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特許7504793三七とアスピリンの併用又は組み合わせの新用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】三七とアスピリンの併用又は組み合わせの新用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/258 20060101AFI20240617BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240617BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240617BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240617BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20240617BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240617BHJP
   A61K 9/22 20060101ALI20240617BHJP
   A61K 9/52 20060101ALI20240617BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240617BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240617BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240617BHJP
   A61K 31/616 20060101ALN20240617BHJP
   A61K 31/704 20060101ALN20240617BHJP
【FI】
A61K36/258
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/14
A61K9/19
A61K9/20
A61K9/22
A61K9/52
A61P1/04
A61P9/10
A61P9/10 101
A61P43/00 121
A61K31/616
A61K31/704
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020537819
(86)(22)【出願日】2017-12-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 CN2017115813
(87)【国際公開番号】W WO2019056592
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2020-10-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】201710873249.7
(32)【優先日】2017-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520101410
【氏名又は名称】中国医学科学院薬用植物研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】孫暁波
(72)【発明者】
【氏名】孟祥宝
(72)【発明者】
【氏名】孫桂波
(72)【発明者】
【氏名】徐惠波
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】齋藤 恵
【審判官】田村 直寛
(56)【参考文献】
【文献】He, L. et al.,Radix/rhizoma notoginseng extract(sanchitongtshu) for ischemic stroke: a randomized controlled study,Phytomedicine,2011年,Vol.18, No.6,p.437-442,doi:10.1016/j.phymed.2010.10.004
【文献】Yang, Q. et al.,Influence of Panax Notoginseng Saponins Combined with Aspirin on Senile Coronary Heart Disease by Thromboela-stogram,J Nanjing Univ Tradit Chin Med (南京中医薬大学学報),2016年09月,Vol.32, No.5, p.425-427
【文献】[online],2017年03月29日,[2021年9月14日検索], インターネット<URL:https://kepu.gmw.cn/2017-03/29/content_24084151.htm>
【文献】[online],2017年03月29日,[2021年9月14日検索], インターネット<URL:http://health.people.com.cn/n1/2017/0329/c14739-29176693.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K36/00-9068
A61K31/00-80
A61K 9/00-72
A61K47/00-69
DB名 CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心血管・脳血管疾患の予防または治療のための薬剤の製造における三七総サポニンとアスピリンの併用又は組み合わせの使用であって
前記三七総サポニンとアスピリンの重量比は10:1であり、
前記心血管疾患は、冠状動脈性心臓病、急性心筋梗塞及びほかのアテローム性動脈硬化性血管疾患を含む群から選ばれ、
前記脳血管疾患は、虚血性脳卒中および血栓性脳血管疾患を含む群から選ばれる、
ことを特徴とする、三七総サポニンとアスピリンの併用または組み合わせの使用
【請求項2】
前記予防は、心血管・脳血管疾患の予防及び治療における一次又は二次防である、ことを特徴とする請求項1に記載の三七総サポニンとアスピリンの併用または組み合わせの使用
【請求項3】
併用する場合、三七総サポニンの用量範囲が25-500mg/dであり、アスピリンの用量範囲が20-700mg/dである、ことを特徴とする請求項に記載の三七総サポニンとアスピリンの併用または組み合わせの使用
【請求項4】
前記三七総サポニンとアスピリンの併用又は組み合わせの使用はまた、アスピリンによるラット胃粘膜傷害を軽減する、ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の三七総サポニンとアスピリンの併用または組み合わせの使用
【請求項5】
前記三七総サポニンとアスピリンの併用または組み合わせの使用は、投与期間が、1週間から長期で投与される、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の三七総サポニンとアスピリンの併用または組み合わせの使用
【請求項6】
三七総サポニンは、アスピリン及び薬学的に許容される担体とともに、臨床的に許容される任意の剤形を調製するために混合される、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の三七総サポニンとアスピリンの併用または組み合わせの使用
【請求項7】
前記剤形は、口腔内崩壊錠、徐放錠、口腔内崩壊錠、徐放錠、放出制御錠剤を含む錠剤、徐放カプセル、放出制御カプセルを含むカプセル、経口液、シロップ、顆粒、滴下丸薬、水針、凍結乾燥粉末注射剤、無菌粉末注射剤、又は輸液剤から選ばれる、ことを特徴とする請求項に記載の三七総サポニンとアスピリンの併用または組み合わせの使用
【請求項8】
前記薬学的に許容される担体は、充填剤、結合剤、潤滑剤、崩壊剤、共溶媒、界面活性剤、吸着担体、溶剤、酸化防止剤、共溶媒、吸着剤、浸透圧調整剤、pH調整剤から選ばれる、ことを特徴とする請求項に記載の三七総サポニンとアスピリンの併用または組み合わせの使用
【請求項9】
アスピリンにより引き起こされる胃腸粘膜傷害を抑制するための薬剤の製造における三七総サポニンとアスピリンの併用又は組み合わせの使用であって
前記三七総サポニンとアスピリンの重量比は10:1である、
ことを特徴とする、三七総サポニンとアスピリンの併用または組み合わせの使用。
【請求項10】
前記胃腸粘膜傷害は胃粘膜傷害であることを特徴とする、請求項9に記載の三七総サポニンとアスピリンの併用または組み合わせの使用。
【請求項11】
前記胃腸粘膜傷害は十二指腸微絨毛傷害であることを特徴とする、請求項9に記載の三七総サポニンとアスピリンの併用または組み合わせの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漢方薬の分野に属し、具体的には、心血管・脳血管疾患の予防及び治療における三七と化学薬品のアスピリンの併用又は組み合わせの応用に関し、特に、心血管・脳血管疾患の予防における三七漢方薬(根、切り口、筋、茎葉等の様々な漢方薬製品)、三七抽出物、三七有効部位及びその三七製剤とアスピリンの応用に関し、アスピリンによるラット胃粘膜傷害を軽減するとともに、出血のリスクを低減させ、効果強化及び毒性軽減の効果を奏する。
【背景技術】
【0002】
心血管・脳血管疾患の二予防とは、冠状動脈性心臓病、脳梗塞やほかのアテローム性動脈硬化性血管疾患が発症した患者の早期発見、早期診断、早期治療を指し、それは、症状を改善し、病死・障害率を低減させ、疾患の進行を防止し、予後を改善し、冠状動脈性心臓病、脳梗塞等の疾患の再発を防止することを目的とする。現在、臨床において一般的に使用される心血管・脳血管疾患の二級予防薬はアスピリンであり、主な目的は、血小板の凝集と放出を防止し、プロスタグランジンとトロンボキサンA2のバランスを改善し、動脈硬化性血栓症の形成を予防し、冠状動脈性心臓病又は脳梗塞の再発を防止するということである。しかし、アスピリンには、消化道出血、頭蓋内出血やアスピリン耐性などの副作用があるため、その使用に影響を及ぼす。
【0003】
漢方薬は、マルチチャネル・マルチターゲットの作用効果があり、心血管・脳血管疾患の制御に対して独特な優位性があり、全体的な調節を重視化し、毒作用や副作用が小さいため、臨床医により広く認められている。
【0004】
三七は、ウコギ科多年生草本植物である三七の根であり、甘くて少し苦味があり、湿った特性を持ち、肝臓、胃に作用を奏し、生製品は、うっ血を減らして、出血を止め、腫れを減らして、痛みを和らげ、喀血、吐血、外傷による腫れ、外傷による出血に効き、熟製品は、血を補って血の流れを良くし、失血や貧血に使用される。従って、三七は、伝統的な漢方薬として、体内及び体外で発生した各種の出血や外傷による損傷、うっ滞、腫れ、痛みに用いられる薬物である。三七総サポニンは、三七の有効活性成分であり、中国国内外での研究により、抗酸化ストレス、抗炎症の効果があり、且つ体外及び体外で明確な神経保護効果があり、脳虚血の改善、血小板凝集の抑制、血液粘度の低減、抗血栓等に使用できることが証明されている。しかし、心血管・脳血管疾患における三七総サポニンの作用メカニズムについては詳細に研究されておらず、アスピリン等の抗血小板薬物と併用する発明創造もなく、三七総サポニンとアスピリンの併用の研究開発は、薬物の相乗作用及び毒性軽減という使用効果を十分に発揮することができ、その有効性を向上させ、臨床における心血管・脳血管疾患の治療及び予防のために、より安全で効果的な薬物の組み合わせ及び使用方法を提供する。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、心血管・脳血管疾患の予防及び治療における三七とアスピリンの併用又は組み合わせの応用を提供する。特に一又は二予防への応用である。
【0006】
本発明は、心血管・脳血管疾患を予防及び治療するとともに、アスピリンによるラット胃粘膜傷害を軽減するための三七とアスピリンの併用又は組み合わせの応用を提供する。
【0007】
本発明は、三七とアスピリンを併用又は組み合わせて使用することにより心血管・脳血管疾患を予防及び治療し、両方は相乗作用を果たし、心血管・脳血管疾患の予防及び治療に対して良好な効果を奏するとともに、アスピリンによるラット胃粘膜傷害を軽減する。
【0008】
本発明の前記三七は、市販製品、三七漢方薬(根、切り口、筋、茎葉等の様々な漢方薬製品)、生薬から常法により抽出して製造される三七抽出物、三七有効成分及びその三七製剤(注射剤、経口剤などのさまざまな製剤を含む)を含む。
【0009】
本発明の三七抽出物は、水抽出法、水抽出アルコール沈殿法、抽出法、浸漬法、浸透法、還流抽出法、連続還流抽出法、多孔質樹脂吸着法などで製造できる。薬効をより良好に発揮するために、以下の方法で三七を抽出することが好ましいが、本発明の保護範囲を制限するものではない。三七の根を粉砕してエタノールで抽出し、抽出液をエタノールで回収し、濃縮してからマクロポーラス吸着樹脂カラムに加え、水及びエタノールで順に溶離し、エタノール溶離液を収集し、エタノールを回収して乾燥させる。
【0010】
三七抽出物において、三七総サポニンの含有量は55-90%重量%である。
【0011】
本発明の好ましい技術案は、心血管・脳血管疾患を予防及び治療するとともに、アスピリンによるラット胃粘膜傷害を軽減するための三七総サポニンとアスピリンの併用又は組み合わせの応用である。
【0012】
本発明は、三七、アスピリン及び薬学的に許容される担体を用いて、臨床的に許容される任意の剤形を調製してなる医薬組成物を提供する。三七総サポニンとアスピリンの組み合わせは好ましい。
【0013】
本発明の前記三七総サポニンとアスピリンを併用する場合、三七総サポニンの用量範囲が25-500mg/dであり、アスピリンの用量範囲が20-700mg/dである。好ましくは、三七総サポニンの用量範囲が250-500mg/dであり、アスピリンの用量範囲が81-100mg/dである。
【0014】
本発明の前記三七総サポニンとアスピリンを組み合わせて使用する場合、三七総サポニンとアスピリンの重量比が3-94:6-97である。好ましくは、三七総サポニンとアスピリンの重量比が71-86:14-29である。
【0015】
本発明の投与期間が、1週間から長期である。
【0016】
本発明の前記医薬組成物剤形は、口腔内崩壊錠、徐放錠、口腔内崩壊錠、徐放錠、放出制御錠剤を含む錠剤、徐放カプセル、放出制御カプセルを含むカプセル、経口液、シロップ、顆粒、滴下丸薬、水針、凍結乾燥粉末注射剤、無菌粉末注射剤、又は輸液剤から選ばれる。
【0017】
前記薬学的に許容される担体は、充填剤、結合剤、潤滑剤、崩壊剤、共溶媒、界面活性剤、吸着担体、溶剤、酸化防止剤、共溶媒、吸着剤、浸透圧調整剤、pH調整剤から選ばれる。
【0018】
本発明は、心血管・脳血管疾患の予防及び治療における三七とアスピリンの併用又は組み合わせの応用である。両方は相乗作用及び毒性低減の作用を果たし、心血管・脳血管疾患を予防及び治療するとともに、アスピリンによるラット胃粘膜傷害の軽減に対して良好な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】三七総サポニンは、アスピリンによるラット胃粘膜傷害を顕著に軽減する。
図2】三七総サポニンは、アスピリンによるラット十二指腸微絨毛傷害を顕著に軽減する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実験例にて本発明の前記薬物の有益な効果をさらに説明し、これらの実験例は、本発明の組成物の脳血管疾患の予防及び治療への作用を含む。
【0021】
実施例1:ラットの心筋虚血再灌流障害における三七総サポニンとアスピリンの併用の相乗作用
1.試験動物
健康な雄SDラット(体重280-300g)を、北京維通利華実験動物公司により提供し、中国医学科学院薬用植物研究所の動物センターで飼育した。動物を1週間適応的に飼育した後に試験に用いた。実験前に中国医学科学院/北京協和医学院薬用植物研究所の実験動物管理及び動物福祉委員会によって審査して承認した。
【0022】
2.試験方法
2.1 動物群の分け及び薬物処置
240匹の雄SDラットを8群にランダムに分け、1群ごとに30匹とし、それぞれ、偽手術群、心筋虚血再灌流障害モデル群、三七総サポニン(50mg/kg)群、アスピリン(10mg/kg)群、アスピリン(5mg/kg)群、三七総サポニン(50mg/kg)+アスピリン(5mg/kg)群とした。三七総サポニンとアスピリン処置群に対しては、前週に毎日強制経口投与し、偽手術群とモデル群のラットに対しては、等体積の蒸留水を強制経口投与した。
【0023】
2.2モデルの作成
ペントバルビタールナトリウム(体重で40mg/kg)を腹腔内注射してラットを麻酔し、経口カニューレを介して呼吸数70回/分、呼吸比1:1、一回換気量1mLの小動物人工呼吸器に接続し、AD Instruments製マルチチャンネル生理学的レコーダーを採用してラットの心電図をリアルタイムに記録した。ラットに対して胸骨切開術を行い、胸骨の左側の約0.5cm、3~4肋間に約2~3cm切開し、肋骨を開胸器で押し開き、呼気中に心膜を切開して、心臓を露出させた。左冠静脈幹をマークとして、肺動脈円錐と左心耳の間に、左心耳の下方の約2mmで、6-0絹糸を針に通して心筋表面の約1~1.5mmまで刺し、スパンを2~3mmとした。5min安定化させた後、絹糸を長さが約3.5cmの使い捨て型点滴用ホースに通し、糸を通した後、糸の一端を軽く引き上げ、ホースを押し下げ、止血鉗子でクランプして固定した。30min虚血後、止血鉗子を緩め、結紮糸を除去した後、1d、3d、7d及び14d再灌流し、心筋虚血再灌流障害モデルを作成した。結紮成功の判断標準は、心電図のSTセグメントが上昇し、局所心筋組織の色が赤から灰白になり、30min再灌流した後、STセグメントが50%以上低下し、心筋の色が灰白から赤になることであった。
【0024】
2.3 心筋梗塞の体積の測定
心筋梗塞の体積をテトラゾリウムレッド(TTC)染色で測定した。ラット(n=5)を24h再灌流した後、断首して殺して、心臓を迅速に取り出し、-20℃の冷蔵庫に入れて短時間凍結した後、アイストレイに置いて厚さ2mmで5枚に切り、心臓切片を1.5mLの2%TTC溶液に入れて暗所で30minインキュベートし、次に心臓切片を10%パラホルムアルデヒドに入れて一晩固定し、写真を撮り分析した。Image-Pro plus 5.1ソフトウェアを使用して心筋梗塞の体積を測定して計算した。
【0025】
2.4 心筋の三種の酵素指標の検出
再灌流が終わった後、腹部大動脈から血液を採取し、自動生化学分析装置で血漿中の心筋の三種の酵素(AST、LDH、CK)のレベルを検出した。
【0026】
3. 実験結果
3.1 三七総サポニンとアスピリンの併用による、心筋虚血再灌流障害によって誘発される心筋梗塞の体積の減少
表-1に示されるように、偽手術群に比べて、心筋虚血再灌流障害モデル群の心筋梗塞の体積は大幅に増加し、モデル群に比べて、三七総サポニンとアスピリン処置群の心筋梗塞の体積は大幅に減少した。アスピリン(10mg/kg)単独使用群に比べて、三七総サポニン(50mg/kg)とアスピリン(5mg/kg)併用群の心筋梗塞の体積は大幅に減少した。
【0027】
【表1】
【0028】
3.2 三七総サポニンとアスピリンの併用による、虚血再灌流障害における心筋組織のAST、LDH、CK活性の低下
表-2に示されるように、偽手術群に比べて、虚血再灌流障害モデル群の心筋組織におけるAST、LDH、CKは大幅に増加し、モデル群に比べて、三七総サポニンとアスピリン処置群の心筋組織におけるAST、LDH、CKは大幅に減少した。アスピリン(10mg/kg)単独使用群に比べて、三七総サポニン(50mg/kg)とアスピリン(5mg/kg)併用群の心筋組織におけるAST、LDH、CKは大幅に減少した。
【0029】
【表2】
【0030】
実施例2:ラットの脳虚血再灌流障害における三七総サポニンとアスピリンの併用の相乗作用
1.試験動物
健康な雄SDラットを、北京維通利華実験動物公司から提供し、中国医学科学院薬用植物研究所の動物センターで飼育した。動物を1週間適応的に飼育した後に試験に用いた。実験前に中国医学科学院/北京協和医学院薬用植物研究所の実験動物管理及び動物福祉委員会によって審査して承認した。
【0031】
2. 試験方法
2.1 動物群の分け及び薬物処置
240匹の雄SDラットを8群にランダムに分け、1群ごとに30匹とし、それぞれ、偽手術群、中大脳動脈塞栓(MCAO/R)モデル群、三七総サポニン(50mg/kg)群、アスピリン(10mg/kg)群、アスピリン(5mg/kg)群、三七総サポニン(50mg/kg)+アスピリン(5mg/kg)群とした。三七総サポニンとアスピリン処置群に対しては、MCAOの前週に毎日強制経口投与し、偽手術群とMCAOモデル群のラットに対しては、等体積の蒸留水を強制経口投与した。
【0032】
2.2 中大脳動脈閉塞(MCAO)モデル
縫合閉塞法で中大脳動脈閉塞(MCAO)モデルを作成し、手術中に厳密に無菌で操作し、主な手術過程は、以下のとおりであった。ケタミン(80mg/kg)とキシラジン(10mg/kg)を腹腔内注射してラットを麻酔し、総頸動脈(CCA)、外頸動脈(ECA)及び内頸動脈(ICA)を分離して、微小動脈クランプで総頸動脈をクランプし、双極電気凝固ペンで外頸動脈の分岐を電気凝固した。外頸動脈の主幹を遊離し、総頸動脈の分岐から3~4mmの箇所で結紮した。微小動脈クランプで内頸動脈を一時的にクランプし、眼科用剪刀で外頸動脈に小さな開口を切開し、メチルポリシロキサンでコーティングされた4-0モノフィラメントナイロン糸を挿入して、外頸動脈の切り口で結紮糸を緩めに結び、内頸動脈の血液の逆流を遮断し、内頸動脈の微小動脈クランプを取り外し、ナイロン糸を内頸動脈に軽く押し込んで、頭蓋内の前大脳動脈に送達し、中大脳動脈(MCA)の開口を遮断し、挿入深さを約18-22mmとした。総頸動脈の微小動脈クランプを取り外し、消毒後、皮下組織と皮膚を層ごとに縫合し、術後2h、ナイロン糸をゆっくりと引き出してから、24h再灌流した。偽手術群では、ナイロン糸を挿入しない以外、残りの操作は同じであった。実験に亘って、すべてのラットの直腸温度は37℃に維持された。
【0033】
2.3 神経学的機能の評価
Longaの5級スコアリング方法ですべてのラットに対して神経行動学的にスコアリングした。Longaスコアリングの基準は以下のとおりであった。0:正常であり、神経学的障害がない。1:左前肢に伸展障害があり、機能が低下している。2:左に回し、左前肢が不随になり、機能が深刻に低下し、ラットの尾が持ち上げられると、ラットは絶えずに障害部に振り向く。3:歩くときに左側に転倒する。4:肢体が不随になり、無意識になる。5、死亡。
【0034】
2.4 脳含水量の測定
乾湿重量法で脳組織含水量を測定し、つまり、先ず、ラット(n=10)の脳組織を坩堝内に入れ、秤量した後、それぞれ記録し、次に、番号の付いた脳組織を110℃のオーブンに入れて24h以上ベーキングし、一定の重量に達した後、乾燥した脳の重量を量り、以下の式により脳組織の含水率を計算した。脳組織含水量=(湿重量-乾燥重量)/湿重量×100%
【0035】
2.5 脳梗塞の体積の測定
脳梗塞の体積をテトラゾリウムレッド(TTC)染色で測定した。ラット(n=5)を24h再灌流した後、断首により殺して、脳全体を迅速に取り出し、-20℃の冷蔵庫に入れて短時間凍結した後、アイストレイに置いて嗅球を取り除き、前脳を冠状面に沿って厚さ2mmで5枚に切り、脳切片を1.5mLの2%TTC溶液に入れて暗所で30minインキュベートし、次に脳切片を10%パラホルムアルデヒドに入れて一晩固定し、写真を撮り分析した。Image-Pro plus 5.1ソフトウェアを使用して脳梗塞の体積を測定して計算した。
【0036】
2.5 血小板の最大凝集率の測定
動物(n=10)から血液3.6mLを採取し、3.8%クエン酸ナトリウム(9:1)で抗凝固処置し、150gを10min遠心分離し、多血小板血漿を分離し、次に、1500gを10min遠心分離し、上清液を取って、乏血小板血漿を得た。多血小板血漿0.3mLを比濁管内に入れ、乏血小板血漿で光透過率を調整し、アデノシン二リン酸(ADP)を誘発剤として使用し(最終濃度2μmol/L)、5min内の多血小板血漿における血小板の最大凝集及び最大凝集時間を血液凝集装置で検出した。
【0037】
2.6 酸化ストレス指標、イヌ尿素及び炎症因子の検出
動物(n=8)の腹部大動脈から血液5mLを採取し、3000rpmで10min遠心分離して、血清を得た。脳組織を取り、海馬と大脳皮質を分離し、組織をホモジネートし、3000rpmで10min遠心分離して、上清を得た。南京建成製キットで血清MDA、SOD、CAT及びGSH-Pxのレベルを検出し、ELISAキットでイヌ尿素及び炎症反応指標MCP-1、TNF-α、IL-1β、IL-4、IL-6及びIL-10のレベルを検出した。
【0038】
2.7データ統計
SPSS統計ソフトウェアで統計して分析した。対応しないt検出とOne-way ANOVAで計量データの統計分析を行い、P<0.05は統計学的差異があることを示す。
【0039】
3. 実験結果
3.1 三七総サポニンとアスピリンの併用による、MCAO/Rによって誘発されるラットの神経学的機能障害の改善
表-3に示されるように、偽手術群に比べて、MCAO/Rモデル群の神経学的機能障害のスコアリングは大幅に増加し、MCAO/Rモデル群に比べて、三七総サポニンとアスピリン処置群の神経学的機能障害のスコアリングは大幅に減少した。アスピリン(10mg/kg)単独使用群に比べて、三七総サポニン(50mg/kg)とアスピリン(5mg/kg)併用群の神経学的機能障害のスコアリングは大幅に減少した。
【0040】
【表3】
【0041】
3.2 三七総サポニンとアスピリンの併用による、MCAO/Rによって誘発されるラットの脳梗塞の体積の低減
表-4に示されるように、偽手術群に比べて、MCAO/Rモデル群の脳梗塞の体積は大幅に増加し、MCAO/Rモデル群に比べて、三七総サポニンとアスピリン処置群の脳梗塞の体積は大幅に減少した。アスピリン(10mg/kg)単独使用群に比べて、三七総サポニン(50mg/kg)とアスピリン(5mg/kg)併用群の脳梗塞の体積は大幅に減少した。
【0042】
【表4】
【0043】
3.3 三七総サポニンとアスピリンの併用による、血小板の最大凝集率の低減
表-5に示されるように、偽手術群に比べて、MCAO/Rモデル群の血小板の最大凝集率は大幅に増加し、MCAO/Rモデル群に比べて、三七総サポニンとアスピリン処置群は血小板の最大凝集率を大幅に低減させた。アスピリン(10mg/kg)単独使用群に比べて、三七総サポニン(50mg/kg)とアスピリン(5mg/kg)併用群の血小板の最大凝集率は増加し、有意差がなかった。
【0044】
【表5】
【0045】
3.4 三七総サポニンとアスピリンの併用による、血清中の炎症因子の低減、及び抗炎症因子の増加
表-6に示されるように、偽手術群に比べて、MCAO/Rモデル群のラットの血清IL-1β、IL-4、IL-6、IL-10、TNF-α、MCP-1はいずれも大幅に増加し、MCAO/Rモデル群に比べて、三七総サポニンとアスピリン処置群のラットの血清IL-1β、IL-6、TNF-α、MCP-1は大幅に減少し、IL-4とIL-10は大幅に増加し、アスピリン(10mg/kg)単独使用群に比べて、三七総サポニン(50mg/kg)とアスピリン(5mg/kg)併用群のIL-6、MCP-1は大幅に減少し、IL-10は大幅に増加した。
【0046】
【表6】
【0047】
3.5 三七総サポニンとアスピリンの併用による、血清、海馬及び大脳皮質組織中のイヌ尿素のレベルの低減
表-7に示されるように、偽手術群に比べて、MCAO/Rモデル群の血清、海馬及び大脳皮質組織中のイヌ尿素のレベルは大幅に高くなり、MCAO/Rモデル群に比べて、三七総サポニンとアスピリン処置群は血清、海馬及び大脳皮質組織中のイヌ尿素のレベルを大幅に低減させた。アスピリン(10mg/kg)単独使用群に比べて、三七総サポニン(50mg/kg)とアスピリン(5mg/kg)併用群の血清、海馬及び大脳皮質中のイヌ尿素のレベルは大幅に低減した。
【0048】
【表7】
【0049】
実施例3:アスピリンによって誘発される胃腸粘膜傷害に対する三七総サポニンの抑制作用
1. 試験動物
健康な雄SDラット(体重280-300g)を、北京維通利華実験動物公司から提供し、中国医学科学院薬用植物研究所の動物センターで飼育した。動物を1週間適応的に飼育した後試験に用いた。実験前に中国医学科学院/北京協和医学院薬用植物研究所の実験動物管理及び動物福祉委員会によって審査して承認した。
【0050】
2. 試験方法
2.1 動物群の分け及び薬物処置
40匹の雄SDラットを4群にランダムに分け、1群ごとに10匹とし、それぞれ、空白対照群、アスピリン(10mg/kg)群、三七総サポニン(100mg/kg)+アスピリン(10mg/kg)群、三七総サポニン(100mg/kg)群とした。三七総サポニンとアスピリン処置群に対しては、三七総サポニンとアスピリンを毎日強制経口投与し、合計4週間投与し、空白対照群のラットに対しては、等体積の生理的食塩水を毎日強制経口投与した。
【0051】
2.2 HE染色による胃粘膜の病理学的変化の検出
4週間投与した後、各群のラットの胃組織を取り、4%ホルムアルデヒド溶液で固定し、常用のパラフィンで包埋してスライシングし、組織の炎症の病変の程度をHE染色で観察した。
【0052】
2.3 透過型電子顕微鏡による十二指腸絨毛の超微細構造の検出
4週間投与した後、各群のラットの十二指腸を取り、2.5%グルタルアルデヒド緩衝液で2h固定し、次に、PH7.4緩衝液で3回洗浄して、1%四酸化オスミウムで30min浸漬し、分別用アルコール及びアセトンで脱水し、その後エポキシ樹脂812に埋め込み、極薄切片を製造し、200メッシュの銅グリッドを取り、酢酸ウラニル及びクエン酸鉛で再浸染し、次に各群のラットの十二指腸の超微細構造の変化を電子顕微鏡で観察した。
【0053】
3. 実験結果
3.1 三七総サポニンによる、アスピリンによるラット胃粘膜傷害の大幅な軽減
図1に示されるように、空白対照群に比べて、アスピリン群のラットの胃粘膜の上皮細胞が壊死し、炎症性細胞が浸潤した。アスピリン群に比べて、三七総サポニンは、アスピリンによる胃粘膜上皮細胞の壊死及び炎症性細胞の浸潤を大幅に軽減することができた。三七総サポニンを単独で使用する場合、ラットの胃粘膜に対して有意な影響がなかった。
【0054】
3.2 三七総サポニンによる、アスピリンによるラットの十二指腸微絨毛傷害の大幅な軽減
図2に示されるように、空白対照群に比べて、アスピリン群のラット十二指腸の表面の微絨毛が減少した。アスピリン群に比べて、三七総サポニンは、アスピリンによる十二指腸の表面の微絨毛傷害を大幅に軽減することができた。三七総サポニンを単独で使用する場合、ラットの胃粘膜に対して有意な影響がなかった。
【0055】
もちろん、本発明の上記実施例は、本発明を明瞭に説明するための例に過ぎず、本発明の実施形態を限定するものではない。当業者にとって、上記説明に基づいて、ほかのさまざまな形態の変化又変更を行うことができる。ここで、あらゆる実施形態を挙げる必要がなく、また、それも不可能である。これらの本発明の主旨から得られる自明な変化又は変更も、本発明の保護範囲に属する。
図1
図2