(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】可食性フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20240617BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20240617BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240617BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240617BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240617BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240617BHJP
A61J 7/00 20060101ALI20240617BHJP
A61J 3/07 20060101ALI20240617BHJP
A23L 29/288 20160101ALI20240617BHJP
【FI】
A23L5/00 B
A61K9/70
A61K47/38
A61K47/32
A61K47/26
A61K47/34
A61J7/00 L
A61J7/00 C
A61J3/07 B
A23L29/288
(21)【出願番号】P 2022119027
(22)【出願日】2022-07-26
【審査請求日】2023-08-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(72)【発明者】
【氏名】智山 大煥
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-265217(JP,A)
【文献】特開2019-156721(JP,A)
【文献】国際公開第2017/135195(WO,A1)
【文献】特開2012-121873(JP,A)
【文献】特表2017-520535(JP,A)
【文献】特開2021-054738(JP,A)
【文献】特開平10-215792(JP,A)
【文献】特表2008-538782(JP,A)
【文献】特開2000-116339(JP,A)
【文献】国際公開第2008/149440(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/176981(WO,A1)
【文献】大正製薬株式会社,「ルセフィ(R) ODフィルム2.5mg」の添付文書,第1版,2022年02月
【文献】株式会社ディーフィット,株式会社ディーフィット, プレスリリース配信サービスPR TIMESで発表されたプレスリリース「1日1枚、お出かけ前に! UV対策 8時間持続 まかないこすめ「お出かけ前になめる UV対策サプリ」 2019年4月5日(金)新発売」, 2019.03.11, [オンライン], [検索日 2023.06.21], インターネット: <URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000143.000010257.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,A61J,A61K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
成分とを
備え、
前記基材は、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド又はポリビニルピロリドンのいずれかを含み、
前記成分は
、微結晶セルロース
とマルチトールとを含み、
前記微結晶セルロースの含有量は5~50重量%であ
り、
前記微結晶セルロースが均一に分散した、可食性フィルム。
【請求項2】
前記基材は、ポリビニルアルコールであり、
前記微結晶セルロースの含有量と前記マルチトールの含有量との比である、微結晶セルロース/マルチトールが0.5~3.3である、請求項
1に記載の可食性フィルム。
【請求項3】
前記基材は、ポリエチレンオキシドであり、
前記微結晶セルロースの含有量と前記マルチトールの含有量との比である、微結晶セルロース/マルチトールが0.5~7.5である、請求項
1に記載の可食性フィルム。
【請求項4】
前記基材は、ポリビニルピロリドンであり、
前記微結晶セルロースの含有量と前記マルチトールの含有量との比である、微結晶セルロース/マルチトールが0.67~7.5である、請求項
1に記載の可食性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、可食性フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フィルム状の製剤やフィルム状の菓子といった、可食性フィルムがある。例えば、特許文献1には、口腔内溶解性の基材に、薬剤や添加剤などを含有させた可食性フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の可食性フィルムは、コーティング法によって製造されている。コーティング法では、可食性の基材と成分を液体に溶解させ、その溶液をキャリアフィルム上に薄くコーティングさせた後に乾燥させて、可食性フィルムを製造する。
しかしながら、可食性フィルムをコーティング法によって製造する際、用いる溶液の粘度が高い場合には、溶液が流動しにくく、ムラなくコーティングすることが困難となる場合がある。
又、溶液の粘度が低い場合には、乾燥工程で対流(ベナール対流)が発生し、可食性フィルムに含まれる成分が均一に分布しない場合がある。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、コーティング法によって製造しやすい、又、成分が均一に分布した可食性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、基材と成分とを含み、成分は微結晶セルロースであり、微結晶セルロースの含有量は5~50重量%である、可食性フィルムである。
【0007】
このように構成すると、可食性フィルムを製造する際に、コーティングする溶液が剪断されるコーティング中では、溶液の粘度が低くなり、流動しやすくなる。そのため、コーティングしやすい可食性フィルムとなる。
又、溶液が剪断されないコーティング後では、溶液の粘度が高くなり、流動しにくくなる。そのため、乾燥工程で対流が抑制され、可食性フィルムに含まれる成分を均一に分布させることができる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、成分は、マルチトールを更に含む可食性フィルムである。
【0009】
このように構成すると、微結晶セルロースが凝集しにくくなり、可食性フィルムに含まれる成分の偏在を抑制することができる。
【0010】
第3の発明は、第2の発明において、基材は、ポリビニルアルコールであり、微結晶セルロースの含有量とマルチトールの含有量との比である、微結晶セルロース/マルチトールが0.5~3.3である、可食性フィルムである。
【0011】
基材にポリビニルアルコールを用いた場合に、微結晶セルロースがより凝集しにくくなり、より効果的に、可食性フィルムに含まれる成分の偏在を抑制することができる。
【0012】
第4の発明は、第2の発明において、基材は、ポリエチレンオキシドであり、微結晶セルロースの含有量とマルチトールの含有量との比である、微結晶セルロース/マルチトールが0.5~7.5である、可食性フィルムである。
【0013】
このように構成すると、基材にポリエチレンオキシドを用いた場合に、微結晶セルロースがより凝集しにくくなり、より効果的に、可食性フィルムに含まれる成分の偏在を抑制することができる。
【0014】
第5の発明は、第2の発明において、基材は、ポリビニルピロリドンであり、微結晶セルロースの含有量とマルチトールの含有量との比である、微結晶セルロース/マルチトールが0.67~7.5である、可食性フィルムである。
【0015】
このように構成すると、基材にポリビニルピロリドンを用いた場合に、微結晶セルロースがより凝集しにくくなり、より効果的に、可食性フィルムに含まれる成分の偏在を抑制することができる。
【0016】
第6の発明は、基材と成分とを含有する溶液を乾燥させた可食性フィルムであって、成分は、微結晶セルロースを含み、温度25℃におけるゼロ剪断粘度η0と、温度25℃かつ剪断速度が100/sの条件で測定した溶液の粘度η100の比である、η0/η100が1.5~10である、可食性フィルムである。
【0017】
第7の発明は、基材と成分とを含み、温度25℃におけるゼロ剪断粘度η0と、温度25℃かつ剪断速度が100/sの条件で測定した粘度η100の比である、η0/η100が1.5~10である溶液を準備する工程と、溶液をキャリアフィルムの上にコーティングする工程と、コーティングされた溶液を乾燥する工程と、乾燥された溶液を個片に切り分ける工程とを備えた、可食性フィルムの製造方法である。
【0018】
第6の発明及び第7の発明のように構成すると、可食性フィルムを製造する際に、コーティングする溶液が剪断されるコーティング中では、溶液の粘度が低くなり、流動しやすくなる。そのため、コーティングしやすい可食性フィルムとなる。
又、溶液が剪断されないコーティング後では、溶液の粘度が高くなり、流動しにくくなる。そのため、乾燥工程で対流が抑制され、可食性フィルムに含まれる成分を均一に分布させることができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、コーティング法によって製造しやすい、又、成分が均一に分布した可食性フィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】この発明の実施形態に係る可食性フィルムの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】コーティング装置の一例を示す概略断面図である。
【
図4】可食性フィルムを個片にする工程を説明する概略平面図である。
【
図5】基材にポリビニルアルコールを用いた溶液について測定した、剪断速度と粘度の関係を示すグラフである。
【
図6】基材にポリエチレンオキシドを用いた溶液について測定した、剪断速度と粘度の関係を示すグラフである。
【
図7】基材にポリビニルピロリドンを用いた溶液について測定した、剪断速度と粘度の関係を示すグラフである。
【
図8】その(a)は、基材にポリビニルアルコールを用い、成分にマルチトールを含まない可食性フィルムの顕微鏡写真である。その(b)は、基材にポリビニルアルコールを用い、成分にマルチトールを含む可食性フィルムの顕微鏡写真である。
【
図9】その(a)は、基材にポリエチレンオキシドを用い、成分にマルチトールを含まない可食性フィルムの顕微鏡写真である。その(b)は、基材にポリエチレンオキシドを用い、成分にマルチトールを含む可食性フィルムの顕微鏡写真である。
【
図10】その(a)は、基材にポリビニルピロリドンを用い、成分にマルチトールを含まない可食性フィルムの顕微鏡写真である。その(b)は、基材にポリビニルピロリドンを用い、成分にマルチトールを含む可食性フィルムの顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、発明の実施の形態について図を参照しながら説明する。
【0022】
この発明の実施形態に係る可食性フィルム10は、例えば、平面視矩形形状であり、厚みが10~300μm、より好ましくは、30~200μmの薄いフィルム形状である。可食性フィルム10は、主に基材と基材に配合される成分によって形成される。又、可食性フィルム10には、口腔内で溶解又は崩壊して成分を放出するもの、飲み込んだ後に、胃や腸で消化されて成分が吸収されるものがある。
基材に配合される成分は、主に微結晶セルロースとマルチトールが挙げられる。これらに加え、成分として、目的に応じて種々の材料を可食性フィルム10に含有することができる。例えば、可食性フィルム10に薬剤としての機能を発揮させるための薬効成分、可食性フィルム10に味をつけるための呈味成分、可食性フィルム10に色をつけるための色素成分、可食性フィルム10に栄養を付与するための栄養成分(サプリメントを含む)、可食性フィルム10に香りを付与する香気成分、可食性フィルム10の物性を調節する添加剤がある。
添加剤は、例えば、結合剤、賦形剤、崩壊剤、矯味剤、湿潤剤、着色剤、乳化剤がある。
【0023】
基材は、可食性フィルム10を形成するための主要な材料である。
基材には、例えば、可食性の有機化合物又は可食性の無機化合物を用いることができる。可食性の有機化合物には、例えば、可食性の炭水化物、可食性のタンパク質、可食性の脂肪がある。可食性の炭水化物には、例えば、可食性の二糖類、可食性の多糖類、可食性の糖アルコール、可食性の食物繊維がある。可食性の多糖類には、例えば、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルファー化デンプン、カラギーナン、カンテン、キサンタンガム、バレイショデンプン、セルロース、プルランがある。可食性の食物繊維には、ペクチン、セルロースがある。可食性の二糖類には、例えば、精製白糖がある。可食性の糖アルコールには、例えば、ソルビトールがある。可食性のタンパク質には、ゼラチンがある。炭水化物・タンパク質・脂肪以外の可食性の有機化合物には、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリビニルピロリドン(PVP(ポピドン))、マクロゴール(ポリエチレングリコール)がある。また、それらの可食性の誘導体には、例えば、糖質の誘導体、セルロース誘導体、ポリビニルアルコールの誘導体、ソルビトールの誘導体がある。糖質の誘導体には、例えば、ショ糖脂肪酸エステルがある。セルロース誘導体としては、エチルセルロース、カルメロース(CMC)、カルメロースナトリウム、ヒプロメロース(HPMC)がある。ソルビトールの誘導体には、ソルビタン、ソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート)がある。上記の中で、特に、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドンを用いることが好ましい。基材としてポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドンを用いると強靭かつ柔軟性のある可食性フィルムとなる。
【0024】
微結晶セルロースは、可食性フィルム10の原料となる溶液32のチキソ性を向上させるために用いる。チキソ性とは、溶液32が剪断された場合に、溶液32の粘度が低くなり、溶液32が剪断されない場合に、溶液32の粘度が高くなる性質である。溶液32が良好なチキソ性を有すると、溶液32をコーティングする際には、溶液32が剪断されて粘度が低くなり、溶液32が流動しやすくなる。そのため、溶液32をコーティングしやすい。一方、溶液32をコーティングした後は、溶液32が剪断されず、溶液32の粘度は高くなり、溶液32が流動しにくくなる。そのため、特に溶液32の乾燥工程で、対流(ベナール対流)が抑制され、成分が不均一になることを抑制できる。
微結晶性セルロースの含有量は、多いほどチキソ性が向上するが、微結晶セルロース以外の成分を多く含有する必要がある場合に、微結晶セルロースの含有量は多すぎない方が良い。例えば、5~50重量%であることが好ましく、7.5~45重量%がより好ましく、10~40重量%が更に好ましい。微結晶セルロースの含有量が5重量%以上、7.5重量%以上、更には10重量%以上であれば、可食性フィルム10に良好なチキソ性を与えることができる。微結晶セルロースの含有量が50重量%以下、45重量%以下、更には40重量%以下であれば、微結晶セルロースの含有量が多くなりすぎず、その他の成分を十分に含有させることができる。ここで、微結晶セルロースの含有量とは、溶液32を乾燥させた固体状態の可食性フィルム10に対する、微結晶セルロースの含有量をいう。
【0025】
マルチトールは、微結晶セルロースの凝集を抑制するために、必要に応じて用いることができる。微結晶セルロースの凝集が少ない、又は、凝集自体が問題とならない場合には、マルチトールを用いなくても良い。微結晶セルロースは、溶液32の乾燥工程での対流を緩和して、対流による成分の不均一化を抑制する一方で、可食性フィルム10内の微結晶セルロース自体が凝集して、微結晶セルロースを含む成分が偏在してしまう場合がある。しかしながら、マルチトールを基材に配合すると、微結晶セルロースが凝集することを抑制できる。
マルチトールの含有量は、微結晶セルロースの含有量に対する比率が大きく影響するが、例えば、1~35重量%であることが好ましく、2~25重量%がより好ましく、3~15重量%が更に好ましい。マルチトールの含有量が1重量%以上、2重量%以上、更には3重量%以上であれば、微結晶セルロースに対するマルチトールの比率が高くなりやすく、微結晶セルロースの凝集抑制効果が期待できる。マルチトールの含有量が35重量%以下、25重量%以下、更には15重量%以下であれば、溶液32の乾燥速度の低下や可食性フィルム10のべたつきを抑制できる。ここで、マルチトールの含有量とは、溶液32を乾燥させた固体状態の可食性フィルム10に対する、マルチトールの含有量をいう。
【0026】
結合剤は、可食性フィルム10の強度を高めるものである。結合剤の材料は、例えば、アミロペクチン、アルギン酸ナトリウム、アルファー化デンプン、カルメロース、カルメロースナトリウム、カンテン、グリセリン、結晶セルロース、高分子ポリビニルピロリドン、コムギデンプン、コメデンプン、ショ糖脂肪酸エステル、精製ゼラチン、精製セラック、精製白糖、ゼラチン、大豆レシチン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デキストリン、濃グリセリン、結晶セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒプロメロース、プルラン、ペクチン、ポリソルベート、マクロゴール、D-マンニトール、メチルセルロースがある。
【0027】
賦形剤は、可食性フィルム10を取り扱い易い大きさへかさ増しするものである。賦形剤の材料は、例えば、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルファー化デンプン、エチルセルロース、カラギーナン、カルメロース、カルメロースナトリウム、カンテン、グリセリン、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、ケイ酸マグネシウム、結晶セルロース、小麦粉、コムギデンプン、米粉、コメデンプン、酸化チタン、ショ糖脂肪酸エステル、精製白糖、ゼラチン、脱脂粉乳、タルク、デキストラン、デキストリン、バレイショデンプン、ヒプロメロース、プルラン、ペクチン、ポリソルベート、マクロゴール、マルトース、メチルセルロースがある。
【0028】
崩壊剤は、可食性フィルム10に崩壊性を付与するものである。崩壊剤の材料は、例えば、アルギン酸、アルファー化デンプン、カルメロース、カルメロースナトリウム、カンテン、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、結晶セルロース、コムギデンプン、コメデンプン、ショ糖脂肪酸エステル、ゼラチン、デキストリン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポリソルベート、マクロゴール、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、メチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウムがある。
【0029】
矯味剤は、可食性フィルム10の味を調整するものである。矯味剤の材料は、例えば、アスパルテーム、DL-アラニン、エリスリトール、還元麦芽糖水あめ、キシリトール、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物、グリセリン、コハク酸、コハク酸ナトリウム、酢酸、サッカリン、酒石酸、酒石酸ナトリウム、スクラロース、タウマチン、炭酸水素ナトリウム、トウガラシ、トレハロース、白糖、ハチミツ、ポビドン、D-マンニトール、メントールがある。
【0030】
湿潤剤は、可食性フィルム10の乾燥を防ぎ、可食性フィルム10の可撓性を向上させるものである。湿潤剤の材料は、例えば、還元水あめ、グリセリン、ショ糖脂肪酸エステル、D-ソルビトール、プロピレングリコール、ポリソルベート、マクロゴール、メチルセルロースがある。
【0031】
着色剤は、可食性フィルム10に色を付けるものである。着色剤の材料は、例えば、酸化チタン、食用色素、タルクがある。
【0032】
乳化剤には、成分を良好に混合するためのものである。乳化剤の材料は、例えば、ポリソルベート、精製大豆レシチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、ラウリル硫酸ナトリウムがある。
【0033】
次に、この発明の実施形態に係る可食性フィルム10の製造方法の概略について、図を参照しながら説明する。
【0034】
図1を参照して、基材、成分、液体を秤量する(ステップS1)。次に、秤量した基材、成分、液体を脱泡しながら混合して、基材と成分を含有する溶液32を準備する(ステップS2)。次に、溶液32をキャリアフィルム31の上にコーティングする(ステップS3)。次に、コーティングされた溶液32を乾燥する(ステップ4)。次に、キャリアフィルム31とキャリアフィルム31の上の溶液32にスリットを形成する(ステップS5)。次に、キャリアフィルム31の上の溶液32をカットして個片に切り分けることで、可食性フィルム10を得る。最後に、得られた可食性フィルム10を包装する(ステップS6)。
【0035】
次に、
図1で示した各ステップについて、詳細を説明する。
【0036】
(ステップ1)
秤量工程について説明する。
秤量工程では、基材、成分、液体を秤量する。液体には、可食性の液体を用いることができる。例えば、水、可食性のアルコール、可食性のグリコール、グリセリン、食用油脂がある。可食性のアルコールには、例えば、エチルアルコールがある。可食性のグリコールにはプロピレングリコールがある。
【0037】
(ステップ2)
混合・脱泡工程について説明する。
図2を参照して、脱泡機能を備える混練機20のタンク21に、秤量した基材、成分、液体を入れる。その後、ブレード22をタンク21内で回転させて混錬を行い、液体中に、基材と成分を含む溶液32を準備する。ここで、溶液という用語は、液体に基材と成分が溶解した溶液だけでなく、液体に基材と成分が分散した、コロイド溶液や懸濁液を含む。
【0038】
(ステップ3)
コーティング工程について説明する。
図3を参照して、コーティング装置30の液ダム33に溶液32を溜める。その後、キャリアフィルム31を巻出し部34から巻取り部35へ流しながら、キャリアフィルム31上に液ダム33に溜めた溶液32をコーティングする。コーティング装置30では、キャリアフィルム31を支えるコーティングロール36に対する、コーティングヘッド37の高さを変更することで、コーティングする溶液32の厚みを調節できる。コーティングする溶液32の厚みは、10~1000μmが好ましい。厚みが10μm以上であれば、乾燥後の可食性フィルム10が薄くなりすぎず、成分を十分に配合できる厚みとなる。厚みが1000μm以下であれば、溶液32の乾燥中に溶液32の濡れ広がりや凝集を抑制でき、成分が均一な可食性フィルム10となる。又、溶液32の乾燥工程で乾燥に時間がかかりすぎることなく、溶液32の内部まで十分な乾燥ができる。
【0039】
(ステップ4)
乾燥工程について説明する。
図3を参照して、キャリアフィルム31にコーティングされた溶液32は、乾燥部39で、例えば100℃の温風で乾燥される。乾燥された溶液32は、キャリアフィルム31とともに、ガイドロール38上を通って、巻取り部35で巻き取られる。
【0040】
(ステップ5)
スリット工程について説明する。
巻き取られたキャリアフィルム31のロールを図示しないスリッター機によって複数のロールに切り分ける。例えば、ロールtoロールで行うことができる。
図4を参照して、キャリアフィルム31の流れ方向に対して、目的とする可食性フィルム10の大きさでキャリアフィルム31とキャリアフィルム31上にコーティングした溶液32に、スリット40を形成する。幅方向端部42の溶液32は、コーヒーステイン効果によって盛り上がり、目的とする厚みよりも厚くなる場合があるため、可食性フィルム10として用いなくても良い。
【0041】
(ステップ6)
カット・包装工程について説明する。
切り分けられたロールを図示しないカット包装機によって、キャリアフィルム31にコーティングされた溶液32を個片に切り分けることで、可食性フィルム10を得る。例えば、ロールtoロールで行うことができる。
図4を参照して、溶液32のカットは、キャリアフィルム31の幅方向に対してカット41する。その際、キャリアフィルム31はカットせずに、キャリアフィルム31上の溶液32のみをハーフカットする。溶液32を個片にカット41した後、キャリアフィルム31を剥離して可食性フィルム10を得る。得られた可食性フィルム10は、図示しないコンベアへ載せ替えて搬送し、カット包装機で包装する。剥離したキャリアフィルム31は、ロールtoロールのまま巻き取られる。
図4では、隣り合う可食性フィルム10同士が隙間を開けて、配置されているように図示しているが、実際には、隣り合う可食性フィルム10同士に隙間が開かないように、スリット40及びカット41を行うことができる。
【0042】
次に、成分の一つに、微結晶セルロースを用いた場合の作用、効果を説明する。表1を参照して、実施例1~3及び比較例1~6の可食性フィルムを準備する。表1には基材と微結晶セルロースの含有量を記載しているが、その他に少量の添加剤も含有する。添加剤には、マルチトール、アセスルファムカリウム、ラクトースを用い、実施例3及び比較例5~6では、更にコーンスターチを用いた。表1に記載の溶液中の基材、溶液中の微結晶セルロースは、基材と微結晶セルロースを水/エタノール混合溶液に溶解させた状態の、基材又は微結晶セルロースの重量%である。固形分中の基材、固形分中の微結晶セルロースは、溶液を乾燥させて可食性フィルムとなった状態の、基材又は微結晶セルロースの重量%である。粘度η0は、温度25℃におけるゼロ剪断粘度である。粘度η100は、温度25℃かつ剪断速度100/sの条件で測定した溶液の粘度である。実施例1~3は、微結晶セルロースを成分として含み、比較例1~6は、微結晶セルロースを含まない。
【0043】
【0044】
溶液の粘度の測定には、回転式レオメータ(TA Instruments製のAR-G2)を用い、直径40mmのスチールパラレルプレートを使用し、継続ランプ法を用いて剪断速度10~200/sの範囲で温度25℃における粘度を測定した。又、剪断速度10~20/sの領域における粘度データを最小二乗法で直線近似し、剪断速度ゼロへ外挿した値をゼロ剪断粘度η0とした。
【0045】
図5を参照して、基材にポリビニルアルコール(以下、PVAともいう。)を用いた、実施例1、比較例1、比較例2の溶液について測定した、剪断速度と粘度の関係を示す。剪断速度が小さいときに粘度が高く、剪断速度が大きいときに粘度が低くなると良好なチキソ性を有する。チキソ性が良好であれば、溶液をコーティングしやすく、又、コーティングされた溶液の乾燥工程で対流を抑制でき、成分が均一な可食性フィルムとなる。チキソ性の評価は、粘度η
0と粘度η
100の比である、η
0/η
100で評価し、η
0/η
100が大きいほど、チキソ性が良好である。したがって、η
0/η
100が大きくなるために、剪断速度と粘度の関係を示すグラフは、より右肩下がりのグラフとなることが好ましい。η
0/η
100は、1.5~10が好ましく、2~10がより好ましい。
一般的に、溶液中の基材の含有量が多いと、高いチキソ性を有する。しかしながら、溶液中の基材の含有量が多くなるに従い、溶液を乾燥させて得られる可食性フィルムの溶解性や崩壊性が悪くなり、可食性フィルムの成分の放出が遅くなる。そのため、溶液中の基材の含有量を少なくしながら、チキソ性を向上させることが重要である。
実施例1、比較例1、比較例2の溶液中の基材の含有量はそれぞれ、14.5重量%、24.0重量%、18.2重量%であり、実施例1の基材の含有量は、比較例1及び比較例2より少ないにも関わらず、η
0/η
100が2.83と良好なチキソ性を有する。比較例1は、η
0/η
100が3.68と最も良好なチキソ性を有する一方、溶液中の基材の含有量が24.0重量%と、基材の含有量が多いため、可食性フィルムとした場合に溶解性や崩壊性が悪い場合がある。比較例2は、剪断速度と粘度の関係を示すグラフが右肩下がりとはならず、ほとんど水平であり、η
0/η
100が1.48と、チキソ性が良好ではない。
【0046】
図6を参照して、基材にポリエチレンオキシド(以下、PEOともいう。)を用いた、実施例2、比較例3、比較例4の溶液について測定した、剪断速度と粘度の関係を示す。実施例2、比較例3、比較例4の溶液中の基材の含有量はそれぞれ、15.8重量%、26.1重量%、19.1重量%であり、実施例2の基材の含有量は、比較例3及び比較例4より少ないにも関わらず、η
0/η
100が2.48と良好なチキソ性を有し、PEOを最も多く含有する比較例3(η
0/η
100が2.78)とほとんど同程度のチキソ性が得られた。比較例4は、η
0/η
100が1.65であり、良好なチキソ性の範囲内ではあるが、比較例4よりPEOの含有量が少ない実施例2と比較して、チキソ性が大きく下回る結果となっている。
【0047】
図7を参照して、基材にポリビニルピロリドン(以下、PVPともいう。)を用いた、実施例3、比較例5、比較例6の溶液について測定した、剪断速度と粘度の関係を示す。実施例3、比較例5、比較例6の溶液中の基材の含有量はそれぞれ、22.8重量%、37.7重量%、30.7重量%であり、実施例3の基材の含有量は、比較例5及び比較例6より少ないにも関わらず、η
0/η
100が3.00と良好なチキソ性を有する。一方、比較例5及び比較例6は、剪断速度と粘度の関係を表すグラフが右肩下がりとはならず、ほとんど水平であり、η
0/η
100がそれぞれ、1.07、1.06とチキソ性が良好ではない。
【0048】
以上から、成分に微結晶セルロースを用いることで、基材の含有量を少なくしつつ、チキソ性を向上させることができる。微結晶セルロースを含み、η0/η100を1.5~10、より好ましくは、2~10の溶液を準備して可食性フィルムを製造すると、溶液のチキソ性の高さから、溶液のコーティング時にはコーティングしやすく、コーティング後に乾燥させた可食性フィルムは、成分が均一となりやすい。
【0049】
次に、成分の一つにマルチトールを用いた場合の作用、効果を説明する。
図8を参照して、
図8(a)は、基材にPVAを用い、マルチトールを含まない可食性フィルムの顕微鏡写真であり、
図8(b)は、基材にPVAを用い、マルチトールを含む可食性フィルムの顕微鏡写真である。マルチトールを含まない
図8(a)では、成分が凝集し析出している。この凝集析出しているものは、微結晶セルロースである。一方、マルチトールを含む
図8(b)では、成分が凝集せずに、均一となっている。
図9を参照して、
図9(a)は、基材にPEOを用い、マルチトールを含まない可食性フィルムの顕微鏡写真であり、
図9(b)は、基材にPEOを用い、マルチトールを含む可食性フィルムの顕微鏡写真である。
図10を参照して、
図10(a)は、基材にPVPを用い、マルチトールを含まない可食性フィルムの顕微鏡写真であり、
図10(b)は、基材にPVPを用い、マルチトールを含む可食性フィルムの顕微鏡写真である。基材にPEO又はPVPを用いた場合も、基材にPVAを用いた場合と同様に、マルチトールを含まない
図9(a)及び
図10(a)では、成分の凝集析出が見られ、マルチトールを含む
図9(b)及び
図10(b)では、成分が凝集せずに、均一となっている。
以上から、マルチトールには、微結晶セルロースの凝集を抑制する作用があることが分かる。
【0050】
次に、基材の種類ごとのマルチトールの最適な含有量について説明する。マルチトールの含有量は、微結晶セルロースの含有量を基準として、微結晶セルロースの含有量とマルチトールの含有量の比が最適な範囲内となるように、マルチトールの含有量を決定する。ここで、微結晶セルロースの含有量とマルチトールの含有量とは、溶液を乾燥させて固体状態となった可食性フィルムに含まれる、マルチトールの含有量である。
【0051】
表2を参照して、基材にPVAを用い、微結晶セルロースの含有量とマルチトールの含有量との比である、微結晶セルロース/マルチトールを調節した可食性フィルムを準備した(実施例4~実施例7、比較例7~比較例9)。ここで、微結晶セルロースの含有量とマルチトールの含有量は、それぞれ、溶液を乾燥させて固体状態となった可食性フィルムに対する、微結晶セルロースの含有量とマルチトールの含有量である。実施例4~実施例7、比較例7~比較例9について、顕微鏡で成分の凝集の有無を確認した。その結果、微結晶セルロース/マルチトールが0.5~3.3である、実施例4~実施例7では、成分の凝集が見られなかった。一方、微結晶セルロース/マルチトールが0.5~3.3の範囲外である、比較例7~比較例9では、成分の凝集が見られた。
以上から、基材にPVAを用いた場合には、可食性フィルムに含まれる基材(PVA)及び全成分の含有量の合計が100重量%となる範囲で、微結晶セルロース/マルチトールが0.5~3.3を満たすと、成分が凝集しにくく、成分が均一な可食性フィルムとなる。
【0052】
【0053】
表3を参照して、基材にPEOを用い、微結晶セルロースの含有量とマルチトールの含有量との比である、微結晶セルロース/マルチトールを調節した可食性フィルムを準備した(実施例8~実施例11、比較例10~比較例12)。実施例8~実施例11、比較例10~比較例12について、顕微鏡で成分の凝集の有無を確認した。その結果、微結晶セルロース/マルチトールが0.5~7.5である、実施例8~実施例11では、成分の凝集が見られなかった。一方、微結晶セルロース/マルチトールが0.5~7.5の範囲外である、比較例10~比較例12では、成分の凝集が見られた。
以上から、基材にPEOを用いた場合には、可食性フィルムに含まれる基材(PEO)及び全成分の含有量の合計が100重量%となる範囲で、微結晶セルロース/マルチトールが0.5~7.5を満たすと、成分が凝集しにくく、成分が均一な可食性フィルムとなる。
【0054】
【0055】
表4を参照して、基材にPVPを用い、微結晶セルロースの含有量とマルチトールの含有量との比である、微結晶セルロース/マルチトールを調節した可食性フィルムを準備した(実施例12~実施例16、比較例13~比較例14)。実施例12~実施例16、比較例13~比較例14について、顕微鏡で成分の凝集の有無を確認した。その結果、微結晶セルロース/マルチトールが0.67~7.5である、実施例12~実施例16では、成分の凝集が見られなかった。一方、微結晶セルロース/マルチトールが0.67~7.5の範囲外である、比較例13~比較例14では、成分の凝集が見られた。
以上から、基材にPVPを用いた場合には、可食性フィルムに含まれる基材(PVP)及び全成分の含有量の合計が100重量%となる範囲で、微結晶セルロース/マルチトールが0.67~7.5を満たすと、成分が凝集しにくく、成分が均一な可食性フィルムとなる。
【0056】
【0057】
尚、上記の実施形態に係る可食性フィルムの製造方法では、キャリアフィルムとキャリアフィルムにコーティングされた溶液の両方にスリットを形成したが、コーティングされた溶液にスリットを形成してさえいれば良く、キャリアフィルムにスリットを形成せずに、溶液のみにスリットを形成しても良い。
【0058】
又、上記の実施形態に係る可食性フィルムの製造方法では、キャリアフィルムはカットせずに、キャリアフィルムにコーティングされた溶液のみをハーフカットしたが、溶液さえカットされていれば良く、溶液とともに、キャリアフィルムをカットしても良い。この場合、溶液を個片に切り分けて得られる可食性フィルムからキャリアフィルムを剥離せずに、キャリアフィルムとともに可食性フィルムを包装しても良い。
【0059】
更に、上記の実施形態に係る可食性フィルムの製造方法では、スリット工程とカット工程を異なる工程で行ったが、乾燥された溶液を個片に切り分けられれば良く、一つの工程でスリット工程とカット工程を行っても良い。
【符号の説明】
【0060】
10 可食性フィルム
31 キャリアフィルム
32 溶液