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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】歯科用重合性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/30 20200101AFI20240617BHJP
   A61K 6/77 20200101ALI20240617BHJP
【FI】
A61K6/30
A61K6/77
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020053185
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021151970
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慶太
(72)【発明者】
【氏名】村上 翔悟
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 祐亮
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-280630(JP,A)
【文献】特開2016-113438(JP,A)
【文献】特開2019-137618(JP,A)
【文献】特開2002-187907(JP,A)
【文献】特開2009-127000(JP,A)
【文献】特開2008-201697(JP,A)
【文献】特開2003-096122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00-6/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一剤と、第二剤とを有する歯科用重合性組成物であって、
前記第一剤は、
酸基を有さない(メタ)アクリレートと、
カルボキシル基を有する単量体として、カルボキシル基を有する(メタ)アクリレート、又は(メタ)アクリル酸の少なくともいずれかと、
塩基性フィラーとして、バリウムガラス粉末、ストロンチウムガラス粉末、ランタンガラス粉末、バリウムボロアルミノシリケートガラス粉末、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス粉末、ランタンボロアルミノシリケートガラス粉末、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス粉末、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス粉末、及びランタンフルオロアルミノシリケートガラス粉末から選ばれる少なくともいずれかと、
有機過酸化物と、を含み、
かつ重合性単量体として、リン酸基を有する単量体を含まず、
前記第一剤中の、前記カルボキシル基を有する(メタ)アクリレート、及び前記(メタ)アクリル酸の含有量は、0.2質量%以上1.8質量%以下であり、
前記第二剤は、酸基を有さない(メタ)アクリレートと、バナジウム化合物と、チオ尿素誘導体と、を含み、
前記チオ尿素誘導体は、エチレンチオ尿素、N-メチルチオ尿素、N-エチルチオ尿素、N-プロピルチオ尿素、N-ブチルチオ尿素、N-ラウリルチオ尿素、N-フェニルチオ尿素、N-シクロヘキシルチオ尿素、N,N-ジメチルチオ尿素、N,N-ジエチルチオ尿素、N,N-ジプロピルチオ尿素、N,N-ジブチルチオ尿素、N,N-ジラウリルチオ尿素、N,N-ジフェニルチオ尿素、N,N-ジシクロヘキシルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、N-アセチルチオ尿素、N-ベンゾイルチオ尿素、1-アリル-3-(2-ヒドロキシエチル)-2-チオ尿素、1-(2-テトラヒドロフルフリル)-2-チオ尿素、N-tert-ブチル-N'-イソプロピルチオ尿素、及び2-ピリジルチオ尿素から選ばれる少なくともいずれかであることを特徴とする歯科用重合性組成物。
【請求項2】
前記歯科用重合性組成物中の、前記カルボキシル基を有する(メタ)アクリレート、及び前記(メタ)アクリル酸の含有量が0.1質量%以上0.9質量%以下である、請求項1に記載の歯科用重合性組成物。
【請求項3】
前記第二剤は、塩基性フィラーをさらに含む、請求項1又は2に記載の歯科用重合性組成物。
【請求項4】
前記塩基性フィラーは、バリウムガラス粉末である、請求項1~3の何れか1項に記載の歯科用重合性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用重合性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、口腔内のような湿潤条件下で使用することが可能な重合性組成物として、例えば、(メタ)アクリレートと、有機過酸化物を含む第一剤と、(メタ)アクリレートと、バナジウム化合物と、チオ尿素誘導体を含む第二剤を有する重合性組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-51856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記の重合性組成物の硬化性を向上させるために、例えば、リン酸基を有する(メタ)アクリレートを配合することが考えられる。
【0005】
しかしながら、例えば、硬化体のX線造影性を向上させることが可能なバリウムガラス粉末等の塩基性フィラーを配合すると、塩基性フィラーがリン酸基を有する(メタ)アクリレートを吸着し、重合性組成物の保存安定性が低下するという問題がある。
【0006】
本発明の一態様は、塩基性フィラーを添加しても、硬化性及び保存安定性を両立することが可能な歯科用重合性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、歯科用重合性組成物において、酸基を有さない(メタ)アクリレートと、カルボキシル基を有する(メタ)アクリレートと、塩基性フィラーと、有機過酸化物を含む第一剤と、酸基を有さない(メタ)アクリレートと、バナジウム化合物と、チオ尿素誘導体を含む第二剤を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、塩基性フィラーを添加しても、硬化性及び保存安定性を両立することが可能な歯科用重合性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。
【0010】
<歯科用重合性組成物>
本実施形態の歯科用重合性組成物は、酸基を有さない(メタ)アクリレートと、カルボキシル基を有する(メタ)アクリレートと、塩基性フィラーと、有機過酸化物を含む第一剤と、酸基を有さない(メタ)アクリレートと、バナジウム化合物と、チオ尿素誘導体を含む第二剤を有する2剤型の歯科用重合性組成物である。
【0011】
本願明細書及び特許請求の範囲において、(メタ)アクリレートとは、メタクリロイルオキシ基及び/又はアクリロイルオキシ基(以下、(メタ)アクリロイルオキシ基という)を1個以上有する化合物(例えば、モノマー、オリゴマー、プレポリマー)を意味する。
【0012】
第二剤は、塩基性フィラーをさらに含んでいてもよい。この場合、第二剤に含まれる塩基性フィラーは、第一剤に含まれる塩基性フィラーと同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0013】
第一剤、第二剤の性状としては、例えば、ペースト状等が挙げられる。
【0014】
本実施形態の歯科用重合性組成物の第一剤と第二剤の質量比は、通常、10:1~1:10である。
【0015】
本実施形態の歯科用重合性組成物は、通常、第一剤と第二剤を練和して用いる。
【0016】
本実施形態の歯科用重合性組成物は、歯科用セメント等に適用することができる。
【0017】
以下、本実施形態の歯科用重合性組成物を構成する成分について説明する。
【0018】
<酸基を有さない(メタ)アクリレート>
酸基を有さない(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイルオキシ基を2個以上有することが好ましい。
【0019】
酸基を有さない(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-メチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ジ-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、1,3,5-トリス[1,3-ビス{(メタ)アクリロイルオキシ}-2-プロポキシカルボニルアミノヘキサン]-1,3,5-(1H,3H,5H)トリアジン-2,4,6-トリオン、2,2-ビス[4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)フェニル]プロパン、N,N'-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレート等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、本実施形態の歯科用重合性組成物の硬化体の機械的強度の点で、ジ-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパンが好ましい。
【0020】
本実施形態の歯科用重合性組成物中の酸基を有さない(メタ)アクリレートの含有量は、10~95質量%であることが好ましく、15~80質量%であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用重合性組成物中の酸基を有さない(メタ)アクリレートの含有量が10質量%以上95質量%以下であると、本実施形態の歯科用重合性組成物の操作性が向上する。
【0021】
<カルボキシル基を有する(メタ)アクリレート>
なお、カルボキシル基を有する(メタ)アクリレートは、カルボキシル基を2個以上有していてもよい。
【0022】
また、カルボキシル基を有する(メタ)アクリレートの代わりに、カルボキシル基を有する(メタ)アクリレートの酸塩化物、アルカリ金属塩及びアミン塩を用いてもよい。
【0023】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸、(メタ)アクリル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリット酸、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリット酸無水物、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、1,4-ジ(メタ)アクリロイルオキシピロメリット酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。これらの中でも、本実施形態の歯科用重合性組成物の保存安定性の点で、2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0024】
なお、カルボキシル基を有する(メタ)アクリレートは、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0025】
本実施形態の歯科用重合性組成物中のカルボキシル基を有する(メタ)アクリレートの含有量は、0.1~0.9質量%であることが好ましく、0.2~0.8質量%であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用重合性組成物中のカルボキシル基を有する(メタ)アクリレートの含有量が0.1質量%以上0.9質量%以下であると、本実施形態の歯科用重合性組成物の硬化性が向上する。
【0026】
また、上記と同様の理由で、第一剤中のカルボキシル基を有する(メタ)アクリレートの含有量は、0.2~1.8質量%であることが好ましく、0.4~1.6質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
本実施形態の歯科用重合性組成物は、カルボキシル基以外の酸基(例えば、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基)を有する(メタ)アクリレートを含まないことが好ましい。これにより、本実施形態の歯科用重合性組成物の保存安定性が向上する。
【0028】
<塩基性フィラー>
塩基性フィラーは、バリウム、ストロンチウム又はランタンを含むガラス粉末であることが好ましい。
【0029】
バリウム、ストロンチウム又はランタンを含むガラス粉末としては、例えば、バリウムガラス粉末、ストロンチウムガラス粉末、ランタンガラス粉末、バリウムボロアルミノシリケートガラス粉末、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス粉末、ランタンボロアルミノシリケートガラス粉末、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス粉末、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス粉末、ランタンフルオロアルミノシリケートガラス粉末等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、本実施形態の歯科用重合性組成物の硬化体のX線造影性の点で、バリウムガラス粉末が好ましい。
【0030】
なお、塩基性フィラーは、シランカップリング剤等の表面処理剤で処理されていてもよい。
【0031】
本実施形態の歯科用重合性組成物中の塩基性フィラーの含有量は、4~90質量%であることが好ましく、15~80質量%であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用重合性組成物中の塩基性フィラーの含有量が4質量%以上であると、本実施形態の歯科用重合性組成物の硬化体のX線造影性が向上し、90質量%以下であると、本実施形態の歯科用重合性組成物の操作性が向上する。
【0032】
<有機過酸化物>
有機過酸化物は、化学重合開始剤の酸化剤として、機能する。
【0033】
有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、t-アミルヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ヒドロペルオキシ)ヘキサン、p-ジイソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド、p-メタンヒドロペルオキシド、ピナンヒドロペルオキシド等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、本実施形態の歯科用重合性組成物の硬化性の点で、クメンヒドロペルオキシドが好ましい。
【0034】
本実施形態の歯科用重合性組成物中の有機過酸化物の含有量は、0.01~5質量%であることが好ましく、0.1~2質量%であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用重合性組成物中の有機過酸化物の含有量が0.01質量%以上5質量%以下であると、本実施形態の歯科用重合性組成物の硬化性が向上する。
【0035】
また、上記と同様の理由で、第一剤中の有機過酸化物の含有量は、0.02~10質量%であることが好ましく、0.2~4質量%であることがさらに好ましい。
【0036】
<バナジウム化合物>
バナジウム化合物は、重合促進剤として、機能する。
【0037】
バナジウム化合物としては、例えば、シュウ酸オキソバナジウム、バナジルアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート、バナジルステアレート、バナジウムナフテネート、バナジウムベンゾイルアセトネート等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、本実施形態の歯科用重合性組成物の硬化性の点で、バナジルアセチルアセトネートが好ましい。
【0038】
本実施形態の歯科用重合性組成物中のバナジウム化合物の含有量は、0.001~1質量%であることが好ましく、0.002~0.1質量%であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用重合性組成物中のバナジウム化合物の含有量が0.001質量%以上であると、本実施形態の歯科用重合性組成物の硬化性が向上し、1質量%以下であると、本実施形態の歯科用重合性組成物の保存安定性が向上する。
【0039】
また、上記と同様の理由で、第二剤中のバナジウム化合物の含有量は、0.002~2質量%であることが好ましく、0.004~0.2質量%であることがさらに好ましい。
【0040】
<チオ尿素誘導体>
チオ尿素誘導体は、化学重合開始剤の還元剤として、機能する。
【0041】
チオ尿素誘導体としては、例えば、エチレンチオ尿素、N-メチルチオ尿素、N-エチルチオ尿素、N-プロピルチオ尿素、N-ブチルチオ尿素、N-ラウリルチオ尿素、N-フェニルチオ尿素、N-シクロヘキシルチオ尿素、N,N-ジメチルチオ尿素、N,N-ジエチルチオ尿素、N,N-ジプロピルチオ尿素、N,N-ジブチルチオ尿素、N,N-ジラウリルチオ尿素、N,N-ジフェニルチオ尿素、N,N-ジシクロヘキシルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、N-アセチルチオ尿素、N-ベンゾイルチオ尿素、1-アリル-3-(2-ヒドロキシエチル)-2-チオ尿素、1-(2-テトラヒドロフルフリル)-2-チオ尿素、N-tert-ブチル-N'-イソプロピルチオ尿素、2-ピリジルチオ尿素等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、本実施形態の歯科用重合性組成物の硬化性の点で、N-ベンゾイルチオ尿素が好ましい。
【0042】
本実施形態の歯科用重合性組成物中のチオ尿素誘導体の含有量は、0.1~5質量%であることが好ましく、0.1~1質量%であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用重合性組成物中のチオ尿素誘導体の含有量が0.1質量%以上であると、本実施形態の歯科用重合性組成物の硬化性が向上し、5質量%以下であると、本実施形態の歯科用重合性組成物におけるチオ尿素誘導体の(メタ)アクリレートに対する溶解性が向上する。
【0043】
また、上記と同様の理由で、第二剤中のチオ尿素誘導体の含有量は、0.2~10質量%であることが好ましく、0.2~2質量%であることがさらに好ましい。
【0044】
<その他の成分>
第二剤は、第3級アミンをさらに含んでいてもよい。
【0045】
第3級アミンは、化学重合開始剤の還元剤として、機能する。
【0046】
第3級アミンは、第3級脂肪族アミン及び第3級芳香族アミンのいずれであってもよいが、第3級芳香族アミンであることが好ましく、p-ジアルキルアミノ安息香酸アルキルであることが特に好ましい。
【0047】
第3級脂肪族アミンとしては、例えば、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0048】
p-ジアルキルアミノ安息香酸アルキルとしては、例えば、p-ジメチルアミノ安息香酸メチル、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、p-ジメチルアミノ安息香酸プロピル、p-ジメチルアミノ安息香酸アミル、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、p-ジエチルアミノ安息香酸エチル、p-ジエチルアミノ安息香酸プロピル等が挙げられる。
【0049】
p-ジアルキルアミノ安息香酸アルキル以外の第3級芳香族アミンとしては、例えば、7-ジメチルアミノ-4-メチルクマリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジベンジルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N,2,4,6-ペンタメチルアニリン、N,N,2,4-テトラメチルアニリン、N,N-ジエチル-2,4,6-トリメチルアニリン等が挙げられる。
【0050】
なお、第3級アミンは、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0051】
第一剤及び/又は第二剤は、重合禁止剤、光重合開始剤、塩基性フィラー以外のフィラー等をさらに含んでいてもよい。
【0052】
重合禁止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール)、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0053】
光重合開始剤としては、例えば、カンファーキノン、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンジルケタール、ジアセチルケタール、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルビス(2-メトキシエチル)ケタール、4,4'-ジメチル(ベンジルジメチルケタール)、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、チオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-ニトロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロ-7-トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン-10,10-ジオキシド、チオキサントン-10-オキシド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4-ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0054】
塩基性フィラー以外のフィラーとしては、例えば、無水ケイ酸粉末、ヒュームドシリカ、アルミナ粉末、ガラス粉末(例えば、バリウムガラス粉末、フルオロアルミノシリケートガラス粉末)等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0055】
なお、塩基性フィラー以外のフィラーは、シランカップリング剤等の表面処理剤で処理されていてもよい。
【実施例
【0056】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0057】
[実施例1~6、比較例1~4]
(ペースト1の調製)
表1に示す配合[質量%]で、酸基を有さないメタクリレートと、酸基を有するメタクリレートと、有機過酸化物と、フィラーと、重合禁止剤を混合し、ペースト1を得た。
【0058】
なお、表1における略称の意味は、以下の通りである。
【0059】
UDMA:ジ-2-メタクリロイルオキシエチル-2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート
EBDMA:エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート
NPG:ネオペンチルグリコールジメタクリレート
Bis-GMA:2,2-ビス[4-(3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)]フェニルプロパン
HOMS:2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸
MAA:メタクリル酸
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
CHP:クメンヒドロペルオキシド
フィラー1:バリウムガラス粉末G018-053 UF0.4(SCHOTT製)
フィラー2:アエロジルR812(疎水性ヒュームドシリカ)(日本アエロジル製)
BHT:ジブチルヒドロキシトルエン(2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール)
(ペースト2の調製)
酸基を有さないメタクリレートとしての、UDMA(15質量%)、EBDMA(15質量%)、NPG(10質量%)と、バナジウム化合物としての、バナジルアセチルアセトネート(0.05質量%)と、チオ尿素誘導体としての、N-ベンゾイルチオ尿素(0.5質量%)と、フィラー1(58.7質量%)、フィラー2(0.5質量%)と、第3級アミンとしての、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル(0.1質量%)と、光重合開始剤としての、カンファーキノン(0.05質量%)、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(0.05質量%)と、重合禁止剤としての、ジブチルヒドロキシトルエン(0.05質量%)を混合し、ペースト2を得た。
【0060】
次に、ペースト1、2(歯科用重合性組成物)の硬化性、保存安定性及び硬化体のX線造影性を評価した。
【0061】
(硬化性)
ISO 4049:2019に準じて、歯科用重合性組成物の硬化性を評価した。
【0062】
具体的には、ペースト1とペースト2を質量比1:1で練和した後、内径が4mm、高さが6mmのポリエチレン製の管に填入して試験体を準備した。次に、熱電対を用いて、試験体の温度変化を記録して、初期硬化時間を求めた。
【0063】
なお、歯科用重合性組成物の硬化性の判定基準は、下記の通りである。
【0064】
優:初期硬化時間が4分以上5分未満である場合
良:初期硬化時間が5分以上7分未満、又は、3分以上4分未満である場合
不可:初期硬化時間が7分以上、又は、3分未満である場合
(保存安定性)
歯科用重合性組成物の保存安定性を評価するために、加速試験を実施した。
【0065】
具体的には、ペースト1、2を60℃で7日間保存した後、初期硬化時間と同様にして、硬化時間を求めた。
【0066】
なお、歯科用重合性組成物の保存安定性の判定基準は、下記の通りである。
【0067】
優:歯科用重合性組成物の硬化時間と初期硬化時間との差が3分未満である場合
良:歯科用重合性組成物の硬化時間と初期硬化時間との差が3分以上5分未満である場合
不可:歯科用重合性組成物の硬化時間と初期硬化時間との差が5分以上である場合
(硬化体のX線造影性)
ISO 4049:2019に準じて、歯科用重合性組成物の硬化体のX線造影性を、以下のようにして評価した。
【0068】
ペースト1とペースト2を質量比1:1で練和した。次に、内径15mm、厚さ1mmのフッ素樹脂製のリングの下部に、ポリエステル製のシートを置いた後、歯科用重合性組成物の練和物を充填した。次に、リングの上部に、ポリエステル製のシートを載せた後、ガラス板により圧接した状態で、歯科用重合性組成物の練和物を光硬化させ、試験片とした。
【0069】
デジタルX線機器を用いて、試験片とアルミステップ板を同時に撮影した後、デジタル画像ファイルをグレイ値解析ソフトウェアに転送し、試験片の平均グレイ値を測定した。次に、アルミステップ板の各ステップにおいて、グレイ値を測定した。次に、アルミニウムステップ板の各ステップのグレイ値と厚さをプロットし、グレイ値とアルミニウムの厚さの関係を求めた。次に、試験片のグレイ値に対応するアルミニウムの厚さを求めた。
【0070】
なお、歯科用重合性組成物の硬化体のX線造影性の判定基準は、下記の通りである。
【0071】
優:試験片のグレイ値に対応するアルミニウムの厚さが2.5mm以上である場合
良:試験片のグレイ値に対応するアルミニウムの厚さ1.5mm以上2.5mm未満である場合
不可:試験片のグレイ値に対応するアルミニウムの厚さが1.5mm未満である場合
表1に、歯科用重合性組成物の硬化性、保存安定性、X線造影性の評価結果を示す。
【0072】
【表1】
表1から、実施例1~6の歯科用重合性組成物は、硬化性、保存安定性及び硬化体のX線造影性が高いことがわかる。
【0073】
これに対して、比較例1の歯科用重合性組成物は、酸基を有する(メタ)アクリレートを含まないペースト1を有するため、硬化性が低い。
【0074】
また、比較例2~4の歯科用重合性組成物は、カルボキシル基を有する(メタ)アクリレートを含まず、リン酸基を有する(メタ)アクリレートを含むペースト1を有するため、保存安定性が低い。