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  • 特許-ドライブプレート 図1
  • 特許-ドライブプレート 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】ドライブプレート
(51)【国際特許分類】
   F16H 41/24 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
F16H41/24 B
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017167915
(22)【出願日】2017-08-31
(65)【公開番号】P2019044848
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2020-05-13
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】田中 孔明
(72)【発明者】
【氏名】大窪 光秀
(72)【発明者】
【氏名】藤原 啓継
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】中屋 裕一郎
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-303370(JP,A)
【文献】特開平10-132052(JP,A)
【文献】特開2007-170596(JP,A)
【文献】特開2008-240801(JP,A)
【文献】特開2012-207759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 41/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランクシャフトとトルクコンバータとを連結する円板状のドライブプレートであって、
回転中心を取り囲む中央部に、前記クランクシャフトへの取り付けのためのクランクシャフト取付部が形成され、
前記クランクシャフト取付部よりも径方向外側の外周部に、回転軸線方向の前記クランクシャフト側に凹んだ凹状をなし、前記トルクコンバータへの取り付けのための複数のトルクコンバータ取付部が等角度間隔で形成され、
前記クランクシャフト取付部と前記外周部との間の円環部には、前記トルクコンバータ取付部と周方向に同じ位置に、前記ドライブプレートの軽量化のための肉抜き穴が形成され、
周方向に隣り合う前記トルクコンバータ取付部の中間の各位置には、前記肉抜き穴とは別の肉抜き穴が前記外周部と前記円環部とがなす段差を跨いで形成され、
外周縁部は、前記トルクコンバータ側に折り曲げられることにより扁平な円筒状をなしており、
前記トルクコンバータ取付部は、周方向に間隔を空けて平行に延びる一端縁および他端縁と、前記一端縁の回転中心側の端と前記他端縁の回転中心側の端との間で径方向と直交する方向に直線状に延びる内端縁とを有し、
前記一端縁および前記他端縁の長さは、前記一端縁と前記他端縁との間の中央の位置における前記トルクコンバータ取付部の径方向の寸法よりも小さい、ドライブプレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライブプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、自動変速機を搭載した車両では、エンジンからの動力がトルクコンバータを介して自動変速機に入力され、自動変速機で変速された動力がデファレンシャルギヤ(差動装置)などを介して駆動輪に伝達される。自動変速機としては、無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)や有段式の自動変速機(AT:Automatic Transmission)が広く知られている。
【0003】
エンジンのクランクシャフトは、自動変速機に向けて延び、その先端には、略円板状のドライブプレートの中央部が取り付けられている。ドライブプレートの外周部は、トルクコンバータに接続されている。これにより、クランクシャフトとトルクコンバータとがドライブプレートを介して連結されている。
【0004】
たとえば、エンジンの始動時には、スタータの動力がドライブプレートに入力され、その動力によりドライブプレートと一体にクランクシャフトが回転することにより、エンジンがクランキングされる。エンジンの始動後には、ドライブプレートは、エンジンからの動力をトルクコンバータに伝達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-132817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、ドライブプレートは、エンジンの振動などを吸収し、また、クランクシャフトの回転軸線とトルクコンバータの回転軸線とのずれ(軸ずれ)を吸収するよう、弾性変形により撓む必要がある。
【0007】
図3は、従来のドライブプレート101の正面図である。
【0008】
ドライブプレート101の中央部には、クランクシャフト側に一段凹んだ円形状のクランクシャフト取付部102が形成されている。クランクシャフト取付部102には、クランクシャフトにボルトで締結するための6個のクランクシャフト取付穴103が等角度間隔、つまり60°間隔で形成されている。
【0009】
ドライブプレート101の外周部104は、クランクシャフト側に一段凹んでいる。そして、外周部104には、6個のクランクシャフト取付穴103のそれぞれと周方向に同じ位置に、クランクシャフト側にさらに一段凹んだ凹状のトルクコンバータ取付部105が形成されている。各トルクコンバータ取付部105には、トルクコンバータに設けられるボス(ナット部)の先端面が当接する。各トルクコンバータ取付部105には、トルクコンバータにボルトで締結するためのトルクコンバータ取付穴106が形成されている。
【0010】
各トルクコンバータ取付部105は、周方向に間隔を空けて平行に延びる一端縁107および他端縁108と、外周部104の回転中心側の端縁よりも径方向外側に入り込んだ位置で径方向外側に凸湾曲し、両端が一端縁107および他端縁108に接続された内端縁109とを有する形状に形成されている。そのため、各トルクコンバータ取付部105の一端縁107および他端縁108が外周部104の剛性を増すリブとして働き、これがドライブプレートの弾性変形による撓みの性能を下げてしまっている。
【0011】
本発明の目的は、弾性変形による撓みの性能が向上した、ドライブプレートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するため、本発明に係るドライブプレートは、エンジンのクランクシャフトとトルクコンバータとを連結する円板状のドライブプレートであって、回転中心を取り囲む中央部に、クランクシャフトへの取り付けのためのクランクシャフト取付部が形成され、クランクシャフト取付部よりも径方向外側の外周部に、回転軸線方向の一方側に凹んだ凹状をなし、トルクコンバータへの取り付けのためのトルクコンバータ取付部が形成されており、トルクコンバータ取付部は、周方向に間隔を空けて平行に延びる一端縁および他端縁を有し、一端縁および他端縁の長さは、一端縁と他端縁との間の中央の位置におけるトルクコンバータ取付部の径方向の寸法よりも小さい。
【0013】
この構成によれば、ドライブプレートの中央部には、クランクシャフトへの取り付けのためのクランクシャフト取付部が形成されている。ドライブプレートの外周部には、トルクコンバータへの取り付けのためのトルクコンバータ取付部が形成されている。
【0014】
図3に示される構成では、トルクコンバータ取付部105の一端縁107および他端縁108の長さは、一端縁107と他端縁108との間の中央の位置におけるトルクコンバータ取付部105の径方向の寸法よりも大きい。これに対し、本発明の構成では、トルクコンバータ取付部の一端縁および他端縁の長さは、一端縁と他端縁との間の中央の位置におけるトルクコンバータ取付部の径方向の寸法よりも小さい。そのため、本発明の構成では、図3に示される構成と比較して、トルクコンバータ取付部の一端縁および他端縁がリブとして働くことによる増強が小さく、ドライブプレートの弾性変形による撓みの性能が高い。
【0015】
また、図3に示される構成では、内端縁109が径方向外側に凸湾曲しているので、クランクシャフトとトルクコンバータとの軸ずれによる荷重がトルクコンバータ取付部に加わるときに、応力波が内端縁109に沿って一端縁107側および他端縁108側に伝播しやすく、内端縁109と一端縁107および他端縁108との接続部分に応力集中が生じやすい。
【0016】
そこで、トルクコンバータ取付部は、一端縁の回転中心側の端と他端縁の回転中心側の端との間で直線状または回転中心側に凸湾曲状に延びる内端縁を有していることが好ましい。
【0017】
この構成では、クランクシャフトとトルクコンバータとの軸ずれによる荷重がトルクコンバータ取付部に加わるときに、応力波が内端縁から径方向内側に伝播し、応力波が内端縁に沿って一端縁側および他端縁側に伝播しにくいので、内端縁と一端縁および他端縁との接続部分に応力集中が生じることを抑制できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ドライブプレートの弾性変形による撓みの性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るドライブプレートの断面図であり、クランクシャフトおよびトルクコンバータをともに示す。
図2】ドライブプレートの正面図である。
図3】従来のドライブプレートの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0021】
<ドライブプレートの構成>
図1は、本発明の一実施形態に係るドライブプレート1の断面図であり、クランクシャフト2およびトルクコンバータ3をともに示す。図2は、ドライブプレート1の正面図(クランクシャフト2側から見た図)である。なお、図1では、断面を示すハッチングの付与が省略されている。
【0022】
ドライブプレート1は、自動変速機を搭載した車両に用いられて、エンジンのクランクシャフト2とトルクコンバータ3とを連結する。ドライブプレート1は、金属円板から塑性加工により形成されている。ドライブプレート1は、円板状の本体部11と、本体部11の外周を取り囲むリングギヤ12とを一体に備えている。本体部11の外周端部13は、トルクコンバータ3側に折り曲げられることにより扁平な円筒状をなしており、その外周端部13の外周面に、リングギヤ12が形成されている。
【0023】
リングギヤ12は、溶接により本体部11の外周端部13に固着されていてもよいし、外周端部13の塑性加工(転造加工)により外周端部13と一体成形されていてもよい。
【0024】
本体部11の中央部には、絞り加工により、クランクシャフト2側に一段凹んだ円形状のクランクシャフト取付部14が形成されている。クランクシャフト取付部14の中央には、円形のクランクシャフト挿通穴15が形成されている。また、クランクシャフト取付部14には、クランクシャフト挿通穴15の周囲に、6個の円形のクランクシャフト取付穴16がクランクシャフト挿通穴15と同心の同一円周上に等角度間隔、つまり60°間隔で、クランクシャフト取付部14を貫通して形成されている。
【0025】
本体部11の外周端部13に沿った円環状の外周部17は、絞り加工により、クランクシャフト2側に一段凹んでいる。そして、外周部17には、6個のクランクシャフト取付穴16のそれぞれと周方向に同じ位置に、クランクシャフト2側にさらに一段凹んだ凹状のトルクコンバータ取付部18が形成されている。各トルクコンバータ取付部18には、円形のトルクコンバータ取付穴19がトルクコンバータ取付部18を貫通して形成されている。
【0026】
トルクコンバータ取付部18は、周方向に間隔を空けて平行に延びる一端縁21および他端縁22を有している。また、トルクコンバータ取付部18は、一端縁21と他端縁22との間において、径方向と直交する方向に直線状に延びる内端縁23と、一端縁21と内端縁23とに接続され、トルクコンバータ取付部18の外側に凸湾曲する円弧状の第1円弧状端縁24と、他端縁22と内端縁23とに接続され、トルクコンバータ取付部18の外側に凸湾曲する円弧状の第2円弧状端縁25とを有している。これにより、一端縁21および他端縁22の長さLは、一端縁21と他端縁22との間の中央の位置、つまり内端縁23の中央におけるトルクコンバータ取付部18の径方向の寸法Dよりも小さい。
【0027】
周方向に隣り合うトルクコンバータ取付部18の中間の各位置には、ドライブプレート1の軽量化のための円形の第1肉抜き穴26が外周部17とその回転中心側の円環部27とがなす段差を跨いで形成されている。
【0028】
また、クランクシャフト取付部14と外周部17との間の円環部27には、周方向に同じ位置に形成されたクランクシャフト取付穴16とトルクコンバータ取付穴19との間の各位置に、長穴からなる第2肉抜き穴51が形成されている。第2肉抜き穴51は、回転中心側(径方向内側)に凸湾曲して延びる内端縁52と、内端縁52に対して径方向外側に間隔を空けた位置で直線状に延びる外端縁53と、内端縁52の一端と外端縁53の一端とに接続され、第2肉抜き穴51の外側に向かって凸湾曲する円弧状の一端縁54と、内端縁52の他端と外端縁53の他端とに接続され、第2肉抜き穴51の外側に向かって凸湾曲する円弧状の他端縁55とを有している。
【0029】
<ドライブプレートの取付>
クランクシャフト2は、略円筒状の先端部31の基端側に、その全周から径方向外側に張り出すフランジ部32を有している。フランジ部32には、ドライブプレート1の6個のクランクシャフト取付穴16とそれぞれ対応する位置に、ねじ穴33が形成されている。
【0030】
ドライブプレート1のクランクシャフト挿通穴15にクランクシャフト2の先端部31が挿通されて、ドライブプレート1のクランクシャフト取付部14にクランクシャフト2のフランジ部32が当接した状態で、ボルト34がトルクコンバータ3側からクランクシャフト取付部14を通してねじ穴33にねじ込まれることにより、ドライブプレート1がクランクシャフト2に固定される。
【0031】
トルクコンバータ3は、クランクシャフト2側の端部に、フロントカバー41を備えている。フロントカバー41のクランクシャフト2側の面には、ドライブプレート1の6個のトルクコンバータ取付穴19とそれぞれ対応する位置に、ボス42が設けられている。ボス42は、円筒状の部材の内周面にねじが切られた構成であり、溶接により、フロントカバー41に固着されている。
【0032】
ドライブプレート1のトルクコンバータ取付部18がボス42の先端面に当接した状態で、ボルト43がドライブプレート1側からトルクコンバータ取付穴19を通してボス42にねじ込まれることにより、ドライブプレート1がトルクコンバータ3に固定される。
【0033】
ドライブプレート1がクランクシャフト2およびトルクコンバータ3にそれぞれ固定された状態において、エンジンの始動時には、スタータの動力がドライブプレート1のリングギヤ12に入力されることにより、ドライブプレート1と一体にクランクシャフト2が回転して、エンジンがクランキングされる。エンジンの始動後には、ドライブプレート1は、エンジンからの動力をトルクコンバータ3に伝達する。また、ドライブプレート1は、弾性変形により撓んで、エンジンの振動などを吸収し、また、クランクシャフト2の回転軸線とトルクコンバータ3の回転軸線とのずれ(軸ずれ)を吸収する。
【0034】
<作用効果>
以上のように、ドライブプレート1の中央部には、クランクシャフト2への取り付けのためのクランクシャフト取付部14が形成されている。ドライブプレート1の外周部17には、トルクコンバータ3への取り付けのためのトルクコンバータ取付部18が形成されている。
【0035】
図3に示される構成では、トルクコンバータ取付部105の一端縁107および他端縁108の長さは、一端縁107と他端縁108との間の中央の位置におけるトルクコンバータ取付部105の径方向の寸法よりも大きい。
【0036】
これに対し、図2に示される構成では、トルクコンバータ取付部18の一端縁21および他端縁22の長さLは、一端縁21と他端縁22との間の中央の位置におけるトルクコンバータ取付部18の径方向の寸法Dよりも小さい。そのため、図2に示される構成では、図3に示される構成と比較して、トルクコンバータ取付部18の一端縁21および他端縁22がリブとして働くことによる増強が小さく、ドライブプレート1の弾性変形による撓みの性能が高い。
【0037】
また、図3に示される構成では、内端縁109が径方向外側に凸湾曲しているので、クランクシャフトとトルクコンバータとの軸ずれによる荷重がトルクコンバータ取付部18に加わるときに、応力波が内端縁109に沿って一端縁107側および他端縁108側に伝播しやすく、内端縁109と一端縁107および他端縁108との接続部分に応力集中が生じやすい。
【0038】
これに対し、トルクコンバータ取付部18は、一端縁21の回転中心側の端と他端縁22の回転中心側の端との間で直線状に延びる内端縁23を有している。
【0039】
この構成では、クランクシャフト2とトルクコンバータ3との軸ずれによる荷重がトルクコンバータ取付部18に加わるときに、応力波が内端縁23から径方向内側に伝播し、応力波が内端縁23に沿って一端縁21側および他端縁22側に伝播しにくいので、内端縁23と一端縁21との接続部分である第1円弧状端縁24の付近および内端縁23と他端縁22との接続部分である第2円弧状端縁25の付近に応力集中が生じることを抑制できる。
【0040】
そして、応力集中の緩和によりドライブプレート1の強度が増すので、その分、第1肉抜き穴26および第2肉抜き穴51のサイズを大きくして、ドライブプレート1の軽量化を図ることができる。
【0041】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0042】
たとえば、トルクコンバータ取付部18の内端縁23は、径方向と直交する方向に直線状に延びているとしたが、径方向内側に凸湾曲する円弧状に延びていてもよい。
【0043】
クランクシャフト挿通穴15の個数は、6個に限らず、任意に設定されるとよく、2~5個であってもよいし、7個以上であってもよい。ただし、クランクシャフト挿通穴15は、その個数にかかわらず、同一円周上に等角度間隔で形成されることが好ましい。
【0044】
また、トルクコンバータ取付穴19の個数についても同様に、6個に限らず、任意に設定されるとよく、2~5個であってもよいし、7個以上であってもよい。
【0045】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1:ドライブプレート
2:クランクシャフト
3:トルクコンバータ
14:クランクシャフト取付部
17:外周部
18:トルクコンバータ取付部
21:一端縁
22:他端縁
23:内端縁
D:寸法
L:長さ
図1
図2
図3