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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】医用処理装置及び放射線診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
A61B6/03 550K
A61B6/03 560J
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018240750
(22)【出願日】2018-12-25
(65)【公開番号】P2019111346
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2021-09-30
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】15/853,034
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユジエ リュウ
(72)【発明者】
【氏名】シャオホイ ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ ユウ
(72)【発明者】
【氏名】リチャード トンプソン
【合議体】
【審判長】樋口 宗彦
【審判官】伊藤 幸仙
【審判官】石井 哲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/089155(WO,A1)
【文献】特開2007-151971(JP,A)
【文献】米国特許第10593070(US,B2)
【文献】Andre Liemert, et al.,Exact and efficient solution of the radiative transport equation for the semi-infinite medium,SCIENTIFIC REPORTS,2013年,pp.1-7
【文献】Arnold D. Kim,Correcting the diffusion approximation at the boundary,J.Opt.Soc.Am.A,2011年,Vol.28,No.6,pp.1007-1015
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対して照射され複数の検出器素子で検出されたX線に基づいて、第1のビューと第2のビューを含む複数のビューに関する第1の投影データを取得する取得部と、
放射輸送方程式(RTE)に基づく第1のシミュレーションを用いて計算された、前記第1のビューにおける第1の散乱X線を用いて、前記第1のビューに関する投影データからプライマリX線を計算し、前記放射輸送方程式(RTE)とは異なる手法に基づく第2のシミュレーションを用いて計算された、前記第2のビューにおける第2の散乱X線を用いて、前記第2のビューに関する投影データからプライマリX線を計算する計算部と、
を具備する医用処理装置。
【請求項2】
前記計算部は、
前記複数のビューに関する投影データを用いて第1の再構成画像を生成し、
前記第1の再構成画像を用いて前記被検体に対して照射された前記X線に関する第1の空間モデルを生成し、
前記第1の空間モデルに基づいて前記第1のシミュレーションを実行する請求項1記載の医用処理装置。
【請求項3】
前記第2のビューは、前記第1のビューが複数ある場合において当該複数の前記第のビューの間に位置するビューであり、
前記第2のシミュレーションは、前記複数の第1のビューにおける複数の第1の散乱X線による補間を含む、
請求項1又は2記載の医用処理装置。
【請求項4】
前記計算部は、前記第1のビュー及び前記第2のビューに関するプライマリX線を用いて、前記被検体に関する新たな第2の再構成画像を生成する請求項1乃至のうちいずれか一項記載の医用処理装置。
【請求項5】
前記計算部は、散乱シミュレーション法を用いて前記第1の投影データから散乱線が除去された第2の投影データを生成し、
前記第2の投影データを用いて、前記新たな再構成画像を生成する請求項記載の医用処理装置。
【請求項6】
前記計算部は、
前記第1の空間モデルとは異なる第2の空間モデルを生成し、
前記第2の空間モデルに基づいて前記第1のシミュレーションを実行する請求項2記載の医用処理装置。
【請求項7】
前記計算部は、
前記第1の再構成画像を、物質成分に対応する複数の領域へとセグメンテーションし、
前記複数の領域のそれぞれを、前記各領域に対応する物質成分に基づくエネルギー依存散乱断面に割り当て、前記第1の空間モデルを生成する請求項2又は記載の医用処理装置。
【請求項8】
前記計算部は、現在の撮像領域の外からの補外処理により、前記第1の空間モデルを生成する請求項記載の医用処理装置。
【請求項9】
前記計算部は、前記撮像領域における前記被検体の外側一部分の低線量再構成画像、解剖学的情報、先行CTスキャンからの再構成画像のうちの少なくとも一つを用いて前記補外処理を実行する請求項記載の医用処理装置。
【請求項10】
前記計算部は、乗算法、相加法、カーネルベース法のうちの少なくともいずれかを用いて前記プライマリX線を計算し、
前記乗算法を用いる場合には、前記第1のビューの前記第1の散乱X線を用いて前記第2のビューの前記第2の散乱X線を補間し、前記第1の散乱X線及び前記第2の散乱X線を用いて、散乱X線に対する総X線の割合を決定し、前記総X線の割合を用いて前記第1のビュー及び前記第2のビューのプライマリX線を生成し、
前記相加法を用いる場合には、前記第1のビューの前記第1の散乱X線を用いて前記第2のビューの前記第2の散乱X線を補間し、経験的に計測した散乱X線と前記第1の散乱X線及び前記第2の散乱X線との間の倍率を決定し、前記第1の投影データと前記倍率前記第1の散乱X線又は前記第2の散乱X線との積との差を用いて前記プライマリX線を決定し、
前記カーネルベース法を用いる場合には、前記第1のビューの前記第1の散乱X線に基づいたカーネルのパラメータを修正し、前記修正されたパラメータを伴う前記カーネルを使用して前記第2のビューの前記第2の散乱X線を決定する、
請求項1記載の医用処理装置。
【請求項11】
X線コンピュータ断層撮像装置のX線源に対する相対的位置が固定された第1のユニットに関するX線放射について、散乱値をビュー毎に表す第1のテーブルを格納する格納部と、
被検体に対して照射され複数の検出器素子で検出されたX線に基づいて、複数のビューに関する第1の投影データを取得する取得部と、
前記複数のビューに関する投影データを用いて第1の再構成画像を生成し、
前記複数のビューのうちの少なくとも一つのビューについて、ビュー毎の前記第1のテーブルを用いて散乱X線をシミュレーションし、前記シミュレーションされた散乱X線を用いてプライマリX線を計算する計算部と、
を具備する医用処理装置。
【請求項12】
前記計算部は、前記第1のテーブルと放射輸送方程式(RTE)を用いて、前記散乱X線をシミュレーションする請求項11記載の医用処理装置。
【請求項13】
前記格納部は、前記X線源に対する相対的位置が固定され、第1のユニットとは異なる第2のユニットに関するX線放射について、散乱値をビュー毎に表す第2のテーブルを格納し、
前記計算部は、前記複数のビューのうちの少なくとも一つのビューについて、ビュー毎の前記第1のテーブルと前記第2のテーブルとを用いて前記散乱X線をシミュレーションし、前記シミュレーションされた前記散乱X線を用いてプライマリX線を計算する、
請求項11又は12記載の医用処理装置。
【請求項14】
前記第1のユニットは、フィルタと散乱防止グリッドのうちの一方であり、前記第2のユニットは、フィルタと散乱防止グリッドのうちの他方である請求項13記載の医用処理装置。
【請求項15】
前記第1のテーブルにおいては、
前記第1のユニットとしての散乱防止グリッドのジオメトリ及びX線放射のレイの軌道に基づいて、前記レイが前記散乱防止グリッドと交差するかどうかを判定し、
前記レイが前記散乱防止グリッドと交差する場合に、前記レイの前記軌道を有するX線放射が複数の検出器素子に到達しないと判定し、
前記到達しないと判定された結果に基づいて散乱値が決定されている請求項11記載の医用処理装置。
【請求項16】
前記計算部は、モンテカルロ法及び放射輸送方程式(RTE)を用いた手法のうちの一方を用いて、前記第1のユニットに関する前記散乱X線をシミュレーションし、
前記第1のテーブルにおいては、前記第1のユニットのジオメトリ及び物質成分についての所定の散乱断面のパラメータを使用することにより、前記散乱値が決定されている請求項11記載の医用処理装置。
【請求項17】
前記計算部は、前記第1のテーブルと放射輸送方程式(RTE)を用いた手法とに基づいて、前記複数のビューのうちの第1のビューについて第1の散乱X線をシミュレーションし、
前記第1のテーブルと前記第1の散乱X線を用いて、前記第1のビューとは異なる第2のビューに関する第2の散乱X線を計算し、
前記第1の散乱X線と前記第2の散乱X線と、を用いて、前記複数のビューのうちの少なくとも一つのビューに関するプライマリX線を計算する、
請求項11記載の医用処理装置。
【請求項18】
前記第1のテーブルにおいては、前記X線源から出て前記第1のユニットとしてのボウタイフィルタを通過したX線ビームを、前記ボウタイフィルタの仮想面源から出たX線ビームに変換する、請求項11記載の医用処理装置。
【請求項19】
被検体に対して照射され複数の検出器素子で検出された放射線に基づいて、複数のビューに関する第1の投影データを取得する取得部と、
前記複数のビューのうちの第1のビューについては放射輸送方程式(RTE)に基づく第1のシミュレーションを用いて計算された第1の散乱放射線を用いて、前記第1のビューに関する投影データからプライマリX線を計算し、前記複数のビューのうちの第2のビューについては前記放射輸送方程式(RTE)とは異なる手法に基づく第2のシミュレーションを用いて計算された第2の散乱放射線を用いて、前記第2のビューに関する投影データからプライマリX線を計算する計算部と、
を具備する放射線診断装置。
【請求項20】
放射線源に対する相対的位置が固定された第1のユニットに関する放射線放射について、散乱値をビュー毎に表す第1のテーブルを格納する格納部と、
被検体に対して照射され複数の検出器素子で検出された放射線に基づいて、複数のビューに関する第1の投影データを取得する取得部と、
前記複数のビューに関する投影データを用いて第1の再構成画像を生成し、
前記複数のビューのうちの少なくとも一つのビューについて、ビュー毎の前記第1のテーブルを用いて散乱放射線をシミュレートし、前記シミュレートされた散乱放射線を用いてプライマリ放射線を計算する計算部と、
を具備する放射線診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、医用処理装置及び放射線診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線診断装置として、X線コンピュータ断層撮像装置(computed tomography:CT)、X線アンギオ装置等のX線診断装置、PET,SPECT等が存在する。X線コンピュータ断層撮像装置を例とすれば、X線投影画像は、多くの散乱した放射成分を含む。この散乱した放射は、二次元検出器を使用する三次元撮像に対する投影データの確度を落としかねない。X線診断装置において使用されるフラットパネル検出器の様な二次元検出器は、散乱した放射を抑制するための散乱放射除去グリッド(例えば、散乱防止グリッド)を使用することが出来る。係る散乱した放射の抑制は、散乱補正アルゴリズムを使用する投影データを後処理することで、更に改善することが出来る。散乱した放射補正は、例えば柔組織の撮像等、低コントラスト情報を抽出するのに好都合になることがある。
【0003】
散乱体の存在下でのX線ビームは、プライマリX線ビームP(x,y)及び散乱したX線ビームS(x,y)としてモデル化することが出来、投影データT(x,y)は、次の式(1)に示すようにこれら二つのビームの合成である。
【0004】
【数1】
【0005】
散乱について補正するために、カーネルベース法を使用することが出来る。代わりに、散乱の原因となる介在物の情報に基づいた散乱を計算するために、散乱シミュレーションを使用することも出来る。シミュレートされた散乱が与えられて、シミュレートされた散乱を差し引きし、且つ画像のCT再構成に対するプライマリビームを残すことによって、計測された投影データを補正することが出来る。
【0006】
非効率な散乱シミュレーションや補償は、CT投影データにおける不十分な画像コントラストや、アーチファクトの発生、重大なエラーを含む画質に著しく影響する。幅の広いビームジオメトリに構成されたコーンビームCTにおいて、散乱補正は、高画質な画像を再構成するために尚更重要になる場合がある。近年では、散乱防止グリッドや空隙等のハードウェアに基づく散乱排除に加え、経験的なパラメータキャリブレーションを用いる近似した畳み込みモデルが、商用CTにおいて普及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許明細書6,256,367B1公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、実際の臨床的応用に対して、近似した畳み込みモデルを使用して散乱補正を実行した場合に、顕著なエラー(典型的な20-40HU)が残ってしまう。このため、X線CTにおいて散乱を補正する改善方法が求められている。加えて、散乱補正の確度を維持、更には改善もしながら、散乱補正に対する計算的負荷及び時間を減らす改善が求められている。
【0009】
目的は、投影データの散乱補正に関し、従来に比して計算的負荷及び計算時間が低減された医用処理装置及び放射線診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態に係る医用処理装置は、被検体に対して照射され複数の検出器素子で検出されたX線に基づいて、複数のビューに関する第1の投影データを取得する取得部と、前記複数のビューのうちの第1のビューについては放射輸送方程式(RTE)に基づく第1のシミュレーションを用いて計算された第1の散乱X線と、前記複数のビューのうちの第2のビューについては前記放射輸送方程式(RTE)とは異なる手法に基づく第2のシミュレーションを用いて計算された第2の散乱X線と、を用いて、前記複数のビューのうちの少なくとも一つのビューに関するプライマリX線を計算する計算部と、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、一実施例に係る散乱シミュレーションを使用して投影データから散乱を補正する方法のフロー概要図を示している。
図2図2は、一実施例に係る放射輸送方程式を使用して散乱シミュレーションを実行する方法のフロー概要図を示している。
図3図3は、一実施例に係る検出器で検出された第一の散乱X線及び多重散乱X線の概要図を示している。
図4図4は、一実施例に係る散乱防止グリッド(anti-scatter grid:ASG)及びボウタイフィルタを有するコンピュータ断層撮像(CT)スキャナにおけるX線散乱の概要図を示している。
図5図5は、一実施例に係るボウタイフィルタからのX線散乱が、テーブルで表された仮想面源へとマッピングされている概要図を示している。
図6図6は、一実施例に係る斜角散乱を減衰させるASGのジオメトリの概要図を示している。
図7A図7Aは、一実施例に係る乗算法を使用してプライマリX線束を回復するための、投影データから散乱X線束の除去についての実行例のフロー概要図を示している。
図7B図7Bは、一実施例に係る追加法を使用してプライマリX線束を回復するための、投影データから散乱X線束の除去についての実行例のフロー概要図を示している。
図7C図7Cは、一実施例に係るカーネルベースの方法を使用してプライマリX線束を回復するための、投影データから散乱X線束の除去についての実行例のフロー概要図を示している。
図8図8は、一実施例に係る撮像領域における通常線量と周辺の領域におけるX線放射の低線量とを伴うスキャニングジオメトリの概要図を示している。
図9】CTスキャナの実施例の概要を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
散乱補正の課題、特に散乱防止グリッド(anti-scatter grid:ASG)に対するハードウェアベースの解決策は、コンピュータ断層撮像(CT)における散乱光子を効果的に撥ね付けることが出来るものの、ハードウェアの解決策のみではスキャナコストが著しくかさみ、プライマリ信号を潜在的に減らす場合がある。この様にして、散乱について補正するための後処理法は、低コストを維持しつつ良いパフォーマンスを達成するために、散乱補正において重要な役割を担っている。畳み込みベースの方法は、散乱を補正することで良く知られているが、将来有望なのは、モデルベースのアプローチである。例えば、ここにその番号を参照することにより本書に組み込まれるものとされる、米国出願番号15/210,657は、X線CTデータにおける散乱を補正するために放射輸送方程式(Radiation Transfer Equation:RTE)シミュレーション法について説明している。ここに説明される方法は、出願番号15/210,657のシミュレーション法を上回る改善を提供する。
【0013】
例えば、ここに説明される方法は、ボウタイフィルタについての及びASGについてのモデル(又は空間モデル)を、散乱シミュレーションへと効果的に組み込む。散乱シミュレーションは、理想的には線源と検出器との間のX線で相互作用する全ての要素について明らかにすべきであるが、これらの要素のうちには、スキャンとビューとの間で変化しないもの(つまり、スキャンにおける投影角)がある。例えば、CTスキャナがCTスキャンの様々なビュー(つまり、投影角)を通り回転する間、ボウタイフィルタ及び散乱防止グリッド(ASG)は、X線源及び検出器に対して一定の配置のままである。更に、画像化されている患者についての散乱モデルとは対照的に、ボウタイフィルタ及びASGは、実際的な効果のためにスキャン間でも一定のままとすることが出来る。つまり、散乱モデルは、異なる患者が異なるスキャンで画像化されているので各スキャンで変化するものの、実際的な効果は、散乱モデルを一度前計算し且つその後全ての後続スキャンに対して再利用することが出来る。
【0014】
この見識を生かし、ここでの方法は、変化しない要素から散乱についてシミュレートし且つ補正するための、効果的なメカニズムを提供する。例えば、X線源及び検出器間の変化しない要素について、将来の散乱シミュレーションを見越し、ルックアップテーブルを前もって一度計算することが出来る。その後、係るルックアップテーブルは、各後続のシミュレーションの間に再利用することが出来、計算的リソース及び時間で大幅な節約となる。この様にして、各スキャンに対するボウタイフィルタ及びASGのRTE計算を繰り返すよりも、係るルックアップテーブルを有利に使用することが出来る。その結果、ここに説明される方法は、ボウタイ及び散乱防止グリッド(ASG)についてのより少ない計算を使用する、改善されたシミュレーションを提供する。これにより、従来的なCTジオメトリが散乱に寄与する不変の要素を有するという認識を通じて、改善は実現される。更に、これらの前計算は一度だけのイベントなので、係る前計算は、改善された散乱補正を提供するために、後続の散乱シミュレーション及び補正について計算的コストに影響を及ぼすことなく、より高い解像度且つ確度で実行することが出来る。
【0015】
例えば、ここに説明される方法は、RTEシミュレーションを使用して、CT投影データの散乱補正についての新たな方法/フレームワークを提供する。新たな方法/フレームワークは、特に純粋な畳み込み法と比較対比された場合に、複雑なジオメトリ及び多重構成要素の処理及び患者特有の散乱補正の実行に、とりわけ長けている。モンテカルロ(MC)法と対比した場合に、ここに説明される方法は、ショットノイズの影響を受けない(free from shot noise)散乱シミュレーションを提供する。
【0016】
結果的に、精度を犠牲にすることなく、或いは、ノイズを増やすことなく、その他での方法の様に、ここに述べられる方法は、散乱補正について速いシミュレーションを提供する。更に、その他のRTEベースの方法に比べて、ここに説明される方法は、2パス散乱補正(two-pass scatter correction)を必要としない。また上記で説明した通り、ボウタイベースの仮想面源及びASGテーブルは、散乱補正の確度及び効率を改善するために、前計算することが出来る。最後に、下記で説明される通り、ここに説明される方法は、スキャンされない領域にまで拡がる散乱を明らかにするための新たなスキャニングプロトコルを提供し、更にはスキャン補正の確度及び効率を改善する。
【0017】
ここに説明される方法の改善点は、係る方法をその他の方法と対比することにより、理解することが出来よう。例えば、畳み込みベースの方法は、従来的なカーネル及びプライマリ信号を用いて、散乱プロファイルを推定することが出来る。カーネルの確度は、こうした方法の実行に、直接的に影響する。しかし、カーネルベースの方法は、複雑な形を有する被検体からの散乱を表すには限界があり、多重構成要素では、困難になり得る。一方、モデルベース(空間モデルベース)のアプローチは、先験的な撮像情報及び物理的な散乱処理の精確なシミュレーションを使用することにより、患者特有の散乱補正を実行することが出来る。モンテカルロ法は、許可された無制限の時間の場合に、精確な散乱シミュレーションを提供するので、散乱シミュレーションについては久しく黄金律とされてきたが、確度とスピードとの間で潜在的なトレードオフを有する。モンテカルロ法の確度は、ノイズの離散的且つ統計的性質から結果として生じる自然なシミュレートされたノイズを解消するために、多数のシミュレートされた光子の使用に依存する。残念ながら、より多くの光子をシミュレートすることにより、計算量及びシミュレーション時間が増加してしまう。対して、決定性放射輸送方程式(RTE)を使用する散乱シミュレーションは、速いシミュレーション速度でノイズの影響を受けない解決法を潜在的に提供することが出来る。更に、有限要素離散的縦座標法(finite-element discrete ordinate methods)と比べ、RTE散乱シミュレーションについての積分球面調和法は、高速且つ精確なレイ効果の影響を受けない散乱解を提供することが出来る。
【0018】
次に図面を参照しながら、参照番号が数枚の図にわたって同一または対応する部分を指し示す。図1は投影データにおける散乱補正についての方法100のフロー概要図を示す。
【0019】
方法100のステップ110において、CTスキャナに関する様々なパラメータが取得される。例えば、CTスキャナに関する様々なパラメータとは、X線源スペクトラム、CTジオメトリ、ASGの次元、検出器情報、そして様々なキャリブレーションの情報を含むことが出来る。これらパラメータは、散乱補正を決定する際に使用することが出来る。例えば、X線管にわたる異なる電圧が、異なるX線スペクトルを生み出す場合があり、またX線スペクトルスペクトルにおける差が、今度は散乱及び減衰に影響する場合がある。
【0020】
方法100のステップ120において、テーブル及びパラメータがX線源及びASGについて生成される。例えば、下記に説明される通り、ASGの容認角度は、ASGのジオメトリに依存することがある(例えば、より高いASGは、同じスペーシングでのビューを有するより低いASGに比べて、より狭い容認角度を有するであろうから)。この様にして、テーブル及びパラメータは、CTスキャナの特定の、ジオメトリ及びパラメータへと合わせて作られる。
【0021】
方法100のステップ130において、被検体OBJのサイノグラムを生成するために、一連の投影角を通してCTスキャナがスキャンすることにより、投影データが収集される。これらの一連の投影角は、「ビュー」と呼ぶことも出来る。被検体OBJは、例えば、患者又はファントムの場合がある。
【0022】
方法100のステップ140において、画像は、投影データから再構成される。例えば、画像は、フィルタ補正逆投影法、逐次再構成法(例えば、代数再構成技術(algebraic reconstruction technique:ART)法、又は全変分最小化正則化法)、フーリエ変換ベースの方法(例えば、直接フーリエ法)、そして統計的方法(例えば、最大尤度期待値最大化アルゴリズムベースの方法)、のうちの一つを使用して、再構成することが出来る。特定の実施例において、画像は、逐次再構成(IR)法を使用して再構成することが出来、またオーダサブセット(OS)法、ネステロフ加速法、分離可能放物サロゲート(SPS)、又は任意の公知の加速技法を使用出来る。また、画像は、任意の公知のコスト関数を最適化するための逐次再構成(IR)法を使用し、且つ任意の公知の正則化手法(regularizers)を使用して、再構成することが出来る。特定の実施例において、画像化された被検体OBJについてのモデルを必要としない散乱補正法(例えばカーネルベースの方法)は、画像再構成の実行よりも前に、投影データへと適用することが出来る。
【0023】
方法100のステップ150において、散乱推定は、乗算法、相加法、又は下記に説明されるカーネルベースの方法等を含む、ここに説明される方法ならどれでも使用して実行される。更に、下記に説明される通り、これら三つの方法は、下記に説明される様な方法200等、RTEシミュレーション法を使用することが出来る。
【0024】
画像の再構成に加え、様々な画像及び信号処理操作を再構成画像について実行することが出来る。例えば、ノイズを減らすために、スムージング又はデノイジング操作を実行することがある。また、多重エネルギー成分を有する投影データについて、例えば骨から柔組織を区別するために、物質弁別を実行することが出来る。物質弁別は、異なる物質が異なる散乱断面積、減衰係数、及び、エネルギー/スペクトラル依存を示す場合があるので、散乱補正について有益なことがある。
【0025】
方法100のステップ160において、総投影データからの散乱寄与を除去し、且つプライマリビームを回復するために、散乱補正が実行される。
【0026】
方法100のステップ170において、特定の実施例で、解が最終解に収束するまで、ステップ140、150、160は、逐次的に繰り返すことが出来る。そうでなければ、ステップ170は、省略することが出来る。ステップ170が省略されなければ、その場合には各逐次について、ステップ160で抽出されたプライマリビームは、前回の逐次で使用された際のグラムデータに比べて、ステップ140における画像の再構成を実行するために、サイノグラムデータのより厳密なソースを提供する。そして、より良いサイノグラムデータから再構成された画像が、今度は、X線散乱のより良い推定を提供する。この様にして、連続的な逐次は、最適な散乱補正及び最適な再構成画像へと次第に収束することが出来るのである。停止基準は、最大逐次数、及び/又は、所定の閾値以下に落ちる逐次間の変化の物差し(例えば、シミュレートされた補正間の差、又は連続的逐次についての再構成画像間の差のpノルム)を含むことが出来る。
【0027】
上記で言及された通り、散乱補正の乗算、相加、カーネルベースの方法は、再構成画像から散乱をシミュレートするために使用することが出来る。これらの方法のそれぞれは、いくつかの方法で、そのシミュレーション結果を達成するために、RTEシミュレーションを使用する。従って、RTEシミュレーション法(つまり、方法200)の一般的な説明が提供され、その後に乗算、相加、カーネルベースの方法の説明が提供される。
【0028】
図2は、球面調和でのRTEの三つのステップの積分公式化を使用する、散乱をシミュレートするための方法200のフロー概要図を示している。図3は、プライマリX線束が、被検体OBJを通ってプライマリX線束及び散乱X線束が検出される検出器へと減衰を伴って送られる、散乱処理の概要図を示している。図3に示されている通り、被検体は、ファントムの場合があるし、又は臨床的アプリケーションでは患者の場合もある。プライマリX線束には、散乱しないX線を含む。プライマリX線束の検出に加え、検出器は、単一の散乱イベントを経たX線束を含む、第一の散乱X線束も検出する。更に、検出器は、多重回散乱したXを含む、多重散乱X線束も検出する。
【0029】
図3に示されている通り、散乱したX線束の完全な物理的散乱モデル(又は空間モデル)は、第一の散乱X線束及び多重散乱X線束の両方を含む。この物理的モデルは、次の式(2)によって与えられた放射輸送方程式(RTE)を使用して表すことが出来る。
【0030】
【数2】
【0031】
係る方程式(2)は、次の式(3)に示す境界条件に従う。
【0032】
【数3】
【0033】
ここでψ(r,E,Ω)は、地点rでの光子X線束の比強度(specific intensity)、Eはエネルギー、そしてΩは、光子X線束の伝播の方向における単位ベクトルである。境界条件において、強度ψ(rc,E,Ω)は、X線源に、及び(ボウタイフィルタがX線源のコリメータに使用された場合には)ボウタイ散乱に、依存する。ベクトルrcは被検体の面についての地点を意味し、nは境界面に対する法線ベクトルを、更にf(r´,E,E´,Ω・Ω´)はコンプトン散乱及びレイリー散乱の両方を含む散乱断面積である。
【0034】
ここで述べられる方法は、CT散乱補償について、精確であるが単純な散乱シミュレーションを取得するために、RTEを三つのよりシンプルな積分課題へと細分化することにより、上記RTEを解く。これは、上記RTEを次の積分方程式(4)として第一に書き直すことにより、達成される。
【0035】
【数4】
【0036】
ここで変数μ(r,E)は、エネルギーEを有するX線の地点rでの減衰係数を表す。
【0037】
図3に示されている通り、X線束は、(i)プライマリX線束、(ii)第一の散乱X線束、(iii)多重散乱X線束、の3つの成分へとグループ分けすることが出来る。方法200は、上で特定したX線束の3つのそれぞれの成分に対応するステップにおいて、RTEの積分方程式表現を解くために系統立てられる。RTEは、少なくとも二つの成分(つまり、散乱X線束とプライマリX線束)へと分けることが出来る。つまり、プライマリX線束をψ(r´,E´,Ω´)と仮定すると、散乱X線束ψ(rc,E,Ω)は、次の積分式(5)によって計算することが出来る。
【0038】
【数5】
【0039】
ここで係るプライマリX線束は、境界ψ(rc,E,Ω)を通って送られたX線束の減衰を積分することにより、次の式(6)によって計算することができる。
【0040】
【数6】
【0041】
散乱X線束ψ(r,E,Ω)についての積分方程式は、下記で説明されるステップ220と230とにそれぞれ対応する、第一の散乱成分ψ(r,E,l,m)と多重散乱成分ψ(r,E,l,m)とに、更に細分化することが出来る。
【0042】
方法200のステップ220において、第一の散乱X線束が計算される。第一の散乱X線束は、離散化した積分公式によって計算することが出来、以下の式(7)によって与えられる。
【0043】
【数7】
【0044】
ここでY lm(Ω)は、程度lとオーダーmとの球面調和関数の複素共役であり、ψ(r,E,lm)は球面調和ドメインにおける第一の散乱X線束の強度である。球面調和は、以下の式(7)の様に与えることが出来る。
【0045】
【数8】
【0046】
ここでYlm(Ω)は程度lとオーダーmとの球面調和関数であり、P は関連するルジャンドル多項式で、Nは規格化定数であり、そしてθ及びφはそれぞれ余緯度と経度とを表す。
【0047】
骨や水等異なる物質は、それら物質の原子的構成要素に依存するため、異なる角度依存での異なる散乱断面積を有する。また、散乱断面積の大きさは、地点r´での物質成分の密度によって決まることがある。従って、図3に示されている様な物理的モデルは、位置の関数として様々な物質成分の密度を決定するために、物質弁別を使用して物質成分へと弁別することが出来、位置依存散乱断面積は、物質成分の空間的な密度マップから取得することが出来る。位置依存のX線横断面積は、物質弁別の物質成分のボリュームピクセル(つまり、ボクセル)密度比と、それぞれの物質成分に対応する前計算された散乱断面積と、の個別の積の線形重畳として取得することが出来る。
【0048】
一非限定例において、物質弁別は、デュアルエネルギーCTを使用して実行することが出来る。また、物質弁別についての別の選択肢として、ボクセルの減衰による物質成分に対応する領域を推測する、閾値及び領域成長法(threshold and region growing method)(例えば、ハウンズフィールドユニットにおいて所定の閾値を上回る減衰値を有するボクセルは、骨と決定される等)を使用することである。
【0049】
方法200のステップ230において、より高いオーダーの散乱項が計算される。第一の散乱X線束が一回散乱したX線光子のみを含む一方、k番目のオーダーの散乱項はk回散乱したX線光子を含む。第一の散乱X線束が計算された後、多重散乱のX線束が、以下の式(9)によって与えられる様な離散化積分球面調和公式を使用して計算することが出来る。
【0050】
【数9】
【0051】
ここでψ k+1(r,E,lm)及びψ (r´,E´,lm)は、それぞれオーダーk+1及びオーダーkまで全ての散乱イベントを含む多重散乱についてのX線束の強度であり、f(r´,E,E´,l)は、散乱断面積がルジャンドル多項式を使用して拡張された場合のl番目の係数である。演算子Aを次の式(10)によって定義する。
【0052】
【数10】
【0053】
上記で定義された逐次公式は、以下の式(11)の様により簡潔に表すことが出来る。
【0054】
【数11】
【0055】
方法200のステップ240において、停止基準は、オーダーkまでの近似が十分に厳密かどうかを決定するために評価される。つまり、オーダーkまで計算された場合に、上記での定義による逐次多重散乱計算により明らかとなった散乱かどうかが、例えば所定の臨床アプリケーションの散乱補正についての厳密な条件に関する、所定の停止基準を提供する。特定の実施例において、停止基準は、以下の式(11)を場合に満たすものとすることが出来る。
【0056】
【数12】
【0057】
ここで、εは、所定の閾値である。更に、停止基準は、kについての最大値(つまり、逐次最大数)に達したら、満たすことが出来る。停止基準が満たされた場合に、係る方法200はステップ240からステップ250へと進む。そうでなければ、ステップ230は、多重散乱の、次のより高いオーダーについて繰り返される。
【0058】
方法200のステップ250において、検出器でのX線束が決定される。多重散乱X線束を計算した後に、次の式(13)によって与えられる検出器での散乱X線強度Φ(rD,E)を計算するために、上記結果を組み合せることが出来る。
【0059】
【数13】
【0060】
ここでRASG(E,Ω)は、散乱防止グリッドの効果を明らかにする因子である。RASG(E,Ω)は、散乱防止グリッドの配置及び構成のみに依存するので、従って、散乱防止グリッドの構成について前計算し且つ格納することが出来る。RASG(E,Ω)は、任意の公知の解析的アプローチ、モンテカルロ法、或いはRTE法を含む、任意の公知の方法を使用して前計算することが出来る。散乱防止グリッドが何も使用されない場合、RASG(E,Ω)は一定値1により、置き換えることが出来る。
【0061】
図4は、ボウタイフィルタ及びASGを含む、CTスキャナにおけるX線の経路の、簡略化したダイヤグラムである。上記で説明した通り、X線についてのボウタイフィルタ及びASGのシミュレートされた散乱及び減衰効果を表すために、ルックアップテーブルを生成することが出来る。
【0062】
これらのルックアップテーブル(又は、少なくとも一方のルックアップテーブル)は、X線散乱をシミュレートする際に、実行する予定の計算数を減らす。図4に示されている通り、CTスキャナは、X線源、ボウタイフィルタ、散乱防止グリッド(ASG)、そして検出器を含む。検出器は、プライマリX線束及び散乱X線束を含む総X線束を検出し、散乱補正法は、計測された総X線束に基づいた散乱X線束を推定するために散乱モデルを使用し、且つその後抽出されたプライマリX線束から画像を再構成する前に、計測された総X線束からプライマリX線束を抽出するために散乱X線束を使用する。
【0063】
図5は、散らばった散乱効果を、どの様にボウタイベースの仮想散乱面について集中したパラメータとして表すことが出来るかを描いているダイヤグラムである。ボウタイベースの仮想面源は、ボウタイフィルタの前にX線源を表すプライマリビームを、仮想面から放射する仮想X線源へとマッピングすることにより、シミュレーションを簡略化する。係るプライマリビームは、空間的、角度に関する、そしてエネルギー依存を表すことが出来、また係るX線仮想源は、ボウタイフィルタからの減衰したプライマリビーム及び散乱X線束を表す。
【0064】
実際のCTスキャナにおけるX線源は、幅の広いエネルギースペクトルを有することが可能であり、生物組織において支配的な散乱メカニズムであるコンプトン散乱は、エネルギー変化を引き起こす(例えば、散乱X線のエネルギーは、入射X線に比べてエネルギーが小さい)ことがある。CTスキャナにおける線量を最適化するために、ボウタイを使用する場合があり、結果として角度依存のX線スペクトルという結果になる。加えて、ボウタイから生成された散乱X線束は、特にスキャンされた被検体の境界で、画質に影響を与える場合がある。大半のCTスキャナにおいて、X線源に関するボウタイ位置は、ビュー(つまり、投影角度)にかかわらず、固定されている。従って、シミュレーション効率を改善するために、ボウタイベースの仮想面源法を使用することが出来、散乱シミュレーションが簡略化される。
【0065】
仮想面は、ボウタイベースのソースを表すために、選択される。図5は、仮想面が半球である、非限定例を示している。仮想面を出る、プライマリビーム及び散乱ビームをそれぞれ表すために、二つのテーブルを生成することが出来る(つまり、ボウタイ源は、プライマリ源及びボウタイ散乱源へと分岐することが出来るということ)。プライマリ源は、X線源のコーン角及びファン角の関数である。ボウタイ散乱源は、コーン角及びファン角の関数でもあるが、極角及びアジマス角によって説明することが出来る散乱角にも依存する。
【0066】
ルックアップテーブルは、ボウタイフィルタについてのX線源入射からのビームを、仮想面を出る仮想源のビームへと変換する。この様にして、ボウタイベースの仮想面源は、ソースとして取り扱うことが出来、ボウタイフィルタの追加での検討を散乱シミュレーションから省略することが出来るのである。結果として、被検体OBJと共にボウタイフィルタの組み合わせでの散乱シミュレーションにより、仮想面(つまり、仮想面からのプライマリビーム及び散乱ビーム)から来るレイと、被検体OBJにおけるその他の離散化した地点から来る散乱(例えば、方法200のステップ220及び230において個別に計算された、第一の散乱X線束及び多重散乱X線束)から来るレイと、が原因の散乱を、被検体OBJにおける個別の離散化した地点についての計算へと減らすのである。
【0067】
特定の実施例において、プライマリソーステーブル及びボウタイ散乱ソーステーブルは、X線源についての特定のパラメータのセットについての仮想面で、X線ビームのプライマリ成分及び散乱成分を決定するために、ボウタイフィルタの散らばったモデルを使用して散乱シミュレーションを実行することにより、生成することが出来る。その場合に、X線源についてのこのパラメータのセットについて、仮想面から出る空間的、角度に関する、そしてエネルギー依存のX線を提供するために、係るテーブルを使用することが出来る。ボウタイフィルタの散らばったモデルを使用しての散乱シミュレーションについて、モンテカルロ法、有限要素離散縦座標法、方法200において説明されたRTE法、又はその他のRTE法等を含む、任意の公知の方法を使用することが出来る。また、上記で説明された通り、ルックアップテーブルを前計算するために使用されたこれらのシミュレーションは、被検体OBJについての散乱の後続の度重なるシミュレーションに比べて、異なる解像度、収束、及び/又は、確度基準を使用して実行することが出来る。良い離散化がルックアップテーブルについて使用された場合に、散乱シミュレーションについて、RTE法はモンテカルロ法より寧ろ好まれる。その理由は、モンテカルロ法は、統計的ノイズを減らすために、多数の光子の使用を必要とするかもしれないからである。テーブルは、被検体OBJの任意のCTスキャンの前に一度前計算することが出来、それから、その後スキャン毎に特有の散乱シミュレーションについて使用することが出来る。従って、ボウタイ散乱シミュレーションは、スキャンされた被検体OBJの散乱シミュレーションに対する必要な時間には含まれていないのである。
【0068】
仮想面からのボウタイ源を使用することで実現される簡略化に加え、被検体OBJ及び検出器の間に配置されたASGが原因の散乱及び減衰を表すために、テーブルを生成することも出来るので、各スキャン特有散乱シミュレーションについての計算及び時間を更に簡略化し且つ減らす。図6は、ASGのダイヤグラムを示すものである。一方で、プライマリX線束のレイは、検出器への通常入射、つまり、ASGの壁によって遮られていないものとして示されている。他方で、散乱X線束のレイは、図6に表されている通り、検出器に対して総じて斜めであり、プライマリX線束のレイに比べより多くの減衰を経ている。散乱X線束が、どの程度多く減衰したかは、散乱X線束の詳細と同様、ASG及び検出器素子のジオメトリに依存する。
【0069】
散乱X線束のうちのいくつかは、その他のレイが検出器に到達するものである一方、ASGの壁によって減衰され妨害されるものである。例えば、散乱X線束についての入射のより斜めな角度は、より沢山の減衰を経ているということである。この様にして、きちんと構成されたASGは、散乱X線束の大半を効果的に撥ね付けることが可能なのである。勿論、係るASGの有効性は、ASGの次元及び物質によって決定され、きちんと構成されたASGは、入射X線についてのASGの効果を表す実際的なモデル/テーブルへと組み込まれることになるだろう。ここに説明される方法は、ASGの厳密且つ効果的な散乱シミュレーションを取得するために、下記に説明される二つの方法のうちの一方又は両方を使用することが可能である。これら二つのASGシミュレーション法は、テーブル法及び解析法とそれぞれ呼ばれる。
【0070】
テーブル法について、ASGの壁を通過する散乱X線束が、係る壁を通って部分的に伝わった場合に、ASGテーブル(TASG(e,θ,φ))は、散乱X線束(φS,RTE(rD,e,θ,φ))の入射角の関数として、ASGが原因の減衰量を決定するために、使用することが出来る。つまり、散乱X線束(φS,RTE(rD,e,θ,φ))をASGについての入射と仮定すると、テーブル値(TASG(e,θ,φ))は、次の式(14)により与えられる検出器についての散乱X線束φS,ASG(rD)入射を決定するために、使用することが出来る。
【0071】
【数14】
【0072】
ボウタイ源についてのテーブルと同様、ASGテーブルは、モンテカルロ法、有限要素離散縦座標、そしてRTE法を含む、任意の公知のシミュレーション法を用いて生成することが出来る。
【0073】
解析的方法について、ASGを通過する散乱X線束の減衰がおよそ総X線束と等しい場合に、シンプルな解析的方法は、散乱X線束が壁にぶつかったか、或いは当たり損ねたかどうか、ジオメトリカル的に判断するために使用することが出来る。ASGにおけるグリッド壁の次元及び位置、検出器素子の次元及び位置、散乱X線束のレイの方向及び位置に基づいて、シンプルなジオメトリカル計算は、レイがグリッド壁と交差する、減衰が完全(つまり、TASG=0)として見なされる場合かどうかを決定するために使用することが出来る。そうでなければ、減衰は何も発生しておらず(つまり、TASG=1)、レイは妨げられることなく検出器に到達する。
【0074】
ボウタイフィルタ及びASGの簡略化を検討したが、次に、減衰が被検体OBJの散乱シミュレーションの実行の改善に取り掛かる。上記で説明された通り、散乱補正の基本的な考え方は、純粋にプライマリX線束を表す信号を回復するために、検出器について計測されたカウントから散乱X線束を除去することである。RTEシミュレータが使用された場合に、各ビュー(vi)の散乱X線束(φS,ASG(rD,vi))分布及びプライマリX線束(φP,(rD,vi))分布をシミュレートすることが出来る。その理由は、ビューにわたる散乱分布が低周波数である(つまり、ビュー角の関数として徐々にしか変化しない)ので、検出器についての散乱入射(φS,ASG(rD,vi))は、疎なビューモードを使用してシミュレートすることが出来、その場合に疎なシミュレートされたビュー間におけるビューについての散乱分布を補間(又は補外)することが出来る。例えば、疎なビューの初期シミュレーションを実行するために、方法200を使用することが出来る。更に、下記で説明される通り、方法200は、下記に説明される様な3つの散乱補正法(つまり、乗算、相加、カーネルベースの方法)のうちの任意の一つ、またはこれら3つの任意の組み合わせで使用することが出来る。また、いくつかのビューについて乗算、相加、カーネルベースの方法の3つの散乱補正法(モデル)のいずれかを採用し、他のビューについては、残りの散乱補正法を採用することも可能である。
【0075】
この3つの乗算、相加、カーネルベースの方法は、CTスキャンの各ビューで散乱をシミュレートするために、方法200を使用してより素早く実行することが出来るので、方法100のステップ160のそれぞれ加速された実行である。この加速は、全てのビューではないが、いくつかのビューについて散乱をシミュレートするために、方法200を使用して達成される。この、「加速された方法」という言葉は、方法200のみを使用してX線散乱をシミュレートし、且つそれからX線散乱について補正するために要するであろう時間に比べ、短い時間で全てのビューにわたるX線散乱について、シミュレート且つ補正するために、方法200を組み合わせて使用することが出来る方法を指す。
【0076】
例えば、乗算及び相加法において散乱X線束は、疎なビューについてまずシミュレートされ、その後残りのビューについて散乱X線束は、疎なビュー散乱X線束から補間することが出来る。補間は、非常に素早く実行することが出来、残りのビューにわたる散乱X線束をシミュレートするために、方法200の使用に比べ、残りのビューにわたる散乱X線束の補間を、より素早くさせる。
【0077】
カーネルベースの方法において、散乱X線束は、いくつかのビューについて方法200を使用してシミュレートされ、当該散乱X線束は、カーネルベースの散乱シミュレーションを訓練するために使用される。係るカーネルベースの散乱シミュレーションは、全てのビュー又は残りのビューのどちらかについて散乱X線束を決定するために、その後使用することが出来る。カーネルベースの散乱シミュレーションは、方法200と比較して速い場合がある。乗算、相加、カーネルベースの方法のフローダイヤグラムは、図7A、7B、7Cにそれぞれ示されている。
【0078】
各ビューについて、乗算法に関し、散乱及び総X線束STR(rD,vi)の割合は、次の式(15)によって与えることができる。
【0079】
【数15】
【0080】
散乱及び総X線束STR(rD,vi)の割合を使用して、補正され計測された総X線束φc,M,T(rD,vi)は、次の式(16)の畳み込み演算によって計算することができる。
【0081】
【数16】
【0082】
ここでφM,T(rD,vi)は、計測された総X線束である。散乱及び総X線束STR(rD,vi)の割合を計算するために上記で使用された散乱X線束φS,ASG(rD,vi)は、全てのビューについて方法200を使用して計算することが出来る。代わりに、方法200は、疎なビューについて散乱X線束φS,ASG(rD,vi)を計算するために使用することが出来、その場合に残りのビューは、シミュレートされた疎なビューから補間することが出来る。当該方法の利点は、補正され計測された総X線束φc,M,T(rD,vi)を決定するために畳み込みを使用することにより、補正された計測についての負の値が回避されることである。この様にして、この方法は単純且つロバストなのである。
【0083】
図7Aは、乗算法を使用するステップ160の一実施例のフローダイヤグラムを示している。ステップ710において、疎なビューに対応する散乱X線束は、方法100のステップ150から取得される。ステップ712において、残りのビューについての散乱X線束が疎なビュー散乱X線束から補間される。ステップ714において、散乱及び総X線束STR(rD,vi)の割合が計算される。代わりの実施例において、ステップ712から714までの順番は逆転することが出来、STRは疎なビューについて計算することが出来、更に全てのビューについてのSTRは疎なビューにわたるSTRから補間することが出来る。ステップ714において、畳み込みは、計測された総X線束であるφM,T(rD,vi)と散乱及び総X線束STR(rD,vi)の割合とから、補正され計測された総X線束φc,M,T(rD,vi)を計算するために、使用される。
【0084】
相加法は、上記で説明された乗算法を上回る、別の利点を有する。例えば、乗算法は、不都合なことに計測のノイズパターンを変えることがあり、逐次再構成が補正され計測された総X線束φc,M,T(rD,vi)を使用して実行される場合に画質に影響を与える。反対に、相加法は、ノイズパターンを変えることはない。それよりも、相加法は、シミュレートされた散乱X線束から補間をキャリブレートするために、スケール因子を使用する。つまり、スケール係数αは、シミュレートされたX線束と計測されたX線束との間で使用される。例えば、スケール係数αは、CTスキャン前に計測されたキャリブレーション法を使用して経験的に決定することが出来る。αが取得された後、φc,M,T(rD,vi)は、下記式(17)を使用して、計算することが出来る。
【0085】
【数17】
【0086】
乗算法の様に、相加法は、全てのビューについて散乱X線束をシミュレートするために、又は疎なビューについてのみ散乱X線束をシミュレートし且つその後残りのビューについて散乱X線束を補間するために、方法200を使用することも可能である。
【0087】
図7Bは、相加法を使用するステップ160の一実施例のフローダイヤグラムを示している。ステップ720において、疎なビューに対応する散乱X線束は、方法100のステップ150から取得される。ステップ722において、残りのビューについての散乱X線束は、疎なビュー散乱X線束から補間される。更にステップ722において、スケール係数αは、シミュレートされたX線束と計測されたX線束とを比較することで、決定される。ステップ724において、スケール係数αは、全てのビューについて散乱X線束へと適用され、スケーリングの後に、プライマリX線束を回復するために、散乱X線束が計測された投影データから差し引かれる。
【0088】
カーネルベースの方法は、シンプル且つ極めて効果的であるという二つの利点を有する。畳み込みカーネルベースの方法の不利な点は、確度が低下し、カーネルにおいて使用されたパラメータのキャリブレーションから生じる複雑性が追加されることである。その複雑性とは、被検体のCTスキャンに先ってシンプルなファントムについて実行された実験を含む、追加でのキャリブレーションステップを、多くの場合必要とする。
【0089】
例えば、一カーネルベースのモデルは、次の式(18)に示す二重ガウスのカーネルを使用する。
【0090】
【数18】
【0091】
ここで第一の項(つまり、係数A1を用いる)はレイリー散乱を、且つ第二の項(つまり、係数A2を用いる)はコンプトン散乱を、それぞれモデルとする。この順散乱モデルにおいて、散乱した放射S(x,y)は、次の式(19)によって与えられる。
【0092】
【数19】
【0093】
ここで散乱関数は、次の式(20)にて表現される。
【0094】
【数20】
【0095】
二重ガウスのカーネルにおいて、定数A1,A2,a1,a2は、ファントムを使用してキャリブレーションすることが出来る。
【0096】
図7Cは、カーネルベースの方法を使用するステップ160の一実施例のフローダイヤグラムを示している。ステップ730において、少ないビューに対応する散乱X線束は、方法100のステップ150から取得される。ステップ732において、カーネルパラメータは、カーネルベースの方法を使用する散乱シミュレーションとステップ730で取得された散乱X線束との間での一致を達成するために、アップデートされる。ステップ734において、アップデートされたカーネルパラメータを使用するカーネルベースの方法は、プライマリX線束を回復するために、計測された投影データへと適用される。
【0097】
方法200を使用するシミュレーションは、特定のキャリブレーションに取って代わり、またカーネルベースの散乱補正の確度を改善することが出来る。特定の実施例において、散乱補正実行は、上記での例として提供された二重ガウスのカーネルにおける係数A1,A2,a1,a2など、経験的に導出されたパラメータをより良く最適化するために、少ないビューにおけるRTEシミュレーション結果を使用するカーネルベースの方法を訓練することにより、改善される。特定の実施例において、カーネルベースの方法は、RTE法(例えば方法200)を使用して取得された散乱シミュレーションを使用して、訓練することが出来る。散乱シミュレーション結果は、少ないビューで取得することが出来、その場合にカーネルのパラメータは、例えば次の式(21)の解を見つけるために、コスト関数を最小化するよう調整することが出来る。
【0098】
【数21】
【0099】
ここでφk,S,ASG(dj,vi,p(vi))は、カーネル法を用いた散乱X線束であり、p(v)は、散乱カーネルについてのオープンパラメータ、そしてλU(p(vi))は罰則項である。二重ガウスのカーネル等、任意の適切なカーネルを、この方法について使用することが出来る。p(v)が決定された後に、訓練されたカーネル法は、スキャンにおけるその他のビューについて、又はその他のスキャンについてであっても、更なる散乱補正に対してその場合には使用することが出来る。
【0100】
次に、画像領域の外側領域についての被検体OBJから散乱X線束を明らかにするために、実施例が述べられる。例えば、係る実施例は、放射量を減らすため、画像誘導外科的手順の間等、狭い視野角(FOV)が度重なる撮像の間に選択される場合に、生じることがある。図8は、被検体OBJの一部分のみが画像化される場合について、スキャンされた被検体OBJを示す。患者に対する放射の照射を実際可能な範囲で出来るだけ低く保つため、撮像エリアでは放射の通常線量のみが使用される。しかし、画像エリアからの散乱は、撮像エリアの被検体OBJ外側の領域に到達する可能性があり、従って、検出器に対する非撮像エリアについても再散乱する可能性がある。つまり、散乱X線束の完全なモデルとは、撮像エリアの内側と外側との両方の散乱について明らかにすることなのである。
【0101】
例えば、現在のCTジオメトリ及びアプリケーションについて、患者は、CT多量のスタディに、又は、画像誘導医用手順等の場合、多重CTスキャン/画像に、又は、長い時間にわたる撮像に、照射されることがある。この様にして、患者への放射量を減らすために、FOVを減らす場合がある。しかし、上記で説明された通り、検出器は、非撮像エリア、つまり、スキャンについてのFOV外側に、やはり晒されることがあり、またやはりそこからの散乱X線束を収集することがあるものなのだ。このFOVの散乱外側について明らかにするために、オーバースキャンプロトコルは、撮像ボリュームの外側の低線量で投影データを収集するために使用することが出来、当該低線量投影データは、撮像エリア外側のスキャンされた被検体の画像を再構成するために使用することが出来、それにより散乱シミュレーションについてのモデルを改善する。つまり、図8に示されている通り、撮像エリアの両側に示されているのが、低線量領域である。
【0102】
更に、特定の実施例において、散乱シミュレーションは、撮像エリア周辺の付加的な低線量スキャニングを使用してか、それとも使用することなく、z方向に沿った画像ボリュームを拡大するアトラス情報を使用することにより、改善することが出来る。図示するために、撮像エリアの両側に対する低線量照射が無くても、生体構造の先験的知識により、撮像エリアのどちらかの側にある組織について、尤もらしい減衰密度及び散乱特性の補外を可能に出来る。
【0103】
上記で説明された選択肢と一緒に使用することも、又は代わりに使用することも出来る別の代替手段とは、被検体OBJのより完全なモデルを発展させるために、全身スカウトスキャニング情報(whole-body scount scanning information)を使用することである。例えば、CT又は蛍光透視鏡撮像を使用する長い手順において、手術又は豊富なスタディ等で、全身の初期CT画像は、患者への放射量を制限するために視野角が狭められた後であっても、散乱をシミュレートするために使用することが出来ることだろう。
【0104】
更に、RTE散乱シミュレーションは、患者の再構成画像を臓器へとセグメントすることにより、更に改善することが出来る。上記で言及した通り、スペクトル的に分解された投影データに基づいた物質弁別を、この処理について使用することが出来るが、臓器へとセグメントすることは、エネルギー分解型検出器よりも、又は、エネルギー分解型検出器に加えて、エネルギー積分型検出器を使用するCT投影データについても実行することが出来る。例えば、シンプルなHUしきい値は、再構成画像をセグメントするために使用することが出来る。
【0105】
位置x及びyでのボクセルが、HU(x,y)によって与えられる再構成画像を検討する。再構成画像HU(x,y)の領域は、二つ又はそれ以上の物質成分へと弁別することが出来る。特定の実施例において、物質1及び物質2の組み合わせについて合計でのX線減衰を描写する空間関数は、関数HU(x,y)によるハウンズフィールドユニットにおいてそれぞれ与えることが出来る。その場合に再構成画像HU(x,y)は、次の式(22)に係る二つの成分画像c1(x,y)及びc2(x,y)へとセグメントすることが出来る。
【0106】
【数22】
【0107】
定数HU1及びHU2は、完全なる第一の物質成分から混合物質への遷移(transition)と、その次に混合物質から完全なる第二の物質成分へと遷移を表す、個別のしきい値である。異なる散乱特性は、その場合に異なる物質成分に帰属する場合がある。
【0108】
特定の実施例において、非撮像領域において収集された画像は、散乱X線束が入り混じり、また非撮像領域における低線量が原因により、画質で劣ることがあるかもしれない。その結果、HUしきい値法では、非撮像領域における効果が弱い。従って、これらの非撮像領域を、物質成分数がずっと多いものへとセグメントするよりも寧ろ、空気や柔組織、骨等、少ない成分へとセグメントすることのみが、可能であるかもしれない。他方で、十分に高い信号対ノイズ比での領域において、柔組織は、柔組織領域を柔組織の特定のタイプへと区分化且つ細分化するために、アトラス支援での方法を組み込む等の、例えば高度なセグメンテーション戦略を使用して更に分類することが出来る。それにより、柔組織のタイプへと様々に関連付けられた異なる散乱断面積を明らかにする、より厳密な散乱シミュレーションを可能にする。
【0109】
上記で説明した通り、ここに説明される方法は、その他の散乱シミュレーション法及び補正法に勝る、利点をいくつか提供する。当該方法は、ボウタイフィルタ及びASG等、スキャンにおける変化しない要素の効果を明らかにするための効率的なメカニズムを提供する。当該方法は、とりわけ、複雑なジオメトリ及び多重物質を扱うことと、患者特有の散乱補正を実行することとに長けた、RTEシミュレーションを使用してCT投影データの散乱補正についての新たな方法/フレームワークを提供する。
【0110】
また特に当該方法を単純な畳み込み法と対比した場合に、当該方法は、効率性及び確度について、利点をいくつか提供する。モンテカルロ(MC)法と対比して、当該方法は、ショットノイズからの影響を受けない散乱シミュレーションを提供する。その他のRTEベースの方法と比較して、当該方法は、2パス散乱補正(two-pass scatter correction)を必要としない。また、上記で説明した通り、当該方法は、非撮像領域から検出器へと撥ね返る散乱について補正するために、非撮像領域へと拡がる散乱を明らかにするための、新たなスキャニングプロトコルを提供する。
【0111】
図9は、CT装置又はCTスキャナに含まれる放射線ガントリの実装を描いている。図9に図示される様に、放射線ガントリ500は側面から見て描かれており、X線管501、環状フレーム502、そして多列又は2次元アレイ型X線検出器503を更に含む。X線管501及びX線検出器503は、環状フレーム502上に被検体OBJを横切って正反対に取り付けられ、環状フレーム502は、回転軸RAの回りに回転可能に支持される。被検体OBJが図示された頁の奥の方向又は手前の方向の軸RAに沿って移動されながら、回転ユニット507は環状フレーム502を0.4秒/回転もの高速で回転させる。
【0112】
本発明に係るX線コンピュータ断層撮像(CT)装置の第一の実施形態は、付随する図面を参照しながら以下に説明される。X線CT装置は、様々なタイプの装置を含むことに留意されたい。具体的には、X線管とX線検出器とが検査される予定の被検体の周辺を一緒に回る回転/回転型装置と、そして多数の検出器素子がリング状又は水平状に配置されており、X線管のみが検査される予定の被検体の周辺を回る固定/回転型装置とがある。本発明は、いずれのタイプにも適用可能である。今回は、現在の主流である回転/回転型が例示される。
【0113】
マルチスライスX線CT装置は高電圧発生器509を更に含み、X線管501がX線を生成する様に、スリップリング508を通して、係る高電圧発生器509はX線管501に印加される管電圧を生成する。X線は、被検体OBJに向かって照射され、被検体OBJの断面領域が円で表される。例えば、第一のスキャンにわたる平均的なX線エネルギーを有するX線管501は、第二のスキャンにわたる平均的なX線エネルギーに比べてエネルギーが小さい。この様にして、二回以上のスキャンが、異なるX線エネルギーに対応して取得することが出来る。X線検出器503は、被検体OBJを通り抜けて伝播してきた照射X線を検出するために、被検体OBJを挟んでX線管501から反対側に位置する。X線検出器503は、個々の検出器素子又は検出器ユニットを更に含む。
【0114】
CT装置は、X線検出器503から検出された信号を処理するための、その他のデバイスを更に含む。データ収集回路又はデータ収集システム(DAS)504は、各チャンネルに対するX線検出器503から出力された信号を電圧信号に変換し、その電圧信号を増幅し、更にその電圧信号をデジタル信号へと変換する。X線検出器503及びDAS504は、1回転当たりの所定全投影数(TPPR)を処理するよう構成されている。
【0115】
上述のデータは、非接触データ送信装置505を通して、放射線ガントリ500外部のコンソール内に収容された、前処理デバイス506に送信される。当該前処理デバイス506は、ローデータに関して感度補正等、特定の補正を実行する。メモリ512は、再構成処理直前のステージで「投影データ」とも呼ばれる、結果データを格納する。メモリ512は、再構成デバイス514、入力デバイス515、ディスプレイ516と共に、データ/制御バス511を通して、システムコントローラ510に接続されている。システムコントローラ510は、CTシステムを駆動させるのに十分なレベルに達するまで電流を制限する、電流調整器513を制御する。
検出器は、どんな世代のCTスキャナシステムであっても、患者に対して回転される及び/又は固定される。一実行例において、上述のCTシステムは、第三世代ジオメトリシステムと第四世代ジオメトリシステムとが組み合わせられた例とすることが出来る。第三世代システムにおいて、X線管501とX線検出器503とは、環状フレーム502上に正反対に取り付けられ、環状フレーム502が回転軸RAの周りを回転する時に、被検体OBJの周りを回転する。第四世代ジオメトリシステムにおいて、検出器は患者の周辺に固定して取り付けられており、X線管は患者の周辺を回る。代替的な実施形態において、放射線ガントリ500は、Cアーム及びスタンドによって支持されている、環状フレーム502上に配置された多数の検出器を有する。
【0116】
メモリ512は、X線検出器ユニット503でX線照射量を示す計測値を格納することが出来る。更に、メモリ512は、CT画像再構成、物質弁別、そしてここで説明された方法100及び200を含む散乱予測や補正法を実行するための専用プログラムを格納することが出来る。
【0117】
再構成デバイス514は、ここで説明された方法100及び200を実行することが可能である。更に、再構成デバイス514は、必要に応じボリュームレンダリング処理や画像差処理など、前再構成画像処理を実行することが可能である。
【0118】
前処理デバイス506によって実行された投影データの前再構成処理は、例えば検出器キャリブレーション、検出器非直線性、極性効果についての補正を含むことが出来る。
【0119】
再構成デバイス514によって実行された後再構成処理は、画像フィルタリングや画像スムージング、ボリュームレンダリング処理、そして画像差処理を、必要に応じて含む場合がある。画像再構成処理は、フィルタ補正逆投影法、逐次画像再構成法、確率論的画像再構成法を使用して、実行することが出来る。再構成デバイス514は、メモリを使って、例えば投影データ、再構成画像、キャリブレーションデータやパラメータ、そしてコンピュータプログラムを格納することが出来る。
【0120】
再構成デバイス514は、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、又は複合プログラマブル論理デバイス(CPLD)等、個々の論理ゲートとして実行可能な、CPU(処理回路)を含むことが出来る。FPGA又はCPLD実行は、VHDL、ベリログ、又はその他ハードウェア記述言語でコード化することが出来、そして係るコードはFPGA又はCPLDにおいて直接電子メモリ内に格納することも出来るし、或いは個別の電子メモリとして格納することも出来る。更に、メモリ512は、ROM、EPROM、EEPROM(登録商標)、又はFLASHメモリなど、不揮発性メモリとすることが出来る。格納部512は、静的または動的RAMなど揮発性でよく、電子メモリ及びFPGAまたはCPLDと格納部との間の相互作用を管理するマイクロコントローラやマイクロプロセッサなどプロセッサが提供されていてもよい。
【0121】
代替的に、再構成デバイス514におけるCPUは、ここで説明された機能を実行するコンピュータ読み取り可能な命令のセットを含んでいるコンピュータプログラムを実行することが出来、係るコンピュータプログラムは、任意の上述の非一時的電子メモリ及び/又はハードディスクドライブ、CD、DVD、FLASHドライブ、又はその他任意の公知の格納媒体に格納されている。更に、コンピュータ読み取り可能な命令は、ユーティリティアプリケーション、バックグラウンドデーモン、又はオペレーティングシステムの構成要素、又はそれらの組み合わせで提供されてもよく、所定のオペレーティングシステムが一体となって実行する。更に、CPUは、指示を実行するために並行して協同的に動く、マルチプルプロセッサとして実行することが出来る。
【0122】
一実行例において、再構成画像は、ディスプレイ516上に映し出すことが出来る。係るディスプレイ516は、LCDディスプレイ、CRTディスプレイ、プラズマディスプレイ、OLED、LED、又は当業者には公知のその他ディスプレイとすることが出来る。
メモリ512は、ハードディスクドライブ、CD―ROMドライブ、DVDドライブ、FLASHドライブ、RAM、ROM、又は当業者には公知のその他格納メディアとすることが出来る。
【0123】
特定の実施例が述べられてきた一方で、これらの実行例は実例の方法のみで提示されており、開示の範囲を限定する意図はない。実に、ここで説明された新規の方法、装置及びシステムは、そのほかの様々な形態で具体化することが出来る。その上、ここで説明された方法、装置及びシステムの形態における様々な省略、置換、および変更は、本開示の趣旨から逸脱することなく行うことが出来る。
【符号の説明】
【0124】
500…放射線ガントリ、501…X線管、502…環状フレーム、503…X線検出器、504…データ収集システム、505…非接触データ送信装置、506…前処理デバイス、507…回転ユニット、508…スリップリング、509…高電圧発生器、510…システムコントローラ、511…データ/制御バス、512…格納部、513…電流調整器、514…再構成デバイス、515…入力デバイス、516…ディスプレイ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9