(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】摩擦係合装置
(51)【国際特許分類】
F16D 13/64 20060101AFI20240617BHJP
G01L 3/10 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
F16D13/64 A
G01L3/10 303A
(21)【出願番号】P 2020178837
(22)【出願日】2020-10-26
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000102784
【氏名又は名称】NSKワーナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】弁理士法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】栗田 崇志
(72)【発明者】
【氏名】岡田 伸治
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆哉
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-153137(JP,A)
【文献】特開2001-056258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/64
G01L 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の軸部材と、
前記第1の軸部材の径方向外方に前記第1の軸部材と同軸に設けられた筒状部材と、
前記第1の軸部材と前記筒状部材との間に設けられ、摩擦係合することにより前記第1の軸部材と前記筒状部材との間でのトルクの伝達を可能とするクラッチ機構と、
前記クラッチ機構を介して前記第1の軸部材との間で前記トルクが伝達される第2の軸部材と、
前記クラッチ機構と前記第2の軸部材との間に設けられ、前記クラッチ機構が伝達する前記トルクを検出するためのトルクセンサ部と、を備え、
前記トルクセンサ部は、前記筒状部材の軸方向一方側端面に前記筒状部材と同軸に固定され、磁性材料からなる第1の円筒部材と、
前記第1の円筒部材と一体に前記筒状部材の軸方向一方側端面に設けられた第1の環状部材と、
前記第2の軸部材と一体に設けられ、前記第1の環状部材と軸方向に向かい合う第2の環状部材と、
前記第1の環状部材と前記第2の環状部材との回転中心周りの所定角度位置
に設けられたトルク伝達用のばねと、
前記第2の環状部材と一体に設けられ、前記第1の円筒部材の径方向外方に配置され、導電性且つ非磁性の材料からなり、前記第1の円筒部材と相対回転可能な第2の円筒部材と、
前記第2の円筒部材の径方向外方で前記第2の円筒部材を包囲し、所定の電流が供給されるコイルと、を有し
、
前記ばねは、前記第1の環状部材に周方向所定間隔に配置された複数の圧縮コイルばねであり、
前記第2の環状部材には、周方向所定間隔に配置され軸方向に突出する爪部が複数形成され、
複数の前記爪部は、それぞれ、周方向に隣り合う前記圧縮コイルばね間に配置され、
前記第1の環状部材と前記第2の環状部材との間でトルクが伝達される際、複数の前記圧縮コイルばねは、複数の前記爪部によって圧縮されることを特徴とする摩擦係合装置。
【請求項2】
前記トルクセンサ
部は、前記第1の円筒部材と前記第2の円筒部材との相対回転によって変化する前記コイルの誘導起電力の変化に基づいて前記トルクを検出することを特徴とする請求項1に記載の摩擦係合装置。
【請求項3】
前記第1の円筒部材の外周部には、径方向外方に向けて突出する凸部が周方向所定間隔に複数形成され、
前記第2の円筒部材には、径方向に貫通する窓部が周方向所定間隔に複数形成され、
前記コイルの誘導起電力の変化は、前記第1の円筒部材と前記第2の円筒部材とが相対回転した際の、前記凸部と前記窓部とが径方向に重なり合う面積の変化に基づくことを特徴とする請求項2に記載の摩擦係合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の自動変速機における湿式クラッチ或いは湿式ブレーキとして用いられる摩擦係合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の駆動装置の一つである自動変速機の構成部品に湿式クラッチあるいは湿式ブレーキ等として用いられる摩擦係合装置がある。これらの摩擦係合装置は、車速に応じた変速域の中で、駆動トルクに合わせて該トルクの伝達または非伝達を行うように制御されている。
【0003】
特許文献1には、入力軸および出力軸の回転を検出し、検出した入力軸および出力軸の回転からトルクを算出するトルク検出装置と、該トルク検出装置を用いて制御することにより変速ショックが少なく制御された自動変速機とが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のトルク検出装置は、摩擦係合装置の近傍に配置された当該トルク検出装置の構成部品から入力軸および出力軸の回転を検出している。しかし、近年の電動化による複雑な制御を検討する上で、入力軸および出力軸の回転を検出してトルクを算出する制御ではトルク変化の検出が複雑な制御に追従できず、変速性能が低下してしまう懸念がある。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、トルク検出の簡易化を図ると共に、複雑な制御を可能とする摩擦係合装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る摩擦係合装置は、
第1の軸部材と、
前記第1の軸部材の径方向外方に前記第1の軸部材と同軸に設けられた筒状部材と、
前記第1の軸部材と前記筒状部材との間に設けられ、摩擦係合することにより前記第1の軸部材と前記筒状部材との間でのトルクの伝達を可能とするクラッチ機構と、
前記クラッチ機構を介して前記第1の軸部材との間で前記トルクが伝達される第2の軸部材と、
前記クラッチ機構と前記第2の軸部材との間に設けられ、前記クラッチ機構が伝達する前記トルクを検出するためのトルクセンサ部と、を備え、
前記トルクセンサ部は、前記筒状部材の軸方向一方側端面に前記筒状部材と同軸に固定され、磁性材料からなる第1の円筒部材と、
前記第1の円筒部材と一体に前記筒状部材の軸方向一方側端面に設けられた第1の環状部材と、
前記第2の軸部材と一体に設けられ、前記第1の環状部材と軸方向に向かい合う第2の環状部材と、
前記第1の環状部材と前記第2の環状部材との回転中心周りの所定角度位置に設けられたトルク伝達用のばねと、
前記第2の環状部材と一体に設けられ、前記第1の円筒部材の径方向外方に配置され、導電性且つ非磁性の材料からなり、前記第1の円筒部材と相対回転可能な第2の円筒部材と、
前記第2の円筒部材の径方向外方で前記第2の円筒部材を包囲し、所定の電流が供給されるコイルと、を有し、
前記ばねは、前記第1の環状部材に周方向所定間隔に配置された複数の圧縮コイルばねであり、
前記第2の環状部材には、周方向所定間隔に配置され軸方向に突出する爪部が複数形成され、
複数の前記爪部は、それぞれ、周方向に隣り合う前記圧縮コイルばね間に配置され、
前記第1の環状部材と前記第2の環状部材との間でトルクが伝達される際、複数の前記圧縮コイルばねは、複数の前記爪部によって圧縮されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、トルク検出の簡易化を図ると共に、複雑な制御を可能とする摩擦係合装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係る摩擦係合装置の外観図であり、軸方向一方側から見た状態を示している。
【
図2】
図2は、摩擦係合装置の外観図であり、径方向外方から見た状態を示している。
【
図3】
図3は、摩擦係合装置の外観図であり、軸方向他方側から見た状態を示している。
【
図5】
図5は、トルクセンサ部の斜視図であり、一部を切り欠いて示している。
【
図7】
図7は、トルクセンサ部の部分拡大断面図であり、コイル部、センサスリーブ、およびロータの各部分を軸方向一方側から見た状態を模式的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る摩擦係合装置について、図面を参照しつつ説明する。
まず、本実施形態における摩擦係合装置に係る方向について定義する。本実施形態において、「中心軸線C」とは、摩擦係合装置の中心軸線のことをいい、軸方向、径方向、周方向とは、中心軸線Cに関する軸方向、径方向、周方向のことをいう。軸方向について、
図2においては紙面左方側を軸方向一方側とし、紙面右方側を軸方向他方側とする。周方向について、
図1、
図7において、紙面に向かって時計方向に回転する方向を周方向一方とし、紙面に向かって反時計方向に回転する方向を周方向他方とする。
【0011】
図1、
図2、および
図3は実施形態に係る摩擦係合装置1の外観図であり、それぞれ軸方向一方側、径方向外方側、および軸方向他方側から見た状態を示している。
図4は、
図1の4-4矢視断面図である。
【0012】
図1~
図4に示すように、本実施形態に係る摩擦係合装置1は、湿式クラッチ部3と、湿式クラッチ部3の軸方向一方側に湿式クラッチ部3と軸方向に隣接し、且つ湿式クラッチ部3と一体に設けられたトルクセンサ部5とを備えている。
【0013】
湿式クラッチ部3は円筒状のクラッチケース7を有している。クラッチケース7の中心部、すなわち中心軸線C上には、入力軸8が配置されている。クラッチケース7の軸方向一方側端部には内向きフランジ9が設けられ、内向きフランジ9の中心の孔部には、入力軸8が挿通されている。また、内向きフランジ9には、軸方向に貫通する貫通孔11が周方向所定間隔に複数(本実施形態においては6つ)形成されている。
【0014】
図4に示すように、クラッチケース7の内周部には、軸方向に移動可能に且つクラッチケース7と相対回転不能に、複数の環状のクラッチプレート13が嵌合している。クラッチケース7の内周部にはさらに、複数の環状のクラッチディスク15が配置されている。複数の環状のクラッチディスク15は、内径部に設けられた複数の歯部17によって、入力軸8の外周面に、軸方向移動可能に且つ入力軸と相対回転不能に嵌合している。複数のクラッチプレート13と複数のクラッチディスク15とは、軸方向に交互に配置されている。
【0015】
クラッチケース7の内周部の軸方向他方側端部には、クラッチプレート13およびクラッチディスク15を軸方向他方側端部で固定状態に保持するためのエンドプレート19と、エンドプレート19をクラッチケース7の内部に保持するための止輪21とが設けられている。クラッチプレート13とクラッチディスク15とは、図示しない押圧装置等によって押圧されることにより互いに摩擦係合し、これにより湿式クラッチ部3が締結状態となる。湿式クラッチ部3が締結状態において、入力軸8からクラッチケース7にトルクが伝達される。
【0016】
クラッチケース7の外周面には外方に突出する歯部23が全周に亘って複数設けられている。また、クラッチケース7には、径方向に貫通する油穴25が複数設けられている。油穴25は、クラッチケース7内部に供給された潤滑油をクラッチケース7の外部に排出するためのものである。
【0017】
次にトルクセンサ部5の構成について説明する。
図5は、トルクセンサ部5の斜視図であり、一部を切り欠いて示している。
図6は、トルクセンサ部5の分解図である。
図4~
図6に示すように、トルクセンサ部5は、環状のコイル部27と、円筒状のロータ29と、環状のリテーナプレート31と、環状のドリブンプレート33と、円筒状のセンサスリーブ35と、を備えている。
【0018】
ロータ29は、例えば鉄等の磁性材料で形成されている。ロータ29は、中心軸線Cを中心とする円筒部37と、円筒部37の軸方向他方側端部に形成された内向きフランジ39とを有している。円筒部37の外周部には、軸方向に延在し径方向外方に向けて突出する凸部41が周方向所定間隔で全周に亘って複数設けられている。また、円筒部37の外周部には、周方向に隣り合う凸部41によって、軸方向に延在する凹部43が全周に亘って形成されている。凸部41の周方向幅と凹部43の周方向幅とは、同じ大きさに形成されている。したがって凸部41と凹部43とは、交互に全周に亘って設けられている。
【0019】
ロータ29の内向きフランジ39の中心の孔部には、入力軸8が挿通されている。内向きフランジ39には軸方向に貫通する貫通孔45が周方向所定間隔に複数(本実施形態においては6つ)形成されている。ロータ29の貫通孔45はそれぞれ、クラッチケース7の内向きフランジ9に形成された貫通孔11に対応する位置に形成されている。
【0020】
リテーナプレート31は、中心軸線Cを中心とする環状板部47を有している。環状板部47の中心の孔部はシャフトホール49として入力軸8が挿通されている。環状板部47には軸方向に貫通する貫通孔51が周方向所定間隔に複数(本実施形態においては6つ)形成されている。環状板部47の貫通孔51はそれぞれ、ロータ29の内向きフランジ39に形成された貫通孔45に対応する位置に形成されている。
【0021】
リテーナプレート31の環状板部47の径方向外方の縁部には、軸方向一方側に向けて突出する円筒部53が形成され、円筒部53の軸方向一方側端部には、径方向外方且つ軸方向一方側に向けて突出する外向きフランジ55が形成されている。環状板部47と円筒部53と外向きフランジ55とは一体に形成されている。外向きフランジ55の外周部には、周方向所定間隔にばね保持部57が一体に複数(本実施形態においては6つ)形成されている。ばね保持部57にはそれぞれ、圧縮コイルばね59(以後単に「ばね59」という。)が保持されている。
【0022】
ばね保持部57は、外向きフランジ55の外径側縁部を仮想円とすると、仮想円の所定中心角に対応する弦の長さに亘って直線状に設けられている。本実施形態においては、各ばね保持部57は、約30度の中心角に対応する弦の長さに亘って設けられている。ばね59は、ばね保持部57に、環状板部47の弦方向に延在する向きで配置されている。ばね保持部57の周方向一方側端部および周方向他方側端部にはそれぞれ、ばね保持部57から垂直に突出するばね押さえ部61が設けられている。各ばね押さえ部61は薄い板状で、例えば、ばね59のコイル径よりも少し大きな径を有する円形に形成されている。2つのばね押さえ部61は対を成し、周方向に対向している。ばね59は、各端部が一対のばね押さえ部61にそれぞれ接触した状態で、一対のばね押さえ部61間に自然状態で配置されている。このように、ばね59は一対のばね押さえ部61によって伸縮方向に保持されている。各ばね押さえ部61は、内径部がばね保持部57に固定されているが、ばね保持部57から垂直に突出している部分がばね59を圧縮する方向に僅かに撓むことが可能となっている。
【0023】
周方向に隣り合うばね保持部57間には、円弧状の爪部63が設けられている。詳細には、周方向に隣り合う任意の2つのばね保持部57のうち周方向一方側のばね保持部57の周方向他方側のばね押さえ部61と、当該任意の2つのばね保持部57のうち周方向他方側のばね保持部57の周方向一方側のばね押さえ部61とは、爪部63で連結されている。爪部63は、これら各ばね押さえ部61の径方向外方側部分同士を連結する円弧部65と、円弧部65の軸方向他方側端から径方向内方に向けて突出する内向きフランジ部67とから構成されている。円弧部65は、中心軸線Cを中心とする部分円筒状に形成されている。内向きフランジ部67の周方向の両端部は、前記各ばね押さえ部61の軸方向他方側部分同士を連結している。本実施形態においては、6つの爪部63が設けられている。
【0024】
リテーナプレート31とロータ29とクラッチケース7とは、中心軸線C上において軸方向一方側から軸方向他方側に向けてこの順に、リベット69によって一体に固定されている。詳細には、互いに対応する位置に形成されたリテーナプレート31の6つの貫通孔51と、ロータ29の6つの貫通孔45と、クラッチケース7の6つの貫通孔11とにそれぞれリベット69が差し込まれ、これらのリベット69をかしめることにより、リテーナプレート31とロータ29とクラッチケース7とは一体に接合されている。この状態において、ロータ29はクラッチケース7の内向きフランジ9の軸方向一方側面に固定され、リテーナプレート31は、ロータ29の内向きフランジ39の軸方向一方側面に固定されると共に、ロータ29の円筒部37の内径側に配置されている。また、リテーナプレート31とロータ29とクラッチケース7の中心部には、円筒部材70および玉軸受82を介して入力軸8が回転可能に支持されている。
【0025】
センサスリーブ35は、例えばアルミニウム等の、導電性で且つ非磁性の材料から形成されている。センサスリーブ35は、中心軸線Cを中心とする円筒部71と、円筒部71の軸方向一方側に形成された内向きフランジ73とを有している。内向きフランジ73の中心部には、入力軸8が挿通されている。内向きフランジ73には軸方向に貫通する貫通孔75が周方向所定間隔に複数(本実施形態においては6つ)形成されている。
【0026】
円筒部71の軸方向一方側部分には、円筒部71を径方向に貫通する窓部Aが周方向所定間隔に複数形成されている。円筒部71の軸方向他方側部分には、円筒部71を径方向に貫通する窓部Bが周方向所定間隔に複数形成されている。窓部Aと窓部Bとはそれぞれ軸方向に延在する長方形に形成され、同じ大きさを有し、同数が形成されている。窓部Aと窓部Bとは周方向に所定量位相をずらして形成されている。
【0027】
ドリブンプレート33は、中心部にシャフトホール77が形成された環状板部79を有している。シャフトホール77には、
図4に示すように、玉軸受け81を介して入力軸8が回転可能に支持されている。シャフトホール77の縁部には、軸方向一方側に向けて突出し、外周面に複数の歯部が形成された円筒状のギヤ部83が形成されている。ギヤ部83の歯部は、入力軸8と同軸に配置された出力側部材である、例えば出力軸84の内周側ギヤ部(図示省略)と噛み合っている。したがってドリブンプレート33と出力軸84とは一体回転する。
【0028】
環状板部79には軸方向に貫通する貫通孔85が周方向所定間隔に複数(本実施形態においては6つ)形成されている。環状板部79の貫通孔85はそれぞれ、センサスリーブ35の内向きフランジ73に形成された貫通孔75に対応する位置に形成されている。
【0029】
ドリブンプレート33の環状板部79の径方向外方の縁部には、軸方向他方側に向けて突出する爪部87が、周方向所定間隔に複数(本実施形態においては6つ)形成されている。爪部87は、軸方向他方側への突出部分である円弧部89と、円弧部89と環状板部79とを連結する連結部91とから一体に構成されている。円弧部89は、中心軸線Cを中心とする部分円筒状に形成されている。
【0030】
爪部87の円弧部89の周方向の長さは、リテーナプレート31の爪部63よりも僅かに小さく形成されている。また、円弧部89の軸方向の長さは、リテーナプレート31の爪部63よりも大きく形成されている。周方向に隣り合う爪部87間の、環状板部79の径方向外方の縁部の部分は、直線部93となっている。この直線部93の長さは、リテーナプレート31のばね保持部57の弦方向長さに対応している。
【0031】
センサスリーブ35とドリブンプレート33とは、中心軸線C上において軸方向一方側から軸方向他方側へ向けてこの順に、リベット95によって一体に固定されている。詳細には、互いに対応する位置に形成されたセンサスリーブ35の6つの貫通孔75と、ドリブンプレート33の6つの貫通孔85とにそれぞれリベット95が差し込まれ、これらのリベット95をかしめることにより、センサスリーブ35とドリブンプレート33とが一体に接合されている。この状態において、ドリブンプレート33は、センサスリーブ35の内向きフランジ73の軸方向他方側面に固定されると共に、センサスリーブ35の円筒部71の内径側に配置されている。また、ドリブンプレート33のギヤ部83は、センサスリーブ35の内向きフランジ73から軸方向一方側に突出している。
【0032】
ドリブンプレート33の各爪部87は、リテーナプレート31の各爪部63が連結している2つのばね押さえ部61間であって当該爪部63の円弧部65の内径側に、それぞれ軸向一方側から嵌め込まれている。この状態においてドリブンプレート33の爪部87は、円弧部89の周方向両端部が、リテーナプレート31の爪部63が連結している2つのばね押さえ部61にそれぞれ接触している。また、ドリブンプレート33の爪部87の円弧部89と、リテーナプレート31の爪部63の円弧部65とは、僅かな隙間を介して径方向に対向している。
【0033】
ドリブンプレート33の爪部87とリテーナプレート31のばね押さえ部61とのこのような嵌合により、入力軸8側のクラッチケース7と出力軸84とが連結される。また、ドリブンプレート33の爪部87とリテーナプレート31のばね押さえ部61との嵌合により、一体に固定されたセンサスリーブ35およびドリブンプレート33と、一体に固定されたロータ29およびリテーナプレート31とは、中心軸線C上において軸方向一方側から軸方向他方側に向けてこの順に組み合わされている。この状態において、ロータ29の円筒部37は、センサスリーブ35の円筒部71の内径側に配置されている。詳細には、ロータ29の円筒部37の外周面とセンサスリーブ35の円筒部71の内周面とは、僅かな径方向隙間を介して径方向に対向している。
【0034】
図4に示すように、コイル部27は、同一規格のコイルAおよびコイルBを有している。これらのコイルAおよびコイルBは環状のヨーク97に巻き付けられ、軸方向に所定の間隔を空けて配置されている。ヨーク97は例えば図示しない変速機ケースに固定されている。コイル部27は、センサスリーブ35の円筒部71の径方向外方に、所定の径方向隙間を介してセンサスリーブ35と同心に配置されている。言い換えると、コイル部27はセンサスリーブ35の円筒部71を所定の径方向隙間を介して周方向に包囲している。詳細には、コイル部27の内径側には、トルクセンサ部5のセンサスリーブ35が所定の隙間を介して配置され、コイルAおよびコイルBは、それぞれセンサスリーブ35の窓部Aおよび窓部Bに対応する軸方向位置に配置されている。
【0035】
コイル部27のコイルAおよびコイルBには、接点98を介して所定の周波数の電流が供給されている。また、接点98には演算回路99が接続されている。演算回路99は、接点98を介して入力されるコイルAおよびコイルBの自己誘導起電力の大きさを計測すると共に、コイルAおよびコイルBの自己誘導起電力の大きさを入力軸(図示省略)から伝達されるトルクの大きさに置き換える演算を行っている。
【0036】
ここで、センサスリーブ35の窓部Aおよび窓部Bとロータ29の外周部の凸部41および凹部43との位置関係と、窓部Aおよび窓部Bの大きさについて説明する。
図7は、トルクセンサ部5の部分断面図であり、コイル部27、センサスリーブ35、およびロータ29の各部分を軸方向一方側から見た状態を模式的に示している。
図7には、センサスリーブ35の窓部Aの断面が現れている。また、
図7は、湿式クラッチ部3が非締結状態、すなわち入力軸8からクラッチケース7へトルクが非伝達の状態を示している。
【0037】
図7に示すように、窓部Aの周方向長さと窓部Bの周方向長さとは同じ大きさであり、これをaとすると、ロータ29の凸部41は、周方向長さが2aとなるように形成されている。また、入力軸8からクラッチケース7へトルクが非伝達の状態において、ロータ29の凸部41の周方向一方端は、窓部Bの周方向他方端と径方向に重なり、ロータ29の凸部41の周方向他方端は、窓部Aの周方向一方端と径方向に重なっている。すなわちこの状態においては、ロータ29の凸部41は、窓部Aおよび窓部Bの何れとも径方向に重なっていない。言い換えると、窓部Aおよび窓部Bは、何れもロータ29の凹部43と径方向に重なっている。
【0038】
次に、本実施形態に係る摩擦係合装置1の作動について説明する。
湿式クラッチ部3のクラッチプレート13とクラッチディスク15とが非係合状態、すなわち湿式クラッチ部3が非締結状態においては、クラッチディスク15は空転し、入力軸8からクラッチケース7へトルクの伝達はなされない。この時、センサスリーブ35の窓部Aおよび窓部Bとロータ29の凸部41とは、
図7に示す状態である。
【0039】
この状態から、湿式クラッチ部3のクラッチプレート13とクラッチディスク15とが図示しない押圧装置等によって押圧されて互いに摩擦係合し、湿式クラッチ部3が締結状態となると、入力軸8からクラッチケース7へとトルクが伝達される。ここで例えば
図1および
図7において周方向一方へクラッチケース7が回転すると、ロータ29およびリテーナプレート31がクラッチケース7と一体に周方向一方へ回転する。ロータ29およびリテーナプレート31が周方向一方へ回転すると、リテーナプレート31と組み合わされたドリブンプレート33およびセンサスリーブ35へ回転が伝達される。ドリブンプレート33が回転すると、ギヤ部83に嵌合している出力軸84にトルクが伝達される。
【0040】
このとき、ロータ29およびリテーナプレート31の周方向一方への回転開始時において、リテーナプレート31の各ばね保持部57の周方向一方側のばね押さえ部61が、当該ばね押さえ部61に接触しているドリブンプレート33の爪部87を周方向一方側へ押圧する。すると、ドリブンプレート33は出力軸84に嵌合しているため、出力軸84からの抵抗が生じ、該ばね押さえ部61はドリブンプレート33の爪部87からの反力によって周方向他方へ僅かに撓む。これによりばね保持部57のばね59が僅かに圧縮される。
【0041】
ばね59が僅かに圧縮すると、リテーナプレート31とドリブンプレート33との間に僅かな位相のずれ、すなわちねじれが生じる。言い換えると、リテーナプレート31はドリブンプレート33に対して、周方向一方に僅かに相対回転する。これと同時に、リテーナプレート31と一体に固定されたロータ29と、ドリブンプレート33と一体に固定されたセンサスリーブ35との間にも僅かな位相のずれ、すなわちねじれが生じる。言い換えると、ロータ29は、センサスリーブ35に対して周方向一方に僅かに相対回転する。また、リテーナプレート31と一体に固定されているクラッチプレート7は、ドリブンプレート33に嵌合している出力軸84に対して周方向一方に僅かに相対回転する。
【0042】
図7において、ロータ29がセンサスリーブ35に対して周方向一方に相対回転すると、ロータ29の凸部41は窓部Bと径方向に重なる面積が大きくなってゆく。この時入力軸8からのトルクが大きければロータ29とセンサスリーブ35との相対回転量が大きくなり、窓部Bと重なるロータ29の凸部41の面積は大きくなり、トルクが小さければロータ29とセンサスリーブ35との相対回転量が小さくなり、窓部Bと重なるロータ29の凸部41の面積は小さくなる。一方、ロータ29がセンサスリーブ35に対して周方向一方に相対回転しても、ロータ29の凸部41は窓部Aとは径方向に重ならない。
【0043】
ここで、コイルAおよびコイルBには所定の電流が流れており、磁場が形成されている。また、センサスリーブ35は導電性で且つ非磁性の材料から形成され、ロータ29は磁性材料から形成されている。このため、窓部Aとロータ29の凸部41とが重なった面積が増加すれば、コイルAのインダクダンスは増大し、窓部Aとロータ29の凸部41とが重なった面積が減少すれば、コイルAのインダクダンスは減少する。同様に、窓部Bとロータ29の凸部41とが重なった面積が増加すれば、コイルBのインダクダンスは増大し、窓部Bとロータ29の凸部41とが重なった面積が減少すれば、コイルBのインダクダンスは減少する。
【0044】
そしてコイルAおよびコイルBのインダクダンスが変化すれば、コイルAおよびコイルBの自己誘導起電力もインダクダンスの変化と同様の傾向で変化する。すなわち、窓部Aとロータ29の凸部41とが重なった面積が増加すれば、コイルAの自己誘導起電力は増大し、窓部Aとロータ29の凸部41とが重なった面積が減少すれば、コイルAの自己誘導起電力は減少する。同様に、窓部Bとロータ29の凸部41とが重なった面積が増加すれば、コイルBの自己誘導起電力は増大し、窓部Bとロータ29の凸部41とが重なった面積が減少すれば、コイルBの自己誘導起電力は減少する。
【0045】
したがって、上記のようにロータ29がセンサスリーブ35に対して周方向一方に相対回転した際は、演算回路99は、ロータ29の凸部41と窓部Bとが重なった面積の大きさからコイルBの自己誘導起電力の大きさすなわち電圧の大きさを計測し、さらに自己誘導起電力の大きさを入力軸8からの周方向一方へのトルクの大きさに換算している。トルクセンサ部5は、このように入力軸8からクラッチケース7を介して出力軸84へ伝達されるトルクを検出している。そして入力軸8からのトルクの大きさが変化し、ロータ29の凸部41と窓部Bとが重なった面積の大きさが変化しても、変化後の当該重なった面積の大きさに応じたコイルBの自己誘導起電力からトルクの大きさを算出する。このように、入力軸8からのトルクの大きさが変化しても、演算回路99は瞬時に変化後のトルクの大きさを算出する。
【0046】
なお、上記の作動は、
図1および
図7において周方向一方へクラッチケース7が回転した場合を説明したが、クラッチケース7が周方向他方へ回転した場合は、ロータ29の凸部41と窓部Aとが径方向に重なるため、演算回路99はロータ29の凸部41と窓部Aとが重なった面積に基づいて、周方向他方へのトルクの大きさを算出する。
【0047】
このように、本実施形態の摩擦係合装置によれば、湿式クラッチ部3に一体に設けられたトルクセンサ部5によって、入力軸8から、例えば出力軸84へ伝達されるトルクの大きさおよびその変化をダイレクトに測定することができる。その結果、本実施形態の摩擦係合装置1を例えば自動変速機に用いた場合には、変速中のトルク変化にダイレクトに追従することができ、電動化による複雑な自動変速制御が可能となる。また、本実施形態の摩擦係合装置1は、湿式クラッチ部3にトルクセンサ部5を一体に設けているため、構造を簡素化することができ、トルク検出の簡易化を図ることができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態は湿式クラッチとして用いられる例を示したが、ブレーキとして用いることもできる。また、センサスリーブ35の窓部Aおよび窓部Bの数、および窓部Aと窓部Bとの配置のずれは、適宜設定可能である。また、ばね保持部57およびばね59の数は、伝達するトルクの大きさによって適宜設定可能である。また、ばね59の強さも伝達するトルクの大きさによって適宜設定可能である。また、上記実施形態は入力軸8から湿式クラッチ部3を介して出力軸84へトルクが伝達される例を示したが、出力軸84を入力側とし、入力軸8を出力側としても良い。すなわち出力軸84から湿式クラッチ部3を介して入力軸8へトルクが伝達されるようにしても良い。この場合においても、トルクセンサ部5は湿式クラッチ部3が伝達するトルクを検出する。
【符号の説明】
【0049】
1 摩擦係合装置
3 湿式クラッチ部
5 トルクセンサ部
7 クラッチケース
8 入力軸
13 クラッチプレート
15 クラッチディスク
27 コイル部
29 ロータ
31 リテーナプレート
33 ドリブンプレート
35 センサスリーブ
41 凸部
43 凹部
57 ばね保持部
59 圧縮コイルばね
61 ばね押さえ部
63 爪部
84 出力軸
87 爪部
97 ヨーク
99 演算回路