(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】水解性シート
(51)【国際特許分類】
D21H 21/24 20060101AFI20240617BHJP
D21H 19/12 20060101ALI20240617BHJP
A47L 13/17 20060101ALI20240617BHJP
A47K 10/16 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
D21H21/24
D21H19/12
A47L13/17 A
A47K10/16 C
(21)【出願番号】P 2020075906
(22)【出願日】2020-04-22
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松永 拓也
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-084273(JP,A)
【文献】特開2008-274465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H11/00-27/42
A47L13/00-13/62
A47K10/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維及び水溶性バインダを含有する水解可能なシート状基材と、界面活性剤とを含み、
前記界面活性剤は、下記式(1)で表されるアセチレングリコール、下記式(2)で表されるアセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物、及び下記式(3)で表されるジアルキルスルホコハク酸又はその塩の少なくとも一つであ
り、
湿潤強度が109cN/25mm以上212cN/25mm以下である水解性シート。
(前記湿潤強度は、70mm×25mmの矩形状の試験片の中央に50μLの水をマイクロピペットで滴下し、30秒間浸透させた後、チャック間距離を50mmとして試験片の両端を試験機に固定し、300mm/minの速度で引っ張ることにより3回測定した湿潤強度の平均値である。)
【化1】
【化2】
【化3】
【請求項2】
前記繊維は、フィブリル度が1.60%未満である請求項1記載の水解性シート。
【請求項3】
前記繊維は、古紙由来のセルロース繊維である請求項1又は2記載の水解性シート。
【請求項4】
前記水溶性バインダが、カルボキシル基を有する水溶性バインダである請求項1~3の何れか1項に記載の水解性シート。
【請求項5】
水性薬剤をさらに含有する請求項1~4の何れか1項に記載の水解性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水解性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
水解性シートは、水解可能なシートを含み、例えばトイレ等の清掃用物品として用いられている。清掃用物品としては、例えば、所定のバインダを含有させて保形性を高めたもの(特許文献1)、界面活性剤及び金属化合物とともに有機酸を含有させて除菌性と強度を両立させたもの(特許文献2)、所定のバインダ及び界面活性剤を含有させて、湿潤強度及び水解性を向上させたもの(特許文献3参照)などがある。
水解性シートは水に触れると分解するので、清掃作業後、水中に廃棄して処分することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-81883号公報
【文献】特開2017-110323号公報
【文献】特開2005-194635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、清掃用物品に対する要求はさらに厳しくなっている。より速やかに処分できる清掃用物品とするために、より迅速に繊維レベルまで崩壊できる水解性シートが求められている。
本発明は、水中でより迅速に繊維レベルまで崩壊できる水解性シートに関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、繊維及び水溶性バインダを含有する水解可能なシート状基材と、界面活性剤とを含み、前記界面活性剤は、下記式(1)で表されるアセチレングリコール、下記式(2)で表されるアセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物、及び下記式(3)で表されるジアルキルスルホコハク酸又はその塩の少なくとも一つである水解性シートに関する。
【化1】
【化2】
【化3】
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る水解性シートは、水中でより迅速に繊維レベルまで崩壊することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】古紙シートの湿潤強度及び初期水解性の評価結果である。
【
図2】アセチレングリコールにおけるEO付加モル数と、古紙シートの初期水解性との関係を示す図である。
【
図3】アセチレングリコールの動的表面張力と、古紙シートの初期水解性との関係を示す図である。
【
図4】界面活性剤の吸着量と、古紙シートの初期水解性との関係を示す図である。
【
図5】界面活性剤における親水基の吸着量と、古紙シートの初期水解性との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る実施形態について説明する。
本実施形態に係る水解性シートは、繊維及び水溶性バインダを含有する水解可能なシート状基材と、所定の界面活性剤とを含む。シート状基材に含まれる繊維は、平均繊維長0.5~3mm程度、フィブリル度0.80~1.60%程度とすることができ、フィブリル度が1.60%未満であることが好ましく、1.40%未満であることがより好ましい。
【0009】
繊維の平均繊維長及びフィブリル度は、画像分析によって求めることができる。一例として、市販の繊維画像分析アナライザー(バルメットオートメーション製Valmet FS5)を用い、そのマニュアルに従って測定する。測定原理を、以下に説明する。まず、測定対象の繊維の水分散液を調製し、この水分散液を内径0.5mmの管に注入して一方向に流す。その流れる様子を、光源の存在下でCCDカメラ等の撮像手段によって撮像する。
【0010】
得られた画像に基づき、各繊維について、平均繊維長及び、繊維のフィブリル部分と、それ以外の部分とに識別する。そして、「繊維の全体面積に対する、フィブリル部分の面積の割合」(以下、「フィブリル面積率」ともいう。)を測定する。こうして得られるフィブリル面積率がフィブリル度である。フィブリル度が小さいということは、フィブリル面積率が小さい、すなわち、外部フィブリル化があまり進行していないことを意味する。
【0011】
フィブリル度の数値が相対的に大きいセルロース繊維は、フィブリル度の数値が相対的に小さいセルロース繊維に比べて、外部フィブリル化が進行しており、繊維の外側のフィブリルが毛羽立って比表面積が増大している。このため、繊維どうしのフィブリルによる物理的絡み合いが生じやすい。したがって、シート状基材に含有されるセルロース繊維がフィブリル度の数値の大きなものであると、湿潤強度の強いシート状基材となる。
しかしながら、このフィブリル度の数値が大きすぎると、フィブリルによる物理的絡み合いが促進されてシート状基材の構成繊維どうしの結合が強まる。その結果、シート状基材の水解性が低下してしまうおそれがある。シート強度と水解性との両立の観点から、フィブリル度を上述の範囲にすることが好ましい。
【0012】
本発明に用いられるシート状基材に含有される繊維としては、セルロース繊維が典型的な例として挙げられる。セルロース繊維としては、例えば、針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)、針葉樹晒しサルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)等の漂白された木材パルプ、コットン、麻等の天然セルロース繊維;レーヨン、リヨセル、キュプラ等の再生セルロース繊維等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらのうち、柔軟性及び強度を両立する観点から、NBKPを用いることが好ましい。本発明に用いられるシート状基材においては、全ての繊維に占めるセルロース繊維の割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、100質量%すなわち全繊維がセルロース繊維でもよい。
【0013】
セルロース繊維としては、未使用のいわゆるバージンパルプ由来のもの、及び古紙由来のもののいずれでもよい。一般的に古紙由来のセルロース繊維は、リサイクルに供される前の使用状況が互いに異なる。また、使用状況によって品質に大きなばらつきがあり、全てがリサイクルに適しているわけではない。まして、湿潤強度と水解性とが高いレベルで両立した水解性シートの主原料として古紙由来のセルロース繊維を用いるとなれば、選択可能な古紙由来のセルロース繊維はごく限られたものとなる。
しかしながら、本発明においては、後述の界面活性剤を含有することで、古紙由来のセルロース繊維を用いても湿潤強度と水解性とを両立することが可能となる。
【0014】
古紙としては、製紙原料として回収されたものを用いることができる。我が国では、資源有効利用促進法(平成3年10月25日施行)運用通達で、古紙を以下のように定義している。本発明では以下の定義に当てはまる古紙を用いることができる。
古紙の定義:紙、紙製品、書籍等その全部又は一部が紙である物品であって、一度使用され、又は使用されずに収集されたもの、又は廃棄されたもののうち、有用なものであって、紙の原料として利用することができるもの(収集された後に輸入されたものも含む。)又はその可能性があるもの。ただし、紙製造事業者の工場又は事業場(以下「工場等」という。)における製紙工程で生じるもの及び紙製造事業者の工場等において加工等を行う場合(当該紙製造事業者が、製品を出荷する前に委託により、他の事業者に加工を行わせる場合を含む)に生じるものであって、商品として出荷されずに当該紙製造事業者により紙の原材料として利用されているものは除く。
【0015】
本発明における古紙としては、例えば「模造・色上」(例えば、模造、色上、ケント、白アート、チラシ、飲料用パック、オフィスペーパー)が挙げられる。古紙由来のセルロース繊維を含むシートは、通常、吸水率が100~400%程度、通気度が3.00~8.00kPa・s/m程度である。一方、バージンパルプ由来のセルロース繊維の場合、吸水率は400~600%程度、通気度は0.80~3.00kPa・s/m程度である。
【0016】
シート状基材は、セルロース繊維以外の他の繊維を含有してもよい。他の繊維としては、例えば、ポリ乳酸等からなる生分解性繊維;ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、ポリアクリロニトリル繊維等の合成繊維等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明に用いられるシート状基材においては、含有される全ての繊維に占める、セルロース繊維以外の他の繊維の割合は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0017】
本発明に用いられるシート状基材は、水解可能なものである。水解性を有するシート状基材は、例えば、水洗トイレに流すなど、大量の水中に投入すると速やかに繊維レベルでばらばらに崩壊し、水洗トイレを詰まらせることなく流すことができる。しかし、汚れを拭き取るときには、液体洗浄性組成物を保持した状態でその作業に耐え得る十分な湿潤強度が必要である。このような観点から、本発明に用いられるシート状基材には、繊維に加えて更に水溶性バインダが含有されている。
【0018】
シート状基材に含有される水溶性バインダとしては、シート状基材が水性薬剤を保持して湿潤状態にあるときに、該バインダが一時的に不溶化することで、シート状基材の構成繊維どうしの結合を維持する結合剤として機能し、水解性シートの使用時の強度維持の役割を果たすものが好ましい。このような機能を有する水溶性バインダとして、天然多糖類、多糖誘導体、合成高分子を例示できる。なお、前記の「水溶性バインダの一時的な不溶化」は、典型的には、シート状基材に保持される水性薬剤中のバインダ不溶化成分(例えばバインダの架橋剤)の作用によって起こる。
【0019】
天然多糖類としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、トラントガム、グアーガム、キサンタンガム、アラビアゴム、カラギーナン、ガラクトマンナン、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、プルプランが挙げられる。
多糖誘導体としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチル化デンブン又はその塩、デンプン、メチルセルロース、エチルセルロースが挙げられる。
【0020】
合成高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール誘導体、不飽和カルボン酸の重合体又は共重合体の塩、不飽和カルボン酸と該不飽和カルボン酸と共重合可能な単量体との共重合体の塩が挙げられる。また、不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸が挙げられる。
【0021】
前述した水溶性バインダの中でも、カルボキシル基を有する水溶性バインダが、バインダとしての性能が良好となる点、及び架橋剤との親和性が良好である点から好ましい。カルボキシル基を有する水溶性バインダとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース又はそれらの塩を例示できる。
【0022】
本発明で用いられる界面活性剤は、下記式(1)で表されるアセチレングリコール、下記式(2)で表されるアセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物、及び下記式(3)で表されるジアルキルスルホコハク酸又はその塩の少なくとも一つである。こうした界面活性剤は、繊維の表面に吸着して、シート状基材の水解性を高める。その効果は、古紙由来のセルロース繊維を含有するなど吸水率の劣るシート状基材に対して、特に有効に発揮される。
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
上記式(1)で表されるアセチレングリコールとしては、例えば、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、5,8-ジメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-ドデシン-4,7-ジオール、8-ヘキサデシン-7、10-ジオール、7-テトラデシン-6,9-ジオール、2,3,6,7-テトラメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,6-ジエチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール等を挙げることができる。
【0027】
上記式(2)で表されるアセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物としては、上記アセチレングリコールのアルキレンオキサイド誘導体を挙げることができ、そのアセチレングリコール中のエチレンオキサイド単位の付加モル数(EO付加モル数)は各0.5~50モルであり、総数は1~100モルである。エチレンオキサイドの付加モル数が50モルを超えた場合、動的表面張力が大きくなり、水解性の向上効果が低下する。
【0028】
上記式(3)において、R5及びR6としては、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、sec-オクチル基、イソペンチル基、イソノニル基、イソデシル基、シクロヘキシル基が挙げられ、好ましくはn-オクチル基、sec-オクチル基、デシル基、イソデシル基、及び2-エチルヘキシル基から選ばれる基が好適である。Mとしては、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン等の無機陽イオン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン等の有機アミンから導かれる有機陽イオンが挙げられるが、好ましくはナトリウムイオン、カリウムイオン、及びマグネシウムイオンから選ばれる無機陽イオンである。
【0029】
本発明の水解性シートにおける界面活性剤の添加量は、0.05~50質量%程度であることが好ましく、0.1~30質量%程度であることがより好ましい。前記式(1)で表されるアセチレングリコール又は前記式(2)で表されるアセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物の場合、吸着量は1.0×E-6~1molの範囲内で適宜選択することができる。また、前記式(3)で表されるジアルキルスルホコハク酸又はその塩の場合には、吸着量は1×10-5~1molの範囲内で適宜選択することができる。
【0030】
次に、本発明の水解性シートの製造方法について説明する。
本発明の水解性シートは、前記式(1)で表されるアセチレングリコール、前記式(2)で表されるアセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物、及び前記式(3)で表されるジアルキルスルホコハク酸又はその塩の少なくとも一つの界面活性剤を添加することによって製造することができる。
【0031】
界面活性剤は、シート状基材の製造フローにおける任意の工程で添加することができる。例えば、抄紙の原料となる繊維を含むスラリーに、所定量の界面活性剤を予め添加することができる。また、界面活性剤水溶液は、繊維を含むスラリーから湿紙を形成し、乾燥前に噴霧しても良く、乾燥後に噴霧しても良い。さらに、乾燥した紙を界面活性剤水溶液に浸漬することによって、界面活性剤を添加しても良い。
【0032】
繊維を含むスラリーに添加される界面活性剤の量、又は界面活性剤水溶液中の界面活性剤の濃度は、目的とする水解性シート中の添加量に応じて適宜設定すればよい。例えば、スラリー中に0.05~20質量%程度の界面活性剤を添加することができる。界面活性剤水溶液の場合には、0.05~20質量%程度の濃度とすることができる。また、シート状基材の坪量は特に限定されないが、一般的には10~100g/m2の範囲内で、好ましくは30~60g/m2の範囲内であり、より好ましくは40~50g/m2の範囲内である。
【0033】
本発明の水解性シートには、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の成分が含まれていてもよい。例えば水性薬剤が含まれていてもよい。水性薬剤は、典型的には常温常圧で液体であり、シート状基材に含浸されることで保持されている。こうした成分は、例えばシート状基材を製造するための紙層に噴霧されて取り込まれる場合がある。
【0034】
水性薬剤の成分としては、例えば、シート状基材が含有する水溶性バインダを不溶化させるバインダ不溶化成分(架橋剤)や水溶性有機溶剤などが挙げられる。また、水解性シートの清掃ないし清拭性能の向上等を目的として、界面活性剤、殺菌剤、除菌剤、キレート剤、漂白剤、消臭剤、香料等の他の成分を含有してもよい。
【0035】
シート状基材における水性薬剤の含浸量は、シート状基材に含有される水溶性バインダの不溶化、清掃ないし清拭性能の向上等の観点から、シート状基材の乾燥質量に対して、好ましくは100質量%以上、より好ましくは150質量%以上、そして、好ましくは500質量%以下、より好ましくは300質量%以下である。
【0036】
本発明の水解性シートは、清掃シートとして好ましく使用される。例えば、物品の清掃、又は人体の清拭に使用することができる。前者の具体例として、トイレ、洗面所、台所などの水回り用清掃物品が挙げられる。後者の具体例として、おしり拭き、介護用からだ拭き、メーク落し用シートが挙げられる。本発明の水解性シートを使用した後は、そのまま水に流して廃棄しても速やかに崩壊するので、排水管を詰まらせることはない。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の実施例について説明するが、これにより本発明が限定されるものではない。
実施例においては、古紙由来のセルロース繊維を含むシート状基材に、所定の界面活性剤を含浸させて、本発明の水解性シートを製造した。
【0038】
<シート状基材の作製>
JIS P8222に準拠して、シート状基材を作製した。具体的には、原料として紙パック古紙を用いて、古紙シート(古紙100%、坪量40g/m2、フィブリル度1.39%)を手漉きにより調製した。
【0039】
<界面活性剤(2)>
アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物としては、式(2)におけるR3が-CH2CH(CH3)(CH3)、R4が-CH3のものを用意した。用いる界面活性剤は、以下の(1-1)~(1-8)である。そのEO付加モル数、分子量、及び動的表面張力を下記表1にまとめる。
(1-1)2,4,7,9-テトラメチル-5-ドデシン-4,7-ジオールのエチレンオキサイド付加体、EO付加モル数6
(1-2)2,4,7,9-テトラメチル-5-ドデシン-4,7-ジオールのエチレンオキサイド付加体、EO付加モル数10
(1-3)2,4,7,9-テトラメチル-5-ドデシン-4,7-ジオールのエチレンオキサイド付加体、EO付加モル数20
(1-4)2,4,7,9-テトラメチル-5-ドデシン-4,7-ジオールのエチレンオキサイド付加体、EO付加モル数30
(1-5)日信化学工業株式会社製商品名「オルフィン EXP.4123」
(1-6)日信化学工業株式会社製商品名「オルフィン EXP.4300」
(1-7)日信化学工業株式会社製商品名「オルフィン EXP.4200」
(1-8)日信化学工業株式会社製商品名「オルフィン EXP.4001」
【0040】
【0041】
表中の動的表面張力は、各界面活性剤の0.1%水溶液(23℃)について、バブルプレッシャー動的表面張力計(KRUSS(株)製)を用いて測定した値である。1Hz及び10Hzは、それぞれ1個泡/sec及び10個泡/secである。
【0042】
<界面活性剤(3)>
ジアルキルスルホコハク酸又はその塩としては、ジアルキルスルホコハク酸Na(分子量444.56)を用意した。この化合物は、式(3)におけるR5及びR6が、いずれも(-CH2CH(C2H5)(CH2)3CH3)であって、MがNa+の化合物である。ジアルキルスルホコハク酸Naは、溶媒等の異なる5種類の溶液((2-1)~(2-5))を用意した。
【0043】
<試験サンプルの調製及び評価>
前述の界面活性剤は、それぞれ5質量%の水溶液とした。各界面活性剤水溶液に、シート状基材(古紙シート)を1分間浸漬して取り出し、24時間乾燥させて試験サンプルを調製した。各試験サンプルについて浸漬処理前後の質量を測定し、浸漬処理による増加質量を求めておく。
【0044】
得られた試験サンプルは、所定の寸法に裁断して試験片とし、湿潤強度及び初期水解性を評価した。湿潤強度評価用の試験片は、70mm×25mmの矩形状とし、初期水解性評価用の試験片は、80mm×80mmの正方形状とした。それぞれの評価方法を、以下に説明する。
【0045】
<湿潤強度>
試験片中央に50μLの水をマイクロピペットで滴下し、30秒間浸透させた。
チャック間距離を50mmとして試験片の両端を試験機に固定し、300mm/minの速度で引っ張ることにより湿潤強度を測定した。それぞれの試験サンプルについて3回の測定を行って、その平均値を湿潤強度の値とした。
【0046】
<初期水解性>
まず、300mLの水(水温20±5℃)を収容したビーカーを、マグネチックスターラー上に載置し、回転子の回転数を600±5回転/分に調整した。
次いで、水中に試験片を投入してストップウォッチにより計測を開始し、投入された試験片の状態を観察した。試験片が湿潤して破断し、断片が解離して水中での浮遊が確認できるまでの時間を測定した。
それぞれの試験サンプルについて3回の測定を行って、その平均値を初期水解性(s)とした。
【0047】
【0048】
さらに、得られた結果を、界面活性剤を含んでいない古紙シートの評価結果とともに
図1にプロットした。界面活性剤を含んでいない古紙シートの場合には、湿潤強度は233.125cN/25mmと大きく、初期水解性は600sと著しく大きい。古紙シートを所定の界面活性剤水溶液に浸漬して処理することによって、湿潤強度及び初期水解性を改善できることが、
図1に示されている。
【0049】
図2には、アセチレングリコールにおけるEO付加モル数と、古紙シートの初期水解性との関係を示す。EO付加モル数が少ないほど、すなわち分子量が小さいアセチレングリコールを含浸させた試験片ほど、優れた初期水解性を示す傾向が認められる。アセチレングリコールの分子量が小さいほど、存在する親水基の量が多くなることに起因するものと推測される。
【0050】
図3には、動的表面張力と古紙シートの初期水解性との関係を示す。上記表1に示したように、界面活性剤(1-4)の動的表面張力は55mN/mであり、界面活性剤(1-8)の動的表面張力は37mN/mである。動的表面張力の小さい界面活性剤ほど、古紙シートの初期水解性を高める効果が大きいことが、
図3に示されている。
【0051】
図4には、界面活性剤の吸着量とサンプルの初期水解性との関係を示す。界面活性剤の吸着量(mol)は、浸漬処理による試験サンプルの増加質量を、界面活性剤の分子量で除して求めた。
初期水解性に及ぼす吸着量の影響は、アセチレングリコールよりジアルキルスルホコハク酸Naのほうが小さいことが示されている。また、吸着量が多いほど初期水解性が優れる傾向がある。これは、吸着量が多いほど、古紙シートの濡れ性が向上することに起因するものと推測される。
【0052】
図5には、界面活性剤における親水基の吸着量と古紙シートの初期水解性との関係を示す。親水基の吸着量(mol)は、浸漬処理による試験サンプルの増加質量を、界面活性剤の親水基の物質量で除して求めた。
初期水解性に及ぼす親水基の吸着量の影響は、アセチレングリコールよりジアルキルスルホコハク酸Naのほうが小さいことが示されている。これは、ジアルキルスルホコハク酸Naにおける親水基(スルホ基)が、アセチレングリコールにおける親水基(ヒドロキシ基)より水分子との親和性が低いことに起因するものと推測される。
【0053】
以上の実施例においては、アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物やジアルキルスルホコハク酸Naを用いることで、古紙シートをシート状基材とした初期水解性の高い水解性シートが得られることを示したが、界面活性剤は、これらに限定されるものではない。式(1)、式(2)又は式(3)で表される構造を有していれば、古紙シートの初期水解性を高めることができる。また、シート状基材は古紙シートに限定されず、バージンパルプを同様の界面活性剤で処理した場合にも、初期水解性のより優れた水解性シートを得ることができる。