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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】ローラ
(51)【国際特許分類】
   F16C 13/00 20060101AFI20240617BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240617BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
F16C13/00 A
F16C19/06
B29C45/14
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021175155
(22)【出願日】2021-10-27
(65)【公開番号】P2023064804
(43)【公開日】2023-05-12
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(74)【代理人】
【識別番号】100100424
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 知公
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 雄一
(72)【発明者】
【氏名】高田 洋平
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-106004(JP,A)
【文献】特開2013-194204(JP,A)
【文献】特開2008-297716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 13/00-15/00,19/00-19/56,
33/30-33/66
B29C 45/00-45/24,45/46-45/63,
45/70-45/72,45/74-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪とその内周側に回転可能な内輪とを備えて構成される本体部と、前記外輪の外周面に配置される被覆部とを備えてなり、
前記被覆部は強化繊維を分散させた合成樹脂からなるローラであって、
前記被覆部は、前記強化繊維が揃えられた領域を備えるローラにおいて
前記外輪には鍔部が形成され、前記領域は前記強化繊維の長手方向を第1方向に揃えた第1領域と前記強化繊維の長手方向を第2方向に揃えた第2領域とを備え、前記第2領域は前記第1領域より前記鍔部側に配置され、前記外輪の外周面と前記第1方向との角度を0度~50度としたとき、前記外周面に対する前記第2方向の角度(前記第1方向と同じ回転角として)は130度~180度である、ローラ。
【請求項2】
前記第1領域及び前記第2領域は前記外輪の外周面に接している、請求項1に記載のローラ。
【請求項3】
前記外輪の一の側面が前記被覆部で被覆されており、前記側面を被覆する側面被覆領域において、前記強化繊維は揃えられており、前記強化繊維の長手方向の角度は前記被覆部の外周面に向かって前記側面から離れる方向を+として、±10度以内である、請求項1又は2に記載のローラ。
【請求項4】
前記外輪の外周面には、段差部が形成されている、請求項1に記載のローラ。
【請求項5】
前記外輪の外周面には、堰部が形成されている、請求項1に記載のローラ。
【請求項6】
前記外輪の外周面には、段差部及び堰部が形成されている、請求項1に記載のローラ。
【請求項7】
前記外輪の外周面において一の側面側に前記段差部が形成され、他の側面に鍔部が設けられ、該鍔部に連続する凹部が形成される請求項4に記載のローラ。
【請求項8】
前記外輪の外周面において一の側面側に前記堰部が形成され、他の側面に鍔部が設けられ、該鍔部に連続する凹部が形成される請求項5に記載のローラ。
【請求項9】
前記外輪の外周面において一の側面側に前記段差部及び前記堰部が形成され、他の側面に鍔部が設けられ、該鍔部に連続する凹部が形成される請求項6に記載のローラ。
【請求項10】
前記外周面には前記鍔部に連続する凹部が形成され、前記外周面において前記鍔部と反対側の側面側に堰部が形成され、前記第1領域は前記堰部を被覆し、前記第2領域は前記凹部を被覆する、請求項1に記載のローラ。
【請求項11】
外輪とその内周側に回転可能な内輪とを備えて構成される本体部と、前記外輪の外周面に配置される被覆部とを備えてなり、
前記被覆部は強化繊維を分散させた合成樹脂からなり、
前記被覆部は、前記強化繊維が揃えられた領域を備えるローラにおいて、
前記外輪には鍔部が形成され、前記領域は前記強化繊維の長手方向を第1方向に揃えた第1領域と前記強化繊維の長手方向を第2方向に揃えた第2領域とを備え、前記第2領域は前記第1領域より前記鍔部側に配置され、前記外輪の外周面と前記第1方向との角度を0度~50度としたとき、前記外周面に対する前記第2方向の角度(前記第1方向と同じ回転角として)は130度~180度である、
ローラの製造方法であって、
前記外輪をインサートとして、その周囲を覆う金型をセットする金型セットステップと、該金型セットステップにおいて、前記金型と前記外輪の側面との間に前記被覆部の形成材料の流入路が形成され、
前記流入路に前記形成材料を通過させるステップと、該ステップにおいて前記形成材料は前記合成樹脂と前記強化繊維とを含み、前記形成材料が前記流入路を通過する際、前記強化繊維の長手方向が前記側面に対して傾斜した状態とする、ローラの製造方法において、
前記流入路を通過する際の前記強化繊維の長手方向の傾斜角度を、前記被覆部の外周面に向かって前記側面から離れる方向を+として、±10度以内とする、ローラの製造方法。
【請求項12】
外輪とその内周側に回転可能な内輪とを備えて構成される本体部と、前記外輪の外周面に配置される被覆部とを備えてなり、
前記被覆部は強化繊維を分散させた合成樹脂からなるローラの製造方法であって、
前記外輪をインサートとして、その周囲を覆う金型をセットする金型セットステップと、該金型セットステップにおいて、前記金型と前記外輪の側面との間に前記被覆部の形成材料の流入路が形成され、
前記流入路に前記形成材料を通過させる通過ステップと、該通過ステップにおいて前記形成材料は前記合成樹脂と前記強化繊維とを含み、前記形成材料は前記流入路を通過する際、前記外輪の側面に対向する部分に形成された前記金型の膨出部に沿って流れて前記側面に衝突し、前記強化繊維の長手方向の配列方向に乱れが生じる、ローラの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はローラに関する、この発明のローラは、例えば車両のスライドドア用のガイドローラとして好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
車両のスライドドアは、車体開口部の上縁部に設けたアッパレール、車体開口部に隣接する車体後部側壁の高さ方向中央部に設けたセンタレール、及び車体開口部の下縁部に設けたロアレールに、スライドドアの前端上部に設けたアッパガイドローラ、後端の高さ方向中央部に設けたセンタガイドローラ、及び前端下部に設けたロアガイドローラをそれぞれ転動可能に係合させて、スライドドアを車体側壁に沿ってスライド可能に支持し、このスライドドアのスライドにより開閉できるようになっている。
【0003】
車体側に設けられるレールに沿って転動するガイドローラは、金属製の内輪と、内輪の外周面にベアリングを保持するリテーナを介して回転可能に装着された金属製の外輪とで構成される本体部と、外輪の外周面を覆う合成樹脂製の被覆部とから構成される。この構成によると、金属製のガイドレールと金属製の外輪とが直接接することがなく、合成樹脂製の被覆部が両者の間に介在されるため、ドア開閉時の静音性が向上する。
【0004】
ところで、スライドドアのガイドローラは特許文献1の図3にあるように、スライドドア上縁前端のアーム部材の先端にガイドローラが加締め固定され、ガイドローラが水平方向に回動可能に保持されるが、アーム部材の揺動により支軸が傾いてロ-ラ自体が傾いたまま転動される場合がある。
被覆部の機械強度や耐久性を向上するため、被覆部を形成する合成樹脂に強化繊維を添加する場合がある(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-328791号公報
【文献】特開2006-28882号公報
【文献】特開2007-106004号公報
【文献】実開平6-73445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討によれば、強化繊維を添加した合成樹脂材料で被覆部を形成したとき下記の課題があることに気が付いた。
ガイドローラが傾いた状態で転動される場合、外輪の外周面から被覆部が離れるような剪断力が働くところ、強化繊維の添加があると、外輪の外周面から被覆部が剥がれ易くなるおそれがある。
【0007】
その理由は次のように考えられる。
被覆部は、外輪をインサートとして射出成型されるので(特許文献3参照)、成形材料である合成樹脂材料の冷却に伴う熱収縮により、被覆部の材料が外輪の外周面に、噛みつくようにして固定されて、連結する。
この合成樹脂に強化繊維が添加されていると、添加されていないものに比べて、合成樹脂の熱収縮率が小さくなる。強化繊維自体は殆ど収縮しないからである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこでこの発明は、強化繊維が添加された合成樹脂で形成される被覆部について、強化繊維による機械的強度や耐久性を維持しつつ、外輪の外周面との間の連結力を維持することを目的とする。
かかる目的を達成するため、この発明の第1局面は次のように規定される。
外輪とその内周側に回転可能な内輪とを備えて構成される本体部と、前記外輪の外周面に配置される被覆部とを備えてなり、
前記被覆部は強化繊維を分散させた合成樹脂からなるローラであって、
前記被覆部は、前記強化繊維の配列方向が揃えられた領域を備える、ローラ。
【0009】
このように規定される第1局面のローラによれば、被覆部に強化繊維の配列方向が揃えられた領域が存在する。当該領域において、強化繊維が揃えられた方向と垂直な方向には、合成樹脂の収縮を阻害する要素が存在しない。
よって、強化繊維を揃える方向を制御することで、外輪の外周面に対する当該領域を構成する形成材料の連結力を確保できる。
【0010】
被覆部において、強化繊維が揃えられた領域は外輪の外周面に接することが好ましい(第2局面)。
当該領域による外周面への連結力を確保するためである。
当該領域と外周面との間に、他の領域(例えば、強化繊維がランダムに分散している領域)が存在すると、強化繊維が揃えられた領域による連結力向上効果が期待できない。
【0011】
強化繊維を揃えた領域において、強化繊維の配列方向は前記外輪の外周面に対して0度~50度の角度とすることが好ましい(第3局面)。
この角度を維持することで、合成樹脂の熱収縮を阻害する強化繊維の影響を除去できる。一般的には、外周面に対する角度が小さくなれば小さくなるほど、連結力が強化される。
領域に含まれる全ての強化繊維の配列の角度が外周面に対して一定の角度であることが好ましいが、当該領域において、強化繊維は既述の0~50度の角度範囲内において、分散していてもよい。
【0012】
この発明の第4局面は次のように規定される。即ち、
第1~3の局面に規定のローラであって、前記外輪には鍔部が形成され、前記領域は前記強化繊維を第1方向に揃えた第1領域と前記強化繊維を第2方向に揃えた第2領域とを備え、前記第2領域は前記第1領域より前記鍔部側に配置され、前記外輪の外周面と前記第1方向との角度を0度~50度としたとき、前記外周面に対する前記第2方向の角度は130度~180度である。
【0013】
このように規定される第4局面のローラによれば、強化繊維が揃えられた領域として第1領域と第2領域とを備える。外輪の外周面と第1領域における強化繊維の第1方向との角度を0度~50度としたとき、外周面と第2領域における強化繊維の前記第2方向との角度(第1方向と同じ方向の回転角として)は130度~180度とする。ここに、第1領域における強化繊維の第1方向と外周面との挟角と、第2領域における強化繊維の第2方向と外周面との挟角とは、ともに0度~50度となる。
外輪に鍔部が形成されているとき、第1領域に対して、第2領域が鍔部に近接して配置される。
【0014】
外輪の外周面に対する第1領域や第2領域の連結力を強化するため、外周面には段差部を設けることが好ましい(第7局面)。段差を設けることで、被覆部の材料が、その熱収縮時、外周面により強くかみついて、その連結力が向上するからである。
段差部の形状は任意に設計可能であるが、例えば、外周面の一の側面側に堰部を設けることができる(第8局面)。また、外周面の他の側面に鍔部を設け、該鍔部に連続する凹部を形成してもよい(第9局面)。
堰部や凹部を共に設けることもできる(第10局面)。
【0015】
この発明の第5局面は次のように規定される。即ち、
第1~4の何れかに規定のローラにおいて、前記外輪の一の側面が前記被覆部で被覆されており、前記側面を被覆する側面被覆領域において、前記強化繊維は揃えられており、その角度は前記被覆部材の外周面に向かって前記側面から離れる方向を+として、±10度以内である。
このように規定される第5局面のローラによれば、側面被覆領域において強化繊維は、側面に沿うように、所定範囲の角度で揃えられている。そのため、この側面被覆領域の形成材料の熱収縮が強化繊維で阻害されることがない。もって、当該側面被覆領域は強い力で外輪の側面に連結される。
【0016】
この発明の第11局面は次のように規定される。即ち、
外輪とその内周側に回転可能な内輪と備えて構成される本体部と、前記外輪の外周面に配置される被覆部とを備えてなり、
前記被覆部は強化繊維を分散させた合成樹脂からなるローラの製造方法であって、
前記外輪をインサートとして、その周囲を覆う金型をセットするステップと、ここで、前記金型と前記外輪の側面との間に前記被覆部の形成材料の流入路が形成され、
前記形成材料は前記合成樹脂と前記強化繊維とを含み、前記流入路に前記形成材料を通過させる際、前記強化繊維が前記側面に対して傾斜した状態とする、ローラの製造方法。
【0017】
このように規定される第11局面は、第1~10局面のいずれかに規定のローラを製造するのに適したものとなる。
ここに、前記流入路を通過する際の前記強化繊維の傾斜角度を、前記被覆部の外周面に向かって前記側面から離れる方向を+として、±10度以内とする(第12局面)。
このように強化繊維の傾斜角度を所定範囲に分散させることで、被覆部の外輪の外周面に対向する領域において、強化繊維の配列方向を揃えることができた。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1はこの発明の実施形態のローラの構成を示す断面図である。
図2図2は同じくローラの被覆部における第1領域を説明する模式図であり、(A)はローラの構造を説明し、(B)は第1領域を説明し、(C)は第1領域における形成材料の収縮方向を説明する。
図3図3は同じくローラの被覆部における第2領域を説明する模式図であり、(A)はローラの構造を説明し、(B)は第2領域を説明し、(C)は第2領域における形成材料の収縮方向を説明する。
図4図4は他の実施形態のローラを示し、このローラは外輪の外周面に堰部を備える、(A)はその構成を示す断面図であり、(B)はその一部拡大断面図である。
図5図5は他の実施形態のローラを示し、このローラは外輪の外周面に凹部を備える、(A)はその構成を示す断面図であり、(B)はその一部拡大断面図である。
図6図6はローラの製造方法を示し、(A)は金型の構造を示す断面図、(B)は材料注入時の強化繊維の配列方向を示す模式図である。
図7図7はローラの他の製造方法を示し、(A)は金型の構造を示す断面図、(B)は材料注入時の強化繊維の配列方向を示す模式図である。
図8図8は他の実施形態のローラを示す断面図である。
図9図9図8のローラにおける強化繊維の配列方向と形成材料の収縮方向を示す模式図であり、(A)は要部断面図、(B)は側面被覆領域における強化繊維の配列方向を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、この発明の実施形態のローラ1を示す。このローラ1は、車両のスライドドアに用いられるガイドローラとして用いられる。
このローラ1は本体部10と被覆部50とを備える。
本体部10は外輪3、内輪5及びベアリング7を備える。外輪3の内周側に、リテーナ8に保持されたベアリング7を介して、内輪5が回転可能に装着される。符号9はシールリングであり、外輪3と内輪5との間からグリスが漏出することを防止したり、両者の間に塵芥その他の異物が入り込まないようにしたりしている。
外輪3、内輪5及びベアリング7は汎用的な軸受鋼(SUJ2)やステンレス鋼(SUS)等のFe合金で形成される。外輪3と内輪5に高周波焼入れ処理を施すことにより、支持軸に対してかしめ固着し易くするとともに、ベアリング7に対する耐摩耗性を確保する。
【0020】
図1の例では、外輪3の外周面31は平坦面であり、その外側側面に鍔部40が形成されている。この鍔部40を省略することもできる。図1の例では、外周面31を外輪3の回転軸Oと平行としているが、この外周面31を回転軸Oに対して傾斜させたり、これに段差を設けたりすることができる。
【0021】
外輪3の外周面31には被覆部50が外装される。
この被覆部50は合成樹脂をマトリックスとしてそこに強化繊維を分散させたものである。
図1の例では、合成樹脂としてポリアミド樹脂を採用し、強化繊維として材料:炭素繊維粒子、繊維長:6mm、繊維太さ:10μmを採用した。強化繊維の配合割合は、形成材料全体に対して15質量%である。
各要素の寸法は次の通りである。
ローラ全体の外径はΦ12mm以上Φ29mm以下、外輪3の外周面31の外径はΦ10mm以上Φ25mm以下、鍔部40の外径はΦ12mm以上Φ25mm以下、鍔部40の肉厚は0.5mm以上3.0mm以下、軸線方向幅が5mm以上10mm以下であって、ガイドローラ外径より鍔部40の外径が小さくなるよう設定されている。
【0022】
なお、被覆部50に採用できる合成樹脂として以下を例示できる。
即ち、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが挙げられる。
被覆部材に添加される強化繊維は、ガラス繊維粒子、セラミック繊維粒子、炭素繊維粒子、アラミド繊維粒子、アクリル繊維粒子、およびポリビニルアルコール繊維粒子のうちから選ばれる1種以上からなることが好ましい。
強化繊維の配合割合は被覆部の全体質量に対し5質量%以上30質量%以下になるよう設定される。
平均繊維長は、6mmが好ましい。
平均繊維太さは、10μmが好ましい。
【0023】
被覆部50の形成材料には、その他、黒鉛、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化硼素、およびポリテトラフルオロエチレンのうちから選ばれる1種以上の固体潤滑剤等を配合することができる。
【0024】
この発明の被覆部50では、図2Aに示すように、外輪3の外周面31において反鍔側(図示右側)ほぼ半分の領域を被覆する領域50aにおいて、強化繊維60が外周面31に対して傾斜して、かつ揃えられている第1領域50aE1を備える。
図2(B)は、第1領域50aE1の拡大図である。この第1領域50aE1において、強化繊維60は同じ方向に配列されている。この例では、外輪3の外周面31に対して約30度の挟角G1である。図中の基準線Aは外輪3の外周面31と平行である。なお、外周面31に凹凸が形成されている場合、この基準線Aは最大面積を占める平坦部分と平行する。
【0025】
強化繊維60の配列方向は、挟角G1を0度~50度の範囲で任意に設定できる。また、この範囲内において配列方向が分散してもよい。
被覆部50の反鍔側領域50aにおいて、その一部の第1領域50aE1が図2Bに示すように、強化繊維60が所望の角度で引き揃えられていればよい。
当該第1領域50aE1において、図2Cに矢印で示す方向において、即ち、強化繊維60の配列方向と直交する方向において、合成樹脂の熱収縮が抑制されない。換言すれば、強化繊維による合成樹脂の収縮阻害が生じない。
その結果、被覆部50の形成材料と外輪3の外周面31との間に強い連結力が生まれる。
【0026】
図2Bに示す第1領域50aE1は外輪3の外周面31に接していることが好ましい。形成材料の収縮効果が直接外周面31に作用するからである。
被覆部50の断面において、外周面31から、被覆部50の厚さ方向における最大厚さの3分の1の距離までの範囲を50kとする。
50kにおいて、好ましくは、反鍔側領域50aにおいて、0~50度の配向角度範囲となっている強化繊維の数の割合が4割以上を占めるものが第1領域50aE1となる。
第1領域50aE1は、上記強化繊維の割合が4割以上を占めるので、被覆部50の形成材料の熱収縮を効率良く起こせ、被覆部50を外周面31に強固に連結できる。
第1領域50aE1は、0~50度の配向角度範囲となっている強化繊維の数の割合が8割以下を占めるものとすることがさらに好ましい。第1領域50aE1は、0~50度の配向角度範囲となっている強化繊維の数の割合が8割を超えると、形成材料収縮向上度合は緩やかになる。
【0027】
この発明の被覆部50では、図3Aに示すように、外輪3の外周面31において外側(鍔部40側)ほぼ半分の領域を被覆する第2領域50bにおいて、強化繊維60が外周面31に対して傾斜して、かつ揃えられている。
図3(B)は第2領域50bE1の拡大図である。この第2領域50bE1において、強化繊維60は同じ方向に配列されている。外輪3の外周面31に対して約30度の挟角G2である。図2(B)に示す第1領域50aE1における外周面31に対する強化繊維60の角度(回転角)を30度としたとき、第2領域50bE1における強化繊維と外周面31との角度は150度となる。
【0028】
第2領域50bE1においても強化繊維60の配列方向は、挟角G2を0度~50度の範囲で任意に設定できる。また、この範囲内において配列方向が分散してもよい。
被覆部50の外側領域50bにおいて、その一部の第2領域50bE1が図3Bに示すように、強化繊維60が一定の幅を持った角度で引き揃えられていればよい。
当該第2領域50bE1において、図3Cに矢印で示す方向において、即ち、強化繊維60の配列方向と直交する方向において、合成樹脂の熱収縮が抑制されない。換言すれば、強化繊維による合成樹脂の収縮阻害が生じない。
その結果、被覆部50の樹脂材料と外輪3の外周面31との間に強い連結力が生まれる。
【0029】
図3Bに示す第2領域50bE1は外輪3の外周面31に接していることが好ましい。合成樹脂の収縮効果が直接外周面31に作用するからである。
既述した50kにおいて、好ましくは、鍔側領域50bにおいて、0~50度の配向角度範囲となっている強化繊維の数の割合が4割以上を占めるものが第1領域50bE1となる。
第1領域50bE1は、上記強化繊維の割合が4割以上を占めるので、被覆部50の形成材料の熱収縮を効率良く起こせ、被覆部50を外周面31に強固に連結できる。
第1領域50bE1は、0~50度の配向角度範囲となっている強化繊維の数の割合が8割以下を占めるものとすることがさらに好ましい。第1領域50aE1は、0~50度の配向角度範囲となっている強化繊維の数の割合が8割を超えると、形成材料収縮向上度合は緩やかになる。
【0030】
図1~3の例では、被覆部50において第1領域50aE1を含む反鍔側領域50aと第2領域50bE1を含む外側領域50bとがそれぞれ外周面31の半分の領域を占めているが、もちろんこれに限定されるものではない。
【0031】
図4には、外輪3の外周面31の反鍔側(図示右側)に堰部33を設けたローラ1Aを示す。なお、図2と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
かかる堰部33の存在により、特に、堰部33の立面333と外周面31とで挟まれる領域に向けて収縮した合成樹脂材料はこの両面にて挟持されることとなり、この領域において強い連結力が確保される。
【0032】
図5には、外輪3の外周面31の外側に、鍔部40に連続した凹部35を設けたローラ1Bを示す。なお、図3と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
かかる凹部35の存在により、特に、凹部35の底面355と鍔部40の内側立面405とで挟まれる領域に向けて収縮した合成樹脂材料はこの両面にて挟持されることとなり、この領域において強い連結力が確保される。
【0033】
図6は、図1~5に示した被覆部50の製造方法の一例を示す。
図6Aは、外輪3を中子として、金型100内にセットした状態を示す。金型100のキャビティ101が被覆部50を形成する。符号105はランナーを示し、キャビティ101の側面の上端側に、傾斜して設けられている。傾斜角度G3は、外輪3の外周面31に実質的に平行な基準線Aに対して、0~50度とする。かかる傾斜角度G3をランナー105に設けることにより、被覆部50に第1領域50aE1を形成することができる。
即ち、かかるランナー105より被覆部50の形成材料(合成樹脂+強化繊維)を注入する際、
例えば、ポリアミド樹脂をベースとした材料の場合は
・金型温度80℃以上150℃以下
・射出圧力:射出成形機スペックの50%以上
・シリンダ温度:(後部、中部、前部、ノズル)280℃以上320℃以下
の範囲を基本設定とし、その他各種条件を微調整する事により、強化繊維の配列方向を図6Bのように揃えた状態とすることができる。
【0034】
図6Bのようにして注入された形成材料は、強化繊維60の配列方向を揃えた状態で、外輪3の外周面31に跳ね返されつつ図示左側に進む。その結果、図3に示すように、強化繊維60が外周面31に対して角度をもって配列された第2領域50bE1が形成されることとなる。
【0035】
図7に、他の製造方法を示す。
下型203と上型204との間に被覆部50のキャビティ201が形成される。下型203には外輪3がインサートとしてセットされている。
下型203と上型204との間にはフィルムゲート205が設けられている。
被覆部50の形成材料を図7において下から注入するとして、このゲート205は中子である外輪3の側面38の直前上流側で絞られている。
射出の条件は図6の例とおなじでよい。
【0036】
この例では図7に符号210で示すように、上型204側に断面楕円形の膨出部210が形成されてゲートの流路を狭くしている。ここに、形成材料は膨出部210を通過するときその強化繊維が流れ方向に揃えられる。膨出部210に沿って流れる形成材料は、その後、側面38に衝突して反射する。これにより、強化繊維の配列方向に乱れが生じる。その乱れは外周面31に向かって側面38から離れる方向を+として±10度とすることが好ましい。
【0037】
このように、外輪3の側面38を通過する状態の形成材料において強化繊維の配列方向に狭い範囲での乱れを生じさせておくことにより、キャビティ201内において、図7Bに示すとおり、外輪3の外周面31を被覆する部分に強化繊維が所定の角度で揃えられた領域(第1領域)を形成できる。
本発明者らの検討によれば、導入部205aにおいて1~3mm幅のゲートを用いたとき、膨出部210において0.2~0.5mm程度までその幅を縮減した。
【0038】
ゲート幅を減縮するとき、形成材料中の強化繊維が揃えられる。外周面31を被覆する部分に第1領域を形成するには、このように揃えられた強化繊維を下型203側に形成された膨出部210の周面を使って外輪3の側面38へ衝突させることが必要と考えられる。側面38で反射された形成材料の流れは、側面38に対向する下型203のキャビティ面204aに沿って流れ、その後、外周面31に対向するキャビティ面204bで更に反射され、第1領域での強化繊維の配列方向を規定する。
上記膨出部210は、形成材料中の強化繊維を流れ方向にひき揃えるとともに、形成材料を外輪3の側面38へ衝突させる機能を有する。
【0039】
ゲートの幅を単に減縮するのみでは外周面31を被覆する部分に第1領域は形成されない。即ち、外周面31を被覆する部分において強化繊維の方向はランダムとなる。ゲートの幅を減縮させない場合も同様である(先行文献3の例)。
【0040】
図8は、図7で説明した製造方法を適用して得られたローラ1Cの部分断面図である。なお、以前の図と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
このローラ1Cは外輪3の外周面31に堰部33と凹部35を備える。
この例の被覆部110は、第1領域を含む領域50aと第2領域を含む領域50bに加えて、外輪3の側面38を被覆する側面被覆領域150とその外周側の第3領域170を備える。
【0041】
側面被覆領域150においては、図9の角度G3で示すように、側面38側への形成材料の収縮が促進される。他方、第1領域では角度S1の形成材料収縮が促進されるので、堰部33を挟み込むように形成材料どうしの収縮が生じる。これにより、被覆部110と外輪3の間に強い連結力を確保できる。
【0042】
図9Bは、側面被覆領域150の部分拡大図である。この側面被覆領域150において、強化繊維60の配列方向は基準線Bに対する角度を±10度とする。
この基準線Bは外輪3の側面38に平行とする。
このような強化繊維の配列方向は、側面被覆領域150より外周側(図9において上側)に第3領域においても維持されている。
【0043】
この発明は、上記発明の実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本発明の摺動部材を用いた内燃機関等の軸受機構使用装置は、優れた摺動特性を発揮する。
【符号の説明】
【0044】
1、1A、1B、1C ローラ
3 外輪
5 内輪
10 本体部
31 外周面
33 堰部
35 凹部
38 側面
40 鍔部
50、110 被覆部
50aE1 第1領域
50bE1 第2領域
60 強化繊維
150 側面被覆領域
170 第3領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9