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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20240617BHJP
   C07K 16/24 20060101ALI20240617BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240617BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240617BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240617BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240617BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240617BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20240617BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K16/24
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N1/21
A61K39/395 N
A61P11/06
A61P35/00
【請求項の数】 22
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020092097
(22)【出願日】2020-05-27
(62)【分割の表示】P 2016541346の分割
【原出願日】2014-12-18
(65)【公開番号】P2020162609
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】61/919,552
(32)【優先日】2013-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/946,547
(32)【優先日】2014-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フー, ジャーメイン
(72)【発明者】
【氏名】リー, ジンウェイ ヴィー.
(72)【発明者】
【氏名】ケーニグ, パトリック
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/136483(WO,A2)
【文献】Cancer Cell,2011年,Vol.20,pp.472-486
【文献】Bispecific Antibodies,2011年,Chapter 11,pp.187-198
【文献】J. Mol. Biol.,2013年,Vol.425,pp.803-811
【文献】J. Biol. Chem.,2013年,Vol.288, No.37,pp.26583-26593
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL4及びIL5に特異的に結合する単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片であって、以下の6つのCDR:
(i)アミノ酸配列KASQSVINDAA(配列番号9)を含むCDRL1、
(ii)アミノ酸配列YTSHRYT(配列番号10)を含むCDRL2、
(iii)アミノ酸配列QQDYTHPWTF(配列番号27、またはアミノ酸配列QQDYKHPWTF(配列番号31)を含むCDRL3、
(iv)アミノ酸配列DYFIH(配列番号15)を含むCDRH1、
(v)アミノ酸配列GGIVYDATGFTTYAEEFK(配列番号28)、またはアミノ酸配列AGIVYDATGFTVYADDFK(配列番号32)を含むCDRH2、及び
(vi)アミノ酸配列GGIFYGMDY(配列番号20)を含むCDRH3
を含む、単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片。
【請求項2】
アミノ酸配列GRXTITXDXSTSTX(配列番号26)を含むフレームワーク領域3(FR3)をさらに含み、ここで、XはValまたはPhe、XはArgまたはIle、XはThr、Phe、Met、またはPro、及びXはAlaまたはValである、請求項1に記載の単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片。
【請求項3】
IL4及びIL5に特異的に結合する単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片であって、配列番号29のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域及び配列番号30のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、または配列番号33のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域及び配列番号34のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片。
【請求項4】
前記抗体、またはその抗原結合性断片が、IL4を500nM以下のKdで、また、IL5を900nM以下のKdで結合する、請求項1~3のいずれか一項に記載の単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片。
【請求項5】
前記抗体が、IL4を100nM以下のKdで、また、IL5を100nM以下のKdで結合する、請求項1~3のいずれか一項に記載の単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片。
【請求項6】
前記抗体が、IL4を10nM以下のKdで、また、IL5を50nM以下のKdで結合する、請求項1~3のいずれか一項に記載の単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片。
【請求項7】
前記抗体が、IL4またはIL5その受容体への結合を阻害または阻止する、請求項1~のいずれか一項に記載の単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片。
【請求項8】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1~のいずれか一項に記載の単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片。
【請求項9】
前記抗体がIgG抗体である、請求項1~のいずれか一項に記載の単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片。
【請求項10】
前記断片が、Fab断片または一本鎖可変断片(scFv)である、請求項1~のいずれか一項に記載の単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片。
【請求項11】
フレームワーク配列の少なくとも一部がヒトのコンセンサスフレームワーク配列である、請求項1~10のいずれか一項に記載の単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片。
【請求項12】
抗体が、キメラ抗体またはヒト化抗体である、請求項1~11のいずれか一項に記載の単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体、またはその抗原結合性断片を含む、医薬組成物。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片をコードするポリヌクレオチド。
【請求項15】
請求項14に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項16】
請求項15に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項17】
被検体の喘息を治療するための医薬であって、請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体、またはその抗原結合性断片を含み、前記医薬が、前記被検体の前記喘息を治療するのに十分な期間かつ量で投与される、医薬。
【請求項18】
IgE拮抗薬、抗ヒスタミン薬、テオフィリン、サルブタモール、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、クロモグリク酸ナトリウム、ステロイド、及び抗炎症剤からなる群から選択される、少なくとも一つの追加の喘息治療薬がさらに投与される、請求項17に記載の医薬。
【請求項19】
喘息がアレルギー性喘息である、請求項17または18に記載の医薬。
【請求項20】
被検体の増殖性障害を治療するための医薬であって、請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体、またはその抗原結合性断片を含み、前記医薬が、前記被検体の前記増殖性障害を治療するのに十分な期間かつ量で投与される、医薬。
【請求項21】
前記増殖性障害が癌である、請求項20に記載の医薬。
【請求項22】
化学療法剤、細胞障害剤、及び抗血管新生剤からなる群から選択される追加の抗増殖剤が前記被検体にさらに投与される、請求項20に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重特異性抗体、及びかかる抗体を作製及び使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、外来タンパク質、糖タンパク質、細胞、または他の抗原性外来物質による惹起に応答して脊椎動物の免疫系により産生される特異的免疫グロブリンポリペプチドである。この過程の重要な部分は、特定の外来物質に特異的に結合する抗体を産生することである。このようなポリペプチドの特定の抗原に対する結合特異性は高度に洗練されており、個々の脊椎動物で産生され得る特異性が多数あることは、その複雑さと可変性において注目に値する。何千もの抗原が応答を誘発でき、各応答は、ほぼ排他的にその応答を誘発した特定の抗原を対象とする。
【0003】
抗原を特異的に認識することは抗体が適応免疫応答において機能するために必要不可欠である。重鎖(HC)及び軽鎖(LC)の会合の組み合わせは、すべての脊椎動物において、抗体のレパトワ作製において保存されている。しかしながら、この重鎖と軽鎖の多様性は非対称である。HC(V)の可変ドメインの方が、有意に高い配列多様性を含み、LC(V)の可変ドメインよりも抗原認識の決定因子に寄与することが多い。しかしながら、かかる可変性によって抗体は特定の外来物質を認識して結合することから、抗体によっては抗原結合エネルギーをVに大きく依存している。
【0004】
抗体及び抗体断片が特定の抗原または複数の抗原に対して特異的であることにより、抗体が望ましい治療剤となる。抗体及び抗体断片を使用して、多様な生物学的役割を担う特定の抗原(例えば、サイトカイン)を標的とすることが可能である。したがって、アレルギー性疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、及び増殖性疾患など、さまざまな疾患及び障害の治療に有用な治療的抗体、特に、抗体、断片、及びその誘導体を同定し特徴を明らかにすることが現在も引き続き求められている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、二重特異性抗体及び抗体断片を作製する方法を提供する。本発明は、また、これらの方法を使用して同定された特異性抗体並びにその使用も提供する。
【0006】
一般に、本発明の方法では、抗体のVを多様化させて、ライブラリーに安定して発現させることが可能な二重特異性抗体改変体を作製する。一実施形態では、多様化される前の抗体は、それが有しているV及びVが共に対合して、第1のエピトープに特異的に結合するが第2のエピトープには結合しない抗原結合部位を形成するとして特徴づけられる。抗体は、さらに、Vの位置32、50、または91(Kabat番号付けシステム)に見られる任意の1、2、または3個のアミノ酸に静電的または疎水性残基を有するとして特徴づけられる。これらの位置の1か所以上に疎水性または静電的残基を有するそのような抗体を、その後、Vの1個以上のアミノ酸残基において改変させる(例えば、溶媒露出したアミノ酸残基)。その後、V及びVを、発現させ(例えば、ライブラリーとして)、発現したV及びVから、第1及び第2のエピトープに特異的に結合することができる多様化された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片を選択する。
【0007】
一態様では、可変重鎖ドメイン(V)及び可変軽鎖ドメイン(V)を含む、二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片を作製する方法であり、ここで、かかる二重特異性抗体のV及びVは共に対合して、第1のエピトープ及び第2のエピトープに特異的に結合する抗原結合部位を形成する、二重特異性抗体またはその抗原結合性断片を作製する方法であって、(a)V及びVを含む抗体を提供し、ここで、かかるV及びVは、共に対合して、第1のエピトープには結合するが第2のエピトープには結合しない抗原結合部位を形成し、かつ、かかる抗体は、Vの位置32、50、または91において静電的または疎水性のアミノ酸を少なくとも一つ含み;(b)工程(a)の抗体のVをコードする核酸配列を改変し、ここで、1個以上の溶媒接近可能なアミノ酸残基を改変し;(c)V及び工程(b)で改変したVを発現させ;かつ、(d)V及び工程(c)で改変したVを含む二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片を選択し、ここで、V及びVは、共に対合して、該第1のエピトープ及び該第2のエピトープに特異的に結合する抗原結合部位を形成する、各工程を含む該方法を本発明は特徴とする。
【0008】
いくつかの実施形態では、位置32、50、または91のアミノ酸の少なくとも2個は、静電的または疎水性である。いくつかの実施形態では、位置32、50及び91の3個のアミノ酸すべてが静電的または疎水性である。いくつかの実施形態では、静電的残基はチロシンである。いくつかの実施形態では、疎水性残基はトリプトファンである。いくつかの実施形態では、Vをコードする核酸配列を、複数の天然に生じる重鎖アミノ酸配列の多様性に基づいて改変する。いくつかの実施形態では、溶媒露出残基の位置は、Vの位置33、34、50~58、及び95~97からなる群から選択されるアミノ酸残基の位置である。いくつかの実施形態では、方法は、工程(a)の抗体のVをコードする核酸配列を改変し、ここで、1個以上の溶媒接近可能なアミノ酸残基を改変することをさらに含む。いくつかの実施形態では、溶媒露出残基の位置は、Vの93~96のアミノ酸から選択されるアミノ酸残基の位置である。いくつかの実施形態では、選択工程(d)の間、改変したVをVとファージに提示させる。いくつかの実施形態では、工程(a)の抗体は、軽鎖可変領域相補性決定領域である、アミノ酸配列KASQSVINDAA(配列番号9)を含むCDRL1、アミノ酸配列YTSHRYT(配列番号10)を含むCDRL2、及びアミノ酸配列QQDYTSPWTF(配列番号11)を含むCDRL3を含む。いくつかの実施形態では、工程(a)の抗体は、重鎖可変領域相補性決定領域である、アミノ酸配列DYSMH(配列番号13)を含むCDRH1、アミノ酸配列VWINTETGEPTYADDFK(配列番号17)を含むCDRH2、及びアミノ酸配列GGIFYGM DY(配列番号20)を含むCDRH3を含む。いくつかの実施形態では、工程(d)の二重特異性抗体の抗原結合部位は、第1のエピトープ及び第2のエピトープを双方、排他的に結合する。その他の実施形態では、工程(d)の二重特異性抗体の抗原結合部位は、第1のエピトープ及び第2のエピトープを同時に結合する。いくつかの実施形態では、第1のエピトープは1個の生物学的分子由来であり、第2のエピトープはその同じ生物学的分子由来である。その他の実施形態では、第1のエピトープは第1の生物学的分子由来であり、第2のエピトープは第2の生物学的分子由来である。いくつかの実施形態では、第1の生物学的分子及び第2の生物学的分子は、IL4/IL5及びIL4/IL13からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、第1の生物学的分子及び第2の生物学的分子は、サイトカインである。いくつかの実施形態では、第1または第2の生物学的分子は、in vivoで抗体に結合した場合に二重特異性抗体の半減期を延長できる分子である。いくつかの実施形態では、第1または第2の生物学的分子は血清アルブミンまたは胎児性Fc受容体(FcRn)である。いくつかの実施形態では、第1または第2の生物学的分子は、in vivoで抗体に結合した場合に二重特異性抗体のエフェクター機能を高めることができる分子である。いくつかの実施形態では、第1または第2の生物学的分子は、ナチュラルキラー細胞またはマクロファージ上の細胞表面タンパク質に結合する。いくつかの実施形態では、細胞表面タンパク質はFc受容体またはC1qである。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体のV及びVは共に対合して、第1のエピトープまたは第2のエピトープに10-6以下のKで特異的に結合する抗原結合部位を形成する。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体のV及びVは共に対合して、第1のエピトープまたは第2のエピトープに10-9以下のKで特異的に結合する抗原結合部位を形成する。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体のV及びVは共に対合して、第1のエピトープまたは第2のエピトープに10-12以下のKで特異的に結合する抗原結合部位を形成する。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体のV及びVは共に対合して、第1のエピトープ及び第2のエピトープに10-6以下のKで特異的に結合する抗原結合部位を形成する。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体のV及びVは共に対合して、第1のエピトープ及び第2のエピトープに10-9以下のKで特異的に結合する抗原結合部位を形成する。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体のV及びVは共に対合して、第1のエピトープ及び第2のエピトープに10-12以下のKで特異的に結合する抗原結合部位を形成する。いくつかの実施形態では、第1の生物学的分子及び第2の生物学的分子は、構造的に類似していない。いくつかの実施形態では、工程(d)の選択では、ディープシークエンシング(deep sequencing)、ウルトラディープシークエンシング(ultra-deep sequencing)、及び/または次世代シークエンシングを含む。
【0009】
本発明の方法を使用して作製される例示的な抗体には、以下に記載のように、インターロイキン4(IL4)及びインターロイキン5(IL5)の両方を結合する抗体、並びに、IL4及びインターロイキン13(IL13)の両方を結合する抗体が含まれる。これらの抗体の作製成功は、抗体の重鎖可変ドメイン配列の改変は、二重の特異性及び機能を有する抗体作製へ向かうエンジニアリング全般の道筋となり得ることを示している。本明細書に記載のIL4/IL5及びIL4/IL13抗体などを非限定的に含む二重特異性抗体は、2つの経路(冗長または非冗長)を同時に標的にする可能性を有し、また、免疫障害、炎症性障害、及び増殖性障害を非限定的に含むさまざまな疾患及び障害の治療に有用である。
【0010】
したがって、別の態様では、本発明は、上記の本発明の方法により作製される単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片を特徴とする。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体はモノクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、断片はFabまたはscFvである。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体はIgGである。
【0011】
別の態様では、本発明は、図4A、4B、4C、7A、7C、または7Dの抗体のいずれか1抗体のアミノ酸配列、を含む単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片を特徴とする。
【0012】
別の態様では、本発明は、以下の6つのCDR:(i)アミノ酸配列KASQSVINDAA(配列番号9)を含むCDRL1;(ii)アミノ酸配列YTSHRYT(配列番号10)を含むCDRL2;(iii)アミノ酸配列QQDYTSPWTF(配列番号11)を含むCDRL3;(iv)アミノ酸配列DYDIH(配列番号14)を含むCDRH1;(v)アミノ酸配列VWINTETGEPTYADDFK(配列番号17)を含むCDRH2;及び(vi)アミノ酸配列EILFYGMDY(配列番号21)を含むCDRH3、を含む単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片を特徴とする。
【0013】
別の態様では、本発明は、以下の6つのCDR:(i)アミノ酸配列KASQSVINDAA(配列番号9)を含むCDRL1;(ii)アミノ酸配列YTSHRYT(配列番号10)を含むCDRL2;(iii)アミノ酸配列QQDYTSPWTF(配列番号11)を含むCDRL3;(iv)アミノ酸配列DYFIH(配列番号15)を含むCDRH1;(v)アミノ酸配列AGIVYDATGFTTYADDFK(配列番号18)を含むCDRH2;及び(vi)アミノ酸配列GGIFYGMDY(配列番号20)を含むCDRH3、を含む単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片を特徴とする。
【0014】
別の態様では、本発明は、以下の6つのCDR:(i)アミノ酸配列KASQSVINDAA(配列番号9)を含むCDRL1;(ii)アミノ酸配列YTSHRYT(配列番号10)を含むCDRL2;(iii)アミノ酸配列QQDYTPFPLTF(配列番号12)を含むCDRL3;(iv)アミノ酸配列DYLMH(配列番号16)を含むCDRH1;(v)アミノ酸配列AVIVSITGRTYYADDFK(配列番号19)を含むCDRH2;及び(vi)アミノ酸配列GGIFYGMDY(配列番号20)を含むCDRH3、を含む単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片を特徴とする。
【0015】
別の態様では、本発明は、以下の6つのCDR:(i)アミノ酸配列KASQSVINDAA(配列番号9)を含むCDRL1;(ii)アミノ酸配列YTSHRYT(配列番号10)を含むCDRL2;(iii)アミノ酸配列QQDYTSPWTF(配列番号11)を含むCDRL3;(iv)アミノ酸配列DYSMH(配列番号13)を含むCDRH1;(v)アミノ酸配列GVIFQSGATYYADDFK(配列番号22)を含むCDRH2;及び(vi)アミノ酸配列GGIFYGMDY(配列番号20)を含むCDRH3、を含む単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片を特徴とする。
【0016】
別の態様では、本発明は、以下の6つのCDR:(i)アミノ酸配列KASQSVINDAA(配列番号9)を含むCDRL1;(ii)アミノ酸配列YTSHRYT(配列番号10)を含むCDRL2;(iii)アミノ酸配列QQDYTSPWTF(配列番号11)を含むCDRL3;(iv)アミノ酸配列DYSMH(配列番号13)を含むCDRH1;(v)アミノ酸配列GIIFYTGHTYYADDFK(配列番号23)を含むCDRH2;及び(vi)アミノ酸配列GGIFYGMDY(配列番号20)を含むCDRH3、を含む単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片を特徴とする。
【0017】
別の態様では、本発明は、以下の6つのCDR:(i)アミノ酸配列KASQSVINDAA(配列番号9)を含むCDRL1;(ii)アミノ酸配列YTSHRYT(配列番号10)を含むCDRL2;(iii)アミノ酸配列QQDYXPWTF(配列番号24)を含むCDRL3、ここで、XはThr、lie、Leu、またはLysであり、XはSerまたはHisである;(iv)アミノ酸配列DYFIH(配列番号15)を含むCDRH1;(v)アミノ酸配列XGIVYDATGFTXYAXFK(配列番号25)を含むCDRH2、ここで、XはAlaまたはGly、XはThr、lie、Val、またはAla、XはAsp、Val、またはGlu、及びXはAsp、Glu、Asn、Ser、lie、Leu、Thr、Ala、またはPheである;及び(vi)アミノ酸配列GGIFYGM DY(配列番号20)を含むCDRH3、を含む単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片を特徴とする。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片は、以下の6つのCDRを含む:(i)アミノ酸配列KASQSVINDAA(配列番号9)を含むCDRL1;(ii)アミノ酸配列YTSHRYT(配列番号10)を含むCDRL2;(iii)アミノ酸配列QQDYTHPWTF(配列番号27)を含むCDRL3;(iv)アミノ酸配列DYFIH(配列番号15)を含むCDRH1;(v)アミノ酸配列GGIVYDATGFTTYAEEFK(配列番号28)を含むCDRH2;及び(vi)アミノ酸配列GGIFYGMDY(配列番号20)を含むCDRH3。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片は、以下の6つのCDRを含む:(i)アミノ酸配列KASQSVINDAA(配列番号9)を含むCDRL1;(ii)アミノ酸配列YTSHRYT(配列番号10)を含むCDRL2;(iii)アミノ酸配列QQDYKHPWTF(配列番号31)を含むCDRL3;(iv)アミノ酸配列DYFIH(配列番号15)を含むCDRH1;(v)アミノ酸配列AGIVYDATGFTVYADDFK(配列番号32)を含むCDRH2;及び(vi)アミノ酸配列GGIFYGM DY(配列番号20)を含むCDRH3。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片は、アミノ酸配列GRXTITXDXSTSTX(配列番号26)を含むフレームワーク領域3(FR3)をさらに含み、ここで、XはValまたはPhe、XはArgまたはlie、XはThr、Phe、Met、またはPro、及びXはAlaまたはValである。
【0018】
別の態様では、本発明は、配列番号1、5、29、または33のアミノ酸配列から選択される軽鎖可変領域、及び配列番号2、3、4、6、7、8、30、または34から選択される重鎖可変領域を含む、単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片を特徴とする。いくつかの実施形態では、抗体、またはその抗原結合性断片は、IL4を500nM以下のKdで、また、IL5を約900nM以下のKdで結合する。いくつかの実施形態では、抗体、またはその抗原結合性断片は、IL4を100nM以下のKdで、また、IL5を約100nM以下のKdで結合する。いくつかの実施形態では、抗体、またはその抗原結合性断片は、IL4を10nM以下のKdで、また、IL5を約50nM以下のKdで結合する。その他の実施形態では、単離された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片は、IL4を500nM以下のKdで、また、IL13を約900nM以下のKdで結合する。いくつかの実施形態では、抗体、またはその抗原結合性断片は、IL4を100nM以下のKdで、また、IL13を約100nM以下のKdで結合する。いくつかの実施形態では、抗体、またはその抗原結合性断片は、IL4、IL5またはIL13がその受容体に結合するのを阻害またはブロッキングする。いくつかの実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、抗体はIgG抗体である。いくつかの実施形態では、抗原結合性断片はFab断片または一本鎖可変断片(scFv)である。いくつかの実施形態では、フレームワーク配列の少なくとも一部はヒトのコンセンサスフレームワーク配列である。いくつかの実施形態では、抗体はキメラ抗体、ヒト化抗体、または完全ヒト抗体である。
【0019】
上述の二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片のうち、いずれか一つを含む医薬組成物も提供される。別の態様では、本発明は、本明細書に開示する二重特異性抗体のいずれかをコードする単離された核酸を特徴とし、かかる抗体を発現させるためのベクター(例えば、発現ベクター)を含む。
【0020】
別の態様では、本発明は、上述の核酸及び/またはベクターを含む宿主細胞を特徴とする。いくつかの実施形態では、宿主細胞は哺乳類の細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞)である。その他の実施形態では、宿主細胞は原核細胞(例えば、大腸菌細胞)である。上述の二重特異性抗体のいずれか一つを作製する方法も提供され、かかる方法は、二重特異性抗体を産生する宿主細胞を培養し、その宿主細胞または培地から二重特異性抗体を回収することを含む。
【0021】
別の態様では、本発明は、被検体の喘息を治療する方法を特徴とし、かかる方法は、本明細書に開示する二重特異性抗体のいずれかを被検体の喘息を治療または予防するのに十分な期間かつ量で被験者に投与することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、IgE拮抗薬、抗ヒスタミン剤、テオフィリン、サルブタモール、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、クロモグリク酸ナトリウム、ステロイド剤、及び抗炎症剤からなる群から選択される喘息治療を少なくとも一つ追加で投与することをさらに含む。いくつかの実施形態では、喘息はアレルギー性喘息である。
【0022】
さらに別の態様では、本発明は、被検体の増殖性障害を治療する方法を特徴とし、かかる方法は、本明細書に開示する二重特異性抗体のいずれかを被検体の増殖性障害を治療するのに十分な期間かつ量で被験者に投与することを含む。いくつかの実施形態では、増殖性障害は癌である。いくつかの実施形態では、方法は、化学療法薬、細胞障害剤、及び抗血管新生薬からなる群から選択される追加の抗増殖剤を被検体に投与することをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1A-1B】図1A及び1Bは、hu19C11抗体のCDRの変異誘発マッピングを示すグラフである。hu19C11 Fab改変体の相対的抗原結合親和性を測定するために、抗IL4 hu19C11野生型(wt)またはLC CDRアラニン変異体を提示している系列希釈したファージと、ELISAウェル上にコーティングされている抗gD抗体(A)またはIL4(B)との結合を、Fab発現及び抗M13ファージ-ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)複合体により検出し、それぞれ、抗原結合性を定量した。gDは、軽鎖C末端に融合させた発現ペプチドタグである。抗gD抗体は、ELISAウェル上に直接コーティングし、一方、IL4は、ELISAウェル上にコーティングされている非ブロッキング抗IL4抗体で捕捉した。
図1C図1Cは、図1A及び1Bでのアッセイを実施して、Fab改変体を提示しているファージの相対的IL4結合親和性を比較することにより、CDRの個々の部位でのアラニン変異の影響を調べたものをグラフに示している。アミノ酸の一文字表記を使用している。データを線形回帰モデルに当てはめてから、IL4結合の傾き(対ファージ濃度)をFab発現の傾きで割り、相対的なIL4結合強度を測定した。低い値(点線より下)は、IL4結合親和性がhu1911 wtより低く破壊的変異であることを示しているとみなした。
図2A図2Aは、トラスツズマブFab(PDB:1FDV)の構造を上から見た図にhu19C11のIL4結合残基の重要残基をマッピングして示す構造図である。hu19C11の構造モデルを、重鎖及び軽鎖のテンプレートに、それぞれ、POBエントリーの3SQO及び3BEIを使用しMOEを使用して作製した。IL4結合に重要な残基は、Kabat番号付けにおける、LCの31、32、50、53、91、92、残基及びHCの31、32、96、98、及び99残基である。残基は、抗原結合部位を上から見た図中、モデル構造に赤で色付けされている。ファージに提示されたhu19C11 Fab改変体のライブラリーを部位特異的突然変異により作製した。20アミノ酸すべてが野生型残基に対する選択性を有するHC残基を太字で表示し、表示されている他のHC残基及びLC残基は、変異を制限し天然の多様性を模倣させた。
図2B図2Bは、第2の抗原特異性をhu19C11に動員するためのコンビナトリアルライブラリー設計を示す表である。親hu19C11野生型からの変異を有する抗IL5特異的(5A)、抗IL4/5特異的(E7、B1)、及び抗IL4/13特異的(F1、F2)な各抗体クローンを含む、選択されたクローンのCDR配列を示す。ライブラリーでランダム化され単離されたクローンで変異している残基に、それらの特性により影を付けた。すなわち、Y、W、Fは芳香族側鎖を有し;L、I、V、Mは疎水性;K、R、Hは塩基性;D、Eは酸性;S、T、N、Qは極性;及びP、Gである。ファージ競合アッセイのIC50で測定した相対的抗原結合親和性が示されている。まず、Fab提示ファージを、それぞれの抗原の系列希釈と共に溶液中で2時間インキュベートし、次いで、結合しなかったファージを抗原でコーティングしたELISAウェルにより短時間捕捉し、抗M13-HRP複合体で検出した。抗原でコーティングしたウェルへのファージの結合を50%阻害する抗原濃度をIC50として計算した。NBは、抗原でコーティングしたウェルへのファージクローンの検出可能な直接的な結合は見られなかったことを意味する。
図3図3は、IL4結合能について、作製した10のファージ提示ライブラリー(2144-1から2144-10)に行った滴定を示すグラフである。
図4A図4Aは、hu19C11の二重特異性抗IL4/IL5改変体である(E7(配列番号1)及びB1(配列番号5))、並びに、抗IL5特異的5A(配列番号1)の軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列にアラインメントを行い、抗IL4特異的hu19C11(配列番号1)と整列させたものを示す。
図4B図4Bは、hu19C11の二重特異性抗IL4/IL5改変体(E7(配列番号4)及びB1(配列番号6))、並びに、抗IL5特異的5A(配列番号3)の重鎖可変ドメインのアミノ酸配列にアラインメントを行い、抗IL4特異的hu19C11(配列番号2)と整列させたものを示す。
図4C図4Cは、hu19C11の二重特異性抗IL4/IL13改変体(F1(配列番号7)及びF2(配列番号8))の重鎖可変ドメインのアミノ酸配列にアラインメントを行い、抗IL4特異的hu19C11(配列番号2)と整列させたものを示す。
図5図5は、IgGとした、hu19C11の選択された改変体の二重特異性を示すグラフである。hu19C11の選択された改変体の抗原結合特異性について、ヒトIgG1フォーマットのこれらの改変体と、標的抗原(複数可)またはELISAウェル上にコーティングした無関係な数種のタンパク質との250nM での結合とし、抗Fc抗体-HRP複合体を用いて検出して評価した。
図6図6は、指定の抗体濃度で、IL5をその受容体との相互作用でブロッキングした場合の、hu19C11の二重特異性改変体(抗IL4特異的野生型:19C11;抗lL5特異的:5A;及び抗IL4/5特異的:E7及びB1)の結合特異性を特徴付けしたものを示すグラフである。IgGとしてのヒト化19C11または改変体の存在下、その濃度を増加させていった場合の、ELISAウェル上に固定化されたIL5に結合したビオチン化IL5受容体αのレベルをストレプトアビジン-HRP複合体を用いて検出した。
図7A図7Aは、IL4/IL5特異的E7の親和性が成熟した改変体のアミノ酸配列、及び、ファージ競合アッセイで測定したこれら改変体の標的抗原に対する相対的親和性を示す表である。親和性を改善するため、「相同」(太字)、「限定的」(斜体字)及び「部分的(soft)」(灰色)ランダム化法、すなわち、それぞれ、野生型で相同なアミノ酸、天然抗体に基づく限定的多様性、または野生型約50%とそれ以外の全アミノ酸約50%がランダム化される方法で変異させた選択された残基を用いて、E7改変体を提示しているファージライブラリーを構築した。CDR H2は、主に、新たに動員されたIL5への結合機能を巧妙に最適化するために相同な変異下にあった。他のCDRについては、IL4結合にとって重要ではない部位を標的とした。選択されたクローンの配列をE7と整列させ、変異が示されている。各クローンの相対的親和性を、上記のようにファージIC50により評価した。
図7B図7Bは、E7並びに、Fabとして精製した、親和性が成熟したその改変体である1C36及び1C60について、ヒトIL5(R&D Systems)またはIL4で固定化したCM5センサーチップを使用し25℃でBiacoreにより測定した、それぞれの親和性を示す表である。
図7C図7Cは、E7の親和性が改善された二重特異性抗IL4/IL5改変体である1C36(配列番号29)及び1C60(配列番号33)の軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列にアラインメントを行ったものを、E7の軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列(配列番号1)と整列させて示している。
図7D図7Dは、E7の親和性が改善された二重特異性抗IL4/IL5改変体である1C36(配列番号30)及び1C60(配列番号34)の重鎖可変ドメインのアミノ酸配列にアラインメントを行ったものを、E7の重鎖可変ドメインのアミノ酸配列(配列番号4)と整列させて示している。
図8A-8B】図8A及び8Bは、E7及びE7の親和性が成熟した改変体(1C36及び1C60)の結合特異性の特徴付けを示すグラフである。IgG(100nM)としてのE7及びE7の親和性が改善された改変体の、固定化した抗原及びELISAプレート上の無関係なタンパク質への直接的な結合を抗IgG-HRPにより検出した(A)。緩衝液(PBS)または50nMのE7、1C36、若しくは1C60の存在下で、ELISAウェル上にコーティングしたIL5受容体へのビオチン化IL5の結合をストレプトアビジン-HRP複合体により検出した(B)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
多くの疾患経路は、1種以上のタンパク質または一つ以上の機能を有する1種のタンパク質の作用により発現する。例えば、アレルギー性、炎症性、または自己免疫性障害(例えば、喘息)に、複数のサイトカインが関与していることが多い。二重特異性抗体は、一つ以上の抗原を標的にすることが所望される治療用途及び診断用途の両方において有用である。我々は、二重特異性抗体を作製するための新規な方法を発見した。抗体のVが抗体-抗原相互作用に重要な残基を含んでいる場合には、このような抗体は、V残基を単独で、または別のV及びフレームワーク残基と組み合わせて改変することにより多様化させることができる。
【0025】
一般に、本発明の方法は、抗体のVを多様化させてライブラリーに安定して発現させることが可能な改変体を作製することを含む。一般に、第1のエピトープに特異的に結合するが第2のエピトープには結合せず、また、Vの位置32、50、または91(Kabat番号付けによる)に見られる任意の1、2、または3個のアミノ酸において静電的または疎水性残基を有するとして特徴づけられる抗体に、V内の1個以上のアミノ酸残基(例えば、溶媒露出アミノ酸残基)における改変を行う。その後、V及びVを発現させ、第1及び第2のエピトープに特異的に結合することができる多様化された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片を、発現したV及びVから選択する。
【0026】
本発明の方法を使用して作製される例示的な抗体には、以下に記載のように、インターロイキン4(IL4)及びインターロイキン5(IL5)の両方を結合する抗体、並びに、IL4及びインターロイキン13(IL13)の両方を結合する抗体が含まれる。これらの抗体により、IL4抗体の重鎖可変ドメイン(例えば、CDR)内での変異が、IL4と、別の無関係のタンパク質とに対する二重の結合能を付与することが示され、また、二重特異性を付与するためにV内の残基に改変を行うという一般方法の概念が立証される。本明細書に記載する、IL4/IL5及びIL4/IL13抗体などを非限定的に含む二重特異性抗体は、複数の抗原、例えば、サイトカインの冗長及び非冗長経路を同時に標的にする可能性を有しており、サイトカイン介在性の疾患(例えば、喘息)など、さまざまな疾患及び障害の治療に有用となる。
【0027】
I.定義
用語「多重特異性抗体」は、最も広い意味において使用され、具体的には、重鎖可変ドメイン(V)及び軽鎖可変ドメイン(V)を含み、Vユニットが、多エピトープに対する特異性(polyepitopic specificity)を有している(すなわち、1個の生物学的分子上の異なる2つのエピトープまたは異なる生物学的分子上の各エピトープに結合できる)抗体が含まれる。このような多重特異性抗体には、完全長抗体、2つ以上のVドメイン及びVドメインを有する抗体、Fab、Fv、dsFv、scFv、ダイアボディ、二重特異性ダイアボディ及びトリアボディのような抗体断片、共有結合または非共有結合で結合している抗体断片が挙げられるが、これに限定されるものではない。「多エピトープに対する特異性(polyepitopic specificity)」とは、同一または異なる標的(複数可)上の異なる2つ以上のエピトープに特異的に結合する能力をいう。「二重の特異性(dual specificity)」または「二重特異性(bispecificity)」とは、同一または異なる標的(複数可)上の2つの異なるエピトープに特異的に結合する能力をいう。しかしながら、二重特異的な(bi-specific)抗体とは対照的に、二重に特異的な(duaL-specific)抗体は天然IgG抗体の型をしており、そこでは、抗原を結合する2本の腕は、アミノ酸配列において同一であり、それぞれのFab腕が2種の抗原を認識できる。二重の特異性により、抗体は、単一FabまたはIgG分子として2つの異なる抗原と高い親和性で相互作用することができる。一実施形態によると、IgG1形をした多重特異性抗体は、5μM~0.001pM、3μM~0.001pM、1μM~0.001pM、0.5μM~0.001pMまたは0.1μM~0.001pMの親和性で各エピトープに結合する。「単一特異性」とは、一つのエピトープにのみ結合する能力をいう。
【0028】
一般に、抗体は、2本の同一軽(L)鎖及び2本の同一重(H)鎖で構成されるヘテロ四量体糖タンパク質である、基本的な4鎖抗体単位を含む(IgM抗体は、J鎖と呼ばれる付加的なポリペプチドを備えた5個の基本的ヘテロ四量体単位で構成され、そのため10個の抗原結合部位を含有し、また、分泌IgA抗体は、重合して、J鎖と共に2~5個の基本的4鎖ユニットを含む多価集合体を形成することができる)。IgGの場合、4鎖ユニットは一般に約150,000ダルトンである。各L鎖は、一つのジスルフィド共有結合によってH鎖に連結されており、2本のH鎖は、H鎖のアイソタイプに応じて一つ以上のジスルフィド結合で互いに連結されている。各H鎖及びL鎖は、規則的に離間した鎖内ジスルフィド架橋も有している。各H鎖は、N末端に可変ドメイン(V)を有し、それに続いてα鎖及びγ鎖では3つの定常ドメイン(C)を、またμ及びεの各アイソタイプでは4つのCHドメインを有する。各L鎖は、N末端に可変ドメイン(V)を有し,そのもう一端に定常ドメイン(C)が続く。VはVと並んでおり、Cは重鎖(C1)の第1の定常ドメインと並んでいる。特定のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインの間に界面を形成すると考えられている。V及びVは互いに対合して抗原結合部位を形成する。抗体の各種クラスの構造及び特性については、例えば、Basic and Clinical Immunology,8th edition,Daniel P. Stites,Abba I. Terr and Tristram G. Parslow(eds.),Appleton&Lange,Norwalk,CT,1994,71ページ及び第6章を参照のこと。いかなる脊椎動物由来の軽鎖でも、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ及びラムダと呼ばれる2つの明確に区別される型のいずれかに割り当てることができる。免疫グロブリンは、その重鎖(C)の定常ドメインのアミノ酸配列により、異なるクラスまたはアイソタイプに割り当てることができる。免疫グロブリンには5つのクラス、すなわち、α、δ、γ、ε、及びμという重鎖をそれぞれ有する、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがある。γ及びαの両クラスはさらに,Cの配列及び機能における比較的小規模な相違に基づいてサブクラスに分けられ、例えば、ヒトでは、以下のサブクラス、すなわち、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2が発現する。
【0029】
用語「可変」とは、可変ドメインの特定のセグメントの配列が抗体間で大きく異なっていることをいう。可変ドメインまたは「V」ドメインは抗原結合を仲介し、特定の抗体の、その対応する特定の抗原に対する特異性を決定する。しかし、可変性が、可変ドメインの110アミノ酸長にわたって均等に分布しているわけではない。代わりに、V領域は、アミノ酸が15~30個のフレームワーク領域(FR)と呼ばれる比較的インバリアントな一続きの部分(stretch)が、長さ9~12アミノ酸の「超可変領域」と呼ばれる可変性が極めて高い、短い領域で区切られた構成になっている。天然型の重鎖及び軽鎖の各可変ドメインは4つのFRを含み、これらのFRは主としてベータシート立体配置をとっており、これらを連結する3つの超可変領域はベータシート構造をつなぐループを形成し、場合によっては、この構造の一部を形成する。各鎖の超可変領域はFR領域によって近接して結合しており、別の鎖の超可変領域と共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed. Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991)を参照のこと)。定常ドメインは、抗体を抗原に結合させることに直接関与はしていないが、抗体依存性細胞障害において抗体が関与するような、さまざまなエフェクター機能を示す(ADCC)。
【0030】
本明細書で使用する場合、用語「超可変領域」とは、抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基をいう。超可変領域は、一般に、「相補性決定領域」または「CDR」のアミノ酸残基(例えば、Vの残基24~34(L1)、50~56(L2)及び89~97(L3)の周辺、並びに、Vの残基26~35(H1)、49~65(H2)及び95~102(H3)の周辺(一実施形態では、H1は、残基31~35の周辺);Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed. Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991))、及び/または、「超可変ループ」の残基(例えば、Vの残基26~32(L1)、50~52(L2)、及び91~96(L3)、並びにVの26~32(H1)、53~55(H2)、及び96~101(H3);Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987))を含む。
【0031】
本明細書で使用する用語「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の母集団から得られる抗体、すなわち、存在したとしても一般には少量である、モノクローナル抗体作製中に発生し得る改変体を除いては、その母集団を構成する個々の抗体は実質的に同様であり、同一のエピトープ(複数可)に結合する抗体をいう。このようなモノクローナル抗体には、典型的には、標的を結合する可変領域を含む抗体が挙げられ、これにおいて、かかる抗体は、複数の抗体からその抗体を選択することを含む過程により得られたものである。例えば、かかる選択工程は、ハイブリドーマクローン、ファージクローンまたは組換えDNAクローンのプールのような複数のクローンから特異なクローンを選択することであり得る。選択した抗体は、例えば、標的に対する親和性の向上、抗体のヒト化、細胞培養におけるその産生の改善、in vivoでのその免疫原性の低下、多重特異性抗体の作製等のためにさらに改変させることが可能であること、及び、改変させた可変領域配列を含む抗体もまた本発明のモノクローナル抗体であることを理解されるべきである。モノクローナル抗体調製物は、その特異性に加え、典型的に他の免疫グロブリンが混入していない点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体の特徴を指すものであって、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきではない。例えば、本発明にしたがって使用するモノクローナル抗体は、多種多様な技術で作製されてよく、これらとして、ハイブリドーマ方法(例えば、Kohler et al.,Nature,256:495(1975);Harlow et al.,Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd ed. 1988);Hammerling et al.,in:Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas 563-681,(Elsevier,N.Y.,1981))、組換えDNA方法(例えば、U.S.Patent No.4,816,567を参照のこと)、ファージディスプレイ法(例えば、Clackson et al.,Nature,352:624-628(1991);Marks et al.,J.Mol.Biol.,222:581-597(1991);Sidhu et al.,J.Mol.Biol.338(2):299-310(2004);Lee et al.,J.Mol.Biol.340(5):1073-1093(2004);Fellouse,Proc.Nat.Acad.Sci.USA101(34):12467-12472(2004);及びLee et al. J.Immunol.Methods 284(1-2):119-132(2004)を参照のこと)、並びに、ヒト免疫グロブリンの座位の一部若しくは全部またはヒト免疫グロブリン配列をコードする遺伝子を有する動物からヒト抗体またはヒト様抗体を産生させる技術(例えば、W098/24893、WO/9634096、WO/9633735、及びWO/9110741、Jakobovits et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:2551(1993);Jakobovits et al.,Nature,362:255-258(1993);Bruggemann et al.,Year in Immuno.,7:33(1993);U.S.Patent Nos.5,545,806、5,569,825、5,591,669(以上、すべてGenPharm);5,545,807;WO97/17852、U.S.Patent Nos.5,545,807;5,545,806;5,569,825;5,625,126;5,633,425;及び5,661,016、並びに、Marks et al.,Bio/Technology,10:779-783(1992);Lonberg et al.,Nature,368:856-859(1994);Morrison,Nature,368:812-813(1994);Fishwild et al.,Nature Biotechnology,14:845-851(1996);Neuberger,Nature Biotechnology,14:826(1996);及びLonberg and Huszar,Intern.Rev.Immunol.,13:65-93(1995)を参照のこと)が挙げられる。
【0032】
本明細書のモノクローナル抗体には、具体的には、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、及び親和性成熟抗体が含まれる。キメラ抗体とは、重鎖及び/または軽鎖の一部が、特定種由来の抗体または特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同であるが、その鎖(複数可)の残りの部分は、別の種由来の抗体または別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同な抗体であり、所望の生物活性を示す限りにおいては、このような抗体の断片についても同様である(U.S.Pat. No.4,816,567;及びMorrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851-6855(1984))。本明細書で目的象とするキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、旧世界ザル、類人猿等)及びヒトの定常領域配列に由来する可変ドメイン抗原結合性配列を含む。
【0033】
非ヒト(例えば、げっ歯類)抗体の「ヒト化」型は、非ヒト抗体由来の最小配列を含有するキメラ抗体である。大部分は、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、レシピエント抗体の超可変領域由来の残基が、所望の抗体特異性、親和性、及び能力を有する、マウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類のような非ヒト種の超可変領域(ドナー抗体)由来の残基で置換されている。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は対応する非ヒト残基で置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見られない残基をみ得る。これらの修飾を、抗体性能をさらに高めるために行われる。一般に、かかるヒト化抗体には、少なくとも一つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全部が含まれることになり、ここで、超可変ループの全部または実質的に全部は、非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、また、各FRの全部または実質的に全部はヒト免疫グロブリン配列の各FRである。ヒト化抗体には、任意選択で、少なくとも免疫グロブリン、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域(Fc)の一部が含まれることにもなる。詳細については、Jones et al.,Nature 321:522-525(1986);Riechmann et al.,Nature 332:323-329(1988);及びPresta,Curr.Op.Struct.Biol.2:593-596(1992)を参照のこと。
【0034】
「ヒト抗体」は、ヒトにより産生された抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列をもつ抗体、及び/またはヒト抗体を製造するための任意の技術を使用して作製された抗体である。ヒト抗体の本定義では、具体的に、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体は除外される。
【0035】
「親和性が成熟した」抗体は、その抗体の一つ以上のCDRに一つ以上の改変を有する抗体であり、かかる改変(複数可)は、これらを有していない親抗体より抗原に対する親和性を改善させる改変である。好ましい親和性成熟抗体は、標的抗原に対しナノモル、さらにはピコモルの親和性を有するであろう。親和性成熟抗体は、当技術分野で公知の手順により作製される。Marks et al. Bio/Technology10:779-83(1992)には、V及びVドメインのシャッフリングによる親和性成熟が記載されている。CDR及び/またはフレームワーク残基のランダム変異誘発は、Barbas et al.,Proc Nat.Acad.Sci.USA 91:3809-13(1994);Schier et al. Gene 169:147-55(1995);Yelton et al.,J.Immunol.155:1994-2004(1995);Jackson et al.,J.Immunol.154(7):3310-19(1995);及びHawkins et al.,J.Mol.Biol.226:889-96(1992)により記載されている。
【0036】
「完全な」抗体とは、抗原結合部位並びにC及び少なくとも重鎖定常ドメインC1、C2、及びC3を含む抗体である。定常ドメインは、野生型配列の定常ドメイン(例えばヒトの野生型配列の定常ドメイン)またはそのアミノ酸配列改変体であり得る。好ましくは、完全抗体は一つ以上のエフェクター機能を有する。
【0037】
「抗体断片」は、完全抗体の一部分、好ましくは完全抗体の抗原結合領域または可変領域を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片;二重特異性抗体;線状抗体(U.S.Patent No.5,641,870の実施例2;Zapata et al.,Protein Eng. 8(10):1057-1062(1995)を参照のこと);一本鎖抗体分子;並びに抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられる。
【0038】
表現「線状抗体」とは、一般に、Zapata et al.,Protein Eng.,8(10):1057-1 062(1995)に記載の抗体をいう。簡単に述べれば、これらの抗体は、相補的軽鎖ポリペプチドと共に一対の抗原結合領域を形成する、一対の縦列Fdセグメント(VH-C1-VH-C1)を含む。線状抗体は、二重特異性または単一特異性であり得る。
【0039】
抗体をパパインで消化すると、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一な抗原結合断片と、残りの「Fc」断片(その名称は、容易に結晶化できることを表す)が得られる。Fab断片は、全L鎖と共にH鎖(V)の可変領域ドメイン及び1重鎖(C1)の第1の定常ドメインで構成される。抗体をペプシンで処理すると、おおざっぱに言えば、ジスルフィド結合で連結された2つのFab断片に相当する1個の大きなF(ab’)断片が得られ、これは、2価の抗原結合活性を有し、なおも抗原と架橋できる。Fab’断片は、CH1ドメインのカルボキシ末端に、抗体ヒンジ領域からの一つ以上のシステインを含む数個の残基をさらに有している点でFab断片とは異なる。本明細書でFab’-SHは、定常ドメインのシステイン残基(複数可)が一つの遊離チオール基を担持しているFab’を指す。F(ab’)抗体断片は、元々はFab’断片の対として作製されたもので、その間にヒンジのシステイン残基を有する。抗体断片の他の化学的カップリングも公知である。
【0040】
Fc断片は、ジスルフィドにより共に保持されている両H鎖のカルボキシ末端部を含む。抗体のエフェクター機能は、Fc領域の配列により決定される;この領域もまた、特定の種類の細胞で見られるFc受容体(FcR)によって認識される部分である。
【0041】
「Fv」は、一つの重鎖可変領域ドメインと一つの軽鎖可変領域ドメインとが強い非共有結合で会合している二量体からなる。これらの2ドメインをかけると、アミノ酸残基の抗原結合に寄与し抗原結合特異性を抗体に付与する超可変ループは6つになる(H鎖3ループ、L鎖3ループ)。しかし、単一の可変ドメイン(または、一つの抗原に対して特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)でも、抗原を認識し結合する能力を有するが、完全な結合部位よりは親和性が低いことが多い。
【0042】
「一本鎖Fv」は「sFv」または「scFv」と略記されるが、これらは、単一のポリペプチド鎖内に連結されたV及びV抗体ドメインを含む抗体断片である。好ましくは、sFvポリペプチドは、sFvが抗原結合に所望される構造を形成できるようにするポリペプチドリンカーをVドメインとVドメイン間にさらに含む。sFvの概説については、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,Springer-Verlag,New York,pp.269-315(1994);Borrebaeck 1995を参照のこと。
【0043】
用語「ダイアボディ」とは、鎖内ではなく鎖間でVドメインの対を形成させ、その結果として、二価の断片、すなわち、2つの抗原結合部位を有する断片を得られるように、VドメインとVドメインの間に短いリンカー(約5~10残基)を持つsFv断片(前段落を参照のこと)を構築することにより調製される小型の抗体断片をいう。二重特異性ダイアボディは、2つの「交差」sFv断片のヘテロ二量体であり、そこでは、2つの抗体のVドメイン及びVドメインは異なるポリペプチド鎖上に存在する。ダイアボディは、例えば、EP404,097;WO93/11161;及びHollinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444-6448(1993)にさらに詳細に記載されている。
【0044】
「静電的」とは、電荷を有することを意味する。一般に、静電的アミノ酸は極性または電荷を持つ側鎖を有する。極性側鎖を持つアミノ酸の例としては、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、アスパラギン、及びグルタミンが挙げられる。負電荷を持つ側鎖を有するアミノ酸の例としては、アスパラギン酸、及びグルタミン酸が挙げられる。正電荷を持つ側鎖を有するアミノ酸の例としては、リシン、アルギニン、及びヒスチジンが挙げられる。
【0045】
「疎水性の」とは、水と適合しない、すなわち、水との溶解、吸収、または混合が容易に起こらないことを意味する。一般に、疎水性アミノ酸は非極性側鎖を有しており、その例には、アラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、及びバリンが挙げられる。
【0046】
用語「サイトカイン」は、細胞間メディエーターとして別の細胞に作用する一細胞集団により放出されるタンパク質の総称である。サイトカインの例には、リンホカイン、モノカイン、及び一般ポリペプチドホルモンが含まれる。これらのサイトカインとしては、ヒト成長ホルモン、N-メチオニルヒト成長ホルモン、及びウシ成長ホルモンのような成長ホルモン;副甲状腺ホルモン;チロキシン;インスリン及びプロインスリン;レラキシン及びプロレラキシン;卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、及び黄体形成ホルモン(LH)のような糖タンパク質ホルモン;肝成長因子;線維BLAST増殖因子;プロラクチン;胎盤性ラクトゲン;腫瘍壊死因子α及びβ;ミュラー管阻害因子;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;インヒビン;アクチビン;血管内皮増殖因子;インテグリン;トロンボポチエン(TPO);NGF-βのような神経成長因子;血小板成長因子(platelet-growth factor);TGF-α及びTGF-βのようなトランスフォーミング増殖因子(TGF);インスリン様増殖因子I及びII;エリスロポエチン(EPO);骨誘導因子;インターフェロン-α、-β、及び-γなどのインターフェロン;マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、及び顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などのコロニー刺激因子(CSF);IL1、IL1α、IL2、IL3、IL4、IL5、IL6、IL7、IL8、IL11、IL12、及びIL13などのインターロイキン(IL);TNF-αまたはTNF-βなどの腫瘍壊死因子;並びに、LIF及びKitリガンド(KL)を含む他のポリペプチド因子が挙げられる。本発明において、サイトカインという用語には、天然物質由来または組換細胞培養由来であり、野生型配列のサイトカインの生物学的に活性な同等物が含まれる。
【0047】
本明細書で使用する場合、「コドンセット」とは、所望の改変アミノ酸をコードするために使用される、一組の異なるヌクレオチドのトリプレットをいう。一組のオリゴヌクレオチドは、コドンセットにより与えられるヌクレオチドトリプレットの可能な組み合わせすべてを表し、所望のアミノ酸群をコードする配列を含み、例えば、固相合成法により合成できる。コドン表記の標準形式はIUBコードの形式で、これは当技術分野で公知であり本明細書に記載される。コドンセットは典型的には大文字3文字が斜字体、例えば、NNK、NNS、XYZ、DVK等で表される(例えば、NNKコドンは、コドンの位置1及び2がN=A/T/G/C、位置3の等モル比でのK=G/Tで20個すべての天然アミノ酸をコードすることを指す)。したがって、本明細書で「ランダムではないコドンセット」っと言う場合、本明細書に記載するアミノ酸選択の基準を部分的、好ましくは完全に満たす選択アミノ酸をコードするコドンセットのことをいう。特定の位置に選択ヌクレオチドの「縮重」があるオリゴヌクレオチドの合成は当該技術分野で公知である、例えばTRIM法がある(Knappek et al.,J.Mol.Biol.296:57-86,1999);Garrard and Henner,Gene 128:103、1993)。特定のコドンセットを有するオリゴヌクレオチドのこのようなセットは、市販の核酸合成装置(例えば、Applied Biosystems社、Foster City、CAより入手可能)を使用して合成できるが、市販のものを利用してもよい(例えば、Life Technologies社、Rockville、MD)。したがって、特定のコドンセットを有する一組の合成オリゴヌクレオチドには、典型的には、配列が異なる複数のオリゴヌクレオチドが含まれることになり、その違いは、配列全体の中にあるコドンセットにより確立されるものである。発明により使用されるオリゴヌクレオチドは、可変ドメインの核酸テンプレートに対するハイブリダイゼーションを可能にする配列を有し、また、必ずというわけではないが、有用な制限酵素部位(例えば、クローニングのため)を含むことができる。
【0048】
目的抗原「を結合する」本発明の抗体は、その抗体が、抗原を発現しているタンパク質または細胞または組織を標的にする上で診断薬及び/または治療薬として有用であり、他のタンパク質と有意な交差反応を起こさないよう、十分な親和性で抗原を結合する抗体である。このような実施形態では、抗体が「非標的」タンパク質に結合する程度は、蛍光活性化細胞選別(fluorescence activated cell sorting:FACS)解析または放射性免疫沈降法(RIA)またはELISAで測定した場合、抗体がその特定標的タンパク質に結合する程度の約10%未満となるであろう。標的分子に対する抗体の結合に関して、特定のポリペプチド標的または特定のポリペプチド上のエピトープと「特異的結合」または「特異的に結合する」または「に対して特異的である」という用語は、非特異的相互作用との相違が測定できる結合を意味する。特異的結合は、例えば、対照分子の結合と比較した、ある分子の結合を求めることにより測定できる。例えば、特異的結合は、標的分子、例えば、過剰の非標識標的分子に似た対照分子と競合させることにより判定できる。この場合、標識した標的分子のプローブへの結合が、過剰の未標識標的分子により競合的に阻害されれば、特異的結合であるとされる。本発明において、特定のポリペプチドまたは特定のポリペプチド標的上のエピトープと「特異的結合」または「特異的に結合する」または「に対し特異的である」という用語は、例えば、標的に対するKが10-4M以下、代替え的に10-5M以下、代替え的に10-6M以下、代替え的に10-7M以下、代替え的に10-8M以下、代替え的に10-9M以下、代替え的に10-10M以下、代替え的に10-11M以下、代替え的に10-12M以下であるか、またはKが10-4M~10-12Mまたは10-6M~10-10Mまたは10-7M~10-9Mの範囲にある分子で表され得る。当業者に認識されるように、親和性とK値は逆相関している。抗原の親和性が高いと測定したK値は低くなる。一実施形態では、用語「特異的結合」とは、ある分子が、特定のポリペプチドまたは特定のポリペプチド上のエピトープに結合し、他の任意のポリペプチドまたはポリペプチドのエピトープには実質的に結合しない場合の結合をいう。
【0049】
本発明のポリペプチドについて「生物学的に活性である」及び「生物学的活性」及び「生物学的特徴」とは、他に明記しない限り、生物学的分子に結合する能力を有することを意味する。
【0050】
「生物学的分子」とは、核酸、タンパク質、炭水化物、脂質、及びその組み合わせをいう。一実施形態では、生物学的分子天然に存在する。
【0051】
「単離された」とは、本明細書に開示するさまざまな抗体の記載で使用される場合、その抗体を発現した細胞または細胞培養から同定及び分離及び/または回収された抗体を意味する。その天然環境の汚染成分とは、ポリペプチドの診断または治療への使用を典型的には妨げると考えられる物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質性溶質または非タンパク質性溶質を含めることができる。好ましい実施形態では、抗体は、(1)スピニングカップシークエネーター(spinning cup sequenator)を使用して、N末端または内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで、または(2)クマシーブルーまたは、好ましくは、銀染色を用いた還元条件または非還元条件下のSDS-PAGEによって均一になるまで精製が行われる。ポリペプチドの天然環境の少なくとも1構成成分は存在しないことになるため、単離された抗体には、組換え型細胞内のin situ抗体が含まれる。しかし、通常は、単離されたポリペプチドは、少なくとも一つの精製工程により調製されることになる。
【0052】
用語「制御配列」とは、特定の宿主生物に機能的に連結されたコード配列を発現させるために必要なDNA配列をいう。原核生物に好適な制御配列には、例えば、プロモーター、任意選択でオペレーター配列、及びリボソーム結合部位が含まれる。真核細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、及びエンハンサーを使用することで知られている。
【0053】
核酸は、別の核酸配列と機能的関係に置かれているときに「機能的に連結」している。例えば、あるプレ配列または分泌リーダーのDNAは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現されているならば、そのポリペプチドのDNAに機能的に連結している;プロモーターまたはエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼすならば、コード配列に機能的に連結している;または、リボソーム結合部位は、翻訳を容易にするような位置にあれば、コード配列に機能的に連結している。一般に、「機能的に連結されている」とは、連結されているDNA配列が互いに近接している、また、分泌リーダーの場合は、配列が隣接しリーディングフェーズ(reading phase)にあることを意味する。しかし、エンハンサーは隣接している必要はない。連結は、好都合な制限部位でのライゲーションにより達成される。そのような部位がない場合は、合成オリゴヌクレオチドのアダプターまたはリンカーを従来の実施方法に従い使用する。
【0054】
本明細書で同定されたポリペプチド配列について「パーセント(%)のアミノ酸配列同一性」とは、配列アラインメント後、また、配列同一性パーセントを最大にするために必要な場合はギャップを挿入した後に、比較対象ポリペプチド内のアミノ酸残基と同一な候補配列内アミノ酸残基の割合であり、いかなる保存的置換も配列同一と見なさないものと定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを求めるためのアライメントは、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公開されているコンピュータソフトウェアを使用して、従来技術の範囲であるさまざまな方法で達成可能である。当業者は、比較対象配列の完全長にわたり最大アライメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含め、アライメント測定に適切なパラメータを決定できる。しかしながら、本明細書での目的のため、アミノ酸配列同一性%値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用して生成されている。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムはGenentech社により作成されたプログラムで、そのソースコードはユーザー証拠資料と共に米国著作権局(U.S. Copyright Office,洗浄ton D.C.,20559)に提出されており、そこで、米国著作権登録番号(U.S. Copyright Registration No.)TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、Genentech,Inc.,South San Francisco,Californiaにより公開されている。ALIGN-2プログラムは、UNIXオペレーティングシステム、好ましくはデジタルUNIX V4.0Dで使用するためにコンパイルしなければならない。配列比較パラメータはすべてALIGN-2プログラムに設定されており変更することはない。
【0055】
本明細書に記載するアミノ酸配列は、特に明記しない限り隣接アミノ酸配列である。
【0056】
本発明による「構造的に類似していない」生物学的分子とは、同一クラスではない生物学的分子(タンパク質、核酸、脂質、炭水化物等)、または、例えば、タンパク質に言及する場合は互いにアミノ酸同一性60%未満、アミノ酸同一性50%未満、アミノ酸同一性40%未満、アミノ酸同一性30%未満、アミノ酸同一性20%未満またはアミノ酸同一性10%未満である生物学的分子をいう。
【0057】
ハイブリダイゼーション反応の「ストリンジェンシー」は当業者は容易に決定でき、一般に、プローブ長、洗浄温度、及び塩濃度に応じ経験的に計算される。一般に、プローブが長いほど適切なアニーリングに必要な温度は高くなり、プローブが短いほど温度は低くてすむ。ハイブリダイゼーションは一般に、相補鎖がその融解温度を下回る環境にあるときの変性DNAが再アニールする能力に依存する。プローブとハイブリダイズ可能な配列との間に所望される相同性の程度が高いほど、使用可能な相対温度は高い。結果として、相対温度が高ければ、その反応条件は、よりストリンジェントになる傾向があり、温度が低ければその傾向は小さいということになる。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーに関するさらなる詳細及び説明は、Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Wiley Interscience Publishers,(1995)を参照のこと。
【0058】
「ストリンジェントな条件」または「高ストリンジェンシー条件」は、本明細書で定義されるように、(1)洗浄のために、低イオン強度及び高温、例えば、0.015M塩化ナトリウム/0.0015Mクエン酸ナトリウム/0.1%ドデシル硫酸ナトリウムを50℃にて用いる;(2)ハイブリダイゼーション中、ホルムアミドなどの変性剤、例えば、50%(v/v)ホルムアミドと0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%Ficoll/0.1%ポリビニルピロリドン/50mMのpH6.5リン酸ナトリウム緩衝液、及び750mM塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウムを42℃で用いる;または(3)50%ホルムアミド、5×SSC(0.75M NaCl、0.075Mクエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%ピロリン酸ナトリウム、5×デンハルト溶液、超音波処理サケ精子DNA(50pg/ml)、0.1%SDS、及び10%デキストラン硫酸を用いる溶液中で42℃にて一晩ハイブリダイゼーションを行い、0.2×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)中で42℃にて10分洗浄した後、55℃で、EDTAを含む0.1×SSCからなる、10分間の高ストリンジェンシー洗浄を行う、という条件により同定可能である.
【0059】
「中程度にストリンジェントな条件」は、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,New York:Cold Spring Harbor Press,1989による記載のように同定可能であり、洗浄溶液及びハイブリダイゼーション条件(例えば、温度、イオン強度、及びSDSの%)をストリンジェンシーを上記より低くして使用することが含まれる。中程度にストリンジェントな条件の一例では、20%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%デキストラン硫酸、及び20mg/mlの断片化処理済み変性サケ精子DNAを含む溶液中で37℃にて一晩インキュベーションし、その後、フィルターを1×SSC中で約37~50℃にて洗浄する。当業者は、プローブ長等のような因子に合わせて温度、イオン強度などを必要に応じ調整する方法を認識するであろう。
【0060】
抗体「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域(野生型配列Fc領域またはアミノ酸配列改変体Fc領域)に起因し、抗体アイソタイプにより異なる生物学的活性をいう。抗体エフェクター機能の例には、C1q結合及び補体依存性細胞傷害;Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御;及びB細胞活性化が含まれる。
【0061】
「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」すなわち「ADCC」とは細胞傷害の一形態であり、そこでは、分泌されてから、特定の細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)上に存在するFc受容体(FcR)に結合したIgにより、これらの細胞傷害性エフェクター細胞は抗原担持標的細胞に特異的に結合できるようになり、その後、標的細胞を細胞毒で死滅させ得る。抗体は細胞傷害性細胞を「装備」しており、こうした殺傷にはこの装備が絶対的に必要である。ADCCを媒介する主要細胞であるNK細胞は、FcγRIIIのみを発現するが、単球はFcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIを発現する。造血細胞で発現するFcRは、Ravetch and Kinet,Annu.Rev.Immunol.9:457-92(1991)の464頁、表3にまとめられている。目的分子のADCC活性を評価するために、US Patent No.5,500,362または5,821,337に記載のようなin vitro ADCCアッセイを実施できる。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。別法または追加として、目的分子のADCC活性は、in vivoで、例えば、Clynes et al.(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)95:652-656(1998)に開示されるような動物モデルで評価できる。
【0062】
「Fc受容体」または「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体を表す。好ましいFcRは野生型配列ヒトFcRである。さらに、好ましいFcRは、IgG抗体(ガンマ受容体)に結合するFcRであり、FcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIサブクラスの受容体が含まれ、アレル変異及び別法としてこれらの受容体がスプライスされた形態が含まれる、。FcγRII受容体には、FcγRIIA(「活性型受容体」)及びFcγRIIB(「抑制型受容体」)が含まれ、これらは主にその細胞質ドメインにおいて異なる類似したアミノ酸配列を有する。活性型受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメインに免疫受容体活性化チロシンモチーフ(ITAM)を含有する。抑制型受容体FcγRIIBは、その細胞質ドメインに免疫受容体抑制性チロシンモチーフ(ITIM)を含有する(Daeron,Annu.Rev.Immunol.15:203-234、概説M.(1997)を参照のこと)。FcRは、Ravetch and Kinet,(Annu.Rev.Immunol. 9:457-492(1991));Capel et al.,(Immunomethods 4:25-34(1994));及びde Haas et al.,(J.Lab.Clin.Med.126:330-41(1995))に概説されている。今後同定される他のFcRは、本明細書の用語「FcR」に包含される。かかる用語には、胎児性受容体であるFcRnも含まれ、これは、母体IgGの胎児への移行を担っている(Guyer et al.,J.Immunol.117:587(1976)及びKim et al.,J.Immunol.24:249(1994))。
【0063】
「ヒトエフェクター細胞」は、一つ以上のFcRを発現しエフェクター機能をつかさどる白血球である。好ましくは、かかる細胞は、少なくともFcγRIIIを発現しADCCエフェクター機能をつかさどる。ADCCを媒介するヒト白血球の例には、末梢血単核細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞障害性T細胞、及び好中球が含まれ、PBMC及びNK細胞が好ましい。エフェクター細胞は、天然の供給源、例えば、血液から単離できる。
【0064】
「補体依存性細胞傷害」すなわち「CDC」とは、補体の存在下で標的細胞が溶解することをいう。古典的補体経路の活性化は、補体系第1成分(C1q)が、自己の同族抗原に結合している(適切なサブクラスの)抗体に結合することで開始される。補体活性化を評価するために、CDCアッセイ、例えば、Gazzano-Santoro et al.,J.Immunol.Methods202:163(1996)に記載のアッセイを実施できる。
【0065】
用語「治療的有効量」とは、被検体の疾患または障害を治療するための抗体または抗体断片の量をいう。アレルギー性、炎症性、または自己免疫性性疾患(例えば、喘息、関節炎等)の場合、治療的有効量の抗体または抗体断片(例えば、IL4とIL5またはIL4とIL13に対する二重特異性若しくは多重特異性抗体または抗体断片)は、疾患を改善若しくは治療する、または疾患に関連した症状を予防、低下、改善、若しくは治療し得る。増殖性疾患(例えば、腫瘍)の場合、治療的有効量の抗体または抗体断片により、癌細胞数の減少;原発性腫瘍サイズの縮小;癌細胞の周辺臓器への浸潤阻害(すなわち、ある程度遅らせ、好ましくは停止させる);腫瘍転移の阻害(すなわち、ある程度遅らせ、好ましくは停止させる);腫瘍増殖のある程度の阻害;及び/または障害に関連した一つ以上の症状のある程度の軽減があり得る。抗体または抗体断片がすでにある癌細胞の増殖を抑制し、かつ/または死滅させ得る限り、薬物は細胞増殖抑制性及び/または細胞障害性であってよい。癌治療については、in vivoの有効性は、例えば、生存期間、疾患進行までの期間(TTP)、無病生存期間(DFS)、無増悪生存期間(PFS)、奏効率(RR)、奏効期間、及び/または生活の質を評価することにより測定可能である。
【0066】
「低下させる(reduce)または阻害する(inhibit)」とは、好ましくは20%以上、さらに好ましくは50%以上、最も好ましくは75%、85%、90%、95%以上の全体的な減少をもたらす能力を意味する。低下させるまたは阻害するとは、治療される障害の症状、転移の存在若しくは大きさ、原発性腫瘍の大きさ、または、血管新生障害のある血管の大きさまたは数について言及し得る。
【0067】
本明細書で使用する「炎症性疾患」とは、炎症、典型的には好中球走化性が原因の炎症をもたらす病理学的状態をいう。
【0068】
本明細書で使用する「自己免疫性疾患」は、個人自身の組織から発症し、かつ、それが対象とされる疾患若しくは障害、またはそれが同時に認められるかまたは発症している、またはそれにより引き起こされる病態である。
【0069】
炎症性または自己免疫性、またはその両方である疾患または障害の例には、喘息気管支炎(喘息気管支炎)、気管支喘息、及び自己免疫性喘息のような喘息;関節炎(急性関節炎などの関節リウマチ、慢性関節リウマチ、痛風性関節炎、急性痛風性関節炎、慢性炎症性関節炎、変形性関節症、感染性関節炎、ライム関節炎、増殖性関節炎、乾癬性関節炎、椎骨関節炎(vertebral arthritis)、及び若年発症型関節リウマチ、変形性関節症、進行性慢性関節炎(arthritis chronica progrediente)、変形性関節炎、慢性原発性多発性関節炎(polyarthritis chronica primaria)、反応性関節炎、並びに強直性脊椎炎)、炎症性の高増殖性皮膚疾患;尋常性乾癬、滴状乾癬、膿疱性乾癬、及び爪の乾癬のような乾癬;接触性皮膚炎、慢性接触性皮膚炎、アレルギー性皮膚炎、アレルギー性接触性皮膚炎、疱疹状皮膚炎、及びアトピー性皮膚炎を含む皮膚炎;X連鎖高IgM症候群;慢性自己免疫性蕁麻疹を含む、慢性アレルギー性蕁麻疹及び慢性特発性蕁麻疹のような蕁麻疹;多発性筋炎/皮膚筋炎;若年性皮膚筋炎;中毒性表皮壊死剥離症;強皮症(全身強皮症を含む);全身性硬化症、脊髄視神経型(spino-optical)多発性硬化症、原発性進行性(primary progressive)多発性硬化症(PPMS)、及び再発寛解型多発性硬化症(RRMS)のような多発性硬化症(MS)、全身性進行性硬化症、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、汎発性硬化症(sclerosis disseminata)、及び失調性硬化症のような硬化症;炎症性腸疾患(IBD)(例えば、クローン病、自己免疫介在性消化器疾患(autoimmune-mediated gastrointestinal diseases)、潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis)、潰瘍性大腸炎(colitis ulcerosa)、顕微鏡的大腸炎、膠原性大腸炎、ポリープ様大腸炎(colitis polyposa)、壊死性腸炎、及び全層性大腸炎のような大腸炎、並びに自己免疫性炎症性腸疾患);壊疽性膿皮症;結節性紅斑;原発性硬化性胆管炎;上強膜炎)、成人または急性呼吸促迫症候群(ARDS)を含む呼吸窮迫症候群;髄膜炎;ブドウ膜全部または一部の炎症;虹彩炎;脈絡膜炎;自己免疫性血液疾患;リウマチ様脊椎炎;突発性難聴;アナフィラキシー及びアレルギー性及びアトピー性鼻炎のようなIgE介在性疾患;高IgE症候群;ラスムッセン脳炎並びに辺縁系脳炎及び/または脳幹脳炎のような脳炎;前部ブドウ膜炎、急性前部ブドウ膜炎、肉芽腫性ブドウ膜炎、非肉芽腫性ブドウ膜炎、水晶体抗原性(phacoantigenic)ブドウ膜炎、後部ブドウ膜炎、または自己免疫性ブドウ膜炎のようなブドウ膜炎;原発性糸球体腎炎、免疫介在性糸球体腎炎、膜性糸球体腎炎(膜性腎症)、特発性膜性糸球体腎炎若しくは特発性膜性腎症、I型及びII型を含む膜増殖性(membrano proliferative)若しくは膜性増殖性(membranous proliferative)糸球体腎炎(MPGN)、及び急速進行性糸球体腎炎などの慢性または急性糸球体腎炎のような、ネフローゼ症候群の有無を問わない糸球体腎炎(GN);アレルギー性病態;アレルギー性反応;アレルギー性またはアトピー性湿疹を含む湿疹;強皮症;ウィップル病、肥厚性瘢痕、子癇前症、腹部癒着症、T細胞の浸潤及び慢性炎症反応を伴う病態;慢性炎症性肺疾患;自己免疫性心筋炎;白血球接着欠乏症;全身性エリテマトーデス(SLE)すなわち皮膚エリテマトーデス、亜急性皮膚エリテマトーデス、新生児狼瘡症候群(NLE)、播種性エリテマトーデス、ループス(腎炎、脳炎、小児期発症型(pediatric)、非腎性、腎外、円板状、脱毛)のような全身性エリテマトーデス;小児インスリン依存型糖尿病(IDDM)を含む若年性発症(I型)糖尿病;成人発症型糖尿病(II型糖尿病);自己免疫性糖尿病;特発性尿崩症;サイトカイン及びTリンパ球の介在による急性及び遅延型過敏症に関連した免疫応答;結核;サルコイドーシス;リンパ腫様肉芽腫症、ウェゲナー肉芽腫症を含む肉芽腫症;無顆粒球症;血管炎(vasculitis)(大径血管炎(リウマチ性多発筋痛症及び巨細胞(高安動脈炎)動脈炎を含む)、中径血管炎(川崎病及び結節性多発性動脈炎を含む)、顕微鏡的多発性動脈炎、中枢神経系(CNS)血管炎、壊死性、皮膚、または過敏性の血管炎、全身壊死性血管炎、並びに、チャーグ-ストラウス血管炎またはチャーグ-ストラウス症候群(CSS)などのANCA関連血管炎を含む)を含む血管炎(vasculitides);側頭動脈炎;再生不良性貧血;自己免疫性再生不良性貧血;クームス陽性貧血;ダイアモンド-ブラックファン貧血;溶血性貧血または自己免疫性溶血性貧血(AIHA)を含む免疫性溶血性貧血;悪性貧血(悪性貧血(anemia perniciosa));アジソン病;真性赤血球性貧血または真性赤血球無形成(PRCA);第VIII 因子欠乏症;血友病A;自己免疫性好中球減少症;汎血球減少症;白血球減少症;白血球遊出を伴う疾患;中枢神経系(CNS)炎症性障害;敗血症、外傷または出血に続発するなどの多臓器傷害症候群;抗原抗体複合体介在性疾患;抗糸球体基底膜疾患;抗リン脂質抗体症候群;アレルギー性神経炎;ベーチェット病;キャッスルマン症候群;グッドパスチャー症候群;レイノー症候群;シェーグレン症候群;スチーヴンズ-ジョンソン症候群;水疱性天疱瘡及び皮膚天疱瘡のような類天疱瘡;天疱瘡(尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、粘膜類天疱瘡、及び紅斑性天疱瘡を含む);自己免疫性多腺性内分泌障害;ライター病または症候群;免疫複合体性腎炎;抗体介在性腎炎;視神経脊髄炎;ポリニューロパシー;IgMポリニューロパシーまたはIgM介在性ニューロパシーなどの慢性ニューロパシー;血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)及び慢性若しくは急性の特発性血小板減少性紫斑病(ITP)のような自己免疫性または免疫介在性の血小板減少症を含む、血小板減少症(例えば、心筋梗塞患者に発症しているもの);自己免疫性精巣炎及び卵巣炎を含む精巣及び卵巣の自己免疫性疾患;原発性甲状腺機能低下症;副甲状腺機能低下症;自己免疫性甲状腺炎、橋本病、慢性甲状腺炎(橋本甲状腺炎)、または亜急性甲状腺炎のような甲状腺炎を含む自己免疫性内分泌疾患;自己免疫性甲状腺疾患;特発性甲状腺機能低下症;グレーブス病;自己免疫性多腺性症候群(または多腺性内分泌障害症候群)のような多腺性症候群;ランバート-イートン 筋無力性症候群若しくはイートン-ランバート症候群、スティッフマン若しくはスティッフパーソン症候群などの神経性腫瘍随伴症候群を含む腫瘍随伴症候群;アレルギー性脳脊髄炎(allergic encephalomyelitisまたはencephalomyelitis allergica)及び実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)のような脳脊髄炎;胸腺腫関連重症筋無力症などの重症筋無力症;小脳変性;神経ミオトニー;眼球クローヌス若しくは眼球クローヌス-ミオクローヌス症候群(OMS)、及び感覚性ニューロパシー;多巣性運動ニューロパシー;シーハン症候群;自己免疫性肝炎;慢性肝炎;ルポイド肝炎;巨細胞肝炎;慢性活動性肝炎若しくは自己免疫性慢性活動性肝炎;リンパ性間質性肺炎;閉塞性細気管支炎(非移植)と非特異性間質性肺炎(NSIP);ギラン-バレー症候群;ベルジェ病(IgA腎症);特発性IgA腎症;線状IgA水疱性皮膚症;原発性胆汁性肝硬変;肺線維症;自己免疫性腸症症候群;セリアック病;セリアックスプルー(グルテン腸症);難治性スプルー;特発性スプルー;クリオグロブリン血症;寒冷グロブリン血症;筋萎縮性側索硬化症(ALS;ルー・ゲーリック病);冠動脈疾患;自己免疫性内耳疾患(AIED);自己免疫性難聴などの自己免疫性聴覚疾患;眼球クローヌス-ミオクローヌス症候群(OMS);難治性若しくは再発性多発性軟骨炎などの多発性軟骨炎;肺胞蛋白症;アミロイドーシス;強膜炎;非癌性リンパ球増加症;モノクローナルB細胞リンパ球増加症(例えば、良性モノクローナル免疫グロブリン血症及び意義不明のモノクローナル免疫グロブリン血症(MGUS)が含まれる原発性リンパ球増加症;末梢神経障害、腫瘍随伴症候群;てんかん、片頭痛、不整脈、筋障害、難聴、失明、周期性四肢麻痺、及び中枢神経系(CNS)のチャネル病などのチャネル病;自閉(症)、炎症性筋障害、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、内分泌性眼症、網膜ぶどう膜炎、脈絡網膜炎、自己免疫性肝疾患、線維筋痛症、多発性内分泌不全、シュミット症候群、副腎炎、胃萎縮症、初老期痴呆;自己免疫性脱髄性疾患などの脱髄性疾患、糖尿病性腎症、ドレスラー症候群、円形脱毛症、クレスト症候群(石灰症、レイノー現象、食道運動障害、強指症、及び毛細血管拡張症);男性及び女性の自己免疫性不妊症、混合結合組織病、シャーガス病、リウマチ熱、反復流産、農夫肺、多形紅斑、心膜切除後症候群、クッシング症候群、愛鳥家肺、アレルギー性肉芽腫血管炎、良性リンパ球血管炎、アルポート症候群;アレルギー性肺胞隔炎及び線維化肺胞炎などの肺胞炎;間質性肺疾患、輸血反応、ハンセン病;マラリア;
リーシュマニア症;キパノソミアシス(kypanosomiasis);住血吸虫症;回虫症;アスペルギルス症;サムプター症候群(Sampter’s syndrome);カプラン症候群;デング;心内膜炎;心内膜心筋線維症;びまん性間質肺線維症;間質性肺線維症;特発性肺線維症;嚢胞性線維症;眼内炎;持久性隆起性(elevatum et diutinum)紅斑;胎児赤芽球症;好酸球性筋膜炎;シャルマン症候群;フェルティ症候群;フィラリア症;慢性毛様体炎、虹彩異色性毛様体炎、虹彩毛様体炎、またはフックス毛様体炎などの毛様体炎;ヘノッホ-シェーンライン紫斑病;ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症;エコーウイルス感染症;心筋症;アルツハイマー病;パルボウイルス感染症;風疹ウイルス感染症;予防接種後症候群;先天性の風疹感染;エプスタイン-バーウイスル感染症;流行性耳下腺炎;エバンス症候群;自己免疫性性腺機能不全;シデナム舞踏病;レンサ球菌感染後腎炎;血栓血管炎(thromboangitis ubiterans);甲状腺中毒症;脊髄癆;脈絡膜炎;巨細胞多発筋痛症;内分泌性眼障害;慢性過敏性肺炎;乾性結膜炎;流行性角結膜炎;特発性腎炎症候群;微小変化型腎症;良性家族性及び虚血再潅流傷害;網膜自己免疫;関節炎;気管支炎;慢性閉塞性気道疾患;珪肺症;アフタ;アフタ性口内炎;動脈硬化障害、無精子形成(aspermiogenese);自己免疫性溶血;ベック病;クリオグロブリン血症;デュピュイトラン拘縮;水晶体過敏性眼内炎;アレルギー性腸炎(enteritis allergica);らい性結節性紅斑;特発性顔面神経麻痺;慢性疲労症候群;リウマチ熱(febris rheumatica);ハマン-リッチ症候群;感音性難聴;発作性血色素尿症(haemoglobinuria paroxysmatica);性腺機能低下症;限局性回腸炎(ileitis regionalis);白血球減少;伝染性単核球症(mononucleosis infectiosa);横断性脊髄炎;原発性特発性粘液水腫;ネフローゼ;交感性眼炎;肉芽種性睾丸炎(orchitis granulomatosa);膵炎;急性多発性神経根炎(polyradiculitis acuta);壊疽性膿皮症;ケルヴァン甲状腺炎;後天性の脾臓萎縮;抗精子抗体(antispermatozoan antobody)による不妊症;非悪性胸腺腫;白斑;重症複合免疫不全症(SCID)及びエプスタイン-バーウイスル関連疾患;後天性免疫不全症候群(AIDS);リーシュマニアなどの寄生虫症;毒素性ショック症候群;食中毒;T細胞の浸潤を伴う病態;白血球接着欠乏症;サイトカイン及びTリンパ球介在性の急性及び遅延型過敏症に関連した免疫応答;白血球遊出を伴う疾患;多臓器傷害症候群;抗原抗体複合体介在性の疾患;抗糸球体基底膜の疾患;アレルギー性神経炎;自己免疫性多腺性内分泌障害;卵巣炎;原発性粘液水腫;自己免疫性萎縮性胃炎;交感性眼炎;リウマチ性疾患;混合結合組織病;ネフローゼ症候群;膵島炎;多腺性機能不全;末梢神経障害;自己免疫性多腺性症候群I型;成人発症型特発性副甲状腺機能低下症(AOIH);全頭脱毛症;拡張型心筋症;後天性表皮水疱症(EBA);血色素症;心筋炎;ネフローゼ症候群;原発性硬化性胆管炎;化膿性若しくは非膿性副鼻腔炎;急性若しくは慢性副鼻腔炎;副鼻腔(篩骨洞炎、前頭洞炎、上顎洞炎、または蝶形骨洞)炎;自己免疫性水疱性疾患;好酸球増加症;特発性好酸球増多症候群;好酸球肺浸潤;好酸球増多-筋肉痛症候群;レフラー症候群;慢性好酸球性肺炎;熱帯性肺好酸球増加症;気管支肺アスペルギルス症(bronchopneumonic aspergillosis);アスペルギルス腫;または好酸球を含有している肉芽腫などの好酸球関連障害;アナフィラキシー;血清反応陰性脊椎関節炎(seronegative spondyloarthritides);多腺性自己免疫性疾患;硬化性胆管炎;強膜炎;上強膜炎;慢性粘膜皮膚カンジダ症;ブルトン症候群;乳児期の一過性低ガンマグロブリン血症;ヴィスコットオールドリッチ症候群;毛細血管拡張性失調症;膠原病、リウマチ、神経疾患、虚血再灌流障害、血圧応答低下、血管機能障害、血管拡張症、組織傷害、心血管虚血、痛覚過敏、脳虚血、及び血管新生を伴う疾患に関連した自己免疫性疾患;アレルギー性過敏障害;糸球体腎炎(glomerulonephritides);再潅流傷害;心筋または他の組織の再潅流傷害;急性炎症性要素;急性化膿性髄膜炎または他の中枢神経系炎症性障害を伴う皮膚疾患;眼及び眼窩の炎症性障害;顆粒球輸血関連症候群;サイトカイン誘導性の毒性;急性の強い炎症;慢性難治性炎症;腎盂炎;肺線維症;糖尿病網膜症;糖尿病性大径動脈障害;動脈内過形成(endarterial hyperplasia);消化性潰瘍;弁膜炎;並びに子宮内膜症が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0070】
本明細書の「アレルギー性疾患」とは、個人が、通常は非免疫原性の物質に対し過感作され、それに対する免疫反応を開始する疾患または障害である。アレルギー性疾患は、一般に、IgEによる肥満細胞の活性化を特徴とし、これは炎症応答を引き起こし、鼻水のような良性の症状から生命を脅かすアナフィラキシーショック及び死亡に至るまで、各種の症状を引き起こし得る。アレルギー性疾患の例には、喘息(例えば、アレルギー性喘息)、アレルギー性鼻炎(例えば、花粉症)、アレルギー性皮膚炎(例えば、湿疹)、接触性皮膚炎、食物アレルギー、及び蕁麻疹が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0071】
上記で挙げた例はすべてを包括しているわけではなく、疾患または障害が種々の分類に入り得ることは当業者には理解されるであろう。例えば、喘息はアレルギー性疾患でもあり炎症性疾患でもあるが、臨床医によっては自己免疫性疾患とみなされる。
【0072】
用語「癌」及び「癌性)」とは、典型的に制御されていない細胞増殖を特徴とする、哺乳類における生理的状態を意味するか、または表す。この定義に含まれるのは、良性及び悪性の癌である。
【0073】
用語「前癌の」とは、典型的に、癌に先行する、または癌に発展する病態または成長をいう。
【0074】
本明細書で使用する用語「増殖性疾患」は、ある程度の異常な細胞増殖に関連した疾患または障害である。一実施形態では、細胞増殖性障害は癌である。いくつかの実施形態では、癌は、乳癌、大腸癌、非小細胞肺癌、非ホジキンリンパ腫(NHL)、B細胞リンパ腫、B細胞白血病、多発性骨髄腫、腎癌、前立腺癌、肝癌、頭頸部癌、黒色腫、卵巣癌、中皮腫、及び膠芽腫からなる群から選択される。
【0075】
本明細書で使用する用語「腫瘍」とは、悪性か良性かを問わず、すべての腫瘍形成細胞成長及び細胞増殖、並びにすべての前癌性及び癌性の細胞及び組織をいう。
【0076】
「非転移性」とは、良性である、または原発部位にとどまる癌であり、リンパ系若しくは血管系内に、または原発部位以外の組織に侵入していない癌を意味する。一般に、非転移性癌は、0期、I期、またはII期の任意の癌であり、ときにIII期の癌である。
【0077】
「被検体」とは、脊椎動物、好ましくは哺乳類、さらに好ましくはヒトである。哺乳類には、家畜(ウシなど)、競技用動物、ペット(ネコ、イヌ及びウマなど)、霊長類、マウス、及びラットが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0078】
II.二重特異性抗体の作製
重鎖可変ドメイン(V)は、有意に高い配列多様性を含有し、軽鎖可変ドメイン(V)よりも抗原認識の決定因子に寄与することが多い。我々が先に得た結果から、二重特異性のある単一抗体を作るために軽鎖可変ドメインを改変できることが、初めて示された(US Patent Application Publication No.20080069820及びBostrom et al.,Science 232:1610-1614(2009)を参照のこと。なお、参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする。我々は、Vのアミノ酸残基の改変により、Vには変異がないことを含め、抗原認識に重要なV残基を有する抗体から二重特異性抗体を作製できることを発見した。これらの新規で、しかも予期しなかった方法を以下に詳述する。
【0079】
我々は、Vの特定の残基は、静電的または疎水性の場合に同定可能であることを見出し、これは、Vが抗原認識に重要であることを示唆している。このような場合、第1のエピトープと第2のエピトープの両方に結合する二重特異性抗体を作製するために、抗体のVの改変を使用する。具体的には、抗体の位置32、50、または91(Kabat番号付けによる)のアミノ酸残基の任意の1、2、または3個が静電的(例えば、チロシン)または疎水性(例えば、トリプトファン)であれば、その抗体のVをコードする核酸配列を、溶媒接近可能アミノ酸残基一つ以上をコードするVのコドンの一つ以上にて改変する。
【0080】
さまざまな実施形態では、Vの改変対象となり得る残基には、33、34、50~58、または95~97の任意の1以上のアミノ酸が含まれる。任意選択で、重鎖残基の他、軽鎖のアミノ酸残基93~96を改変してよい。重鎖について、溶媒の接近可能性または抗原認識にとっての重要性は、構造マッピング及びアラニンスキャニング変異誘発など、これらに限定されない当技術分野で公知の標準的な技術を使用して決定してよい。
【0081】
その後、V及び改変されたVを発現させ(例えば、ライブラリーとして)、V及び改変されたVが含まれる二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片を選択し、これが、第1のエピトープ及び第2のエピトープに特異的に結合する。最初の抗体のVは、Vの改変の他に改変を行っても行わなくてもよい。最初の抗体のフレームワーク領域のアミノ酸残基は、Vの改変の他に改変を行っても行わなくてもよい。
【0082】
上記の選択方法により同定された二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片を、例えば、親和性熟成または当該技術分野で公知の他の方法でさらに修飾して、一方または両方の標的抗原に対する親和性を高めてよい。親和性熟成の選択過程には、大量並列シーケンシング法(例えば、ディープシークエンシング(deep sequencing)、ウルトラディープシークエンシング(ultra-deep sequencing)、または次世代シークエンシング)を適用して、標的抗原の一方または両方との結合に寄与する(例えば、標的抗原の高親和性に寄与する)残基(複数可)(例えば、溶媒に露出されている、または溶媒に露出されていない残基)を同定することが含まれ得る。例えば、Fowler et al. Nat.Methods. 7(9):741-746,2010を参照のこと。二重特異性抗体は、安定性の向上または半減期の延長、または免疫原性の低下のために、修飾されることもある。このような修正は、当業者に公知である。
【0083】
III.治療上の使用
本明細書に記載する二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片は、IL4とIL5の両方(例えば、B1、E7、及びE7親和性が成熟した改変体)またはIL4とIL13の両方(例えば、F1及びF2)に結合し、これらを使用して、アレルギー性、炎症性、及び自己免疫性疾患(例えば、喘息)のような疾患;IL4介在性の疾患;IL5介在性の疾患;IL13介在性の疾患;IL4/IL5介在性の疾患;IL4/IL13介在性の疾患;及び/または増殖性障害(例えば、癌)を治療、抑制、または予防することができる。
【0084】
二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片により治療され得る炎症性及び自己免疫性の疾患または障害の例は、上記の通りである。いくつかの実施形態では、疾患または障害には、喘息気管支炎、気管支喘息、及び自己免疫性喘息のような喘息が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0085】
喘息は、気道の炎症、過敏性及び閉塞が見られる慢性肺疾患と表現される。生理学的には、気道過敏性は、メタコリンまたはヒスタミンで気管支誘発を行った後の気管支の気流減少により実証される。気道閉塞を引き起こす他の誘因には、冷たい空気、運動、ウイルス性の上気道感染、喫煙、及び呼吸器アレルゲンが含まれる。気管支をアレルゲンで誘発すると、免疫グロブリンE(IgE)の介在による即時相の気流量減少が直ちに誘導され、多くの患者では、その後、IgE介在による遅延相反応が現われ、4~8時間気管支の気流量が減少する。即時型応答は、ヒスタミン、PGD、ロイコトリエン、トリプターゼ及び血小板活性化因子(PAF)のような炎症性物質が急激に放出されることにより引き起こされ、遅延型応答は、炎症誘発性サイトカイン(例えば、TNFa、IL4、IL13)及びケモカイン(例えば、MCP-1及びMIP-1α)が新規に合成されることにより引き起こされる(Busse et al. In:Allergy:Principles and Practice,Ed. Middleston,1173(1998))。慢性の喘息患者では、持続的な肺の症状には、Th2細胞の応答の亢進が介在している。Th2サイトカイン、特に、喘息のげっ歯類モデルで示されたように、気道においてNK表現型(NKT)を有するTh2細胞により産生されたIL13とIL4(Akbari et al.,Nature Med.,9:582(2003))は、疾患において重要な役割を果たすと考えられている(Larche et al.,J.Allergy Clin.Immunol.,111:450(2003))。喘息の気道の全体病理は、肺の過膨張、平滑筋肥大、網状層の肥厚、粘膜の浮腫、上皮細胞の剥離、繊毛細胞破壊、及び粘液腺の過剰分泌を示す。顕微鏡的に、喘息は、気管支組織、気管支分泌物、及び粘液における好酸球、好中球、リンパ球、及び形質細胞の数の増加により特徴付けられる。まず、活性化CD4陽性Tリンパ球により血液循環から気道へ白血球の動員がある。活性化Tリンパ球は、好酸球、肥満細胞、及びリンパ球からの炎症性メディエーター放出もさせる。その上、Th2細胞はIL4、IL5、IL9及びIL13を産生する。IL4は、IL13と共に、IgM抗体からIgE抗体へ切り替えるようにシグナルを伝達する。
【0086】
アレルゲンが膜に結合したIgE分子を架橋すると、肥満細胞は脱顆粒を起こし、気道炎症を持続させるヒスタミン、ロイコトリエン、及び他のメディエーターを放出する。IL5は好酸球の動員及び活性化を活性化させる。活性化された肥満細胞及び好酸球も、炎症の持続を助ける自己のサイトカインを生成する。肺の組織の損傷に続くそれらの修復を伴う肺でのこうした炎症サイクルが繰り返されると、気道の長期的な構造変化(「リモデリング」)を起こし得る。
【0087】
中等度喘息は、現在、抗炎症コルチコステロイドまたはクロモリンナトリウムまたはネドクロミルなどの肥満細胞の抑制剤の連日吸入に加え、突出的な症状、すなわち、アレルゲンまたは運動で誘発された喘息を軽減するため必要に応じて(1日3~4回)ベータ2作動薬の吸入で治療する。クロモリンナトリウム及びネドクロミルは気管支痙攣及び炎症を遮断するが、通常は、アレルゲンまたは運動に関連した喘息のみ、典型的には、若年喘息患者にのみ有効である。吸入コルチコステロイドは、炎症、気道過敏性、及び閉塞を改善し、急性増悪の回数を減少させる。しかし、明らかな効果が現われるまで少なくとも1か月、また顕著な改善が見られるまで最高1年を要する。最も頻度が高い副作用は、嗄声及び口の真菌感染症、すなわち、カンジダ症である。さらに重篤な副作用として、例えば、副腎の一部抑制、成長阻害、及び骨形成の低下が報告されているが、高用量で使用した場合に限られている。ベクロメタゾン、トリアムシノロン、及びフルニソリドはおそらく効力[効能・力価]は同様であると思われ、一方、ブデソニド及びフルチカゾンは、より強力で、全身副作用が少ないと報告されている。
【0088】
疾患が軽度な患者であっても、粘膜の及び上皮への活性化されたT細胞、肥満細胞、及び好酸球の浸潤を含む気道の炎症を示す。T細胞及び肥満細胞は、好酸球の増殖及び熟成並びにIgE抗体産生を促進するサイトカインを放出し、放出されたサイトカインが今度は、微小血管の透過性を高め、上皮を破壊し、神経反射及び粘液分泌腺を刺激する。その結果、気道過敏性、気管支収縮、及び過剰分泌となり、喘鳴音、咳、及び呼吸困難となって現われる。
【0089】
従来より、喘息は、経口及び吸入気管支拡張薬で治療されている。これらの薬剤は喘息症状の一助にはなるが、基礎疾患としての炎症には全く作用しない。この10年間、喘息の病因論において炎症がいかに重要であるかという認識からコルチコステロイドの使用が増加したが、多くの患者が現在もなおコントロール不良の喘息に苦しんでいる。
【0090】
IL4、IL5、及び/またはIL13に対する特異性を有する二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片は、複数の病原性経路を標的とすると思われ、喘息治療の治療薬として、単独または別の治療(例えば、当技術分野で公知または上記の)と組み合わせて使用できる。
【0091】
別の実施形態では、二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片を癌治療に使用してよい。癌という用語は、増殖性障害をまとめて含み、これらには前癌性増殖、良性腫瘍、及び悪性腫瘍が非限定的に含まれる。良性腫瘍は、その発生部位に限局的にとどまり、遠隔部位に浸潤、侵入、または転移する能力はない。悪性腫瘍は、侵入し、その周辺の他組織を損傷していく。悪性腫瘍は、その起源の部位から切り離れる能力を獲得し、通常、血液循環を介して、またはリンパ節が位置するリンパ系を介して体の他の部分へ広がる(転移する)こともできる。原発性腫瘍は、それが発生する組織の種類により分類され、転移性腫瘍は、癌細胞が由来する組織の種類により分類される。時間と共に、悪性腫瘍の細胞は、より異常になり、正常細胞のようではなくなる。癌細胞にみられるこの外観の変化は、腫瘍グレードと呼ばれ、癌細胞は、十分に分化されている、中程度に分化されている、ほとんど分化されていない、または、未分化であると表現される。十分に分化した細胞は外観は全く正常であり、それが由来する正常細胞に類似する。未分化な細胞は、細胞の起源を決定することがもはや不可能であるほど異常となっている細胞である。
【0092】
IV.用量及び製剤
抗体または抗体断片の組成物は、適切な医療行為行為に一致した形で処方、用量決定、投与がなされる。この文脈で考慮される因子には、治療される特定の疾患、治療される特定の哺乳類動物、個々の患者の臨床状態、疾患の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール、及び医師に知られている他のファクターが含まれる。投与される抗体または抗体断片の「治療的有効量」は、このような因子を考慮に入れて決定され、アレルギー性、炎症性、自己免疫性、または増殖性の疾患または障害、またはその症状を予防、改善または治療するために必要な最小限量である。本発明の抗体または抗体断片を投与する用量及びタイミングは、被検体の全体的な健康状態及び症状、例えば、アレルギー性障害の症状の重症度など、さまざまな臨床的要因に依存することになる。本発明には、被検体のアレルギー性障害若しくはそれによる症状、またはアレルギー性障害発症のリスクを治療、予防、または低減するために抗体または抗体断片を使用することが含まれる。抗体または抗体断片は、任意の時期、例えば、アレルギー性障害またはアレルギー性障害に関連した病態が診断または検出された後、または、まだアレルギー性障害と診断されていないが、このような障害を発症するリスクのある被検体(例えば、免疫不全を患うまたはその治療を受けている被検体)のアレルギー性障害を予防するために、アレルギー性障害発症のリスクがあると確定された後に、投与することができる。
【0093】
本発明はの二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片は、種多様な方法、例えば、特定の適応に知られている経路で処方及び投与が可能であり、これらには、吸入、局所的、経口、皮下、気管支注射、静脈内、脳内、経鼻、経皮吸収、腹腔内、筋肉内、肺内、経腟、経直腸、動脈内、脳脊髄内、関節内、滑膜内(intrasynovially)、病変内、非経口、脳室内、または眼内を含むが、これらに限定されない。例えば、抗体、または抗体断片は、経口投与用の丸剤、錠剤、カプセル剤、液体、または徐放性錠剤;または静脈内、皮下若しくは投与用の液体;局所投与用のポリマーまたは他の徐放性ビヒクル;局所投与用の軟膏、クリーム、ゲル、液体、またはパッチの形態が可能である。
【0094】
広範囲の副作用または毒性がIL4、IL5、またはIL13の拮抗作用と関連している場合、局所投与が特に望ましいことがある。また、ex vivo法を治療用途に用いることもできる。Ex vivo法では、被検体から得られた細胞に、二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片をコードするポリヌクレオチドで形質移入または形質導入を行う。その後、形質移入または形質導入された細胞は被検体に戻される。細胞は、造血性細胞(例えば骨髄細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞、T細胞またはB細胞)、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、ケラチノサイトまたは筋細胞を含むが、これらに限定されない広範な種類の任意のものであり得る。
【0095】
例えば、連続全身輸注または定期的な注射/注入of二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片、を使用できるto治療するまたは予防する障害。治療は、1日から被検体の寿命までの範囲の期間、さらに好ましくは1~100日、最も好ましくは1~20日、最も好ましくは、アレルギー性、炎症性、自己免疫性、若しくは増殖性の疾患または障害、またはその症状が軽減または除去されるまで継続可能である。用量,化合物及び病態の重症度に応じて異なる。二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片は、流量が一定またはプログラム可能な埋込み型ポンプを使用した輸注、または定期的な注射により継続的に投与可能である。徐放性システムも使用できる。ある特定の状況では、半透過性、埋込み型の膜デバイスも、二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片を送達するための手段として有用である。別の実施形態では、二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片は、局所的に、例えば、吸入により投与され、定期的に繰り返えしてよい。肺へ投与することも可能であり、例えば、吸入器または噴霧器、エアロゾル化剤を含む製剤の使用により可能である。抗体を、乾燥粉末組成物の形態で患者の肺内に投与してもよい(例えば、U.S.Pat.No.6,514,496を参照のこと)。
【0096】
二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片の用量は、被検体の体重及び病態並びに化合物の投与経路など他の臨床的要因に依存することになる。被検体の治療では、約0.1mg/kg体重~500mg/kg体重の二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片が投与され得る、。さらに好ましい範囲は、1mg/kg体重~50mg/kg体重で、その最も好ましい範囲は1mg/kg体重~25mg/kg体重である。個別の被験体内での抗体または抗体断片の半減期に応じ、抗体または抗体断片は1日数回から週1回の間で投与可能である。本発明の方法は、同時または長期間にわたるいずれでも与えられる単回並びに頻回投与を提供する。
【0097】
好ましくは、二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片は、連続輸注により非経口的または静脈内に、または吸入器で局所的に投与される。用量及び投与レジメンは、疾患の重症度、及び被検体の全体的健康状態に依存する。非経口投与の場合、二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片は、注入可能な単位剤形(溶液、懸濁液、エマルジョン)で薬理学的に許容される非経口ビヒクルと共に処方される。このようなビヒクルは、本質的に非中毒性であり、非治療的である。このようなビヒクルの例は、水、生理食塩水、リンガー液、デキストロース溶液、及び5%ヒト血清アルブミンである。不揮発性油及びオレイン酸エチルなどのを非水性ビヒクルを使用してもよい。リポソームを担体として使用してよい。ビヒクルは、等張性及び化学的安定性を高める物質、例えば、緩衝液及び保存料などの添加物を少量含有してよい。二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片は、典型的には、濃度約1mg/ml~10mg/mlでこのようなビヒクル内に配合される。吸入投与の場合、二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片は、本発明のエアロゾル形態を形成する任意の好適な方法で処方される。二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片を含む組成物は、例えば、吸入器を使用して、薬理学的に許容される賦形剤と共に、または賦形剤なしで揮発または噴霧され、凝縮されて肺に直接吸い込まれ得る蒸気を発生させる。薬理学的に許容される賦形剤は揮発性であってよく、そのような賦形剤クラスは当技術分野で公知であり、これらには、気体、超臨界流体、液体及び固体の溶媒が非限定的に含まれる。かかるクラスに入る例示的な担体には、水、滅菌生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩液のような生理的緩衝液、テルペンs、アルコール、プロピレングリコール、グリセリン及び他の類似アルコール、ドライアイス、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、超臨界二酸化炭素、及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0098】
必要用量は、投与経路の選択、製剤の性質、被検体の疾患の性質、被検体のサイズ、体重、体表面積、年齢、及び性別、他の投与薬物、並びに担当医師の判断に依存する。必要用量は、入手可能なポリペプチド及び断片の種類及び各種投与経路により効率が異なることを鑑みて、大きく異なることが予測される。例えば、経口投与は、静脈内注射での投与より高用量を要すると考えられる。これらの用量レベルの変更は、標準的な経験的ルーチンを用いて調整し最適化することができ、従来より知見されているところである。投与は、単回であっても頻回であってもよい(例えば、2回、3回、6回、8回、10回、20回、50回、100回、150回、またはそれ以上)。ポリペプチドを好適な送達ビヒクル(例えば、ポリマー微粒子または埋込み型デバイス)に内包させると、送達、特に経口での送達の有効性を高め得る。
【0099】
喘息治療の一実施形態では、二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片は、必ずしもそうする必要はないが、任意選択で、喘息または喘息を発症するリスクの予防または治療のために現在使用されている1種以上の薬剤と共に処方または併用(同時にまたは順次)投与される。抗体、またはその抗原結合性断片は、例えば、IgE拮抗薬、気管支拡張薬(例えば、ベータ2-アドレナリン受容体作動薬、キサンチン、コリン受容体拮抗薬)、抗炎症剤(例えば、ジクロモグリク酸ナトリウム(DSCG)、ネドクロミルナトリウム、ケトチフェンなどの抗ヒスタミン薬、プレドニゾロンなどのコルチコステロイド)、テオフィリン、サルブタモール、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、または当技術分野で公知の別の喘息治療薬と共に処方可能である。このような他剤の有効量は、製剤中の二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片の量、障害または治療の種類、及び上記の他因子に依存する。
【0100】
治療的製剤は、当技術分野で公知の標準方法を使用して、所望の純度を有する活性成分を任意選択の生理学的に許容される担体、賦形剤または安定化剤と共に混合することにより調製される(Remington’s Pharmaceutical Sciences(20th edition),ed. A.Gennaro,2000,Lippincott,Williams&Wilkins,Philadelphia,PA)。許容される担体には、生理食塩水、またはリン酸塩、クエン酸塩及び他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸などの抗酸化剤;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、またはデキストリンなどの単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;マンニトールまたはソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成性対イオン;並びに/またはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)、またはPEGなどの非イオン性界面活性剤が含まれる。
【0101】
任意選択ではあるが、好ましくは、製剤は、薬理学的に許容される塩、好ましくは塩化ナトリウムを、好ましくは生理的濃度周辺で含有する。任意選択で、本発明の製剤は、薬理学的に許容される保存料を含有し得る。いくつかの実施形態では、保存料濃度は、0.1~2.0%、典型的には0.1~2.0v/vの範囲である。好適な保存料には、製薬分野で公知の保存料が含まれる。ベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、メチルパラベン、及びプロピルパラベンは、例示的な保存料である。任意選択で、本発明の製剤には、薬理学的に許容される界面活性剤が濃度0.005~0.02%で含まれ得る。
【0102】
本明細書の製剤は、治療される特定の適応の必要に応じ、1種以上の活性化合物をも含有してよく、これらは、好ましくは、互いに悪影響を及ぼさない相補的活性のあるものでよい。このような分子は、意図される目的に有効な量で組み合わせて好適に含有される。
【0103】
活性成分は、例えば、コアセルベーション技術または界面重合により調製したマイクロカプセル、例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセル及びポリ-(メタクリル酸メチル)マイクロカプセル内に、コロイド状薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ粒子及びナノカプセル)またはマクロエマルションで封入してもよい。このような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(前出)に開示されている。
【0104】
徐放性調製物は、調製してよい。徐放性調製物の好適な例には、抗体を含有している固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックスが含まれ、そのマトリックスは、成形物品、例えば、フィルム、またはマイクロカプセルの形態である。徐放性マトリクスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(U.S.Patent No.3,773,919)、L-グルタミン酸とγエチル-L-グルタマートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸-グリコール酸コポリマーと酢酸ロイプロリドからなる注射可能なミクロスフィア)のような分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、並びにポリ-D-(-)-3-ヒドロキシブチル酸が含まれる。エチレン-酢酸ビニル及び乳酸-グリコール酸等のポリマーは、分子を100日以上かけて放出することを可能にするが、ある種のヒドロゲルはタンパク質をより短い時間で放出する。カプセル化された抗体が体内に長時間残ると、37℃の水分に暴露された結果として変性または凝集し、生物学的活性を喪失させ免疫原性を変化させるおそれがある。合理的な戦略を、関与するメカニズムに応じて安定化のために案出することができる。例えば、凝集機構がチオ-ジスルフィド交換による分子間S-S結合の形成であることが見いだされた場合、安定化は、スルフヒドリル残基を修飾し、酸性溶液から凍結乾燥させ、水分含有量を制御し、適当な添加剤を使用し、また特定のポリマーマトリクス組成物を開発することによって達成され得る。
【0105】
一例では、二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片は、疾患が許す限り、例えば、直接注射によって局所的に投与され、この注射は定期的に繰り返してよく、または、吸入により投与され得る。二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片は、被検体に全身的に、または患部に直接送達してもよい。
【0106】
本発明は、また、二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片、及び薬理学的に許容される担体若しくは希釈剤を含む組成物も提供する。治療に使用するこの組成物は無菌であり、凍結乾燥してよい、。本発明の二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片を、本明細書に記載する適応を治療するための薬品製造において使用することも意図される。組成物は、抗喘息薬、抗炎症薬、または抗増殖薬(例えば、化学療法薬、細胞障害剤または抗血管新生薬)などの第2の治療薬をさらに含む。
【0107】
V.製造品及びキット
本発明の別の実施形態は、疾患または障害(例えば、アレルギー性疾患または障害または喘息)の治療に有用な材料を含む製造品である。本発明のさらに別の実施形態は、炎症性、自己免疫性、及び増殖性の疾患または障害の治療に有用な材料を含む製造品である。製造品は、容器、及び、容器上または容器に付随するラベルまたは添付文書を含む。好適な容器には、例えば、瓶、バイアル、シリンジ等が含まれる。容器はガラスまたはプラスチックなどのさまざまな材料で形成されてよい。容器は、病態の治療に有効な組成物を収容し、無菌のアクセスポートを有してよい(例えば、容器は、静脈注射用溶液のバッグまたは皮下注射針で穿孔可能なストッパーを有するバイアルでよい。)。組成物中の少なくとも一つの活性薬剤は本発明の二重特異性抗体または抗原結合性断片である。ラベルまたは添付文書は、組成物が特定の疾病を治療するために使用されること指示する。ラベルまたは添付文書には、抗体組成物を患者に投与するための指示がさらに含まれることになる。本明細書中に記載の併用治療を含む製造品及びキットも意図される。
【0108】
添付文書は、慣習的に治療用製品の市販パッケージに含まれる指示書を指し、効能、使用、用量、投与、禁忌及び/またはこのような治療用製品の使用に関する警告についての情報を含むものである。一実施形態では、添付文書は、組成物が喘息治療に使用されることを指示する。
【0109】
さらに、製造品は、注射用の静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー液及びデキストロース溶液のような薬理学的に許容される緩衝液を含む第2の容器を含んでもよい。さらに、他の緩衝、希釈剤、フィルター、針及びシリンジを含む商業的及び使用者の見地から望ましい他の材料を含んでもよい。
【0110】
また、さまざまな目的、例えば、IL4、IL5、またはIL13を細胞から精製または免疫沈降するために有用なキットが提供される。IL4、IL5、またはIL13の単離または精製用に、キットは、ビーズ(例えばセファロースビーズ)に結合したIL4/IL5またはIL4/IL13抗体を含み得る。例えば、ELISAまたはウエスタンブロットにおいて、IL4、IL5、またはIL13をin vitroで検出及び定量するための抗体を含むキットが提供され得る。製造品と同様に、キットは、容器,及び、容器上または容器に付随するラベル若しくは添付文書を含む。容器は、本発明の少なくとも一つの二重特異性若しくは多重特異性抗体または抗体断片を含む組成物を収容する。例えば、希釈剤及び緩衝液または対照抗体を含む別の容器が含まれてよい。ラベルまたは添付文書は、組成物の説明並びに意図されるin vitroでの使用または診断上の使用についての指示を提供してよい。
【0111】
以下の実施例は、あくまで事例を提供するにすぎず、本発明の範囲を何ら限定するものではない。事実、本明細書で示され記載される内容に加え本発明の他のさまざまな変更は、前述の記載から当業者に明らかとなり、添付の請求の範囲内となる。
【0112】
実施例
下記実施例において示す市販の試薬は、特に明記しない限り、製造者の指示に従って使用した。以下の実施例及び明細書全体にわたってATCC受託番号によって識別される細胞の供与源はAmerican Type Culture Collection, Manassas, VAである。特に断りのない限り、本発明は、本明細書中及び以下のテキストに記載されるような組換えDNA技術の標準的な手順を用いる。Sambrook et al.(前出);Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology(Green Publishing Associates and Wiley Interscience,N.Y.,1989);Innis et al.,PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications(Academic Press,Inc.:N.Y.,1990);Harlow et al.. Antibodies:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Press:Cold Spring Harbor,1988);Gait,Oligonucleotide Synthesis(IRL Press:Oxford,1984);Freshney,Animal Cell Culture,1987;Coligan et al.. Current Protocols in Immunology,1991。
【0113】
実施例1。ライブラリー設計及び構築
軽鎖(LC)相補性決定領域(CDR)の変異により、単一特異性抗体は、その第1の抗原特異性を維持しつつ新規抗原に対する第2の結合特異性を動員することができる。さらに、二重の結合は、低ナノモルのKまで親和性が成熟し得る。二重特異性を操作するこの行程は、その主要抗原を結合するために重鎖(HC)CDRを主に利用する抗体に適している。ここでは、結合エネルギーをLC CDRに大きく依存する抗インターロイキン4抗体のマウスハイブリドーマに由来するもの、及びHC CDRのみの変異、またはLC CDRでのさらなる変異を有する二重特異性へこの抗体が進化することについて記載する。このような、インターロイキン4(IL4)及びインターロイキン5(IL5)に対する二重特異性改変体をKが低ナノモルの高い二重親和性まで成熟させる。結果は、抗体が二重特異性に進化できることをさらに強調しており、変異に寛容性があり第2の結合特異性への進化を可能にし得る抗原結合部位の領域を同定するために変異スキャニング法を使用し、任意の抗体に二重特異性を発生させるための、一般応用が可能なエンジニアリングの道筋を示している。
【0114】
我々は、ヒト化抗体19C11(hu19C11、生殖細胞系VH1及びカッパIの骨格においてヒト化されている)への第2の抗原特異性の動員に着手した。この抗体は、IL4を結合し、そのIL4受容体αへの結合を阻止する。我々は、まず最初に、そのFabを「ファージミド」構成体(pV0115)にクローニングし、LC並びに、バイシストロン性に、可変ドメイン、及び、記載があるように(Lee et al.,J.Mol.Biol.340:1073-93,2004)C末端でM13マイナーコートタンパク質p3に融合したHCの定常ドメイン1(CH1)を共発現させた。アミノ酸配列KTHTCを有する、IgGのヒンジ領域の一部分を、CH1とM13 p3の間に含め、二価のFabを提示させ(Lee et al.,J.Mol.Biol.340:1073-93,2004)、固体表面支持体上に固定化された抗原への結合有効性を高めた。我々は、最初に、Fab提示ファージが、C末端でLCに融合した発現タグ(gD)の抗体及びIL4に、IgGとしての抗体で測定した親和性と同様の高親和性(ファージEC50=1nM)でうまく結合したことを検証。
【0115】
第2の結合特異性をhu19C11に動員するエンジニアリング方法を測定するために、まず、その3つのLC CDRのIL4結合に対する重要性を、各LC CDRの2つまたは3つの残基をアラニンに変異させることにより調べた。これらのLC CDR位置が選択された理由は、主要な抗原結合をHC CDRに大きく依存している抗体から二重特異性クローンを選択するためのLCライブラリー手法の組み合わせ変異誘発の場合に、これらが主要な位置として先に同定されているためである(Bostrom et al. PLoS One. 6:e17887,2011)。ファージ提示hu19C11野生型の、アラニン変異体L1(I30A/N31A/D32A)、L2(Y50A/H53A/R54A)、またはL3(D91A/Y92A)を、抗gD抗体(図1A)またはIL4(図1B)に固定化し、ELISAを用いて結合についてアッセイした。我々は、LC CDRがエネルギー的に重要であろうことを見いだした。アラニン変異を有するファージ提示Fabは3つのLC CDRいずれにおいても、検出可能なIL4結合を示さなかったが、抗gD抗体には結合しており、このことは、野生型Fabより低レベルではあるものの、これらの変異体が実際にファージに提示され、それらのIL4への結合が重度に破壊されていることを示す(図1A及び1B)。したがって、第2の抗原結合を発生させるために利用可能なアミノ酸残基数が極めて限られているため、ランダム化したLC CDRライブラリーを作製する方法では二重特異性抗体が得られる可能性が低いと考えられる。次に、LC CDR並びに表面接近可能なHC CDRの個々の主要な残基を先に記載のとおり変異させ(Sidhu et al. J Mol Biol.338:299-310,2004;Lee et al. J Mol Biol.340:1073-1093,2004)、これらがIL4結合に果たす役割を、これらのアラニン変異体の相対的結合親和性を野生型hu19C11と比較して測定することにより評価した。結果から、IL4結合の上記の主要なLC CDR残基の重要性が確認された。しかしながら、CDR H2及びCDR H1及びH3の半数の被験位置はいずれも変異に寛容であるようであった(図1C)。
【0116】
IL4結合に極めて重要な残基(LC残基30、31、32、50、53、54、91、92;HC残基31、32、98、99(Kabat番号付けによる))を、モデルとしてトラスツズマブFab(PDB:1FDV)の構造上でマッピングすることにより、変異に寛容性であったCDR H2に集中した領域を特定し、この領域は、第2の特異性を発生させるのに好適であり得る(図2A)。次いで、変異スキームのためにCDR H2に集中したランダム化を行うため、アラニン変異に寛容性のあったCDR H 1(33、34)、H2(50~58)、H3(95~97)、及びL3(93~96)において一組ずつ残基を選択し、Kunkelらの変異誘発方法(Kunkel et al.,Methods Enzymol.154:367-82,1987)にしたがって、4つのCDR各々でこれらの選択残基をランダム化するための対象に、一組の合成オリゴヌクレオチドを使用した。ランダム化スキームは、CDR H2及びCDR L3のアミノ酸組成及び長さの変動性に関し、天然抗体の多様性により導びかれた(図2B)。変異誘発のテンプレートは、CDR H2にのみ終止コドンを含み、これにより、Fab提示ライブラリーのこのCDRの変異が保証された。各々のサイズが10~10の範囲の10のファージ提示ライブラリーを作製した。非ブロッキング抗IL4抗体で捕捉され固定化されたIL4(PeproTech)に結合しているhu19C11及び10のHCライブラリー(2144-1から2144-10)をファージの力価測定により評価したところ、プールとしての各ライブラリーは、全般的にテンプレートの抗体hu19C11よりかなり低い、ある低レベルのIL4結合性を示し、平均的にIL4結合を破壊するレベルが異なることが示された(図3)。
【0117】
第2の抗原としてIL5及びIL13を選択した。これらの2インターロイキンは、IL4のように4ヘリックス束のサイトカインファミリーに属しているが、これらはアミノ酸配列及び構造機構レベルで極めて相違している(LaPorte et al. Cell.132:259-272,2008;Patino et al. Structure.19:1864-1875,2011;Finkelman et al. J Immunol.184:1663-1674,2010)。IL4とIL13の配列同一性は12%であるが、IL4とIL5のそれは11%である。構造的には、IL5は、1本の鎖のα-ヘリックスがもう1本の鎖の3つのα-ヘリックスと4-ヘリックス束を形成する、絡み合った固有のホモ二量体を形成している(M ilburn et al. Nature. 363:172-176,1993;Patino et al. Structure. 19:1864-1875,2011)。IL4及びIL13は、どちらも単量体である。しかし、3種のサイトカインは、その生物学的機能において関連しており、これらのサイトカインのうち2つを結合し遮断する二重特異性抗体は、喘息9などのアレルギー性疾患の治療剤として有用である可能性は高い(Finkelman et al. J Immunol.184:1663-1674,2010;Haldar et al. N Engl J Med. 360:973-984,2009)。
【0118】
我々は、先に記載のとおり構築されたファージ提示ライブラリーからのIL4結合を維持している、IL5またはIL13を結合しているクローンのパニング及び濃縮を数回実施した(Bostrom et al. Science. 323:1610-1614,2009)。各々約100のクローンをスクリーニングすることにより、IL5/IL4またはIL13/IL4への二重の結合性を示したクローンを、それぞれ、3~8ずつ見出した。また、シークエンシングから、2つの特異なIL4/IL5結合クローン(B1、E7)及び2つの特異なIL4/IL13(Fl、F2)結合クローンを同定した(図2B)。さらに、IL5にのみ結合したクローン(例えば、クローン5A)を単離した。クローンB1を除き、すべてのクローンは、単一特異的なそれらの親テンプレートに対し、HC CDRにのみ変異を有していた(図4A~4C)。このことは、単一特異性抗体のHC CDRの変異により二重特異性が付与され得ることを示している。我々は、ファージ結合競合アッセイを実施し、クローン親和性を、Fab提示ファージの固定化インターロイキンへの結合を50%阻害するために必要とされるインターロイキンの濃度(IC50)として予測した。第2の抗原への結合は、マイクロモル範囲ではIC50が弱いものであったが、IL4結合は低ナノモル範囲で維持されていた。
【0119】
実施例2。ライブラリーの性能の評価
二重結合特異性を検証するため、クローンB1、E7、F2、及び5AをIgGとして発現させ、得られた各IgGが他の数個のタンパク質ではなく期待抗原に結合することが確認された(図5)。さらに、結合特異性の検討を行い、IL4、IL5、及びIL13を発現しないヒト上皮腎細胞株293細胞へのIgGの最小結合、並びに、昆虫細胞株から作製したバキュロウイルス(BV)粒子へのIgGの最小結合を、それぞれ、フローサイトメトリー及びELISAで実証して行った(Hotzel et al. MAbs. 4:753-760,2012)。さらに、IL4/IL5二重特異性抗体B1及びE7は、単一特異性IL5結合抗体と共に、IL5がIL5受容体αに結合するのを阻止することが示され、これによりIL5上の結合エピトープがIL5受容体の結合エピトープと重複していることが示唆された(図6)。表面プラズモン共鳴(SPR)測定では、IL4/IL5二重特異性クローンE7は、IL5に対する親和性は低かった(K=905nM)が、IL4結合は、表面プラズモン共鳴(SPR)で測定したその親抗体hu19C11の高親和性(K=3.4nM)は維持していた(図7A及び7B)。
【0120】
実施例3。二重特異性抗原結合性断片の親和性熟成
E7の二重親和性を改善するため、E7 CDRを部位指向性変異誘発でランダム化し、結合を選択するため改変体をファージに提示させた。記載にあるとおり(Lee et al. J Mol Biol.340:1073-1093,2004;Bostrom et al. Methods Mol Biol.525:1-24,2009;Lee et al. Blood.108:3103-3111,2006)、CDR H2及びCDR L3の残基(H2/L3ライブラリー)、CDR H1、H2及びH3の残基(H1/H2/H3ライブラリー)、またはCDR H2の残基を標的にして3つのライブラリーを作製し、ランダム化のためHCのフレームワーク領域3(FR3)の部位を選択した(H2/FR3ライブラリー)(図7A)。クローンE7はIL4結合の高親和性を維持したため、ライブラリーの選択をIL5結合の改善に絞った。H1/H2/H3ライブラリーから、多くのクローンでIL5に対する親和性は改善されたがIL4に対する親和性が大幅に低下していたことを見出し、一方、H2/L3ライブラリー及びH2/FR3ライブラリーからのクローンでは、IL4結合親和性を喪失せずにIL5結合の改善が示された(図4A)。選択クローンをIgGとして精製しE7と比較した。H2/L3ライブラリーの多くの改変体は、非標的タンパク質の組への結合を高めることなくIgGとして高い二重結合性を示した(図8A)。さらに我々は、上記のようにBV結合及び293細胞FACSを使用して、標的外の結合が低いこと、及び改善されたクローンがなおもIL5のその受容体への結合を阻止したことを確認した(図8B)。2つの改善された改変体、1C36及び1C60の1価の結合親和性(図7C及び7D)を、固定化したIL4またはIL5に結合するFabとしてSPR測定により決定した。両改変体ともIL4に対する高い親和性を維持し(K=3~4nM)、IL5に対する親和性を、それぞれ、37倍及び20倍改善していた(1C36はK=24.1nM、及び1C60は44.4nM)(図7B)。
【0121】
以上をまとめると、我々は、単一特異性抗体のHC CDRにおける変異は第2の結合特異性を動員し得ることを示し、また、単離された二重特異性抗体の一つを改善して両抗原に対するnM親和性を低下させた。先に、我々は、トラスツズマブのFabがLC CDRでの変異を介して二重特異性を発生させることを示したが、それ以来、同じLC手法を使用して二重特異性の抗体が他にも作製されている。現在の研究による知見と共に、我々は、抗体の結合特異性の進化の可能性を強調した。CDRにおける限定的な変異を軽鎖の側だけではなく重鎖にも行うことにより、抗体は、別の結合特異性を付加し得ることを我々は見出した。自然界では、抗体は、遺伝子シャッフリング及び体細胞突然変異により常にリモデリング下にある。抗体は、体細胞突然変異を介して異なる結合特性、つまりは異なる機能を持つ抗体に変化することにより「再使用」可能であることが示されている。抗体は、限定的変異で結合特異性を発生させるための理想的な折り畳み及び構造の一つを有する可能性があり、これは、自然免疫応答が本質的に限りない種類の外来抗原を認識するその広範な能力において役割を果たしているに違いない。さらに、本研究は、以下にまとめる任意の単一特異性抗体から二重特異性抗体を発生させるためのエンジニアリング全般の道筋を初めて示すものである。変異誘発分析(例えば、アラニンスキャニング)によって、その主要抗原の結合性を著しく破壊せずに変異に寛容な抗原結合部位の領域を最初に同定できる。
【0122】
他の実施形態
本明細書内で引用または参照された特許、特許出願、特許出願公開、及び他の刊行物はいずれも、個々の特許、特許出願、特許出願公開または刊行物の各々が参照により本明細書に援用されるものとすることが具体的に及び個別に示された場合と同程度に、ここで参照により本明細書に援用されるものとする。
図1A-1B】
図1C
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A-8B】
【配列表】
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