(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】ソレノイド装置
(51)【国際特許分類】
H01F 7/16 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
H01F7/16 Z
H01F7/16 D
(21)【出願番号】P 2021057274
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(74)【代理人】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】藤本 直樹
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-027012(JP,U)
【文献】特開平10-022123(JP,A)
【文献】実開昭60-149111(JP,U)
【文献】実開昭61-194864(JP,U)
【文献】実開昭48-008659(JP,U)
【文献】実開昭62-126807(JP,U)
【文献】特開平09-115726(JP,A)
【文献】特開2002-199688(JP,A)
【文献】特開平07-283026(JP,A)
【文献】特開昭57-024510(JP,A)
【文献】実開昭61-040738(JP,U)
【文献】実開昭53-44756(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06-31/11
H01F 7/06- 7/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソレノイドケースと、前記ソレノイドケースの内方に収容されるコイルと、固定鉄心と、軸方向に往復動可能に配置され、前記コイルへの通電により生じる電磁力により少なくとも軸方向の固定鉄心側に移動される可動鉄心と、を備えるソレノイド装置であって、
前記可動鉄心が軸方向の前記固定鉄心側に位置する前記ソレノイドケースと前記可動鉄心との特定の相対位置にて、前記ソレノイドケースと前記可動鉄心とが機械的に係合する係合手段を備え
、
前記係合手段は、前記ソレノイドケースと前記可動鉄心とのいずれか一方に設けられた凹部と、他方に設けられ該凹部に向けて進退可能な可動凸部と、から構成されており、
前記凹部は、前記固定鉄心側に該固定鉄心側に漸次拡径するテーパ面を有することで軸方向に非対称形状に形成されており、
前記特定の相対位置において、前記コイルへの通電が停止されると、スプリングの付勢力によって前記可動凸部が前記テーパ面上を摺動することで該可動凸部と前記凹部との係合が解除され、前記可動鉄心は前記固定鉄心から離間する方向に移動するソレノイド装置。
【請求項2】
前記可動凸部は、前記ソレノイドケースと前記可動鉄心とのいずれか他方に径方向に形成された穴部に配設された押しバネにより可動される請求項
1に記載のソレノイド装置。
【請求項3】
前記凹部は、周方向に無端状に形成されている請求項
1または2に記載のソレノイド装置。
【請求項4】
前記可動凸部は、周方向に1箇所のみ設けられている請求項
1ないし3のいずれかに記載のソレノイド装置。
【請求項5】
前記凹部は前記可動鉄心に形成され、前記可動凸部は前記ソレノイドケースに設けられている請求項
1ないし
4のいずれかに記載のソレノイド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動鉄心により各種装置を作動させるソレノイド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な産業分野において弁や機械などの各種装置を作動させる手段として、ソレノイド装置が利用されている。ソレノイド装置は、コイルに通電されることで往復動可能に収容された可動鉄心を電磁的に移動させることにより、各種装置を作動させるようになっている。
【0003】
一般的にソレノイド装置は、磁性体から構成されるソレノイドケースと、ソレノイドケースの内方に収容されコイルと、固定鉄心と、可動鉄心と、を具備し、コイルへの通電により固定鉄心と可動鉄心との間に磁力を発生させ、可動鉄心を軸方向の固定鉄心側に移動させるものであり、可動鉄心には各種装置に当接または接続されるロッドが軸方向一端側に延びている。このようなソレノイド装置の構造は、多種多様であるが、可動鉄心を固定鉄心側に引き寄せる永久磁石を別に設けたものもある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
例えば、特許文献1に示されるソレノイド装置は、可動鉄心に永久磁石が埋設されており、この永久磁石の磁力により可動鉄心が固定鉄心側に引き寄せられる構成となっている。これによれば、永久磁石の磁力を利用することで、固定鉄心側で可動鉄心の位置を保持するために必要なコイルへの通電量を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平1-302707号公報(第2頁、第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように特許文献1のようなソレノイド装置にあっては、常時磁力が発生している永久磁石を用いることで、通電時に磁力を発生させる電磁石側に必要となる磁力を低減させることができる。しかしながら、永久磁石による磁力は、永久磁石と吸引される対象物である固定鉄心との離間距離が大きくなるにつれて小さくなるものの、永久磁石による磁力は軸方向の広い領域で固定鉄心に及ぶことから、可動鉄心を固定鉄心から離間させる際の抵抗となり、可動鉄心の作動性を低下させてしまう虞があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、固定鉄心側で可動鉄心の位置を保持するために必要なコイルへの通電量を低減しつつ、ソレノイド装置に必要な作動性を確保できるソレノイド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明のソレノイド装置は、
ソレノイドケースと、前記ソレノイドケースの内方に収容されるコイルと、固定鉄心と、軸方向に往復動可能に配置され、前記コイルへの通電により生じる電磁力により少なくとも軸方向の固定鉄心側に移動される可動鉄心と、を備えるソレノイド装置であって、
前記可動鉄心が軸方向の前記固定鉄心側に位置する前記ソレノイドケースと前記可動鉄心との特定の相対位置にて、前記ソレノイドケースと前記可動鉄心とが機械的に係合する係合手段を備えている。
これによれば、可動鉄心が軸方向の固定鉄心側に位置した状態において、ソレノイドケースと可動鉄心が係合手段により機械的に係合するため、可動鉄心を保持するために必要なコイルへの通電量を低減することができるとともに、係合手段は固定鉄心と可動鉄心とが近接した特定の相対位置にて限定的に係合するため、その他の軸方向の領域において可動鉄心の往復動に与える影響が小さく、ソレノイド装置に必要な作動性を確保することができる。
【0009】
前記係合手段は、前記ソレノイドケースと前記可動鉄心とのいずれか一方に設けられた凹部と、他方に設けられ該凹部に向けて進退可能な可動凸部と、から構成されていてもよい。
これによれば、可動凸部と凹部とが係合する特定の相対位置以外の軸方向の領域において、可動凸部が退行し、可動鉄心の往復動に与える影響を小さくできる。
【0010】
前記可動凸部は、前記ソレノイドケースと前記可動鉄心とのいずれか他方に径方向に形成された穴部に配設された押しバネにより可動されるものであってもよい。
これによれば、押しバネの調整で係合手段による可動鉄心の軸方向の移動を規制する規制力を調整できる。また、穴部により押しバネの傾きが規制されるため、特定の相対位置において、可動凸部と凹部とを確実に係合させることができる。
【0011】
前記凹部の前記固定鉄心側は、該固定鉄心側に漸次拡径するテーパ面を有していてもよい。
これによれば、可動鉄心の進行移動時には、テーパ面により可動凸部が凹部の軸方向奥側に案内されるため、特定の相対位置において可動鉄心に位置保持力を迅速に付与できるとともに、可動鉄心の復帰移動時には、テーパ面により可動凸部が退行方向に案内されるため、可動鉄心が固定鉄心から離間する方向に移動しやすい。
【0012】
前記凹部は、周方向に無端状に形成されていてもよい。
これによれば、可動鉄心の位相に関わらず係合手段の係合が可能である。
【0013】
前記可動凸部は、周方向に1箇所のみ設けられていてもよい。
これによれば、可動凸部の付勢力により可動鉄心を径方向に常に片寄せでき、可動鉄心のガタつきを防止することができる。
【0014】
前記凹部は前記可動鉄心に形成され、前記可動凸部は前記ソレノイドケースに設けられていてもよい。
これによれば、可動鉄心の構造を簡素にすることができる。
【0015】
前記特定の相対位置において、前記コイルへの通電が停止されると、スプリングの付勢力によって前記係合手段による係合が解除され、前記可動鉄心は前記固定鉄心から離間する方向に移動するようになっていてもよい。
これによれば、コイルへの通電を停止させることでスプリングの付勢力によって係合手段による係合の解除と、可動鉄心の固定鉄心から離間する方向への移動を行えるため、可動鉄心の復帰移動を簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例1におけるソレノイド装置の非通電状態を示す断面図である。
【
図2】実施例1におけるソレノイド装置の通電状態を示す断面図である。
【
図4】(a)は本発明の実施例2におけるソレノイド装置の非通電状態を示す断面図、(b)は同じくソレノイド装置の通電状態を示す断面図である。
【
図5】(a)(b)は係合手段の別形状を示す概略図である。尚、可動凸部に係合する部分が設けられる可動鉄心の断面の一部を主に示している。
【
図6】(a)(b)は係合手段の別形状を示す概略図である。尚、可動凸部に係合する部分が設けられる可動鉄心の断面の一部を主に示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るソレノイド装置を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0018】
実施例1に係るソレノイド装置につき、
図1から
図3を参照して説明する。以下、
図1を正面から見て右側を軸方向右側、左側を軸方向左側として説明する。
【0019】
図1に示されるように、ソレノイド装置1は、コイル2と、可動鉄心30を有するプランジャ3と、固定鉄心としてのセンタポスト4と、復帰用のスプリング5と、保持補助用の係合手段7と、これらの部材を収容するソレノイドケース6と、から主に構成されている。
【0020】
コイル2は、絶縁体から形成される鍔付き略円筒形状のボビン20と、ボビン20の外周に所定回数巻き回される導線21と、から主に構成されている。導線21の端部は、リード線22に接続され、図示しない電源から電力が供給されることにより、コイル2は磁束を発生する。
【0021】
また、コイル2の軸方向右側には、リング状のホルダ70が配置されている。コイル2の内径はホルダ70の内径と同径に構成されている。このホルダ70は、ソレノイドケース6の一部を構成している。
【0022】
図1及び
図3に示されるように、プランジャ3は、鉄等の磁性体から形成される略円筒形状の可動鉄心30と、アルミ合金等の非磁性体から形成され可動鉄心30の軸方向(以下、単に「軸方向」と表記する。)に一部が突出するロッド31と、を有している。
【0023】
また、プランジャ3は、コイル2およびホルダ70の内径側に配置される。尚、可動鉄心30の外周面とコイル2のボビン20およびホルダ70の内周面との間は、径方向に僅かに離間することにより微小な隙間が形成されており、可動鉄心30は、コイル2およびホルダ70に対して軸方向に円滑に相対移動可能となっている。
【0024】
また、可動鉄心30には、径方向中央に軸方向に貫通する貫通孔30aが設けられている。貫通孔30aには、ロッド31が挿通され溶接,圧入等により一体に固定されている。すなわち、可動鉄心30とロッド31は、軸方向に共に移動可能となっている。
【0025】
また、可動鉄心30の軸方向左側の端部には、内径側が軸方向右側へ向けて凹む吸引部32が形成されている。吸引部32は、貫通孔30aの外径側から径方向に延びる平坦面32aと、平坦面32aの外径側からセンタポスト4側、すなわち軸方向左側に向けて漸次径が大きくなるように傾斜して延びるテーパ面32bと、テーパ面32bの外径側から径方向に延びる平坦面32cとから形成されている。
【0026】
また、可動鉄心30の軸方向右側の部位には、外径方向に開口する凹部34が全周に亘って環状に形成されている。凹部34は、可動鉄心30の軸方向右側の外周面から軸方向左側に向けて内径方向に凸を成すように円弧状に延びる曲面34aと、曲面34aの内径端から可動鉄心30の軸方向左側の外周面に向けて断面視直線状に延びるテーパ面34bと、から形成されている。
【0027】
ロッド31は、その軸方向左側の端部に小径の取付部31aを有し、取付部31aには円板状のリテーナ33(
図1参照)が圧入固定されている。尚、ロッド31の軸方向右側の端部は、図示しない開閉弁等の負荷に対して接続されている。
【0028】
図1に戻って、センタポスト4は、鉄等の磁性体から形成され、円筒部40と、円筒部40の軸方向左側の端部から外径方向に延出するフランジ部41と、円筒部40の軸方向右側の内径側が軸方向右側へ向けて突出する吸引部42と、を有している。
【0029】
また、センタポスト4は、コイル2の内周に軸方向左側から挿入されている。このとき、フランジ部41の軸方向右側の側面がコイル2の軸方向左側の端に当接するようになっている。すなわち、コイル2に対するセンタポスト4の挿入進度をフランジ部41との当接によって規定することができる。そのため、ソレノイド装置1の組立作業性が高い。
【0030】
吸引部42は、軸孔4aの外径側から径方向に延びる平坦面42aと、平坦面42aの外径側から軸方向左側に向けて漸次径が大きくなるように傾斜して延びるテーパ面42bと、テーパ面42bの外径側から径方向に延びる平坦面42cとから形成されている。
【0031】
また、センタポスト4には、径方向中央に軸方向に貫通する軸孔4aおよびスプリング穴4bが設けられている。軸孔4aとスプリング穴4bは、連通しており、スプリング穴4bの径よりも軸孔4aの径が小さく構成されている。
【0032】
軸孔4aには、ロッド31が挿通され、ロッド31は軸孔4aの内周に設けられる軸受43により軸支されている。
【0033】
スプリング穴4bには、軸孔4aに挿通されるロッド31の取付部31aおよびリテーナ33が配置される。また、スプリング穴4bには、軸方向左側からスプリング5が挿入される。
【0034】
スプリング5は、圧縮バネであり、その軸方向右側の端はロッド31の取付部31aに固定されるリテーナ33の軸方向左側の端面に当接し、軸方向左側の端はソレノイドケース6を構成するボトムキャップ60の軸方向右側の端面に当接している。
【0035】
ソレノイドケース6は、鉄等の磁性体から形成されるボトムキャップ60および非磁性材から形成されるトップキャップ61と、鉄等の磁性体から形成される略円筒形状のケース本体62と、鉄等の磁性体から形成されるリング状のホルダ70と、から構成されている。
【0036】
ボトムキャップ60は、その軸方向右側の端面にセンタポスト4のフランジ部41を挿嵌可能な凹部60aが設けられている。
【0037】
トップキャップ61は、その軸方向左側の端面にプランジャ3の可動鉄心30を挿入可能な凹部61aが設けられている。また、トップキャップ61には、径方向中央に軸方向に貫通する軸孔61bが設けられている。軸孔61bには、ロッド31が挿通され、ロッド31は軸孔61bの内周に設けられる軸受63により軸支されている。
【0038】
ケース本体62は、孔付きの断面U字状を成し、軸方向左側の端部の内径側には段部62aが設けられている。
【0039】
ホルダ70は、ソレノイドケース6のケース本体62の内周面より僅かに小径の外周面を有しており、径方向に貫通する穴部を構成する貫通孔70aが周方向に1箇所形成されている。本実施例にあっては、貫通孔70aがホルダ70の
図2における上部、言い換えるとリード線22とは径方向反対側に形成されている。この貫通孔70aを区画するホルダ70の内周面とケース本体62の内周面とにより径方向に延びる有底筒状の穴部を構成している。尚、貫通孔70aはホルダ70の周方向の任意の位置に1箇所設けられていてもよい。
【0040】
図1及び
図3に示されるように、係合手段7は、ホルダ70に設けられる可動凸部71と、可動鉄心30に設けられる凹部34と、から構成されている。
【0041】
可動凸部71は、ホルダ70の貫通孔70a内に配置される押しバネ72と、押しバネ72の内径端に当接または固着される可動片としての保持ボール73と、を備えている。
【0042】
押しバネ72は、コイルスプリングであり、その外径端はソレノイドケース6のケース本体62の内周面に当接しており、保持ボール73に対して内径方向への押圧力を付与するようになっている。
【0043】
保持ボール73は、合成樹脂等の非磁性体により構成された球体であり、後述するように凹部34に入り込むことが可能となっている。
【0044】
ここで、ソレノイド装置1の組み立て手順の例を説明する。まず、ケース本体62に軸方向左側からトップキャップ61を挿入する。次に、コイル2の内周に軸方向左側からホルダ70、可動凸部71、コイル2、プランジャ3、センタポスト4、スプリング5を組み立てた状態で挿入する。最後に、ボトムキャップ60の凹部60aにセンタポスト4のフランジ部41を挿嵌し、ボトムキャップ60の外周部の面取り部分にケース本体62の軸方向左側の端部をカシメ固定する。このとき、ケース本体62の段部62aは、カシメ固定時における軸方向の荷重を受ける荷重受け部として機能している。
【0045】
次いで、ソレノイド装置1の作動について説明する。
【0046】
ソレノイド装置1は、非通電状態におけるプランジャ3が軸方向右側の第1位置に移動した状態(
図1参照)と、通電状態におけるプランジャ3が軸方向左側の特定の相対位置としての第2位置に移動した状態(
図2参照)と、に切り換えることができる。
【0047】
先ず、プランジャ3が第1位置に移動した状態について
図1を参照して概略的に説明する。
図1に示されるように、ソレノイド装置1は、非通電状態において、プランジャ3がスプリング5の付勢力(F
sp1)により押圧されることで軸方向右側へ移動し、プランジャ3の可動鉄心30の軸方向右側の端面がトップキャップ61の凹部61aの底面に当接している。すなわち、プランジャ3が第1位置に移動した状態はソレノイド装置1を非通電状態とすることにより実現される。
【0048】
このとき、軸方向一方側の向きを正として、プランジャ3には、力Fplu1=Fsp1が作用している。
【0049】
また、このとき、可動凸部71の保持ボール73は、可動鉄心30の外周面における凹部34よりも軸方向左側の位置において断面視軸方向に沿って延びる外周面に当接している。
【0050】
次に、プランジャ3が第2位置に移動した状態について
図1,2を参照して概略的に説明する。
図1に示される状態から、ソレノイド装置1を通電状態として、コイル2に電流が印加されることにより発生する電磁力(F
sol)がスプリング5の付勢力(F
sp1)を上回る(F
sol>F
sp1)と、可動鉄心30がセンタポスト4へ向けて引き寄せられることで、プランジャ3が軸方向左側へ移動する(すなわち進行移動)。このとき、可動凸部71の保持ボール73は、可動鉄心30の外周面に沿って軸方向に相対的に摺動する。
【0051】
そして、プランジャ3の吸引部32における平坦面32cがセンタポスト4の吸引部42における平坦面42cに当接し、
図2に示される通電状態となる。このとき、吸引部42の平坦面42aおよびテーパ面42bと吸引部32の平坦面32aおよびテーパ面32bとは、僅かに離間した状態となっている。すなわち、プランジャ3が第2位置に移動した状態はソレノイド装置1を通電状態とすることにより実現される。
【0052】
プランジャ3が第2位置に移動した状態にあっては、可動凸部71の保持ボール73が押しバネ72の付勢力により可動鉄心30の凹部34に入り込んでいる。以下、この状態のことを可動凸部71と凹部34との係合という。
【0053】
詳しくは、可動凸部71が凹部34に係合した状態にあっては、押しバネ72の付勢力(Fsp2)により保持ボール73が凹部34の軸方向奥側である曲面34aの内径側の底部と、凹部34の軸方向手前側であるテーパ面34bに当接している。
【0054】
これにより、プランジャ3には、スプリング5の付勢力によりプランジャ3が軸方向右側に移動しようとする力(Fplu1)に対して抵抗する力(Fr)が作用するようになっている。
【0055】
また、このとき保持ボール73の半分未満の部位がホルダ70の貫通孔70a内に配置されている。押しバネ72及び保持ボール73(すなわち可動凸部71)は、貫通孔70a内に軸方向にほぼ隙間なく配置されている。これによれば、貫通孔70aを区画する内周面により保持ボール73が軸方向に移動することが規制され、プランジャ3に抵抗する力を効率よく作用させることができる。
【0056】
尚、プランジャ3が第2位置に移動した状態において、保持ボール73の下方部位が凹部34に入り込み可能となっていればよく、例えば保持ボール73の上方の1/2以上の部位がホルダ70の貫通孔70a内に配置されていてもよい。
【0057】
上述した抵抗する力(Fr)の大きさは、押しバネ72の付勢力(Fsp2)に応じて決定されようになっている。本実施例1においては、プランジャ3に抵抗する力(Fr)が力(Fplu1)よりも小さくなるように押しバネ72の付勢力(Fsp2)が設定されている(Fr<Fplu1)。
【0058】
また、プランジャ3が第2位置に移動した状態にあっては、機械的な係合手段7を用いることによりプランジャ3に抵抗する力(Fr)が作用しているため、電磁力のみによってプランジャ3を第2位置に保持する電磁力(Fsol1)よりも小さい電磁力(Fsol2)によりセンタポスト4の吸引部42にプランジャ3の吸引部32が吸着された状態が保持可能となっている(Fsol1>Fsol2)。
【0059】
言い換えれば、可動凸部71と凹部34との係合により生じる抵抗する力(Fr)によりプランジャ3の第2位置での位置保持が補助されるため、コイル2への通電量が少なくて済む。
【0060】
すなわち、軸方向右側の向きを正として、プランジャ3には、力Fplu2=Fsp1-Fsol2A-Frが作用している。尚、Fsol2AはFsol2以上の力である。
【0061】
図2に示されるプランジャ3が第2位置に移動した状態からコイル2への通電を停止して非通電状態とすると、スプリング5の付勢力によりプランジャ3が軸方向右側に移動しようとする力(F
plu1)が抵抗する力(F
r)を上回るため、プランジャ3が軸方向右側に移動して可動凸部71と凹部34との係合が解除される。これにより、抵抗する力(F
r)がプランジャ3に作用しなくなるため、プランジャ3が軸方向右側にさらに移動しやすくなり、プランジャ3を
図1に示される第1位置に迅速に戻す(すなわち復帰移動)ことができるようになっている。
【0062】
また、可動凸部71と凹部34との係合が解除された状態にあっては、保持ボール73とテーパ面34bとが相対的に軸方向に摺動し摩擦が生じるため、プランジャ3がダンピング作用を伴ってゆっくりと第1位置に復帰する。これにより、可動鉄心30がトップキャップ61の凹部61aの底面に当接するときの衝撃を低減することができる。
【0063】
また、テーパ面34bは断面視直線状に形成されているため、プランジャ3の復帰移動時には保持ボール73とテーパ面34bとが軸方向に引っ掛かることを防止できる。
【0064】
尚、プランジャ3を第1位置に戻す場合には、コイル2への通電を停止することに限られず、電磁力と抵抗する力との和がプランジャ3の軸方向右側に移動しようとする力を下回るようにコイル2への通電を調整することにより行われてもよい。
【0065】
以上説明したように、プランジャ3は軸方向のセンタポスト4側の第2位置に位置する状態において、ソレノイドケース6とプランジャ3とが係合手段7により機械的に係合するため、プランジャ3を第2位置で保持するために必要なコイル2への通電量を低減することができるとともに、係合手段7はセンタポスト4とプランジャ3とが近接した第2位置にて限定的に係合するため、その他の軸方向の領域、すなわち第2位置よりも軸方向右側の領域においてプランジャ3の往復動に与える影響が小さく、ソレノイド装置1に必要な作動性を確保することができる。
【0066】
また、係合手段7は、プランジャ3に形成された凹部34と、ソレノイドケース6に設けられた可動凸部71と、から構成されている。この可動凸部71は、径方向に移動可能となっており、可動凸部71と凹部34とが係合する第2位置以外の軸方向の領域において、可動凸部71が外径方向に退行するようになっている。具体的には、保持ボール73が貫通孔70a内に退避するようになっている。そのため、プランジャ3の往復動に与える影響を小さくできる。
【0067】
また、可動凸部71の先端には球体状の保持ボール73が配置されている。これによれば、プランジャ3の外周面への当接面積を小さくすることができるため、プランジャ3が第1位置から第2位置に到達するまでに保持ボール73とプランジャ3の外周面との摺動に伴って生じる摩擦力を小さくすることができる。
【0068】
また、可動凸部71は、ソレノイドケース6の一部を構成するホルダ70に径方向に形成された貫通孔70aに配設された押しバネ72により可動するようになっている。これによれば、押しバネ72の調整で係合手段7によるプランジャ3の軸方向右側への移動に抵抗する力(Fr)を調整できる。
【0069】
また、貫通孔70aを構成する内周面により押しバネ72の傾きが規制されるため、第2位置において、可動凸部71と凹部34とを確実に係合させることができる。
【0070】
また、凹部34の軸方向左側には、センタポスト4側に漸次拡径するテーパ面34bを有している。これによれば、プランジャ3の軸方向左側への移動時には、テーパ面34bにより可動凸部71の保持ボール73が凹部34の曲面34a側に案内されるため、第2位置においてプランジャ3に位置保持力を迅速に付与できるとともに、プランジャ3の軸方向右側への移動時には、テーパ面34bにより可動凸部71の保持ボール73が外径方向に退行するように案内されるため、プランジャ3がセンタポスト4から離間する方向に移動しやすい。
【0071】
また、凹部34は、周方向に無端状に形成されているため、プランジャ3が軸方向左側に移動したときに周方向に回動したとしても係合手段7の係合が可能である。言い換えれば、プランジャ3の周方向の回動を止める構造を必要とせず、係合手段7の構造を簡素にできる。
【0072】
また、可動凸部71は、周方向に1箇所のみ設けられていているため、可動凸部71の付勢力によりプランジャ3を径方向に常に片寄せでき、プランジャ3の移動時および停止時におけるガタつきを防止することができる。
【0073】
また、凹部34はプランジャ3に形成され、可動凸部71はソレノイドケース6に設けられている。これによれば、プランジャ3に可動凸部71を設ける必要がないため、プランジャ3の構造を簡素にすることができ、プランジャ3が大型化することを回避できるとともに、プランジャ3を簡便に製造できる。
【0074】
また、可動凸部71は、ソレノイドケース6と別部材であるホルダ70の貫通孔70a内に配置される構成であるため、ソレノイド装置1の組み立てを簡便に行うことができる。
【0075】
また、コイル2への通電を停止させることでスプリング5の付勢力によって係合手段7による係合の解除と、可動鉄心30のセンタポスト4から離間する方向への移動を行えるため、可動鉄心30の第1位置への復帰移動を簡便に行うことができる。
【実施例2】
【0076】
次に、実施例2に係るソレノイド装置につき、
図4を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0077】
図4に示されるように、本実施例2のソレノイド装置100は、ソレノイドケース600の一部を構成するホルダ701に設けられる凹部702と、可動鉄心300に設けられる可動凸部703と、により構成される係合手段700を有している。
【0078】
ホルダ701の内周面には、内径方向に開口する凹部702が全周に亘って環状に形成されている。凹部702は、ホルダ701の軸方向左側の内周面から軸方向右側に向けて外径方向に凸を成すように円弧状に延びる曲面702aと、曲面702aの外径端からホルダ701の軸方向右側の内周面に向けて断面視直線状に延びるテーパ面702bと、から形成されている。
【0079】
可動鉄心300の軸方向右側の部位には、上方に開口する有底筒状の穴部300aが周方向に1箇所設けられている。この穴部300aには、可動凸部703が軸方向にほぼ隙間なく配置されている。
【0080】
可動凸部703は、穴部300aに配置される押しバネ720と、押しバネ720の外径端に当接または固着される可動片としての保持ボール730と、を備えている。押しバネ720の内径端は穴部300aの内径側の底部に当接しており、保持ボール730に対して外径方向への押圧力を付与するようになっている。
【0081】
図4(a)に示されるように、ソレノイド装置100の非通電状態にあっては、スプリング5の付勢力により可動鉄心300が軸方向右側の第1位置に配置されている。このとき、可動凸部703の保持ボール730は、ホルダ701の軸方向右側の内周面、すなわち凹部702よりも軸方向右側の位置において断面視軸方向に沿って延びる外周面に当接している。
【0082】
図4(b)に示されるように、ソレノイド装置100の通電状態にあっては、スプリング5の付勢力に抗して可動鉄心300が軸方向左側に移動して第2位置に配置されている。このとき、可動凸部703が凹部702に係合している。これにより、可動鉄心300を第2位置で保持するために必要なコイル2への通電量を低減することができる。
【0083】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0084】
例えば、前記実施例1,2では、コイルスプリングにより可動鉄心が固定鉄心から離れる方向に移動する形態を例示したが、これに限られず、別の手段により可動鉄心が固定鉄心から離れる方向に移動してもよい。例えば、可動鉄心における固定鉄心とは反対側に設けられる引っ張りバネにより可動鉄心が固定鉄心から離れる方向に移動してもよい。
【0085】
また、前記実施例1,2では、可動鉄心が固定鉄心に接触した第2位置を、ソレノイドケースと可動鉄心との特定の相対位置として説明したが、これに限られず、可動鉄心が固定鉄心に接触しない程度に近い位置であってもよい。すなわち特定の相対位置は、非通電状態において可動鉄心が配置される第1位置よりも固定鉄心に近い位置であればよい。
【0086】
また、前記実施例1,2では、ソレノイドケースの内周面と可動鉄心との外周面との間、すなわち径方向の対向面間に係合手段が設けられる形態を例示したが、ソレノイドケースと可動鉄心との軸方向の対向面間に係合手段が設けられていてもよい。例えば、係合手段は、軸方向一方の対向面に設けられる弾性変形可能な爪部と、軸方向他方の対向面に設けられ前記爪部が係合可能な段付きの凹部と、から構成されていてもよい。
【0087】
また、前記実施例1,2では、可動凸部が径方向に進退可能に形成されている形態を例示したが、これに限らない。例えば、外径端がソレノイドケースの内周面に固定された可動凸部を有し、可動凸部の内径端と可動鉄心の外周面との軸方向の摺動により、該可動凸部のソレノイドケース側の根元部分を支点して軸方向に傾動または変形し、特定の相対位置において可動鉄心の凹部に係合するようになっているものであってもよい。
【0088】
また、可動凸部の可動片は、押しバネにより可動することに限られず、別の弾性部材で可動してもよいし、電気的に可動するようになっていてもよい。
【0089】
また、前記実施例1,2では、可動凸部の可動片が球体である形態を例示したが、これに限られず、断面矩形状等、形状は自由に変更してもよい。また、可動片の素材も自由に変更してもよい。
【0090】
また、前記実施例1,2では、可動凸部の押しバネが穴部に配置されている形態を例示したが、これに限らない。例えば、押しバネの周囲に該押しバネの傾動を規制する規制手段が配置されていればよい。
【0091】
また、前記実施例1,2では、凹部が周方向に無端状に形成されている形態を例示したが、可動凸部と対向する位置にのみ設けられていてもよい。この場合、ソレノイドケースと可動鉄心との周方向の相対移動を規制する手段を設けることが好ましい。
【0092】
また、前記実施例1,2では、可動凸部が周方向に1箇所設けられる形態を例示したが、これに限られず、周方向の複数個所に設けられていてもよい。この場合、可動鉄心は径方向に片寄せされていてもよいし、径方向に片寄せされていなくてもよい。
【0093】
また、前記実施例1,2では、ホルダがソレノイドケースと別部材である形態を例示したが、これに限られず、一体でもあってもよい。
【0094】
また、前記実施例1,2では、ホルダが磁性体である形態を例示したが、非磁性体でもよい。この場合、トップキャップを磁性体とし磁気回路を形成することが好ましい。
【0095】
また、前記実施例1,2では、スプリングの軸方向右側の端が当接するリテーナと軸とが別体に構成されるものとして説明したが、これに限らず、スプリングの軸方向右側の端が当接するバネ受け部分がロッドと一体に構成されてもよい。
【0096】
また、センタポストやプランジャの吸引部は、テーパ面を有するものに限らず、形状は自由に構成されてよい。
【0097】
また、前記実施例1,2では、テーパ面が断面視直線状に形成されている形態を例示したが、これに限られず、断面視曲面状に形成されていてもよい。
【0098】
また、前記実施例1,2では、係合手段が可動鉄心の位置保持を補助する形態を説明したが、係合手段の係合力を強くして、第2位置にて可動鉄心の位置を自己保持できるようにしてもよい。
【0099】
また、前記実施例1,2の係合手段は、凹部が固定的に設けられ、凸部が可動する形態の例について説明したが、凹部がスプリング等に押されて可動するものであってもよい。この場合、可動する凹部に係合する凸部は固定されていることが好ましい。
【0100】
また、係合手段の凹部は実施例1,2の形状に限られない。尚、以下では、可動凸部に係合する部位、例えば凹部が可動鉄心に設けられる形態を例示するが、ソレノイドケースに設けられていてもよい。
【0101】
例えば、
図5(a)に示されるように、凹部341は、軸方向左側のテーパ面341bと、テーパ面341bの軸方向右端から断面視軸方向に沿って延びる平坦面341cと、平坦面341cの軸方向右端から外径方向に垂直に延びる垂直面341dと、から構成されていてもよい。すなわち、凹部の軸方向奥側は曲面形状に限らない。
【0102】
また、
図5(b)に示されるように、可動鉄心320には、該可動鉄心320の断面視軸方向に沿って延びる外周面320aから該可動鉄心320の軸方向右側の端面320bに向けて縮径するように延びるテーパ面342bが設けられている。実施例1,2の可動凸部は、テーパ面342bに係合することで可動鉄心320の位置を保持する力を付与するようになっている。すなわち、可動凸部が係合可能であれば凹部でなくてもよい。
【0103】
また、
図6(a)に示されるように、可動鉄心330には、その外周面330aから内径方向に垂直に延びる垂直面343aと、垂直面343aの内径端から可動鉄心330の軸方向右側の端面330bに亘って断面視軸方向に沿って延びる平坦面343cと、により構成される段部343が形成されている。段部343は可動凸部に係合する部位となっている。すなわち、可動凸部に係合する部位の軸方向手前側はテーパ面形状に限らない。
【0104】
また、
図6(b)に示されるように、可動鉄心340の外周面340aには、軸方向右側の端面340bよりも軸方向左側の位置で環状部材350が固定されている。この環状部材350は断面視で軸方向になだらかな傾斜を有する山形状を成している。可動鉄心340には、環状部材350と該可動鉄心340の外周面340aとにより段部344が形成されている。これによれば、可動鉄心340に予め凹部や段部を形成する加工をしなくて済むので、製造が簡便である。
【0105】
尚、環状部材は断面視で軸方向になだらかな傾斜を有する山形状に限られず、断面矩形状などに形成されていてもよい。この場合、例えば、環状部材を弾性部材で構成し、可動凸部の段部への係合または係合解除の際に可動凸部が環状部材を円滑に乗り越えられるようになっていることが好ましい。
【符号の説明】
【0106】
1 ソレノイド装置
2 コイル
4 センタポスト(固定鉄心)
5 スプリング
6 ソレノイドケース
7 係合手段
30 可動鉄心
34 凹部
34a 曲面
34b テーパ面
62 ケース本体(穴部)
70 ホルダ
70a 貫通孔(穴部)
71 可動凸部
72 押しバネ
73 保持ボール
100 ソレノイド装置
300 可動鉄心
300a 穴部
600 ソレノイドケース
700 係合手段
701 ホルダ
702 凹部
702a 曲面
702b テーパ面
703 可動凸部
720 押しバネ
730 保持ボール