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特許7504669接摩耗及びグリッド線遮蔽損失を最小に抑える太陽電池設計
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】接摩耗及びグリッド線遮蔽損失を最小に抑える太陽電池設計
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0224 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
H01L31/04 262
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020097387
(22)【出願日】2020-06-04
(65)【公開番号】P2021005701
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-05-29
(31)【優先権主張番号】16/431,458
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チウ, フィリップ ティー.
(72)【発明者】
【氏名】ヘバート, ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ジェン, ウミング ティー.
(72)【発明者】
【氏名】フェッツァー, クリストファー エム.
(72)【発明者】
【氏名】ハッダード, モラン
(72)【発明者】
【氏名】ホム, デニス ジー.
(72)【発明者】
【氏名】オデイ, ジョセフ ピー.
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-509168(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0095387(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/04-31/078
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池(100)の前面に、光電流を取り出すための1つ以上のグリッド線(103)を作製すること(501)であって、前記グリッド線(103)のそれぞれは、金属グリッド(104)及びキャップ層(105)であり、前記金属グリッド(104)の少なくとも一部が前記キャップ層(105)に堆積される、1つ以上のグリッド線(103)を作製すること(501)と、
前記キャップ層(105)に対する相対的な前記金属グリッド(104)の位置合わせ、及び、前記金属グリッド(104)の幅(106A)に対する相対的な前記キャップ層(105)の幅(106B)を、キャップ端部オフセット最小距離の値が1μm以上となるように制御すること(502)
を含み、
前記キャップ層(105)に対する相対的な前記金属グリッド(104)の前記位置合わせ、及び、前記金属グリッド(104)の前記幅(106A)に対する相対的な前記キャップ層(105)の前記幅(106B)を制御すること(502)によって、前記キャップ層(105)の左側及び右側それぞれでの、前記金属グリッド(104)の端部からの前記キャップ層(105)の端部の距離を表すキャップ端部オフセットL(107A)の値及びキャップ端部オフセットR(107B)の値が得られ、前記キャップ端部オフセット最小距離の値は、前記キャップ端部オフセットL(107A)の値と前記キャップ端部オフセットR(107B)の値と間の最小値である、方法。
【請求項2】
前記キャップ端部オフセット最小距離の値は、前記金属グリッド(104)の前記幅(106A)の約5%~25%である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記キャップ層(105)に対する相対的な前記金属グリッド(104)の前記位置合わせ、及び、前記金属グリッド(104)の前記幅(106A)に対する相対的な前記キャップ層(105)の前記幅(106B)は、前記太陽電池(100)の背面での溶接が行われるところとは反対側の、前記太陽電池(100)の前記前面の領域において制御される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記太陽電池(100)の前記背面上の前記溶接から生じる割れ目を、前記太陽電池(100)の効率に影響を与えることなく低減するために、前記金属グリッド(104)の端部と前記キャップ層(105)の端部とは、応力集中要因が相互に作用しないよう充分に離れている、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記金属グリッド(104)の前記端部と前記キャップ層(105)の前記端部とは、少なくとも1μmの距離の分だけ離れている、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記金属グリッド(104)の前記端部と前記キャップ層(105)の前記端部とは、少なくとも1.5~2μmの距離の分だけ離れている、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記金属グリッド(104)の前記端部と前記キャップ層(105)の前記端部とは、少なくとも3~100μm又はそれ以上の距離の分だけ離れている、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記キャップ層(105)に対する相対的な前記金属グリッド(104)の前記位置合わせは、フォトマスク(400)によって制御される、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記金属グリッド(104)の前記幅(106A)に対する相対的な前記キャップ層(105)の前記幅(106B)は、前記フォトマスク(400)によって制御される、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記キャップ層(105)の前記幅(106B)は、前記金属グリッド(104)の前記幅(106A)より小さい、又は、前記キャップ層(105)の前記幅(106B)は、前記金属グリッド(104)の前記幅(106A)より大きい、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
太陽電池(100)であって、前記太陽電池(100)の前面上の光電流を取り出すための1つ以上のグリッド線(103)を含む太陽電池(100)を備え、
前記グリッド線(103)のそれぞれは、金属グリッド(104)及びキャップ層(105)であり、前記金属グリッド(104)の少なくとも一部が前記キャップ層(105)に堆積され、
前記キャップ層(105)に対する相対的な前記金属グリッド(104)の位置合わせ、及び、前記金属グリッド(104)の幅(106A)に対する相対的な前記キャップ層(105)の幅(106B)は、キャップ端部オフセット最小距離の値が1μm以上となるように制御され
前記キャップ層(105)に対する相対的な前記金属グリッド(104)の前記位置合わせ、及び、前記金属グリッド(104)の前記幅(106A)に対する相対的な前記キャップ層(105)の前記幅(106B)を制御することによって、前記キャップ層(105)の左側及び右側それぞれでの、前記金属グリッド(104)の端部からの前記キャップ層(105)の端部の距離を表すキャップ端部オフセットL(107A)の値及びキャップ端部オフセットR(107B)の値が得られ、前記キャップ端部オフセット最小距離の値は、前記キャップ端部オフセットL(107A)の値と前記キャップ端部オフセットR(107B)の値との間の最小値である、装置。
【請求項12】
前記キャップ端部オフセット最小距離の値は、前記金属グリッド(104)の前記幅(106A)の約5%~25%である、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記キャップ層(105)に対する相対的な前記金属グリッド(104)の前記位置合わせ、及び、前記金属グリッド(104)の前記幅(106A)に対する相対的な前記キャップ層(105)の前記幅(106B)は、前記太陽電池(100)の背面での溶接が行われるところとは反対側の、前記太陽電池(100)の前記前面の領域において制御される、請求項11または12に記載の装置。
【請求項14】
前記太陽電池(100)の前記背面上の前記溶接から生じる割れ目を、前記太陽電池(100)の効率に影響を与えることなく低減するために、前記金属グリッド(104)の端部と前記キャップ層(105)の端部とは、応力集中要因が相互に作用しないよう充分に離れている、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記金属グリッド(104)の前記端部と前記キャップ層(105)の前記端部とは、少なくとも1μmの距離の分だけ離れている、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記金属グリッド(104)の前記端部と前記キャップ層(105)の前記端部とは、少なくとも1.5~2μmの距離の分だけ離れている、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記金属グリッド(104)の前記端部と前記キャップ層(105)の前記端部とは、少なくとも3~100μm又はそれ以上の距離の分だけ離れている、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記キャップ層(105)の前記幅(106B)は、前記金属グリッド(104)の前記幅(106A)より小さい、又は、前記キャップ層(105)の前記幅(106B)は、前記金属グリッド(104)の前記幅(106A)より大きい、請求項11から17のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、溶接摩耗及びグリッド線遮蔽損失を最小に抑える太陽電池設計に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接プロセスが、宇宙太陽電池を直列に接続するために利用される。従来の宇宙太陽電池は、1の電池の前面と隣接する電池の背面とに溶接される相互連結部により、直列に接続される。電池の背面での溶接プロセスでは特に、高度に局所的な圧力及び温度が必要となる。
【0003】
しかしながら、溶接プロセスからの高度に局所的な圧力及び温度により、太陽電池に割れ目が生じる可能性があり、太陽電池の不良品発生率が高くなる。金属グリッド線といった、太陽電池の前面のフューチャ(特徴)によって、応力集中点が生成し、このことが、溶接プロセス中の太陽電池の割れ目発生率の上昇に繋がる。
【0004】
応力集中の要因は、太陽電池の外形の如何なる変化においても発生する。例えば、グリッド線は、金属グリッド及び半導体キャップ層を含む少なくとも2つの層で構成される。応力集中要因が、各層について存在する。
【0005】
キャップ層の端部と金属グリッドの端部とを非常に接近し合うよう設計することによって、電池効率が最大化されるが、2つの応力集中要因を増大させ、割れ目の可能性を上昇させる。電力を効率良く取り出すために、グリッド線が上記前面に亘って均一に分散している必要があり、従って、前面のグリッド線と同じ位置での背面溶接を回避するための実質的な方法は存在しない。
【0006】
過去においては、溶接プロセスパラメータへの変更が、摩耗を軽減するために利用されてきた。上記パラメータには、固定温度、溶接加圧力、溶接パルス波形、カウント若しくは期間を変更すること、又は、溶接チップの形状若しくは大きさを変えることが含まれる。
【0007】
それでもなお、溶接プロセスにおける摩耗を軽減する改良された太陽電池設計に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0008】
上記の限界を乗り越えるために、かつ、本明細書を読み理解すれば明らかとなろう他の限界を乗り越えるために、本開示は、装置を作製する方法、及び、作製される装置について記載し、ここで、上記装置には、溶接摩耗及びグリッド線の遮蔽損失を最小に抑える太陽電池設計が含まれる。
【0009】
本方法は、太陽電池の前面に、光電流を取り出すための1つ以上のグリッド線を作製することであって、グリッド線のそれぞれは、金属グリッド及びキャップ層であり、金属グリッドの少なくとも一部がキャップ層に堆積される、1つ以上のグリッド線を作製することと、キャップ層に対する相対的な金属グリッドの位置合わせ、及び、金属グリッドの幅に対する相対的なキャップ層の幅を、キャップ端部オフセット最小距離の値が約1μm以上となるように制御することを含む。
【0010】
キャップ層に対する相対的な金属グリッドの位置合わせ、及び、金属グリッドの幅に対する相対的なキャップ層の幅を制御することによって、キャップ層の左側及び右側それぞれでの、金属グリッドの端部からのキャップ層の端部の距離を表すキャップ端部オフセットLの値及びキャップ端部オフセットRの値が得られ、キャップ端部オフセット最小距離の値は、キャップ端部オフセットLの値とキャップ端部オフセットRの値と間の最小値である。キャップ端部オフセット最小距離の値は、金属グリッドの幅の約5%~25%である。
【0011】
キャップ層に対する相対的な金属グリッドの位置合わせ、及び、金属グリッドの幅に対する相対的なキャップ層の幅は、太陽電池の背面での溶接が行われるところとは反対側の、太陽電池の前面の領域において制御される。キャップ層の幅に対する相対的な金属グリッドの幅の位置合わせ、及び、金属グリッドの幅に対する相対的なキャップ層の幅は、フォトマスクによって制御される。
【0012】
太陽電池の背面上の、溶接から生じる割れ目を、太陽電池の効率に影響を与えることなく低減するために、金属グリッドの端部とキャップ層)の端部とは、応力集中要因が相互に作用しないよう充分に離れている。好適に、金属グリッドの端部とキャップ層の端部とは、少なくとも1μmの距離の分だけ離れている。
【0013】
作製される装置は、太陽電池であって、当該太陽電池の前面上の光電流を取り出すための1つ以上のグリッド線を含む、太陽電池を備え、グリッド線のそれぞれは、金属グリッド及びキャップ層であり、金属グリッドの少なくとも一部がキャップ層に堆積され、キャップ層に対する相対的な金属グリッドの位置合わせ、及び、金属グリッドの幅に対する相対的なキャップ層の幅が、キャップ端部オフセット最小距離の値が約1μm以上となるように制御される。
【0014】
ここで、図面を参照するが、図面では、同様の参照符号が、対応する部分を一貫して表す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の一例に係る、太陽電池の断面を示す太陽電池の概略図である。
図2】本開示の一例に係る、太陽電池の断面を示す太陽電池の概略図である。
図3A-C】本開示の一例に係る、図1及び図2に対応する金属グリッド及びキャップ層の概略図である。
図3D-F】本開示の一例に係る、図1及び図2に対応する金属グリッド及びキャップ層の概略図である。
図4】溶接摩耗を最小に抑えるために変更された領域を示す、太陽電池のフォトマスクの概略図である。
図5】一例に係る太陽電池を作製する方法を示すフローチャートである。
図6A】太陽電池、太陽電池パネル、及び/又は衛星を作製する方法を示す。
図6B】太陽電池で構成される太陽電池パネルを有する結果的に得られる衛星を示す。
図7】機能ブロック図の形態による太陽電池パネルの図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の明細書の記載において、添付の図面が参照されるが、添付の図面は明細書の記載の一部を成している。図面には、本開示を実践しうる特定の例が例示として図示されている。他の例が利用可能であり、本開示の範囲から逸脱することなく構造的変更が行われうる。
【0017】
概要
従来の宇宙太陽電池は、1の電池の前面と隣接する電池の背面とに溶接される相互連結部により、直列に接続される。電池の背面での溶接プロセスでは特に、高度に局所的な圧力及び温度が必要となり、この高度に局所的な圧力及び温度は、太陽電池における割れ目を引き起こす可能性があり、一例では、生産量に従って、予想されるコストが100万~400万ドルの、20%を超える摩耗レベルに繋がる。
【0018】
根本原因是正アクション(RCCA:root cause and corrective action)調査により、太陽電池の前面上のグリッド線構成の僅かな変化が、太陽電池の背面での溶接に因る割れ目の割合を非常に上げうることが分かった。本開示は、太陽電池の効率への著しいトレードオフ無しで背面溶接からの割れ目を低減するために、グリッド線の設計を変更する。具体的には、本開示は、金属グリッドの端部とキャップ層の端部とが、応力集中の要因が相互に作用しないよう充分に離れていることを保証し、太陽電池に影響を与えることなく、背面溶接からの割れ目を低減する。マスク設計の観点からは、「CGM(cap greater than metal)」位置合わせとして知られる、金属グリッドより幅が広いキャップ層の設計によって、キャップ層と金属グリッドとのきっかりの位置合わせが軽減される。
【0019】
技術的開示
図1及び図2は装置の概略図であり、ここでは、両方の装置が太陽電池100を含んでおり、図1及び図2は、太陽電池100の断面図を、太陽電池100の輪郭図も含めて示し、上記装置を作成する方法を説明する。
【0020】
太陽電池100は、ゲルマニウム(Ge)基板101及び半導体エピタキシー102で構成され、太陽電池100の前面上に1以上の周期的グリッド線103を備える。グリッド線103のそれぞれは、銀(Ag)で構成される金属グリッド104、及び、ヒ化ガリウム(GaAs)で構成される吸収キャップ層105であり、金属グリッド104の少なくとも一部がキャップ層105に堆積されている。
【0021】
グリッド線103が、太陽電池100の前面から光電流を取り出す。キャップ層105は、金属グリッド104と半導体エピタキシー102との間のオーミック接触を形成するために必要とされている。太陽電池100からの電力抽出のために、金属グリッド104が、上記電流をオーミックパッド(ohmic pad)へ運ぶ。
【0022】
図1は、金属グリッド104の幅106Aがキャップ層105の幅106bよりも狭い一例を示し、図2は、金属グリッド104の幅106Aがキャップ層105の幅106Bよりも広い例を示している。
【0023】
キャップ層105に対する相対的な金属グリッド104の位置合わせ、並びに、金属グリッド104及びキャップ層105の相対的な幅106A、106Bに従って、キャップ層105の左側及び右側それぞれでの、金属グリッド104の端部からのキャップ層105の端部の距離を表すキャップ端部オフセットL(Cap Edge OffsetL)の値107A、及び、キャップ端部オフセットR(Cap Edge OffsetR)の値107Bが存在する。キャップ端部オフセット最小距離(Minimum Cap Edge Offset Distance)の値は、Cap Edge Offset Lの値107Aと、Cap Edge Offset Rの値107Bと、の間の最小値である。相対的な位置合わせ及び/又は相対的な幅106A,106Bに従って、キャップ端部オフセット最小距離の値は0に接近し、又は負の値にさえなりうる。
【0024】
RCCA調査の間に、背面での溶接摩耗がキャップ端部オフセット最小距離の値に対して動的に依存すると判定された。具体的には、1μm未満のキャップ端部オフセット最小距離の値から始まる、摩耗への移行の急激な発現値(onset)が存在する。
【0025】
1μmを上回るキャップ端部オフセット最小距離の値について、背面の溶接摩耗は、0付近である。1μmより小さいキャップ端部オフセット最小距離の値について、溶接ごとに15~20%までの摩耗の増大が存在する。工場内の全ての太陽電池100は少なくとも2個の溶接点を有するため、工場内で1つの処理ステップから、全損が50%に近づきうる。
【0026】
溶接摩耗とキャップ端部オフセット最小距離の値との間の明らかな依存性の背後にある仕組みをより良く理解するために解析が行われた。上記解析では、溶接に関連する応力が、エピタキシー層102へのキャップ層105の端部で集中することが確認されている。上記応力は、金属グリッド104の端部がキャップ層105の端部に位置合せされているとき又はキャップ端部オフセット最小距離の値が0に近づくときには、ほぼ2倍に上がる。
【0027】
本開示によって、大きな数の溶接摩耗に繋がるグリッド線応力集中が低減される。太陽電池100の作製プロセスにおいて、金属グリッド104の幅106Aに対する相対的なキャップ層105の幅106Bが、金属グリッド104及びキャップ層105のための別々のフォトマスクの設計を介して、太陽電池100上でのどの空間的位置においても、独立して制御されうる。
【0028】
典型的には、太陽電池100の望まれぬ遮蔽を最小に抑えるために、キャップ層105の幅106Bを金属グリッド104の幅106Aと等しくなるように設計するという選択がなされる。
金属グリッド104とキャップ層105との双方が吸収性を備えており、太陽電池100の前面上のそれらが存在するところでの電流生成を妨げる。
【0029】
残念なことに、キャップ層105の幅106Bと金属グリッド104の幅106Aとが等しい場合には、このことによって結果的に、当然のことながらキャップ端部オフセット最小距離の値が0付近となり、許容しえないレベルでの摩耗が生じる。金属グリッド104の幅106Aに対する相対的なキャップ層105の幅106Bを設計することで、結果的にキャップ端部オフセット最小距離の値が大きくなり、摩耗の問題は解決されるであろうが、遮蔽損失及び太陽電池100の性能は、許容しえぬレベルのものとなる。
【0030】
図3A図3B、及び図3Cは、図1に対応する金属グリッド104及びキャップ層105の概略図であり、それぞれが、金属グリッド104及びキャップ層105の断面図を示し、ここでは、金属グリッド104の幅106Aはキャップ層105の幅106Bよりも狭く、図3Aの位置合わせによって良好な結果が得られるが、図3B及び図3Cの位置合わせによっては、劣悪な結果が得られることを示している。
【0031】
図3D図3E、及び図3Fは、図2に対応する金属グリッド104及びキャップ層105の概略図であり、それぞれが、金属グリッド104及びキャップ層105の断面図を示し、ここでは、金属グリッド104の幅106Aはキャップ層105の幅106Bよりも広く、図3Dの位置合わせによって良好な結果が得られるが、図3E、及び図3Fの位置合わせによっては、劣悪な結果が得られることを示している。
【0032】
図4は、太陽電池100の背面のフォトマスク400の概略図であり、溶接摩耗を最小に抑えるための、太陽電池100の前面上のグリッド104及びキャップ層105への変更の領域を示している。具体的には、太陽電池100の背面上で溶接が行われるところの反対の領域内でのみ、キャップ層105は、金属グリッド104よりも約10μm分幅が広い。このようにして、パーフェクトな位置合わせの場合に、溶接が行われる領域ではキャップ端部オフセット最小距離の値が約5μmであるために、摩耗が最小に抑えられる。
【0033】
このことは、キャップ層105の幅106B、金属グリッド104の幅106A、及び位置合わせが製造中に変わる場合にゆとりをもたらす。さらに、キャップ層105の幅106Bの増加は太陽電池100の小さな部分領域でのみ起こるため、効率に対する影響が最小である。計算では、太陽電池100の電流への影響は0.01%のレベルである。
【0034】
代替的なフォトマスク400において、太陽電池100の背面上の、溶接が行われるところとは反対側の領域内でのみ、キャップ層105は金属グリッド104よりも約10μm分幅が狭い。繰り返すが、パーフェクトな位置合わせの場合に、溶接が行われる領域ではキャップ端部オフセット最小距離の値が約5μmであるために、摩耗が最小に抑えられる。
【0035】
処理ステップ
図5は、一例に係る太陽電池100を作製する方法を示すフローチャートである。
【0036】
ブロック500は、Ge基板101に半導体エピタキシー102を堆積させ、これにより、太陽電池100を形成するステップを表している。
【0037】
ブロック501は、太陽電池100の前面に、光電流を取り出すための1つ以上グリッド線103を作製するステップを表し、ここで、グリッド線103のそれぞれは、金属グリッド104及びキャップ層105であり、金属グリッド104の少なくとも一部がキャップ層105に堆積されている。
【0038】
ブロック502は、キャップ層105に対する相対的な金属グリッド104の位置合わせ、及び、金属グリッド104の幅に対する相対的なキャップ層105の幅を、キャップ端部オフセット最小距離の値が約1μm以上であるように制御するステップを表している。
【0039】
キャップ層105に対する相対的な金属グリッド104の位置合わせ、及び、金属グリッド104の幅に対する相対的なキャップ層105の幅を制御することによって、キャップ層105の左側及び右側それぞれでの、金属グリッド104の端部からのキャップ層105の端部の距離を表すCap Edge Offset Lの値107A、及びCap Edge Offset Rの値107Bが得られ、キャップ端部オフセット最小距離の値は、Cap Edge Offset Lの値107AとCap Edge Offset Rの値107Bと間の最小値である。キャップ端部オフセット最小距離の値は好適に、金属グリッド104の幅106Aの約5%~25%である。
【0040】
キャップ層105に対する相対的な金属グリッド104の位置合わせ、及び、金属グリッド104の幅に対する相対的なキャップ層105の幅は、太陽電池100の背面での溶接が行われるところとは反対側の、太陽電池100の前面の領域において制御される。
【0041】
太陽電池100の背面上の、溶接から生じる割れ目を、太陽電池100の効率に影響を与えることなく低減するために、金属グリッド104の端部とキャップ層105の端部とは、応力集中要因が相互に作用しないよう充分に離れている。金属グリッド104の端部とキャップ層105の端部とは少なくとも1μm、少なくとも1.5~2μm、又は少なくとも3~100μm又はそれ以上の距離により離れている。
【0042】
キャップ層105に対する相対的な金属グリッド104の位置合わせ、及び、金属グリッド104の幅106Aに対する相対的なキャップ層105の幅106Bは、フォトマスク400によって制御される。キャップ層105の幅106Bは金属グリッド104の幅106Aよりも小さくてよく、又は、キャップ層105の幅106Bは金属グリッド104の幅106Aより大きくてよい。
【0043】
利点及び効果
本開示より以前では、背面での溶接からの、グリッド線での太陽電池の割れ目のための解決策は、溶接条件を変更すること、又は、太陽電池の全領域にわたって、金属グリッドに対して幅がより広いキャップ層を有することに制限されていた。
【0044】
溶接プロセスへの変更によって、結果的に太陽電池の摩耗が小さくなりうる。しかしながら、このことによって典型的に、溶接接合部の強度を下げる溶接条件が得られる。極端な熱的環境において、宇宙太陽電池は、ミッション中に、溶接強度の低下が溶接接合部の不具合をもたらす可能性があることを経験する。上記の不具合は、ミッション中に、太陽電池アレイの性能に影響を与えるであろう。本開示は、溶接プロセスへの変更を必要とせず、従って、溶接信頼性が低下しない。
【0045】
本開示はまた、太陽電池の全領域にわたって金属グリッドよりも幅が広いキャップ層(「金属より大きなキャップ(cap greater than metal)」又はCGM)を有する解決策よりも優れている。金属よりも大きなキャップという解決策は、太陽電池の電流の相対的に1%のオーダーの不必要な減少に繋がる。本明細書で提案されることは、クリティカルな溶接領域でのみキャップ層の幅を広げるためにフォトマスク設計を利用することである。このようにして、太陽電池の領域の大部分にわたって「キャップは金属と等しく(CEM:cap equal to metal)」、これにより、電力収集への影響が最小に抑えられるが、同時に、溶接が行われる領域では、キャップ端部オフセット最小距離の値>>1μmが保証される。効率的に、本開示によって、摩耗と遮蔽損失との双方を最小に抑える方法が提供される。
【0046】
代替例及び変形例
上記の説明は、例示および説明を目的として提示されており、網羅的であること、または説明した例に限定されることを意図するものではない。上述の特定の説明の代わりに、多くの代替例および変更例を使用することができる。
【0047】
例えば、本開示は、太陽電池のためのグリッド線の利用について記載しているが、太陽電池の表面上で電流を収集するために利用される如何なるパターンのメタライゼーション(金属配線)も対象するよう範囲が広げられうる。
【0048】
他の例において、金属グリッドはAgを含むとして記載され、キャップ層はGaAsを含むとして記載されているが、他の金属も利用されうる。
【0049】
更に別の例において、本開示は、キャップ端部オフセット最小距離の値を約1μm以上として記載しているが、キャップ端部オフセット最小距離の値は、少なくとも1.5~2μm、又は3~100μm又はそれ以上でありうる。
【0050】
同様に、本開示は、金属グリッドの端部とキャップ層の端部とは少なくとも1μmの距離により離れていると記載しているが、当該距離は、少なくとも1.5~2μm、又は少なくとも3~100μm又はそれ以上であってもよい。
【0051】
航空宇宙での適用
本開示の例は、図6Aに示すように、ステップ602-614を含む、太陽電池、太陽電池パネル、及び/又は衛星といった航空宇宙飛行体を製造する方法600に関連して説明することができ、1つ以上の太陽電池100のアレイ624から成るパネル622を含む、様々なシステム618及び本体620から成る結果として得られた衛星616を、図6Bに示す。
【0052】
図6Aに示すように、製造前に、例示的な方法600は、衛星616の仕様及び設計602、並びにそのための資材調達604を含みうる。製造中に、衛星616、パネル622、アレイ624及び太陽電池100の作製を含む、衛星616のコンポーネントおよびサブアセンブリ製造606及びシステムインテグレーション608が行われる。その後、衛星616は、認可及び納品610を経て、運航612に供されうる。衛星616はまた、打ち上げ前に、保守及びサービス614(改造、再構成、改修等を含む)を予定することができる。
【0053】
方法600の各プロセスは、システムインテグレータ、第三者、及び/又はオペレータ(例えば顧客)によって実施又は実行されうる。本明細書において、システムインテグレータには、限定するものではなく、任意の数の製造業者及び主要なシステム下請け業者が含まれ、第三者には、限定するものではなく、任意の数のベンダ、下請業者、およびサプライヤが含まれ、オペレータには、衛星会社、軍事組織、サービス組織等が含まれうる。
【0054】
図6Bに示すように、例示的な方法600によって作製された衛星616には、様々なシステム618および本体620が含まれる。衛星616に含まれるシステム618の例には、推進システム626、電気システム628、通信システム630、及び電力システム632の1つ以上が含まれるが、これらには限定されない。任意の数の他のシステムも含まれてよい。
【0055】
機能ブロック図
図7は、一例に係る、機能ブロック図の形態によるパネル522の図である。パネル522は、パネル522に個別に取り付けられた1つ以上の太陽電池100から成るアレイ524から成る。太陽電池100のそれぞれは、光源702からの光700を吸収し、これに応じて電気出力704を生成する。
【0056】
太陽電池100の少なくとも1つは、当該太陽電池100の前面に、光電流を取り出すための1つの以上グリッド線103を含み、ここで、グリッド線103のそれぞれは、金属グリッド104及びキャップ層105であり、金属グリッド104の少なくとも一部がキャップ層105に堆積されている。キャップ層105に対する相対的な金属グリッド104の位置合わせ、及び、金属グリッド104の幅に対する相対的なキャップ層105の幅は、キャップ端部オフセット最小距離の値が約1μm以上であるように制御される。
【0057】
キャップ層105に対する相対的な金属グリッド104の位置合わせ、及び、金属グリッド104の幅に対する相対的なキャップ層105の幅によって、キャップ層105の左側及び右側それぞれでの、金属グリッド104の端部からのキャップ層105の端部の距離を表すCap Edge Offset Lの値107A、及びCap Edge Offset Rの値107Bが得られ、キャップ端部オフセット最小距離の値は、Cap Edge Offset Lの値107AとCap Edge Offset Rの値107Bと間の最小値である。キャップ端部オフセット最小距離の値は好適に、金属グリッド104の幅106Aの約5%~25%である。
【0058】
キャップ層105に対して相対的な金属グリッド104の位置合わせ、及び、金属グリッド104の幅に対して相対的なキャップ層105の幅は、太陽電池100の背面での溶接が行われるところとは反対側の、太陽電池100の前面の領域において制御される。
【0059】
太陽電池100の背面上の、溶接から生じる割れ目を、太陽電池100の効率に影響を与えることなく低減するために、金属グリッド104の端部とキャップ層105の端部とは、応力集中要因が相互に作用しないよう充分に離れている。金属グリッド104の端部とキャップ層105の端部とは少なくとも1μm、少なくとも1.5~2μm、又は少なくとも3~100μm又はそれ以上の距離により離れている。
【0060】
キャップ層105に対する相対的な金属グリッド104の位置合わせ、及び、キャップ層105の幅106Bに対する相対的な金属グリッド104の幅106Aは、フォトマスク400によって制御される。キャップ層105の幅106Bは金属グリッド104の幅106Aよりも小さくてよく、又は、キャップ層105の幅106Bは金属グリッド104の幅106Aより大きくてよい。
【0061】
更に、本開示は以下の条項に係る実施例を含む。
【0062】
条項1.太陽電池の前面に、光電流を取り出すための1つ以上のグリッド線を作製することであって、グリッド線のそれぞれは、金属グリッド及びキャップ層であり、金属グリッドの少なくとも一部がキャップ層に堆積される、1つ以上のグリッド線を作製することと、
キャップ層に対する相対的な金属グリッドの位置合わせ、及び、金属グリッドの幅に対する相対的なキャップ層の幅を、キャップ端部オフセット最小距離の値が約1μm以上となるように制御すること
を含む方法。
【0063】
条項2.キャップ層に対する相対的な金属グリッドの位置合わせ、及び、金属グリッドの幅に対する相対的なキャップ層の幅を制御することによって、キャップ層の左側及び右側それぞれでの、金属グリッドの端部からのキャップ層の端部の距離を表すキャップ端部オフセットLの値及びキャップ端部オフセットRの値が得られ、キャップ端部オフセット最小距離の値は、キャップ端部オフセットLの値とキャップ端部オフセットRの値と間の最小値である、条項1に記載の方法。
【0064】
条項3.キャップ端部オフセット最小距離の値は、金属グリッドの幅の約5%~25%である、条項2に記載の方法。
【0065】
条項4.キャップ層に対する相対的な金属グリッドの位置合わせ、及び、金属グリッドの幅に対する相対的なキャップ層の幅は、太陽電池の背面での溶接が行われるところとは反対側の、太陽電池の前面の領域において制御される、条項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【0066】
条項5.太陽電池の背面上の溶接から生じる割れ目を、太陽電池の効率に影響を与えることなく低減するために、金属グリッドの端部とキャップ層の端部とは、応力集中要因が相互に作用しないよう充分に離れている、条項4に記載の方法。
【0067】
条項6.金属グリッドの端部とキャップ層の端部とは、少なくとも1μmの距離の分だけ離れている、条項5に記載の方法。
【0068】
条項7.金属グリッドの端部とキャップ層の端部とは、少なくとも1.5~2μmの距離の分だけ離れている、条項6に記載の方法。
【0069】
条項8.金属グリッドの端部とキャップ層の端部とは、少なくとも3~100μm又はそれ以上の距離の分だけ離れている、条項7に記載の方法。
【0070】
条項9.キャップ層に対する相対的な金属グリッドの位置合わせは、フォトマスクによって制御される、条項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【0071】
条項10.金属グリッドの幅に対する相対的なキャップ層の幅は、フォトマスクによって制御される、条項9に記載の方法。
【0072】
条項11.キャップ層の幅は金属グリッドの幅より小さい、又は、キャップ層の幅は金属グリッドの幅より大きい、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【0073】
条項12.太陽電池であって、当該太陽電池の前面上の光電流を取り出すための1つ以上のグリッド線を含む、太陽電池を備え、
グリッド線のそれぞれは、金属グリッド及びキャップ層であり、金属グリッドの少なくとも一部がキャップ層に堆積され、
キャップ層に対する相対的な金属グリッドの位置合わせ、及び、金属グリッドの幅に対する相対的なキャップ層の幅は、キャップ端部オフセット最小距離の値が約1μm以上となるように制御される、装置。
【0074】
条項13.キャップ層に対する相対的な金属グリッドの位置合わせ、及び、金属グリッドの幅に対する相対的なキャップ層の幅を制御することによって、キャップ層の左側及び右側それぞれでの、金属グリッドの端部からのキャップ層の端部の距離を表すキャップ端部オフセットLの値及びキャップ端部オフセットRの値が得られ、キャップ端部オフセット最小距離の値は、キャップ端部オフセットLの値とキャップ端部オフセットRの値と間の最小値である、条項12に記載の装置。
【0075】
条項14.キャップ端部オフセット最小距離の値は、金属グリッドの幅の約5%~25%である、条項13に記載の装置。
【0076】
条項15.キャップ層に対する相対的な金属グリッドの位置合わせ、及び、金属グリッドの幅に対する相対的なキャップ層の幅は、太陽電池の背面での溶接が行われるところとは反対側の、太陽電池の前面の領域において制御される、条項12から14のいずれか一項に記載の装置。
【0077】
条項16.太陽電池の背面上の溶接から生じる割れ目を、太陽電池の効率に影響を与えることなく低減するために、金属グリッドの端部とキャップ層の端部とは、応力集中要因が相互に作用しないよう充分に離れている、条項15に記載の装置。
【0078】
条項17.金属グリッドの端部とキャップ層の端部とは、少なくとも1μmの距離の分だけ離れている、条項16に記載の装置。
【0079】
条項18.金属グリッドの端部とキャップ層の端部とは、少なくとも1.5~2μmの距離の分だけ離れている、条項17に記載の装置。
【0080】
条項19.金属グリッドの端部とキャップ層の端部とは、少なくとも3~100μm又はそれ以上の距離の分だけ離れている、条項18に記載の装置。
【0081】
条項20.キャップ層の幅は金属グリッドの幅より小さい、又は、キャップ層の幅は金属グリッドの幅より大きい、請求項12から19のいずれか一項に記載の装置。
図1
図2
図3A-C】
図3D-F】
図4
図5
図6A
図6B
図7