(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】歩行支援装置、歩行支援装置の制御方法及びそのプログラム
(51)【国際特許分類】
A61H 3/00 20060101AFI20240617BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
A61H3/00 B
A61B5/11 230
(21)【出願番号】P 2020021038
(22)【出願日】2020-02-10
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000143639
【氏名又は名称】株式会社今仙電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100129676
【氏名又は名称】▲高▼荒 新一
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【氏名又は名称】江口 基
(72)【発明者】
【氏名】清原 武彦
(72)【発明者】
【氏名】林 真理子
【審査官】今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-034478(JP,A)
【文献】特開2019-051243(JP,A)
【文献】特開2015-062654(JP,A)
【文献】特開2006-056312(JP,A)
【文献】実開平01-076655(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/00
A61H 1/02
A61B 5/11
A63B 71/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行者の股関節の動きを検出し、歩行者の歩行に関する情報を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出された前記股関節の動きに関する情報に基づいて前記股関節の作動角度範囲を算出し、歩行パターン
及び歩行の際の1サイクルに要する時間を算出する歩行パターン算出手段と、
放音手段と、前記股関節の作動角度範囲と予め定められた基準作動角度範囲との比較結果に基づいて、放音手段から放音される音を制御する制御手段と、
を備え、
歩行者の身長や年齢を元に算出した歩行状態を示す指標又は歩行者が予め設定した目標とする歩行状態を示す指標から歩行の際の1サイクルに要する時間
を設定した基準単位周期時間分の
制御ユニットに予め記憶された音声データの音声波形を抽出し、
所定の基準角速度の値で分割し、
前記検出手段で検出された前記歩行に関する情報から算出した対応する角速度に基づいて分割された音データを、
角速度が基準角速度よりも早い場合には音データを短縮し、角速度が基準角速度よりも遅い場合には、音データを伸張するように補正した音データを放音し、
前記
検出手段で検出した歩行パターンによる1サイクルに要する時間である単位周期時間が基準単位周期時間よりも長い場合には
音データの前方側の一部のみが放音され、
一方、単位周期時間が基準単位周期時間よりも短い場合には、放音された後に無音の時間が発生することにより、単位周期時間が基準単位周期時間よりも早いか遅いかを聴覚的に報知することができることを特徴とする歩行支援装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記股関節の作動角度範囲が前記基準作動角度範囲よりも広いと判定した場合には、前記音が放音されない時間を設けることを特徴とする、
請求項1に記載の歩行支援装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記股関節の作動角度範囲が前記基準作動角度範囲よりも狭いと判定した場合には、前記音の一部を放音することを特徴とする、
請求項1又は2に記載の歩行支援装置。
【請求項4】
前記検出手段は、前記歩行に関する情報として、歩行者の股関節の動きを検出し、
前記歩行パターン算出手段は、前記検出手段で検出された前記股関節の動きに関する情報に基づいて前記股関節の角速度を算出し、
前記股関節の角速度と予め定められた基準角速度との比較結果に基づいて、前記音を制御することを特徴とする、
請求項1から3のいずれか1項に記載の歩行支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行支援装置、歩行支援装置の制御方法及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歩行速度・走行速度を歩行者・走行者に知らせる支援装置が知られている。例えば、特許文献1には、ランニングトラックに沿って所定の間隔で設置されたランプ群、ランナーが身につけていてランナーの心拍又は脈拍を計測してその値を送信するパルス針、及び、パルス針から送信された信号を受信してその値と心拍又は脈拍値設定装置の出力値とを比較して、比較結果に基づいてランプ群のランプ間の点滅位相差を増減するランプ点滅制御装置からなることを特徴とするランニングペースメーカーシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のランニングペースメーカーシステムでは、大がかりなシステムが必要となり、携帯性が無く、一人で使用することは難しいという課題がある。
【0005】
一方、スマートフォン等の携帯型情報端末の普及に伴い、音楽のリズムに合わせて歩行するように誘導する携帯端末を利用した歩行管理デバイスが知られている。この歩行管理デバイスでは、携帯型情報端末に備えられた加速度センサを用いることで、リズムに合わせて歩けているか、歩数、消費カロリーなどを計測するなどの機能を有するが、携帯型情報端末を見なければ自分の状態を把握することができないため、「ながらスマホ」といわれる社会問題を誘発する原因にもなりかねない。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、再生される音声データにより、正しい歩行への改善や正しい歩行の維持を促すことができる歩行支援装置を提供することを主目的とする。また、このような歩行支援装置の制御方法及びその制御プログラムを提供することも目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の目的の少なくとも一つを達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明の歩行支援装置は、
歩行者の歩行に関する情報を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出された前記歩行に関する情報から歩行パターンを算出する歩行パターン算出手段と、
前記歩行に関する情報から予め定められた基準歩行パターンと、前記歩行パターン算出手段が算出した歩行パターンと、を比較し、比較結果に基づいて放音手段から放音される音を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする、
ものである。
【0009】
この歩行支援装置では、歩行者の歩行に関する情報を検出手段で検出し、この歩行に関する情報から歩行パターン算出手段で歩行パターンを算出する。この歩行パターンと歩行に関する情報から予め定められた基準歩行パターンとを比較し、比較結果に基づいて放音手段から放音される音を制御することで、放音手段から放音される音により、基準歩行パターンと歩行パターンとの比較結果を報知することができる。例えば、基準歩行パターンを理想的な歩行パターンとした場合には、現在の歩行パターンとのずれを音により報知することで、理想的な歩行パターンと現在の歩行パターンが異なっていることを報知することができる。なお、ここで「歩行パターン」とは、股関節の作動角度範囲、股関節の角速度、歩幅の広さ、左右の歩幅の広さのバランス、歩行速度、左足の速度と右足の速度とのバランス、歩行する際のリズム等、歩行状態を示す指標を意味し、「基準歩行パターン」とは、歩行者の身長や年齢を元に算出した歩行状態を示す指標や、歩行者が予め設定した目標とする歩行状態を示す指標を意味し、股関節の作動角度範囲とは、歩行する際に股関節の角度が変化する範囲を意味するものとする。
【0010】
本発明の歩行支援装置において、前記検出手段は、前記歩行に関する情報として、歩行者の股関節の動きを検出し、前記歩行パターン算出手段は、前記検出手段で検出された前記股関節の動きに関する情報に基づいて前記股関節の作動角度範囲を算出し、前記股関節の作動角度範囲と予め定められた基準作動角度範囲との比較結果に基づいて、前記音を制御することを特徴としてもよい。股関節の作動角度範囲の大きさは歩幅の広さと関連性が高いため、基準作動角度範囲と股関節の作動角度範囲との比較結果に基づいて放音される音を制御することにより、基準作動角度範囲と実際の股関節の作動角度範囲との違い、すなわち、基準となる歩幅と実際の歩幅との違いを聴覚から認識することができる。
【0011】
本発明の歩行支援装置において、前記制御手段は、前記股関節の作動角度範囲が前記基準作動角度範囲よりも広いと判定した場合には、前記音が放音されない時間を設けることを特徴としてもよい。こうすることにより、音が放音されない無音の時間によって、股関節の作動角度範囲が基準作動角度範囲より広いこと、すなわち、歩幅が基準となる歩幅より広いことを聴覚から認識することができる。
【0012】
本発明の歩行支援装置において、前記制御手段は、前記股関節の作動角度範囲が前記基準作動角度範囲よりも狭いと判定した場合には、前記音の一部を放音することを特徴としてもよい。こうすることにより、本来聞こえるはずの音の一部が聞こえなくなることにより、股関節の作動角度範囲が基準作動角度範囲よりも狭いこと、すなわち、歩幅が基準となる歩幅より狭いことを聴覚から認識することができる。
【0013】
本発明の歩行支援装置において、前記検出手段は、前記歩行に関する情報として、歩行者の股関節の動きを検出し、前記歩行パターン算出手段は、前記検出手段で検出された前記股関節の動きに関する情報に基づいて前記股関節の角速度を算出し、前記股関節の角速度と予め定められた基準角速度との比較結果に基づいて、前記音を制御することを特徴としてもよい。股関節の角速度は一歩一歩踏み出す際の足の運びの速度と関連性が高いため、基準角速度と股関節の角速度との比較結果に基づいて放音される音を制御することにより、基準角速度と実際の股関節の角速度との違い、すなわち、基準となる一歩一歩踏み出す際の足の運びの速度と実際の一歩一歩踏み出す際の足の運びの速度との違いを聴覚から認識することができる。
【0014】
この態様を採用した本発明の歩行支援装置において、前記制御手段は、前記股関節の角速度が前記基準角速度よりも速いと判定した場合には、放音される音の速度を加速し、前記股関節の角速度が前記基準角速度より遅いと判定した場合には、放音される音の速度を減速することを特徴としてもよい。こうすることにより、放音される音の速度により、現在の股関節の角速度、すなわち、一歩一歩踏み出す際の足の運びの速度を聴覚から認識することができる。
【0015】
本発明の歩行支援装置の制御方法は、
歩行者の歩行に関する情報を検出する検出手段と、前記検出手段で検出された前記歩行に関する情報から歩行パターンを算出する歩行パターン算出手段と、前記歩行に関する情報から予め定められた基準歩行パターンと、前記歩行パターン算出手段が算出した歩行パターンと、を比較し、比較結果に基づいて放音手段から放音される音を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする歩行支援装置を制御する制御方法であって、
前記歩行に関する情報を検出する検出ステップと
前記検出ステップで検出された前記歩行に関する情報から歩行パターンを算出する歩行パターン算出ステップと、
前記歩行に関する情報から予め定められた基準歩行パターンと、前記歩行パターン算出手段が算出した歩行パターンと、を比較し、比較結果に基づいて放音手段から放音される音を制御する音制御ステップと、
を含むことを特徴とする、
ものである。
【0016】
この歩行支援装置の制御方法では、歩行者の歩行に関する情報を検出ステップで検出し、この歩行に関する情報から歩行パターン算出ステップで歩行パターンを算出する。この歩行パターンと歩行に関する情報から予め定められた基準歩行パターンとを比較し、比較結果に基づいて放音手段から放音される音を制御することで、放音手段から放音される音により、基準歩行パターンと歩行パターンとの比較結果を報知することができる。例えば、基準歩行パターンを理想的な歩行パターンとした場合には、現在の歩行パターンとのずれを音により報知することで、理想的な歩行パターンと現在の歩行パターンが異なっていることを報知することができる。
【0017】
本発明の歩行支援装置の制御方法において、歩行支援装置の制御方法は上述したいずれかの歩行支援装置が備えている各構成を備えていてもよいし、また、上述したいずれかの歩行支援装置の機能を実現するようなステップを追加してもよい。
【0018】
本発明のプログラムは、歩行支援装置の制御方法の各ステップを1又は2以上のコンピュータに実行させるためのプログラムである。このプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体(例えば、ハードディスク、ROM、CD、DVD、フラッシュメモリなど)に記録されていても良いし、伝送媒体(インターネットや有線/無線LANなどの通信網)を介してあるコンピュータから別のコンピュータへ送信されても良いし、その他どのような形で授受されても良い。また、制御方法の各ステップを実行する装置で実行されるものであっても、プログラムが実行される装置と処理が行われる装置とが異なっていてもよい。いずれの場合であっても、このプログラムを1つのコンピュータに実行させるか又は複数のコンピュータに各ステップを分担して実行させれば、上述した制御方法と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、歩行支援装置20の構成の概略を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、歩行支援装置20の電気的接続を説明するためのブロック図である。
【
図3】
図3は、音制御処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態の一例である歩行支援装置20について詳しく説明する。以下に説明する実施の形態及び図面は、本発明の実施形態の一部を例示するものであり、これらの構成に限定する目的に使用されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。なお、各図において対応する構成要素には同一又は類似の符号を付す。また、歩行支援装置20の制御方法の一例を示すことで、本発明の歩行支援装置の制御方法の一例を明らかにする。
【0021】
本発明の実施の形態の一例である歩行支援装置20は、
図1に示すように、使用者の腰部に装着される腰部装着部材30と、使用者の大腿部に装着される大腿部装着部材40と、を備え、腰部装着部材30と大腿部装着部材40とは、
図2に示すように、互いに電気的に接続されている。こうすることにより、大腿部装着部材40に設けられた観測センサ42(本発明の検出手段に相当)で計測した測定情報が送信手段44から腰部装着部材30に設けられた受信手段32に送信される。受信手段32から制御ユニット50(本発明の制御手段に相当)に測定情報が伝えられると、測定情報に基づいて制御ユニット50がスピーカ34(本発明の放音手段に相当)から放音される音を制御する。こうすることにより、測定情報に基づいて、スピーカ34から放音される音を制御することができる。
【0022】
腰部装着部材30は、使用者の腰部に装着する部材であり、図示しないフックまたは図示しないベルト等により、使用者の腰部に装着される。この腰部装着部材30には、大腿部装着部材40に設けられた送信手段44から送信された各種信号を受信する受信手段32と、予め記憶された音データを再生するスピーカ34と、受信手段32で受信した各種信号に基づいてスピーカ34から再生される音を制御する制御ユニット50と、が設けられている。この腰部装着部材30は、大腿部装着部材40から送信された各種信号に基づいてスピーカ34から放音される音を制御ユニット50が制御することにより、使用者の歩行状況に基づいてスピーカ34から放音される音を制御することができる。
【0023】
大腿部装着部材40は、使用者の大腿部に装着する部材であり、大腿部装着部材40を使用者の大腿部にベルト状に巻き付けることにより、使用者の大腿部に装着される。この大腿部装着部材40は、各種情報を観測する観測センサ42と、観測センサ42で計測した観測情報を送信する送信手段44と、が設けられており、使用者の歩行に伴う大腿部の移動情報を観測センサ42で計測し、送信手段44から腰部装着部材30に送信する。具体的には、観測センサ42は、大腿部が移動する際の加速度を測定する加速度センサ、大腿部が移動する際の角速度を測定する角速度センサ、大腿部が移動する際の移動方向を測定する方位センサが含まれており、加速度情報、角速度情報、方位情報がそれぞれ送信手段44を介して腰部装着部材30に送信される。こうすることにより、大腿部の移動情報、すなわち、股関節の作動角度範囲及び角速度を含む使用者の歩行に関する情報を制御ユニット50に送信することができる。
【0024】
制御ユニット50は、
図2に示すように、CPU51を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、スピーカ34から出力される音を制御する制御プログラムを含む各種プログラム等が記憶されたROM52と、受信手段32で受信した各種信号等を一時的に記憶するRAM53と、スピーカ34から放音する音情報等を記憶する記憶手段54と、受信手段32等との間の各種信号の送受信を行うインタフェース55(以下、「I/F55」と言う。)がそれぞれバス56を介して電気的に接続されている。この制御ユニット50は、受信手段32で受信した各種信号に基づいて、スピーカ34から放音される音を制御する。具体的には、受信手段32で受信した各種信号に基づいて、音データを加工し、加工された音データを所定時間スピーカ34から放音する。こうすることにより、使用者の歩行状況に基づいてスピーカ34から放音される音を制御することができる。
【0025】
次に、スピーカ34から放音される音を制御する制御方法の一例について、
図3を用いて説明する。ここで、
図3は、音制御処理ルーチンの一例を示すフローチャートであり、この音制御処理ルーチンは、歩行支援装置20に設けられた図示しない開始ボタンが押圧され、制御ユニット50が開始信号を受信した後に繰り返し実行される。このとき、スピーカ34から放音される音は、予め記憶された音声データの音声波形を予め記憶された基準単位周期時間分抽出し、以下の音制御処理ルーチンによって加工された後に放音される。例えば、基準単位周期時間が1秒の場合、予め記憶された音データは、先頭から1秒間分ずつ順次抽出され、音制御処理ルーチンによって加工され、順次放音される。こうすることにより、基準単位周期時間における歩行パターンが一定でない場合には、放音される音の曲調に変化が生じることになるため、歩行パターンの変化を聴覚的に報知することができる。なお、ここで、基準単位周期時間とは、予め定められた単位周期時間を意味し、単位周期時間とは、歩行の際の1サイクルに要する時間(例えば、右足を前に運び出すタイミングを基準とした場合、右足を前に運び出した瞬間から、再度右足を前に運び出す直前までの時間)を意味する。
【0026】
CPU51は、
図3に示すように、歩行支援装置20の図示しない開始ボタンから開始信号を受信すると、観測センサ42から各種情報を取得する(ステップS110)。具体的には、観測センサ42に含まれる加速度センサが大腿部の移動の際の加速度を、角速度センサが大腿部の移動の際の角速度を、方向センサが大腿部の移動の際の方向を、それぞれ検知して、各種信号として送信手段44から受信手段32に送信し、受信手段32で受信した各種信号が制御ユニット50に伝達される。
【0027】
続いて、CPU51は、ステップS110で受信した各種信号に基づいて、股関節の作動角度範囲と股関節の角速度を算出する(ステップS120)。人間が歩行する際には、大腿部は周期的に進行方向に摺動運動するため、一方の足が最も進行方向側にある位置の角度と一方の足が最も進行方向に対して後ろ側にある位置の角度とを計測することで、両角度の範囲である股関節の作動角度範囲を算出することができる。また、このときに必要な時間である単位周期時間を計測することにより、股関節の角速度も算出することができる。なお、股関節の作動角度範囲と股関節の角速度の算出方法については特に限定されるものではなく、公知の種々の方法を用いることができる。
【0028】
続いて、CPU51は、基準単位周期時間分の音データを基準角速度の値で分割し(ステップS130)、ステップS120で算出した角速度に基づいてステップS130で分割された音データを補正する(ステップS140)。具体的には、基準角速度の値によって1°毎に進む時間に分割された音データを、ステップS120で算出した角速度で1°毎に進む時間に補正する。例えば、基準単位周期時間が1(秒)、基準角速度の値が100(°/秒)、角速度の値が120(°/秒)である場合には、1/100秒の音データに分割されたそれぞれの音データの長さを1/120秒に短縮することで、音データを短縮する補正を行う。一方、基準単位周期時間が1(秒)、基準角速度の値が100(°/秒)、角速度の値が80(°/秒)である場合には、1/100秒の音データに分割されたそれぞれの音データの長さを1/80秒に伸張することで、音データを伸張する補正を行う。こうすることにより、基準角速度よりも速い場合には音データが短縮され、基準角速度よりも遅い場合には音データが伸張されるため、この音データを放音することで、基準角速度よりも速いか遅いかを聴覚的に報知することができる。
【0029】
CPU51によって音データが補正された後、スピーカ34から基準単位周期時間の間放音される(ステップS150)。このとき、スピーカ34から放音される音の長さが基準単位周期時間であるため、単位周期時間が基準単位周期時間よりも長い場合には音データの前方側の一部のみが放音されることになるため、連続して音データが放音される際には補正前のデータと比較すると、一部が飛び飛びで放音されるように聞こえることになる。一方、単位周期時間が基準単位周期時間よりも短い場合には、放音された後に無音の時間が発生することになる。このように、音の放音の際、単位周期時間毎に生じる音飛びや無音によって、単位周期時間が基準単位周期時間よりも早いか遅いかを聴覚的に報知することができる。
【0030】
以上詳述した実施の形態の歩行支援装置20によれば、観測センサ42が測定した加速度及び角速度に関する情報に基づいて、制御ユニット50で股関節の作動角度範囲及び角速度を算出し(ステップS120)、基準単位周期時間分の音データを基準角速度の値で分割し(ステップS130)、ステップS120で算出した角速度に基づいてステップS130で分割された音データを補正し(ステップS140)、スピーカ34から基準単位周期時間の間放音する(ステップS150)。こうすることにより、予め定められた歩幅や一歩を踏み出す際の足の運びの速度の違いを音によって報知することができ、歩行パターンの変化を聴覚的に報知することができる。
【0031】
また、観測センサ42は使用者の大腿部に取り付けられているため、使用者の大腿部の加速度や角速度、すなわち、股関節の角速度や作動角度範囲を正確に検出することができる。
【0032】
更に、基準単位周期時間の間放音するため、歩幅が基準歩幅よりも広い場合には、単位周期時間毎に無音の時間が生じ、歩幅が基準歩幅より狭い場合には、前方側の一部が放音されることにより音飛びが生じるため、歩幅が基準歩幅より広いか狭いかを直感的に報知することができる。
【0033】
更にまた、歩行速度が基準歩行速度より速い場合はテンポを速く、歩行速度が基準歩行速度より遅い場合には、音のテンポを遅く補正する(ステップS140)ことにより、歩行速度が基準歩行速度よりも速いか遅いかを直感的に報知することができる。
【0034】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0035】
例えば、上述した実施の形態では、大腿部装着部材40に観測センサ42を備えるものとしたが、観測センサ42の位置はこの位置に限定されるものではなく、使用者の歩行に関する情報を計測できる位置であれば、どこに備えられていても良い。また、例えば、携帯型情報端末等に備えられた各種センサを利用しても良い。いずれの場合も、上述した実施の形態と同様の効果が得られる。
【0036】
上述した実施の形態では、ステップS140で音データを補正した後、加工後の音データをスピーカ34から放音するものとしたが、再生時に音を変化させても良い。この場合も、上述した実施の形態と同様の効果が得られる。
【0037】
上述した実施の形態では、ステップS140で股関節の角速度に応じて音データを伸張又は短縮する補正を行うものとしたが、音データの伸張又は短縮は、予め定められた割合で伸張又は短縮するものとしてもよい。すなわち、基準角速度よりも角速度が速い場合には、角速度にかかわらず、所定の割合(例えば、20%)短縮したり、基準角速度よりも角速度が遅い場合には、角速度にかかわらず、所定の割合(例えば、20%)伸張したりしてもよい。こうすることにより、音の加工処理の工程数を低減し、音の加工処理時間及び処理による負荷を低減することができる。
【0038】
上述した実施の形態では、歩行パターンとして股関節の作動角度範囲及び角速度を用いるものとしたが、股関節の作動角度範囲及び角速度に限定されるものではなく、例えば、左右の足の動きのタイミングや、左右の歩幅の違い、進行方向に対する左右の足が接地する位置のズレ等、歩行の際に生じる種々の情報を用いてもよい。いずれの場合も、上述した実施の形態と同様の効果が得られる。
【0039】
上述した実施の形態では、音データの変化を音データの伸張、短縮、繰り返しタイミング等で表すこととしたが、これに限定されるものではなく、例えば、音データの周波数を変更したり音の高さを変更したりしてもよいし、転調したり、特定の音を追加したり一部の音を削除したりすることで、音の変化を表しても良い。いずれの場合も、上述した実施の形態と同様の効果が得られる。
【0040】
上述した実施の形態では、音データの変化で歩行パターンのズレを報知するものとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、ベルの音や警報音等を用いて報知しても良い。この場合も、上述した実施の形態と同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
上述した実施の形態で示すように、歩行支援分野、特に歩行リズムの報知手段として利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
20…歩行支援装置、30…腰部装着部材、32…受信手段、34…スピーカ、40…大腿部装着部材、42…観測センサ、44…送信手段、50…制御ユニット、51…CPU、52…ROM、53…RAM、54…記憶手段、55…インタフェース、56…バス。