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特許7504772異常判定装置、学習装置及び異常判定方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】異常判定装置、学習装置及び異常判定方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
G05B23/02 T
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020185306
(22)【出願日】2020-11-05
(65)【公開番号】P2022074890
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 晋
(72)【発明者】
【氏名】中田 康太
(72)【発明者】
【氏名】田口 安則
(72)【発明者】
【氏名】加藤 佑一
(72)【発明者】
【氏名】宮本 千賀司
(72)【発明者】
【氏名】青木 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】富永 真哉
(72)【発明者】
【氏名】名倉 伊作
(72)【発明者】
【氏名】三宅 亮太
【審査官】渡邊 捷太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-091236(JP,A)
【文献】特開2019-040431(JP,A)
【文献】特開2020-035407(JP,A)
【文献】米国特許第10706856(US,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0081594(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0045289(KR,A)
【文献】特開2021-033705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象施設において発生する複数のプロセス量にそれぞれ対応する複数の入力時系列データを、複数のグループに区分する区分部と、
前記複数のグループ各々について、当該グループに含まれる1以上の入力時系列データを、前記複数のグループ毎に異なる第1の次元削減・復元モデルに適用して、1以上の出力時系列データを出力する第1推論部と、
前記複数のプロセス量に関する複数の出力時系列データと前記複数の入力時系列データとに基づく複数の入力差分データを単一の第2の次元削減・復元モデルに適用して、複数の出力差分データを出力する第2推論部と、
前記複数の出力差分データと前記複数の出力時系列データとに基づく複数の加算データと、前記複数の入力時系列データとの比較に基づいて前記対象施設の異常又は異常の予兆を判定する判定部と、
を具備する異常判定装置。
【請求項2】
前記区分部は、互いに物理的相関関係にある第1のプロセス量に関する入力時系列データと第2のプロセス量に関する入力時系列データとを、異なるグループに分類する、請求項1記載の異常判定装置。
【請求項3】
前記複数のグループは、第1のグループと第2のグループとに区分され、
前記第1のグループは、2以上のプロセス量に関する2以上の入力時系列データが属する単一のグループを含み、
前記第2のグループは、2以上のグループを含み、
前記2以上のグループ各々は、単一のプロセス量に関する単一の入力時系列データが属する、
請求項2記載の異常判定装置。
【請求項4】
前記区分部は、
前記複数のプロセス量の中から注目プロセス量を指定し、
前記注目プロセス量に関する注目入力時系列データと他のプロセス量に関する他の入力時系列データとの相関係数を演算し、
前記相関係数に基づいて、前記注目入力時系列データに物理的に相関する他の入力時系列データを前記第1のグループに区分し、物理的に相関しない他の入力時系列データを前記第2のグループに区分する、
請求項3記載の異常判定装置。
【請求項5】
前記複数のプロセス量各々について正常な差分データの上限値及び下限値を記憶する記憶部を更に備え、
前記正常な差分データは、正常時の入力時系列データと当該正常時の入力時系列データに基づく前記第1の次元削減・復元モデルからの出力時系列データとの差分データであり、
前記第2推論部は、前記複数の入力差分データ各々について、当該入力差分データのプロセス量に関する前記上限値より大きい部分を前記上限値に置き換え、前記下限値より小さい部分を前記下限値に置き換え、置き換え後の入力差分データを前記第2の次元削減・復元モデルに適用する、
請求項1記載の異常判定装置。
【請求項6】
前記記憶部は、前記正常な差分データに含まれる前記上限値及び前記下限値を記憶する、請求項5記載の異常判定装置。
【請求項7】
前記第1の次元削減・復元モデル及び前記第2の次元削減・復元モデルは、オートエンコーダである、請求項1記載の異常判定装置。
【請求項8】
前記複数の第1の次元削減・復元モデル各々は、当該プロセス量に関する正常な入力時系列データを復元するように学習された機械学習モデルであり、
前記第2の次元削減・復元は、正常な複数の入力差分データを復元するように学習された機械学習モデルである、
請求項1記載の異常判定装置。
【請求項9】
前記複数の第1の次元削減・復元モデル各々は、前記入力時系列データに含まれる微小変動が除外され、前記入力時系列データに含まれる主要成分が復元された前記出力時系列データを出力する、請求項1記載の異常判定装置。
【請求項10】
前記複数の加算データ各々は、入力時系列データに含まれる微小変動が復元された出力差分データと、入力時系列データに含まれる主要成分が復元された出力時系列データとの加算データである、請求項1記載の異常判定装置。
【請求項11】
前記判定部は、前記複数のプロセス量の各々について加算データと入力時系列データとの誤差データを算出し、前記誤差データが監視基準内に収まる場合、前記対象施設に異常又は予兆がないと判定し、前記誤差データが前記監視基準を収まらない場合、前記対象施設に異常又は予兆があると判定する、請求項1記載の異常判定装置。
【請求項12】
前記複数の入力時系列データは、判定対象期間のうちの所定時間長内の時系列データである、請求項1記載の異常判定装置。
【請求項13】
複数の出力差分データと複数の出力時系列データとに基づく複数の加算データと、複数の入力時系列データとの比較に基づいて対象施設の異常又は異常の予兆を判定する方法に使用される複数の第1の次元削減・復元モデルと単一の第2の次元削減・復元モデルとを学習する学習装置であって、
対象施設において発生する正常時の複数のプロセス量にそれぞれ対応する複数の入力時系列データを、複数のグループに区分する区分部と、
前記複数のグループにそれぞれ対応する前記複数の第1の次元削減・復元モデルを学習する第1学習部であって、前記複数の第1の次元削減・復元モデル各々を、当該プロセス量に関する入力時系列データを入力して当該入力時系列データを復元した出力時系列データを出力するように、当該プロセス量に関する正常な入力時系列データに基づいて学習する第1学習部と、
前記複数のプロセス量に関する複数の出力時系列データと前記複数の入力時系列データとに基づく複数の入力差分データを入力して前記複数の入力差分データを復元した複数の出力差分データを出力する前記単一の第2の次元削減・復元モデルを、正常な入力差分データに基づいて学習する第2学習部と、
を具備する学習装置。
【請求項14】
前記複数のプロセス量各々について、入力差分データの上限値及び下限値を記録する記録部を更に備える、請求項13記載の学習装置。
【請求項15】
前記複数のプロセス量各々について、入力時系列データと加算データとに基づいて、前記対象施設の異常又は異常の予兆を判定するための監視基準を作成する監視基準作成部を更に備える、請求項13記載の学習装置。
【請求項16】
前記監視基準作成部は、当該入力時系列データと当該加算データとの誤差データの絶対値の上限値を、前記監視基準として決定する、請求項15記載の学習装置。
【請求項17】
前記区分部は、互いに物理的相関関係にある第1のプロセス量に関する入力時系列データと第2のプロセス量に関する入力時系列データとを、異なるグループに分類する、請求項13記載の学習装置。
【請求項18】
前記複数のグループは、第1のグループと第2のグループとに区分され、
前記第1のグループは、2以上のプロセス量に関する2以上の入力時系列データが属する単一のグループを含み、
前記第2のグループは、2以上のグループを含み、
前記2以上のグループ各々は、単一のプロセス量に関する単一の入力時系列データが属する、
請求項17記載の学習装置。
【請求項19】
前記区分部は、
前記複数のプロセス量の中から注目プロセス量を指定し、
前記注目プロセス量に関する注目入力時系列データと他のプロセス量に関する他の入力時系列データとの相関係数を演算し、
前記相関係数に基づいて、前記注目入力時系列データに物理的に相関する他の入力時系列データを前記第1のグループに区分し、物理的に相関しない他の入力時系列データを前記第2のグループに区分する、
請求項18記載の学習装置。
【請求項20】
対象施設において発生する複数のプロセス量にそれぞれ対応する複数の入力時系列データを、複数のグループに区分し、
前記複数のグループ各々について、当該グループに含まれる1以上の入力時系列データを、前記複数のグループ毎に異なる第1の次元削減・復元モデルに適用して、1以上の出力時系列データを出力し、
前記複数のプロセス量に関する複数の出力時系列データと前記複数の入力時系列データとに基づく複数の入力差分データを単一の第2の次元削減・復元モデルに適用して、複数の出力差分データを出力し、
前記複数の出力差分データと前記複数の出力時系列データとに基づく複数の加算データと、前記複数の入力時系列データとの比較に基づいて前記対象施設の異常又は異常の予兆を判定する、
ことを具備する異常判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、異常判定装置、学習装置及び異常判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力や火力発電プラント等の大規模発電プラントにおいては、プラントの性能及びプラントを構成する様々な系統、機器の健全性を監視する目的で多数のプロセス量が測定されている。多数のプロセス量の全てをプラントの運転員が常時監視することは困難なことから、多くのプラントにはプロセス量の時系列データを取り込み、プラントの異常変化を検知する監視システムが設けられている。
【0003】
異常変化の検知では、機械学習を用いることで、異常が顕在化する前の予兆を検知する試みが進められている。例えば、正常時のセンサデータを学習したセンサ予測値の回帰モデル、および、回帰モデルの予測誤差を入力としたセンサ間の相関モデルによる構成を用いて、相関モデルの出力値から故障の予知をする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-112852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、異常又は異常の予兆を高精度で判定することが可能な異常判定装置、学習装置及び異常判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る異常判定装置は、区分部、第1推論部、第2推論部及び判定部を有する。区分部は、対象施設において発生する複数のプロセス量にそれぞれ対応する複数の入力時系列データを、複数のグループに区分する。第1推論部は、前記複数のグループ各々について、当該グループに含まれる1以上の入力時系列データを、前記複数のグループ毎に異なる第1の次元削減・復元モデルに適用して、1以上の出力時系列データを出力する。第2推論部は、前記複数のプロセス量に関する複数の出力時系列データと前記複数の入力時系列データとに基づく複数の入力差分データを単一の第2の次元削減・復元に適用して、複数の出力差分データを出力する。判定部は、前記複数の出力差分データと前記複数の出力時系列データとに基づく複数の加算データと、前記複数の入力時系列データとの比較に基づいて前記対象施設の異常又は異常の予兆を判定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態に係る異常判定装置の構成例を示す図
図2】本実施形態に係る学習装置の構成例を示す図
図3】学習装置による一連の処理のフローチャート
図4】区分部による区分処理のフローチャート
図5】区分部による区分処理を模式的に示す図
図6図5のグループG1に属する時系列データと第1予測モデルとの個数の関係を示す図
図7図5のグループG2に属する時系列データと第1予測モデルとの個数の関係を示す図
図8】正常時の入力データ(時系列データ)を予測モデル(オートエンコーダ)に入力したときの予測モデルの出力を示す図
図9】異常時の入力データ(時系列データ)を予測モデル(オートエンコーダ)に入力したときの予測モデルの出力を示す図
図10】回帰モデルと第1予測モデルとの応答の違いを説明するための図
図11】グループG1の第1予測モデル及びグループG2の第1予測モデルの入力及び出力を例示する図
図12】物理的相関の無いプロセス量A及びBが同一グループに分類され、プロセス量A及びBに対して単一の第1予測モデルが学習された場合における、プロセス量A及びBの時系列を示す図
図13】物理的相関の無いプロセス量A及びBが別グループに分類され、プロセス量A及びBに対して別々の第1予測モデルが学習された場合における、プロセス量A及びBの時系列を示す図
図14】第1予測モデルの学習データの一例を示す図
図15】正常時の入力差分データを第2予測モデルに入力したときの出力データを示す図
図16】異常時の入力差分データを第2予測モデルに入力したときの出力データを示す図
図17】第1予測モデル及び第2予測モデルの入出力を示す図
図18】複数の第1予測モデル及び単一の第2予測モデルの入出力を示す図
図19】第2予測モデルの学習データの一例を示す図
図20】入力分割データの第1予測モデルへの入力から復元データの生成までの処理過程を模式的に示す図
図21】加算部による加算処理を模式的に示す図
図22】異常判定装置による一連の処理のフローチャート
図23】第2推論部によるクリッピング処理を模式的に示す図
図24】判定部による判定処理(異常又は異常の予兆なし)を模式的に示す図
図25】判定部による判定処理(異常又は異常の予兆あり)を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係わる異常判定装置、学習装置及び異常判定方法を説明する。
【0009】
本実施形態に係る異常判定装置は、対象施設から得られるデータを入力データとして、対象施設の異常又は異常の予兆を判定するコンピュータ又はコンピュータネットワークシステムである。対象施設としては、原子力発電プラントや火力発電プラント等の大規模発電プラントを想定しているが、本実施形態の適用範囲はこれに限定されず、中規模又は小規模の発電プラントでもよいし、発電プラント以外の任意の工場設備や生産設備等にも適用可能である。以下の実施形態では、対象施設は大規模発電プラントであるとする。大規模発電プラントから得られるデータをプラントデータと呼ぶことにする。また、大規模発電プラントを単にプラントと呼ぶこともある。
【0010】
異常予兆の検知技術では、プラントデータの僅かな変化を検知することで予兆が検知される。このためには、プラントの正常状態を高精度で判定することが必要である。誤った判定は誤検知を起こし、運転員の不要な作業を発生させる。またデータの揺らぎに埋もれてしまい、目視では発見困難な僅かな変化を検知するには、正常状態のデータの微小な変動も含めて高精度に判定することが必要となる。
【0011】
しかし、従来技術では例えば以下のような3つの問題がある。
(1)一般に、予測誤差を入力とした複数のセンサ間の相関モデルの出力値からは、センサ間の相関を考慮した高精度予測値を直接得ることができない。
(2)プラントは様々な系統および機器で構成された複雑なシステムであり、正常状態においても、プラントの内部状態は複雑に変化する。例えば、各系統および各機器の運転条件は、しばしばステップ状に変化する。その結果、対応するセンサのセンサデータの値(センサ値)等のプラントデータは急激に変化する。回帰モデルを用いた場合、予測値(時刻t)は、過去のデータ(時刻t-1,t-2,・・・)から算出される。このため、時刻(t-1)以前では前兆のない急激な変化の判定が困難となる。
(3)センサ値の微小な変動については、単一の機械学習モデルでは、しばしば誤った学習を実行し、微小変動に対して恒等写像的な応答を示すようになる。その結果、微小な変動は予測されるが、微小な異常変化も正常状態として予測され、異常が検知できなくなる。
【0012】
そこで、以下の実施形態の異常判定装置は、2段階の機械学習モデルである第1予測モデル及び第2予測モデルを用いて、運転条件のステップ状の変化およびデータの微小変動も含めた正常状態のプラントデータの特徴量に基づく高精度の予測を行い、プラントの異常予兆を精度よく検知する。より詳細には、第1モデルで正常時のプロセス量の時系列データの主要成分の特徴量を学習し、第2モデルで正常時のプロセス量の時系列データの微小変動の特徴量を学習し、2つのモデルの出力値をプロセス量の予測値とすることで、予測精度を向上し、プラントの異常又は異常の予兆を判定する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る異常判定装置1の構成例を示す図である。異常判定装置1は、第1モデル及び第2モデルを用いてプラントの異常又は異常の予兆を判定するためのコンピュータである。図1に示すように、異常判定装置1は、処理回路11、記憶装置12、入力機器13、通信機器14及び表示機器15を有する。
【0014】
処理回路11は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサとRAM(Random Access Memory)等のメモリとを有する。処理回路11は、第1モデル及び第2モデルを用いて発電プラントの異常又は異常の予兆を判定する。処理回路11は、記憶装置12に記憶されているプログラムを実行することにより取得部111、区分部112、第1推論部113、減算部114、第2推論部115、加算部116、判定部117及び表示制御部118を実現する。処理回路11のハードウェア実装は上記態様のみに限定されない。例えば、取得部111、区分部112、第1推論部113、減算部114、第2推論部115、加算部116、判定部117及び表示制御部118を実現する特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)等の回路により構成されても良い。取得部111、区分部112、第1推論部113、減算部114、第2推論部115、加算部116、判定部117及び/又は表示制御部118は、単一の集積回路に実装されても良いし、複数の集積回路に個別に実装されても良い。
【0015】
取得部111は、異常判定装置1で実行される各種処理で用いられる各種データを取得する。例えば取得部111は、プラントから出力されるプラントデータを入力データとして取得する。取得部111は、取得したプラントデータ等の各種データを記憶装置12に記憶する。
【0016】
プラントデータは、複数のプロセス量に関する複数の時系列データを含む。プロセス量は、プラントで使用される各種センサから出力される測定値、プラントの系統や各種機器に対する設定値や出力値などであり、時系列データはこれらの値の系列データである。例えば原子力発電プラントや火力発電プラント等の大規模発電プラントでは、1プラント当たりのプロセス量の種類は数千から数万となる。取得部111は、このような多数のプロセス量に関する時系列データの全部または一部を、異常又は異常の予兆の判定に用いるプラントデータとして取得する。例えば、全ての時系列データを複数の系統ごとに分類し、系統単位で時系列データによる異常判定を行ってもよい。このように系統ごとに分類した場合、プロセス量は、例えば数百から数千種類となる。
【0017】
区分部112は、プラントにおいて発生する複数のプロセス量にそれぞれ対応する複数の入力時系列データを複数のグループに区分する。換言すれば、区分部112は、複数のプロセス量に関するプラントデータを、複数のグループにそれぞれ対応する複数の入力分割データに分割する。
【0018】
第1推論部113は、複数のグループ各々について、当該グループに含まれる1以上の時系列データを、複数のグループ毎に異なる第1次元削減・復元モデルに適用して、1以上の時系列データを出力する。ここで、第1次元削減・復元モデルに適用される時系列データを入力時系列データ、第1次元削減・復元モデルから出力される時系列データを出力時系列データと呼ぶことにする。出力時系列データは、入力時系列データに含まれる微小変動が除外され、入力時系列データに含まれる主要成分を復元した時系列データである。第1次元削減・復元モデルは、後述の学習装置2により学習される。各第1次元削減・復元モデルは、対応するプロセス量に関する正常時の入力時系列データに基づいて学習され、入力時系列データを入力して出力時系列データを出力するようにパラメータが学習されている。第1次元削減・復元モデルは、入力時系列データの次元削減及び次元復元を直列的に実行可能なネットワークアーキテクチャを有し、例えば、オートエンコーダ(エンコーダ・デコーダ・ネットワーク)により実現される。
【0019】
減算部114は、複数の出力時系列データと複数の入力時系列データとに基づく複数の差分データを生成する。すなわち、減算部114は、複数のプロセス量各々について、出力時系列データと入力時系列データとの差分データを生成する。差分データは、入力時系列データの微小変動に関するデータである。
【0020】
第2推論部115は、複数の差分データを単一の第2次元削減・復元モデルに適用して、複数の差分データを出力する。ここで、第2次元削減・復元モデルに適用される差分データを入力差分データ、第2次元削減・復元モデルから出力される差分データを出力差分データと呼ぶことにする。出力差分データは、入力差分データの主要成分を復元したデータである。第2次元削減・復元モデルは、後述の学習装置2により学習される。第2次元削減・復元モデルは、複数のプロセス量に関する正常時の複数の差分データに基づいて学習され、正常時の差分データを復元するように学習されている。第2次元削減・復元モデルは、差分データの次元削減及び次元復元を直列的に実行可能なネットワークアーキテクチャを有し、例えば、オートエンコーダ(エンコーダ・デコーダ・ネットワーク)により実現される。
【0021】
加算部116は、複数の出力差分データと複数の入力分割データとに基づく複数の加算データを生成する。すなわち、加算部116は、複数の出力差分データ各々について、出力差分データと当該出力差分データのプロセス量に対応する入力分割データとの加算データを生成する。加算データは、入力時系列データの主要成分と微小変動とを復元したデータである。以下、加算データを復元データと呼ぶことにする。
【0022】
判定部117は、複数の復元データと複数の入力時系列データとの比較に基づいてプラント(対象施設)の異常又は異常予兆を判定する。より詳細には、判定部117は、復元データと入力時系列データとを比較して、比較結果を、後述の学習装置2により作成された監視基準に当てはめて、当該入力分割データに異常が含まれるか否かを判定する。当該入力時系列データに異常が含まれることは、プラントに異常又は異常の予兆があることを意味する。
【0023】
表示制御部118は、種々の情報を表示機器15を介して表示する。例えば、表示制御部118は、判定部117による異常又は異常の予兆の判定結果を表示する。
【0024】
記憶装置12は、ROM(Read Only Memory)やHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、集積回路記憶装置等により構成される。記憶装置12は、処理回路11による種々の演算結果や処理回路11が実行する種々のプログラム等を記憶する。また、記憶装置12は、プラントデータや、第1次元削減・復元モデル、第2次元削減・復元モデル、監視基準等を記憶する。
【0025】
入力機器13は、ユーザからの各種指令を入力する。入力機器13としては、キーボードやマウス、各種スイッチ、タッチパッド、タッチパネルディスプレイ等が利用可能である。入力機器13からの出力信号は処理回路11に供給される。なお、入力機器13としては、処理回路11に有線又は無線を介して接続されたコンピュータであっても良い。
【0026】
通信機器14は、異常判定装置1にネットワークを介して接続された外部機器との間で情報通信を行うためのインタフェースである。
【0027】
表示機器15は、種々の情報を表示する。例えば、表示機器15は、表示制御部118による制御に従い、判定部117による異常又は異常の予兆の判定結果を表示する。表示機器15としては、CRT(Cathode-Ray Tube)ディスプレイや液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、LED(Light-Emitting Diode)ディスプレイ、プラズマディスプレイ又は当技術分野で知られている他の任意のディスプレイが適宜利用可能である。
【0028】
取得部111、区分部112、第1推論部113、減算部114、第2推論部115、加算部116、判定部117及び/又は表示制御部118は、他のコンピュータに実装されてもよい。この場合、取得部111、区分部112、第1推論部113、減算部114、第2推論部115、加算部116、判定部117及び表示制御部118が互いに通信可能な複数のコンピュータにより実現され、これら複数のコンピュータは、全体として、発電プラントの異常又は異常の予兆を判定するコンピュータネットワークシステムを構築する。
【0029】
図2は、本実施形態に係る学習装置2の構成例を示す図である。学習装置2は、第1モデル及び第2モデルを学習するためのコンピュータである。図2に示すように、学習装置2は、処理回路21、記憶装置22、入力機器23、通信機器24及び表示機器25を有する。
【0030】
処理回路21は、CPU等のプロセッサとRAM等のメモリとを有する。処理回路21は、第1モデル及び第2モデルを学習する。処理回路21は、記憶装置22に記憶されているプログラムを実行することにより取得部211、区分部212、第1学習部213、減算部214、記録部215、第2学習部216、加算部217、監視基準作成部218及び表示制御部219を実現する。処理回路21のハードウェア実装は上記態様のみに限定されない。例えば、取得部211、区分部212、第1学習部213、減算部214、記録部215、第2学習部216、加算部217、監視基準作成部218及び表示制御部219を実現するASIC等の回路により構成されても良い。取得部211、区分部212、第1学習部213、減算部214、記録部215、第2学習部216、加算部217、監視基準作成部218及び/又は表示制御部219は、単一の集積回路に実装されても良いし、複数の集積回路に個別に実装されても良い。
【0031】
取得部211は、学習装置2で実行される各種処理で用いられる各種データを取得する。例えば取得部211は、プラントから出力される複数のプロセス量に関する正常なプラントデータを入力データとして取得する。取得部211は、取得したプラントデータ等の各種データを、記憶装置22に記憶する。
【0032】
区分部212は、プラントにおいて発生する複数のプロセス量にそれぞれ対応する複数の入力時系列データを複数のグループに区分する。換言すれば、区分部212は、複数のプロセス量に関する正常なプラントデータを、複数のグループにそれぞれ対応する複数の入力分割データに分割する。区分部212の処理方法は、区分部112の処理方法と同様である。
【0033】
第1学習部213は、複数のグループにそれぞれ対応する複数の第1の次元削減・復元モデルを学習する。第1学習部213は、複数の第1次元削減・復元モデル各々を、当該プロセス量に関する入力時系列データを入力して当該入力時系列データを復元した出力時系列データを出力するように、当該プロセス量に関する正常な入力時系列データに基づいて学習する。上記の通り、第1の次元削減・復元モデルは、入力分割データの次元削減及び次元復元を直列的に実行可能なネットワークアーキテクチャを有し、例えば、オートエンコーダ(エンコーダ・デコーダ・ネットワーク)により実現される。
【0034】
減算部214は、正常時の複数の出力時系列データと正常時の複数の入力時系列データとに基づく複数の差分データを生成する。すなわち、減算部214は、複数プロセス量各々について、出力時系列データと入力時系列データとの差分データを生成する。減算部214の処理方法は、減算部114の処理方法と同様である。以下、減算部214により生成される差分データを入力差分データと呼ぶことにする。
【0035】
記録部215は、複数のプロセス量各々について正常時の入力差分データの上限値及び下限値を、記憶装置22に記録する。記録部215は、更に、複数のプロセス量各々について正常時の入力差分データの統計量を、記憶装置22に記録してもよい。統計量としては、入力差分データの全域に渡る四分位範囲や標準偏差等が用いられるとよい。
【0036】
第2学習部216は、複数のプロセス量に関する複数の出力時系列データと複数の入力時系列データとに基づく複数の入力差分データを入力して複数の入力差分データを復元した複数の出力差分データを出力する第2次元削減・復元モデルを、正常な入力差分データに基づいて学習する。上記の通り、第2次元削減・復元モデルは、入力差分データの次元削減及び次元復元を直列的に実行可能なネットワークアーキテクチャを有し、例えば、オートエンコーダ(エンコーダ・デコーダ・ネットワーク)により実現される。なお、第2学習部216は、入力差分データを、記録部215により記録された上限値及び下限値に制限した加工後の入力差分データに基づいて第2次元削減・復元モデルを学習してもよい。
【0037】
加算部217は、複数の出力差分データと複数の出力時系列データとに基づく複数の加算データを生成する。すなわち、加算部217は、複数のプロセス量各々について出力差分データと出力時系列データとの加算データ(復元データ)を生成する。加算部217の処理方法は、加算部116の処理方法と同様である。
【0038】
監視基準作成部218は、異常判定装置1の判定部117による異常又は異常の予兆の判定処理に用いられる監視基準を作成する。監視基準は、プロセス量毎に作成される。監視基準作成部218は、共通のプロセス量に関する正常な入力時系列データと復元データとに基づいて監視基準を作成する。監視基準は、入力時系列データと復元データとの差分デーに対して比較される閾値である。差分が閾値より大きい場合に、異常又は異常の予兆があると判定される。以下、入力時系列データと復元データとの差分を誤差と呼ぶことにする。
【0039】
表示制御部219は、種々の情報を、表示機器25を介して表示する。
【0040】
記憶装置22は、ROMやHDD、SSD、集積回路記憶装置等により構成される。記憶装置22は、処理回路21による種々の演算結果や処理回路21が実行する種々のプログラム等を記憶する。また、記憶装置22は、プラントデータや監視基準、上限値、下限値、統計量等を記憶する。
【0041】
入力機器23は、ユーザからの各種指令を入力する。入力機器23としては、キーボードやマウス、各種スイッチ、タッチパッド、タッチパネルディスプレイ等が利用可能である。入力機器23からの出力信号は処理回路21に供給される。なお、入力機器23としては、処理回路21に有線又は無線を介して接続されたコンピュータであっても良い。
【0042】
通信機器24は、学習装置2にネットワークを介して接続された外部機器との間で情報通信を行うためのインタフェースである。
【0043】
表示機器25は、種々の情報を表示する。表示機器25としては、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、プラズマディスプレイ又は当技術分野で知られている他の任意のディスプレイが適宜利用可能である。
【0044】
取得部211、区分部212、第1学習部213、減算部214、記録部215、第2学習部216、加算部217、監視基準作成部218及び/又は表示制御部219は、他のコンピュータに実装されてもよい。この場合、取得部211、区分部212、第1学習部213、減算部214、記録部215、第2学習部216、加算部217、監視基準作成部218及び表示制御部219が互いに通信可能な複数のコンピュータにより実現され、これら複数のコンピュータは、全体として、第1モデル及び第2モデルを学習するコンピュータネットワークシステムを構築する。
【0045】
以下、本実施形態に係る異常判定装置1及び学習装置2の詳細について説明する。以下、第1次元削減・復元モデルを第1予測モデル、第2次元削減・復元モデルを第2予測モデルと呼ぶことにする。
【0046】
まず、図3を参照しながら、学習装置2の動作例について説明する。図3は、学習装置2による一連の処理のフローチャートである。
【0047】
図3に示すように、取得部211は、N個のプロセス量に関する正常時のプラントデータを取得する(ステップSA1)。プラントデータは、N個のプロセス量にそれぞれ対応するN個の入力時系列データを有する。
【0048】
ステップSA1が行われると区分部212は、ステップSA1において取得された正常時のプラントデータを、物理的相関有りグループG1の1個の入力分割データと、物理的相関無しグループG2のN-M個の入力分割データとに区分する(ステップSA2)。グループG1の1個の入力分割データは、M個の時系列データを含む。グループG2のN-M個の入力分割データ各々は1個の時系列データを含む。すなわち、N-M個の入力分割データは、N-M個の時系列データを含む。また、グループG2は、N-M個の入力分割データにそれぞれ対応するN-M個のグループを有するとも表現できる。
【0049】
ここで、図4を参照しながら、区分部212の区分処理について説明する。図4は、区分部212のよる区分処理のフローチャートである。
【0050】
図4に示すように、区分部212は、N個のプロセス量の中から注目するプロセス量(以下、注目プロセス量と呼ぶ)を指定する(ステップSB1)。ステップSB1が行われると区分部212は、ステップSB1において指定された注目プロセス量の時系列データと、他のプロセス量の時系列データとの相関係数を計算する(ステップSB2)。ステップSB2において区分部212は、ステップSB2において計算された相関係数に応じて、各プロセス量の時系列データを、グループG1又はグループG2に分ける(ステップS3)。
【0051】
図5は、区分部212による区分処理を模式的に示す図である。
【0052】
図5に示すように、区分部212は、正常時のプロセス量の時系列データを、プロセス量間および時間相関を学習するグループG1と、単一プロセス量の時間相関のみを学習するグループG2とに分ける。グループG1には、給水加熱器、低圧復水ポンプ、高圧復水ポンプ、復水器などの、同一機器が複数台同期して動作、または複数種類の機器が連動して動作する機器の入口または出口の温度や圧力や流量など、プロセス量間に物理的な相関関係のあるプロセス量が属される。グループG2には、モータの軸受けなどの、単一機器内の部品の温度や振動や、1つの運転期間で開閉状態が変化しないバイパス弁の弁開度など、機器間の同期や連動の無い、プロセス量間に物理的な相関関係の無いプロセス量が所属される。ここで、大規模プラントでは、数万点のプロセス量が存在し、これらを系統単位で扱ったとしても、各系統のプロセス量の数は数百から数千になる。これらの全てをプラントの設計情報や運転知識に基づいて手動で分割することは作業工数がかかる。
【0053】
そこで、作業補助として、区分部212は、ステップSA1において取得されたプロセスデータに関する複数のプロセス量の中から注目プロセス量を指定する。注目プロセス量には、例えば、子力プラントでは、原子炉給水ポンプなど、系統の主要機器の入口圧力や出口圧力を指定する。区分部212は、ユーザによる入力機器23を介して指定されたプロセス量を注目プロセス量として指定してもよいし、予め定められたプロセス量を注目プロセス量として指定してもよい。
【0054】
次に、区分部212は、正常時の注目プロセス量の時系列データと他のプロセス量の時系列データとの相関係数を演算する。主要機器は多数の機器と連動して動作し、注目プロセス量は、多数のプロセス量と物理的な相関関係をもつ。図5は、5個のプロセス量に関する5個の時系列データが含まれている例である。注目プロセス量の時系列データDAと他プロセス量の時系列データDB1-DB4各々との相関係数r1-r4が算出される。
【0055】
相関係数が算出されると区分部212は、相関係数が閾値よりも大きいプロセス量の時系列データを選択し、選択された時系列データを物理的相関有りグループGに分類する。相関係数rがr<-0.4又は0.4<rの時に、プロセス量間において正又は負の相関がある。この場合、閾値が「-0.4」及び「+0.4」に設定され、「-0.4」よりも小さい相関係数を有する時系列データと「+0.4」よりも大きい相関係数を有する時系列データとがグループGに分類される。「-0.4」以上且つ「+0.4」以下の相関係数を有する時系列データはグループGに分類される。図5の場合、注目プロセス量の時系列データDA、他プロセス量の時系列データDB1及びDB3がグループG1に分類され、他プロセス量の時系列データDB2及びDB4がグループG2に分類される。時系列データDB2及びDB4各々は、グループG2のうちの個別のグループを形成する。このような閾値で時系列データを分類することにより、半自動でグループ分けができ、作業工数を低減できすることができる。なお、注目プロセス量の時系列データは、グループG1に分類される。
【0056】
図6は、グループG1に属する時系列データと第1予測モデルとの個数の関係を示す図である。図7は、グループG2に属する時系列データと第1予測モデルとの個数の関係を示す図である。図6に示すように、グループG1に属する時系列データDA,DB1,DB3に対して1個の第1予測モデルMAが適用される。図7に示すように、グループG2に属する時系列データDB2に対しては当該時系列データDB2のための第1予測モデルMA2が適用され、時系列データDB4に対しては当該時系列データDB4のための第1予測モデルMA4が適用される。このように、グループG1に属する複数のプロセス量の時系列データに対しては1個の第1予測モデルが適用される。グループG2に属する複数のプロセス量の時系列データに対しては各時系列データに対して第1予測モデルが適用される。上記の通り、時系列データDB2及びDB4各々はグループG2のうちの個別のグループを形成するので、グループG2のうちのグループ毎に第1予測モデルが適用されるともいえる。
【0057】
なお、区分部212は、プロセス量毎のグループを記録したLUT(Look Up Table)等のテーブル(以下、グループ記録テーブルと呼ぶ)を作成するとよい。グループ記録テーブルは、プロセス量の種類とグループの種類とを関連付けている。グループ記録テーブルは、異常判定装置1の記憶装置12に記憶される。
【0058】
上記の入力時系列データのグループ分けの方法は一例であり、これに限定されない。例えば、区分部212は、ユーザによる入力機器23を介した指示に従い、各プロセス量をグループG1又はグループG2に分類してもよい。
【0059】
図3に示すように、ステップSA2が行われると第1学習部213は、グループG1について、1個の入力分割データに基づいて1個の第1予測モデルを学習する(ステップSA3)。グループG1に関する第1予測モデルは、1個の入力分割データ、すなわち、M個の入力時系列データを入力して、正常時のM個の入力時系列データをそれぞれ復元したM個の出力時系列データを出力するように重みやバイアス等のパラメータが学習される。グループG1の第1予測モデルは、次元削減・復元モデルであるので、学習により、正常時の時系列データの特徴量から正常時の時系列データを復元することが可能になる。ステップSA3において第1学習部213は、学習済みのグループG1の第1予測モデルに、1個の入力分割データに含まれるM個の入力時系列データを適用してM個の出力時系列データを生成する。学習済みの第1予測モデルは、異常判定装置1の記憶装置12に記憶される。記憶装置12は、学習済みの第1予測モデルを、グループG1である事を示すフラグと、対応するプロセス量の種類を示すフラグとを割り当てて記憶する。
【0060】
ステップSA4が行われると減算部214は、M個の出力時系列データとM個の入力時系列データとに基づいてM個の差分データを生成する(ステップSA4)。各プロセス量に関する差分データは、当該プロセス量に関する入力時系列データの微小変動に関するデータである。
【0061】
また、ステップSA2が行われると第1学習部213は、グループG2について、N-M個の入力分割データに基づいてN-M個の第1モデルを学習する(ステップSA5)。グループG2に関する各第1予測モデルは、1個の入力時系列データを入力して、当該プロセス量に関する正常時の入力時系列データを復元した1個の出力時系列データを出力するようにパラメータが学習される。グループG1と同様、グループG2の第1予測モデルは、次元削減・復元モデルであるので、学習により、正常時の時系列データの特徴量から正常時の時系列データを復元することが可能になる。ステップSA5において第1学習部213は、学習済みのグループG2の第1予測モデルに、1個の入力時系列データを適用して1個の出力時系列データを生成する。
【0062】
グループG2に関する学習済みの第1予測モデルは、異常判定装置1の記憶装置12に記憶される。記憶装置12は、グループG2に関する学習済みの第1予測モデルを、グループG2である事を示すフラグと、対応するプロセス量の種類を示すフラグとを割り当てて記憶する。
【0063】
ステップSA5が行われると減算部214は、N-M個の出力時系列データとN-M個の入力時系列データとに基づいてN-M個の差分データを生成する(ステップSA6)。各プロセス量に関する差分データは、当該プロセス量に関する入力時系列データの微小変動に関するデータである。
【0064】
なお、ステップSA3及びSA4とステップSA5及びSA6とは並列的に行われてもよいし、直列的に行われてもよい。また、ステップSA3及びSA5が並列的又は直列的に行われ、次にステップSA4及びSA6が並列的又は直列的に行われてもよい。
【0065】
上記の通り、第1予測モデル及び第2予測モデル等の予測モデルとして、次元削減・復元モデルの一例であるオートエンコーダが用いられる。ここで、オートエンコーダを利用した異常検知方法について説明する。
【0066】
図8及び図9は、予測モデル(オートエンコーダ)の入出力を示す図である。図8は、正常時の入力データ(時系列データ)を予測モデルに入力した例であり、図9は、異常時の入力データ(時系列データ)を予測モデルに入力した例である。図8及び図9の予測モデルは、入力チャネル及び出力チャネルが「4」であるとしているが、チャネル数がこれに限られるものではない。入力チャネル及び出力チャネルの個数は、2以上であればよいが、典型的には、数十から数万程度であることが想定される。なお、以降の説明においては、便宜上、入力データを一つまたは数個のプロセス量の時系列データとして図示している。実際は、発電プラントでは原子力および火力とも1プラント当たりのプロセス量の信号は数千から数万点あり、これらを系統単位にグルーピングして扱った場合で、一つの予測モデルに入力されるプロセス量の信号は数百から数千点となる。
【0067】
図8及び図9に示すように、予測モデルは、入力データを、学習データから抽出した特徴量で分類し、特徴量から元の入力データを復元するモデルである。図8に示すように、正常時の時系列データを学習データとして学習させると、正常時の時系列データの入力に対し正常時の時系列データを出力する。この場合、入力データと出力データとが一致する。一方で、図9に示すように、正常時の時系列データに含まれない特徴(例えば、異常な増加)を含むデータ、すなわち異常データが入力された場合、出力データと入力データとは一致しない。入力データと出力データとの差から異常を検知する。すなわち、出力データと入力データとが一致すれば正常であり、出力データと入力データとが一致しなければ以上であると判定できる。
【0068】
なお、図8及び図9では、1つの中間層を備えるオートエンコーダを例示しているが、中間層の個数は2以上であってもよい。このような構成の場合、複数の中間層のいずれかが、特徴量を表す層に相当する。また、中間層のチャネル数、すなわち、特徴量の個数は2個である必要はなく、入力チャネル及び出力チャネルのチャネル数よりも小さければ幾つでもよい。
【0069】
ここで、図10を参照しながら、予測モデルとしてオートエンコーダを用いる利点について説明する。図10は、回帰モデルと第1予測モデルとの応答の違いを説明するための図である。回帰モデルは、予測値(時刻t)を過去のデータ(時刻t-1,t-2,・・・)から算出するモデルである。プラントでは、正常状態において運転条件がしばしばステップ状に変わり、その結果、センサ値が急激に変化する場合がある。しかし過去のデータ(t-1,t-2,・・・)にはセンサ値が急激に変化する前兆が含まれないため、過去のデータからステップ状の変化を予測することは困難である。
【0070】
このため回帰モデルでは、図10に示すように、典型的には、時間の経過とともに、徐々にセンサ値に近づく応答となる。一方、モデルMAでは、時刻tのセンサ値を用いて時刻tのセンサ値を復元する。時刻tでのセンサ値のステップ状の変化は、第1予測モデルの入力に含まれている。このため、ステップ状の変化が学習データから抽出された特徴と合致するならば、ステップ状の変化に同期してセンサ値を復元することができる。従って、第1予測モデルでは、正常なセンサ値の急激な変化を復元した応答となる。
【0071】
上記の通り、ステップSA2において区分部212は、物理的相関の無いプロセス量を互いに異なるグループに分類し、第1学習部213は、各グループの第1予測モデルを個別に学習している。
【0072】
図11は、グループG1の第1予測モデルMAG1及びグループG2の第1予測モデルMAG2の入力及び出力を例示する図である。グループG1にはプロセス量1-5が分類され、グループG2にはプロセス量6が分類されている。この場合、グループG1に関する入力分割データは、プロセス量1-5の入力時系列データ1-5を含み、グループG2に関する入力分割データは、プロセス量6の入力時系列データ6を含む。図11に示すように、学習データとして、正常時の分割入力データを学習することで、第1予測モデルMAG1及びMAG2は、正常時の時系列データの特徴量を用いて、正常時の時系列データを復元するモデルとなる。入力分割データ間には物理的な相関関係は無く、もし入力分割データ間の変動傾向が偶然似ていた場合、それは疑似相関となる。入力分割データごとに独立した別モデルで学習することで、原理的に疑似相関の学習を排除することができる。疑似相関の学習を排除することで、誤った予測をすることを防止できる。
【0073】
ここで、図12及び図13を参照しながら、物理的相関の無いプロセス量を異なるグループに分類し、各グループの第1予測モデルを個別に学習する意義について詳細に説明する。図12及び図13は、物理的相関の無いプロセス量A及びBの時系列を示す図である。なお、プロセス量Aについては実測値のみを示し、プロセス量Bについては実測値及び予測値を示している。実測値は、第1予測モデルに入力される時系列データの波高値を意味し、予測値は、第1予測モデルにより出力された時系列データの波高値を意味する。
【0074】
図12は、プロセス量A及びBが同一グループに分類され、プロセス量A及びBに対して単一の第1予測モデルが学習された例を示している。学習期間(学習装置2による第1予測モデルの学習に用いる期間)のプロセス量A及びBの実測値は、同一の傾向を示しているものとする。この場合、第1予測モデルは、プロセス量A及びBが実際には物理的相関が無いにも関わらず、物理的相関が有るかのように学習してしまう。監視期間(異常判定装置1による異常又は異常予兆の判定に用いる期間)においてプロセス量A及びBが学習期間とは異なる挙動をする場合、実測値と予測値とが乖離するおそれがある。例えば、図12に示すように、監視期間においてプロセス量Aの実測値が学習期間とは異なり大きく変動する場合、プロセス量Bの実測値が学習期間と同様大きな変動がないにも関わらず、プロセス量Bの予測値が変動してしまう。これは疑似相関である。
【0075】
図13は、プロセス量A及びBが別グループに分類され、プロセス量A及びBに対して別々の第1予測モデルが学習された例を示している。学習期間のプロセス量A及びBの実測値は、同一の傾向を示しているものとする。プロセス量A及びプロセス量Bの予測値を別々の第1予測モデルで出力する場合、プロセス量Aの実測値の影響をプロセス量Bの予測値から排除することができる。このため、図13に示すように、監視機関においてプロセス量Aの実測値が学習期間とは異なり大きく変動する場合であっても、プロセス量Bの予測値は変動せず、実測値から大きく乖離することはない。このように、物理的相関の無いプロセス量を異なるグループに分類し、各グループの第1予測モデルを個別に学習することにより、物理的相関の無いプロセス量の疑似相関を排除することが可能になる。よって第1予測モデルによる、物理的相関の無いプロセス量の時系列データの復元精度を高めることが可能になる。
【0076】
次に、第1学習部213による第1予測モデルの学習方法について説明する。なお、学習方法は、第1グループと第2グループとで異ならないので第1グループについての第1予測モデルと第2グループについての第1予測モデルとを区別せずに単に第1予測モデルと称する。
【0077】
プラントの運転では運転操作の指令から個々の機器や圧力・流量等の物理量が応答するまでに各々時間差や時定数がある。学習においては所定の時間長を有する時間枠を、前述の応答時間に応じて設定する。所定時間長の検討は、プラントデータの高速フーリエ変換などの周波数分析やプラント運転操作手順等を用いて行う。原子力や火力などの発電プラントでは、所定時間長は数10分間~数時間になる。一般に機械学習では学習データが多い方が精度は向上する。
【0078】
図14は、第1予測モデルの学習データの一例を示す図である。図14に示すように、第1学習部213は、正常時の時系列データから、所定時間長の時間枠を時間軸に沿って一定間隔毎に設定し、各時間枠内の時系列データを抽出し、抽出された時系列データを学習データに用いる。これにより、正常時の時系列データを余す事無く学習に用いることができる。第1予測モデルは、所定時間長の入力分割データの入力に対し、所定時間長と同一時間長の時系列データを出力するモデルとして生成される。
【0079】
図3に示すように、ステップSA4及びSA6が行われると記録部215は、N個の入力差分データ各々の上限値、下限値及び統計量を記録する(ステップSA7)。上限値、下限値及び統計量は、プロセス量毎に記録される。上限値、下限値及び統計量は、異常判定装置1の記憶装置12にプロセス量に関連付けて記憶される。上限値、下限値及び統計量は、第2推論部115による入力差分データのクリッピングに使用される。なお、統計量は、必ずしも記録されなくてもよい。
【0080】
ステップSA7が行われると第2学習部216は、N個の入力差分データに基づいて単一の第2予測モデルを学習する(ステップSA8)。第2予測モデルは、N個の入力差分データを入力して、正常時のN個の入力差分データを復元した出力差分データを出力するようにパラメータが学習される。第2予測モデルは、次元削減・復元モデルであるので、学習により、正常時の差分データの特徴量から正常時の差分データを復元することが可能になる。出力差分データは、入力差分データに含まれる主要成分が復元されたデータである。すなわち、出力差分データは、入力時系列データに含まれる微小変動の主要成分に関するデータである。学習済みの第2予測モデルは、異常判定装置1の記憶装置12に記憶される。
【0081】
図15及び図16は、第2予測モデルの入出力を示す図である。図15は、正常時の入力データ(入力差分データ)を第2予測モデルに入力したときの出力データ(出力差分データ)を示す図である。図16は、異常時の入力データ(入力差分データ)を第2予測モデルに入力したときの出力データ(出力差分データ)を示す図である。データの微小な変動については、単一の予測モデルでは、しばしば誤った学習をする。例えば、図15及び図16に示すように、第2予測モデルは微小変動に対して、入力をそのまま出力として返す、恒等写像的な応答を示し、その結果、異常データが入力されてもそのまま復元される。
【0082】
ここで、機械学習においては、データを特性に応じて分解し別々に学習した方が、正確に学習でき、特徴を正確に抽出できる。オートエンコーダは、モデルのパラメータとして特徴量の数を設定でき、特徴量の数を減らすことで、入力データの主要な振る舞いから外れた微小な振動等は復元しなくなる。特徴量の数をパラメータとしてパラメータサーベイを行って適切に特徴量の数を設定することで、ある波形データに微小な振動が重畳していた場合に、波形データのみを復元するような応答をさせることができる。他の次元削減・復元モデルにおいても同様である。
【0083】
図17は、第1予測モデル及び第2予測モデルの入出力を示す図である。図17に示すように、第1予測モデルは、入力分割データを入力して出力分割データを出力する。入力分割データには微小変動が重畳されている。第1予測モデルは、入力分割データに含まれる主要成分を復元し、微小変動を復元しない。第2予測モデルは、入力分割データと出力分割データとの差分データ(入力差分データ)を入力して出力差分データを出力する。入力差分データには入力分割データから抽出された微小変動が含まれている。第2予測モデルは、入力差分データの主要成分を復元する。すなわち、第2予測モデルは、入力差分データに含まれる微小変動を復元する。
【0084】
第1学習部213において、図17に示すように、第1予測モデルの特徴量の数を減らした設定で学習することで、第1予測モデルは、正常時の入力分割データからプラントの運転状態の特徴のみを学習・復元し、微小な振動は復元しないモデルとして生成される。微小変動は、正常時の入力分割データと出力分割データとの差として分離し抽出する。当該差を微小変動信号として第2学習部216で学習する。第2予測モデルにおいては、微小変動信号のセンサ間の相関関係のみが学習される。これにより第2予測モデルは、正常状態の微小変動信号を正しく復元するモデルとして生成される。
【0085】
次に、第2予測モデルが単一モデルあることについて説明する。
【0086】
図18は、複数の第1予測モデルMAG1,MAG2及び単一の第2予測モデルMBの入出力を示す図である。図18に示すように、第1予測モデルMAGは、単一の第1グループに対応する単一の第1予測モデルMAG1と複数の第2グループにそれぞれ対応する複数の第1予測モデルMAG2を有する。例えば、第2グループに属するプロセス量P1の入力時系列データが第1予測モデルMAG2に入力され、プロセス量P2の入力時系列データが第1予測モデルMAG2に入力される。第1グループに属するプロセス量P3及びP4の2つの入力時系列データが単一の第1予測モデルMAG1に入力される。プロセス量各々について第1予測モデルMAGの出力時系列データと入力時系列データとの差分である入力差分データが減算部214により生成される。そして全プロセス量の入力差分データが単一の第2予測モデルMBに入力される。第2予測モデルMBからは全プロセス量の出力差分データが出力される。各プロセス量の出力差分データと入力時系列データとの加算である復元データが加算部217により生成される。第1予測モデルMAGは、グループ毎、換言すれば、入力分割データ毎に用意されている。これに対し、第2予測モデルMBで扱う微小変動については、原因は、外的擾乱や、運転状態の微小な揺らぎや、ノイズ起因などと推定はできるものの、明確には分からないので、プラントの知識や設計情報からの分割はできない。そのため、第2予測モデルMBは、単一のモデルとして取り扱われる。
【0087】
次に、第2学習部216による学習方法について説明する。
【0088】
図19は、第2予測モデルの学習データの一例を示す図である。第2学習部216での微小変動信号の学習においては、微小変動信号は、プラントの時系列データのサンプリング周波数よりも大きな周波数の信号を含んでいるためエイリアシングを起こし、時系列データからは微小変動信号の周波数情報(波形情報)が失われていることと、微小変動の発生タイミングは時間的にランダムであることから、データには微小変動信号の時間相関が無いことが学習対象の特徴となる。したがって学習に時系列データを用いると、無相関のものを相関ありとした誤った学習をする可能性があるため、時系列では無く時刻tでの瞬間値を用いる。プラントデータ間の同一時刻のみでのデータ間相関を学習することで、正常状態を正確に復元できる。
【0089】
図19に示すように、第2学習部216は、時間枠内での学習データ(入力時系列データ)の対象時刻tでの値と、第1予測モデルからの出力時系列データの対象時刻tでの値との差を抽出する。第2学習部216は、時間枠内で対象時刻tを時間軸方向に沿ってスライドしながら差を抽出する。抽出された差を学習データとして第2予測モデルが学習される。第2学習部216は、時間枠を時間軸方向に沿って所定間隔毎にスライドしながら上記の差の抽出処理を行う。差の抽出は、全てのプロセス量(時系列データ)に亘り行われる。上記方法によれば、第2予測モデルは、対象時刻tでの差の入力に対し、当該時刻tでの差の予測値を出力するモデルとして生成される。時間枠を時間軸方向にスライドして学習データを生成することにより、正常時の時系列データを余す事無く学習に用いることができる。なお、モデルの性能と計算コストとのトレードオフ関係により、計算処理の複雑化と長時間化を避けることを優先するならば、対象時刻tは固定し、対象時刻tのスライドはしなくともよい。
【0090】
ステップSA8が行われると加算部217は、ステップSA8において生成されたN個の出力差分データとステップSA3及びSA5において生成された出力時系列データとに基づいてN個の復元データを生成する(ステップSA9)。
【0091】
図20は、入力分割データの第1予測モデルへの入力から復元データの生成までの処理過程を模式的に示す図である。図20に示すように、入力分割データ(入力時系列データ)が第1予測モデルに入力されて出力分割データ(出力時系列データ)が出力される。第1予測モデルは入力時系列データの主要成分を復元する。入力分割データ(入力時系列データ)と出力分割データ(出力時系列データ)との差分データ(入力差分データ)が生成される。入力差分データは、入力分割データの微小変動が抽出されたデータである。入力差分データが第2予測モデルに入力されて出力差分データが出力される。第2予測モデルは、入力差分データの主要成分、換言すれば、入力分割データの微小変動を復元する。出力分割データと出力差分データとが加算された復元データが生成される。復元データは、入力差分データの主要成分と入力分割データ(入力時系列データ)の主要成分とを結合したデータである。すなわち、復元データは、入力分割データ(入力時系列データ)の主要成分と微小変動とを復元したデータである。このように、加算部217が第1予測モデルの出力と第2予測モデルの出力との和を取ることで、プラント運転状態に微小変動が重畳した正常状態の復元データを高精度で復元することができる。
【0092】
図21は、加算部217による加算処理を模式的に示す図である。上記の通り、第1予測モデルの出力は所定時間長の時系列復元データであり、一方、第2予測モデルの出力は一時刻での瞬間値の差の予測値であり、時系列(t,t-1,t-2,・・・)と瞬間値(t)とでデータの次元数が異なる。図21に示すように、加算部217は、異なる次元数同士の和をとるため、時間枠内で差分値枠WDをスライドさせて各対象時刻tにおいて出力時系列データの出力値と出力差分データの出力値との加算値(復元データ)を算出する。時間枠には、第1予測モデルから出力された、複数のプロセス量に関する複数の出力時系列データが含まれる。また、差分値枠WDには、第2予測モデルから出力された、当該複数のプロセス量に関する対象時刻tの複数の差分値が含まれる。差分値枠WD内の複数の差分値と複数の出力時系列データとをそれぞれ対象時刻tで同期して加算することにより、当該複数のプロセス量に関する復元データを生成することができる。
【0093】
ステップSA9が行われると監視基準作成部218は、N個の入力時系列データとN個の復元データとに基づいてN個の監視基準を作成する(ステップSA10)。より詳細には、監視基準作成部218は、N個のプロセス量各々について、入力時系列データと復元データとの差分に基づいて監視基準を作成する。監視基準は、差分の標準偏差や信頼区間等に基づいて決定される。監視基準は、異常判定装置1の記憶装置12に記憶される。
【0094】
以上により、学習装置2による一連の処理が終了する。
【0095】
なお、図3に示す学習装置2による一連の処理は一例であり、これに限定されない。例えば、第2予測モデルの学習データに用いられる入力差分データは、第1予測モデルにより生成されるものとしたが、他のコンピュータにより生成されてもよい。この場合、第1予測モデルよりも先に第2予測モデルが学習されてもよい。また、グループG1は、1個であるとしたが、本実施形態はこれに限定されず、複数個あってもよい。例えば、区分部212により注目プロセス量が複数回設定され、注目プロセス量毎にグループG1が設けられることとなる。
【0096】
上記の通り、本実施形態に係る学習装置2は、区分部212、第1学習部213及び第2学習部216を有する。区分部212は、対象施設において発生する正常時の複数のプロセス量にそれぞれ対応する複数の入力時系列データを、複数のグループに区分する。第1学習部213は、複数のグループにそれぞれ対応する複数の第1の次元削減・復元モデルを学習する。第1学習部213は、複数の第1の次元削減・復元モデル各々を、当該プロセス量に関する入力時系列データを入力して当該入力時系列データを復元した出力時系列データを出力するように、当該プロセス量に関する正常な入力時系列データに基づいて学習する。第2学習部216は、複数のプロセス量に関する複数の出力時系列データと複数の入力時系列データとに基づく複数の入力差分データを入力して複数の入力差分データを復元した複数の出力差分データを出力する第2の次元削減・復元モデルを、正常な入力差分データに基づいて学習する。
【0097】
上記の構成によれば、グループ毎の第1の次元削減・復元モデルを生成することが可能になる。これにより、疑似相関の学習を防止し、物理的に無関係なプロセス量の予測値の変動を防止することが可能になる。また、グループ毎の第1の次元削減・復元モデルと、グループに依らない単一の第2の次元削減・復元モデルとの2段階のモデルを生成することにより、全体として入力時系列データの主要成分と微小変動とを高精度に復元することが可能になる。これにより、対象施設の異常又は異常の予兆を高精度に判定又は検出することが可能になる。
【0098】
次に、図22を参照しながら、異常判定装置1の動作例について説明する。図22は、異常判定装置1による一連の処理のフローチャートである。
【0099】
図22に示すように、取得部111は、N個のプロセス量に関するプラントデータを取得する(ステップSC1)。プラントデータは、N個のプロセス量にそれぞれ対応するN個の時系列データを有する。ステップSC1の開始時点において、大規模プラント等から伝送されたN個のプロセス量に関するN個の時系列データが記憶装置12に記憶されている。そこで、ステップSC1において取得部111は、記憶装置12に記憶されているN個の時系列データから、異常又は異常予兆の判定対象期間のN個の時系列データを抽出する。なお、記憶装置12には、異常又は異常予兆の判定対象期間のN個の時系列データが記憶されていてもよい。以下の処理は、判定対象期間のうちの所定時間長の時間枠内のN個の時系列データ毎に処理される。
【0100】
ステップSC1が行われると区分部112は、ステップSC1において取得されたプラントデータを、物理的相関有りグループG1の1個の入力分割データと、物理的相関無しグループG2のN-M個の入力分割データとに区分する(ステップSC2)。具体的には、ステップSC2において区分部112は、プラントデータに含まれる各プロセス量の時系列データを、グループ記録テーブルを参照して、グループG1又はグループG2に区分する。グループG1に分類されたM個の時系列データが1個の入力分割データとして使用され、グループG2に分類されたN-M個の時系列データがN-M個の入力分割データとして使用される。なお、区分部112は、学習装置2の区分部212と同様、図4に示す区分処理を実行して、グループG1の1個の入力分割データとグループG2のN-M個の入力分割データとに区分してもよい。
【0101】
ステップSC2が行われると第1推論部113は、記憶装置12からグループG1に関連付けられた第1予測モデルを読み出す。そして第1推論部113は、グループG1に関する1個の入力分割データを、読み出した1個の第1予測モデルに適用してM個の出力時系列データを生成する(ステップSC3)。ステップSC4が行われると減算部114は、M個の出力時系列データとM個の入力時系列データとに基づいて1個の入力差分データを生成する(ステップSC4)。ステップSC4における減算部114の処理はステップSA4における減算部214の処理と略同一である。
【0102】
また、ステップSC2が行われると第1推論部113は、グループG2について、N-M個の入力分割データ(入力時系列データ)をそれぞれN-M個の第1予測モデルに適用してN-M個の出力時系列データを生成する(ステップSC5)。ステップSC5において第1推論部113は、まず、N-M個の入力時系列データ各々について、当該入力時系列データのプロセス量に関連付けられた第1予測モデルを記憶装置12から読み出し、当該入力時系列データを、読み出した第1予測モデルに適用して出力時系列データを生成する。ステップSC5が行われると減算部114は、N-M個の出力時系列データとN-M個の入力時系列データとに基づいてN-M個の入力差分データを生成する(ステップSC6)。ステップSC6における減算部114の処理はステップSA6における減算部214の処理と略同一である。
【0103】
なお、ステップSC3及びSC4とステップSC5及びSC6とは並列的に行われてもよいし、直列的に行われてもよい。また、ステップSC3及びSC5が並列的又は直列的に行われ、次にステップSC4及びSC6が並列的又は直列的に行われてもよい。
【0104】
ステップSC6が行われると第2推論部115は、N個の入力差分データを単一の第2予測モデルに適用してN個の出力差分データを生成する(ステップSC7)第2予測モデルは、上限値と下限値の範囲内にある正常時のプロセス量の時系列データに基づき学習したモデルであり、この範囲外のデータが入力された場合は、正しい予測ができなくなる。第2予測モデルが学習したプロセス量間の相関関係に従って、他のプロセス量も正しく予測できなくなり、複数のプロセス量において誤検知の原因となる。外れ値は、正常状態ではあるが通常の運転と異なるため、第1予測モデルで学習されなかったプロセス量の変化、例えば、プラントの運転中の機器の単発的な調整作業等によるものである。よって、第2推論部115は、記録部215により記憶された上限値及び下限値を利用して入力差分データをクリッピングする。
【0105】
詳細には、第2推論部115は、N個の入力差分データ各々について、記録部215により記録された当該入力差分データの対応するプロセス量の上限値及び下限値の範囲から逸脱した外れ値を有するか否かを判定する。第2推論部115は、外れ値を有しないと判定した場合、当該入力差分データを第2予測モデルに適用する。一方、第2推論部115は、図23に示すように、外れ値VU及び/又はVLを有すると判定した場合、当該入力差分データのプロセス量に関する上限値LUより大きい部分VUを当該上限値LUに置き換え、下限値LLより小さい部分VLを当該下限値LLに置き換え、置き換え後の差分データを第2予測モデルに適用する。これにより、外れ値に起因する異常又は異常の予兆の誤検知を防止又は低減することが可能になる。なお、記録部215により統計量が記憶されている場合、上限値LU及び下限値LLを統計量に基づいて修正し、修正後の上限値LU及び下限値LLに基づいて上記のクリッピングが行われてもよい。
【0106】
ステップSC7が行われると加算部116は、ステップSC7において生成されたN個の出力差分データとステップSC3及びSC5において生成された出力時系列データとに基づいてN個の復元データを生成する(ステップSC8)。より詳細には、ステップSC8において加算部116は、判定対象期間における所定期間の時間枠内のプロセス量の出力時系列データと、第2予測モデルにより得られる出力差分データとの和をとることで、所定期間の時間枠内のプロセス量の時系列データの復元データを出力する。復元データは、学習データと同じ特徴を持つデータ、すなわち正常状態と同じ特徴を持つデータならば、入力データ、すなわち判定対象期間における時間枠内のプロセス量の時系列データを復元しており、同じ特徴を持たないデータ、すなわち異常データならば、復元されていない。なおステップSC8における加算部116の処理はステップSA9における加算部の処理と同様である。
【0107】
ステップSC8が行われると判定部117は、ステップSC8において生成されたN個の復元データとステップSC1において取得されたN個の入力時系列データとの比較に基づいて異常又は異常の予兆を判定する(ステップSC9)。ステップSC9において判定部117は、N個のプロセス量の各々について復元データと入力時系列データとの誤差(差分)を算出する。誤差は、判定対象期間における各時刻について生成される。誤差の時系列データが誤差データとして生成される。そして判定部117は、誤差が監視基準を満たすか否かを判定する。監視基準は、誤差に対する閾値として定義されている。
【0108】
図24及び図25は、判定部117による判定処理を模式的に示す図である。なお、図24及び図25において、図24に示すように、判定部117は、判定対象期間における時間枠の入力時系列データと復元データとの誤差が監視基準内に収まる場合、大規模発電プラントに異常又は異常の予兆がないと判定する。監視基準内に収まるとは、誤差が、監視基準を構成する上限閾値と下限閾値との範囲内にあることを指す。判定部117は、図25に示すように、判定対象期間における所定期間のプロセス量の時系列データと所定期間の復元データとの誤差が監視基準内に収まらない場合、大規模発電プラントに異常又は異常の予兆があると判定する。監視基準内に収まるとは、誤差が、監視基準を構成する上限閾値と下限閾値との範囲内にない、換言すれば、上限閾値を上回る又は下限閾値を下回ることを指す。これにより異常又は異常予兆を検知することができる。なお、誤差は、復元データと入力時系列データとの差分の絶対値として算出されてもよい。この場合、監視基準は単一の閾値により構成することが可能である。
【0109】
ステップSC9が行われると表示制御部118は、ステップSC9における異常又は異常の予兆の判定結果を、表示機器15に表示する(ステップSC10)。ステップSC10において表示制御部118は、例えば、異常又は異常の予兆があると判定されたプロセス量の時系列データ、復元データ、誤差データ及び監視基準を判定結果とともに表示してもよい。
【0110】
以上により、異常判定装置1による一連の処理が終了する。
【0111】
なお、図22に示す処理の流れは一例であって種々の変形が可能である。例えば、上記の説明においてグループG1は、1個であるとしたが、本実施形態はこれに限定されず、複数個あってもよい。
【0112】
上記の通り、本実施形態に係る異常判定装置1は、区分部112、第1推論部113、第2推論部115及び判定部117を有する。区分部112は、対象施設において発生する複数のプロセス量にそれぞれ対応する複数の入力時系列データを、複数のグループに区分する。第1推論部113は、複数のグループ各々について、当該グループに含まれる1以上の入力時系列データを、複数のグループ毎に異なる第1次元削減・復元モデルに適用して、1以上の出力時系列データを出力する。第2推論部115は、複数のプロセス量に関する複数の出力時系列データと複数の入力時系列データとに基づく複数の入力差分データを単一の第2次元削減・復元モデルに適用して、複数の出力差分データを出力する。判定部117は、複数の出力差分データと複数の出力時系列データとに基づく複数の加算データと、複数の入力時系列データとの比較に基づいて対象施設の異常又は異常の予兆を判定する。
【0113】
上記の構成によれば、複数のプロセス量に関する複数の入力時系列データを複数のグループに区分し、複数のグループに対して、互いに独立した複数の第1次元削減・復元モデルを適用することにより、物理的に無関係なプロセス量の疑似相関に起因する出力時系列データの変動を防止又は低減することが可能になる。また、第1次元削減・復元モデルと第2次元削減・復元モデルとを用いているので、正常時におけるプロセス量の入力時系列データの僅かな揺らぎも高精度に復元することができる。このような高精度な復元データを用いて異常又は異常の予兆の判定を行うので、高精度の判定を行うことが可能になる。
【0114】
なお、上記の実施形態において、異常判定装置1と学習装置2とは別々の装置であるとしたが、本実施形態はこれに限定されない。すなわち、異常判定装置1と学習装置2とは同一装置により実現されてもよい。
【0115】
かくして、本実施形態によれば、異常又は異常の予兆を高精度で判定することが可能になる。
【0116】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0117】
1…異常判定装置、2…学習装置、11…処理回路、12…記憶装置、13…入力機器、14…通信機器、15…表示機器、21…処理回路、22…記憶装置、23…入力機器、24…通信機器、25…表示機器、111…取得部、112…区分部、113…第1推論部、114…減算部、115…第2推論部、116…加算部、117…判定部、118…表示制御部、211…取得部、212…区分部、213…第1学習部、214…減算部、215…記録部、216…第2学習部、217…加算部、218…監視基準作成部、219…表示制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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