(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】レーダ装置及びレーダ信号処理方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/292 20060101AFI20240617BHJP
G01S 13/28 20060101ALI20240617BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20240617BHJP
G01S 7/32 20060101ALN20240617BHJP
【FI】
G01S7/292 200
G01S13/28 200
G01S7/02 216
G01S7/32 220
(21)【出願番号】P 2020156165
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 晋一
(72)【発明者】
【氏名】山下 遼
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-009979(JP,A)
【文献】特開2018-205174(JP,A)
【文献】特開2009-180650(JP,A)
【文献】米国特許第04404562(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンジ周波数軸で離隔したN(
N≧2)通りの周波数帯の信号を用いるレーダ装置であって、
各々の周波数帯でパルス圧縮をしてM/N(M≧1)検出したレンジを中心に、所定の幅を持つQ(Q≧1)通りのレンジ範囲を設定する手段と、
各周波数帯に位相バイアスがある場合は、0~360度の中のL(L≧1)通りの位相回転を元に生成した観測行列(LN通り)を用いて圧縮センシング(CS: Compressed Sensing)処理する手段と、
LN通りのCS処理の結果の中で、最大振幅をもつCS処理結果を出力する手段と
を具備するレーダ装置。
【請求項2】
slow-time軸で離隔したN(
N≧2)通りのCPI(Coherent Pulse Interval)(MパルスのPRI(Pulse Repetition Interval))の信号を用いるレーダ装置であって、
各々のCPIでslow-time軸FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)して検出したドップラを中心に所定の幅を持つQ(Q≧1)通りのドップラ範囲と0~360度の中のL(L≧1)通りの位相回転を元に生成した観測行列(LN通り)を用いて圧縮センシング(CS: Compressed Sensing)処理する手段と、
LN通りのCS処理の結果の中で、最大振幅をもつCS処理結果を出力する手段と
を具備するレーダ装置。
【請求項3】
アンテナ素子の位置軸で離隔したN(
N≧2)通りのサブアレイの信号を用いるレーダ装置であって、
各々のサブアレイでビーム形成して検出したビーム指向方向を中心に所定の幅を持つQ(Q≧1)通りの角度範囲と0~360度の中のL(L≧1)通りの位相回転を元に生成した観測行列(LN通り)を用いて圧縮センシング(CS: Compressed Sensing)処理する手段と、
LN通りのCS処理の結果の中で、最大振幅をもつCS処理結果を出力する手段と
を具備するレーダ装置。
【請求項4】
レンジ周波数軸で離隔したN(
N≧2)通りの周波数帯の信号を用いて、各々の周波数帯でパルス圧縮をしてM/N(M≧1)検出したレンジを中心に、所定の幅を持つQ(Q≧1)通りのレンジ範囲を設定し、各周波数帯に位相バイアスがある場合は、0~360度の中のL(L≧1)通りの位相回転を元に生成した観測行列(LN通り)を用いて圧縮センシング(CS: Compressed Sensing)処理し、LN通りのCS処理の結果の中で、最大振幅をもつCS処理結果を出力するレーダ信号処理方法。
【請求項5】
slow-time軸で離隔したN(
N≧2)通りのCPI(Coherent Pulse Interval)(MパルスのPRI(Pulse Repetition Interval))の信号を用いて、各々のCPIでslow-time軸FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)して検出したドップラを中心に所定の幅を持つQ(Q≧1)通りのドップラ範囲と0~360度の中のL(L≧1)通りの位相回転を元に生成した観測行列(LN通り)を用いて圧縮センシング(CS: Compressed Sensing)処理し、LN通りのCS処理の結果の中で、最大振幅をもつCS処理結果を出力するレーダ信号処理方法。
【請求項6】
アンテナ素子の位置軸で離隔したN(
N≧2)通りのサブアレイの信号を用いて、各々のサブアレイでビーム形成して検出したビーム指向方向を中心に所定の幅を持つQ(Q≧1)通りの角度範囲と0~360度の中のL(L≧1)通りの位相回転を元に生成した観測行列(LN通り)を用いて圧縮センシング(CS: Compressed Sensing)処理し、LN通りのCS処理の結果の中で、最大振幅をもつCS処理結果を出力するレーダ信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、レーダ装置及びレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダ装置では、レンジ周波数軸、slow-time軸、または位置軸に間隙がある場合には、レンジ軸、ドップラ軸、またはu(sinθ)軸で、グレーティングローブが発生し、誤検出が発生する場合があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】SAR(Synthetic Aperture Radar: レンジ圧縮)方式、大内、‘リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎’、東京電機大学出版局、pp.131-149(2003)
【文献】CFAR(Constant False Alarm Rate: 定誤警報率)、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.87-89 (1996)
【文献】圧縮センシング、Toyoki Hoshikawa, ’Performance Comparison of Compressed Sensing Algorithms for DOA Estimation of Multi-band Signals’, 2018 15TH WORKSHOP ON POSITIONING NAVIGATION AND COMMUNICATIONS(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上述べたように、従来のレーダ装置では、レンジ周波数軸、slow-time軸、または位置軸に間隙がある場合には、レンジ軸、ドップラ軸、またはu(sinθ)軸で、グレーティングローブが発生し、誤検出が発生する場合があった。
【0005】
本実施形態の課題は、レンジ周波数軸、slow-time軸、または位置軸に間隙がある場合でも、レンジ周波数軸信号に対する逆FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理、slow-time軸と位置軸に対するFFT処理後のレンジ軸、ドップラ軸、またはu(sinθ)軸の信号におけるグレーティングローブによる影響を抑えて高分解能化を実現することのできるレーダ装置及びレーダ信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本実施形態に係るレーダ装置は、レンジ周波数軸で離隔したN(N≧2)通りの周波数帯の信号を用いて、各々の周波数帯でパルス圧縮をしてM/N(M≧1)検出したレンジを中心に、所定の幅を持つQ(Q≧1)通りのレンジ範囲を設定し、各周波数帯に位相バイアスがある場合は、0~360度の中のL(L≧1)通りの位相回転を元に生成した観測行列(LN通り)を用いて圧縮センシング(CS: Compressed Sensing)処理し、LN通りのCS処理の結果の中で、最大振幅をもつCS処理結果を出力する。すなわち、レンジ周波数軸に間隙がある場合でも、レンジ軸で、グレーティングローブによる影響を抑えて高分解能化を図る。
【0007】
また、本実施形態に係るレーダ装置は、slow-time軸で離隔したN(N≧2)通りのCPI(Coherent Pulse Interval)(MパルスのPRI(Pulse Repetition Interval))の信号を用いて、各々のCPIでslow-time軸FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)して検出したドップラを中心に所定の幅を持つQ(Q≧1)通りのドップラ範囲と0~360度の中のL(L≧1)通りの位相回転を元に生成した観測行列(LN通り)を用いて圧縮センシング(CS: Compressed Sensing)処理し、LN通りのCS処理の結果の中で、最大振幅をもつCS処理結果を出力する。すなわち、slow-time軸に間隙がある場合でも、ドップラ軸で、グレーティングローブによる影響を抑えて高分解能化を図る。
【0008】
また、本実施形態に係るレーダ装置は、アンテナ素子の位置軸で離隔したN(N≧2)通りのサブアレイの信号を用いて、各々のサブアレイでビーム形成して検出したビーム指向方向を中心に所定の幅を持つQ(Q≧1)通りの角度範囲と0~360度の中のL(L≧1)通りの位相回転を元に生成した観測行列(LN通り)を用いて圧縮センシング(CS: Compressed Sensing)処理し、LN通りのCS処理の結果の中で、最大振幅をもつCS処理結果を出力する。すなわち、位置軸に間隙がある場合でも、u(sinθ)軸で、グレーティングローブによる影響を抑えて高分解能化を図る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係るレーダ装置の送受信系統の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態において、送受信処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、第1の実施形態において、送受信処理例を示す図である。
【
図4】
図4は、第2の実施形態に係るレーダ装置の送受信系統の構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、第2の実施形態において、送受信処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、第2の実施形態において、送受信処理例を示す図である。
【
図7】
図7は、第3の実施形態に係るレーダ装置の送受信系統の構成を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、第3の実施形態において、送受信処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、第3の実施形態において、送受信処理例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1乃至
図3を参照して、第1の実施形態を説明する。
【0012】
図1は、第1の実施形態に係るレーダ装置の送受信系統の構成を示すブロック図で、(a)は送信系統、(b)の受信系統を示している。
図1において、送信系統(a)では、信号生成部11で送信種信号を生成し、変調器12で送信種信号から変調信号を生成し、周波数変換器13で変調信号を高周波信号に変換した後、パルス変調器14でパルス変調(パルス圧縮)してP(P≧2)ヒットの送信パルスを生成し、送信アンテナ15から送信する。
【0013】
受信系統(b)では、受信アンテナ21で送信パルスの反射信号を受信し、周波数変換器22で受信信号を周波数変換し、AD変換器23でディジタル信号に変換し、2系統に分配する。
【0014】
一方の系統では、各帯域レンジ圧縮器24で、AD変換されたディジタル信号を各帯域の信号毎(N通り)にパルス圧縮(レンジ圧縮)し(非特許文献1参照)、CFAR(Constant False Alarm Rate: 定誤警報率)25で目標検出を行う。その後、M/N検出器26で、N通りの検出結果のうち、M(M≧1)通りの目標が検出された場合に、検出個数を上げて、低いSNでも所定のPd(検出確率)を満足するようにする。次に、CS観測行列範囲設定器27で、検出レンジを中心に、所定のレンジ幅(Q通り、(Q≧1))を持つCS(Compressed Sensing:圧縮センシング、非特許文献3参照)の観測行列を設定する。
【0015】
他方の系統では、全帯域配列器28で、AD変換されたディジタル信号を全帯域に配列し、観測行列設定器29で、全帯域信号を用いてCS処理するために観測行列を設定する。周波数帯域間で非コヒーレントの場合において、位相バイアスがある場合には、位相探索CS処理器2AでCS処理を実施し、最大振幅結果抽出器2BでCS処理結果の振幅が最大値となるCS処理結果を抽出して、高レンジ分解能な目標情報を得る。
【0016】
図2は、第1の実施形態において、送受信処理全体の流れを示すフローチャートである。
図2において、レーダの稼働が開始されると、各帯域レンジ圧縮器24及びCFAR25では、fast-time軸信号を入力し(S11)、fast-time軸のFFT処理を行い(S12)、第1周波数帯の信号毎にパルス圧縮(レンジ圧縮)し(S13)、そのパルス圧縮結果を保存して(S14)、第N周波数帯まで周波数帯を変更して、各周波数帯のパルス圧縮結果を保存し、目標の検出を行う(S15, S16)。その後、M/N検出器26で、N通りの検出結果のうち、M(M≧1)通りの目標が検出された場合に、検出個数を上げて、低いSNでも所定のPd(検出確率)を満足させ(S17)、CS観測行列範囲設定器27で、検出レンジを中心に、所定のレンジ幅(Q通り、(Q≧1))を持つCS観測行列を設定する(S18)。
【0017】
続いて、全帯域配列器28で配信される全帯域信号を用いて、観測行列設定器29で観測行列を設定する(S19)。ここで、周波数帯域間で非コヒーレントの場合において、位相バイアスがある場合には、位相探索CS処理器2AでCS処理を実施して(S1A)、CS処理結果を保存し(S1B)、探索位相範囲が終了するまで探索位相を変化させて観測行列を設定、CS処理及びCS処理結果の保存を繰り返し実行する(S1C, S1D)。探索位相範囲が終了した場合には、最大振幅結果抽出器2BでCS処理結果の振幅が最大値となるCS処理結果を抽出して(S1E)、高レンジ分解能な目標情報を出力する(S1F)。
【0018】
図3は、第1の実施形態において、送受信処理例を示す図である。まず、送信パルス信号は、
図3(a)に示すように、パルス内をN通りの周波数帯に時分割しており、受信データをfast-time軸でFFT処理すると、レンジ周波数軸では、
図3(b)に示すように、間隙のあるデータ(スパ-スデータ)になる。この各周波数帯の信号を
図3(c)に示すようにパルス圧縮して、各々でCFARにより目標を検出する。このためには、各周波数帯の変調信号による参照信号(時間軸)を、fast-time軸でFFT処理し、レンジ周波数軸の信号に変換して、レンジ周波数軸の入力信号と共役乗算して逆FFT処理することで、パルス圧縮を実施する(非特許文献1参照)。N通りの各周波数帯で検出した結果を用いて、M(M≦N)通りの検出があれば、全体信号による目標検出とする。このM/N検出を用いることにより、低いSN(信号対雑音電力比)でも、検出確率を向上させることができる。
【0019】
ここで、検出手法としては、各周波数帯の各々で検出する手法について述べたが、各周波数帯を全部合わせたパルス圧縮も可能である。ただし、レンジ周波数帯の間隙が大きい場合は、レンジ軸のグレーティングローブによって誤検出が発生するため、間隙が小さい場合や、各周波数帯がレンジ周波数軸でランダムに分散して、レンジグレーティングローブが小さい場合に適用できる手法となる。
【0020】
目標レンジを検出できれば、
図3(d)に示すように、検出レンジを中心に所定のレンジ幅を持つ探索範囲のCS用の観測行列を設定できる。また、周波数帯間で位相バイアスがある場合には、位相探索のための位相バイアスを含めた観測行列を設定し、CS処理を行う。最終的に、
図3(e)に示すように、各位相バイアスのCS処理結果の中で、最大振幅をもつ結果を出力とする。
【0021】
以下に、CS処理を主体に、定式化を行う。パルス圧縮信号のようにパルス内で変調している場合は、変調信号である参照信号をFFT処理したものを周波数軸の信号に乗算して、レンジ周波数軸の信号Sigr(f)を得る。
【0022】
【数1】
この信号を逆FFT処理すればレンジ圧縮したレンジ軸の信号が得られる。CS処理は、逆FFT処理前のレンジ周波数軸の信号を用いる。
【0023】
次に、レンジ周波数軸におけるCS処理を考える。このレンジ周波数軸の信号をYrとし、レンジ軸の波源をXrとすると、次式で表すことができる。
【0024】
【0025】
【数3】
Arのn番目の縦列の要素は、波源がレンジxnに存在するときのレンジ周波数軸の信号ベクトルである。
【0026】
【0027】
【数5】
ここで、(2)式を用いて、Xrがスパースであることを用いると、次式を最小化するXrを算出することができる(非特許文献3参照)。
【0028】
【数6】
Xrに対応するnを算出できれば、次式により距離を算出できる。
【0029】
【数7】
次に、レンジ周波数帯間で非コヒ-レントな場合等、レンジ周波数帯間で位相バイアスがある場合を考える。位相バイアスが既知の場合には、次式のように、(4)式の観測行列及びベクトルArに位相バイアス分を含めればよい。
【0030】
【数8】
この観測行列を用いて、(2)~(6)式のCS処理を行い、目標レンジを高分解能に算出できる。
【0031】
次に、位相バイアスが既知でない場合を考える。この場合は、位相バイアスを探索法により抽出する必要がある。N通りのレンジ周波数毎に、0~360度内でL(L≧1)通りの位相とし、全組み合わせは、N通りのうち、いずれか1つを基準とすると、LN通りとなる。この組み合わせの位相を順に、(8)式のφbm(n)(n=1~N)に設定して、(2)~(6)式のCS処理を適用する。各々のCS処理結果の振幅の最大値をLN通り保存しておき、それが最大となる位相バイアス成分によるCS処理の結果を出力として選定する。
【0032】
以上のように、本実施形態に係るレーダ装置によれば、レンジ周波数軸で離隔したN(N≧1)通りの周波数帯の信号を用いて、各々の周波数帯でパルス圧縮をしてM/N(M≧1)検出したレンジを中心に、所定の幅を持つQ(Q≧1)通りのレンジ範囲を設定し、各周波数帯に位相バイアスがある場合は、0~360度の中のL(L≧1)通りの位相回転を元に生成した観測行列(LN通り)を用いて圧縮センシング(CS)処理し、LN通りのCS処理の結果の中で、最大振幅をもつCS処理結果を出力する。したがって、レンジ周波数軸に間隙がある場合でも、レンジ軸で、グレーティングローブによる影響を抑えて高分解能化を実現することができる。
【0033】
(第2の実施形態)
図4乃至
図6を参照して、第2の実施形態として、slow-time軸にCS処理を適用する場合について説明する。ただし、
図4及び
図5において、
図1、
図2と同一部分には同一符号を付して示し、ここでは重複する説明を省略する。
【0034】
図4は、第2の実施形態に係るレーダ装置の送受信系統の構成を示すブロック図で、(a)は送信系統、(b)の受信系統を示している。
図4において、
図1と異なる点は、送信系統において、パルス変調器14のパルス変調で、離隔したCPI1~CPINを生成し、受信系統において、各帯域レンジ圧縮器24に代わって各CPI slow-time FFT処理器24aを用い、全帯域配列器28に代わって全CPI配列器28aを用いたことにある。
【0035】
図5は、第2の実施形態において、送受信処理全体の流れを示すフローチャートである。
図5において、レーダの稼働が開始されると、各CPI slow-time FFT処理器24a及びCFAR25では、slow-time軸信号を入力し(S21)、slow-time軸のFFT処理を行い(S22)、各CPI信号のFFT処理結果を保存し、目標の検出を行う(S23~S25)。その後、M/N検出器26で、N通りの検出結果のうち、M(M≧1)通りの目標が検出された場合に、検出個数を上げて、低いSNでも所定のPd(検出確率)を満足させ(S26)、CS観測行列範囲設定器27で、検出レンジを中心に、所定のレンジ幅(Q通り、(Q≧1))を持つCS観測行列を設定する(S27)。
【0036】
続いて、全CPI配列器28aで配信される全CPI信号を用いて、観測行列設定器29で観測行列を設定する(S28)。ここで、周波数帯域間で非コヒーレントの場合において、位相バイアスがある場合には、位相探索CS処理器2AでCS処理を実施して(S29)、CS処理結果を保存し(S2A)、探索位相範囲が終了するまで探索位相を変化させて観測行列を設定、CS処理及びCS処理結果の保存を繰り返し実行する(S2B, S2C)。探索位相範囲が終了した場合には、最大振幅結果抽出器2BでCS処理結果の振幅が最大値となるCS処理結果を抽出して(S2D)、高レンジ分解能な目標情報を出力する(S2E)。
【0037】
図6は、第2の実施形態において、送受信処理例を示す図である。まず、送信パルス信号は、slow-time軸でN通りのCPI(Coherent Pulse Interval)に分割しており、受信データは、
図6(a)に示すように、間隙のある離隔されたデータ(スパ-スデータ)になる。この各CPI信号をslow-time FFT処理して、
図6(b)に示すように、各々でCFARにより目標を検出し、N通りのCPI信号で検出した結果を用いて、M(M≦N)通りの検出があれば、全体信号による目標検出とする。このM/N検出を用いることにより、低いSN(信号対雑音電力比)でも、検出確率を向上させることができる。
【0038】
ここで、検出手法としては、各CPIの各々で検出する手法について述べたが、各CPIを全部合わせたslow-time軸FFTも可能である。ただし、CPIの間隙が大きい場合は、ドップラ軸のグレーティングローブにより、誤検出が発生するため、間隙が小さい場合や、各CPIがslow-time軸でランダムに分散して、ドップラグレーティングローブが小さい場合に適用できる手法となる。
【0039】
目標ドップラを検出できれば、検出ドップラを中心に所定のドップラ幅を持つ探索範囲のCS用の観測行列を設定できる。また、CPI間で位相バイアスがある場合には、
図6(c)に示すように、位相探索のための位相バイアスを含めた観測行列を設定し、CS処理を行う。各位相バイアスのCS処理結果の中で、
図6(d)に示すように、最大振幅をもつ結果を出力とする。
【0040】
以下に、CS処理を主体に、定式化を行う。slow-time軸の信号におけるCS処理をすることを考える。このslow-time軸の信号をYsとし、ドップラ軸の波源をXsとすると、次式で表すことができる。
【0041】
【0042】
【数10】
Asのn番目の縦列の要素は、波源がドップラxnに存在するときのレンジ周波数軸の信号ベクトルである。
【0043】
【0044】
【数12】
ここで、(9)式を用いて、Xsがスパースであることを用いると、次式を最小化するXsを算出することができる(非特許文献3参照)。
【0045】
【数13】
Xsに対応するnを算出できれば、次式によりドップラを算出できる。
【0046】
【0047】
【数15】
次に、CPI間で非コヒ-レントな場合等、CPI間で位相バイアスがある場合を考える。位相バイアスが既知の場合には、(11)式の観測行列及びベクトルAsに位相バイアス分を含めればよい。
【0048】
【数16】
この観測行列を用いて、(9)~(13)式のCS処理を行うことで、目標ドップラを高分解能に算出することができる。
【0049】
次に、位相バイアスが既知でない場合を考える。この場合は、位相バイアスを探索法により抽出する必要がある。N通りのCPI毎に、0~360度内でL(L≧1)通りの位相とし、全組み合わせは、LN通りとなる。この組み合わせの位相を順に、(16)式のφbm(n)(n=1~N)に設定して、(9)~(13)式のCS処理を適用する。各々のCS処理結果の振幅の最大値をLN通り保存しておき、それが最大となる位相バイアス成分によるCS処理の結果を出力として選定する。
【0050】
本実施形態に係るレーダ装置によれば、slow-time軸で離隔したN(N≧1)通りのCPI(MパルスのPRI)の信号を用いて、各々のCPIでslow-time軸FFTして検出したドップラを中心に所定の幅を持つQ(Q≧1)通りのドップラ範囲と0~360度の中のL(L≧1)通りの位相回転を元に生成した観測行列(LN通り)を用いて圧縮センシング(CS)処理し、LN通りのCS処理の結果の中で、最大振幅をもつCS処理結果を出力する。したがって、slow-time軸に間隙がある場合でも、ドップラ軸で、グレーティングローブによる影響を抑えて高分解能化を実現することができる。
【0051】
(第3の実施形態)
図7乃至
図9を参照して、第3の実施形態として、アンテナ素子(サブアレイ)の位置軸にCS処理を適用する場合について説明する。ただし、
図7及び
図8において、
図1、
図2と同一部分には同一符号を付して示し、ここでは重複する説明を省略する。
【0052】
図7は、第3の実施形態に係るレーダ装置の送受信系統の構成を示すブロック図で、(a)は送信系統、(b)の受信系統を示している。
図7において、
図1と異なる点は、送信系統は同様として、受信系統において、受信アンテナ21がサブアレイで構成されており、各々のサブアレイに対して周波数変換器22とAD変換器23があり、そのサブアレイ出力を入力として、各帯域レンジ圧縮器24に代わって各サブアレイビーム形成器24bを用いてビーム合成し、全帯域配列器28に代わって全サブアレイ配列器28bを用いたことにある。なお、
図7(b)では、受信アンテナ21からAD変換器23までのサブアレイ構成を、簡単のために、1系統で表現している。
【0053】
図8は、第3の実施形態において、送受信処理全体の流れを示すフローチャートである。
図8において、レーダの稼働が開始されると、各サブアレイビーム形成器24b及びCFAR25では、位置軸信号を入力し(S31)、サブアレイビーム形成を行い(S32)、各サブアレイビーム形成処理結果を保存し、目標の検出を行う(S33~S35)。その後、M/N検出器26で、N通りの検出結果のうち、M(M≧1)通りの目標が検出された場合に、検出個数を上げて、低いSNでも所定のPd(検出確率)を満足させ(S36)、CS観測行列範囲設定器27で、検出レンジを中心に、所定のレンジ幅(Q通り、(Q≧1))を持つCS観測行列を設定する(S37)。
【0054】
続いて、全サブアレイ配列器28bで配信される全サブアレイ信号を用いて、観測行列設定器29で観測行列を設定する(S38)。ここで、周波数帯域間で非コヒーレントの場合において、位相バイアスがある場合には、位相探索CS処理器2AでCS処理を実施して(S39)、CS処理結果を保存し(S3A)、探索位相範囲が終了するまで探索位相を変化させて観測行列を設定、CS処理及びCS処理結果の保存を繰り返し実行する(S3B, S3C)。探索位相範囲が終了した場合には、最大振幅結果抽出器2BでCS処理結果の振幅が最大値となるCS処理結果を抽出して(S3D)、高レンジ分解能な目標情報を出力する(S3E)。
【0055】
図9は、第3の実施形態において、送受信処理例を示す図である。まず、送信パルス信号は、位置軸でN通りのサブアレイに分割しており、受信データは、
図9(a)に示すように、間隙のある離隔されたデータ(スパ-スデータ)になる。この各位置軸信号を位置軸FFT処理(ビーム形成)して、
図9(b)に示すように、各々でCFARにより目標を検出し、N通りのCPI信号で検出した結果を用いて、M(M≦N)通りの検出があれば、全体信号による目標検出とする。このM/N検出を用いることにより、低いSN(信号対雑音電力比)でも、検出確率を向上させることができる。
【0056】
ここで、検出手法としては、各位置軸の各々で検出する手法について述べたが、各位置軸を全部合わせた位置軸FFT処理(ビーム形成)も可能である。ただし、サブアレイ間の間隙が大きい場合は、u軸のグレーティングローブにより、誤検出が発生するため、間隙が小さい場合や、各サブアレイが位置軸でランダムに分散して、u軸グレーティングローブが小さい場合に適用できる手法となる。
【0057】
目標角度(u軸に対応)を検出できれば、検出u値を中心に所定のu軸の探索範囲のCS用の観測行列を設定できる。また、サブアレイ間で位相バイアスがある場合には、
図9(c)に示すように、位相探索のための位相バイアスを含めた観測行列を設定し、CS処理を行う。各位相バイアスのCS処理結果の中で、
図9(d)に示すように、最大振幅をもつ結果を出力とする。
【0058】
以下に、CS処理を主体に、定式化を行う。位置軸の信号におけるCS処理をすることを考える。この位置軸の信号をYuとし、u軸の波源をXuとすると、次式で表すことができる。
【0059】
【0060】
【数18】
Auのn番目の縦列の要素は、波源がu軸のxnに存在するときの位置軸の信号ベクトルである。
【0061】
【0062】
【数20】
ここで、(17)式を用いて、Xuがスパースであることを用いると、次式を最小化するXuを算出することができる(非特許文献3参照)。
【0063】
【数21】
Xuに対応するnを算出できれば、次式によりu値を算出できる。
【0064】
【数22】
波源の角度θは、次式により算出できる。
【0065】
【数23】
次に、サブアレイ間で非コヒ-レントな場合等、サブアレイ間で位相バイアスがある場合を考える。位相バイアスが既知の場合には、(19)式の観測行列及びベクトルAuに位相バイアス分を含めればよい。
【0066】
【数24】
この観測行列を用いて、(17)~(21)式のCS処理を行い、目標角度を高分解能に算出できる。
【0067】
次に、位相バイアスが既知でない場合を考える。この場合は、位相バイアスを探索法により抽出する必要がある。N通りのサブアレイ毎に、0~360度内でL(L≧1)通りの位相とすると、全組み合わせは、LN通りとなる。この組み合わせの位相を順に、(24)式のφbm(n)(n=1~N)に設定して、(17)~(21)式のCS処理を適用する。各々のCS処理結果の振幅の最大値をLN通り保存しておき、それが最大となる位相バイアス成分によるCS処理の結果を出力として選定する。
【0068】
以上のように、本実施形態に係るレーダ装置によれば、アンテナ素子の位置軸で離隔したN(N≧1)通りのサブアレイの信号を用いて、各々のサブアレイでビーム形成して検出したビーム指向方向を中心に所定の幅を持つQ(Q≧1)通りの角度範囲と0~360度の中のL(L≧1)通りの位相回転を元に生成した観測行列(LN通り)を用いて圧縮センシング(CS)処理し、LN通りのCS処理の結果の中で、最大振幅をもつCS処理結果を出力する。したがって、位置軸に間隙がある場合でも、u(sinθ)軸で、グレーティングローブによる影響を抑えて高分解能化を実現することができる。
【0069】
なお、以上の処理は、レーダ装置として記述したが、受信アンテナ装置にも適用できるのは言うまでもない。
【0070】
その他、本発明は上記実施形態をそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0071】
11…信号生成部、12…変調器、13…周波数変換器、14…パルス変調器、5…送信アンテナ、21…受信アンテナ、22…周波数変換器、23…AD変換器、24…各帯域レンジ圧縮器、24a…CPI slow-time FFT処理器、24b…各サブアレイビーム形成器、25…CFAR、26…M/N検出器、27…CS観測行列範囲設定器、28…全帯域配列器、28a…全CPI配列器、28b…全サブアレイ配列器、29…観測行列設定器、2A…位相探索CS処理器。2B…最大振幅結果抽出器。