(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】生体組織におけるコミュニケーションを提供する生体模倣構造を用いるためのシステムと方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/02 20060101AFI20240617BHJP
A61F 2/06 20130101ALI20240617BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240617BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240617BHJP
C12N 11/04 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
A61F2/02
A61F2/06
C12M1/00 A
C12N5/071
C12N11/04
(21)【出願番号】P 2022084389
(22)【出願日】2022-05-24
(62)【分割の表示】P 2018527834の分割
【原出願日】2016-07-28
【審査請求日】2022-06-23
(32)【優先日】2015-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】ヴァカンティ ジョセフ ピー.
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-540502(JP,A)
【文献】特表2010-523268(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0281353(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0024346(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0196438(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0030548(US,A1)
【文献】国際公開第2014/052835(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/02
A61F 2/06
C12M 1/00
C12N 5/071
C12N 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側形状を画定する分岐構造を備えるチューブ状構造を備える人工臓器であって、
前記分岐構造は、
複数の第1の生体細胞を受け入れるように構成された複数の血管チューブと、
複数の第2の生体細胞を受け入れるように構成された複数の非血管チューブと、
を備え
、
前記複数の血管チューブと前記複数の非血管チューブとは、前記複数の血管チューブと
前記複数の非血管チューブとの間の界面を提供するように、互いに対して配置され、
前記複数の血管チューブと前記複数の非血管チューブとの間の前記界面にバリアが形成され、前記バリアは、特徴的な幅を備えることにより、前記複数の血管チューブと前記複数の非血管チューブとの間の流体的連通を可能にすることを特徴とする人工臓器。
【請求項2】
前記バリアの前記特徴的な幅は、前記複数の血管チューブのそれぞれの血管チューブの直径又は前記複数の非血管チューブのそれぞれの非血管チューブの直径よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の人工臓器。
【請求項3】
前記バリアはヒドロゲルを含むことを特徴とする請求項1に記載の人工臓器。
【請求項4】
前記ヒドロゲルはコラーゲンを含むことを特徴とする請求項3に記載の人工臓器。
【請求項5】
前記複数の第2の生体細胞は、肝細胞又は胆管細胞を含むことを特徴とする請求項1に記載の人工臓器。
【請求項6】
前記複数の第1の生体細胞は内皮細胞を含むことを特徴とする請求項1に記載の人工臓器。
【請求項7】
前記複数の血管チューブのそれぞれの血管チューブの直径は、前記複数の非血管チューブのそれぞれの非血管チューブの直径とは異なることを特徴とする請求項1に記載の人工臓器。
【請求項8】
前記バリアは、半透過性メンブレンを含むことを特徴とする請求項1に記載の人工臓器。
【請求項9】
前記チューブ状構造は、第1の方向に
血流を供給し、第2の方向に
胆汁流を供給するように構成されることを特徴とする請求項1に記載の人工臓器。
【請求項10】
前記第1の方向は、前記第2の方向とは反対であることを特徴とする請求項9に記載の人工臓器。
【請求項11】
前記特徴的な幅は、前記複数の第1の生体細胞及び前記複数の第2の生体細胞のそれぞれの細胞の最小寸法よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の人工臓器。
【請求項12】
前記複数の第1の生体細胞及び前記複数の第2の生体細胞は、哺乳類細胞を含むことを特徴とする請求項1に記載の人工臓器。
【請求項13】
前記哺乳類細胞は、ヒト細胞であることを特徴とする請求項12に記載の人工臓器。
【請求項14】
前記複数の第1の生体細胞及び前記複数の第2の生体細胞は、臓器幹細胞を含むことを特徴とする請求項1に記載の人工臓器。
【請求項15】
前記複数の第1の生体細胞又は前記複数の第2の生体細胞は、肝臓細胞又は肺細胞であることを特徴とする請求項14に記載の人工臓器。
【請求項16】
前記人工臓器は人工肝臓であり、
前記複数の血管チューブのそれぞれの血管チューブの直径は、約20ミクロン(μm)から約1センチメートル(cm)であり、
前記複数の非血管チューブのそれぞれの非血管チューブの直径は、約50ミクロン(μm)から約3センチメートル(cm)であることを特徴とする請求項1に記載の人工臓器。
【請求項17】
前記バリアの前記特徴的な幅は、約2ミクロン(μm)から約8ミクロン(μm)であることを特徴とする請求項1に記載の人工臓器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2015年8月14日付で出願された「生体組織におけるコミュニケーショ
ンを提供する生体模倣構造を用いるためのシステムと方法」と題する米国仮出願第62/
205,214号の優先権を主張し、この出願全体は、引用によりここに組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
臓器移植は臓器疾患の末期の患者のための実行可能な治療である。しかし、米国におい
ても世界的にも、患者の数は臓器提供者の数より多い。肝臓、肺、及び心臓の移植を待つ
患者は、長い移植待ち時間のために、しばしば臓器を受け取り損なう。臓器不足の解決策
として、培養(tissue engineered)臓器が臓器を支援又は置き換えるためにさえ用いら
れる。
【0003】
例えば肝臓や腎臓のような培養された固体の生命維持に不可欠な臓器の開発は、一般的
に2つの主要コンポーネントに依存しており、実質細胞と、酸素と栄養素を実質細胞に供
給するための血管網である。血管から組織を通って酸素や栄養素が拡散する距離は非常に
短い(例えば、数百ミクロン)。例えば肝細胞のような細胞が3次元骨格(scaffold)に
成長し、毛細血管床近傍の身体に置かれた場合、血管に近いところの細胞のみが生き残る
。時間と共に、新たな血管が移植された細胞内に成長するかもしれないが、しかし、既存
の血管から離れた多くの細胞は、即時の血液供給がなければ死んでしまう。
【0004】
このような細胞を成長させるための現在の設計は、培養固体臓器のための骨格の中心部
として血管網を提供する。血管網は、骨格に載置された別の細胞へ酸素や栄養素を供給し
て、臓器にその機能を与える(例えば培養肝臓の肝細胞)血液供給源の働きをする。この
アプローチは、特定の臓器のために本来の血液循環に合流する入口血管から実質細胞に分
散させる最小の欠陥までの血管網の設計を可能にする。この培養臓器は実質細胞の近傍に
すでに適切に設けられた血管と共に移植される。これは、例えば肝臓、肺、心臓、腎臓、
又は他の臓器のような厚さのある固体臓器の生成と移植を可能にする。
【0005】
身体では、臓器に供給する血管は一般的に単一の血管(一般的に動脈)として臓器に入
り、次に直径を小さく表面積を非常に大きくするようなパターンで毛細血管として知られ
る最小血管を形成するまでに分岐する。毛細血管は臓器の細胞に酸素と栄養素を供給し、
老廃物を除去する。毛細血管から、血管は類似の分岐パターンで合体してしばしば単一の
血管(一般的に静脈)として臓器から出る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような生理学的血管系ネットワークを有する培養臓器のために、移植後の持続的臓
器機能を提供することが、技術的に必要である。従って、自然臓器と類似の構造を有し、
故障することなく十分な期間だけ類似の性能を発揮できる培養臓器を提供するためのシス
テムと方法の提供が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、体内又は対外で臓器を置き換え、臓器を支援し、一時的に臓器を置き換え、
及びヒト細胞に働く薬の効能と安全性の確認のために用いられる培養臓器を提供するため
のシステムと方法を提供することによって上述の欠点を解消する。ここに記載の本技術(
subject technology)は、理論、概念、設計、製造、試験、及び生体模倣血管ネットワー
クの応用を含む。これらの血管ネットワークは、臓器や他の哺乳類の組織のような培養構
造を生成するための骨格の中心部分としての用途を有する。この技術には追加の用途、例
えば新薬の発見、開発、及び/又は評価(例えば毒性、安全性及び/又は効能)のための
ツール又はプラットフォームとしての用途や、体内又は体外研究と試験のためのプラット
フォームとしての用途が存在する。
【0008】
より具体的には、本開示は臓器組織細胞を血管系と連通させるチューブ状構造を備えた
システムを提供して、新しい細胞が栄養を受け取り、通常他のシステムと連通して、より
大きな範囲でより持続した成長をサポートできるようにした。
【0009】
1つの構成では、再生医療のための骨格が提供される。この骨格は、血管チューブの直
径を定め、血管系種細胞を受け取るように構成された血管チューブと、非血管チューブの
直径を定め、臓器系種細胞を受け取るように構成された非血管チューブと、血管チューブ
と非血管チューブの間に形成された開口部と、を備え、開口部の寸法は、拡散が生じるが
、播種された細胞(seeded cells)は血管チューブと非血管チューブとの間での移動が阻
止される寸法である。
【0010】
別の構成では、血管系種細胞を受け取るように構成された血管チューブと、臓器系種細
胞を受け取るように構成された臓器組織チューブと、を備えたチューブ状構造の装着方法
が提供される。この方法は、第一方向へ前記血管チューブを通してヒドロゲルを流し、前
記第一方向と反対の第二方向へ前記臓器組織チューブを通してヒドロゲルを流し、キレー
ト剤を導入し、前記血管チューブと前記臓器組織チューブを通る流れを維持しながら、前
記血管チューブと前記臓器組織チューブとの間にバリアを形成し、前記バリアを無傷のま
ま維持しながら、前記血管チューブと前記臓器組織チューブとからヒドロゲルをフラッシ
ングし、前記血管チューブに血管系細胞を種まきし、前記臓器組織チューブに臓器組織細
胞を種まきする、ことを備える。
【0011】
別の構成では、血管系種細胞を受け取るように構成された血管チューブと、臓器系種細
胞を受け取るように構成された臓器組織チューブと、を備えたチューブ状構造の別の装着
方法が提供される。この方法は、前記臓器組織チューブをヒドロゲルで満たし、約37℃
で前記チューブ状構造を維持し、前記血管チューブに血管系細胞を種まきし、約37℃以
下に前記チューブ状構造を冷却し、前記血管チューブと前記臓器組織チューブとの界面に
バリアを形成しながら、前記臓器組織チューブから前記ヒドロゲルを排出し、前記臓器組
織チューブに臓器組織細胞を種まきする、ことを備える。
【0012】
本発明のこれら及び他の特徴や長所は、図面と併せて以下の詳細な説明を読めば明らか
になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の第一の態様に係るチューブ状構造の模式図である。
【
図4a】本開示の別の態様に係るチューブ状構造の断面図である。
【
図4b】本開示の別の態様に係るチューブ状構造の断面図である。
【
図4c】本開示の別の態様に係るチューブ状構造の断面図である。
【
図4d】本開示の別の態様に係るチューブ状構造の断面図である。
【
図5】生体細胞を装着した
図4aのチューブ状構造の透視図である。
【
図6】本開示の別の態様に係るチューブ状構造の断面図である。
【
図7】本開示の別の態様に係るチューブ状構造の透視図である。
【
図8】本開示の別の態様に係るチューブ状構造の透視図である。
【
図9】本開示の別の態様に係るチューブ状構造の透視図である。
【
図10】3Dプリンタを用いて製作したチューブの模式図である。
【
図11】3Dプリンタを用いて製作した、チューブのための包囲型(investment mold)の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、培養血管ネットワークと人工固体臓器に関連した多くの先行技術の課題を解
決するシステムと方法を提供する。ここに開示した技術の長所や他の特徴は、本発明の代
表的な実施例を説明し類似の構造要素には同様の参照符号を付した図面と併せて、以下の
特定の実施例の詳細な説明から、当業者には容易に明らかになるであろう。
【0015】
本技術は記載の実施例で説明された特定の構成や方法に限定することを意図したもので
はなく、当業者が本開示を解釈した後に、含まれる概念を、変形例を用いて拡張できるこ
とを理解すべきである。ここに記載のものと類似又は等価なすべての方法や材料は本技術
の実践において有用であるが、幾つかの組成物、薄膜、方法、及び材料は以下に説明する
。例えば上、下、左、右、などのここに記載の相対的な説明はすべて、図面を参照してお
り、限定的な意味を持たない。
【0016】
十分に実行される最適な血管ネットワーク設計の生成プロセスは、体の血管の基礎構造
から特定して学習することによって促進される。動脈、毛細血管、及び静脈の血管ネット
ワークは複雑である。しかし、基本的な構造原理を現在利用可能な製造プロセスの制限内
で利用可能である。本技術に利用され、ここに記載の生体模倣血管ネットワークの設計に
組み込まれてきた幾つかの血管の基本原理が存在する。概念と結果として生じた設計も、
コンピュータによる流体力学的解析(CFD)を用いて有利に改良された。この目的で、201
3年11月26日に発行された米国特許第8,591,597号明細書の全体を、参照するこ
とで本明細書に組み入れる。
【0017】
図1に、大チューブ部18から分岐構造を経由して毛細血管部22へ続く肝臓構造を提
供する培養チューブ状構造14を示す。上記の例のように、培養チューブ状構造14は血
管チューブ26と非血管チューブ30と、それらの間にバリア34とを備えている。血管
チューブ26と非血管チューブ30との間の近接関係は、大チューブ部18から分岐構造
を経由して毛細血管部22まで維持されている。血管チューブ26と非血管チューブ30
は生体細胞を装着し、寸法に関わらずすべてのチューブには付随する血管チューブ26に
よって栄養分が供給されている。隣接する血管チューブ26と非血管チューブ30との間
に設けられたバリア34は、骨格内での細胞のドリフトや移動を阻止しながら、酸素と栄
養分の通過を許している。
図4ないし9に関連して以下に説明する配置は、様々な骨格/
構造がどのように利用されて、血管系と胆汁系の間での実用的栄養とコミュニケーション
を提供しているかを示す。
【0018】
図2に肝臓24内に設けられた数百万のチューブ状構造を示す。培養チューブ構造14
は機能する肝臓38の構造を模倣することを目的としている。
図3にチューブ状相又は細
管状相を形成する多数の肝臓組織細胞を示す。
【0019】
図4aに血管チューブ46と、非血管チューブ50又はこの例では臓器組織チューブと
を備えたチューブ構造42、を示す。ここに示す非限定的な例によれば、非血管チューブ
50は臓器組織チューブと称され、この場合、肝臓培養の非限定的な例として、胆管チュ
ーブ(biliary tube)又は胆汁チューブ(bile tube)50と称される。血管チューブ4
6はバリア54によって胆汁チューブ50から分離され、バリア54は肝臓38内のディ
ッセ腔(Space of Disse)と同様に機能する。
図4aに示すバリア54は血管チューブ4
6と胆汁チューブ50の間に形成された開放空間であって、個々の血管又は非血管細胞よ
り小さく、以下により詳細に説明するように、所望のチューブ46,50内に播種された
細胞(seeded cells)が維持される。
【0020】
図示の血管チューブ46は毛細血管部22の一部であって、直径が約20μmである。
血管チューブ46は大チューブ部18の上流で直径が最大約1cmになる。
【0021】
図示の胆汁チューブ50は毛細血管部22の一部であって、直径が約50μmである。
胆汁チューブ50は大チューブ部において直径が最大約3cmになる。
【0022】
図4aに、約2μm幅の空間(例えば、隙間、裂け目、間隙、溝、経路、開口など)の
形のバリア54を示す。バリア54は、異なる寸法を取ることができる。例えば、
図4b
に約4μm幅の空間の形のバリア54bを示す。
図4cに示すバリア54cは6μm幅の
空間である。
図4dに示すバリア54dは8μm幅の空間である。バリア54は例示的で
あって、当業者は本開示を成功裏に実施するために他の寸法が利用できることを認めるで
あろう。例えば、著しく大きなバリア、即ちより幅の広いバリアは、血管チューブ46と
非血管チューブ50の間の質量移動を制限することを意図したメンブレン又は他の物理的
構造を備えたバリアを配置するために利用される。
【0023】
図5に、第一方向A(紙面奥方向)に血流を供給する血管系細胞58と、第二方向B(
紙面手前方向)に胆汁流を供給する胆管系細胞62とを装着したチューブ状構造42を示
す。1つの構成では、
図5に示すチューブ状構造42は、へーリング管(Canal of Herin
g)の下流にある毛細胆管部又は集合胆管部(bile ductule portion)を置き換えるか又
は支援するために利用される。
【0024】
バリア54は、血管系と非血管系の間のコミュニケーションを提供する一方で、血管チ
ューブ46の非血管チューブ又は胆汁チューブ50からの空間的な分離を維持するように
設計されている。換言すれば、バリア54は、
図4a~4dに示すような空間、又は、非
限定的な例として、ディッセ腔に基づいて有利に生体模倣的に設計された特徴を有する半
透過性メンブレンである。半透過性又は一時的メンブレンを備えたバリアは、
図7~9に
関連して以下に説明する。細孔又は穴の寸法は様々であるが、バリア54を横断して拡散
したガス及び/又は老廃物の交換が生じる寸法である。
【0025】
血管チューブ46と非血管チューブ50さえ越えた様々なチューブ状構造が、再生医療
(tissue engineering)のための総合体系又はプラットフォームを生成するために利用さ
れる。例えば、
図6に、この非限定的な例では肝臓38の分岐構造の一部を形成するため
に用いられる追加のチューブ状構造66を示す。この追加のチューブ状構造66は、より
大きな胆管チューブ74を囲み育む(surround and nurture)複数の毛細血管タイプの血
管チューブ70を備えている。複数のバリア78が各血管チューブ70と胆管チューブ7
4の間に設けられている。図示の構成では、10個の血管チューブ70が中央の胆管チュ
ーブ74の周囲で利用されている。別の構成では、10以上又は10以下の血管チューブ
70が含まれ、胆管チューブ74との異なる関係を形成する。再び
図6を参照して、チュ
ーブ状構造66は血管系細胞58と胆管系細胞62を装着している。
【0026】
以下で説明する
図7ないし9は、細胞をチューブに装填し、細胞を充填する間に細胞集
団をバラバラに維持するための例示的なチューブ状構造及びシステムを対象にする。具体
的には、
図7に、血管チューブ86、胆管チューブ90、及び血管チューブ86と胆管チ
ューブ90の間に設けられたバリア94を備えたチューブ状構造82を示す。バリア94
は、ヒドロゲルを血管チューブ86を通して第一の方向Cに流し、そしてヒドロゲルを胆
管チューブ80を通して第二方向Dへ逆流させて形成する。次にキレート剤を導入して、
ヒドロゲルから血管チューブ86と胆管チューブ90の間の界面にバリア94を形成する
一方で、各チューブ内の流れを継続させる。ひとたびバリア94が形成されると、血管系
細胞58と胆管系細胞62が播種される(seeded)。
【0027】
図8と
図9に、血管チューブ102、胆管チューブ106、及びバリア110を備えた
チューブ状構造98を示す。バリア110は、最初に胆管チューブ106をコラーゲンか
ら成る一般的に固体のヒドロゲルを例えば37℃で充填する。次に血管チューブ102に
血管系細胞58を播種する。ひとたび血管系細胞58が付着すると、チューブ状構造98
は次に37℃以下に冷却されて、コラーゲンから成るヒドロゲルを液化する。次に
図9の
矢印Eに示すように、コラーゲンから成るヒドロゲルを胆管チューブ106から取り除く
又は洗い流し、胆管系細胞62を播種する。
【0028】
物理的なバリア(例えば
図7ないし9に示したもの)を備えた上述の構成では、ヒドロ
ゲル又は他の材料は、播種時にのみ適所に載置される一時的な構造であって、生体細胞が
定着すると取り除かれるか、又は要望に応じて播種後も適所に留まる。
【0029】
例えばペグやガリウム金属を含む他のヒドロゲルも用いることができる。集合細胞の幾
つかは、幹細胞源、特にiPs細胞由来である。1つの構成では、血管系細胞58は内皮
細胞であって、胆管系細胞62は肝細胞又は胆汁細胞(biliocytes)である。
【0030】
上述の特定のチューブ状構造は、血管チューブと非血管チューブとの間にバリア幅が変
化するバリアを設けている。加えて、バリアは空間的に胆管細胞と血管細胞を分離する寸
法の単純な開放空間を備えている。血管チューブと非血管チューブとは、所望のコミュニ
ケーションを互いの間に提供するような界面幅又はバリア幅を設けるように、互いに対し
て配置される。コミュニケーションの程度は、バリア幅の寸法に比例する。上述のシステ
ムと方法は、チューブの全直径にわたる幅(即ち、血管チューブ直径又は非血管チューブ
直径と等しいバリア幅)から、ゼロ(所望の部分において血管チューブと胆管チューブの
間のコミュニケーションを効果的に遮断する)までの間の幅を有するバリアを提供するよ
うに変形できる。幾つかの構成では、血管チューブ直径と非血管チューブ直径とは異なる
。
【0031】
1つの実施例では、上述のチューブ状構造は3次元印刷を用いて組み立てられる。例え
ば、堆積3次元印刷(deposition 3D printing)を所望の構造及び分岐システムにおいて
中空チューブを形成するために利用できる。3次元印刷は、立体模型又はプログラムされ
た幾何形状に基づいて、材料の層を印刷ヘッドによって堆積させる積層造形プロセス(ad
ditive manufacturing process)である。3次元印刷技術は急速に発展しており、様々な
用途に適した材料から正確で精密な幾何形状を備えた非常に小さなパーツを生成するため
の工法を提供する。今回の場合には、チューブ状構造は、再生医療骨格材料として良好で
あると工業的に確認された適切な材料から形成される。
図10に、積層(additive layer
)114が印刷されて非常に小さい寸法でチューブ118が形成される方法を示す。
図1
0に示すように、非常に小さい寸法では、製造公差は最終製品上に著しい影響を有する(
例えばチューブ118)。このような製造プロセスにおける不一致は、チューブ118が
より小さくなるにつれてより明確(pronounced)になる(例えば
図1に示す分岐培養チュ
ーブ状構造14の毛細血管部分)。
図10に示す影響はジッター(jitter)と称され、完
全に滑らかでは無いチューブ内部を形成する。3次元印刷プロセスを導入することの問題
、即ちジッターは、この用途において壊滅的なリスクを提供しない。なぜなら血管及び臓
器組織内の荒れた側壁は望ましくなくはないからである。
【0032】
図11に、上述のチューブ状構造を組み立てる為に3次元印刷を利用する代替的な方法
を示す。層122が堆積され、成形管(tube mold)126の内側形状を画定している。
層122は溶融に適した材料で構成され、包囲成形(investment mold)に用いられる。
所望の実際のチューブ状構造を形成するために、成形管126は型穴(図示せず)に収容
され、チューブ状構造のための所望の材料が成形管126の周りに流されてセットされる
。チューブ状構造セットでは、成形管126が溶融除去され、最終の利用可能なチューブ
状構造が残る。再び繰り返すと、3次元印刷プロセスによってもたらされる公差は上述の
開示のニーズと要件に合致している。
【0033】
チューブに加えて、3次元印刷は血管チューブと非血管チューブとの間のバリアを形成
するために用いることができる。例えば、一時的なヒドロゲルバリアを適所に印刷するこ
とによって、プリンタからストレートに種骨格(seed scaffold)の準備ができる。
【0034】
このように、上述のシステムと方法は臓器組織の欠陥を置き換えるか又は支援する為に
用いることのできるより大きな培養サンプルを提供するために用いられる構造例を提供す
る。上記構成は、肝臓細胞及び胆管細胞に関連して説明してきた。しかし、同様のコンセ
プトは、肺などを含む他の臓器組織のための良好な構造を提供するために適合できる。加
えて、血管骨格部分(compartment)と非血管骨格部分との間の相互コミュニケーション
というコンセプトは、臓器組織用途を越えた利用ができる。例えば、顔面移植は、互いに
選択的に相互接続され1つ以上の相互接続された血管部分に支持される複数の非血管部分
を備えた骨格構造から恩恵を受けることができるであろう。例えば、チューブ状又は非チ
ューブ状構成における非血管部分又は構造は、骨部分、軟骨部分、筋肉部分、神経部分、
軟組織部分、皮膚部分、などの組み合わせを備えることができるであろう。これらの部分
はその間にバリアを設けて、所望の量と種類のコミュニケーションを可能にする。1つ以
上の血管部分は非血管部分と栄養分の交換を提供するように設けられて、ひとたび確立し
た生体細胞の成長と健康をサポートすることができるであろう。
【0035】
このような複雑な培養構造は、患者のCTスキャンに基づいて3次元プリンタを用いて
組み立てられ、患者の自然な構造に合致させることができる。印刷された骨格は、次に適
切に合図された(signaled)幹細胞で播種される。適切な幾何形状と組み立てによって、
すべての重要臓器(vital organs)と複合組織をこのように作り上げることができる。
【0036】
本発明は1つ以上の実施例の観点から説明されてきたが、これらの明示的に述べられた
ものは別にして、多くの等価物、代替物、変形物、変更物が本発明の範囲内で可能である
ことは評価されるべきであろう。