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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】細胞播種剤及び細胞移植用基材
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/39 20060101AFI20240617BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20240617BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20240617BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240617BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240617BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240617BHJP
   A61K 35/30 20150101ALN20240617BHJP
   A61K 35/545 20150101ALN20240617BHJP
   A61K 31/365 20060101ALN20240617BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20240617BHJP
【FI】
A61K31/39
A61L27/38 100
A61L27/50 200
A61P27/02
A61P43/00 105
C12N15/09 Z
A61K35/30
A61K35/545
A61K31/365
C12N5/10
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023533195
(86)(22)【出願日】2022-07-07
(86)【国際出願番号】 JP2022027003
(87)【国際公開番号】W WO2023282338
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2023-11-30
(31)【優先権主張番号】63/219,101
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522058659
【氏名又は名称】株式会社セルージョン
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 慎二
(72)【発明者】
【氏名】羽藤 晋
(72)【発明者】
【氏名】坂口 欣暉
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/142833(WO,A1)
【文献】特開平06-107538(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109329274(CN,A)
【文献】Australian Journal of Ophthalmology,1981年,9(1),pp. 63-67
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61K 35/00-35/768
A61L 27/00
C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノールフタレイン誘導体を含む、培養角膜内皮細胞又は角膜内皮代替細胞の生着促進用播種剤、ここで、
フェノールフタレイン誘導体は下記式で表される基本骨格を有し、
[式中、-X-は-SO -であり、環Ar 及び環Ar は同一又は異なって、1~3個の置換基(炭素数1~3の分岐鎖を有してもよいアルキル基;ハロゲン原子)を有していてもよいベンゼンである]、
角膜内皮代替細胞は、角膜内皮細胞様の性状及び機能を有し、且つ、NR3C2(nuclear receptor subfamily 3, group C, member 2)の遺伝子発現量が増強されていることを特徴とする、iPS細胞(遺伝子編集あるいは遺伝子導入により追加機能を付与した細胞を含む)由来のCECSi細胞(Corneal Endothelial Cell Substitute from iPS cells)である
【請求項2】
フェノールフタレイン誘導体を含む、角膜内皮代替細胞の生着促進用播種剤、ここで、
フェノールフタレイン誘導体は下記式で表される基本骨格を有し、
[式中、-X-は-SO -であり、環Ar 及び環Ar は同一又は異なって、1~3個の置換基(炭素数1~3の分岐鎖を有してもよいアルキル基;ハロゲン原子)を有していてもよいベンゼンである]、
角膜内皮代替細胞は、角膜内皮細胞様の性状及び機能を有し、且つ、NR3C2(nuclear receptor subfamily 3, group C, member 2)の遺伝子発現量が増強されていることを特徴とする、iPS細胞(遺伝子編集あるいは遺伝子導入により追加機能を付与した細胞を含む)由来のCECSi細胞(Corneal Endothelial Cell Substitute from iPS cells)である
【請求項3】
角膜内皮代替細胞が有する角膜内皮細胞様の性状及び機能が、以下の特徴(i)~(iv)のうち少なくとも1つである、請求項1記載の剤:
(i)細胞間接着がN-cadherinで構成されている、
(ii)細胞間にタイトジャンクション(tight junction)が形成されている、
(iii)細胞膜上にNa,K-ATPase α1 subunitを発現する、
(iv)細胞核に転写因子PITX2の発現が観察される。
【請求項4】
角膜内皮代替細胞が有する角膜内皮細胞様の性状及び機能が、以下の特徴(i)~(iv)のうち少なくとも1つである、請求項2記載の剤:
(i)細胞間接着がN-cadherinで構成されている、
(ii)細胞間にタイトジャンクション(tight junction)が形成されている、
(iii)細胞膜上にNa,K-ATPase α1 subunitを発現する、
(iv)細胞核に転写因子PITX2の発現が観察される。
【請求項5】
フェノールフタレイン誘導体が、フェノールスルホンフタレイン(フェノールレッド)、クレゾールレッド、チモールブルー、ブロモクレゾールパープル、およびブロモフェノールブルーからなる群より選択される、請求項1~のいずれか1項に記載の剤。
【請求項6】
フェノールフタレイン誘導体が、フェノールレッドである、請求項1~のいずれか1項に記載の剤。
【請求項7】
フェノールレッド濃度が1~20mg/Lである、請求項記載の剤。
【請求項8】
フェノールフタレイン誘導体が、クレゾールレッドである、請求項1~のいずれか1項に記載の剤。
【請求項9】
クレゾールレッド濃度が1~20mg/Lである、請求項記載の剤。
【請求項10】
ROCK阻害剤を含まないことを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の剤。
【請求項11】
フェノールフタレイン誘導体を含む、培養角膜内皮細胞又は角膜内皮代替細胞の移植用基材、ここで、
フェノールフタレイン誘導体は下記式で表される基本骨格を有し、
[式中、-X-は-SO -であり、環Ar 及び環Ar は同一又は異なって、1~3個の置換基(炭素数1~3の分岐鎖を有してもよいアルキル基;ハロゲン原子)を有していてもよいベンゼンである]、
角膜内皮代替細胞は、角膜内皮細胞様の性状及び機能を有し、且つ、NR3C2(nuclear receptor subfamily 3, group C, member 2)の遺伝子発現量が増強されていることを特徴とする、iPS細胞(遺伝子編集あるいは遺伝子導入により追加機能を付与した細胞を含む)由来のCECSi細胞(Corneal Endothelial Cell Substitute from iPS cells)である
【請求項12】
フェノールフタレイン誘導体を含む、角膜内皮代替細胞の移植用基材、ここで、
フェノールフタレイン誘導体は下記式で表される基本骨格を有し、
[式中、-X-は-SO -であり、環Ar 及び環Ar は同一又は異なって、1~3個の置換基(炭素数1~3の分岐鎖を有してもよいアルキル基;ハロゲン原子)を有していてもよいベンゼンである]、
角膜内皮代替細胞は、角膜内皮細胞様の性状及び機能を有し、且つ、NR3C2(nuclear receptor subfamily 3, group C, member 2)の遺伝子発現量が増強されていることを特徴とする、iPS細胞(遺伝子編集あるいは遺伝子導入により追加機能を付与した細胞を含む)由来のCECSi細胞(Corneal Endothelial Cell Substitute from iPS cells)である
【請求項13】
角膜内皮代替細胞が有する角膜内皮細胞様の性状及び機能が、以下の特徴(i)~(iv)のうち少なくとも1つである、請求項11記載の基材:
(i)細胞間接着がN-cadherinで構成されている、
(ii)細胞間にタイトジャンクション(tight junction)が形成されている、
(iii)細胞膜上にNa,K-ATPase α1 subunitを発現する、
(iv)細胞核に転写因子PITX2の発現が観察される。
【請求項14】
角膜内皮代替細胞が有する角膜内皮細胞様の性状及び機能が、以下の特徴(i)~(iv)のうち少なくとも1つである、請求項12記載の基材:
(i)細胞間接着がN-cadherinで構成されている、
(ii)細胞間にタイトジャンクション(tight junction)が形成されている、
(iii)細胞膜上にNa,K-ATPase α1 subunitを発現する、
(iv)細胞核に転写因子PITX2の発現が観察される。
【請求項15】
フェノールフタレイン誘導体が、フェノールスルホンフタレイン(フェノールレッド)、クレゾールレッド、チモールブルー、ブロモクレゾールパープル、およびブロモフェノールブルーからなる群より選択される、請求項1114のいずれか1項に記載の基材。
【請求項16】
フェノールフタレイン誘導体が、フェノールレッドである、請求項1114のいずれか1項に記載の基材。
【請求項17】
フェノールレッド濃度が1~20mg/Lである、請求項16記載の基材。
【請求項18】
フェノールフタレイン誘導体が、クレゾールレッドである、請求項1114のいずれか1項に記載の基材。
【請求項19】
クレゾールレッド濃度が1~20mg/Lである、請求項18記載の基材。
【請求項20】
ROCK阻害剤を含まないことを特徴とする、請求項1114のいずれか1項に記載の基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞播種剤及び細胞移植用基材、特に、角膜内皮細胞又は角膜内皮代替細胞の播種剤及び移植用基材に関する。
【背景技術】
【0002】
角膜内皮細胞の減少などの角膜内皮の損傷により、角膜内皮細胞の機能が損なわれ、角膜実質部に浮腫が生じる。これは角膜の透明性の低下を招き、視力を低下させる。このような状態は、水疱性角膜症と呼ばれている。一方で、ヒトの角膜内皮細胞は、一度障害を受けると再生する能力をほとんど持たないことが知られている。従って、なんらかの傷害により角膜内皮細胞が減少した場合、その治療は角膜移植が有効な、唯一の手段となる。実際、角膜移植適応例の約半数は角膜内皮機能不全による水疱性角膜症が占める。
【0003】
現在、角膜内皮損傷患者は、角膜の上皮、実質及び内皮の3層構造の全てを移植する全層角膜移植により処置されている。全層角膜移植は、確立された技術ではあるが、日本での角膜提供は不足しているのが現状であり、また、拒絶反応が問題となる。かかる問題点を解消するために、損傷を受けた組織のみを移植する「パーツ移植」が普及しつつある。角膜内皮を温存して、ドナーの上皮と実質のみを移植する深層層状角膜移植(Deep Lamellar Keratoplasty:DLKP)や内皮を含む一部の角膜だけを移植する角膜内皮移植等が知られている。しかしながら、例えば角膜内皮移植の場合、その移植材料の供給源となるのは依然として角膜内皮そのものであり、角膜の提供者が限られていることを鑑みれば、全層角膜移植同様、ドナー不足の問題点を克服することができない。さらに角膜内皮細胞は培養が難しく、移植に十分な数の培養細胞を調製することには時間的及び費用的な負担が大きい。
【0004】
ドナー不足の問題点を解決する為に、角膜内皮細胞乃至角膜内皮細胞と同等の機能を有する角膜内皮細胞の代替となる細胞の創製が試みられている。
例えば、iPS細胞あるいはES細胞から角膜内皮細胞の代替となる細胞を誘導する方法が報告されている。iPS細胞あるいはES細胞から角膜内皮細胞(実際は、角膜内皮細胞に特異的な表面マーカー等が今のところ確立されていないため、角膜内皮細胞に近い性質の細胞、いわゆる角膜内皮様細胞(Corneal endothelial like cell))への誘導法・細胞培養法に関しては、非特許文献1に総説されている。また、本発明者らは、これまでに角膜内皮細胞と同等の機能を有する、角膜内皮細胞の代替となる細胞の製造方法を確立し(特許文献1~3)、当該方法によって得られた角膜内皮様細胞を「角膜内皮代替細胞」と命名している。iPS細胞由来角膜内皮代替細胞の水疱性角膜症に対する臨床研究も始まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO/2013/051722
【文献】WO/2016/093359
【文献】WO/2019/142833
【非特許文献】
【0006】
【文献】Hatou S, Shimmura S; Inflamm Regen. 2019;39:19.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
目的細胞、特にiPS細胞あるいはES細胞から誘導した角膜内皮代替細胞を大量生産し、最終製品化するためには、製造工程において、細胞が増殖するだけでなく、各工程をまたぐ継代操作(細胞を細胞培養容器から回収して新しい細胞培養容器に播種し直す操作)においてできるだけ効率的に細胞を生着させる必要がある。また、細胞の形質転換を起こさずに継代操作を行うためには、継代操作時の培地に含まれる成分が重要である。また、細胞懸濁液を眼前房内に投与し、角膜後面(内皮面)に均一に生着させる操作は、生体内での継代操作であり、細胞播種時の培地と同様、移植用基材に含まれる成分が重要になる。
iPS細胞の拡大培養工程における継代操作では、Y-27632に代表されるROCK阻害剤を培地に一時的に添加する方法が行われている。しかしながらiPS細胞から角膜内皮代替細胞への分化誘導工程においてROCK阻害剤を使用すると、細胞骨格やタイトジャンクションの形成が阻害され、上皮間葉転換(EMT)と思われる形質転換をきたすことを本発明者らは見出した。EMTが生じると角膜上皮細胞の上皮細胞としての機能(例、バリア機能)が低下する。
従って、本発明は、細胞の形質転換を起こさずに継代操作が可能で且つ効率的に細胞を生着させることが可能な細胞播種剤及び細胞移植用基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、iPS細胞あるいはES細胞から角膜内皮細胞又は角膜内皮代替細胞を誘導する際の継代操作時に、フェノールフタレイン誘導体を含めることでROCK阻害剤非存在下でも効率的に細胞の生着を促進すること、及び細胞移植用基材においてもフェノールフタレイン誘導体が角膜後面への均一な生着を促し、結果として移植細胞の治療効果を向上させることを見出して本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下を提供する。
[1]フェノールフタレイン誘導体を含む、培養角膜内皮細胞又は角膜内皮代替細胞の生着促進用播種剤。
[2]フェノールフタレイン誘導体を含む、角膜内皮代替細胞の生着促進用播種剤。
[3]角膜内皮代替細胞が幹細胞由来である、上記[2]記載の剤。
[4]幹細胞が多能性幹細胞である、上記[3]記載の剤。
[5]多能性幹細胞がiPS細胞(遺伝子編集あるいは遺伝子導入により追加機能を付与した細胞を含む)由来である、上記[4]記載の剤。
[6]フェノールフタレイン誘導体が、フェノールスルホンフタレイン(フェノールレッド)、イソバレリルフェノールフタレイン、アセチルフェノールフタレイン、フェノールフタレインジブチレート、フェノールフタレインジホスフェート、フェノールフタレインジスルフェート、フェノールフタレイングルクロン酸、フェノールフタレインモノ-β-グルコシドウロン酸、フェノールフタレインモノ-β-グルクロン酸、フェノールフタレインモノ-ホスフェート、クレゾールレッド、チモールブルー、およびブロモクレゾールパープルからなる群より選択される、上記[1]~[5]のいずれかに記載の剤。
[7]フェノールフタレイン誘導体が、フェノールレッドである、上記[1]~[6]のいずれかに記載の剤。
[8]フェノールレッド濃度が1~20mg/Lである、上記[7]記載の剤。
[9]フェノールフタレイン誘導体が、クレゾールレッドである、上記[1]~[6]のいずれかに記載の剤。
[10]クレゾールレッド濃度が1~20mg/Lである、上記[9]記載の剤。
[11]ROCK阻害剤を含まないことを特徴とする、上記[1]~[10]のいずれかに記載の剤。
【0010】
[12]培養角膜内皮細胞又は角膜内皮代替細胞の生着促進用播種剤を製造する為の、フェノールフタレイン誘導体の使用。
[13]角膜内皮代替細胞の生着促進用播種剤を製造する為の、フェノールフタレイン誘導体の使用。
[14]角膜内皮代替細胞が幹細胞由来である、上記[12]又は[13]に記載の使用。
[15]幹細胞が多能性幹細胞である、上記[14]記載の使用。
[16]多能性幹細胞がiPS細胞(遺伝子編集あるいは遺伝子導入により追加機能を付与した細胞を含む)由来である、上記[15]記載の使用。
[17]フェノールフタレイン誘導体が、フェノールスルホンフタレイン(フェノールレッド)、イソバレリルフェノールフタレイン、アセチルフェノールフタレイン、フェノールフタレインジブチレート、フェノールフタレインジホスフェート、フェノールフタレインジスルフェート、フェノールフタレイングルクロン酸、フェノールフタレインモノ-β-グルコシドウロン酸、フェノールフタレインモノ-β-グルクロン酸、フェノールフタレインモノ-ホスフェート、クレゾールレッド、チモールブルー、およびブロモクレゾールパープルからなる群より選択される、上記[12]~[16]のいずれかに記載の使用。
[18]フェノールフタレイン誘導体が、フェノールレッドである、上記[12]~[17]のいずれかに記載の使用。
[19]フェノールフタレイン誘導体が、クレゾールレッドである、上記[12]~[17]のいずれかに記載の使用。
【0011】
[20]培養角膜内皮細胞又は角膜内皮代替細胞の播種において、該細胞の生着を促進する為に使用する、フェノールフタレイン誘導体。
[21]角膜内皮代替細胞の播種において、該細胞の生着を促進する為に使用する、フェノールフタレイン誘導体。
[22]角膜内皮代替細胞が幹細胞由来である、上記[20]又は[21]に記載の誘導体。
[23]幹細胞が多能性幹細胞である、上記[22]記載の誘導体。
[24]多能性幹細胞がiPS細胞(遺伝子編集あるいは遺伝子導入により追加機能を付与した細胞を含む)由来である、上記[23]記載の誘導体。
[25]フェノールフタレイン誘導体が、フェノールスルホンフタレイン(フェノールレッド)、イソバレリルフェノールフタレイン、アセチルフェノールフタレイン、フェノールフタレインジブチレート、フェノールフタレインジホスフェート、フェノールフタレインジスルフェート、フェノールフタレイングルクロン酸、フェノールフタレインモノ-β-グルコシドウロン酸、フェノールフタレインモノ-β-グルクロン酸、フェノールフタレインモノ-ホスフェート、クレゾールレッド、チモールブルー、およびブロモクレゾールパープルからなる群より選択される、上記[20]~[24]のいずれかに記載の誘導体。
[26]フェノールフタレイン誘導体が、フェノールレッドである、上記[20]~[25]のいずれかに記載の誘導体。
[27]フェノールフタレイン誘導体が、クレゾールレッドである、上記[20]~[25]のいずれかに記載の誘導体。
【0012】
[28]フェノールフタレイン誘導体存在下に、培養角膜内皮細胞又は角膜内皮代替細胞を播種することを特徴とする、該細胞の生着を促進する為の方法。
[29]フェノールフタレイン誘導体存在下に、角膜内皮代替細胞を播種することを特徴とする、該細胞の生着を促進する為の方法。
[30]角膜内皮代替細胞が幹細胞由来である、上記[28]又は[29]に記載の方法。
[31]幹細胞が多能性幹細胞である、上記[30]記載の方法。
[32]多能性幹細胞がiPS細胞(遺伝子編集あるいは遺伝子導入により追加機能を付与した細胞を含む)由来である、上記[31]記載の方法。
[33]フェノールフタレイン誘導体が、フェノールスルホンフタレイン(フェノールレッド)、イソバレリルフェノールフタレイン、アセチルフェノールフタレイン、フェノールフタレインジブチレート、フェノールフタレインジホスフェート、フェノールフタレインジスルフェート、フェノールフタレイングルクロン酸、フェノールフタレインモノ-β-グルコシドウロン酸、フェノールフタレインモノ-β-グルクロン酸、フェノールフタレインモノ-ホスフェート、クレゾールレッド、チモールブルー、およびブロモクレゾールパープルからなる群より選択される、上記[28]~[32]のいずれかに記載の方法。
[34]フェノールフタレイン誘導体が、フェノールレッドである、上記[28]~[33]のいずれかに記載の方法。
[35]フェノールフタレイン誘導体が、クレゾールレッドである、上記[28]~[33]のいずれかに記載の方法。
【0013】
[36]上記[2]~[11]のいずれかに記載の剤と角膜内皮代替細胞とを含む細胞懸濁液。
[37]細胞濃度が1.0~20×10細胞/mLである、上記[36]記載の細胞懸濁液。
[38]播種密度1.04×10細胞/cm以上1.04×10細胞/cm未満で播種されることを特徴とする、上記[36]又は[37]に記載の細胞懸濁液。
【0014】
[39]フェノールフタレイン誘導体を含む、培養角膜内皮細胞又は角膜内皮代替細胞の移植用基材。
[40]フェノールフタレイン誘導体を含む、角膜内皮代替細胞の移植用基材。
[41]角膜内皮代替細胞が幹細胞由来である、上記[39]又は[40]に記載の基材。
[42]幹細胞が多能性幹細胞である、上記[41]記載の基材。
[43]多能性幹細胞がiPS細胞(遺伝子編集あるいは遺伝子導入により追加機能を付与した細胞を含む)由来である、上記[42]記載の基材。
[44]フェノールフタレイン誘導体が、フェノールスルホンフタレイン(フェノールレッド)、フェノールフタレイン、ブロモフェノールブルー、イソバレリルフェノールフタレイン、アセチルフェノールフタレイン、フェノールフタレインジブチレート、フェノールフタレインジホスフェート、フェノールフタレインジスルフェート、フェノールフタレイングルクロン酸、フェノールフタレインモノ-β-グルコシドウロン酸、フェノールフタレインモノ-β-グルクロン酸、フェノールフタレインモノ-ホスフェート、クレゾールレッド、チモールブルー、およびブロモクレゾールパープルからなる群より選択される、上記[39]~[43]のいずれかに記載の基材。
[45]フェノールフタレイン誘導体が、フェノールレッドである、上記[39]~[44]のいずれかに記載の基材。
[46]フェノールレッド濃度が1~20mg/Lである、上記[45]記載の基材。
[47]フェノールフタレイン誘導体が、クレゾールレッドである、上記[39]~[44]のいずれかに記載の基材。
[48]クレゾールレッド濃度が1~20mg/Lである、上記[47]記載の基材。
[49]ROCK阻害剤を含まないことを特徴とする、上記[39]~[48]のいずれかに記載の基材。
【0015】
[50]上記[39]~[49]のいずれかに記載の基材と角膜内皮代替細胞とを含む細胞懸濁液。
[51]前房内への移植用である、上記[50]記載の細胞懸濁液。
[52]細胞濃度が0.5~10×10細胞/mLである、上記[51]記載の細胞懸濁液。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、細胞の形質転換を起こさずに継代操作が可能で且つ効率的に細胞を生着させることが可能になる。培養角膜内皮細胞及び角膜内皮代替細胞の大量生産を可能とし、さらに移植細胞の生着率を高めることから、結果的に治療効果を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】iPS細胞由来角膜内皮代替細胞の分化誘導工程における継代操作時に、ROCK阻害剤(Y-27632)を用いた場合と用いない場合のタイトジャンクション形成の様子を観察した結果を表す図である。ROCK阻害剤を使用するとタイトジャンクションの形成が阻害された。
図2】iPS細胞由来角膜内皮代替細胞の分化誘導工程における継代操作時における、フェノールフタレイン誘導体(フェノールレッド)の影響を調べた結果を示す図である。上段(A)は、フェノールレッド存在下あるいは非存在下で培養して3日目、5日目、及び7日目の細胞の状態を観察した顕微鏡写真であり、下段(B)は、フェノールレッド存在下あるいは非存在下で培養して14日目に回収された細胞の数と生存率を調べた結果を示すグラフである。
図3】カニクイザル水疱性角膜症モデルを用いて、iPS細胞由来角膜内皮代替細胞をフェノールレッド存在下、あるいは非存在下で移植した場合の、角膜厚を測定した結果を示すグラフである。フェノールレッド存在下で移植した方が、角膜厚が低減し角膜浮腫改善効果が認められた。
図4】カニクイザル水疱性角膜症モデルを用いて、iPS細胞由来角膜内皮代替細胞をフェノールレッド存在下、あるいは非存在下で移植した場合の眼前房における角膜内皮代替細胞の分布を観察した結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味を有する。
【0019】
1.細胞播種剤及び細胞移植用基材
本発明は新規な細胞播種剤を提供する。細胞播種剤とは、細胞培養の技術において、継代操作時に、細胞を新しい培養容器に播種する際の、細胞を混合する液体(溶液、懸濁液等)を意味する。
より詳細には、本発明は、フェノールフタレイン誘導体を含む、iPS細胞あるいはES細胞から角膜内皮代替細胞を誘導する工程において使用する細胞播種剤を提供する。該細胞播種剤は、好ましくは細胞の生着促進用の播種剤である。好ましくはフェノールフタレイン誘導体を含む角膜内皮代替細胞の生着促進用の播種剤である。本明細書中、これらを総称して本発明の細胞播種剤と略記する場合がある。
また、本発明は新規な移植用基材を提供する。移植用基材とは、細胞を人体内、あるいは動物の体内に投与する際の、細胞を混合する液体(溶液、懸濁液等)を意味する。
より詳細には、本発明は、フェノールフタレイン誘導体を含む、培養角膜内皮細胞又は角膜内皮代替細胞の移植用基材を提供する。好ましくはフェノールフタレイン誘導体を含む角膜内皮代替細胞の移植用基材である。本明細書中、これらを総称して本発明の細胞移植用基材と略記する場合がある。
本発明の細胞播種剤は、培養角膜内皮細胞又は角膜内皮代替細胞、好ましくは角膜内皮代替細胞を継代操作(細胞を細胞培養容器から回収して新しい細胞場用容器に播種しなおす操作)するのに好適に用いられる。本発明の細胞移植用基材は、培養角膜内皮代替細胞又は角膜内皮代替細胞、好ましくは角膜内皮代替細胞を眼前房内へ移植する際に好適に用いられる。
【0020】
(細胞)
本発明の細胞播種剤又は細胞移植用基材において対象となる細胞は、培養角膜内皮細胞又は角膜内皮代替細胞、好ましくは角膜内皮代替細胞、より好ましくは幹細胞由来の角膜内皮代替細胞である。ここで幹細胞は好ましくは多能性幹細胞、より好ましくはiPS細胞である。
【0021】
培養角膜内皮細胞としては、初代培養細胞であっても株化細胞であってもよいが、角膜内皮細胞は初代培養が難しいことから、株化細胞を用いることが好ましい。
【0022】
本発明において、角膜内皮代替細胞は、iPS細胞やES細胞、あるいはそれらに遺伝子編集あるいは遺伝子導入により追加機能を付与した細胞、等の幹細胞から誘導される、角膜内皮機能不全を治療可能な、角膜内皮細胞の代替となり得る細胞である。即ち、角膜内皮代替細胞は角膜内皮細胞と同等の生理機能を有する。
幹細胞は、インビトロにおいて培養することが可能で、かつ、生体を構成する複数系列の細胞に分化し得る細胞をいい、具体的には胚性幹細胞(ES細胞)、胎児の始原生殖細胞由来の多能性幹細胞(EG細胞)、精巣由来の多能性幹細胞(GS細胞)、体細胞由来人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells;iPS細胞)、ヒトの体性幹細胞(組織幹細胞)が挙げられる。iPS細胞としては、任意の温血動物、好ましくは哺乳動物に由来する細胞を使用できる。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル、ヒト等が挙げられる。好ましくはヒトに由来するものが使用できる。
【0023】
具体的には、iPS細胞としては、例えば、皮膚細胞等の体細胞に複数の遺伝子を導入して得られる、ES細胞同様の多分化能を獲得した細胞が挙げられ、例えばOct3/4遺伝子、Klf4遺伝子、C-Myc遺伝子及びSox2遺伝子を導入することによって得られるiPS細胞、Oct3/4遺伝子、Klf4遺伝子及びSox2遺伝子を導入することによって得られるiPS細胞(Nat Biotechnol 2008; 26: 101-106)等が挙げられる。他にも、導入遺伝子をさらに減らした方法(Nature. 2008 Jul 31;454(7204):646-50)、低分子化合物を利用した方法(Cell Stem Cell. 2009 Jan 9;4(1):16-9、Cell Stem Cell. 2009 Nov 6;5(5):491-503)、遺伝子の代わりに転写因子タンパク質を利用した方法(Cell Stem Cell. 2009 May 8;4(5):381-4)など、iPS細胞の作製法については技術的な改良が鋭意行なわれているが、作製されたiPS細胞の基本的な性質、すなわち多分化能を有するという点は作出方法によらず同等であり、いずれも本発明で用いる角膜内皮代替細胞の由来となり得る。
【0024】
具体的には、iPS細胞としては、201B7、201B7-Ff、253G1、253G4、1201C1、1205D1、1210B2、836B3、FF-I14s03、FF-I01s04、MH09s01、Ff-XT18s02、Ff-WIs03、Ff-WJs513、Ff-CLs14、Ff-KVs09、QHJI14s03、QHJI01s04、RWMH09s01、DRXT18s02、RJWIs03、YZWJs513、ILCLs14、GLKVs09、 Ff-XT28s05-ABo_To,Ff-I01s04-ABII-KO,Ff-I14s04-ABII-KO(いずれもiPSアカデミアジャパン社、又は京都大学iPS研究財団)、Tic(JCRB1331株)、Dotcom(JCRB1327株)、Squeaky(JCRB1329株)、及びToe(JCRB1338株)、Lollipop(JCRB1336株)(以上成育医療センター、医薬基盤研究所難病・疾患資源研究部・JCRB細胞バンク)、UTA-1株及びUTA-1-SF-2-2株(いずれも東京大学)、21526、21528、 21530、21531、31536、31538株(いずれもフジフイルム・セルラー・ダイナミクス社)等を用いることができる。
【0025】
本発明の細胞播種剤又は細胞移植用基材において対象となる角膜内皮代替細胞は、例えば本発明者らによって開発された角膜内皮様の細胞(特許文献1~3)であり、特許文献1~3に記載の方法によって製造、調製することができる。好ましくは、角膜内皮細胞様の性状及び機能を有し、且つ、NR3C2(nuclear receptor subfamily 3, group C, member 2)の遺伝子発現量が増強されていることを特徴とする、iPS細胞(遺伝子編集あるいは遺伝子導入により追加機能を付与した細胞を含む)由来の角膜内皮代替細胞(Corneal Endothelial Cell Substitute from iPS cells;CECSi細胞)である(特許文献3)。
【0026】
角膜内皮代替細胞が有する角膜内皮細胞様の性状及び機能としては、具体的には以下の特徴(i)~(iv)が挙げられ、これらの特徴のうち少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ、いっそう好ましくは4つ全ての特徴を有する。
(i)細胞間接着がN-cadherinで構成されている。
(ii)細胞間にタイトジャンクション(tight junction)が形成されている。
(iii)細胞膜上にNa,K-ATPase α1 subunitを発現する。
(iv)細胞核に転写因子PITX2の発現が観察される。
細胞間接着がN-cadherinで構成されているか否かは、N-cadherinに対する免疫染色で確認することができる。
細胞間にtight junctionが形成されているか否かは、tight junctionを構成するタンパク質であるZO-1の存在を、ZO-1に対する免疫染色で観察することにより確認することができる。また、電子顕微鏡により直接構造を観察することによって確認することもできる。
細胞膜上にNa,K-ATPase α1 subunit(ATP1A1)を発現しているか否かは、ZO-1とNa,K-ATPase α 1subunitに対する免疫染色により、両者が共染色されることで確認することができる。
細胞核に転写因子PITX2が発現しているか否かは、PITX2に対する免疫染色で確認することができる。
【0027】
本発明の一実施態様として、本発明の細胞播種剤又は細胞移植用基材において対象となる角膜内皮代替細胞は、CD24陽性表現型を有することを特徴とする。CD24は、高度にグリコシル化された小さなムチン様グリコシルホスファチジルイノシトール(glycosylphosphatidyl-inositol、GPI)結合細胞表面タンパク質である。CD24は、B細胞、T細胞、好中球、好酸球、樹状細胞、及びマクロファージなどの造血細胞、並びに神経細胞、神経節細胞、上皮細胞、ケラチノサイト、筋肉細胞、膵細胞、及び上皮幹細胞などの非造血細胞において高レベルで発現している。近年、CD24にマクロファージの食作用を回避する機能があることが報告されている。従って、CD24陽性表現型を有する角膜内皮代替細胞を含む本発明の細胞播種剤又は細胞移植用基材は、移植の際の拒絶反応の低減が期待できる。一方で、ヒト角膜内皮細胞はCD24陰性であることが報告されている(特表2019-510509号公報、特開2020-073602号公報)。
CD24陽性表現型の有無は、細胞表面上に発現するCD24抗原に対する免疫染色で確認することができる。
【0028】
各免疫染色は当分野で通常実施されており、また、用いる試薬や機器等は商業的に入手可能であるか、既報に従って調製することができる。
【0029】
上記角膜内皮代替細胞の分化誘導工程における継代操作では、iPS細胞やES細胞、あるいはそれらに遺伝子編集あるいは遺伝子導入により追加機能を付与した細胞、等の幹細胞を細胞播種剤に添加し、通常、1.0~20×104細胞/mL、好ましくは、2.5~10×10細胞/mLの濃度となるよう懸濁して得られた細胞懸濁液を、1.04×10細胞/cm以上1.04×10細胞/cm未満、好ましくは、1.04×10細胞/cm以上5.02×10細胞/cm以下の播種密度となるよう培養皿等の培養器に播種する。
【0030】
眼内、特に眼前房内に移植する過程では、上記培養角膜内皮細胞又は角膜内皮代替細胞、好ましくは角膜内皮代替細胞を、細胞移植用基材に添加し、通常、0.5~10×10細胞/mL、好ましくは、1.0~5×10細胞/mLの濃度となるよう懸濁して得られた細胞懸濁液を移植する。細胞濃度及び/又は播種密度が高すぎても低すぎても細胞の生着効率が低減する。
【0031】
本発明において、培養角膜内皮細胞又は角膜内皮代替細胞は、浮遊培養により数十個乃至数百個の細胞が凝集しスフェロイド化した球状の細胞塊であってもよい(以下、単にスフェロイドとも称する)。ここで「球状」とは、完全に球形である場合に加え、卵形やラグビーボール状といった略球形の形状であることを含む。該スフェロイドは、例えば、直径または面積相当径が10~200μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは30~150μmの範囲であり、特に好ましくは30~100μmの範囲であり、いっそう好ましくは30~90μmの範囲であり、さらにいっそう好ましくは40~80μmの範囲である。スフェロイドが大きすぎても生着にムラが生じて一様に生着せず、小さすぎても沈着しにくく生着効率が低減するが、スフェロイドの大きさがこの範囲であれば、移植部において細胞が効率的に生着する。「面積相当径」とは、粒子(本願の場合スフェロイド)の投影面積と等しい円の直径を意味し、ヘイウッド径又は円相当径とも称される。すなわち、略球形の形状のスフェロイドの投影面積と等しい面積を有する円の直径である。
【0032】
細胞濃度や播種密度の決定は、細胞懸濁液の一部をサンプリングし、当該サンプル中の細胞数を計測し;スフェロイド懸濁液の場合はスフェロイド懸濁液の一部をサンプリングし、当該サンプル中のスフェロイドを酵素処理して細胞を1個ずつばらばらにして細胞数を計測し、その結果を用いて行う。
【0033】
(フェノールフタレイン誘導体)
本発明の細胞播種剤又は細胞移植用基材は、フェノールフタレイン誘導体を含むことを特徴とする。フェノールフタレイン誘導体は、下記式で表される基本骨格を有すれば所望の効果が得られる限り特に限定されない。
【0034】
【化1】
【0035】
式中、-X-は-SO-又は-CO-であり、環Ar及び環Arは同一又は異なって、1~3個の置換基(例、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル等の炭素数1~3の分岐鎖を有してもよいアルキル基;臭素原子、塩素原子等のハロゲン原子;アセチル、イソバレリル等のアシル基)を有していてもよい炭素数6又は12の芳香環(例、ベンゼン、ナフタレン)である。
好ましくは-X-は-SO-である。環Ar及び環Arは同一又は異なって、1~3個、好ましくは1又は2個の置換基(例、メチル、イソプロピル、臭素原子)有していてもよいベンゼンである。
当該フェノールフタレイン誘導体は、その塩又はそのエステルであってもよい。あるいは酸付加物であってもよい。
【0036】
フェノールフタレイン誘導体としては、例えばフェノールスルホンフタレイン(フェノールレッド)、フェノールフタレイン、ブロモフェノールブルー、イソバレリルフェノールフタレイン、アセチルフェノールフタレイン、フェノールフタレインジブチレート、フェノールフタレインジホスフェート、フェノールフタレインジスルフェート、フェノールフタレイングルクロン酸、フェノールフタレインモノ-β-グルコシドウロン酸、フェノールフタレインモノ-β-グルクロン酸、フェノールフタレインモノ-ホスフェート、クレゾールレット、チモールブルー、およびブロモクレゾールパープルが挙げられる。フェノールフタレイン誘導体は自体既知の方法によって製造することができる。フェノールフタレイン誘導体としてはフタル酸と該当する各種フェノール類で合成が可能であることは公知であり、使用するフェノール類がフェノールであればフェノールフタレインが合成できる。また、各種フェノールフタレイン誘導体は商業的に入手可能である。簡便性及び品質の安定性の観点から商業的に入手したものを用いることが好ましい。フェノールフタレイン誘導体として好ましくは、下記構造のフェノールレッド(フェノールスルホンフタレインともいう)(左)およびクレゾールレッド(右)である。フェノールレッドは通常、pH6.8~pH8.4の変色域(黄色~赤色)のpH指示薬として培地に含められるが、細胞培養という観点からは任意の添加成分であり、フェノールレッドフリーの培地も市販されている。また、クレゾールレッドもpH7.2~pH8.8の変色域(黄色~赤色)のpH指示薬として知られている。本発明の細胞播種剤又は細胞移植用基材に含まれるフェノールレッドの濃度は、通常1~20mg/L、好ましくは1~15mg/L、より好ましくは5~10mg/Lである。本発明の細胞播種剤又は細胞移植用基材に含まれるクレゾールレッドの濃度は、分化誘導時通常1~20mg/L、好ましくは1~15mg/L、より好ましくは5~10mg/Lである。移植時は、1~16mg/L、好ましくは1~12mg/L、より好ましく4~8mg/Lである。フェノールレッドやクレゾールレッド以外のフェノールフタレイン誘導体の濃度も通常1~20mg/L、好ましくは1~15mg/L、より好ましくは5~10mg/Lである。
【0037】
【化2】
【0038】
フェノールフタレイン誘導体が有する「所望の効果」とは、継代操作後や移植後の細胞の生着を促進する効果である。
【0039】
本発明の細胞移植用基材の投与対象としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、ヒト等の哺乳動物が挙げられるが、好ましくはヒトである。
本発明の細胞移植用基材の投与量としては、投与対象の体重や年齢、症状などにより一概に規定されるものではないが、例えば体重25~300Kg、年齢16~100歳、症状が水疱性角膜症であるヒトであれば一眼あたり50~200μL、が前房内に注射で投与される。本発明の細胞移植用基材は、細胞又は細胞スフェロイドを懸濁させ、細胞懸濁液として前房内に投与することができ、眼圧の上昇や著しい炎症などの副作用は生じず、安全である。移植に適した疾患としては、角膜内皮の移植が必要な疾患であり、水疱性角膜症、円錐角膜、角膜炎、角膜の化学熱傷、角膜実質ジストロフィー、角膜浮腫、角膜白斑等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0040】
2.細胞播種剤又は細胞移植用基材の製造方法
【0041】
本発明の細胞播種剤又は細胞移植用基材は、フェノールフタレイン誘導体を溶解および/または希釈し、細胞の生存を維持するための媒体を含む。
細胞播種剤の媒体としては、播種後の細胞を増殖し生着させる機能を有するものであれば特に限定されず、生理食塩水、種々の生理緩衝液(例えば、PBS、HBSS等)、種々の細胞培養用の基礎培地をベースにしたものなどを使用してもよい。基礎培地としては、例えば、MEM培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、ハム培地(例、F10、F12)、RPMI 1640培地、Fischer's培地、及びこれらの混合培地等、動物細胞の培養に用いることができる培地であれば特に限定されない。これらの培地は、商業的に入手可能である。さらにこれらの培地は、血清含有培地、無血清培地であり得る。好ましくは無血清培地である。本発明で用いられる培地が血清含有培地である場合には、ウシ血清(Bovine Serum)、ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum)などの哺乳動物の血清が使用でき、該血清の培地中の濃度は0.1~20%(v/v)、好ましくは1~10%(v/v)である。
【0042】
移植用基材の媒体としては、眼内投与、特に前房内投与に適した溶液であれば特に限定されないが、非刺激性の等張化された培養液や生理食塩水、緩衝液等が用いられる。好ましくは培養角膜内皮細胞又は角膜内皮代替細胞を培養していたのと同様の培養液を使用する。移植用基材にはフェノールフタレイン誘導体以外に、必要に応じて各種の成分を含めることができる。該成分は、前房内に投与された(移植された)培養角膜内皮細胞又は角膜内皮代替細胞が脱落することなく角膜内皮細胞層へ分化するのに有用なものであれば特に限定されないが、インスリンあるいはインスリン様成長因子を添加することが好ましい。またレチノイン酸、EGF及びbFGFも添加するのに好ましい成分である。
【0043】
フェノールフタレイン誘導体を、上記媒体に添加、溶解することにより本発明の細胞播種剤及び細胞移植用基材を調製することができる。媒体へのフェノールフタレイン誘導体の添加濃度は、上記「1.細胞播種剤及び細胞移植用基材」の項で述べた、本発明の細胞播種剤又は細胞移植用基材に含まれるフェノールフタレイン誘導体の濃度と同様であり、通常1~20mg/L、好ましくは1~15mg/L、より好ましくは5~10mg/Lである。
【実施例
【0044】
以下に実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。また、使用する試薬及び材料は特に限定されない限り商業的に入手可能である。本明細書中で用いた略語は特に断りの無い限り、当分野で通常用いられるものと同様である。
【0045】
(材料と方法)
参考例1:タイトジャンクション形成に及ぼすROCK阻害剤の影響
iPS細胞由来角膜内皮代替細胞の分化誘導工程における継代操作時におけるROCK阻害剤が及ぼす影響について調べた。特許文献3の実施例1及び試験例2(但し、ROCK阻害剤としてはfasudilの代わりに10μMのY-27632を用いた)に準じて、ZO-1の発現について調べた。結果を図1に示す。ROCK阻害剤を使用すると、タイトジャンクションの形成が阻害され上皮間葉転換と思われる形質転換をきたすことがわかった。本結果から、ROCK阻害剤を含まない細胞播種剤を開発する必要があることがわかった。
【0046】
実施例1:播種後の細胞の生着及び生存に及ぼすフェノールフタレイン誘導体の影響
(材料と方法)
1.角膜内皮代替細胞誘導用培地
基礎培地としてDMEM/F12培地(ナカライテスク、♯08460-95)を用いた。添加物として、N-2 MAX Media Supplement(100X)(R&D System Inc.、♯AR009)、アスコルビン酸(扶桑薬品工業;アルコルビン酸注(50μg/mL))、IGF1(オーファンパシフィック;ソマゾン注(20ng/mL))、KGF(富士フイルム和光純薬、♯119-00661(5ng/mL))、LIF(Sigma Aldrich、♯L5283(1ng/mL))、IL6(富士フイルム和光純薬;♯099-04631(1ng/ml))、アドレナリン(第一三共、ボスミン注(0.5μg/mL))、デキサメタゾン(共和クリティア、オルガドロン注(38ng/mL))及びアルドステロン(Sigma Aldrich、♯A9477(720ng/mL)をDMEM/F12基礎培地に添加し、ならびに、足場材料として、laminin 511-E8 fragment(iMatrix 511、(株)ニッピ)を3μg/mlの濃度でコーティングした培養皿ないし培養フラスコを用いた。
【0047】
2.角膜内皮代替細胞の誘導プロトコル
特許文献3の実施例に記載の方法に準じて実施した。具体的には以下の通り。
iPS細胞用培地AK03N(味の素)にY-27632(wako/039-24591)を10μMの濃度で添加した(以下AK03N+Y培地とする)。培養用6ウェルプレート(Greiner 657160)をiMatrix 511、6μg/mlの濃度でコーティングした。iPS細胞(FF-I01s04株)を1.0×10細胞/cmの密度で、AK03N+Y培地に懸濁して、この6ウェルプレートに播種した。37℃のCOインキュベーター内で培養を開始し、翌日、Y-27632を含まないAK03N培地に培地交換した。以後、2~3日に1回の頻度で培地交換を行い、1週間に1度、TrypLE-Select(Thermo Fisher Scientific)を用いて、iMatrix 511コートした6ウェルプレートに、上記と同じ密度で継代した。角膜内皮代替細胞への誘導には、3継代以上29継代以下のiPS細胞を用いた。
誘導開始する際は、iPS細胞をTrypLE-Selectを用いて6ウェルプレートから回収し、上記角膜内皮代替細胞誘導用培地に懸濁した。培養用35mm dishあるいは100mm dishを、iMatrix 511、3μg/mlの濃度でコーティングしておき、懸濁したiPS細胞を2.0×10細胞/cmの密度で播種した。37℃のCOインキュベーター内で培養を開始し、以後、2~3日に1回の頻度で培地交換を行った。
【0048】
実施例2:iPS細胞由来角膜内皮代替細胞の分化誘導工程における継代操作時における、フェノールフタレイン誘導体の影響
角膜内皮代替細胞へ誘導を開始する際に、TrypLE-Select(Thermo Fisher Scientific)を用いて回収したiPS細胞をフェノールレッド添加細胞播種剤又はフェノールレッド未添加細胞播種剤に懸濁した。培養用100mm dish(住友ベークライト)を、iMatrix 511((株)ニッピ)、3μg/mlの濃度でコーティングしておき、各細胞播種剤に懸濁したiPS細胞を1.0×10細胞/cmの密度で播種した。37℃のCOインキュベーター内で培養を開始し、以後、2~3日に1回の頻度でフェノールレッド添加角膜内皮代替細胞誘導用培地培地又は、フェノールレッド未添加角膜内皮代替細胞誘導用培地で培地交換を行った。
各角膜内皮代替細胞誘導用培地にて上記の条件にて14日間培養を行った。培養3、5、7日後、顕鏡下で細胞の状態を確認した(図2A)。14日間培養後、顕鏡下で確認し細胞の生着が見られている群に関しては、細胞を回収し細胞数の計測を実施した。細胞の回収方法は、培養上清を除去後、DPBS(-)(Thermo Fisher Scientific)を用いて2回洗浄し、Accutase(Innovative Cell Technologies)を用いて剥離後、遠心管へ回収した。遠心管へ回収した細胞は、遠心分離により分離し、培地等を用いて細胞濃度を調整後、自動セルカウンター(ChemoMetec)を用いて細胞濃度及び生存率を計測した(図2B)。
【0049】
(結果)
iPS細胞由来角膜内皮代替細胞の分化誘導工程における継代操作時における、細胞播種後の細胞生着数を検討し、細胞播種剤中のどの成分がクリティカルに影響を及ぼすかを探索した。その結果、フェノールレッドがクリティカルに影響を及ぼす成分であることがわかった。
播種後、フェノールレッドを添加あるいは未添加の培地で培養してそれぞれ3日目、5日目及び7日目の細胞を観察した結果を図2(A)に示す。播種後フェノールレッドを添加した培地で培養した方が、明らかに生着がよかった。
さらに、播種後、フェノールレッドを添加あるいは未添加の培地で培養してそれぞれ14日目で回収した生細胞数及び生存率を比較した結果、明らかにフェノールレッド添加培地で培養した方が、回収生細胞数及び生存率ともに明らかに優れていた。
【0050】
実施例3:移植後の細胞の生着及び角膜浮腫に対するフェノールフタレイン誘導体の影響
(材料と方法)
実施例1で得られたiPS細胞由来の角膜内皮代替細胞の細胞懸濁液(8×10細胞/160μl)をカニクイザル水疱性角膜症モデル(株式会社新日本科学に委託して実施)の眼前房内に移植した。移植用基材(インスリン及びインスリン様成長因子等を含有)としてフェノールレッド添加、未添加の2種類を用意した。
角膜内皮代替細胞懸濁液の眼前房内への移植は以下の手順で行った。
(1)フェノールレッド添加あるいは未添加の2種類の移植基材で懸濁させた角膜内皮代替細胞を27ゲージのシリンジを用いて前房内に注入した。
(2)3時間、カニクイザルをうつ伏せで安置した。
(3)28日間観察後、眼球を回収して肉眼的および顕微鏡的に観察した。
移植眼に対し、角膜内皮代替細胞層の形成、及び角膜厚を測定した。
角膜厚は角膜厚測定装置(トーメーコーポレーション;SP-100)を用いて測定した。
【0051】
(結果)
結果を図3及び図4に示す。フェノールレッドを添加した移植基材を用いて移植した場合には、角膜内皮代替細胞が角膜後面に生着し均一に広がっていることが確認された。一方で、フェノールレッド未添加の移植基材を用いて移植した場合には、移植細胞の生着に偏りがあった(図4)。また、角膜厚についてもフェノールレッドを添加した移植基材を用いた場合、角膜厚の減少が観察され、従って角膜浮腫改善効果があることが確認された。フェノールレッドを添加していない移植基材を用いた場合では角膜厚の顕著な減少は確認されなかった。
【0052】
実施例4:フェノールフタレイン類 角膜内皮代替細胞誘導プロトコル
1.iPS細胞拡大培養(解凍)
T12.5フラスコ(コーニング/353107)をiMatrix511(マトリクソーム/892005)、6μg/mLの濃度でコーティングした。iPS細胞(FF-I01s04株)をAK03N+Y培地に懸濁して8.0×10細胞/cmの密度でこのT12.5フラスコへ播種した。37℃のCOインキュベーターで培養を開始し、翌日、Y-27632を含まないAK03N培地に培地交換した。中2日を空けたあと2日連続で培地交換を行い、培養6日目に継代を行った。
T25フラスコ(住友ベークライト/MS-23050)をiMatrix511(マトリクソーム/892005)、6μg/mLの濃度でコーティングした。iPS細胞をAK03N+Y培地に懸濁して2.2×10細胞/cmの密度でこのT25フラスコへ播種した。37℃のCOインキュベーターで培養を開始し、翌日、Y-27632を含まないAK03N培地に培地交換した。中2日を空けたあと2日連続で培地交換を行い、培養6日目に継代を行った。
【0053】
2.フェノールレッド不含の角膜内皮代替細胞誘導用培地の調製
基礎培地としてDMEM/F12 non phenol red(サーモフィッシャー/11039-021)を用い、フェノールレッド不含の角膜内皮代替細胞誘導用培地を調製した(以下、本実施例では、フェノールレッド不含培地とも称する)。基礎培地500mLに、添加物として、下記表1記載の、ITS-Supplement(Ventria/777ITS091)、IGF1(オーファンパシフィック;ソマゾン注/858100075、1mg/mL)、LIF(富士フイルム和光純薬/125-06661)、IL-6(ミルテニーバイオテク/170-076-161)IL-11(Pepro tech /AF-200-11)、TNFα(ミルテニーバイオテク/170-076-178)、水溶性ハイドロコートン注射液(日医工/27126333)を添加した。
【0054】
【表1】
【0055】
3.フェノールフタレイン類溶液の調製
予め、下記表2、B~Dのフェノールフタレイン誘導体を、濃度6.6×10-6 mol/mLになるようにエタノールに溶解した。上記2.で調製したフェノールレッド不含の角膜内皮代替細胞誘導用培地を30mLずつ、50mLチューブ4本に分注し、4本中1本にAフェノールスルホンフタレイン注0.6%(AFP)を40.5μL添加した。また、残り3本中1本に濃度を調整したBクレゾールレッド溶液を100μL添加した。同様にしてCチモールブルー溶液及びDブロモクレゾールパープル溶液を残りの2本にそれぞれ添加した。合計4本の異なるフェノールフタレイン誘導体含有培地を調製し、フェノールフタレイン誘導体添加細胞播種剤とした。各播種剤は0.22mMのフェノールフタレイン誘導体濃度になるように調整した。
【0056】
【表2】
【0057】
4.分化誘導(播種密度を1.04×10 細胞/cm に固定)
DPBS(-)30mLにlaminin 511-E8 fragment(iMatrix511MG)を90μL添加し、足場材料として3μg/mlの濃度でコーティングするよう6ウェルプレートに1.5mL/ウェルになるように添加し、37℃で1時間以上静置した。上清を除き、上記3.で調製した各種A~Dのフェノールフタレイン誘導体添加細胞播種剤を2mL/ウェルで添加し、37℃でインキュベートした。上記1.のiPS細胞拡大培養後、回収したiPS細胞を140×g、25℃で5分間遠心し、上清を取り除き、各種A~Dのフェノールフタレイン誘導体添加細胞播種剤、又はフェノールフタレイン不含培地で懸濁し、iMatrixコートを施した6ウェルプレートに播種密度1.04×10細胞/cmとなるように播種した。37℃のCOインキュベーターでインキュベートし、播種時を0日目として、3日目に2mL/ウェルで1回目の培地交換を行い、その後は1日置きに培地交換を行い、播種後7日目に細胞の固定化、染色を行った。
【0058】
5.分化誘導(播種密度をかえる)
上記4.と同様にiMatrixコートした後、上清を除き、陽性対照(ポジコン)として通常分化誘導培地(フェノールレッド含有DMEM/F12(サーモフィッシャー/11330057)に上記表1記載の添加剤を添加したもの)、陰性対照(ネガコン)としてDMEM/F12の代わりにDMEM/F12 non phenol red(サーモフィッシャー/11039-021)を使用したフェノールレッド不含の培地、Aフェノールレッド添加細胞播種剤、Bクレゾールレッド添加細胞播種剤をそれぞれ2mL/ウェルで各5ウェルずつ添加し、37℃でインキュベートした。上記1.と同様にして拡大培養した後、回収したiPS細胞を140×g、25℃で5分間遠心し、上清を取り除き、ポジコン、ネガコン、Aフェノールレッド添加細胞播種剤添加培地、Bクレゾールレッド添加細胞播種剤添加培地でそれぞれ懸濁し、iMatrixコートを施した6ウェルプレートの各Aフェノールレッド添加細胞播種剤、Bクレゾールレッド添加細胞播種剤、ポジコン、ネガコンのウェルに播種密度1.04×10細胞/cm、5.02×10細胞/cm、1.04×10細胞/cm、5.02×10細胞/cm、1.04×10細胞/cmとなるように播種した。37℃のCOインキュベーターでインキュベートし、播種時を0日目として、3日目に2mL/ウェルで1回目の培地交換を行い、その後は1日置きに培地交換を行い、播種後7日目に細胞の固定化、染色を行った。
【0059】
6.結果
フェノールレッド不含培地では規定の播種密度である1.04×10細胞/cm以下での播種では生着しなかった。
フェノールレッド及びクレゾールレッドを添加した培地では規定の細胞播種密度より少ない播種数で細胞の生着が確認された。
チモールブルー含有培地及びブロモクレゾールパープル含有においても、1.04×10細胞/cmで播種した場合に生着が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、細胞の形質転換を起こさずに継代操作が可能で且つ効率的に細胞を生着させることが可能になる。培養角膜内皮細胞及び角膜内皮代替細胞の大量生産を可能とし、さらに移植細胞の生着率を高めることから、結果的に治療効果を向上させることが可能になる。
【0061】
本出願は、米国で出願された米国仮特許出願第63/219,101(出願日:2021年7月7日)を基礎としておりその内容は本明細書に全て包含されるものである。
図1
図2
図3
図4