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特許7504905コア-シェルポリマーとセルロースとを含むカプセルシェル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】コア-シェルポリマーとセルロースとを含むカプセルシェル
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/48 20060101AFI20240617BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240617BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240617BHJP
   A61J 3/07 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
A61K9/48
A61K47/32
A61K47/38
A61J3/07 F
A61J3/07 D
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021555371
(86)(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-11
(86)【国際出願番号】 EP2020055848
(87)【国際公開番号】W WO2020182611
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】19162778.5
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ベッティーナ ヘルツァー
(72)【発明者】
【氏名】マンフレート アスムス
(72)【発明者】
【氏名】カトリン ノレンベルガー
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/013260(WO,A1)
【文献】特表2014-518205(JP,A)
【文献】特開平8-208458(JP,A)
【文献】特表2011-500871(JP,A)
【文献】「Evonik launches EUDRAGIT FL 30 D-55, an advanced combination polymer that sets a new benchmark for enteric coatings」,EVONIC プレスリリース,2018年10月04日,URL https://corporate.evonik.com/en/media/press-releases/nutrition-and-care/evonik-launches-eudragit-fl-30-d-55-an-advanced-combination-polymer-that-sets-a-new-benchmark-for-en-106222.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00-9/72
47/00-47/69
A61J 3/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)65~75重量%のアクリル酸エチル重合単位および25~35重量%のメタクリル酸メチル重合単位を含む50~90重量%のコアと、45~55重量%のアクリル酸エチル重合単位および45~55重量%のメタクリル酸重合単位を含む10~50重量%のシェルと、を含む40~99重量%のコア-シェルポリマーと、
(b)1~60重量%のセルロースと、
の混合物を含む、カプセルシェルであって、
前記セルロースが、ブルックフィールド粘度計、スピンドル1を用いて20℃で2重量%の水性分散液として測定した場合に、1~6mPa・sの範囲の粘度を示す、カプセルシェル
【請求項2】
40~99重量%の前記コア-シェルポリマーと、1~60重量%の前記セルロースとを含み、前記セルロースが、ブルックフィールド粘度計、スピンドル1を用いて20℃で2重量%の水性分散液として測定した場合に、1~3mPa・sの範囲の粘度を示す、請求項1記載のカプセルシェル。
【請求項3】
95~99重量%の前記コア-シェルポリマーと、1~5重量%のセルロースとを含み、前記セルロースが、ブルックフィールド粘度計、スピンドル1を用いて20℃で2重量%の水性分散液として測定した場合に、3mPa・sより大きく最大6mPa・sまでの範囲の粘度を示す、請求項1記載のカプセルシェル。
【請求項4】
前記セルロースがヒドロキシプロピルメチルセルロースである、請求項1から3までのいずれか1項記載のカプセルシェル。
【請求項5】
前記カプセルシェル壁の厚さが80~250μmである、請求項1から4までのいずれか1項記載のカプセルシェル。
【請求項6】
前記カプセルシェルがカプセルボディまたはカプセルキャップである、請求項1から5までのいずれか1項記載のカプセルシェル。
【請求項7】
前記コア-シェルポリマーが、70~80重量%のコアと、20~30重量%のシェルとを含む、請求項1から6までのいずれか1項記載のカプセルシェル。
【請求項8】
水と、10~40重量%の組成物とを含有する水性分散液であって、前記組成物が、65~75重量%のアクリル酸エチル重合単位および25~35重量%のメタクリル酸メチル重合単位を含む50~90重量%のコアと、45~55重量%のアクリル酸エチル重合単位および45~55重量%のメタクリル酸重合単位を含む10~50重量%のシェルと、を含むコア-シェルポリマーを40~99重量%、ならびにセルロースを1~60重量%含み、
前記セルロースが、ブルックフィールド粘度計、スピンドル1を用いて20℃で2重量%の水性分散液として測定した場合に、1~6mPa・sの範囲の粘度を示す、水性分散液。
【請求項9】
前記水性分散液が、ブルックフィールド粘度計、スピンドル1を用いて20℃で測定される25~3,000mPa・sの範囲の粘度を示す、請求項8記載の水性分散液。
【請求項10】
請求項1から7までのいずれか1項記載の2つの形状一致するカプセルシェルを含む、ハードシェルカプセル。
【請求項11】
前記カプセルが閉じられており、生理活性成分を含む充填物を含む、請求項10記載のハードシェルカプセル。
【請求項12】
a)水性ポリマー分散液Aの形態でコア-シェルポリマーを準備するステップ、
b)水性ポリマー分散液Bの形態でセルロースを準備するステップ、
c)前記ポリマー分散液AおよびBを混合して混合水性ポリマー分散液にするステップ、
d)前記カプセルシェルの内側の相補的な形状をその端部に有する成形ピンの、この端部を前記混合ポリマー分散液に浸漬するステップ、
e)前記ポリマー分散液から前記成形ピンを引き出し、前記成形ピン上の前記ポリマー分散液を乾燥させて、カプセルシェルの形態を有するフィルムを形成するステップ、
f)前記成形ピンから前記カプセルシェルを取り外すステップ、
による、請求項1から7までのいずれか1項記載のカプセルシェルの製造方法。
【請求項13】
ステップa)における前記水性分散液Aが25~35重量%の前記コア-シェルコポリマーを含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記混合水性ポリマー分散液が、99:1~40:60の比A:Bで前記水性分散液AおよびBを含む、請求項12または13記載の方法。
【請求項15】
ステップc)の前記混合水性ポリマー分散液が、ブルックフィールド粘度計、スピンドル1を用いて20℃で測定される25~3,000mPa・sの範囲の粘度を示す、請求項12から14までのいずれか1項記載のカプセルシェルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二段階乳化重合プロセスから誘導されるコポリマーであってよいコア-シェルポリマーと、セルロースとを含むカプセルシェルに関する。
【0002】
発明の背景
米国特許第4138013号明細書には、腸溶性を有するハードシェルカプセルが記載されている。ハードシェルカプセルは、嵌合されたボディ部分とキャップ部分とを含む。カプセルのボディ部分とキャップ部分は、選択された(1)ヒドロキシプロピルメチルセルロースと酢酸フタル酸セルロースのアンモニウム塩との、または(2)ゼラチンと、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとのコポリマーのアンモニウム塩との、均一なフィルム形成混合物を使用する浸漬成形によって形成される。カプセル自体は、追加の腸溶コーティング層が設けられることなしにすでに腸溶性を有している。
【0003】
米国特許出願公開第2010/0113620号明細書には、腸溶性医薬品カプセルが記載されている。カプセルは、(a)HPMCなどのフィルム形成非水溶性ポリマーと、(b)アルギン酸塩などの酸不溶性ポリマーと、(c)ジェランガムなどのゲル化剤と、(d)ナトリウムイオンまたはカリウムイオンなどのゲル化助剤と、(e)少なくとも1種の可塑剤と、(f)任意選択的な着色剤または香味剤とからなる。
【0004】
国際公開第2011/012369号には、半割カプセルの浸漬コーティングのためのコーティング剤が記載されている。半割カプセルの腸溶コーティング用のコーティング組成物は、浸漬プロセスにおいて、腸溶性または中性の(メタ)アクリレートコポリマーの混合物を含有する水性分散液または水溶液の形態の水溶性または水膨潤性ポリマー系材料から製造される。
【0005】
国際公開第2012/171575号には、製薬用途に適したコーティング組成物が記載されている。コーティング組成物は、二段階乳化重合プロセスから誘導されたコア-シェルポリマーを含む。
【0006】
EUDRAGIT(登録商標)FL 30 D-55(Evonik Nutrition & Care GmbHダルムシュタット、ドイツ)は、70重量%のアクリル酸エチル重合単位および30重量%のメタクリル酸メチル重合単位を含む約75重量%のコアと、50重量%のアクリル酸エチル重合単位および50重量%のメタクリル酸重合単位を含む約25重量%のシェルとを含む、二段階乳化重合プロセスからのコポリマーの市販の30重量%水性分散液である。
【0007】
国際公開第2014/018279号には、ハードシェルカプセル用のフィルム組成物が記載されている。欧州薬局方(第7版、2011年、錠剤およびカプセルの崩壊)に準拠したボールサンプルホルダーを使用したフィルム崩壊試験が記載されている。
【0008】
米国特許出願公開第2015/0010620号明細書には、酢酸フタル酸セルロース(CAP)と、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレントリブロックポリマーから選択される加工助剤とを含むバルク腸溶性カプセルシェルが記載されている。バルク腸溶性ハードカプセルシェルを製造するための浸漬成形プロセスも開示されている。
【0009】
米国特許出願公開第2015/0132372号明細書には、徐放性ポリマーならびにそのシェルおよびカプセルの水性分散液が記載されている。
【0010】
ハードシェルカプセルは、医薬品または栄養補助有効成分の容器として周知である。医薬品または栄養補助の目的のハードシェルカプセルは、2つの形状が一致するシェル、キャップとボディとから組み立てられ、これらは嵌合されている。ハードシェルカプセル、カプセルキャップ、およびカプセルボディ用のほとんどのカプセルシェルは、ピンモールド(成形ピン)を水性ベースのフィルム形成組成物に浸漬し、続いてピンを組成物から引き出すことによって工業的に製造されている。成形ピンの表面に形成されたフィルムは乾燥され、ピンが剥がされ、望みの長さまでカットされる。ほとんどのハードシェルカプセルはそれぞれシェルから組み立てられていて、通常、ゼラチンまたはHPMCから製造される。いずれのカプセルのタイプも、胃の中の胃液環境で崩壊する。
【0011】
発明の概要
カプセルシェルから製造されたハードシェルカプセルは、経口医薬品または栄養補助剤の形態の生理活性成分の容器として広く使用されている。多くの生理活性成分は酸性条件の影響を受けやすいか、または胃ではなく腸で放出されなければならない。したがって、胃の酸性条件に対して耐性を有するが腸内のより高いpH条件で崩壊するカプセルが求められている。
【0012】
ゼラチンまたはHPMCから製造された充填され閉じられたハードシェルカプセルを腸溶性ポリマーでコーティングすることは可能であるものの、追加のコーティングステップを行う必要があり、これは困難なことが多い。多くの場合、コーティングされたカプセルの気密性を確保するために、追加のバンディングを適用することが必要とされる。腸溶性ポリマーによるカプセルシェルのプレコーティングは別の試みであるものの、これは不安定なカプセルシェルの寸法に関連する問題を生じることが多い。したがって、腸溶性ポリマーベースの材料からカプセルシェル全体を製造することは、コーティング技術の欠点に対する代替手段になるであろう。
【0013】
一般的な腸溶性ポリマーは、腸溶性保護を与えることができ、例えば10~50μmの範囲の薄いコーティング層に塗布した場合にのみ、より高いpHで溶解することができる。しかしながら、カプセルの寸法安定性を確保するために、カプセルシェルの壁は、はるかに厚い約80~250μmにする必要がある。問題は、そのようなカプセルシェルが腸溶性ポリマー材料から製造される場合に、壁材料の厚さのためカプセルが腸のより高いpHで何時間も崩壊しなくなることである。
【0014】
世界的に生産されているカプセルシェルの多く、またはおそらくほとんどは、いわゆる浸漬コーティング技術によって製造されている。鋼製のピンが、カプセルシェルの壁材料の水性分散液に浸漬され、続いて取り出され、付着した濡れた状態の壁材料がピン上で乾燥される。カプセルシェルは、その後ピンから取り外され、望まれる長さにカットされる。問題は、カプセルシェルの壁材料の水性分散液が、処理中に落ちずにピンに付着するために一定の粘度を満たさなければならないことである。
【0015】
(メタ)アクリレートコポリマーをカプセルシェル材料として使用するほとんどの試み、特にメタクリル酸とメタクリル酸メチルとのコポリマー、またはメタクリル酸とアクリル酸エチルとのコポリマーは、これまでのところ失敗している。したがって、純粋な合成腸溶性カプセル材料から製造されるカプセルシェルを提供することが求められている。
【0016】
背景技術の欠点を克服するために、開示される本発明は、65~75重量%のアクリル酸エチル重合単位と25~35重量%のメタクリル酸メチル重合単位とを含む50~90重量%、好ましくは70~80重量%のコアと、45~55重量%のアクリル酸エチル重合単位と45~55重量%のメタクリル酸重合単位とを含む10~50重量%、好ましくは20~30重量%のシェルと、を含むコア-シェルポリマーを40~99重量%、ならびにセルロースを1~60重量%含む、カプセルシェルを提供する。
【0017】
本発明により、広範囲の異なる崩壊プロファイルを有するハードシェルカプセル用のカプセルシェルを提供することができる。
【0018】
発明の詳細な説明
ハードシェルカプセルおよびカプセルシェル
医薬品または栄養補助の目的のハードシェルカプセルは当業者に周知である。ハードシェルカプセルは、カプセルボディとカプセルキャップと呼ばれる2つのカプセルシェルから構成される2ピースのカプセル封入用カプセルである。したがって、本発明の意味におけるカプセルシェルは、カプセルボディまたはカプセルキャップである。カプセルボディおよびキャップの材料は、通常、硬く、場合によっては脆いポリマー系材料から製造される。ハードシェルカプセルは、ボディとキャップとを含む。ボディおよびキャップは、通常、一端が開いた円筒形であり、反対側の端部が閉じている丸い半球形態である。キャップおよびボディの形状およびサイズは、ボディの開放端をキャップの開放端に押し込んで嵌めることができるように形状が一致しており、その結果密閉されたハードシェルカプセルが得られる。
【0019】
したがって、本発明の意味でのカプセルシェルは、カプセルボディまたはカプセルキャップである。ハードシェルカプセルは、カプセルボディとカプセルキャップである2つの形状一致するカプセルシェルを含む。カプセルボディの中には、医薬品有効成分または栄養補助有効成分であってよい生理活性成分を充填することができる。その後、カプセルキャップを付けることによってカプセルボディを閉じることができ、本発明による閉じられたハードシェルカプセルが得られる。ハードシェルカプセルの崩壊、それぞれ有効成分の放出は、カプセルシェル材料のポリマー組成、特に特許請求の範囲に記載のコア-シェルポリマーとセルロースとの間の比率に依存する。腸溶性のUSPに適合する放出を超えるわずかに遅延した放出および大きく遅延した放出からの広範囲の様々な放出プロファイルを、望まれる用途に応じて実現することができる。
【0020】
カプセルボディおよびカプセルキャップは、通常、カプセルボディの外側とカプセルキャップの内側とに潜在的な重なり合う形状一致領域(重なり領域)を含み、これらはカプセルがプレロック状態で閉じられたときに部分的に重なり、最終ロック状態で完全に重なる。カプセルキャップをカプセルボディの重なり合う形状一致領域上で部分的にスライドさせると、カプセルはプレロック状態になる。カプセルキャップがカプセルボディの重なり合う形状一致領域上を完全にスライドすると、カプセルは最終ロック状態になる。
【0021】
プレロック状態または最終ロック状態の維持は、通常、カプセルボディとカプセルキャップとのスナップインロック機構、例えば周囲を取り囲む形状が一致するノッチまたはディンプル、好ましくは細長いディンプルによって支持される。通常、ボディとキャップとをプレロック状態で固定するためには、ディンプルが好ましい。拘束力のない規則として、ディンプルの形状一致領域は、周囲を取り囲むノッチの形状一致領域よりも小さい。したがって、スナップインされたディンプルは、周囲を取り囲むノッチに形状一致させることによるスナップイン固定をスナップアウトするのに必要な力よりも小さい力を加えることによって、再度スナップアウトすることができる。
【0022】
ハードシェルカプセルは様々なサイズで市販されている。ハードシェルカプセルは、通常カプセルボディとカプセルキャップとがプレロック状態ですでに配置された空の容器として提供され、必要に応じて別々の半割カプセルであるボディおよびキャップとして提供される。プレロックされたハードシェルカプセルは、カプセルを開き、充填し、そして最終ロック状態へと閉じるカプセル充填機に供給することができる。通常、ハードシェルカプセルには、乾燥材料、例えば医薬有効成分または栄養補助有効成分であってよい生理活性成分を含む粉末または顆粒が充填される。
【0023】
コア-シェルポリマー
開示されるカプセルシェルは、40~99重量%のコア-シェルポリマーと1~60重量%のセルロースとの混合物を含む。
【0024】
コア-シェルポリマーは、65~75重量%のアクリル酸エチル重合単位と25~35重量%のメタクリル酸メチル重合単位とを含む50~90重量%、好ましくは70~80重量%のコアと、45~55重量%のアクリル酸エチル重合単位と45~55重量%のメタクリル酸重合単位とを含む10~50重量%、好ましくは20~30重量%のシェルと、を含む。
【0025】
適切なコア-シェルポリマーは、EUDRAGIT(登録商標)FL 30 D-55 (Evonik Nutrition & Care GmbHダルムシュタット、ドイツ)であり、これは70重量%のアクリル酸エチル重合単位および30重量%のメタクリル酸メチル重合単位を含む約75重量%のコアと、50重量%のアクリル酸エチル重合単位および50重量%のメタクリル酸重合単位を含む約25重量%のシェルとを含む、二段階乳化重合プロセスからのコポリマーの市販の30重量%水性分散液である。
【0026】
二段階乳化重合プロセスおよびそれらの合成から通常誘導される適切なコア-シェルポリマーは、例えば国際公開第2012/171575号などから周知である。
【0027】
薬学的または栄養学的に許容される賦形剤
任意選択的には、顔料、着色剤、または分離剤、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、またはモノステアリン酸グリセロールなどの薬学的または栄養学的に許容される賦形剤を最大50重量%添加することができる。しかしながら、賦形剤は通常25重量%未満、好ましくは10重量%未満添加されるか、または全く添加されない。コア-シェルポリマーと、セルロースと、存在する場合は任意選択的な賦形剤は、合計で100%とすることができる。薬学的または栄養学的に許容される賦形剤は、薬学、製剤学、または栄養学技術の当業者に周知の賦形剤であり、ヒトまたは動物の健康に無害であると分類され、また医薬組成物または栄養補助組成物における使用が可能である。
【0028】
セルロース
カプセルキャップとカプセルボディのいずれであってもよいカプセルシェルは、1~60重量%のセルロースを含む。
【0029】
好ましくは、カプセルシェルは、40~99重量%のコア-シェルポリマーと、1~60重量%のセルロースとを含み、セルロースは、ブルックフィールド粘度計、スピンドル1を用いて20℃で2重量%の水性分散液として測定した場合に、約1~3mPa・s、好ましくは約1.5~2.5mPa・sの範囲の粘度を示す。
【0030】
カプセルシェルは、95~99重量%のコア-シェルポリマーと、1~5重量%のセルロースとを含んでいてもよく、セルロースは、ブルックフィールド粘度計、スピンドル1を用いて20℃で2重量%の水性分散液として測定した場合に、約3mPa・sより大きく最大6mPa・sまで、好ましくは約4~5.5mPa・sの範囲の粘度を示す。
【0031】
好ましくは、カプセルシェルは、40~99重量%のコア-シェルポリマーと、1~60重量%のセルロースとを含み、セルロースは、ブルックフィールド粘度計、スピンドル1を用いて20℃で2重量%の水性分散液として測定した場合に、1~3mPa・s、好ましくは1.5~2.5mPa・sの粘度を示す。
【0032】
カプセルシェルは、95~99重量%のコア-シェルポリマーと、1~5重量%のセルロースとを含んでいてもよく、セルロースは、ブルックフィールド粘度計、スピンドル1を用いて20℃で2重量%の水性分散液として測定した場合に、3mPa・sより大きく最大6mPa・sまで、好ましくは4~5.5mPa・sの粘度を示す。
【0033】
セルロースは、水溶性セルロース、好ましくは低粘度の水溶性セルロース、最も好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロースであってよい。適切な市販のセルロースは、例えばMETHOCEL(商標)Premium VLVである。
【0034】
低粘度セルロースは、ブルックフィールド粘度計、スピンドル1を用いて20℃で2重量%の水性分散液として測定した場合に、1~6mPa・s、好ましくは1.5~5.5mPa・sの範囲の粘度を示すセルロースとして定義することができる。
【0035】
水性分散液
水と、1~40重量%の組成物とを含有する水性分散液であって、前記組成物が、65~75重量%のアクリル酸エチル重合単位および25~35重量%のメタクリル酸メチル重合単位を含む50~90重量%のコアと、45~55重量%のアクリル酸エチル重合単位および45~55重量%のメタクリル酸重合単位を含む10~50重量%のシェルと、を含むコア-シェルポリマーを40~99重量%、ならびにセルロースを1~60重量%含む、水性分散液も開示される。
【0036】
好ましくは、水性分散液は、ブルックフィールド粘度計、スピンドル1を用いて20℃で測定される、25~3,000mPa・s、好ましくは150~2,800mPa・sの範囲の粘度を示す。
【0037】
カプセルシェル/カプセルの寸法
開示されるカプセルシェルは、約80~250μm、好ましくは約100~220μmのカプセルシェル壁の厚さを有し得る。開示されるカプセルシェルは、80~250μm、好ましくは100~220μmのカプセルシェル壁の厚さを有し得る。
【0038】
開示されるカプセルシェルは、カプセルボディまたはカプセルキャップであってよい。通常、カプセルボディはカプセルキャップよりも長い。カプセルを閉じるかまたはロックするために、カプセルボディの外側の重なり合う領域をカプセルキャップで覆うことができる。閉じられた状態では、カプセルキャップは、プレロック状態または最終ロック状態のいずれかで、カプセルボディの外側の重なり合う領域を覆う。最終ロック状態では、カプセルキャップはカプセルボディの外側の重なり合う領域を全体的に覆い、プレロック状態では、カプセルキャップはカプセルボディの外側の重なり合う領域と部分的にしか重なり合わない。カプセルキャップは、通常カプセルがプレロック状態または最終ロック状態のいずれかで閉じられる2つの異なる位置のうちの1つに固定するために、カプセルボディの上をスライドさせることができる。
【0039】
本発明との関係において、閉じられたカプセルは、約5~50mmの範囲の全長を示し得る。カプセルキャップ(上部)の直径は約4~12mmの範囲であってよい。カプセルボディ(下部)の直径は約2~10mmの範囲であってよい。カプセルキャップの長さは約4~20mmの範囲であってよく、カプセルボディの長さは8~30mmの範囲であってよい。充填容積は約0.1~2mlであってよい。
【0040】
カプセルは、例えば000~5の規格化されたサイズに分類することができる。
【0041】
サイズ000の閉じられたカプセルは、例えば、約28mmの全長、約9.9mmの上部直径、および約9.5mmの下部直径を有する。上部長さは約14mmであり、下部長さは約22mmである。充填容積は約1.4mlである。
【0042】
サイズ5の閉じられたカプセルは、例えば、約10mmの全長、約4.8mmの上部直径、および約4.6mmの下部直径を有する。上部長さは約5.6mmであり、下部長さは約9.4mmである。充填容積は約0.13mlである。
【0043】
ハードシェルカプセル
ハードシェルカプセルは、カプセルボディとカプセルキャップ(または単にボディとキャップと呼ばれる)の2つの形状一致するカプセルシェルを含む。「形状一致する」という用語は、カプセルボディの上をカプセルキャップが通常はロック位置でスライドしてしっかりと閉じられたハードシェルカプセルを得ることができる寸法を、カプセルボディとカプセルキャップとが(通常は充填後に)有することを意味するものとする。閉じられたハードシェルカプセルは生理活性成分を含む充填物を含むことができ、これは医薬有効成分または栄養補助有効成分であってよい。
【0044】
溶出挙動
充填され閉じられたカプセルの溶出または崩壊挙動は、かなり簡素化された「鋼球落下試験」によってシミュレートすることができる。このかなり簡素化された試験は、充填され閉じられたカプセルを用いたより複雑な溶出試験とよく相関する。この目的のために、様々な水性分散液から厚さ約100μmのフィルムが作製される。約100μmの厚さのフィルムは、典型的なカプセル壁の厚さに相当する。次いで、各フィルムは、2つのプラスチックリング(内径約1.9cm)の間に水平にしっかりと固定され、2つのプラスチックリングの間の空間を分離することができる。フィルムを底部として上部のプラスチックリングの壁によって形成された空隙の容積に、それぞれpH1.2の媒体またはpH6.8の緩衝液(それぞれUSPに準拠、例えばUSP31)が充填される。鋼球(直径約1.1cm、重量約5.4g)を入れ、フィルム上の胃または腸の機械的応力がシミュレートされる。その後、鋼球がフィルムを突き抜けるまでの時間を測定することができる(例えば国際公開第2014/018279号8~9ページ、および欧州薬局方、第7版、2011年、錠剤およびカプセルの崩壊に記載されているフィルム崩壊試験も参照)。
【0045】
pH1.2の媒体中で1~30分の「鋼球突き抜け時間」を有するフィルムは、ハードシェルカプセル用のカプセルシェルの製造を可能にする。これは、速いモードからわずかに遅延したモードで崩壊する。
【0046】
pH1.2の媒体中での「鋼球突き抜け時間」が1時間を超え、かつpH6.8の緩衝液中での崩壊時間が45分未満のフィルムは、腸溶性保護のためのUSP適合モードで崩壊するハードシェルカプセル用のカプセルシェルの製造を可能にする。
【0047】
pH1.2の媒体中での「鋼球突き抜け時間」が1時間を超え、かつpH6.8の緩衝液中での崩壊時間が45分超または最大3~5時間のフィルムは、崩壊プロファイルが大幅に遅延した腸溶性が保護されたハードシェルカプセル用のカプセルシェルの製造を可能にする。
【0048】
カプセルシェルの製造方法
a)水性ポリマー分散液Aの形態でコア-シェルポリマーを準備するステップ、
b)水性ポリマー分散液Bの形態でセルロースを準備するステップ、
c)ポリマー分散液AおよびBを混合して混合水性ポリマー分散液にするステップ(任意選択的には、薬学的または栄養学的に許容される賦形剤を前述したとおりに添加することができる)、
d)カプセルシェルの内側の相補的な形状をその端部に有する成形ピンの、この端部を混合ポリマー分散液に浸漬するステップ、
e)ポリマー分散液から成形ピンを引き出し、成形ピン上のポリマー分散液を乾燥させて、カプセルシェルの形態を有するフィルムを形成するステップ、
f)成形ピンからカプセルシェルを取り外すステップ、
による、カプセルシェルの製造方法(浸漬成形方法)が開示される。
【0049】
ステップa)の水性分散液Aは、25~35重量%のコア-シェルコポリマーを含み得る。
【0050】
ステップc)における混合水性分散液は、15~40重量%のコア-シェルコポリマーと、セルロースと、任意選択的な薬学的または栄養学的に許容される賦形剤とを含み得る。
【0051】
ステップc)における混合ポリマー分散液は、ブルックフィールド粘度計、スピンドル1を用いて20℃で測定される25~3,000mPa・s、好ましくは250~2,800mPa・sの範囲の粘度を示し得る。
【0052】
任意選択的には、長さをカットするまたは後乾燥するなどの後処理ステップを、当業者に公知のとおりに追加することができる。
【0053】
実施例
ポリマー
EUDRAGIT(登録商標)FL 30 D-55(Evonik Nutrition & Care GmbHダルムシュタット、ドイツ)は、70重量%のアクリル酸エチル重合単位および30重量%のメタクリル酸メチル重合単位を含む約75重量%のコアと、50重量%のアクリル酸エチル重合単位および50重量%のメタクリル酸重合単位を含む約25重量%のシェルとを含む、二段階乳化重合プロセスからのコポリマーの30重量%水性分散液である。
【0054】
ブルックフィールド粘度計、スピンドル1を用いて20℃で30重量%の水性分散液中で測定されたEUDRAGIT(登録商標)FL 30 D-55の粘度は、約10mPa・sである。
【0055】
METHOCEL(商標)Premium VLVは、非常に低い粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
【0056】
ブルックフィールド粘度計、スピンドル1を用いて20℃で2重量%の水性分散液として測定されたMETHOCEL(商標)Premium VLVの粘度は、約2mPa・sの範囲である。
【0057】
METHOCEL(商標)Premium E5は、低粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
【0058】
ブルックフィールド粘度計、スピンドル1を用いて20℃で2重量%の水性分散液として測定されたMETHOCEL(商標)Premium E5の粘度は、5mPa・sの範囲である。
【0059】
セルロース溶液の調製
800gの水を80℃まで加熱した。ブレード撹拌機で撹拌しながら、200gのMETHOCEL(商標)Premium VLVをゆっくりと添加した。懸濁液を継続的に撹拌しながら20℃まで冷却した。METHOCEL(商標)Premium VLVは冷却段階中に溶解する。非常に高い粘度の溶液が形成される。
【0060】
20%METHOCEL(商標)Premium VLV溶液の粘度は、ブルックフィールド粘度計、スピンドル3を用いて20℃で10,000mPa・s以上の範囲(10,000~12,000mPa・s)で測定した。
【0061】
850gの水を80℃まで加熱した。ブレード撹拌機で撹拌しながら、150gのMETHOCEL(商標)Premium E5をゆっくりと添加した。懸濁液を継続的に撹拌しながら20℃まで冷却した。METHOCEL(商標)Premium E5は冷却段階中に溶解する。非常に高い粘度の溶液が形成される。
【0062】
15%のMETHOCEL(商標)Premium E5溶液の粘度は、ブルックフィールド粘度計、スピンドル3を用いて20℃で3,000mPa・s以上の範囲(3,000~3,500mPa・s)で測定した。
【0063】
混合分散液の調製
ブレード撹拌機により、EUDRAGIT(登録商標)FL 30 D-55を適切な量のMETHOCEL(商標)溶液と混合して、以下の水性分散液を形成した。
【0064】
EUDRAGIT(登録商標)FL 30 D-55/METHOCEL(商標)Premium E5ポリマー比:
【表1】
【0065】
粘度の高さのため、90:10の比率はフィルム作製やカプセル製造用浸漬液としては適さない。
【0066】
EUDRAGIT(登録商標)FL 30 D-55/METHOCEL(商標)Premium VLVポリマー比:
【表2】
【0067】
全ての比率の粘度は、フィルム作製やカプセル製造用浸漬液として適している。
【0068】
フィルムの作製
ドクターブレードにより、Teflon(登録商標)製の板を適切な分散液でコーティングし、室温で乾燥した。得られたフィルムの厚さは約100μmであった。
【0069】
試験手順/鋼球落下試験
得られたフィルムを、国際公開第2014/018279号に準拠し、かつ欧州薬局方(第7版、2011年、錠剤およびカプセルの崩壊)に記載されているとおりに試験した。そのため、フィルムを2つのタブ(内径1.9cm)の間に固定した。鋼球(直径1.1.cm、重量5.4g)をフィルムの上に置き、対応する媒体を上部チューブに充填した。鋼球の突き抜け時間を測定した。
【0070】
結果:結果は表3にまとめられている。
【0071】
【表3】