(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
B41J2/175 307
B41J2/175 119
(21)【出願番号】P 2020057121
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】越川 浩志
(72)【発明者】
【氏名】林 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰史
(72)【発明者】
【氏名】武居 康徳
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-83910(JP,A)
【文献】特開2010-69758(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102014224325(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
G01F 23/32-23/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給される液体を吐出するように構成された液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドに供給する液体を貯留するように構成された貯留室と、前記貯留室に着脱可能であり前記貯留室に供給する液体を収納するように構成された収納部材と、を備える貯留手段と、
前記貯留室において貯留される液体に浸漬され、該液体の量に応じて回動可能な回動部材と、
前記液体の量に応じた前記回動部材
の動作を用いて前記液体の量を検知
する検知手段と、
前記回動部材に設けられた磁性部材と、前記磁性部材を引き付ける電磁石と、
を用いて前記回動部材を回動させる回動手段と、を有することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記回動手段は、前記電磁石に通電されることで、前記磁性部材を介して前記回動部材を回動するように構成された請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記回動部材を回動可能に支持する支持部材を有し、前記磁性部材は、前記回動部材の中で、前記回動部材の重心よりも前記支持部材に近い側に設けられた請求項1または2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記回動手段は、前記電磁石に通電されることで、前記磁性部材が前記電磁石に引き付けられることで回動するように構成された請求項1から3のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記回動部材は、前記貯留室において貯留される前記液体の量に応じて回動して前記液体の量を検知する第1の回動動作と、前記回動手段によって強制的に回動する第2の回動動作と、を行うように構成された請求項1から4のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記貯留室は、チューブを介して前記液体吐出ヘッドに前記液体を供給するように構成された請求項1から5のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記回動部材は、
浸漬される液体よりも比重が小さく、支持部材を介して回動可能に支持されるフロートと、
前記フロートにアーム部を介して設けられ、前記検知手段により検知可能な被検知部と、
を有する請求項1から
6のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記液体吐出装置の使用姿勢において、前記回動部材は、前記貯留室の底部に設けられた請求項1から7のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記収納部材を前記貯留室に装着することで、前記収納部材に収納された液体が前記貯留室に流入されるように構成された請求項1から
8のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、インクジェット方式によりインクを吐出可能な記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置などとして、広く適用可能な液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インクを貯留する貯留室内に、インクよりも比重の小さいフロートを備えた部材を回動可能に備え、この部材の回動をセンサによって検出することで、貯留室内のインクの残量を検知する技術が開示されている。具体的には、特許文献1に開示の技術では、回動部材における被検知部をセンサにより検知することで、貯留室内のインクの液面が所定高さ以上であるか否かを検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、貯留室の底部近傍に回動部材の回動軸が設けられている。このため、貯留室内のインクが使い切られる直前では、インクの液面が回動軸上に位置することとなる。従って、貯留室内のインクが使い切られる直前の状態で長時間放置されてしまうと、回転軸周りのインクが増粘または固化して、回動部材が回動し難くなり、インク残量の検知機能が低下する虞があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、インクの増粘または固化が生じても、インクの残量の検知機能の低下を抑制することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明による液体吐出装置の一実施形態は、供給される液体を吐出するように構成された液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドに供給する液体を貯留するように構成された貯留室と、前記貯留室に着脱可能であり前記貯留室に供給する液体を収納するように構成された収納部材と、を備える貯留手段と、前記貯留室において貯留される液体に浸漬され、該液体の量に応じて回動可能な回動部材と、前記液体の量に応じた前記回動部材の動作を用いて前記液体の量を検知する検知手段と、前記回動部材に設けられた磁性部材と、前記磁性部材を引き付ける電磁石と、を用いて前記回動部材を回動させる回動手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、インクの増粘または固化が生じても、インク残量の検知機能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態による液体吐出装置の一例である記録装置の構成の概略を説明する図。
【
図2】インク貯留室へインクが供給されたときの回動部材の動きを示す図。
【
図3】インク貯留室において貯留されたインクが減ったときの回動部材の動きを示す図。
【
図4】第1実施形態による記録装置での強制回動を説明する図。
【
図5】第2実施形態による記録装置での強制回動を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による液体吐出装置の一例を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を限定するものではなく、また、実施形態で説明されている特徴の組み合わせのすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。また、本実施形態に記載されている構成要素の相対位置、形状などは、特に限定していない限り、あくまで例示であり、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0010】
(第1実施形態)
まず、
図1乃至
図4を参照しながら、第1実施形態による液体吐出装置について説明する。なお、本願明細書では、液体吐出装置として、記録媒体に対してインクを吐出して記録する記録装置を例として説明することとする。
図1は、実施形態による記録装置の概略を説明するための図であり、(a)は斜視図であり、(b)は記録部の構成を説明するための図である。なお、
図1の記録装置については、本実施形態を適用可能な記録装置の一例であって、本実施形態を適用可能な記録装置は、記録装置10に限定されるものではない。
【0011】
図1に示す記録装置10は、原稿台にセットされた原稿を読み取り可能な読取部12と、読取部12で読み取った情報あるいは外部装置から入力された情報などに基づいて、記録媒体に対して記録する記録部14とを備えた、所謂、複合機である。
【0012】
読取部12は、記録装置10の上部に位置し、記録部14は、記録装置10の下部に位置している。記録部14は、記録媒体Mを収容する収容トレイ16と、収容トレイ16に収容された記録媒体Mを給送する給送ローラ18と、給送される記録媒体Mを記録ヘッド26(後述する)による記録位置までガイドするガイド部20とを備えている。また、記録部14は、ガイド部20を介して給送された記録媒体Mを搬送する搬送ローラ22と、搬送ローラ22により搬送される記録媒体Mを支持するプラテン24と、プラテン24に支持される記録媒体Mにインクを吐出する記録ヘッド26とを備えている。さらに、記録部14は、記録された記録媒体Mを排出トレイ28に排出する排出ローラ30と、チューブ(不図示)を介して記録ヘッド26に供給するインクを貯留するインク貯留部32とを備えている。
【0013】
記録ヘッド26は、複数色のインクを吐出可能であってもよいし、単色のインクのみを吐出可能であってもよい。また、記録後の画像に所定の効果を付与するための処理液を吐出可能な構成であってもよい。複数種類のインク(処理液を含む)を吐出する場合には、それぞれ異なる種類のインクを貯留するインク貯留部32が複数設けられることとなる。また、記録ヘッド26はキャリッジ34に搭載されている。キャリッジ34は、X方向に往復移動可能に構成されている。収容トレイ16に収容された記録媒体Mは、給送ローラ18により-Y方向に搬送され、ガイド部20によってUターンして、搬送ローラ22により+Y方向に搬送される。
【0014】
記録装置10では、記録ヘッド26がキャリッジ34を介してX方向に移動する際に、プラテン24に支持された記録媒体Mに対してインクを吐出して、記録媒体M上に1走査分の記録を行う記録動作を行う。次に、記録媒体を+Y方向に所定量だけ搬送し、記録媒体Mにおける記録ヘッド26と対向する位置に、まだ何も記録されていない領域を位置させる搬送動作を行う。その後、再度記録動作を行う。このようにして、記録装置10では、記録動作と搬送動作とを繰り返し実行することで、記録媒体Mに対して所定の画像を記録することとなる。
【0015】
インク貯留部32は、インクが収納されたインク収納部材36と、インク収納部材36に収納されたインクを貯留するインク貯留室38とを備えている。ここで、
図2(a)(b)を参照しながら、インク貯留部32の構成について説明する。
図2は、インク貯留部32の概略構成図であり、(a)は、インク収納部材36がインク貯留室38から取り外された状態を示しており、(b)は、インク収納部材36がインク貯留室38に装着された状態を示している。
【0016】
インク貯留部32は、記録ヘッド26から吐出するインクの種類ごとに設けられている。なお、インク貯留部32は、インクの種類によらず同じ構成となっている。インク貯留部32では、インク貯留室38に貯留されたインクが、チューブ(不図示)を介して記録ヘッド26に供給される。インク貯留室38から記録ヘッド26へインクが供給されてインク貯留室38のインク量が減ると、接続されたインク収納部材36からインク貯留室38にインクが供給される。
【0017】
インク収納部材36は、本体部40と蓋部42とを備えている。本体部40の内部にはインクが収納される。また、本体部40の底部には、インク貯留室38における接続部材47(後述する)と接続されて、インク貯留室38にインクを供給可能な供給部44が設けられている。即ち、本実施形態では、インク収納部材36は、供給部44を介してインク貯留室38と着脱可能な構成となっている。供給部44は、弁バネ構造などの逆止弁を備えている。蓋部42にはインク収納部材36の内部と外部とを連通する大気連通口46が形成されている。
【0018】
インク貯留室38は、供給部44を介してインク収納部材36と接続する接続部材47を備えている。インク貯留室38内の底部38aには、回動部材48が設けられている。回動部材48は、底部38aにおいて支持部材50により回動可能に支持されている。従って、回動部材48は、インク貯留室38に液体が供給されると、当該液体に浸漬された状態となる。また、インク貯留室38内には、回動部材48の上方側に、回動部材48の回動を検知可能なセンサ52が設けられている。インク貯留室38には、貯留されるインクの液面が到達しない位置に、インク貯留室38の内部と外部とを連通する大気連通口54が形成されている。
【0019】
回動部材48は、Y方向に延在するフロート56と、フロート56から上方側(略Z方向)に延在するアーム部58と、アーム部58の先端に位置する被検知部60とを備えている。フロート56は、インク収納部材36に収納されるインクよりも比重の小さい材料によって形成されている。また、フロート56は、延在方向(Y方向)における一方側の下端部において、支持部材50においてX方向に延在する軸62に回動可能に支持されている。被検知部60は、アーム部58を介してフロート56の上方側に位置している。従って、被検知部60は、フロート56の回動に応じて移動可能な構成となっている。被検知部60については、センサ52において検知可能な材料によって形成される。なお、後述するように、本実施形態ではセンサ52は、発光部と受光部とを備えた光学センサであるため、被検知部60は、発光部からの光を遮光または減衰する材料によって形成される。
【0020】
センサ52は、回動部材48の回動を検知することによって、インク貯留室38内に貯留されたインクの液面が所定位置以上になったことを光学的に検知する、検知手段である。より詳細には、センサ52は、発光部(不図示)および受光部(不図示)を備えている。発光部および受光部は、
図2(a)(b)では、X方向に間隔を空けて対向するように配置されている。なお、回動部材48が回動する際には、発光部と受光部との間を、被検知部60が通過することとなる。そして、センサ52では、発光部から出力された光の受光部における受光に応じて、異なる検知信号を出力する。
【0021】
具体的には、例えば、センサ52は、発光部から出力された光が受光部で受光できない、つまり、受光強度が所定強度未満であると、信号レベルが閾値レベル未満の信号であることを表すローレベル信号を出力する。出力されたローレベル信号は、メイン基板(不図示)に実装された制御部(不図示)で受け付けられる。ローレベル信号を受け付けた制御部では、インクの液面の高さが所定位置以上であることを検知する。
【0022】
一方、センサ52は、発光部から出力された光が受光部で受光できる、つまり、受光強度が所定強度以上であると、信号レベルが閾値レベル以上の信号であることを表すハイレベル信号を出力する。出力されたハイレベル信号は、制御部で受け付けられ、制御部ではインクの液面の高さが所定位置未満であることを検知する。
【0023】
インクが貯留されていない状態のインク貯留室38(
図2(a)参照)の接続部材47に、供給部44を介してインク収納部材36が接続されると、インク収納部材36内のインクが供給部44、接続部材47を介してインク貯留室38内部に流入する。インク貯留室38に一定量のインクが貯留されると、インクより比重の小さいフロート56に受ける浮力が重力に勝り、回動部材48(フロート56)が矢印A方向に回動する。この回動部材48の矢印A方向への回動によって、被検知部60は矢印B方向に移動する。
【0024】
そして、インクの更なる流入により、インク貯留室38においてインクの液面の高さが所定位置以上となると、被検知部60は、矢印B方向への移動によって、センサ52の発光部と受光部との間に位置するようになる。インク貯留室38においてインクの液面の高さが所定位置以上となるとは、換言すると、インク貯留室38に所定量以上のインクが貯留されることである。なお、インクの液面の高さが所定位置以上となっている間は、被検知部60は発光部と受光部との間に留まっている(
図2(b)参照)。このように、インクの液面の高さが所定位置以上であると、被検知部60によって発光部から出力された光が受光部で受光されない(または減衰されて受光部に到達する)ため、センサ52はローレベル信号を制御部へ出力する。これにより、制御部では、インクの液面の高さが所定位置以上の高さであることを検知する。
【0025】
図3(a)(b)は、インク貯留室38のインクが減った際の回動部材48の動作を説明する図である。
図3(a)は、インク貯留室38におけるインクの液面が所定位置以上のときの回動部材48を示す図であり、
図3(b)は、インク貯留室38におけるインクの液面が所定位置未満のときの回動部材48を示す図である。
【0026】
インク貯留室38から記録ヘッド26へインクが供給されることで、インク貯留室38およびインク収納部材36内のインクが減り、インク貯留室38におけるインクの液面が低下する(
図3(a)参照)。インク貯留室38におけるインク量が減少し、貯留インクが一定量未満となると、フロート56に作用する浮力より重力が勝るようになる。これにより、回動部材48(フロート56)が矢印C方向に回動する。この回動部材48の矢印C方向への回動によって、被検知部60は矢印D方向に移動する。
【0027】
そして、記録ヘッド26へのインクの更なる供給によって、インク貯留室38のインクの液面の高さが所定位置よりも低くなると、被検知部60は、矢印D方向への移動によって、センサ52の発光部と受光部との間から退避した位置へ移動する。なお、インクの液面の高さが所定位置より低くなっている間は、被検知部60は発光部と受光部との間から退避した位置に留まっている(
図3(b)参照)。このように、インクの液面の高さが所定位置未満であると、被検知部60によって発光部から出力された光を受光部で受光できる(または減衰されずに受光部に到達する)ため、センサ52はハイレベル信号を制御部へ出力する。これにより、制御部では、インクの液面の高さが所定位置未満であることを検知する。
【0028】
ここで、記録装置10では、インクの液面の高さが所定位置より低くなったことを検知した時点で、例えば、記録装置10に設けられた表示部17(
図1(a)参照)に、ユーザに対してインク収納部材36の交換を促す通知がなされる。ユーザは通常、表示部17に表示された通知を確認して、インク収納部材36の交換を行うこととなる。しかしながら、使用状況によっては、インクの液面の高さが所定位置より低くなったままで放置される場合がある。特に、インクの液面が軸62まで低下している場合(
図3(b)参照)、軸62の一部が大気に暴露された状態となる。この状態でさらに長時間放置されると、軸62付近に残留したインクが増粘し、最終的に軸62周りのインクが固着してしまう。これにより、回動部材48の回動が阻害され、インクの液面の高さが所定位置以上であるか否か、つまり、インク貯留室38におけるインク残量が所定量以下か否かを正確に検知できなくなる虞がある。
【0029】
そこで、本実施形態では、フロート56の第1側面56aに磁性部材64を設けるとともに、インク貯留室38の壁面を介して磁性部材64と対向する位置に、電磁石66を設けている(
図2(a)(b)、
図3(a)(b)参照)。この電磁石66は、制御部による制御によって通電されて磁力が生じる。磁性部材64と電磁石66とで、回動手段を構成している。磁性部材64を設けるフロート56の第1側面56aは、支持部材50の近傍であり、+Y方向に位置する端面である。即ち、フロート56の中で、フロート56の重心よりも支持部材50に近い側に、磁性部材64が設けられている。こうした構成により、回動部材48は、電磁石66の磁力によって電磁石66側に引き付けられて、被検知部60がセンサ52の発光部と受光部との間から退避した姿勢から、被検知部60が当該間に位置する姿勢に変化する。なお、磁性部材64を第1側面56aに配置することにより、磁性部材64によるフロート56の重力増加によって生じる回動部材48の回動への影響を抑制することができる。
【0030】
図4は、電磁石66を用いた回動部材48への強制回動を説明する図であり、(a)は、インクの液面の高さが所定位置未満のときの回動部材48の姿勢を示す図であり、(b)は、電磁石66に通電したときの回動部材48の姿勢を示す図である。インク貯留室38のインクの液面の高さが所定位置よりも低くなると、
図4(a)のように、回動部材48は、フロート56に作用する浮力に重力が勝り、被検知部60がセンサ52の発光部と受光部との間から退避した姿勢となる。上記のように、この状態で長時間放置することで軸62周りのインクが増粘および固化し、増粘や固化したインクによって、軸62に回動可能に設けられた回動部材48の回動が阻害される虞がある。
【0031】
そこで、電磁石66に通電させることで、電磁石66に磁力を生じさせ、インク貯留室38の壁面を介して対向するフロート56の第1側面56aに設けられた磁性部材64を、電磁石66側に引き付ける。磁性部材64が電磁石66側に引き付けられることにより、回動部材48には、矢印A方向への力が生じ、回動部材48が強制的に回動させられる。これにより、回動部材48は、被検知部60がセンサ52の発光部と受光部との間、または、それに近似した位置に位置する姿勢となる(
図4(b)参照)。その後、電磁石66への通電を停止することで、電磁石66の磁力を消失させ、磁性部材64への電磁石66側への引き付けを停止する。これにより、回動部材48には、自重によって矢印C方向への力が生じる。そして、回動部材48は、矢印C方向に回動して、被検知部60がセンサ52の発光部と受光部との間から退避した姿勢となる(
図4(a)参照)。このように、本実施形態では、磁性部材64および電磁石66が、回動部材48を強制的に回動させる回動部として機能している。
【0032】
このようにして、電磁石66へ通電して、回動部材48を矢印A方向に強制的に回動させ、その後、電磁石66への通電を停止して、回動部材48を自重により矢印C方向に回動させることを交互に繰り返し行う強制回動を実行する。これにより、軸62付近に溜まった増粘インクを拡散することができる。このため、軸62近傍におけるインクの増粘が解消され、増粘および固着インクによって回動部材48の回動が阻害されることが抑制されるようになる。なお、電磁石66への通電の制御中は、センサ52から制御部へ信号が送信しない、あるいは、センサ52からの信号を制御部で受信しないようにする。
【0033】
電磁石66を用いた回動部材48の強制回動については、種々のタイミングで実行することができる。例えば、インク収納部材36の交換を促してから、インク収納部材36が交換されずに所定時間が経過したタイミングで、一定時間だけ強制回動を実行する。なお、強制回動を行うタイミングおよびその長さについては、使用するインクの種類や作業環境などに応じて設定される。
【0034】
上記実施形態では特に記載しなかったが、磁性部材64については、電磁石66による磁力によって、回動部材48が回動可能であれば、フロート56の第1側面56aの全面に形成されていてもよいし、その一部に形成されるようにしてもよい。また、磁性部材64と電磁石66との位置関係については、上記実施形態に限定されるものではない。即ち、電磁石66への通電の制御によって、回動部材48を、被検知部60がセンサ52の発光部と受光部との間から退避した姿勢と、被検知部60が当該間に位置する姿勢とに変位可能であれば、磁性部材64および電磁石66の配置位置はどこでもよい。
【0035】
以上において説明したように、記録装置10では、インク貯留室38に設けられた回動部材48に磁性部材64を設けるとともに、インク貯留室38の壁面を介して磁性部材64と対向する位置に電磁石66を設けるようにした。これにより、回動部材48を強制的に回動することが可能となり、回動部材48を回動可能に支持する軸62周りの増粘インクを拡散することができるようになる。このため、軸62周りの増粘インク、固着インクにより回動部材48の回動が阻害されることを抑制することができる。従って、記録装置10では、回動部材48を回動可能に支持する支持部材50における軸62周りのインクが増粘あるいは固化しても、インク残量の検知機能の低下を抑制することができるようになる。
【0036】
(第2実施形態)
次に、
図5を参照しながら、第2実施形態による液体吐出装置について説明する。なお、以下の説明においては、上記第1実施形態と同様に、記録媒体に対してインクを吐出して記録する記録装置を例として説明する。また、上記第1実施形態による記録装置と同一または相当する構成については、同一の符号を用いることにより、その詳細な説明は適宜に省略する。
【0037】
第2実施形態による記録装置10は、インク貯留室38におけるインクの液面の高さが所定位置以上となる状態で、インクに流れを生じさせて回動部材48を回動するようにした点において、上記第1実施形態による記録装置と異なっている。
【0038】
図5(a)(b)は、第2実施形態による強制回動を説明する図であり、(a)は、インクの液面の高さが所定位置以上のときの回動部材48の姿勢を示す図であり、(b)は、インク流を発生させたときの回動部材48の姿勢を示す図である。具体的には、第2実施形態による記録装置10では、インク貯留室38において、貯留されるインクに流れを生じさせるインク流発生部68を備えている。また、回動部材48において、インク流発生部68により発生したインク流を受けて回動部材48を強制的に回動させるための受け部70を備えている。なお、本実施形態による記録装置10では、磁性部材64および電磁石66は設けられていない。
【0039】
インク流発生部68は、インクが貯留された状態のインク貯留室38において、例えば、貯留されたインク中にインクを吐出することでインク流を発生可能な構成とする。インクを吐出する具体的な構成としては、例えば、電磁弁、ピエゾ素子、または熱発泡を用いた構成が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、インク流発生部68としては、インクを吐出することでインク流を発生させる構成に限定されず、インク貯留室38に貯留されたインクに流れを生じさせることが可能な構成であれば、どのような構成であってもよい。インク流発生部68は、制御部による駆動制御によってインク流の発生が制御される。
【0040】
本実施形態では、インク流発生部68は、インク貯留室38の底部38aであって、フロート56の支持部材50により支持されていない他方側の端部の近傍に設けられている。また、インク流発生部68は、Y方向においてフロート56と重なる位置であり、X方向においてフロート56と重ならない位置に設けられている。これにより、インク流発生部68で生成したインク流が、フロート56に直接あたることはない。
【0041】
受け部70は、フロート56の、Y方向に延在する第2側面56bにおいて、X方向およびY方向においてインク流発生部68と重なる位置に、固定的に設けられている。受け部70は、インク流発生部68によるインク流を受けて、回動部材48を、被検知部60がセンサ52の発光部と受光部との間に位置する姿勢から、被検知部60が当該間から退避した姿勢に回動可能な形状となっている。なお、インク流発生部68および受け部70については、X方向において、フロート56の一方側に設けるようにしてもよいし、両側に設けるようにしてもよい。
【0042】
以上の構成において、回動部材48を強制回動する場合について説明する。インク貯留室38のインクの液面の高さが所定位置以上であると、
図5(a)のように、フロート56に生じる浮力によって、回動部材48には矢印A方向へ回動する力が生じる。このとき、軸62周りの増粘インクなどが付着していると、被検知部60がセンサ52の発光部と受光部との間に適正に位置するまで回動できないことがある。
【0043】
そこで、この状態から、インク流発生部68によってインク流を発生させる。そして、フロート56の第2側面56bに設けられた受け部70が、生じたインク流を受ける。これにより、回動部材48には、矢印C方向への力が生じ、回動部材48は、強制的に回動させられて、被検知部60がセンサ52の発行部と受光部との間から完全に退避する姿勢となる(
図5(b)参照)。その後、インク流発生部68の駆動を停止する。これにより、インク流が消失し、回動部材48にはフロート56の浮力によって矢印A方向への力が生じ、回動部材48は、被検知部60がセンサ52の発光部と受光部との間に位置する姿勢、あるいは、それに近似した姿勢まで回動する(
図5(a)参照)。このように、本実施形態では、インク流発生部68および受け部70が、回動部材48を強制的に回動させる回動部として機能している。
【0044】
このようにして、インク流発生部68を駆動して、回動部材48を矢印C方向に強制的に回動させ、インク流発生部68を停止して、回動部材48をフロート56の浮力により矢印A方向に回動させることを交互に繰り返し行う強制回動を実行する。これにより、軸62付近に溜まった増粘インクを拡散することができる。このため、軸62近傍におけるインクの増粘が解消され、増粘および固着インクにより回動部材48の回動が阻害されることを抑制することができるようになる。なお、インク流発生部68の駆動の制御中は、センサ52から制御部へ信号を送信しない、あるいは、センサ52からの信号を制御部で受信しないようにする。
【0045】
また、インク流発生部68を用いた回動部材48の強制回動については、種々のタイミングで実行することができる。例えば、インク収納部材36を交換し、インク貯留室38に、液面が所定位置以上の高さとなる量だけインクが貯留されたタイミング(例えば、インク収納部材36をインク貯留室38に接続してからの時間で判定)で、一定時間だけ強制回動を実行する。なお、強制回動を行うタイミングおよびその長さについては、使用するインクの種類や作業環境などに応じて設定される。
【0046】
上記実施形態では特に記載しなかったが、インク流発生部68および受け部70については、上記実施形態に限定されるものではない。即ち、発生させたインク流によって、回動部材48を、被検知部60がセンサ52の発光部と受光部との間に位置する姿勢から、被検知部60が当該間から退避した姿勢に変位可能であれば、インク流発生部68、受け部70はどのように配置してもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、受け部70に、インク流発生部68で発生させたインク流を受けさせることで、回動部材48を回動するようにしたが、これに限定されるものではない。即ち、フロート56、アーム部58、あるいは被検知部60の少なくともいずれかに、インク流発生部68で発生させたインク流を直接受けさせることで、回動部材48を回動するようにしてもよい。
【0048】
以上において説明したように、記録装置10では、インク流を発生するインク流発生部68と、発生したインク流を受けて回動部材48を回動させることができる受け部70とを設けるようにした。これにより、インク貯留室38に液面が所定位置以上となる量のインクを貯留した状態で回動部材48を強制的に回動することができるようになり、軸62周りの増粘インクを拡散できるようになる。このため、軸62周りの増粘インク、固着インクにより回動部材48の回動が阻害されることを抑制することができる。従って、記録装置10では、回動部材48を回動可能に支持する支持部材50における軸62周りのインクが増粘あるいは固化しても、インク残量の検知機能が低下することを抑制することができるようになる。
【0049】
(他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下(1)乃至(5)に示すように変形してもよい。
【0050】
(1)上記実施形態では、インク貯留室38に、インクの液面の高さが所定位置以上か否かを判定する、つまり、インク残量を判定するための機構を設けるようにしたが、これに限定されるものではない。即ち、回動部材48や回動部材48を回動させるための機構といった、インク残量を判定するための機構を、インク収納部材36に設けるようにしてもよい。また、上記第1実施形態では、電磁石66をインク貯留室38の外部に設けるようにしたが、これに限定されるものではない。即ち、電磁石66をインク貯留室38の内部に設けるようにしてもよい。
【0051】
(2)上記実施形態では、回動部材48とセンサ52とによって、インク貯留室38に貯留されたインクの液面の高さが所定位置以上であるか否かを判定するようにしたが、インク貯留室38におけるインク残量を検知する構成は、これに限定されるものではない。即ち、基準位置からの回動部材48の回動角度を検知可能なセンサを設け、回動部材48の回動角度に基づいてインク貯留室38に貯留されたインクの残量を、段階的または連続的に検知する構成としてもよい。
【0052】
(3)本発明は、インクを吐出して記録媒体に記録する記録装置のみに適用されるものではなく、液体吐出ヘッドから種々の液体を吐出する液体吐出装置として広く適用可能である。また、上記実施形態では、記録装置10を、Y方向に搬送される記録媒体に対して、X方向に移動する記録ヘッドからインクを吐出する、所謂、シリアルスキャンタイプの記録装置としたが、これに限定されるものではない。即ち、記録媒体における記録領域の幅方向全域に亘る長尺な記録ヘッドを用いる、所謂、フルラインタイプの記録ヘッドとしてもよい。
【0053】
(4)上記実施形態では、回動部材48への強制回動を実行する際には、センサ52から制御部へ信号を送信しない、あるいは、センサ52からの信号を制御部において受信しないようにしたが、これに限定されるものではない。即ち、制御部におけるセンサ52から出力される信号に応じて、強制回動を終了するようにしてもよい。これにより、例えば、電磁石66への通電時にローレベル信号を受信し、電磁石66への通電停止時にハイレベル信号を受信することを設定回数だけ繰り返えされると、軸62近傍におけるインクの増粘が解消されたものと判定して、強制回動を終了する。
【0054】
(5)上記実施形態および上記(1)乃至(4)に示す各種の形態は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0055】
10 記録装置
26 記録ヘッド
32 インク貯留部
48 回動部材
52 センサ
64 磁性部材
66 電磁石
68 インク流発生部
70 受け部