(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】チョコレート冷菓ミックス用増粘抑制剤
(51)【国際特許分類】
A23G 9/00 20060101AFI20240617BHJP
A23G 9/34 20060101ALI20240617BHJP
A23G 1/00 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
A23G9/00 101
A23G9/34
A23G1/00
(21)【出願番号】P 2020064767
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 尚美
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-287446(JP,A)
【文献】特開2003-052310(JP,A)
【文献】特開2010-227075(JP,A)
【文献】特開2014-124095(JP,A)
【文献】特許第3502333(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 9/00-9/52
A23G 1/00-1/56
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジグリセリンパルミチン酸エステル及び/又はトリグリセリンパルミチン酸エステルを有効成分とするチョコレート冷菓ミックス用増粘抑制剤。
【請求項2】
請求項1記載のチョコレート冷菓ミックス用増粘抑制剤を含有するチョコレート冷菓ミック
ス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョコレート冷菓ミックス用増粘抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アイスクリーム等の冷菓の需要者は若者層だけではなくシニア層にも広がりを見せており、冷菓に対する嗜好の多様化が進んでいる。そのため、より嗜好性の高い商品群の開発が求められている。特に、人気のバリエーションであるチョコレート原料を含有した冷菓については、よりチョコレートの風味を引き立てるような濃厚感のあるリッチな配合を試みる等、各社から工夫を凝らした商品開発が進められている。
【0003】
アイスクリーム等の冷菓の製造としては、原料の混合、均質化、殺菌、エージング、フリージング、充填工程等をとることが一般的である。その中でもエージング工程は低温で長時間、冷菓ミックスを熟成させる工程であり、各種原料を十分に水和させ冷菓の食感を滑らかにする等の重要な工程を担っている。しかし、エージング工程では時間の経過に伴い冷菓ミックスの粘度が上昇する傾向にある。特に、カカオマス、カカオバター、ココアパウダー等のチョコレート原料を含有した冷菓ミックスにおいては急冷直後や時間の経過に伴い増粘が顕著に発生するためチョコレート冷菓の製造に支障をきたす等、製造上の課題となっている。
【0004】
チョコレート冷菓に関する技術としては、例えば、カカオ油脂分を含有するチョコレート冷菓において、該チョコレート冷菓中にグリセリン脂肪酸エステル及びクエン酸モノグリセリドを含有することを特徴とするチョコレート冷菓(特許文献1)、カカオバター、リン酸塩、ショ糖脂肪酸エステル及びソルビタン脂肪酸エステルを含有する冷菓であって、該リン酸塩が、メタリン酸塩又はポリリン酸塩である冷菓(特許文献2)等が開示されている。
【0005】
しかし、前記技術をもってしても、チョコレート原料を含有した冷菓ミックスにおける増粘抑制効果は必ずしも十分とはいえず、さらなる増粘抑制に関する技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-052310号公報
【文献】特開2008-301814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、チョコレート原料を含有するチョコレート冷菓ミックスの増粘を抑制するチョコレート冷菓ミックス用増粘抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題に対して鋭意検討を行った結果、特定の乳化剤を用いることにより、前記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)ジグリセリンパルミチン酸エステル及び/又はトリグリセリンパルミチン酸エステルを有効成分とするチョコレート冷菓ミックス用増粘抑制剤、
(2)(1)記載のチョコレート冷菓ミックス用増粘抑制剤を含有するチョコレート冷菓ミックス及びチョコレート冷菓、
から成っている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のチョコレート冷菓ミックス用増粘抑制剤を含有することにより、チョコレート原料を含有するチョコレート冷菓ミックスの増粘が抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で用いられるジグリセリンパルミチン酸エスエルは、ジグリセリンとパルミチン酸のエステル化反応生成物であり、エステル化反応等の自体公知の方法で製造される。ジグリセリンパルミチン酸エステルは、エステル結合したパルミチン酸の数によって、モノエステル体、ジエステル体、トリエステル体、テトラエステル体が存在するが、本発明ではモノエステル体を多く含むジグリセリンパルミチン酸エステルであることが好ましい。モノエステル体の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。
【0012】
ジグリセリンパルミチン酸エステルの原料として用いられるジグリセリンは、グリセリンに少量の酸(例えば、濃硫酸、p-トルエンスルホン酸等)又はアルカリ(例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等)を触媒として添加し、窒素又は二酸化炭素等の任意の不活性ガス雰囲気下で、好ましくは180℃以上の温度で加熱し、重縮合反応させて得られるグリセリンの平均重合度が好ましくは1.5~2.4、より好ましくは平均重合度が2.0のジグリセリン混合物が挙げられる。また、ジグリセリンはグリシドール又はエピクロルヒドリン等を原料として得られるものであってもよい。反応終了後、所望により中和、脱塩、脱色等の処理を行ってもよい。本発明においては、上記ジグリセリン混合物を、蒸留又はカラムクロマトグラフィー等の自体公知の方法を用いて精製し、グリセリン2分子からなるジグリセリンを好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上に高濃度化した高純度ジグリセリンが好ましく用いられる。
【0013】
ジグリセリンパルミチン酸エステルの原料として用いられるパルミチン酸は、特に制限はないが、例えば、動植物油脂を起源とするものを好ましく用いることができる。パルミチン酸は、他の脂肪酸を含むパルミチン酸主体の脂肪酸混合物を用いることもできるが、パルミチン酸の含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0014】
ジグリセリンパルミチン酸エステルの製法は、特に制限はないが、例えば、以下のエステル化反応による製法を挙げることができる。攪拌機、加熱用のジャケット又は邪魔板等を備えた反応容器に、ジグリセリンとパルミチン酸を1:1のモル比で仕込み、触媒として水酸化ナトリウム等を加えて攪拌混合し、窒素ガス雰囲気下で、エステル化反応により生成する水を系外に除去しながら、所定温度で加熱する。所定温度は、好ましくは180~260℃、より好ましくは200~250℃である。また、反応における圧力条件は減圧下又は常圧下で、反応時間は、好ましくは0.5~15時間、より好ましくは1~3時間である。反応の終点は、反応混合物の酸価を測定し、酸価12以下を目安とするのが好ましい。得られた反応液は、未反応の脂肪酸、未反応のジグリセリン、ジグリセリンモノパルミチン酸エステル(モノエステル体)、ジグリセリンジパルミチン酸エステル(ジエステル体)、ジグリセリントリパルミチン酸エステル(トリエステル体)、ジグリセリンテトラパルミチン酸エステル(テトラエステル体)等を含む混合物である。本発明ではこの混合物を用いることもできるが、後述する各種処理をして得たジグリセリンパルミチン酸エステルを用いることが好ましい。
【0015】
その後、所望により反応混合物中に残存する触媒を中和してもよい。その際、エステル化反応の温度が200℃以上の場合は液温を180~200℃に冷却してから中和処理を行うのが好ましい。また、反応温度が200℃未満の場合は、そのままの温度で中和処理を行ってもよい。中和後、上記反応混合物を、所望により冷却して、好ましくは100~180℃、より好ましくは130~150℃に保ち、好ましくは1~10時間放置する。未反応のジグリセリンが下層に分離した場合はそれを除去するのが好ましい。
【0016】
前記処理により得られたジグリセリンパルミチン酸エステルを、更に精製し、モノエステル体の濃度を高めてもよい。精製方法は、特に制限されないが、減圧下で蒸留して残存する未反応のジグリセリンを留去し、例えば、流下薄膜式分子蒸留装置又は遠心式分子蒸留装置等を用いた分子蒸留を挙げることができる。カラムクロマトグラフィー又は液液抽出等、自体公知の方法を用いて精製してもよい。これにより、モノエステル体を多く含むジグリセリンパルミチン酸エステルを得ることができる。このようなジグリセリンパルミチン酸エステルは、例えば、ポエムDP-95RF(商品名;モノエステル体含有量80%以上;理研ビタミン社製)が商業的に販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0017】
本発明で用いられるトリグリセリンパルミチン酸エステルは、トリグリセリンとパルミチン酸とのエステル化反応生成物であり、エステル化反応等、自体公知の方法で製造される。トリグリセリンパルミチン酸エステルは、エステル結合したパルミチン酸の数によって、モノエステル体、ジエステル体、トリエステル体、テトラエステル体、ペンタエステル体が存在するが、本発明ではモノエステル体を多く含むトリグリセリンパルミチン酸エステルであることが好ましい。モノエステル体の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。
【0018】
トリグリセリンパルミチン酸エステルの原料として用いられるトリグリセリンは、グリセリンに少量の酸(例えば、濃硫酸、p-トルエンスルホン酸等)又はアルカリ(例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等)を触媒として添加し、窒素又は二酸化炭素等の任意の不活性ガス雰囲気下で、例えば、180℃以上の温度で加熱し、重縮合反応させて得られるグリセリンの平均重合度が好ましくは2.5~3.4、より好ましくは平均重合度が3.0のトリグリセリン混合物が挙げられる。また、トリグリセリンはグリシドール又はエピクロルヒドリン等を原料として得られるものであってもよい。反応終了後、所望により中和、脱塩、脱色等の処理を行ってもよい。本発明においては、上記トリグリセリン混合物を、例えば、蒸留又はカラムクロマトグラフィー等、自体公知の方法を用いて精製し、グリセリン3分子からなるトリグリセリンを好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上に高濃度化した高純度トリグリセリンが好ましく用いられる。
【0019】
トリグリセリンパルミチン酸エステルの原料として用いられるパルミチン酸は、特に制限はないが、例えば、動植物油脂を起源とするものを好ましく用いることができる。パルミチン酸は、他の脂肪酸を含むパルミチン酸主体の脂肪酸混合物を用いることもできるが、パルミチン酸の含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0020】
トリグリセリンパルミチン酸エステルの製法は、特に制限はないが、例えば、以下のエステル化反応による製法を挙げることができる。攪拌機、加熱用のジャケット、邪魔板等を備えた反応容器に、トリグリセリンとパルミチン酸を1:1のモル比で仕込み、触媒として水酸化ナトリウムを加えて攪拌混合し、窒素ガス雰囲気下で、エステル化反応により生成する水を系外に除去しながら、所定温度で加熱する。所定温度は、好ましくは180~260℃、より好ましくは200~250℃である。また、反応における圧力条件は減圧下又は常圧下で、反応時間は、好ましくは0.5~15時間、より好ましくは1~3時間である。反応の終点は、反応混合物の酸価を測定し、酸価12以下を目安とするのが好ましい。得られた反応液は、未反応の脂肪酸、未反応のトリグリセリン、トリグリセリンモノパルミチン酸エステル(モノエステル体)、トリグリセリンジパルミチン酸エステル(ジエステル体)、トリグリセリントリパルミチン酸エステル(トリエステル体)、トリグリセリンテトラパルミチン酸エステル(テトラエステル体)、トリグリセリンペンタパルミチン酸エステル(ペンタエステル体)等を含む混合物である。本発明ではこの混合物を用いることもできるが、後述する各種処理をして得たトリグリセリンパルミチン酸エステルを用いることが好ましい。
【0021】
その後、所望により反応混合物中に残存する触媒を中和してもよい。その際、エステル化反応の温度が200℃以上の場合は液温を180~200℃に冷却してから中和処理を行うのが好ましい。また反応温度が200℃未満の場合は、そのままの温度で中和処理を行ってもよい。中和後、上記反応混合物を、所望により冷却して、好ましくは100~180℃、より好ましくは130~150℃に保ち、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1~10時間放置する。未反応のトリグリセリンが下層に分離した場合はそれを除去するのが好ましい。
【0022】
前記処理により得られたトリグリセリンパルミチン酸エステルを、更に精製し、モノエステル体の濃度を高めても良い。精製方法は、特に制限されないが、減圧下で蒸留して残存する未反応のトリグリセリンを留去し、例えば、流下薄膜式分子蒸留装置又は遠心式分子蒸留装置等を用いた分子蒸留を挙げることができる。カラムクロマトグラフィー又は液液抽出等、自体公知の方法を用いて精製してもよい。これにより、モノエステル体を多く含むトリグリセリンパルミチン酸エステルを得ることができる。このようなトリグリセリンパルミチン酸エステルは、例えば、ポエムTRP-97RF(商品名;モノエステル体含有量80%以上;理研ビタミン社製)が商業的に販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0023】
ジグリセリンパルミチン酸エステル及びトリグリセリンパルミチン酸エステルのモノエステル体の含有量は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いてエステル組成分析を行い、絶対検量線法により求めることできる。HPLCは以下の分析条件により行う。分析後データ処理装置によってクロマトグラム上に記録された被検試料のモノエステル体に相当するピーク面積を測定し、順相系カラムクロマトグラフィーにより精製したジグリセリンモノ脂肪酸エステル又はトリグリセリンモノ脂肪酸エステルを標準試料として作成した検量線から、モノエステル体含有量(質量%)を算出する。
<HPLC分析条件>
装置:島津高速液体クロマトグラフ
ポンプ(型式:LC-10A;島津製作所社製)
カラムオーブン(型式:CTO-10A;島津製作所社製)
データ処理装置(型式:C-R7A;島津製作所社製)
カラム(2本連結):GPCカラム(型式:SHODEX KF-802;昭和電工社製)
移動相:テトラヒドロフラン
流量:1.0mL/min
検出器:RI検出器(型式:RID-6A;島津製作所社製)
カラム温度:40℃
検液注入量:15μL
【0024】
本発明のチョコレート冷菓ミックス用増粘抑制剤は、ジグリセリンパルミチン酸エステル及び/又はトリグリセリンパルミチン酸エステルを有効成分とする。
【0025】
チョコレート冷菓ミックス用増粘抑制剤としては、ジグリセリンパルミチン酸エステル又はトリグリセリンパルミチン酸エステルをそのまま用いてもよく、ジグリセリンパルミチン酸エステル及び/又はトリグリセリンパルミチン酸エステルを、好ましくは10質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上含有する製剤を調整し、これを用いてもよい。
【0026】
このような製剤とする場合、ジグリセリンパルミチン酸エステル及びトリグリセリンパルミチン酸エステル以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の任意の成分を含有させることができる。このような成分としては、例えば、澱粉、デキストリン、糖類、糖アルコール、カゼインナトリウム、リン酸塩、セルロース等の賦形剤、トコフェロール、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸塩、L-アスコルビン酸脂肪酸エステル、茶抽出物、ヤマモモ抽出物、ローズマリー抽出物等の酸化防止剤、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、pH調整剤、水、油脂等の食品素材等を挙げることができる。
【0027】
製剤の調整方法としては、特に制限はないが、例えば、溶融混合、粉粉混合、スプレードライ製法、スプレークーリング製法等の自体公知の方法を用いることができる。チョコレート冷菓ミックス用増粘抑制剤の形態としては、特に制限はないが、例えば、液状、乳状、ペースト状、半固形状、固形状、ペレット状、粉末状、顆粒状等を挙げることができる。
【0028】
チョコレート冷菓ミックス用増粘抑制剤の使用方法は、特に制限はないが、例えば、チョコレート冷菓ミックスを調整する際に冷菓原料とともに加温しながら攪拌し、分散、溶解させる方法を用いることができる。
【0029】
本発明のチョコレート冷菓ミックス用増粘抑制剤を含有するチョコレート冷菓ミックス及びチョコレート冷菓も本発明の形態の一つである。
【0030】
チョコレート冷菓とは、チョコレート原料を含有する冷菓をいう。チョコレート原料は、カカオ豆由来の原料を含有すれば、特に制限はないが、例えば、カカオニブ、カカオリカー、カカオマス、カカオバター、ココアケーキ、ココアパウダー、ブラックチョコレート、ビターチョコレート、スイートチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレート等を挙げることができる。また、チョコレート類の表示に関する公正競争規約に定めるチョコレート、準チョコレート、チョコレート菓子、準チョコレート菓子に含まれるものを用いてもよい。冷菓とは、冷凍させた菓子をいい、特に制限はないが、例えば、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス等のアイスクリーム類、氷菓等を挙げることができる。
【0031】
チョコレート冷菓ミックスの調整方法は、特に制限されないが、例えば、チョコレート冷菓ミックス用増粘抑制剤、チョコレート原料、その他の冷菓原料を秤量、混合し、好ましくは30~90℃に加温しながら攪拌し、分散、溶解させることにより、チョコレート冷菓ミックスを調整することができる。
【0032】
チョコレート冷菓ミックス中のジグリセリンパルミチン酸エステル及び/又はトリグリセリンパルミチン酸エステルの含有量は、好ましくは0.001~10質量%、より好ましくは0.01~5質量%である。
【0033】
チョコレート冷菓ミックス中のチョコレート原料の含有量は、特に制限はないが、チョコレート又はチョコの名称を商品名に使用する場合、アイスクリーム類及び氷菓の表示に関する公正競争規約では、「アイスクリーム等のベースミックスに添加する場合は、重量百分率で0.6%以上のカカオ分を含むこと。ただし、アイスクリームにあっては、次号の規定により表示すること。」と規定し、アイスクリームについては、「ベースミックスに添加する場合は、重量百分率でカカオ分を1.5%以上含むこと。」と規定しているため、チョコレート風味付与の観点も踏まえると、好ましくは1~20質量%、より好ましくは5~18質量%、更に好ましくは8~15質量%である。チョコレート原料は、1種又は2種以上を組み合わせて含有させてもよい。チョコレート原料の組み合わせとしては、特に制限はないが、好ましくはカカオマスとココアパウダー、カカオバターとココアパウダー、カカオマスとカカオバターとココアパウダー等を挙げることができる。
【0034】
チョコレート原料以外の冷菓原料としては、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、特に制限はないが、例えば、水、ジグリセリンパルミチン酸エステル及びトリグリセリンパルミチン酸エステル以外の乳化剤、乳製品、卵加工品、糖類、糖アルコール、油脂、甘味料、安定剤、着色料、香料、酸化防止剤、調味料、食品素材等を挙げることができる。
【0035】
ジグリセリンパルミチン酸エステル及びトリグリセリンパルミチン酸エステル以外の乳化剤としては、冷菓ミックスの乳化、冷菓の保形性、オーバーラン、食感の向上等の目的で含有させるものを挙げることができ、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等を挙げることができる。例えば、エマルジーHRO(商品名;モノグリセリンオレイン酸エステル;理研ビタミン社製)が商業的に販売されており、これを用いることができる。
【0036】
乳製品としては、牛乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、加糖練乳、クリーム類、ホエー、バター、チーズ等を挙げることができる。卵加工品としては、卵黄、卵白、加糖卵黄、卵タンパク質等を挙げることができる。糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、グラニュー糖、異性化糖、乳糖、麦芽糖、転化糖、水飴、粉末水飴、還元水飴、トレハロース、パラチノース、キシロース、蜂蜜等を挙げることができる。糖アルコールとしては、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、キシリトール糖を挙げることができる。油脂としては、ヤシ油、パーム油、パーム核油、なたね油、綿実油、大豆油、コーン油、オリーブ油、サフラワー油、ひまわり油、落花生油、米油等の植物油脂、乳脂、牛脂、ラード、魚油、バター等の動物油脂、分別油脂、硬化油脂、微水添油脂、エステル交換油脂等を挙げることができる。甘味料としては、ステビア、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムカリウム、ネオテーム等を挙げることができる。
【0037】
安定剤としては、寒天、ゼラチン、ペクチン、カラギナン、カードラン、マンナン、アルギン酸、アルギン酸塩、多糖類、大豆多糖類、澱粉、加工澱粉、デキストリン、セルロース類、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム、タラガム、トラガントガム、ジェランガム、アラビアガム等を挙げることができる。着色料としては、食用タール色素、紅麹色素、クチナシ色素、トウガラシ色素、パプリカ色素、カロテン色素、アントシアニン色素、赤キャベツ色素、赤ダイコン色素、キャロット色素、コチニール色素、ラック色素、紅花色素、クロロフィル、スピルリナ等を挙げることができる。酸化防止剤としては、トコフェロール、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸塩、L-アスコルビン酸脂肪酸エステル、茶抽出物、ヤマモモ抽出物、ローズマリー抽出物等を挙げることができる。食品素材としては、カルシウム、鉄等のミネラル、ビタミン、アミノ酸、タンパク質等の栄養強化を目的とするものや、種実類、果肉、フルーツソース、果汁、餡、ジャム、焼き菓子類、抹茶等を挙げることができる。
【0038】
本発明のチョコレート冷菓ミックス用増粘抑制剤を含有するチョコレート冷菓ミックスを用いたチョコレート冷菓の製造方法に、特に制限はなく、自体公知の方法により製造することができる。例えば、チョコレート冷菓ミックスについて、均質化工程、殺菌工程、エージング工程、フリージング工程、充填工程、硬化工程等を順次とることができる。均質化工程では、チョコレート冷菓ミックスを予備乳化した後、均質化装置にて、好ましくは1~30MPaで均質化させる。均質化は複数回繰り返してもよい。殺菌工程では、68℃、0.5時間以上の条件で殺菌されることが好ましい。エージング工程では、好ましくは0~10℃、より好ましくは0~5℃に冷却し、静置保管されてもよく、攪拌されながら保管されてもよい。フリージング工程では、好ましくは-8~-2℃に冷却し、その後、充填工程をとる。硬化工程では、好ましくは-18℃以下で硬化させる。また、均質化後の工程で冷菓原料を混合することもできる。
【0039】
チョコレート冷菓の形態は、特に制限はないが、カップタイプ、バータイプ、ソフトクリームタイプ、チョコレート等の食品素材でコーティングされたもの、フルーツソース等の食品素材を充填したもの、ナッツ等の食品素材をトッピングしたもの、焼き菓子や最中で挟んだもの、アルミ、プラスチックパウチ等に充填されたもの等を挙げることができる。
【0040】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【実施例】
【0041】
[デカグリセリンステアリン酸エステル(試作品1)の作製]
撹拌機、温度計、ガス吹込管及び水分離器を取り付けた1Lの四つ口フラスコに、デカグリセリン(商品名:ポリグリセリン♯750;阪本薬品工業社製)511.7g、及びステアリン酸主体の脂肪酸混合物(商品名:ステアリン酸65;ミヨシ油脂社製)188.3gを仕込み、触媒として水酸化ナトリウム10W/V%水溶液7mLを加え、窒素ガス気流中240℃で、酸価3以下となるまで、2時間エステル化反応をさせた。得られた反応混合物を130℃まで冷却し、リン酸(85質量%)1.0gを添加して触媒を中和し、デカグリセリンステアリン酸エステル(試作品1)630gを得た。
【0042】
[チョコレート冷菓の作製]
(1)原材料
1)加糖練乳(商品名:北海道コンデンスミルク;ショ糖含有量44.8質量%;北海道乳業社製)
2)グラニュー糖(商品名:グラニュー糖GHC1;三井製糖社製)
3)粉末水飴(商品名:粉末水飴SPD;昭和産業社製)
4)脱脂粉乳(商品名:森永脱脂粉乳;タンパク質含有量34質量%;森永乳業社製)
5)ココアパウダー(商品名:ココアパウダー;ココアバター含有量22~24質量%;富澤商店社製)
6)カカオマス(商品名:カカオマス;大東カカオ社製)
7)安定剤(商品名:アイスターCY;DSP五協フード&ケミカル社製)
8)無塩バター(商品名:明治バター;明治社製)
9)ヤシ硬化油(商品名:ヤシ硬化油34;日清オイリオグループ社製)
10)水
11)乳化剤(商品名:エマルジーHRO;モノグリセリンオレイン酸エステル;理研ビタミン社製)
12)ジグリセリンパルミチン酸エステル(商品名:ポエムDP-95RF;モノエステル体含有量80質量%以上)
13)トリグリセリンパルミチン酸エステル(商品名:ポエムTRP-97RF;モノエステル体含有量80質量%以上)
14)モノグリセリンパルミチン酸エステル(商品名:エマルジーP-100;理研ビタミン社製)
15)ジグリセリンミリスチン酸エステル(商品名:ポエムDM-100;理研ビタミン社製)
16)ジグリセリンステアリン酸エステル(商品名:ポエムDS-100A;理研ビタミン社製)
17)デカグリセリンステアリン酸エステル(試作品1)
18)モノグリセリンクエン酸ステアリン酸エステル(商品名:ポエムK-30;理研ビタミン社製)
【0043】
(2)チョコレート冷菓の作製方法
1)実施例1
加糖練乳250g、グラニュー糖175g、粉末水飴150g、脱脂粉乳175g、ココアパウダー125g、カカオマス125g、安定剤7.5g、無塩バター87.5g、ヤシ硬化油76.25g、水1323.75g、乳化剤1.625g、ジグリセリンパルミチン酸エステル3.375gを3Lステンレス製ジョッキに入れ、スリーワンモーター(型式:BL600;HEIDON社製)にて攪拌しながら加温し、80℃達温後10分間攪拌してチョコレート冷菓ミックスを得た。得られたチョコレート冷菓ミックスをTKホモミキサー(型式:MARKII;プライミクス社製)で5000rpm、5分間予備乳化した後、二段階ピストンホモジナイザー(型式:HV-0A-07-1.5S;イズミフードマシナリ社製)で1段目10MPa、2段目5MPaの圧力条件で均質化処理を行った。その後、水浴槽(3℃)内で、30分間攪拌し、5℃まで急冷後、引き続き恒温槽(5℃)に静置した。急冷直後、静置24時間後及び静置48時間後におけるチョコレート冷菓ミックスの粘度を粘度計(商品名:LVT;BROOK FIELD社製)を用いて、60rpm、5℃で測定した。その後、フリージングを行い、カップへ充填しチョコレート冷菓を得た。
【0044】
2)実施例2
ジグリセリンパルミチン酸エステルをトリグリセリンパルミチン酸エステルに変更すること以外は、実施例1と同様な方法でチョコレート冷菓を得た。
【0045】
3)比較例1
ジグリセリンパルミチン酸エステルをモノグリセリンパルミチン酸エステルに変更すること以外は、実施例1と同様な方法でチョコレート冷菓を得た。
【0046】
4)比較例2
ジグリセリンパルミチン酸エステルをジグリセリンミリスチン酸エステルに変更すること以外は、実施例1と同様な方法でチョコレート冷菓を得た。
【0047】
5)比較例3
ジグリセリンパルミチン酸エステルをジグリセリンステアリン酸エステルに変更すること以外は、実施例1と同様な方法でチョコレート冷菓を得た。
【0048】
6)比較例4
ジグリセリンパルミチン酸エステルをデカグリセリンステアリン酸エステルに変更すること以外は、実施例1と同様な方法でチョコレート冷菓を得た。
【0049】
7)比較例5
ジグリセリンパルミチン酸エステルをモノグリセリンクエン酸ステアリン酸エステルに変更すること以外は、実施例1と同様な方法でチョコレート冷菓を得た。
【0050】
各種原材料のチョコレート冷菓ミックス中の含有量(質量%)を表1に示す。また、実施例1、2、比較例1~5について、急冷直後、静置24時間後及び静置48時間後におけるチョコレート冷菓ミックスの粘度を表2に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
表2から、ジグリセリンパルミチン酸エステルを含有させた実施例1及びトリグリセリンパルミチン酸エステルを含有させた実施例2のチョコレート冷菓ミックスは、比較例1~5いずれのチョコレート冷菓ミックスよりも増粘が抑制されていることが分かった。特に、経時的な粘度変化を評価した静置24時間後及び静置48時間後においては増粘抑制効果が顕著であった。