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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】スラブ軌道用打音試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20240617BHJP
   G01N 29/24 20060101ALI20240617BHJP
   G01N 29/265 20060101ALI20240617BHJP
   G01N 29/44 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
G01N29/04
G01N29/24
G01N29/265
G01N29/44
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020191343
(22)【出願日】2020-11-18
(65)【公開番号】P2022080347
(43)【公開日】2022-05-30
【審査請求日】2022-09-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100116207
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100096426
【弁理士】
【氏名又は名称】川合 誠
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 紅子
(72)【発明者】
【氏名】桃谷 尚嗣
(72)【発明者】
【氏名】高橋 貴蔵
(72)【発明者】
【氏名】渕上 翔太
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】石井 哲
【審判官】渡▲辺▼ 純也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/022030パンフレット(WO,A1)
【文献】打音試験による軌道スラブ底面の隙間の評価,施設研究ニュース,公益財団法人鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会,2018年9月1日,No.337,p.1-p.2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N29/00-29/52
G01B17/00-17/08
E01D 1/00-24/00
G01V 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラブ軌道のレール上を走行可能な車両に搭載されるスラブ軌道用打音試験装置であって、
前記車両に取り付けられ、前記スラブ軌道の幅方向に延在する支持梁と、
前記スラブ軌道の幅方向に並んで前記支持梁に支持された複数の打撃装置であって、重錘を落下させる打撃装置と、
前記スラブ軌道の軌道スラブの上面を前記打撃装置が打撃した際に計測された打音の音圧及び荷重値を記憶する記憶装置を含む制御装置とを備え、
前記打撃装置は、前記軌道スラブの上面から一定の高さを保って重錘を落下させ、落下させた重錘によって前記軌道スラブの上面の各所を一定の打撃力を付与して打撃し、
前記制御装置は、前記音圧と荷重値との比に基づいて、前記軌道スラブの下面側の隙間の有無を評価し、評価結果を出力することを特徴とするスラブ軌道用打音試験装置。
【請求項2】
前記支持梁は前記車両に昇降可能に取り付けられた昇降梁であり、該昇降梁の両端には距離計測装置が取り付けられ、該距離計測装置によって、前記昇降梁の両端から前記軌道スラブの上面までの距離が所定値となるように前記昇降梁を昇降させ、前記打撃装置を前記軌道スラブの上面から所定の高さとする請求項1に記載のスラブ軌道用打音試験装置。
【請求項3】
前記距離計測装置は、前記軌道スラブの上面までの距離を非接触で測定可能な光学式変位計である請求項2に記載のスラブ軌道用打音試験装置。
【請求項4】
前記距離計測装置は、前記軌道スラブの上面に接触する車輪が回転可能に取り付けられた上下方向の寸法が一定の部材である請求項2に記載のスラブ軌道用打音試験装置。
【請求項5】
前記昇降梁を昇降させるシリンダを有する昇降装置を更に備え、前記制御装置は前記昇降装置を制御して前記昇降梁を昇降させる請求項2~4のいずれか1項に記載のスラブ軌道用打音試験装置。
【請求項6】
前記支持梁は前記車両に昇降不能に取り付けられた固定梁であり、該固定梁は複数の昇降ユニットを昇降可能に支持し、各昇降ユニットは打撃装置を有し、各昇降ユニットを昇降させ、前記打撃装置を前記軌道スラブの上面から所定の高さとする請求項1に記載のスラブ軌道用打音試験装置。
【請求項7】
各昇降ユニットは前記音圧を計測する集音装置を更に有し、各昇降ユニットを昇降させ、前記集音装置を前記軌道スラブの上面から所定の高さとする請求項6に記載のスラブ軌道用打音試験装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記評価結果を、コンター図として表示することによって、出力する請求項1~7のいずれか1項に記載のスラブ軌道用打音試験装置。
【請求項9】
前記音圧と荷重値との比は、前記音圧及び荷重値の時刻歴応答のデータから求めた音圧の最大値と荷重値の最大値との比であり、該比が判定値より大きい場合、前記制御装置は、前記軌道スラブの下面側に隙間があると評価する請求項1~7のいずれか1項に記載のスラブ軌道用打音試験装置。
【請求項10】
前記音圧と荷重値との比は、前記音圧及び荷重値の時刻歴応答のデータのFFT解析によって導出された音圧及び荷重値の周波数応答から求めた共振周波数の音圧と荷重値との比であり、該比が判定値より大きい場合、前記制御装置は、前記軌道スラブの下面側に隙間があると評価する請求項1~7のいずれか1項に記載のスラブ軌道用打音試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スラブ軌道用打音試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道の線路、すなわち、軌道としては、路盤上に砕石(バラスト)による道床を設け、その上にまくら木及びレールを敷設した、いわゆるバラスト軌道の他に、コンクリート道床上に軌道スラブと称されるコンクリート製の板材を配設し、その上にレールを敷設したスラブ軌道が広く使用されている。該スラブ軌道は、軌道狂いが起こりにくく、保守管理の手間が軽減される。
【0003】
しかし、長期に亘る使用、凍結等の原因により、軌道スラブの下面とコンクリート道床との間に存在するモルタル等から成る充填層が劣化して、隙間が生じてしまうことがある。このような隙間は、補修する必要があるが、コンクリート製の板材である軌道スラブの下面側に存在するので、検知することが困難である。鉄道や道路のトンネル、橋りょう等の構造物のコンクリート部材の状態を診断するためには、シリンダ制御を使用した打撃装置によって、打撃を付与し、その際の打音を検知する技術が採用されている(例えば、特許文献1~4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-340871号公報
【文献】特開2010-145417号公報
【文献】特開2001-349876号公報
【文献】特開2006-2417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術は、鉛直上向きに打撃を付与するものであって、鉛直下向きに打撃を付与することが要求されるスラブ軌道の打音試験には、適していない。軌道スラブの下面側に生じた隙間を正確に検知するためには、軌道スラブの上面に付与される打撃力を一定に保つことによって打音試験の精度を高める必要がある。しかし、レールと締結装置との間でレールの高さを調整するための可変パッドの厚さは、レールの長手方向に関しても、また、左右のレールでも異なっていることが多い。そのため、レールの上面から軌道スラブの上面までの距離が軌道スラブの長手方向に関しても、左右方向に関しても異なるので、レール上の試験装置から軌道スラブの上面に一定の打撃力を付与することが困難である。
【0006】
ここでは、前記従来の技術の問題点を解決して、重錘を落下させる打撃装置の軌道スラブの上面からの高さを一定に保つようにして、軌道スラブの上面の各所に一定の打撃力を付与することができ、高精度の打音試験を行うことができ、軌道スラブの各所の下面側に生じた隙間を正確に検知することができるスラブ軌道用打音試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのために、スラブ軌道用打音試験装置においては、スラブ軌道のレール上を走行可能な車両に搭載されるスラブ軌道用打音試験装置であって、前記車両に取り付けられ、前記スラブ軌道の幅方向に延在する支持梁と、前記スラブ軌道の幅方向に並んで前記支持梁に支持された複数の打撃装置であって、重錘を落下させる打撃装置と、前記スラブ軌道の軌道スラブの上面を前記打撃装置が打撃した際に計測された打音の音圧及び荷重値を記憶する記憶装置を含む制御装置とを備え、前記打撃装置は、前記軌道スラブの上面から一定の高さを保って重錘を落下させ、落下させた重錘によって前記軌道スラブの上面の各所を一定の打撃力を付与して打撃し、前記制御装置は、前記音圧と荷重値との比に基づいて、前記軌道スラブの下面側の隙間の有無を評価し、評価結果を出力する。
【0008】
他のスラブ軌道用打音試験装置においては、さらに、前記支持梁は前記車両に昇降可能に取り付けられた昇降梁であり、該昇降梁の両端には距離計測装置が取り付けられ、該距離計測装置によって、前記昇降梁の両端から前記軌道スラブの上面までの距離が所定値となるように前記昇降梁を昇降させ、前記打撃装置を前記軌道スラブの上面から所定の高さとする。
【0009】
更に他のスラブ軌道用打音試験装置においては、さらに、前記距離計測装置は、前記軌道スラブの上面までの距離を非接触で測定可能な光学式変位計である。
【0010】
更に他のスラブ軌道用打音試験装置においては、さらに、前記距離計測装置は、前記軌道スラブの上面に接触する車輪が回転可能に取り付けられた上下方向の寸法が一定の部材である。
【0011】
更に他のスラブ軌道用打音試験装置においては、さらに、前記昇降梁を昇降させるシリンダを有する昇降装置を更に備え、前記制御装置は前記昇降装置を制御して前記昇降梁を昇降させる。
【0012】
更に他のスラブ軌道用打音試験装置においては、さらに、前記支持梁は前記車両に昇降不能に取り付けられた固定梁であり、該固定梁は複数の昇降ユニットを昇降可能に支持し、各昇降ユニットは打撃装置を有し、各昇降ユニットを昇降させ、前記打撃装置を前記軌道スラブの上面から所定の高さとする。
【0013】
更に他のスラブ軌道用打音試験装置においては、さらに、各昇降ユニットは前記音圧を計測する集音装置を更に有し、各昇降ユニットを昇降させ、前記集音装置を前記軌道スラブの上面から所定の高さとする。
【0014】
更に他のスラブ軌道用打音試験装置においては、さらに、前記制御装置は、前記評価結果を、コンター図として表示することによって、出力する。
【0015】
更に他のスラブ軌道用打音試験装置においては、さらに、前記音圧と荷重値との比は、前記音圧及び荷重値の時刻歴応答のデータから求めた音圧の最大値と荷重値の最大値との比であり、該比が判定値より大きい場合、前記制御装置は、前記軌道スラブの下面側に隙間があると評価する。
【0016】
更に他のスラブ軌道用打音試験装置においては、さらに、前記音圧と荷重値との比は、前記音圧及び荷重値の時刻歴応答のデータのFFT解析によって導出された音圧及び荷重値の周波数応答から求めた共振周波数の音圧と荷重値との比であり、該比が判定値より大きい場合、前記制御装置は、前記軌道スラブの下面側に隙間があると評価する。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、重錘を落下させる打撃装置の軌道スラブの上面からの高さを一定に保つようにして、軌道スラブの上面の各所に一定の打撃力を付与することができ、高精度の打音試験を行うことができ、軌道スラブの各所の下面側に生じた隙間を正確に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1の実施の形態におけるスラブ軌道用打音試験装置の斜視図である。
図2】第1の実施の形態におけるスラブ軌道用打音試験装置の側面図である。
図3】第1の実施の形態における軌道スラブの上面から打撃装置までの距離を調整する動作を説明する模式正面図である。
図4】第1の実施の形態におけるスラブ軌道用打音試験装置のデータ処理動作を説明するフローチャートである。
図5】第2の実施の形態におけるスラブ軌道用打音試験装置の側面図である。
図6】第3の実施の形態におけるスラブ軌道用打音試験装置の斜視図である。
図7】第3の実施の形態におけるスラブ軌道用打音試験装置の側方から観た斜視図である。
図8】第3の実施の形態における昇降ユニットの側方から観た斜視図である。
図9】第3の実施の形態における昇降ユニットの連結梁への取付状態を説明する図である。
図10】第3の実施の形態における昇降ユニットの要部を示す拡大図である。
図11】第3の実施の形態におけるチャネルの位置関係を示す図である。
図12】第3の実施の形態におけるインターフェイスの概念を示す図である。
図13】第3の実施の形態におけるスラブ軌道用打音試験装置のデータ処理動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図1は第1の実施の形態におけるスラブ軌道用打音試験装置の斜視図、図2は第1の実施の形態におけるスラブ軌道用打音試験装置の側面図、図3は第1の実施の形態における軌道スラブの上面から打撃装置までの距離を調整する動作を説明する模式正面図である。
【0021】
図において、11は、本実施の形態におけるスラブ軌道用打音試験装置10が搭載されたスラブ軌道を走行可能な車両であり、具体的には、人力で運搬可能なトロリーの一種である軽便トロである。該軽便トロ11は、本体11aと、該本体11aの下部に回転可能に取付けられた複数の車輪11bとを含み、レール23上を走行可能な車両であり、オペレータが押したり引いたりすることにより、走行することができる。
【0022】
前記レール23は、スラブ軌道を構成するものであって、コンクリート製の板材である軌道スラブ21の上面21aに、複数のレール締結装置24を介して、敷設されている。ここで、前記軌道スラブ21は、コンクリート道床22の上に配設されたものであって、前記軌道スラブ21の下面とコンクリート道床22の上面との間には、モルタル等から成る充填層が介在しているものとする。
【0023】
なお、本実施の形態において、スラブ軌道用打音試験装置10及び軌道スラブ21の各部及びその他の部材の構成及び動作を説明するために使用される上、下、左、右、前、後等の方向を示す表現は、絶対的なものでなく相対的なものであり、スラブ軌道用打音試験装置10及び軌道スラブ21の各部及びその他の部材が図に示される姿勢である場合に適切であるが、その姿勢が変化した場合には姿勢の変化に応じて変更して解釈されるべきものである。
【0024】
そして、前記軽便トロ11の本体11aの前端には、支持梁としての昇降梁15が昇降可能に取り付けられている。該昇降梁15は、スラブ軌道の幅方向に延在する細長い梁状部材であり、左右一対の昇降装置15aを介して、本体11aに対して昇降可能に取り付けられている。そして、前記昇降梁15の前面には、複数個(図に示される例においては、11個)の打撃装置16が、軌道の幅方向に間隔を空けて並ぶように配置されて取り付けられ、支持されている。なお、前記打撃装置16の配置されている範囲は、軌道スラブ21の幅方向のほぼ全体に亘ることが望ましい。
【0025】
前記打撃装置16は、重錘落下式の装置であって、重錘の下端に取り付けられた頭部17が軌道スラブ21の上面21aを打撃するようになっている。そして、前記頭部17が軌道スラブ21の上面21aを打撃した際に発生する音である打音を、図示されないマイクロフォンによって集音し、前記打音の音圧を計測する。なお、前記マイクロフォンは、前記打撃装置16の数と同数で、防音カバーを有するとともに、前記昇降梁15とは別の昇降部材に取り付けられ、防音カバーを軌道スラブ21の上面21aに押し付けることによってノイズの侵入を防止しながら、前記打音を集音することができるものであることが望ましい。
【0026】
また、前記打撃装置16のいくつか(図3に示される例においては、左右両端と中央の3個)は、ロードセルを備えるロードセル付打撃装置16aとなっている。該ロードセル付打撃装置16aは、前記頭部17が軌道スラブ21の上面21aを打撃した際に受ける荷重の値、すなわち、荷重値を計測する。
【0027】
前記昇降梁15の左右両端には、軌道スラブ21の上面21aまでの距離を計測可能な距離計測装置としての変位計18が、それぞれ、取り付けられている。該変位計18は、望ましくは、レーザー光を軌道スラブ21の上面21aに反射させて該上面21aまでの距離を測定可能な光学式変位計であるが、前記上面21aまでの距離を非接触で測定可能な測定器であれば、いかなる種類のものであってもよい。左右の変位計18によって軌道スラブ21の上面21aまでの距離を計測しつつ、左右の昇降装置15aを動作させることによって、図3に示されるように、昇降梁15の左右両端から軌道スラブ21の上面21aまでの距離が所定値Dとなるように調整することができる。これにより、レール締結装置24が備える可変パッド24aの厚さが左右のレール23において異なっていても、軌道スラブ21の上面21aから昇降梁15に取り付けられたすべての打撃装置16までの距離を所定の値に保つことができ、軌道スラブ21の幅方向に関して、前記上面21aの各所に一定の打撃力を付与することができる。
【0028】
また、前記軽便トロ11の本体11aには、制御装置13が配設されている。該制御装置13は、例えば、CPU等の演算装置、半導体メモリ、ハードディスク等の記憶装置、有線又は無線の通信装置等を備える1種のコンピュータであって、前記記憶装置にインストールされたアプリケーションソフトウェア等のプログラムに従って動作し、前記マイクロフォンが計測した打音の情報処理、前記ロードセル付打撃装置16aが計測した荷重値の情報処理等を行うとともに、前記昇降装置15aの動作等の制御を行う。なお、該昇降装置15aは、制御可能なシリンダによって昇降梁15を昇降させるものである。また、前記制御装置13には、操作装置13aが接続されている。該操作装置13aは、液晶ディスプレイ等の表示装置、キーボード等の入力装置等を備えるラップトップコンピュータ、タブレットコンピュータ等であって、前記制御装置13に所望の動作を行わせるために、オペレータが操作するための装置である。
【0029】
さらに、前記軽便トロ11の本体11aには、電源14が配設されている。該電源14は、例えば、充電可能な二次電池であって、前記制御装置13、昇降装置15a、打撃装置16等に電力を供給する電力源として機能する。
【0030】
次に、前記構成のスラブ軌道用打音試験装置10の動作について説明する。
【0031】
図4は第1の実施の形態におけるスラブ軌道用打音試験装置のデータ処理動作を説明するフローチャートである。
【0032】
まず、オペレータは、レール23上の軽便トロ11を移動させ、所定の計測位置に到達させる。これにより、打撃装置16は、軌道の長手方向に関して、軌道スラブ21の上面21aにおける所定の計測位置の上方に位置することとなる。なお、レール23上の軽便トロ11を移動させる際に、レール23に近接した打撃装置16の下端に位置する頭部17等がレール23のレール締結装置24に引っ掛かる場合もあり得る。この場合には、昇降装置15aを作動させて、あらかじめ昇降梁15を上昇させておき、レール締結装置24を通過した後に、昇降梁15を下降させる必要がある。
【0033】
続いて、オペレータは、操作装置13aを操作して、左右の変位計18に軌道スラブ21の上面21aまでの距離を計測させるとともに、左右の昇降装置15aを動作させ、軌道スラブ21の上面21aから打撃装置16までの距離が所定の値となるように調整させる。レール締結装置24が備える可変パッド24aの厚さは、必ずしも一定ではなく、レール23の長手方向に並ぶレール締結装置24同士でも、また、図3に示されるように、左右のレール23におけるレール締結装置24同士でも異なっていることがある。そのため、左右の変位計18によって軌道スラブ21の上面21aまでの距離を計測しつつ、左右の昇降装置15aを動作させて昇降梁15を昇降させることによって、図3に示されるように、昇降梁15の左右両端から軌道スラブ21の上面21aまでの距離が所定値Dとなるように調整する必要がある。これにより、軌道スラブ21の長手方向に関する複数の計測位置のすべてにおいて、昇降梁15に取り付けられたすべての打撃装置16を軌道スラブ21の上面21aから所定の高さに保つことができ、軌道スラブ21の幅方向に関して、前記上面21aの複数箇所(図に示される例においては、11箇所)に一定の打撃力を付与することができる。
【0034】
続いて、オペレータは、操作装置13aを操作して、すべての打撃装置16を作動させて、重錘を落下させ、その下端に取り付けられた頭部17によって軌道スラブ21の上面21aを打撃させる。そして、マイクロフォンによって集音し、前記打音の音圧を計測させるとともに、ロードセル付打撃装置16aのロードセルによって、前記頭部17が軌道スラブ21の上面21aを打撃した際に受ける荷重値を計測させる。これにより、軌道スラブ21の長手方向の所定の計測位置において、軌道スラブ21の幅方向の複数箇所での、音圧及び荷重値の時刻歴応答を計測結果として得ることができる。該計測結果は、制御装置13の記憶装置に記憶されて蓄積される。
【0035】
続いて、オペレータは、レール23上の軽便トロ11を、次の計測位置にまで移動させ、操作装置13aを操作して同様の打音試験を行い、前記次の計測位置において、軌道スラブ21の幅方向の複数箇所での、打音の音圧及び荷重値の時刻歴応答を計測結果として得る。なお、前回の計測位置から次回の計測位置までの間隔は、軽便トロ11の車輪11bに取り付けたエンコーダにより測定するものとし、あらかじめ所定距離(例えば、約20〔cm〕)となるように設定される。
【0036】
前記軽便トロ11を軌道スラブ21の長手方向に前記所定距離ずつ移動させ、各計測位置で打音試験を行って計測結果を得ることを複数回(例えば、約25回)繰り返すことにより、1つの軌道スラブ21の上面21aの全体についての打音試験が終了する。
【0037】
そして、ある程度の範囲に亘っての打音試験が終了した後、前記制御装置13に、指定したCSV群(CSV形式の点群データ)を用いたデータ処理を行わせることにより、支持範囲のコンター図を作成することができる。
【0038】
前記データ処理において、まず、制御装置13は、マイクロフォン及びロードセルによって計測された打音の音圧及び荷重値の時刻歴応答のデータにアクセスする(ステップS1)。なお、該データは、前記制御装置13の記憶装置に蓄積されている。
【0039】
続いて、制御装置13は、前記時刻歴応答のデータから、計測された音圧の最大値Pamax 及び荷重値の最大値Nmax を求める、すなわち、時刻歴応答の最大値(Pamax 、Nmax )を導出する(ステップS2)。
【0040】
続いて、制御装置13は、音圧の最大値Pamax と荷重値の最大値Nmax との比である振幅比(Pamax /Nmax )を導出する(ステップS3)。
【0041】
続いて、制御装置13は、振幅比(Pamax /Nmax )があらかじめ設定された判定値kより大きいか否か、すなわち、Pamax /Nmax >kであるか否かを判断する(ステップS4)。
【0042】
そして、Pamax /Nmax >kである場合には、隙間ありと評価する(ステップS5)。また、Pamax /Nmax >kでない場合には、隙間なしと評価する(ステップS6)。
【0043】
そして、制御装置13は、ステップS2~S6の動作を、軌道スラブ21の上面21aにおいて、各打撃装置16が打撃を付与して音圧及び荷重値を計測した箇所のすべてについて繰り返し、ステップS5又はS6の評価結果をマッピングし、コンター図として表示することによって、出力する。これにより、図4に示されるように、1つの軌道スラブ21の各所の下面側に生じた隙間の存在を示すコンター図が作成されて、表示装置に表示される(ステップS7)。
【0044】
また、制御装置13は、振幅比に代えて、共振振幅比に基づいて、隙間のありなしを判断することもできる。
【0045】
この場合、制御装置13は、まず、前記時刻歴応答のデータのFFT(Fast Fourier Transform)解析を行い、音圧及び荷重値の周波数応答を導出する(ステップS8)。
【0046】
続いて、制御装置13は、共振周波数の音圧Paと共振周波数の荷重値Nとを求める。すなわち、共振周波数の音圧及び荷重値(Pa、N)を導出する(ステップS9)。
【0047】
続いて、制御装置13は、共振周波数の音圧Paと共振周波数の荷重値Nとの比である共振振幅比(Pa/N)を導出する(ステップS10)。
【0048】
続いて、制御装置13は、共振振幅比(Pa/N)があらかじめ設定された判定値kより大きいか否か、すなわち、Pa/N>kであるか否かを判断する(ステップS11)。
【0049】
そして、Pa/N>kである場合には、隙間ありと評価する(ステップS12)。また、Pa/N>kでない場合には、隙間なしと評価する(ステップS13)。
【0050】
そして、制御装置13は、ステップS8~S13の動作を、軌道スラブ21の上面21aにおいて、各打撃装置16が打撃を付与して音圧及び荷重値を計測した箇所のすべてについて繰り返し、ステップS12又はS13の評価結果をマッピングし、コンター図として表示することによって、出力する。これにより、図4に示されるように、1つの軌道スラブ21の各所の下面側に生じた隙間の存在を示すコンター図が作成されて、表示装置に表示される(ステップS14)。
【0051】
したがって、オペレータは、表示されたコンター図を視認することにより、試験対象である軌道スラブ21の下面側に生じた隙間の存在を正確に、客観的に、かつ、容易に把握することができる。
【0052】
このように、本実施の形態におけるスラブ軌道用打音試験装置10は、スラブ軌道のレール23上を走行可能な軽便トロ11に搭載される。そして、軽便トロ11に昇降可能に取り付けられ、スラブ軌道の幅方向に延在する昇降梁15と、スラブ軌道の幅方向に並んで昇降梁15に取り付けられた複数の打撃装置16であって、重錘を落下させる打撃装置16と、スラブ軌道の軌道スラブ21の上面21aを打撃装置16が打撃した際に計測された打音の音圧及び荷重値を記憶する記憶装置を含む制御装置13とを備え、打撃装置16は、軌道スラブ21の上面21aから所定の高さにおいて、軌道スラブ21の上面21aを打撃し、制御装置13は、音圧と荷重値との比に基づいて、軌道スラブ21の下面側の隙間の有無を評価し、評価結果を出力する。
【0053】
これにより、軌道スラブ21の上面21aの各所に一定の打撃力を付与することができ、高精度の打音試験を行うことができ、軌道スラブ21の各所の下面側に生じた隙間を正確に検知することができる。
【0054】
また、昇降梁15の両端に取り付けられた距離計測装置を更に備え、距離計測装置によって、昇降梁15の両端から軌道スラブ21の上面21aまでの距離が所定値となるように昇降梁15を昇降させ、打撃装置16を軌道スラブ21の上面21aから所定の高さとする。なお、距離計測装置は、軌道スラブ21の上面21aまでの距離を非接触で測定可能な光学式の変位計18である。これにより、レール23の長手方向に並ぶレール締結装置24同士で可変パッド24aの厚さが異なっていても、左右のレール23におけるレール締結装置24同士で可変パッド24aの厚さが異なっていても、すべての打撃装置16の軌道スラブ21の上面21aからの高さを所定の高さとすることができるので、一定の打撃力を付与することができる。
【0055】
さらに、制御装置13は、評価結果を、コンター図として表示することによって、出力する。したがって、オペレータは、コンター図を視認することにより、軌道スラブ21の下面側に生じた隙間の存在を正確に、客観的に、かつ、容易に把握することができる。
【0056】
さらに、音圧と荷重値との比は、音圧及び荷重値の時刻歴応答のデータから求めた音圧の最大値と荷重値の最大値との比であり、比が判定値より大きい場合、制御装置13は、軌道スラブ21の下面側に隙間があると評価する。さらに、音圧と荷重値との比は、音圧及び荷重値の時刻歴応答のデータのFFT解析によって導出された音圧及び荷重値の周波数応答から求めた共振周波数の音圧と荷重値との比であり、比が判定値より大きい場合、制御装置13は、軌道スラブ21の下面側に隙間があると評価する。
【0057】
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0058】
図5は第2の実施の形態におけるスラブ軌道用打音試験装置の側面図である。
【0059】
前記第1の実施の形態においては、昇降梁15の左右両端に、軌道スラブ21の上面21aまでの距離を計測可能な距離計測装置として、変位計18が取り付けられているが、本実施の形態においては、図5に示されるように、距離計測装置として、車輪付間隔材19が昇降梁15の左右両端に取り付けられている。
【0060】
前記車輪付間隔材19は、その下端に車輪19aが回転可能に取り付けられた部材であって、その上下方向の寸法が一定であって、車輪19aが軌道スラブ21の上面21aに接触した状態で、昇降梁15の左右両端から軌道スラブ21の上面21aまでの距離が所定値Dとなるようにあらかじめ調整されている。
【0061】
したがって、軌道スラブ21の上面21aまでの距離を計測しなくても、車輪19aを軌道スラブ21の上面21aに接触させるだけで、昇降梁15の左右両端から軌道スラブ21の上面21aまでの距離が所定値Dになるように、容易に調整することができる。
【0062】
なお、その他の点の構成及び動作については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0063】
このように、本実施の形態においては、距離計測装置は、軌道スラブ21の上面21aに接触する車輪19aが回転可能に取り付けられた上下方向の寸法が一定の車輪付間隔材19である。これにより、昇降梁15の左右両端から軌道スラブ21の上面21aまでの距離が所定値Dになるように、容易に調整することができる。
【0064】
次に、第3の実施の形態について説明する。なお、第1及び第2の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1及び第2の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0065】
図6は第3の実施の形態におけるスラブ軌道用打音試験装置の斜視図、図7は第3の実施の形態におけるスラブ軌道用打音試験装置の側方から観た斜視図である。なお、図6において、(a)は前方から観た斜視図、(b)は後方から観た斜視図である。
【0066】
前記第1及び第2の実施の形態においては、複数個の打撃装置16が支持された支持梁としての昇降梁15が、軽便トロ11の本体11aの前端に昇降可能に取り付けられ、昇降梁15を昇降させることにより、軌道スラブ21の上面21aから打撃装置16までの距離が所定の値となるように調整するようになっているのに対し、本実施の形態においては、支持梁としての連結梁31は、固定梁であって、軽便トロ11の本体11aの前端に昇降不能に取り付けられ、前記連結梁31に、各々が打撃装置16を含む複数個の昇降ユニット32が昇降可能に取り付けられて支持され、各昇降ユニット32を昇降させることにより、軌道スラブ21の上面21aから打撃装置16までの距離が所定の値となるように調整するようになっている。
【0067】
また、本実施の形態において、軽便トロ11の本体11aには、空圧制御装置13bが配設されている。該空圧制御装置13bは、図示されないコンプレッサを有し、各昇降ユニット32が備える後述されるユニット昇降シリンダ36や、各打撃装置16が備える後述される打撃シリンダ16bに圧縮空気を供給する。
【0068】
さらに、本実施の形態において、軽便トロ11の本体11aには、エンコーダ33が配設されている。該エンコーダ33は、軽便トロ11に付属した車輪33aに連結され、該車輪33aの回転から計測位置を測定する。
【0069】
さらに、本実施の形態において、軽便トロ11の本体11aには、ブレーキレバー11cが配設されている。該ブレーキレバー11cをオペレータが操作することにより、軽便トロ11が備える図示されないブレーキを作動させることができる。なお、該ブレーキは、安全性を考慮して、常時ロック状態にあり、軽便トロ11の走行時のみロック解除状態になるようにすることが望ましい。
【0070】
次に、本実施の形態における昇降ユニット32の構成について説明する。
【0071】
図8は第3の実施の形態における昇降ユニットの側方から観た斜視図、図9は第3の実施の形態における昇降ユニットの連結梁への取付状態を説明する図、図10は第3の実施の形態における昇降ユニットの要部を示す拡大図である。なお、図9において、(a)は通常の状態を示す図、(b)は昇降ユニットを揺動させた状態を示す図である。
【0072】
本実施の形態における昇降ユニット32の各々は、図8に示されるように、ユニット昇降シリンダ36を備え、該ユニット昇降シリンダ36が作動することにより、スライドレール32bに沿って上下方向にスライドして昇降する。なお、該スライドレール32bは、連結梁31に取付けられた支持片32aに固定された上下方向に延在するガイド部材である。また、前記支持片32aの上端は、ヒンジ部材32cを介して、連結梁31に揺動可能に取付けられている。
【0073】
そして、各昇降ユニット32は打撃装置16を備え、該打撃装置16は、軌道スラブ21の上面21aを打撃する頭部17と、スプリングバック装置17bと、打撃シリンダ16bとを含んでいる。前記頭部17とスプリングバック装置17bとで重錘17aを構成し、該重錘17aと打撃シリンダ16bとで打撃装置16を構成する。また、該打撃装置16のいくつか(図6(a)に示される例においては、左右両端と中央の3個)は、頭部17が打撃チップに加えてロードセルを含むロードセル付打撃装置16aとなっている。その他の打撃装置16における頭部17は、打撃チップのみであって、ロードセルを含んでいないものとする。
【0074】
また、各昇降ユニット32は集音装置35を備える。該集音装置35は、打撃装置16の頭部17を軌道スラブ21の上面21aに衝突させて得られる打撃音の音圧を計測する装置であり、マイクロフォンで構成される。なお、前記集音装置35の下端の周囲には、防音カバー35aが取り付けられている。
【0075】
前記打撃装置16及び集音装置35の上下方向の位置(高さ)は、調整棒34によって調整される。例えば、前記打撃装置16の頭部17と軌道スラブ21の上面21aとの距離が0~45〔mm〕以上の範囲で調整可能なようになっている。また、昇降ユニット32を上昇させた際には、頭部17と軌道スラブ21の上面21aとの距離が140〔mm〕以上になるように設定される。さらに、前記集音装置35の下端と軌道スラブ21の上面21aとの距離が20〔mm〕以上の範囲で調整可能なようになっている。また、前記集音装置35は、打撃装置16の頭部17との距離が40〔mm〕以上になるように設定される。なお、スラブ軌道用打音試験装置10の保管時や載線する際には、昇降ユニット32を上昇させた状態で保持することができるようになっている。
【0076】
また、本実施の形態における昇降ユニット32は、支持片32aの上端が、ヒンジ部材32cを介して、連結梁31に揺動可能に取付けられているので、図9(a)に示されるような通常の状態から、図9(b)に示されるような昇降ユニット32の下端を持ち上げた状態にまで変化させることができる。
【0077】
次に、本実施の形態における制御装置13のデータ処理動作について説明する。
【0078】
図11は第3の実施の形態におけるチャネルの位置関係を示す図、図12は第3の実施の形態におけるインターフェイスの概念を示す図、図13は第3の実施の形態におけるスラブ軌道用打音試験装置のデータ処理動作を説明するフローチャートである。
【0079】
本実施の形態において、制御装置13は、ユニット昇降シリンダ36や打撃シリンダ16bに圧縮空気を供給する空圧制御装置13b、及び、エンコーダ33の制御も行うようになっている。そのため、ラップトップコンピュータ等である操作装置13aの表示装置には、図12に示されるようなインターフェイスが表示される。該インターフェイスには、「距離測定開始・停止」ボタンが表示される。そして、軌道スラブ21の始端において、オペレータが「距離測定開始・停止」ボタンをクリックすると、計測位置までの距離の測定が開始される。その後は、軽便トロ11の移動距離がリアルタイムで操作装置13aのインターフェイスに表示される。そして、軌道スラブ21の終端において、オペレータが「距離測定開始・停止」ボタンをクリックすると、前記軌道スラブ21の長さが測定される。なお、エンコーダ33による測定に際しては、緯度及び経度の入力が可能であることが望ましい。
【0080】
また、前記操作装置13aのインターフェイスには、「荷重・音圧計測開始・停止」ボタンが表示される。そして、オペレータが「荷重・音圧計測開始・停止」ボタンをクリックすると、各昇降ユニット32の打撃装置16及び集音装置35が下降し、続いて、前記打撃装置16の頭部17が、打撃シリンダ16bによって押し出され、軌道スラブ21の上面21aに衝突する。このとき、軌道スラブ21の幅方向に並んで配設された複数の昇降ユニット32においては、軌道スラブ21の左右いずれかの端(図6(a)に示される例においては、左右両端のいずれか)に位置する昇降ユニット32から、順次、打撃装置16の頭部17を軌道スラブ21の上面21aに衝突させるようにする。軌道スラブ21の幅方向に隣接する昇降ユニット32同士において、打撃装置16の頭部17が軌道スラブ21の上面21aに衝突する時間間隔は、0.1秒以上1.0秒未満の間で設定可能とすることが望ましい。
【0081】
そして、各計測位置における打音試験が終了すると、前記操作装置13aのインターフェイスには、計測結果を保存するか否かを尋ねるダイアログボックスが表示され、オペレータが「はい」をクリックすると計測結果が保存され、オペレータが「いいえ」をクリックすると、計測結果は保存されず、打音試験をやり直すようになっている。
【0082】
本実施の形態において、制御装置13が行うデータ処理は、計測した荷重及び音圧を記録して処理し、軌道スラブ21の下面側に隙間があるか否かを評価するものである。
【0083】
まず、制御装置13は、マイクロフォン及びロードセルによって打音の音圧及び荷重値の時刻歴応答を計測する(ステップS21)。すなわち、打撃装置16の頭部17を軌道スラブ21の上面21aに衝突させたときに発生した荷重及び音圧の時刻歴応答を記録する。この際、制御装置13は、荷重に対するプリトリガ機能により、衝突の30〔msec〕前からの時刻歴応答データの計測を行う。なお、該時刻歴応答データの計測は、例えば、14チャネル(ch)(荷重値3チャネル、音圧11チャネル)で行われるものとする。図11には、各チャネルの位置関係の例が示されている。
【0084】
続いて、制御装置13は、記録された時刻歴応答のデータから、計測された音圧の最大値Pamax 及び荷重値の最大値Nmax を求める、すなわち、時刻歴応答の最大値(Pamax 、Nmax )を導出する(ステップS22)。
【0085】
続いて、制御装置13は、音圧の最大値Pamax と荷重値の最大値Nmax との比である振幅比(Pamax /Nmax )を導出する(ステップS23)。具体的には、昇降ユニット32毎に、振幅比(Pamax /Nmax )を計算する。ここで、振幅比(Pamax /Nmax )は、次の式(1)によって定義される。
振幅比=Pat max /Nt max ・・・式(1)
【0086】
なお、Pat max は音圧の時刻歴応答の最大振幅(Pa)であり、Nt max は荷重の時刻歴応答の最大振幅(N)である。
【0087】
また、参照する荷重のチャネルは、次の(a)~(c)の通りである。
(a)音圧1ch~3ch:荷重1ch
(b)音圧4ch~8ch:荷重6ch
(a)音圧9ch~11ch:荷重11ch
【0088】
続いて、制御装置13は、振幅比(Pamax /Nmax )があらかじめ設定された判定値kより大きいか否か、すなわち、Pamax /Nmax >kであるか否かを判断する(ステップS24)。
【0089】
そして、Pamax /Nmax >kである場合には、隙間ありと評価する(ステップS25)。また、Pamax /Nmax >kでない場合には、隙間なしと評価する(ステップS26)。なお、前記判定値kは、操作装置13aから任意に入力することができる。
【0090】
制御装置13は、ステップS22~S26の動作を、軌道スラブ21の上面21aにおいて、各打撃装置16が打撃を付与して音圧及び荷重値を計測した箇所のすべてについて繰り返し、ステップS25又はS26の評価結果を操作装置13aのインターフェイスに表示することによって、出力する。また、制御装置13は、音圧及び荷重の時刻歴応答をCSVファイルの形式で出力することができる。
【0091】
また、制御装置13は、振幅比に代えて、共振振幅比に基づいて、隙間のありなしを判断することもできる。
【0092】
この場合、制御装置13は、まず、前記第1の実施の形態と同様に、時刻歴応答のデータのFFT解析を行い、音圧及び荷重値の周波数応答を導出する(ステップS27)。なお、FFT解析においては、サンプリング周波数を5000〔Hz〕とし、サンプリング時間を0~11秒以上の範囲で設定される。
【0093】
続いて、制御装置13は、共振周波数の音圧Paと共振周波数の荷重値Nとを求める。すなわち、共振周波数の音圧及び荷重値(Pa、N)を導出する(ステップS28)。
【0094】
続いて、制御装置13は、共振周波数の音圧Paと共振周波数の荷重値Nとの比である共振振幅比(Pa/N)を導出する(ステップS29)。具体的には、昇降ユニット32毎に、共振振幅比(Pamax /Nmax )を計算する。ここで、共振振幅比(Pamax /Nmax )は、次の式(2)によって定義される。
共振振幅比=Paf max /Nf max ・・・式(2)
【0095】
なお、Paf max は音圧の周波数応答の最大値(Pa)であり、Nf max はPaf max に対応する周波数における荷重の時刻歴応答の応答値(N)である。
【0096】
続いて、制御装置13は、共振振幅比(Pa/N)があらかじめ設定された判定値kより大きいか否か、すなわち、Pa/N>kであるか否かを判断する(ステップS30)。
【0097】
そして、Pa/N>kである場合には、隙間ありと評価する(ステップS31)。また、Pa/N>kでない場合には、隙間なしと評価する(ステップS32)。なお、前記判定値kは、操作装置13aから任意に入力することができる。
【0098】
制御装置13は、ステップS27~S32の動作を、軌道スラブ21の上面21aにおいて、各打撃装置16が打撃を付与して音圧及び荷重値を計測した箇所のすべてについて繰り返し、ステップS31又はS32の評価結果を操作装置13aのインターフェイスに表示することによって、出力する。また、制御装置13は、音圧及び荷重の周波数応答をCSVファイルの形式で出力することができる。
【0099】
したがって、オペレータは、操作装置13aのインターフェイスを視認することにより、試験対象である軌道スラブ21の下面側に生じた隙間の存在を正確に、客観的に、かつ、容易に把握することができる。
【0100】
なお、その他の点の構成及び動作については、前記第1及び第2の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0101】
このように、本実施の形態においては、各昇降ユニット32を個別に昇降させることが可能なので、各打撃装置16の頭部17及び各集音装置35と軌道スラブ21の上面21aとの距離を、容易に調整することができる。
【0102】
なお、本明細書の開示は、好適で例示的な実施の形態に関する特徴を述べたものである。ここに添付された特許請求の範囲内及びその趣旨内における種々の他の実施の形態、修正及び変形は、当業者であれば、本明細書の開示を総覧することにより、当然に考え付くことである。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本開示は、スラブ軌道用打音試験装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0104】
10 軌道用打音試験装置
11 軽便トロ
13 制御装置
15 昇降梁
16 打撃装置
18 変位計
19 車輪付間隔材
19a 車輪
21 軌道スラブ
21a 上面
31 連結梁
32 昇降ユニット
35 集音装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13