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特許7504716上限臨界溶液温度を有する新規なポリイオンコンプレックス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】上限臨界溶液温度を有する新規なポリイオンコンプレックス
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/02 20060101AFI20240617BHJP
   C08L 101/06 20060101ALI20240617BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
C08L101/02
C08L101/06
B01D61/00 500
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020140646
(22)【出願日】2020-08-24
(65)【公開番号】P2022036439
(43)【公開日】2022-03-08
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】尾添 真治
(72)【発明者】
【氏名】重田 優輔
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/188839(WO,A1)
【文献】Changha JU et al.,“Zwitterionic polymers showing upper critical solution temperature behavior as draw solutes for forward osmosis”,RSC Advances,2017年,Vol. 7, No. 89,p.56426-56432,DOI: 10.1039/C7RA10831A
【文献】Dongwook KIM et al.,“Formation of Sulfobetaine-Containing Entirely Ionic PIC (Polyion Complex) Micelles and Their Temperature Responsivity”,Langmuir,2020年08月02日,Vol. 36, No. 34,p.10130-10137,DOI: 10.1021/acs.langmuir.0c01577
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,B01D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が3,000~10,000の水溶性アニオン性ポリマーと重量平均分子量が3,000~10,000の水溶性カチオン性ポリマーからなり、30wt%水溶液が20℃~90℃の上限臨界溶液温度(UCST)を示すポリイオンコンプレックスであって、ポリイオンコンプレックスを構成する全繰り返し構造単位に対する芳香族性繰り返し構造単位の含量が30モル%~55モル%、ポリイオンコンプレックスを構成する全繰り返し構造単位に対するスルホン酸基を有する繰り返し構造単位と四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の合計が45モル%~75モル%であるUCST型ポリイオンコンプレックス。
【請求項2】
前記UCST型ポリイオンコンプレックスに含まれるスルホン酸基と四級アンモニウムカチオン基のモル比が0.80~1.2である、請求項1に記載のUCST型ポリイオンコンプレックス。
【請求項3】
前記芳香族性繰り返し単位が、スチレンスルホン酸残基、ビニルピリジン残基、ビニルピリジニウム残基、ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム残基、スチレン残基、α-メチルスチレン残基、ビニル安息香酸残基及びナフタレンスルホン酸残基からなる群から選ばれる1以上の芳香族性繰り返し構造単位である請求項1又は請求項2に記載のUCST型ポリイオンコンプレックス。
【請求項4】
前記水溶性アニオン性ポリマーに含まれるスルホン酸基を有する繰り返し構造単位が、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ナフタレンスルホン酸からなる群から選ばれる1以上の繰り返し構造単位である請求項1~3のいずれか一項に記載のUCST型ポリイオンコンプレックス。
【請求項5】
前記水溶性カチオン性ポリマーに含まれる四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位が、ビニルピリジン残基、ビニルピリジニウム残基、ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム残基、ジアリルジアルキルアンモニウム残基からなる群から選ばれる1以上の繰り返し構造単位である請求項1~4のいずれか一項に記載のUCST型ポリイオンコンプレックス。
【請求項6】
ポリマー水溶液濃度30wt%において、45℃~75℃のUCSTを示し、ポリマー水溶液濃度40wt%において、20℃~45℃のUCSTを示す請求項1~5のいずれか一項に記載のUCST型ポリイオンコンプレックス。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載したポリイオンコンプレックスを40wt%以上含む正浸透膜水処理システム用の駆動溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正浸透膜法水処理システムの駆動溶液やマイクロカプセルなどの用途で有用な、芳香族成分を必須成分とする新規な上限臨界溶液温度 (UCST) 型ポリイオンコンプレックス、及びその用途としての芳香族成分を必須成分とする新規なポリイオンコンプレックスを利用した正浸透膜法水処理システム用の駆動溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
海水、石油随伴水、工業廃水などを脱塩処理する方法として、正浸透(以下、「FO」と略称することがある。)膜法水処理システムが知られている。FO膜法は、逆浸透膜法のような高圧を負荷する代わりに、駆動溶液(Draw Solution、以下、「DS」ということがある。)と呼ばれる被処理水より数倍高い浸透圧を有する溶液を用いて、被処理水から自発的に水を引き出すことから、省エネルギーの淡水化プロセスとして注目されている(例えば、特許文献1~3参照)。しかし、駆動溶液の性能不足が本システム実用化の妨げとなっている。
駆動溶液の溶質として種々の化合物が提案されているが、上限臨界溶液温度(以下、「UCST」ということがある。)型ポリマーを利用した例は古く、少なくとも1968年には特許が公開されている(例えば、特許文献4参照)。
【0003】
UCST型ポリマーを使用するメリットは、高温の被処理水を淡水化でき、且つ、吸水によって濃度低下した駆動溶液から、冷却(ただし、常温程度が理想である)によって容易にポリマー、つまり元の高濃度の駆動溶液を相分離/再生できる点にある。
すなわち、UCST型ポリマーを駆動溶液として用いたプロセスは以下の通りである。
(1)浸透圧が低い高温の被処理水から浸透圧が高い駆動溶液へ、FO膜を介して水が自発的に浸透(移動)する。
(2)水の浸透に伴って駆動溶液の濃度が低下し、浸透圧(吸水力)が低下する。
(3)濃度低下した駆動溶液をUCST以下まで冷却することにより、淡水と元の高濃度の駆動溶液に相分離/再生させる。
【0004】
上記プロセスを実現するためには、高い浸透圧、適正なUCST型相分離性(例えば、ポリマー濃度30wt%~40wt%において90℃~20℃のUCSTを示す)及び高い耐加水分解性を兼ね備えたポリマーが不可欠だが、ほとんど知られていなかった。そこで本発明者らは鋭意研究し、ポリイオンコンプレックスを形成する特定組成の両性ポリマー(ポリアンホライト)が、上記要求物性を満たすポリマーと成り得ることを見出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-194240号公報
【文献】特開2018-23933号公報
【文献】国際公開特許2020/045525号
【文献】米国特許第3,386,912号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ポリイオンコンプレックス(以下、PICと略記する)を形成する上記特定組成の両性ポリマーは、芳香族アニオン性モノマーであるスチレンスルホン酸と芳香族カチオン性モノマーを主成分とする共重合体であり、実用上解決すべき課題があった。
すなわち、(1)上記アニオン性及びカチオン性モノマーは、交互共重合性(1:1モルで交互的に共重合する性質)が強いため、共重合できるポリマー組成に大きな制約があった。また、(2)当該両性ポリマーからなるPICは、高濃度では広い温度域で水に溶解するが、低濃度では加熱しても水や極性有機溶媒に溶解しないため、高濃度で両性ポリマーを重合した後、反応釜を水で洗浄しようとすると器壁にPICが析出、付着し、洗浄が困難になるなどの課題があった。
このように、ポリマー濃度30wt%~40wt%において20℃~90℃のUCSTを有するPICであって、共重合できるポリマー組成の幅が広く、且つ、重合後の釜洗浄が容易なPICが求められていた。
【0007】
一般に、アニオン性ポリマーの水溶液とカチオン性ポリマーの水溶液を混合すると、強い静電相互作用により、水に不溶なPICが瞬時に生成することが古くから知られている(例えば、特開昭48-1094号公報、Alan S.; Journal of Physical Chemistry,Vo.65,No.10,1765~1773頁,1961年 )。
特開昭48-1094号公報には、分子量3000程度のポリマーで形成されるPICが、強電解質低分子塩及び親水性有機溶媒を含む特定組成の水溶液に溶解する旨記載されている。当該公報にはUCST相平衡や相分離性に関する具体的な説明はない。しかしながら、実施例で記載されたPICは、繰り返し構造単位が全て芳香族性のため、分子量が小さくても凝集力が強く、駆動溶液に適用できるような相分離性を示さない。
【0008】
このような課題の下、本発明の目的は、ポリマー水溶液濃度30wt%において20℃~90℃のUCSTを示す新規なポリイオンコンプレックスおよびこのポリイオンコンプレックスを含む正浸透膜水処理システム用の駆動溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、特定の分子量、特定量の芳香族性繰り返し構造単位、スルホン酸基含有繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基含有繰り返し構造単位を有する水溶性アニオン性ポリマーと水溶性カチオン性ポリマーから形成されるポリイオンコンプレックス(以下、PICと略称することがある)が、高い浸透圧と長期使用可能な耐加水分解性を兼ね備えたUCST型ポリマーとなり得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明のポリイオンコンプレックスは、上記した水溶性アニオン性ポリマーと水溶性カチオン性ポリマーの混合によって製造できるため、共重合できるポリマー組成の幅が広く、夫々のポリマーは水溶性であるため、重合後の反応釜洗浄は容易となる。
【0010】
すなわち本発明は、以下の発明に係る。
[1]重量平均分子量が3,000~10,000の水溶性アニオン性ポリマーと水溶性カチオン性ポリマーからなり、30wt%水溶液が20℃~90℃の上限臨界溶液温度(UCST)を有するポリイオンコンプレックス(PIC)であって、PICを構成する全繰り返し構造単位に対する芳香族性繰り返し構造単位の含量が30モル%~55モル%、PICを構成する全繰り返し構造単位に対するスルホン酸基を有する繰り返し構造単位と四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の合計が45モル%~75モル%であるUCST型ポリイオンコンプレックス。
[2]前記UCST型ポリイオンコンプレックスに含まれるスルホン酸基と四級アンモニウムカチオン基のモル比が0.80~1.2である、[1]に記載のUCST型ポリイオンコンプレックス。
[3]前記芳香族性繰り返し単位が、スチレンスルホン酸残基、ビニルピリジン残基、ビニルピリジニウム残基、ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム残基、スチレン残基、α-メチルスチレン残基、ビニル安息香酸残基、ナフタレンスルホン酸残基からなる群から選ばれる1以上の芳香族性繰り返し構造単位である[1]又は[2]に記載のUCST型ポリイオンコンプレックス。
[4]前記水溶性アニオン性ポリマーに含まれるスルホン酸基含有繰り返し構造単位が、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ナフタレンスルホン酸からなる群から選ばれる1以上の繰り返し単位である[1]~[3]の何れかに記載のUCST型ポリイオンコンプレックス。
[5]前記水溶性カチオン性ポリマーに含まれる四級アンモニウムカチオン基含有繰り返し構造が、ビニルピリジン残基、ビニルピリジニウム残基、ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム残基、ジアリルジアルキルアンモニウム残基からなる群から選ばれる1以上の繰り返し単位である[1]~[4]の何れかに記載のUCST型ポリイオンコンプレックス。
[6]ポリマー水溶液濃度30wt%において45℃~75℃のUCSTを示し、ポリマー水溶液濃度40wt%において20℃~45℃のUCSTを示す[1]~[5]の何れかに記載のUCST型ポリイオンコンプレックス。
[7]前記[1]~[6]に記載したポリイオンコンプレックスを40wt%以上含む正浸透膜水処理システム用の駆動溶液。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリイオンコンプレックス(以下、PICと略記することがある。)は、水溶液濃度30wt%において20℃~90℃のUCSTを示す新規なPICである。
本発明のPICは、共重合可能な組成幅が広く、且つ重合後の釜洗浄が容易な水溶性アニオン性ポリマーと水溶性カチオン性ポリマーから簡便に製造できるため、正浸透膜法水処理システムの駆動溶液やマイクロカプセルなどの用途で利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1に記載したPICの相分離温度をプロットしたものであり、X軸(横軸)は水溶液中のPIC濃度(単位wt%)を表し、Y軸(縦軸)はUCST(単位℃)を表す。比較例は30wt%水溶液で20℃~90℃のUCSTを示さないためプロットしていない。
図2】実施例1に記載したPICの40wt%水溶液の25℃での外観を示す写真であり、均一透明溶液である。
図3】実施例1に記載したPICの30wt%水溶液を加熱溶解後、25℃まで冷却し、静置した後の外観を示す写真であり、二相に分離している。黒い矢印は二相の界面を指している。
図4】実施例8に記載したPICの30wt%水溶液の60℃付近での外観を示す写真であり、均一透明溶液である。
図5】実施例8に記載したPICの30wt%水溶液を加熱溶解した後、25℃まで冷却し、静置した後の外観を示す写真であり、二相に分離している。黒い矢印は二相の界面を指している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
本発明のUCST型ポリイオンコンプレックス(以下、ポリイオンコンプレックスを「PIC」と略記することがある)は、重量平均分子量が3,000~10,000の水溶性アニオン性ポリマーと水溶性カチオン性ポリマーを混合することにより形成されるPICであって、PICを構成する全繰り返し構造単位に対する芳香族性繰り返し構造単位の含量は30モル%~55モル%であり、PICを構成する全繰り返し構造単位に対するスルホン酸基を有する繰り返し構造単位と四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の合計が45モル%~75モル%である。
【0014】
PICを構成する各ポリマーの分子量と組成を特定範囲内に制御することにより、水溶液中のPIC濃度30wt%において20℃~90℃のUCSTを示すものである。より好ましくは、水溶液中のPIC濃度30%において45℃~75℃のUCSTを示し、PIC濃度40wt%において20℃~45℃のUCSTを示すものである。
各ポリマーの重量平均分子量が3,000より小さいとUCSTが低過ぎ、水に溶解可能なPIC濃度及び温度域が広くなり過ぎることがある。これに対し各ポリマーの重量平均分子量が10,000より大きいとUCSTが高過ぎ、水に溶解可能なPIC濃度及び温度域が狭くなり過ぎることがある。このため、各ポリマーの重量平均分子量は3,000~10,000が好ましく、相分離性と溶液粘度のバランスから3,000~6,000がより好ましい。
【0015】
後述するように、通常のPICはポリマー間の相互作用である凝集力が強過ぎて上記した条件ではUCSTを示さない。しかしながら、本発明のPICは、PICを構成するポリマー組成と分子量、すなわち、凝集力の適正化により、UCSTを示すものである。
より具体的には、アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマー間の静電作用と疎水相互作用の強さ及び両者のバランスによって、PICの相分離性が決まる。
【0016】
すなわち、本発明のPICを構成する全繰り返し単位に対する芳香族性繰り返し構造単位の含量は30モル%~55モル%であることが好ましい。芳香族性繰り返し構造単位の含量が30モル%より少ないと、PICの凝集力における疎水相互作用の寄与が小さくなり過ぎることがある。逆に、55モル%を超えると、疎水相互作用による凝集力が強くなり過ぎることがある。このため、目標とする相分離性が発現しないことを避けるため、好ましくは、30モル%~50モル%である。
また、ポリイオンコンプレックスを構成する全繰り返し構造単位に対するスルホン酸基を有する繰り返し構造単位と四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の合計は45モル%~75モル%であることが好ましい。スルホン酸基と四級アンモニウムカチオン基の合計が45モル%より少ないと、PICの凝集力における静電相互作用の寄与及びPICの水溶性が低くなり過ぎることがある。逆に、75モル%を超えると、静電相互作用による凝集力自体が強くなり過ぎることがある。このため、目標とする相分離性が発現しないことを避けるため、好ましくは50モル%~70モル%である。
また、本発明のPICに含まれるスルホン酸基含有繰り返し構造単位と四級アンモニウムカチオン基含有繰り返し構造単位のモル比は0.80~1.2であることが好ましい。スルホン酸基含有繰り返し構造単位と四級アンモニウムカチオン基含有繰り返し構造単位のモル比が0.80未満又は1.2を超えると、PICの余剰電荷によって、PICの水溶性が強くなり過ぎ、目標とする相分離性が発現しないことがある。
【0017】
本発明で用いる水溶性アニオン性ポリマーは、上記した特定の分子量を有し、特定量のスルホン酸基又はスルホン酸基と芳香族性繰り返し構造単位を有するポリマーである。このポリマーは常温の広い濃度域で水に溶解できる。
【0018】
スルホン酸基を導入するためのモノマーとしては、スチレンスルホン酸(塩)、ビニルスルホン酸(塩)、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(塩)、アリルスルホン酸(塩)、メタリルスルホン酸(塩)、ビニルナフタレンスルホン酸(塩)が挙げられる。工業的な入手性と重合性を考慮すると、スチレンスルホン酸(塩)、ビニルスルホン酸(塩)、ナフタレンスルホン酸(塩)がより好ましい。
なお、本明細書において、例えば「スチレンスルホン酸(塩)」とは、「スチレンスルホン酸」及び/又は「スチレンスルホン酸の塩」のことを意味し、以下も同じように解釈される。
【0019】
芳香族性繰り返し構造単位を導入するためのモノマーとしては、スチレンスルホン酸(塩)、ビニルナフタレンスルホン酸(塩)、ビニル安息香酸(塩)、スチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、フロロスチレン、シアノスチレン、アミノスチレン、α-メチルスチレン、ビニルピリジン、四級化ビニルピリジン、ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム塩などが挙げられる。工業的な入手性と重合性を考慮すると、スチレンスルホン酸(塩)、ビニル安息香酸(塩)、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルピリジンがより好ましい。
【0020】
また、水溶性アニオン性ポリマー中のスルホン酸基や芳香族性繰り返し構造単位の含有量及び水溶性を調整するために、上記モノマーの他、上記したモノマーと共重合可能なモノマーを共重合することができる。
その内、共重合性を考慮すると、メタクリル酸(塩)、アクリル酸(塩)、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、メタクリルアミド、アクリルアミド、マレイン酸(塩)、イタコン酸(塩)、ビニルホスホン酸(塩)、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、アクリロニトリルが好ましく、さらに耐加水分解性を考慮すると、メタクリル酸(塩)、アクリル酸(塩)、マレイン酸(塩)、イタコン酸(塩)、ビニルホスホン酸(塩)など、加水分解性の部位を含まないモノマーが好ましい。
本発明の水溶性アニオン性ポリマー中のスルホン酸基含有繰り返し構造単位の量は、ポリマーの水溶性が維持され、かつ上記条件を満たす範囲であれば特に制限はないが、通常、10モル%以上であり、好ましくは20モル%以上である。
【0021】
本発明で用いる水溶性カチオン性ポリマーは、上記した特定分子量を有し、特定量の四級アンモニウムカチオン基、又は四級アンモニウムカチオン基と芳香族性繰り返し構造単位を有するポリマーであり、常温の広い濃度域で水に溶解するポリマーである。
四級アンモニウムカチオン基を導入するためのモノマーとしては、2-ビニルピリジン(塩)、4-ビニルピリジン(塩)などのビニルピリジン(塩)、四級化ビニルピリジン、ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム塩、ジアリルジアルキルアンモニウム塩、ジメチルアミノエチルアクリルアミド及び又はその四級塩、ジメチルアミノエチルメタクリルアミド及び又はその四級塩、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド及び又はその四級塩、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド及び又はその四級塩などが挙げられる。耐加水分解性を考慮すると、上記の内、ビニルピリジン(塩)、四級化ビニルピリジン、ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム塩、ジアリルジアルキルアンモニウム塩が好ましい。また、ビニルピリジン重合体や共重合を、スルホン酸基を有するポリマー(例えば、上記したアニオン性ポリマーからアルカリ金属などの対カチオンを除去したもの)で中和することにより、水溶化することもできる。
【0022】
水溶性カチオン性ポリマーに、芳香族性繰り返し構造単位を導入するためのモノマーとしては、ビニルピリジン(塩)、四級化ビニルピリジン、ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム塩、スチレンスルホン酸(塩)、ビニルナフタレンスルホン酸(塩)、ビニル安息香酸、スチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、フロロスチレン、シアノスチレン、アミノスチレン、α-メチルスチレンが挙げられる。
これらの内、工業的な入手性と重合性を考慮すると、ビニルピリジン(塩)、四級化ビニルピリジン、ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム塩、スチレンスルホン酸(塩)、ナフタレンスルホン酸(塩)、スチレン、α-メチルスチレンがより好ましい。
【0023】
また、水溶性カチオン性ポリマー中の四級アンモニウムカチオン基や芳香族性繰り返し構造単位の含有量及び水溶性を調整するために、上記モノマーの他、上記したモノマーと共重合可能なモノマーを共重合することができる。
その内、共重合性を考慮するとメタクリル酸(塩)、アクリル酸(塩)、マレイン酸(塩)、イタコン酸(塩)、アリルスルホン酸(塩)、メタリルスルホン酸(塩)、ビニルスルホン酸(塩)、ビニルホスホン酸(塩)、アリルホスホン酸(塩)、メタリルホスホン酸(塩)、二酸化イオウ、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、メタクリルアミド、アクリルアミド、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、アクリロニトリルが好ましく、さらに耐加水分解性を考慮すると、メタクリル酸(塩)、アクリル酸(塩)、マレイン酸(塩)、イタコン酸(塩)、アリルスルホン酸(塩)、メタリルスルホン酸(塩)、ビニルスルホン酸(塩)、ビニルホスホン酸(塩)、アリルホスホン酸(塩)、メタリルホスホン酸(塩)、二酸化イオウがより好ましい。
本発明の水溶性カチオン性ポリマー中の四級アンモニウムカチオン基及び四級化前の塩基性基含有繰り返し構造単位の量は、カチオン性ポリマーの水溶性が維持され、且つ上記条件を満たす範囲であれば特に制限はないが、通常、10モル%以上であり、好ましくは20モル%以上である。
【0024】
上記したように、本発明のPICは、PICを構成する全繰り返し単位に対して特定量の芳香族性繰り返し構造単位、スルホン酸基含有繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基含有繰り返し構造単位を含むため、使用する水溶性アニオン性ポリマー及び水溶性カチオン性ポリマーの組成に応じて、両者の混合比を調整する。
本発明のUCST型PICは高濃度の無機塩や親水性の有機溶媒を含まなくても、純水に溶解し、少なくともPIC濃度30wt%の水溶液において20℃~90℃のUCSTを示すため、FO膜法水処理システムの駆動溶液に用いる溶質やマイクロカプセル用の材料として期待できる。
【0025】
次に本発明のUCST型PICの製造方法について詳しく説明する。
【0026】
先ずUCST型PICに含まれる水溶性アニオン性ポリマーの製造法について、詳しく説明する。
例えば、適当な溶媒にスチレンスルホン酸(塩)などの強酸型の芳香族性モノマー、ポリマー組成を調整するためのスチレンなどの疎水性モノマーやメタクリル酸(塩)などの親水性モノマーを溶解してモノマー溶液を調製し、反応器に仕込んだ後、重合開始剤及び連鎖移動剤(分子量調節剤ともいう。)を仕込んで重合する一括重合法、上記モノマー溶液、連鎖移動剤及び重合開始剤を反応容器に供給しながら重合する逐次添加法が挙げられる。これらの内でも、重合熱の除去性が優れる点で逐次添加法が好ましく用いられる。また重合法としては、一般的なラジカル重合でも良いが、狭分子量分布化によって、よりシャープな相分離性を付与することが可能なリビングラジカル重合法がより好ましい。
【0027】
溶媒としては、上記モノマー混合物を均一に溶解できるものであれば特に制限はないが、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、メトキシエタノール、エトキシエタノール等のセロソルブ類、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどの他、これらの混合溶媒が挙げられる。
重合速度や転化率を高めるためには、モノマー濃度は可能な限り高い方が好ましいが、重合熱の除去性を考慮すると、20wt%~60wt%が好ましい。
【0028】
上記ラジカル重合開始剤としては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などのパーオキサイド系化合物、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリックアシッド)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1’-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]}ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルメタン)、4,4’-ジアゼンジイルビス(4-シアノペンタン酸)・α-ヒドロ-ω-ヒドロキシポリ(オキシエチレン)重縮合物などのアゾ化合物等があげられる。
【0029】
これらの内でも、リビングラジカル重合における分子量制御性の観点から、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1’-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]}ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート等の水溶性アゾ開始剤が好ましい。
また、経済性の観点から上記したパーオキサイド系重合開始剤を使用する場合、必要に応じて、アスコルビン酸、エリソルビン酸、アニリン、三級アミン、ロンガリット、ハイドロサルファイト、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウムなどの還元剤を併用しても良い。
ラジカル重合開始剤の使用量は、全モノマーに対し、通常、0.010モル%~10モル%であり、目的物の純度を考慮すると、0.010モル%~5.0モル%がより好ましい。
【0030】
上記分子量調節剤は、特に限定されるものではないが、例えば、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオサリチル酸、3-メルカプト安息香酸、4-メルカプト安息香酸、チオマロン酸、ジチオコハク酸、チオマレイン酸、チオマレイン酸無水物、ジチオマレイン酸、チオグルタール酸、システイン、ホモシステイン、5-メルカプトテトラゾール酢酸、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸、3-メルカプトプロパン-1,2-ジオール、メルカプトエタノール、1 ,2-ジメチルメルカプトエタン、2-メルカプトエチルアミン塩酸塩、6-メルカプト-1-ヘキサノール、2-メルカプト-1-イミダゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、システイン、N-アシルシステイン、グルタチオン、N-ブチルアミノエタンチオール、N,N-ジエチルアミノエタンチオールなどのメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルチウラムジスルフィド、2,2’-ジチオジプロピオン酸、3,3’-ジチオジプロピオン酸、4,4’-ジチオジブタン酸、2,2’-ジチオビス安息香酸などのジスルフィド類、ヨードホルムなどのハロゲン化炭化水素、ベンジルジチオベンゾエート、2-シアノプロプ-2-イルジチオベンゾエート、4-シアノ-4-(チオベンゾイルチオ)ペンタン酸、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニルペンタン酸、S,S-ジベンジルトリチオカーボネート、3-((((1-カルボキシエチル)チオ)カーボノチオイル)チオ)プロパン酸、シアノメチル(3,5-ジメチル-1H-ピラゾール)カルボジチオエートなどのチオカルボニルチオ化合物、α-ヨードベンジルシアニド、1-ヨードエチルベンゼン、エチル2-ヨード-2-フェニルアセテート、2-ヨード-2-フェニル酢酸、2-ヨードプロパン酸、2-ヨード酢酸などの沃化アルキル化合物、ジフェニルエチレン、p-クロロジフェニルエチレン、p-シアノジフェニルエチレン、α-メチルスチレンダイマー、有機テルル化合物、イオウなどが挙げられる。これらの中で、チオカルボニルチオ化合物や沃化アルキル化合物を用いたリビングラジカル重合が分子量制御性の面で好ましい。
【0031】
重合温度は通常のラジカル重合と同様、10℃~100℃であり、より好ましくは40℃~90℃で、重合転化率の観点から、さらに好ましくは60℃~90℃である。
重合時間は、2時間~72時間が好ましく、さらに好ましくは2時間~24時間である。逐次添加法にて重合する場合、分子量調節剤を含むモノマー混合物と重合開始剤の連続添加を行う時間は、通常1時間~4時間である。
【0032】
上記したリビングラジカル重合法の場合、ドーマント種から可逆的にラジカルを生成しながら重合が進行し、暴走反応が起こり難いため、逐次添加重合法よりも全一括添加重合の方が、重合転化率や分子量制御性の面で好ましい場合もある。
【0033】
本発明で用いる水溶性アニオン性ポリマーは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される重量平均分子量が3,000~10,000ダルトン(Da)であることが好ましく、相分離性と溶液粘度のバランスを考慮すると3,000~6,000がより好ましい。所望の分子量が得られるよう、分子量調節剤や開始剤の添加量及びモノマーの添加速度を調整する。
また、分子量分布は狭いほど相分離性が優れるため、重量平均分子量(「Mw」と略称することがある。)を数平均分子量(「Mn」と略称することがある。)で除した値(すなわち、Mw/Mn)は小さいほど良い。この値は1.0~3.0の範囲であればよく、1.0~2.0がより好ましく、1.0~1.5がさらに好ましい。
【0034】
分子量分布は上記したリビングラジカル重合法などの手法で狭く出来るが、一般的なラジカル重合法で重合後、水溶性カチオン性ポリマーと混合して、低濃度でPICを析出させた後、透析、精密濾過などの方法で分子量分布を狭くすることが出来る。
【0035】
次にUCST型PICに含まれる水溶性カチオン性ポリマーの製造法について、詳しく説明する。
例えば、適当な溶媒にジアリルジアルキルアミン塩などの四級アンモニウムカチオン基含有モノマー、ポリマー組成を調整するためのスチレンなどの疎水性モノマーやマレイン酸(塩)などの水溶性モノマーを溶解してモノマー溶液を調製し、反応器に仕込んだ後、重合開始剤及び連鎖移動剤(「連鎖移動剤」を「分子量調節剤」ということもある。)を仕込んで重合する一括重合法、上記モノマー溶液、連鎖移動剤及び重合開始剤を反応容器に供給しながら重合する逐次添加法が挙げられる。これらの内でも、重合熱の除去性が優れる点で逐次添加法が好ましく用いられる。
その他は、上記した水溶性アニオン性ポリマーの製造法と同様である。
【0036】
また、ジアリルジアルキルアミン塩などの四級アンモニウムカチオン基含有モノマーの代わりに、ビニルピリジンなどの塩基性モノマーを共重合した後、無機酸やポリスルホン酸などで中和したり、臭化エチル、臭化メチル、沃化メチル、沃化エチルなどで四級塩化することにより製造することもできる。
【0037】
次に、本発明のUCST型PICの製造方法について、詳しく説明する。
撹拌機付きの容器に本発明のアニオン性ポリマー水溶液とカチオン性ポリマー水溶液を、ポリマーが析出しない濃度及び温度で投入、混合する。あるいは、アルカリ金属などの対カチオンを除去した強酸性アニオン性ポリマー水溶液にビニルピリジンなどの塩基性ポリマーを投入し、混合する。この際、PICの相分離性は、PICの組成に極めて鋭敏であるため、PICに含まれる芳香族性繰り返し構造単位、スルホン酸基含有繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基含有繰り返し構造単位の含量及びモル比が上記した範囲内になるよう混合する。
【0038】
また、本発明のUCST型PICは、UCST型相分離性を有するため、高濃度でのPICの加熱溶解と低濃度での冷却分離を繰返すことによって、重合開始剤や分子量調整剤などに由来する超低分子量成分などの凝集/相分離し難い成分を取り除くことが出来る。また、このほか、PICに含まれる少なくとも2種の対イオンからなる低分子塩を取り除くことが出来る。
FO膜法淡水化システムの駆動溶液として利用する場合は、脱塩が目的であるため、低分子の塩を除去しておくのが好ましい。その他、低分子の塩を除去する方法としては、本発明で用いる水溶性アニオン性ポリマーをカチオン交換樹脂で処理してアルカリ金属塩を除去し、一方、水溶性カチオン性ポリマーをアニオン交換樹脂で処理してハロゲンアニオンを除去した後、両者を混合する方法がある。さらに、PICの相分離性を調整するため、無機塩や極性溶媒を添加しても良い。
【0039】
前述の背景技術に記載したように、駆動溶液としてUCST型ポリマーの水溶液を用いる正浸透膜水処理システムでは、高浸透圧を有する高濃度ポリマー水溶液が必要である。すなわち、一般的な運転温度40℃~80℃において少なくとも40wt%以上の溶解度が必要である。システムの稼働によりポリマー水溶液が吸水し、例えば、30wt%程度まで濃度(浸透圧)低下したところで、UCSTより低い温度まで冷却することにより、高濃度ポリマー水溶液と淡水に分離できる。従って、30wt%ポリマー水溶液で20℃~90℃のUCSTを有する本発明のPICは、上記駆動溶液の溶質として有用である。
【実施例
【0040】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
【0041】
実施例において、以下の測定法を用いた。
(1)アニオン性ポリマーのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定
共重合体を下記溶離液に溶解して0.05~1wt%溶液を調製し、東ソー株式会社製HLC-8320を用いて以下の条件でGPC測定を行った。モノマー由来のピーク面積(a)と重合物由来のピーク面積(b)から、下式により重合物の転化率を算出した。
重合物の転化率(面積%)=100×[1-{a/(a+b)}]
カラム:TSKガードカラムAW-H/TSK AW-6000/TSK AW-3000/TSK AW-2500
溶離液:硫酸ナトリウム水溶液(0.2mol/L)/アセトニトリル=65/35(体積比)溶液
流速・注入量・カラム温度:0.6ml/min、注入量:10μl、カラム温度:40℃
検出器:UV検出器(波長230nm)またはRI検出器
検量線:標準ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(創和科学製)を用いて、ピークトップ分子量と溶出時間から作成した。
【0042】
(2)カチオン性ポリマーのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定
共重合体を下記溶離液に溶解して0.05~0.1wt%溶液を調製し、東ソー株式会社製HLC-8320を用いて以下の条件でGPC測定を行った。モノマー由来のピーク面積(a)と重合物由来のピーク面積(b)から、下式により重合物の転化率を算出した。
重合物の転化率(面積%)=100×[1-{a/(a+b)}]
カラム:TSKガードカラムPWxl-CP/TSK PWxl-CP6000/TSK PWxl-CP2500
溶離液:硫酸ナトリウム水溶液(0.2M)/アセトニトリル=65/35(体積比)溶液、又は0.1M硫酸ナトリウム水溶液
流速・注入量・カラム温度:0.6ml/min、注入量:10μl、カラム温度:40℃
検出器:RI検出器
検量線:標準ポリエチレングリコール(Mp400~40,000、アルドリッチアルドリッチジャパン合同会社製)を用いて、ピークトップ分子量と溶出時間から作成した。
【0043】
(3)PIC水溶液のUCST性の観察
ガラスビンにポリマーと水を採取し、所定濃度のPIC水溶液を調製した。内容物を磁気撹拌子で撹拌しながら、オイルバスで加熱した。加熱溶解して透明溶液になった場合は冷却後、再加熱し、再び透明溶液になった温度をUCSTとした。
【0044】
(4)ポリマー水溶液の浸透圧測定
ポリマー水溶液の水分活性値から下記の換算式を用いて浸透圧(bar)へ換算した〔Divina D.;Separation and Purification Technology 138 (2014) 92-97参照〕。
【数1】
水分活性は、水分活性測定装置(アイネクス株式会社製 AquaLab Series 4TDL)を用いて50℃で測定した。測定は3回行い、平均値を浸透圧の計算に用いた。尚、測定誤差を抑えるため、上記水分活性装置を50℃の恒温槽内に設置して測定した。
【0045】
<使用試薬>
実施例に記載の化合物は下記を使用したが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
NaSS:パラスチレンスルホン酸ナトリウム(純度98%、東京化成工業社製)
SVS:ビニルスルホン酸ナトリウム(25%水溶液、東京化成工業社製)
SMS:メタリルスルホン酸ナトリウム(純度98%、東京化成工業社製)
VBTAC:塩化ビニルベンジルトリメチルアンモニウム(純度99%、シグマアルドリッチ社製)
4VP:4-ビニルピリジン(純度96%、富士フイルム和光純薬株式会社製)
2VP:2-ビニルピリジン(純度97%、富士フイルム和光純薬株式会社製)
DADMAC:ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(60%水溶液、東京化成工業株式会社製)
MA:マレイン酸(純度99%、富士フイルム和光純薬株式会社製)
MAH:無水マレイン酸(純度99%、富士フイルム和光純薬株式会社製)
MAA:メタクリル酸(純度99%、富士フイルム和光純薬株式会社製)
VBA:パラビニル安息香酸(純度97%、富士フイルム和光純薬株式会社製)
St:スチレン(純度99%、富士フイルム和光純薬株式会社製)
VPD:N-ビニルピロリドン(純度99%、東京化成工業株式会社製)
V-50:2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド(純度97%、富士フイルム和光純薬株式会社製)
H2O2:過酸化水素水(純度30%、富士フイルム和光純薬株式会社製)
TGL:3-メルカプト-1,2-プロパンジオール(純度97%、富士フイルム和光純薬株式会社製)
TMA:チオリンゴ酸(純度98%、東京化成工業株式会社製)
PS-1:ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(20wt%水溶液、重量平均分子量2.1万、東ソー・ファインケム株式会社製)
P-4VP・HCl:ポリ4-ビニルピリジン塩酸塩(シグマアルドリッチ社製、重量平均分子量6万)
P-DADMAC:ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(ニットーボーメディカル株式会社製、PAS-H-1L、重量平均分子量8.5千)
BM-1429:RAFT試薬(長瀬産業株式会社製)
【0046】
合成例1:水溶性アニオン性ポリマー(A)(以下、「P-NaSS」と略記する。)
三方コック付きのガラスフラスコにNaSS(40.00g、190.11ミリモル)、チオグリセロール(1.80g、16.14ミリモル)及びイオン交換水160.05gを採取し、アスピレーター減圧脱気/窒素導入の反復操作により脱気し、滴下用のモノマー水溶液を調製した。また、ラジカル開始剤V-50(1.35g、4.83ミリモル)及びイオン交換水7.00gを採取し、上記と同様に脱気し、滴下用の開始剤水溶液を調製した。
窒素導入管及び冷却コンデンサーを取付けた500mlガラスフラスコに、上記方法で脱気したイオン交換水20.00gを仕込み、85℃の湯浴で加熱した。ここへ、マグネチックスターター攪拌下、上記モノマー水溶液を220分かけて、上記開始剤水溶液を250分かけて滴下しながら、85℃で合計6時間重合した。GPCで測定した転化率は100%だった。重合溶液をロータリーエバポレーターで濃縮後、攪拌しながら1Lのアセトンへ滴下してポリマーを回収した。湿潤ポリマーを110℃で10時間真空乾燥し、水溶性アニオン性ポリマー(A)を得た。
GPCで測定した重量平均分子量は3100だった。また、水分活性から求めた49.9wt%水溶液の浸透圧は118.9barであり、海水の浸透圧(約28bar)よりも十分高いことを確認した。仕込み組成と重合転化率から算出した当該ポリマー組成は表1に示した。
【0047】
合成例2:水溶性アニオン性ポリマー(B)(以下、「P-SS」と略記する。)
合成例1で合成した水溶性アニオン性ポリマー(A)を強酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、IR-120B)カラムで処理して水溶性アニオン性ポリマー(B)を得た。ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光法)で求めた49.9wt%水溶液中のナトリウムイオン濃度は53ppm、浸透圧は84.3barであり、ナトリウムイオンが少なくても浸透圧は十分高いことを確認した。仕込み組成と重合転化率から算出した当該ポリマー組成は表1に示した。
【0048】
合成例3:水溶性アニオン性ポリマー(C)(以下、「NaSS-co-MAA」と略記する。)
三方コック付きのガラスフラスコにNaSS(20.00g、95.05ミリモル)、メタクリル酸(8g、92.0ミリモル)、チオグリセロール(1.80g、16.14ミリモル)及びイオン交換水110.30gを採取し、アスピレーター減圧脱気/窒素導入の反復操作により脱気し、滴下用のモノマー水溶液を調製した。また、ラジカル開始剤V-50(1.55g、5.54ミリモル)及びイオン交換水7.00gを採取し、上記と同様に脱気し、滴下用の開始剤水溶液を調製した。
窒素導入管及び冷却コンデンサーを取付けた500mlガラスフラスコに、上記の方法で脱気したイオン交換水20.00gを仕込み、85℃の湯浴で加熱した。ここへ、マグネチックスターター攪拌下、上記モノマー水溶液を200分かけて、上記開始剤水溶液を230分かけて滴下しながら、85℃で合計6時間重合した。GPCで測定した転化率は100%だった。重合溶液をロータリーエバポレーターで濃縮後、ガラスシャーレに広げて110℃で10時間真空乾燥し、水溶性アニオン性ポリマー(C)を得た。
GPCで測定した重量平均分子量は3800だった。また、水分活性から求めた49.9wt%水溶液の浸透圧は90.5barであり、海水の浸透圧(約28bar)よりも十分高いことを確認した。仕込み組成と重合転化率から算出した当該ポリマー組成は表1に示した。
【0049】
合成例4:水溶性アニオン性ポリマー(D)(以下、「SS-co-MAA」と略記する。)
合成例3で合成した水溶性アニオン性ポリマー(C)を強酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、IR-120B)カラムで処理して水溶性アニオン性ポリマー(D)を得た。ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光法)で求めた50.01wt%水溶液中のナトリウムイオン濃度は30ppm、浸透圧は76.1barであり、ナトリウムイオンが少なくても浸透圧は十分高いことを確認した。当該ポリマー組成は表1に示した。
【0050】
合成例5:水溶性アニオン性ポリマー(E)(以下、「NaSS-co-St」と略記する。)
三方コック付きのガラスフラスコにNaSS(10.00g、47.53ミリモル)、スチレン(5.00g、47.53ミリモル)、チオグリセロール(0.50g、4.48ミリモル)、イオン交換水90.05g及びイソプロパノール75.02gを採取し、アスピレーター減圧脱気/窒素導入の反復操作により脱気し、滴下用のモノマー水溶液を調製した。また、ラジカル開始剤V-50(1.50g、5.37ミリモル)及びイオン交換水7.00gを採取し、上記と同様に脱気し、滴下用の開始剤水溶液を調製した。
窒素導入管及び冷却コンデンサーを取付けた500mlガラスフラスコに、上記の方法で脱気したイオン交換水10.00g及びイソプロパノール8.00gを仕込み、85℃の湯浴で加熱した。ここへ、マグネチックスターター攪拌下、上記モノマー水溶液を200分かけて、上記開始剤水溶液を240分かけて滴下しながら、85℃で合計6時間重合した。その後、V-50の1wt%水溶液10.00gを10時間掛けて滴下し、85℃で合計24時間重合した。GPCで測定した転化率は100%だった。重合溶液をロータリーエバポレーターで濃縮後、ガラスシャーレに広げて110℃で10時間真空乾燥し、水溶性アニオン性ポリマー(E)を得た。
GPCで測定した重量平均分子量は6100、また、水分活性から求めた49.8wt%水溶液の浸透圧は73.0barであり、海水の浸透圧(約28bar)よりも十分高いことを確認した。仕込み組成と重合転化率から算出した当該ポリマー組成は表1に示した。
【0051】
合成例6:水溶性アニオン性ポリマー(F)(以下、「NaSS-co-St-VBA」と略記する。)
三方コック付きのガラスフラスコに1N-水酸化ナトリウム水溶液39.20g(39.20ミリモル)とビニル安息香酸(6.00g、39.28ミリモル)を採取して溶解後、NaSS(15.00g、71.29ミリモル)、スチレン(4.00g、38.02ミリモル)、チオグリセロール(1.01g、9.06ミリモル)、イオン交換水70.00g及びイソプロパノール85.00gを採取し、アスピレーター減圧脱気/窒素導入の反復操作により脱気し、滴下用のモノマー水溶液を調製した。また、ラジカル開始剤V-50(1.80g、6.44ミリモル)及びイオン交換水7.00gを採取し、上記と同様に脱気し、滴下用の開始剤水溶液を調製した。
窒素導入管及び冷却コンデンサーを取付けた500mlガラスフラスコに、上記の方法で脱気したイオン交換水8.00gとイソプロパノール8.00gの混合溶媒を仕込み、85℃の湯浴で加熱した。ここへ、マグネチックスターター攪拌下、上記モノマー水溶液を200分かけて、上記開始剤水溶液を240分かけて滴下しながら、85℃で合計6時間重合した。その後、V-50の1wt%水溶液10.00gを10時間掛けて滴下し、85℃で合計16時間重合した。GPCで測定した転化率は100%だった。重合溶液をロータリーエバポレーターで濃縮後、ガラスシャーレに広げて110℃で10時間真空乾燥し、水溶性アニオン性ポリマー(F)を得た。
GPCで測定した重量平均分子量は3700、また、水分活性から求めた50.00wt%水溶液の浸透圧は95.0barであり、海水の浸透圧(約28bar)よりも十分高いことを確認した。仕込み組成と重合転化率から算出した当該ポリマー組成は表1に示した。
【0052】
合成例7:水溶性アニオン性ポリマー(G)(以下、「NaSS-co-VBA」と略記する。)
三方コック付きのガラスフラスコに1N-水酸化ナトリウム水溶液95.00g(95.00ミリモル)とビニル安息香酸(14.00g、91.66ミリモル)を採取して溶解後、NaSS(20.00g、95.05ミリモル)、チオグリセロール(1.80g、16.14ミリモル)及びイオン交換水75.00gを採取し、アスピレーター減圧脱気/窒素導入の反復操作により脱気し、滴下用のモノマー水溶液を調製した。また、ラジカル開始剤V-50(1.55g、5.54ミリモル)及びイオン交換水7.00gを採取し、上記と同様に脱気し、滴下用の開始剤水溶液を調製した。
窒素導入管及び冷却コンデンサーを取付けた500mlガラスフラスコに、上記の方法で脱気したイオン交換水15.00gを仕込み、85℃の湯浴で加熱した。ここへ、マグネチックスターター攪拌下、上記モノマー水溶液を200分かけて、上記開始剤水溶液を230分かけて滴下しながら、85℃で合計6時間重合した。GPCで測定した転化率は100%だった。重合溶液をロータリーエバポレーターで濃縮後、ポリマー溶液をアセトンに注いでポリマーを回収し、110℃で10時間真空乾燥して水溶性アニオン性ポリマー(G)を得た。
GPCで測定した重量平均分子量は4000、また、水分活性から求めた50.00wt%水溶液の浸透圧は123.3barであり、海水の浸透圧(約28bar)よりも十分高いことを確認した。仕込み組成と重合転化率から算出した当該ポリマー組成は表1に示した。
【0053】
合成例8:水溶性アニオン性ポリマー(H)(以下、「P-SVS」と略記する。)
窒素導入管及び冷却コンデンサーを取付けた500mlガラスフラスコに、25%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液(31.29g、60.13ミリモル)及び過硫酸アンモニウム(0.030g、0.13ミリモル)を採取し、上記の方法で脱気した後、マグネチックスターター攪拌下、50℃で20時間重合した。GPCで測定した転化率は100%だった。重合溶液をロータリーエバポレーターで濃縮後、メタノールに注いでポリマーを回収後、110℃で10時間真空乾燥し、水溶性アニオン性ポリマー(H)を得た。
GPCで測定した重量平均分子量は4500、また、水分活性から求めた50.00wt%水溶液の浸透圧は141.0barであり、海水の浸透圧(約28bar)よりも十分高いことを確認した。仕込み組成と重合転化率から算出した当該ポリマー組成は表1に示した。
【0054】
合成例9:水溶性アニオン性ポリマー(I)(以下、「P-VS」と略記する。)
合成例8で合成した水溶性アニオン性ポリマー(G)を強酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、IR-120B)カラムで処理して水溶性アニオン性ポリマー(I)を得た。ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光法)で求めた49.9wt%水溶液中のナトリウムイオン濃度は35ppm、浸透圧は98.1barであり、ナトリウムイオンが少なくても浸透圧は十分高いことを確認した。当該ポリマー組成は表1に示した。
【0055】
合成例10:水溶性アニオン性ポリマー(J)SVS-NVP共重合体
窒素導入管及び冷却コンデンサーを取付けた500mlガラスフラスコに、25%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液(26.20g、50.35ミリモル)、-ビニルピロリドン(7.50g、50.12ミリモル)及びイオン交換水10.00gを採取し、上記の方法で脱気した後、30%過酸化水素水(1.5ml)及び濃アンモニア(0.5ml)を加え、マグネチックスターター攪拌下、50℃で6時間重合した。GPCで測定した転化率は100%だった。重合溶液をロータリーエバポレーターで濃縮後、ガラスシャーレに広げて110℃で10時間真空乾燥し、水溶性アニオン性ポリマー(J)を得た。
GPCで測定した重量平均分子量は6300、また、水分活性から求めた50.00wt%水溶液の浸透圧は98.7barであり、海水の浸透圧(約28bar)よりも十分高いことを確認した。仕込み組成と重合転化率から算出した当該ポリマー組成は表1に示した。
【0056】
合成例11:水溶性カチオン性ポリマー(K)(以下、「DADMAC-co-MA」と略記する。)
窒素導入管及び冷却コンデンサーを取付けた500mlガラスフラスコに、60%ジアリルジメチルアンモニウムクロリド水溶液(80.3g、298.01ミリモル)、マレイン酸(35.00g、298.53ミリモル)及びイオン交換水153.2gを採取し、上記の方法で脱気した後、50℃の温浴で加温した。内温が50℃に到達したところで、25wt%過硫酸アンモニウム水溶液(12.00g、14.46ミリモル)を添加し、重合を開始した。その後、10時間毎に25wt%過硫酸アンモニウム水溶液(12.00g×6回、14.46ミリモル×6回)を添加し、合計72時間重合した。GPCで残存モノマーを測定したところ、1%未満だった。重合溶液をロータリーエバポレーターで濃縮後、ガラスシャーレに広げて110℃で10時間真空乾燥し、水溶性カチオン性ポリマー(K)を得た。
GPCで測定した重量平均分子量は6500、また、水分活性から求めた50.00wt%水溶液の浸透圧は96.5barであり、海水の浸透圧(約28bar)よりも十分高いことを確認した。仕込み組成と重合転化率から算出した当該ポリマー組成は表1に示した。
【0057】
合成例12:水溶性カチオン性ポリマー(L)(以下、「DADMAC-co-SMS」と略記する。)
窒素導入管及び冷却コンデンサーを取付けた500mlガラスフラスコに、60%ジアリルジメチルアンモニウムクロリド水溶液(66.70g、247.54ミリモル)、メタリルスルホン酸ナトリウム(15.00g、92.95ミリモル)及びイオン交換水98.00gを採取し、上記の方法で脱気した後、50℃の温浴で加温した。内温が50℃に到達したところで、25wt%過硫酸アンモニウム水溶液(12.00g、14.46ミリモル)を添加し、重合を開始した。その後、10時間毎に25wt%過硫酸アンモニウム水溶液(12.00g×6回、14.46ミリモル×6回)を添加し、合計72時間重合した。GPCで残存モノマーを測定したところ、1%未満だった。重合溶液をロータリーエバポレーターで濃縮後、ガラスシャーレに広げて110℃で10時間真空乾燥し、水溶性カチオン性ポリマー(L)を得た。
GPCで測定した重量平均分子量は7000、また、水分活性から求めた50.00wt%水溶液の浸透圧は103.2barであり、海水の浸透圧(約28bar)よりも十分高いことを確認した。仕込み組成と重合転化率から算出した当該ポリマー組成は表1に示した。
【0058】
合成例13:水溶性カチオン性ポリマー(M)(以下、「2VP・HCl-co-St」と略記する。)
窒素導入管及び冷却コンデンサーを取付けた500mlガラスフラスコに、2-ビニルピリジン(10.00g、92.26ミリモル)、メタノール90mlを採取した後、氷冷下、1N-塩酸水溶液(93ml、93.00ミリモル)を加えてピリジニウム化した。その後、スチレン(9.70g、92.20ミリモル)とチオリンゴ酸(2.50g、16.32ミリモル)を添加して、上記の方法で脱気した後、過硫酸アンモニウム(1.10g、4.77ミリモル)を添加し、60℃で6重合した。GPCで求めた転化率は100%だった。重合溶液をロータリーエバポレーターで濃縮後、ガラスシャーレに広げて110℃で10時間真空乾燥し、水溶性カチオン性ポリマー(M)を得た。
GPCで測定した重量平均分子量は4500、また、水分活性から求めた50.00wt%水溶液の浸透圧は70.1barであり、海水の浸透圧(約28bar)よりも十分高いことを確認した。仕込み組成と重合転化率から算出した当該ポリマー組成は表1に示した。
【0059】
合成例14:カチオン性ポリマー(N)(以下、「P-2VP」と略記する。)
窒素導入管及び冷却コンデンサーを取付けた500mlガラスフラスコに、2-ビニルピリジン(50.00g、470.80ミリモル)、メタノール125ml、イオン交換水125ml及び30%過酸化水素水(37.40g、329.90ミリモル)を採取した後、上記の方法で脱気した後、70℃で24重合した。重合溶液をロータリーエバポレーターで濃縮後、ガラスシャーレに広げて105℃で10時間真空乾燥し、カチオン性ポリマー(N)を得た。GPCで測定した重量平均分子量は4000だった。
【0060】
合成例15:水溶性カチオン性ポリマー(O)(以下、「P-2VP・HCl」と略記する。)
合成例14で得たカチオン性ポリマー(N)10.00gを1N塩酸水溶液 95.00gに加えて溶解し、水溶性カチオン性ポリマー(O)を得た。水分活性から求めた50.00wt%水溶液の浸透圧は85.4barであり、海水の浸透圧(約28bar)よりも十分高いことを確認した。仕込み組成と重合転化率から算出した当該ポリマー組成は表1に示した。
【0061】
合成例16:水溶性カチオン性ポリマー(P)(DADMAH-co-MAと略記)
窒素導入管及び冷却コンデンサーを取付けた500mlガラスフラスコに、60%ジアリルジメチルアンモニウムクロリド水溶液(80.30g、298.01ミリモル)、マレイン酸(35.00g、298.53ミリモル)及びイオン交換水153.02gを採取し、上記の方法で脱気した後、60℃の温浴で加温した。内温が60℃に到達したところで、25wt%過硫酸アンモニウム水溶液(17.14g、18.59ミリモル)を添加し、重合を開始した。その後、10時間毎に25wt%過硫酸アンモニウム水溶液(17.14g×6回、18.59ミリモル×6回)を添加し、合計72時間重合した。GPCで残存モノマーを測定したところ、1%未満だった。重合溶液をロータリーエバポレーターで濃縮後、ガラスシャーレに広げて110℃で10時間真空乾燥し、水溶性カチオン性ポリマーを得た。GPCで測定した重量平均分子量は3500だった。
上記水溶性カチオン性ポリマー(A)を強塩基性陰イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、IRA-400J)カラムで処理した後、強酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、IR-120B)カラムで処理して水溶性カチオン性ポリマー(P)を得た。49.8wt%水溶液の浸透圧は72.3barであり、浸透圧は十分高いことを確認した。仕込み組成と重合転化率から算出した当該ポリマー組成は表1に示した。
【表1】
【0062】
比較例1
合成例8で得た水溶性アニオン性ポリマー(H)と市販の水溶性カチオン性ポリマー(市販品2)の混合比及びイオン交換水の量を変えてPIC水溶液を調製し、目視によりUCSTを調べた。表2及び表11に示したように、PIC濃度30wt%以上では20℃で均一溶液となり、15wt%では90℃以下のUCSTは見られなかった。即ち、PICに含まれる全繰り返し構造単位に対して、スルホン酸基を有する繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の総和が100モル%と高いにも関わらず、高濃度での水への溶解度が高いことが明らかである。芳香環を含まないため、疎水相互作用によるポリマー間の凝集力が足りないためと考えられる。一方、低濃度では、遮蔽効果の低下によって、ポリマー間の静電相互作用が急激に強くなったためと考えられる。
【0063】
比較例2
合成例8で得た水溶性アニオン性ポリマー(H)と合成例11で得た水溶性カチオン性ポリマー(K)の混合比及びイオン交換水の量を変えてPIC水溶液を調製し、目視によりUCSTを調べた。表2及び表11に示したように、少なくともPIC濃度15wt%~40wt%では20℃で均一溶液となり、20℃~90℃においてUCSTが見られなかった。即ち、PICに含まれる全繰り返し構造単位に対して、スルホン酸基を有する繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の総和が67モル%と高いにも関わらず、水への溶解度が高いことが明らかである。芳香族性単位を含まないため、疎水相互作用によるポリマー間の凝集力が足りないためと考えられる。
【0064】
【表2】
【0065】
比較例3
合成例8で得た水溶性アニオン性ポリマー(H)と合成例15で得た水溶性カチオン性ポリマー(O)の混合比を固定し、イオン交換水の量を変えてPIC水溶液を調製し、目視によりUCSTを調べた。表3及び表11に示したように、少なくともPIC濃度15wt%~40wt%では、20℃~90℃においてUCSTが見られなかった。即ち、PICに含まれる全繰り返し構造単位に対して、スルホン酸基を有する繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の総和が100モル%と高く、且つ芳香族性基を含有する繰り返し構造単位の含量が50モル%と高いため、ポリマー間の凝集力が強過ぎたためと考えられる。
【0066】
比較例4
合成例1で得た水溶性アニオン性ポリマー(A)と合成例15で得た水溶性カチオン性ポリマー(O)の混合比を固定し、イオン交換水の量を変えてPIC水溶液を調製し、目視によりUCSTを調べた。表3及び表11に示したように、少なくともPIC濃度15wt%~40wt%では、PICが塊状で析出した状態であり、20℃~90℃においてUCSTは見られなかった。即ち、PICに含まれる全繰り返し構造単位に対して、スルホン酸基を有する繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の総和が100モル%と高く、且つ芳香族性基を含有する繰り返し構造単位の含量が100モル%と高いため、ポリマー間の凝集力が強過ぎたためと考えられる。
【0067】
【表3】
【0068】
比較例5
市販の水溶性アニオン性ポリマー(市販品1、PS-1)と合成例11で得た水溶性カチオン性ポリマー(K)の混合比を固定し、イオン交換水の量を変えてPIC水溶液を調製し、目視によりUCSTを調べた。表4及び表11に示したように、PIC濃度40wt%では、50℃のUCSTが見られたが、低濃度では20℃~90℃においてUCSTが見られなかった。即ち、PICに含まれる全繰り返し構造単位に対して、スルホン酸基を有する繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の総和は67.5モル%であり、且つ芳香族性基を含有する繰り返し構造単位の含量は35.0モル%であるが、水溶性アニオン性ポリマーの分子量が2.1万(21,000)と大きいため、ポリマー間の凝集力が強くなり過ぎたためと考えられる。ポリマー濃度によって急激にUCSTが上昇すると、少なくともFO膜法水処理システムの駆動溶液としては使えない。駆動溶液が僅かに吸水して濃度低下しただけで、PICが析出し、水処理システム内を閉塞させてしまうからである。
【0069】
比較例6
合成例10で得た水溶性アニオン性ポリマー(J)と市販の水溶性カチオン性ポリマー(市販品3)の混合比を固定し、イオン交換水の量を変えてPIC水溶液を調製し、目視によりUCSTを調べた。表4及び表11に示したように、少なくともPIC濃度15wt%~40wt%では、20℃~90℃においてUCSTは見られなかった。即ち、PICに含まれる全繰り返し構造単位に対して、スルホン酸基を有する繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の総和は66.6モル%であり、且つ芳香族性基を含有する繰り返し構造単位の含量は33モル%であるが、水溶性カチオン性ポリマーの分子量が6万(60,000)と大きいため、ポリマー間の凝集力が強くなり過ぎたためと考えられる。
【0070】
【表4】
【0071】
比較例7
合成例9で得た水溶性アニオン性ポリマー(I)と合成例(11)で得た水溶性カチオン性ポリマー(K)の混合比を固定し、イオン交換水の量を変えてPIC水溶液を調製し、目視によりUCSTを調べた。表5及び11に示したように、少なくともPIC濃度15wt%以上では20℃で均一溶液となり、20℃~90℃においてUCSTは見られなかった。即ち、PICに含まれる全繰り返し構造単位に対して、スルホン酸基を有する繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の総和が67モル%と高いにも関わらず、水への溶解度が高いことが明らかである。芳香環を含まないため、疎水相互作用によるポリマー間の凝集力が足りないためと考えられる。
【0072】
比較例8
合成例9で得た水溶性アニオン性ポリマー(I)と市販の水溶性カチオン性ポリマー(市販品2)の混合比を固定し、イオン交換水の量を変えてPIC水溶液を調製し、目視によりUCSTを調べた。表5及び表11に示したように、少なくとも浸透圧がPIC濃度30wt%以上では20℃で均一溶液となり、15wt%では90℃以下でUCSTは見られなかった。即ち、PICに含まれる全繰り返し構造単位に対して、スルホン酸基を有する繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の総和が100モル%と高いにも関わらず、水への溶解度が高いことが明らかである。芳香族性単位を含まないため、疎水相互作用によるポリマー間の凝集力が足りないためと考えられる。一方、低濃度では、遮蔽効果の低下、あるいは対イオン放出によるエントロピー増大効果によって、ポリマー間の静電相互作用が急激に強くなったためと考えられる。
【0073】
【表5】
【0074】
実施例1
合成例1で得た水溶性アニオン性ポリマー(A)と合成例11で得た水溶性カチオン性ポリマー(K)の混合比を固定し、イオン交換水の量を変えてPIC水溶液を調製し、目視によりUCSTを調べた。表6及び表11に示したように、PIC濃度15wt%~40wt%において、22℃~85℃のUCSTが見られた。即ち、PICに含まれる全繰り返し構造単位に対して、スルホン酸基を有する繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の総和は67.5モル%であり、且つ芳香族性基を含有する繰り返し構造単位の含量は35モル%であり、さらにPICを構成する各ポリマーの分子量が適正範囲内であるため、ポリマーの凝集力における静電相互作用と疎水相互作用のバランスが適正となり、このようなUCST型相分離性が発現したと考えられる。
【0075】
尚、図2は上記した40wt%水溶液の25℃での外観を示す写真であり、均一溶液であることが判る。一方、図3は上記した30wt%水溶液の25℃での外観を示す写真であり、図中の黒い矢印に二相の界面が認められるように、二相に分離していることが判る。
この30wt%水溶液を振り混ぜながら加熱して行くと、46℃で均一溶液となり、冷却して行くと白濁し、しばらく静置すると図3のように二相分離する。黒い矢印は二相の界面を指している。
【0076】
実施例2
合成例3で得た水溶性アニオン性ポリマー(C)と市販の水溶性カチオン性ポリマー(市販品2)の混合比及びイオン交換水の量を変えてPIC水溶液を調製し、目視によりUCSTを調べた。表6及び表11に示したように、実施例1と同様、少なくともPIC濃度30wt%~40wt%において、30℃~65℃のUCSTが見られた。即ち、PICに含まれる全繰り返し構造単位に対して、スルホン酸基を有する繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の総和は67.4モル%であり、且つ芳香族性基を含有する繰り返し構造単位の含量は33.7モル%であり、さらにPICを構成する各ポリマーの分子量が適正範囲内であるため、ポリマーの凝集力における静電相互作用と疎水相互作用のバランスが適正となり、このようなUCST型相分離性が発現したと考えられる。PIC濃度15wt%では、90℃以下にUCSTは見られなかったが、遮蔽効果が低下したため、及び水溶性カチオン性ポリマーの分子量がやや高かったためと考えられる。
【0077】
【表6】
【0078】
図1には、上記表1の結果と対応させ、実施例1に記載した水溶液中のPIC濃度のもとでの相分離温度となるUCST温度をプロットしたものである。比較例1~8では、比較例5のPIC濃度(全ポリマー濃度と記載)が40wt%の場合に50℃となった以外はいずれも20℃~90℃の範囲内で溶解温度(UCST)を示さないためプロットしていない。
図1から分かるように、本発明に係る実施例1ではPIC濃度(全ポリマー濃度)15wt%、30wt%、40wt%のいずれの濃度であっても20℃~90℃の範囲の溶解温度(UCST)を示し、本発明の効果を奏することが明らかである。
【0079】
実施例3
合成例5で得た水溶性アニオン性ポリマー(E)と合成例12で得た水溶性カチオン性ポリマー(L)の混合比を固定し、イオン交換水の量を変えてPIC水溶液を調製し、目視によりUCSTを調べた。表7及び表11に示したように、少なくともPIC濃度30wt%~40wt%において、40℃~73℃のUCSTが見られた。即ち、PICに含まれる全繰り返し構造単位に対して、スルホン酸基を有する繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の総和は75.0モル%であり、且つ芳香族性基を含有する繰り返し構造単位の含量は50.1モル%であり、さらにPICを構成する各ポリマーの分子量が適正範囲内であるため、ポリマーの凝集力における静電相互作用と疎水相互作用のバランスが適正となり、このようなUCST型相分離性が発現したと考えられる。PIC濃度15wt%では、90℃以下にUCSTは見られなかったが、遮蔽効果の低下、及び水溶性アニオン性ポリマーの芳香族性が高かったためと考えられる。
【0080】
実施例4
合成例6で得た水溶性アニオン性ポリマー(F)と合成例11で得た水溶性カチオン性ポリマー(K)の混合比を固定し、イオン交換水の量を変えてPIC水溶液を調製し、目視によりUCSTを調べた。表7及び表11に示したように、PIC濃度15wt%~40wt%において、35℃~85℃のUCSTが見られた。即ち、PICに含まれる全繰り返し構造単位に対して、スルホン酸基を有する繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の総和は48.9モル%であり、且つ芳香族性基を含有する繰り返し構造単位の含量は51.7モル%であり、さらにPICを構成する各ポリマーの分子量が適正範囲内であるため、ポリマーの凝集力における静電相互作用と疎水相互作用のバランスが適正となり、このようなUCST型相分離性が発現したと考えられる。
【0081】
【表7】
【0082】
実施例5
合成例7で得た水溶性アニオン性ポリマー(G)と合成例11で得た水溶性カチオン性ポリマー(K)の混合比を固定し、イオン交換水の量を変えてPIC水溶液を調製し、目視によりUCSTを調べた。表8及び表11に示したように、PIC濃度15wt%~40wt%において、36℃~85℃のUCSTが見られた。即ち、PICに含まれる全繰り返し構造単位に対して、スルホン酸基を有する繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の総和は50.4モル%であり、且つ芳香族性基を含有する繰り返し構造単位の含量は50.1モル%であり、さらにPICを構成する各ポリマーの分子量が適正範囲内であるため、ポリマーの凝集力における静電相互作用と疎水相互作用のバランスが適正となり、このようなUCST型相分離性が発現したと考えられる。
【0083】
実施例6
合成例10で得た水溶性アニオン性ポリマー(J)と合成例13で得た水溶性カチオン性ポリマー(M)の混合比を固定し、イオン交換水の量を変えてPIC水溶液を調製し、目視によりUCSTを調べた。表8及び表11に示したように、PIC濃度15wt%~40wt%において、41℃~85℃のUCSTが見られた。即ち、PICに含まれる全繰り返し構造単位に対して、スルホン酸基を有する繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の総和は50.1モル%であり、且つ芳香族性基を含有する繰り返し構造単位の含量は48.8モル%であり、さらにPICを構成する各ポリマーの分子量が適正範囲内であるため、ポリマーの凝集力における静電相互作用と疎水相互作用のバランスが適正となり、このようなUCST型相分離性が発現したと考えられる。
【0084】
【表8】
【0085】
実施例7
合成例2で得た水溶性アニオン性ポリマー(B)と合成例11で得た水溶性カチオン性ポリマー(K)の混合比を1.18に上げて固定し、イオン交換水の量を変えてPIC水溶液を調製し、目視によりUCSTを調べた。表9及び11に示したように、PIC濃度15wt%~40wt%において、26℃~85℃のUCSTが見られた。即ち、PICに含まれる全繰り返し構造単位に対して、スルホン酸基を有する繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の総和は68.5モル%であり、且つ芳香族性基を含有する繰り返し構造単位の含量は37.1モル%であり、さらにPICを構成する各ポリマーの分子量が適正範囲内であるため、ポリマーの凝集力における静電相互作用と疎水相互作用のバランスが適正となり、このようなUCST型相分離性が発現したと考えられる。
【0086】
実施例8
合成例3で得た水溶性アニオン性ポリマー(C)と市販の水溶性カチオン性ポリマー(市販品2)の混合比を0.81へ下げて固定し、イオン交換水の量を変えてPIC水溶液を調製し、目視によりUCSTを調べた。表9及び11に示したように、少なくともPIC濃度30wt%~40wt%において、40℃~77℃のUCSTが見られた。即ち、PICに含まれる全繰り返し構造単位に対して、スルホン酸基を有する繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の総和は69.8モル%であり、且つ芳香族性基を含有する繰り返し構造単位の含量は31.3モル%であり、さらにPICを構成する各ポリマーの分子量が適正範囲内であるため、ポリマーの凝集力における静電相互作用と疎水相互作用のバランスが適正となり、このようなUCST型相分離性が発現したと考えられる。PIC濃度15wt%では、90℃以下にUCSTは見られなかったが、水溶性カチオン性ポリマーの分子量がやや高かったため、及び遮蔽効果の低下や対イオン放出によるエントロピー増大効果によると考えられる。
【0087】
尚、図4は上記した30wt%水溶液の60℃付近の外観を示す写真であり、均一溶液であることが判る。一方、図5は当該溶液を冷却し、しばらく静置したときの25℃の外観を示す写真であり、図中の黒い矢印に二相の界面が認められるように、二相に分離していることが判る。
【0088】
ここで、上記したエントロピー効果について考察する。例えば、スルホン酸ナトリウム(Na)系ポリマーと四級アンモニウムクロリド(Cl)系ポリマーとを水中で混合すると、ポリマー同士で凝集する。対イオンであるNaとClはポリマーから離れて水溶液中に拡散する方がエントロピー増大の点で有利であり、特にポリマーの低濃度域では、溶媒のより広い空間にNaとClが拡散した方が、エントロピー的に一層有利となる。ポリマーは元々エントロピーが大きいため、特に低濃度域では溶解によるエントロピー増大効果が小さいため、凝集する傾向が強まると考えられる。
また、遮蔽効果について考察する。ポリマーの高濃度域では、各ポリマー近傍のNaやCl、及び分子量調節剤や重合開始剤などに由来する超低分子量成分の濃度が増加する。即ち、反対電荷を有する相手が増えることによる電荷の遮蔽効果によって、各ポリマー間の静電相互作用(凝集力)が低下すると考えられる。
【0089】
【表9】
【0090】
実施例9
合成例4で得た水溶性アニオン性ポリマー(D)と合成例14で得たカチオン性ポリマー(N)の混合比を固定し、イオン交換水の量を変えてPIC水溶液を調製し、目視によりUCSTを調べた。表10及び11に示したように、少なくともPIC濃度30wt%~40wt%において、38℃~75℃のUCSTが見られた。即ち、PICに含まれる全繰り返し構造単位に対して、スルホン酸基を有する繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の総和は69.8モル%であり、且つ芳香族性基を含有する繰り返し構造単位の含量は69.8モル%であり、さらにPICを構成する各ポリマーの分子量が適正範囲内であるため、ポリマーの凝集力における静電相互作用と疎水相互作用のバランスが適正となり、このようなUCST型相分離性が発現したと考えられる。PIC濃度15wt%では、90℃以下にUCSTは見られなかったが、ポリマー及び塩化ナトリウム濃度が低く、遮蔽効果が弱かったためと考えられる。
【0091】
実施例10
合成例2で得た水溶性アニオン性ポリマー(B)と合成例16で得たカチオン性ポリマー(P)の混合比を固定し、イオン交換水の量を変えてPIC水溶液を調製し、目視によりUCSTを調べた。表10及び表11に示したように、少なくともPIC濃度30wt%~40wt%において、75~46℃のUCSTが見られた。即ち、PICに含まれる全繰り返し構造単位に対して、スルホン酸基を有する繰り返し構造単位及び四級アンモニウムカチオン基を有する繰り返し構造単位の総和は66.7モル%であり、且つ芳香族性基を含有する繰り返し構造単位の含量は66.7モル%であり、さらにPICを構成する各ポリマーの分子量が適正範囲内であるため、ポリマーの凝集力における静電相互作用と疎水相互作用のバランスが適正となり、このようなUCST型相分離性が発現したと考えられる。実施例7と比較してUCSTが高くなったが、ポリマー及び塩化ナトリウム濃度が低く、遮蔽効果が弱かったためと考えられる。
【0092】
【表10】
【0093】
以上の実施例1~10では、PIC濃度(全ポリマー濃度)30wt%、40wt%のいずれの濃度であっても20℃~90℃の範囲の溶解温度(UCST)を示している。また、実施例1、4~7についてはPIC濃度15wt%であっても20℃~90℃の範囲の溶解温度(UCST)を示している。
このことから、本発明に係るアニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーより形成されるポリイオンコンプレックスについて、各イオン性ポリマーの組成と分子量、及び両者の混合比を適切に選ぶことで、20℃~90℃の範囲の溶解温度(UCST)を示すことができることが分かる。
【0094】
【表11】
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の新規なポリイオンコンプレックスは、加水分解性の部位を含まず、且つ高い浸透圧を有するポリマーからなり、ポリマー濃度30wt%において、20℃~90℃の上限臨界溶液温度(UCST)を示すため、正浸透膜法水処理システムの駆動溶液の他、マイクロカプセル、バイオセパレーション、人工筋肉、熱光学光スイッチ、分散剤など、広範な用途への利用が期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5