(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】シンチレータプレート、シンチレータプレートの製造方法、および放射線検出装置
(51)【国際特許分類】
G21K 4/00 20060101AFI20240617BHJP
G01T 1/20 20060101ALI20240617BHJP
G01T 1/202 20060101ALI20240617BHJP
A61B 6/42 20240101ALI20240617BHJP
【FI】
G21K4/00 B
G01T1/20 B
G01T1/202
G01T1/20 E
G01T1/20 G
A61B6/42 500S
(21)【出願番号】P 2020192214
(22)【出願日】2020-11-19
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】大池 智之
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-185237(JP,A)
【文献】特開2015-087212(JP,A)
【文献】特開2018-179795(JP,A)
【文献】特開2013-036030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 4/00
G01T 1/00-1/16
G01T 1/167-7/12
A61B 6/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々がハロゲン化アルカリ金属化合物の母材と賦活剤とを含む複数の柱状結晶が基板に設けられたシンチレータプレートであって、
前記基板に接した、前記ハロゲン化アルカリ金属化合物の第1の相と前記母材及び前記賦活剤とは異なる材料からなる第2の相とが相分離された層と、前記相分離された層に接した前記複数の柱状結晶からなる層と、を有すること
を特徴とするシンチレータプレート。
【請求項2】
前記第1の相はCsIを主成分とすることを特徴とする請求項1に記載のシンチレータプレート。
【請求項3】
前記第2の相はCs
3Cu
2I
5を主成分とすることを特徴とする請求項1に記載のシンチレータプレート。
【請求項4】
前記相分離された層のCs元素に対するCu元素の濃度が1mol%より大きくかつ67mol%未満の範囲であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシンチレータプレート。
【請求項5】
前記相分離された層のCs元素に対するCu元素の濃度が5mol%以上かつ25mol%以下の範囲であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシンチレータプレート。
【請求項6】
前記相分離された層の厚さが2μm以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のシンチレータプレート。
【請求項7】
前記相分離された層において、前記第2の相が2μm以下の周期で設けられていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のシンチレータプレート。
【請求項8】
前記基板は、入射した放射線から前記柱状結晶により変換した光を検出する光検出器であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のシンチレータプレート。
【請求項9】
各々がハロゲン化アルカリ金属化合物の母材と賦活剤とを含む複数の柱状結晶を含むシンチレータが基板に設けられたシンチレータプレートの製造方法であって、
前記ハロゲン化アルカリ金属化合物の第1の相が前記母材及び前記賦活剤とは異なる材料からなる第2の相で相分離された層を形成する工程と、
前記相分離された層に接して前記複数の柱状結晶からなる層を形成する工程と、を有すること
を特徴とするシンチレータプレートの製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のシンチレータプレートと、入射した放射線から前記柱状結晶により変換した光を検出する光検出器と、を有することを特徴とする放射線検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータプレート、シンチレータプレートの製造方法、および放射線検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療現場等で放射線撮影に用いられているフラットパネルディテクタ(以下FPD)として、被写体を通過した放射線をシンチレータ(放射線検出材料)で光に変換し、シンチレータが発した光を受光素子で検出する間接変換方式のFPDがある。放射線を光に変換するシンチレータには、発した光を受光素子に効率よく伝達するために、ヨウ化セシウムなどのハロゲン化アルカリ金属の柱状結晶群が用いられている。柱状結晶群はそれぞれの柱状結晶間に空隙が形成され、結晶と空気の屈折率の違いによって、結晶中で光が全反射を繰り返し、効果的に発した光を受光素子に導波しうる。
【0003】
このような柱状結晶群をシンチレータとして用いたFPDにおいて、ハロゲン化アルカリ金属自身の持つ潮解性によって柱状結晶間の融着が進むと、シンチレータの分解能が低下してしまう。そのため、柱状結晶の径を抑制して柱状結晶間に空隙を有することが求められる。
【0004】
特許文献1には、ハロゲン化アルカリ金属の針状結晶を用いたシンチレータに特定の元素を添加することで、針状結晶の径を制御して、シンチレータの分解能の向上を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術において、成膜の初期に形成される結晶は、結晶同士の分離が不十分であることから、結晶間で光散乱が生じシンチレータの分解能が低下するという課題がある。
【0007】
本発明は係る課題を解決するべくなされたものであり、柱状結晶間の光散乱を抑制し、シンチレータの分解能を向上するのに有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、各々がハロゲン化アルカリ金属化合物の母材と賦活剤とを含む複数の柱状結晶が基板に設けられたシンチレータプレートであって、前記基板に接した、前記ハロゲン化アルカリ金属化合物の第1の相と前記母材及び前記賦活剤とは異なる材料からなる第2の相とが相分離された層と、前記相分離された層に接した前記複数の柱状結晶からなる層と、を有することを特徴とするシンチレータプレートにより解決される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、柱状結晶間における光散乱を抑制することができ、高い分解能を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る、初期層及び下地層の平面及び断面の元素マッピング画像である。
【
図2】比較例に係る、初期層の平面及び断面の元素マッピング画像である。
【
図3】本発明および比較例に係る、元素マッピング画像に対応したラインプロファイルである。
【
図4】本発明および比較例に係る、柱状結晶群の膜側面からの観察像である。
【
図6】本発明および比較例に係る、柱状結晶群の模式図である。
【
図7】本発明に係る、柱状結晶群を形成するための真空蒸着装置の模式図である。
【
図8】本発明に係る、柱状結晶膜の形成条件、形状、特性を示す図である。
【
図9】本発明に係る柱状結晶群を用いるシンチレータプレートの模式図である。
【
図10】本発明に係る、放射線検出装置の使用態様の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るシンチレータプレートおよび放射線撮像装置の構成および製造方法について、添付図面を参照して説明する。なお、以下の説明及び図面において、複数の図面に渡って共通の構成については共通の符号を付している。そのため、複数の図面を相互に参照して共通する構成を説明し、共通の符号を付した構成については適宜説明を省略する。なお、本発明における放射線には、放射線崩壊によって放出される粒子(光子を含む)の作るビームであるα線、β線、γ線などの他に、同程度以上のエネルギーを有するビーム、例えばX線や粒子線、宇宙線なども含みうる。
【0012】
以下の説明では、例として、主相(母材)をハロゲン化アルカリ金属、特にはヨウ化セシウム(以下CsI)、副相を添加化合物、特には銅(以下Cu)化合物とする。シンチレータには適宜、発光機能を付与するための賦活剤、例えばタリウム(以下Tl)を添加しても良い。
【0013】
柱状結晶の膜を、以下の二つの領域、すなわち、初期層と上部層に分けて説明する。初期層とは、成膜初期における、柱状結晶の方位やサイズが膜厚とともに定まりつつある、膜厚が数十μmまでの領域を指す。上部層とは、初期層の上に形成される、膜厚が数百μmの領域を指す。本発明の下地層とは、初期層よりもさらに成膜の極初期に形成される、柱状結晶の方位やサイズが定まっていない領域を指す。
【0014】
下地層の相分離を確認する手段としては、例えば、エネルギー分散型X線分光法(以下EDS)で元素マッピング評価を行うことで可能である。
【0015】
図1は、本発明に係る、初期層及び下地層の平面及び断面の元素マッピング画像である。
図1(a)は、本発明の下地層の平面についてEDSで元素マッピング評価した画像である。黒色で示す領域は第1の相である主相1を示すものであり、主相1からはセシウム(Cs)元素が観測される。また白色で示す領域は第2の相である副相2を示すものであり、副相2からはCu元素が観測される。以上のことから、主相1と副相2が入り混じり、主相1と副相2とが相分離した構造であることが分かる。
【0016】
図1(b)は、初期層及び下地層3の断面をEDSで元素マッピング評価した画像である。副相2が基板4の上に集中していることから、副相2を含む層が形成されていることが分かる。この層が下地層3である。下地層3の厚さは、CsIの初期層の結晶サイズ程度に小さいことが好ましく、例えば2μm以下であり、より好ましくは1μm以下であることが望ましい。
【0017】
図2は、比較例に係る、初期層の平面及び断面の元素マッピング画像である。
【0018】
図2(a)は、本発明の比較例として、下地層3を設けない場合について、初期層の平面についてEDSで元素マッピング評価した画像である。
図2(a)からは、主相1の中に副相2が点在している状態が観測される。
【0019】
図2(b)は、下地層3を設けない場合の、すなわち初期層および基板4の断面をEDSで元素マッピング評価した断面図である。
図2(b)により、副相2が基板4の上に見られず、下地層3が明瞭に存在しないことが分かる。
【0020】
図3は、本発明および比較例それぞれの元素マッピング画像に対応したラインプロファイルである。
【0021】
図3(a)は、
図1(a)に示した本発明に係る元素マッピング画像に対応する、副相2のラインプロファイルである。これにより、下地層3における副相2の分布の周期を調べることができる。例えば、
図3(a)のラインプロファイルからは、長さ2μmの中に副相2が5回出現していることより、副相2は0.4μmの周期で分布していることが分かる。
【0022】
図4(b)は、
図2(a)の元素マッピング画像に対応する、副相2のラインプロファイルである。これにより、初期層における副相2の分布の周期を調べることができる。
図3(b)は、
図2(a)に示した比較例に係る元素マッピング画像に対応する、副相2のラインプロファイルである。
図3(b)のラインプロファイルからは、長さ7.3μmの中に副相2が3.5回出現していることより、副相2は2.1μmの周期で分布していることが分かる。
【0023】
図5には、本発明に係る相分離を示す相図を示す。本発明において相分離とは、複数の化合物相が固相状態で共存する状態を示すものである。
【0024】
図5より、CsI:CuIの比率において、6:4よりCsIが大きい割合で混合熔融した液相(L)が冷却されることに依り、共晶点10において、CsIとCs
3Cu
2I
5の少なくとも二つの相が共存することがわかる。実際に下地層3をX線回折で評価すると、CsIとCs
3Cu
2I
5の少なくとも二つの相が観測される。このことから、主相1と副相2はこれら二種類の物質を主成分として構成されていることが分かる。
【0025】
シンチレータの母材は、例えばCsIや臭化セシウム(CsBr)など、柱状結晶群が形成可能なハロゲン化アルカリ金属化合物から選択可能である。また、賦活剤としては、例えばヨウ化タリウム(以下TlI)や臭化タリウム(TlBr)などを、母材に対して0.2mol%以上3.2mol%以下含むことで、十分な発光機能を付与できるようになる。本発明の下地層3に含まれる添加するCu元素の濃度は、例えば母材であるCs元素に対して1mol%より大きく、より好ましくは5mol%以上とすることで、下地層3において主相1と副相2とが相分離した構造を得ることができる。
【0026】
また、母材であるCs元素に対する、添加するCu元素の濃度の上限値は、
図5の相図より67mol%未満であり、より好ましくは25mol%以下である。添加材料としては、例えば、ヨウ化銅(以下CuI)や臭化銅(CuBr)などの化合物を用いても良い。
【0027】
図6は、シンチレータにおける柱状結晶5の模式図である。
図6(a)は本発明に係る模式図であり、
図6(b)は比較例に係る模式図である。
【0028】
図6(a)に示す通り、柱状結晶5はシンチレータの母材で形成された主相1の上に続いて形成されるので、主相1と副相2とが相分離した構造となることにより、柱状結晶5のそれぞれが分離良く形成される。したがって、柱状結晶5の間で起こる光散乱を抑制することができ、結果としてシンチレータの分解能を向上することが可能となる。
【0029】
一方、
図6(b)に示す通り、下地層3を設けない場合は、基板4の上には主相1のみが形成される。その際、本発明と比較して柱状結晶5同士の距離が近くなることで、光散乱が起こりやすくなる。
【0030】
図7は、本発明におけるシンチレータを形成する真空蒸着装置の模式図である。例えば
図7に示すように、真空排気が可能なチャンバー79の中に、材料供給源71と回転部78を設けた蒸着面77を配し、蒸着面77には蒸着を行う基板4をセットする。
【0031】
後に述べる比較例および実施例においては、材料供給源71aおよび材料供給源71cはタンタル製で円筒型のものを用い、また材料供給源71bには窒化ホウ素製ルツボを用いている。材料供給源71は材料毎に複数設けても良いし、混合した材料を材料供給源71に配しても良い。
【0032】
材料供給源71のシャッター75については適宜設ければ良い。材料供給源71にシャッター75を設けて開度を制御することで、任意の膜厚領域へ任意の量の添加材料を添加することが可能である。
【0033】
蒸着膜を防湿するための保護膜としては、パリレン、フッ素樹脂およびオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)膜などを、スプレー、塗布、化学気相成長(CVD)などの各種コーティング手段で形成することが可能である。
【0034】
形成したシンチレータの柱状結晶5における柱径の形状は、走査型電子顕微鏡などで観察できる。また、組成や元素の分布状況については、EDSによる元素マッピングで評価できる。
【0035】
分解能特性の評価は、変調伝達関数(以下MTF)を測定すれば定量的に比較することができる。検出量子効率(DQE)の評価は、CCDやCMOSなど、様々な受光素子やカメラなどの光検出器を用いて評価可能である。また、蒸着膜の化学組成は例えば蛍光X線分析や誘導結合プラズマ分析、結晶性については例えばX線回折分析などで評価が可能である。
【0036】
基板温度や各蒸発源の温度は蒸着条件に応じて適宜調整可能である。例えば、CsIの場合は670℃から700℃、TlIの場合は340℃から410℃の間で調整することで、必要とする添加濃度を実現することができる。本発明において、主相1と副相2とが相分離した構造を有する下地層3を形成する為には、成膜初期の基板温度は例えば20℃から200℃未満の間とし、CuIの蒸発源温度は例えば520℃以上とする。
【0037】
なお、発光機能を担う賦活剤の活性化が不十分となり、所望の発光輝度が得られなかった場合は、成膜後期に柱状結晶5の構造が崩れない程度まで基板温度を上昇させ発光機能を担う賦活剤を活性化することで、発光輝度を向上させることが可能である。あるいは、成膜後に蒸着装置などで熱処理を行うことで、柱状結晶5の構造を維持したまま、所望の輝度を得ることが可能である。
【0038】
図8は、本発明の放射線検出装置の形成条件、形状および特性を示したものである。シンチレータの分解能の指標である、空間周波数が2Lp/mmでのMTF(以下MTF(2))について、従来の比較例と比較すると、第1の実施例及び第2の実施例共に、分解能が向上していることが分かる。
【0039】
図9は、本発明に係るシンチレータを用いたシンチレータプレートの構成図である。
図9左側に示すように、基板4の、シンチレータプレートを放射線検出装置(後述)に適用した際にX線101が入射する側の面の裏面に、反射層103と、下地層3および柱状結晶5を設け、さらに光検出器102と組み合わせる構成が一例として挙げられる。反射層103は、シンチレータが発する光のうち、光検出器に入らなかった光を光検出器側に戻す役割を果たす。また、
図9右側に示すように、光検出器102上へ下地層3および柱状結晶5を直接設ける構成としてもよい。
【0040】
上述のように構成されたシンチレータプレートは、放射線を検出する放射線検出装置(放射線撮像装置)に適用されうる。
【0041】
図10は、放射線検出装置630の使用態様の一例を示したものである。放射線源610が発生した放射線611は、患者等の被検者620の胸部621を透過し、放射線検出装置630に入射する。放射線検出装置630に入射した放射線611には被検者620の体内の情報が含まれており、放射線検出装置630は、放射線611に応じた電気的情報を取得する。この電気的情報は、ディジタル信号に変換された後、例えばイメージプロセッサ640によって所定の信号処理が為される。
【0042】
医師等のユーザは、この電気的情報に応じた放射線画像を、例えばコントロールルームの第1のディスプレイ650で観察することができる。ユーザは、放射線画像又はそのデータを、所定の通信手段660により遠隔地へ転送することができ、この放射線画像を、他の場所であるドクタールームの第2のディスプレイ651で観察することもできる。また、ユーザは、この放射線画像又はそのデータを所定の記録媒体に記録することもでき、例えば、フィルムプロセッサ670によってフィルム671に記録することもできる。
【0043】
以下、本発明の比較例および実施例について説明する。
【0044】
(第1の比較例)
本比較例は、
図7に示す真空蒸着装置を用いて、CsIを母材、CuIを添加材料、TlIを賦活剤とする柱状結晶構造の蒸着膜を形成したものである。
【0045】
蒸着原料72aとして、CsIにCuIを0.06重量%で混合したものを、材料供給源71aに充填した。加えて蒸着原料72cとして、TlIを材料供給源71cに充填した。また、蒸着面77に基板4をセットした。基板4はシリコン基板にアルミニウム反射層を厚さ100nm、二酸化ケイ素を厚さ50nm積層したものを用いた。
【0046】
蒸着装置内を0.01Pa以下になるまで真空排気した後、各々の材料供給源71に電流を徐々に流して加熱する。設定温度に達したところで、回転部78により基板4の回転を行いつつ、基板4と材料供給源71の間に設けられたシャッター75を開けることで成膜を開始した。なお、基板温度は60℃から130℃まで徐々に昇温した。成膜の様子を確認しつつ、所望の膜厚が形成されたところでシャッター75を閉じて成膜を終了した後、基板4の温度をさらに160℃まで昇温した。
【0047】
成膜された基板4を室温まで冷却後蒸着装置より取り出し、蒸着膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察すると、基板4上には
図4(b)のように下地層3は形成されず、柱状結晶5のみが形成されていることが確認できた。さらに、蒸着膜を基板4から剥がし、基板4と蒸着膜が接していた面、及び蒸着膜の膜断面をEDSで元素マッピング評価したが、本発明における下地層3の形成は見られなかった。
【0048】
蛍光X線分析装置で化学組成を測定すると、母材に対してTlが0.65mol%、銅が0.1mol%検出された。
【0049】
蒸着膜の成膜表面をCMOS光検出器にFOP(Fiber Optic Plate)を介して密着させて、基板4側から国際規格の線質RQA5に準じたX線を照射して画像を取得した。また、シンチレータの分解能の指標であるMTF(2)をタングステン製のナイフエッジを用いたエッジ法により求め、これを100として以降の比較例および実施例と相対比較を行った。
【0050】
(第2の比較例)
本比較例は、
図7に示す真空蒸着装置を用いて、CsIを母材、CuIを添加材料、TlIを賦活剤とする柱状結晶構造の蒸着膜を形成したものである。
【0051】
蒸着原料72aとして、CsIにCuIを0.5重量%で混合したものを、材料供給源71aに充填した。加えて蒸着原料72cとして、TlIを材料供給源71cに充填した。また、蒸着面77に基板4をセットした。基板4は第1の比較例と同様に、シリコン基板にアルミニウム反射層を厚さ100nm、二酸化ケイ素を厚さ50nm積層したものを用いた。
【0052】
蒸着装置内を0.01Pa以下になるまで真空排気した後、各々の材料供給源71に電流を徐々に流して加熱する。設定温度に達したところで、回転部78により基板4の回転を行いつつ、基板4と材料供給源71の間に設けられたシャッター75を開けることで成膜を開始した。なお、基板温度は60℃から130℃まで徐々に昇温した。成膜の様子を確認しつつ、所望の膜厚が形成されたところで全てのシャッター75を閉じて成膜を終了した後、基板4の温度をさらに160℃まで昇温した。
【0053】
成膜された基板4を室温まで冷却後蒸着装置より取り出し、蒸着膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察すると、基板4上には
図4(b)のように下地層3は形成されず、柱状結晶5のみが形成されていること確認できた。さらに、蒸着膜を基板4から剥がし、基板4と蒸着膜が接していた面、及び蒸着膜断面をEDSで元素マッピング評価したが、本発明における下地層3の形成は見られなかった。
【0054】
蛍光X線分析装置で化学組成を測定すると、母材に対してTlが0.69mol%、銅が1.0mol%検出された。第1の比較例と同様にMTF(2)を求め、第1の比較例のMTF(2)を100とした相対評価を行ったところ、その値は103であった。
【0055】
(第1の実施例)
本実施例は、
図7に示す真空蒸着装置を用いて、CsIを母材、CuIを添加材料、TlIを賦活剤とする柱状結晶構造の蒸着膜を形成したものである。
【0056】
蒸着原料72aとして、CsIにCuIを0.3重量%で混合したものを材料供給源71aに充填した。加えて蒸着原料72bとして、CuIを材料供給源71bに充填した。さらに蒸着原料72cとして、TlIを材料供給源71cに充填した。また、蒸着面77に基板4をセットした。基板4は比較例と同様に、シリコン基板にアルミニウム反射層を厚さ100nm、二酸化ケイ素を厚さ50nm積層したものを用いた。
【0057】
蒸着装置内を0.01Pa以下になるまで真空排気した後、基板4の温度を60℃に保持した。各々の材料供給源71に電流を徐々に流して加熱し、設定温度に達したところで、回転部78により基板4の回転を行いつつ、基板4と材料供給源71の間に設けられたシャッター75を開け、下地層3の成膜を開始した。次にシャッター75を閉じ、基板4の温度を60℃から130℃まで徐々に昇温させながら、上部層の成膜を行った。所望の膜厚が形成されたところで全てのシャッターを閉じて成膜を終了した。
【0058】
成膜された基板4を室温まで冷却後取り出し、蒸着膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察すると、基板4上に
図4(a)のような下地層3が明瞭に観察でき、その上に柱状結晶5が分離良く形成されている様子を確認できた。さらに、蒸着膜を基板4から剥がし、基板4と蒸着膜が接していた面、及び蒸着膜の膜断面をEDSで元素マッピング評価を実施した。すると、
図1(a)と
図1(b)のように、本発明における下地層3の形成及び、下地層3において主相1と副相2とが相分離されている様子が確認できた。
【0059】
蛍光X線分析装置で化学組成を測定すると、母材に対してTlが0.83mol%、銅が25.0mol%検出された。比較例と同様にMTF(2)を求め、第1の比較例のMTF(2)を100とした相対評価を行ったところ、その値は126であった。
【0060】
以上より、下地層3において主相1と副相2とが相分離した構造を有し、その上に形成された柱状結晶5を用いたシンチレータは、柱状結晶5の間で起こる光散乱を抑制することができ、分解能を向上することが可能であることがわかった。
【0061】
(第2の実施例)
本実施例は、
図7に示す真空蒸着装置を用いて、CsIを母材、CuIを添加材料、TlIを賦活剤とする柱状結晶構造の蒸着膜を形成したものである。
【0062】
蒸着原料72aとして、CsIを材料供給源71aに充填した。加えて蒸着原料72bとして、CuIを材料供給源71bに充填した。さらに蒸着原料72cとしてTlIを材料供給源71cに充填した。また蒸着面77に基板4をセットした。CsIの材料供給源71aから蒸着面77への蒸発粒子の入射角は60度とした。基板4は比較例と同様に、シリコン基板にアルミニウム反射層を厚さ100nm、二酸化ケイ素を厚さ50nm積層したものを用いた。
【0063】
蒸着装置内を0.01Pa以下になるまで真空排気した後、基板4の温度を40℃に保持した。各々の材料供給源71に電流を徐々に流して加熱し、設定温度に達したところで、回転部78により基板4の回転を行いつつ、基板4と材料供給源71の間に設けられたシャッター75を開け、下地層3の成膜を開始した。次にシャッター75を閉じ、基板4の温度を40℃から140℃まで徐々に昇温させながら、上部層の成膜を行った。所望の膜厚が形成されたところで全てのシャッターを閉じて成膜を終了した。
【0064】
成膜された基板4を室温まで冷却後取り出し、蒸着膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察すると、第1の実施例と同様に、基板4上に
図4(a)のような下地層3が明瞭に観察でき、その上に柱状結晶5が分離良く形成されている様子が確認できた。
【0065】
蛍光X線分析装置で化学組成を測定すると、母材に対してTlが0.76mol%、銅が5.0mol%検出された。比較例と同様にMTF(2)を求め、第1の比較例のMTF(2)を100とした相対評価を行ったところ、その値は107であった。
【0066】
以上より、下地層3において主相1と副相2とが相分離した構造を有し、その上に形成された柱状結晶5を用いたシンチレータは、柱状結晶5の間で起こる光散乱を抑制することができ、分解能を向上することが可能であることがわかった。
【0067】
以上、本発明に係る実施例を示したが、本発明はこれらに限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でその一部が変更されてもよい。また、本明細書に記載された個々の用語は、本発明を説明する目的で用いられたものに過ぎず、本発明は、その用語の厳密な意味に限定されるものでないことは言うまでもなく、その均等物をも含みうる。
【符号の説明】
【0068】
1 主相
2 副相
3 下地層
4 基板
5 柱状結晶
10 共晶点
71 材料供給源
72 蒸着原料
75 シャッター
77 蒸着面
79 真空チャンバー
101 X線
102 光検出器
103 反射層
104 反射層付き基板