(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】炭化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10B 53/02 20060101AFI20240617BHJP
C10B 53/00 20060101ALI20240617BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20240617BHJP
B09B 101/67 20220101ALN20240617BHJP
B09B 101/75 20220101ALN20240617BHJP
【FI】
C10B53/02
C10B53/00 A
B09B3/40 ZAB
B09B101:67
B09B101:75
(21)【出願番号】P 2020124844
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【氏名又は名称】千葉 絢子
(72)【発明者】
【氏名】冨部 圭一郎
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-011407(JP,A)
【文献】特開2015-036606(JP,A)
【文献】特開2002-301458(JP,A)
【文献】特開2007-270018(JP,A)
【文献】特開2006-122860(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0272395(US,A1)
【文献】特開2022-022057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 53/02
C10B 53/00
B09B 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬度120mg/L以上の水分を含む可燃性廃棄物に、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つからなる炭化助剤を、前記可燃性廃棄物の質量に対する前記炭化助剤の質量割合が、前記水分の硬度に前記可燃性廃棄物の含水率を乗じた硬度成分の質量割合の50倍以上となるように添加し、
前記炭化助剤が添加された前記可燃性廃棄物を加熱して炭化処理
し、
前記炭化助剤の添加前に、前記水分の硬度及び前記可燃性廃棄物の含水率を取得する
炭化物の製造方法。
【請求項2】
前記リン酸塩又は前記硫酸塩が、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素ナトリウムアンモニウム、硫酸鉄、硫酸アンモニウム鉄、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アンモニウム及び硫酸水素アンモニウムから選ばれる1以上のリン酸塩又は硫酸塩である
請求項
1に記載の炭化物の製造方法。
【請求項3】
前記可燃性廃棄物が、セルロース、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアクリル酸及びポリアクリル酸ナトリウムから選択される1以上の化合物を含んでいる
請求項1
又は2に記載の炭化物の製造方法。
【請求項4】
使用済みおむつを含む廃棄物に、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素ナトリウムアンモニウム、硫酸鉄、硫酸アンモニウム鉄、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アンモニウム及び硫酸水素アンモニウムから選ばれる1以上のリン酸塩又は硫酸塩からなる炭化助剤を、前記廃棄物の質量に対する前記炭化助剤の質量割合が、前記使用済みおむつに含まれる尿の硬度に前記廃棄物の含水率を乗じた硬度成分の質量割合の50倍以上となるように添加し、
前記炭化助剤が添加された前記廃棄物を加熱して炭化処理
し、
前記炭化助剤の添加前に、前記尿の硬度及び前記廃棄物の含水率を取得する
炭化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬度の高い水分を含む廃棄物を炭化処理する炭化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可燃性廃棄物を焼却によって処理した場合、二酸化炭素やメタンといった温室効果ガスの排出が問題となる。そこで、特許文献1には、可燃性廃棄物を炭化処理して温室効果ガス等の排出を抑制する観点から、木材や枯葉、紙、木綿等といったセルロース系廃棄物等に、燐酸等の燐化合物等を含む添加液を含浸状とし、略80℃ないし300℃程度の温度範囲内で加熱処理することで、セルロース系廃棄物を炭化処理するセルロース系廃棄物等の処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、可燃性廃棄物には、木材や枯葉、紙、木綿等の他にも、使用済みおむつ、使用済み生理用ナプキン、食品残渣及び海洋ゴミなどの硬度の高い水分を含んだものがある。特許文献1に記載の方法では、このような硬度の高い水分を含んだ可燃性廃棄物については考慮されていない。
【0005】
本発明の課題は、硬度の高い水分を含む可燃性廃棄物を、高い効率で炭化することが可能な炭化物の製造方法の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る炭化物の製造方法は、硬度120mg/L以上の水分を含む可燃性廃棄物に、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つからなる炭化助剤を、前記可燃性廃棄物の質量に対する前記炭化助剤の質量割合が、前記水分の硬度に前記可燃性廃棄物の含水率を乗じた硬度成分の質量割合の50倍以上となるように添加する工程と、
前記炭化助剤が添加された前記可燃性廃棄物を加熱して炭化処理する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の炭化物の製造方法によれば、硬度の高い水分を含む可燃性廃棄物を、高い効率で炭化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る炭化物の製造方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本明細書において、「%」は「質量%」を表す。
【0010】
[炭化物の製造方法の概要]
本発明は、可燃性廃棄物を炭化処理する炭化物の製造方法に関する。可燃性廃棄物を炭化処理することにより、焼却処理する際と比較して、可燃性廃棄物に含まれる炭素が炭化物(固体の炭)として固定され、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの排出量を削減できる。さらに、得られた炭化物は、後述するように、土壌改質剤、活性炭、燃料等として有効利用することができる。
ここで、発明者らの研究により、使用済みおむつ、使用済み生理用ナプキン、食品残渣及び海洋ゴミなどの水分を含む可燃性廃棄物は、リン酸塩又は硫酸塩等の炭化助剤を用いても、効率よく炭化処理することが難しいことがわかった。本発明者らは、これらの廃棄物中の水分の硬度に着目し、水分中のカルシウムイオン及びマグネシウムイオンが、炭化助剤の触媒効果を失活させることを見出した。これにより、本発明者らは、炭化助剤を、廃棄物中の水分の硬度成分に対して所定の量以上添加することにより、効率よく炭化処理できることを見出し、本発明に到った。
なお、本発明の「効率よく炭化処理する」態様は、炭素固定率を高めること、又は炭化処理の温度を低下させること、の少なくとも一方を含む概念である。
「炭素固定率」は、廃棄物中の炭素化合物の理論上の炭素量に対する、炭化処理で得られた炭化物(固体の炭)の炭素量の割合を意味する。炭素固定率が大きいほど、廃棄物中の炭素の多くが炭化物として固定され、二酸化炭素やメタンなどの気体として炭素が放出される量が少なくなる。つまり、炭素固定率を高めることで、炭化物の収率を高め、気化する炭素の量を減少させることができる。
炭化処理の温度を低下させることで、炭化処理時に消費されるエネルギー量を削減することができる。
【0011】
[炭化物の製造方法]
図1のフローチャートに示すように、本発明の炭化物の製造方法は、硬度120mg/L以上の水分を含む可燃性廃棄物に、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つからなる炭化助剤を、当該可燃性廃棄物の質量に対する当該炭化助剤の質量割合が、当該水分の硬度に当該可燃性廃棄物の含水率を乗じた硬度成分の質量割合の50倍以上となるように添加する工程(添加工程S1)と、当該炭化助剤が添加された当該可燃性廃棄物を加熱して当該可燃性廃棄物を炭化処理する工程(炭化処理工程S2)と、を含む。さらに、本発明の炭化物の製造方法は、炭化助剤の質量割合を規定する硬度成分の質量割合を算出する観点から、添加工程S1の前に、水分の硬度及び可燃性廃棄物の含水率を取得する工程(取得工程S0)を含んでいてもよい。
なお、
図1のフローチャートは本発明の製造方法の一例を示すものであり、本発明の製造方法はこれに限定されない。
【0012】
[可燃性廃棄物]
本発明の可燃性廃棄物は、硬度120mg/L以上の水分を含む可燃性廃棄物であって、炭素化合物を含む廃棄物である。本発明の可燃性廃棄物の具体例としては、例えば、使用済みおむつ、使用済み生理用ナプキン、食品残渣及び海洋ゴミ等が挙げられる。また、本発明の可燃性廃棄物は、複数種類の廃棄物の混合物であってもよい。なお、本明細書では、「可燃性廃棄物」を単に「廃棄物」とも称する。
本発明の廃棄物は、好ましくは、セルロース、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアクリル酸及びポリアクリル酸ナトリウムから選択される1以上の化合物を含む。ポリオレフィンは、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンを含む。ポリエステルは、例えば、ポリエチレンテレフタレートを含む。
また、本発明の廃棄物は、ポリアクリル酸系化合物を含んでいてもよい。ポリアクリル酸系化合物は、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸塩架橋体を含む。ポリアクリル酸塩又はポリアクリル酸塩架橋体を構成する「塩」としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩等)、アンモニウム塩(第四級アンモニウム塩、第四級アルキルアンモニウム塩等)等から選択された1以上の塩を含む。
例えば、使用済みおむつは、おむつの成分としてセルロース、ポリオレフィン、ポリエステル、及びポリアクリル酸ナトリウム等を含み、水分として尿を含む。
例えば、使用済み生理用ナプキンは、生理用ナプキンの成分としてセルロース、ポリオレフィン、ポリエステル、及びポリアクリル酸ナトリウム等を含み、水分として経血を含む。
本発明の廃棄物は、セルロースを、例えば30%以上、さらに50%以上含んでいてもよい。
【0013】
[硬度]
本発明の「硬度」は、水の中に含まれるミネラル類のうちカルシウムとマグネシウムの合計含有量の指標であり、アメリカ硬度に基づく値である。アメリカ硬度とは、水1L中に含まれるカルシウムイオン及びマグネシウムイオンの量を、炭酸カルシウムの量に換算した値であり、以下の式により求めることができる。
(硬度(mg/L))=(カルシウムイオン濃度(mg/L))×2.5+(マグネシウムイオン濃度(mg/L))×4.1
一般に、軟水は硬度0以上60未満、中程度の軟水(中硬水)は硬度60以上120未満、硬水は硬度120以上180未満、非常な硬水は180以上と定義される。
例えば使用済みおむつは、吸収した尿を含んでいる。尿は、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンを含んでおり、後述するように、500mg/L以上の非常な硬水である。
例えば使用済み生理用ナプキンは、吸収した経血を含んでいる。経血は、血液中にカルシウムイオン、マグネシウムイオンを含んでおり、一般に120mg/L以上の硬度を有する。
例えば海洋ゴミは、非常な硬水である海水を含んでいる。
例えば食品残渣は、食品由来のカルシウム及び/又はマグネシウムが水分に溶けだして、120mg/L以上の硬度の水分を含むことがある。
本発明の可燃性廃棄物は、使用済みおむつのように、例えば硬度500mg/L以上1000mg/L以下の水分を含んでいてもよい。
【0014】
[硬度の取得方法]
廃棄物の水分の硬度は、例えば、廃棄物中の水分の一部を採取して、公知の測定方法や装置を用いて測定することができる。例えば、当該硬度は、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)を用いたキレート滴定法、フレーム-原子吸光光度法、イオンクロマトグラフ法、誘導結合プラズマ発光分光分析法、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP/MS法)等を用いて測定することができる。
なお、廃棄物に異なる組成の水分が含まれていると推測される場合には、例えば、廃棄物約10kgにつき5箇所から水分を採取し、各部位について上述のように水分の硬度をそれぞれ測定し、各部位の硬度の平均値を廃棄物の硬度とみなすことができる。
あるいは、廃棄物の水分が既知の組成を有する場合には、当該組成から水分の硬度を算出することもできる。例えば、健康な成人の24時間の尿量の平均は、約1260gであり、健康な成人の24時間の尿中のカルシウムイオン量は200mg、マグネシウムイオン量は150mgであることが知られている。これらの情報から、上記硬度の計算式を用いて硬度を算出すると、尿の硬度は、約885mg/Lと算出できる。
【0015】
[含水率の測定方法]
廃棄物中の含水率は、例えば、乾燥減量法、電気抵抗法、電気容量法、赤外光反射法、赤外光吸収法、ラマン分光法等の公知の測定方法や装置を用いて測定することができる。
乾燥減量法は、例えば、以下のように測定できる。まず、廃棄物の一部を採取し、質量を測定する。そして、採取した廃棄物を、乾燥機等で50℃、1日程度、常圧下で乾燥させて、水分を蒸発させ、乾燥後の質量を測定する。乾燥前の質量から乾燥後の質量を減じた質量減少分は、廃棄物に含まれている水分であると仮定できることから、以下の式により含水率を求めることができる。
(含水率(%))=100×(質量減少分(g))/(乾燥前の廃棄物の質量(g))
なお、廃棄物中の水分の分布が均一でない場合には、例えば、廃棄物約10kgにつき5箇所から約100gの廃棄物を採取し、各部位について上述のように含水率をそれぞれ測定し、各部位の含水率の平均値を廃棄物の含水率とみなすことができる。
【0016】
[取得工程S0]
本発明の取得工程S0において、水分の硬度は、上述の廃棄物の水分の硬度の測定方法、又は水分の既知の組成に基づいて取得され得る。廃棄物の含水率は、上記含水率の測定方法に基づいて取得され得る。
なお、水分の硬度及び含水率が既知又は予測可能である場合には、本工程を省略することもできる。
【0017】
[添加工程S1]
添加工程S1では、硬度120mg/L以上の水分を含む可燃性廃棄物に、炭化助剤を添加する。添加工程S1における炭化助剤の添加の態様は特に限定されず、例えば炭化処理工程S2で用いる炭化処理装置内に、廃棄物と炭化助剤とを投入してもよい。あるいは、攪拌装置等に廃棄物と炭化助剤とを投入し、攪拌してもよい。また、本発明の添加工程S1では、上記炭化助剤以外の添加物を添加してもよい。
【0018】
[炭化助剤]
本発明の炭化助剤は、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つからなり、炭化処理時の触媒として機能する。本発明において、水溶性の塩とは、1気圧、20℃の水100gあたり、5g以上溶解できる塩を意味する。このような炭化助剤を添加することで、後述するように、廃棄物中の炭素化合物の脱水素反応、脱酸素反応、脱水反応等を促進し、炭化処理の効率を高めることができる。
本発明の炭化助剤は、1種類のリン酸塩又は硫酸塩からなるものであってもよく、複数種類のリン酸塩又は硫酸塩の混合物であってもよい。
【0019】
本発明の炭化助剤として用いられる水溶性のリン酸塩又は硫酸塩は、炭化処理の効率をより高める観点から、好ましくは、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素ナトリウムアンモニウム、硫酸鉄、硫酸アンモニウム鉄、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アンモニウム及び硫酸水素アンモニウムから選ばれる1以上のリン酸塩又は硫酸塩である。
さらに、廃棄物が少なくともセルロースを含む場合、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩は、炭化処理の効率をより一層高める観点から、より好ましくは、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸鉄又は硫酸アンモニウム鉄から選ばれる1以上のリン酸塩又は硫酸塩である。
リン酸ナトリウムは、リン酸2水素ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム及びリン酸3ナトリウムを含む。
リン酸カリウムは、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム及びリン酸3カリウムを含む。
リン酸アンモニウムは、リン酸2水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、及びリン酸3アンモニウムを含む。
硫酸鉄は、硫酸鉄(II)、及び硫酸鉄(III)を含む。
硫酸アンモニウム鉄は、硫酸アンモニウム鉄(II)、及び硫酸アンモニウム鉄(III)を含む。
【0020】
[炭化助剤の質量割合]
本発明の炭化助剤の質量割合は、廃棄物に対する炭化助剤の質量割合であって、廃棄物の質量を100%とした場合の、上記炭化助剤を構成する化合物の合計の質量割合(%)を意味する。
当該炭化助剤の質量割合は、硬度成分(カルシウム及びマグネシウム)に対して十分な量の炭化助剤を添加し、硬度成分による炭化助剤の失活を抑制する観点から、水分の硬度に可燃性廃棄物の含水率を乗じた硬度成分の質量割合の50倍以上、より好ましくは70倍以上である。これにより、硬度120mg/L以上の水分を含む廃棄物に対しても、炭化処理の効率を確実に高めることができる。
また、上記炭化助剤の質量割合は、炭化助剤のコストを抑制する観点から、好ましくは、水分の硬度に可燃性廃棄物の含水率を乗じた硬度成分の質量割合の10000倍以下、より好ましくは5000倍以下である。
また、廃棄物が少なくともセルロースを含み、炭化助剤がリン酸アンモニウムを含む場合、コストを抑制しつつ炭化処理の効率を十分に高める観点から、上記炭化助剤の質量割合は、上記硬度成分の質量割合の、好ましくは50倍以上、より好ましくは80倍以上であり、好ましくは3500倍以下、より好ましくは400倍以下である。
特に、廃棄物がセルロースを含み、炭化助剤がリン酸アンモニウムとしてリン酸2水素アンモニウムを含む場合、上記効果をより確実に得る観点から、上記炭化助剤の質量割合は、好ましくは、上記硬度成分の質量割合の50倍以上3500倍以下である。
特に、廃棄物がセルロースを含み、炭化助剤がリン酸アンモニウムとしてリン酸3アンモニウムを含む場合、上記効果をより確実に得る観点から、上記炭化助剤の質量割合は、好ましくは、上記硬度成分の質量割合の50倍以上400倍以下である。
また、廃棄物が少なくともセルロースを含み、前記炭化助剤がリン酸アンモニウムを含む場合、コストを抑制しつつ炭化処理の効率を十分に高める観点から、上記炭化助剤の質量割合は、好ましくは、1%以上20%以下である。
また、廃棄物が少なくともセルロースを含み、炭化助剤がリン酸カリウムを含む場合、コストを抑制しつつ炭化処理の効率を十分に高める観点から、上記炭化助剤の質量割合は、好ましくは、上記硬度成分の質量割合の50倍以上200倍以下である。
【0021】
上記硬度成分の質量割合は、廃棄物に対する硬度成分(カルシウム及びマグネシウム)の質量割合であって、以下の式で求められる。
(硬度成分の質量割合(%))=(水分の硬度(mg/L))×(廃棄物の含水率(%))×10-4
なお、水分の硬度の単位はmg/Lであるが、水分の質量は1Lあたり1kgであるため、上記式により、水分の硬度から%(質量%)の単位を有する硬度成分の質量割合を算出することができる。
上記硬度成分の質量割合の値を用いて、炭化助剤の質量割合は、以下のように規定される。
(炭化助剤の質量割合(%))≧(硬度成分の質量割合(%))×50
【0022】
[炭化処理工程S2]
本発明の炭化処理工程S2では、炭化助剤が添加された廃棄物を加熱して廃棄物を炭化処理する。これにより、炭化物が生成される。
炭化処理は、例えば、公知の炭化処理装置の加熱炉に廃棄物及び炭化助剤を投入し、加熱することで行うことができる。炭化処理装置としては、例えば、ロータリーキルン炉、流動床炉、固定床炉、電気炉等の加熱炉を備えた装置を用いることができる。加熱中は、廃棄物と炭化助剤とが攪拌されることが好ましいが、例えば加熱前にこれらを攪拌していた場合には、攪拌されなくてもよい。
炭化処理では、例えば、下記炭化処理の温度程度に加熱された加熱炉内に廃棄物等が投入される。あるいは、炭化処理では、下記炭化処理の温度より低温の加熱炉内に廃棄物等が投入された後、加熱炉の温度が昇温されてもよい。
【0023】
炭化処理の温度は、炭化が促進される温度を意味し、例えば、炭化処理中に一定時間(例えば30分以上)維持される温度を意味する。
炭化処理の温度は、廃棄物がセルロースを含む場合、炭化処理時のエネルギー消費量を削減し、炭化を十分に促進する観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上であり、好ましくは330℃以下、より好ましくは300℃以下である。これらの炭化温度を、「第1の炭化温度」とも称する。
また、廃棄物がセルロールとともに、又はセルロースに替えて、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアクリル酸又はポリアクリル酸ナトリウム等の樹脂成分を含む場合、炭化処理の温度は、炭化を十分に促進する観点から、好ましくは300℃以上、より好ましくは400℃以上であり、好ましくは600℃以下、より好ましくは500℃以下である。これらの炭化温度を、「第2の炭化温度」とも称する。
炭化処理の温度は、炭化処理中ほぼ一定に維持されてもよいし、段階的に昇温されてもよい。例えば、廃棄物が、セルロースと上記樹脂成分とを含む場合は、第1の炭化温度でセルロースを炭化させた後、昇温させ、第2の炭化温度で樹脂成分を炭化させてもよい。
【0024】
炭化処理の時間は、特に限定されないが、炭化を十分に促進する観点から、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上である。なお、ここでいう炭化処理の時間は、上記炭化処理の温度の昇降が20℃以内の範囲に維持される時間を意味する。
炭化処理の雰囲気は、特に限定されないが、大気雰囲気、低酸素雰囲気、窒素雰囲気等を適宜選択できる。本発明者らは、上記廃棄物に上記炭化助剤を上記質量割合で添加した場合、大気雰囲気でも効率よく炭化できることを確認している。
【0025】
炭化処理工程S2において、以下のように廃棄物が炭化されるものと推測される。
まず、加熱によって廃棄物中の水分が蒸発する。その後、廃棄物中の炭素化合物が熱分解する。このとき、炭化助剤のリン酸塩又は硫酸塩が廃棄物中の炭素化合物の脱酸素反応と脱水素反応を促すものと考えられる。これにより、水素と酸素は水となって揮発し、脱水反応が促されるものと考えられる。このような脱酸素反応、脱水素反応及び脱水反応により、廃棄物中の炭素化合物の水素及び酸素等が脱離し、炭化物が生成されるものと考えられる。
つまり、本発明では、上記炭化助剤を用いることで、二酸化炭素やメタン、一酸化炭素といった炭素を含むガスの放出が抑制され、結果として、炭化物として炭素が固定されるものと考えられる。
【0026】
なお、後述する実施例では、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)による測定を効率よく行うために乾燥工程を行っているが、本発明の炭化処理工程S2においては、炭化炉中でも短時間で水分が蒸発するため、炭化処理前の乾燥工程は省略することができる。
【0027】
[炭化物]
本発明の炭化処理工程S2で得られる炭化物は、炭素を主成分とする固形物であり、炭素及び灰分を含む。本発明で得られた炭化物は、土壌改質剤、水の浄化処理剤、断熱材等の建材、吸着剤、解毒剤、消臭剤、使い捨てカイロの原料、燃料、後述する活性炭等として有効活用することができる。
【0028】
[活性炭]
さらに、本発明では、生成された炭を賦活化処理してもよい。これにより、多孔質の活性炭を生成することができる。賦活化処理としては、限定されないが、例えば、水蒸気や大気などの気体中で800℃から950℃程度に加熱するガス賦活法や、薬品を添加及び又は浸透させ、空気を断って500℃から700℃の温度で賦活化する薬品賦活法が挙げられる。本発明の炭化助剤は賦活効果もあるため、前述の炭化処理後に昇温し、空気を断って500℃から700℃の温度で賦活化することも可能である。活性炭は、高い吸着作用を有することから、水の浄化処理剤、吸着剤、解毒剤、消臭剤等に用いられる。
【0029】
[本発明の作用効果]
以上のように、本発明によれば、硬度120mg/L以上の水分を含む廃棄物に、上記炭化助剤を、上記硬度成分の質量割合の50倍以上の質量割合となるように添加して炭化処理することで、硬度成分による炭化助剤の失活を抑制し、効率よく炭化処理することができる。
具体的には、上記炭化助剤が、廃棄物中の炭素化合物に対して脱酸素反応、脱水素反応及び脱水反応等を促すことで、低い温度においても炭素化合物の熱分解が進みやすくなり、炭化処理の温度を低下させることができる。炭化処理の温度を低下させることで、炭化処理時に消費されるエネルギー量を低減させることができる。
また、上記炭化助剤が、廃棄物中の炭素化合物の水素及び酸素の脱離を促すことで、炭化処理中の炭素の揮発を抑制し、炭素固定率を高めることができる。炭素固定率を高めることで、炭化処理の収率を高め、温室効果ガス等として気化する炭素の量を減少させることができる。
このように、本発明によれば、環境に配慮して、硬度120mg/L以上の水分を含む廃棄物の処理を行うことができる。
また、本発明によれば、所定量の上記炭化助剤を廃棄物に添加することで、簡便に炭化処理することが可能となる。これにより、炭化処理に係るコストを削減でき、環境に配慮した炭化処理の普及を促すことができる。
【0030】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、以下のような構成を採ることもできる。
【0031】
(1)硬度120mg/L以上の水分を含む可燃性廃棄物に、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つからなる炭化助剤を、前記可燃性廃棄物の質量に対する前記炭化助剤の質量割合が、前記水分の硬度に前記可燃性廃棄物の含水率を乗じた硬度成分の質量割合の50倍以上となるように添加し、
前記炭化助剤が添加された前記可燃性廃棄物を加熱して前記可燃性廃棄物を炭化処理する
炭化物の製造方法。
(2)前記炭化助剤の添加前に、前記水分の硬度及び前記可燃性廃棄物の含水率を取得する
(1)に記載の炭化物の製造方法。
(3)前記リン酸塩又は前記硫酸塩が、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素ナトリウムアンモニウム、硫酸鉄、硫酸アンモニウム鉄、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アンモニウム及び硫酸水素アンモニウムから選ばれる1以上のリン酸塩又は硫酸塩である
(1)又は(2)に記載の炭化物の製造方法。
(4)前記可燃性廃棄物が、セルロース、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアクリル酸及びポリアクリル酸ナトリウムから選択される1以上の化合物を含んでいる
(1)から(3)のいずれか1つに記載の炭化物の製造方法。
(5)前記可燃性廃棄物が少なくともセルロースを含み、
前記炭化助剤がリン酸アンモニウムを含み、
前記炭化助剤の質量割合が、前記硬度成分の質量割合の50倍以上3500倍以下であり、好ましくは80倍以上400倍以下である
(3)又は(4)に記載の炭化物の製造方法。
(6)前記炭化助剤が、リン酸アンモニウムとしてリン酸2水素アンモニウムを含み、
前記炭化助剤の質量割合が、前記硬度成分の質量割合の50倍以上3500倍以下である
(5)に記載の炭化物の製造方法。
(7)前記炭化助剤が、リン酸アンモニウムとしてリン酸3アンモニウムを含み、
前記炭化助剤の質量割合が、前記硬度成分の質量割合の50倍以上400倍以下である
(5)に記載の炭化物の製造方法。
(8)前記可燃性廃棄物が少なくともセルロースを含み、
前記炭化助剤がリン酸アンモニウムを含み、
前記炭化助剤の質量割合が、1%以上20%以下である
(3)から(7)のいずれか1つに記載の炭化物の製造方法。
(9)前記可燃性廃棄物が少なくともセルロースを含み、
前記リン酸塩又は前記硫酸塩が、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸鉄又は硫酸アンモニウム鉄から選ばれる1以上のリン酸塩又は硫酸塩である
(3)又は(4)に記載の炭化物の製造方法。
(10)前記可燃性廃棄物が少なくともセルロースを含み、
前記炭化助剤がリン酸カリウムを含み、
前記炭化助剤の質量割合が、前記硬度成分の質量割合の50倍以上200倍以下である
(3)又は(4)に記載の炭化物の製造方法。
(11)前記可燃性廃棄物が、セルロースを、30%以上、好ましくは50%以上含む
(4)~(11)のいずれか1つに記載の炭化物の製造方法。
(12)前記可燃性廃棄物が少なくともポリアクリル酸系化合物を含み、
前記炭化助剤がリン酸アンモニウムを含み、
前記炭化助剤の質量割合が、前記硬度成分の質量割合の50倍以上3500倍以下である
(3)又は(4)に記載の炭化物の製造方法。
(13)前記可燃性廃棄物が少なくともポリオレフィンを含み、
前記炭化助剤がリン酸アンモニウムを含み、
前記炭化助剤の質量割合が、前記硬度成分の質量割合の50倍以上3500倍以下である
(3)又は(4)に記載の炭化物の製造方法。
(14)前記可燃性廃棄物に含まれる水分の硬度が、500mg/L以上1000mg/L以下である
(1)から(13)のいずれか1つに記載の炭化物の製造方法。
(15)使用済みおむつを含む廃棄物に、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素ナトリウムアンモニウム、硫酸鉄、硫酸アンモニウム鉄、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アンモニウム及び硫酸水素アンモニウムから選ばれる1以上のリン酸塩又は硫酸塩からなる炭化助剤を、前記廃棄物の質量に対する前記炭化助剤の質量割合が、前記使用済みおむつに含まれる尿の硬度に前記廃棄物の含水率を乗じた硬度成分の質量割合の50倍以上となるように添加し、
前記炭化助剤が添加された前記廃棄物を加熱して前記廃棄物を炭化処理する
炭化物の製造方法。
【実施例】
【0032】
[試験方法の概要]
本試験では、複数種類の被炭化物及び炭化助剤、並びに硬度の異なる水を混合して、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)により、被炭化物を十分に炭化させ、その後炭化物を完全に燃焼させた。これにより、炭化処理の温度の指標となる被炭化物の最大質量減少時の温度(℃)と、炭素固定率(%)と、を算出した。
【0033】
[被炭化物]
以下の実施例及び比較例では、被炭化物として、セルロース(富士フイルム和光純薬株式会社製)、ポリエチレン(PE)(プライムポリマー社製 Evolue SP1540)、ポリプロピレン(PP)(プライムポリマー社製 プライムポリプロ J108M)、ポリエチレンテレフタレート(PET)(三井化学社製 三井ペット J005)、ポリアクリル酸(PAAH)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、ポリアクリル酸ナトリウム(PAAHNa)(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた。
【0034】
[炭化助剤]
以下の実施例及び比較例では、炭化助剤として、リン酸2水素カリウム(KH2PO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、リン酸水素2カリウム(K2HPO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、リン酸3カリウム(K3PO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、リン酸2水素ナトリウム(NaH2PO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、リン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、リン酸3ナトリウム(Na3PO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、リン酸水素アンモニウムナトリウム(NaNH4HPO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、リン酸2水素アンモニウム(NH4H2PO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、リン酸水素2アンモニウム((NH4)2HPO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、リン酸3アンモニウム((NH4)3PO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、硫酸水素アンモニウム(NH4HSO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、硫酸鉄(II)(FeSO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、硫酸鉄(III)(Fe2(SO4)3)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、硫酸アンモニウム鉄(II)(Fe(NH4)2(SO4)2)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、硫酸アンモニウム鉄(III)(FeNH4(SO4)2)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、硫酸カリウムアルミニウム(AlK(SO4)2)(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた。
【0035】
[水]
純水に以下の化合物を混合して、所定の硬度(mg/L)の水を調整した。調整には、塩化カルシウム(CaCl2)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、塩化マグネシウム(MgCl2)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、硫酸カルシウム(CaSO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた。硬度は、パックテストWAK-TH全硬度(総硬度)(株式会社共立理化学研究所製)を用いて確認した。なお、硫酸カルシウムの1気圧、20℃における溶解度は、約0.2g/100gH20であるため、硫酸カルシウムは、炭化助剤として用いられる「水溶性の硫酸塩」には該当しない。
【0036】
[炭化助剤の添加倍率]
硬度成分の質量割合に対する、炭化助剤の質量割合の倍率(添加倍率)は、以下のように算出した。なお、炭化助剤の質量割合は、被炭化物の質量を100%とした場合の炭化助剤の質量の割合(%)である。
まず、硬度成分の質量割合を、以下の式により算出した。
(硬度成分の質量割合(%))=(水分の硬度(mg/L))×(含水率(%))×10-4
算出された硬度成分の質量割合を用いて、添加倍率を、以下の式により算出した。
(添加倍率)=(炭化助剤の質量割合(%))/(硬度成分の質量割合(%))
【0037】
[TG-DTA]
TG-DTAでは、後述する各実施例及び各比較例の被炭化物を完全に炭化させ、その後完全に燃焼させるため、以下のようなステップ1~7を行った。ステップ1~4は、炭化物の生成工程、ステップ5~7は炭化物の燃焼工程である。ステップ7の後、被炭化物は完全に燃焼し、灰分が残った。ステップ1~7の条件を、以下に示す。
ステップ1:30℃から600℃まで10℃/分で昇温 窒素雰囲気
ステップ2:600℃で10分間維持 窒素雰囲気
ステップ3:600℃から550℃まで10℃/分で降温 窒素雰囲気
ステップ4:550℃で10分間維持 窒素雰囲気
ステップ5:550℃から600℃まで10℃/分で昇温 大気雰囲気
ステップ6:600℃で30分間維持 大気雰囲気
ステップ7:600℃から30℃まで10℃/分で降温 大気雰囲気
TG-DTAでは、各温度に対する被炭化物の質量減少量(%)と、発熱・吸熱量(μV)とを測定した。質量減少量は、ステップ1の開始前のTG-DTAに投入した質量に対する質量減少割合を意味する。
【0038】
[最大質量減少温度の算出]
最大質量減少温度は、各温度に対する質量減少量(%)のグラフにおいて、ステップ1の質量減少量(%)を温度(℃)で微分した際に、最も小さい値(負の値で最も絶対値の大きい値)となる温度として算出した。この温度は、被炭化物が急激に熱分解する温度であり、被炭化物が炭化される温度の指標となる。つまり、この温度が小さいほど、低温での炭化処理が可能であると言える。
【0039】
[炭素固定率]
炭素固定率は、以下の式のように算出した。
【数1】
上記式の分母のうち、「炭化処理前の被炭化物の質量mg」は、ステップ1の開始前のTG-DTAに投入した質量のうち、被炭化物の占める質量であり、ステップ1の開始前のTG-DTAに投入した質量に、被炭化物の占める割合(%)を乗じた値として算出した。「被炭化物の理論炭素比率」は、被炭化物の分子式より算出した。「炭化処理前の被炭化物の質量mg」と「被炭化物の理論炭素比率」の積は、ステップ1の開始前のTG-DTAに投入した質量のうち、被炭化物に含まれる理論上の炭素の質量である。
上記式の分子のうち、「ステップ4における被処理物の質量mg」は、ステップ4の終了時点における被処理物(被炭化物を炭化処理したもの)の質量であり、ステップ1の開始前のTG-DTAに投入した質量(mg)にステップ4の終了時の質量減少量(%)を乗じた値として算出した。「ステップ7における被処理物の質量(mg)」は、ステップ7の終了時点における被処理物の質量であり、ステップ1の開始前のTG-DTAに投入した質量(mg)にステップ7の終了時の質量減少量(%)を乗じた値として算出した。
「ステップ4における被処理物の質量(mg)」は、被処理物の炭素及び灰分を含む質量とみなせる。「ステップ7における被処理物の質量(mg)」は、被処理物の灰分の質量とみなせる。つまり、上記式の分子は、被処理物の炭素及び灰分を含む質量から、被処理物の灰分の質量を減じた値となり、ステップ4の終了時点で生成された炭化物の実際の炭素の質量となる。
このように、上記式により、理論上の被炭化物の炭素量に対する、各実施例及び各比較例で生成された炭化物に固定された炭素の割合が算出される。
【0040】
[実施例及び比較例]
(実施例1)
硬度500mg/Lの水、被炭化物としてセルロース、及び炭化助剤としてリン酸2水素カリウムを準備した。硬度は、塩化カルシウムによって調整した。含水率は、50%とした。炭化助剤の質量割合は、1.25%とした。炭化助剤の添加倍率は、表1に示すように、50倍であった。
被炭化物、炭化助剤及び水を計量し、ガラスビーカー(HARIO製)に加え、ガラスビーカーを揺らしてこれらを攪拌し、質量を測定した。計量した被炭化物の質量を、被炭化物と炭化助剤の質量の和で割ったものを、被炭化物の占める割合(%)として、炭素固定率の算出に用いた。ガラスビーカーを電気乾燥機(株式会社いすゞ製作所製)に配置し、50℃で1日乾燥させた。乾燥後の質量を測定し、ガラスビーカー内の水分が完全に蒸発しているか確認した。
乾燥物から5mg程度を、5mm径オープンパン(アルミニウム)に入れて、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)(株式会社日立ハイテクサイエンス製、商品名:STA7200RV)を用いて加熱し、各温度における発熱・吸熱量(μV)と質量減少量(%)とを経時的に測定した。TG-DTAの結果から、最大質量減少温度及び炭素固定率を算出した。これらの結果を、表1に示す。
【0041】
(実施例2~40)
表1~4に示す硬度及び含水率の水、表1~4に示す被炭化物、表1~4に示す種類及び質量割合の炭化助剤を用いた以外は、実施例1と同様に乾燥及びTG-DTAを行い、最大質量減少温度及び炭素固定率を算出した。これらの結果を、表1~4に示す。
表1~4に示すように、実施例2~40のいずれも、炭化助剤の添加倍率は50倍以上であった。
なお、実施例2~40の水の硬度は、表1~4に示す「硬度成分」に記載の化合物によって調整された。
【0042】
(比較例1~16)
表5及び6に示す硬度及び含水率の水、表1~4に示す被炭化物、表5及び6に示す種類及び質量割合の炭化助剤を用いた以外は、実施例1と同様にTG-DTAを行い、最大質量減少温度及び炭素固定率を算出した。これらの結果を、表5及び6に示す。
表5及び6に示すように、比較例1~16のいずれも、炭化助剤の添加倍率は、50倍未満であった。
なお、比較例1~16の水の硬度は、表5及び6に示す「硬度成分」に記載の化合物によって調整された。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
[結果]
(被炭化物がセルロースである実施例1~35と比較例1~11の結果)
被炭化物としてセルロースを用いた比較例1~11において、炭化助剤を用いていない比較例1と、添加倍率が2倍以上8.3倍以下の炭化助剤を用いた比較例2~11との最大質量減少時の温度の差異は、表5及び6に示すように5℃以内であった。これにより、炭化助剤を用いた場合でも、添加倍率が2倍以上8.3倍以下の場合には、最大質量減少時の温度を十分に低減できないことがわかった。
比較例2~11において、最大質量減少時の温度は、表5及び6に示すように363℃以上368℃以下であり、平均では約365℃であった。
一方、被炭化物としてセルロースを用いた実施例1~35において、表1~4に示すように、最大質量減少時の温度は193℃以上356℃以下であり、平均では約282℃であった。この結果から、被炭化物としてのセルロースに、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つからなる炭化助剤を、硬度成分の質量割合の50倍以上となるように添加することで、炭化処理の温度を十分に低減できることがわかった。
特に、セルロースに対して、炭化助剤としてリン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸鉄、硫酸アンモニウム鉄を用いた場合、最大質量減少時の温度は193℃以上300℃以下となり、炭化処理の温度を一層低減できることがわかった。
被炭化物としてセルロースを用いた比較例1~11において、炭化助剤を用いていない比較例1と、添加倍率が2倍以上8.3倍以下の炭化助剤を用いた比較例2~11との炭素固定率の差異は、表5及び6に示すように4℃以内であった。これにより、炭化助剤を用いた場合でも、添加倍率が2倍以上8.3倍以下の場合には炭素固定率を十分に高められないことがわかった。
比較例2~11において、炭素固定率は、表5及び6に示すように14%以上20%以下であり、平均では約17%であった。
一方、被炭化物としてセルロースを用いた実施例1~35において、表1~4に示すように、炭素固定率は35%以上95%以下であり、平均では約70%であった。この結果から、被炭化物としてのセルロースに、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つからなる炭化助剤を、硬度成分の質量割合の50倍以上となるように添加することで、炭素固定率を向上できることがわかった。
特に、セルロースに対して、炭化助剤としてリン酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸アンモニウム鉄を用いた場合、炭素固定率は68%以上97%以下となり、炭素固定率を一層低減できることがわかった。
【0050】
炭化助剤に着目して結果を述べる。
炭化助剤がリン酸カリウム(リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム及びリン酸3カリウムを含む)であって、添加倍率が50倍以上83.3倍以下である実施例1~4と、炭化助剤がリン酸カリウム(リン酸2水素カリウム)であって、添加倍率が2倍である比較例2とを比較すると、最大質量減少時の温度は20~36℃低下しており、炭素固定率は34~51%上昇していた。この結果から、被炭化物としてセルロースを用いて、炭化助剤がリン酸カリウムであって、添加倍率が50倍以上83.3倍以下である場合に、炭化処理の効率を高められることがわかった。
炭化助剤がリン酸アンモニウム(リン酸2水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、及びリン酸3アンモニウムを含む)であって、添加倍率が50倍以上3333倍以下である実施例10~22と、炭化助剤がリン酸アンモニウム(リン酸3アンモニウム)であって、添加倍率が0.5倍以上8.3倍以下である比較例3~6,10,11とを比較すると、最大質量減少時の温度は63~175℃低下しており、炭素固定率は51~83%上昇していた。また、実施例19、21及び比較例6、11の結果より、炭化助剤がリン酸3アンモニウムで硬度が2000mg/Lと高い場合にも、確実に炭素処理の効率を高められることがわかった。
【0051】
(被炭化物が樹脂材料である実施例36~40と比較例12~16の結果)
被炭化物としてポリエチレンを用いた比較例12において、表6に示すように、最大質量減少時の温度は485℃、炭素固定率は0%であった。一方、被炭化物としてポリエチレンを用いた実施例36において、表4に示すように、最大質量減少時の温度は483℃、炭素固定率は16%であった。この結果から、被炭化物としてのポリエチレンテレフタレートに、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つからなる炭化助剤を、硬度成分の質量割合の50倍以上となるように添加することで、炭化処理の温度を低減できるとともに、炭素固定率を向上できることがわかった。
被炭化物としてポリプロピレンを用いた比較例13において、表6に示すように、最大質量減少時の温度は460℃、炭素固定率は0%であった。一方、被炭化物としてポリプロピレンを用いた実施例37において、表4に示すように、最大質量減少時の温度は456℃、炭素固定率は7%であった。この結果から、被炭化物としてのポリプロピレンに、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つからなる炭化助剤を、硬度成分の質量割合の50倍以上となるように添加することで、炭化処理の温度を低減できるとともに、炭素固定率を向上できることがわかった。
被炭化物としてポリエチレンテレフタレートを用いた比較例14において、表6に示すように、最大質量減少時の温度は450℃、炭素固定率は19%であった。一方、被炭化物としてポリエチレンテレフタレートを用いた実施例38において、表4に示すように、最大質量減少時の温度は389℃、炭素固定率は46%であった。この結果から、被炭化物としてのポリエチレンテレフタレートに、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つからなる炭化助剤を、硬度成分の質量割合の50倍以上となるように添加することで、炭化処理の温度を低減できるとともに、炭素固定率を向上できることがわかった。
被炭化物としてポリアクリル酸を用いた比較例15において、表6に示すように、最大質量減少時の温度は400℃、炭素固定率は11%であった。一方、被炭化物としてポリアクリル酸を用いた実施例39において、表4に示すように、最大質量減少時の温度は397℃、炭素固定率は42%であった。この結果から、被炭化物としてのポリアクリル酸に、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つからなる炭化助剤を、硬度成分の質量割合の50倍以上となるように添加することで、炭化処理の温度を低減できるとともに、炭素固定率を向上できることがわかった。
被炭化物としてポリアクリル酸ナトリウムを用いた比較例16において、表6に示すように、最大質量減少時の温度は440℃、炭素固定率は10%であった。一方、被炭化物としてポリアクリル酸ナトリウムを用いた実施例40において、表4に示すように、最大質量減少時の温度は425℃、炭素固定率は37%であった。この結果から、被炭化物としてのポリアクリル酸ナトリウムに、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つからなる炭化助剤を、硬度成分の質量割合の50倍以上となるように添加することで、炭化処理の温度を低減できるとともに、炭素固定率を向上できることがわかった。