(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】回転陽極型X線管
(51)【国際特許分類】
H01J 35/10 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
H01J35/10 N
(21)【出願番号】P 2020175414
(22)【出願日】2020-10-19
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米澤 哲也
【審査官】大谷 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-134098(JP,A)
【文献】特表2019-516210(JP,A)
【文献】特開平06-196112(JP,A)
【文献】特開2018-060623(JP,A)
【文献】特開平11-040088(JP,A)
【文献】特開2001-193236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/00-35/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定体と、
陽極ターゲットを備え前記固定体に嵌合して前記固定体周りを回転可能に設けた内側回転円筒と、
前記内側回転円筒と同軸で前記内側回転円筒の外周側に設けられ、磁界を受けて回転する外側回転円筒と、
前記内側回転円筒と前記外側回転円筒を連結する連結部とを備え、
前記連結部は、前記外側回転円筒において前記陽極ターゲットから遠い側の端部を内周側に曲げて端面を内側回転円筒の外周面に対向
させて形成し、前記内側回転円筒の外周側で且つ前記連結部の前記曲げた端面の上方にろう材を配置して炉内に入れ、前記連結部の端面と前記内側回転円筒の外周面をろう付けにより連結する回転陽極型X線管
の製造方法。
【請求項2】
前記連結部は、前記外側回転円筒の前記端面に形成した雌ネジと、前記内側回転円筒の外周面に形成した雄ネジを
ろう付けにより連結している請求項1に記載の回転陽極型X線管
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転陽極型X線管に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、回転陽極型X線管は、陽極ターゲットを備える内側回転円筒の内周側を固定体に嵌合して固定体周りを回転可能に設け、内側回転円筒に同軸で内側回転円筒の外周側に外側回転円筒を連結しており、外側回転円筒がその外周側に設けたステーターコイルから磁界を受けて回転力を発生させている。
内側回転円筒と外側回転円筒を連結する連結部は、外側回転円筒において陽極ターゲットに近い側の端部を内側回転円筒に連結していた。
一方、X線管が曝射するとき、陰極から電子ビームを陽極ターゲットに当てるが、この電子ビームの衝突により陽極ターゲットが高温に加熱され、加熱された陽極ターゲットからの輻射熱及び熱伝導を受け、陽極ターゲットから近い部分が加熱されるので、内側回転円筒と外側回転円筒の連結部が高温になり易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、連結部が高温になると、連結強度が弱まり外側回転円筒が内側回転円筒に対して傾きやずれが発生し同軸を維持できなくなり、回転バランスが崩れ、異常振動が発生するおそれがあった。異常振動が発生すると、損傷の原因になったり、メンテナンスが必要になるという不都合がある。
本発明の実施形態は、異常振動の発生を防止し、良好な回転を維持し続けることができる回転陽極型X線管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態に係る回転陽極型X線管は、固定体と、陽極ターゲットを備え前記固定体に嵌合して前記固定体周りを回転可能に設けた内側回転円筒と、前記内側回転円筒と同軸で前記内側回転円筒の外周側に設けられ、磁界を受けて回転する外側回転円筒と、前記内側回転円筒と前記外側回転円筒を連結する連結部とを備え、前記連結部は、前記外側回転円筒において前記陽極ターゲットから遠い側の端部を前記内側回転円筒に連結している回転陽極型X線管である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る回転陽極型X線管の概略的構成を示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、第2実施形態に係る回転陽極型X線管の概略的構成を示す縦断面図である。
【
図3】
図3は、第3実施形態に係る回転陽極型X線管の概略的構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、図面を参照しながら、一実施形態に係る回転陽極型X線管について詳細に説明する。なお、図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べて、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する詳細な説明を適宜省略することがある。
(第1実施形態)
図1に示すように、回転陽極型X線管1は、真空外囲器3と、真空外囲器3内に収納された陰極5と、固定体6と、陽極ターゲット7を備える内側回転円筒9と、外側回転円筒11とを備えている。内側回転円筒9と外側回転円筒11は、連結部13で一体に連結されている。
【0008】
真空外囲器3の外側には、外側回転円筒11に対向する位置にステーターコイル15が設けてある。
真空外囲器3内は真空に保持されている。尚、真空外囲器3には、陽極ターゲット7に対応する位置に陽極ターゲット7で発生したX線を透過する窓3aが設けられている。
陰極5は陽極ターゲット7に向けて電子を放出する部材である。
【0009】
陽極ターゲット7は、円盤状であり、陰極5との対向面7aに陰極5から放出された電子が衝突することによりX線を発生する。陽極ターゲット7は、高融点の重金属でできており、重金属としては、例えば、モリブデン(Mo)、タングステン(W)若しくはこれらの各合金が使用されている。
陽極ターゲット7は、円盤の中央部で首部17を介して内側回転円筒9の一端部9aに一体に固定されている。首部17は陽極ターゲット7の径よりも小さい径に形成されている。
【0010】
内側回転円筒9は、その内周側に動圧滑り軸受け(図示せず)を介して固定体6に回転可能に嵌合されている。内側回転円筒9は、純鉄等の鉄系金属でできている。
内側回転円筒9の他端部9cは、陽極ターゲット7から遠い位置にある開口端であり、周囲に沿って、リング状のフランジ14が固定されている。
【0011】
外側回転円筒11は、外周面部は銅又はその合金でできており、基部は純鉄等の鉄系金属でできている。
ここで、内側回転円筒9と外側回転円筒11の連結部13について説明する。外側回転円筒11は、陽極ターゲット7から遠い側の端部11aを内側に曲げてあり、曲げた端部1aの端面11bは、内側回転円筒9の外周面9bに対向している。
【0012】
外側回転円筒11において陽極ターゲット7から遠い側の端部11aと内側回転円筒9とは、溶融したろう材21によりろう付けされている。溶融したろう材21は、陽極ターゲット7から遠い側の端部11aの端面11bと内側回転円筒9の外周面9bとの間に流れ込んでこれらを接続している。
尚、
図1に二点鎖線で示すように、溶融前のろう材21aは、外側回転円筒11の端部11aにおいて、内側回転円筒9と外側回転円筒11との間に押し込まれており、溶融前のろう材21aが溶融することで、外側回転円筒11の端部11aの端面11bと内側回転円筒9の外周面9bとの間に入り込んでいる。
【0013】
次に、第1実施形態に係る回転陽極型X線管の製造方法について説明する。
外側回転円筒11において、陽極ターゲット7から遠い側の端部11aを内周側に向けて略直角に曲げる。
次に、外側回転円筒11の内側に、陽極ターゲット7を備えた内側回転円筒9を陽極ターゲット7から遠い側の他端部9cから挿入する。
一方、溶融前のろう材21aは、内側回転円筒9の外側において、陽極ターゲット7から遠い側の他端部9cに配置するが、例えば、溶融前のろう材21aはリング状にして内側回転円筒9の外周に嵌め込む。
その後、外側回転円筒11の内側に内側回転円筒9を配置すると共に連結部13に溶融前のろう材21aを配置した状態で、炉内に入れて、連結部13で内側回転円筒9と外側回転円筒11をろう付けする。
【0014】
内側回転円筒9と外側回転円筒11を連結部13でろう付けした後、固定体6を内側回転円筒9の内周に篏合し、内側回転円筒9の他端部9c側にフランジ14を固定し、真空外囲器3内に取り付ける。尚、真空外囲器3には陰極5を取り付け、真空外囲器3の外部にはステーターコイル15を設けて、回転陽極型X線管1を組み立てる。
【0015】
次に、回転陽極型X線管1の作用効果について説明する。
回転陽極型X線管1は、ステーターコイル15に通電することで磁界を発生し、外側回転円筒11が電磁力により回転力を発生することで内側回転円筒9と共に回転し、内側回転円筒9と共に回転する陽極ターゲット7に対して、陰極5から放出された電子が陽極ターゲット7の対向面に衝突して、X線が発生し、X線が真空外囲器3の窓3aを介して外部に放出される。
【0016】
本実施形態によれば、内側回転円筒9と外側回転円筒11とは、外側回転円筒11において陽極ターゲット7から遠い側の端部11aを連結部13で連結しているので、X線管が曝射するとき、電子ビームの衝突により加熱された陽極ターゲット7からの輻射熱及び熱伝導により伝達される熱は連結部13に伝達され難く、連結部13が高温になり難いから、連結部13では、熱による連結強度の低減を防止し、連結強度を維持することができる。これにより、連結部13における熱変形が生じにくく、内側回転円筒9と外側回転円筒11の回転バランスを維持することができ、回転振動を抑え、振動により発生する騒音を小さく保つことで、X線管の性能を長く維持することが可能となる。
【0017】
また、連結部13では、外側回転円筒11において陽極ターゲット7から遠い側の端部11aが、内側回転円筒9にろう付けにより連結されているので、簡易に連結できる。
外側回転円筒11の端部11aは、内側に曲げて端面11bを内側回転円筒9に突き当てて接合面としているので、連結面を容易に形成できる。
溶融前のろう材21aは、外側回転円筒11の陽極ターゲット7から遠い側の端部11aにおいて、外側回転円筒11と内側回転円筒9との間に嵌め入れるだけであるから、ろう付けによる連結が容易にできる。
ろう材21は、外側回転円筒11の端部11aにおいて、内側に曲げた端面11bを内側回転円筒9の突き当て面として、突き当て面をろう付けしているので、接合面積を広く取ることができ、接合強度が高い。
【0018】
以下に他の実施形態について説明するが、以下に説明する実施形態において、上述した第1実施形態と同一の作用効果を奏する部分には、同一の符号を付して、その部分の詳細な説明を省略する。
(第2実施形態)
図2を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態では、外側回転円筒11の連結部13において、陽極ターゲット7から遠い側の端部11aには、その端面11bに雌ネジ23aが形成してあり、対応する内側回転円筒9の外周面には、雄ネジ23bが形成してあり、連結部13は雌ネジ23aと雄ネジ23bとの螺合により連結している。
【0019】
内側回転円筒9と外側回転円筒11の連結は、例えば、内側回転円筒9の他端部9c側から外側回転円筒11の陽極ターゲット側の一端部11cを挿入し、外側回転円筒11において陽極ターゲット7から遠い側の端部11aの雌ネジ23aを内側回転円筒9の雄ネジ23bに螺合して、連結する。
雌ネジ23aと雄ネジ23bとの螺合は、外側回転円筒11の回転方向で互いにネジを締め付けるように各ネジが形成されている。
その他の構成は、上述した第1実施形態と同様である。
【0020】
この第2実施形態によれば、第1実施形態におけるろう付けの効果を除いて、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができると共に、内側回転円筒9と外側回転円筒11の連結部13は、ネジ連結による機械的連結であるから、連結構造が簡易で且つ用意に連結できる。
【0021】
(第3実施形態)
図3を参照して、第3実施形態について説明する。第3実施形態では、第2実施形態の連結部13において、雌ネジ23aと雄ネジ23bとの連結に加えて、第1実施形態のろう付けによる連結をしたものである。この第3実施形態では、ろう材21は、溶融したときに、毛細管現象により、雌ネジ23aと雄ネジ23b間に入り込んで固定するから、連結部13は、ネジ連結とろう材による連結により、連結強度を更に高めることができる。
【0022】
上述した一実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0023】
1…回転陽極型X線管、7…陽極ターゲット、9…内側回転円筒、11…外側回転円筒、13…連結部、21…ろう材、23a…雌ネジ、23b…雄ネジ。