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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】着色液及び繊維の捺染方法
(51)【国際特許分類】
   C09B 67/22 20060101AFI20240617BHJP
   D06P 5/28 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
C09B67/22 Z
C09B67/22 A
C09B67/22 D
C09B67/22 F
D06P5/28
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020130600
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026915
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】赤沼 里麻
(72)【発明者】
【氏名】梅田 真理子
(72)【発明者】
【氏名】寺西 諒
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-224216(JP,A)
【文献】特開2005-036071(JP,A)
【文献】特開2015-010212(JP,A)
【文献】特開平03-097770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 67/22
D06P 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C.I.ディスパースイエロー54、C.I.ディスパースブラウン27、C.I.ディスパースブルー360、C.I.ディスパースブルー359、を含む着色液において、該着色液中における、C.I.ディスパースブルー359の含有率を(D)、C.I.ディスパースイエロー54とC.I.ディスパースブルー360の合計の含有率を(A+C)、とした場合、式(D)/(A+C)で算出される値が、0.1以上かつ0.7以下である着色液。
【請求項2】
さらに、分散剤、界面活性剤及び水を含む請求項1に記載の着色液。
【請求項3】
上記分散剤が、スチレン-(メタ)アクリル共重合体、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物又はその塩、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルサルフェート、及びポリオキシエチレンナフチルエーテルからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項に記載の着色液。
【請求項4】
上記芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物又はその塩が、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物又はその塩を含む、請求項3に記載の着色液。
【請求項5】
上記ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルが、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルであり、及び/又は、上記ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルサルフェートが、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルサルフェートである、請求項3又は4に記載の着色液。
【請求項6】
さらに、フィトステロール系化合物を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の着色液。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の着色液を用いて得られた記録メディア。
【請求項8】
上記記録メディアがポリエステル繊維である、請求項7に記載の記録メディア。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の着色液の液滴を中間記録媒体に付着させて記録画像を得るプリント工程と、上記中間記録媒体における上記着色液の付着面に疎水性繊維を接触させ、熱処理することにより上記記録画像を上記疎水性繊維に転写する転写工程と、を含む疎水性繊維の捺染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色液及びそれを用いる疎水性繊維の捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットによる無製版印刷を行なう記録方法が提案され、布等を含めた繊維の捺染においてもインクジェット捺染が行われている。従来のスクリーン印刷等の捺染方法と比較して、インクジェット印刷による捺染は、無製版であること、省資源であること、省エネルギーであること、及び高精細表現が容易であること、等、様々な利点がある。ここでポリエステル繊維等の疎水性繊維布は、一般に水に不溶性の色材により染色される。従って、インクジェット記録方法により疎水性繊維を捺染するための水性インクとしては、一般に水不溶性色材を水中に分散し、分散安定性等の性能が良好な分散インクを用いる必要がある。ポリエステル繊維を代表とする疎水性繊維へのインクジェット捺染方式は、大きく分けると以下2つの方法に大別される。繊維へ直接インクを付与(プリント)した後、高温スチーミング等の熱処理によりインク中の染料を繊維に染着させるダイレクトプリント法と、中間記録媒体(専用の転写紙等)にインクを付与(プリント)した後、中間記録媒体のインク付与面と疎水性繊維を重ね合わせた後、熱により染料を中間記録媒体から繊維側へ転写させる昇華転写法である。
【0003】
使用されているインクジェットインクは、主として水性インクが使用され、水不溶性である分散染料群及び油溶性染料群から選ばれる昇華性染料を、分散剤を用いて水中に微粒子分散安定化した染料分散液とし、これに、保湿剤(乾燥防止剤)として水溶性有機溶剤、表面張力調整剤として界面活性剤、その他添加剤(pH調整剤、防腐・防黴剤、消泡剤等)を用いて、粒度・粘度・表面張力・pH等の物理特性(物性)を最適化してインク化されている(特許文献1参照)。
【0004】
上記のうち昇華転写法は、のぼり旗等の捺染加工に主に用いられ、インク中には熱処理によるポリエステルへの転写適性に優れた易昇華型の染料が用いられる。加工工程としては、
(1)プリント工程:インクジェットプリンタにより染料インクを中間記録媒体に付与する工程、
(2)転写工程:熱処理により染料を中間記録媒体から繊維中に転写・染着させる工程、
の2工程が含まれ、市販の転写紙が広く使用できる為、繊維の前処理は必要とせず、また洗浄工程も省略されている。
【0005】
水を使用しないため、簡易的に染色ができることや、近年の排水に対する環境問題への関心からも、高く注目が集まっている。しかし、従来の染色とは異なり、布の内部への浸透が少なく、非染色対象物の表面へのみ染色されるため染色濃度(発色性)が低く見える課題がある。特にブラックインクにおいては、発色性を高くするために各社様々な取り組みを行っている。(特許文献2参照)それに加えて、昇華転写条件によって黒色の色相がぶれず、昇華速度が均一なブラックインクが求められている。
【0006】
昇華性を有する染料を用いてブラックを表現する際、通常、複数の染料を組み合わせてブラックが表現される。これは単独の染料では黒色の色相としては十分ではなく、また濃度も低いことが多いためであり、複数の染料を組み合せることにより、良好なブラックの表現が可能となる。しかし、このような、昇華性を有する染料を複数組み合わせたブラックインクで布帛を染色した場合、布帛の種類により、光源の分光分布を変えた光を布帛に照射すると、布帛に表現された黒色の色相が異なる色に見える場合があった。例えば、蛍光灯のような長波長の光が少ない照明下では、良好な色を表現できていても、長波長の光が多い太陽光下では、赤みがかって見えたり、その逆に、太陽光の下では良好な色を表現できていても、蛍光灯の下では青みがかって見えることがあった。このように、照明光源による物の色の見え方に及ぼす特性を、一般に「演色性」といい、この演色性の影響による色相の変化が少ないブラックインクが求められていた。
【0007】
一方、昇華転写方式における疎水性繊維の捺染方法では、インクジェットプリンタにて昇華転写インクを中間記録媒体(専用の転写紙等)に付与(プリント)し、中間記録媒体のインク付与(プリント)面と被染色対象物(ポリエステル繊維等)を重ね合わせた物を、熱圧着ローラーや熱プレス機等による熱圧着方式によって昇華性染料を被染色対象物に転写させている。商業用印刷においては、インクジェット印刷はより高速化しておりインクジェット用インクにも高速化に対応したインクの設計が求められている。また、昇華転写インク用の中間記録媒体としては、シリカ等の無機微粒子でインク受容層が表面に形成されており、多量のインクを付与できるように比較的に坪量が大きいインクジェット用の専用紙が一般的に挙げられるが、近年ではより坪量の小さい転写紙やインク受容層が少ない転写紙が用いられており、少ないインク量で高い転写効率、高い染色濃度が強く求められている。それに加えて、昇華転写条件によって黒色の色相がぶれず、昇華速度が均一で演色性の影響による色相のブレが少ないブラックインクが求められている。特許文献2には、捺染用分散染料インクに用いるインクジェット用ブラックインクであって、グリコールエーテルを含む水溶性有機溶剤と、アセトンに溶解した溶液の紫外可視分光吸収において、ある特定の波長域に極大吸収波長を有する第1~4の分散染料を含有することを特長とするインクジェット用ブラックインクが記載されているが、ダイレクトプリント法における前処理したポリエステル繊維に直接付与するインクについては触れているが、昇華転写法で使用できる昇華性を有する染料に関わる技術検討まではされておらず、また、高濃度染色における均染性や染色性能については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2005/121263号
【文献】特許第6191234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、黒色の色相を維持しつつ、発色性が高く、演色性の影響による色相変化を抑える性能を満たしたブラックインクを得ることは、それらを満足する染料種、配合割合が限定されるため困難であった。
【0010】
本発明は、疎水性繊維の染色において、黒色の色相が維持された発色性が高い染色物が得られ、演色性の影響における色相変化が少ない染色物を得ることができる着色液を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(演色性との関係)
蛍光灯のような長波長側の光が少ない光源の下でも色相が変化しないようにするためには、染料の組み合わせとして長波長側にも吸収を持たせることが好ましい。この課題を達成するために、分散染料としてDMF溶液の紫外可視分光吸収において640nmより長波長で、かつ、700nmあるいはそれより短波長の波長域に極大吸収波長を有する水不溶性着色剤Dを含むことが好ましいことを知見した。
【0012】
(発色性との関係)
DMF溶液の紫外可視分光吸収において640nmより長波長で、かつ、700nmあるいはそれより短波長の波長域に極大吸収波長を有する水不溶性着色剤Dは、一般的に可視光とされる400nm~700nmの範囲よりも長波長の領域にも一部吸収を持つものが多く、目視で見た際の捺染物の発色性が低くなる傾向がある。ブラックの発色性を維持するためには、上記の水不溶性着色剤Dの割合は、水不溶性着色剤Aと水不溶性着色剤Cの合計の含有率を(A+C)、とした場合、式(D)/(A+C)で算出される値が、0.8未満である必要があることを知見した。
【0013】
本発明者らは上記したような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、DMF溶液の紫外可視分光吸収において410nm~450nmの波長域に極大吸収波長を有する水不溶性着色剤A、DMF溶液の紫外可視分光吸収において450nmより長波長で、かつ、470nmあるいはそれより短波長の波長域に極大吸収波長を有する水不溶性着色剤B、DMF溶液の紫外可視分光吸収において590nm~640nmの波長域に極大吸収波長を有する水不溶性着色剤C、DMF溶液の紫外可視分光吸収において640nmより長波長で、かつ、700nmあるいはそれより短波長の波長域に極大吸収波長を有する水不溶性着色剤D、を含む着色液において、該着色液中における、水不溶性着色剤Dの含有率を(D)、水不溶性着色剤Aと水不溶性着色剤Cの合計の含有率を(A+C)、とした場合、式(D)/(A+C)で算出される値が、0.8未満である着色液が、上記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0014】
即ち本発明は、以下の1)~11)に関する。
1)
DMF溶液の紫外可視分光吸収において410nm~450nmの波長域に極大吸収波長を有する水不溶性着色剤A、DMF溶液の紫外可視分光吸収において450nmより長波長で、かつ、470nmあるいはそれより短波長の波長域に極大吸収波長を有する水不溶性着色剤B、DMF溶液の紫外可視分光吸収において590nm~640nmの波長域に極大吸収波長を有する水不溶性着色剤C、DMF溶液の紫外可視分光吸収において640nmより長波長で、かつ、700nmあるいはそれより短波長の波長域に極大吸収波長を有する水不溶性着色剤D、を含む着色液において、該着色液中における、水不溶性着色剤Dの含有率を(D)、水不溶性着色剤Aと水不溶性着色剤Cの合計の含有率を(A+C)、とした場合、式(D)/(A+C)で算出される値が、0.8未満である着色液。
2)
さらに、分散剤、界面活性剤及び水を含む1)に記載の着色液。
3)
上記水不溶性着色剤AのDMF溶液における極大吸収波長の吸光度を1とした場合の、CIE色空間のa値が、-25~-10の範囲内であり、かつ、上記水不溶性着色剤BのDMF溶液における極大吸収波長の吸光度を1とした場合の、CIE色空間のa値が、15~35の範囲内である、1)又は2)に記載の着色液。
4)
上記、式(D)/(A+C)で算出される値が、0.03以上0.8未満である、1)~3)のいずれか一項に記載の着色液。
5)
上記分散剤が、スチレン-(メタ)アクリル共重合体、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物又はその塩、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルサルフェート、及びポリオキシエチレンナフチルエーテルからなる群より選択される少なくとも一種を含む、2)~4)のいずれか一項に記載の着色液。
6)
上記芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物又はその塩が、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物又はその塩を含む、5)に記載の着色液。
7)
上記ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルが、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルであり、及び/又は、上記ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルサルフェートが、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルサルフェートである、5)又は6)に記載の着色液。
8)
さらに、フィトステロール系化合物を含む、1)~7)のいずれか一項に記載の着色液。
9)
1)~8)のいずれか一項に記載の着色液を用いて得られた記録メディア。
10)
上記記録メディアが疎水性繊維である、9)に記載の記録メディア。
11)
1)~8)のいずれか一項に記載の着色液の液滴を中間記録媒体に付着させて記録画像を得るプリント工程と、上記中間記録媒体における上記着色液の付着面に疎水性繊維を接触させ、熱処理することにより上記記録画像を上記疎水性繊維に転写する転写工程と、を含む疎水性繊維の捺染方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、インクジェット捺染を用いた昇華転写染色において、演色性の影響による色相の変化が少ない染色物を作製でき、昇華転写効率が高く、高濃度の染色物を得ることができ着色液および、その着色液が付着した記録メディア、及びその着色液を用いた疎水性繊維の捺染方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。本明細書においては実施例等を含めて、特に断りの無い限り「部」は、いずれも質量基準である。また、「C.I.」は、カラーインデックスの略記載である。
【0017】
上記着色液は、DMF溶液の紫外可視分光吸収において410nm~450nmの波長域に極大吸収波長を有する水不溶性着色剤A、DMF溶液の紫外可視分光吸収において450nmより長波長で、かつ、470nmあるいはそれより短波長の波長域に極大吸収波長を有する水不溶性着色剤B、DMF溶液の紫外可視分光吸収において590nm~640nmの波長域に極大吸収波長を有する水不溶性着色剤C、DMF溶液の紫外可視分光吸収において640nmより長波長で、かつ、700nmあるいはそれより短波長の波長域に極大吸収波長を有する水不溶性着色剤D、を含む着色液において、該着色液中における、水不溶性着色剤Dの含有率を(D)、水不溶性着色剤Aと水不溶性着色剤Cの合計の含有率を(A+C)、とした場合、式(D)/(A+C)で算出される値が、0.8未満である着色液である。
以下、本実施形態に係る着色液に含有される各成分について説明する。
【0018】
[水不溶性着色剤A~D]
本発明に係る水不溶性着色剤A~Dは、顔料、分散染料、油溶性染料等が挙げられ、分散染料及び油溶性染料が好ましい。
【0019】
[水不溶性着色剤A]
上記水不溶性着色剤Aは、DMF溶液の紫外可視分光吸収において410nm~450nmの波長域に極大吸収波長を有する着色剤であれば特に限定はなく、水不溶性着色剤Aの例としては、例えば、C.I.ディスパースイエロー 5、42、49、50、51、54、58、60、64、71、82、83、88、93、99、100、103、114、119、126、149、160、162、164、165、180、182、183、184:1、186、192、198、202、204、211、215、216、218、224、226、231、232、234、C.I.ソルベントイエロー 16、29、33、44、56、77、79、93、98、103、104、105、112、116、117、122、126、144、145、157、160、160:1、163、200、C.I.ソルベントグリーン 5等が挙げられ、好ましくはC.I.ディスパースイエロー 54、82、232であり、C.I.ディスパースイエロー 54がより好ましい。また、水不溶性着色剤Aは一種単独、あるいは、複数種を組み合わせて用いても良い。
【0020】
[水不溶性着色剤B]
上記水不溶性着色剤Bは、DMF溶液の紫外可視分光吸収において450nmより長波長で、かつ、470nmあるいはそれより短波長の波長域に極大吸収波長を有する着色剤であれば特に限定はなく、水不溶性着色剤Bの例としては、例えば、C.I.ディスパースブラウン 26、27等が挙げられ、C.I.ディスパースブラウン 27であることが好ましい。また、水不溶性着色剤Bは一種単独、あるいは、複数種を組み合わせて用いても良い。
【0021】
[水不溶性着色剤C]
上記水不溶性着色剤Cは、DMF溶液の紫外可視分光吸収において590nm~640nmの波長域に極大吸収波長を有する着色剤であれば特に限定はなく、水不溶性着色剤Cの例としては、例えば、C.I.ディスパースブルー 19、26、27、54、56、64、72、73、81、77、128、148、149、153、158、165、165:1、165:2、183、197、224、225、257、268、287、337、345、360、C.I.ソルベントブルー 35、36、78、111、112、C.I.ソルベントバイオレット 13等が挙げられ、好ましくはC.I.ディスパースブルー 72、360、C.I.ソルベントバイオレット 13であり、C.I.ディスパースブルー 360がより好ましい。また、水不溶性着色剤Cは一種単独、あるいは、複数種を組み合わせて用いても良い。
【0022】
[水不溶性着色剤D]
上記水不溶性着色剤Dは、DMF溶液の紫外可視分光吸収において640nmより長波長で、かつ、700nmあるいはそれより短波長の波長域に極大吸収波長を有する着色剤であれば特に限定はなく、水不溶性着色剤Dの例としては、例えば、C.I.ディスパースブルー 58、60、87、108、143、181、185、198、288、334、354、359、C.I.ソルベントブルー 67等が挙げられ、好ましくはC.I.ディスパースブルー 60、334、359であり、C.I.ディスパースブルー 359がより好ましい。また、水不溶性着色剤Dは一種単独、あるいは、複数種を組み合わせて用いても良い。
【0023】
上記着色液は、上記水不溶性着色剤A~D以外の、その他の水不溶性着色剤をさらに含んでいてもよい。該その他の水不溶性着色剤とは、上記水不溶性着色剤A~Dのいずれにも含まれない水不溶性着色剤であれば特に限定はなく、分散染料、油溶性染料、顔料等から選択される。
【0024】
上記水不溶性着色剤A~Dの各項に記載のDMF溶液とは、それぞれ、水不溶性着色剤A~Dを、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)に溶解あるいは分散させ、紫外可視分光吸収における極大吸収波長の吸光度が1となるよう濃度調整した溶液を表す。
【0025】
上記着色液中における、水不溶性着色剤Dの含有率を(D)、水不溶性着色剤Aと水不溶性着色剤Cの合計の含有率を(A+C)、とした場合、式(D)/(A+C)で算出される値は0.8未満であり、0.03以上かつ0.8未満であることが好ましく、0.03を超えかつ0.75以下であることがさらに好ましく、0.05以上かつ0.75以下であることが特に好ましく、0.1以上かつ0.7以下であることが極めて好ましい。
【0026】
上記水不溶性着色剤AのDMF溶液における極大吸収波長の吸光度を1とした場合の、CIE色空間のa値が、-25~-10の範囲内であり、かつ、上記水不溶性着色剤BのDMF溶液における極大吸収波長の吸光度を1とした場合の、CIE色空間のa値が、15~35の範囲内であることが好ましい形態の一つである。
【0027】
上記水不溶性着色剤A~D及びその他の水不溶性着色剤(以下、これらを合わせ単に着色剤と略記する場合がある)は、粉末状あるいは塊状の乾燥色材でも、ウエットケーキやスラリーでも良く、色材合成中や合成後に色材粒子の凝集を抑える目的として、界面活性剤等の分散剤が少量含有されたものであっても良い。市販の染料には、工業染色用、樹脂着色用、インキ用、トナー用、インクジェット用などのグレードがあり、製造方法、純度、粒径等がそれぞれ異なる。粉砕後の凝集性を抑えるには色材としてはより粒子の小さいものが好ましく、また分散安定性及びインクの吐出精度への影響からできるだけ不純物などの少ないものが好ましい。
【0028】
上記着色液は、さらに、分散剤、界面活性剤及び水を含んでいても良い。
【0029】
上記分散剤としては、例えば、スチレン-(メタ)アクリル共重合体、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物又はその塩、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンナフチルエーテル等を用いることが可能である。上記スチレン-(メタ)アクリル共重合体は、スチレン系モノマーと(メタ)アクリル系モノマーの共重合体である。なお本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び/又は「メタクリル」の意味を表す。これら共重合体の具体例としては、(α‐メチル)スチレン‐アクリル酸共重合体、(α‐メチル)スチレン‐アクリル酸‐アクリル酸エステル共重合体、(α‐メチル)スチレン‐メタクリル酸共重合体、(α‐メチル)スチレン‐メタクリル酸‐アクリル酸エステル共重合体、(α‐メチル)スチレン‐(無水)マレイン酸共重合体、アクリル酸エステル‐(無水)マレイン酸共重合体、(α‐メチル)スチレン‐アクリル酸エステル‐(無水)マレイン酸共重合体、アクリル酸エステル‐アリルスルホン酸エステル共重合体、アクリル酸エステル‐スチレンスルホン酸共重合体、(α‐メチル)スチレン‐メタクリルスルホン酸共重合体、ポリエステル‐アクリル酸共重合体、ポリエステル‐アクリル酸‐アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル‐メタクリル酸共重合体、ポリエステル‐メタクリル酸‐アクリル酸共重合体エステル;等が挙げられる。これらの中では芳香族炭化水素基を含む化合物がスチレンのものが好ましい。なお、(α‐メチル)スチレンとは、本明細書においてα‐メチルスチレン、及びスチレンを含む意味として用いる。上記着色液においては、上記分散剤が、スチレン-(メタ)アクリル共重合体、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物又はその塩、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンナフチルエーテルからなる群から選択される分散剤を少なくとも一種類を含むものが好ましい。上記着色液中、分散剤の含有率は、通常1~36%、好ましくは1~30%、より好ましくは1~20%、さらに好ましくは1~15%である。
【0030】
上記分散剤の具体例としては、JoncrylRTM 52J、57J、60J、63J、70J、JDX-6180、HPD-196、HPD96J、PDX-6137A、6610、JDX-6500、JDX-6639、PDX-6102B、PDX-6124、67、678、680、682、683、690(BASF製)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なお本明細書において上付きのRTMは登録商標を意味する。
【0031】
上記着色液中の分散剤は、重量平均分子量が、1,000~20,000である場合が好ましく、2,000~19,000が更に好ましく、5,000~17,000が特に好ましい。上記スチレン-アクリル酸系共重合体の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミッションクロマトグラフ)法で測定する。また、分散剤として用いられるスチレン-(メタ)アクリル共重合体の酸価は50~250mgKOH/gである場合が好ましく、100~250mgKOH/gがさらに好ましく、150~250mgKOH/gである場合が特に好ましい。酸価が小さくなりすぎると、水に対する樹脂の溶解性が悪くなり、特に水不溶性着色剤が分散性染料の場合、分散安定化力が劣る傾向にあり、酸価が大きくなりすぎると水性媒体との親和性が強くなり、印字後の画像ににじみが発生し易い傾向があり好ましくない。樹脂の酸価は、樹脂1gを中和するのに要するKOHのmg数を表し、JIS-K3054に従って測定する。さらに、分散剤として用いられるスチレン-(メタ)アクリル共重合体のガラス転位温度は45℃~135℃である場合が好ましく、55℃~120℃がさらに好ましく、60~110℃が特に好ましい。
【0032】
上記着色液における、好ましい分散剤であるスチレン-(メタ)アクリル共重合体の具体例としては、Joncryl 67(重量平均分子量=12,500、酸価=213mgKOH/g)、678(重量平均分子量=8,500、酸価=215mgKOH/g)、682(重量平均分子量=1,700、酸価=230mgKOH/g)、683(重量平均分子量=4,900、酸価=215mgKOH/g)、690(重量平均分子量=16,500、酸価=240mgKOH/g)等が挙げられ、Joncryl 678であることがより好ましい。
【0033】
上記着色液は、上記水不溶性着色剤A~D及びその他の水不溶性着色剤の分散または溶解時に2種類以上のスチレン-アクリル共重合体を使用して作製することが可能である。
【0034】
上記水不溶性着色剤A~D及びその他の水不溶性着色剤の分散は、例えば以下の方法で行うことができる。スチレン-アクリル共重合体を水溶性有機溶剤に投入し、温度を90-120℃に昇温してスチレン-アクリル共重合体溶解液を作製し、そこへアルカリ性化合物及び水を投入して、温度を下げて乳化(エマルション又はマイクロエマルション)液とし、作製されたエマルション液と着色剤を混合・分散を行う。
【0035】
上記芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物又はその塩は、芳香族スルホン酸とホルマリンの縮合反応によって得られる陰イオン性の界面活性剤である。「その塩」としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等の塩が挙げられる。上記芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物又はその塩は、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物又はその塩若しくはそれらの混合物(以下、特に断りのない限り「スルホン酸のホルマリン縮合物」と記載したときは、「その塩、もしくはそれらの混合物」も含む意味を有する)等が好ましい。例えば、クレオソート油スルホン酸、クレゾールスルホン酸、フェノールスルホン酸、β-ナフタレンスルホン酸、β-ナフトールスルホン酸、β-ナフタリンスルホン酸とβ-ナフトールスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、クレゾールスルホン酸、2-ナフトール-6-スルホン酸、リグニンスルホン酸等のホルマリン縮合物が挙げられる。これらの中では、クレオソート油スルホン酸、β-ナフタレンスルホン酸、リグニンスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸の各ホルマリン縮合物が好ましい。これらは様々な商品名の市販品として入手することができる。その一例として、β-ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物としてはデモールN、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物としてはデモールC;特殊芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物としてはデモールSN-B(いずれも花王株式会社製);等が挙げられる。クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物としては、ラベリンWシリーズ、メチルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物としては、ラベリンANシリーズ(いずれも第一工業製薬株式会社製)、等が挙げられる。これらの中ではデモールN、ラベリンANシリーズ、ラベリンWシリーズが好ましく、デモールN、ラベリンWがより好ましく、ラベリンWがさらに好ましい。リグニンスルホン酸としては、例えばバニレックスN、バニレックスRN、バニレックスG、パールレックスDP(いずれも日本製紙株式会社製)等が挙げられる。これらの中ではバニレックスRN、バニレックスN、バニレックスGが好ましい。
【0036】
上記ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンテトラスチリルフェニルエーテル等のスチリルフェノール化合物;ポリオキシエチレンベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル等のベンジルフェノール化合物;ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル等のクミルフェノール化合物;ポリオキシエチレンナフチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンビフェニルエーテル、ポリオキシエチレンフェノキシフェニルエーテル等が挙げられる。ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルにおけるポリオキシエチレン基の繰り返し数は、1~30が好ましく、15~30がより好ましい。繰り返し数が1以上であると、水性溶媒等との相溶性に優れる傾向にある。また、繰り返し数が30以下であると、粘度が高くなりすぎない傾向にある。ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルの中でも、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルが好ましい。ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルの市販品としては、例えば、パイオニンD-6112、パイオニンD-6115、パイオニンD-6120、パイオニンD-6131、パイオニンD-6512、タケサーフD-6413、DTD-51、パイオニンD-6112、パイオニンD-6320(以上、竹本油脂株式会社製);TS-1500、TS-2000、TS-2600、SM-174N(以上、東邦化学株式会社製);エマルゲンA-60、エマルゲンA-90、エマルゲンA-500(以上、花王株式会社製);などが挙げられる。
【0037】
上記ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルサルフェートとしては、上述したポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルサルフェート等が挙げられる。上述したポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルサルフェートの中でも、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルサルフェートが好ましい。ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルサルフェートの市販品としては、例えば、SM-57、SM-210(以上、東邦化学株式会社製)等が挙げられる。
【0038】
上記ポリオキシエチレンナフチルエーテルとしては、市販品としては、例えば、ノイゲンENシリーズ(第一工業製薬株式会社製)、パイオニンD-7240(竹本油脂株式会社製)等が挙げられる。
【0039】
上記ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルが、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルであり、及び/又は、上記ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルサルフェートが、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルサルフェートであることが、好ましい形態の一つである。
【0040】
本実施形態に係る着色液は、上記以外に、従来公知のノニオン分散剤をさらに含有していてもよい。ノニオン分散剤としては、例えば、コレスタノール類のアルキレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー、及びこれらの置換誘導体等が挙げられる。コレスタノール類のアルキレンオキサイド付加物としては、コレスタノール類のC2-C4アルキレンオキサイド付加物が好ましく、エチレンオキサイド付加物がより好ましい。本明細書において「コレスタノール類」は、「コレスタノール」及び「水添コレスタノール」の両者を含む意味として用いる。例えば、コレスタノール類のエチレンオキサイド付加物としては、コレスタノールのエチレンオキサイド付加物及び水添コレスタノールのエチレンオキサイド付加物が挙げられる。コレスタノール類1モルあたりのアルキレンオキサイド(好ましくはC2-C4アルキレンオキサイド、より好ましくはエチレンオキサイド)の付加量は10~50モル程度が好ましく、HLBは13~20程度が好ましい。
【0041】
上記の分散剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0042】
上記界面活性剤としては、例えば、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、シリコーン系等の公知の界面活性剤が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、アルキルスルホン酸塩、アルキルカルボン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N-アシルアミノ酸及びその塩、N-アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。その市販品の具体例としては、例えば、いずれも第一工業製薬社製のハイテノールLA-10、LA-12、LA-16、ネオハイテノールECL-30S、ECL-45などが挙げられる。カチオン界面活性剤としては、2-ビニルピリジン誘導体、ポリ4-ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。両性界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体等が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等のアセチレングリコール(アルコール)系;日信化学社製、商品名サーフィノール104、105、82、465、オルフィンSTG等;ポリグリコールエーテル系(例えばSIGMA-ALDRICH社製のTergitol 15-S-7等);等が挙げられる。
【0043】
上記シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。市販品の具体例としては、例えば、いずれもビックケミー社製の、BYK-347(ポリエーテル変性シロキサン);BYK-345、BYK-348(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)等が挙げられる。フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸系化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物等が挙げられる。市販品の具体例としては、例えば、Zonyl TBS、FSP、FSA、FSN-100、FSN、FSO-100、FSO、FS-300、Capstone FS-30、FS-31(DuPont社製);PF-151N、PF-154N(オムノバ社製)等が挙げられる。
【0044】
上記水としては、イオン交換水、蒸留水等の不純物が少ないものが好ましい。また、上記着色液に対してメンブランフィルター等を用いた精密濾過を行うことができる。着色液をインクジェット捺染インク用として使用するときは、ノズルの目詰まり等を防止する目的で、精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過に使用するフィルターの孔径は通常1μm~0.1μm、好ましくは0.8μm~0.1μmである。
【0045】
上記着色液が、さらに、フィトステロール系化合物を含むことが好ましい。フィトステロール系化合物とは、分子内にフィトステロール骨格を有する化合物を表し、例えば、フィトステロール類のアルキレンオキサイド付加物などが挙げられる。フィトステロール類のアルキレンオキサイド付加物としては、フィトステロール類のC2-C4アルキレンオキサイド付加物が好ましく、エチレンオキサイド付加物がより好ましい。本明細書において「フィトステロール類」は、「フィトステロール」及び「水添フィトステロール」の両者を含む意味として用いる。例えば、フィトステロール類のエチレンオキサイド付加物としては、フィトステロールのエチレンオキサイド付加物及び水添フィトステロールのエチレンオキサイド付加物が挙げられる。フィトステロール類1モルあたりのアルキレンオキサイド(好ましくはC2-C4アルキレンオキサイド、より好ましくはエチレンオキサイド)の付加量は10~50モル程度が好ましく、HLBは13~20程度が好ましい。 フィトステロール類のアルキレンオキサイド付加物の市販品としては、例えば、NIKKOL BPS-20、NIKKOL BPS-30(いずれも日光ケミカルズ株式会社製、フィトステロールのエチレンオキサイド付加物)、NIKKOL BPSH-25(同、水添フィトステロールのエチレンオキサイド付加物)等が挙げられる。コレスタノール類のアルキレンオキサイド付加物の市販品としては、NIKKOL DHC-30(日光ケミカルズ株式会社製、コレスタノールのエチレンオキサイド付加物)が挙げられ、NIKKOL BPS-30であることが好ましい。
【0046】
上記着色液は、さらに添加剤を含むことが可能である。
【0047】
上記添加剤としては、例えば、水溶性有機溶剤、防腐剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、粘度調整剤、色素溶解剤、褪色防止剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0048】
上記水溶性有機溶剤としては、例えば、グリコール系溶剤、多価アルコール類、ピロリドン類等を挙げることができる。グリコール系溶剤としては、グリセリン、ポリグリセリン(#310、#750、#800、)、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン、ウンデカグリセリン、ドデカグリセリン、トリデカグリセリン、テトラデカグリセリン等の化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。多価アルコール類としては、例えばアルコール性水酸基を2~3個有するC2~C6多価アルコール及び、ジ又はトリC2~C3アルキレングリコール若しくは繰り返し単位が4以上で、分子量20,000程度以下のポリC2~C3アルキレングリコール、好ましくは液状のポリアルキレングリコール等が挙げられる。それらの具体例としてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、チオジグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,3-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール等の多価アルコール類、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられ、グリセリン又はジグリセリンのいずれかを少なくとも含むことが好ましい。また、水に溶解して湿潤剤としての役割をする化合物等も、便宜上本発明では水溶性有機溶剤に含めるものとし、例えば尿素、エチレン尿素及び糖類等が挙げられる。保存安定性を考慮すると、着色剤が分散染料や油溶性染料である場合、それらの溶解度が小さい溶剤が好ましく、これらの中でも特にグリセリンと、グリセリン以外の溶剤(好ましくはグリセリン以外の多価アルコール)とを併用するのが好ましい。上記着色液の総質量中における、水溶性有機溶剤の総含有量は、5~50%であり、10~40%添加するのが好ましい。
【0049】
上記防腐剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N-ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、8-オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物が挙げられる。有機ハロゲン系化合物の具体例としては、例えば、ペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオキシド系化合物の具体例としては、例えば、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウムが挙げられ、イソチアゾリン系化合物の具体例としては、例えば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンマグネシウムクロライド、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンカルシウムクロライド、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐防黴剤の具体例として、無水酢酸ソーダ、ソルビン酸ソーダ又は安息香酸ナトリウム、アーチケミカル社製、商品名プロキセルRTMGXL(S)やプロキセルRTMXL-2(S)等が挙げられる。
【0050】
上記pH調整剤としては、調製される上記着色液に悪影響を及ぼさずに、溶液のpHをおおよそ5~11の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。その具体例としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム(アンモニア水);、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩;ケイ酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム等の無機塩基等が挙げられ、トリエタノールアミンが好ましい。
【0051】
上記キレート試薬の具体例としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウム等があげられる。
【0052】
上記防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグルコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール又はジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等があげられる。
【0053】
上記水溶性紫外線吸収剤としては、例えばスルホン化したベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ-ル系化合物、サリチル酸系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物が挙げられる。
【0054】
上記水溶性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン又はポリイミン等があげられる。
【0055】
上記粘度調整剤としては、水溶性有機溶剤の他に、水溶性高分子化合物が挙げられ、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等が挙げられる。
【0056】
上記色素溶解剤としては、例えば、尿素、ε-カプロラクタム、エチレンカーボネート等が挙げられる。
【0057】
上記褪色防止剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機系としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、及びヘテロ環類等が挙げられる。金属錯体系としては、ニッケル錯体、亜鉛錯体等が挙げられる。
【0058】
上記酸化防止剤としては、例えば、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。前記有機系の褪色防止剤の例としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、複素環類等が挙げられる。
【0059】
上記着色液において、上記添加剤として、水溶性有機溶剤、防腐剤、pH調整剤からなる群から選択されるいずれか少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0060】
上記着色液は、さらに、樹脂エマルションを含んでいても良い。
【0061】
上記樹脂エマルションとしては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリビニル樹脂(例:塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等)、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、又はアミノ材料(メラニン樹脂、ユリア樹脂、尿素樹脂、メラニンホルムアルデヒド樹脂等)から形成されたエマルションがある。また、それらエマルションは2種以上の樹脂から構成されていても良い。さらに2種以上の樹脂がコア/シェル構造を形成した形態の複合樹脂であっても良い。それら樹脂エマルションの中でも上記着色液に使用するには、ウレタン樹脂が好ましい。
【0062】
上記ウレタン樹脂は、ラテックス(エマルション)の形で販売されていることも多く、その多くは固形分が30~60%での乳化液である。その具体例としては、例えば、パーマリンUA-150、200、310、368、3945、ユーコートUX-320(以上、三洋化成株式会社製)、ハイドランWLS-201、210、HW-312Bのラテックス(以上、DIC株式会社製)、スーパーフレックス150、170、470(以上、第一工業製薬株式会社製)、等が挙げられる。これらのうち、ポリカーボネート系ウレタン樹脂としては、例えば、パーマリンUA-310、3945、ユーコートUX-320、等が挙げられる。これらのうち、ポリエーテル系ウレタン樹脂としては、例えば、パーマリンUA-150、200、ユーコートUX-340、等が挙げられる。これらウレタン樹脂は単独で使用することも、併用することもできる。
【0063】
上記ウレタン樹脂のエマルションは、SP値(溶解度パラメータ)が8~24である場合が好ましく、8~17がさらに好ましく、8~11が特に好ましい。また、ウレタン樹脂エマルション中の樹脂が酸性基を有していた場合、この酸性基を中和してエマルションを作製している場合には中和前の樹脂のSP値を用いる。
【0064】
上記ウレタン樹脂エマルションが、カルボン酸、スルホン酸、水酸基等の酸性基を有する場合、それら酸性基は、アルカリ塩化されていても良い。アルカリ塩化は、例えば以下方法で行うことが可能である。酸性基を有するウレタン樹脂エマルションを水に投入し撹拌して水溶液を調製し、該水溶液にアルカリ性化合物を加え、pHを6.0-12.0に調整した液を作製する方法などが挙げられる。
【0065】
上記アルカリ性化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化ストロンチウム等のアルカリ土類金属の水酸化物やトリエチルアミン等が挙げられる。これらアルカリ性化合物は任意の1種類のみを使用しても良く、あるいは、2種類以上を組み合わせて使用しても良い。
【0066】
上記着色液を調製する方法としては、例えば、上記各構成要素を混合する方法等が挙げられる。各構成要素を混合する順番は特に制限されない。
【0067】
上記着色液をそのままインクとして用いても良く、あるいは、上記着色液に、さらに、水、分散剤、界面活性剤、pH調整剤、添加剤等を添加、あるいは量を追加してインクにして用いることもできる。
【0068】
上記着色液の分散方法としては、例えば、サンドミル(ビーズミル)、ロールミル、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機、高圧乳化機等を用いて、着色液を構成する各成分を撹拌混合する等の公知の方法が挙げられる。一例として、サンドミルを用いる場合、まず、各成分及び分散媒体としてのビーズをサンドミルに仕込む。ビーズとしては、粒子径0.01~1mmのガラスビーズ、ジルコニアビーズ等を用いることができる。ビーズの使用量は、分散対象1質量部に対して2~6質量部が好ましい。次いで、サンドミルを作動させ分散処理を行う。分散処理条件は、概ね1000~2000rpmで1~20時間が好ましい。そして、分散処理後にビーズを濾過等により除去することで、分散された着色液が得られる。
【0069】
上記着色剤は分散時に混合して分散し、着色液を得てもよく、あるいは、水不溶性着色剤A~D、その他の水不溶性着色剤をそれぞれ分散させた液を混合してしてもよい。
【0070】
上記着色液を含む染色浴も本願発明に含まれる。
【0071】
調製した着色液及び該着色液を含むインクは、メンブランフィルター等を用いて精密濾過を行ってもよい。特に、着色液をインクジェット捺染用インクとして使用するときは、ノズルの目詰まり等を防止する目的で、精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過に使用するフィルターの孔径は、通常0.1~1μmであり、好ましくは0.1~0.8μmである。
【0072】
上記インクは、高速での吐出応答性の点から、25℃における粘度が、E型粘度計にて測定した場合の値が、通常3~20mPa・s程度であることが好ましい。また、表面張力は、プレート法にて測定した場合の値が、通常20~45mN/mの範囲が好ましい。これら各値は、使用するプリンタの吐出量、応答速度、インク滴飛行特性などを考慮し、適切な値になるように調整することが好ましい。
【0073】
上記インクと他のインクを含むインクセットも本願発明に含まれる。
上記他のインクとは、上記インクと異なる構成及び色相を有するインクを表し、例えば、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、オレンジインク、バイオレットインク、グリーンインク、ターコイズインク、ブルーインク等が挙げられるが、ここに示す限りではない。また、上記インクあるいは上記他のインクに対し、インク中の着色剤の総濃度を変化させたインク(低濃度インクあるいは高濃度インク)であるライトイエローインク、ライトマゼンタインク、ライトシアンインク、ライトブラックインク等も挙げられる。
【0074】
上記他のインクが含んでいても良い着色剤としては、分散染料、油溶性染料等が挙げられ、分散染料の具体例としては、例えば、C.I.ディスパースイエロー 3、4、5、7、9、13、24、30、33、34、42、44、49、50、51、54、56、58、60、63、64、66、68、71、74、76、79、82、83、85、86、88、90、91、93、98、99、100、104、114、116、118、119、122、124、126、135、140、141、149、160、162、163、164、165、179、180、182、183、184、184:1、186、192、198、199、201、202、204、210、211、215、216、218、224、231、232、241等;C.I.ディスパースオレンジ 1、3、5、7、11、13、17、20、21、25、26、29、30、31、32、33、37、38、42、43、44、45、47、48、50、53、54、55、56、57、58、59、61、66、76、78、80、89、90、91、93、96、97、119、127、130、139、142等;C.I.ディスパースレッド 1、4、5、7、11、12、13、15、17、27、43、44、50、52、53、54、55、56、58、59、60、65、72、73、74、75、76、78、81、82、86、88、90、91、93、96、103、105、106、107、108、110、111、113、117、118、121、122、126、127、128、131、132、134、135、137、143、145、146、151、152、153、154、157、159、164、167、169、177、179、181、183、184、185、188、189、190、191、192、200、201、202、203、205、206、207、210、221、224、225、227、229、239、240、257、258、277、278、279、281、288、289、298、302、303、310、311、312、320、324、328、343、362、364等;C.I.ディスパースバイオレット 1、4、8、17、23、26、27、28、31、33、35、36、38、40、43、46、48、50、51、52、56、57、59、61、63、69、77等;C.I.ディスパースグリーン 6:1、9等;C.I.ディスパースブラウン 1、2、4、9、13、19、26、27等;C.I.ディスパースブルー 3、7、9、14、16、19、20、26、27、35、43、44、54、55、56、58、60、62、64、71、72、73、75、79、81、82、83、87、91、93、94、95、96、102、106、108、112、113、115、118、120、122、125、128、130、139、141、142、143、146、148、149、153、154、158、165、167、171、173、174、176、181、183、185、186、187、189、197、198、200、201、205、207、211、214、224、225、257、259、267、268、270、284、285、287、288、291、293、295、297、301、315、330、332、333、334、343、359、360等;C.I.ディスパースブラック 1、3、10、24等;などが挙げられる。
【0075】
上記油溶性染料の具体例としては、例えば、C.I.ソルベントイエロー 2、6、14、16、21、25、29、30、33、51、56、77、80、82、88、89、93、116、150、163、179、160:1等:C.I.ソルベントオレンジ 1、2、14、45、60等:C.I.ソルベントレッド 1、3、7、8、9、18、19、23、24、25、27、49、100、109、121、122、125、127、130、132、135、218、225、230等:C.I.ソルベントバイオレット 13、31等:C.I.ソルベントグリーン 3等:C.I.ソルベントブラウン 3、5等:C.I.ソルベントブルー 2、11、14、24、25、35、36、38、48、55、59、63、67、68、70、73、83、105、111、132等:C.I.ソルベントブラック 3、5、7、23、27、28、29、34等:などが挙げられる。
【0076】
上記他のインクが含んでいても良い着色剤は、一種単独で用いても良いし、複数を組み合わせて用いても良い。
【0077】
上記着色液又は該着色液を含むインクを用いて得られた記録メディアも本願発明に含まれる。
【0078】
上記記録メディアは、上記着色液又は該着色液を含むインクを用いて記録できるものであれば、特に限定は無いが、例えば、紙、布帛等が挙げられ、布帛、特に疎水性繊維であることが好ましい。
【0079】
上記疎水性繊維の具体例としては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維、ポリアミド繊維、及びこれらの繊維を2種類以上用いた混紡繊維等が挙げられる。また、これらとレーヨン等の再生繊維、木綿、絹、羊毛等の天然繊維との混紡繊維も、本明細書においては疎水性繊維に含まれる。これらの疎水性繊維としては、インク受容層(滲み防止層)を有するものも知られており、そのような疎水性繊維も同様に含まれる。インク受容層の形成方法は公知技術であり、インク受容層を有する繊維も市販品として入手が可能である。インク受容層の材質や構造等は、特に限定されず、目的等に応じて適宜使用することができる。
【0080】
上記着色液又は該着色液を含むインクは、各種分野において使用することができるが、筆記用水性インク、水性印刷インク、情報記録インク、捺染等に好適であり、インクジェット捺染用インクとして用いることが特に好ましい。
【0081】
上記着色液又は該着色液を含むインクの液滴中間記録媒体に付着させて記録画像を得るプリント工程と、上記中間記録媒体における上記着色液又は該着色液を含むインクの付着面に疎水性繊維を接触させ、熱処理することにより上記記録画像を上記疎水性繊維に転写する転写工程と、を含む疎水性繊維の捺染方法も本願発明に含まれる。また、着色液又は該着色液を含むインクが付着した中間記録媒体も本願発明に含まれる。
【0082】
上記疎水性繊維の捺染方法は、2つの種類に大別される。1つ目の方法は、ダイレクトプリント又はダイレクト捺染等と呼称される方法であり、上記着色液又は該着色液を含むインクの液滴を、インクジェット方式のプリンタにより疎水性繊維に付着させることにより、文字及び絵柄等の画像情報を疎水性繊維に形成する工程Aと、前記工程Aにより付着させた上記着色液又は該着色液を含むインクの液滴中の昇華性染料を熱により繊維に固着させる工程Bと、繊維中に残存する未固着の昇華性染料を洗浄する工程Cと、の3工程を少なくとも含む、疎水性繊維の捺染方法である。工程Bは、一般的には公知のスチーミング又はベーキングによって行われる。スチーミングとしては、例えば、高温スチーマーで通常170~180℃、通常10分程度;また、高圧スチーマーで通常120~130℃、通常20分程度;それぞれ疎水性繊維を処理する方法により、昇華性染料を繊維に染着する(湿熱固着とも呼称される)方法が挙げられる。ベーキング(サーモゾル)としては、例えば通常190℃~210℃、通常60秒~120秒程度、疎水性繊維を処理する方法により、昇華性染料を繊維に染着する(乾熱固着とも呼称される)方法が挙げられる。工程Cは、得られた繊維を、温水、及び必要に応じて水により洗浄する工程である。洗浄に使用する温水や水は、界面活性剤を含んでもよい。洗浄後の繊維を、通常50~120℃で、5~30分乾燥することも好ましく行われる。2つ目の方法は、昇華転写プリント、昇華転写捺染等と呼称される方法であり、上記着色液又は該着色液を含むインクまたは上記インクセットの液滴を、インクジェット方式のプリンタにより中間記録媒体に付着させることにより、文字及び絵柄等の記録画像を得た後、該中間記録媒体における、上記着色液又は該着色液を含むインクの液滴の付着面に疎水性繊維を接触させ、熱処理することにより、中間記録媒体に記録された文字、絵柄等の記録画像を疎水性繊維に転写する、疎水性繊維の捺染方法である。中間記録媒体としては、中間記録媒体に付着した上記着色液又は該着色液を含むインク中の昇華性染料が、その表面で凝集せず、且つ疎水性繊維へ記録画像の転写を行うときに、染料の昇華を妨害しないものが好ましい。そのような中間記録媒体の一例としては、シリカ等の無機微粒子で着色液受容層が表面に形成されている紙が挙げられ、インクジェット用の専用紙等を用いることができる。中間記録媒体から疎水性繊維へ、記録画像を転写するときの熱処理としては、通常190~200℃程度での乾熱処理が挙げられる。
【0083】
上記浸染による染色法としては、本発明の着色液に疎水性繊維を浸漬し、加圧下、好ましくは105℃以上、更に好ましくは110~140℃で、好ましくは30分~1時間染色することができる。特に好ましくは120~130℃で30分~45分染色することができる。また、o-フェニルフェノールやトリクロロベンゼン等のキャリヤーの存在下、例えば、水の沸騰状態で染色することもできる。あるいは、本発明の着色液を疎水性繊維にパディングし、150~230℃で30~1分間の乾熱処理を施す、所謂サーモゾル方式での染色も可能である。
【0084】
上記捺染方法は、にじみ等を防止する目的で、繊維の前処理工程をさらに含んでもよい。この前処理工程としては、1種類以上の糊材、アルカリ性物質、還元防止剤及びヒドロトロピー剤を少なくとも含む水溶液を、上記着色液又は該着色液を含むインクを付着させる前の繊維に付与する工程が挙げられる。前処理を施す工程としては、糊剤、アルカリ性物質、還元防止剤及びヒドロトロピー剤を含む前処理剤の水溶液を前処理液として用い、繊維を前処理液に含浸させて付与するのが好ましい。上記糊剤としては、グアー、ローカストビーン等の天然ガム類、澱粉類、アルギン酸ソーダ、ふのり等の海藻類、ペクチン酸等の植物皮類、メチル繊維素、エチル繊維素、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素誘導体、カルボキシメチル澱粉等の加工澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸エステル等の合成糊等があげられる。好ましくはアルギン酸ソーダがあげられる。
【0085】
上記アルカリ性物質としては、例えば無機酸または有機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属の塩、並びに加熱した際にアルカリを遊離する化合物が挙げられ、無機又は有機の、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム化合物及びカリウム化合物等が挙げられる。具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸ナトリウム等の無機化合物のアルカリ金属塩、蟻酸ナトリウム、トリクロル酢酸ナトリウム等の有機化合物のアルカリ金属塩;等が挙げられる。好ましくは、炭酸水素ナトリウムが挙げられる。上記還元防止剤としては、メタニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。上記ヒドロトロピー剤としては、尿素、ジメチル尿素等の尿素類等があり、好ましくは尿素が挙げられる。上記糊剤、アルカリ性物質、還元防止剤、及びヒドロトロピー剤は、いずれも単一の化合物を使用してもよいし、それぞれ複数の化合物を併用してもよい。前処理液の総質量中における各前処理剤の混合比率は、例えば、いずれも質量基準で、糊剤が0.5~5%、炭酸水素ナトリウムが0.5~5%、メタニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムが0~5%、尿素が1~20%、残部が水である。前処理剤のセルロース系繊維への付与は、たとえばパディング法が挙げられる。パディングの絞り率は40~90%程度が好ましく、より好ましくは60~80%程度である。
【0086】
本発明の上記着色液又は該着色液を含むインクは、長期間保存後の固体析出、物性変化、色変化等もなく、保存安定性に優れる。また、インクジェットプリンタヘッドへの初期充填性が良好であり、連続印刷安定性も良好である。更に、印刷後の用紙上の画像の滲みが無く鮮明な画像を得ることが可能である。これらに加え、本発明の上記着色液又は該着色液を含むインクで染色した染色物は、染色濃度が高く、且つ均染性に優れ、高品位な黒色の色相を有する。更に、各種堅牢性に優れ、保存性の優れたフルカラーのインクジェット捺染が可能である。このように、本発明の上記着色液又は該着色液を含むインクは、吐出安定性に極めて優れることから、特にインクジェット捺染インク用として好適である。特に、染色濃度の値が、下記染色濃度評価においてシグマK/Sで表される発色濃度340以上と高く、演色性に極めて優れた黒色となり、均染性に優れたより良好な黒色捺染物が得られるため、上記着色液又は該着色液を含むインクとしてより優れる。
【実施例
【0087】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、実施例により限定されるものではない。実施例において特に断りがない限り、「部」は質量部を、「%」は質量%をそれぞれ意味する。なお、各実施例におけるインクは、いずれも上記着色液に含まれる。また、以下本文中、及び表中の実施例8は参考例1と読み替えるものとする。
【0088】
水不溶性着色剤A~Dに該当する実施例および比較例に用いた着色剤について、DMFに溶解あるいは分散させ、紫外可視分光吸収における極大吸収波長の吸光度が1となるよう濃度調整した溶液を測定した結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
[調製例1:Joncryl 678エマルション液の調製]
25%水酸化ナトリウム(6部)、イオン交換水(54部)、及びプロピレングリコール(20部)の混合物にJoncryl 678(BASF社製)(20部)を投入し、90~120℃に昇温して5時間撹拌することにより、Joncryl 678のエマルション液を得た。
[調製例2:水性分散液1の調製]
水不溶性着色剤としてカヤセットイエローAG(日本化薬株式会社製、C.I.ディスパースイエロー 54、a値は-20)(10部)、ラベリンW-40(クレオソート油スルホン酸ソーダホルマリン重縮合物水溶液、第一工業製薬株式会社製)(15部)、NIKKOL BPS-30(0.8部)、サーフィノール104PG50(サーフィノール104(アセチレングリコール界面活性剤、エアープロダクツジャパン株式会社製)をプロピレングリコールで50%濃度に希釈したもの)(0.2部)、プロキセルGXL(S)(ロンザ社製)(0.1部)、及びイオン交換水(73.9部)からなる混合物に0.2mm径ガラスビーズを加え、サンドミルにて冷却下、約15時間分散処理を行った。得られた液を、ガラス繊維濾紙GC-50(ADVANTEC社製、フィルターの孔径:0.5μm)で濾過することにより、水性分散液1を得た。
[調製例3:水性分散液2の調製]
水不溶性着色剤を市販のC.I.ディスパースオレンジ 25に変更すること以外は調製例2と同様にして、水性分散液2を得た。
[調製例4:水性分散液3の調製]
水不溶性着色剤を市販のC.I.ソルベントオレンジ 60に変更すること以外は調製例2と同様にして、水性分散液3を得た。
[調製例5:水性分散液4の調製]
水不溶性着色剤を市販のC.I.ディスパースブラウン 27(a値は30)に変更すること以外は調製例2と同様にして、水性分散液4を得た。
[調製例6:水性分散液5の調製]
水不溶性着色剤を市販のC.I.ディスパースブルー 359に変更すること以外は調製例2と同様にして、水性分散液5を得た。
[調製例7:水性分散液6の調製]
水不溶性着色剤を市販のC.I.ディスパースブルー 360に変更すること以外は調製例2と同様にして、水性分散液6を得た。
[調製例8:水性分散液7の調製]
水不溶性着色剤としてカヤセットイエローAG(日本化薬株式会社製、C.I.ディスパースイエロー 54)(10部)、上記Joncryl 678のエマルション液(30部)、サーフィノール104PG50(サーフィノール104(アセチレングリコール界面活性剤、エアープロダクツジャパン株式会社製)をプロピレングリコールで50%濃度に希釈したもの)(0.2部)、プロキセルGXL(S)(ロンザ社製)(0.1部)、及びイオン交換水(59.7部)からなる混合物に0.2mm径ガラスビーズを加え、サンドミルにて冷却下、約15時間分散処理を行った。得られた液を、ガラス繊維濾紙GC-50(ADVANTEC社製、フィルターの孔径:0.5μm)で濾過することにより、水性分散液7を得た。
[調製例9:水性分散液8の調製]
水不溶性着色剤を市販のC.I.ディスパースブラウン 27に変更すること以外は調製例8と同様にして、水性分散液8を得た。
[調製例10:水性分散液9の調製]
水不溶性着色剤を市販のC.I.ディスパースブルー 359に変更すること以外は調製例8と同様にして、水性分散液9を得た。
[調製例11:水性分散液10の調製]
水不溶性着色剤を市販のC.I.ディスパースブルー 360に変更すること以外は調製例8と同様にして、水性分散液10を得た。
[調製例12:水性分散液11の調製]
水不溶性着色剤としてカヤセットイエローAG(日本化薬株式会社製、C.I.ディスパースイエロー 54)(10部)、SM-57(東邦化学工業株式会社製、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルサルフェート系分散剤)(10部)、サーフィノール104PG50(サーフィノール104(アセチレングリコール界面活性剤、エアープロダクツジャパン株式会社製)をプロピレングリコールで50%濃度に希釈したもの)(0.2部)、プロキセルGXL(S)(ロンザ社製)(0.1部)、及びイオン交換水(79.7部)からなる混合物に0.2mm径ガラスビーズを加え、サンドミルにて冷却下、約15時間分散処理を行った。得られた液を、ガラス繊維濾紙GC-50(ADVANTEC社製、フィルターの孔径:0.5μm)で濾過することにより、水性分散液11を得た。
[調製例13:水性分散液12の調製]
水不溶性着色剤を市販のC.I.ディスパースブラウン 27に変更すること以外は調製例12と同様にして、水性分散液12を得た。
[調製例14:水性分散液13の調製]
水不溶性着色剤を市販のC.I.ディスパースブルー 359に変更すること以外は調製例12と同様にして、水性分散液13を得た。
[調製例15:水性分散液14の調製]
水不溶性着色剤を市販のC.I.ディスパースブルー 360に変更すること以外は調製例12と同様にして、水性分散液14を得た。
[調製例16:実施例インク、比較例インクの調製]
上記で得られた水性分散液1~14を下記表2に記載の各成分を混合し、30分間攪拌した後、ガラス繊維濾紙GC-50(ADVANTEC社製、フィルターの孔径:0.5μm)で濾過することにより、実施例1から12および、比較例1の各インクをそれぞれ調製した。表中、各成分の数値は、添加した部数を示す。
【0091】
表2中の略号等は、それぞれ以下を示す。
サーフィノール465:日信化学工業社製、ノニオン系界面活性剤
TEA80:トリエタノールアミンの80%水溶液
【0092】
実施例1~12および比較例1の水不溶性着色剤Dの含有率を(D)、水不溶性着色剤Aと水不溶性着色剤Cの合計の含有率を(A+C)、とした場合、式(D)/(A+C)で算出される値は表2の通りである。
【0093】
【表2】
【0094】
上記のようにして調製した各インクを用いて、以下の各評価試験を行った。結果を下記表3に示す。
【0095】
[インクで印刷した中間記録媒体とそれを用いた昇華転写捺染]
調製した各インクを、インクジェットプリンタ(EPSON株式会社製、商品名PX-504A)に充填し、中間記録媒体としてTRANSJET EcoII 8385(95g/m2)を用いて、100%Duty、および40%Dutyの単色ベタ画像を印刷した中間記録媒体をそれぞれ得た。得られた各中間記録媒体の着色液付着面とポリエステル布(帝人トロピカル)とを重ね合わせた後、卓上自動平プレス機(アサヒ繊維機械株式会社製:AF-65TEN)を用いて200℃×30秒の条件にて熱処理することによって、昇華転写染色方法により染色された染色物をそれぞれ得た。得られた各染色物について、下記の評価を行った。
【0096】
[発色性の評価]
得られた各染色物の100%Dutyの染色部分を分光光度計「Ci62(X-rite社製)」を用いて測色し、各染色物の濃度を測定した。測色はD65光源、視野角2°、ステータスTの条件で行った。各染色物の400~700nmにおける反射率Rを測色し、Kubelka-Munkの式:K/S=(1-R)/2RによりK/S値を算出し、更に各波長におけるK/S値の合計であるシグマK/S値を算出した。シグマK/S値が大きい方が、発色濃度が高く、高品質であることを意味する。以下の評価基準に従って評価した。
[評価基準]
S:シグマK/S値が350以上。
A:シグマK/S値が345以上350未満。
B:シグマK/S値が340以上345未満。
C:シグマK/S値が335以上340未満。
D:シグマK/S値が335未満。
[演色性の評価]
得られた各染色物の40%Dutyの染色部分を分光測色計「Ci62(X-rite社製)」を用いて、各染色物の色相L、a、bを測定した。測色は視野角2°、ステータスTの条件を使用して、D65光源とA光源における各L、a、bの値を得た。得られた各光源のL、a、bの値からD65光源とA光源における色差△ED65-Aを下記式(式3)から求めた。

△ED65-A=[(L D65-L )+(a D65-a )+(b D65-b )]0.5 (式3)

上記式の略語は以下を表す。
D65 :D65光源におけるL
:A光源におけるL
D65 :D65光源におけるa
:A光源におけるa
D65 :D65光源におけるb
:A光源におけるb

上記式3で算出される、△ED65-Aの値は、より小さいほうが演色性の影響による色相変化が抑えられ、高品質であることを意味する。以下の評価基準に従って評価した。
[評価基準]
S:色差△ED65-Aの値が1.8未満。
A:色差△ED65-Aの値が1.8以上2.0未満。
B:色差△ED65-Aの値が2.0以上2.2未満。
C:色差△ED65-Aの値が2.2以上2.4未満。
D:色差△ED65-Aの値が2.4以上。
【0097】
【表3】
【0098】
表3の結果から明らかなように、調製した実施例1~12の各インクは、比較例1のインクに対し、いずれも演色性の影響による色相変化を抑える性能に極めて優れ、かつ発色性の高い結果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の着色液は、演色性の影響による色相変化を抑え、かつ、発色性に優れた染色物を得ることがき、各種捺染用インク、特にインクジェット捺染用インクとして要求される印刷適性を保つ事が出来るため、極めて有用である。