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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】車両用フレーム部材
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
B62D25/20 C
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020206320
(22)【出願日】2020-12-11
(65)【公開番号】P2022093181
(43)【公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】濱岡 由典
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-138450(JP,A)
【文献】特開平11-208392(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0119682(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102016210580(DE,A1)
【文献】国際公開第2020/017647(WO,A1)
【文献】特開2010-125858(JP,A)
【文献】特開2016-094115(JP,A)
【文献】特開2015-217898(JP,A)
【文献】特開2013-044407(JP,A)
【文献】特開2002-120754(JP,A)
【文献】特開2006-168456(JP,A)
【文献】国際公開第2019/198673(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第2236395(EP,A1)
【文献】中国特許出願公開第111980084(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の本体部と、
前記本体部の先端部に配置される蓋部とを備え、
前記本体部の断面形状は多角形状であり、
前記本体部は周方向に隣り合う複数の壁部を有し、
前記蓋部は、
前記本体部の先端部を覆う多角形状の蓋面と、
前記蓋面の周縁から突出する複数の接合片とを有し、
前記複数の接合片のうち、隣り合う少なくとも一組の接合片は、第一の接合片と第二の接合片とを含み、
前記第一の接合片は、前記複数の壁部のうち、隣り合う一方の壁部の外側に接合され、
前記第二の接合片は、前記複数の壁部のうち、隣り合う他方の壁部の内側に接合される、
車両用フレーム部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車体を構成する車両用フレーム部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、車体を構成するフロントサイドメンバの先端部の構造を開示する。このフロントサイドメンバの前後方向に直交する断面形状は矩形状である。このフロントサイドメンバの前端には、クラッシュボックスがフランジを介して連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-207619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、フロントサイドメンバやクラッシュボックスなどの車両用フレーム部材は筒状の部材である。以下、車両用フレーム部材を、単に「フレーム部材」という場合がある。フレーム部材の先端部には、他の部品を取り付けたり、フレーム部材の内部への水の浸入を防止したりするなどの目的で、蓋部が設けられている。
【0005】
自動車の車体は、衝突時の荷重の大部分をフレーム部材の変形によって吸収するように設計されている。衝突荷重を効果的に吸収する観点から、フレーム部材の座屈を適切にコントロールすることが望まれる。フレーム部材の先端側から衝突荷重が入力されたとき、フレーム部材の先端部が蛇腹状に座屈することで、衝突荷重を効果的に吸収できる。
【0006】
フレーム部材の蓋部の取付構造として、特許文献1に記載のクラッシュボックスのように、フレーム部材の先端部と蓋部のそれぞれが全周にわたって張り出すフランジを有し、互いのフランジ同士を接合する構造が挙げられる。このようなフランジによる接合構造では、フレーム部材の先端側から衝突荷重が入力されたとき、フレーム部材の先端部と蓋部との接合部位において、フレーム部材の先端部の全周が凹むように座屈する。この場合、フレーム部材の断面の周長が短くなる、即ち、断面の周長の変化が大きくなる。フレーム部材の内部には、フレーム部材の断面の周長が変化しようとする力に抵抗する内力が生じる。フレーム部材の断面の周長の変化が大きいほど、周長の変化に対する内力も大きくなるため、フレーム部材の先端側から座屈が連続的に生じ難い。よって、フレーム部材の先端部を蛇腹状に座屈させることが困難である。また、フレーム部材の断面の周長が短くなると、フレーム部材の断面が潰れるため、フレーム部材が折れ曲がるように変形し易くなる。折れ曲がり変形は、座屈変形に比べて、衝突荷重の吸収量が小さい。
【0007】
フレーム部材の座屈を誘導するために、フレーム部材の先端部にビードなどの脆弱部を形成した場合、フレーム部材の剛性が低下するという問題もある。
【0008】
本発明の目的の一つは、衝突荷重を効果的に吸収できる車両用フレーム部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る車両用フレーム部材は、
筒状の本体部と、
前記本体部の先端部に配置される蓋部とを備え、
前記本体部の断面形状は多角形状であり、
前記本体部は周方向に隣り合う複数の壁部を有し、
前記蓋部は、
前記本体部の先端部を覆う多角形状の蓋面と、
前記蓋面の周縁から突出する複数の接合片とを有し、
前記複数の接合片のうち、隣り合う少なくとも一組の接合片は、第一の接合片と第二の接合片とを含み、
前記第一の接合片は、前記複数の壁部のうち、隣り合う一方の壁部の外側に接合され、
前記第二の接合片は、前記複数の壁部のうち、隣り合う他方の壁部の内側に接合される。
【発明の効果】
【0010】
上記の車両用フレーム部材は、蓋部が配置される先端側から衝突荷重が入力されたとき、本体部の先端部が蛇腹状に座屈し易いことから、衝突荷重を効果的に吸収できる。
【0011】
本体部の先端部が蛇腹状に座屈する理由は次のとおりである。蓋部の第一の接合片は本体部の隣り合う一方の壁部の外側に接合されると共に、蓋部の第二の接合片は隣り合う他方の壁部の内側に接合されている。フレーム部材の先端側から衝突荷重が入力されると、第一の接合片の接合位置は壁部の外側であるため、この壁部には外側から内側に向かって力が作用する。そのため、第一の接合片が接合される壁部の変形モードは内側に凹む変形モードとなる。一方で、第二の接合片の接合位置は壁部の内側であるため、この壁部には内側から外側に向かって力が作用する。そのため、第二の接合片が接合される壁部の変形モードは外側に膨らむ変形モードとなる。つまり、本体部と蓋部との接合部位において、本体部の隣り合う一方の壁部が凹変形すると共に、他方の壁部が凸変形する。その結果、本体部の断面の周長の変化が小さくなる。本体部の断面の周長の変化に抵抗する内力が小さくなることから、本体部の先端側から座屈が連続的に生じ易い。また、本体部の断面の周長の変化が小さく、本体部の断面の周長がある程度維持されることから、本体部が折れ曲がるように変形し難くなる。したがって、本体部の先端部が蛇腹状に座屈し易い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態1に係る車両用フレーム部材の一例を示す概略斜視図である。
図2図2は、実施形態1に係る車両用フレーム部材を図1のII-II線で切断した概略断面図である。
図3図3は、実施形態1に係る車両用フレーム部材を図2のIII-III線で切断した概略断面図である。
図4図4は、実施形態1に係る車両用フレーム部材を図2のIV-IV線で切断した概略断面図である。
図5図5は、実施形態1に係る車両用フレーム部材の変形例を示す概略説明図である。
図6図6は、実施形態1に係る車両用フレーム部材の変形例を示す概略断面図である。
図7図7は、実施形態2に係る車両用フレーム部材の一例を示す概略斜視図である。
図8図8は、実施形態2に係る車両用フレーム部材を図7のVIII-VIII線で切断した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係るフレーム部材の具体例を、図面を参照して説明する。各図において、同一又は相当する部分には同じ符号を付している。図中、「FR」は車両の前方、「RR」は車両の後方、「LH」は車両の左方、「RH」は車両の右方、「UP」は車両の上方、「LWR」は車両の下方を示す。以下、単に、前方、後方などと呼ぶ。前後方向は車長方向に相当する。左右方向は車幅方向に相当する。車幅方向において、車両の中心側を車内側「IN」、その逆側を車外側「OUT」とする。
【0014】
[実施形態1]
図1から図4を参照して、実施形態1に係るフレーム部材1を説明する。実施形態1では、フレーム部材1をフロントサイドメンバに適用した例を説明する。フレーム部材1は、図1に示すように、本体部10と蓋部30とを備える。フレーム部材1の特徴の一つは、本体部10に対する蓋部30の取付構造が特定の構造を有する点にある。
以下、まず、フロントサイドメンバの概要を説明する。その後、フロントサイドメンバとしてのフレーム部材1について説明する。
【0015】
<フロントサイドメンバ>
フロントサイドメンバは、車体の前部を構成するフレーム部材である。フロントサイドメンバは車体の左右両側に配置される。フロントサイドメンバは車長方向に沿って延びる。左右のフロントサイドメンバは、概ね左右対称に構成されている。フロントサイドメンバの前端部には、例えば牽引フックやバンパーレインフォースメントなどの他の部品が取り付けられることがある。
【0016】
<フレーム部材>
図1は、フレーム部材1の先端部の近傍を拡大して示している。図1に示すフレーム部材1はフロントサイドメンバである。図1では、車両右側のフロントサイドメンバを示す。この点は、後述する図2図3図4でも同じである。フレーム部材1は、本体部10の先端部に蓋部30が設けられている。フロントサイドメンバであるフレーム部材1において、上記先端部は、車両前方側に位置する端部、即ち前端部である。フレーム部材1の長手方向は概ね車長方向に沿った方向である。
【0017】
(本体部)
本体部10は、フレーム部材1のうち、構造材として機能する筒状の部分である。図2は、フレーム部材1の先端部を長手方向と直交する方向に切断した断面、即ちフレーム部材1の先端部を前後に分断した断面を示している。本体部10は、フレーム部材1の長手方向に沿って延びている。本体部10の先端部は開口している。本体部10の断面形状は多角形状である。多角形状としては、例えば、四角形状、五角形状、六角形状、八角形状などが挙げられる。四角形状には、矩形状、台形状、菱形状、平行四辺形状などが含まれる。本体部10の断面形状は偶数多角形状であることが好ましい。偶数多角形状とは、辺の数が偶数の多角形である。本実施形態では、本体部10の形状は四角筒状である。本体部10の断面形状は矩形状である。ここでいう断面形状は、本体部10の長手方向と直交する断面の形状を指す。本体部10の断面形状は本体部10の全長にわたって矩形状である。
【0018】
〈壁部〉
本体部10は、周方向に隣り合う複数の壁部20を備える。本実施形態では、図2に示すように、本体部10は4つの壁部20を有している。各壁部20は、本体部10の上下左右にそれぞれ配置されている。4つの壁部20のうち、上側に位置する壁部21は本体部10の上面を構成する。車内側に位置する壁部22は本体部10の車内側の側面を構成する。下側に位置する壁部23は本体部10の下面を構成する。車外側に位置する壁部24は本体部10の車外側の側面を構成する。壁部21と壁部23とは向かい合う。壁部22と壁部24とは向かい合う。壁部21と各壁部22、24とは互いに隣り合う。壁部23と各壁部22、24とは互いに隣り合う。図2に示すフレーム部材1において、車内側は車両の左側であり、車外側は車両の右側である。
【0019】
本実施形態では、本体部10は、第一部材11と第二部材12とを組み合わせて構成される。第一部材11は壁部24を含む部材である。第一部材11は、壁部24から上下方向に延長された延長部24fを含む。第一部材11の形状は平板状である。第二部材12は壁部21、22、23を含む部材である。第二部材12の断面形状は](スクエアブラケット)状である。第二部材12は、壁部22と向かい合う側が開口している。壁部21、22、23は一体に形成されている。第二部材12はプレス加工された板材で形成されている。
【0020】
第一部材11と第二部材12とは接合される。本実施形態では、第二部材12の壁部21及び壁部23はフランジ部21f、23fを含む。各フランジ部21f、23fはそれぞれ、各壁部21、23の第一部材11側の端部に形成されている。各フランジ部21f、23fは壁部24の上下に設けられた延長部24fと向かい合う。各壁部21、23のフランジ部21f、23fと壁部24の延長部24fとが接合されることで、第一部材11と第二部材12とが接合される。第一部材11と第二部材12との接合は、例えば、溶接、リベット接合、ボルト接合などの接合手段により行われる。本実施形態では、第一部材11と第二部材12とが溶接されている。溶接には、例えば、スポット溶接、アーク溶接、レーザー溶接などが利用できる。
【0021】
第一部材11の材質、及びと第二部材12の材質は、適宜選択することができる。第一部材11の材質、及びと第二部材12の材質は、例えば、一般構造用の普通鋼、高張力鋼などの鋼が挙げられる。
【0022】
(蓋部)
蓋部30は、図1に示すように、本体部10の先端部、即ち前端部に配置される。蓋部30は、蓋面31と複数の接合片40とを有する。蓋面31と接合片40とは一体に形成されている。蓋部30はプレス加工された板材で形成されている。蓋部30の材質は、例えば、一般構造用の普通鋼、高張力鋼などの鋼が挙げられる。本実施形態では、本体部10と蓋部30とは別体である。
【0023】
〈蓋面〉
蓋面31は、本体部10の先端部を覆う。蓋面31の形状は多角形状である。蓋面31の形状とは、蓋面31をフレーム部材1の先端側から見た形状をいう。蓋面31の形状は偶数多角形状であることが好ましい。本実施形態では、蓋面31の形状は矩形状である。即ち、蓋面31の形状と本体部10の断面形状とが同じである。蓋面31には、例えば牽引フックやバンパーレインフォースメントなどの他の部品を取り付けることができる。
【0024】
蓋面31の周縁31rは多角形を構成する複数の辺を有する。本実施形態では、周縁31rは、4つの辺31a、31b、31c、31dを有している。辺31aは上側に位置する上辺である。辺31bは車内側に位置する辺である。辺31cは下側に位置する下辺である。辺31dは車外側に位置する辺である。辺31aと辺31cとは向かい合う。辺31bと辺31dとは向かい合う。
【0025】
〈接合片〉
複数の接合片40は、本体部10の壁部20に接合される。複数の接合片40は、蓋面31の周縁31rから突出する。本実施形態では、各接合片40は、周縁31rの各辺31a、31b、31c、31dから本体部10に向かってそれぞれ突出している。つまり、接合片40の数は4つである。隣り合う接合片40の間には切り込みが形成されている。切り込みが形成されている部分では、隣り合う接合片40同士は周方向に連続していない。各辺31a、31b、31c、31dから突出する各接合片40は、図2に示すように、各壁部21、22、23、24にそれぞれ接合されている。本実施形態では、接合片40が壁部20に溶接されている。溶接には、例えば、アーク溶接、レーザー溶接などが利用できる。
【0026】
本体部10の断面形状が四角形状である場合、対向する2辺から突出する接合片40が壁部20の外側に接合されており、かつ、別の対向する2辺から突出する接合片40が内側に接合されていることが好ましい。
【0027】
複数の接合片40のうち、隣り合う少なくとも一組の接合片40は、第一の接合片41と第二の接合片42とを含む。第一の接合片41は、本体部10の複数の壁部20のうち、隣り合う一方の壁部20の外側に接合される。第二の接合片42は、隣り合う他方の壁部20の内側に接合される。本実施形態では、上下の各辺31a、31cから突出する各接合片40がそれぞれ、上下の各壁部21、23の外側に接合されている。また、左右の各辺31b、31dから突出する各接合片40がそれぞれ、左右の各壁部22、24の内側に接合されている。つまり、各辺31a、31cから突出する各接合片40は第一の接合片41である。各辺31b、31dから突出する各接合片40は第二の接合片42である。例えば辺31a、31bの各々から突出する隣り合う接合片40の組において、辺31aから突出する接合片40は、隣り合う壁部21、22のうち、壁部21の外側に接合されている。そして、辺31bから突出する接合片40は壁部22の内側に接合されている。本実施形態では、隣り合う接合片40の全ての組において、第一の接合片41と第二の接合片42との組み合わせを有している。
【0028】
本実施形態では、各辺31a、31cから突出する各接合片40、即ち第一の接合片41は、各壁部21、23の外側に重なり合うように形成されている。第一の接合片41は、壁部21、23の各々の外側の面に溶接されている。各辺31b、31dから突出する各接合片40、即ち第二の接合片42は、各壁部22、24の内側に重なり合うように形成されている。第二の接合片42は、壁部22、24の各々の内側の面に溶接されている。
【0029】
(衝突時の挙動)
フレーム部材1は、本体部10に対する蓋部30の取付構造が上述した特定の構造を有することで、車両の前面衝突時に本体部10の先端部が蛇腹状に座屈し易い。図3図4を参照して、フレーム部材1の衝突時の挙動を説明する。具体的には、前面衝突によりフレーム部材1の先端側から荷重が入力されたときのフレーム部材1の先端部の挙動を説明する。図3は、フレーム部材1を長手方向に沿って切断した断面であって、フレーム部材1の先端部を上下方向に切断した断面を示している。図4は、フレーム部材1を長手方向に沿って切断した断面であって、フレーム部材1の先端部を左右方向に切断した断面を示している。図3図4中、白抜き矢印は衝突荷重の入力方向を示す。
【0030】
フレーム部材1の先端側から衝突荷重が入力されると、フレーム部材1の先端部は圧縮荷重を受ける。その際、第一の接合片41が接合される上下の各壁部21、23には、図3の黒塗り矢印で示すように外側から内側に向かって力が作用する。これは、第一の接合片41の接合位置が各壁部21、23の外側であるためである。よって、各壁部21、23の変形モードは内側に凹む変形モードとなる。一方で、第二の接合片42が接合される左右の各壁部22、24には、図4の黒塗り矢印で示すように内側から外側に向かって力が作用する。これは、第二の接合片42の接合位置が各壁部22、24の内側であるためである。よって、各壁部22、24の変形モードは外側に膨らむ変形モードとなる。つまり、本体部10と蓋部30との接合部位において、本体部10の複数の壁部20のうち、壁部21、23が凹変形すると共に、壁部22、24が凸変形する。換言すれば、隣り合う壁部20の組において、隣り合う一方の壁部20である壁部21、23が凹変形すると共に、他方の壁部20である壁部22、24が凸変形する。その結果、衝突時における本体部10の断面の周長の変化が小さくなる。
【0031】
本体部10の断面の周長の変化が小さいため、本体部10の断面の周長の変化に抵抗する内力が小さくなる。本体部10の内部に発生する上記内力が小さくなるので、本体部10の先端側から座屈が連続的に生じ易い。加えて、本体部10の断面の周長の変化が小さく、本体部10の断面の周長がある程度維持されるので、本体部10が折れ曲がるように変形し難い。したがって、本体部10の先端部が蛇腹状に座屈し易い。
【0032】
これに対し、例えば、蓋部30の全ての接合片40が本体部10の各壁部20の外側に接合されている場合、即ち、各接合片40が第一の接合片41である場合、衝突時における各壁部21、22、23、24の変形モードは内側に凹む変形モードとなる。つまり、本体部10と蓋部30との接合部位において、本体部10の全ての壁部20が凹変形する。その結果、本体部10の断面の周長が短くなる。本体部10の断面の周長が縮もうとする力に抵抗する内力が生じることになるため、本体部10の先端側から座屈が連続的に生じ難い。また、本体部10の断面が潰れるため、本体部10が折れ曲がるように変形し易い。したがって、全ての接合片40が各壁部20の外側に接合されている場合、本体部10の先端部が蛇腹状に座屈し難い。
【0033】
また、例えば、蓋部30の全ての接合片40が本体部10の各壁部20の内側に接合されている場合、即ち、各接合片40が第二の接合片42である場合、衝突時における各壁部21、22、23、24の変形モードは外側に膨らむ変形モードとなる。つまり、本体部10と蓋部30との接合部位において、本体部10の全ての壁部20が凸変形する。その結果、本体部10の断面の周長が長くなる。本体部10の断面の周長が伸びようとする力に抵抗する内力が生じることになるため、本体部10の先端側から座屈が連続的に生じ難い。したがって、全ての接合片40が各壁部20の内側に接合されている場合、本体部10の先端部が蛇腹状に座屈し難い。
【0034】
<作用効果>
上述した実施形態1のフレーム部材1は、次の効果を奏する。
【0035】
(主要な効果)
フレーム部材1は衝突荷重を効果的に吸収できる。その理由は、上述したように、フレーム部材1の先端側から衝突荷重が入力されたとき、本体部10の先端部が蛇腹状に座屈し易いからである。本体部10の先端部を蛇腹状に座屈させることができるので、フレーム部材1の先端部に座屈を誘導するための脆弱部を形成しなくてもよい。脆弱部によるフレーム部材1の剛性の低下を抑制できる。
【0036】
特に、本体部10の断面形状、及び蓋面31の形状が偶数多角形状であることで、隣り合う接合片40の全ての組において、第一の接合片41と第二の接合片42との組み合わせとすることが可能である。隣り合う接合片40を第一の接合片41と第二の接合片42との組み合わせとすることにより、衝突時における本体部10の断面の周長の変化がより小さくなり易い。本体部10の内部に発生する上記内力がより小さくなるため、本体部10の先端部を安定して蛇腹状に座屈させ易い。
【0037】
本体部10の断面形状、及び蓋面31の形状は、多角形状であればよく、奇数多角形状であってもよい。奇数多角形状とは、辺の数が奇数の多角形である。本体部10の断面形状、及び蓋面31の形状が奇数多角形状であっても、隣り合う少なくとも一組の接合片40は、第一の接合片41と第二の接合片42とを含むことができる。本体部10の断面形状、及び蓋面31の形状が奇数多角形状である場合、隣り合う接合片40の一組は、隣り合う壁部20の各々の外側又は内側に接合されるようにする。そして、隣り合う接合片40の残りの組において、隣り合う一方の接合片40は隣り合う一方の壁部20の外側に接合されると共に、もう一方の接合片40は隣り合う他方の壁部20の内側に接合されるようにするとよい。つまり、隣り合う接合片40の残りの組は、第一の接合片41と第二の接合片42との組み合わせとする。
【0038】
(その他の効果)
フレーム部材1の副次的な効果として、本体部10と蓋部30との接合部位において、引張荷重に対する耐久性を確保し易いという効果がある。例えば、蓋面31に取り付けられた牽引フック(図示せず)が引っ張られることによって、蓋面31が本体部10から離れる方向に引っ張られても、蓋部30が本体部10から外れ難い。
【0039】
フレーム部材1では、各接合片40、即ち第一の接合片41及び第二の接合片42は、蓋面31の周縁31rを構成する各辺31a、31b、31c、31dから本体部10に向かってそれぞれ突出している。各接合片40は、本体部10の各壁部20の外側又は内側に重ね合わされている。各接合片40と各壁部20との重ね合わせ部分が重ね溶接されている。このような重ね溶接による接合構造は、蓋面31が引っ張られたとき、各接合片40と各壁部20との重ね合わせ部分のせん断方向に引張荷重が作用する。そのため、フレーム部材1によれば、本体部10と蓋部30とが全周にわたってフランジ接合されている構造と比較して、引張荷重に対する蓋部30の接合強度を高め易い。
【0040】
本体部10と蓋部30とが全周にわたってフランジ接合されている構造とは、次のような蓋部30の取付構造である。例えば、本体部10の先端部において、各壁部20がフランジ部を含む。各壁部20のフランジ部はそれぞれ、各壁部20の先端部から外側に張り出す。また、蓋部30の各接合片40がフランジ部を含む。各接合片40のフランジ部はそれぞれ、各壁部20のフランジ部と向かい合うように、各接合片40の本体部10側の端部から外側に張り出す。そして、各壁部20と各接合片40の各々のフランジ部同士が接合される。このようなフランジによる接合構造は、蓋面31が引っ張られたとき、各壁部20と各接合片40のフランジ部同士が剥離する方向に引張荷重が作用する。そのため、上述したフランジ接合されている構造の場合、引張荷重に対する蓋部30の接合強度が低くなる傾向がある。
【0041】
[変形例]
以下、上述した実施形態1のフレーム部材1の変形例について説明する。
【0042】
図5図6を参照して、フレーム部材1の変形例の一例を説明する。図5に示す変形例のフレーム部材1は、本体部10を構成する壁部20の一部によって蓋部30が構成されている。具体的には、図5に示すように、4つの壁部20のうち、壁部24の先端から前方に延長された部分を有する。延長された部分は、蓋面31となる部分と、蓋面31の周縁31rを構成する各辺31a、31b、31c、31dから突出する各接合片40となる部分とを含む。この延長された部分を各辺31a、31b、31c、31dに沿って折り曲げることによって、蓋部30が構成される。各接合片40のうち、辺31dから突出する接合片40は、壁部24の先端部に連続する。辺31a、31cから突出する各接合片40は、各辺31a、31cに沿って折り曲げられることにより、各壁部21、23の外側に接合される。辺31bから突出する接合片40は、辺31bに沿って折り曲げらることにより、壁部22の内側に接合される。
【0043】
図6は、図4と同様に、フレーム部材1の先端部を左右方向に切断した断面を示している。図6を参照して、上述した変形例におけるフレーム部材1の衝突時の挙動を説明する。図6中、白抜き矢印は衝突荷重の入力方向を示す。変形例のように、壁部24の先端部に接合片40が連続するように接合されている場合、フレーム部材1の先端側から衝突荷重が入力されたとき、壁部24には、図6の黒塗り矢印で示すように内側から外側に向かって力が作用する。そのため、壁部24の先端部に連続する接合片40の接合位置は、壁部24の内側と同じとみなすことができる。つまり、辺31dから突出する接合片40は第二の接合片42である。辺31bから突出する接合片40は、壁部22の内側に接合される第二の接合片42である。また、辺31a、31cから突出する各接合片40は、各壁部21、23の外側に接合される第一の接合片41である。したがって、変形例のフレーム部材1は、実施形態1と同様に、本体部10と蓋部30との接合部位において、壁部21、23が凹変形すると共に、壁部22、24が凸変形する。
【0044】
その他の変形例として、壁部20の外側に接合される第一の接合片41はフランジによる接合構造としてもよい。具体的には、図3に示す実施形態1において、壁部21、23がフランジ部を含む構成とする。各壁部21、23のフランジ部はそれぞれ、各壁部21、23の先端部から外側に張り出す。また、第一の接合片41がフランジ部を含む構成とする。第一の接合片41のフランジ部はそれぞれ、各壁部21、23のフランジ部と向かい合うように、第一の接合片41の本体部10側の端部から外側に張り出す。そして、各壁部21、23と第一の接合片41の各々のフランジ部同士が接合される。
【0045】
[実施形態2]
図7図8を参照して、実施形態2に係るフレーム部材2を説明する。実施形態2のフレーム部材2は、第一の接合片41と第二の接合片42の位置を入れ替えた以外は、上述した実施形態1のフレーム部材1と同様である。以下の説明では、実施形態1との相違点を中心に説明し、実施形態1と同様の構成については説明を省略する。
【0046】
本実施形態では、上下の各辺31a、31cから突出する各接合片40がそれぞれ、上下の各壁部21、23の内側に接合されている。また、左右の各辺31b、31dから突出する各接合片40がそれぞれ、左右の各壁部22、24の外側に接合されている。つまり、各辺31a、31cから突出する各接合片40は第二の接合片42である。各辺31b、31dから突出する各接合片40は第一の接合片41である。例えば辺31a、31bの各々から突出する隣り合う接合片40の組において、辺31aから突出する接合片40は、隣り合う壁部21、22のうち、壁部21の外側に接合されている。そして、辺31bから突出する接合片40は壁部22の内側に接合されている。フレーム部材2は、実施形態1と同様に、隣り合う接合片40の全ての組において、第一の接合片41と第二の接合片42との組み合わせを有している。
【0047】
実施形態2のフレーム部材2は、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0048】
<用途>
実施形態1、2に係るフレーム部材1、2は、車体を構成するフレーム部材に利用可能である。車体を構成するフレーム部材としては、フロントサイドメンバ以外に、リアサイドメンバ、クラッシュボックス、クロスメンバなどが挙げられる。
【0049】
リアサイドメンバは、車体の後部を構成する。リアサイドメンバは車体の左右両側に配置される。リアサイドメンバは車長方向に沿って延びる。リアサイドメンバであるフレーム部材の先端部は、車両後方側に位置する端部、即ち後端部である。本発明の実施形態に係るフレーム部材をリアサイドメンバに適用した場合、後面衝突時の衝突荷重を効果的に吸収できる。
【0050】
クラッシュボックスは、フロントサイドメンバやリアサイドメンバの先端部に取り付けられる衝撃吸収部材である。クラッシュボックスは、例えば、フロントサイドメンバやリアサイドメンバの先端部とバンパーレインフォースメントとの間に配置される。本発明の実施形態に係るフレーム部材をクラッシュボックスに適用する場合、クラッシュボックスの本体部の断面形状は、クラッシュボックスが取り付けられるフロントサイドメンバやリアサイドメンバの本体部の断面形状と同じであってもよいし、異なってもよい。
【0051】
クロスメンバは、車幅方向に沿って配置される。クロスメンバであるフレーム部材の先端部は、車外側に位置する端部、即ち左右の両端部である。本発明の実施形態に係るフレーム部材をクロスメンバに適用した場合、側面衝突時の衝突荷重を効果的に吸収できる。
【0052】
本発明は、これらの例示に限定されず、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば本体部や蓋部の材質、形状などを変更することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1、2 フレーム部材
10 本体部
11 第一部材
12 第二部材
20 壁部
21、22、23、24 壁部
21f、23f フランジ部
24f 延長部
30 蓋部
31 蓋面
31r 周縁
31a、31b、31c、31d 辺
40 接合片
41 第一の接合片
42 第二の接合片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8