカラムを有し、上記ポートに取り外し可能かつ流体的に接続されたサンプル捕捉要素と、上記サンプル捕捉要素と流体連通し、呼気をサンプル捕捉要素に引き込むように構成されたポンプとを有する。呼気中の不揮発性成分は、上記呼吸器疾患に特徴的な微生物、ウイルス、代謝物バイオマーカー、脂質バイオマーカー、およびプロテオミクスバイオマーカーのうちの少なくとも1つを有する呼気エアロゾル粒子を有して良い。上記充填ベッドカラムは、樹脂、セルロース、シリカ、アガロース、および水和Feナノ粒子のうちの少なくとも1つを有する固体粒子を有して良い。上記充填ベッドカラムは、表面にC18官能基を具備する樹脂ビーズを有して良い。上記樹脂ビーズは、約12μmから約20μmの間の公称直径を具備して良い。上記樹脂ビーズは2つの多孔性ポリマーフリットディスクの間に充填されて良い。このシステムは、上記サンプル捕捉要素と上記ポンプとの間に配置され、上記充填ベッドを通過する水蒸気、揮発性有機成分、および不揮発性有機成分のうちの少なくとも1つを含む呼気凝縮液(EBC)を捕捉するように構成されたトラップをさらに有して良い。上記トラップは周囲温度未満に冷却されて良い。上記固体粒子は、上記粒子の表面に固定化された官能基を含み、上記官能基が、C18(オクタデシル)、オクチル、エチル、シクロヘキシル、フェニル、シアノプロピル、アミノプロピル、2,3-ジヒドロキシプロポキシプロピル、トリメチルアミノプロピル、カルボキシプロピル、ベンゼンスルホン酸、プロピルスルホン酸、イオン交換相、ポリマー相、抗体、糖鎖、脂質、DNA、およびRNAの少なくとも1つを有して良い。
【0023】
少なくとも1つの呼吸器疾患の診断のためにエアロゾル粒子を収集するための例示的なサンプル収集システムが開示され、この例示的なサンプル収集システムは、上記エアロゾル中の不揮発性有機成分を選択的に捕捉するための充填ベッドカラムを有するサンプル捕捉要素と、上記サンプル捕捉要素と流体連通し、上記エアロゾルを上記サンプル捕捉要素に引き込むように構成されたポンプとを有する。上記エアロゾル中の上記不揮発性成分は、呼吸器疾患に特徴的な微生物、ウイルス、代謝物バイオマーカー、脂質バイオマーカー、およびプロテオミクスバイオマーカーのうちの少なくとも1つを有して良い。上記充填ベッドカラムは、樹脂、セルロース、シリカ、アガロース、および水和Feナノ粒子のうちの少なくとも1つを有する固体粒子を有して良い。上記充填ベッドカラムは、表面にC18官能基を有する樹脂ビーズを有して良い。上記樹脂ビーズは、約12μmから約20μmの間の公称直径を有して良い。
【0024】
エアロゾル化したウイルスおよび細菌粒子によって引き起こされる呼吸器疾患の診断のための例示的な呼吸器疾患診断システムが開示され、この例示的な呼吸器疾患診断システムは、ここに開示された例示的なサンプル収集システムと、上記充填ベッドカラムから非揮発性有機物を抽出するためのサンプル抽出システムと、抽出された上記不揮発性有機物サンプルを分析するための診断装置とを有する。上記抽出システムは、約12.5%の酢酸、約5%のTFA、約70%のイソプロパノール、約5%のギ酸、および、約10%の塩酸の内の少なくとも1つで上記充填ベッドカラムをフラッシュする手段を有して良い。上記診断装置は、PCR、ELISA、rt-PCR、質量分析計(MS)、MALDI-MS、ESI-MS、およびMALDI-TOFMSのうちの少なくとも1つを有して良い。このシステムは、サンプルプレート上で収集されたサンプルを処理および濃縮するためのサンプル処理システムをさらに有して良い。上記サンプル処理システムは、上記サンプルをMALDIマトリックスと混合するステップと、当該混合サンプルおよびMALDIマトリックスをサンプルプレートに被着するステップとを有して良い。上記サンプル処理システムは、上記混合サンプルおよび上記MALDIマトリックスを上記サンプルプレートに被着した後に、上記サンプルプレートを乾燥させるステップをさらに有して良い。上記サンプル処理システムは、上記サンプル抽出システムから抽出されたウイルス粒子を有する不揮発性有機物を熱酸消化して、ウイルスに特徴的なペプチドサンプルを生成するための手段と、上記ペプチドサンプルをMALDIマトリックスと混合するステップと、当該混合サンプルとMALDIマトリックスとをサンプルプレートに被着するステップとを有して良い。上記システムは、上記混合サンプルおよびMALDIマトリックスを上記サンプルプレートに被着した後に、上記サンプルプレートを乾燥させるステップをさらに有して良い。上記MALDIマトリックスは、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸、アセトニトリル、TFA、および水を有して良い。上記エアロゾル化ウイルス粒子は、SARS-CoV、MERS-CoV、およびSARS-CoV-2のうちの少なくとも1つを有して良い。
【0025】
この開示の他の特徴および利点は、以下の説明および添付の図面に部分的に記載され、ここでは、この開示の好ましい側面が説明および示され、部分的に、添付図面と関連して把握される以下の詳細な説明を吟味することを通じて、当業者に明らかになり、また、この開示の実施を通じて学習するであろう。この開示の利点は、添付の特許請求の範囲で具体的に指摘されている手段および組み合わせによって実現および達成されて良い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
この開示の上述の側面および多くの付随する利点は、添付の図面と併せて、以下の詳細な説明を参照することによってより良く理解されるようになるので、より容易に把握されるであろう。
図1図1は、充填ベッドカラムを有する例示的な呼気サンプル収集システムの模式図である。
図2図2は、サンプル収集システムを有する呼吸器疾患の例示的な診断システムの模式図である。
図3図3は、充填ベッドカラムを有するシステムを使用する例示的な診断方法の模式図である。
図4図4は、例示的な充填ベッドカラムを使用した粒子捕捉効率の測定を示す図である。
図5図5A図5Eは、例示的な充填ベッドカラムを使用して収集され、質量分析を使用して分析された不揮発性有機分子の結果を示す。
図6A図6Aは、呼気サンプル中のタンパク質のSDS-PAGE電気泳動による銀染色画像を示す。
図6B図6Bは、呼気サンプルのLC-MS分析において全イオンクロマトグラフィー(TIC)を使用して収集されたスペクトルをそれぞれ示す。
図7図7は、充填ベッドカラムを有する例示的な呼気サンプル収集システムの模式図である。
図8A図8Aは、例示的な充填層カラムを使用して捕捉され、MALDI TOF-MSを使用して分析された、エアロゾル化された細菌およびウイルスの結果を示す。
図8B図8Bは、例示的な充填層カラムを使用して捕捉され、MALDI TOF-MSを使用して分析された、エアロゾル化された細菌およびウイルスの結果を示す。
【0027】
図中のすべての参照番号、識別子、およびコールアウトは、ここに完全に記載されているかのように、この参照によってここに組み込まれる。図の要素に番号を付けないことは、いかなる権利も放棄することを意図したものではない。番号のない参照は、図や付録の英字で識別されることもある。
【0028】
以下の詳細な説明は、詳細な説明の一部を形成する添付の図面への参照を含む。図面は、例示として、開示されたシステムおよび方法が実施され得る具体的な実施例を示している。「例」または「オプション」として理解されるべきこれらの実施例は、当業者がこの発明を実施することを可能にするのに十分詳細に説明される。この発明の範囲から逸脱することなく、実施例を組み合わせることができ、他の実施例を利用することができ、または構造的または論理的変更を行うことができる。したがって、以下の詳細な説明は、限定的な意味で解釈されるべきではなく、この発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびそれらの法的均等物によって定義される。
【0029】
この開示において、エアロゾルは、一般に、空気またはガス中に分散した粒子の懸濁液を意味する。「自律的な」診断システムおよび方法とは、「医療専門家による介入なし、または最小限の介入で」診断テスト結果を生成することを意味する。米国FDAは、医療機器に関連するリスクに基づいて、また機器の安全性と有効性を合理的に保証する規制の量を評価することによって、医療機器を分類している。デバイスは、クラスI、クラスII、またはクラスIIIの3つの規制クラスのいずれかに分類される。クラスIにはリスクが最も低いデバイスが含まれ、クラスIIIにはリスクが最も高いデバイスが含まれる。すべてのクラスの機器は、一般規制の対象となる。一般規制は、すべての医療機器に適用される食品医薬品化粧品(FD&C)法の基本要件である。体外診断用製品は、病気またはその後遺症を治癒、軽減、治療、または予防するために、健康状態の決定を含む、病気またはその他の状態の診断に使用することを意図した試薬、機器、およびシステムである。このような製品は、人体から採取した標本の収集、準備、および検査に使用することを目的としている。ここで開示される例示的なデバイスは、自律的に動作し、信頼性の高い結果を生成することができ、その結果、クラスIデバイスとして規制される可能性を有する。結核感染の負担が大きい世界のいくつかの地域では、医療訓練を受けた職員へのアクセスが非常に限られている。自律的な診断システムは、自律的でない診断システムよりも優先される。
【0030】
この開示において、単数表記(英語の「a」または「an」という用語に相当するもの)は、1つまたは複数を含むために使用され、「または」(「or」)という用語は、特に明記されていない限り、非排他的な「または」を指すために使用されている。さらに、ここで使用され、他に定義されていない表現または用語は、説明のみを目的としており、限定を目的としていないことを理解されたい。この開示で別段の定めがない限り、「約」という用語の範囲を解釈するために、開示される値(寸法、動作条件など)に関連する誤差範囲は、この開示で示される値の±10%である。パーセンテージとして開示された値に関連する誤差範囲は、示されたパーセンテージの±1%である。特定の単語の前に使用される「実質的に」(「substantially」)という単語には、「指定された範囲のかなりの部分」、および「指定されたものの大部分ではあるが全部ではない」という意味が含まれる。
【詳細な説明】
【0031】
呼気エアロゾル粒子は、代謝産物、脂質、およびタンパク質などの種々の不揮発性有機生体分子を含む。さらに、不揮発性分子は、サブミクロンサイズから約10ミクロンサイズまでの広い粒子サイズ分布を有する。呼気から種々の粒子サイズの種々のタイプの不揮発性分子を効率的に捕捉できる、呼気収集および疾患診断システムおよび方法が必要である。この発明の具体的な側面は、開示された方法およびシステムの構成、原理、および動作を説明する目的で、かなり詳細に以下に説明される。しかし、種々の変更を加えることができ、この発明の範囲は、記載された例示的な態様に限定されない。
【0032】
呼気分析(「EBA」)に基づく例示的な診断システム2000(図2)は、サンプル抽出システム2002および分析システム2003と流体連通して配置された呼気サンプル収集システム1000を有して良い。
【0033】
例示的な呼気サンプル収集システム1000(図1)は、不揮発性生物(細菌およびウイルスを含むがこれらに限定されない)、および分子(小さい分子、脂質、およびタンパク質を含む)を含む呼気エアロゾルを選択的に非常に高効率の吸着材料上に捕捉するために充填ベッドカラムを有するサンプル捕捉要素1001を有して良い。トラップ1003は、チューブ1002を使用してカラム1001と流体連通している。トラップ1003は、ガラスまたはプラスチック材料で製造して良い。トラップ1003は、氷浴または他の適切な手段を使用して周囲温度未満に冷却されて良い。トラップ1003は、呼気凝縮物(EBC)として収集カラムを通過する可能性がある水蒸気、他の揮発性(チェック)および不揮発性分子を収集するために使用されて良い。ベンチレータを使用した患者の呼吸の呼気分析中、サンプル捕捉要素1001は、ベンチレータのレスピレーターチューブのカプノグラフィポートに取り外し可能に接続され、出口のすぐ近くまたは患者の肺からの出口に配置されます。正常に呼吸している人の呼吸分析中、要素1001は、患者が呼吸するように指示されるマウスピース(図示せず)に取り外し可能に接続されてもよく、またはここで以前に開示された呼吸操作を実行して良い。例えば、捕捉要素1001は、呼気分析中に患者が着用する、呼気収集要素1007(図1)、例えば、応急処置CPRレスキューマスク(例えば、Dixie USA EMS Supply Co.により供給される、型番EVR-CPR01)の下流(出口で)に取り外し可能に結合されて良い。呼気の第1の部分が捕捉要素1001に向けられ、第2の部分がHEPAフィルタ1009に向けられるように、呼気の流れを分割するために、フロースプリッタ1008が呼気収集要素1007と捕捉要素1001との間に配置されてもよい。フロースプリッタ1008が収集要素1007に統合されて良い。さらに、大粒子トラップ1012を捕捉要素1001の上流に配置して、捕捉要素1001に入る前に呼気の流れから呼気凝縮物の大きな粒子(約10μmより大きい)を除去して良い。ポンプ1006を使用して、捕捉要素1001の充填ベッドカラムへ呼気を吸引して良い。例示的なポンプ1006は、携帯用ダイヤフラムポンプ(例えば、Parker Hannifin Corp.、部品番号:D737-23-01)である。ポンプ1006からの流量は、ニードル弁1005を使用して調整して、所望の流量を実現して良い。逆止弁(一方向流弁)1011は、ポンプ1006と捕捉要素1001との間に配置することができ、ポンプ1006が充填ベッドカラムを通して呼気を吸引している場合にのみ開位置になるように構成される。流れがない場合、弁1011は閉鎖位置に配置される。約200ml/分~600ml/分の公称流量を使用して良い。さらに、いくつかの捕捉要素1001を並行して使用して、流速を最大12L/分まで増加させて良い。さらに、1つまたは複数の捕捉要素が収集モードにある場合、1つまたは複数が溶出モードであって良く、一部が待機モードにあって良い。呼気サンプル量が適切であったかどうかを判断するために、呼気収集要素1007とサンプル捕捉要素1001との間にCOセンサーおよび粒子カウンター(図示せず)を配置して良い。COモニタリングおよび粒子カウントにより、呼気量の割合を概算できる。トラップ1003の下流にHEPAフィルタを配置して良い。捕捉要素1001は、冷却ジャケットまたは他の手段を使用して冷却し、温度を周囲温度より低くして、不揮発性有機物粒子の収集効率を高めて良い。呼気サンプル収集システムは、捕捉要素への入口の上流に配置された加湿器1010をさらに備えて、呼気を加湿し、充填ベッドカラム内の湿度を上昇させて良い。
【0034】
呼気収集要素1007は、個人の顔を受け入れるように構成されたぴったりとフィットするマスクを有して良く、ストラップなどを使用して患者/個人の顔/頭に取り外し可能に取り付けて良い。個人は、オプションの封じ込めブースに座って、患者のEBAを試験室またはエリアの周囲空気から隔離して良い。要素1007は、当該要素1007の壁にエアロゾル粒子を堆積させることなく、上述のようにポンプ1006を使用して、患者の口および鼻から放出された呼吸エアロゾル粒子を収集し、捕捉要素1001に導くために使用されて良い。要素1007は、以前の患者によって放出された病原体で患者が汚染または感染するリスクを制限するために使い捨てとして良い。代替的には、要素1007は再利用可能であって良く、その場合、これは滅菌されて良い。
【0035】
捕捉要素1001内の例示的な充填ベッドカラムは、Sigma Aldrichおよび他のベンダーによって供給されるHamilton PRP-C18樹脂ビーズを有して良い。ベッドは、フリットディスクなどの2枚の多孔質フィルタプレートの間で適所に保持されて良い。例えば、平均孔径が35μmを超えるポリエチレンディスクを床の上流に配置し、平均孔径が10μmのポリエチレンディスク(Boca Scientific、Dedham、MA)をベッドの下流に配置して良い。35μmフリットディスクはより速い空気流量を可能にし、小さい10μmフリットディスクはすべてのC18樹脂を良好にトラップする。例示的な要素1001では、充填ベッドは、約12μmから約20μmの間の公称直径を有する約25mgのC18樹脂ビーズを有して良い。呼気中の不揮発性有機成分は、ビーズ上のC18官能基と相互作用して除去可能に捕捉される。水、揮発性物質、およびその他の親水性分子はベッドを通過し、ガラストラップ1003にトラップされて良い。
【0036】
C18官能基に加えて、不揮発性分子に親和性を示す他の官能基を、樹脂ビーズなどの固相ビーズに固定化されたカラム内の吸着剤として使用して良い。固相ビーズは、樹脂、セルロース、シリカ、アガロース、および水和Feナノ粒子などのポリマーおよび粒子から製造されて良い。吸着材料は、他の官能基を有して良く、この官能基は、これに限定されないけれども、固相ビーズ上に配置されたオクタデシル、オクチル、エチル、シクロヘキシル、フェニル、シアノプロピル、アミノプロピル、2,3-ジヒドロキシプロポキシプロピル、トリメチル-アミノプロピル、カルボキシプロピル、ベンゼンスルホン酸、およびプロピルスルホン酸を含む。官能基は、また、イオン交換相、ポリマー相、抗体、グリカン、脂質、DNA、およびRNAのうちの少なくとも1つを有して良い。
【0037】
例示的な診断システム2000(図2)は、サンプル抽出システム2002および分析システム2003と流体連通して配置された呼気サンプル収集システム2001を有して良い。サンプル収集システム2001は、先に説明した、例示的なサンプル収集システム1000(図2)を有して良い。サンプル抽出システム2002は、捕捉された不揮発性有機物をシステム1000の充填ベッドカラムから抽出するために使用して良く、システム2000においてインラインまたはオフラインで配置されて良い。システム2002がオフラインで配置されると、呼気サンプル収集の最後に、捕捉要素1001がシステム1000から取り外され、抽出システム2002内の有機溶媒で溶出されて、充填ベッドカラムから不揮発性有機物が除去されて良い。例示的な有機溶媒は、充填ベッドカラムから捕捉された不揮発性有機物(強い極性の不揮発性有機分子、タンパク質など)を抽出するための水中約50~70%アセトニトリルを含むけれども、これらに限定されない。抽出は、充填ベッドから極性の低い脂質分子を抽出するために、同一または他の溶媒を使用して繰り返してよく、この溶媒は、水中に50~70%イソプロパノールを含むけれども、これに限定されない。他の有機溶媒は、水中に約50%から約70%のメタノール、および約50%のクロロホルム中の約50%のメタノールを含む。システム2002がインラインに配置される場合、COセンサーおよび粒子カウンターのうちの少なくとも1つは、抽出システム2002の上流に配置されて良い。システム2002は、溶媒容器、溶媒を溶媒容器から充填ベッドカラムに移送するポンプ、および、不揮発性バイオマーカーを含む溶媒を他の容器またはカップに収集するための容器を有して良い。代替的には、システム2002は、溶媒を充填ベッドカラムに注入し、不揮発性有機物およびバイオマーカーを含む抽出液を適切なカップまたは容器、または小容量を有する他の実験用チューブに収集するための注入器を有して良い。溶媒中の捕捉されたサンプルは、分析システム2003でさらに処理および分析されて良い。
【0038】
分析システム2003は、サンプル処理システム2004および少なくとも1つの診断装置2005を有して良い。サンプル処理システム2004は、以下のステップのうちの1つ以上を実行するために必要な要素を有して良い。
【0039】
(a)カップ、バイアル、およびサンプルプレートのうちの少なくとも1つにサンプルを配置するステップ。たとえば、シリーズ110Aスポットサンプラー(エアロゾルデバイス)は、円形のウェル形状(ウェル容量75μL)またはティアドロップウェル形状(ウェル容量120μL)の32ウェルプレートを使用し、これを加熱して溶媒と余分な液体/液体を蒸発させてサンプルを濃縮させる。
(b)サンプルをカップに入れ、真空源または凍結乾燥装置にさらして、溶媒を蒸発させてサンプルを濃縮するステップ。および;
(c)タンパク質およびウイルス粒子の高温消化ステップ。
【0040】
サンプルは、化学汚染粒子を除去するために遠心分離されて良い。多くの診断デバイスが、分析システム2003における使用に適合させて良く、これは、ゲノミクスベースのアッセイ(PCR、rt-PCR、全ゲノム配列決定など)、バイオマーカー認識アッセイ(ELISAなど)、および質量分析(MS)などのスペクトル分析を実行するデバイスを含むけれども、これらに限定されない。これらの診断装置の中では、分析速度の点でMSが好ましい。バイオマーカーの同定に適したMS技術は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)およびマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)飛行時間型MS(TOFMS)である。ESIは、高分解能質量分析計と組み合わせて良い。MALDI-TOFMSデバイスはコンパクトで軽量で、消費電力が100ワット未満で、15分未満でサンプル分析を行うことができる。MALDI-TOFMSは、ACFに適したポイントオブケア診断に適した診断デバイスである。サンプルは、MSの真空チャンバに挿入され、紫外線レーザーからのレーザーパルスにさらされる前に乾燥していなければならない。サンプルとレーザーとの間のこの相互作用は、生物学的物質の特徴である大きく有益な、生物学的イオンクラスターを生成する。微量レベルの水のみ、またはアセトニトリル、メタノール、およびイソプロパノールのいずれかが水中に50%~70%などの微量レベルの有機溶媒のみを有する濃縮サンプルが、サンプル処理システム2004によって提供される場合、MSを使用したサンプル分析には5分未満の時間しかかからないであろう(サンプル前処理を含む)。これは、サンプルから水分を蒸発させるのに必要な時間が短いからである。
【0041】
MALDI-TOFMSは、生/活性エージェントを同定するために使用されて良く、これら生/活性エージェントは、これに限定されないけれども、炭疽菌胞子(複数株)、Y.ブドウ球菌エンテロトキシン(SEA)、ブドウ球菌エンテロトキシンB(SEB)、リシン、アブリン、エボラザイール株、アフラトキシン、サキシトキシン、コノトキシン、腸内細菌ファージT2(T2)、HT-2毒素(HT2)、コブラ毒素、B.globigii胞子、B.cereus胞子、B.thuringiensis Al Hakam胞子、B.anthracis Sterne胞子、Y.enterocolitica、E.coli、MS2ウイルス、T2ウイルス、アデノウイルス、およびNGA(不揮発性)、ブラジキニン、オキシトシン、サブスタンスP、アンギオテンシン、ジアゼパム、コカイン、ヘロイン、フェンタニルを含む。さらに、ここに開示される例示的なシステムおよび方法は、人の呼気サンプルからのSARS-CoV-2の正確な検出および識別を達成するために使用されて良い。
【0042】
「マトリックス支援レーザー脱離イオン化」(MALDI)では、レーザーからの光(しばしば紫外線波長)を優先的に吸収するマトリックス化学物質によって標的粒子(分析物)をコーティングする。マトリックスが存在しない場合、生物学的分子は、質量分析計でレーザービームにさらされると、熱分解によって分解する。マトリックス化学物質は、また、気化した分子に電荷を転送し、イオンを生成し、電界によってフライトチューブを加速する。微生物学とプロテオミクスは、質量分析の主要な応用分野になっている。例としては、細菌の同定、化学構造の発見、タンパク質機能の導出などがある。MALDI-MSは、藻類の脂質プロファイリングにも使用されている。MALDI-MSでは、通常、トリフルオロ酢酸(TFA)などの酸と、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸などのMALDIマトリックス化学物質で構成される液体が溶媒に溶解され、サンプルに添加される。溶媒は、アセトニトリル、水、エタノール、およびアセトンを含む。TFAは、通常、サンプルの質量スペクトルに対する塩不純物の影響を抑えるために添加される。水は親水性タンパク質の溶解を可能にし、アセトニトリルは疎水性タンパク質の溶解を可能にする。MALDIマトリックス溶液をMALDIプレート上のサンプルにスポットして、サンプル上にMALDIマトリックス材料の均一で均質な層を得る。溶媒は蒸発し、再結晶化されたマトリックスのみが残り、サンプルはマトリックス結晶全体に広がる。酸はサンプルの細胞膜を部分的に分解し、MSでのイオン化および分析にタンパク質を利用できるようする。その他のMALDIマトリックス材料は、3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシケイ皮酸(シナピン酸)、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸(α-シアノまたはα-マトリックス)、および2,5-ジヒドロキシ安息香酸(DHB)を含み、これは米国特許第8,409,870号に説明されるとおりである。
【0043】
さらに、トラップ1003(図1)に収集された揮発性有機化合物は、ヒータを用いて温められ、GC-MS、GC-IMS、揮発性イオンクロマトグラフィー、または揮発性有機化合物の分析に適したその他のタイプの分析方法を実施する診断デバイスへと一掃されて良い。
【0044】
ウイルス(例えば、SARS-CoV-2)の検出は、困難な課題であるウイルスタンパク質の検出に集中している。ウイルス検出のための例示的な方法は、バックグラウンドマトリックス(例えば、他の非ウイルス生体分子、夾雑物)から標的ウイルスを引き抜くためのグリカンベースの捕捉マトリックス(ビーズ)を有して良い。ウイルスを含むであろうサンプルのアリコートは、例えばサンプル収集システム1000を使用して収集され、これは、他のバックグラウンド汚染物質も含み得、かれが、捕捉プローブを担持するビーズに被着されて良い。グリカン、ヘパリン、および炭水化物のうちの少なくとも1つは、樹脂ビーズまたはいくつかの他のタイプのビーズに結合された捕捉材料またはプローブとして使用されて良い。オプションの洗浄ステップを使用して、非標的ウイルス汚染物質を除去して良い。濃縮および精製されたウイルスは、適切な溶媒を使用して、ギ酸または酢酸を含むことができる有機酸を含む密閉加熱チャンバにビーズから溶出し、約120℃に約10分間加熱されて、タンパク質性毒素を特定のペプチドフラグメントに消化されて良い。この高温酸性タンパク質消化プロトコルは、アスパラギン酸残基でタンパク質を切断し、再現性の高いペプチドパターンを生成する。ここで説明される捕捉および消化プロセスは、それぞれ抗体および酵素で達成されて良い。このMALDI-TOFMSのサンプル処理の例を使用すると、きれいなバッファーで100ng/mL(S/Nが約50:1の)を超えるリシン生物毒素に対する感度が達成された。3:1のS/N(信号対雑音比)で、10ng/mL未満の検出限界(LOD)が達成されるであろう。MALDI-TOFMS分析システムで使用される1μLのサンプルの場合、約10ng/mLのLODはプローブ上の約10pg(10-12g)の総質量に相当し、これは約20,000ウイルス粒子に相当する。上に開示された方法を実施するための例示的なマイクロ流体サンプル処理システムは、空気から、または鼻スワブなどの他の供給源から収集されたサンプルを分析するように構成されて良い。グリカンベースの捕捉カラムおよびその他のマイクロフルイディクスコンポーネントは再利用可能である。システムの1つのチャネルで数百のサンプルを測定するのに十分な容量を提供するために、バッファー、弱酸、およびアルコールを含む大型の液体リザーバーを使用して良い。複数のサンプルを同時に処理するために、複数のシステムを並行して実行して良い。壊れやすく高価な生体分子試薬を必要としないため、このシステムは費用対効果に優れている。
【0045】
熱酸消化は、アスパラギン酸残基でタンパク質を再現可能に切断し、既知の質量を有する既知のペプチド配列を作成する。これらのペプチド質量分布は、前駆タンパク質に特徴的である。したがって、目的のタンパク質がバックグラウンド物質から大きく離れている場合、消化は、優れた特異性を提供する。さらに、ペプチドの質量分布はゲノムによって直接決定され、翻訳後修正が考慮される。新しいウイルスが分離されると、すぐに、その配列が迅速に決定される。SARS-CoV-2ウイルスのRNA配列は、最新のバイオインフォマティクスツール(ExPASyバイオインフォマティクスポータル)を使用してタンパク質配列を正確に予測するために使用できる。これらのタンパク質は、バイオインフォマティクスツールを使用してイン・シリコで(コンピュータを用いて)「消化」され、理論上のペプチドマップを作成できる。したがって、SARS-COV-2消化から生じるペプチドを予測し、実験データと比較して、生物の特定のMALDITOFMSシグネチャを生成することができる。報告によると、SARS-CoVの主要なタンパク質は、約46kDaのヌクレオキャプシドタンパク質と139kDaのスパイクタンパク質によって特徴付けられることが示唆されている。妥当な量の他のタンパク質は、E、M、およびNタンパク質である。
【0046】
標的ウイルスの検出特異性は、特にバックグラウンドが他のタンパク質を含む場合、ある程度のバックグラウンド除去を必要とする。大量の外因性タンパク質が存在する場合、ペプチドマップは、非ターゲットペプチドによって支配される可能性がある。先に述べたように、グリカン修飾アガロースビーズに基づくウイルス毒素のアフィニティキャプチャプローブを使用すると、バックグラウンドタンパク質やその他の生体分子が過剰に存在する場合でも、毒素を容易にクリーンアップできる。SARS-CoV-2などのウイルス標的について呼気を分析する場合、呼気中の他のヒトタンパク質(図6および例3)が、検出の特異性に干渉する可能性がある。最高の特異性を確保するには、親和性に基づくサンプルのクリーンアップが必要である。ウイルス検出には、上述のグリカン修飾ビーズと比較して、より選択的な親和性を提供するビーズ材料が必要になる場合がある。例えば、デキストランベースの吸着剤は、コロナウイルスを含むウイルスの精製に使用して良いけれども、この樹脂の標的ウイルスに対する親和性は満足できるものではないかもしれない。代わりに、炭水化物は、SARS-CoVやSARS-CoV-2などの標的ウイルスを含むウイルスおよびタンパク質の精製に使用して良い。さらに、ヘパリン、およびヘパラン硫酸を、樹脂ビーズに結合する結合剤として使用して良い。セファロースビーズに共有結合したヘパリン(GE Healthcare Life Sciences、Heparin Sepharose 6 Fast Flow アフィニティ樹脂、製品番号 17099801)は、グリカンキャプチャービーズの代わりに使用されて良い。この樹脂は、呼気からウイルス粒子を収集するためのビーズベースのキャプチャアフィニティキャプチャシステムを可能にするかもしれない。例示的な診断システムでは、呼気サンプルは、サンプル収集システム1000内の捕捉ベッドを通して引き出され、呼気から粒子を収集して良い。樹脂ビーズ(ベッド)を洗浄して、バックグラウンド物質を除去して良い。次いで、ビーズに吸着されたウイルス粒子は、高濃度の酸溶液、例えば、約12.5%の酢酸、約5%のTFA、約5%のギ酸、および約10%のHClのうちの少なくとも1つを使用して溶離されて、高温酸消化チャンバに送られ、特徴的なペプチドを生成して良い。ペプチドサンプルをMALDIマトリックスと混合し、MALDI TOFMS分析に適した基質として沈着させて良い。サンプルは、MALDIマトリックスでプレコートされた適切な基板またはディスク上に被着しても良い。
【0047】
図3は、例示的なシステム2000を使用する例示的な診断方法3000の模式図である。例示的な方法3000を使用して、呼気に基づいて自律的なポイントオブケア診断を実行して良い。ステップ3001において、個人(すなわち患者)は着席するように指示されて良い。椅子は、必要に応じて封じ込めブースに配置されて良い。ステップ3002において、サンプル呼気収集要素1007を個人の頭部に取り外し可能に取り付けて良い。次に、個人は、呼吸をするか、事前に設定された反復回数を含むことができる1つまたは複数の所定の操作3003を実行するように指示される。息中の不揮発性有機物は、システム1000を使用して捕捉され、ステップ3004でシステム2002を使用して抽出され、適切な溶媒を使用して溶出される。サンプル収集中、人間の呼気は、吸引ポンプによって引き出される所定の流量で、カラムを通過する。呼気に含まれる不揮発性分子は捕捉要素1001の機能化ビーズ(例えば、樹脂ビーズに固定化されたC18官能基)と相互作用するため、これらの分子は要素1001のカラムベッドに捕捉され、他方、親水性分子は、ほとんどが、息中の水と水性電解質で構成され、これがコラムを通過する。人間の呼気中の不揮発性有機分子は、水素結合や非共有相互作用などの分子間力を介してアルキル鎖に強い親和性を示す。カラムベッドからの不揮発性分子の溶出は、有機溶媒を使用して達成して良く、これは上述のアセトニトリル、メタノール、およびイソプロパノールを含むけれども、これらに限定されない。ステップ3005において、コンポーネント2004を使用してサンプルをさらに処理して良い。サンプル処理のタイプは、診断装置のタイプおよび対象の不揮発性分析物粒子に依存する。上述のように、ウイルスサンプルを熱酸消化チャンバで処理して、特徴的なペプチドを生成して良い。ペプチドサンプルをMALDIマトリックスと混合し、MALDI TOFMS分析に適した基質として沈着させて良い。サンプルは、MALDIマトリックスでプレコートされた適切な基板またはディスク上に被着しても良い。次いで、ステップ3006において、サンプルが診断装置によって分析される。診断装置がMALDI-TOFMSである場合、サンプル処理は、サンプルをMALDI-TOFMSサンプルディスク上にプレーティングし、ディスクを加熱してサンプルを濃縮し、ディスクを乾燥させるステップも有して良い。サンプルディスクは、MALDI-TOFMSを使用して分析される。TOFMS検出器は、MALDI-TOF/MS中に断片化されたCOVID-19型ウイルスペプチドの分析と配列決定を可能にするために、イオンゲートおよびリフレクトロンを組み込むように変更されて良い。得られたスペクトルは、特定の呼吸器感染症に対して陽性であることがわかっているサンプルのスペクトル、既知のデータベースのスペクトル、および健康であることがわかっている患者のサンプルのスペクトルと比較され、患者の診断がなされる。次いで、結果を臨床医または患者に伝達して良い。
【0048】
呼気収集要素1007が患者に取り付けられ、サンプル抽出が開始されると、例示的なシステムおよび方法は、(必要な操作を行った後に患者に椅子を離れるように求めることを除いて)自律的であることが好ましく、そのまま診断のテスト結果を生成する。SARS-CoV-2のようなウイルス粒子の場合、粒子の直径は約0.1ミクロンであり、感度は約10から10個のウイルス粒子の間であって良い。
【0049】
報告は、インフルエンザ患者およびCOVID-19患者からの鼻および喉のスワブの分析が、約10から1010のウイルス粒子のウイルス数を生成することを示唆している。患者の呼気中のウイルス粒子数についてはあまり知られていない。他の報告では、インフルエンザ患者が約30分間の呼吸で10個以上の粒子を吐き出したことが示唆されている。SARS-CoV-2のアウトプットがインフルエンザのアウトプットと類似している場合、呼気中の10から10粒子のアウトプットと粒子収集効率が99.9%を超えるものであれば、ここに開示される例示的な手法およびシステムを使用して呼気中の標的ウイルス粒子を特定するには十分なはずである。例示的なシステムおよび方法を使用した検出時間は、サンプル抽出(呼吸操作)、サンプル収集、サンプル処理(消化)、およびMALDI TOF-MSを使用した分析のステップを含めて、約10分から20分の間であろう。この検出時間は、既存の検出システムと比較して非常に高速である。
【0050】
例示的なサンプル処理構成要素は、充填ベッドカラム1001からサンプルを自律的に抽出し、サンプルクリーンアップを実行し、熱酸分解を行い、MALDI-TOFSサンプル基板またはディスク上へのプレーティングする準備が整ったサンプルを提供するための、熱酸分解モジュールまたはカートリッジを有して良い。カートリッジは、使用ごとにカートリッジをフラッシュする機能を追加することにより、再利用できるように設計されて良い。
【0051】
他の例示的なサンプル収集システム7000(図7)に開示される。例示的なサンプル捕捉要素7001は、C18結合樹脂ビーズを含む充填ベッドカラムを有して良い。これらの樹脂ビーズは、表面にC18官能基が固定化されている。捕捉要素7001は、軽微な修正を加えて、応急処置CPRレスキューマスク7007に接続または取り外し可能に取り付けられて良い。通常は蘇生バッグに接続するマスク7007のステム7008を変更して、HEPAフィルタ7009に取り外し可能に接続して良い。HEPAフィルタは、周囲空気からの汚染物質による呼気の汚染を防ぐ。マスクへの酸素入口7010は、通常ステムの下に位置し、対象者がマスクを着用したときに人の対象者の顎に近接するように構成されており、捕捉要素7001に取り外し可能に接続するように変更されて良い。要素7001は、入口7010を通してマスク7007に取り外し可能に挿入されて良く、または、マスク7007と実質的に漏れのない嵌合を形成するためにマスク7007に取り外し可能に接続または挿入されて良い。マスク7007は、マスクを患者の顔に密着させるために、被験者の頭の後ろで輪にすることができる弾性バンドまたは紐を含んで良い。先に述べたように構成されたマスク7007は、要素7001の口とカラムの入口との間の直接接触を防ぎ、唾液によるカラム入口の汚染を最小限に抑えるか、または排除し、呼気からの不揮発性有機粒子の収集も最大化する。氷水に浸したトラップ7003は、捕捉要素7001の後(下流)に設置して良い。ポンプ7006を使用する流速(空気吸引速度)は、ニードルバルブ7005を使用して制御し、約600mL/分で吸引することができる。約200ml/分~600ml/分の公称流量を使用して良い。オプションのHEPAフィルタ7011をトラップ7003とニードルバルブ7005との間に取り付けて良い。要素7001のカラムベッドへの逆流を防止するために、チェックバルブ(図1を参照)などの他の流体コンポーネントをシステム7000に取り付けて良い。呼気中のCOは、要素7001のカラムベッドを通過する。呼気サンプルの量および/または呼吸操作が適切かどうかを判断するために、呼吸捕捉要素7001の出口とトラップ7003の間にCOセンサーを配置して良い。COモニタリングにより、吐き出された空気量の割合を概算できる。要素7001の出口とトラップ7003との間に粒子カウンタを設置して、カラムベッドを出る粒子のサイズおよび数を検出することもでき、また、カラムベッドの飽和およびカラムベッドからの不揮発性有機分子の破過を検出するためにも使用して良い。例示的なシステム7000は、また、捕捉要素7001のバイパスライン(図示せず)を備えて、要素7001のカラムベッドにルーティングする前に呼吸量の標準化を可能にして良い。COセンサーおよび粒子カウンターも、バイパスラインに流体的に接続されて良い。不揮発性有機分子を捕捉するための捕捉要素7001のカラムベッド内の官能基で固定化された固体ビーズの能力は、約0.05mg(不揮発性有機物)/mgビーズと約0.5mg/mgの間であって良い。例示的な捕捉要素のカラムベッドにおけるC18結合樹脂ビーズの容量は、約0.1mg/mgであって良い。すなわち、25mgのC18ビーズを具備するカラムベッドは、約2.5mgの不揮発性有機分子を捕捉または吸着する能力を有するであろう。
【0052】
C18官能基に加えて、不揮発性分子に親和性を示す他の官能基を、樹脂ビーズなどの固相ビーズに固定化されたカラム内の吸着剤として使用して良い。固相ビーズは、樹脂、セルロース、シリカ、アガロース、および水和Feナノ粒子などのポリマーおよび粒子から製造されて良い。吸着材料は、固相ビーズ上に配置された他の官能基を含んで良く、当該官能基は、これに限定されないけれども、オクタデシル、オクチル、エチル、シクロヘキシル、フェニル、シアノプロピル、アミノプロピル、2,3-ジヒドロキシプロポキシプロピル、トリメチル-アミノプロピル、カルボキシプロピル、ベンゼンスルホン酸、およびプロピルスルホン酸を含む。官能基は、また、イオン交換相、ポリマー相、抗体、グリカン、脂質、DNA、およびRNAのうちの少なくとも1つを有して良い。
【0053】
ここに記載される例示的なシステムおよび方法は、呼吸器感染症に対する診断能力に必ずしも限定されない。例えば、肺癌は、また、バイオマーカーを末梢肺液に放出する可能性があり、これらのバイオマーカーは、開示されたシステムおよび方法によって容易に検出されるであろう。さらに、血液は肺の肺胞内層と密接に接触するため、体の他の部分(肺以外)の感染症やがんのバイオマーカーが肺胞内層を越えて末梢の肺液に移動する可能性があり、これが、EBAの分析によって検出可能である。結果として、この発明の範囲は、呼吸器疾患の検出および診断に限定されない。例示的なシステムおよび方法は、リシンなどのエアロゾル化学粒子を捕捉し、粒子を分析して化学攻撃の脅威を防ぐために使用されて良い。
【0054】
[例]
[例1.例示的な充填ベッドカラム1001を使用した粒子捕捉効率]
約200μLのHPLCグレードの水を、約0.3μmから5μmの間のサイズの粒子を生成するポータブルAeroneb Goネブライザー(Philips、アムステルダム、オランダ)を使用して、2リットルのチャンバ内にエアロゾル化した。カラム入口粒子サイズが測定された。粒子数は、4つのテスト条件下でポータブルレーザー粒子カウンター(Met One Instruments、Grants Pass、OR)を使用して記録された。すなわち、粒子ベッドを持たない裸のカラム、約0.2μmのポアサイズ×25mmのIDシリンジフィルタを有するカラム(VWR International、Radnor、PA)、30mgのC18樹脂ビーズを有するカラム1001(C18カラム)、および30分の実行時間後の、C18ビーズを有するカラム1001(30分インキュベーション)である。粒子カウンターは、カラムの下流に配置された。0.3μm粒子の粒子数は、C18充填カラムなしでは約37,000であり、C18充填カラムでは約480に低下し(図4)、99%を超える捕捉効率を示した。調査した他のサイズの粒子についても、同様の捕捉効率が観察された。さらに重要なことに、約30分間コレクションを実行した後も、高い捕捉効率が維持された。0.3ミクロンサイズのビン(フィルタの最も透過性の高い粒子サイズ)の場合、実験室のバックグラウンドカウントは146,000粒子/Lであった。収集カラムを取り付けた場合、カウントは14粒子/Lに低下し、これは約99.99%の収集効率であり(図4)、HEPAフィルタと同等またはそれ以上であった。
【0055】
[例2.例示的な充填ベッドカラム1001およびMSを使用して収集された不揮発性有機分子の分析]
サイズおよび化学的性質に基づいて、不揮発性有機分子は、極性小分子、非極性小分子(脂質)、および巨大分子(ペプチドおよびタンパク質)の3つの大きなカテゴリーに分類されて良い。C18ビーズのベッドを含む例示的なカラム1001を使用してこれら3つのタイプの分子の収集効率を実証するために、正確な質量測定のための高分解能質量分析を使用して、各カテゴリーから代表的な分子を選択し、特徴付けた。10nMメタドン(Sigma-Aldrich、ミズーリ州セントルイス)が小さな極性分子を表すために選択され、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホリルコリン(Matreya LLC,State College,ペンシルベニア州)が脂質を表すために選択され、また、ブタの膵臓(Sigma-Aldrich)からのインスリンがペプチドとタンパク質を表すために選択された。HPLCグレードの水で調製した各化学薬品約200μLを、ポータブルAeronebGoネブライザー(Philips)を使用してエアロゾル化し、約50℃に保持された加熱ブロック上に置かれた50mLの円錐管に入れた。約30mgのC18ビーズを有するカラム1001を50mLコニカルチューブの底に設置し、ポンプ1006の流速を約200mL/分に設定した。それぞれの場合のエアロゾル化された化学物質は、カラム1001のベッドで約5分間収集された。メタドンとインスリンの収集後、収集カラムは400μLの水で4回洗浄された。迅速な遠心分離(オプションのステップ)の後、400μLの70%アセトニトリルを使用してメタドンとインスリンを溶出した。ホスホリルコリンの場合、カラムを約400μLの70%アセトニトリルで3回洗浄し、400μLの70%イソプロパノールを使用して溶出(吸着抽出)を行った。それぞれの場合にベッドを出る洗浄溶液は、分析のために取っておいた。カラム1001のベッドから収集(抽出)されたメタドンとインスリンを凍結乾燥し、1%酢酸を含む70%アセトニトリル200μLに再懸濁した。カラム1001のベッドから収集されたホスホリルコリンを凍結乾燥し、1%酢酸を含む50%イソプロパノール、25%アセトニトリル200μLに再懸濁した。メタドン、ホスホリルコリン、およびインスリンの質量分析データは、陽イオンモードでの直接注入を介して、OrbitrapLTQ質量分析計(Thermo Fisher Scientific)を使用して収集された。直接注入の流量は3μL/分に設定され、データ収集は200m/zで約60,000の解像度で10分間記録された。精密質量測定により標的分子を同定した。図5に示されるように、各代表分子の質量分析信号は、C18ベッドから抽出された分子を含む溶出溶液でのみ検出され、洗浄溶液では検出されなかった。したがって、C18ビーズのベッドを有する例示的なカラム1001は、小さな極性分子、小さな非極性分子(脂質)、および巨大分子(ペプチドおよびタンパク質)を収集するのに効果的であり、これらのタイプの不揮発性有機分子の高効率のサンプル収集が可能である。
【0056】
[例3.人の被験者から収集された呼気の分析]
先に説明した例示的なシステム7000において、要素7001のカラムは、約25mgのC18ビーズを有していた。呼気サンプルは、同じ流量で異なる呼吸量を持つ4人の健康な人間の被験者から収集された。被験者1は144Lの呼吸量を生成し、被験者2は40Lを生成し、被験者3および被験者4は81Lを生成した。呼気サンプルの収集後、コレクションカラムを取り外し、400μLの70%アセトニトリルで溶出して、極性の小さな分子とタンパク質を収集した。タンパク質サンプルを凍結乾燥して溶媒を除去し、100μLの0.1%ギ酸に再懸濁した。次に、非極性分子(脂質)を収集するために、カラムを400μLの70%イソプロパノールで溶出した。
【0057】
サンプルは、SDS-PAGE電気泳動およびボトムアッププロテオミクスを使用して分析された。Criterion Tris-HCl Gel システム(Bio-Rad Laboratories,Hercules,CA)を使用し、各被験者に対応する約25μLの収集サンプルを使用して、電気泳動を実施した。SDS-PAGE電気泳動後、タンパク質を可視化するためにSDS-PAGEゲルを銀染色(Thermo Fisher Scientific)で処理した。ウシ血清アルブミン(BSA)を内部ポジティブコントロールとして使用した。ボトムアッププロテオミクスの間、各被験者に対応する総収集サンプル約50μLを、ここで説明されているように処理した。簡単に説明すると、約50μLの50mM重炭酸アンモニウム(pH8.5)を各サンプルに加えた。ジチオスレイトールを最終濃度5mMになるまで添加し、37℃で30分間インキュベートすることにより、タンパク質の還元を行った。還元後、タンパク質のアルキル化に続いて、ヨードアセトアミドを最終濃度15mMまで添加し、室温で1時間インキュベートした。トリプシン(Thermo Fisher Scientific)を使用して、一晩タンパク質を消化した。消化後、C18パックチップ(Glygen,Columbia,MD)を使用してペプチドを洗浄した。最終的なペプチドサンプルは、質量分析用の0.1%ギ酸20μLで作成した。サンプルは、Q Exactive HF Hybrid Quadrupole-Orbitrap質量分析計(Thermo Fisher Scientific)に結合されたEASY-nLC1000システム(Thermo Fisher Scientific)を使用して処理された。タンデム質量分析中、ペプチドをAcclaim PepMap 100 C18トラップカラム(0.2mmx20mm、Thermo Fisher Scientific)に流速5μl/minでロードしこのペプチドを、EASY-Spray HPLC カラム(75μmx150mm、Thermo Fisher Scientific)で分離した。HPLC勾配は、5~55%の移動相(75%アセトニトリルおよび0.1%ギ酸)を使用して、流速300nL/分で60分間行った。質量分析データ収集は、データ依存取得モードで実施された。前駆体スキャン解像度は60,000に、プロダクトイオンスキャン解像度は15,000に設定された。プロダクトイオンフラグメンテーションは、全エネルギーの約27%の高エネルギー衝突誘起解離(HCD)を使用して実現された。ボトムアッププロテオミクス生データファイルは、UniProtヒトタンパク質データベース/ナレッジベースに対してMaxQuant-Andromedaソフトウェアで処理された。
【0058】
図6Aは、4人の被験者のゲル電気泳動銀染色画像を示す。「X」は、サンプルを含まないレーンを示し、内部ネガティブコントロール(比較例)として使用された。トラップ7003で収集された凝縮液(EBC)サンプルにおいて、タンパク質バンドは観察されなかった。タンパク質バンドの暗さの強度は、すべてのサンプルのタンパク質含有量がタンパク質バンドあたり10ngを超えていたことを示唆しており、これは連続したボトムアッププロテオミクスに適している。さらに、最も強いタンパク質バンドとして、約50kDaおよび約75kDaの間(バンド#1)、約37kDa(バンド#2)、および10kDaおよび約15kDaの間(バンド#3)に現れるので、ヒト被験者について同様のタンパク質バンドパターンが観測されて良い。タンデム質量分析を使用することにより、バンド#1に対応するタンパク質は血清アルブミンおよびケラチンとして、バンド#2に対応するタンパク質は亜鉛-α-2-糖タンパク質として、バンド#3に対応するタンパク質はシスタチン、ダームシジン、およびS100タンパク質として同定された。さらに、約37kDaのタンパク質クラスター(バンド#2)は、タンパク質の翻訳後修飾、おそらくグリコシル化が起こる可能性があることを示唆している。ボトムアップのプロテオミクスとタンパク質データベースの検索により、このタンパク質がジン-アルファ-2-糖タンパク質であり、4つの既知のN結合グリコシル化部位を持つタンパク質であることが確認された(UniProtナレッジベース)。結果は、ボトムアッププロテオミクスと組み合わせた銀染色ベースのタンパク質可視化を使用して、タンパク質濃度が非常に低い場合でも、呼気サンプル中のタンパク質プロファイルを特定できることを示している。さらに、約144リットルの呼気を生成する被験者1が最も暗いタンパク質バンドを示し、被験者2(40リットル)が最も明るいバンドを示したため、タンパク質バンドの強度は収集された呼吸量と相関しているであろう。呼吸の仕方やプロトコルの違いも、各被験者からのエアロゾル粒子生成物に影響を与える可能性があり、これは、種々の被験者のタンパク質分布の不均一に寄与する可能性がある。上の例では、呼吸法に関する特定の指示は使用されなかった。同様のタンパク質パターンが、タンデム質量分析を使用したTICプロファイルでさらに確認された(図6B)。種々のタンパク質分析技術を使用することにより、結果は、カラム収集システムが呼気からタンパク質を捕捉でき、呼気サンプルのタンパク質含有量がボトムアッププロテオミクスを使用した連続タンパク質同定を促進したことを強く示した。さらに、アルファアミラーゼなどの唾液中の主要なタンパク質は特定されず、例示的な顔面マスク7007への変更により、被験者の口および捕捉要素7001との直接接触が防止されたことが示唆された。ここに開示される例示的な呼気収集システムは、下気道からタンパク質を効果的に捕捉するために使用されて良い。
【0059】
4人の被験体から収集された呼気中のタンパク質パターンの類似性は、図6Bに示されるように、LC-MS分析における全イオンクロマトグラフィー(TIC)によってさらに確認された。イオンクロマトグラフィーのピークパターンは、4人の被験体について同様であり、被験体1は、図6Aの染色画像に見られるより強いバンドと同様の比較的より強いピークを示した。
【0060】
収集された呼気サンプル中のタンパク質の同定のために、ボトムアッププロテオミクスが使用された。被験者1から197のタンパク質、被験者2から47のタンパク質、被験者3から25のタンパク質、被験者4から64のタンパク質が同定された。被験者1が最も多くのタンパク質を同定したため、タンパク質識別番号はサンプル中のタンパク質含有量と一致している。合計で、4人の被験者から303のタンパク質が同定された。スペクトルマッチングに基づいて特定された最も豊富なタンパク質を表1に示し、これは、シスタチンA、ダームシジン、およびS100タンパク質ファミリーのいくつかのメンバーを含む。
[表1.存在量に基づいて4人の被験者の呼気サンプルから特定された上位20のタンパク質]
【表1】
【0061】
[表2.4人の被験者からの呼気サンプルに対応するタンパク質]
【表2】
【表3】
【0062】
呼気に含まれる不揮発性有機分子は、上気道および下気道の両方に由来する可能性がある。先に説明した研究で同定されたタンパク質の組織起源を明らかにするために、同定されたタンパク質を気管支肺胞洗浄液(BALF)から公開された5つのプロテオームデータベースと比較した。BALF呼気サンプリング法が下気道の起源からタンパク質を生成することはよく知られている。比較は、上述の研究(表2)で同定された約63個のタンパク質がBALFプロテオミクスデータベースで報告されたことを示し、これは、本明細書に開示される例示的な呼気サンプル収集システムおよび方法が、肺組織などの下気道に由来するタンパク質を捕捉するのに有効であったことを示唆している。ボランティアが実際に健康であることを示唆する細菌またはウイルスのいずれかと相関するタンパク質は特定されなかった。したがって、ここに開示される例示的な方法およびシステムは、呼気中のタンパク質の識別に基づいて呼吸器疾患を検出するための診断ツールとして使用されて良い。
【0063】
[例.例示的な充填ベッドカラム1001およびMALDI TOF-MSを使用した、エアロゾル化された細菌およびウイルスの捕捉および分析]
【0064】
1つのウイルスサンプル、バクテリオファージMS2、および3つの細菌、大腸菌(E.coli)、シュードモナス・フルオレッセンス、およびエルシニア・ローデイは、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC、マナッサス、バージニア州)から入手した。各サンプル5μLを200μLのHPLCグレード水で調製し、ポータブルAeroneb Goネブライザー(Philips)を使用して50mLチューブにエアロゾル化した。25gから35gのC18ビーズを含むコレクションカラムを50mLチューブの底部近くで流体的に接続し、ポンプを使用して噴霧化サンプルをカラム内に吸引し、カラムを通して吸引した。ポンプの流量は約200mL/minに設定し、収集時間は約10分であった。コレクションステップの終了後、コレクションカラムを400μLの水で4回洗浄した。続いて、カラムを400μLの70%イソプロパノールで溶出した。洗浄液と溶出液の両方を収集し、MALDI-TOFMS分析用に保存した。
【0065】
CHCA(α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸)MALDIマトリックスは、約0.1%TFA(トリフルオロ酢酸)を約10mg/mLの濃度で含有する約50%アセトニトリル中で調製した。約1.5μLのサンプルを約0.5μLのCHCAマトリックスと混合し、MALDIプレートに被着した。いずれの場合も、サンプルを十分に乾燥させた後、プレートをAxima-CFR飛行時間型装置(Kratos Analytical by Shimadzu Biotech、Manchester、U.K.)に挿入した。MALDI-TOF質量スペクトルは、337nmN2レーザー(レーザー出力、90任意単位)を使用して線形モードで取得し、すべてのスペクトルを1000~15,000m/zの200プロファイルの平均として収集した。
【0066】
図8Aは、大腸菌(左)、シュードモナス・フルオレッセンス(中央)、エルシニア・ローデイ(右)の対照サンプル、溶出サンプル、洗浄サンプルの全菌体分析のMALDI質量スペクトルを示す。細菌の痕跡は溶出サンプルにはっきりと見られるけれども、洗浄サンプルには見られない。これは、収集カラムがエアロゾル化した細菌を捕捉できたことを示している。図8Bは、(A)全ウイルスMS2分析のMALDI質量スペクトル、および(B)ウイルスMS2の熱酸消化分析のMALDI質量スペクトルを示す。MS2キャプシドタンパク質(P03612)の全質量とその二重荷電イオンをMALDI-TOFMSで観察した。熱酸消化後、無傷のキャプシドタンパク質(赤い点)とその消化されたペプチドが観察され、MALDI-TOFMSによって特徴付けられた。
【0067】
要約は、37C.F.R.§1.72(b)に準拠して、読者が大まかな把握から技術的開示の性質と要点を迅速に判断できるようにするために提供されている。特許請求の範囲または意味を解釈または制限するために使用されるべきではない。
【0068】
この開示は、それを実施する好ましい形態に関連して説明されてきたけれども、当業者は、この開示の精神から逸脱することなく、それに多くの修正を加えることができることを理解するであろう。したがって、この開示の範囲が先の説明によって制限されることを意図するものではない。
【0069】
この開示の本質から逸脱することなく、種々の変更を行うことができることも理解されたい。このような変更も暗黙的に説明に含まれている。それらは依然としてこの開示の範囲内にある。この開示は、独立して、そしてシステム全体として、そして方法および装置モードの両方において、開示の多くの側面をカバーする特許をもたらすことを意図していることを理解されたい。
【0070】
さらに、この開示および特許請求の範囲の種々の要素のそれぞれは、また、種々の方法で達成されて良い。この開示は、任意の装置実装のバリエーション、方法またはプロセスの実装、あるいはこれらの任意の要素の単なるバリエーションであろうと、そのような各バリエーションを包含すると理解されるべきである。
【0071】
特に、各要素の単語は、機能または結果のみが同じであっても、同等の装置用語または方法用語によって表現され得ることを理解されたい。このような同等の、より広い、またはさらに一般的な用語は、各要素または動作の説明に含まれると見なす必要がある。このような用語は、この開示が権利を与えられている暗黙的に広い範囲を明示するために必要な場合に置き換えることができる。すべての動作は、その動作をとるための手段として、またはその動作を引き起こす要素として表現される可能性があることを理解する必要がある。同様に、開示される各物理的要素は、その物理的要素が促進する動作の開示を包含すると理解されるべきである。
【0072】
さらに、使用される各用語に関して、本出願におけるその利用がそのような解釈と矛盾しない限り、例えば、技術者によって認識されている標準的な技術辞書とランダムハウスウェブスターのUnabridgedDictionaryの最新版の少なくとも1つに含まれている、共通の辞書定義は、各用語およびすべての定義、代替用語、および同義語について、ここに組み込まれるものとして理解されるべきである。
【0073】
さらに、「有する」(comprising、comprise)という移行句の使用は、従来のクレーム解釈に従って、本明細書の「オープンエンド」クレームを維持するために使用される。したがって、文脈上別段の必要がない限り、「有する」は、記載された要素またはステップあるいは要素またはステップのグループを含むことを意味することを意図しているけれども、他の要素またはステップあるいは要素またはステップのグループを除外することを意味するものではない。そのような用語は出願人に法的に許容される最も広い範囲を提供するための最も広範な態様で解釈されるべきである。
【0074】
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図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B