(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】パーキングロック装置
(51)【国際特許分類】
B60T 1/06 20060101AFI20240617BHJP
F16D 65/16 20060101ALI20240617BHJP
F16H 63/34 20060101ALI20240617BHJP
F16D 121/14 20120101ALN20240617BHJP
F16D 125/66 20120101ALN20240617BHJP
F16D 127/02 20120101ALN20240617BHJP
F16D 127/06 20120101ALN20240617BHJP
【FI】
B60T1/06 G
F16D65/16
F16H63/34
F16D121:14
F16D125:66
F16D127:02
F16D127:06
(21)【出願番号】P 2021142459
(22)【出願日】2021-09-01
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】川元 孝一
(72)【発明者】
【氏名】高木 健一
(72)【発明者】
【氏名】中川 光路
(72)【発明者】
【氏名】藁科 秀平
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-083844(JP,A)
【文献】実開昭63-176861(JP,U)
【文献】実開昭62-121158(JP,U)
【文献】特開2018-040396(JP,A)
【文献】特開平07-205773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 1/06
F16D 65/16
F16H 63/34
F16D 121/14
F16D 125/66
F16D 127/02
F16D 127/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキングギヤと、
前記パーキングギヤと噛み合う噛合部を備え、回転軸を支点として揺動可能に設けられたパーキングポールと、
前記パーキングポールに対して相対移動可能なパーキングロッドと、
前記パーキングロッドに取り付けられ、前記パーキングポールと接触して前記パーキングポールを揺動させるカムと、
前記パーキングロッドの一部が収容される収容部と、
を有し、
前記収容部には、前記パーキングポールの当て面として機能し、前記パーキングポールの前記回転軸に沿う方向への移動を制限する当接部が設けられており、
前記当接部として、前記収容部に設けられた第一当接部
と、前記回転軸を取り囲むように形成された第二当接部と、前記噛合部の近傍に設けられた第三当接部と、を有し、
前記第一当接部は、前記収容部の開口に沿って円弧状の形状に形成されて
おり、
前記パーキングポールの両端のうち、一方の端部には前記パーキングギヤと噛み合い可能な噛合部が設けられ、他方の端部が前記カムと接触可能な位置に配置されており、
前記パーキングポールの揺動支点となる位置に前記第二当接部を設けつつ、自由端となる前記パーキングポールの一端側には前記第一当接部が設けられ、他端側には前記第三当接部が設けられていることを特徴とする、パーキングロック装置。
【請求項2】
前記噛合部と前記パーキングギヤとが噛み合う状態をPロック状態と、
前記噛合部と前記パーキングギヤとの噛み合いが解除された状態を解除状態とした場合、
前記当接部は、前記Pロック状態及び前記解除状態を通じて少なくとも一部が前記パーキングポールに当接可能となるように形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のパーキングロック装置。
【請求項3】
前記カムの移動をガイドするパーキングサポートを備え、
前記噛合部が前記パーキングギヤの外径と接触する位置にあり前記噛合部と前記パーキングギヤとの噛み合いを待機する状態をPロック待機状態とし、
前記噛合部と前記パーキングギヤとが噛み合う状態をPロック状態とした場合、
前記パーキングサポートが、前記収容部の壁面よりも前記収容部
における前記パーキングロッドの径方向内側寄りとなる位置に配される内周面を有する形状とされることにより、前記Pロック待機状態から前記Pロック状態に移行する過程で前記パーキングロッドと接触可能な位置であって、かつ前記パーキングロッドの傾きを制限するように設けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のパーキングロック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキングロック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パーキングギヤ、パーキングポール、カム、パーキングロッドなどを備えたパーキングロック装置が提供されている。例えば、下記特許文献1には、パーキングロッドに形成されたテーパー状のウェッジを当接させて、パーキングポールを押し上げてパーキングポールをパーキングギヤに噛ませるパーキングロック構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、従来のパーキングロック装置では、パーキングギヤをロックするタイミング(パーキングロックタイミング)が安定しないといった問題があった。また、パーキングロックのタイミングのバラツキにより、車両が動いている際に誤操作でPレンジとされた際に、早い車速(例えば車速5km/h)でロックしたり、遅い車速(例えば2km/h)でロックしたり、ロックされる車速がバラついていた。
【0005】
また、早い車速でロックすると、ロックの際の荷重を受けることになる部品の耐久性に影響を及ぼすといった懸念があり、このようなパーキングロックタイミングのバラツキを低減させ、パーキングロックのタイミングを安定させたいといった要望があった。
【0006】
そこで本発明は、パーキングロックタイミングのバラつきを低減させ、パーキングロックのタイミングを安定させることができるパーキングロック装置の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで、本発明の発明者らはパーキングロックタイミングのバラツキが発生する原因について検討した。その結果、パーキングポールのガタつきに起因してパーキングロックタイミングのバラツキが発生していることが判明した。
【0008】
具体的に説明すると、パーキングロック装置120では、車両を停車させる際にシフトをPレンジに入れた際、パーキングポール132の噛合部132aがパーキングギヤ130の外周(外径)と接触する位置にある場合(
図10中の仮想線参照)には、カム136の屈曲部136cをまたぐようにパーキングポール132がカム136と接触する状態(Pロック待機状態)となる(
図11(a)参照)。
【0009】
また、Pロック待機状態で駆動輪が数cm動くと、パーキングギヤ130が連動して回転し、パーキングロッド134に取り付けられたばね137の力によりカム136がパーキングポール132を持ち上げる(
図11(b)参照)。これにより、パーキングポール132とパーキングギヤ130とが噛み合い、Pロック状態となる(
図10参照)。
【0010】
すなわち、Pロック待機状態では、第一テーパー部136aと第二テーパー部136bとの境界である屈曲部136cをまたぐようにパーキングポール132がカム136と接触し(
図11(a)参照)、カム136の第二テーパー部136bでパーキングポール132を受けるとロックする構造となっている(
図11(b)参照)。
【0011】
ここで、
図11(b)に示すとおり、従来のパーキングロック装置120では、ケース体112に形成されたパーキングサポート138の取付部(収容部150)とパーキングポール132の間に隙間Sが設けられており、パーキングポール132とカム136との接触部分の近傍となる位置にはパーキングポール132の移動を規制する当て面が設けられていなかった。そのため、パーキングポール132がカム136に押されるとパーキングポール132が動き、ガタつきが発生していた(
図11(a)参照)。
【0012】
このように、従来のパーキングロック装置120では、パーキングポール132にガタつきがあるため(パーキングポール132の位置が安定しないため)、カム136の第二テーパー部136bにパーキングポール132が乗り上げるタイミングがバラついていた。また、ガタつき分に応じてパーキングポール132が屈曲部136cをまたぐタイミング(第二テーパー部136bにパーキングポール132が乗り上げるタイミング)にバラツキが生じることとなり、その結果Pロックするタイミングがバラついていた。
【0013】
本発明の発明者らがさらに検討したところ、ケース体に設けられたパーキングサポート取付部であってカムを受ける部分(収容部)に当て面を設けることで、パーキングポールのガタつきを抑制することができるとの知見に至った。すなわち、カムがパーキングポールを押す位置の近傍(収容部)に当て面となる構成(当接部)を追加することで、パーキングポールのガタつきを抑制することができるとの知見に至った。
【0014】
(1)上述の知見に基づき提供される本発明のパーキングロック装置は、パーキングギヤと、前記パーキングギヤと噛み合う噛合部を備え、回転軸を支点として揺動可能に設けられたパーキングポールと、前記パーキングポールに対して相対移動可能なパーキングロッドと、前記パーキングロッドに取り付けられ、前記パーキングポールと接触して前記パーキングポールを揺動させるカムと、前記パーキングロッドの一部が収容される収容部と、を有し、前記収容部には、前記パーキングポールの当て面として機能し、前記パーキングポールの前記回転軸に沿う方向への移動を制限する当接部が設けられていることを特徴とする。
【0015】
本発明のパーキングロック装置によれば、パーキングポールのガタつきを抑制して、パーキングギヤをロックするタイミングを安定させることが可能となる。
【0016】
より詳細に説明すると、パーキングロックタイミングのバラつきを低減することで、車両が動いているときに誤操作等でPレンジにシフトされた際に、噛み合い車速(ギヤとパーキングポールが噛み合ってロックするときの車速)が安定する。例えば、従来のパーキングロック装置では、車速7km/hで動いているときに誤操作等でPレンジにシフト操作された際に、早い車速(例えば5km/h)でロックしたり、遅い車速(例えば2km/h)でロックしたりバラついていたものが、本発明のパーキングロック装置では、安定して所定の車速(例えば3km/h)でロックするようになる。
【0017】
これにより、噛み合い車速を狙いやすくなり、早い車速でロックすることを低減させることができる。その結果、各部品の耐久性を向上させることができる。
【0018】
(2)本発明のパーキングロック装置は、前記噛合部と前記パーキングギヤとが噛み合う状態をPロック状態と、前記噛合部と前記パーキングギヤとの噛み合いが解除された状態を解除状態とした場合、前記当接部は、前記Pロック状態及び前記解除状態を通じて少なくとも一部が前記パーキングポールに当接可能となるように形成されているものであるとよい。
【0019】
上述の構成によれば、当接部の形成を最小限に抑えつつ、常に当接部をパーキングポールに接触させてパーキングポールのガタつきを抑制可能となる。また、パーキングポールがPロック状態や解除状態等に姿勢を変化させた際に、パーキングポールが当接部に引っかかる(乗り上げる)ことを抑制することができる。
【0020】
ここで、本発明の発明者らは、さらにパーキングロックタイミングのバラツキを低減させるための構成について検討した。その結果、Pロック待機状態からPロック状態に移行する過程で、パーキングロッドの傾きを抑制すれば、よりパーキングロックタイミングのバラツキを低減することができるとの知見に至った。
【0021】
より詳細に説明すると、
図9(b)に示すとおり、Pロック待機状態からPロック状態に移行する過程では、パーキングロッド134のばね137が撓んだ状態となり、パーキングロッド134が傾く(先端側が跳ね上がった状態となる)。そのため、パーキングポール132に対するカム136の屈曲部136cの位置がパーキングロッド134の後退側(
図9(b)では左側)にズレることとなり、パーキングポール132とカム136との接触面(かかり代K)が少なくなる。
【0022】
ここで、
図12のようにパーキングポール132のカム136との接触面を大きくすることでかかり代を大きくすることも考えられる。しかしながら、パーキングポール132の接触面を大きくすると、早い車速でロックしやすくなる。そのため、早い車速でのロックを抑制するという課題と背反することとなる。
【0023】
その一方、パーキングサポートの位置を従来の位置よりも下げる構成とすれば、パーキングロッドの傾きを抑制してかかり代を確保することができる。具体的には、パーキングサポートを、Pロック待機状態からPロック状態に移行する過程でパーキングロッドと接触する位置とすることで、パーキングロッドの傾きを抑制してかかり代を確保することができる。
【0024】
(3)上述の知見に基づき提供される本発明のパーキングロック装置は、前記カムの移動をガイドするパーキングサポートを備え、前記噛合部が前記パーキングギヤの外径と接触する位置にあり前記噛合部と前記パーキングギヤとの噛み合いを待機する状態をPロック待機状態とし、前記噛合部と前記パーキングギヤとが噛み合う状態をPロック状態とした場合、前記パーキングサポートが、前記Pロック待機状態から前記Pロック状態に移行する過程で前記パーキングロッドと接触可能な位置であって、かつ前記パーキングロッドの傾きを制限する位置に設けられていることを特徴とする。
【0025】
上述の構成によれば、パーキングロッドが跳ね上がる量(傾き量)を低減して、カムとパーキングポールとのかかり代を確保することができる。その結果、さらにパーキングロックのタイミングを安定させることができる。
【0026】
(4)本発明のパーキングロック装置は、前記パーキングポールの当て面として機能し、前記パーキングポールの前記回転軸に沿う方向への移動を制限する当接部が複数設けられており、前記当接部として、前記収容部に設けられた第一当接部と、前記回転軸を取り囲むように形成された第二当接部と、前記噛合部の近傍に設けられた第三当接部と、が設けられているものであるとよい。
【0027】
上述の構成では、パーキングポールの揺動支点となる位置に当接部(第二当接部)を設けつつ、自由端となる両端(回転中心の両側)に当接部(第一当接部及び第三当接部)が設けられている。そのため、パーキングポールのガタつきをより効率的に抑制することができる。
【0028】
(5)本発明のパーキングロック装置は、前記パーキングギヤ、及び前記パーキングポールは、トランスアクスルの収容体であるケース体に収容され、前記収容部は、前記ケース体に形成されたものであり、前記収容部の少なくとも一部が、前記パーキングポールと接触する位置まで形成されており、前記収容部の端面の一部が、前記当接部として形成されているものであるとよい。
【0029】
上述の構成によれば、別途部材を追加することを要さず、シンプルな構成でパーキングポールのガタつきを抑制することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、パーキングロックタイミングのバラつきを低減させ、パーキングロックのタイミングを安定させることができるパーキングロック装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態に係るパーキングロック装置が設けられたトランスアクスルのギヤ室を示す斜視図である。
【
図2】
図1のパーキングロック装置を構成する部材を示す斜視図である。
【
図3】
図1のパーキングロック装置の当接部の位置を示す側面図である。
【
図6】
図1のパーキングロック装置の解除状態を示している。
【
図7】
図1のパーキングロック装置のPロック状態を示している。
【
図8】
図1のパーキングロック装置のPロック待機状態を示している。
【
図9】(a)は
図1のパーキングロック装置のPロック解除状態からPロック状態に移行する過程でパーキングロッドが跳ね上がった状態を示している。(b)は従来のパーキングロック装置のPロック解除状態からPロック状態に移行する過程でパーキングロッドが跳ね上がった状態を示す参考図である。
【
図10】従来のパーキングロック装置の側面を示す参考図である。
【
図11】従来のパーキングロック装置のPロック待機状態及びPロック状態を示す参考図である。
【
図12】パーキングポールの接触面を拡大した場合を例示する参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態に係るパーキングロック装置20について、図面を参照しつつ説明する。
【0033】
図1に示すとおり、パーキングロック装置20は、電動機(図示を省略)やデファレンシャル機構(図示を省略)等を備えるトランスアクスル10に設けられている。トランスアクスル10の収容体を構成するケース体12内には、パーキングロック装置20を構成する部品(パーキングポール32、パーキングロッド34等)や、デファレンシャル機構を構成するギヤ等が収容されている。
【0034】
図1及び
図2に示すとおり、パーキングロック装置20は、パーキングギヤ30、パーキングポール32、パーキングロッド34、カム36、及びパーキングサポート38を備えている。また、
図3に示すとおり、パーキングロック装置20は、ケース体12に設けられた当接部60を備えている。さらに、
図2に示すとおり、パーキングロック装置20は、回転軸33、トーションスプリング40、アウターレバー41、コントロールシャフト42、パーキングレバー43等の構成部材を備えている。
【0035】
図3に示すとおり、ケース体12には、収容部50、回転軸取付部52、当て面部54が形成されている。
図3に示すとおり、回転軸取付部52には、パーキングポール32の回転軸33が取り付けられている。当て面部54は、パーキングポール32の噛合部32aの近傍に設けられている。
【0036】
図4に示すとおり、収容部50は、内部が中空とされており、パーキングロッド34の一部(先端側)が収容されている。また、
図4に示すとおり、収容部50には、パーキングサポート38が取り付けられている。
【0037】
ケース体12には、パーキングポール32の当て面として機能し、パーキングポール32の回転軸33に沿う方向(軸線方向X)への移動を制限する複数の当接部60が設けられている。より具体的に説明すると、
図3に示すとおり、収容部50、回転軸取付部52、及び当て面部54の端面の少なくとも一部は、パーキングポール32の当て面として機能する当接部60となっている。
図3に示すハッチング部分は、ケース体12の加工面(端面)として形成された部分であり、当接部60として機能する部分である。
【0038】
なお、以下の説明では、収容部50に形成された当接部60を単に「第一当接部61」と、回転軸取付部52に形成された当接部60を単に「第二当接部62」と、当て面部54に形成された当接部60を単に「第三当接部63」と記載して説明する場合がある。
【0039】
収容部50は略円形の開口を備えており、その開口を取り囲むように第一当接部61が形成されている。より詳細に説明すると、
図4に示すとおり、収容部50の端面の上方側は、パーキングポール32と接触する位置まで形成されており、収容部50の上方側の端面がパーキングポール32の当て面となる第一当接部61として形成されている。さらに、
図3に示すとおり、第一当接部61は、収容部50の開口の上方側に形成されており、開口に沿うような円弧状の形状となっている。
【0040】
なお、従来のパーキングロック装置120では、収容部150の端面151がパーキングポール32と接触しない位置となっていた(
図5中の符号151参照)。これに対して、本実施形態のパーキングロック装置20では、
図5に示すとおり、端面51がパーキングポール32と接触する位置となるように収容部50が形成されている。
【0041】
また、回転軸取付部52は、パーキングポール32と接触する位置まで形成されており、回転軸取付部52の端面が第二当接部62として設けられている。すなわち、第二当接部62は、回転軸33を取り囲むように形成されている。さらに、当て面部54は、噛合部32aの近傍に設けられており、かつパーキングポール32と接触する位置まで形成されている。すなわち、第三当接部63は、噛合部32aの近傍に設けられている。
【0042】
なお、全ての当接部60(第一当接部61、第二当接部62、及び第三当接部63)は、噛合部32aとパーキングギヤ30とが噛み合う状態(Pロック状態)及び噛合部32aとパーキングギヤ30とが離間する状態(解除状態)を通じて、パーキングポール32に当接可能となるように形成されている(
図6~8参照)。
【0043】
図2に示すとおり、パーキングポール32は、パーキングギヤ30と噛み合う噛合部32aが形成されている。また、パーキングポール32は、回転軸33を支点として揺動可能にケース体12に取り付けられている。パーキングポール32の両端のうち、一方の端部(先端32b)にはパーキングギヤ30と噛み合い可能な噛合部32aが設けられており、他方の端部(基端32c)がカム36と接触可能な位置に配置されている。
【0044】
なお、以下の説明では、パーキングポール32の両端のうち、パーキングギヤ30側の端部(噛合部32aが形成されている方の端部)を「先端32b」と、カム36側の端部を「基端32c」と記載して説明する場合がある。
【0045】
パーキングロッド34は、パーキングポール32に対して相対移動可能な棒状の部材である。パーキングロッド34は、パーキングレバー43の揺動に応じて、パーキングポール32に対して進出及び後退するように移動可能となっている。
図2に示すとおり、パーキングロッド34は、一端がパーキングレバー43に対して連結されている。また、
図4に示すとおり、パーキングロッド34は、他端(先端)が収容部50に配置されている。
【0046】
カム36は、ばね37により付勢された状態でパーキングロッド34に取り付けられており、パーキングポール32と接触してパーキングポール32を揺動させる。
図4に示すとおり、カム36は、コマ状の外観を備える部材であり、軸線方向において異なる径方向の大きさを備えている。より詳細に説明すると、
図4に示すとおり、カム36は、傾斜が異なる二つのテーパー状の部分を備えており、先端側は傾斜が大きい第一テーパー部36a、基端側は傾斜が小さい第二テーパー部36bとなっている。また第一テーパー部36aと第二テーパー部36bとの境界は、断面形状が屈曲する部分(屈曲部36c)となっている。
【0047】
パーキングサポート38は、カム36の移動をガイドするための部材である。上述のとおり、パーキングサポート38は、収容部50に取り付けられている。
【0048】
図5に示すとおり、本実施形態のパーキングロック装置20では、パーキングサポート38は、従来のパーキングロック装置120のパーキングサポート138(
図5の仮想線参照)と比較して収容部50の内側寄り(下方)となる位置に配置されている。より詳細に説明すると、本実施形態のパーキングロック装置20では、パーキングサポート38は、Pロック待機状態からPロック状態に移行する過程でパーキングロッド34と接触可能な位置であって、かつパーキングロッド34の傾きを制限する位置に設けられている。
【0049】
<パーキングロック装置の状態について>
次に、パーキングロック装置20の状態と、各状態におけるパーキングポール32やカム36の位置について
図6~8を参照しつつ説明する。
【0050】
パーキングロック装置20では、運転者のシフト操作に連動してコントロールシャフト42が回転し、コントロールシャフト42に取り付けられたパーキングレバー43が揺動する。また、パーキングレバー43の揺動により、パーキングロッド34及びカム36がパーキングポール32に進出及び後退するように移動して、パーキングポール32を揺動させる。
【0051】
これにより、パーキングロック装置20は、噛合部32aとパーキングギヤ30との噛み合いが解除された状態(解除状態)と、噛合部32aとパーキングギヤ30とが噛み合う状態(Pロック状態)とに変化する。
【0052】
<解除状態>
図6に示すとおり、パーキングポール32の基端32cがカム36に持ち上げられていない状態では、パーキングポール32は、トーションスプリング40(
図6では図示を省略)の付勢力により先端32bが持ち上げられ、パーキングギヤ30と噛み合わない位置で維持される。
【0053】
<Pロック状態>
図7(b)に示すとおり、シフト装置(図示を省略)の操作によりPレンジとされると、パーキングロッド34がパーキングポール32に進出するように移動して、パーキングポール32は、基端32cがカム36に押されてカム36に乗り上げる。また、
図7(a)に示すとおり、パーキングポール32は、トーションスプリング40(
図7では図示を省略)の付勢力に逆らって基端32cが上方Upに押し上げられ、先端32bが下方Lwに押し下げられて噛合部32aがパーキングギヤ30と噛み合う。これにより、車両の駆動輪がロックされる。
【0054】
<Pロック待機状態>
ここで、パーキングロック装置20では、車両を停車させる際にシフトをPレンジに入れた際、パーキングポール32の噛合部32aがパーキングギヤ30の外周(外径)と接触する位置となる場合、カム36の屈曲部36cをまたぐようにパーキングポール32がカム36と接触する状態(Pロック待機状態)となる(
図8(b)参照)。また、Pロック待機状態で駆動輪が数cm動くと、パーキングギヤ30が連動して回転し、パーキングロッド34に取り付けられたばね37の力によりカム36がパーキングポール32を持ち上げる。これにより、パーキングポール32とパーキングギヤ30とが噛み合い、Pロック状態となる(
図7参照)。
【0055】
すなわち、噛合部32aがパーキングギヤ30の外径と接触する位置にあり噛合部32aとパーキングギヤ30との噛み合いを待機する状態(Pロック待機状態)では、第一テーパー部36aと第二テーパー部36bとの境界である屈曲部36cをまたぐようにパーキングポール32がカム36と接触し(
図8(b)参照)、カム36の第二テーパー部36bでパーキングポール32を受けるとロックする(
図7(b)参照)構造となっている。
【0056】
ここで、
図11に示すとおり、従来のパーキングロック装置120では、パーキングポール132とカム136との接触部分近傍には、ケース体112に形成された収容部150とパーキングポール132の間に隙間Sが設けられており、パーキングポール132の移動を規制する当て面が設けられていなかった。そのため、Pロック待機状態からPロック状態に移行する過程でパーキングポール132が動き、ガタつきが発生していた(
図11(a)参照)。
【0057】
このように、従来のパーキングロック装置120では、パーキングポール132にガタつきがあるため(パーキングポール132の位置が安定しないため)、カム136の第二テーパー部136bにパーキングポール132が乗り上げるタイミングがバラついていた。また、ガタつき分に応じてパーキングポール132が屈曲部136cをまたぐタイミング(第二テーパー部136bにパーキングポール132が乗り上げるタイミング)にバラツキが生じることとなり、Pロックするタイミングがバラついていた。
【0058】
これに対して本実施形態のパーキングロック装置20では、収容部50には、パーキングポール32の当て面として機能し、パーキングポール32の移動を制限する当接部60が設けられている。
【0059】
これにより、パーキングロック装置20では、パーキングポール32のガタつきを抑制して、パーキングギヤ30をロックするタイミングを安定させることが可能となる。
【0060】
また、Pロックタイミングのバラつきを低減することで、車両が動いているときに誤操作等でPレンジにシフトされた際の、噛み合い車速(ギヤとパーキングポールがかみ合ってロックするときの車速)が安定する。例えば、従来のパーキングロック装置では、車速7km/hで動いているときに誤操作等でPレンジにシフト操作された際に、早い車速(例えば5km/h)でロックしたり、遅い車速(例えば2km/h)でロックしたりバラついていたものが、本実施形態のパーキングロック装置20では、安定して所定の車速(例えば3km/h)でロックするようになる。
【0061】
これにより、噛み合い車速を狙いやすくなり、早い車速でロックすることを低減させることができる。その結果、各部品の耐久性を向上させることができる。
【0062】
また、本実施形態のパーキングロック装置20では、当接部60が、Pロック状態及び解除状態を通じてパーキングポール32に当接可能となるように形成されている。
【0063】
より詳細に説明すると、パーキングロック装置20では、解除状態、Pロック状態、及びPロック待機状態のいずれの状態でも、当接部60(第一当接部61、第二当接部62、及び第三当接部63)の少なくとも一部が常にパーキングポール32と接触する範囲や位置に設けられている(
図6~8参照)。
【0064】
例えば、
図6(a)に示すとおり、第一当接部61は、解除状態では回転軸33に近い部分(
図6(a)中では第一当接部61の左側)が主にパーキングポール32と当接する。また、
図7(a)に示すとおり、第一当接部61は、Pロック状態では上方側の部分が主にパーキングポール32と当接する。このように、第一当接部61は、パーキングポール32の揺動角度によって接触範囲が変化するものの、パーキングポール32がどの揺動角度であっても(どの状態であっても)常に少なくとも一部がパーキングポール32と接触するような範囲及び形状となっている。
【0065】
これにより、パーキングロック装置20は、当接部60の形成を最小限に抑えつつ、常に当接部60をパーキングポール32に接触させてパーキングポール32のガタつきを抑制可能となる。また、パーキングポールがPロック状態や解除状態など姿勢を変化させた際に、パーキングポール32が当接部60に引っかかる(乗り上げる)ことを抑制することができる。
【0066】
さらに、本実施形態のパーキングロック装置20では、当接部60として、収容部50に設けられた第一当接部61と、回転軸33を取り囲むように形成された第二当接部62と、噛合部32aの近傍に設けられた第三当接部63とが設けられている
【0067】
これにより、パーキングロック装置20は、パーキングポール32の揺動支点となる位置(回転軸33)に当接部60(第二当接部62)を設けつつ、自由端となる両端(回転中心の両側)に当接部60(第一当接部61及び第三当接部63)が設けられている。そのため、パーキングポール32のガタつきをより効率的に抑制することができる。
【0068】
さらに、本実施形態のパーキングロック装置20では、収容部50の一部(上方側)が、パーキングポール32と接触する位置まで形成されており、収容部50の端面の一部が当接部60(第一当接部61)として形成されている。
【0069】
これにより、パーキングロック装置20は、別途部材を追加することを要さず、シンプルな構成でパーキングポール32のガタつきを抑制することができる。
【0070】
<Pロック待機状態からPロック状態への移行時>
ここで、
図9(b)に示すとおり、従来のパーキングロック装置120では、Pロック待機状態からPロック状態に移行する過程では、パーキングロッド134のばね137が撓んだ状態となり、パーキングロッド134が傾く(先端側が跳ね上がった状態となる)。そのため、パーキングポール132に対するカム136の屈曲部136cの位置がパーキングロッド134の後退側にズレることとなり、パーキングポール132とカム136との接触面(かかり代K)が少なくなるとの懸念があった。
【0071】
さらに詳細に説明すると、
図9(b)に示すとおり、従来のパーキングロック装置120では、Pロック待機状態からPロック状態に移行する過程で、パーキングロッド134の傾きを制限しない位置にパーキングサポート138が取り付けられていた。そのため、従来のパーキングロック装置120では、Pロック待機状態からPロック状態に移行する過程におけるパーキングロッド134の傾き量(Pロック状態におけるパーキングロッド134の角度に対する傾き角度)を低減させる構成ではなかった。
【0072】
これに対して本実施形態のパーキングロック装置20では、従来のパーキングロック装置20と比較して、パーキングサポート38の位置を距離B分下げている(
図5参照)。より具体的には、本実施形態のパーキングロック装置20では、パーキングサポート38が、Pロック待機状態からPロック状態に移行する過程でパーキングロッド34と接触可能な位置であって、かつパーキングロッド34の傾きを制限する位置に設けられている。
【0073】
言い方を換えれば、本実施形態のパーキングロック装置20では、パーキングサポート38の内周面のうち、上方側の部分を収容部50の内側寄りとなる構成とすることで、位置Pロック待機状態からPロック状態に移行する過程におけるパーキングロッド34の変位量(傾き量)を低減させている。
【0074】
これにより、パーキングロック装置20は、パーキングロッド34が跳ね上がる量(傾き量)を低減して(
図9(a)中の低減量A参照)、カム36とパーキングポール32とのかかり代Kを確保することができる。その結果、さらにパーキングロックのタイミングを安定させることができる。
【0075】
なお、
図12に例示するようにパーキングポール132とカム136との接触面を大きくすると、かかり代を多くとることが可能となる。しかしながら、パーキングポール132の接触面を大きくすると、早い車速でロックしやすくなる。そのため、早い車速でのロックを抑制するという課題と背反することとなる。これに対して本実施形態のパーキングロック装置20では、早い車速でのロックを抑制することができるため、有利となる。
【0076】
以上、本発明の実施形態に係るパーキングロック装置20について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されない。
【0077】
例えば、上述の実施形態に係るパーキングロック装置20では、第一当接部61を収容部50の上方側に形成した例を示したが、本発明のパーキングロック装置は上述の実施形態に限定されない。具体的には、本発明のパーキングロック装置は、パーキングロック装置を構成する部材の配置に応じて、第一当接部を収容部の側方あるいは下方に設けてもよい。
【0078】
本発明は、上述した実施形態として示したものに限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲でその教示および精神から他の実施形態があり得る。上述した実施形態の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また実施形態の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素又は発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、車両のパーキングロック装置として、好適に採用することができる。
【符号の説明】
【0080】
10 トランスアクスル
12 ケース体
20 パーキングロック装置
30 パーキングギヤ
32 パーキングポール
32a 噛合部
33 回転軸
34 パーキングロッド
36 カム
36a 第一テーパー部
36b 第二テーパー部
36c 屈曲部
37 ばね
38 パーキングサポート
50 収容部
60 当接部
61 第一当接部(当接部)
62 第二当接部(当接部)
63 第三当接部(当接部)