(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】炭化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10B 53/00 20060101AFI20240617BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20240617BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20240617BHJP
B09B 101/67 20220101ALN20240617BHJP
【FI】
C10B53/00 A
B09B3/40 ZAB
B09B3/70
B09B101:67
(21)【出願番号】P 2020124845
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【氏名又は名称】千葉 絢子
(72)【発明者】
【氏名】冨部 圭一郎
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-084533(JP,A)
【文献】特開2017-209675(JP,A)
【文献】特開2013-011407(JP,A)
【文献】特開2002-301458(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110846919(CN,A)
【文献】特開2005-188792(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0337816(US,A1)
【文献】特開平08-010615(JP,A)
【文献】特開2004-355323(JP,A)
【文献】特開平06-154728(JP,A)
【文献】特開2009-142760(JP,A)
【文献】特開2008-106209(JP,A)
【文献】特開2012-081433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 53/00
B09B 3/70
B09B 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物を含む水分が吸収された高吸水性樹脂を含む廃棄物を、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つを含む水溶液と接触させて、
前記水分及び塩化物イオンを前記廃棄物から除去し、
前記塩化物イオンを除去した後、前記廃棄物を加熱して炭化処理
し、
前記水溶液における、前記水溶性のリン酸塩及び硫酸塩の合計の濃度は、前記高吸水性樹脂に吸収された前記水分における前記塩化物イオンの濃度の5倍以上であり、
前記水分及び前記塩化物イオンを前記廃棄物から除去する前に、前記高吸水性樹脂に吸収された前記水分における前記塩化物イオンの濃度を取得する
炭化物の製造方法。
【請求項2】
前記廃棄物の含水率が50%以上である
請求項
1に記載の炭化物の製造方法。
【請求項3】
前記高吸水性樹脂に吸収された前記水分中の前記塩化物イオンの濃度は、0.1%以上である
請求項1
又は2に記載の炭化物の製造方法。
【請求項4】
前記水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つは、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、鉄又はアルミニウムの塩である
請求項1から
3のいずれか一項に記載の炭化物の製造方法。
【請求項5】
前記廃棄物が、使用済みおむつ、使用済み生理用ナプキン、使用済み尿取りパッド、簡易トイレ、使用済みドリップシート、保冷剤、消臭剤、ペット用トイレシート又は嘔吐処理剤の少なくとも1つを含む
請求項1から
4のいずれか一項に記載の炭化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高吸水性樹脂を含む廃棄物を炭化処理する炭化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高吸水性樹脂を含む使用済みおむつ等を廃棄物として焼却した場合、二酸化炭素やメタン等の温室効果ガスの排出、ダイオキシン類等の塩素化合物の排出及び焼却後の灰の処分等の問題が生じ得る。
特許文献1には、破砕された使用済み紙おむつをポリマー分解剤に投入し、パルプ成分を分離回収するとともに、ポリマーが分解されたモノマーを含む汚泥を脱水して固形化し、炭化装置によって炭化処理する、使用済み紙おむつの使用材料の再生処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法では、汚泥中の塩化物イオンを十分に除去することができず、炭化処理中にダイオキシン類等の塩素化合物が発生し得る。
【0005】
本発明の課題は、環境への負荷を抑制しつつ、高吸水性樹脂を含む廃棄物を効率よく炭化処理することが可能な炭化物の製造方法の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る炭化物の製造方法は、塩化物を含む水分が吸収された高吸水性樹脂を含む廃棄物を、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つを含む水溶液と接触させて、塩化物イオンを前記廃棄物から除去する工程と、
前記塩化物イオンを除去した後、前記廃棄物を加熱して炭化処理する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の炭化物の製造方法によれば、環境への負荷を抑制しつつ、高吸水性樹脂を含む廃棄物を効率よく炭化処理することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る炭化物の製造方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本明細書において、「%」は「質量%」を表す。
【0010】
[炭化物の製造方法の概要]
本発明は、塩化物を含む水分が吸収された高吸水性樹脂を含む廃棄物を、塩化物イオンを除去した後に炭化処理する、炭化物の製造方法に関する。廃棄物を炭化処理することにより、焼却処理する際と比較して、廃棄物に含まれる炭素が炭化物(固体の炭)として固定され、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの排出量を削減できる。さらに、得られた炭化物は、後述するように、土壌改質剤、活性炭、燃料等として有効利用することができる。
また、本発明者らは、上記廃棄物を、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つを含む水溶液と接触させた後に炭化処理することで、廃棄物中の塩化物イオンを除去できるとともに、効率よく炭化処理できることを見出し、本発明に到った。さらに、本発明者らは、上記水溶液のリン酸塩又は硫酸塩の濃度を調整することで、高吸水性樹脂に含まれる水分も除去できることを見出した。
本発明の「効率よく炭化処理する」態様は、効率よく炭素を固定することを含む概念である。これにより、炭化処理によって得られる炭化物の収率を高め、気化する炭素の量を減少させることができる。
【0011】
[炭化物の製造方法]
本発明の炭化物の製造方法は、塩化物を含む水分が吸収された高吸水性樹脂を含む廃棄物を、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つを含む水溶液と接触させて、塩化物イオンを廃棄物から除去する工程(除去工程S1)と、塩化物イオンが除去された廃棄物を加熱して炭化処理する工程(炭化処理工程S2)と、を含む。
さらに、本発明の炭化物の製造方法は、除去工程S1の前に、高吸水性樹脂に吸収された水分に含まれた塩化物イオンの濃度を取得する工程(塩化物イオンの濃度の取得工程S0)を含んでいてもよい。
なお、
図1のフローチャートは本発明の製造方法の一例を示すものであり、本発明の製造方法はこれに限定されない。
【0012】
[廃棄物]
本発明の廃棄物は、塩化物を含む水分が吸収された高吸水性樹脂を含む廃棄物である。本発明の廃棄物は、例えば、使用済みおむつ、使用済み生理用ナプキン、使用済み尿取りパッド、簡易トイレ、使用済みドリップシート、保冷剤、消臭剤、ペット用トイレシート又は嘔吐処理剤の少なくとも1つを含んでいてもよい。なお、「ドリップシート」は、肉や魚等の食材の余分な水分を吸収する吸水シートを意味する。本発明の廃棄物は、1種類の廃棄物であってもよいし、複数種類の廃棄物の混合物であってもよい。
【0013】
[高吸水性樹脂]
本発明の高吸水性樹脂は、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、カルボキシル基又はその塩を有する高分子化合物の部分架橋体、多糖類の部分架橋体等から選択される1以上の高吸水性樹脂を含む。カルボキシル基又はその塩を有する高分子化合物の部分架橋体は、ポリアクリル酸塩架橋体、ポリ(ビニルアルコール/アクリル酸塩)共重合体(架橋体)、澱粉-アクリル酸塩グラフト共重合体(架橋体)及びポリビニルアルコール-ポリ無水マレイン酸塩グラフト共重合体(架橋体)等を含む。多糖類の部分架橋体は、カルボキシメチルセルロース塩架橋体等を含む。
また、上記高吸水性樹脂を構成する「塩」としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩等)、アンモニウム塩(第四級アンモニウム塩、第四級アルキルアンモニウム塩等)等から選択された1以上の塩を含む。
本発明の高吸水性樹脂は、好ましくは、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム又はポリアクリル酸ナトリウム架橋体から選択された1以上の高吸水性樹脂を含む。
【0014】
[高吸水性樹脂に吸収された水分]
本発明の高吸水性樹脂に吸収された水分は、塩化物を含んでいる。本発明の塩化物は、例えば無機塩化物を含んでいてもよく、例えば塩化ナトリウムを含んでいてもよい。
また、上記水分は、塩化物イオンを含むことで、塩化物を含むものとみなすことができる。
例えば、使用済みおむつ及び使用済み尿取りパッド及び簡易トイレは、水分として尿や便を含んでおり、尿や便は、塩化ナトリウム等の塩化物を含んでいる。
例えば、使用済み生理用ナプキンは、水分として経血を含んでおり、経血は、塩化ナトリウム等の塩化物を含んでいる。
例えば、使用済みドリップシートは、水分として魚や肉の血液を含む体液を含んでおり、魚や肉の血液を含む体液は、塩化ナトリウム等の塩化物を含んでいる。
例えば、保冷剤は、水分中に寒剤として塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム等の塩化物を含むことがある。
例えば、高吸水性樹脂を含む消臭剤は、水分中に消臭成分、抗菌成分等として塩化物を含むことがある。
例えば、ペット用トイレシートは、水分としてペットの尿を含んでおり、尿は、塩化ナトリウム等の塩化物を含んでいる。
例えば、嘔吐処理剤は、嘔吐物由来の水分を含んでおり、嘔吐物は、塩化ナトリウム等の塩化物を含んでいる。
【0015】
[塩化物イオンの濃度の取得工程S0]
上記塩化物イオンの濃度は、例えば、水分中の塩化物イオンの濃度を測定又は算出することにより、取得することができる。取得された塩化物イオンの濃度は、後述する、水溶性のリン酸塩及び硫酸塩の合計の濃度の調整に用いることができる。
塩化物イオンの濃度は、例えば、廃棄物中の水分の一部を採取して、エネルギー分散型X線分光法、イオンクロマトグラフ法、硝酸銀滴定法、イオン電極法、吸光光度法等の公知の測定方法や装置を用いて測定することができる。
なお、廃棄物に異なる組成の水分が含まれていると推測される場合には、例えば、廃棄物約10kgにつき5箇所から水分を採取し、各部位について上述のように水分の塩化物イオン濃度をそれぞれ測定し、各部位の濃度の平均値を塩化物イオンの濃度とみなすものとする。
あるいは、廃棄物の水分が既知の組成を有する場合には、当該組成から水分の塩化物イオンの濃度を算出することもできる。例えば、健康な成人の24時間の尿量の平均は、約1260gであり、健康な成人の24時間の尿中の塩化物量は、塩化ナトリウムとして12gであることが知られている。この情報から、尿中の塩化物イオン濃度は、約0.58%と算出できる。
また、本発明の塩化物イオンの濃度の取得の態様としては、塩化物イオンの濃度の情報を取得することも含む。
なお、上記塩化物イオンの濃度が既知又は予測可能である場合には、本工程を省略することもできる。
【0016】
本発明の上記塩化物イオンの濃度は、例えば0.1%以上であり、例えば0.2%以上である。本発明では、廃棄物の水分がこのような塩化物の濃度を有していた場合でも、塩化物イオンを除去することで、炭化処理時にダイオキシン類等の塩素化合物の排出を抑制することができる。
【0017】
[含水率]
廃棄物中の含水率は、例えば、乾燥減量法、電気抵抗法、電気容量法、赤外光反射法、赤外光吸収法、ラマン分光法等の公知の測定方法や装置を用いて測定することができる。
本発明の廃棄物中の含水率は、例えば50%以上である。このような高い含水率の場合にも、本発明では、後述する添加剤水溶液の濃度を調整することにより、水分を効率よく除去でき、炭化処理の効率の低下を抑制することができる。
【0018】
[塩化物イオンの除去工程S1]
本発明の除去工程S1では、上記廃棄物を、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つを含む水溶液と接触させて、塩化物イオンを廃棄物から除去する。例えば、本発明の除去工程S1の一態様としては、上記廃棄物を水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つを含む水溶液に接触させた後、塩化物イオンの除去処理を行うことができる。
水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つを含む水溶液を、本明細書では、「添加剤水溶液」とも称する。
添加剤水溶液と廃棄物とが接触することで、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩が水分を保持している高吸水性樹脂に作用し、当該水分中の塩化物イオンが添加剤水溶液中に移行する。添加剤水溶液に移行した塩化物イオンは、塩化物イオンの除去処理、例えば後述する脱水処理、によって添加剤水溶液とともに除去され得る。
また、後述するように、添加剤水溶液と高吸水性樹脂に保持された水分とが接触することで、高吸水性樹脂から水分が脱離しやすくなり、脱水処理によって水分が除去されやすくなる。
【0019】
廃棄物の添加剤水溶液への接触の態様としては、例えば、廃棄物を添加剤水溶液に浸漬させることが挙げられる。この場合は、例えば、添加剤水溶液の入った槽を準備し、廃棄物全体、又は廃棄物の少なくとも一部を浸漬させる。廃棄物全体を浸漬させる場合は、好ましくは30分以上浸漬させる。廃棄物の少なくとも一部を浸漬させる場合は、例えば廃棄物を槽内で攪拌しながら、好ましくは30分以上浸漬させる。廃棄物の少なくとも一部を浸漬させる場合は、塩化物イオン濃度の高い部分を特に水溶液に浸漬させることが好ましい。
廃棄物の添加剤水溶液への接触の他の態様としては、例えば、廃棄物に添加剤水溶液を注水し、廃棄物を添加剤水溶液によって湿潤な状態にすること等が挙げられる。あるいは、廃棄物に添加剤水溶液を噴霧し、廃棄物を添加剤水溶液によって湿潤な状態にすること等が挙げられる。また、例えば、廃棄物に添加剤(例えば水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の粉状物)を加え、注水や加湿等によって、廃棄物を添加剤水溶液によって湿潤な状態にすること等が挙げられる。
廃棄物は、添加剤水溶液との接触前に予め破砕処理されていてもよいが、破砕処理されていなくてもよい。
【0020】
塩化物イオンの除去処理は、塩化物イオンが移行した添加剤水溶液を除去する処理であり、例えば、添加剤水溶液と接触させた廃棄物を脱水する処理である。脱水処理は、塩化物イオンとともに、廃棄物中の水分も除去され得るため、好ましい。脱水処理の具体的な態様としては、特に限定されず、例えば、遠心分離脱水機、プレス脱水機、真空脱水機等の公知の脱水機を用いることができる。また、脱水機を用いずに、例えば十分に添加剤水溶液と接触させた廃棄物を、添加剤水溶液から離間させた状態で1日~数日程度維持しておくことにより、重力によって廃棄物から水分及び塩化物イオンを除去することもできる。
また、脱水処理は、例えば、以下の式によって算出される脱水率が、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上となるように行われる。
(脱水率(%))=100×((除去工程前の廃棄物の質量(g))-(除去工程後の廃棄物の質量(g))/(除去工程前の廃棄物の質量(g))
【0021】
[添加剤水溶液]
本発明の添加剤水溶液は、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つを含む。本発明において、水溶性の塩とは、1気圧、20℃の水100gあたり、5g以上溶解できる塩を意味する。除去工程S1に添加剤水溶液を用いることで、廃棄物中の高吸水性樹脂から塩化物イオンの除去を促すとともに、水分の脱水反応を促すことができる。さらに、添加剤水溶液中の水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の一部は、除去工程S1後の廃棄物に付着した状態となり、次の炭化処理工程S2における炭化処理の触媒としても機能する。
【0022】
本発明の添加剤水溶液に用いられる水溶性のリン酸塩又は硫酸塩は、塩化物イオン及び水分の除去を促すとともに、炭化処理の効率をより高める観点から、好ましくは、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、鉄又はアルミニウムの塩を含む。特に、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩は、塩化物イオン及び水分を効率よく除去し、炭化処理の効率をより高める観点から、鉄の塩を含むことが好ましい。
さらに、本発明の添加剤水溶液は、塩化物イオン及び水分を効率よく除去し、炭化処理の効率をより一層高める観点から、水溶性の硫酸塩であって、鉄又はアンモニウムの塩を含むことがより好ましい。
具体的に、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩は、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素ナトリウムアンモニウム、硫酸鉄、硫酸アンモニウム鉄、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アンモニウム及び硫酸水素アンモニウムから選ばれる1又は複数のリン酸塩又は硫酸塩を含む。
リン酸ナトリウムは、リン酸2水素ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム及びリン酸3ナトリウムを含む。
リン酸カリウムは、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム及びリン酸3カリウムを含む。
リン酸アンモニウムは、リン酸2水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、及びリン酸3アンモニウムを含む。
硫酸鉄は、硫酸鉄(II)、及び硫酸鉄(III)を含む。
硫酸アンモニウム鉄は、硫酸アンモニウム鉄(II)、及び硫酸アンモニウム鉄(III)を含む。
【0023】
[水溶性のリン酸塩及び硫酸塩の合計の濃度]
本発明の添加剤水溶液における、水溶性のリン酸塩及び硫酸塩の合計の濃度は、水分に含まれる塩化物イオンをより確実に除去し、さらに、高吸水性樹脂に吸収された水分を除去する観点から、高吸水性樹脂に吸収された水分に含まれる塩化物イオンの濃度(%)の、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上である。このような濃度の添加剤水溶液と廃棄物を接触させて脱水処理することで、高吸水性樹脂に含まれている水分を効率よく除去することができる。
水溶液のリン酸塩及び硫酸塩の合計の濃度は、添加剤水溶液の質量を100%とした場合における、水溶性のリン酸塩として存在するリン酸化合物及び水溶性の硫酸塩として存在する硫酸化合物の質量の合計の割合を意味する。
【0024】
[炭化処理工程S2]
本発明の炭化処理工程S2では、塩化物が除去された廃棄物を加熱して炭化処理する。これにより、炭化物が生成される。
炭化処理は、例えば、公知の炭化処理装置の加熱炉に廃棄物及び炭化助剤を投入し、加熱することで行うことができる。炭化処理装置としては、例えば、ロータリーキルン炉、流動床炉、固定床炉、電気炉等の加熱炉を備えた装置を用いることができる。
炭化処理では、例えば、下記炭化処理の温度程度に加熱された加熱炉内に廃棄物等が投入される。あるいは、炭化処理では、下記炭化処理の温度より低温の加熱炉内に廃棄物等が投入された後、加熱炉の温度が昇温されてもよい。
【0025】
炭化処理の温度は、炭化が促進される温度を意味し、例えば、炭化処理中に一定時間(例えば30分以上)維持される温度を意味する。
炭化処理の温度は、炭化を十分に促進する観点から、好ましくは400℃以上、より好ましくは600℃以上であり、好ましくは1000℃以下、より好ましくは650℃以下である。
炭化処理の温度は、炭化処理中ほぼ一定に維持されてもよいし、段階的に昇温されてもよい。
【0026】
炭化処理の時間は、特に限定されないが、炭化を十分に促進する観点から、好ましくは30分以上、より好ましくは2時間以上である。なお、ここでいう炭化処理の時間は、上記炭化処理の温度の昇降が20℃以内の範囲に維持される時間を意味する。
炭化処理の雰囲気は、特に限定されないが、大気雰囲気、低酸素雰囲気、窒素雰囲気等を適宜選択できる。本発明者らは、上記添加剤水溶液と十分接触し、脱水等された上記廃棄物を炭化処理した場合、大気雰囲気でも効率よく炭化できることを確認している。
【0027】
炭化処理工程S2において、以下のように廃棄物が炭化されるものと推測される。
まず、加熱によって廃棄物中の水分が蒸発する。その後、廃棄物中の炭素化合物が熱分解する。このとき、添加剤水溶液のリン酸塩又は硫酸塩が廃棄物中の炭素化合物の脱酸素反応と脱水素反応を促すものと考えられる。これにより、水素と酸素は水となって揮発し、脱水反応が促されるものと考えられる。このような脱酸素反応、脱水素反応及び脱水反応により、廃棄物中の炭素化合物の水素及び酸素等が脱離し、炭化物が生成されるものと考えられる。
つまり、本発明では、上記添加剤水溶液を用いることで、二酸化炭素やメタン、一酸化炭素といった炭素を含むガスの放出が抑制され、結果として、炭化物として炭素が効率よく固定されるものと考えられる。
【0028】
なお、後述する実施例では、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)による測定を効率よく行うために、炭化処理の前に乾燥工程を行っている。しかし、本発明においては、予め廃棄物が脱水処理等されており、かつ、廃棄物中に残った水分が炭化炉によって短時間で蒸発するため、炭化処理前の乾燥工程は省略することができる。
【0029】
[炭化物]
本発明の炭化処理工程S2で得られる炭化物は、炭素を主成分とする固形物であり、炭素及び灰分を含む。本発明で得られた炭化物は、土壌改質剤、水の浄化処理剤、断熱材等の建材、吸着剤、解毒剤、消臭剤、使い捨てカイロの原料、燃料、後述する活性炭等として有効活用することができる。
【0030】
[活性炭]
さらに、本発明では、生成された炭化物を賦活化処理してもよい。これにより、多孔質の活性炭を生成することができる。賦活化処理としては、限定されないが、例えば、水蒸気や大気などの気体中で800℃から950℃程度に加熱するガス賦活法や、薬品を添加及び又は浸透させ、空気を断って500℃から700℃の温度で賦活化する薬品賦活法が挙げられる。本発明の炭化助剤は賦活効果もあるため、前述の炭化処理後に、空気を断って500℃から700℃の温度で賦活化することも可能である。活性炭は、高い吸着作用を有することから、水の浄化処理剤、吸着剤、解毒剤、消臭剤等に用いられる。
【0031】
[本発明の作用効果]
以上のように、本発明によれば、塩化物を含む水分が吸収された高吸水性樹脂を含む廃棄物中から、塩化物イオンを除去した後、廃棄物を加熱して炭化処理することができる。
塩化物イオンの除去に、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つを含む添加剤水溶液を用いることで、脱水処理等によって塩化物イオンを除去することができる。炭化処理前に塩化物イオンを除去することで、炭化処理においてダイオキシン類等の塩素化合物の発生を抑制することができる。
また、添加剤水溶液の水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の合計の濃度を、高吸水性樹脂に吸水された水分の塩化物イオン濃度の5倍以上とすることにより、高吸水性樹脂に吸水された水分を除去することができる。これにより、炭化処理におけるエネルギー消費量を低下させることができる。
さらに、添加剤水溶液の溶剤である水溶性のリン酸塩又は硫酸塩が炭化処理の触媒として機能し、これらの塩が、炭化処理の効率を高めることができる。これにより、炭化処理において炭素を効率よく固定ことができ、温室効果ガス等として揮発する炭素の量を減少させることができる。また、固定された炭素を固形の炭等として有効活用することができる。
このように、本発明によれば、環境への負荷を抑制しつつ高吸水性樹脂を含む廃棄物を効率よく炭化処理することができる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、以下のような構成を採ることもできる。
【0033】
(1)塩化物を含む水分が吸収された高吸水性樹脂を含む廃棄物を、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つを含む水溶液と接触させて、塩化物イオンを前記廃棄物から除去し、
前記塩化物イオンを除去した後、前記廃棄物を加熱して炭化処理する
炭化物の製造方法。
(2)前記水溶液における、前記水溶性のリン酸塩及び硫酸塩の合計の濃度は、前記高吸水性樹脂に吸収された前記水分における前記塩化物イオンの濃度の5倍以上であり、
前記廃棄物を前記水溶液と接触させて、前記水分及び前記塩化物イオンを前記廃棄物から除去する
(1)に記載の炭化物の製造方法。
(3)前記水分及び前記塩化物イオンを前記廃棄物から除去する前に、前記高吸水性樹脂に吸収された前記水分における前記塩化物イオンの濃度を取得する
(2)に記載の炭化物の製造方法。
(4)前記廃棄物の含水率が50%以上である
(1)から(3)のいずれか1つに記載の炭化物の製造方法。
(5)前記高吸水性樹脂に吸収された前記水分中の前記塩化物イオンの濃度は、0.1%以上である
(1)から(4)のいずれか1つに記載の炭化物の製造方法。
(6)前記水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つは、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、鉄又はアルミニウムの塩である
(1)から(5)のいずれか1つに記載の炭化物の製造方法。
(7)前記廃棄物が、使用済みおむつ、使用済み生理用ナプキン、使用済み尿取りパッド、簡易トイレ、使用済みドリップシート、保冷剤、消臭剤、ペット用トイレシート又は嘔吐処理剤の少なくとも1つを含む
(1)から(6)のいずれか1つに記載の炭化物の製造方法。
(8)前記高吸水性樹脂が、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、カルボキシル基又はその塩を有する高分子化合物の部分架橋体、多糖類の部分架橋体から選択される1以上の高吸水性樹脂を含む
(1)から(7)のいずれか1つに記載の炭化物の製造方法。
(9)前記高吸水性樹脂は、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム又はポリアクリル酸ナトリウム架橋体から選択された1以上の高吸水性樹脂を含む
(8)に記載の炭化物の製造方法。
(10)前記廃棄物を、前記水溶液に浸漬させることで、前記水溶液に接触させる
(1)から(9)のいずれか1つに記載の炭化物の製造方法。
(11)前記水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つは、鉄の塩である
(6)に記載の炭化物の製造方法。
(12)前記水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の少なくとも1つは、水溶性の硫酸塩であって、鉄又はアンモニウムの塩である
(6)に記載の炭化物の製造方法。
(13)前記炭化処理の温度は、好ましくは400℃以上、より好ましくは600℃以上であり、好ましくは1000℃以下、より好ましくは650℃以下である
(1)から(12)のいずれか1つに記載の炭化物の製造方法。
(14)前記炭化処理の時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは2時間以上である
(1)から(13)のいずれか1つに記載の炭化物の製造方法。
【実施例】
【0034】
[試験方法の概要]
本試験では、生理食塩水(塩化ナトリウム水溶液)を吸水した高吸水性樹脂を、添加剤水溶液に浸漬して遠心脱水した。その後、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)により、高吸水性樹脂を十分に炭化させ、さらに完全に燃焼させた。これにより、後述する脱水率(%)、塩化物イオン除去率(%)、及び炭素分比率(%)を算出した。
【0035】
[高吸水性樹脂]
以下の実施例及び比較例では、高吸水性樹脂として、ポリアクリル酸ナトリウム架橋体(PAAHNa架橋体)(商品名:SAP IM997、サンダイヤ社製)を用いた。
なお、本試験における各処理を受けた高吸水性樹脂を、「被処理物」とも称する。
【0036】
[添加剤水溶液]
以下の実施例では、添加剤水溶液の溶剤として、リン酸3カリウム(K3PO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、リン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、リン酸水素2アンモニウム((NH4)2HPO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、硫酸水素アンモニウム(NH4HSO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、硫酸鉄(II)(FeSO4)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、硫酸アンモニウム鉄(II)(Fe(NH4)2(SO4)2)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、硫酸鉄(III)(Fe2(SO4)3)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、硫酸カリウムアルミニウム(AlK(SO4)2)(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた。
以下の比較例では、添加剤水溶液の溶剤として、塩化ナトリウム(NaCl)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、塩化カルシウム(CaCl2)(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた。
【0037】
[TG-DTA]
TG-DTAでは、後述する各実施例及び各比較例の高吸水性樹脂を完全に炭化させ、その後完全に燃焼させるため、以下のようなステップA1~A3とステップB1~B3を行った。ステップA1~A3は、炭化物の生成工程、ステップB1~B3は灰化物の生成工程である。ステップA1~A3とステップB1~B3の条件を、以下に示す。
ステップA1:30℃から600℃まで10℃/分で昇温 窒素雰囲気
ステップA2:600℃で10分間維持 窒素雰囲気
ステップA3:600℃から30℃まで10℃/分で降温 窒素雰囲気
ステップB1:30℃から600℃まで10℃/分で昇温 大気雰囲気
ステップB2:600℃で10分間維持 大気雰囲気
ステップB3:600℃から30℃まで10℃/分で降温 大気雰囲気
TG-DTAでは、各温度に対する被処理物の質量減少量(%)と、発熱・吸熱量(μV)とを測定した。質量減少量は、ステップA1またはステップB1の開始前のTG-DTAに投入した質量に対する質量減少割合を意味する。
【0038】
[炭素分比率]
炭素分比率は、以下の式により算出した。
【数1】
「ステップA2終了時の被処理物の質量」は、ステップA1開始時の被処理物の質量のうち、炭素及び灰分の占める質量とみなせる。「ステップB2終了時の被処理物の質量」は、ステップB1開始時の被処理物の質量のうち、灰分の占める質量とみなせる。つまり、上記式によって算出される炭素分比率(%)は、ステップA2終了時に生成された炭化物の炭素の質量比率(%)を表すものとなる。
上記炭素分比率により、処理前の高吸水性樹脂の質量に対する、炭化物に固定された炭素の質量の割合が得られる。つまり、炭素分比率の値が大きいほど、炭素の固定率が高いと言える。
【0039】
[実施例及び比較例]
(実施例1)
高吸水性樹脂(被処理物)として、0.5gのポリアクリル酸架橋体を250メッシュのナイロンメッシュ袋に入れた。被処理物を含むナイロンメッシュ袋はサンプルAと、サンプルBと、2つ用意した。サンプルAのナイロンメッシュ袋はあらかじめ質量を測定し、この質量を、[WT0](g)とした。
サンプルAとサンプルBの2つの被処理物を含むナイロンメッシュ袋を100gの生理食塩水に10分間浸漬した。なお、生理食塩水は、約0.9%の塩化ナトリウム水溶液(塩化物イオン濃度0.55%)である。
サンプルAとサンプルBの2つの塩化ナトリウム水溶液に浸漬したナイロンメッシュ袋を、遠心分離機(国産遠心器株式会社製、商品名:H-130C)を用いて、2000回転/分(895G の遠心加速度)で10分間脱水した。
上記サンプルAの遠心脱水後の被処理物を含むナイロンメッシュ袋の質量を測定した。この質量を、[WT1](g)とした。
添加剤水溶液として、リン酸カリウムを純水に溶解させ、表1に示すように、47%のリン酸カリウム水溶液を調製した。
サンプルAの遠心脱水後の被処理物を含むナイロンメッシュ袋を、100gの添加剤水溶液に10分間浸漬した。
サンプルAのリン酸カリウム水溶液に浸漬後のナイロンメッシュ袋を、上記遠心脱水機を用いて、2000回転/分(895G の遠心加速度)で10分間脱水した。
上記遠心脱水後の被処理物を含むナイロンメッシュ袋の質量を測定した。この質量を、[WT2](g)とした。
サンプルAとサンプルBの2つのナイロンメッシュ袋と被処理物を電気乾燥機(株式会社いすゞ製作所製)に配置し、50℃で1日乾燥させた。
サンプルBの乾燥物から1mg程度を、SEM-EDXを用いて、塩化物イオンと炭素イオンを測定し、この炭素イオンに対する塩化物イオン濃度を、[CL0](%)とした。また、サンプルAの乾燥物から1mg程度を、SEM-EDXを用いて、塩化物イオンと炭素イオンを測定し、この炭素イオンに対する塩化物イオン濃度を、[CL1](%)とした。
サンプルAの乾燥物から5mg程度を、5mm径オープンパン(アルミニウム製)に入れて、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)(株式会社日立ハイテクサイエンス製、商品名:STA7200RV)を用いて加熱し、各温度における発熱・吸熱量(μV)と質量減少量(%)とを経時的に測定した。TG-DTAの結果から、炭素分比率を算出した。この結果を、表1に示す。
【0040】
添加剤水溶液の濃度を塩化ナトリウム水溶液の塩化物イオン濃度(0.55%)で除して、高吸水性樹脂に吸水された塩化物イオンに対する添加剤の濃度の倍率を算出した。この倍率を、以下「添加倍率」と称し、表1に示す。
以下の式により塩化ナトリウム水溶液による含水率(%)を算出した。この結果を、表1に示す。含水率は、塩化ナトリウム水溶液を吸水した高吸水性樹脂の質量に対する、吸水された塩化ナトリウム水溶液の質量の割合を示す。
(含水率(%))=100×([WT1]-[WT0])(g)/([WT1]-[WT0]+0.5)(g)
以下の式により、添加剤水溶液による脱水率(%)を算出した。この結果を、表1に示す。脱水率は、塩化ナトリウム水溶液を吸水した高吸水性樹脂の質量に対する、添加剤水溶液添加後の遠心脱水によって排水された水の質量の割合を示し、添加剤水溶液による脱水量の指標とした。
(脱水率(%))=100×([WT2]-[WT1])(g)/([WT1]-[WT0])(g)
以下の式により、塩化物イオン除去率(%)を算出した。この結果を、表1に示す。塩化物イオン除去率は、塩化ナトリウム水溶液のみを吸水した高吸水性樹脂の塩化物イオンの濃度から、添加剤水溶液を添加して脱水した後の塩化物イオンの濃度を減じた差を示し、添加剤水溶液による塩化物イオンの除去量の指標とした。
(塩化物イオン除去率(%))=[CL0]-[CL1](%)
【0041】
(実施例2~15)
表1及び2に示す溶剤及び濃度の添加剤水溶液を用いた以外は、実施例1と同様に試験を行い、炭素分比率、添加倍率、脱水率及び塩化物イオン除去率を算出した。これらの結果を、表1及び2に示す。
【0042】
(比較例1~5)
表3に示す溶剤及び濃度の添加剤水溶液を用いた以外は、実施例1と同様に試験を行い、炭素分比率、添加倍率、脱水率及び塩化物イオン除去率を算出した。これらの結果を、表3に示す。なお、比較例1については、添加剤水溶液に替えて、溶剤を用いていない純水を用いた。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
[結果]
(塩化物イオン除去率及び脱水率の結果)
添加剤水溶液に替えて、純水を用いて脱水した比較例1では、表3に示すように、塩化物イオン除去率は39%であったものの、脱水率は-162%であった。つまり、比較例1では、高吸水性樹脂が添加剤水溶液の水分の多くを吸収してしまった。
塩化ナトリウム水溶液及び塩化カルシウムをそれぞれ用いた比較例2及び3については、脱水率はそれぞれ15%、94%であったものの、塩化物イオン除去率はそれぞれ-106%、-70%であった。これは、添加剤水溶液の溶剤中の塩化物イオンが高吸水性樹脂に吸着したためと考えられる。
一方で、塩化ナトリウム水溶液の塩化物イオン濃度(0.55%)の5倍以上の濃度の水溶性のリン酸塩及び硫酸塩を含む添加剤水溶液を用いた実施例1~13の脱水率は、14%以上92%以下であり、平均では53%であった。同様に、実施例1~13の塩化物イオン除去率は29%以上40%以下、平均では36%であった。これらの結果から、高吸水性樹脂が吸水した塩化物イオン濃度の5倍以上の濃度の水溶性のリン酸塩及び硫酸塩を含む添加剤水溶液を用いることで、塩化物イオンを除去でき、さらに、高吸水性樹脂に保持されていた水分の脱水が可能になることがわかった。
特に、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩として、硫酸水素アンモニウム、硫酸鉄、硫酸アンモニウム鉄を用いた場合、脱水率は70%以上92%以下、塩化物イオン除去率は35%以上40%以下となり、特に効率よく水分及び塩化物イオンを除去できることがわかった。
また、塩化ナトリウム水溶液の塩化物イオン濃度(0.55%)の5倍未満の濃度の水溶性のリン酸塩及び硫酸塩を含む添加剤水溶液を用いた実施例14~16では、塩化物イオン除去率は38%以上40%以下であった。また、実施例14~16では、他の実施例と比較して脱水率は低かったものの、比較例1と比較すると脱水率は高く、添加剤水溶液の水分の多くが吸水されることはなかった。
この結果から、水溶性のリン酸塩及び硫酸塩を含む添加剤水溶液を用いることで、塩化物イオンの除去が可能になるとともに、添加剤水溶液の吸水が抑えられ、脱水も可能になることがわかった。
【0047】
(炭素分比率の結果)
添加剤水溶液に替えて、純水に浸漬させた比較例1については、表3に示すように、炭素分比率は15%であった。
一方、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の水溶液に浸漬させた実施例1~16については、表1及び2に示すように、炭素分比率は23%以上47%以下、平均では33%であり、比較例1よりも炭素分比率が高かった。
この結果から、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩の水溶液に浸漬させた後に炭化処理することにより、塩化物イオンを除去できることに加え、効率よく炭素を固定できることがわかった。
特に、水溶性のリン酸塩又は硫酸塩として硫酸鉄、硫酸アンモニウム鉄を用いた場合、炭素分比率は41%以上47%以下となり、より一層効率よく炭素を固定できることがわかった。