(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】トンネル函体群ユニットとその施工方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/04 20060101AFI20240617BHJP
E21D 9/06 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
E21D9/04 F
E21D9/06 301L
E21D9/06 301K
E21D9/06 301D
(21)【出願番号】P 2021110969
(22)【出願日】2021-07-02
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】高見沢 計夫
(72)【発明者】
【氏名】志田 智之
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-197957(JP,A)
【文献】特開2007-051434(JP,A)
【文献】特開平10-082280(JP,A)
【文献】特開2006-316221(JP,A)
【文献】特開2005-200860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/04
E21D 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進方式もしくはシールド方式により、上下および/または左右に隙間を置いて併設された複数本のトンネル函体群によって形成される、トンネル函体群ユニットであって、
前記トンネル函体群は、該トンネル函体群の軸方向にリング継手を介して配設され、該軸方向に直交する断面が矩形の複数のトンネル函体により形成されており、
隣接する二つの前記トンネル函体群のうち、地山に対向する外面を備えている二つの該トンネル函体群の一方のトンネル函体群から他方のトンネル函体群に向かって山留め部材が張り出しており、
前記山留め部材の先端は、前記他方のトンネル函体群まで延設している、もしくは、その手前の前記隙間の途中で止まっていて、かつ、前記他方のトンネル函体群の前記外面よりも前記地山と反対側である内側に配設されて
おり、
前記山留め部材は、前記一方のトンネル函体群において摺動自在に設けられている、スライド櫛歯体であり、
前記スライド櫛歯体がスライドして前記他方のトンネル函体群に向かって張り出していることを特徴とする、トンネル函体群ユニット。
【請求項2】
前記他方のトンネル函体群の前記外面には、面が凹状に落ち込んだ落ち込み溝が設けられており、該落ち込み溝に前記山留め部材の先端が収容されていることを特徴とする、請求項1に記載のトンネル函体群ユニット。
【請求項3】
推進方式もしくはシールド方式により、上下および/または左右に隙間を置いて、複数本のトンネル函体群を順次併設することによってトンネル函体群ユニットを施工する、トンネル函体群ユニットの施工方法であって、
前記トンネル函体群は、該トンネル函体群の軸方向にリング継手を介して配設され、該軸方向に直交する断面が矩形の複数のトンネル函体により形成されており、
隣接する二つの前記トンネル函体群のうち、地山に対向する外面を備えている二つの該トンネル函体群の一方のトンネル函体群を、先行トンネル函体群として施工し、次いで、他方のトンネル函体群を後行トンネル函体群として施工する方法であり、
前記後行トンネル函体群の施工に当たり、前記先行トンネル函体群と該後行トンネル函体群のいずれか一方のトンネル函体群から他方のトンネル函体群に向かって山留め部材を張り出し、この際に、該山留め部材の先端を、前記他方のトンネル函体群まで延設させ、もしくは、その手前の前記隙間の途中で止めておき、かつ、前記他方のトンネル函体群の前記外面よりも前記地山と反対側である内側に配設
し、
前記先行トンネル函体群の前記外面には、面が凹状に落ち込んだ落ち込み溝が設けられており、
前記山留め部材は、前記後行トンネル函体群において摺動自在に設けられているスライド鋼板であり、
前記後行トンネル函体群の施工において、該後行トンネル函体群の掘進方向前方に位置する掘進機から前記落ち込み溝まで切削カッタを張り出して、該落ち込み溝にある地山もしくは裏込め注入材を切削し、前記スライド鋼板を張り出してその先端を該落ち込み溝に配設しながら該後行トンネル函体群を施工することを特徴とする、トンネル函体群ユニットの施工方法。
【請求項4】
推進方式もしくはシールド方式により、上下および/または左右に隙間を置いて、複数本のトンネル函体群を順次併設することによってトンネル函体群ユニットを施工する、トンネル函体群ユニットの施工方法であって、
前記トンネル函体群は、該トンネル函体群の軸方向にリング継手を介して配設され、該軸方向に直交する断面が矩形の複数のトンネル函体により形成されており、
隣接する二つの前記トンネル函体群のうち、地山に対向する外面を備えている二つの該トンネル函体群の一方のトンネル函体群を、先行トンネル函体群として施工し、次いで、他方のトンネル函体群を後行トンネル函体群として施工する方法であり、
前記後行トンネル函体群の施工に当たり、前記先行トンネル函体群と該後行トンネル函体群のいずれか一方のトンネル函体群から他方のトンネル函体群に向かって山留め部材を張り出し、この際に、該山留め部材の先端を、前記他方のトンネル函体群まで延設させ、もしくは、その手前の前記隙間の途中で止めておき、かつ、前記他方のトンネル函体群の前記外面よりも前記地山と反対側である内側に配設
し、
前記山留め部材は、前記先行トンネル函体群と前記後行トンネル函体群のいずれか一方もしくは双方において摺動自在に設けられている、スライド櫛歯体であり、
前記後行トンネル函体群の掘進の途中段階において、もしくは、該後行トンネル函体群の掘進の完了段階において、前記先行トンネル函体群と前記後行トンネル函体群のいずれか一方もしくは双方から前記スライド櫛歯体を張り出すことを特徴とする、トンネル函体群ユニットの施工方法。
【請求項5】
前記シールド方式を適用する場合は、前記トンネル函体のテールボイドに施工された裏込め注入材により隣接する前記トンネル函体群との間の止水構造を形成し、
前記推進方式を適用する場合は、前記トンネル函体群の周囲にある余掘り部に注入されている滑材を該トンネル函体群の内部に回収し、該余掘り部に対して止水材を注入して隣接する前記トンネル函体群との間の止水構造を形成し、
形成された前記止水構造では止水性が不十分な場合に、別途の止水材の注入を行うことを特徴とする、請求項
3又は4に記載のトンネル函体群ユニットの施工方法。
【請求項6】
前記後行トンネル函体群の施工は、前記掘進機を発進立坑から発進させて行うものであり、
前記掘進機が前記発進立坑のエントランスパッキンを通過した段階で、前記スライド鋼板を張り出し、該スライド鋼板の一部を前記落ち込み溝に入り込ませることを特徴とする、請求項3に記載のトンネル函体群ユニットの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル函体群ユニットとその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、都市部における交通渋滞を解消するために、アンダーパス(鉄道や道路で掘り下げ式になっている地下道)方式の立体交差を構築するに当たり、地上に施工ヤードを設置し、開削工法にて躯体の構築を行う方法では、広い施工ヤードを要することや施工期間が長期化することから、新たな交通渋滞の発生や周辺環境への影響等が問題となり得る。
そこで、例えば矩形の大断面の地下構造物(アンダーパス)に対応した大きさの断面を有するトンネルを施工するに当たり、この大断面のトンネルを複数の小断面のトンネルに分割し、個々の小断面のトンネルを小型の掘削機で繰返し掘削して造成した後、それらの内部に例えば矩形の大断面の地下構造物を構築する施工方法が用いられることがある。
この施工方法は、小断面のトンネルを積み重ねた坑口の形状がハーモニカの吹き口に似ていることから、ハーモニカ工法(登録商標)と称されている。
上記ハーモニカ工法では、推進方式もしくはシールド方式により、上下および/または左右に併設された複数本の小断面のトンネル函体群を順次施工することにより、大断面のトンネル函体群ユニットを施工する。ここで、断面の分割数は、施工されるアンダーパス等の寸法や現場条件、掘進機や鋼殻の運搬条件等により決定される。
【0003】
ハーモニカ工法を適用して、例えば二段二列の計四基のトンネル函体群を相互に上下左右に併設することによりトンネル函体群ユニットを施工する場合、基準となるトンネル函体群を施工した後、例えばその左右いずれか一方の側方に、推進方式の場合数cm~シールド方式の場合は数十cm程度の隙間を置いて、隣接する別途のトンネル函体群を施工する。その後、施工済みの二基のトンネル函体群の上下いずれか一方において、数cm乃至数十cm程度の隙間を置いて二基のトンネル函体群を順次施工することにより、例えば矩形の大断面のトンネル函体群ユニットが施工される。この施工においては、基準となる最初に施工されるトンネル函体群の設定や、各トンネル函体群の施工順序が多様に存在する。また、二段二列の計四基のタイプ以外にも、三段三列の計九基のタイプや、三段三列で中央のトンネル函体群を施工しない計八基の所謂中抜きタイプ、三段五列の計十五基のタイプ等、様々な形態が存在し得る。
【0004】
隣接するトンネル函体群同士は、双方の対応するトンネル函体の主桁同士を相互に上下左右に隣接するようにして施工される。このように、隣接するトンネル函体群のそれぞれの主桁同士が上下左右に隣接するように位置決めされることにより、主桁の存在する断面(トンネルの軸方向に直交する断面)において、隣接する主桁同士で、土圧(土水圧)等による横方向の軸力と、土被り圧(上載圧)や地盤反力等による縦方向の軸力を伝達させることが可能になる。
上下および/または左右に複数本の小断面のトンネル函体群を併設させることによってトンネル函体群ユニットを施工した後、相互に隣接する主桁を残しながら、以後施工される本設の地下構造物の構成部材であるスラブや壁等と干渉しない領域のスキンプレートを切断撤去し、地下構造物用の鉄筋を組み立て、型枠を設置し、地下構造物用のコンクリートを打設することにより、地下構造物が施工される。地下構造物が施工された後、地下構造物の内部空間と干渉する主桁を切断撤去することにより、内部空間を含めた地下構造物の施工が完了する。
【0005】
この本設施工(切り開き施工)に際して、隣接するトンネル函体群の間には上記するように数十cm程度の隙間が存在する。より具体的には、推進方式においては数cm乃至十数cm程度の隙間が存在し、シールド方式においては十数cm乃至数十cm程度の隙間が存在し得ることから、推進方式とシールド方式をまとめると、トンネル函体群の間の隙間は数cm乃至数十cm程度の範囲に及ぶ。従って、トンネル函体群を形成する各トンネル函体のスキンプレート等を撤去して切り開きを行う(地下構造物の施工を行う)に当たり、切り開き時の地山の崩壊を防止して施工安全性を担保することが肝要である。また、このような地山の崩壊防止(山留め)に加えて、必要に応じて止水性を確保することも肝要である。例えばシールド方式においては、トンネル函体群の施工の際に掘進機後方のテールボイドに裏込め注入材が注入されるものの、隣接するトンネル函体群の間の隙間が裏込め注入材にて完全に止水されているかは定かでないことから、裏込め注入材による止水効果を期待する一方で、必要に応じてトンネル函体群の周囲に対して別途の止水施工が行われることになる。
【0006】
ここで、特許文献1には、トンネル間の全断面の利用を可能にしたシールドトンネル間の接続工法が提案されている。このシールドトンネル間の接続工法は、先行トンネルと後行トンネルを隣り合わせに並設し、先行トンネル躯体上部と後行トンネル躯体上部のいずれか一方より山留め鋼板を他方のトンネル躯体上部へ掛け渡し、先行トンネル躯体下部と後行トンネル躯体下部のいずれか一方より山留め鋼板を他方のトンネル躯体下部へ掛け渡し、上部と下部にそれぞれ掛け渡した山留め鋼板の上方と下方に薬液を注入し、接続部を掘削することにより、シールドトンネル間を接続する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のシールドトンネル間の接続工法によれば、双方のトンネル躯体上部においては、例えば一方のトンネル躯体上部から他方のトンネル躯体上部に山留め鋼板を掛け渡すに当たり、他方のトンネル躯体上部の地山の掘削が必要になる。また、双方のトンネル躯体下部においても同様に、例えば一方のトンネル躯体下部から他方のトンネル躯体下部に山留め鋼板を掛け渡すに当たり、他方のトンネル躯体下部の地山の掘削が必要になる。
このように、隣接するトンネル躯体の間の切り開き施工に先行する山留めに際して、山留め鋼板の先端が架け渡される側のトンネルル躯体の外面の周囲の地山の掘削が必要になり、場合によってはこの地山の掘削に先行してさらに止水施工が必要になることから、施工手間が懸念される。ここで、地山の掘削方法は一般に、山留め鋼板の先端が架け渡される側のトンネル函体の内部から作業員が地山内に進入し、人力にて掘削する方法によって行われる。
【0009】
本発明は、上下および/または左右に隙間を置いて併設された複数本のトンネル函体群により形成されるトンネル函体群ユニットにおいて、隣接するトンネル函体群の間の切り開き施工に先行して山留めを施工する際に、トンネル函体群の周囲の地山の掘削を不要にして効率的な山留めの施工を実現できる、トンネル函体群ユニットとその施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明によるトンネル函体群ユニットの一態様は、
推進方式もしくはシールド方式により、上下および/または左右に隙間を置いて併設された複数本のトンネル函体群により形成される、トンネル函体群ユニットであって、
前記トンネル函体群は、該トンネル函体群の軸方向にリング継手を介して配設され、該軸方向に直交する断面が矩形の複数のトンネル函体により形成されており、
隣接する二つの前記トンネル函体群のうち、地山に対向する外面を備えている二つの該トンネル函体群の一方のトンネル函体群から他方のトンネル函体群に向かって山留め部材が張り出しており、
前記山留め部材の先端は、前記他方のトンネル函体群まで延設している、もしくは、その手前の前記隙間の途中で止まっていて、かつ、前記他方のトンネル函体群の前記外面よりも前記地山と反対側である内側に配設されていることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、隣接する二つのトンネル函体群のうち、地山に対向する外面を備えている二つのトンネル函体群の一方のトンネル函体群から他方のトンネル函体群に向かって張り出している山留め部材の先端が、他方のトンネル函体群まで延設しているか、その手前の隙間の途中で止まっていて、さらに、他方のトンネル函体群の外面よりも地山と反対側である内側に配設されていることにより、後行トンネル函体群を施工する際の掘進機によって掘削された領域内において隣接するトンネル函体群に跨がる山留め部材を設けることができるため、山留め部材の施工に際してトンネル函体群の周囲にある地山の掘削を不要にでき、効率的な山留めの施工を実現できる。
【0012】
ここで、「隣接する二つのトンネル函体群のうち、地山に対向する外面を備えている二つのトンネル函体群」とは、例えば二段二列の計四基のトンネル函体群にてトンネル函体群ユニットが形成されている形態においては、全てのトンネル函体群が地山に対向する外面を備えていることから、上下関係や左右関係にある任意の二つのトンネル函体群がその対象となる。一方、例えば三段三列の計九基のトンネル函体群にてトンネル函体群ユニットが形成されている形態においては、外周にある八基のトンネル函体群が地山に対向する外面を備えていることから、この八基のトンネル函体群の中で上下関係や左右関係にある任意の二つのトンネル函体群がその対象となる。
【0013】
また、本発明によるトンネル函体群ユニットの他の態様において、
前記他方のトンネル函体群の前記外面には、面が凹状に落ち込んだ落ち込み溝が設けられており、該落ち込み溝に前記山留め部材の先端が収容されていることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、他方のトンネル函体群の外面に設けられている、面が凹状に落ち込んだ落ち込み溝に対して、一方のトンネル函体群から張り出す山留め部材の先端が収容されていることにより、双方のトンネル函体群の外面よりも内側に位置する山留め部材の両端を、双方のトンネル函体群にて安定的に支持することができ、従って、例えば可及的に薄厚の山留め部材の適用が可能になる。
例えば、トンネル函体の外周に設けられているスキンプレートの一部が掘り込まれることにより、スキンプレートの厚みの途中位置まで落ち込んでいる落ち込み溝が形成される。
【0015】
また、本発明によるトンネル函体群ユニットの他の態様において、
前記山留め部材は、前記一方のトンネル函体群において摺動自在に設けられているスライド鋼板であり、
前記スライド鋼板がスライドして前記他方のトンネル函体群に向かって張り出していることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、山留め部材であるスライド鋼板がスライドして他方のトンネル函体群に向かって張り出していることにより、例えばトンネル函体を形成するスキンプレートに落ち込み溝が設けられている場合であっても、この落ち込み溝の深さ以下の厚みのスライド鋼板を適用することで、落ち込み溝の内部にスライド鋼板の先端を収容させることが可能になる。例えば、スキンプレートの厚みが数mm乃至数十mm程度の場合に、落ち込み溝の深さをスキンプレートの厚み未満に設定し、この落ち込み溝の深さ以下の厚みのスライド鋼板を適用することにより、スライド鋼板が、「他方のトンネル函体群の外面よりも地山と反対側である内側に配設」される構成を形成できる。尚、スキンプレートの厚みが数mm程度の場合は、スキンプレートに切り込みを入れるとともに、この切り込みに対応する位置にある主桁にも数十mm程度の切り込みを入れて、これらの切り込みに収まる厚みのスライド鋼板が適用されてもよい。
ここで、スライド鋼板が張り出す一方のトンネル函体においては、例えばスキンプレートに対してその厚み未満の深さのスライド鋼板収容溝を設けておき、このスライド鋼板収容溝にスライド鋼板を収容しておく。トンネル函体の内部には、スライド鋼板をスライドさせる駆動源であるシリンダ機構等を装備しておき、シリンダ機構を形成するブッシュロッド等にてスライド鋼板をスライドさせるように構成してよい。
さらに、スライド鋼板の内側面(スキンプレート側の面)に複数のボス等が設けられ、スライド鋼板のめくれ防止と地山側への離れ防止のための調整ボルトナット等が設けられていてもよい。
【0017】
また、本発明によるトンネル函体群ユニットの他の態様において、
前記山留め部材は、前記一方のトンネル函体群において摺動自在に設けられている、スライド櫛歯体であり、
前記スライド櫛歯体がスライドして前記他方のトンネル函体群に向かって張り出していることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、山留め部材として複数の突き刺し棒等を備えたスライド櫛歯体を適用することにより、例えば、シールド方式を適用した際に隣接するトンネル函体群の間に裏込め注入材が充填硬化している場合であっても、スライド櫛歯体が裏込め注入材に突き刺さりながらその先端を所望位置まで到達し、山留めを構築することができる。
ここで、スライド櫛歯体は、例えば複数の丸鋼や異形棒鋼等を形鋼材や角鋼管等に固定することにより形成できる。複数の丸鋼等が固定されている形鋼材等をシリンダ機構を形成するブッシュロッド等がスライドさせることにより、各丸鋼等を他方のトンネル函体群側へ張り出させることができる。張り出したスライド櫛歯体の先端は、他方のトンネル函体群に設けられている収容溝等に収容されてもよいし、隙間内に留まってもよい。スライド櫛歯体の先端が隙間内に留まる場合は、スライド櫛歯体が片持ち構造となることから、必要に応じて、スライド櫛歯体の根本を支持する棚台を設けてもよい。また、隣接する双方のトンネル函体群からスライド櫛歯体を相互に干渉しないように張り出してもよい。
【0019】
また、本発明によるトンネル函体群ユニットの施工方法の一態様は、
推進方式もしくはシールド方式により、上下および/または左右に隙間を置いて、複数本のトンネル函体群を順次併設することによってトンネル函体群ユニットを施工する、トンネル函体群ユニットの施工方法であって、
前記トンネル函体群は、該トンネル函体群の軸方向にリング継手を介して配設され、該軸方向に直交する断面が矩形の複数のトンネル函体により形成されており、
隣接する二つの前記トンネル函体群のうち、地山に対向する外面を備えている二つの該トンネル函体群の一方のトンネル函体群を、先行トンネル函体群として施工し、次いで、他方のトンネル函体群を後行トンネル函体群として施工する方法であり、
前記後行トンネル函体群の施工に当たり、前記先行トンネル函体群と該後行トンネル函体群のいずれか一方のトンネル函体群から他方のトンネル函体群に向かって山留め部材を張り出し、この際に、該山留め部材の先端を、前記他方のトンネル函体群まで延設させ、もしくは、その手前の前記隙間の途中で止めておき、かつ、前記他方のトンネル函体群の前記外面よりも前記地山と反対側である内側に配設することを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、隣接する二つのトンネル函体群のうち、地山に対向する外面を備えている二つのトンネル函体群の一方のトンネル函体群から他方のトンネル函体群に向かって山留め部材を張り出させ、この山留め部材の先端を、他方のトンネル函体群まで延設させるか、その手前の隙間の途中に止め、さらに、他方のトンネル函体群の外面よりも地山と反対側である内側に配設することにより、後行トンネル函体群を施工する際の掘進機によって掘削された領域内において隣接するトンネル函体群に跨がる山留め部材を設けることができるため、山留め部材の施工に際してトンネル函体群の周囲にある地山の掘削を不要にできる。
このことにより、トンネル函体群ユニットを施工した後に隣接するトンネル函体群の間を切り開いて地下構造物を構築する一連の施工において、切り開き施工の際の施工安全性と施工効率性の双方を高めることができる。
【0021】
また、本発明によるトンネル函体群ユニットの施工方法の他の態様において、
前記先行トンネル函体群の前記外面には、面が凹状に落ち込んだ落ち込み溝が設けられており、
前記山留め部材は、前記後行トンネル函体群において摺動自在に設けられているスライド鋼板であり、
前記後行トンネル函体群の施工において、該後行トンネル函体群の掘進方向前方に位置する掘進機から前記落ち込み溝まで切削カッタを張り出して、該落ち込み溝にある地山もしくは裏込め注入材を切削し、前記スライド鋼板を張り出してその先端を該落ち込み溝に配設しながら該後行トンネル函体群を施工することを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、後行トンネル函体群の掘進方向前方に位置する掘進機から、隣接する先行トンネル函体群の落ち込み溝まで切削カッタを張り出し、掘進機の掘進に応じて先行トンネル函体群の軸方向に延設する落ち込み溝に入り込んでいる地山や裏込め注入材を連続的に切削することにより、先行トンネル函体群の延長に亘る落ち込み溝の溝空間を形成(再形成)することができる。そして、掘進機の後方に続く後行トンネル函体群からスライド鋼板を張り出し、先行トンネル函体群の軸方向に延設する落ち込み溝の溝空間に対してスライド鋼板の先端を係止させ、後行トンネル函体群の掘進に応じてスライド鋼板を落ち込み溝の上で摺動させることにより、先行トンネル函体群の延長に亘る落ち込み溝に対して、同様の延長を有する後行トンネル函体群から張り出すスライド鋼板を、地山や裏込め注入材に阻害されることなく、先行トンネル函体群の落ち込み溝に架け渡して山留めを構築することができる。
例えば、先行トンネル函体群が推進方式にて施工されている場合は、先行トンネル函体群の備える落ち込み溝に上方の地山が崩落して落ち込み溝を閉塞している可能性があり、先行トンネル函体群がシールド方式にて施工されている場合は、落ち込み溝に硬化した裏込め注入材が入り込んで閉塞している可能性があるが、これらが切削カッタにて効果的に切削され、落ち込み溝から除去される。
ここで、切削カッタは、回転等しない不動の切削カッタであってもよいし、回転自在なブレードカッタやチェーン式のトレンチャー等であってもよい。
【0023】
また、本発明によるトンネル函体群ユニットの施工方法の他の態様において、
前記山留め部材は、前記先行トンネル函体群と前記後行トンネル函体群のいずれか一方もしくは双方において摺動自在に設けられている、スライド櫛歯体であり、
前記後行トンネル函体群の掘進の途中段階において、もしくは、該後行トンネル函体群の掘進の完了段階において、前記先行トンネル函体群と前記後行トンネル函体群のいずれか一方もしくは双方から前記スライド櫛歯体を張り出すことを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、後行トンネル函体群の掘進の途中段階や掘進の完了段階において、先行トンネル函体群と後行トンネル函体群のいずれか一方もしくは双方からスライド櫛歯体を張り出すことにより、先行トンネル函体群と後行トンネル函体群の間の隙間に存在する地山や裏込め注入材にスライド櫛歯体が突き刺さりながらその先端を所望位置まで到達し、山留めを構築することができる。ここで、後行トンネル函体群からスライド櫛歯体を張り出す場合においては、掘進機から切削カッタを張り出して先行切削することを不要にできる。
【0025】
また、本発明によるトンネル函体群ユニットの施工方法の他の態様において、
前記シールド方式を適用する場合は、前記トンネル函体のテールボイドに施工された裏込め注入材により隣接する前記トンネル函体群との間の止水構造を形成し、
前記推進方式を適用する場合は、前記トンネル函体群の周囲にある余掘り部に注入されている滑材を該トンネル函体群の内部に回収し、該余掘り部に対して止水材を注入して隣接する前記トンネル函体群との間の止水構造を形成し、
形成された前記止水構造では止水性が不十分な場合に、別途の止水材の注入を行うことを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、シールド方式と推進方式のいずれにおいても、隣接するトンネル函体群の施工過程において止水構造を形成することにより、双方のトンネル函体群に架け渡される山留め部材と相俟って、切り開き施工の際の施工安全性を高めることができる。さらに、トンネル函体群の施工過程において形成される止水構造の止水性が不十分である場合に、別途の止水材の注入によって新たな止水構造を形成することにより、高い止水性を有する山留めの下でトンネル函体群間の切り開き施工を行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のトンネル函体群ユニットとその施工方法によれば、上下および/または左右に隙間を置いて併設された複数本のトンネル函体群により形成されるトンネル函体群ユニットにおいて、隣接するトンネル函体群の間の切り開き施工に先行して山留めを施工する際に、トンネル函体群の周囲の地山の掘削を不要にして効率的な山留めの施工を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施形態に係るトンネル函体群ユニットの施工方法の一例を説明する図であって、地山内に先行トンネル函体群が施工されている状態を示す図である。
【
図2】
図1に続いてトンネル函体群ユニットの施工方法の一例を説明する図であって、先行トンネル函体群の側方に隙間を置いて後行トンネル函体群を推進施工している状態を示す図である。
【
図3】
図2に続いてトンネル函体群ユニットの施工方法の一例を説明する図であって、先行トンネル函体群の側方に隙間を置いて後行トンネル函体群が施工された状態を示す図である。
【
図5】
図3に続いてトンネル函体群ユニットの施工方法の一例を説明する図であって、計四基のトンネル函体群により形成される、実施形態に係るトンネル函体群ユニットの一例の正面図である。
【
図6】
図5に示すトンネル函体群ユニットを利用して、上下左右で隣接するトンネル函体群の間を切り開き施工することにより構築される、地下構造物の一例の正面図である。
【
図7】
図3に続いてトンネル函体群ユニットの施工方法の他の例を説明する図であって、計九基のトンネル函体群により形成される、実施形態に係るトンネル函体群ユニットの他の例の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、実施形態に係るトンネル函体群ユニットとその施工方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0030】
[実施形態に係るトンネル函体群ユニットとその施工方法]
図1乃至
図7を参照して、実施形態に係るトンネル函体群ユニットとその施工方法の一例について説明する。ここで、
図1乃至
図3は順に、実施形態に係るトンネル函体群ユニットの施工方法の一例を説明する図であって、
図1は、地山内に先行トンネル函体群が施工されている状態を示す図であり、
図2は、先行トンネル函体群の側方に隙間を置いて後行トンネル函体群を推進施工している状態を示す図であり、
図3は、先行トンネル函体群の側方に隙間を置いて後行トンネル函体群が施工された状態を示す図である。また、
図5は、
図3に続いてトンネル函体群ユニットの施工方法の一例を説明する図であって、計四基のトンネル函体群により形成される、実施形態に係るトンネル函体群ユニットの一例の正面図であり、
図6は、
図5に示すトンネル函体群ユニットを利用して、上下左右で隣接するトンネル函体の間を切り開き施工することにより構築される、地下構造物の一例の正面図である。
【0031】
以下、
図1等において、紙面の上下左右をそれぞれ、上側、下側、左側、及び右側として説明する。また、
図1乃至
図3では、理解を容易にするべく、先行トンネル函体10Aが上側のスキンプレート12の左側領域にのみ落ち込み溝16を備え、後行トンネル函体10Bが上側のスキンプレート12の右側領域のみに山留め部材30がスライド自在に設けられている形態を示しているが、各トンネル函体10の施工順序や他のトンネル函体10の隣接形態(左右側、上下側)に応じて、落ち込み溝16の設置形態や山留め部材30の設置形態は多様に存在する。例えば、トンネル函体10が、上下左右のスキンプレート12の二箇所以上の領域の他に落ち込み溝16を備えていてもよいし、上下左右の一つのスキンプレート12に落ち込み溝16を備え、他の一つのスキンプレート12に山留め部材30を備えていてもよいし、上下左右の二つのスキンプレート12に山留め部材30を備えていてもよい。また、掘進機70においても、図示例は、マシン胴体の天井の右側領域のみから切削カッタ75が張り出し自在に設けられているが、マシン胴体の天井の左右領域の双方から固有の切削カッタ75が張り出し自在に設けられてもよいし、マシン胴体の天井の右側領域と左側側面の下側領域の双方から固有の切削カッタ75が張り出し自在に設けられてもよい。
【0032】
上下および/または左右に隙間Sを置いて併設された複数本のトンネル函体群20によって形成される、トンネル函体群ユニットの施工においては、
図1に示すように、基準となるトンネル函体群20を地山G内に施工する。ここでは、トンネル函体群20の施工を推進方式により行う方法として説明するが、トンネル函体群はシールド方式により施工されてもよい。
【0033】
図1では、既に、基準となる先行トンネル函体群20Aが地山G内にX1方向に推進施工されている状態を示している。トンネル函体群20の推進施工においては、
図2に示すような掘進機70(ハーモニカマシンとも称する)を不図示の発進立坑から発進させ、掘進機70の後方に順次トンネル函体10を連接させ、発進立坑内にある元押しジャッキにより掘進機70と後続のトンネル函体群20を押し出す方法により推進施工が実行される。ここで、トンネル函体群20の延長が長い場合には、必要に応じて連続するトンネル函体10の間に中押しジャッキが装備されてもよい。また、掘進機70が内部に推進ジャッキを備えていてもよい。
【0034】
先行トンネル函体群20A(トンネル函体群20の一例)は、その軸方向にリング継手11Aを介して配設されている複数の先行トンネル函体10A(トンネル函体10の一例)により形成される。このトンネル函体10は、軸方向に間隔を置いて配設されている複数(図示例は二つ)の枠状の主桁11と、複数の主桁11の周縁に取り付けられているスキンプレート12と、軸方向に延設して双方の主桁11同士を繋ぐ複数の縦リブ13とを備えた、正面視矩形(図示例は正方形)の鋼殻により形成される。リング継手11Aは、軸方向に隣接するトンネル函体10の主桁11同士が、複数のボルトナット15を介して接続されることにより形成されている。
【0035】
図示例の施工方法では、基準となる先行トンネル函体群20Aの推進施工に続いて、
図2に示すように、その左側側方に隙間Sを置いて後行トンネル函体群20Bが推進施工される。
図1に示すように、先行トンネル函体群20Aを形成する各先行トンネル函体10Aの上側のスキンプレート12の左側領域には、軸方向に延設する落ち込み溝16が設けられている。
【0036】
先行トンネル函体10Aの備える落ち込み溝16は、先行トンネル函体群20Aの左側側方に推進施工される後行トンネル函体群20Bから張り出す山留め部材30の先端が係止される溝である。例えば、スキンプレート12の厚みが50mm程度の場合に、落ち込み溝16の深さはスキンプレート12の厚み未満である20mm乃至40mm程度に設定できる。また、その他、スキンプレートの厚みが数mm程度(例えば、3.2mm~4.5mm程度)の場合は、スキンプレートに切り込みを入れるとともに、この切り込みに対応する位置にある主桁にも数十mm程度(例えば50mm程度)の切り込みを入れて、これらの切り込み(落ち込み溝)に収まる厚み(例えば25mm~40mm程度)のスライド鋼板が適用されてもよい。
【0037】
図1に示すように、各先行トンネル函体10Aの備える落ち込み溝16は軸方向に連接しており、図示例では、この落ち込み溝16に上方から崩落した崩落地山(加泥材混じり土砂または裏込注入材)gが入り込んで閉塞している。先行トンネル函体群20Aがシールド方式にて施工される場合は、シールド施工の際にテールボイドに注入された裏込め注入材が、落ち込み溝16に硬化した状態で入り込み、閉塞する可能性がある。
【0038】
所定延長の先行トンネル函体群20Aを施工した後、
図2に示すように、その左側側方において、所定の隙間Sを置いて推進方式により後行トンネル函体群20B(トンネル函体群20の他の例)を施工する。この隙間Sに関し、推進方式における隙間Sは数cm乃至十数cm程度となり、シールド方式における隙間Sは十数cm乃至数十cm程度となり得ることから、トンネル函体群20の間の隙間Sは数cm乃至数十cm程度の範囲となる。
【0039】
ここで、ハーモニカマシンである掘進機70は、正面視矩形(図示例は正方形)のマシン胴体の前方のカッタヘッドの中央に、Y1方向に回転する複数のカッタスポークを備えた回転カッタ71を有し、カッタヘッドの四つの隅角部近傍にY2方向に回転するコーナーカッタ72を有している。掘進機70は例えば密閉型土圧式のマシンであり、マシン胴体の内部には、カッタヘッドの背面に土砂を取り込むチャンバを形成するバルクヘッドを備え、チャンバに連通して土砂を後方に搬送するスクリュコンベアや圧送ポンプを備え、回転カッタ71やコーナーカッタ72を回転駆動するカッタ駆動用油圧モータを備え、さらに止水材を注入する止水注入装置や可動ソリ等を備えている(いずれも図示せず)。
【0040】
また、
図2に示すように、掘進機70のマシン胴体の天井の右側領域には、切削カッタ収容溝73が設けられている。マシン胴体の内部には油圧シリンダ機構が装備されており、油圧シリンダ機構を構成するシリンダロッド74が、切削カッタ収容溝73において先行トンネル函体群20A側へZ1方向に張り出し自在に配設されている。シリンダロッド74の先端には、Z2方向に回転自在なブレードカッタ等の切削カッタ75が装備されている。
【0041】
一方、
図2に示すように、後行トンネル函体群20Bを形成する各後行トンネル函体10Bの上側のスキンプレート12の右側領域には、軸方向に延設するスライド鋼板収容溝17が設けられている。
【0042】
このスライド鋼板収容溝17は、後行トンネル函体群20Bから施工済みの先行トンネル函体群20A側へZ3方向に張り出す、スライド鋼板30A(山留め部材30の一例)がスライド自在に収容されている溝である。例えば、スキンプレート12の厚みが50mm程度の場合に、スライド鋼板30Aの厚みが20mm乃至30mm程度に設定され、スライド鋼板収容溝17の深さはスキンプレート12の厚み未満であってスライド鋼板30Aの厚み以上である20mm乃至40mm程度に設定できる。
【0043】
後行トンネル函体10Bの内部には不図示のシリンダ機構が装備されており、シリンダ機構を形成する複数本(図示例は二本)のブッシュロッド32の先端にスライド鋼板30Aが取り付けられている。
【0044】
ブッシュロッド32がシリンダに収容されている際には、スライド鋼板30Aはスライド鋼板収容溝17に完全に収容される。一方、後行トンネル函体群20Bの推進施工の際には、後行トンネル函体群20Bを構成する掘進方向前方の後行トンネル函体10Bから順にスライド鋼板30Aを先行トンネル函体群20A側へ張り出し、スライド鋼板30Aの先端を先行トンネル函体10Aの落ち込み溝16に係止させた状態で後行トンネル函体群20Bの推進施工を行う。
【0045】
切削カッタ75やスライド鋼板30Aのスライドに関して詳説すると、推進施工においては、掘進機70が発進立坑のエントランスパッキン(図示せず)を通過した段階で、切削カッタ75を右側側方へZ1方向に張り出し、先行トンネル函体群20Aの連続した落ち込み溝16に切削カッタ75を入り込ませる。落ち込み溝16には、例えば上方の地山Gが崩落した崩落地山gが入り込んで溝を閉塞している。
【0046】
掘進機70がX2方向に掘進する過程で、先行トンネル函体群20Aの軸方向に連続する落ち込み溝16を閉塞している崩落地山gは、落ち込み溝16に入り込んだ状態でZ2方向に回転する切削カッタ75により順次切削され、除去される(もしくは、緩んだ状態とされる)。
【0047】
掘進機70の後方で推進される各後行トンネル函体10Bは、発進立坑のエントランスパッキンを通過した段階でスライド鋼板30Aを右側側方へZ3方向に張り出し、先行トンネル函体群20Aの連続した落ち込み溝16にスライド鋼板30Aを入り込ませる。落ち込み溝16を閉塞していた崩落地山gは既に先行する切削カッタ75にて切削除去されていることから、溝空間が再形成された落ち込み溝16において、崩落地山gに進行を阻害されることなくスライド鋼板30Aが掘進方向に摺動していく。
【0048】
図3に示すように、先行トンネル函体群20Aの左側側方に所定幅の隙間Sを置いて後行トンネル函体群20Bが推進施工された際に、先行トンネル函体群20Aの軸方向に連続する落ち込み溝16に対して、同様に後行トンネル函体群20Bの軸方向に連続するスライド鋼板30Aの先端が係止され、先行トンネル函体群20Aと後行トンネル函体群20Bの隙間Sの上方を塞ぐ山留めが施工される。
【0049】
また、山留め部材であるスライド鋼板30Aは、先行トンネル函体群20Aのスキンプレート12の上側の外面よりも地山Gと反対側である内側に配設されている。すなわち、後行トンネル函体群20Bを施工する際の掘進機70によって掘削された領域内において、隣接するトンネル函体群20A,20Bに跨がる山留め部材30(スライド鋼板30A)を設けることができるため、山留め部材30の施工に際してトンネル函体群20の周囲にある地山Gの掘削を不要にでき、効率的な山留めの施工を実現できる。すなわち、既述するように人力による地山の掘削を不要にでき、後行トンネル函体群20Bの推進施工の完了と同時に、先行トンネル函体群20Aと後行トンネル函体群20Bの間に架け渡される山留め部材が施工される。
【0050】
また、スライド鋼板30Aの両端が双方のトンネル函体10A,10Bにて安定的に支持されることから、スライド鋼板30Aの厚みを可及的に薄厚にできる。ここで、図示を省略するが、スライド鋼板30Aの内側面(スキンプレート12側の面)に複数のボス等が設けられ、スライド鋼板30Aのめくれ防止と地山G側への離れ防止のための調整ボルトナット等が設けられていてもよい。また、スライド鋼板30Aの掘進方向側の先端部が、先行するトンネル函体10A,10Bの継ぎ目に食い込んだり、離れる方向に捲れたりしないように、この先端部の上下を面取り等しておくのが好ましい。
【0051】
推進方式においては、掘進機70のカッタヘッドの側方からコピーカッタ(図示せず)を張り出して余掘り部を施工し、余掘り部に滑材を注入し、滑材の内部を掘進機70が掘進しながらトンネル函体群20が推進される。推進施工においては、余掘り部に注入されている滑材をトンネル函体群20の内部に回収し、滑材に代わって余掘り部に対して止水材を注入することで、隣接するトンネル函体群20の間の止水構造を形成することができる。
【0052】
従って、
図3に示す連続したスライド鋼板30Aによる土留めと、不図示の止水構造とにより、隣接するトンネル函体群20の間には高い止水性を有する山留めが形成される。しかしながら、トンネル函体群20の推進施工の過程で形成される止水構造では、止水性が不十分な場合もあり得る。そこで、このように止水性が不十分な場合には、推進施工された隣接するトンネル函体群20A,20Bのいずれか一方もしくは双方から、スライド鋼板30Aの背面の地山G内に別途の止水材の注入を行うことにより、止水性を高めてもよい。
【0053】
図示例の推進方式に代わり、シールド方式にて各トンネル函体群20を施工する場合は、トンネル函体10のテールボイドに施工された裏込め注入材により、隣接するトンネル函体群20の間の止水構造が形成され得るが、このシールド方式においても止水性が不十分な場合には、シールド方式で施工された隣接するトンネル函体群20A,20Bのいずれか一方もしくは双方から、山留め部材30の背面の地山G内に別途の止水材の注入を行うことにより、止水性を高めることができる。
【0054】
図4は、山留め部材の他の例を示している。
図4に示す山留め部材30Bは、複数の突き刺し棒35と、各突き刺し棒35の根本が固定される角パイプ36とにより構成されるスライド櫛歯体である。突き刺し棒35は、丸鋼や異形棒鋼等により形成される。
【0055】
トンネル函体10の内部にはシリンダ機構38が装備され、シリンダ機構38のシリンダロッド38aの先端に角パイプ36が取り付けられている。トンネル函体10の側方のスキンプレート12には開口18が設けられており、開口18を介して各突き刺し棒35が側方の隙間Sに張り出している。シリンダロッド38aのZ5方向にスライドに応じて、各突き刺し棒35がZ6方向にスライドする。
【0056】
また、図示例では、開口18の下方に形鋼材により形成される棚台19が設けられており、スライド櫛歯体30Bの突き刺し棒35の先端が隙間S内に張り出した際に、片持ち構造となり得るスライド櫛歯体30Bの根本を支持できるようになっている。
【0057】
例えば、シールド方式を適用した際には、隣接するトンネル函体群20の間の隙間Sに裏込め注入材が充填硬化しているが、スライド櫛歯体30Bを適用することにより、各突き刺し棒35が裏込め注入材に突き刺さりながらその先端を所望位置まで到達し、山留めを構築することができる。尚、図示を省略するが、先行トンネル函体群20Aの施工の際にその周囲に裏込注入を施工し、先行トンネル函体群20Aと後行トンネル函体群20Bとの間にある裏込注入材を掘削しながら後行トンネル函体群20Bを施工し、後行トンネル函体群から裏込注入を施工する前にスライド櫛歯体30Bを押し出す順序で施工を行うのが好ましい。
【0058】
各突き刺し棒35は間隔を置いて配設されており、隣接する突き刺し棒35の間に跨がる地山Gがアーチを形成し、このアーチ効果によってその上方の地山Gの下方への崩落を効果的に防止する土留めが構成される。
【0059】
ここで、隙間Sに張り出したスライド櫛歯体30Bの各突き刺し棒35の先端は、他方のトンネル函体群20の側面のスキンプレート12に設けられている収容溝(図示せず)に収容されてもよいし、隙間S内に留まってもよい。突き刺し棒35の先端が隙間S内に留まる場合は、上記するようにスライド櫛歯体30Bが片持ち構造となるが、棚台19にてスライド櫛歯体30Bの根本が支持されていることから、スライド櫛歯体30Bの根本の破損が抑制される。また、スライド櫛歯体30Bの隙間Sへの張り出しは、隣接するトンネル函体群20のいずれか一方から張り出してもよいし、隣接する双方のトンネル函体群20から、それぞれに固有のスライド櫛歯体30Bを相互に干渉しないように張り出してもよい。尚、棚台19は、スキンプレート12の内側に取り付けられていてもよいし、せり出した形態が適用されてもよい。
【0060】
次に、
図5を参照して、二段二列の計四基のトンネル函体群20を、相互に上下左右に併設することによりトンネル函体群ユニットを施工する方法を概説する。
【0061】
図5においては、一例として、四基のトンネル函体群20の施工順序を示しており、右上のトンネル函体群20から半時計回りに順次トンネル函体群20を施工することにより、トンネル函体群ユニット50A(50)を施工する。
【0062】
右上の基準となるトンネル函体群20とその左側のトンネル函体群20は、
図1乃至
図3を参照して既に説明した方法により順次施工する。図示するように、施工順序と、隣接するトンネル函体群20の位置に応じて、それぞれのトンネル函体群20における落ち込み溝16とスライド鋼板30Aの設置位置は相違する。
【0063】
図示例においては、基準となる右上のトンネル函体群20の上側と右側の各スキンプレート12の落とし込み溝16に対して、左上のトンネル函体群20と右下のトンネル函体群20からそれぞれスライド鋼板30AがZ3方向に張り出して山留めを形成する。さらに、左上のトンネル函体群20の左側と左下のトンネル函体群20の下側の各スキンプレート12の落とし込み溝16に対して、左下のトンネル函体群20と右下のトンネル函体群20からそれぞれスライド鋼板30AがZ3方向に張り出して山留めを形成する。
【0064】
このように、原則的には、施工順序が先のトンネル函体群20の側面には落ち込み溝16が設けられ、施工順序が後のトンネル函体群20の側面からスライド鋼板30Aが張り出して落ち込み溝16に架け渡される。
【0065】
図5に示すトンネル函体群ユニット50Aの四辺の各中央位置に山留めが設けられることにより、トンネル函体群20の間の隙間Sが山留めにて閉塞される。ここで、形成された山留めの周辺領域には、必要に応じて、既述するように別途の止水構造が形成される。
【0066】
次に、
図6に示すように、形成されたトンネル函体群ユニット50Aを利用して、隣接するトンネル函体群20の間の隙間Sを切り開き施工することにより、トンネル函体群ユニット50Aの内部に地下構造物60を施工する。
【0067】
この施工においては、各トンネル函体群20を構成するトンネル函体10の主桁11やスキンプレート12の一部を巻き込むようにして、天井スラブ63と床スラブ64、及び左右の壁65を施工した後、天井スラブ63と床スラブ64、及び左右の壁65により包囲される領域に存在しているトンネル函体10の構成部材を撤去して内部空間66を形成することにより、地下構造物60を施工する。
図6からも明らかなように、地下構造物60は、トンネル函体群ユニット50Aの外郭がその構成要素の一部となっている。
【0068】
図示するトンネル函体群ユニット50Aとその施工方法を適用することにより、トンネル函体群ユニット50Aを形成する隣接したトンネル函体群20の間の切り開き施工に先行して山留めを施工する際に、トンネル函体群20の周囲の地山Gの掘削を不要にして効率的な山留めの施工を実現できる。また、推進方式やシールド方式の際に形成される止水構造により、あるいは、必要に応じて、止水材を土留めの背面の地山Gに別途注入することにより形成される別途の止水構造により、止水性の高い土留めの下で切り開き施工を行うことが可能になる。
【0069】
一方、
図7には、トンネル函体群ユニットの他の例として、九基のトンネル函体群20の施工順序を示しており、右上のトンネル函体群20から半時計回りに上方(上段と中段)にある六基のトンネル函体群20を順次施工した後、下段の三基のトンネル函体群20を左側から順に施工することにより、トンネル函体群ユニット50B(50)を施工する。尚、九基のトンネル函体群20の施工順序は様々であり、例えば、下段、中段、上段の順に施工し、下段の基準となるトンネル函体群の上に中段の基準となるトンネル函体群を施工し、中段の基準となるトンネル函体群の上に上段の基準となるトンネル函体群を施工する方法等を挙げることができる。
【0070】
図示するトンネル函体群ユニット50Bにおいても、施工順序が先のトンネル函体群20の側面にある落ち込み溝16に対して、施工順序が後のトンネル函体群20の側面からスライド鋼板30Aが張り出して落ち込み溝16に架け渡されることにより、トンネル函体群ユニット50Bの四辺の各三等分位置に山留めが設けられ、トンネル函体群20の間の隙間Sが山留めにて閉塞される。そして、
図6に示す方法と同様の方法にて、トンネル函体群ユニット50Bを利用しながらトンネル函体群20の間の切り開き施工を行い、地下構造物が施工される。
【0071】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0072】
10,10A,10B:トンネル函体
11:主桁
11A:リング継手
12:スキンプレート
13:縦リブ
15:ボルトナット
16:落ち込み溝
17:スライド鋼板収容溝
18:開口
19:棚台
20:トンネル函体群
20A:先行トンネル函体群(トンネル函体群)
20B:後行トンネル函体群(トンネル函体群)
30:山留め部材
30A:スライド鋼板(山留め部材)
30B:スライド櫛歯体(山留め部材)
32:ブッシュロッド
35:突き刺し棒(丸鋼)
36:角パイプ
38:シリンダ機構
50,50A,50B:トンネル函体群ユニット
60:地下構造物
61:鉄筋コンクリート体
63:天井スラブ
64:床スラブ
65:壁
66:内部空間
70:掘進機(ハーモニカマシン)
71:回転カッタ
72:コーナーカッタ
73:切削カッタ収容溝
74:シリンダロッド
75:切削カッタ
G:地山
g:崩落地山
S:隙間