(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】多孔質酸化物半導体粒子
(51)【国際特許分類】
C01G 19/02 20060101AFI20240617BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240617BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240617BHJP
C01G 30/00 20060101ALI20240617BHJP
C01G 33/00 20060101ALI20240617BHJP
C01G 35/00 20060101ALI20240617BHJP
C01G 41/00 20060101ALI20240617BHJP
C01F 7/021 20220101ALI20240617BHJP
【FI】
C01G19/02 B
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M8/10 101
C01G30/00
C01G33/00 A
C01G35/00 C
C01G41/00 A
C01F7/021
(21)【出願番号】P 2020188847
(22)【出願日】2020-11-12
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 正哲
(72)【発明者】
【氏名】矢野 一久
(72)【発明者】
【氏名】竹下 朋洋
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 健作
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 稔幸
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-127869(JP,A)
【文献】特開2005-056787(JP,A)
【文献】特開2011-111379(JP,A)
【文献】特表2014-532029(JP,A)
【文献】特表2011-519817(JP,A)
【文献】国際公開第2012/096171(WO,A1)
【文献】KAKINUMA Katsuyoshi et al.,ACS Appl. Mater. Interfaces,2019年,11,34957-34963,DOI:10.1021/acsami.9b11119
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00ー23/08
C01G 25/00-47/00
C01G 49/10-99/00
C01F 1/00-17/38
H01M 4/86-4/98
H01M 8/00-8/0297
H01M 8/08ー8/2495
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物半導体からなる結晶子の集合体からなる多孔質の一次粒子が連結した連珠構造を備え、比表面積が60m
2/g以上であ
り、
細孔径が1nm以上20nm以下であり、
圧粉体の導電率が1×10
-5
S/cm以上であり、
細孔容量が0.1mL/g以上1mL/g以下であり、
タップ密度が0.01g/cm
3
以上1.0g/cm
3
以下である
多孔質酸化物半導体粒子。
【請求項2】
平均一次粒子径が0.05μm以上2μm以下である
請求項1に記載の多孔質酸化物半導体粒子。
【請求項3】
平均結晶子径が2nm以上40nm以下である
請求項1又は2に記載の多孔質酸化物半導体粒子。
【請求項4】
前記酸化物半導体は、
(a)SnO
2、又は
(b)Nb、Sb、W、Ta、及びAlからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素がドープされたSnO
2
からなる
請求項1から3までのいずれか1項に記載の多孔質酸化物半導体粒子。
【請求項5】
前記酸化物半導体は、SbドープSnO
2からなり、
圧粉体の導電率が1×10
-3S/cm以上である
請求項1から4までのいずれか1項に記載の多孔質酸化物半導体粒子。
【請求項6】
固体高分子形燃料電池の触媒担体として用いられる
請求項1から5までのいずれか1項に
記載の多孔質酸化物半導体粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質酸化物半導体粒子に関し、さらに詳しくは、連珠構造を備え、かつ、相対的に高い比表面積を有する多孔質酸化物半導体粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、電解質膜の両面に触媒層が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。触媒層の外側には、通常、ガス拡散層が配置される。さらに、ガス拡散層の外側には、ガス流路を備えた集電体(セパレータ)が配置される。PEFCは、通常、このようなMEA、ガス拡散層及び集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
【0003】
PEFCにおいて、触媒層は、一般に、担体表面に白金などの触媒金属微粒子を担持させた電極触媒と、触媒層アイオノマとの混合物からなる。触媒担体には、通常、カーボンブラック、アセチレンブラックなどの炭素材料が用いられている。しかし、カーボン担体は、高電位に曝されると酸化腐食し、担体上に担持された触媒金属微粒子が脱落すること、及びこれによって電極性能が低下することが知られている。このため、高電位で安定な導電性金属酸化物を担体材料として用いることが提案されている。
【0004】
例えば、非特許文献1には、
(a)種々の導電性金属酸化物の中でも、不定比酸化チタン(TiOx)あるいは異元素(Nb、Sb等)をドープした酸化スズが触媒担体として有望であること、及び、
(b)特に、PEFCのカソード用の触媒担体には、強酸性かつ高電位の環境下において安定な酸化スズが有望であること
が記載されている。
【0005】
非特許文献2には、共沈法により作製されたNb、Sb、又はAlをドープしたSnO2からなる触媒担体であって、BET比表面積が50m2/g以下であり、導電率が1.0×10-5~1.0×10-4S/cm程度であるものが開示されている。
特許文献1には、Sb及びTa含有酸化スズ粒子からなる担体と、担体の表面を被覆するフッ素含有酸化スズ微粒子の集合体からなる被覆層と、被覆層の表面に担持された白金ニッケル合金とを備えた電極触媒が開示されている。
非特許文献3には、前駆体を火炎中に噴霧することにより得られるNbドープSnO2からなる触媒担体であって、BET比表面積が40m2/gであり、圧粉体の導電率が1.0×10-4S/cmであるものが開示されている。
【0006】
非特許文献4には、PEFC用の触媒担体ではないが、BET比表面積が78.8m2/gであり、細孔径が10nmである多孔質SnO2粒子が開示されている。
さらに、特許文献2には、PEFC用の触媒担体ではないが、球状カーボン多孔体の細孔内にSnO2を析出させ、球状カーボン多孔体を除去することにより得られる球状SnO2多孔体であって、単分散度が4.8%であり、BET比表面積が103m2/gであるものが開示されている。
【0007】
PEFCにおいて、触媒層の電子伝導性が低下すると、触媒金属微粒子に反応に必要な電子が供給される際に過電圧が生じる。そのため、PEFC用の触媒担体には、高い電子伝導性が求められる。
これに加えて、PEFC用の触媒担体には、
(a)触媒金属微粒子の分散性を上げるために、比表面積が大きいこと、
(b)触媒層に使用した時に、触媒層内の物質移動(反応ガスの拡散や生成水の排出)がスムーズになるように、触媒層内に適度な空隙を形成可能な構造を持つこと、並びに、
(c)触媒層アイオノマによる触媒被毒を防ぐために、触媒金属微粒子をその内部に担持することが可能な程度の大きさ(10nm以下)のメソ細孔を有すること、
が求められる。
【0008】
ここで、「触媒層内に適度な空隙を形成可能な構造」としては、例えば、一次粒子が数珠状に連結している構造(以下、このような構造を「連珠構造」ともいう)などがある。従来のカーボン担体の中には、このような連珠構造を備えているものがある。
しかしながら、導電性金属酸化物からなる触媒担体であって、上述した条件をすべて満たすものが提案された例は、従来にはない。
【0009】
例えば、非特許文献2及び特許文献1に記載の触媒担体は、連珠構造を持たず、細孔径に関する記述がない。また、非特許文献2に記載の触媒担体は、比表面積が相対的に小さい。非特許文献3に記載の触媒担体は、連珠構造を備えているが、比表面積が相対的に小さく、細孔径に関する記述がない。さらに、非特許文献4及び特許文献2に記載のSnO2粒子は、いずれも連珠構造を備えていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2017-183273号公報
【文献】特開2010-120800号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】T. Arai et al., SAE Int. J. Alt. Power., 2017, 6, 145
【文献】F. Takasaki et al., J. Electrochem. Soc., 2011, 158, B1270
【文献】K. Kakinuma et al., ACS Appl. Mater. Interfaces, 2019, 11, 34957
【文献】X. Wang et al., Eur. J. Inor. Chem., 2014, 863
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、連珠構造を備えており、かつ、相対的に大きな比表面積を持つ多孔質酸化物半導体粒子を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、連珠構造及び高比表面積に加えて、適度な細孔径、導電率、平均一次粒子径、細孔容量、平均結晶子径、及び/又は、タップ密度を持つ多孔質酸化物半導体粒子を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、固体高分子形燃料電池用の触媒担体として好適な多孔質酸化物半導体粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る多孔質酸化物半導体粒子は、酸化物半導体からなる結晶子の集合体からなる多孔質の一次粒子が連結した連珠構造を備え、比表面積が60m2/g以上であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
鋳型としてメソ細孔を持つカーボン多孔体を用い、鋳型のメソ細孔内に酸化物半導体を析出させ、鋳型を除去すると、メソ細孔を持つ多孔質酸化物半導体粒子を得ることができる。この時、鋳型としてメソ細孔及び連珠構造を備えたカーボン多孔体を用い、かつ、製造条件を最適化すると、メソ細孔及び連珠構造を備え、かつ、比表面積が60m2/g以上である多孔質酸化物半導体粒子を得ることができる。
【0015】
得られた多孔質酸化物半導体粒子は低充填性であるので、これを用いて触媒層を作製すると、触媒層内に適度な空隙を形成することができる。また、高比表面積であるため、その表面に触媒金属微粒子を高分散に担持することができる。また、メソ細孔内に触媒金属微粒子を担持させると、触媒層アイオノマによる触媒被毒を抑制することができる。さらに必要に応じて酸化物半導体に異元素をドープすると、導電率を制御することができる。
そのため、このような多孔質酸化物半導体を固体高分子形燃料電池の触媒担体として用いると、担体の酸化腐食による触媒金属微粒子の脱落が抑制され、触媒層内における物質移動が促進され、あるいは、触媒被毒による活性低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】連珠状メソポーラスSnO
2の製造方法の模式図である。
【
図2】連珠
状スターバーストカーボン(CSC)のSEM像である。
【
図3】連珠状メソポーラスSnO
2(CMTO)のSEM像である。
【
図4】連珠状メソポーラスSnO
2(CMTO)の細孔径分布である。
【
図5】連珠状メソポーラスSnO
2(CMTO)のモード細孔径である。
【0017】
【
図6】連珠状メソポーラスNb-SnO
2(CMNbTO)の細孔径分布である。
【
図7】連珠状メソポーラスNb-SnO
2(CMNbTO)のモード細孔径である。
【
図8】連珠状メソポーラスSnO
2(CMTO)及び連珠状メソポーラスNb-SnO
2(CMNbTO)のBET比表面積と細孔径との関係を示す図である。
【
図9】連珠状メソポーラスSnO
2(CMTO)及び連珠状メソポーラスNb-SnO
2(CMNbTO)のBET比表面積と導電率との関係を示す図である。
【0018】
【
図10】連珠状メソポーラスM-SnO
2の製造方法の模式図である。
【
図11】連珠状メソポーラスSb-SnO
2(CMSbTO)(300℃熱処理品)のSEM像である。
【
図12】連珠状メソポーラ
スSb-SnO
2(CMSbTO)(500℃熱処理品)のSEM像である。
【0019】
【
図13】連珠状メソポーラスM-SnO
2(300℃熱処理品)のXRDパターンである。
【
図14】連珠状メソポーラスM-SnO
2(500℃熱処理品)のXRDパターンである。
【
図15】連珠状メソポーラスM-SnO
2のBET比表面積と細孔径との関係を示す図である。
【
図16】連珠状メソポーラスM-SnO
2のBET比表面積と導電率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 多孔質酸化物半導体粒子]
本発明に係る多孔質酸化物半導体粒子は、酸化物半導体からなる結晶子の集合体からなる多孔質の一次粒子が連結した連珠構造を備え、比表面積が60m2/g以上である。
【0021】
[1.1. 一次粒子]
一次粒子は、酸化物半導体からなる結晶子の集合体からなる。また、一次粒子は、結晶子の隙間にメソ細孔がある多孔質の粒子からなる。
【0022】
[1.1.1. 酸化物半導体]
本発明において、結晶子を構成する酸化物半導体の種類は、特に限定されない。酸化物半導体としては、例えば、SnO2、TiO2、SrTiO3、ZrO2、WO3、Bi2O3、Fe2O3、NiO、CuO、CeO2、ZnO、In2O3などがある。酸化物半導体は、これらのいずれか1種の材料からなるものでも良く、あるいは2種以上の材料からなる混合物又は化合物でも良い。
【0023】
これらの中でも、SnO2は、燃料電池環境下における耐久性が高いので、結晶子を構成する酸化物半導体として好適である。SnO2は、ドーパントを含まないものでも良く、あるいは、ドーパントを含むものでも良い。ドーパントとしては、例えば、Nb、Sb、W、Ta、Alなどがある。SnO2には、これらのいずれか1種のドーパントが含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
【0024】
[1.1.2. 平均一次粒子径]
「平均一次粒子径」とは、一次粒子の最大寸法(=直径)の平均値をいう。
平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により測定することができる。
【0025】
一般に、平均一次粒子径が小さくなりすぎると、触媒粒子を担持することが困難となる。従って、平均一次粒子径は、0.05μm以上が好ましい。平均一次粒子径は、好ましくは、0.06μm以上、さらに好ましくは、0.07μm以上である。
一方、平均一次粒子径が大きくなりすぎると、触媒層の厚さが厚くなり、触媒層中のイオン抵抗及び電子抵抗が大きくなる。従って、平均一次粒子径は、2μm以下が好ましい。平均一次粒子径は、好ましくは、1μm以下、さらに好ましくは、0.5μm以下である。
【0026】
[1.1.3. 平均結晶子径]
「平均結晶子径」とは、結晶子の最大寸法(=直径)の平均値をいう。
平均結晶子径は、X線回折ピークの線幅とシェラーの式とから求めることができる。
【0027】
平均結晶子径が小さくなりすぎると、細孔径が小さくなりすぎる。従って、平均結晶子径は、2nm以上が好ましい。平均結晶子径は、好ましくは、3nm以上、さらに好ましくは、4nm以上である。
一方、平均結晶子径が大きくなりすぎると、細孔径が大きくなりすぎる。従って、平均結晶子径は、40nm以下が好ましい。平均結晶子径は、好ましくは、20nm以下、さらに好ましくは、10nm以下である。
【0028】
[1.1.4. 一次粒子の形状]
本発明において、一次粒子の形状は、特に限定されない。後述する方法を用いて多孔質酸化物半導体粒子を作製した場合、一次粒子は、通常、完全な球状とはならず、アスペクト比が1.1~3程度のいびつな形状を持つ。
【0029】
[1.2. 二次粒子]
二次粒子は、連珠構造を備えている。
ここで、「連珠構造」とは、一次粒子が数珠状に連結している構造をいう。連珠構造を備えた二次粒子は、一次粒子が互いに粗に連結しているため、一次粒子の間には相対的に粗大な空隙がある。また、一次粒子は微細な結晶子の集合体からなるため、一次粒子の内部には相対的に微細な空隙(メソ細孔)がある。
【0030】
後述するように、本発明に係る多孔質酸化物半導体粒子は、メソポーラスカーボンを鋳型に用いて製造される。また、メソポーラスカーボンは、メソポーラスシリカを鋳型に用いて製造される。メソポーラスシリカは、通常、シリカ源、界面活性剤及び触媒を含む反応溶液中において、シリカ源を縮重合させることにより合成されている。
【0031】
この時、反応溶液中の界面活性剤の濃度及びシリカ源の濃度をそれぞれある特定の範囲に限定すると、連珠構造を備えており、かつ、平均一次粒子径、細孔径、細孔容量、タップ密度等が特定の範囲にあるメソポーラスシリカが得られる。
このような連珠構造を備えたメソポーラスシリカを第1鋳型に用いると、連珠構造を備えたメソポーラスカーボンが得られる。さらに、連珠構造を備えたメソポーラスカーボンを第2鋳型に用いると、連珠構造を備えた多孔質酸化物半導体粒子が得られる。
【0032】
[1.3. 特性]
[1.3.1. 比表面積]
本発明に係る多孔質酸化物半導体粒子をPEFCの触媒担体に用いる場合において、多孔質酸化物半導体粒子の比表面積が小さくなりすぎると、触媒の活性種を微粒で高分散に担持できなくなり、触媒の有効面積が小さくなる。従って、多孔質酸化物半導体粒子の比表面積は、大きいほどよい。
【0033】
本発明に係る多孔質酸化物半導体粒子は、連珠構造を備え、かつ、一次粒子内にメソ細孔があるため、従来の材料に比べて比表面積が大きい。製造条件を最適化すると、比表面積は、60m2/g以上となる。製造条件をさらに最適化すると、比表面積は、80m2/g以上、100m2/g以上、あるいは、150m2/g以上となる。
後述する方法を用いると、比表面積が200m2/g程度である多孔質酸化物半導体粒子であっても、合成することができる。
【0034】
[1.3.2. 細孔径]
「細孔径」とは、一次粒子に含まれるメソ細孔の直径の平均値をいい、一次粒子間にある空隙の大きさは含まれない。
細孔径は、多孔質酸化物半導体粒子の窒素吸着等温線の吸着側データをBJH法で解析し、細孔容量が最大となるときの細孔径(最頻出ピーク値、又はモード細孔径)を求めることにより得られる。
【0035】
一次粒子は、微細な結晶子の集合体であるため、その内部にメソ細孔を持つ。本発明に係る多孔質酸化物半導体粒子をPEFC用の触媒担体として用いる場合において、メソ細孔内に触媒粒子を担持させると、触媒層アイオノマによる被毒を抑制することができる。一般に、一次粒子の細孔径が小さくなりすぎると、細孔内に担持された触媒に反応ガスやプロトンが供給されにくくなり、あるいは、反応により生じた水が排出されにくくなる。従って、細孔径は、1nm以上が好ましい。細孔径は、好ましくは、2nm以上、さらに好ましくは、3nm以上である。
一方、細孔径が大きくなりすぎると、細孔内に触媒層アイオノマが侵入しやすくなり、触媒被毒が起きやすくなる。従って、細孔径は、20nm以下が好ましい。細孔径は、好ましくは、10nm以下、さらに好ましくは、5nm以下である。
【0036】
[1.3.3. 細孔容量]
「細孔容量」とは、一次粒子に含まれるメソ細孔の容積をいい、一次粒子間にある空隙の容積は含まれない。
細孔容量は、多孔質酸化物半導体の窒素吸着等温線の吸着データをBJH法で解析し、P/P0=0.03~0.99の値で算出することにより得られる。
【0037】
本発明に係る多孔質酸化物半導体粒子をPEFC用の触媒担体に用いる場合において、細孔容量が小さくなりすぎると、細孔内に担持される触媒粒子の割合が小さくなる。従って、細孔容量は、0.1mL/g以上が好ましい。細孔容量は、好ましくは、0.15mL/g以上、さらに好ましくは、0.2mL/g以上である。
一方、細孔容量が大きくなりすぎると、酸化物半導体からなる細孔壁の割合が小さくなり、電子伝導性が低くなる。また、アイオノマ侵入量が多くなり、触媒被毒により活性が低下する場合がある。従って、細孔容量は、1mL/g以下が好ましい。細孔容量は、好ましくは、0.7mL/g以下、さらに好ましくは、0.5mL/g以下である。
【0038】
[1.3.4. 圧粉体の導電率]
「圧粉体の導電率」とは、
(a)2枚のステンレス鋼製円盤と、円筒状の穴が開いたプラスチック製治具とを用いて多孔質酸化物半導体粒子を成形し、
(b)得られた圧粉体に2.4MPaの圧力をかけた状態で、一定の電流を流しながら電圧を測定することで得た値をいう。
圧粉体(すなわち、多孔質酸化物半導体粒子)の導電性は、主として、酸化物半導体の種類、並びに、ドーパントの種類及び量に依存する。酸化物半導体の組成を最適化すると、圧粉体の導電率は、1×10-5S/cm以上となる。製造条件を最適化すると、導電率は、1×10-4S/cm以上、あるいは、1×10-2S/cm以上となる。
後述する方法を用いると、圧粉体の導電率が10S/cm程度である多孔質酸化物半導体粒子であっても、合成することができる。
【0039】
[1.3.5. タップ密度]
「タップ密度」とは、JIS Z 2512に準拠して測定される値をいう。
本発明に係る多孔質酸化物半導体粒子をPEFCの触媒層に用いる場合において、多孔質酸化物半導体粒子のタップ密度が小さくなりすぎると、得られた触媒層の厚みが厚くなりすぎ、プロトン伝導性が低下する。従って、タップ密度は、0.005g/cm3以上が好ましい。タップ密度は、好ましくは、0.01g/cm3以上、さらに好ましくは、0.05g/cm3以上である。
一方、タップ密度が大きくなりすぎると、これを用いて触媒層を作製した時に、触媒層内にフラッディングを抑制可能な空隙を確保するのが困難となる。従って、タップ密度は、1.0g/cm3以下が好ましい。タップ密度は、好ましくは、0.75g/cm3以下である。
【0040】
[1.4. 用途]
本発明に係る多孔質酸化物半導体粒子は、PEFCの触媒担体、固体高分子形水電解セル(PEEC)の触媒担体などに用いることができる。本発明に係る多孔質酸化物半導体粒子は、メソ細孔を有し、比表面積が大きく、導電率が高く、かつ、酸化腐食しにくいので、PEFC用の触媒担体として特に好適である。
【0041】
[2. メソポーラスシリカ(第1鋳型)の製造方法]
本発明に係る多孔質酸化物半導体粒子を製造するためには、まず、連珠構造を備えたメソポーラスシリカ(第1鋳型)を製造する必要がある。このようなメソポーラスシリカは、
(a)シリカ源、界面活性剤及び触媒を含む反応溶液中において、前記シリカ源を縮重合させて前駆体粒子を作製し、
(b)前記反応溶液から前記前駆体粒子を分離し、乾燥させ、
(c)必要に応じて、乾燥させた前駆体粒子に対して拡径処理を行い、
(d)前記前駆体粒子を焼成する
ことにより得られる。
【0042】
[2.1. 縮重合工程]
まず、シリカ源、界面活性剤及び触媒を含む反応溶液中において、前記シリカ源を縮重合させ、前駆体粒子を得る(縮重合工程)。
【0043】
[2.1.1. シリカ源]
本発明において、シリカ源の種類は、特に限定されない。シリカ源としては、例えば、
(a)テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、テトラエチレングリコキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、
(b)3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、
などがある。シリカ源には、これらのいずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0044】
[2.1.2. 界面活性剤]
シリカ源を反応溶液中で縮重合させる場合において、反応溶液に界面活性剤を添加すると、反応溶液中において界面活性剤がミセルを形成する。ミセルの周囲には親水基が集合しているため、ミセルの表面にはシリカ源が吸着する。さらに、シリカ源が吸着しているミセルが反応溶液中において自己組織化し、シリカ源が縮重合する。その結果、一次粒子内部には、ミセルに起因するメソ細孔が形成される。メソ細孔の大きさは、主として、界面活性剤の分子長により制御(1~50nmまで)することができる。
【0045】
本発明において、界面活性剤には、アルキル4級アンモニウム塩を用いる。アルキル4級アンモニウム塩とは、次の(a)式で表される化合物をいう。
CH3-(CH2)n-N+(R1)(R2)(R3)X- ・・・(a)
【0046】
(a)式中、R1、R2、R3は、それぞれ、炭素数が1~3のアルキル基を表す。R1、R2、及び、R3は、互いに同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。アルキル4級アンモニウム塩同士の凝集(ミセルの形成)を容易化するためには、R1、R2、及び、R3は、すべて同一であることが好ましい。さらに、R1、R2、及び、R3の少なくとも1つは、メチル基が好ましく、すべてがメチル基であることが好ましい。
(a)式中、Xはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子の種類は特に限定されないが、入手の容易さからXは、Cl又はBrが好ましい。
【0047】
(a)式中、nは7~21の整数を表す。一般に、nが小さくなるほど、メソ細孔の中心細孔径が小さい球状のメソ多孔体が得られる。一方、nが大きくなるほど、中心細孔径は大きくなるが、nが大きくなりすぎると、アルキル4級アンモニウム塩の疎水性相互作用が過剰となる。その結果、層状の化合物が生成し、メソ多孔体が得られない。nは、好ましくは、9~17、さらに好ましくは、13~17である。
【0048】
(a)式で表されるものの中でも、アルキルトリメチルアンモニウムハライドが好ましい。アルキルトリメチルアンモニウムハライドとしては、例えば、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムハライド、ノニルトリメチルアンモニウムハライド、デシルトリメチルアンモニウムハライド、ウンデシルトリメチルアンモニウムハライド、ドデシルトリメチルアンモニウムハライド等がある。
これらの中でも、特に、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド又はアルキルトリメチルアンモニウムクロリドが好ましい。
【0049】
メソポーラスシリカを合成する場合において、1種類のアルキル4級アンモニウム塩を用いても良く、あるいは、2種以上を用いても良い。しかしながら、アルキル4級アンモニウム塩は、一次粒子内にメソ細孔を形成するためのテンプレートとなるので、その種類は、メソ細孔の形状に大きな影響を与える。より均一なメソ細孔を有するシリカ粒子を合成するためには、1種類のアルキル4級アンモニウム塩を用いるのが好ましい。
【0050】
[2.1.3. 触媒]
シリカ源を縮重合させる場合、通常、反応溶液中に触媒を加える。粒子状のメソポーラスシリカを合成する場合、触媒には、水酸化ナトリウム、アンモニア水等のアルカリを用いるのが好ましい。
【0051】
[2.1.4. 溶媒]
溶媒には、水、アルコールなどの有機溶媒、水と有機溶媒の混合溶媒などを用いる。
アルコールは、
(1)メタノール、エタノール、プロパノール等の1価のアルコール、
(2)エチレングリコール等の2価のアルコール、
(3)グリセリン等の3価のアルコール、
のいずれでも良い。
水と有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、混合溶媒中の有機溶媒の含有量は、目的に応じて任意に選択することができる。一般に、溶媒中に適量の有機溶媒を添加すると、粒径や粒度分布の制御が容易化する。
【0052】
[2.1.5. 反応溶液の組成]
反応溶液中の組成は、合成されるメソポーラスシリカの外形や細孔構造に影響を与える。特に、反応溶液中の界面活性剤の濃度、及びシリカ源の濃度は、メソポーラスシリカ粒子の平均一次粒子径、細孔径、細孔容量、及びタップ密度に与える影響が大きい。
【0053】
[A. 界面活性剤の濃度]
界面活性剤の濃度が低すぎると、粒子の析出速度が遅くなり、一次粒子が連結している構造体は得られない。従って、界面活性剤の濃度は、0.03mol/L以上である必要がある。界面活性剤の濃度は、好ましくは、0.035mol/L以上、さらに好ましくは、0.04mol/L以上である。
【0054】
一方、界面活性剤の濃度が高すぎると、粒子の析出速度が速くなりすぎ、一次粒子径が容易に300nmを超える。従って、界面活性剤の濃度は、1.0mol/L以下である必要がある。界面活性剤の濃度は、好ましくは、0.95mol/L以下、さらに好ましくは、0.90mol/L以下である。
【0055】
[B. シリカ源の濃度]
シリカ源の濃度が低すぎると、粒子の析出速度が遅くなり、一次粒子が連結している構造体は得られない。あるいは、界面活性剤が過剰となり、均一なメソ細孔が得られない場合がある。従って、シリカ源の濃度は、0.05mol/L以上である必要がある。シリカ源の濃度は、好ましくは、0.06mol/L以上、さらに好ましくは、0.07mol/L以上である。
【0056】
一方、シリカ源の濃度が高すぎると、粒子の析出速度が速くなりすぎ、一次粒子径が容易に300nmを超える。あるいは、球状粒子ではなく、シート状の粒子が得られる場合がある。従って、シリカ源の濃度は、1.0mol/L以下である必要がある。シリカ源の濃度は、好ましくは、0.95mol/L以下、さらに好ましくは、0.9mol/L以下である。
【0057】
[C. 触媒の濃度]
本発明において、触媒の濃度は、特に限定されない。一般に、触媒の濃度が低すぎると、粒子の析出速度が遅くなる。一方、触媒の濃度が高すぎると、粒子の析出速度が速くなる。最適な触媒の濃度は、シリカ源の種類、界面活性剤の種類、目標とする物性値などに応じて最適な濃度を選択するのが好ましい。
【0058】
[2.1.6 反応条件]
所定量の界面活性剤を含む溶媒中に、シリカ源を加え、加水分解及び重縮合を行う。これにより、界面活性剤がテンプレートとして機能し、シリカ及び界面活性剤を含む前駆体粒子が得られる。
反応条件は、シリカ源の種類、前駆体粒子の粒径等に応じて、最適な条件を選択する。一般に、反応温度は、-20~100℃が好ましい。反応温度は、さらに好ましくは、0~90℃、さらに好ましくは、10~80℃である。
【0059】
[2.2. 乾燥工程]
次に、前記反応溶液から前記前駆体粒子を分離し、乾燥させる(乾燥工程)。
乾燥は、前駆体粒子内に残存している溶媒を除去するために行う。乾燥条件は、溶媒の除去が可能な限りにおいて、特に限定されるものではない。
【0060】
[2.3. 拡径処理]
次に、必要に応じて、乾燥させた前駆体粒子に対して拡径処理を行っても良い(拡径工程)。「拡径処理」とは、一次粒子内のメソ細孔の直径を拡大させる処理をいう。
拡径処理は、具体的には、合成された前駆体粒子(界面活性剤の未除去のもの)を、拡径剤を含む溶液中で水熱処理することにより行う。この処理によって前駆体粒子の細孔径を拡大させることができる。
【0061】
拡径剤としては、例えば、
(a)トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ベンゼン、シクロヘキサン、トリイソプロピルベンゼン、ナフタレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンなどの炭化水素、
(b)塩酸、硫酸、硝酸などの酸、
などがある。
【0062】
炭化水素共存下で水熱処理することにより細孔径が拡大するのは、拡径剤が溶媒から、より疎水性の高い前駆体粒子の細孔内に導入される際に、シリカの再配列が起こるためと考えられる。
また、塩酸などの酸共存下で水熱処理することにより細孔径が拡大するのは、一次粒子内部においてシリカの溶解・再析出が進行するためと考えられる。製造条件を最適化すると、シリカ内部に放射状細孔が形成される。これを酸共存下で水熱処理すると、シリカの溶解・再析出が起こり、放射状細孔が連通細孔に変換される。
【0063】
拡径処理の条件は、目的とする細孔径が得られる限りにおいて、特に限定されない。通常、反応溶液に対して、0.05mol/L~10mol/L程度の拡径剤を添加し、60~150℃で水熱処理するのが好ましい。
【0064】
[2.4. 焼成工程]
次に、必要に応じて拡径処理を行った後、前記前駆体粒子を焼成する(焼成工程)。これにより、連珠構造を備えたメソポーラスシリカ粒子が得られる。
焼成は、OH基が残留している前駆体粒子を脱水・結晶化させるため、及び、メソ細孔内に残存している界面活性剤を熱分解させるために行われる。焼成条件は、脱水・結晶化、及び界面活性剤の熱分解が可能な限りにおいて、特に限定されない。焼成は、通常、大気中において、400℃~700℃で1時間~10時間加熱することにより行われる。
【0065】
[3. メソポーラスカーボン(第2鋳型)の製造方法]
次に、連珠構造を備えたメソポーラスシリカを鋳型に用いて、連珠構造を備えたメソポーラスカーボン(第2鋳型)を製造する。このようなメソポーラスカーボンは、
(a)第1鋳型となるメソポーラスシリカを準備し、
(b)前記メソポーラスシリカのメソ細孔内にカーボンを析出させ、シリカ/カーボン複合体を作製し、
(c)前記複合体からシリカを除去する
ことにより得られる。
また、得られたメソポーラスカーボンの黒鉛化を促進させるために、シリカを除去した後に、メソポーラスカーボンを1500℃より高い温度で熱処理しても良い。
【0066】
[3.1. 第1鋳型準備工程]
まず、第1鋳型となるメソポーラスシリカを準備する(第1鋳型準備工程)。メソポーラスシリカの製造方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0067】
[3.2. カーボン析出工程]
次に、メソポーラスシリカのメソ細孔内にカーボンを析出させ、シリカ/カーボン複合体を作製する(カーボン析出工程)。
メソ細孔内へのカーボンの析出は、具体的には、
(a)メソ細孔内にカーボン前駆体を導入し、
(b)メソ細孔内において、カーボン前駆体を重合及び炭化させる
ことにより行われる。
【0068】
[3.2.1. カーボン前駆体の導入]
「カーボン前駆体」とは、熱分解によって炭素を生成可能なものをいう。このようなカーボン前駆体としては、具体的には、
(1) 常温で液体であり、かつ、熱重合性のポリマー前駆体(例えば、フルフリルアルコール、アニリン等)、
(2) 炭水化物の水溶液と酸の混合物(例えば、スクロース(ショ糖)、キシロース(木糖)、グルコース(ブドウ糖)などの単糖類、あるいは、二糖類、多糖類と、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸などの酸との混合物)、
(3) 2液硬化型のポリマー前駆体の混合物(例えば、フェノールとホルマリン等)、
などがある。
これらの中でも、ポリマー前駆体は、溶媒で希釈することなくメソ細孔内に含浸させることができるので、相対的に少数回の含浸回数で、相対的に多量の炭素をメソ細孔内に生成させることができる。また、重合開始剤が不要であり、取り扱いも容易であるという利点がある。
【0069】
液体又は溶液のカーボン前駆体を用いる場合、1回当たりの液体又は溶液の吸着量は、多いほど良く、メソ細孔全体が液体又は溶液で満たされる量が好ましい。
また、カーボン前駆体として炭水化物の水溶液と酸の混合物を用いる場合、酸の量は、有機物を重合させることが可能な最小量とするのが好ましい。
さらに、カーボン前駆体として、2液硬化型のポリマー前駆体の混合物を用いる場合、その比率は、ポリマー前駆体の種類に応じて、最適な比率を選択する。
【0070】
[3.2.2. カーボン前駆体の重合及び炭化]
【0071】
次に、重合させたカーボン前駆体をメソ細孔内において炭化させる。
カーボン前駆体の炭化は、非酸化雰囲気中(例えば、不活性雰囲気中、真空中など)において、カーボン前駆体を含むメソポーラスシリカを所定温度に加熱することにより行う。加熱温度は、具体的には、500℃以上1200℃以下が好ましい。加熱温度が500℃未満であると、カーボン前駆体の炭化が不十分となる。一方、加熱温度が1200℃を超えると、シリカと炭素が反応するので好ましくない。加熱時間は、加熱温度に応じて、最適な時間を選択する。
【0072】
なお、メソ細孔内に生成させる炭素量は、メソポーラスシリカを除去した時に、カーボン粒子が形状を維持できる量以上であればよい。従って、1回の充填、重合及び炭化で生成する炭素量が相対的に少ない場合には、これらの工程を複数回繰り返すのが好ましい。この場合、繰り返される各工程の条件は、それぞれ、同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。
また、充填、重合及び炭化の各工程を複数回繰り返す場合、各炭化工程は、相対的に低温で炭化処理を行い、最後の炭化処理が終了した後、さらにこれより高い温度で、再度、炭化処理を行っても良い。最後の炭化処理を、それ以前の炭化処理より高い温度で行うと、複数回に分けて細孔内に導入されたカーボンが一体化しやすくなる。
【0073】
[3.3. 第1鋳型除去工程]
次に、複合体から第1鋳型であるメソポーラスシリカを除去する(第1鋳型除去工程)。これにより、連珠構造を備えたメソポーラスカーボン(第2鋳型)が得られる。
メソポーラスシリカの除去方法としては、具体的には、
(1) 複合体を水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液中で加熱する方法、
(2) 複合体をフッ化水素酸水溶液でエッチングする方法、
などがある。
【0074】
[3.4. 黒鉛化処理工程]
次に、必要に応じて、メソポーラスカーボンを1500℃より高い温度で熱処理する(黒鉛化工程)。メソポーラスシリカのメソ細孔内において炭素源を炭化させる場合において、シリカと炭素の反応を抑制するためには、熱処理温度を低くせざるを得ない。そのため、炭化処理後のカーボンの黒鉛化度は低い。高い黒鉛化度を得るためには、第1鋳型を除去した後、メソポーラスカーボンを高温で熱処理するのが好ましい。
【0075】
熱処理温度が低すぎると、黒鉛化が不十分となる。従って、熱処理温度は、1500℃超が好ましい。熱処理温度は、好ましくは、1700℃以上、さらに好ましくは、1800℃以上である。
一方、熱処理温度を必要以上に高くしても、効果に差がなく、実益がない。従って、熱処理温度は、2300℃以下が好ましい。熱処理温度は、好ましくは、2200℃以下である。
【0076】
[4. 多孔質酸化物半導体粒子の製造方法]
本発明に係る多孔質酸化物半導体粒子の製造方法は、
連珠構造を備えたメソポーラスカーボンを準備する第1工程と、
メソポーラスカーボンのメソ細孔内に酸化物半導体を析出させ、酸化物/カーボン複合体を得る第2工程と、
酸化物/カーボン複合体からカーボンを除去する第3工程と
を備えている。
【0077】
[4.1. 第1工程]
まず、連珠構造を備えたメソポーラスカーボンを準備する(第1工程)。メソポーラスカーボンの製造方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0078】
[4.2. 第2工程]
次に、メソポーラスカーボンのメソ細孔内に酸化物半導体を析出させる(第2工程)。これにより、酸化物/カーボン複合体が得られる。
メソ細孔内への酸化物半導体の析出は、具体的には、メソ細孔内に酸化物半導体の前駆体を導入し、前駆体を酸化物半導体に変換することにより行う。
【0079】
[4.2.1. 前駆体]
メソ細孔内において酸化物半導体を形成するための前駆体としては、具体的には、
(1)酸化物半導体を構成する金属元素を含み、溶媒に可溶であり、かつ溶媒中の溶存酸素により酸化され、析出させることが可能な化合物、
(2)酸化物半導体を構成する金属元素を含み、熱分解あるいは加水分解により金属酸化物を形成することが可能な化合物、
などがある。
【0080】
溶存酸素により酸化し、析出させることが可能な化合物としては、
(1)SnCl2などの2価のSnを含む塩、
(2)TiCl3などの3価のTiを含む塩、
(3)FeSO4などの2価のFeを含む塩、
(4)Ce(CH3COO)3などの3価のCeを含む塩、
などがある。
【0081】
熱分解あるいは加水分解により金属酸化物を形成することが可能な化合物としては、
(1)CuSO4、FeSO4などの硫酸塩、
(2)Ni(CH3COO)2、Cu(CH3COO)2、ステアリン酸鉄などのカルボン酸塩、
(3)SnCl4、SnCl2、FeCl2、FeCl3、NiCl2、TiCl4、ZnCl2、InCl3などの塩化物、
(4)タングステンエトキシド(W(OC2H5)6)、チタンイソプロポキシド(Ti(Oi-C3H7)4)、チタンエトキシド(Ti(OC2H5)4)、チタンブトキシド(Ti(OC4H9)4)、チタンストロンチウムエトキシド(Ti(OC2H5)2-OSrO)、ジルコニウムイソプロポキシド(Zr(Oi-C3H7)4)、ジルコニウムエトキシド(Zr(OC2H5)4)などのアルコキシド、
(5)Cu(NO3)2、Fe(NO3)2などの硝酸塩、
(6)ニッケルアセチルアセトナート(Ni(CH3COCHCOCH3)2)、スズアセチルアセトナート(Sn(CH3COCHCOCH3)2)などのアセチルアセトナート塩、
などがある。
【0082】
ドーパントを含む酸化物半導体を作製する場合、酸化物半導体を形成するための前駆体に加えて、ドーパントを含む前駆体を用いる。ドーパントを含む前駆体としては、酸化物半導体を形成するための前駆体と同様に、各種の塩(硫酸塩、カルボン酸塩、塩化物、硝酸塩、アセチルアセトナート塩)、あるいは、アルコキシドを用いることができる。
【0083】
[4.2.2. 細孔への前駆体の導入]
前駆体が液体である場合、これをそのままメソポーラスカーボンの細孔内に吸着させても良い。あるいは、前駆体を適当な溶媒に溶解させ、この溶液をメソポーラスカーボンの細孔内に吸着させても良い。前駆体を溶媒に溶解させる場合、溶媒の種類及び前駆体の濃度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択する。
【0084】
[4.2.3. 前駆体の酸化物への変換]
前駆体を吸着させた後、前駆体を酸化物に変換する。変換方法は、特に限定されるものではなく、前駆体の種類に応じて最適な方法を選択する。
例えば、前駆体として塩化物を用いる場合、塩化物を溶解させた溶液にメソポーラスカーボンを分散させ、空気中で攪拌する。攪拌を続けると、やがて塩化物がメソポーラスカーボンのメソ細孔内に吸着され、メソ細孔内の塩化物が溶存酸素により次第に酸化物となる。
【0085】
また、例えば、前駆体としてアルコキシドを用いる場合、アルコキシド又はこれを溶解させた溶液をメソポーラスカーボンに添加し、メソ細孔内にアルコキシド又はその溶液を含浸させる。これを所定の温度に加熱すると、アルコキシドの重縮合が起こり、メソ細孔内に酸化物が生成する。
なお、1回の前駆体の吸着及び酸化物への変換により、メソ細孔内に十分な量の酸化物半導体を形成することができないときは、吸着及び変換を複数回繰り返しても良い。
【0086】
[4.3. 第3工程]
次に、酸化物/カーボン複合体からカーボンを除去する(第3工程)。これにより、本発明に係る多孔質酸化物半導体粒子が得られる。
カーボンの除去方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。カーボンの除去方法としては、例えば、
(1)酸化物/カーボン複合体を酸化雰囲気下で加熱する方法、
(2)複合体を酸素プラズマエッチングする方法、
などがある。
加熱温度、加熱時間などの除去条件は、特に限定されるものではなく、酸化物半導体の結晶子を粗大化させることなく、カーボンが完全に除去される条件であれば良い。
【0087】
[5. 作用]
鋳型としてメソ細孔を持つカーボン多孔体を用い、鋳型のメソ細孔内に酸化物半導体を析出させ、鋳型を除去すると、メソ細孔を持つ多孔質酸化物半導体粒子を得ることができる。この時、鋳型としてメソ細孔及び連珠構造を備えたカーボン多孔体を用い、かつ、製造条件を最適化すると、メソ細孔及び連珠構造を備え、かつ、比表面積が60m2/g以上である多孔質酸化物半導体粒子を得ることができる。
【0088】
得られた多孔質酸化物半導体粒子は低充填性であるので、これを用いて触媒層を作製すると、触媒層内に適度な空隙を形成することができる。また、高比表面積であるため、その表面に触媒金属微粒子を高分散に担持することができる。また、メソ細孔内に触媒金属微粒子を担持させると、触媒層アイオノマによる触媒被毒を抑制することができる。さらに必要に応じて酸化物半導体に異元素をドープすると、導電率を制御することができる。
そのため、このような多孔質酸化物半導体を固体高分子形燃料電池の触媒担体として用いると、担体の酸化腐食による触媒金属微粒子の脱落が抑制され、触媒層内における物質移動が促進され、あるいは、触媒被毒による活性低下が抑制される。
【実施例】
【0089】
(実施例1~2、比較例1)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1:連珠状メソポーラスSnO
2]
図1に、連珠状メソポーラスSnO
2の製造方法の模式図を示す。
図1に示す手順に従い、連珠状メソポーラスSnO
2を作製した。
【0090】
[1.1.1. 連珠状スターバーストシリカ(放射状細孔)の作製]
メタノール(MeOH):4.6g、及びエチレングリコール(EG):4.6gの混合溶媒に、30mass%塩化セチルトリメチルアンモニウム水溶液:56.3gを加え、室温で攪拌した。これに1M NaOH:8.8gを加え、50℃に加温した。以下、これを「第1溶液」という。
次に、MeOH:6.5g、及びEG:6.5gの混合溶媒にテトラエトキシシラン(TEOS):12.3gを溶解させた。以下、これを「第2溶液」という。
【0091】
50℃に加温された第1溶液に第2溶液を加えた。混合液が白濁した後、加温を停止し、さらに4時間以上攪拌した。ろ過と精製水への再分散とを2回繰り返した後、45℃で乾燥させた。さらに、乾燥粉を大気中、550℃×6h焼成し、放射状細孔を有する1次粒子が数珠状に連結しているメソポーラスシリカ(以下、「連珠状スターバーストシリカ(CSS、Connected Starburst Silica)」ともいう)を得た。
【0092】
[1.1.2. 連珠状スターバーストカーボン(放射状細孔)の作製]
PFA製容器にCSS:0.5gを入れ、フルフリルアルコール(FA)をCSSの細孔容量分だけ加えて、CSSの細孔内に浸透させた。これを150℃×24h熱処理することにより、FAを重合させた。さらに、これを窒素雰囲気中で500℃×6h熱処理し、FAの炭化を進めた。これを2回繰り返した後、さらに窒素雰囲気中で900℃×6h熱処理して、CSS/カーボン複合体を得た。
【0093】
この複合体を12%HF溶液に4h浸漬し、シリカ成分を溶解した。溶解後、ろ過、洗浄を繰り返し、さらに45℃で乾燥して、放射状細孔を有する1次粒子が数珠状に連結しているメソポーラスカーボン(以下、「連珠状スターバーストカーボン(CSC、Connected Starburst Carbon)」ともいう)を得た。得られた多孔体は、BET比表面積:2122m2/g、細孔容量:1.3mL/g、細孔径:2.2nmであった。
【0094】
[1.1.3. 連珠状メソポーラスシリカ(ランダム細孔)の作製]
MeOH:5.7g、及びEG:5.7gの混合溶媒に、30mass%塩化セチルトリメチルアンモニウム水溶液:56.3gを加え、室温で攪拌した。これに1M NaOH:6.5gを加え、50℃に加温した。以下、これを「第1溶液」という。
次に、MeOH:6.5g、及びEG:6.5gの混合溶媒にTEOS:12.3gを溶解させた。以下、これを「第2溶液」という。
【0095】
50℃に加温された第1溶液に第2溶液を加えた。混合液が白濁した後、加温を停止し、さらに4時間以上攪拌した。ろ過と精製水への再分散とを2回繰り返した後、45℃で乾燥することで、白色粉末を得た。
次に、0.5M H2SO4:120mLに、白色粉末:6gを超音波処理によって分散させ、攪拌した。この分散液をオートクレーブに入れ、130℃×72h水熱処理した。生成物のろ過とエタノール(EtOH)への再分散とを2回繰り返した後、45℃で乾燥させた。さらに、乾燥粉を大気中、550℃×6h焼成し、ランダム細孔を有する1次粒子が数珠状に連結しているメソポーラスシリカ(以下、「連珠状メソポーラスシリカ(CMS、Connected Mesoporous Silica)」ともいう)を得た。
【0096】
[1.1.4. 連珠状メソポーラスカーボン(ランダム細孔)の作製]
PFA製容器にCMS:0.5gを入れ、FAをCMSの細孔容量分だけ加えて、CMSの細孔内に浸透させた。これを150℃×24h熱処理することにより、FAを重合させた。さらに、これを窒素雰囲気中において500℃×6h熱処理し、FAの炭化を進めた。これを2回繰り返した後、さらに窒素雰囲気中でにおいて900℃×6h熱処理して、CMS/カーボン複合体を得た。
【0097】
この複合体を12%HF溶液に4h浸漬し、シリカ成分を溶解した。溶解後、ろ過、洗浄を繰り返し、さらに45℃で乾燥して、ランダム細孔を有する1次粒子が数珠状に連結しているメソポーラスカーボン(以下、「連珠状メソポーラスカーボン(CMC、Connected Mesoporous Carbon)」ともいう)を得た。得られた多孔体は、BET比表面積:1740m2/g、細孔容量:1.5mL/g、細孔径:2.9nmであった。
【0098】
[1.1.5. 連珠状メソポーラスSnO2の作製]
500mLのビーカーに、精製水:250mL、濃塩酸(35mass%):4mL、及びSnCl2:5.0gを含む混合溶液を入れた。この混合溶液に、鋳型カーボン(CSC、又はCMC):0.1gを分散させ、4h空気中で攪拌した。ろ過と精製水への再分散とを2回繰り返した後、45℃で乾燥し、連珠状SnO2/カーボン複合体を得た。さらに、複合体を空気雰囲気中において、280℃、300℃、320℃、又は350℃で24h処理し、連珠状メソポーラスSnO2(CMTO、Connected Mesoporous Tin Oxide)を得た。
【0099】
[1.2. 実施例2:連珠状メソポーラスNb-SnO2]
[1.2.1. 連珠状スターバーストカーボン(放射状細孔)の作製]
実施例1と同様にして、連珠状スターバーストカーボン(放射状細孔、CSC、Connected Starburst Carbon)を作製した。
【0100】
[1.2.2. 連珠状メソポーラスNb-SnO2の作製]
500mLのビーカーに、精製水:250mL、濃塩酸(35mass%):4mL、SnCl2:5.0g、及び、NbCl2:0.074gを含む混合溶液を入れた。この混合溶液に、CSC:0.1gを分散させ、4h空気中で攪拌した。ろ過と精製水への再分散とを2回繰り返した後、45℃で乾燥し、連珠状Nb-SnO2/カーボン複合体を得た。さらに、複合体を空気雰囲気中において、300℃×24h処理した。最後に、Ar雰囲気中において、500℃、600℃、又は700℃で1h処理することで、連珠状メソポーラスNb-SnO2(CMNbTO、Connected Mesoporous Nb-doped Tin Oxide)を得た。
【0101】
[1.3. 比較例1]
市販のSnO2粒子(富士フイルム和光純薬(株)製)をそのまま試験に供した。
【0102】
[2. 試験方法]
[2.1. SEM観察]
得られた粒子のSEM観察を行った。
[2.2. N2吸着測定]
得られた粒子の窒素吸着等温線を測定した。得られた窒素吸着等温線から、これらの細孔径、細孔容量、及びBET比表面積を求めた。
【0103】
[2.3. 導電率]
試料粉末の圧粉体を作製し、これに2.4MPaの圧力をかけた状態で一定の電流を流し、そのときの電圧を測定することにより、導電率を得た。
[2.4. タップ密度]
JIS Z 2512に準拠して、得られた粒子のタップ密度を測定した。
【0104】
[3. 結果]
[3.1. SEM観察]
図2に、連珠
状スターバーストカーボン(CSC)のSEM像(二次電子像)を示す。
図3に、連珠状メソポーラスSnO
2(CMTO)のSEM像(二次電子像)を示す。
図2及び
図3より、CSC及びCMTOのいずれも、直径100nm程度の一次粒子が連なった構造を呈していることが分かる。
【0105】
[3.2. N
2吸着測定]
[3.2.1. CMTOの細孔径分布、及びモード細孔径]
図4に、連珠状メソポーラスSnO
2(CMTO)の細孔径分布を示す。
図5に、連珠状メソポーラスSnO
2(CMTO)のモード細孔径を示す。
図4及び
図5中、「CSC」及び「CMC」は、CMTOの製造に用いた鋳型カーボンの種類を表し、「280℃」等は、連珠状SnO
2/カーボン複合体の焼成温度(鋳型カーボンの除去温度)を表す。
【0106】
図4及び
図5より、鋳型カーボンの種類(CSC又はCMC)、及び焼成温度(280~350℃)によって、細孔径が3.5~8.7nmの範囲で変化することが分かる。鋳型カーボンとしてCMCよりもCSCを用いた時の方が細孔径が小さくなった。また、焼成温度が低いほど、細孔径が小さくなった。但し、焼成温度が低すぎると、鋳型カーボンを完全に除去することができなかった。
【0107】
[3.2.2. CMNbTOの細孔径分布、及びモード細孔径]
図6に、連珠状メソポーラスNb-SnO
2(CMNbTO)の細孔径分布を示す。
図7に、連珠状メソポーラスNb-SnO
2(CMNbTO)のモード細孔径を示す。
図6及び
図7中、「500℃」等は、鋳型カーボン除去後の熱処理温度を表す。
【0108】
Ar雰囲気中での熱処理前の細孔径は、5.0nmであった。一方、500℃、600℃、又は700℃での熱処理後の細孔径は、それぞれ、6.7nm、12.6nm、又は9.8nmに拡大した。また、700℃熱処理後には細孔容量が著しく減少したことから、メソ細孔そのものが減少していることが示唆された。
【0109】
[3.2.3. 比表面積]
図8に、連珠状メソポーラスSnO
2(CMTO)及び連珠状メソポーラスNb-SnO
2(CMNbTO)のBET比表面積と細孔径との関係を示す。
BET比表面積が大きいほど、細孔径が小さくなる傾向が見られた。この傾向に、SnO
2とNb-SnO
2との間で顕著な差は認められなかった。SnO
2の場合、鋳型にCSCを用いて280℃で焼成したものが、最もBET比表面積が大きく,その値は176m
2/gであった。一方、Nb-SnO
2の場合、Ar雰囲気での熱処理を行う前のBET比表面積が200m
2/gであるのに対し、500℃で熱処理した後のBET比表面積は132m
2/gであった。
【0110】
[3.3. 導電率]
図9に、連珠状メソポーラスSnO
2(CMTO)及び連珠状メソポーラスNb-SnO
2(CMNbTO)のBET比表面積と導電率との関係を示す。
導電率については、BET比表面積が大きいほど、導電率が低くなる傾向が見られた。SnO
2の場合、導電率が最も高いもので1.9×10
-2S/cmであり、最も低いもので5.0×10
-5S/cmであった。一方、Nb-SnO
2の場合、Ar雰囲気での熱処理を行う前は導電率が6.2×10
-6S/cmと低いのに対し、熱処理後には4.8×10
-5S/cm以上に上昇した。これらの圧粉体の導電率は、非特許文献3に報告されている値と同等以上であった。
【0111】
[3.4. タップ密度]
表1に、CMTO(実施例1)と市販のSnO2粒子(比較例1)のタップ密度を示す。なお、表1のCMTOは、CSCを鋳型とし、300℃で焼成したものである。また、表1には、BET比表面積及び細孔容量も併せて示した。CMTOのタップ密度は、市販のSnO2粒子のそれの1/3であった。
【0112】
【0113】
(実施例3~6)
[1. 試料の作製]
[1.1. 連珠状スターバーストシリカ(放射状細孔)の作製]
実施例1と同様にして、連珠状スターバーストシリカ(放射状細孔、CSS、Connected Starburst Silica)を作製した。
【0114】
[1.2. 連珠状スターバーストカーボン(放射状細孔)の作製]
FAの重合条件を150℃×18hとした以外は、実施例1と同様にして、連珠状スターバーストカーボン(放射状細孔、CSC、Connected Starburst Carbon)を得た。得られた多孔体は、BET比表面積:2122m2/g、細孔容量:1.3mL/g、細孔径:2.2nmであった。
【0115】
[1.3. 連珠状メソポーラスM-SnO
2の作製]
図10に、連珠状メソポーラスM-SnO
2の製造方法の模式図を示す。
図10に示す手順に従い、連珠状メソポーラスM-SnO
2を作製した。
【0116】
[1.3.1. 実施例3:連珠状メソポーラスSb-SnO2]
濃塩酸(35mass%):4mLにSbCl3:0.03gを溶解し、精製水:36mLを加えて希釈した後、さらにSnCl2:5.0gを溶解させた。この溶液にCSC:0.1gを加えて分散させ、2h空気中で攪拌した。その後、精製水:200mLを追加して、さらに4h空気中で攪拌した。続いて、ろ過と精製水への再分散とを2回繰り返した後、45℃で乾燥し、連珠状Sb-SnO2/カーボン複合体を得た。
【0117】
この連珠状Sb-SnO2/カーボン複合体を空気雰囲気中で300℃×24h処理し、連珠状メソポーラスSb-SnO2(CMSbTO、300℃熱処理品)を得た。さらに、300℃で熱処理されたCMSbTOを空気雰囲気中で500℃×3h処理し、連珠状メソポーラスSb-SnO2(CMSbTO、500℃熱処理品)を得た
【0118】
[1.3.2. 実施例4:連珠状メソポーラスNb-SnO2]
精製水:250mL、濃塩酸(35mass%):4mL、SnCl2:5.0g、及び、NbCl2:0.074gを含む混合溶液を作製した。この混合溶液に、CSC:0.1gを分散させ、4h空気中室温で攪拌した。続いて、ろ過と精製水への再分散とを2回繰り返した後、45℃で乾燥し、連珠状Nb-SnO2/カーボン複合体を得た。
【0119】
この連珠状Nb-SnO2/カーボン複合体を空気雰囲気中で300℃×24h処理し、連珠状メソポーラスNb-SnO2(CMNbTO、300℃熱処理品)を得た。さらに、300℃で熱処理されたCMNbTOを空気雰囲気中で500℃×3h処理し、連珠状メソポーラスNb-SnO2(CMNbTO、500℃熱処理品)を得た。
【0120】
[1.3.3. 実施例5:連珠状メソポーラスTa-SnO2]
精製水:250mL、濃塩酸(35mass%):4mL、SnCl2:5.0g、及び、TaCl5:0.1gを含む混合溶液を作製した。この混合溶液に、CSC:0.1gを分散させ、4h空気中室温で攪拌した。続いて、ろ過と精製水への再分散とを2回繰り返した後、45℃で乾燥し、連珠状Ta-SnO2/カーボン複合体を得た。
【0121】
この連珠状Ta-SnO2/カーボン複合体を空気雰囲気中で300℃×24h処理し、連珠状メソポーラスTa-SnO2(CMTaTO、300℃熱処理品)を得た。さらに、300℃で熱処理されたCMTaTOを空気雰囲気中で500℃×3h処理し、連珠状メソポーラスTa-SnO2(CMTaTO、500℃熱処理品)を得た。
【0122】
[1.3.4. 実施例6:連珠状メソポーラスW-SnO2]
濃塩酸(35mass%):4mLにWCl6:0.052gを溶解し、精製水:3mLを加えて希釈した後、さらにSnCl2:5.0gを溶解させた。この溶液にCSC:0.1gを加えて分散させ、2h空気中室温で攪拌した。その後、精製水:240mLを追加して、さらに4h空気中で攪拌した。続いて、ろ過と精製水への再分散とを2回繰り返した後、45℃で乾燥し、連珠状W-SnO2/カーボン複合体を得た。
【0123】
この連珠状W-SnO2/カーボン複合体を空気雰囲気中で300℃×24h処理し、連珠状メソポーラスW-SnO2(CMWTO、300℃熱処理品)を得た。さらに、300℃で熱処理されたCMWTOを空気雰囲気中で500℃×3h処理し、連珠状メソポーラスW-SnO2(CMWTO、500℃熱処理品)を得た。
【0124】
[2. 試験方法]
[2.1. SEM観察]
連珠状メソポーラスM-SnO2(M=Sb、Nb、Ta、又はW)のSEM観察を行った。
[2.2. XRD測定]
連珠状メソポーラスM-SnO2(M=Sb、Nb、Ta、又はW)のXRD測定を行った。XRDパターンのピーク幅から、シェラーの式を用いて結晶子径を見積もった。
【0125】
[2.3. N2吸着測定]
連珠状メソポーラスM-SnO2(M=Sb、Nb、Ta、又はW)のN2吸着測定を行った。N2吸着等温線からBJH法により細孔径分布を求め、モード細孔径(細孔径の最頻値)をその試料の細孔径とした。
[2.4. 導電率測定]
実施例1と同様にして、連珠状メソポーラスM-SnO2(M=Sb、Nb、Ta、又はW)の導電率を測定した。
【0126】
[3. 結果]
[3.1. SEM観察]
図11に、連珠状メソポーラスSb-SnO
2(CMSbTO)(300℃熱処理品)のSEM像を示す。
図12に、連珠状メソポーラ
スSb-SnO
2(CMSbTO)(500℃熱処理品)のSEM像を示す。
図11及び
図12より、直径100nm程度の多孔質のSb-SnO
2粒子が数珠状に連なった構造が認められる。
【0127】
[3.2. XRD測定]
図13に、連珠状メソポーラスM-SnO
2(300℃熱処理品)のXRDパターンを示す。
図14に、連珠状メソポーラスM-SnO
2(500℃熱処理品)のXRDパターンを示す。300℃熱処理品及び500℃熱処理品ともに、いずれの元素をドープした場合も、SnO
2(ルチル型構造)に帰属されるピークのみが見られ、その他の酸化物由来のピークは見られなかった。このことから、いずれの元素をドープした場合にも、ドープ元素はSnO
2に固溶しているものと考えられる。
【0128】
[3.3. N
2吸着測定及び導電率測定]
表2に、連珠状メソポーラスM-SnO
2の物性値をまとめて示す。また、
図15に、連珠状メソポーラスM-SnO
2のBET比表面積と細孔径との関係を示す。
図16に、連珠状メソポーラスM-SnO
2のBET比表面積と導電率との関係を示す。表2、及び、
図15~
図16より、以下のことが分かる。
【0129】
(1)300℃熱処理品のBET比表面積及び細孔径はドープ元素による差が小さく、BET比表面積は173~215m
2/g、細孔径は3.9~4.7nmであった。他方、500℃熱処理品のBET比表面積及び細孔径はドープ元素によって大きく異なった。
TaをドープしたCMTaTOの500℃熱処理品のBET比表面積及び細孔径は、それぞれ、150m
2/g及び5.7nmであった。一方、SbをドープしたCMSbTOの500℃熱処理品のBET比表面積及び細孔径は、それぞれ、64m
2/g及び12.5nmであった。
いずれにせよ、熱処理温度が高いほどBET比表面積は小さくなり、細孔径は大きくなった。また、BET比表面積と細孔径との間には、ドープ元素によらず一定の相関が認められた(
図15)。
【0130】
(2)300℃熱処理品の導電率については、CMNbTO、CMTaTO、及びCMWTOは、いずれも10
-6S/cmオーダーであった。一方、CMSbTOは、1.6×10
-3S/cmであった。このCMSbTOの導電率は、例えば、非特許文献2に報告されているNb-SnO
2粒子の導電率よりも1桁高かった。
CMNbTO、CMTaTO、及びCMWTOの500℃熱処理品の導電率は、300℃熱処理品の導電率よりもそれぞれ1桁程度高くなった。しかし、これらの500℃処理品の導電率は、CMSbTOの300℃熱処理品のそれには及ばなかった(
図16)。
このことから、Sbをドープし、低温で焼成した場合に、5nm程度の細孔を有し、比表面積が高く(150m
2/g以上)、かつ、導電率が高い(1×10
-3S/cm以上)のものが得られることが分かった。
【0131】
【0132】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明に係る多孔質酸化物半導体粒子は、固体高分子形燃料電池の空気極触媒層の触媒担体、あるいは、燃料極触媒層の触媒担体として用いることができる。