(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】溶接部の機械的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼及びフェライト系ステンレス鋼管
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240617BHJP
C22C 38/28 20060101ALI20240617BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/28
C22C38/54
(21)【出願番号】P 2021517346
(86)(22)【出願日】2019-08-23
(86)【国際出願番号】 KR2019010788
(87)【国際公開番号】W WO2020067650
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-03-26
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】10-2018-0115263
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ケ-マン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジェ-ソク
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-298720号公報
【文献】特開2001-3144号公報
【文献】特開2005-105347号公報
【文献】特開平9-31602号公報
【文献】特開平8-120417号公報
【文献】特開2004-243354号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/00- 8/04
C21D 9/46- 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.005%~0.02%、N:0.005~0.02%、Cr:
11.0~
13.0%、Ti:0.16~0.3%、Nb:0.1~0.3%、Al:0.005~0.05%、残りは、Fe及び不可避な不純物
からなる母材、及びGTA溶接による溶接
部を含み、
前記溶接部
は、10~100個/mm
2以下で存在する2次相を含み、
前記溶接部は、[001
]方向の集合組織の最大強度が30以下であり、
前記溶接部の延性-脆性遷移温度(DBTT)が-50℃以下であり、
前記2次相は、チタン(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の炭化物及び/又は窒化物、チタン(Ti)の酸化物及びラーベス相析出物を含むことを特徴とする溶接部の機械的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼。
【請求項2】
重量%で、C:0.005%~0.02%、N:0.005~0.02%、Cr:
11.0~
13.0%、Ti:0.16~0.3%、Nb:0.1~0.3%、Al:0.005~0.05%、残りは、Fe及び不可避な不純物からなる母材、及びGTA溶接による溶接
部を含み、
前記溶接部は、溶接部に10~100個/mm
2以下で存在する2次相を含み、
前記溶接部は、[001
]方向の集合組織の最大強度が30以下であ
り、
前記2次相は、チタン(Ti)及び/又はニオビウム(Nb)の炭化物及び/又は窒化物、チタン(Ti)の酸化物及びラーベス相析出物を含むことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼管。
【請求項3】
前記溶接部の
延性-脆性遷移温度(
DBTT)が-50℃以下であることを特徴とする請求項2に記載のフェライト系ステンレス鋼管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト系ステンレス鋼に係り、特に、溶接部の機械的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼及びフェライト系ステンレス鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼(Stainless Steel)は、炭素鋼の弱点である腐食が抑制されて強い耐食性を保有した鋼材である。一般的に、ステンレス鋼は、化学成分や金属組織によって分類する。金属組織による場合、ステンレス鋼は、オーステナイト(Austenite)系、フェライト(Ferrite)系、マルテンサイト(Martensite)系、そして二相(Dual Phase)系に分類できる。
【0003】
その中でもフェライト系ステンレス鋼は、高価な合金元素が少量添加され耐食性に優れるため、家電製品、キッチン器機など多様な産業分野に適用されている。
【0004】
特に、自動車あるいは2輪車の排気管、燃料タンクあるいは管用途の素材に用いられる場合、排気環境及び燃料環境に露出されるとき、耐食性と耐熱性が要求されるだけでなく、冷間加工時に成形性が要求される。
【0005】
最近、自動車の排気系部品が軽量化され、形状が複雑になるにしたがい、排気系部品用素材の機械的性質と成形性を向上させる必要がある。そのために、フェライト系ステンレス鋼の微細組織と集合組織の改善技術の発達を通じて鋼材自体の機械的性質及び成形性を向上させることが容易になった。
【0006】
しかし、フェライト系ステンレス鋼が自動車あるいは2輪車の排気管、燃料タンクあるいは管用途の素材で用いられるときに経る溶接工程過程で、鋼材は、高温で再加熱されるので、微細な組織と成形性に優れた集合組織を失い、非常に粗大な柱状晶の結晶粒が形成される。
【0007】
このような現象は、溶融部と溶接熱影響部を含む溶接部で一層著しく、これは、製品の安定性を落とす原因となる。したがって、溶接部の結晶粒サイズを微細に制御することは、溶接を通じて製造された製品の機械的性質を向上させることにおいて必須的である。溶接部の組織を微細化するための手段として、TiNによる結晶粒の粗大化制御技術と、Ti酸化物による粒内フェライト生成技術などが研究、実用化されている。しかし、溶接部の微細組織とともに溶接部の集合組織を制御する技術は開発されていない実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の実施例は、溶接部の微細組織と集合組織を制御して溶接部の機械的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼及びフェライト系ステンレス鋼管を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施例による溶接部の機械的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.005%~0.02%、N:0.005~0.02%、Cr:11.0~13.0%、Ti:0.16~0.3%、Nb:0.1~0.3%、Al:0.005~0.05%、残りは、Fe及び不可避な不純物からなり、溶接後、[001]方向の集合組織の最大強度が30以下である。
【0010】
また、前記フェライト系ステンレス鋼は、溶接後、溶接部に10~100個/mm2以下で存在する2次相を含むことができる。
【0011】
また、前記2次相は、窒化物、酸化物及びラーベス相析出物を含むことができる。
【0012】
また、前記フェライト系ステンレス鋼は、Mo:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cu:1.0%以下及びB:0.005%以下のうち1種以上をさらに含むことができる。
【0013】
本発明の他の一実施例によるフェライト系ステンレス鋼管は、重量%で、C:0.005%~0.02%、N:0.005~0.02%、Cr:11.0~13.0%、Ti:0.16~0.3%、Nb:0.1~0.3%、Al:0.005~0.05%、残りは、Fe及び不可避な不純物からなる母材、及び[001]方向の集合組織の最大強度が30以下である溶接部、を含む。
【0014】
また、前記溶接部は、10~100個/mm2以下で存在する2次相を含むことができる。
【0015】
また、前記2次相は、窒化物、酸化物及びラーベス相析出物を含むことができる。
【0016】
また、前記母材は、Mo:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cu:1.0%以下及びB:0.005%以下のうち1種以上をさらに含むことができる。
【0017】
また、前記溶接部のDBTT(延性-脆性遷移温度)が-50℃以下であることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の実施例によると、溶接部の機械的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼及びフェライト系ステンレス鋼管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施例によるフェライト系ステンレス鋼の溶接部の集合組織の最大強度と延性-脆性遷移温度(DBTT)の関係を説明するためのグラフである。
【
図2】本発明の一実施例によるフェライト系ステンレス鋼の溶接部の2次相の分布密度と延性-脆性遷移温度(DBTT)の関係を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施例による溶接部の機械的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.005%~0.02%、N:0.005~0.02%、Cr:11.0~13.0%、Ti:0.16~0.3%、Nb:0.1~0.3%、Al:0.005~0.05%、残りは、Fe及び不可避な不純物からなり、溶接後、[001]方向の集合組織の最大強度が30以下である。
【0021】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有した者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施例に限定されず、他の形態で具体化できる。図面は、本発明を明確にするために説明と関係ない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素のサイズを多少誇張して表現した。
【0022】
明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」と記載するとき、これは特に反対する記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0023】
単数の表現は、文脈上明白に例外がない限り、複数の表現を含む。
【0024】
以下では、本発明による実施例を添付した図面を参照して詳しく説明する。
【0025】
ステンレス鋼の溶接中には、溶接部で急熱/急冷によって脆弱な2次相が形成されて靭性低下の主要因として作用し得る。溶接部は、溶融部(Fusion Zone)及び熱影響部(Heat-Affected Zone、HAZ)を含む概念である。また、本発明で、2次相とは、ステンレス鋼の母材とは異なる相であって、具体的に、酸化物、窒化物、ラーベス相などのような析出物を含む概念である。
【0026】
フェライト系ステンレス鋼で溶接中に形成され得る析出物としては、クロムカーバイド(Cr3C2)、クロムナイトライド(CrN)、クロムカーボナイトライド(CrCN)がある。この析出物は、フェライト系ステンレス鋼母材のクロムを消費するため、溶接部の耐食性を低下させる要因である。したがって、クロムと結合する炭素と窒素の含量をできるだけ低く制御してこのような析出物の形成を抑制する必要がある。
【0027】
また、シグマ相(Sigma Phase)とラーベス相(Laves Phase)のような析出物は、素材の脆性特性及び耐食性を低下させ得るので、その形成を抑制する必要がある。
【0028】
一方、フェライト系ステンレス鋼の溶接過程で、溶接された金属は、冷却速度の差によって結晶方位の異方性を有するようになる。すなわち、溶接金属の凝固時に冷却が優先的に発生する方向に柱状晶の結晶粒が形成され、このとき、柱状晶は、界面エネルギーが最も低い[001]方向に成長する。
【0029】
このように類似した方位を有する結晶粒が群集していると、機械的性質が劣位な群集部に応力が集中する現象が起き、これは、フェライト系ステンレス鋼の機械的性質を低下させる。よって、溶接部の機械的性質を考慮するとき、溶接部の集合組織をできるだけ無秩序に導出する必要がある。
【0030】
また、溶接熱影響部では、結晶粒の成長が発生して溶接部の機械的性質を低下し得るので、溶接部の機械的性質を改善するためには、微細化された等軸晶組織を形成することが重要である。
【0031】
本発明者は、フェライトステンレス鋼の溶接部の強度及び靭性を全て考慮するためには、2次相の分布密度を制御する必要があり、同時に無秩序な集合組織を導出しなければならないことを把握して実験した結果、溶接部の機械的性質を向上させ得る溶接部の微細組織及び集合組織の条件を導出することができた。
【0032】
本発明の一側面による溶接部の機械的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.005%~0.02%、N:0.005~0.02%、Cr:11.0~13.0%、Ti:0.16~0.3%、Nb:0.1~0.3%、Al:0.005~0.05%、残りは、Fe及び不可避な不純物からなる。
【0033】
以下、本発明の実施例における合金成分の含量の数値限定理由に対して説明する。以下では、特に言及がない限り、単位は、重量%である。
【0034】
Cの含量は、0.005~0.02%である。
【0035】
炭素(C)は、浸入型固溶強化元素であって、フェライト系ステンレス鋼の強度を向上させる。また、チタン(Ti)又はニオビウム(Nb)と結合して炭化物を形成することで結晶粒の成長を抑制するので、溶接熱影響部の結晶粒を微細化するために必ず必要な元素である。したがって、本発明では、0.005%以上添加できる。ただし、その含量が過度な場合、溶接中にマルテンサイト相を形成して脆性を引き起こし得るので、その上限を0.02%に限定できる。
【0036】
Nの含量は、0.005~0.02%である。
【0037】
窒素(N)は、炭素と同様に浸入型固溶強化元素であって、フェライト系ステンレス鋼の強度を向上させ、チタン(Ti)又はニオビウム(Nb)と結合して窒化物を形成することで結晶粒成長を抑制することができる。また、このような窒化物は、溶接時の溶融金属の凝固中に結晶粒の核生成サイトとして作用して無秩序な方位を有する等軸晶結晶粒の形成を促進するので、0.005%以上添加できる。ただし、その含量が過度な場合、溶接中にマルテンサイト相を形成して脆性を引き起こし得るので、その上限を0.02%に限定できる。
【0038】
Crの含量は、11.0~13.0%である。
【0039】
クロム(Cr)は、フェライトの安定化元素であって、ステンレス鋼に要求される耐食性を確保するために11.0%以上添加できる。ただし、その含量が過度な場合、製造費用が上昇し、成形性が劣化する問題があるので、その上限を13.0%に限定できる。
【0040】
Tiの含量は、0.16~0.3%である。
【0041】
チタン(Ti)は、炭素(C)と窒素(N)のような浸入型元素と結合して炭窒化物を形成することで結晶粒の成長を抑制するので、結晶粒の微細化のために必ず必要な元素である。また、チタン(Ti)は、窒素(N)又は酸素(O)と結合して窒化物と酸化物を形成するが、このような2次相は、溶接時の溶融金属の凝固中に結晶粒の核生成サイトとして作用して無秩序な方位を有する等軸晶結晶粒の形成を促進するので、0.16%以上添加できる。ただし、その含量が過度な場合、費用の上昇をもたらし、過度に多量の介在物を形成して製造上に困難があるので、その上限を0.3%に限定できる。
【0042】
Nbの含量は、0.1~0.3%である。
【0043】
ニオビウム(Nb)は、炭素(C)と窒素(N)のような浸入型元素と結合して炭窒化物を形成することで結晶粒の成長を抑制するので、結晶粒の微細化のために0.1%以上添加できる。ただし、その含量が過度な場合、費用の上昇をもたらし、溶接工程中にラーベス析出物を形成して溶接部の脆性を増加させて機械的性質を低下させるので、その上限を0.3%に限定できる。
【0044】
Alの含量は、0.005~0.05%である。
【0045】
アルミニウム(Al)は、脱酸のために必須的に添加される元素であり、本発明で溶接部の核生成サイトとして作用する酸化物を形成させる元素であるので、0.005%以上添加できる。ただし、その含量が過度な場合、溶接時に溶入速度が減少して溶接性が低下するので、その上限を0.05%に限定できる。
【0046】
また、本発明の一実施例による溶接部の機械的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、Mo:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cu:1.0%以下及びB:0.005%以下のうち1種以上をさらに含むことができる。
【0047】
Moの含量は、1.0%以下である。
【0048】
モリブデン(Mo)は、耐食性を向上させるために追加的に添加され得、過量が添加される場合、衝撃特性が低下して加工時に破断発生の危険が大きくなり、素材の原価が増加し得るので、本発明では、これを考慮して、その上限を1.0%に制限することが好ましい。
【0049】
Niの含量は、1.0%以下である。
【0050】
ニッケル(Ni)は、耐食性を向上させる元素であり、多量添加すると、硬質化されるだけでなく、応力腐食割れが発生する恐れがあるので、その上限を1.0%に制限することが好ましい。
【0051】
Cuの含量は、1.0%以下である。
【0052】
銅(Cu)は、耐食性を向上させるために追加的に添加され得、過量が添加される場合、加工性が低下する問題点があるので、その上限を1.0%に制限することが好ましい。
【0053】
Bの含量は、0.005%以下である。
【0054】
ホウ素(B)は、鋳造中のクラック発生を抑制して良好な表面品質を確保する為に効果的な元素である。ただし、その含量が過度な場合、焼鈍/酸洗工程のうち製品表面に窒化物(BN)を形成させて表面品質を低下させ得るので、その上限を0.005%に限定できる。
【0055】
本発明の残り成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では原料又は周囲環境から意図しなかった不純物が不可避に混入され得るので、これを排除できない。これら不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を特に本明細書で言及しない。
【0056】
以下、本発明の一実施例による溶接部の機械的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼の溶接部の集合組織に対して詳しく説明する。
【0057】
溶接中にフェライト系ステンレス鋼の母材金属で部分的に溶融された領域から凝固過程が始まる。凝固過程中には、特定の優先方位を有する柱状晶の微細組織が形成される。具体的に、柱状晶組織は、界面エネルギーの異方性のため成形性に不利な[001]方向に成長する傾向がある。このような柱状晶組織は、溶接部の機械的性質を低下させると知られているので、大部分の金属材料の溶接過程中に柱状晶組織の形成は必ず制御しなければならない因子である。
【0058】
したがって、溶接部の機械的性質を改善するためには、{001}面を有する結晶粒の形成を抑制して無秩序な方位を有する結晶粒の体積分率を増加させる必要がある。
【0059】
結晶内部に生成された一定な面と方位を有する配列を集合組織(texture)と言い、集合組織は、方位分布関数(Orientation Distribution Function、ODF)を通じて定量化できる。
【0060】
本発明では、方位分布関数の最大強度を集合組織指標として導入した。EBSD(Electron Backscattered Diffraction)を活用して溶融部と熱影響部の結晶粒を測定し、溶融部と熱影響部の結晶方位から方位分布関数を計算した。方位分布関数の強度は、完全に無秩序な集合組織を有する試片に比べて該当方位が何倍多いかを意味する。すなわち、方位分布関数の最大強度が高いということは、特定方位を有する結晶粒が多いということを意味し、集合組織の最大強度が30以下ということは、特定の方位が優先的に発達することが抑制されたことを意味する。
【0061】
図1は、本発明の一実施例によるフェライト系ステンレス鋼の溶接部の集合組織の最大強度と延性-脆性遷移温度(DBTT)の関係を説明するためのグラフである。
【0062】
DBTT(Ductile to Brittle Transition Temperature)は、延性脆性遷移温度であって、DBTT温度を基準に破壊挙動が延性破壊から脆性破壊に変わることになり、これは、温度が低い条件での溶接部の加工時にクラック発生の主原因となる。したがって、DBTTは、低いことが好ましい。
【0063】
本発明の一実施例によると、上述した合金組成を満足する溶接部の機械的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼の溶接部の集合組織の最大強度は、30以下であってもよい。
【0064】
図1を参照すると、溶接部の集合組織の最大強度が高いほどDBTTが増加する傾向があることが確認できる。具体的に、溶接部の集合組織の最大強度が30以下である実施例の場合、溶接部のDBTT値が-50℃以下を満足する。すなわち、溶接部の機械的性質が比較例に比べて向上したことが確認できる。
【0065】
フェライト系ステンレス鋼の集合組織を無秩序に発達させるためには、合金成分、2次相の分布密度が重要である。一般的に、フェライト系ステンレス鋼は、溶融及び凝固中に相変態を経ない完全な単相鋼であって、特別な措置を取らない場合、溶融及び凝固中に非常に強い{001}集合組織が発達する。これは、核生成された結晶粒が優先成長方向である<001>方向に沿って成長するからであるが、凝固中に単位面積当たり核生成サイトの数を増加させると、凝固中の結晶粒の成長を最小化して集合組織の最大強度を低め得る。
【0066】
溶接中、溶融金属で形成される2次相は、冷却及び凝固過程で核生成サイトとして作用できる。
【0067】
溶融金属内に2次相が形成されると、核生成サイトを増加させることで溶接部の組織を微細化することができ、Oxide MetallurgyとNitride Metallurgyを通じて溶融金属内に2次相を形成させる研究が進行されてきた。
【0068】
開示した実施例によるTiとNbが複合添加されたフェライト系ステンレス鋼の液相では、TiN窒化物とTi-Al-O酸化物が形成され得る。液相のフェライト系ステンレス鋼で形成される窒化物と酸化物の数が多いほど溶接部の結晶粒サイズが減少すると同時に無秩序な集合組織の発達を促進して溶接部の機械的性質を向上させ得る。
【0069】
一方、溶接部の集合組織を無秩序に導出するためには、凝固時に結晶粒の核生成イベントを増加させなければならない。凝固時に過冷度が大きくなるほど均一な核生成が容易に起きるので、溶接中にできるだけ速く冷却する必要があるが、これは、溶接工程上に限界がある。このような限界を克服するために、上述したように溶融金属内に2次相を形成することで不均一核生成を通じて集合組織の無秩序化を導出する。
【0070】
図2は、本発明の一実施例によるフェライト系ステンレス鋼の溶接部の2次相の分布密度と延性-脆性遷移温度(DBTT)の関係を説明するためのグラフである。
【0071】
図2を参照すると、溶接部の2次相の分布密度が増加するほどDBTTが増加する傾向があることが確認できる。具体的に、-50℃以下のDBTT値を得るためには、1mm
2当たり100個以下の2次相の分布密度が要求される。
【0072】
このように、上述した合金組成を満足するフェライト系ステンレス鋼の溶接部の結晶粒を微細化して特定の方位集合組織の発達を抑制するためには、溶接部に存在する窒化物又は酸化物の分布密度が10個/mm2以上である必要がある。
【0073】
しかし、溶接部に2次相が過度に多いと、脆性を引き起こすため、その分布密度を制限しなければならない。特に、ラーベス相のように低温で形成される2次相は、結晶粒の核生成には影響を与えず脆性のみを増加させるので、形成を抑制しなければならない。したがって、溶接部に存在する窒化物、酸化物、ラーベス析出物を含んだ全ての2次相の分布密度を100個/mm2以下に限定できる。
【0074】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。
【0075】
下記表1に示した多様な合金成分の範囲に対して、インゴット(Ingot)溶解を通じて200mm厚さのスラブを製造し、1,240℃で2時間の間加熱した後、熱間圧延を行って3mm厚さの熱延鋼板を製造した。
【0076】
その後、前記実施例及び比較例によって製造された鋼板の溶接特性を評価するためにGTA工程で溶接した後、溶接部の結晶粒サイズ、溶接部の集合組織、溶接部の衝撃エネルギーなどを調査した。主要影響因子として溶鋼成分とそれによる内部2次相の個数、集合組織、延性-脆性遷移温度に対して調査して、下記表1、2に示した。
【0077】
【0078】
集合組織は、溶融部と溶接熱影響部を含んだ溶接部の断面全体の厚さ方向を含む面積を後方散乱電子回折(Electron Backscatter Diffraction、EBSD)を活用して測定した。EBSDデータから方位分布関数を計算して集合組織を定量化し、方位分布関数の最大強度を集合組織の指標で活用した。
【0079】
また、溶接部の機械的性質は、ASTM E 23規格でシャルピー衝撃試験を通じて-60~100℃までの衝撃エネルギーを20℃間隔で測定して得られたDBTT(Ductile Brittle Transition Temperature、延性-脆性遷移温度)を下記表2に示した。
【0080】
【0081】
図1は、本発明の一実施例によるフェライト系ステンレス鋼の溶接部の集合組織の最大強度と延性-脆性遷移温度(DBTT)の関係を説明するためのグラフである。
【0082】
図2は、本発明の一実施例によるフェライト系ステンレス鋼の溶接部の2次相の分布密度と延性-脆性遷移温度(DBTT)の関係を説明するためのグラフである。
【0083】
上述したように、溶接部の機械的特性を確保するためには、無秩序な方位を有する結晶粒の体積分率を増加させて溶接部の集合組織の最大強度を30以下に制御すると同時に、溶接部の2次相の分布密度を10~100個/mm2に制御しなければならない。
【0084】
図1、
図2及び表2を参照すると、前記実施例の場合、比較例と比較して、溶接部の2次相の分布密度と集合組織の最大強度の範囲を満足してDBTT値が-50℃以下であることが確認できる。
【0085】
これに比べて、比較例1~3では、Ti含量が0.16%に達しないので、溶接部の単位面積(1mm2)当たり窒化物と酸化物の個数が10個未満で現われ、溶接部の集合組織の最大強度は、30以上であって、特定の優先方位を有する集合組織が強く発達したことが確認できる。
【0086】
比較例4は、比較例1~3のようにTi含量が0.16%に達しないだけでなく、Nbを0.48%で過多に添加してラーベス析出物が過度に形成され、溶接部の2次相の分布密度が本発明の上限を超過した。
【0087】
比較例5及び比較例6は、溶接部の単位面積当たり窒化物と酸化物の個数が10個以上得られ、集合組織の最大強度も20.0以下で現われて、溶接部の機械的性質に適切な集合組織が得られた。しかし、Nbの含量が本発明の上限である0.3%を超過して溶接部の2次相の分布密度が100個/mm2を超過した。これは、ラーベス析出物が過度に形成されてDBTT値が高く導出されたことを意味する。
【0088】
本発明の一実施例によって製造したフェライト系ステンレス鋼は、溶接部の集合組織の最大強度を30以下に制御することで、無秩序な溶接部の集合組織を導出して機械的性質を向上させ得る。
【0089】
また、本発明の一実施例によって製造されたフェライト系ステンレス鋼は、2次相の分布密度を10~100個/mm2に制御することで、強度だけでなく靭性を確保することができる。
【0090】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明はこれに限定されず、該当技術分野において通常の知識を有した者であれば、次に記載する特許請求の範囲の概念と範囲を脱しない範囲内で多様に変更及び変形が可能であることを理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によるフェライト系ステンレス鋼は、溶接部の機械的性質が向上して自動車あるいは2輪車両の排気管、燃料タンクあるいは管用途の素材として活用され得る。