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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】2ストローク式対向ピストンエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/22 20060101AFI20240617BHJP
   F02F 1/00 20060101ALI20240617BHJP
   F02F 1/42 20060101ALI20240617BHJP
   F02F 3/00 20060101ALI20240617BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20240617BHJP
   F02F 7/00 20060101ALI20240617BHJP
   F02M 59/10 20060101ALI20240617BHJP
   F02M 39/00 20060101ALI20240617BHJP
   F01B 17/02 20060101ALI20240617BHJP
   F01B 7/14 20060101ALI20240617BHJP
   F02B 75/28 20060101ALI20240617BHJP
   F16J 9/00 20060101ALI20240617BHJP
   F16J 1/00 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
F02F1/22 A
F02F1/00 Q
F02F1/00 A
F02F1/42 B
F02F3/00 B
F02F3/00 301A
F02F5/00 H
F02F5/00 N
F02F5/00 A
F02F7/00 B
F02M59/10 C
F02M39/00 A
F01B17/02
F01B7/14
F02B75/28 E
F16J9/00 Z
F16J1/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020157202
(22)【出願日】2020-09-18
(65)【公開番号】P2022050983
(43)【公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】518314280
【氏名又は名称】工藤 松菊
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】工藤 松菊
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-502849(JP,A)
【文献】特開2009-024530(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0299090(US,A1)
【文献】特表2012-518741(JP,A)
【文献】特表2016-515177(JP,A)
【文献】米国特許第4635596(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0025548(US,A1)
【文献】特表2017-523346(JP,A)
【文献】特表2013-511640(JP,A)
【文献】特表2008-505282(JP,A)
【文献】特表2007-500297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00 ~ 7/00
F02M 59/10
F02M 39/00
F01B 17/00 ~ 17/02
F01B 7/14
F02B 75/28
F16J 9/00
F16J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2ストローク式対向ピストンエンジンであって、
シリンダのボアの周方向全域に排気ポートが形成され、
前記排気ポートにおける前記ボアの延在方向で対向する縁部を接続するリブを備えず
前記シリンダにおけるボアの周面に形成されたリング溝に挿入されるリングを備え、
前記リングが前記リング溝に挿入された状態で、前記リングは、前記リング溝の径方向外側に向かって拡張力を発現し、
前記リングが拡張した状態で、前記リングの内径は、前記シリンダのボアの内径に対して大きい又は同じであり、
前記シリンダのリング溝と連続するように、前記シリンダのボアの周面における前記リング溝を挟んで当該シリンダの燃焼室の側に対して逆側の部分に形成されたガス溜まり部を備える、2ストローク式対向ピストンエンジン。
【請求項2】
前記リングに対して当該リングの径方向外側で前記シリンダに固定され、前記リングを当該リングの径方向内側に向かって押し込む第1の押し込み手段を備え、
前記第1の押し込み手段は、前記2ストローク式対向ピストンエンジンが稼働時のクランクの回転角度に基づいて、前記リングの内周面がピストンの外周面に接触するように、前記リングを押し込む、請求項1に記載の2ストローク式対向ピストンエンジン。
【請求項3】
前記シリンダのボアの周方向全域に吸気ポートが形成され、
前記吸気ポートにおける前記ボアの延在方向で対向する縁部を接続するリブを備えていない、請求項1又は2に記載の2ストローク式対向ピストンエンジン。
【請求項4】
前記吸気ポートは、前記排気ポートに比べて前記シリンダの燃焼室の側に配置され、
前記吸気ポートには、インタークーラが収容された吸気チャンバを介して吸気ブロワが接続されている、請求項に記載の2ストローク式対向ピストンエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2ストローク式対向ピストンエンジン、駆動システム、ピストン及びリングの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2ストローク式対向ピストンエンジンは、シリンダに吸気ポート及び排気ポートが形成された構成とされており、例えば、特許文献1に開示されているように、排気ポートにおけるシリンダのボアが延在する方向で対向する縁部を接続するようにリブが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2017-523346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の2ストローク式対向ピストンエンジンのように、排気ポートの対向する縁部を接続するようにリブが設けられている場合、排気ガスがリブをなめ、リブ周辺の過熱や潤滑不良などにより耐久性が低く、また、排気ポートを流動するガスの流動抵抗が大きく熱損失が大きい課題を有する。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、耐久性が高く、また、排気ポートを流動するガスの流動抵抗が小さく熱損失の少ない、2ストローク式対向ピストンエンジン、駆動システム、ピストン及びリングの製造方法を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る2ストローク式対向ピストンエンジンは、2ストローク式対向ピストンエンジンであって、
シリンダのボアの周方向全域に排気ポートが形成され、
前記排気ポートにおける前記ボアの延在方向で対向する縁部を接続するリブを備えていない。
【0007】
上述の2ストローク式対向ピストンエンジンは、ピストンの外周面に形成されたリング溝に挿入されるリングを備え、
前記リングが前記リング溝に挿入された状態で、前記リングは、前記リング溝の径方向内側に向かって収縮力を発現し、
前記リングが収縮した状態で、前記リングの外径は、前記ピストンの直径に対して小さい又は同じであることが好ましい。
【0008】
上述の2ストローク式対向ピストンエンジンは、前記ピストンのリング溝と連続するように、前記ピストンの周面における前記リング溝を挟んで当該ピストンのヘッド部の側に対して逆側の部分に形成されたガス溜まり部を備えることが好ましい。
【0009】
上述の2ストローク式対向ピストンエンジンは、前記シリンダにおけるボアの周面に形成されたリング溝に挿入されるリングを備え、
前記リングが前記リング溝に挿入された状態で、前記リングは、前記リング溝の径方向外側に向かって拡張力を発現し、
前記リングが拡張した状態で、前記リングの内径は、前記シリンダのボアの直径に対して大きい又は同じであることが好ましい。
【0010】
上述の2ストローク式対向ピストンエンジンは、前記シリンダのリング溝と連続するように、前記シリンダのボアの周面における前記リング溝を挟んで当該シリンダの燃焼室の側に対して逆側の部分に形成されたガス溜まり部を備えることが好ましい。
【0011】
上述の2ストローク式対向ピストンエンジンは、前記リングを当該リングの径方向内側に向かって押し込む第1の押し込み手段を備え、
前記第1の押し込み手段は、クランクの回転角度に基づいて、前記リングの内周面がピストンの外周面に接触するように、前記リングを押し込むことが好ましい。
【0012】
上述の2ストローク式対向ピストンエンジンにおいて、前記シリンダは、前記リング溝を境に複数に分割されたインナースリーブを備え、
前記インナースリーブは、前記シリンダにおけるボアの周面に形成された収容部に収容されていることが好ましい。
【0013】
上述の2ストローク式対向ピストンエンジンは、前記インナースリーブを前記収容部の側壁面に押し込む第2の押し込み手段を備えることが好ましい。
【0014】
上述の2ストローク式対向ピストンエンジンにおいて、前記シリンダのボアの周方向全域に吸気ポートが形成され、
前記吸気ポートにおける前記ボアの延在方向で対向する縁部を接続するリブを備えていないことが好ましい。
【0015】
上述の2ストローク式対向ピストンエンジンにおいて、前記吸気ポートは、前記排気ポートに比べて前記シリンダの燃焼室の側に配置され、
前記吸気ポートには、インタークーラが収容された吸気チャンバを介して吸気ブロワが接続されていることが好ましい。
【0016】
上述の2ストローク式対向ピストンエンジンにおいて、
コンロッドの先端部にピストンピンが一体的に形成されており、
ピストンにおけるクランク側の部分は、前記コンロッドを挟み込み可能に分割されていることが好ましい。
【0017】
本発明の一形態に係る駆動システムは、
上述の2ストローク式対向ピストンエンジンと、
前記2ストローク式対向ピストンエンジンの各々のクランクに接続される駆動補助機構と、
を備え、
前記駆動補助機構は、
前記各々のクランクに接続される偏心カムと、
第1の補助シリンダと、
前記第1の補助シリンダのボアに対向するように挿入されるロッドと、
前記第1の補助シリンダのボアと前記ロッドとで形成された空間に油を供給する油圧源と、
前記偏心カムと前記ロッドとの間に配置され、前記ロッドが延在する方向に対して直交する方向への前記偏心カムの変位を許容しつつ、前記ロッドが延在する方向への前記偏心カムの変位を当該ロッドに伝達する変位許容部と、
を有する。
【0018】
上述の駆動システムは、対向する前記ロッドの間に配置され、前記ロッドが離間する方向に弾性力を発現する弾性体を備えることが好ましい。
【0019】
上述の駆動システムは、燃料をインジェクタに供給する燃料噴射システムを備え、
前記燃料噴射システムは、
前記第1の補助シリンダのボアに接続される第2の補助シリンダと、
前記燃料が通過する貫通部を有し、前記第2の補助シリンダのボアに先端部が挿入されるプランジャと、
前記プランジャの先端部に被せられ、前記プランジャの先端部に沿って前記第2の補助シリンダのボア内を摺動する、有底筒状の補助ピストンと、
前記プランジャの貫通部と燃料タンクとを接続する第1の接続路に設けられ、前記燃料タンクから前記プランジャへの前記燃料の流れを許容し、前記プランジャから前記燃料タンクへの前記燃料の流れを遮断する第1の逆止弁と、
前記プランジャの貫通部とインジェクタとを接続する第2の接続路に設けられ、前記プランジャから前記インジェクタへの前記燃料の流れを許容し、前記インジェクタから前記プランジャへの前記燃料の流れを遮断する第2の逆止弁と、
を備えることが好ましい。
【0020】
本発明の一形態に係るピストンは、2ストローク式対向ピストンエンジンに用いられるピストンであって、
前記ピストンのヘッド部及び側壁部を形成する本体部と、
前記本体部の内部に収容されて固定され、ピストンピンを挟み込む第1の分割部及び第2の分割部と、
を備える。
【0021】
上述のピストンにおいて、前記第2の分割部は、前記第1の分割部に対してクランクの側に配置されており、前記クランクに接続されるコンロッドを挟み込むように分割されていることが好ましい。
【0022】
上述のピストンは、前記本体部の内側面と、前記第1の分割部又は前記第2の分割部の外側面と、の間にオイル流路を備えることが好ましい。
【0023】
本発明の一形態に係るリングの製造方法は、2ストローク式対向ピストンエンジンに用いられ、シリンダにおけるボアの周面に形成されたリング溝に挿入されるリングの製造方法であって、
前記2ストローク式対向ピストンエンジンのクランクの回転角度に基づいて押し込み手段によって押し込まれる前記リングにおける予め設定された箇所を、前記リングの外側から前記押し込み手段によって押し込まれる予め設定された押し込み量で押し込んだ状態で前記リングを固定する工程と、
前記リングの内径が前記2ストローク式対向ピストンエンジンのピストンの外径と等しくなるように、前記リングの内周面を加工する工程と、
を備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、耐久性が高く、また、熱損失の少ない、2ストローク式対向ピストンエンジン、駆動システム、ピストン及びリングの製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施の形態1の2ストローク式対向ピストンエンジンを模式的に示す図である。
図2】インジェクタの先端部周辺を拡大して示す図である。
図3】第1のピストンを拡大して示す図である。
図4】リング溝周辺を拡大して示す図である。
図5】(a)は、第1のピストンの第1の分割部をY軸+側から見た図であり、(b)は、第1のピストンの第1の分割部をX軸+側から見た図である。
図6】(a)は、第1のピストンの第2の分割部をY軸+側から見た図であり、(b)は、(a)のB-B矢視図であり、(c)は、図6(a)のC-C矢視図である。
図7】リングが拡張した状態でのリング溝周辺を示す図である。
図8】排気ポートを介して排気経路に排気ガスが排出される様子を示す図である。
図9】実施の形態2の2ストローク式対向ピストンエンジンを模式的に示す図である。
図10】実施の形態3の2ストローク式対向ピストンエンジンを模式的に示す図である。
図11】第1の分割部、第2の分割部、第3の分割部及び第4の分割部を分解した状態を示す図である。
図12】実施の形態4の2ストローク式対向ピストンエンジンを模式的に示す図である。
図13】リングを製造する様子を示す図である。
図14】実施の形態5の2ストローク式対向ピストンエンジンを模式的に示す図である。
図15】第1の分割部、第2の分割部、第3の分割部及び第4の分割部を分解した状態を示す図である。
図16】実施の形態6の2ストローク式対向ピストンエンジンのEGRシステムを説明するための図である。
図17】実施の形態6の2ストローク式対向ピストンエンジンの異なるEGRシステムを説明するための図である。
図18】実施の形態6の2ストローク式対向ピストンエンジンの吸気ポート周辺を示す図である。
図19】実施の形態6の2ストローク式対向ピストンエンジンの排気ポート周辺を示す図である。
図20】実施の形態7の駆動システムの構成を説明するために当該駆動システムをZ軸+側から見た図である。
図21】実施の形態7の駆動システムの構成を説明するために当該駆動システムをX軸+側から見た図である。
図22】実施の形態7の駆動システムに適用される燃料噴射システムの構成を示す図である。
図23】(a)は、他の形態のコンロッドをZ軸+側から見た図であり、(b)は、他の形態のコンロッドをX軸+側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0027】
<実施の形態1>
本実施の形態の2ストローク式対向ピストンエンジンの構成を説明する。ここで、以下の説明では、説明を明確にするために、三次元(XYZ)座標系を用いて説明する。図1は、本実施の形態の2ストローク式対向ピストンエンジンを模式的に示す図である。
【0028】
本実施の形態の2ストローク式対向ピストンエンジン(以下、単にエンジンと省略する場合がある。)1は、例えば、ディーゼルエンジンである。但し、本実施の形態のエンジン1は、ガソリンエンジンであってもよい。
【0029】
エンジン1は、シリンダ2、第1のピストン3及び第2のピストン4を備えている。シリンダ2は、シリンダ2の内部に単数又は複数のボア2aが形成されている。ボア2aは、略円柱形状であり、Y軸方向に延在している。そして、エンジン1が複数気筒の場合、当該ボア2aがX軸方向に複数列配置されている。
【0030】
シリンダ2のY軸+側の端部には、第1のクランク5のY軸-側の部分を収容する第1の収容部2bが形成されており、第1のクランク5のY軸-側の部分が第1の収容部2bに収容された状態で、第1の収容部2bが第1のクランクケース6で塞がれている。
【0031】
つまり、第1のクランク5は、第1の収容部2b及び第1のクランクケース6の内部でX軸方向に延在する回転軸回りに回転可能に収容されている。第1のクランク5には、第1のコンロッド7が接続されている。第1のコンロッド7は、第1のクランク5からY軸-側に延在してシリンダ2のボア2aの内部に配置されている。
【0032】
シリンダ2のY軸-側の端部には、第2のクランク8のY軸+側の部分を収容する第2の収容部2cが形成されており、第2のクランク8のY軸+側の部分が第2の収容部2cに収容された状態で、第2の収容部2cが第2のクランクケース9で塞がれている。
【0033】
つまり、第2のクランク8は、第2の収容部2c及び第2のクランクケース9の内部でX軸方向に延在する回転軸回りに回転可能に収容されている。第2のクランク8は、第1のクランク5に対して位相が180°ズレて回転する。第2のクランク8には、第2のコンロッド10が接続されている。第2のコンロッド10は、第2のクランク8からY軸+側に延在してシリンダ2のボア2aの内部に配置されている。
【0034】
シリンダ2のZ軸-側の端部には、オイルパン11が固定されている。オイルパン11は、シリンダ2の第1の収容部2b及び第2の収容部2cと連通しており、オイルパン11にオイル12が収容されている。
【0035】
シリンダ2におけるY軸方向の略中央部には、インジェクタ13が固定されている。インジェクタ13のZ軸-側の端部(即ち、先端部)は、シリンダ2のボア2aから露出している。その結果、シリンダ2のボア2aにおけるインジェクタ13の周辺領域が燃焼室として機能することになる。
【0036】
ここで、図2は、インジェクタの先端部周辺を拡大して示す図である。インジェクタ13は、図2に示すように、インジェクタ本体14、スリーブ15、パッキン16及び押し付けリング17を備えている。
【0037】
インジェクタ本体14は、段差部を有する円柱形状を基本形態としており、インジェクタ本体14のZ軸-側の部分の直径がZ軸+側の部分の直径に比べて小さい。そして、インジェクタ本体14のZ軸-側の端部に燃料を噴射するノズルが形成されている。
【0038】
スリーブ15は、段差部を有する円筒形状を基本形態としており、スリーブ15のZ軸-側の部分の外径がZ軸+側の部分の外径に比べて小さい。そして、スリーブ15のZ軸+側の端部から当該スリーブ15の径方向外側に向かってフランジ部15aが突出している。スリーブ15の内部には、インジェクタ本体14のZ軸-側の部分が挿入されている。
【0039】
パッキン16は、円環形状を基本形態としており、パッキン16のZ軸+側の部分であって、且つ、パッキン16の径方向外側の角部に傾斜面16aが形成されている。傾斜面16aは、Z軸+側に向かうに従ってパッキン16の径方向内側に向かって傾斜する。パッキン16の内部には、スリーブ15のZ軸-側の部分が挿入されている。
【0040】
押し付けリング17は、円環形状を基本形態としており、押し付けリング17の内周面がZ軸+側に向かうに従って当該押し付けリング17の径方向内側に向かって傾斜する傾斜面17aとされている。そして、パッキン16の傾斜面16aと押し付けリング17の傾斜面17aとが略面接触するように、押し付けリング17の内部には、パッキン16が挿入されている。なお、押し付けリング17は、銅などの金属製のOリングであってもよい。
【0041】
このようなインジェクタ13は、シリンダ2に形成された固定孔2dに固定されている。詳細には、固定孔2dは、シリンダ2をZ軸方向に貫通する貫通部であり、第1の段差部2e、及び第1の段差部2eに対してZ軸+側に配置され、第1の段差部2eの直径に対して大きい直径を有する第2の段差部2fを備えている。
【0042】
そして、インジェクタ13をシリンダ2の固定孔2dに固定する場合、先ず、固定孔2dの第1の段差部2eの内部に、パッキン16の傾斜面16aと押し付けリング17の傾斜面17aとを略面接触させた状態で、パッキン16及び押し付けリング17を配置する。
【0043】
次に、インジェクタ本体14のZ軸-側の部分をスリーブ15に挿入する。そして、インジェクタ本体14及びスリーブ15をシリンダ2の固定孔2dに挿入し、スリーブ15のZ軸+側の部分の端面でパッキン16及び押し付けリング17をZ軸+側に押し込む。
【0044】
これにより、押し付けリング17の傾斜面17aがパッキン16をZ軸-側に強く押し込み、パッキン16の傾斜面16aと押し付けリング17の傾斜面17aとが強く略面接触する。そのため、インジェクタ13を強くZ軸-側に押し込まなくても、パッキン16と押し付けリング17との間からの混合ガスの漏れを確実に抑制することができ、その結果、シリンダ2の変形を抑制することができる。
【0045】
シリンダ2のボア2aにおけるインジェクタ13を挟んでY軸+側の部分には、図1に示すように、排気ポート2gが形成されている。排気ポート2gは、シリンダ2のボア2aの周方向全周にわたって形成されている。
【0046】
つまり、排気ポート2gは、シリンダ2のボア2aに円環溝状に形成されている。そして、排気ポート2gにおけるY軸方向で対向する縁部を接続するリブが設けられていない。このようなシリンダ2には、排気ポート2gと連続するように排気経路19が接続されている。
【0047】
シリンダ2のボア2aにおけるインジェクタ13を挟んでY軸-側の部分には、図1に示すように、吸気ポート2hが形成されている。吸気ポート2hは、シリンダ2のボア2aの周方向全周にわたって形成されている。
【0048】
つまり、吸気ポート2hは、シリンダ2のボア2aに円環溝状に形成されている。そして、吸気ポート2hにおけるY軸方向で対向する縁部を接続するリブが設けられていない。このようなシリンダ2には、吸気ポート2hと連続するように吸気経路20が接続されている。
【0049】
第1のピストン3は、第1のピストン3のヘッド部3aがY軸-側に配置されるように、シリンダ2のボア2aにおけるY軸+側の部分に挿入されている。ここで、図3は、第1のピストンを拡大して示す図である。図4は、リング溝周辺を拡大して示す図である。図5(a)は、第1のピストンの第1の分割部をY軸+側から見た図であり、図5(b)は、第1のピストンの第1の分割部をX軸+側から見た図である。図6(a)は、第1のピストンの第2の分割部をY軸+側から見た図であり、図6(b)は、図6(a)のB-B矢視図であり、図6(c)は、図6(a)のC-C矢視図である。
【0050】
第1のピストン3は、図3に示すように、本体部21、第1の分割部22及び第2の分割部23を備えている。本体部21は、有天円筒形状を基本形態としており、本体部21の天井部で第1のピストン3のヘッド部3aを構成し、本体部21の円筒部で第1のピストン3の側壁部を構成している。
【0051】
本体部21における天井部のY軸-側の面には、Y軸方向から見て略十字形状の溝部21aが形成されている。また、本体部21における天井部のY軸-側の面には、溝部21aを避けて複数のボルト穴21bが形成されている。本体部21の外周面には、本体部21の外周面の周方向全域にリング溝21cが形成されている。
【0052】
リング溝21cは、図3に示すように、Y軸方向に間隔を開けて配置されている。そして、リング溝21cには、図4に示すように、リング24が嵌め込まれている。リング24は、所謂ピストンリングと同様に、略C字形状を基本形態としているが、リング溝21cに嵌め込まれた状態で、リング溝21cの径方向内側に向かって収縮力を発現している。そして、リング24が収縮した状態で、リング24の外径は、第1のピストン3又は第2のピストン4の直径に対して、若干、小さい又は同じである。
【0053】
ここで、本体部21の外周面には、図4に示すように、リング溝21cと連続するように当該リング溝21cに対してY軸+側にガス溜まり部21dが形成されているとよい。ガス溜まり部21dは、例えば、本体部21の外周面の周方向全域に形成されており、Y軸方向に延在する複数本の接続溝21eを介してリング溝21cと接続されている。
【0054】
第1の分割部22は、図5(a)に示すように、円柱形状を基本形態としている。第1の分割部22のY軸-側の面には、図5(b)に示すように、第1のコンロッド7のY軸-側の端部に設けられ、且つ、X軸方向に延在するピストンピン25(図1を参照)のY軸+側の部分が嵌め込まれる略半円柱形状の凹み部22aが形成されている。
【0055】
第1の分割部22の外周面には、本体部21の溝部21aと対応する位置に溝部22bが形成されている。溝部22bは、Y軸方向に延在している。また、第1の分割部22には、本体部21のボルト穴21bと対応する位置に貫通部22cが形成されている。貫通部22cは、第1の分割部22をY軸方向に貫通する。
【0056】
第2の分割部23は、図6(a)に示すように、円柱形状を基本形態としている。第2の分割部23のY軸+側の面には、図6(b)及び図6(c)に示すように、ピストンピン25のY軸-側の部分が嵌め込まれる略半円柱形状の凹み部23aが形成されている。そして、第2の分割部23には、第1のコンロッド7が通され、且つ、Y軸方向に延在する第1の貫通部23bが形成されている。第1の貫通部23bのY軸-側の端部は、凹み部23aに到達している。
【0057】
第2の分割部23の外周面には、図6(a)及び図6(c)に示すように、第1の分割部22の溝部22bと対応する位置に溝部23cが形成されている。溝部23cは、Y軸方向に延在している。また、第2の分割部23には、第1の分割部22の貫通部22cと対応する位置に第2の貫通部23dが形成されている。第2の貫通部23dは、第2の分割部23をY軸方向に貫通する。ここで、第2の分割部23は、図6(a)に示すように、第1のコンロッド7をX軸方向から挟み込んで第1の貫通部23bに通すことができるように分割されているとよい。
【0058】
このような第1のピストン3をピストンピン25に固定する場合、先ず、ピストンピン25のY軸-側の部分を第1の分割部22の凹み部22aに嵌め込むように当該第1の分割部22を配置する。そして、第1のコンロッド7を第2の分割部23の第1の貫通部23bに通し、ピストンピン25のY軸+側の部分を第2の分割部23の凹み部23aに嵌め込むように当該第2の分割部23を配置し、第1の分割部22と第2の分割部23とでピストンピン25を挟み込む。
【0059】
このとき、第1の分割部22の溝部22bと、第2の分割部23の溝部23cと、が連続するように配置される。そして、第1の分割部22の溝部22b及び第2の分割部23の溝部23cは、X軸方向において第1のコンロッド7を挟んで両側に配置されると共に、Z軸方向において第1のコンロッド7を挟んで両側に配置される。
【0060】
また、第1の分割部22の貫通部22cと、第2の分割部23の第2の貫通部23dと、が連続するように配置される。そして、第1の分割部22及び第2の分割部23が本体部21の内部に収容されるように、本体部21を第1の分割部22及び第2の分割部23に被せる。
【0061】
このとき、本体部21の溝部21aと、第1の分割部22の溝部22bと、第2の分割部23の溝部23cと、が連続するように配置される。また、本体部21のボルト穴21bと、第1の分割部22の貫通部22cと、第2の分割部23の第2の貫通部23dと、が連続するように配置される。
【0062】
そして、第1の分割部22の貫通部22c及び第2の分割部23の第2の貫通部23dにY軸-側に向かって通されたボルト26のY軸-側の端部を本体部21のボルト穴21bにねじ込むと、第1のピストン3をピストンピン25に固定することができる。
【0063】
第2のピストン4は、図1に示すように、第2のピストン4のヘッド部4aがY軸+側に配置されるように、シリンダ2のボア2aにおけるY軸-側の部分に挿入されている。第2のピストン4は、第1のピストン3に対して、Z軸方向に延在する軸を対称軸とする線対称の構成とされている。
【0064】
そのため、重複する説明は省略するが、第1のピストン3と同様に本体部21、第1の分割部22及び第2の分割部23を備えており、本体部21のリング溝21cにリング24が嵌め込まれている。そして、第2のピストン4は、第2のコンロッド10のY軸+側の端部に設けられ、且つ、X軸方向に延在するピストンピン27に回転可能に固定されている。
【0065】
これらの第1のピストン3及び第2のピストン4の本体部21の溝部21a、第1の分割部22の溝部22b及び第2の分割部23の溝部23cは、オイル流路として構成されているとよい。例えば、エンジン1は、図1に示すように、X軸方向において第1のコンロッド7及び第2のコンロッド10を挟む両側にオイル噴射部28を備えている。
【0066】
X軸方向において第1のピストン3及び第2のピストン4における第1のコンロッド7及び第2のコンロッド10を挟む両側に配置された、本体部21の溝部21a、第1の分割部22の溝部22b及び第2の分割部23の溝部23cにオイル噴射部28からオイルが供給される。
【0067】
そして、Z軸方向において第1のピストン3及び第2のピストン4における第1のコンロッド7及び第2のコンロッド10を挟む両側に配置された、本体部21の溝部21a、第1の分割部22の溝部22b及び第2の分割部23の溝部23cからオイルが排出される。これにより、第1のピストン3及び第2のピストン4の温度上昇を抑制することができ、リングスティックを抑制することができる。
【0068】
また、ピストンピン25がbiaxial bearingなどのベアリングを介して第1のコンロッド7のY軸-側の端部に設けられているとよい。Biaxial bearingは、位相が180°ズレた二軸偏心ベアリングであり、例えば、https://scholarworks.rit.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=9920&context=thesesなどに既に開示されているため、詳細な説明は省略する。
【0069】
ピストンピン25としてbiaxial bearingなどを用いた場合、第1のピストン3及び第2のピストン4が死点に配置された際に一方の軸がヘッド部3a、4aの側に配置され、他方の軸がヘッド部3a、4aの側に対して逆側に配置される。これにより、第1のピストン3及び第2のピストン4が下死点に移動する際に当該第1のピストン3及び第2のピストン4とピストンピン25との間に隙間を形成することができ、潤滑不良を抑制することができる。
【0070】
このようなエンジン1は、吸気経路20から吸気ポート2hに空気を供給し、第1のクランク5及び第2のクランク8が回転して、第1のピストン3と第2のピストン4とが相互に上死点に向かって近付くことで空気を圧縮する。
【0071】
図7は、リングが拡張した状態でのリング溝周辺を示す図である。このとき、圧縮行程で第1のピストン3及び第2のピストン4がそれぞれ上死点に向かい吸気ポート2h又は排気ポート2gを通過するとシリンダ2のボア2a内の圧力が上がり、空気が第1のピストン3及び第2のピストン4のリング溝21cに流れ込み、図7に示すように、リング24を当該リング24の径方向外側に押し出す。これにより、リング24の外周面とシリンダ2のボア2aの周面とが接触してシールされる。
【0072】
ここで、リング24とシリンダ2のボア2aとの隙間を流れる空気の流速が速くなるとベンチュリー効果による吸引力でリング24をシリンダ2のボア2aに押し付けるが、第1のピストン3及び第2のピストン4にガス溜まり部21dが形成されている場合、リング溝21内は行き止まりで流れがなく静圧が上がり、リング24をシリンダ2のボア2aに押付ける効果を後押しする。そのため、リング24を確実に押し出すことができる。
【0073】
その後、インジェクタ13から燃料が噴射されると、空気と燃料との混合ガスが燃焼し、第1のピストン3と第2のピストン4とが相互に離れるように下死点に向かって移動する。これにより、第1のクランク5及び第2のクランク8が回転し、駆動力が発現する構成とされている。
【0074】
ここで、例えば、排気ポート2gが吸気ポート2hに対して、シリンダ2のボア2aのY軸方向の中央からの距離が短い場合、第1のピストン3と第2のピストン4とが相互に離れるように移動した際に、排気ポート2gから排気経路19を介して排気ガスが排出される。
【0075】
このとき、膨張行程で第1のピストン3と第2のピストン4とがそれぞれ遠ざかり、第1のピストン3が排気ポート2gを通過すると、第1のピストン3及び第2のピストン4のリング溝21cの圧力が下がるので、リング24はそれ自身の収縮力でリング溝21cに当るまで収縮する。
【0076】
図8は、排気ポートを介して排気経路に排気ガスが排出される様子を示す図である。上述のように排気ポート2gは、シリンダ2のボア2aの周方向全域に形成されており、リブが省略されている。そのため、図8に示すように、第1のピストン3のY軸-側の領域において、排気ガスが排気経路19に向かって直線的に流れ出る。
【0077】
このような構成により、本実施の形態のエンジン1は、一般的なエンジンのように排気ガスがリブをなめることがなく、リブ周辺の過熱や潤滑不良などを抑制することができる。そのため、本実施の形態のエンジン1は、耐久性が高く、排気ポート2g及び吸気ポート2hを流れるガスの流動抵抗も少なく、また、熱損失が少ない。
【0078】
<実施の形態2>
図9は、本実施の形態の2ストローク式対向ピストンエンジンを模式的に示す図である。本実施の形態のエンジン31は、実施の形態1のエンジン1と略等しい構成とされているため、重複する説明を省略するが、図9に示すように、シリンダ2のボア2aの周面に形成されたリング溝2iにリング32が嵌め込まれている。
【0079】
そして、第1のピストン33及び第2のピストン34は、実施の形態1の第1のピストン3及び第2のピストン4に対してリング溝21c及びリング24のガス溜まり部21dが省略された構成とされている。
【0080】
このとき、リング32は、所謂ピストンリングと同様に略C字形状であるが、シリンダ2のボア2aを移動する第1のピストン33及び第2のピストン34に干渉しないように、リング溝2iに挿入された状態で、リング32の径方向外側に向かって拡張力を発現し、リング32が拡張した状態で、リング32の内径は、図9に示すように、シリンダ2のボア2aの直径に対して、若干、大きい又は同じである。
【0081】
このような構成の場合、第1のピストン33及び第2のピストン34が上死点に向かうのに従って、空気がシリンダ2のリング溝2iにおけるリング32に対して当該リング溝2iの径方向外側の空間に流れ込み、且つ、リング32と第1のピストン33及び第2のピストン34の周面を流れる空気のベンチュリー効果でリング32を当該リング32の径方向内側に押し出す。これにより、リング32の内周面と第1のピストン33及び第2のピストン34の周面とが接触してシールされる。
【0082】
そして、第1のピストン33が下死点に向かって移動する際に、第1のピストン33及び第2のピストン34が下降し、第1のピストン33が排気ポート2gを通過すると排気ガスが抜けてシリンダ2のガス圧が低下し、リング32の背面に作用する圧力が抜けることで、リング32自身の復元力で拡張した状態に戻る。
【0083】
ここで、リング32はインジェクタ13の側のリングと吸気ポート2h又は排気ポート2gの側のリングが二つあり、吸気ポート2h又は排気ポート2gの側のリングはガスシール兼油掻きリングであって、第1のピストン33又は第2のピストン34に付着しているオイルを掻き落とす。
【0084】
ここで、最も第1のクランク5及び第2のクランク8の側に配置されるリング32aは、シリンダ2の第1の収容部2b及び第2の収容部2cからボア2aの側へのオイルの侵入を抑制するためのオイルシールとして機能させるとよい。そのため、当該リング32aは、常に第1のピストン33又は第2のピストン34と接触する位置に配置されているとよい。
【0085】
また、シリンダ2の燃焼室周辺には、冷却水の流路2jが形成されているとよい。これにより、リング溝2i周辺の過熱を抑制することができ、リングスティックを抑制することができる。
【0086】
さらに、シリンダ2のボア2aの周面には、リング溝2iを挟んでシリンダ2の燃焼室の側に対して逆側の部分に当該リング溝2iと接続されたガス溜まり部2oが形成されているとよい。これにより、リング溝2i内は行き止まりで流れがなく静圧が上がり、リング32をシリンダ2のボア2aに押付ける効果を後押しする。
【0087】
<実施の形態3>
図10は、本実施の形態の2ストローク式対向ピストンエンジンを模式的に示す図である。本実施の形態のエンジン41は、実施の形態2のエンジン31と略等しい構成とされているため、重複する説明を省略するが、図10に示すように、リング溝2iを境にして複数のインナースリーブ42を備えている。
【0088】
このとき、シリンダ2には、インナースリーブ42を収容する第3の収容部2kが形成されている。第3の収容部2kは、第1の収容部2bの側からインナースリーブ42を挿入することができるように、第1の収容部2bから吸気ポート2hの手前まで連続する円筒状の切り欠き部であり、第3の収容部2kのY軸-側の端部に側壁部を備えている。そして、第3の収容部2kのY軸+側の端部は開放されている。
【0089】
インナースリーブ42は、第3の収容部2kの直径と略等しい外径を有し、シリンダ2のボア2aの直径と略等しい内径を有する円筒状を基本形態としており、インナースリーブ42の外周面に冷却水の流路42aが形成されている。
【0090】
本実施の形態のインナースリーブ42は、リング溝2iを境にして、第1の分割部43、第2の分割部44、第3の分割部45、及び第4の分割部46を備えている。図11は、第1の分割部、第2の分割部、第3の分割部及び第4の分割部を分解した状態を示す図である。第1の分割部43は、吸気ポート2hからY軸+側に向かって一つ目のリング溝2iから二つ目のリング溝2iまでを構成する。
【0091】
第2の分割部44は、二つ目のリング溝2iから三つ目のリング溝2iまでを構成し、第2の分割部44の外周部であって、且つ、Y軸+側の角部及びY軸-側の角部に二つ目のリング溝2i及び三つ目のリング溝2iを形成するための切り欠き部44aが形成されている。そして、第2の分割部44には、インジェクタ13が挿入される貫通部44bが形成されている。
【0092】
第3の分割部45は、三つ目のリング溝2iから四つ目のリング溝2iまでを構成し、Y軸+側の部分の外径がY軸-側の部分の外径に対して小さい。第4の分割部46は、四つ目のリング溝2i周辺を構成し、第4の分割部46の外周面にネジ部が形成されている。
【0093】
第4の分割部46の内周面のY軸-側の部分には、第3の分割部45のY軸+側の部分が収容される切り欠き部46aが形成されている。そして、第4の分割部46の内周面のY軸+側の部分には、四つ目のリング溝2iが形成されている。
【0094】
このような第1の分割部43、第2の分割部44、第3の分割部45及び第4の分割部46をシリンダ2の第3の収容部2kに固定する場合、先ず、一つ目のリング溝2iを形成するために第3の収容部2kの側壁部におけるY軸+側の面に形成された切り欠き部2m(図10を参照)にリング32を嵌め込む。
【0095】
次に、第1の分割部43をY軸-側に向かって第3の収容部2kに挿入し、第1の分割部43のY軸-側の端面を第3の収容部2kのY軸+側の端面に接触させる。これにより、一つ目のリング溝2i(切り欠き部2m)のY軸+側の開放部を第1の分割部43によって塞ぐ。

【0096】
次に、第2の分割部44の切り欠き部44aにリング32を嵌め込み、第2の分割部44をY軸-側に向かって第3の収容部2kに挿入し、第2の分割部44のY軸-側の端面を第1の分割部43のY軸+側の端面に接触させる。これにより、二つ目のリング溝2i(Y軸-側の切り欠き部44a)のY軸-側の開放部を第1の分割部43によって塞ぐ。
【0097】
次に、第3の分割部45をY軸-側に向かって第3の収容部2kに挿入し、第3の分割部45のY軸-側の端面を第2の分割部44のY軸+側の端面に接触させる。これにより、三つ目のリング溝2i(Y軸+側の切り欠き部44a)のY軸+側の開放部を第3の分割部45によって塞ぐ。
【0098】
次に、第4の分割部46の四つ目のリング溝2iにリング32を嵌め込み、第4の分割部46をY軸-側に向かって第3の収容部2kに挿入し、第3の分割部45のY軸+側の部分が第4の分割部46の切り欠き部46aに挿入されるように、第4の分割部46の外周面に形成されたネジ部を第3の収容部2kに形成されたネジ部にねじ込む。
【0099】
これにより、第1の分割部43のY軸-側の端面が第3の収容部2kの側壁部に押し付けられるように、第1の分割部43、第2の分割部44、第3の分割部45及び第4の分割部46が第3の収容部2kに固定される。そのため、第4の分割部46は、インナースリーブ42を第3の収容部2kの側壁部に押し込む押し込み手段として機能する。
【0100】
このようにリング溝2iを境とする分割構造とすることで、リング溝2iにリング32を簡単に嵌め込むことができる。ここで、排気ポート2gからY軸+側に向かってボア2aが延長されるように、延長部47が第3の収容部2kに挿入される。
【0101】
延長部47は、第3の収容部2kの直径と略等しい外径を有し、シリンダ2のボア2aの直径と略等しい内径を有する円筒状を基本形態としており、延長部47の内周面に形成されたリング溝2iにリング32aが嵌め込まれている。このとき、延長部47もリング溝2iを境にした分割構造であるとよい。
【0102】
なお、本実施の形態のエンジン41も、インナースリーブ42の内周面(即ち、シリンダ2のボア2aの周面)におけるリング溝2iを挟んでシリンダ2の燃焼室の側に対して逆側の部分に当該リング溝2iと接続されたガス溜まり部2oが形成されているとよい。
【0103】
<実施の形態4>
図12は、本実施の形態の2ストローク式対向ピストンエンジンを模式的に示す図である。本実施の形態のエンジン51は、実施の形態3のエンジン41と略等しい構成とされているため、重複する説明を省略するが、図12に示すように、リング32を押し込み手段52(たとえば電磁石)によって当該リング32の径方向内側に押し込む構成とされている。
【0104】
押し込み手段52は、ピン52aを押し出し可能なアクチュエータで構成されており、リング32に対して当該リング32の径方向外側でシリンダ2に固定されている。そして、押し込み手段52のピン52aの先端部は、リング32の外周面に略接触するように、インナースリーブ42を貫通する貫通部42bを通ってシリンダ2のリング溝2iから露出している。このとき、ピン52aは、リング32の拡張力によって押し戻すことができる。
【0105】
このような押し込み手段52は、第1のクランク5又は第2のクランク8の回転角度に基づいて制御され、第1のピストン33及び第2のピストン34が上死点に向かって移動する際に、第1のピストン33及び第2のピストン34とシリンダ2のボア2aとのシール性を確保するために、リング32を当該リング32の径方向内側に押し込む。詳細には、第1のピストン33又は第2のピストン34が上死点に向かって移動して、第1のピストン33又は第2のピストン34の周面がリング32の内周面を覆ったことをクランク角センサーで検知すると、押し込み手段52がリング32を径方向内側に押し込む。
【0106】
これにより、第1のピストン33及び第2のピストン34が上死点に向かって移動する際に、リング32を当該リング32の径方向内側に確実に押し込むことでき、第1のピストン33及び第2のピストン34とシリンダ2のボア2aとのシール性を確保することができる。
【0107】
ちなみに、リング32を押し込み手段52によって押し込むと、リング溝2iの圧力が上がるのでガス圧がリング32の背面に働き、リング32は強く第1のピストン33又は第2のピストン34に押し付けられるので、押し込み手段52によるリング32の押し込みは、適宜、解除してよい。つまり、リング32の背面にガス圧が作用するまでの短時間だけ押し込み手段52によってリング32を押し込めばよい。
【0108】
なお、本実施の形態のエンジン51も、インナースリーブ42の内周面(即ち、シリンダ2のボア2aの周面)におけるリング溝2iを挟んでシリンダ2の燃焼室の側に対して逆側の部分に当該リング溝2iと接続されたガス溜まり部2oが形成されているとよい。
【0109】
ここで、リング32は、以下のように製造することができる。図13は、リングを製造する様子を示す図である。図13に示すように、先ず、押し込み治具53によってリング素材54における押し込み手段52で押し込まれる箇所(例えば、対向する二か所)を当該押し込み手段52で押し込まれる押し込み量で押し込み、その状態を維持するように、固定治具55によってリング素材54を固定する。そして、リング素材54の内周面を切削又は研削手段によって切削又は研削し、リング素材54の内周面の直径を第1のピストン33及び第2のピストン34の外径と略等しくすると、リング32を製造することができる。
【0110】
このようにリング素材54における押し込み手段52で押し込まれる箇所を当該押し込み手段52で押し込まれる押し込み量で固定してリング32を製造するので、エンジン51に組み込まれたリング32が押し込み手段52によって押し込まれた際に第1のピストン33又は第2のピストン34の外周面に隙間なく接触することができる。その結果、第1のピストン33及び第2のピストン34とシリンダ2のボア2aとのシール性を向上させることができる。
【0111】
<実施の形態5>
図14は、本実施の形態の2ストローク式対向ピストンエンジンを模式的に示す図である。本実施の形態のエンジン61は、実施の形態3のエンジン41及び実施の形態4のエンジン51と略等しい構成とされているため、重複する説明を省略するが、図14に示すように、インナースリーブ62をY軸+側に第2の押し込み手段63によって押し込む構成とされている。
【0112】
このとき、シリンダ2には、インナースリーブ62を収容する第3の収容部2lが形成されている。第3の収容部2lは、第2の収容部2cの側からインナースリーブ62を挿入することができるように、第2の収容部2cから排気ポート2gの手前まで連続する円筒状の切り欠き部であり、第3の収容部2lのY軸+側の端部に側壁部を備えている。
【0113】
そして、第3の収容部2lのY軸-側の端部は開放されている。ここで、第3の収容部2lにおける吸気ポート2hに対してY軸+側の部分の直径は、吸気ポート2hに対してY軸-側の部分の直径に対して小さい。そのため、第3の収容部2lのY軸+側の部分とY軸-側の部分との間に段差部が形成されている。また、第3の収容部2lの周面におけるY軸-側の端部にネジ部が形成されている。
【0114】
インナースリーブ62は、第3の収容部2lのY軸+側の部分の直径と略等しい外径を有し、シリンダ2のボア2aの直径と略等しい内径を有する円筒状を基本形態としており、インナースリーブ62の外周面に冷却水の流路62aが形成されている。
【0115】
本実施の形態のインナースリーブ62は、リング溝2iを境にして、第1の分割部64、第2の分割部65、第3の分割部66、及び第4の分割部67を備えている。図15は、第1の分割部、第2の分割部、第3の分割部及び第4の分割部を分解した状態を示す図である。
【0116】
第1の分割部64は、吸気ポート2hからY軸+側に向かって一つ目のリング溝2iまでを構成し、一つ目のリング溝2iを形成するために第1の分割部64の内周部であって、Y軸+側の角部に切り欠き部64aが形成されている。そして、第1の分割部64には、押し込み手段(第1の押し込み手段)52のピン52aが通される溝部64bが切り欠き部64aと連続するように形成されている。
【0117】
第2の分割部65は、一つ目のリング溝2iから二つ目のリング溝2iまでを構成し、第3の収容部2lの直径と略等しい外径を有するY軸-側の部分、流路62aを形成するためにY軸-側の部分の外径に対して小さい外径を有する中央部分、及び中央部分の外径に対して小さい外径を有するY軸+側の部分を備えている。
【0118】
第3の分割部66は、二つ目のリング溝2iから三つ目のリング溝2iまでを構成し、二つ目のリング溝2i及び三つ目のリング溝2iを形成するために第3の分割部66の内周部であって、且つ、Y軸+側の角部及びY軸-側の角部に切り欠き部66aが形成されている。
【0119】
第3の分割部66には、インジェクタ13が挿入される第1の貫通部66bが形成されている。また、第3の分割部66には、第1の押し込み手段52のピン52aが通される第2の貫通部66cが切り欠き部66aと連続するように形成されている。
【0120】
第4の分割部67は、三つ目のリング溝2iから四つ目のリング溝2iまでを構成し、第3の収容部2lの直径と略等しい外径を有するY軸+側の部分、流路62aを形成するためにY軸+側の部分の外径に対して小さい外径を有する中央部分、及び中央部分の外径に対して小さい外径を有するY軸-側の部分を備えている。
【0121】
第2の押し込み手段63は、図14に示すように、第1の分割部64、第2の分割部65、第3の分割部66及び第4の分割部67を第3の収容部2lの側壁部に押し込む。第2の押し込み手段63は、延長部68、押し込み部69及びリングナット70を備えている。延長部68は、吸気ポート2hからY軸-側に向かってボア2aが延長されるように、第3の収容部2lに挿入される。
【0122】
延長部68は、第3の収容部2lのY軸-側の部分の直径と略等しい外径を有し、且つ、シリンダ2のボア2aの直径と略等しい内径を有する円筒状を基本形態としており、延長部68の内周面に形成されたリング溝2iにリング32aが嵌め込まれている。
【0123】
このような延長部68もリング溝2iを境にした分割構造であるとよい。押し込み部69は、延長部68からY軸+側に突出している。押し込み部69は、例えば、延長部68の周方向で略等しい間隔で配置されている。リングナット70は、第3の収容部2lのネジ部にねじ込まれる。
【0124】
このような第1の分割部64、第2の分割部65、第3の分割部66及び第4の分割部67をシリンダ2の第3の収容部2lに固定する場合、先ず、四つ目のリング溝2iを形成するために第3の収容部2lの側壁部におけるY軸-側の面に形成された切り欠き部2n(図14を参照)にリング32を嵌め込む。
【0125】
次に、第4の分割部67をY軸+側に向かって第3の収容部2lに挿入し、第4の分割部67のY軸+側の端面を第3の収容部2lのY軸-側の端面に接触させる。これにより、四つ目のリング溝2i(切り欠き部2n)のY軸-側の開放部を第4の分割部67によって塞ぐ。
【0126】
次に、第3の分割部66の切り欠き部66aにリング32を嵌め込み、第3の分割部66をY軸+側に向かって第3の収容部2lに挿入し、第4の分割部67のY軸-側の部分を第3の分割部66のY軸+側の切り欠き部66aに挿入する。これにより、三つ目のリング溝2i(Y軸+側の切り欠き部66a)の開放部を第4の分割部67によって塞ぐ。
【0127】
次に、第2の分割部65をY軸+側に向かって第3の収容部2lに挿入し、第2の分割部65のY軸+側の部分を第3の分割部66のY軸-側の切り欠き部66aに挿入する。これにより、二つ目のリング溝2i(Y軸-側の切り欠き部66a)の開放部を第2の分割部65によって塞ぐ。
【0128】
次に、第1の分割部64の切り欠き部64aにリング32を嵌め込み、第1の分割部64をY軸+側に向かって第3の収容部2lに挿入し、第1の分割部64のY軸+側の端面を第2の分割部65のY軸-側の端面に接触させる。これにより、一つ目のリング溝2i(切り欠き部64a)及び溝部64bのY軸+側の開放部を第2の分割部65によって塞ぐ。
【0129】
次に、延長部68及び押し込み部69をY軸+側に向かって第3の収容部2lに挿入し、押し込み部69が第1の分割部64のY軸-側の端面に接触し、且つ、延長部68のY軸+側の端部が第3の収容部2lの段差部に接触するように、リングナット70を第3の収容部2lのネジ部にねじ込む。
【0130】
これにより、第4の分割部67のY軸+側の端面が第3の収容部2lの側壁部に押し付けられるように、第1の分割部64、第2の分割部65、第3の分割部66及び第4の分割部67が第3の収容部2lに固定される。このとき、押し込み部69は、シリンダ2の吸気ポート2hに配置される。ここで、押し込み部69は、吸気される空気に旋回流を発生させることができる形状とされているとよい。
【0131】
このようにリング溝2iを境とする分割構造とすることで、リング溝2iにリング32を簡単に嵌め込むことができる。
【0132】
なお、本実施の形態のエンジン61も、インナースリーブ62の内周面(即ち、シリンダ2のボア2aの周面)におけるリング溝2iを挟んでシリンダ2の燃焼室の側に対して逆側の部分に当該リング溝2iと接続されたガス溜まり部2oが形成されているとよい。
【0133】
<実施の形態6>
図16は、本実施の形態の2ストローク式対向ピストンエンジンのEGR(Exhaust Gas Recirculation)システムを説明するための図である。本実施の形態のエンジン71は、実施の形態1乃至5のエンジン1、31、41、51、61と略等しい構成とされているが、EGRシステム72を備えている。
【0134】
EGRシステム72は、吸気チャンバ73、インタークーラ74、吸気ブロワ75、バイパスバルブ76及びエアクリーナ77を備えており、エンジン71の吸気経路20に配置されている。吸気チャンバ73は、吸気ポート2hに接続されており、吸気チャンバ73の内部にインタークーラ74を収容している。
【0135】
このとき、吸気ポート2hは、排気ポート2gに対して、シリンダ2のボア2aのY軸方向の中央からの距離が短い位置に配置されている。そのため、本実施の形態のエンジン71は、排気ガスが排気ポート2gから排出される前に吸気ポート2hにブローダウンされる。
【0136】
吸気ブロワ75は、吸気チャンバ73と接続されている。吸気は、エアクリーナ77を介して吸気ブロワ75によって吸気チャンバ73に送り出される。バイパスバルブ76は、吸気ブロワ75と並列に配置されており、吸気ブロワ75で圧縮された空気を必要に応じて吸気側に戻す。エアクリーナ77は、吸気ブロワ75に流れる空気を濾過する。
【0137】
このようなEGRシステム72を用いて排気ガスを循環させる場合、第2のピストン34が下降して当該第2のピストン34のヘッド部が吸気ポート2hを開口すると高温の排気ガスが吸気チャンバ73にブローダウンされ、その際、排気ガスがインタークーラ74で冷却される。
【0138】
そして、第2のピストン34が更に下降して排気ポート2gが開口すると、吸気チャンバ73内の吸気はインタークーラ74から冷却された排気ガスと混合してシリンダ2のボア2aに送り出され、その際、燃焼後の残りの排気ガスが排気ポート2gから排気経路19に配置された触媒78を介して排出される。
【0139】
このようにシリンダ2内に大量の冷却された排気ガスが残るので燃焼温度が低下する。これにより、排気中のNOが低減する。さらに、排気ポート2gから排出される排気ガスは温度が低下しているので排気ポート2gの熱負荷が大幅に低減するメリットがある。
【0140】
なお、図17に示すように、タービン79を排気経路19に配置し、タービン79の回転力によって吸気された空気を圧縮して吸気ブロワ75に排出するコンプレッサー80を吸気経路20に配置した場合、吸気された空気を加圧することができ、エンジン71の出力を向上させることができる。
【0141】
このとき、エンジン71は、第1のピストン33のY軸-側の領域において、排気ガスが排気経路19に向かって直線的に流れるので、排気ガスの流動抵抗や温度低下を抑制することができ、エネルギー損失が低い状態の排気ガスでタービン79を回転させることができる。また、上述のように排気ポート2gから排出される排気ガスは温度が低下しているのでタービンの材料は高温に晒されず、高価な耐熱材料を使わなくてよい。
【0142】
なお、吸気ブロワ75とコンプレッサー80との間に第2のインタークーラ741が収容された第2の吸気チャンバ731が配置されているとよい。
【0143】
ここで、図16及び図17のエンジン71において、吸気チャンバ73から吸気される排気ガス及び空気に旋回流を発生させることができるように、吸気チャンバ73と吸気ポート2hとの接続口が図18に示すように配置されているとよい。
【0144】
また、図19に示すように、シリンダ2に複数(図19では2つ)のボア2aが形成されている場合、各々のボア2aの排気ポート2gが一体的に形成されて排気経路19で集合されているとよい。例えば、2つの排気ポート2gが一体的に略眼鏡型に形成される。これにより、排気ガスが排気経路19に流れ込む際にシリンダ2に接触する表面積を低減することができ、伝熱ロスを低減することができる。その結果、エネルギー損失が低い状態の排気ガスでタービン79を回転させることができる。
【0145】
<実施の形態7>
図20は、本実施の形態の駆動システムの構成を説明するために当該駆動システムをZ軸+側から見た図である。図21は、本実施の形態の駆動システムの構成を説明するために当該駆動システムをX軸+側から見た図である。本実施の形態の駆動システム81は、実施の形態5のエンジン61に加えて、図20に示す駆動補助機構82及び出力機構83を備えており、エンジン61、駆動補助機構82及び出力機構83がケース84に収容されている。
【0146】
駆動補助機構82は、第1の偏心カム85、第2の偏心カム86、補助シリンダ87、第1のロッド88、第2のロッド89、第1の変位許容部90及び第2の変位許容部91を備えている。
【0147】
第1の偏心カム85は、第1のクランク5から駆動力を伝達可能に当該第1のクランク5のX軸+側の端部に接続されており、第1のハウジング92に回転可能に支持されている。第1のハウジング92には、第1のハウジング92をX軸方向に貫通する貫通部92aが形成されており、当該貫通部92aに第1の偏心カム85が回転可能に嵌め込まれている。そして、第1のハウジング92のY軸-側の面は、XZ平面と略平行な平坦面とされている。
【0148】
第2の偏心カム86は、第2のクランク8から駆動力を伝達可能に当該第2のクランク8のX軸+側の端部に接続されており、第2のハウジング93に回転可能に支持されている。第2のハウジング93には、第2のハウジング93をX軸方向に貫通する貫通部93aが形成されており、当該貫通部93aに第2の偏心カム86が回転可能に嵌め込まれている。そして、第2のハウジング93のY軸+側の面は、XZ平面と略平行な平坦面とされている。このような第2の偏心カム86は、第1の偏心カム85に対して位相が180°ズレて回転する。
【0149】
補助シリンダ87は、Y軸方向に延在するように補助シリンダ87に形成されたボア87aを備えている。補助シリンダ87には、逆止弁94を介して油圧源95が接続されている。第1のロッド88は、Y軸方向に延在している。そして、第1のロッド88のY軸-側の部分が補助シリンダ87のボア87aに挿入され、第1のロッド88のY軸+側の端部が第1のハウジング92に接続されている。第2のロッド89は、Y軸方向に延在している。そして、第2のロッド89のY軸+側の部分が補助シリンダ87のボア87aに挿入され、第2のロッド89のY軸-側の端部が第2のハウジング93に接続されている。
【0150】
これにより、第1のロッド88と第2のロッド89とは、Y軸方向で向かい合うように配置されている。このような補助シリンダ87のボア87aと、第1のロッド88と、第2のロッド89と、で形成される空間は密閉されており、当該密閉空間が油で満たされている。そして、密閉空間が予め設定された圧力以下に低下した場合、逆止弁94を介して油圧源95から油が補充される。
【0151】
第1の変位許容部90は、第1のロッド88と第1のハウジング92との間に配置されており、Z軸方向への第1の偏心カム85の変位を許容しつつ、Y軸方向への第1の偏心カム85の変位を第1のロッド88に伝達する。
【0152】
第1の変位許容部90は、例えば、直動式のニードルベアリングで構成されており、X軸方向に延在する複数本のニードルがZ軸方向に並べられた状態でリテーナーによって回転可能に保持されている。
【0153】
このような第1の変位許容部90のY軸+側の端部は、第1のハウジング92のY軸-側の面に接触し、第1の変位許容部90のY軸-側の端部は、第1のロッド88のY軸+側の端部に設けられたフランジ部88aに接触している。
【0154】
第2の変位許容部91は、第2のロッド89と第2のハウジング93との間に配置されており、Z軸方向への第2の偏心カム86の変位を許容しつつ、Y軸方向への第2の偏心カム86の変位を第2のロッド89に伝達する。
【0155】
第2の変位許容部91は、第1の変位許容部90と等しい構成とされているため、重複する説明は省略するが、同じく直動式のニードルベアリングで構成されている。そして、第2の変位許容部91のY軸-側の端部は、第2のハウジング93のY軸+側の面に接触し、第2の変位許容部91のY軸+側の端部は、第2のロッド89のY軸-側の端部に設けられたフランジ部89aに接触している。
【0156】
但し、第1の変位許容部90及び第2の変位許容部91は、上述の構成に限定されず、各々の偏心カムのZ軸方向への変位を許容し、Y軸方向への変位をロッドに伝達可能な構成であれば、例えば、リニアレールなどでもよい。
【0157】
出力機構83は、第1のクランク5及び第2のクランク8の駆動力を出力する。出力機構83は、例えば、第1の歯車98、第2の歯車99、第3の歯車100、第4の歯車101及び第5の歯車102を備えている。
【0158】
第1の歯車98は、第1のクランク5のX軸-側の端部に固定されている。第2の歯車99は、第2のクランク8のX軸-側の端部に固定されている。第3の歯車100は、Y軸方向において第1の歯車98と第2の歯車99との間に配置されており、出力軸103が固定されている。出力軸103の先端は、ケース84から突出している。
【0159】
第4の歯車101は、第1の歯車98と第3の歯車100とに噛み合わされており、第1の歯車98の回転を第3の歯車100に伝達する。第5の歯車102は、第2の歯車99と第3の歯車100とに噛み合わされており、第2の歯車99の回転を第3の歯車100に伝達する。
【0160】
但し、出力機構83は、歯車によって回転を伝達する構成に限らず、チェーンなどによって回転を伝達する構成でもよい。つまり、第1のクランク5及び第2のクランク8の回転を出力軸に伝達することができる構成であればよい。
【0161】
このような駆動システム81は、エンジン61の燃焼によって第1のピストン33及び第2のピストン34が下死点に向かって移動するのに伴って、第1のクランク5及び第2のクランク8の回転によって第1の偏心カム85及び第2の偏心カム86が回転し、第1のロッド88及び第2のロッド89が上死点に向かって移動し、油を圧縮する。
【0162】
このとき、第1のクランク5の回転が出力機構83の第1の歯車98、第4の歯車101及び第3の歯車100を介して出力軸103に伝達される。それと共に、第2のクランク8の回転が出力機構83の第2の歯車99、第5の歯車102及び第3の歯車100を介して出力軸103に伝達される。
【0163】
そして、第1のピストン33及び第2のピストン34が上死点に向かって移動する際に、油の復元力が第1のロッド88、第1の変位許容部90、第1のハウジング92及び第1の偏心カム85を介して第1のクランク5を回転させ、第1のクランク5の回転が出力機構83の出力軸103に伝達される。
【0164】
それと共に、油の復元力が第2のロッド89、第2の変位許容部91、第2のハウジング93及び第2の偏心カム86を介して第2のクランク8を回転させ、第2のクランク8の回転が出力機構83の出力軸103に伝達される。
【0165】
このような構成により、本実施の形態の駆動システム81は、エンジン61の第1のピストン33及び第2のピストン34が上死点に向かって移動する際も駆動補助機構82から出力を得ることができ、エンジンのトルク変動を吸収してスムーズな出力特性を得ることができる。
【0166】
なお、第1のハウジング92のY軸-側の面と第1のロッド88のY軸+側の端部に設けられたフランジ部88aとが第1の変位許容部90を介して接触し、第2のハウジング93のY軸+側の面と第2のロッド89のY軸-側の端部に設けられたフランジ部89aとが第2の変位許容部91を介して接触した状態を維持することができるように、第1のロッド88のY軸-側の端部に設けられた第1のバネ受け96と第2のロッド89のY軸+側の端部に設けられた第2のバネ受け97との間にスプリングなどの弾性体104が配置されているとよい。このとき、第1のバネ受け96及び第2のバネ受け97は、Y軸方向に貫通する貫通部96a、97aが形成されているとよい。
【0167】
また、駆動システム81は、図22に示すような燃料噴射システム105を備えているとよい。燃料噴射システム105は、補助シリンダ110、プランジャ111、補助ピストン112、第1の逆止弁113及び第2の逆止弁114を備えている。
【0168】
補助シリンダ110は、Z軸-側の端部に底部を有する筒形状を基本形態としており、補助シリンダ110のZ軸+側の端部から当該補助シリンダ110の外側に向かってフランジ部110aが突出している。そして、補助シリンダ110には、第1の貫通部110b、第2の貫通部110c及び第3の貫通部110dが形成されている。
【0169】
第1の貫通部110bは、例えば、補助シリンダ110の底部110eに形成されており、駆動補助機構82の補助シリンダ87のボア87aと接続されている。第2の貫通部110cは、例えば、補助シリンダ110の筒状部110fに形成されており、油用のドレンと接続されている。第3の貫通部110dは、例えば、補助シリンダ110の筒状部110fに形成されており、燃料用のドレンと接続されている。
【0170】
プランジャ111は、柱形状を基本形態としており、プランジャ111のZ軸+側の端部から当該プランジャ111の外側に向かってフランジ部111aが突出している。プランジャ111には、Z軸方向に貫通する貫通部111bが形成されている。
【0171】
貫通部111bには、燃料タンク115から燃料が供給される第1の接続路116及びインジェクタ13に燃料を供給する第2の接続路117が接続されている。ここで、第1の接続路116と第2の接続路117とは、プランジャ111の手前で集合することができる。
【0172】
このようなプランジャ111は、プランジャ111の柱部分111cが補助シリンダ110のボア110gの内部に挿入された状態で、補助シリンダ110のフランジ部110aとプランジャ111のフランジ部111aとがボルト118を介して接続されることによって、補助シリンダ110に固定されている。
【0173】
補助ピストン112は、補助ピストン112のZ軸-側の端部に底部を有する筒形状である。補助ピストン112は、プランジャ111の柱部分111cに被せられ、プランジャ111の柱部分111cに沿って補助シリンダ110のボア110g内を摺動する。
【0174】
このような補助ピストン112と補助シリンダ110のボア110gとで密閉された第1の空間A1が形成されており、第1の空間A1には、駆動補助機構82の補助シリンダ87から油が供給される。このとき、第1の空間A1に供給された油が補助ピストン112と補助シリンダ110のボア110gとの隙間から漏れ出さないように、補助シリンダ110の第2の貫通部110cに対してZ軸+側で補助ピストン112と補助シリンダ110のボア110gとの間に第1のシール119が配置されている。
【0175】
また、補助ピストン112とプランジャ111の柱部分111cとで略密閉された第2の空間A2が形成されており、第2の空間A2には、燃料タンク115から第1の接続路116を介して燃料が供給される。このとき、第2の空間A2に供給された燃料が補助シリンダ110から漏れ出さないように、プランジャ111の柱部分111c及び補助ピストン112と、補助シリンダ110のボア110gと、の間に第2のシール120が配置されている。第2のシール120には、補助シリンダ110の第3の貫通部110dと連通する貫通部120aが形成されている。
【0176】
第1の逆止弁113は、第1の接続路116に設けられている。第1の逆止弁113は、燃料タンク115からプランジャ111への燃料の流れを許容し、プランジャ111から燃料タンク115への燃料の流れを遮断する。このとき、第1の接続路116における第1の逆止弁113に対して燃料タンク115の側には、フィルタ121及びフィードポンプ122が設けられている。
【0177】
第2の逆止弁114は、第2の接続路117に設けられている。第2の逆止弁114は、プランジャ111とインジェクタ13への燃料の流れを許容し、インジェクタ13からプランジャ111への燃料の流れを遮断する。
【0178】
このような燃料噴射システム105において、駆動補助機構82の補助シリンダ87のボア87a内の圧力が低下すると、第1の空間A1の圧力が低下して補助ピストン112がZ軸-側に引き込まれる。これにより、第1の空間A1から駆動補助機構82の補助シリンダ87のボア87aに油が押し戻される。それと共に、第2の空間A2の圧力が低下し、燃料タンク115から第1の接続路116を介して第2の空間A2に燃料が供給される。
【0179】
一方、燃料噴射システム105において、駆動補助機構82の補助シリンダ87のボア87a内の圧力が上昇すると、駆動補助機構82の補助シリンダ87のボア87aから第1の空間A1に油が押し出される。それと共に、第2の空間A2の圧力が上昇し、補助ピストン112がZ軸-側に押し込まれ、第2の空間A2から第2の接続路117を介してインジェクタ13に燃料が供給される。
【0180】
このとき、インジェクタ13の噴射量に応じて補助ピストン112のストロークが変化する。そのため、本実施の形態の燃料噴射システム105を用いた場合、一般的な噴射ポンプのような高価な制御システムが不要であり、燃料をインジェクタ13に供給する構成を安価に実現することができる。
【0181】
本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
例えば、上記実施の形態の第1のコンロッド7及び第2のコンロッド10として、図23(a)及び図23(b)に示すようなコンロッド130を用いてもよい。コンロッド130は、クランクに接続される側に対して逆側の端部にピストンピン130aが一体的に形成されている。これにより、ピストンピン130aの太さを稼ぐことができ、頑丈で、しかも、軸受け面積を稼ぐことができる。
【符号の説明】
【0182】
1 エンジン(2ストローク式対向ピストンエンジン)
2 シリンダ
2a ボア
2b 第1の収容部
2c 第2の収容部
2d 固定孔
2e 第1の段差部
2f 第2の段差部
2g 排気ポート
2h 吸気ポート
2i リング溝
2j 流路
2k、2l 第3の収容部
2m、2n 切り欠き部
2o ガス溜まり部
3 第1のピストン、3a ヘッド部
4 第2のピストン、4a ヘッド部
5 第1のクランク
6 第1のクランクケース
7 第1のコンロッド
8 第2のクランク
9 第2のクランクケース
10 第2のコンロッド
11 オイルパン
12 オイル
13 インジェクタ
14 インジェクタ本体
15 スリーブ、15a フランジ部
16 パッキン、16a 傾斜面
17 押し付けリング、17a 傾斜面
19 排気経路
20 吸気経路
21 本体部、21a 溝部、21b ボルト穴、21c リング溝、21d ガス溜まり部、21e 接続溝
22 第1の分割部、22a 凹み部、22b 溝部、22c 貫通部
23 第2の分割部、23a 凹み部、23b 第1の貫通部、23c 溝部、23d 第2の貫通部
24 リング
25、27 ピストンピン
26 ボルト
28 オイル噴射部
31 エンジン
32、32a リング
33 第1のピストン
34 第2のピストン
41 エンジン
42 インナースリーブ、42a 流路、42b 貫通部
43 第1の分割部
44 第2の分割部、44a 切り欠き部、44b 貫通部
45 第3の分割部
46 第4の分割部、46a 切り欠き部
47 延長部
51 エンジン
52 押し込み手段(第1の押し込み手段)、52a ピン
53 押し込み治具
54 リング素材
55 固定治具
61 エンジン
62 インナースリーブ、62a 流路
63 押し込み手段(第2の押し込み手段)
64 第1の分割部、64a 切り欠き部、64b 溝部
65 第2の分割部
66 第3の分割部、66a 切り欠き部
66b 第1の貫通部
66c 第2の貫通部
67 第4の分割部
68 延長部
69 押し込み部
70 リングナット
71 エンジン
72 EGRシステム
73 吸気チャンバ
74 インタークーラ
75 吸気ブロワ
76 バイパスバルブ
77 エアクリーナ
78 触媒
79 タービン
80 コンプレッサー
731 吸気チャンバ
741 インタークーラ
81 駆動システム
82 駆動補助機構
83 出力機構
84 ケース
85 第1の偏心カム
86 第2の偏心カム
87 補助シリンダ、87a ボア
88 第1のロッド、88a フランジ部
89 第2のロッド、89a フランジ部
90 第1の変位許容部
91 第2の変位許容部
92 第1のハウジング、92a 貫通部
93 第2のハウジング、93a 貫通部
94 逆止弁
95 油圧源
96 第1のバネ受け、96a 貫通部
97 第2のバネ受け、97a 貫通部
98 第1の歯車
99 第2の歯車
100 第3の歯車
101 第4の歯車
102 第5の歯車
103 出力軸
104 弾性体
105 燃料噴射システム
110 補助シリンダ、110a フランジ部、110b 第1の貫通部、110c 第2の貫通部、110d 第3の貫通部、110e 底部、110f 筒状部、110g ボア
111 プランジャ、111a フランジ部、111b 貫通部、111c 柱部分
112 補助ピストン
113 第1の逆止弁
114 第2の逆止弁
115 燃料タンク
116 第1の接続路
117 第2の接続路
118 ボルト
119 第1のシール
120 第2のシール、120a 貫通部
121 フィルタ
122 フィードポンプ
130 コンロッド、130a ピストンピン
A1 第1の空間
A2 第2の空間
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