(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】延伸フィルム製造装置
(51)【国際特許分類】
B29C 55/12 20060101AFI20240617BHJP
B29C 48/19 20190101ALI20240617BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20240617BHJP
B29C 48/88 20190101ALI20240617BHJP
B29C 48/92 20190101ALI20240617BHJP
B29K 33/04 20060101ALN20240617BHJP
B29K 69/00 20060101ALN20240617BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20240617BHJP
【FI】
B29C55/12
B29C48/19
B29C48/305
B29C48/88
B29C48/92
B29K33:04
B29K69:00
B29L7:00
(21)【出願番号】P 2020016028
(22)【出願日】2020-02-03
【審査請求日】2021-10-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 智則
(72)【発明者】
【氏名】萩原 拓也
(72)【発明者】
【氏名】水沼 巧治
【合議体】
【審判長】神谷 健一
【審判官】本田 博幸
【審判官】関根 洋之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-134451(JP,A)
【文献】特開2009-149038(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141873(WO,A1)
【文献】特開2008-272983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C55/00-55/30
B29C48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向中央部に、溶融した第1の熱可塑性樹脂を投入して、当該第1の熱可塑性樹脂の幅方向両端側に、溶融した第2の熱可塑性樹脂を投入する投入部と、
前記投入部から投入された前記第1の熱可塑性樹脂及び前記第2の
熱可塑性樹脂を、第1のロール
と第2のロール
とが形成する第1の押付領域で押し付ける第1の押付部と、
前記第1の押付部によって押し付けられた前記第2の熱可塑性樹脂の、当該第1の押付部の幅方向両端側の第2の熱可塑性樹脂を、前記第1のロール
と前記第2のロール
とが前記第1の押付領域の両端
に形成する第2の押付領域で、前記第1の押付領域よりも低い押付力で押し付け
る第2の押付部と、
前記第1の熱可塑性樹脂及び前記第2の熱可塑性樹脂を、前記第1のロールと前記第2のロールとで押し付けた後で、当該第2のロールを挟んで前記第1のロールの反対側に配置された第3のロールとの間を通過させることによって冷却する冷却部と、
前記冷却部で冷却された前記第1の熱可塑性樹脂及び前記第2の熱可塑性樹脂で形成されたフィルムの両端の、前記第2の熱可塑性樹脂の領域を把持して、当該フィルムを、移動方向及び当該移動方向と直交する幅方向とに延伸する延伸部と、
を備える延伸フィルム製造装置。
【請求項2】
前記第1のロールの前記第2の押付領域は、当該第1のロールの直径が、両端部に向かって漸減するように形成される、
請求項1に記載の延伸フィルム製造装置。
【請求項3】
前記第1のロールの前記第2の押付領域は、当該第1のロールの前記第1の押付領域よりも径が小さい円筒面で形成される、
請求項1に記載の延伸フィルム製造装置。
【請求項4】
前記第1のロールの前記第1の押付領域は、クラウン加工される、
請求項2又は請求項3に記載の延伸フィルム製造装置。
【請求項5】
前記第1のロールを、当該第1のロールのロール軸を含む面で切断した際の、前記第1の押付領域の端部における当該第1の押付領域の接線の傾きと、前記第1のロールの前記第2の押付領域の傾きとは略等しい、
請求項2に記載の延伸フィルム製造装置。
【請求項6】
前記第1のロールは、金属剛体ロール又は弾性ロールである、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の延伸フィルム製造装置。
【請求項7】
前記第1のロールと、前記第2のロールと、前記第3のロールとは、内部に熱媒体を含む、
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の延伸フィルム製造装置。
【請求項8】
前記第1の熱可塑性樹脂はアクリル樹脂であり、
前記第2の熱可塑性樹脂はポリカーボネート樹脂である、
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の延伸フィルム製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチロールを用いた延伸フィルム製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルム等のフィルムは、厚み精度が重要になるため、タッチロール成形によって成膜するのが一般的である。
【0003】
そして、タッチロール成形によって成形されたフィルムは、両端をクリップで把持されて、移動方向(縦方向)と幅方向(横方向)とに延伸される。その際、フィルムの端部に応力が集中するため、裂け目が生じて、フィルムが破断するおそれがあった。
【0004】
そのため、例えば、特許文献1に記載された延伸フィルム製造装置は、成形するフィルムの端部に、補強となるポリカーボネート樹脂等を用いた端部多列フィルムを成形している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6377354号公報
【文献】特開平11-105131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、タッチロールの接触部において、フィルムの端部と中央部とでバンク(樹脂溜まり)の形成状態が異なるため、タッチロールによる押付工程や、冷却固化工程において、端部にシワや粗くなってしまう部分が発生していた。このようにして発生したシワや粗くなってしまう部分には、フィルムを延伸した際に応力が集中するため、破断の要因になっていた。そのため、特許文献1では、成形した端部多列フィルムを延伸する前に、当該フィルムの両端部の不均一な部分を除去するトリミング工程(平滑化工程)を設けていた。しかし、トリミング工程を行うのには手間がかかるとともに、トリミング作業処理に起因するフィルムの破断によって生産性が低下するおそれがあるという問題があった。
【0007】
また、特許文献2では、ロールで押し付けることなくフィルムを成形するオープン成形を行っていた。しかし、オープン成形によって成形されたフィルムは、厚み精度と表面の平滑性が、タッチロールで成形されたフィルムに劣るという問題があった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、延伸前にトリミング工程を設けなくても破断することなく、かつ端部にシワが発生せず、厚み精度の高い延伸フィルムの製造が可能な延伸フィルム製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る延伸フィルム製造装置は、幅方向中央部に、溶融した第1の熱可塑性樹脂を投入して、当該第1の熱可塑性樹脂の幅方向両端側に、溶融した第2の熱可塑性樹脂を投入する投入部と、前記投入部から投入された前記第1の熱可塑性樹脂及び前記第2の熱可塑性樹脂を、第1のロールと第2のロールとが形成する第1の押付領域で押し付ける第1の押付部と、前記第1の押付部によって押し付けられた前記第2の熱可塑性樹脂の、当該第1の押付部の幅方向両端側の第2の熱可塑性樹脂を、前記第1のロールと前記第2のロールとが前記第1の押付領域の両端に形成する第2の押付領域で、前記第1の押付領域よりも低い押付力で押し付ける第2の押付部と、前記第1の熱可塑性樹脂及び前記第2の熱可塑性樹脂を、前記第1のロールと前記第2のロールとで押し付けた後で、当該第2のロールを挟んで前記第1のロールの反対側に配置された第3のロールとの間を通過させることによって冷却する冷却部と、前記冷却部で冷却された前記第1の熱可塑性樹脂及び前記第2の熱可塑性樹脂で形成されたフィルムの両端の、前記第2の熱可塑性樹脂の領域を把持して、当該フィルムを、移動方向及び当該移動方向と直交する幅方向とに延伸する延伸部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る延伸フィルム製造装置は、延伸前にトリミング工程を設けなくても破断することなく、かつ端部にシワが発生せず、厚み精度の高い延伸フィルムの製造が可能である、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係る延伸フィルム製造装置の全体概要図。
【
図2】第1の実施形態に係る延伸フィルム製造装置が備える押付装置の側面図。
【
図4】第1の実施形態の変形例に係る延伸フィルム製造装置の押付部及び冷却部の上面図。
【
図5】第2の実施形態の変形例に係る延伸フィルム製造装置の押付部及び冷却部の上面図。
【
図6】第2の実施形態の変形例に係る延伸フィルム製造装置の押付部及び冷却部の上面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本開示に係る延伸フィルム製造装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易に想到できるもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0013】
(第1の実施形態)
[延伸フィルム製造装置の概略構成の説明]
まず、
図1を用いて第1の実施形態における延伸フィルム製造装置10の全体構成について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る延伸フィルム製造装置の全体概要図である。
【0014】
延伸フィルム製造装置10は、押付装置12と同時2軸延伸装置14とを備える。なお、延伸フィルム製造装置10は、フィルムを縦方向及び横方向に逐次延伸する逐次延伸装置を備えてもよい。以下の説明は、同時2軸延伸装置14を備えるものとして行う。
【0015】
押付装置12は、Tダイ24と、タッチロール20aと、No.2ロール21と、No.3ロール22と、搬送ロール23とを備える。
【0016】
Tダイ24は、フィルムの材料となる、非図示の押出機で溶融した熱可塑性樹脂(以下、溶融熱可塑性樹脂と呼ぶ)を、ロール面が当接した状態で回転しているタッチロール20aとNo.2ロール21との間に投入する。なお、Tダイ24は、本開示における投入部の一例である。
【0017】
タッチロール20aは、略円筒形状のロールであり、Tダイ24から投入された溶融熱可塑性樹脂を、No.2ロール21との間で挟み込むことによって押し付ける。タッチロール20aは、非図示の制御装置で制御される電動モータ25aによって回転駆動される。また、タッチロール20aは、非図示の制御装置で制御される、例えば油圧で制御されるシリンダとピストンを備える押圧力調整機26によって、No.2ロール21との押圧力を調整される。なお、タッチロール20aは、本開示における第1のロールの一例である。また、タッチロール20aの詳細な形状については後述する(
図4参照)。
【0018】
タッチロール20aの内部には、例えば冷却水や冷却油等の熱媒体(以下、熱媒と呼ぶ)が循環しており、溶融熱可塑性樹脂をNo.2ロール21との間に挟み込んで押し付けながら冷却する。
【0019】
No.2ロール21は、円筒形状のロールであり、Tダイ24から投入された溶融熱可塑性樹脂を、タッチロール20aとの間で挟み込むことによって押し付ける。No.2ロール21は、非図示の制御装置で制御される電動モータ25bによって回転駆動される。なお、No.2ロール21は、本開示における第2のロールの一例である。
【0020】
No.2ロール21の内部には、例えば冷却水や冷却油等の熱媒が循環しており、溶融熱可塑性樹脂をタッチロール20aとの間に挟み込んで押し付けながら冷却する。
【0021】
No.3ロール22は、円筒形状のロールであり、内部に、例えば冷却水や冷却油等の熱媒が循環している。No.3ロール22は、No.2ロール21を挟んでタッチロール20aの反対側に配置される(
図2参照)。No.3ロール22は、フィルム状に成形された溶融熱可塑性樹脂を、No.2ロール21との間に挟み込むことによって冷却する。No.3ロール22は、非図示の制御装置で制御される電動モータ25cによって回転駆動される。なお、No.3ロール22は、本開示における第3のロールの一例である。
【0022】
搬送ロール23は、円筒形状のロールであり、押し付けられて冷却されたフィルムSの移動方向を、同時2軸延伸装置14の入口1aの方向に向ける。
【0023】
同時2軸延伸装置14は、平面視で、左右両側に、フィルムSを把持する多数のクリップ30を有する無端ループ15Rと無端ループ15Lとを左右対称に有する。延伸対象のフィルムSは、入口1aから送り込まれて、延伸した状態で出口1bから排出される。なお、延伸対象のフィルムSの入口1a側から見て右側の無端ループを右側無端ループ15R、左側の無端ループを左側無端ループ15Lと呼ぶことにする。なお、フィルムSは、例えば、熱可塑性を有する樹脂フィルムである。なお、以後の説明のために、
図1に示す座標系XYZを設定する。X軸は、タッチロール20aと、No.2ロール21と、No.3ロール22と、搬送ロール23の軸方向、及びフィルムSの幅方向である。Y軸は、同時2軸延伸装置14におけるフィルムSの移動方向である。Z軸は、X軸及びY軸に直交する方向である。なお、同時2軸延伸装置14は、本開示における延伸部の一例である。
【0024】
クリップ30は、各々、長方形状のクリップ担持部材31の長手方向の一端部(入口1aと出口1bとの間で、互いに向かい合う位置)に取り付けられる。すなわち、向かい合う一対のクリップ30が、延伸対象物であるフィルムSの幅方向両端に配置されて、延伸対象物を把持する把持装置として機能する。
【0025】
クリップ担持部材31は、基準レール40に案内されてループ状に巡回移動する。右側無端ループ15Rは時計回り方向に巡回移動し、左側無端ループ15Lは反時計回り方向に巡回移動する。具体的には、クリップ担持部材31が備える非図示の駆動ローラが、駆動用スプロケット32、33に選択的に係合し、各クリップ担持部材31を巡回経路に沿って走行させる。つまり、駆動用スプロケット32、33は、各クリップ担持部材31の駆動ローラと選択的に係合し、電動モータによって回転駆動されて、各クリップ担持部材31を巡回経路に沿って走行させる力をクリップ担持部材31に与える。具体的には、2個の駆動用スプロケット33は、非図示の減速機によって減速された、電動モータ34の回転駆動力によって駆動される。2個の駆動用スプロケット32は、非図示の2台の減速機で逆方向に減速された、非図示の電動モータの回転駆動力によって、それぞれ駆動される。
【0026】
右側無端ループ15Rの基準レール40と、左側無端ループ10Lの基準レール40との間隔が大きくなると、フィルムSは横方向(X軸方向)に延伸される。
【0027】
隣接するクリップ担持部材31同士は、複数のリンクで構成されたクリップリンク機構35によって接続される。クリップリンク機構35は、ピッチ設定レール41に案内されて、クリップ担持部材31を連れ添ってループ状に巡回移動する。
【0028】
クリップリンク機構35は、基準レール40とピッチ設定レール41との間隔に応じて、隣接するクリップ担持部材31の間隔(以下、クリップピッチと呼ぶ)を設定する。クリップピッチが大きくなるほど、フィルムSは、幅方向と直交する方向、すなわち、クリップ担持部材31の移動方向である縦方向(Y軸方向)に延伸される。なお、
図1は、入口1aから送り込まれたフィルムSが、縦横2軸方向に延伸される様子を示している。図面をわかり易くするため、フィルムSを不連続に描いているが、実際には、フィルムSは入口1aから出口1bに亘って連続している。
【0029】
同時2軸延伸装置14は、フィルムSの入口1a側から出口1b側へ向けて、予熱ゾーンAと、延伸ゾーンBと、熱処理ゾーンCとを備える。
【0030】
予熱ゾーンAでは、左側無端ループ15Lと右側無端ループ15Rの基準レール40の間隔(離間距離)が横延伸初期幅相当に設定されて、全域に亘って左側無端ループ15Lと右側無端ループ15Rとが互いに平行に配置される。なお、左側無端ループ15Lと右側無端ループ15Rにおいて、基準レール40とピッチ設定レール41との間隔は、縦延伸初期ピッチ相当である。
【0031】
延伸ゾーンBでは、予熱ゾーンAの側から熱処理ゾーンCに向かうに従って左側無端ループ15Lと右側無端ループ15Rの離間距離が徐々に拡大され、左側無端ループ15Lと右側無端ループ15Rとが非平行に配置される。延伸ゾーンBにおける左側無端ループ15Lと右側無端ループ15Rの離間距離は、延伸開始端(予熱ゾーンAとの接続端)では横延伸初期幅相当になっており、延伸終了端(熱処理ゾーンCとの接続端)では横延伸最終幅相当に設定されている。すなわち、延伸ゾーンBでは、予熱ゾーンAの側から熱処理ゾーンCに向かうに従って、左側無端ループ15Lの基準レール40と、右側無端ループ15Rの基準レール40との間隔が徐々に拡大される。各基準レール40の間隔は、延伸開始端(予熱ゾーンAとの接続端)では横延伸の初期幅相当になっており、延伸終了端(熱処理ゾーンCとの接続端)では横延伸の最終幅相当になっている。
【0032】
さらに、延伸ゾーンBでは、予熱ゾーンAの側から熱処理ゾーンCに向かうに従って、左側無端ループ15Lにおける基準レール40とピッチ設定レール41との間隔が徐々に縮小される。そして、右側無端ループ15Rにおける基準レール40とピッチ設定レール41との間隔も同様に、徐々に縮小される。基準レール40とピッチ設定レール41との間隔は、延伸開始端(予熱ゾーンAとの接続端)では縦延伸初期ピッチ相当になっており、延伸終了端(熱処理ゾーンCとの接続端)では縦延伸最終ピッチ相当になっている。すなわち、同時2軸延伸装置14は、延伸ゾーンBにおいて、フィルムSに対して、縦延伸と横延伸とを同時に行う。
【0033】
熱処理ゾーンCでは、左側無端ループ15Lと右側無端ループ15Rの離間距離が横延伸最終幅相当に設定されて、全域に亘って左側無端ループ15Lと右側無端ループ15Rとが互いに平行に配置される。また、基準レール40とピッチ設定レール41との間隔は、縦延伸最終ピッチ相当に設定されて、全域に亘って基準レール40とピッチ設定レール41とは互いに平行な配置になっている。
【0034】
[押付装置の詳細構成の説明]
次に、
図2、
図3を用いて、溶融熱可塑性樹脂を押し付ける押付装置12の詳細構成を説明する。
図2は、第1の実施形態に係る延伸フィルム製造装置が備える押付装置の側面図である。
図3は、押付部及び冷却部の上面図である。
【0035】
Tダイ24からZ軸下方に向かって投入される溶融熱可塑性樹脂28は、
図3に示すように、中央部にアクリル樹脂28aが配置されて、両端部にポリカーボネート樹脂28bが配置された多列構造を有する。
【0036】
投入された溶融熱可塑性樹脂28は、回転軸27aの周りに時計回り(
図2の矢印K1方向)に回転するタッチロール20aと、回転軸27bの周りに反時計回り(
図2の矢印K2方向)に回転するNo.2ロール21との接触面に進入する。タッチロール20aは、押圧力調整機26によって、No.2ロール21に向かって押圧されるため、溶融熱可塑性樹脂28は、タッチロール20aとNo.2ロール21とによって挟み込まれて押し付けられる。
【0037】
なお、溶融熱可塑性樹脂28は、タッチロール20aの内部を循環する熱媒と、No.2ロール21の内部を循環する熱媒とによって冷却される。これらの熱媒は、溶融熱可塑性樹脂28のガラス転移点近傍の温度に制御される。そして、タッチロール20aの内部を循環する熱媒よりも、No.2ロール21の内部を循環する熱媒を、若干高い温度に設定することによって、タッチロール20aとNo.2ロール21とによって押し付けられた溶融熱可塑性樹脂28は、温度がより高いNo.2ロール21の表面(ロール面)に連れ添って、Y軸正方向に移動する。
【0038】
その後、溶融熱可塑性樹脂28は、No.2ロール21と、回転軸27cの周りに時計回り(矢印K3方向)に回転するNo.3ロール22とによって挟み込まれて冷却される。なお、No.3ロール22の内部を循環する熱媒の方が、No.2ロール21の内部を循環する熱媒よりも高い温度に設定されるため、No.2ロール21とNo.3ロール22とに挟み込まれた溶融熱可塑性樹脂28(フィルムS)は、温度がより高いNo.3ロール22の表面(ロール面)に連れ添って、Y軸正方向に移動する。
【0039】
以上の各工程を経て、投入された溶融熱可塑性樹脂28からフィルムSが成形される。
【0040】
なお、本実施の形態における延伸フィルム製造装置10は、フィルムSの幅方向両端がポリカーボネート樹脂で形成されて、幅方向中央部がアクリル樹脂で形成された端部多列フィルムを製造する。一般に、ポリカーボネート樹脂はアクリル樹脂よりも強度が大きい。したがって、成形されたフィルムSの、ポリカーボネート樹脂で形成された幅方向両端部を、同時2軸延伸装置14が備える、前記したクリップ30で把持して、フィルムSの移動方向及び幅方向に延伸させた場合であっても、フィルムSを破断させることなく、所定の倍率で、縦方向及び横方向に延伸させることができる。
【0041】
[押付装置の作用の説明]
続いて、
図3を用いて、押付装置12の作用を説明する。タッチロール20aのロール面のうち、中央部の中央ロール面50aは、クラウン加工されている。一般にロールを押し付けた際に、ロール自身の撓みが原因で押付力が低下する場合がある。押付力を均一にしたい場合に、ロールの中央部をロールの端部に対して太くする加工を行う。これがクラウン加工である。そして、クラウン加工によって形成されたロールの回転軸を含む断面は、クラウン曲線と呼ばれる2次曲線、4次曲線、sin曲線等の曲線形状を呈する。そして、中央ロール面50aは、円筒状のロール面21aを有するNo.2ロール21に押し付けられて、第1の押付部60を形成する。本実施の形態では、アクリル樹脂28aとポリカーボネート樹脂28bの一部が、第1の押付部60において、タッチロール20aの中央ロール面50aとNo.2ロール21のロール面21aとに押し付けられる。なお、中央ロール面50a及び中央ロール面50aに対向するロール面21aは、本開示における第1の押付領域の一例である。
【0042】
また、タッチロール20aのロール面のうち、両端側の端部ロール面50b,50cは、タッチロール20aの直径が、当該タッチロール20aの両端部に向かって漸減するテーパー状に加工されている。そして、端部ロール面50b,50cは、No.2ロール21のロール面21aに押し付けられて、第1の押付部60の両端側に第2の押付部61を形成する。本実施の形態では、ポリカーボネート樹脂28bの一部が、第2の押付部61において、第1の押付部60における押付力よりも低い押付力で、タッチロール20aの端部ロール面50b,50cとNo.2ロール21のロール面21aとに押し付けられる。そのため、第2の押付部61におけるポリカーボネート樹脂28bの厚さは、第1の押付部60によって押し付けられたアクリル樹脂28a及びポリカーボネート樹脂28bの厚さよりも厚く成形される。例えば、第1の押付部60で成形されるフィルムSの厚さに対して、第2の押付部61では、フィルムSが50μm程度厚く成形される。なお、端部ロール面50b,50c及び端部ロール面50b,50cに対向するロール面21aは、本開示における第2の押付領域の一例である。
【0043】
図3に、タッチロール20aの中央ロール面50aと端部ロール面50cの拡大図を示すが、クラウン加工された中央ロール面50aは、当該中央ロール面50aの端部において、接線の傾きが角度θ1を有する。そして、テーパー加工された端部ロール面50cは、当該端部ロール面50cの傾きが角度θ2を有する。そして、押付装置12において、角度θ2と角度θ1とは略等しくなるように加工される。このように、θ1≒θ2となるように加工することによって、クラウン加工された従来のタッチロールの断面形状と近似させることができるため、タッチロール20aの幅方向の押圧力を均一にすることができる。
【0044】
タッチロール20aとNo.2ロール21とで押し付けられた溶融熱可塑性樹脂28は、続いて、No.2ロール21のロール面21aとNo.3ロール22のロール面22aとで形成される冷却部62を通過することによって冷却される。ここでは、溶融熱可塑性樹脂28を冷却するために、No.2ロール21のロール面21a、及びNo.3ロール22のロール面22aに、溶融熱可塑性樹脂28を接触させてもよいし、ロール面21aとロール面22aとの間を通過させるだけでもよい。なお、No.2ロール21のロール面21aとNo.3ロール22のロール面22aとは、ともに円筒面であるのが好ましい。
【0045】
No.2ロール21のロール面21aとNo.3ロール22のロール面22aとで冷却された溶融熱可塑性樹脂28は、No.3ロール22から、フィルムSとして排出される。フィルムSには、
図3に示すように、第1の押付部60で高い押付力で押し付けられた領域Saと、第2の押付部61で低い押付力で押し付けられた領域Sb,Scとが形成される。本実施形態の場合、領域Saは、アクリル樹脂28a及びポリカーボネート樹脂28
bで形成されて、領域Sb,Scは、ポリカーボネート樹脂28
bで形成される。そして、フィルムSは、前記した搬送ロール23(
図2参照)でガイドされて、同時2軸延伸装置14の入口1aに送り込まれる。
【0046】
同時2軸延伸装置14に送り込まれたフィルムSは、ポリカーボネート樹脂28
bによって形成された幅方向(X軸方向)両端の領域が、クリップ30(
図1参照)に把持されて、移動方向(Y方向)及び幅方向に延伸される。
【0047】
なお、タッチロール20aは、表面平滑性及び厚さ均一性の観点から金属剛体ロールであるのが好ましい。そして、中央ロール面50a及び端部ロール面50b,50cには、HCr(ハードクロムメッキ)加工によって、高硬度の皮膜が形成されている。また、タッチロール20aは、金属弾性ロール等の弾性ロールであってもよい。
【0048】
また、
図3では、タッチロール20aのロール面の両端部をテーパー状に加工して、タッチロール20aのロール面の中央部をクラウン加工した例を説明したが、タッチロール20aを円筒状に成形して、No.2ロール21を、
図3のタッチロール20aと同じ形状に成形しても、同様の効果が得られる。しかし、No.2ロール21にテーパー加工を行うと、No.2ロール21とNo.3ロール22との密着性が低下するため、溶融熱可塑性樹脂28の冷却性能が低下する可能性がある。そのため、テーパー加工は、タッチロール20a側に行うのが好ましい。また、No.2ロール21は取り外すことができないため、ロール清掃装置を取り付けて清掃する。No.2ロール21がテーパー加工されていると、ロール清掃装置を取り付ける際にクリーナーの接触が弱く、拭き残しや拭きムラが生じるおそれがあるため、No.2ロール21は幅方向に亘ってフラットであるのが好ましい。
【0049】
以上説明したように、延伸フィルム製造装置10において、タッチロール20a(第1のロール)の中央ロール面50a(第1の押付領域)とNo.2ロール21(第2のロール)のロール面21a(第1の押付領域)とで形成される第1の押付部60は、Tダイ24(投入部)から投入されたアクリル樹脂28a(第1の熱可塑性樹脂)を高い押付力で押し付ける。そして、タッチロール20a(第1のロール)の端部ロール面50b,50c(第2の押付領域)とNo.2ロール21(第2のロール)のロール面21a(第2の押付領域)とで形成される第2の押付部61は、Tダイ24(投入部)から、アクリル樹脂28aの幅方向両端側に投入されたポリカーボネート樹脂28b(第2の熱可塑性樹脂)を、第1の押付領域よりも低い押付力で押し付ける。さらに、冷却部62は、アクリル樹脂28aとポリカーボネート樹脂28bとをNo.2ロール21(第2のロール)とNo.3ロール22(第3のロール)とで挟み込むことによって冷却する。そして、同時2軸延伸装置14(延伸部)は、冷却部62で冷却された、アクリル樹脂28a及びポリカーボネート樹脂28bで形成されたフィルムSの両端の、ポリカーボネート樹脂28bの領域を把持して、当該フィルムSを、移動方向及び当該移動方向と直交する幅方向とに延伸する。したがって、フィルムSを延伸した際に応力が集中する部位が形成されないため、延伸前にトリミング工程を設ける必要がない。また、熱可塑性樹脂の端部は低い圧力で押し付けられるため、シワの発生が抑えられるとともに、フィルムSの端部のポリカーボネート樹脂28bは、アクリル樹脂28aと比べて強度が大きいため、延伸時に破断することがない。したがって、厚み精度の高い延伸フィルムを製造することができる。なお、トリミング工程が不要になるため、装置の省工程化、省スペース化が可能になるとともに、トリミング工程で除去したフィルムの処理工程も不要になる。更に、端部に成形するポリカーボネート樹脂28bの使用量が必要最小限で済むため、歩留まりが向上する。
【0050】
また、延伸フィルム製造装置10において、タッチロール20a(第1のロール)の端部ロール面50b,50c(第2の押付領域)は、タッチロール20aの直径が、両端部に向かって漸減するように形成される。したがって、投入された溶融熱可塑性樹脂28は、第2の押付領域において、第1の押付領域よりも低い押付力で押し付けられる。これによって、フィルムSの両端部を中央部よりも厚く成形することができる。
【0051】
また、延伸フィルム製造装置10において、タッチロール20a(第1のロール)の第1の押付部60は、クラウン加工される。したがって、第1の押付部60において、タッチロール20aをNo.2ロール21(第2のロール)に対して、確実に押し付けることができる。
【0052】
また、延伸フィルム製造装置10において、タッチロール20a(第1のロール)を、当該タッチロール20aのロール軸を含む面で切断した際の、中央ロール面50a(第1の押付領域)の端部における当該中央ロール面50aの接線の傾きと、タッチロール20aの端部ロール面50b、50c(第2の押付領域)の傾きとは略等しい。したがって、クラウン加工された従来のタッチロールの断面形状と近似させることができるため、タッチロール20aの幅方向の押圧力を均一にすることができる。
【0053】
また、延伸フィルム製造装置10において、タッチロール20a(第1のロール)は、金属剛体ロール又は弾性ロールである。したがって、第1の押付部60において、溶融熱可塑性樹脂28を確実に押し付けることができる。
【0054】
また、延伸フィルム製造装置10において、タッチロール20a(第1のロール)と、No.2ロール21(第2のロール)と、No.3ロール22(第3のロール)とは、内部に熱媒体を含む。したがって、投入された溶融熱可塑性樹脂28を確実に冷却することができる。
【0055】
また、延伸フィルム製造装置10において、第1の熱可塑性樹脂はアクリル樹脂であり、第2の熱可塑性樹脂はポリカーボネート樹脂である。したがって、フィルムSの端部を、シワや粗い部分を生じさせることなく補強することができる。
【0056】
[第1の実施形態の変形例]
次に、
図4を用いて、第1の実施形態の変形例を説明する。
図4は、第1の実施形態の変形例に係る延伸フィルム製造装置の押付部及び冷却部の上面図である。
【0057】
本実施形態は、第1の実施形態におけるタッチロール20aの代わりに、タッチロール20bを用いた例である。タッチロール20bは、中央ロール面50d(第1の押付領域)がクラウン加工されておらず、円筒面を形成する。
【0058】
タッチロール20bは、No.2ロール21に押し付けられることによって、投入された溶融熱可塑性樹脂28からフィルムSを成形する。その際、中央部のアクリル樹脂28a及びポリカーボネート樹脂28bの一部は高い押付力で押し付けられて、両端部のポリカーボネート樹脂28bは低い押付力で押し付けられる。そのため、第1の実施形態と同様に、両端部のポリカーボネート樹脂28bは、中央部のアクリル樹脂28aに比べて厚く成形される。
【0059】
(第2の実施形態)
次に、
図5を用いて、本開示の第2の実施形態を説明する。
図5は、第2の実施形態の変形例に係る延伸フィルム製造装置の押付部及び冷却部の上面図である。
【0060】
本実施形態は、第1の実施形態におけるタッチロール20aの代わりに、タッチロール20cを用いた例である。タッチロール20cは、端部ロール面50b,50c(
図3参照)の代わりに、端部ロール面50e,50fを備える。端部ロール面50e,50fは、クラウン加工された中央ロール面50aに対して、径が小さい円筒面を形成する。即ち、中央ロール面50aと端部ロール面50e,50fとの間には、段差が形成される。
【0061】
タッチロール20cをNo.2ロール21に押し付けると、タッチロール20cの中央ロール面50aは、No.2ロール21のロール面21aに押し付けられて、第1の押付部60を形成する。また、タッチロール20cの端部ロール面50b,50cは、No.2ロール21のロール面21aに押し付けられて、第2の押付部61を形成する。
【0062】
このとき、第1の押付部60は高い押付力で押し付けられて、第2の押付部61は低い押付力で押し付けられる。したがって、溶融熱可塑性樹脂28の両端部のポリカーボネート樹脂28bの一部(領域Sb,Sc)は、中央部のアクリル樹脂28a及びポリカーボネート樹脂28bの一部(領域Sa)に比べて厚く成形される。
【0063】
[第2の実施形態の変形例]
次に、
図6を用いて、第2の実施形態の変形例を説明する。
図6は、第2の実施形態の変形例に係る延伸フィルム製造装置の押付部及び冷却部の上面図である。
【0064】
本実施形態は、第2の実施形態におけるタッチロール20cの代わりに、タッチロール20dを用いた例である。タッチロール20dは、中央ロール面50d(第1の押付領域)がクラウン加工されておらず、円筒面を形成する。
【0065】
タッチロール20dは、No.2ロール21に押し付けられることによって、投入された溶融熱可塑性樹脂28からフィルムSを成形する。その際、中央部のアクリル樹脂28a及びポリカーボネート樹脂28bの一部(領域Sa)は高い押付力で押し付けられて、両端部のポリカーボネート樹脂28bの一部(領域Sb,Sc)は低い押付力で押し付けられる。そのため、第2の実施形態と同様に、両端部のポリカーボネート樹脂28bの一部は、中央部のアクリル樹脂28a及びポリカーボネート樹脂28bの一部に比べて厚く成形される。
【0066】
以上説明したように、延伸フィルム製造装置10において、タッチロール20c(第1のロール)端部ロール面50e,50f(第2の押付領域)は、タッチロール20cの中央ロール面50a(第1の押付領域)よりも径が小さい円筒面で形成される。したがって、投入された溶融熱可塑性樹脂28は、第2の押付領域において、第1の押付領域よりも低い押付力で押し付けられる。これによって、フィルムSの両端部を中央部よりも厚く成形することができる。
【符号の説明】
【0067】
10…延伸フィルム製造装置、12…押付装置(第1の押付部、第2の押付部、冷却部)、14…同時2軸延伸装置(延伸部)、15L…左側無端ループ、15R…右側無端ループ、20a,20b,20c,20d…タッチロール(第1のロール)、21…No.2ロール(第2のロール)、21a…ロール面(第1の押付領域、第2の押付領域)、22…No.3ロール(第3のロール)、22a…ロール面、23…搬送ロール、24…Tダイ(投入部)、25a,25b,25c…電動モータ、28…溶融熱可塑性樹脂、28a…アクリル樹脂(第1の熱可塑性樹脂)、28b…ポリカーボネート樹脂(第2の熱可塑性樹脂)、30…クリップ、31…クリップ担持部材、35…クリップリンク機構、40…基準レール、41…ピッチ設定レール、50a,50d…中央ロール面(第1の押付領域)、50b,50c,50e,50f…端部ロール面(第2の押付領域)、60…第1の押付部、61…第2の押付部、62…冷却部、A…予熱ゾーン、B…延伸ゾーン、C…熱処理ゾーン、S…フィルム、Sa,Sb,Sc…領域