(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】低揚げ吸油量小麦粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20240617BHJP
A23L 7/157 20160101ALI20240617BHJP
A21D 2/14 20060101ALI20240617BHJP
A21D 2/26 20060101ALI20240617BHJP
A21D 13/60 20170101ALI20240617BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
A23L7/10 H
A23L7/157
A21D2/14
A21D2/26
A21D13/60
A23G3/34 108
(21)【出願番号】P 2023199752
(22)【出願日】2023-11-27
【審査請求日】2023-11-27
(31)【優先権主張番号】202310555852.6
(32)【優先日】2023-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514262886
【氏名又は名称】江南大学
【氏名又は名称原語表記】JIANGNAN UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No. 1800 Lihu Avenue, Bin Hu District, Wuxi, Jiangsu, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】陳 龍
(72)【発明者】
【氏名】陳 園薈
(72)【発明者】
【氏名】田 耀旗
(72)【発明者】
【氏名】繆 銘
(72)【発明者】
【氏名】金 征宇
(72)【発明者】
【氏名】邱 超
(72)【発明者】
【氏名】龍 杰
(72)【発明者】
【氏名】紀 杭燕
(72)【発明者】
【氏名】趙 建偉
(72)【発明者】
【氏名】周 星
(72)【発明者】
【氏名】鄒 益東
(72)【発明者】
【氏名】陳 冠雄
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-078663(JP,A)
【文献】特開昭48-023951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00-7/25
A21D 2/00-2/40
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低揚げ吸油量小麦粉の製造方法であって、
スラリー化:小麦粉を水中に分散し、加熱して保温することで小麦粉スラリーを得るステップ(1)と、
小麦粉改質:ステップ(1)で得られた小麦粉スラリーにフィチン酸を加え、pHを調整し、反応させた後、トランスグルタミナーゼを加え、pHを調整し、反応させるか、又はステップ(1)で得られた小麦粉スラリーにトランスグルタミナーゼを加え、pHを調整し、反応させた後、フィチン酸を加え、pHを調整し、反応させるステップ(2)と、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
ステップ(2)において、前記トランスグルタミナーゼの添加量は、2~40U/g乾量基準小麦粉であり、前記フィチン酸の添加量は、0.2%~4%乾量基準小麦粉であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(2)において、pHは5~8であり、反応温度は40℃~65℃であり、反応時間は1h~12hであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(1)において、前記小麦粉は薄力粉、中力粉、強力粉のうちの1種又は複数種であり、保温温度は40℃~65℃であり、小麦粉スラリー中の小麦粉濃度は5%~40%であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記方法は、ステップ(3):洗浄を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(3)において、前記洗浄は、遠心分離及び吸引濾過を含むことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、ステップ(3):洗浄及びステップ(4):乾燥をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(4)において、前記乾燥は、真空乾燥、凍結乾燥、送風乾燥、ドラム乾燥のうちの1種又は複数種を含むことを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
揚げ物における請求項
1から8のいずれか1項に記載の
方法により製造された低揚げ吸油量の改質小麦粉の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低揚げ吸油量小麦粉の製造方法に関し、小麦粉改質分野に属する。
【背景技術】
【0002】
揚げ物はサクサクとした食感と独特の風味が人々に愛され、さまざまな食品分野において常に重要な位置を占めている。しかし、揚げ物は、高脂肪、高カロリーであるため、肥満、心血管疾患、脳血管疾患及びその他の慢性疾患を誘発しやすく、人の健康に悪影響を及ぼす恐れがある。また、揚げ物に吸着された油脂の酸化も、揚げ物自体の感覚的な品質や保存期間に影響を与える。そのため、揚げ物の吸油量を効果的に減らすことには、慢性疾患の発生率を減らし、揚げ物の劣化を遅らせるという二重の意味がある。
【0003】
小麦粉は、揚げ物によく使われる原料の一つとして、揚げ団子、油餅、揚げ物用衣材などに使用されている。小麦粉を改質して揚げた後の吸油量(以下、「揚げ吸油量」)を減らすことは、揚げ物の吸油量を減らすための重要な指針となる。現在、一般的な改質方法には、物理的改質、化学的改質、生物学的改質が含まれる。改質により、小麦粉中のデンプン、タンパク質、及びその他の成分の構造を変更又は修飾して、小麦粉の性能と応用価値を向上させ、最終的に小麦粉の応用範囲を拡大し、食品の品質を向上させるという目的を達成することができる。
【0004】
現在、親水コロイドを添加することにより揚げ物の吸油量を減らすことが多く、揚げ物用衣材の配合の最適化に重点が置かれており、構造のレベルで原料を改質して揚げた後の吸油量を減らすこと、特に複雑な多成分系の改質に対する研究が不足している。揚げる際の油の吸収メカニズムを考え、本発明は、多成分系である小麦粉を対象として、化学的修飾、酵素的修飾又はそれらの組み合わせによって小麦粉の構造と機能を修飾し、揚げた後の小麦粉の吸油量を減らすという目的を達成するため、非常に価値のある革新的な研究アイデアである。これは、小麦粉の応用性能の向上、揚げ物の品質向上、揚げ物の安全性や品質問題の解決にとって重要な意味を有する。
【発明の概要】
【0005】
上記の問題を解決するために、本発明は、化学的修飾と酵素的修飾の組み合わせにより小麦粉の構造と機能を修飾し、即ち、即先加入トランスグルタミナーゼを加えた後にフィチン酸を加えるか、又はフィチン酸を加えた後にトランスグルタミナーゼを加えて小麦粉中のデンプン及びタンパク質を修飾することにより、小麦粉中の成分同士の小麦粉が向上し、揚げた後の吸油量を減らすとの目的が達成される。この方法は、簡単で、環境に優しく、実施可能性が高い。この改質小麦粉の揚げた後の吸油量は、未改質小麦粉と比較して25~32%減少し、従来技術(親水コロイド添加)と比較して約16%減少可能であり、かつ改質小麦粉の揚げた後の色艶が良くなる。
【0006】
本発明の第一の目的は、低揚げ吸油量小麦粉の製造方法を提供することである。前記方法は、以下のステップを含む。
(1)スラリー化:小麦粉を脱イオン水に均一に分散し、均一に撹拌し、加熱して保温することにより、小麦粉スラリーを得る。
(2)小麦粉改質:ステップ(1)で得られた小麦粉スラリーにフィチン酸、トランスグルタミナーゼを加え、pHを調整し、反応させる。
【0007】
本発明の一実施形態において、ステップ(2)では、トランスグルタミナーゼを加えた後にフィチン酸を加え、又はフィチン酸を加えた後にトランスグルタミナーゼを加える。
【0008】
本発明の一実施形態において、ステップ(1)における小麦粉は、薄力粉、中力粉、強力粉のうちの1種又は複数種である。
【0009】
本発明の一実施形態において、ステップ(1)における小麦粉は、小麦を粉砕した粉状物である。
【0010】
本発明の一実施形態において、ステップ(1)における小麦粉スラリーの濃度は、5%~40%である。
【0011】
本発明の一実施形態において、ステップ(1)では、加熱して保温することとは、デンプンスラリーを40℃~65℃に加熱して10~30min保温することを指す。
【0012】
本発明の一実施形態において、ステップ(2)における前記トランスグルタミナーゼの添加量は、2~40U/g乾量基準小麦粉であり、前記フィチン酸の添加量は、0.2%~4%乾量基準小麦粉である。
【0013】
本発明の一実施形態において、ステップ(2)では、pHを調整することとは、pHを5~8に調整することを指し、反応温度は40℃~65℃、反応時間は1h~12hである。
【0014】
本発明の一実施形態において、前記方法は、ステップ(3):洗浄をさらに含む。選択的に、具体的には、ステップ(2)で反応終了後に得られた小麦粉スラリーを遠心分離し、洗浄する。
【0015】
本発明の一実施形態において、ステップ(3)における遠心分離とは、回転速度2000rpm~4000rpmの条件下で5~20min遠心分離することを指す。
【0016】
本発明の一実施形態において、ステップ(3)における洗浄は、脱イオン水、無水エタノールで遠心洗浄、吸引濾過洗浄などを繰り返すことを含む。
【0017】
本発明の一実施形態において、前記方法は、ステップ(4):乾燥をさらに含む。選択的に、具体的には、ステップ(3)で得られた小麦粉を乾燥、粉砕、篩通しすることにより、低揚げ吸油量の改質小麦粉を得る。
【0018】
本発明の一実施形態において、ステップ(4)における乾燥は、真空乾燥、凍結乾燥、送風乾燥、ドラム乾燥のうちの1種又は複数種を含む。
【0019】
本発明の一実施形態において、ステップ(4)における粉砕は、乳鉢を用いる粉砕、ミルを用いる粉砕を含み、前記篩通しとは、粉砕後の改質小麦粉を80メッシュ篩にかけることを指す。
【0020】
本発明の第二の目的は、前記方法により製造された化学的-酵素的二重改質小麦粉を提供することである。
【0021】
本発明の第三の目的は、揚げ物における前記化学的-酵素的二重改質小麦粉の使用を提供することである。
【発明の効果】
【0022】
(1)本発明は、生酵素的及び化学的方法により高架橋度の改質小麦粉を製造することにより、揚げた後の吸油量を減らずとの目的を達成し、原材料が入手しやすく、プロセスが簡単で、操作が便利で、環境に優しく安全である。
(2)本発明では、生酵素的及び化学的方法により製造された低揚げ吸油量小麦粉を揚げ団子に使用することにより、吸油量は、未改質小麦粉と比較して25~32%減少し、従来技術(親水コロイド添加)と比較して16%減少可能であり、かつこの方法は、親水コロイド添加よりもコストが低く、得られた小麦粉の揚げた後の色艶がより良い。
(3)本発明では、トランスグルタミナーゼを加えた後にフィチン酸を加えるか、又はフィチン酸を加えた後にトランスグルタミナーゼを加えることにより、小麦粉を改質し、デンプン、タンパク質及びデンプン-タンパク質の架橋を促進し、安定した多次元ネットワーク構造を形成し、小麦粉及び生地の構造緊密性を向上させ、揚げ際の吸油量を減少させ、低揚げ吸油量小麦粉の製造及び低脂肪、低エネルギー揚げ物の開発のために新しいアイデア及び方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施例1~2及び比較例1~16で製造された改質小麦粉の模擬系における吸油量を示す。
【
図2】本発明の実施例1~2及び比較例1~12で製造された改質小麦粉のDSCスペクトルである。
【
図3】本発明の実施例1~2及び比較例1~12で製造された改質小麦粉のDSC熱力学パラメータを示す。
【
図4】本発明の実施例1~2及び比較例1~20で製造された改質小麦粉をリアル揚げ系に使用した後の色艶及び実物を示す。
【
図5】比較例13~16の模擬揚げを経た小麦粉の実物図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明の実施形態はこれに限定されない。
1、揚げ団子の作り:未改質小麦粉と改質後の小麦粉とを質量比1:1で混合し、1%の酵素を加え、約38℃の温水を入れ、小麦粉をこね、丸くまとめた(一塊に捏ねた)生地を温度38℃、湿度85%の生地寝かせ装置に入れ、45min寝かせ、寝かせた生地を2gの小生地に分割し、さらに20min寝かせ、その後、180℃に予熱した揚げ鍋に入れ、4min揚げた。揚げた後、油を切って室温に冷却した。
2、模擬揚げ:5g改質小麦粉を秤取し、50mL大豆油と均一に混合した後、恒温油浴鍋に入れ、180℃で10min揚げた後、熱いうちに揚げサンプルを真空吸引濾過し、サンプルを冷却した後、密封袋に入れて保存した。
3、吸油量の測定:低磁場核磁気共鳴装置(LF-NMR)を用いて上記模擬揚げを経た小麦粉のT2緩和時間スペクトルを測定した。上記の模擬揚げを経て得られた揚げ小麦粉を5mL正確に秤量してガラスサンプルバイアルに入れ、脱脂原料テープで密封した後、25mmのNMRチューブに入れ、LF-NMR装置を用いてCPMGシーケンスにより32℃でサンプルのスピン-スピン緩和特性を測定し、校正モードとして自由誘導減衰信号(FID)モードを使用し、測定モードとしてCPMGパルスシーケンスを使用した。実験測定プロセスは、繰り返しサンプリング回数(NS):32、繰り返しサンプリング待ち時間(TW):2000、エコー数(NECH):4000、エコー時間(TE):0.3msである。同じ条件下で20-1000msでの試験サンプルのピーク面積及び大豆油標準サンプルのピーク面積を測定し、標準曲線を描画し、20-1000msでの各サンプルのピーク面積を標準曲線に代入し、正規化処理した後、模擬揚げ小麦粉の総油脂の含有量を計算した。
4、熱力学特性分析:示差走査熱量計(DSC)により改質後の小麦粉の熱力学特性を測定した。2.0~3.0mgの改質小麦粉を秤量し、アルミ坩堝に入れ、その後、1:2(w/w)の脱イオン水を加え、直ちに坩堝を密閉し、密封袋に入れ、室温下で12h平衡化した。10℃/minの昇温速度で30℃から100℃まで昇温させ、密閉空坩堝を対照とした。装置に付属するソフトウェアにより初期温度(T0)、ピーク温度(Tp)、最終温度(Tc)及びエンタルピー値(ΔH)を計算した。
5、色度の測定:手持ち式色度計を用いてリアル揚げ系で得られた揚げ団子の色度を分析した。
【0025】
実施例1:トランスグルタミナーゼを加えた後にフィチン酸を加えて得られた改質小麦粉のその揚げ効果日する影響
(1)スラリー化:40g中力粉を200mL脱イオン水に均一に分散し、均一に撹拌し、45℃に加熱して10~30min保温し、小麦粉濃度が20%の小麦粉スラリーを得た。
(2)小麦粉改質:ステップ(1)で得られた小麦粉スラリーに10U/gトランスグルタミナーゼを加え、pHを7.0に調整し、45℃で2h反応させた。さらに、1%フィチン酸を加え、同様にpHを7.0に調整し、45℃で2h反応させた。
(3)洗浄:ステップ(2)で反応終了後に得られた小麦粉スラリーを15min遠心分離(回転速度4000rpm)し、上清を捨て、等体積の無水エタノールを加え、振盪して均一に混合した後、真空吸引濾過機で吸引濾過した。
(4)乾燥:ステップ(3)で得られた小麦粉を送風乾燥機に入れ、50℃で6h乾燥させ、その後、ミルで粉砕し、粉砕した改質小麦粉を80メッシュ篩にかけ、低揚げ吸油量の改質小麦粉を得た。
【0026】
実施例2:フィチン酸を加えた後にトランスグルタミナーゼを加えて得られた改質小麦粉のその揚げ効果に対する影響
(1)スラリー化:40g中力粉を200mL脱イオン水に均一に分散し、均一に撹拌し、45℃に加熱して10~30min保温し、小麦粉濃度が20%の小麦粉スラリーを得た。
(2)小麦粉改質:ステップ(1)で得られた小麦粉スラリーに1%フィチン酸を加え、pHを7.0に調整し、45℃で2h反応させた。さらに10U/gトランスグルタミナーゼを加え、同様にpHを7.0に調整し、45℃で2h反応させた。
(3)洗浄:ステップ(2)で反応終了後に得られた小麦粉スラリーを15min遠心分離(回転速度4000rpm)し、上清を捨て、等体積の無水エタノールを加え、振盪して均一に混合した後、真空吸引濾過機で吸引濾過した。
(4)乾燥:ステップ(3)で得られた小麦粉を送風乾燥機に入れ、50℃で6h乾燥させ、その後、ミルで粉砕し、粉砕した改質小麦粉を80メッシュ篩にかけ、低揚げ吸油量の改質小麦粉を得た。
【0027】
比較例1:未改質小麦粉のその揚げ効果に対する影響
(1)スラリー化:40g中力粉を200mL脱イオン水に均一に分散し、均一に撹拌し、45℃に加熱して10~30min保温し、小麦粉濃度が20%の小麦粉スラリーを得た。pHを7.0に調整し、45℃で2h保温した。
(2)洗浄:ステップ(1)で得られた小麦粉スラリーを15min遠心分離(回転速度4000rpm)し、上清を捨て、等体積の無水エタノールを加え、振盪して均一に混合した後、真空吸引濾過機で吸引濾過した。
(3)乾燥:ステップ(2)で得られた小麦粉を送風乾燥機に入れ、50℃で6h乾燥させ、その後、ミルで粉砕し、粉砕した改質小麦粉を80メッシュ篩にかけ、低揚げ吸油量の改質小麦粉を得た。
【0028】
比較例2:トランスグルタミナーゼ改質小麦粉のその揚げ効果に対する影響
(1)スラリー化:40g中力粉を200mL脱イオン水に均一に分散し、均一に撹拌し、45℃に加熱して10~30min保温し、小麦粉濃度が20%の小麦粉スラリーを得た。
(2)小麦粉改質:ステップ(1)で得られた小麦粉スラリーに10U/gトランスグルタミナーゼを加え、pHを7.0に調整し、45℃で2h反応させた。
(3)洗浄:ステップ(2)で反応終了後に得られた小麦粉スラリーを15min遠心分離(回転速度4000rpm)し、上清を捨て、等体積の無水エタノールを加え、振盪して均一に混合した後、真空吸引濾過機で吸引濾過した。
(4)乾燥:ステップ(3)で得られた小麦粉を送風乾燥機に入れ、50℃で6h乾燥させ、その後、ミルで粉砕し、粉砕した改質小麦粉を80メッシュ篩にかけ、低揚げ吸油量の改質小麦粉を得た。
【0029】
比較例3:フィチン酸改質小麦粉のその揚げ効果に対する影響
(1)スラリー化:40g中力粉を200mL脱イオン水に均一に分散し、均一に撹拌し、45℃に加熱して10~30min保温し、小麦粉濃度が20%の小麦粉スラリーを得た。
(2)小麦粉改質:ステップ(1)で得られた小麦粉スラリーに1%フィチン酸を加え、pHを7.0に調整し、45℃で2h反応させた。
(3)洗浄:ステップ(2)で反応終了後に得られた小麦粉スラリーを15min遠心分離(回転速度4000rpm)し、上清を捨て、等体積の無水エタノールを加え、振盪して均一に混合した後、真空吸引濾過機で吸引濾過した。
(4)乾燥:ステップ(3)で得られた小麦粉を送風乾燥機に入れ、50℃で6h乾燥させ、その後、ミルで粉砕し、粉砕した改質小麦粉を80メッシュ篩にかけ、低揚げ吸油量の改質小麦粉を得た。
【0030】
比較例4:トランスグルタミナーゼとフィチン酸の同時添加の揚げ効果に対する影響
(1)スラリー化:40g中力粉を200mL脱イオン水に均一に分散し、均一に撹拌し、45℃に加熱して10~30min保温し、小麦粉濃度が20%の小麦粉スラリーを得た。
(2)小麦粉改質:ステップ(1)で得られた小麦粉スラリーに10U/gトランスグルタミナーゼ及び1%フィチン酸を加え、pHを7.0に調整し、45℃で2h反応させた。
(3)洗浄:ステップ(2)で反応終了後に得られた小麦粉スラリーを15min遠心分離(回転速度4000rpm)し、上清を捨て、等体積の無水エタノールを加え、振盪して均一に混合した後、真空吸引濾過機で吸引濾過した。
(4)乾燥:ステップ(3)で得られた小麦粉を送風乾燥機に入れ、50℃で6h乾燥させ、その後、ミルで粉砕し、粉砕した改質小麦粉を80メッシュ篩にかけ、低揚げ吸油量の改質小麦粉を得た。
【0031】
比較例5:親水コロイド(ペクチン)添加の小麦粉揚げ効果に対する影響
(1)スラリー化:40g中力粉を200mL脱イオン水に均一に分散し、均一に撹拌し、45℃に加熱して10~30min保温し、小麦粉濃度が20%の小麦粉スラリーを得た。pHを7.0に調整した。
(2)親水コロイドの添加:ステップ(1)で得られた小麦粉スラリーに1%(小麦粉乾量基準)ペクチンを加え、均一に撹拌し、恒温45℃で2h保持した。
(3)洗浄:ステップ(2)で得られた小麦粉スラリーを15min遠心分離(回転速度4000rpm)し、上清を捨て、等体積の無水エタノールを加え、振盪して均一に混合した後、真空吸引濾過機で吸引濾過した。
(4)乾燥:ステップ(3)で得られた小麦粉を送風乾燥機に入れ、50℃で6h乾燥させ、その後、ミルで粉砕し、粉砕した改質小麦粉を80メッシュ篩にかけ、低揚げ吸油量の改質小麦粉を得た。
【0032】
比較例6:2倍用量のフィチン酸を加えて得られた改質小麦粉の揚げ効果に対する影響
(1)スラリー化:40g中力粉を200mL脱イオン水に均一に分散し、均一に撹拌し、45℃に加熱して10~30min保温し、小麦粉濃度が20%の小麦粉スラリーを得た。
(2)小麦粉改質:ステップ(1)で得られた小麦粉スラリーに2%フィチン酸を加え、pHを7.0に調整し、45℃で2h反応させた。
(3)洗浄:ステップ(2)で反応終了後に得られた小麦粉スラリーを15min遠心分離(回転速度4000rpm)し、上清を捨て、等体積の無水エタノールを加え、振盪して均一に混合した後、真空吸引濾過機で吸引濾過した。
(4)乾燥:ステップ(3)で得られた小麦粉を送風乾燥機に入れ、50℃で6h乾燥させ、その後、ミルで粉砕し、粉砕した改質小麦粉を80メッシュ篩にかけ、低揚げ吸油量の改質小麦粉を得た。
【0033】
比較例7:3倍用量のフィチン酸を加えて得られた改質小麦粉の揚げ効果に対する影響
(1)スラリー化:40g中力粉を200mL脱イオン水に均一に分散し、均一に撹拌し、45℃に加熱して10~30min保温し、小麦粉濃度が20%の小麦粉スラリーを得た。
(2)小麦粉改質:ステップ(1)で得られた小麦粉スラリーに3%フィチン酸を加え、pHを7.0に調整し、45℃で2h反応させた。
(3)洗浄:ステップ(2)で反応終了後に得られた小麦粉スラリーを15min遠心分離(回転速度4000rpm)し、上清を捨て、等体積の無水エタノールを加え、振盪して均一に混合した後、真空吸引濾過機で吸引濾過した。
(4)乾燥:ステップ(3)で得られた小麦粉を送風乾燥機に入れ、50℃で6h乾燥させ、その後、ミルで粉砕し、粉砕した改質小麦粉を80メッシュ篩にかけ、低揚げ吸油量の改質小麦粉を得た。
【0034】
比較例8:2倍用量のトランスグルタミナーゼを加えて得られた改質小麦粉の揚げ効果に対する影響
(1)スラリー化:40g中力粉を200mL脱イオン水に均一に分散し、均一に撹拌し、45℃に加熱して10~30min保温し、小麦粉濃度が20%の小麦粉スラリーを得た。
(2)小麦粉改質:ステップ(1)で得られた小麦粉スラリーに20U/gトランスグルタミナーゼを加え、pHを7.0に調整し、45℃で2h反応させた。
(3)洗浄:ステップ(2)で反応終了後に得られた小麦粉スラリーを15min遠心分離(回転速度4000rpm)し、上清を捨て、等体積の無水エタノールを加え、振盪して均一に混合した後、真空吸引濾過機で吸引濾過した。
(4)乾燥:ステップ(3)で得られた小麦粉を送風乾燥機に入れ、50℃で6h乾燥させ、その後、ミルで粉砕し、粉砕した改質小麦粉を80メッシュ篩にかけ、低揚げ吸油量の改質小麦粉を得た。
【0035】
比較例9:3倍用量のトランスグルタミナーゼを加えて得られた改質小麦粉の揚げ効果に対する影響
(1)スラリー化:40g中力粉を200mL脱イオン水に均一に分散し、均一に撹拌し、45℃に加熱して10~30min保温し、小麦粉濃度が20%の小麦粉スラリーを得た。
(2)小麦粉改質:ステップ(1)で得られた小麦粉スラリーに30U/gトランスグルタミナーゼを加え、pHを7.0に調整し、45℃で2h反応させた。
(3)洗浄:ステップ(2)で反応終了後に得られた小麦粉スラリーを15min遠心分離(回転速度4000rpm)し、上清を捨て、等体積の無水エタノールを加え、振盪して均一に混合した後、真空吸引濾過機で吸引濾過した。
(4)乾燥:ステップ(3)で得られた小麦粉を送風乾燥機に入れ、50℃で6h乾燥させ、その後、ミルで粉砕し、粉砕した改質小麦粉を80メッシュ篩にかけ、低揚げ吸油量の改質小麦粉を得た。
【0036】
比較例10:フィチン酸をクエン酸に、トランスグルタミナーゼをラッカーゼに変更
実施例1のフィチン酸をクエン酸に変更し、トランスグルタミナーゼをラッカーゼに変更した以外、実施例1と同様に、低揚げ吸油量の改質小麦粉を得た。
【0037】
比較例11:トランスグルタミナーゼをラッカーゼに変更
実施例1のトランスグルタミナーゼをラッカーゼに変更した以外、実施例1と同様に、低揚げ吸油量の改質小麦粉を得た。
【0038】
比較例12:フィチン酸をクエン酸に変更
実施例1のフィチン酸をクエン酸に変更した以外、実施例1と同様に、低揚げ吸油量の改質小麦粉を得た。
【0039】
比較例13:模擬揚げ過程においてフィチン酸を加えた後にトランスグルタミナーゼを加える
5g未改質小麦粉と50mL大豆油を均一に混合し、この過程において1%のフィチン酸(未改質小麦粉に対して)を加え、その後、180℃油浴鍋に入れ、同時に10U/gのトランスグルタミナーゼ(未改質小麦粉に対して)を加え、油浴で10min処理した。
【0040】
比較例14:模擬揚げ過程においてトランスグルタミナーゼを加えた後にフィチン酸を加える
5g未改質小麦粉と50mL大豆油を均一に混合し、この過程において10U/gのトランスグルタミナーゼ(未改質小麦粉に対して)を加え、その後、180℃油浴鍋に入れ、同時に1%のフィチン酸(未改質小麦粉に対して)を加え、油浴で10min処理した。
【0041】
比較例15:模擬揚げ過程において揚げる前にフィチン酸とトランスグルタミナーゼを同時に加える
5g未改質小麦粉と50mL大豆油を均一に混合し、この過程において1%のフィチン酸(未改質小麦粉に対して)及び10U/gのトランスグルタミナーゼ(未改質小麦粉に対して)を同時に加え、その後、180℃油浴鍋に入れ、油浴で10min処理した。
【0042】
比較例16:模擬揚げ過程において揚げる際にフィチン酸とトランスグルタミナーゼを同時に加える
5g未改質小麦粉と50mL大豆油とを均一に混合し、その後、180℃油浴鍋に入れると同時に1%のフィチン酸(未改質小麦粉に対して)及び10U/gのトランスグルタミナーゼ(未改質小麦粉に対して)を加え、油浴で10min処理した。
【0043】
比較例17:揚げ団子を作る際にフィチン酸を加えた後にトランスグルタミナーゼを加える
20g未改質の小麦粉に1%の酵素を加え、約38℃の温水を入れ、1%フィチン酸(小麦粉に対して)を加え、小麦粉をこね、丸くまとめた(一塊に捏ねた)生地を温度38℃、湿度85%の生地寝かせ装置に入れ、45min寝かせ、寝かせた生地に10U/gトランスグルタミナーゼ(小麦粉に対して)を加え、2gの小生地に分割し、さらに20min寝かせ、その後、180℃に予熱した揚げ鍋に入れ、4min揚げた。揚げた後、油を切って室温に冷却した。
【0044】
比較例18:揚げ団子を作る際にトランスグルタミナーゼを加えた後にフィチン酸を加える
20g未改質の小麦粉に1%の酵素を加え、約38℃の温水を入れ、10U/gトランスグルタミナーゼ(小麦粉に対して)を加え、小麦粉をこね、丸くまとめた生地を温度38℃、湿度85%の生地寝かせ装置に入れ、45min寝かせ、寝かせた生地に1%フィチン酸(小麦粉に対して)を加え、2gの小生地に分割し、さらに20min寝かせ、その後、180℃に予熱した揚げ鍋に入れ、4min揚げた。揚げた後、油を切って室温に冷却した。
【0045】
比較例19:揚げ団子を作る際に45min寝かせ段階でフィチン酸とトランスグルタミナーゼを同時に加える
20g未改質の小麦粉に1%の酵素を加え、約38℃の温水を入れ、10U/gトランスグルタミナーゼ(小麦粉に対して)、1%フィチン酸(小麦粉に対して)を加え、小麦粉をこね、丸くまとめた生地を温度38℃、湿度85%の生地寝かせ装置に入れ、45min寝かせ、寝かせた生地を2gの小生地に分割し、さらに20min寝かせ、その後、180℃に予熱した揚げ鍋に入れ、4min揚げた。揚げた後、油を切って室温に冷却した。
【0046】
比較例20:揚げ団子を作る際に20min寝かせ段階でフィチン酸とトランスグルタミナーゼを同時に加える
20g未改質の小麦粉に1%の酵素を加え、約38℃の温水を入れ、小麦粉をこね、丸くまとめた生地を温度38℃、湿度85%の生地寝かせ装置に入れ、45min寝かせ、寝かせた生地に10U/gトランスグルタミナーゼ(小麦粉に対して)及び1%フィチン酸(小麦粉に対して)を加え、2gの小生地に分割し、さらに20min寝かせ、その後、180℃に予熱した揚げ鍋に入れ、4min揚げた。揚げた後、油を切って室温に冷却した。
【0047】
結果測定
模擬系における改質小麦粉の吸油量の測定
表1及び
図1は、改質小麦粉が模擬揚げを経た後の吸油量データを示す。表1及び
図1から分かるように、実施例1~2で製造された改質小麦粉は、模擬揚げ系において吸油量がすべての比較例よりも低い。これは、実施例1~2で製造された改質小麦粉は、確実な低揚げ吸油量性能を有することを示している。
【0048】
表1:実施例1~2及び比較例1~16の模擬揚げの吸油量
【表1】
【0049】
2、改質小麦粉の熱特性の測定
実施例1~2及び比較例1~12で製造された改質小麦粉に対して熱特性の測定を行い、そのDSCスペクトル及び熱力学パラメータを
図2及び
図3に示す。
図2及び
図3から分かるように、比較例1~12と比較して、実施例1~2の吸熱ピークは明らかに右にシフトしたため、その熱特性が向上したことを示しており、比較例6は実施例2と比較してΔHに有意差がないが、その糊化温度が実施例1~2の糊化温度よりも低く、比較例11は実施例と比較して糊化温度に有意差がないが、そのΔHが実施例1~2のΔHよりも低かった。実施例1~2の熱特性の向上は、改質後の架橋程度の向上を証明している。
【0050】
3、リアル揚げ系への改質小麦粉の使用による色艶に対する影響及び実物の展示
改質小麦粉をリアル揚げ系に使用して得られた揚げ団子の実物展示及び色艶分析を
図4に示す。高輝度(L*)及び高黄色度(b*)の揚げ物は、消費者により人気がある。
図4から分かるように、実施例1~2で製造された改質小麦粉を揚げ団子に使用した場合、揚げ団子のL*値(高輝度)は、すべての比較例よりも高かった。実施例1~2のb*は比較例6~12及び比較例17~20よりも低いが、実物図から分かるように、比較例6~12及び比較例17~20では色が茶色っぽいのに対し、実施例1~2では色が茶色というよりは黄金色に見えるため、実施例1~2で製造された改質小麦粉を揚げ団子に使用することがより良い色艶を得るのに有利であることを実証している。
【0051】
比較例13~16の模擬揚げを経た小麦粉の実物図を
図5に示す。
図5から分かるように、比較例13~16で製造された小麦粉には黒色物質があり、模擬揚げ過程においてフィチン酸及びトランスグルタミナーゼの添加が小麦粉に悪影響を与えることを示している。
【0052】
以上、好ましい実施例が開示されたが、本発明はこれらの実施例に限定されない。本発明の思想及び範囲から逸脱しない限り、当業者が種々の変更及び修飾を加えることができる。したがって、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって決定されるべきである。
【要約】 (修正有)
【課題】低揚げ吸油量小麦粉の製造方法及びその使用を提供する。
【解決手段】本発明に係る低揚げ吸油量小麦粉の製造方法では、トランスグルタミナーゼを加えた後にフィチン酸を加えるか、又はフィチン酸を加えた後にトランスグルタミナーゼを加える方法により、小麦粉中のデンプン、タンパク質、デンプン-タンパク質の架橋程度を向上させ、小麦粉構造の緊密性を向上させることによって、揚げ団子を作る過程において水分の蒸発や油脂の吸着が減少し、最終的に低揚げ吸油量の改質小麦粉が形成される。
【選択図】
図1