(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】断熱部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 7/027 20190101AFI20240617BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20240617BHJP
F16L 59/02 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
B32B7/027
B32B5/18
F16L59/02
(21)【出願番号】P 2020142823
(22)【出願日】2020-08-26
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】伊東 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】片山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】金原 輝佳
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-118488(JP,A)
【文献】特開2020-044677(JP,A)
【文献】特開2020-078896(JP,A)
【文献】特許第5389921(JP,B2)
【文献】特開2019-032027(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038769(WO,A1)
【文献】特許第6145948(JP,B2)
【文献】特許第7223600(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
F16L 59/00-59/22
C09J 1/00-5/10;9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一断熱層と、
該第一断熱層に積層される第二断熱層と、
該第二断熱層に積層される熱反射層と、
該第二断熱層と該熱反射層との間に介在し、接着成分と難燃剤と
から形成される難燃接着層と、
を備え、
該第二断熱層は、複数の粒子が連結して骨格をなし、内部に細孔を有し、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する多孔質構造体と、水を溶媒とする第二水性バインダーと、
から形成され、
該難燃接着層における該難燃剤の含有量は、該難燃接着層全体を100質量%とした場合の50質量%以上85質量%以下であり、
該第一断熱層と該第二断熱層とは、該第二断熱層に含有される該第二水性バインダーにより接着され、
該第二断熱層と該熱反射層とは、該難燃接着層により接着されることを特徴とする断熱部材。
【請求項2】
前記難燃接着層の前記接着成分は、水を溶媒とする第一水性バインダーを有する請求項1に記載の断熱部材。
【請求項3】
前記第一水性バインダーおよび前記第二水性バインダーは、バインダー成分として樹脂またはゴムを有するエマルジョン状のバインダーである請求項2に記載の断熱部材。
【請求項4】
前記第一水性バインダーおよび前記第二水性バインダーは、同一である請求項2または請求項3に記載の断熱部材。
【請求項5】
前記難燃剤は、リン系難燃剤である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の断熱部材。
【請求項6】
前記第二断熱層に対する前記熱反射層の剥離力は、1.0N/25mm以上である請求項1ないし請求項
5のいずれかに記載の断熱部材。
【請求項7】
前記第二断熱層における前記第二水性バインダーの含有量は、該第二断熱層の全体を100体積%とした場合の4.0体積%以上20体積%以下である請求項1ないし請求項
6のいずれかに記載の断熱部材。
【請求項8】
前記第二断熱層は、さらに多糖類を有する請求項1ないし請求項
7のいずれかに記載の断熱部材。
【請求項9】
前記多孔質構造体は、複数のシリカ粒子が連結して骨格をなすシリカエアロゲルである請求項1ないし請求項
8のいずれかに記載の断熱部材。
【請求項10】
前記熱反射層の反射率は、入射光の波長が780nm以上2500nm以下の領域で80%以上である請求項1ないし請求項
9のいずれかに記載の断熱部材。
【請求項11】
前記熱反射層は、金属層を有する請求項1ないし請求項
10のいずれかに記載の断熱部材。
【請求項12】
前記熱反射層は、前記金属層に積層される樹脂層を有する請求項
11に記載の断熱部材。
【請求項13】
前記熱反射層において、前記樹脂層が前記第二断熱層に接着される請求項
12に記載の断熱部材。
【請求項14】
前記第一断熱層は、不織布または発泡体からなる請求項1ないし請求項
13のいずれかに記載の断熱部材。
【請求項15】
請求項1に記載の断熱部材の製造方法であって、
前記第一断熱層に、前記多孔質構造体および前記第二水性バインダーを有する断熱塗料を塗布して塗膜を形成する断熱塗料塗布工程と、
前記熱反射層に、前記接着成分および前記難燃剤を有する接着塗料を塗布して塗膜を形成する接着塗料塗布工程と、
該第一断熱層と該熱反射層とを、形成された該塗膜同士が接触するように重ね合わせ、二つの該塗膜を硬化させて前記第二断熱層および前記難燃接着層を形成する硬化工程と、
を有することを特徴とする断熱部材の製造方法。
【請求項16】
請求項1に記載の断熱部材の製造方法であって、
前記第一断熱層に、前記多孔質構造体および前記第二水性バインダーを有する断熱塗料を塗布して該断熱塗料の塗膜を形成する断熱塗料塗布工程と、
該断熱塗料の該塗膜の表面に、前記接着成分および前記難燃剤を有する接着塗料を塗布して該接着塗料の塗膜を形成する接着塗料塗布工程と、
該第一断熱層における該接着塗料の該塗膜に前記熱反射層を重ね合わせ、該断熱塗料および該接着塗料の二つの該塗膜を硬化させて前記第二断熱層および前記難燃接着層を形成する硬化工程と、
を有することを特徴とする断熱部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率が小さい多孔質構造体を用いた断熱材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車載部品、住宅用建材、産業機器などには、従来より熱流制御を目的として種々の断熱部材が使用されている。例えば、ハイブリッド車、電気自動車などの電動車においては、電力消費率(電費)を向上させて、走行距離を延ばすことが求められる。現状では、電気自動車の電池エネルギーのうちの50%程度は空調関連で失われるため、電費向上には、内装部品の軽量化に加えて断熱性を向上させて、空調の熱損失を低減することが必要になる。また、電気機器や電子機器などにおいては、筐体内の限られた狭いスペースに配置できるよう、薄くて断熱性が高い断熱部材が要求される。さらに用途によっては、断熱性に加えて難燃性も要求される場合がある。
【0003】
断熱部材としては、シリカエアロゲルを使用したものが知られている(例えば、特許文献1~5参照)。シリカエアロゲルは、シリカ微粒子が連結して骨格をなし、10~50nm程度の大きさの細孔構造を有する多孔質材料である。シリカエアロゲルは、熱伝導率が小さいため、部材の断熱性を高めるのに有用な材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-155402号公報
【文献】特表2014-502305号公報
【文献】特開平8-174740号公報
【文献】国際公開第2017/038769号
【文献】特開2018-118488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、エアロゲル含有粒子およびバインダーの混合物が不織布(バッティング)に含浸されてなる可撓性絶縁構造体が記載されている。しかし、エアロゲルを含む層だけでは断熱性は充分ではなく、不織布に担持されたエアロゲル含有粒子が脱落しやすいという問題もある。また、特許文献1の請求項3に記載されている形態のように、エアロゲルを含んだ混合物(スラリー)が不織布の厚さ方向全体に含浸されると、不織布内の空隙が消失する。これにより、熱の伝達方法は主に熱伝導になり、断熱性の向上効果が小さくなる。特許文献1の段落[0060]には、混合物に難燃剤を配合できることが記載されている。しかし、難燃剤を配合した分だけエアロゲルの配合比率が低下するため、断熱性の低下を招く。
【0006】
特許文献2には、結合剤およびエアロゲルを含む複合材料が記載されており、段落[0061]には、複合材料は難燃剤を含んでもよいことが記載されている。しかし、この場合も特許文献1の場合と同様に、難燃剤を配合した分だけエアロゲルの配合比率が低下するため、断熱性が低下する。また、段落[0072]、[0073]には、シート状の複合材料の両側に被覆層を配置できることが記載されているが、複合材料と被覆層との接着方法についての具体的な記載はない。
【0007】
特許文献3には、エアロゲルと赤外線遮断フィルムとを備える透明性断熱パネルが記載されている。しかし、エアロゲル層は、バインダー成分を含まないエアロゲル単体で構成されるため、柔軟性に乏しく、赤外線遮断フィルムとの接着性に劣りエアロゲルが脱落しやすいという問題がある。この点、段落[0027]には、赤外線遮断フィルムに粘着層を積層し、それにエアロゲルを重ねて加圧して一体化することが記載されているが、粘着層の成分に関する記載はない。
【0008】
特許文献4には、基材と、窒素原子を有する樹脂層と、エアロゲル層とを備えるエアロゲル積層体が記載されている。基材とエアロゲル層とは樹脂層により接着されるが、エアロゲル層は、バインダー成分を含まないエアロゲル単体で構成されるため、柔軟性に乏しい。また、エアロゲル層は、基材に形成された樹脂層の上にゾル塗液を塗工した後、乾燥、熟成、洗浄、溶媒置換、乾燥の工程を経て製造されるため、製造工程が煩雑である。
【0009】
特許文献5には、不織布などのスペーサ層と、エアロゲル層と、熱線反射機能または熱線吸収機能を有する支持体と、が積層されたエアロゲル積層複合体が記載されている。この場合も特許文献4の場合と同様に、エアロゲル層は、バインダー成分を含まないエアロゲル単体で構成される。よって、エアロゲル層は、柔軟性に乏しい。加えて、エアロゲル層とスペーサ層とは、縫着または接着により行わなければならない(段落[0159])。また、エアロゲル層は、支持体の上にゾル塗液を塗工した後、乾燥、熟成、洗浄、溶媒置換、乾燥の工程を経て製造されるため、製造工程が煩雑である。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、断熱性が高く、難燃性を有し、層間接着性に優れた断熱部材を提供することを課題とする。また、当該断熱部材を比較的低コストで製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記課題を解決するため、本発明の断熱部材は、第一断熱層と、該第一断熱層に積層される第二断熱層と、該第二断熱層に積層される熱反射層と、該第二断熱層と該熱反射層との間に介在し、接着成分と難燃剤とを有する難燃接着層と、を備え、該第二断熱層は、複数の粒子が連結して骨格をなし、内部に細孔を有し、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する多孔質構造体と、水を溶媒とする第二水性バインダーと、を有し、該第一断熱層と該第二断熱層とは、該第二断熱層に含有される該第二水性バインダーにより接着され、該第二断熱層と該熱反射層とは、該難燃接着層により接着されることを特徴とする。
【0012】
(2)本発明の断熱部材の好適な製造方法の一つである本発明の第一の製造方法は、前記第一断熱層に、前記多孔質構造体および前記第二水性バインダーを有する断熱塗料を塗布して塗膜を形成する断熱塗料塗布工程と、前記熱反射層に、前記接着成分および前記難燃剤を有する接着塗料を塗布して塗膜を形成する接着塗料塗布工程と、該第一断熱層と該熱反射層とを、形成された該塗膜同士が接触するように重ね合わせ、二つの該塗膜を硬化させて前記第二断熱層および前記難燃接着層を形成する硬化工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
(3)本発明の断熱部材の好適な製造方法の一つである本発明の第二の製造方法は、前記第一断熱層に、前記多孔質構造体および前記第二水性バインダーを有する断熱塗料を塗布して該断熱塗料の塗膜を形成する断熱塗料塗布工程と、該断熱塗料の該塗膜の表面に、前記接着成分および前記難燃剤を有する接着塗料を塗布して該接着塗料の塗膜を形成する接着塗料塗布工程と、該第一断熱層における該接着塗料の該塗膜に前記熱反射層を重ね合わせ、該断熱塗料および該接着塗料の二つの該塗膜を硬化させて前記第二断熱層および前記難燃接着層を形成する硬化工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
(1)本発明の断熱部材は、第一断熱層および第二断熱層の二つの断熱層を備える。このうち第二断熱層は、多孔質構造体を有する。多孔質構造体の骨格と骨格との間に形成される細孔の大きさは10~50nm程度であり、細孔の多くは、50nm以下のいわゆるメソ孔である。メソ孔は、空気の平均自由行程よりも小さいため、対流による熱の移動が阻害される。多孔質構造体が有する高い断熱効果により、第二断熱層は高い断熱性を有する。
【0015】
さらに第二断熱層は、第二水性バインダーを有する。第二水性バインダーは、水を溶媒とするバインダーであり、比較的柔軟である。このため、第二断熱層は柔軟であり、多孔質構造体単体からなる層と比較して、湾曲面などに配置しやすくなるだけでなく、ひび割れ、多孔質構造体の脱落(いわゆる粉落ち)も少ない。第二水性バインダーは、接着性を有し、第二断熱層に含有される多孔質構造体同士を結合するだけでなく、隣接する層を接着する役割も果たす。すなわち、第二水性バインダーにより、第二断熱層と、それに隣接する第一断熱層と、が接着される。このように、本発明の断熱部材によると、第二水性バインダーの作用により、第一断熱層と第二断熱層とを接着することができるため、これら二層を固定するために、接着剤や固定部材を用いる必要がない。したがって、本発明の断熱部材によると、薄型化が可能で、製造工数の低減やコスト削減を図ることができる。
【0016】
本発明の断熱部材は、二つの断熱層に加えて熱反射層を備える。熱反射層は、主に熱を反射する役割を果たす。熱の移動現象には、「伝導、対流、放射」の三形態がある。二つの断熱層による断熱性の向上効果は、主に「伝導、対流」の抑制によるものである。二つの断熱層に熱反射層を加えると、「伝導、対流」の抑制に加えて「放射」の効果も利用することができ、断熱部材全体としての断熱性がより向上する。例えば、熱源が熱反射層側にある場合、熱源から放射された熱が熱反射層で反射されることにより、断熱部材への熱の伝達を抑制することができる。反対に、熱源が熱反射層とは反対側にある場合、熱源から放射された熱は、第一断熱層および第二断熱層を通過して、主に伝導および対流により熱反射層に到達する。この場合においても、熱反射層に到達した熱は、熱反射層で第二断熱層側に反射される。これにより、熱源から放射される熱の多くを断熱部材により遮断することができる。
【0017】
熱反射層は、難燃接着層により第二断熱層に接着される。前述したように、第二断熱層に含まれる第二水性バインダーの作用により、第二断熱層と熱反射層とを接着することも可能であるが、二層の間に難燃接着層を加えることにより、層同士の接着力をより高めることができる。例えば、第二断熱層における第二水性バインダーの配合量を増加すれば、層同士の接着力を高めることができる。しかし、この方法では、第二水性バインダーを増量した分だけ多孔質構造体の配合比率が低下するため、所望の断熱性を維持することが難しい。この点、本発明の断熱部材においては、第二断熱層と熱反射層との間に難燃接着層を介在させることにより、接着力の向上を図っている。これにより、第二水性バインダーの配合量を増加せずに、換言すると多孔質構造体の配合量を減少させずに断熱性を維持したまま、接着力を高めることができる。本発明の断熱部材は、層同士が剥離しにくく高い耐久性を有するため、様々な用途に適用可能であり実用性が高い。
【0018】
難燃接着層は、接着成分と難燃剤とを有する。すなわち、本発明の断熱部材において、難燃剤は、第二断熱層ではなく難燃接着層に配合される。したがって、多孔質構造体の配合量を減少させずに断熱性を維持したまま、難燃性を付与することができる。
【0019】
このように、本発明の断熱部材は、比較的薄くても、高い断熱性を有すると共に、難燃性を有し、層間接着性に優れる。例えば、本発明の断熱部材を自動車の内装部品に適用すると、車室内外からの熱の伝達を抑制することができ、内装部品における熱エネルギーの消費を抑制することができる。結果、空調の熱損失が小さくなり、電費を向上させることができる。本発明の断熱部材を住宅用の壁材、屋根裏材、窓のサッシなどに適用すると、室内の断熱性向上に効果的である。また、本発明の断熱部材は、比較的薄く柔軟であるため、電気機器や電子機器などの狭いスペースにも適用しやすい。
【0020】
(2)本発明の断熱部材の第一の製造方法においては、まず、第一断熱層に断熱塗料を塗布して塗膜を形成し、熱反射層に接着塗料を塗布して塗膜を形成しておく。そして、形成された二つの塗膜が硬化する前に、第一断熱層と熱反射層とを、各々に形成された塗膜同士が接触するように重ね合わせて、二つの塗膜を硬化させる。断熱塗料の塗膜が硬化すると第二断熱層になり、第一断熱層と第二断熱層とは、第二断熱層に含有される第二水性バインダーにより接着される。接着塗料の塗膜が硬化すると難燃接着層になり、第二断熱層と熱反射層とは、難燃接着層により接着される。このように、本発明の第一の製造方法によると、断熱塗料の塗膜および接着塗料の塗膜を形成し、これらをまとめて硬化させることにより、第二断熱層の形成と層同士の接着を同時に行うことができるため、本発明の断熱部材を容易に比較的低コストで製造することができる。また、接着塗料の塗膜の形成を、ウエットな状態の断熱塗料の塗膜に重ねずに別に行うため、重ねて行う場合と比較して、接着塗料の塗布方法の制限が少ない。
【0021】
(3)本発明の断熱部材の第二の製造方法においては、まず、第一断熱層に断熱塗料を塗布して断熱塗料の塗膜を形成した後、断熱塗料の塗膜の表面に、接着塗料を重ねて塗布して接着塗料の塗膜を形成する。そして、重ねて形成された二つの塗膜が硬化する前に、表層の接着塗料の塗膜に熱反射層を重ね合わせて、二つの塗膜を硬化させる。第二の製造方法の場合も第一の製造方法と同様に、断熱塗料の塗膜が硬化すると第二断熱層になり、第一断熱層と第二断熱層とは、第二断熱層に含有される第二水性バインダーにより接着される。接着塗料の塗膜が硬化すると難燃接着層になり、第二断熱層と熱反射層とは、難燃接着層により接着される。このように、本発明の第二の製造方法によると、断熱塗料の塗膜および接着塗料の塗膜を形成し、これらをまとめて硬化させることにより、第二断熱層の形成と層同士の接着を同時に行うことができるため、本発明の断熱部材を容易に比較的低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第一実施形態の断熱部材の厚さ方向断面図である。
【
図2A】同断熱部材を自動車のドアトリムに使用した形態における夏場の熱の移動現象を示す模式図である。
【
図2B】同断熱部材を自動車のドアトリムに使用した形態における冬場の熱の移動現象を示す模式図である。
【
図3】第二実施形態の断熱部材の厚さ方向断面図である。
【
図4】第三実施形態の断熱部材の厚さ方向断面図である。
【
図5】熱反射層であるアルミ蒸着フィルムの反射率の測定結果を示すグラフである。
【
図6】実施例1のサンプルの厚さ方向断面図である。
【
図7】断熱性の評価に使用した実験装置の概略図である。
【
図8】断熱性の評価実験で測定された温度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の断熱部材およびその製造方法の実施の形態について説明する。
【0024】
<第一実施形態>
[構成]
まず、本実施形態の断熱部材の構成を説明する。
図1に、本実施形態の断熱部材の厚さ方向断面図を示す。以下の
図1~
図4においては、部材の厚さ方向(積層方向)を内外方向と定義する。
図1に示すように、断熱部材10は、内側から順に第一断熱層11と、第二断熱層12と、難燃接着層13と、熱反射層14と、を備えている。
【0025】
第一断熱層11は、不織布からなる。第一断熱層11の厚さは1.0mmである。第二断熱層12は、第一断熱層11の外側に配置されている。第二断熱層12は、多孔質構造体と、第二水性バインダーとしてのウレタン樹脂と、多糖類としてのカルボキシルメチルセルロース(CMC)と、を有している。多孔質構造体は、複数のシリカ粒子が連結して骨格をなし内部に細孔を有するシリカエアロゲルである。シリカエアロゲルは、表面および内部に疎水部位を有している。第二断熱層12の厚さは0.5mmである。第二断熱層12におけるウレタン樹脂(第二水性バインダー)の含有量は、第二断熱層12の全体を100体積%とした場合の4.2体積%である。第一断熱層11と第二断熱層12とは、第二断熱層12に含有されるウレタン樹脂により接着されている。第二断熱層12の一部は、第一断熱層11の外側表面近傍に含浸している。第一断熱層11における第二断熱層12の含浸深さは0.1mmである。
【0026】
難燃接着層13は、第二断熱層12の外側に配置されている。難燃接着層13は、接着成分である第一水性バインダーとしてのウレタン樹脂と、難燃剤としてのポリリン酸アンモニウムと、を有している。難燃接着層13に含まれる第一水性バインダーと、第二断熱層12に含まれる第二水性バインダーと、は同じものである。難燃接着層13の厚さは0.03mmである。難燃接着層13における難燃剤の含有量は、難燃接着層13全体を100質量%とした場合の80質量%である。
【0027】
熱反射層14は、難燃接着層13を介して第二断熱層12の外側に配置されている。熱反射層14は、アルミ蒸着フィルムからなる。アルミ蒸着フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの表面にアルミニウムが蒸着されてなる。すなわち、熱反射層14は、PETフィルムからなる樹脂層と、アルミニウムからなる金属層と、を有している。熱反射層14の厚さは0.025mmである。熱反射層14の反射率は、入射光の波長が780nm以上2500nm以下の領域で80%以上である。熱反射層14と第二断熱層12とは、難燃接着層13により接着されている。第二断熱層12には、熱反射層14のPETフィルム側が接着されている。
【0028】
[製造方法]
次に、本実施形態の断熱部材の製造方法を説明する。本実施形態においては、本発明の第一の製造方法により断熱部材10を製造する。まず、水、第二水性バインダーとしてのウレタン樹脂エマルジョン、シリカエアロゲル、CMCを有する断熱塗料を調製する。また、水、第一水性バインダーとしてのウレタン樹脂エマルジョン、ポリリン酸アンモニウム粉末を有する接着塗料を調製する。次に、調製した断熱塗料を、第一断熱層11としての不織布の一面に塗布して塗膜を形成する(断熱塗料塗布工程)。また、調製した接着塗料を、熱反射層14としてのアルミ蒸着フィルムのPETフィルム側の表面に塗布して塗膜を形成する(接着塗料塗布工程)。それから、不織布とアルミ蒸着フィルムとを、加圧しながら互いの塗膜同士が接触するように重ね合わせる。そして、得られた積層体を150℃下で5分間乾燥し、断熱塗料の塗膜を硬化させて第二断熱層12とし、接着塗料の塗膜を硬化させて難燃接着層13とする(硬化工程)。
【0029】
[作用効果]
次に、本実施形態の断熱部材およびその製造方法の作用効果について説明する。本実施形態の断熱部材10を構成する第二断熱層12は、多孔質構造体および第二水性バインダーを有する。このため、柔軟で断熱性に優れる。そして、第二水性バインダーの作用により、第一断熱層11および第二断熱層12が接着される。このため、これら二層を固定するために、接着剤や固定部材を用いる必要がない。したがって、断熱部材10によると、薄型化が可能で、製造工数の低減やコスト削減を図ることができる。また、第二断熱層12は、第一断熱層11の外側表面近傍、すなわち第二断熱層12に接する表層部のみに含浸している。よって、第一断熱層11の空隙の多くは、第二断熱層12の材料で埋められることなく残存し、対流による熱伝達が維持される。
【0030】
第二断熱層12は、多糖類を有する。後に詳しく説明するが、断熱塗料に多糖類を配合すると、断熱塗料の粘性が高くなると共に、多糖類が保護コロイドのような状態を作ることにより、バインダー液から多孔質構造体が分離しにくくなる。これにより、多孔質構造体の分散性が向上し、断熱塗料中に多孔質構造体を安定して保持させることができる。また、断熱塗料の粘性が高くなると液だれしにくくなるため、第一断熱層11への塗布が容易になる。
【0031】
断熱部材10は、二つの断熱層11、12に加えて熱反射層14を備える。これにより、「伝導、対流」に加えて「放射」の効果も利用することができるため、断熱部材10全体としての断熱性が高くなる。ここでは一例として、断熱部材10を自動車のドアトリム(内装部品)に使用した形態を挙げて、断熱効果を説明する。
図2Aに、断熱部材10をドアトリムに使用した形態における夏場の熱の移動現象を模式的に示す。
図2Bに、同形態における冬場の熱の移動現象を模式的に示す。
図2A、
図2Bにおいて、ドアトリム1は、基材15と断熱部材10と表皮材16とを備えている。説明の便宜上、基材15および表皮材16については点線で示す。基材15は、ポリプロピレン製であり、表皮材16は、断熱部材10側から、基布とウレタンフィルム層とが積層された積層体からなる。
図2A、
図2Bにおいて、
図1における内側は車室内側に、外側は車室外側に対応している。
【0032】
夏場においては、外部の熱をできるだけ遮断して車室内の温度を低く維持することを目的にして、熱の移動現象を示している。
図2Aに黒色矢印で示すように、夏場は、熱源が車室外(基材15側)にある。この場合、熱源から放射された熱の一部は、熱反射層14で反射される。これにより、断熱部材10に伝達される熱量を小さくすることができる。反射されずに熱反射層14を通過した熱量は、第二断熱層12、第一断熱層11を対流および伝導により通過する際の熱抵抗により、さらに小さくなる。このようにして、外部から放射される熱の多くを断熱部材10により遮断することができる。冬場においては、暖房などによる車室内の熱をできるだけ外部に漏らさないことを目的にして、熱の移動現象を示している。
図2Bに黒色矢印で示すように、冬場は、熱源が車室内(表皮材16側)にある。この場合、熱源から放射された熱は、第一断熱層11、第二断熱層12に伝わるが、対流および伝導による熱抵抗により、両層を通過する熱量は小さくなる。そして、熱反射層14に到達した熱は、熱反射層14で反射されるため、熱反射層14を通過する熱量はさらに小さくなる。このようにして、車室内の熱の多くを断熱部材10により遮断して、車室内に保持することができる。
【0033】
断熱部材10においては、第二断熱層12と熱反射層14との間に難燃接着層13が介在し、難燃接着層13により熱反射層14と第二断熱層12とが接着される。したがって、第二断熱層12における第二水性バインダーの量を増加せずに、換言すると多孔質構造体の量を減らすことなく断熱性を維持したまま、接着力を高めることができる。また、難燃接着層13は、難燃剤を有する。よって、第二断熱層12における多孔質構造体の量を減らすことなく断熱性を維持したまま、難燃性を付与することができる。このように、断熱部材10は、薄く、断熱性および難燃性を有するだけでなく、層同士が剥離しにくく高い耐久性を有する。よって、様々な用途に適用可能であり実用性が高い。
【0034】
本実施形態の製造方法によると、断熱塗料の塗膜および接着塗料の塗膜を形成し、これらをまとめて硬化させることにより、第二断熱層12の形成と層同士の接着を同時に行うことができるため、断熱部材10を容易に比較的低コストで製造することができる。また、接着塗料の塗膜の形成を、ウエットな状態の断熱塗料の塗膜に重ねずに別に行うため、重ねて行う場合と比較して、接着塗料の塗布方法の制限が少ない。
【0035】
<第二実施形態>
本実施形態の断熱部材と第一実施形態の断熱部材との相違点は、第一断熱層の内側に粘着シートを追加した点、および断熱部材を第二の製造方法で製造する点である。ここでは、相違点を中心に説明する。
図3に、本実施形態の断熱部材の厚さ方向断面図を示す。
図3中、
図1と対応する部材については同じ符号で示す。
【0036】
図3に示すように、断熱部材20は、内側から順に粘着シート21と、第一断熱層11と、第二断熱層12と、難燃接着層13と、熱反射層14と、を備えている。粘着シート21は、第一断熱層11の内側に配置されている。粘着シート21は、粘着層210と剥離紙211とを有している。粘着層210は、アクリル系粘着剤からなり、第一断熱層11側に配置されている。粘着層210の厚さは0.075mmである。剥離紙211は、粘着層210の内側表面を被覆している。剥離紙211は、紙の表面に剥離剤がコーティングされてなり、粘着層210から剥離可能である。剥離紙211の厚さは0.05mmである。
【0037】
断熱部材20の製造方法は以下のとおりである。まず、第一実施形態と同様にして、断熱塗料および接着塗料を調製する。次に、調製した断熱塗料を、第一断熱層11としての不織布の一面に塗布して塗膜を形成する(断熱塗料塗布工程)。続いて、形成した断熱塗料の塗膜の表面に、調製した接着塗料を塗布して接着塗料の塗膜を形成する(接着塗料塗布工程)。それから、形成した接着塗料の塗膜に、熱反射層14としてのアルミ蒸着フィルムのPETフィルム側を加圧しながら重ね合わせる。そして、得られた積層体を150℃下で5分間乾燥し、断熱塗料の塗膜を硬化させて第二断熱層12とし、接着塗料の塗膜を硬化させて難燃接着層13とする(硬化工程)。最後に、第一断熱層11としての不織布の他面(第二断熱層12が接着されている一面とは反対側の面)に、粘着シート21を貼着する。
【0038】
本実施形態の断熱部材20は、構成が共通する部分については、第一実施形態の断熱部材10と同様の作用効果を有する。また、断熱部材20によると、剥離紙211を剥がして粘着層210を相手部材に接着するだけで、相手部材に断熱部材20を容易に固定することができる。本実施形態の製造方法によると、断熱塗料の塗膜および接着塗料の塗膜を形成し、これらをまとめて硬化させることにより、第二断熱層12の形成と層同士の接着を同時に行うことができるため、断熱部材20を容易に比較的低コストで製造することができる。
【0039】
<第三実施形態>
本実施形態の断熱部材と第一実施形態の断熱部材との相違点は、第二断熱層を第一断熱層の内外両側に配置した点である。ここでは、相違点を中心に説明する。
図4に、本実施形態の断熱部材の厚さ方向断面図を示す。
図4中、
図1と対応する部材については同じ符号で示す。
【0040】
図4に示すように、断熱部材30は、内側から順に第二断熱層31と、第一断熱層11と、第二断熱層12と、難燃接着層13と、熱反射層14と、を備えている。第二断熱層31は、第一断熱層11の内側に配置されている。第二断熱層31は、多孔質構造体と、第二水性バインダーとしてのウレタン樹脂と、多糖類としてのCMCと、を有している。第二断熱層31の材質、厚さは、第二断熱層12のそれと同じである。第一断熱層11と第二断熱層31とは、第二断熱層31に含有されるウレタン樹脂により接着されている。第二断熱層31の一部は、第一断熱層11の内側表面近傍に含浸している。第一断熱層11における第二断熱層31の含浸深さは0.1mmである。
【0041】
断熱部材30の製造方法は以下のとおりである。まず、第一実施形態と同様にして、第一断熱層11、第二断熱層12、難燃接着層13、および熱反射層14からなる積層体(第一実施形態の断熱部材10)を製造する。次に、第一実施形態と同じ断熱塗料を、第一断熱層11としての不織布の他面(第二断熱層12が接着されている一面とは反対側の面)に塗布して、断熱塗料の塗膜を形成する。そして、形成した塗膜を150℃下で5分間乾燥して硬化させ、第二断熱層31とすると共に、第二断熱層31と第一断熱層11とを接着する。
【0042】
本実施形態の断熱部材30は、構成が共通する部分については、第一実施形態の断熱部材10と同様の作用効果を有する。また、断熱部材30においては、第一実施形態の断熱部材10に対して第二断熱層31が追加されている。断熱部材30によると、追加された第二断熱層31の分だけ熱抵抗が大きくなるため、断熱部材30全体としての断熱性をより高めることができる。
【0043】
<その他の形態>
以上、本発明の断熱部材およびその製造方法の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0044】
[断熱部材]
本発明の断熱部材は、第一断熱層と、第二断熱層と、熱反射層と、難燃接着層と、を備える。まずこれら四層について説明し、その後にその他の構成を説明する。
【0045】
(1)第一断熱層
第一断熱層は、熱伝導率が比較的小さい材料により形成すればよい。例えば、自動車の内装部品、住宅用の壁材、電気機器などへの適用を考量すると、本発明の断熱部材は、断熱性に加えて吸音性も有するとよい。このような観点から、第一断熱層としては、空隙を有する材料が望ましく、不織布、発泡体などが挙げられる。不織布の場合、その目付量は150g/m2以下であることが望ましい。発泡体としては、スラブウレタンなどが挙げられる。第一断熱層の厚さは、断熱性および吸音性の観点から、1mm以上、さらには2mm以上であることが望ましい。
【0046】
(2)第二断熱層
第二断熱層は第一断熱層に積層されれば、上記第一、第二実施形態のように第一断熱層の片側のみに配置されても、上記第三実施形態のように第一断熱層の両側に配置されてもよい。例えば、第二断熱層が第一断熱層の厚さ方向両側に配置される場合、熱反射層は、そのいずれか一方または両方に積層されればよい。
【0047】
第二断熱層は、多孔質構造体と、第二水性バインダーと、を有する。多孔質構造体は、複数の粒子が連結して骨格をなし内部に細孔を有する。骨格をなす粒子(一次粒子)の直径は、2~5nm程度、骨格と骨格との間に形成される細孔の大きさは、10~50nm程度であることが望ましい。細孔の多くは、50nm以下のいわゆるメソ孔である。多孔質構造体の形状は、球状、異形状の塊状など、特に限定されない。多孔質構造体の最大長さを粒子径とした場合、多孔質構造体の平均粒子径は、1~200μm程度が望ましい。多孔質構造体の粒子径が大きいほど、表面積が小さくなり細孔容積が大きくなるため、断熱性を高める効果は大きくなる。例えば、平均粒子径が10μm以上のものが好適である。一方、多孔質構造体をバインダー液に分散させた断熱塗料の安定性、塗工のしやすさ、さらには第二断熱層における多孔質構造体の脱落抑制などを考慮すると、平均粒子径が100μm以下のものが好適である。また、粒子径が異なる二種類以上を併用すると、小径の多孔質構造体が大径の多孔質構造体間の隙間に入りこむため、充填量を多くすることができ、断熱性を高める効果が大きくなる。
【0048】
多孔質構造体には、表面や内部に親水部位を有する親水性のものと、疎水部位を有する疎水性のものと、がある。このうち、親水性の多孔質構造体は、脆く崩れやすい。また、内部に水分などが浸入して細孔が潰れるおそれがある。したがって、本発明の断熱部材においては、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する疎水性のものを使用する。疎水性の多孔質構造体を用いると、水を溶媒とする第二水性バインダーを用いた場合に、当該バインダーが多孔質構造体の細孔に浸入しにくいため、断熱性が阻害されにくい。また、多孔質構造体は、表面がシランカップリング剤などで表面処理されたものでもよい。表面処理を施すことにより、多孔質構造体の表面に疎水性などの機能を付与することができる。
【0049】
多孔質構造体の種類は特に限定されない。一次粒子として、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどが挙げられる。なかでも化学的安定性に優れるという観点から、一次粒子がシリカである、すなわち複数のシリカ粒子が連結して骨格をなすシリカエアロゲルが望ましい。シリカエアロゲルは白色を呈し赤外線を反射する。よって、シリカエアロゲルを用いると、第二断熱層に遮熱効果を付与することができる。
【0050】
表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有するシリカエアロゲルは、製造過程において、疎水基を付与するなどの疎水化処理を施して製造することができる。少なくとも表面に疎水部位を有すると、水分などの染み込みを抑制することができるため、細孔構造が維持され、断熱性が損なわれにくい。シリカエアロゲルの製造方法は、特に限定されず、乾燥工程を常圧で行ったものでも、超臨界で行ったものでも構わない。例えば、疎水化処理を乾燥工程前に行うと、超臨界で乾燥する必要がなくなる、すなわち常圧で乾燥すればよいため、より容易かつ低コストに製造することができる。シリカエアロゲルは、例えば、特許第5250900号公報に記載されている方法で製造すればよい。
【0051】
第二断熱層における多孔質構造体の含有量は、第二断熱層の断熱性、柔軟性、機械的強度などを考慮して適宜決定すればよい。例えば、熱伝導率を小さくする(断熱性を高くする)という観点では、多孔質構造体の含有量は、第二断熱層全体の体積を100体積%とした場合の80体積%以上であることが望ましい。85体積%以上であるとより好適である。一方、多孔質構造体が多くなると、その分バインダーの含有量が少なくなるため、多孔質構造体が脱落しやすくなったり、隣接する層間の接着力が低下するおそれがある。このため、多孔質構造体の含有量は、第二断熱層全体の体積を100体積%とした場合の96体積%以下であることが望ましい。
【0052】
第二水性バインダーは、水を溶媒としたバインダーであり、多孔質構造体同士、および隣接する層間を結合することができれば特に限定されない。第二水性バインダーとしては、水溶性のバインダー、エマルジョン状のバインダーがあるが、なかでもエマルジョン状のバインダー(水性エマルジョン系バインダー)が好適である。水性エマルジョン系バインダーは、界面活性剤または親水基の導入により乳化されている。水性エマルジョン系バインダーによると、乾燥時に界面活性剤や親水基が揮発することにより親水性が低下し、水に溶解しにくくなるため、断熱塗料の硬化後にべたつきが生じにくいと考えられる。エマルジョン化する方法としては、界面活性剤を乳化剤として使用した強制乳化型でも、親水基が導入された自己乳化型でも構わない。
【0053】
バインダー成分は、樹脂でもゴムでもよい。多孔質構造体に対する粘着性が高く、第二断熱層を柔軟にしてひび割れしにくくするという観点から、バインダーのガラス転移温度(Tg)は-5℃以下、さらには-20℃以下であることが望ましい。例えば、水性エマルジョン系バインダーの場合、樹脂エマルジョンでもゴムエマルジョンでもよい。樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂とウレタン樹脂との混合物などが挙げられる。ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴムなどが挙げられる。第二断熱層を柔軟にするという観点から、ウレタン樹脂、スチレンブタジエンゴムなどが好適である。バインダー部分の強度を高めて、第二断熱層の強度を向上させるという観点から、架橋剤などを併用してバインダー成分を架橋させてもよい。
【0054】
第二断熱層は、第二水性バインダーにより第一断熱層に接着される。第二水性バインダーの含有量は、第二断熱層の接着性、断熱性などを考慮して適宜決定すればよい。例えば、接着性を高めるという観点では、第二水性バインダーの含有量は、第二断熱層全体の体積を100体積%とした場合の4.0体積%以上であることが望ましい。6.0体積%以上、さらには9.0体積%以上であるとより好適である。一方、熱伝導率を小さくする(断熱性を高くする)という観点では、第二水性バインダーの含有量は、第二断熱層全体の体積を100体積%とした場合の20体積%以下であることが望ましい。15体積%以下であるとより好適である。
【0055】
表面や内部に疎水部位を有する多孔質構造体は、水になじみにくい。なかでもシリカエアロゲルは比重が小さいため、水に浮きやすい。よって、水を溶媒とするバインダー液にシリカエアロゲルを分散させるのは難しく、分散工程に時間を要する。また、断熱塗料を調製しても、シリカエアロゲルが水と分離して浮きやすいという問題がある。また、断熱塗料に圧力を加えると分離するおそれがあり、塗工機による塗工が難しく、連続生産に不向きである。
【0056】
このような課題を解決するため、第二断熱層は、多孔質構造体、第二水性バインダーに加えて、多糖類を有することが望ましい。多糖類は、一種または二種以上の単糖類がグリコシド結合したものであり、高い粘性を有する。水に第二水性バインダーが溶解または分散したバインダー液に多孔質構造体を添加して断熱塗料を調製する場合、多糖類を配合すると、断熱塗料の粘性が高くなり、バインダー液から多孔質構造体が分離しにくくなる。よって、多孔質構造体の分散性が向上し、断熱塗料中に多孔質構造体を安定して保持させることができる。また、断熱塗料の粘性が高くなると液だれしにくくなるため、断熱塗料を塗布しやすい。多糖類は、分子鎖の絡み合いで増粘することにより多孔質構造体の分離を抑制する。このため、多糖類を配合しても、熱の伝達経路が形成されにくく、断熱性は低下しにくい。
【0057】
例えば、親水部位と疎水部位の両方を有する多糖類を配合すると、疎水部位が多孔質構造体の疎水部位と選択的に結合し、親水部位が多孔質構造体の周りを囲むように配置されることにより、保護コロイドのような状態になる。この作用によっても、バインダー液と多孔質構造体との分離が抑制されると共に、多孔質構造体の分散性が向上する。これにより、分散に要する時間を短縮することができ、塗料化が容易になる。また、親水部位を有する多糖類は、疎水性の多孔質構造体の細孔に浸入しにくい。
【0058】
多糖類としては、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、キサンタンガム、アガロース、カラギナンなどが挙げられる。なかでも主鎖が長く、側鎖がないか短いものは、分子鎖の絡み合いが多くなる。これにより、多孔質構造体の保持性が高くなるため、第二断熱層における多孔質構造体の脱落を抑制することができる。例えば、カルボキシメチルセルロースが好適である。
【0059】
以上説明したように、第二断熱層は、多孔質構造体、第二水性バインダーに加えて、架橋剤、多糖類などの他の成分(添加剤)を含んでいてもよい。
【0060】
断熱性を考慮すると、第二断熱層の厚さは、0.3mm以上、さらには0.5mm以上であることが望ましい。一方、第二断熱層が厚すぎると、コスト高になるだけでなく、強度が低下して脆くなる。よって、第二断熱層断の厚さは、1mm以下、さらには0.7mm以下であることが望ましい。第一断熱層が空隙を有する材料からなる場合には、第二断熱層の一部が第一断熱層に含浸していてもよい。含浸することより、両層の接着性が向上する。但し、含浸深さが大きくなると、第一断熱層内の対流による熱伝達が阻害されるおそれがあることから、含浸深さは第一断熱層の表層部のみ、例えば、0.1mm以上0.5mm以下程度にするとよい。
【0061】
(3)熱反射層
熱反射層は、第二断熱層に積層される。断熱性を向上させるという観点から、熱反射層の反射率は、入射光の波長が780nm以上2500nm以下の領域(近赤外線領域)で80%以上であることが望ましい。熱反射層の反射率は、(株)島津製作所製、UV-VIS紫外可視分光光度計「Solid Spec-3700」により測定すればよい。
【0062】
熱反射層の材質は特に限定されないが、所望の反射率を実現するという観点から、金属層を有することが望ましい。好適な金属としては、アルミニウム、アルミニウム化合物、マグネシウム、マグネシウム化合物、ステンレス鋼、銀、チタン、チタン化合物、錫などが挙げられる。金属層の形態は、金属箔、蒸着膜などが挙げられる。後者の場合、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ポリエチレン(PE)などからなる樹脂フィルムの表面に、金属を真空蒸着やスパッタリングにより蒸着すればよい。この場合、熱反射層は、金属層(蒸着膜)と、該金属層に積層される樹脂層(樹脂フィルム)と、を有する形態(いわゆる蒸着フィルム)になる。蒸着フィルムに限らず、熱反射層が金属層および樹脂層から構成される場合、金属層および樹脂層のどちらを第二断熱層側に配置するかは、難燃接着層中の接着成分、断熱部材の使用形態などを考慮して適宜決定すればよい。すなわち、樹脂層を第二断熱層側に配置してもよく、金属層を第二断熱層側に配置してもよい。また、蒸着膜の腐食抑制、保護の観点から、蒸着膜をさらに樹脂層で被覆してもよい。
【0063】
強度の観点から、熱反射層の厚さは、0.01mm以上、さらには0.02mm以上であることが望ましい。一方、柔軟性の観点から、熱反射層の厚さは、0.05mm以下、さらには0.03mm以下であることが望ましい。
【0064】
熱反射層は、難燃接着層により第二断熱層に接着される。断熱部材の耐久性を向上させるという観点から、第二断熱層に対する熱反射層の剥離力は、0.1N/25mm以上であることが望ましい。0.8N/25mm以上、さらには1.0N/25mm以上であるとより好適である。本明細書において、熱反射層の剥離力には、JIS Z0237:2009の「10.4 引きはがし粘着力の測定」に準じて180°剥離試験を行い、剥離長さが25mmから75mmまでの50mm分の剥離力測定値の平均値を採用する。180°剥離試験は、室温下で、引張幅25mm、引張距離80mm以上、引張速度100mm/分の条件で行うものとする。
【0065】
(4)難燃接着層
難燃接着層は、第二断熱層と熱反射層との間に配置され、両層を接着する。難燃接着層は、所望の接着力が実現できれば、連続する形態の他、断続的な形態、または島状に点在する形態でもよい。難燃接着層の厚さは、均一でも不均一でもよく、例えば、0.01mm以上であることが望ましい。一方、せん断力に対する接着力を維持することや柔軟性を考慮すると、難燃接着層の厚さは0.05mm以下であることが望ましい。
【0066】
難燃接着層は、接着成分と難燃剤とを有する。接着成分は、熱反射層および第二断熱層の材質を考慮して適宜選択すればよい。例えば、第二断熱層に含まれる疎水性の多孔質構造体の細孔に浸入しにくいという観点から、水を溶媒とする第一水性バインダーを用いることが望ましい。第一水性バインダーは、前述した第二水性バインダーと同様である。すなわち、第一水性バインダーとしては、水溶性のバインダー、エマルジョン状のバインダーがあり、エマルジョン状のバインダー(水性エマルジョン系バインダー)が好適である。また、バインダー成分は、樹脂でもゴムでもよい。樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂とウレタン樹脂との混合物などが挙げられる。ゴムとしては、SBR、ニトリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴムなどが挙げられる。なお、接着成分として架橋剤などを併用し、バインダー成分を架橋させてもよい。第一水性バインダーは、第二断熱層に含まれる第二水性バインダーと同じものでも異なるものでもよいが、第二水性バインダーと同じものにすると、第二断熱層となじみやすく接着性が向上する。
【0067】
難燃剤は、ハロゲン系、リン系、金属水酸化物系などの既に公知のものを使用すればよく、特に限定されない。環境負荷を考慮すると、リン系難燃剤を用いることが望ましい。リン系難燃剤としては、ポリリン酸アンモニウム、赤リン、リン酸エステルなどが挙げられる。なかでも、使用中に水分と接触しても難燃剤が流出しにくいという理由から、水に不溶なものが望ましく、例えばポリリン酸アンモニウムが好適である。
【0068】
例えば、水を溶媒とするバインダー液に粉末状の難燃剤を分散させる場合、難燃剤の凝集が問題になる場合がある。この場合、粒子表面が樹脂などで被覆処理されたものを用いると、凝集の抑制に効果的である。凝集を抑制すると、安定した分散状態が得られ、スプレーなどにより接着塗料を塗布する場合に、目詰まりなどの不具合も生じにくくなる。例えば、ポリリン酸アンモニウムの場合、メラミン樹脂で被覆した粒子などが挙げられる。
【0069】
難燃接着層における難燃剤の含有量は、難燃性と接着性とのバランスを考慮して適宜決定すればよい。例えば、難燃性を高めるという観点では、難燃剤の含有量は、難燃接着層全体を100質量%とした場合の50質量%以上であることが望ましい。60質量%以上、さらには80質量%以上であるとより好適である。一方、難燃剤の含有量を多くするほど接着性が低下する。よって、接着性を考慮すると、難燃剤の含有量は90質量%以下、さらには85質量%以下であることが望ましい。難燃接着層は、接着成分、難燃剤に加えて、分散剤などの他の成分(添加剤)を含んでいてもよい。
【0070】
(5)その他の構成
本発明の断熱部材は、前述した四層を備えていれば、それ以外の構成は限定されない。例えば、上記第二実施形態において示したように、本発明の断熱部材は、粘着シートなどの相手部材に固定するための部材をさらに備えていてもよい。このような固定部材としては、接着剤が塗布されてなる接着層、ピンなどの留め具、縫着用の糸状部材などが挙げられる。上記第二実施形態においては、粘着シートを第一断熱層側に配置したが、この種の固定部材は、熱反射層側に配置してもよい。粘着シートを使用する場合、その構成、厚さなどは特に限定されない。例えば粘着剤は、アクリル系、シリコーン系、ゴム系などから適宜選択すればよい。剥離紙も、基材が紙ではなく樹脂フィルムからなるものでもよい。
【0071】
[断熱部材の製造方法]
(1)本発明の断熱部材の好適な製造方法の一つである本発明の第一の製造方法は、断熱塗料塗布工程と、接着塗料塗布工程と、硬化工程と、を有する。以下、各工程について説明する。
【0072】
(a)断熱塗料塗布工程
本工程は、第一断熱層に、多孔質構造体および第二水性バインダーを有する断熱塗料を塗布して塗膜を形成する工程である。断熱塗料は、第二断熱層を形成するための材料(多孔質構造体、第二水性バインダー、多糖類などの添加剤)を、水に分散、溶解して調製すればよい。各々の材料については前述したとおりである。多孔質構造体の分散性などを考慮して多糖類を配合する場合には、水に第二水性バインダーおよび多糖類を加えて液の粘度を高めてから、多孔質構造体を添加するとよい。
【0073】
断熱塗料を塗布するには、刷毛塗りしたり、ブレードコーター、バーコーター、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、ロールコーターなどの塗工機や、スプレーなどを使用すればよい。例えば、ブレードコート法によると、均一な厚さで塗布できるため好適である。第一断熱層が布や多孔質な材料からなる場合には、塗布した断熱塗料の一部が第一断熱層の表層部に含浸する。
【0074】
(b)接着塗料塗布工程
本工程は、熱反射層に、接着成分および難燃剤を有する接着塗料を塗布して塗膜を形成する工程である。接着塗料は、難燃接着層を形成するための材料(接着成分、難燃剤、分散剤などの添加剤)を、水に分散、溶解して調製すればよい。各々の材料については前述したとおりである。接着塗料を塗布するには、断熱塗料を塗布する場合と同様に、刷毛塗りしたり、各種塗工機、スプレーなどを使用すればよい。
【0075】
(c)硬化工程
本工程は、第一断熱層と熱反射層とを、形成された塗膜同士が接触するように重ね合わせ、二つの塗膜を硬化させて第二断熱層および難燃接着層を形成する工程である。第一断熱層と熱反射層とを重ね合わせるには、例えば、ロール式ラミネート装置などを用いて、加圧しながら行うとよい。そして、得られた積層体を、80~150℃の温度下で、数分~数十分程度保持して乾燥し、塗膜を硬化すればよい。
【0076】
(2)本発明の断熱部材の好適な製造方法の一つである本発明の第二の製造方法は、断熱塗料塗布工程と、接着塗料塗布工程と、硬化工程と、を有する。第二の製造方法は、接着塗料塗布工程において、接着塗料を、熱反射層ではなく、第一断熱層に形成した断熱塗料の塗膜の表面に重ねて塗布する点で、第一製造方法と異なる。断熱塗料塗布工程については、第一の製造方法と同じであるため説明を省略し、以下、接着塗料塗布工程および硬化工程についてのみ説明する。
【0077】
(a)接着塗料塗布工程
本工程は、第一断熱層に形成した断熱塗料の塗膜の表面に、接着成分および難燃剤を有する接着塗料を塗布して接着塗料の塗膜を形成する工程である。接着塗料の調製方法は、第一の製造方法と同じである。本工程においては、ウエットな状態の断熱塗料の塗膜の表面に接着塗料を塗布する必要があるため、スプレーなどを使用して接着塗料を吹き付けることが望ましい。
【0078】
(b)硬化工程
本工程は、第一断熱層における接着塗料の塗膜に熱反射層を重ね合わせ、断熱塗料および接着塗料の二つの塗膜を硬化させて第二断熱層および難燃接着層を形成する工程である。本工程においても、第一の製造方法と同様に、ロール式ラミネート装置などを用いて、加圧しながら、第一断熱層と熱反射層とを重ね合わせるとよい。そして、得られた積層体を、80~150℃の温度下で、数分~数十分程度保持して乾燥し、塗膜を硬化すればよい。
【実施例】
【0079】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ここでは、本発明の第一の製造方法により五つの断熱部材サンプルを製造し、熱反射層の接着性、断熱部材の断熱性および難燃性を評価した。
【0080】
<断熱部材サンプルの製造>
[実施例1]
(1)断熱塗料の調製
第二断熱層を形成するための断熱塗料を、次のようにして調製した。水に、第二水性バインダーとしてのウレタン樹脂エマルジョン(三洋化成工業(株)製「パーマリン(登録商標)UA-368」、固形分50質量%)と、多糖類としてのカルボキシルメチルセルロース(CMC:分子量38万)と、を添加して、撹拌羽根で撹拌しながら、表面および内部に疎水部位を有するシリカエアロゲル(平均粒子径90μm、中心細孔径30nm、密度0.11g/cm3)を添加した。各成分の配合比率は、水75.06質量%、ウレタン樹脂エマルジョン14.00質量%、CMC0.32質量%、シリカエアロゲル10.62質量%とした。シリカエアロゲルについては、特許第5250900号公報の段落[0102]~[0106]に記載されている方法に従って、次のようにして製造した。
【0081】
まず、酢酸水溶液に界面活性剤および尿素を添加して溶解した。次に、メチルトリメトキシシラン(MTMS)を撹拌しながら添加した。この時のモル比は、MTMS:水:酢酸:尿素=1:15.9:0.0860(5mM):1.43とした。続いて、この混合溶液を室温で30分撹拌した後、密閉容器に入れ、60℃下で3日間静置して、ゲル化と熟成を行った。その後、得られた湿潤ゲルをメタノールに60℃下で8時間浸して洗浄した。洗浄は合計3回行った。続いて、洗浄した湿潤ゲルをヘキサンに55℃下で8時間浸して溶媒交換した。溶媒交換は合計2回行った。それから、溶媒交換した湿潤ゲルを空気中で一晩風乾し、100℃のオーブンで重量変化がなくなるまで乾燥した。このようにして、表面および内部に疎水部位を有するシリカエアロゲルを得た。得られたシリカエアロゲルは、粉砕機で粒子径が90μm程度になるまで粉砕して使用した。
【0082】
(2)接着塗料の調製
難燃接着層を形成するための接着塗料を、次のようにして調製した。水に、第一水性バインダーとしてのウレタン樹脂エマルジョン(同上)と、リン系難燃剤としてのポリリン酸アンモニウムのメラミン樹脂コートタイプ(ブーデンハイム社製「テラージュ(登録商標)C-30)と、を添加して撹拌羽根で撹拌した。各成分の配合比率は、水32.8質量%、ウレタン樹脂エマルジョン23.5質量%、ポリリン酸アンモニウム43.7質量%とした。
【0083】
(3)アルミ蒸着フィルム
熱反射層として、アルミ蒸着フィルム(東レフィルム加工(株)製「メタルミー(登録商標)S #25」、厚さ0.025mm)を準備した。このアルミ蒸着フィルムの構成は、第一実施形態の熱反射層の構成と同じである(「PETフィルム/アルミニウム蒸着膜」)。そして、準備したアルミ蒸着フィルム反射率を、(株)島津製作所製、UV-VIS紫外可視分光光度計「Solid Spec-3700」により測定した。測定波長範囲は、300~2500nmとした。
図5に、反射率の測定結果をグラフで示す。
図5に示すように、アルミ蒸着フィルムの反射率は、入射光の波長が780nm以上2500nm以下の領域で、80%以上であることが確認された。
【0084】
(4)製造工程
調製した断熱塗料を、第一断熱層としての不織布(目付量65g/m
2、厚さ1.0mm)の表面にブレードコート法により塗布して塗膜を形成した(断熱塗料塗布工程)。また、アルミ蒸着フィルムのPETフィルム側の表面に、接着塗料をスプレーコート法により塗布して塗膜を形成した(接着塗料塗布工程)。次に、不織布とアルミ蒸着フィルムとを、ロール式ラミネート装置を用いて加圧しながら、互いの塗膜同士が接触するように重ね合わせた。そして、得られた積層体を150℃下で5分間乾燥し、二つの塗膜を硬化させて、第一断熱層/第二断熱層/難燃接着層/熱反射層の四層からなる断熱部材サンプルを製造した(硬化工程)。このようにして製造された断熱部材サンプルを、実施例1のサンプルと称す。
図6に、実施例1のサンプルの厚さ方向断面図を示す。
【0085】
図6に示すように、実施例1のサンプル40は、長方形の薄いシート状を呈している。サンプル40は、下から順に第一断熱層41、第二断熱層42、難燃接着層43、および熱反射層44が積層されてなる。第一断熱層41の厚さは1.0mm、第二断熱層42の厚さは0.5mm、第一断熱層41における第二断熱層42の含浸深さは0.1mm、難燃接着層43の厚さは0.03mm、熱反射層44の厚さは0.025mm、サンプル40全体の厚さは1.455mmである。
【0086】
実施例1のサンプルの第二断熱層におけるシリカエアロゲルの含有量は95体積%、第二水性バインダーの含有量は4.2体積%である。また、難燃接着層における第一水性バインダーの含有量は20質量%、難燃剤の含有量は80質量%である。
【0087】
[実施例2~5]
接着塗料における各成分の配合比率を変更し、製造される難燃接着層における第一水性バインダーおよび難燃剤の含有量を変更した点以外は、上記実施例1と同様にして、実施例2~5のサンプルを製造した。各サンプルにおける第一水性バインダーおよび難燃剤の含有量は、後出の表1にまとめて示す。
【0088】
[比較例1]
比較のため、難燃接着層を有しない断熱部材サンプルを製造した。まず、実施例1と同様の断熱塗料を、第一断熱層としての不織布(同上)の表面にブレードコート法により塗布して塗膜を形成した。次に、不織布の塗膜の表面に、熱反射層としてのアルミ蒸着フィルム(同上)を、ロール式ラミネート装置を用いて加圧しながら重ね合わせた。そして、得られた積層体を150℃下で5分間乾燥し、塗膜を硬化させて、第一断熱層/第二断熱層/熱反射層の三層からなる断熱部材サンプルを製造した。第一断熱層と第二断熱層、および第二断熱層と熱反射層は、各々、第二断熱層に含有される第二水性バインダー(ウレタン樹脂)により接着されている。断熱部材サンプルにおいて、第一断熱層の厚さは1.0mm、第二断熱層の厚さは0.5mm、第一断熱層における第二断熱層の含浸深さは0.1mm、熱反射層の厚さは0.025mm、サンプル全体の厚さは1.425mmである。このようにして製造された断熱部材サンプルを、比較例1のサンプルと称す。
【0089】
[比較例2]
断熱塗料における各成分の配合比率を変更し、製造される第二断熱層におけるシリカエアロゲルおよび第二水性バインダーの含有量を変更した点以外は、上記比較例1と同様にして、比較例2のサンプルを製造した。比較例2のサンプルの第二断熱層におけるシリカエアロゲルの含有量は90体積%、第二水性バインダーの含有量は9.6体積%である。 表1に、各サンプルの構成と、後述する接着性、断熱性、難燃性の評価結果と、をまとめて示す。
【表1】
【0090】
<接着性評価>
第二断熱層に対する熱反射層(アルミ蒸着フィルム)の剥離力を測定して、熱反射層の接着性を評価した。
【0091】
[剥離試験]
JIS Z0237:2009の「10.4 引きはがし粘着力の測定」に準じて、180°剥離試験を行った。180°剥離試験は、室温下で、引張幅25mm、引張距離80mm以上、引張速度100mm/分の条件で行った。剥離開始から25mmまでの測定値を無視し、その後の長さ50mm分の測定値を平均して平均剥離力を算出した。そして、平均剥離力が1.0N/25mm以上の場合を接着性良好(表1中、〇印で示す)、平均剥離力が0.1N/25mm以上1.0N/25mm未満の場合を接着性やや不良(同表中、△印で示す)と評価した。
【0092】
[結果]
表1に示すように、実施例1~4のサンプルにおいては、いずれも平均剥離力が1.0N/25mm以上であり、熱反射層の接着性が高いことが確認された。また、難燃接着層における第一水性バインダーの含有量が増加するに従って平均剥離力は大きくなり、接着性が向上することが確認された。なお、実施例5のサンプルにおいては、第一水性バインダーの含有量が少ないため、他の実施例サンプルと比較して、接着性がやや低下した。また、難燃接着層を有しない比較例1のサンプルにおいては、平均剥離力が小さくなり、他の実施例サンプルと比較して、接着性は低下した。比較例2のサンプルも難燃接着層を有しないが、第二断熱層における第二水性バインダーの含有量を増加したことにより、接着性は向上した。しかしながら、後述するように、第二断熱層におけるシリカエアロゲルの含有量が少なくなったため、断熱性は低下した。
【0093】
<断熱性評価>
以下の実験にて算出される熱損失低減率に基づいて、各サンプルの断熱性を評価した。
【0094】
[実験装置および実験方法]
まず、実験装置の構成を説明する。
図7に、実験装置の概略図を示す。
図7に示すように、実験装置8は、断熱ボックス80と、蓋部81と、空気加熱用ヒーター82と、ヒーターコントローラー83と、第一熱電対84と、を備えている。断熱ボックス80および蓋部81は、アルミフレームに、壁材として厚さ40mmのフェノールフォーム断熱材(旭化成建材(株)製「ネオマフォーム(登録商標)」)を取付けて作製されている。断熱ボックス80の内寸は、縦215mm、横350mm、高さ150mmである。断熱ボックス80の上壁部800には、サンプル設置用の開口部801が形成されている。開口部801の大きさは、縦140mm、横220mmである。同様に、蓋部81の中央部にも開口部が形成されており、当該開口部には鋼板810が配置されている。断熱ボックス80に対して、蓋部81は脱着可能である。空気加熱用ヒーター82および第一熱電対84は、断熱ボックス80の内部に配置されている。第一熱電対84は、空気加熱用ヒーター82の上部の空間の温度を測定するように配置されている。ヒーターコントローラー83は、断熱ボックス80の外部に配置され、空気加熱用ヒーター82に電気的に接続されている。
【0095】
次に、実験方法を説明する。まず、ポリプロピレン(PP)製の基材45を準備し、それを上壁部800の上面に開口部801を塞ぐように配置した。次に、基材45の上面に、サンプル40(前出
図6参照)を配置した。サンプル40は、第一断熱層41を下側(基材45側)にして配置した。そして、サンプル40の上部の空間の温度を測定するように、第二熱電対85を取り付けた。最後に、基材45およびサンプル40を囲むように、上壁部800に蓋部81を被せた。
【0096】
外気温24℃の環境にて、断熱ボックス80の内部を空気加熱用ヒーター82で加熱した。この際、ヒーターコントローラー83により、断熱ボックス80内の温度が80℃になるように制御した。断熱ボックス80内の温度は、第一熱電対84により測定した。加熱開始時から、断熱ボックス80内の温度が80℃になり安定してから50分経過後まで(トータル100分間)、サンプル40の上部空間の温度を第二熱電対85により測定した。
【0097】
これとは別に、基材45のみを断熱ボックス80の上壁部800に配置した。そして、断熱ボックス80の内部を同じ条件で加熱して、加熱開始から100分間の基材45の上部空間の温度を、第二熱電対85により測定した。
【0098】
[実験結果]
実験結果の一例として、
図8に、断熱ボックス内の温度、実施例1のサンプルの上部空間温度、室温の経時変化をグラフで示す。
図8には、比較のため、基材のみを配置した場合の基材の上部空間温度も併せて示す。
図8に示すように、基材単独よりも、基材にサンプルを積層した方が、上部空間温度は低く抑えられていることがわかる。すなわち、断熱部材を配置すると、断熱ボックス内から外部への熱の移動が抑制されることがわかる。断熱性の評価は、以下の方法で算出したサンプルの上部空間温度の変化量に基づいて行った。
【0099】
まず、断熱ボックス内の温度が80℃になり安定してからの50分間(具体的には実験開始後50分~100分まで)におけるサンプルの上部空間温度の平均値を算出した。次に、同50分間の室温の平均値を算出し、サンプルの上部空間温度の平均値から室温の平均値を差し引いて、サンプルの上部空間温度の変化量とした。同様にして、基材のみを配置した場合の基材の上部空間温度の変化量も算出した。そして、基材の上部空間温度の変化量と、サンプルの上部空間温度の変化量と、に基づいて、次式(i)により熱損失低減率を算出した。
熱損失低減率(%)=(ΔT0-ΔT)/ΔT0×100 ・・・(i)
[式中、ΔT0:基材の上部空間温度の変化量、ΔT:サンプルの上部空間温度の変化量]
得られた熱損失低減率の値により、断熱性を高、中、低の三段階で評価した。すなわち、熱損失低減率が35%以上の場合は断熱性「高」(表1中、〇印で示す)、熱損失低減率が25%以上35%未満の場合は断熱性「中」(同表中、△印で示す)、熱損失低減率が25%未満の場合は断熱性「低」、と評価した。
【0100】
表1に示すように、実施例1~5のサンプルにおいては、いずれも熱損失低減率が35%以上であり、流出する熱量を大幅に低減できることが確認された。すなわち、本発明の断熱部材は、断熱性に優れることが確認された。他方、比較例2のサンプルにおいては、接着性を高めるために第二断熱層における第二水性バインダーの含有量を増加した分、シリカエアロゲルの含有量が少なくなった。結果、比較例2のサンプルを使用した場合には、他のサンプルを使用した場合と比較して断熱性が低下した。このように、本発明の断熱部材によると、高い接着性と高い断熱性とを両立することが可能である。
【0101】
<難燃性評価>
自動車内装材料の燃焼試験である米国連邦自動車安全規格「FMVSS No.302」(ISO 3795、JIS D 1201)に基づいて、各サンプルの難燃性を評価した。
【0102】
[燃焼試験]
U字状の金属製試験片ホルダーに、製造したサンプルを水平に保持して、サンプルの一端側に38mmバーナー炎を15秒間接炎した時の燃焼速度を測定した。燃焼速度は、接炎する一端から38mm地点にA標線を設置し、同一端から292mm地点にB標線を設置して、A標線とB標線との間の254mmの燃焼区間で測定した。当該自動車安全規格においては、以下の3つの要件のいずれかを満たすものが規格適合と判定されるが、ここでは、1.または2.の要件を満たす場合を難燃性良好(表1中、〇印で示す)、1.または2.の要件を満たさないが3.の要件を満たす場合を難燃性やや不良(同表中、△印で示す)、3つの要件のいずれも満たさない場合を難燃性不良(同表中、×印で示す)、と評価した。
1.サンプルに着火しない、またはA標線手前で自消する(不燃性)。
2.燃焼距離51mm以内かつ60秒以内で自消する(自己消化性)。
3.燃焼速度が102mm/min以下である。
【0103】
[結果]
表1に示すように、実施例1~5のサンプルは、いずれも「FMVSS No.302」の規格に適合する難燃性を有することが確認された。特に、難燃接着層における難燃剤の含有量が80質量%以上のサンプルは、当該規格における「不燃性」の要件を満たしていた。これに対して、難燃接着層を有しない比較例1、2のサンプルは、当該規格に適合する難燃性を有していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の断熱部材は、自動車分野、物流分野、住宅分野、産業機器分野、情報通信機器分野などにおける様々な部品、部材に適用することができる。自動車分野としては、ドアトリム、天井材、インストルメントパネル、コンソールボックス、アームレストなどの内装部品が挙げられる。物流分野としては、食品、医薬品などを搬送する際に使用される断熱容器が挙げられる。住宅分野としては、建材、壁材、屋根裏材、窓のサッシなどが挙げられる。産業機器分野としては、モーター部、センサ部などに使用される断熱部材が挙げられる。情報通信機器分野としては、パソコンやスマートフォンに用いられる断熱部材が挙げられる。これ以外にも、インソールなどの靴用の断熱部材、クーラーボックスなどの日用品にも好適である。
【符号の説明】
【0105】
1:ドアトリム、10:断熱部材、11:第一断熱層、12:第二断熱層、13:難燃接着層、14:熱反射層、15:基材、16:表皮材、20:断熱部材、21:粘着シート、210:粘着層、211:剥離紙、30:断熱部材、31:第二断熱層、40:サンプル(断熱部材)、41:第一断熱層、42:第二断熱層、43:難燃接着層、44:熱反射層、45:基材、8:実験装置、80:断熱ボックス、81:蓋部、82:空気加熱用ヒーター、83:ヒーターコントローラー、84:第一熱電対、85:第二熱電対、800:上壁部、801:開口部、810:鋼板。