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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】特に腕時計製作のための回転圧電モータ
(51)【国際特許分類】
   G04C 3/12 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
G04C3/12 A
【請求項の数】 17
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022199245
(22)【出願日】2022-12-14
(65)【公開番号】P2023091757
(43)【公開日】2023-06-30
【審査請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】21216102.0
(32)【優先日】2021-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-ジャック・ボルン
(72)【発明者】
【氏名】イヴァン・フェリ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル・ディディエ
(72)【発明者】
【氏名】リオネル・パラット
(72)【発明者】
【氏名】レオナルド・テストーリ
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-189085(JP,A)
【文献】特表2016-509542(JP,A)
【文献】米国特許第6211599(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04C 3/00 - 3/18
H02N 2/00 - 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計用圧電モータ(1、30、50)であって、前記圧電モータ(1、30、50)は:
‐機械式デバイスを回転させて作動させることができるように構成された、ロータ(3、33)、
‐前記ロータ(3、33)を回転させるよう構成された、ステータ(2)であって、前記ステータ(2)は、振動運動を実施するように配設された共振器(29)を備える圧電アクチュエータを備える、ステータ(2)
を備え、
前記ステータ(2)は固定要素(4)を備え、前記共振器は、前記固定要素(4)からある距離に配設されかつ前記固定要素(4)に接続された可動要素(5)を備え、前記圧電アクチュエータは、前記可動要素(5)を前記ロータ(3)に対して移動させることによって前記ロータ(3)を回転させるよう構成され、前記可動要素(5)の前記移動によって、前記ロータ(3)が第1の方向に回転することを特徴とする、圧電モータ(1、30、50)。
【請求項2】
前記共振器(29)は、少なくとも1つの可撓性アーム(6、7、8)を備え、前記可撓性アーム(6、7、8)は、1つの端部によって前記ステータ(2)の前記固定要素(4)に、別の端部によって前記ステータ(2)の前記可動要素(5)に接続され、前記可動要素(5)の周りに角度的に分散されている、請求項1に記載の圧電モータ(1、30、50)。
【請求項3】
前記可動要素(5)は、前記第1の方向の反対の第2の方向に、軌道運動を実施する、請求項1に記載の圧電モータ(1、30、50)。
【請求項4】
前記圧電モータの動作中、前記可動要素(5)は常に前記ロータ(3、33)に接触している、請求項1に記載の圧電モータ(1、30、50)。
【請求項5】
前記可動要素(5)の前記移動により、前記ロータ(3、33)は連続的に回転する、請求項3に記載の圧電モータ(1、30、50)。
【請求項6】
前記可動要素(5)はリングのような形状を有し、前記ロータ(3、33)は前記リングの内側に配設される、請求項1に記載の圧電モータ(1、30、50)。
【請求項7】
前記可動要素(5)と前記ロータ(3、33)との間の接点は、前記リングの内側である、請求項6に記載の圧電モータ(1、30、50)。
【請求項8】
前記ロータ(3、33)は歯車(9、39)を備え、前記リングは、前記歯車(8、39)の外側歯部(12)と協働する内側歯部(10)を含む、請求項6に記載の圧電モータ(1、30、50)。
【請求項9】
前記可動要素(5)は、それ自体では回転運動できない、請求項1に記載の圧電モータ(1、30、50)。
【請求項10】
前記可撓性アーム(6、7、8)は、半径方向の前後運動を実施することにより、前記可動要素を振動させて移動させる、請求項に記載の圧電モータ(1、30、50)。
【請求項11】
前記可動要素(5)は前記ロータ(3、33)の周りに配設される、請求項1に記載の圧電モータ(1、30、50)。
【請求項12】
前記ロータ(3、33)及び/又は前記ステータ(2)は、シリコン又は金属から、微小機械加工によって得られる、請求項1に記載の圧電モータ(1、30、50)。
【請求項13】
直流オフセット電圧によって、又は交流電圧の振幅の変更によって、各前記可撓性アーム(6、7、8)の機械的張力を常に又は一時的に調整する手段を含む、請求項2に記載の圧電モータ(1、30、50)。
【請求項14】
前記可撓性アーム(6、7、8)は、2つの連続する前記可撓性アーム間で2π/Nだけ位相シフトさせた信号によって作動させられ、ここでNは前記可撓性アームの個数である、請求項に記載の圧電モータ(1、30、50)。
【請求項15】
前記共振器(29)は、前記共振器(29)の固有周波数に対応する周波数で振動する、請求項1に記載の圧電モータ(1、30、50)。
【請求項16】
前記ロータ(33)は、衝撃を受けたときに前記可動要素(5)との噛合を保持するための、可撓性ブレード(49)を備える、請求項1に記載の圧電モータ(30、50)。
【請求項17】
少なくとも1つの針を回転させるよう構成された歯車伝動装置を備える時計ムーブメントを含む、時計であって、
前記時計は、請求項1に記載の圧電モータ(1、30、50)を備え、前記圧電モータ(1、30、50)は前記歯車伝動装置を作動させるために配設されることを特徴とする、時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転圧電モータの技術分野に関する。本発明はまた、上述のような回転圧電モータを備えた時計の技術分野にも関する。
【背景技術】
【0002】
腕時計製作で一般に使用される電気モータは、Lavet型回転モータであり、これは電磁物理の原理に基づいて動作する。一般にこのようなモータは、コイルを備えるステータと、コイルの位相シフトによる作動によって回転する、磁性を帯びたロータとを含む。
【0003】
しかしながらこれらのモータは、強い磁場に対する耐性が限定的である。所与の磁場値から、モータは動かなくなり始める。一般にモータは、2mTを超える磁場の影響下で動かなくなる。
【0004】
よって、この問題を回避するために、他の物理的原理に基づいて動作するモータを設計する必要がある。
【0005】
例えば、特許文献1に記載されているような、コームを備える静電モータが存在する。ただし、コームは相当なスペースを占有し、またLavet型モータに比べて多くのエネルギを消費する。
【0006】
例えば特許文献2の、圧電モータをベースとしたモータも開発されている。ただしこれは、日付の作動に限定されている。その高い消費、及び早期摩耗のリスクから、一般的に最も多くのエネルギを必要とする秒針を駆動することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】スイス特許第709512号
【文献】欧州特許第0587031号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、強い電磁場に耐えることができ、かつエネルギ消費及び体積が適切なまま保たれた、回転圧電モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のために、本発明は、特に時計用の回転圧電モータに関し、上記モータは:
‐機械式デバイスを回転させて作動させることができるように構成された、ロータ、
‐上記ロータを回転させるよう構成された、ステータであって、上記ステータは、振動運動を実施するように配設された共振器を備える圧電アクチュエータを備える、ステータ
を備える。
【0010】
本発明は、上記ステータが固定要素を備え、上記共振器が、上記固定要素からある距離に配設されかつ上記固定要素に接続された可動要素を備える点で、注目に値するものであり、上記圧電アクチュエータは、上記可動要素を上記ロータに対して移動させることによって上記ロータを回転させるよう構成され、上記可動要素の移動によって、上記ロータが第1の方向に回転する。
【0011】
このような構成を有するステータにより、圧電アクチュエータによって回転運動を上記ロータに容易に伝達できる。実際には、上記可動要素は、上記ロータと接触して第1の方向に運動を伝達するように、移動させることができる。よって、上記共振器が振動すると、上記可動要素は、上記ロータに接触して上記ロータに力を伝達することにより、上記ロータを第1の方向に回転させる。
【0012】
本発明のある特定の実施形態によると、上記共振器は、少なくとも1つの可撓性アーム、好ましくは2つの可撓性アーム、場合によっては3つ又は4つの可撓性アームを備え、上記可撓性アームは、1つの端部によって上記ステータの上記固定要素に、別の端部によって上記ステータの上記可動要素に接続され、好ましくは上記可動要素の周りに角度的に分散されている。
【0013】
本発明のある特定の実施形態によると、上記可動要素は、上記ロータに接触すると、上記第1の方向の反対の第2の方向に、軌道運動を実施する。
【0014】
本発明のある特定の実施形態によると、上記モータの動作中、上記可動要素は常に上記ロータに接触している。
【0015】
本発明のある特定の実施形態によると、上記可動要素の上記移動により、上記ロータは連続的に回転する。
【0016】
本発明のある特定の実施形態によると、上記可動要素は、それ自体では回転運動できない。
【0017】
本発明のある特定の実施形態によると、上記可動要素はリングのような形状を有し、上記ロータは上記リングの内側に配設される。
【0018】
本発明のある特定の実施形態によると、上記可動要素と上記可動ロータとの間の接点は、上記リングの内側である。
【0019】
本発明のある特定の実施形態によると、上記ロータは歯車を備え、上記リングは、上記歯車の外側歯部と協働する内側歯部を含む。
【0020】
本発明のある特定の実施形態によると、上記アームは、半径方向の前後運動を実施することにより、上記可動要素を振動させて移動させる。
【0021】
本発明のある特定の実施形態によると、上記可動要素は上記ロータの周りに配設される。
【0022】
本発明のある特定の実施形態によると、上記アームは、2つの連続する上記アーム間で2π/Nだけ位相シフトさせた信号によって作動させられ、ここでNは上記アームの個数である。
【0023】
本発明のある特定の実施形態によると、上記共振器は、その固有周波数に対応する周波数で振動する。
【0024】
本発明のある特定の実施形態によると、上記モータは、直流オフセット電圧によって、又は交流電圧の振幅の変更によって、各上記アームの機械的張力を常に又は一時的に調整する手段を含む。
【0025】
本発明のある特定の実施形態によると、上記ロータ及び/又は上記ステータは、例えばシリコン又は金属から、微小機械加工によって得られる。
【0026】
本発明のある特定の実施形態によると、上記ロータは、衝撃を受けたときに上記可動要素との噛合を保持するための、可撓性ブレードを備える。
【0027】
本発明はまた、少なくとも1つの針を回転させるよう構成された歯車伝動装置を備える時計ムーブメントを含み、上記歯車伝動装置を作動させるために配設された圧電モータを備える、時計に関する。
【0028】
他の特徴及び利点は、限定ではなく例示を目的として、添付の図面を参照して行われる、以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明による回転圧電モータの第1の実施形態の、停止時の上面概略図を示し、ロータとステータとは接触していない。
図2図2は、本発明による回転圧電モータの第1の実施形態の、動作中の上面概略図を示し、ロータとステータとは6時位置で接触している。
図3図3は、本発明による回転圧電モータの第1の実施形態の、動作中の上面概略図を示し、ロータとステータとは9時位置で接触している。
図4図4は、本発明による回転圧電モータの第1の実施形態の、動作中の上面概略図を示し、ロータとステータとは12時位置で接触している。
図5図5は、本発明による回転圧電モータの第1の実施形態の、動作中の上面概略図を示し、ロータとステータとは3時位置で接触している。
図6図6は、本発明による回転圧電モータの第1の実施形態の、停止時の底面概略図を示す。
図7図7は、本発明の第1の実施形態による回転圧電モータの側面断面概略図を示す。
図8図8は、本発明による回転圧電モータの第2の実施形態の、停止時の上面概略図を示し、ロータとステータとは接触していない。
図9図9は、本発明による回転圧電モータの第2の実施形態の底面概略図を示す。
図10図10は、本発明による回転圧電モータの第3の実施形態の、動作中の上面概略図を示し、上記モータは衝撃を受けている。
図11図11は、圧電モータへの、そして歯車の運動への衝撃による加速を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1~7は、回転圧電モータ1の第1の実施形態を示す。特に上記モータは、時計において、文字盤上に配設された針のような表示デバイスを作動させるために使用できる。圧電モータ1は略平面内に延在する。
【0031】
圧電モータ1はロータ3を備え、このロータ3はそれ自体で回転移動でき、特に表示デバイス用である機械式歯車伝動装置を回転及び作動させることができるように構成される。圧電モータ1は、ロータ3を作動させて回転させるように構成された、ステータ2を備える。
【0032】
ロータ3は、圧電モータ1の中央に配設された歯車9を備える。例えば歯車9は、各端部にピボット15を備えた軸13上に設置され、これらのピボットは軸受16に設置され、軸13の回転を可能にする。歯車9は、外側リング28と、中心のハブ27とを含み、ハブ27は剛性スパイク19によってリング28に接続される。軸13は、歯車9に対して平行なピニオン21を含み、これは、歯車9によって受け止められた運動を、歯車伝動装置17へと、例えば時計のムーブメントへと伝達するよう配設される。歯車9はリング28上に外周歯部10を備え、これによって歯車9の作動が可能になる。
【0033】
好ましくは、ロータ3及び/又はステータ2は、好ましくは全体が、シリコンで構成される。あるいは、ステータ2がシリコン製である場合には、ロータ3は摩耗及び摩擦を制限するために金属製であり、その逆も同様である。
【0034】
更に代替例として、微小機械加工によって、ロータ3及び/又はステータ2は、好ましくは全体が、石英、ニッケル(金属の電着若しくはLIGAタイプのプロセスによって得られる)、又はダイヤモンド(ALDタイプの堆積によって得られる)等の材料で構成される。
【0035】
ステータ2は、移動不可能な固定要素4と、ロータ3の歯車9を作動させるよう構成された可動要素5とを備える。可動要素5は、固定要素4からある距離に配設される。可動要素5は、ロータ3の周りに配設されたリングのような形状を有し、ロータ3は上記リングの内側に配設される。可動要素5は、上記リング上に内側歯部12を備え、この内側歯部12は歯車9の外周歯部10と協働して、歯車9を回転させる。上記リングは、ロータ3を挿入できるように、ロータ3より大きい。
【0036】
固定要素4は、円形の内部空間を描く形状を有し、上記内部空間内に、可動要素5及びロータ3が配設される。
【0037】
ステータ2は更に、可動要素5において軌道運動を生成するために振動運動を実施するよう配設された共振器と一体化された、圧電アクチュエータ25を備える。上記共振器は可動要素5を備え、固定要素4に接続される。
【0038】
共振器は3つの可撓性アーム6、7、8を備え、これらは、一方の端部によってステータ2の固定要素4に接続され、他方の端部によってステータ2の可動要素5に接続される。可撓性アーム6、7、8は、可動要素5の周りに角度的に分散される。従って、3つのアーム6、7、8の場合、2つの連続するアームが間に120°の角度を有して配設される。
【0039】
あるいは他の実施形態によると、上記圧電アクチュエータは、2つのアーム、場合によっては4つのアームを有する共振器を備える。2つのアームの場合は上記角度は180°であり、4つのアームの場合は上記角度は90°である。
【0040】
上記圧電アクチュエータは、可動要素5をロータ3に対して移動させることによって、ロータ3を回転させるよう構成される。アーム6、7、8は、半径方向の前後運動を実施することにより、可動要素5を略水平な平面内で交互に振動させる。
【0041】
好ましくは、アーム6、7、8は、結晶性又は多結晶性材料、例えばシリコンで形成され、アーム6、7、8は変形可能な厚さを有する。上記アームは圧電材料層を含み、これにより電気的に活性化できる。各アーム6、7、8は、横方向に並置された2つの圧電材料層23、24を備え、各層23、24は互いに反対の極性に関連付けられる。各層23、24は固定要素4上で接触面によって終端し、上記接触面によって、図示されていない電気経路を介して層23、24に電圧が供給される。
【0042】
従って、圧電材料層23、24を電気的に活性化することによって、アーム6、7、8は、中心方向と外向きとに、横方向に交互に変形する。上記活性化は交流電圧によって生成される。
【0043】
好ましくは、モータ1は、特にロータ3の周りでの上記軌道運動をセンタリングできるように、又はモータ1の固有周波数をわずかに変化させるために、各アーム6、7、8の機械的張力を調整するための手段を備える。例えば、上記調整手段は、オフセット電圧によって常に動作する。あるいは上記調整手段は、交流電圧の振幅の変更によって一時的に動作する。
【0044】
各アーム6、7、8は、固定要素4の内縁部から可動要素5の外縁部まで、略円弧を描く。上記円弧の角度は180°を超え、場合によっては250°を超える。従って各アームは、可動要素5の一部分を取り囲む。2つの連続するアーム6、7、8は、部分的に重なっている。アーム6、7、8の長さは、可動要素5がカバーするべき距離に応じて選択される。
【0045】
アーム6、7、8は、正弦曲線、方形、又は台形の形状を有する交流信号によって作動させられる。アーム6、7、8に送信される信号は、2つの連続する上記アーム間で2π/Nだけ位相シフトされ、ここでNは上記アームの個数である。
【0046】
従って3つのアーム6、7、8は、2つの連続するアーム6、7、8の間で120°の位相シフトを有する信号によって、同時に起動される。2つのアームを備える実施形態では、上記位相シフトは180°であり、4つのアームの場合は上記位相シフトは90°であり、以下同様である。
【0047】
圧電層の変形によってアームが変形する。アーム6、7、8を作動させることにより、これらは、モータの中心、即ちロータ3に対して近づいたり離れたりすることによって、交互の半径方向の前後運動を実施する。固定要素4に接続された端部は移動しないものの、可動要素5に接続された端部は最も大きく移動する。これにより、可動要素5は、アーム6、7、8の変形の影響下で移動する。
【0048】
アーム6、7、8の間の位相シフトにより、可動要素5の、好ましくは円運動である軌道運動が引き起こされる。可動要素5は円運動を実施するが、それ自体は回転運動できないままである。従ってこの円運動は、図2に示されているように、ロータ3へと一方向に伝達される。
【0049】
好ましくは、可動要素5の運動は連続的なものであり、これによりロータ3は連続的に回転する。この目的のために、可動要素5は、モータの動作中は常にロータ3に接触する。可動要素5とロータ3との間の接点は、リングの内側で可動である。
【0050】
図2~5は、ロータ3とリングとの間の接点Pがリングの内側を移動する、異なる複数の連続した時点を示す。ロータ3より大きな内部空間を有するリングの軌道運動は、リングとロータ3との間の可動接点Pを生成する。各時点で、リングの内側歯部12の異なる部分が、歯車9の外周歯部10と噛合する。これによってロータ3自体が回転駆動される。
【0051】
図2では、可動要素5が持ち上げられることにより、接点Pが歯車9の下側、即ち6時の位置となっている。図3では、可動要素5が右側へと動かされることにより、接点Pが歯車9の左側、即ち9時の位置となっている。次に、図4に示されているように、可動要素5が引き下げられることにより、接点Pは歯車9の上側、即ち12時の位置となる。最後に図5では、可動要素5が左側へと動かされることにより、接点Pが歯車9の右側、即ち3時の位置となっている。ある図から次の図までに、可動要素5は軌道運動を1/4だけ実施した。
【0052】
図1に示されているように、可動要素5が反対方向に回転すると、可動要素5はロータ3から離れ、ロータ3に接触しなくなる。よって、回転運動は他の方向においてはロータ3に伝達されず、ロータ3は一方向にのみ回転する。
【0053】
例えばロータ3の歯部10は56個の歯を備え、可動要素5の歯部12は60個の歯を備える。よって、接点の速度とロータの速度との間の減速係数rは:
【0054】
【数1】
【0055】
によって与えられ、ここでZmは可動要素5の歯の個数を表し、Zrはロータ3の歯の個数を表す。よって本発明者らによる例では、
【0056】
【数2】
【0057】
である。この減速はモータに直接組み込まれ、それによって例えば針の駆動に必要な更なる減速歯車列の個数が削減されるため、有利である。
【0058】
好ましくは、ロータ3の歯部10の少なくとも1つの歯は、可動要素5の歯部12に接触して運動を伝達する。よって、ロータ3が動かなくなるリスクが回避される。歯部10の歯が1つだけローラ3の歯部12に接触するように、可動要素5及びロータ3のサイズを設定できる。
【0059】
好ましくは、直流電圧は各アーム6、7、8に別個に印加され、これによって可動要素5の振動の中心の移動が引き起こされ、これにより、自然に発生し得る中心ずれが補償されて、モータ1の効率が向上する。
【0060】
好ましくは、可動要素5を振動させることができる、アーム6、7、8に印加される交流電圧の振幅は、可動要素5の振動が完全に円形となるように可変であり、これにより、自然に発生し得る軌跡の楕円化が補償されて、これによってもモータ1の効率が向上する。
【0061】
ロータ3を他の方向に回転させることが望ましい場合は、共振器に印加される電圧の極性を反転させるだけでよい。これにより、アーム6、7、8の運動は、他の方向でのステータ2の可動要素5の回転を引き起こす。アナログ式ディスプレイの作動の場合、これによって針の位置を両方向に設定できる。
【0062】
腕時計の場合、モータ1の共振周波数又は固有周波数を、ムーブメントの速度を調節するために使用される石英の周波数に適合させる。一般に32,764Hzである石英の周波数の約数に相当する励起周波数を選択する。例えば128Hzの周波数を選択する。好ましくは、その振動振幅が最大振幅の90~95%を下回らないように、モータ1の周波数を調整して上記励起周波数に同調させる。
【0063】
周波数は、可動要素5の質量及び/又はアーム6、7、8の剛性を変更することによって適合される。例えば、リング18を可動要素5の下に組み付けることによって、可動要素5の重量を増大させ、その振動周波数を低下させることができる。例えばリング18は、好ましくは全体が、洋銀で構成される。
【0064】
周波数を増大させるためには、例えばレーザを用いて又はフライス加工によって材料を除去することにより、可動要素5を軽量化できる。これらのプロセスは極めて精密な調整が可能であるため、石英を備えたモータの微調整のための使用に好ましいものである。
【0065】
負荷に結合されたモータの共振ピークは、十分に高く、即ち石英の共振ピークよりもはるかに高くなるように設定される。これによって、例えば衝撃又は他の何らかの外乱に続く速度損失を補償するために、モータの速度を、振幅をあまり失うことなく、その励起周波数の変更によってわずかに変化させることができ、これによって石英のタイムベースと針の位置とを再整列させることができる。
【0066】
図8、9は、第1の実施形態と同様の圧電モータ30の第2の実施形態を示す。違いは、ロータ3に減衰手段が設けられている点である。ロータ3の歯車9は、外側歯部40を支承するリング38とハブ37とを接続する、可撓性ブレード49を備える。この実施形態では、ロータ3は、ロータの歯車内で角度的に分散された3つの可撓性ブレード49を備える。これらはそれぞれ、螺旋状の円弧の一部分を描く。
【0067】
従って、可撓性ブレード49はその変形によって、モータ30が激しく振り動かされた場合にロータ3に加えられる衝撃を吸収する。歯車39は、上記衝撃が軸に伝達されるのを回避できるように、軟質である。軸の軸受もまた、第1の実施形態と同様に、追加の減衰手段を含んでよい。
【0068】
図10は、第2の実施形態と同様の圧電モータ50の第3の実施形態を示し、これについては、圧電モータ50の動作中にステータ2の固定要素4に衝撃が印加される。上記衝撃は、矢印で示されている方向に、加速:
【0069】
【数3】
【0070】
を生成し、これによって可動要素5はXだけ矢印の反対の方向に移動して、ロータ3から係合解除される。しかしながら、ロータ3の可撓性ブレード49の変形により、ロータ3も可動要素5と同じ方向にXだけ移動する。これによってロータ3は可動要素5と接触したままとなり、衝撃にもかかわらず噛合した状態となる。ロータ3の質量、及び可撓性ブレード49の弾性によって、ロータ3は可動要素5と同一の軌跡をたどることができる。従って、可動要素5の噛合及び軌道運動は保持される。
【0071】
図11のグラフでは、加速:
【0072】
【数4】
【0073】
は、左から右に水平に印加された衝撃によって、加速:
【0074】
【数5】
【0075】
を表す衝撃曲線又は衝撃波線をたどる。可動要素5の移動X、及びロータ3の移動Xは、上記曲線に追従する減衰曲線をたどる。
【0076】
有利には、ロータ3及び可動要素5の質量、並びに衝撃の方向におけるロータ3の可撓性ブレード49の剛性、及び可動要素5の可撓性アーム6、7、8の剛性は、軌跡Xと軌跡Xとが一致するように選択される。
【0077】
この実施形態では、衝突は軸Xに沿って印加される。しかしながら当然、衝撃は、ロータ3及び可動要素5の噛合を保持したまま、平面X、Yのいずれの方向に印加される可能性がある。
【0078】
有利には、ロータ3及び可動要素5の質量、並びに衝撃の方向におけるロータ3の可撓性ブレード49の剛性、及び可動要素5の可撓性アーム6、7、8の剛性は、ロータ3と可動要素5との間の噛合接触を、衝撃の方向及び強度にかかわらず保持できるように、選択される。
【0079】
上述の全ての実施形態と同様の、圧電モータの図示されていない第4の実施形態では、衝撃は、アーム6、7、8内で誘導される圧電電圧を用いて電気的に検出される。例えばモータ1、30の動作中、アーム6、7、8のうちの1つを、検出手段のトランジスタによって、アクチュエータモードから検出器モードへと一時的に切り替えることができる。これにより、検出手段は、噛合点の回転の持続時間の1/3の間に衝撃が存在するかどうかを、周期的に検出する。必要に応じて、上記検出手段は、例えば印加される交流電圧の振幅を一時的に増大させて、衝撃中及び衝撃後の接触を強制することにより、次の励起信号の補正を実施してよい。
【0080】
添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、当業者には明らかな様々な修正及び/又は改善及び/又は組み合わせを、上で開示されている本発明の様々な実施形態に対して行うことができることを理解されたい。
【符号の説明】
【0081】
1、30、50 回転圧電モータ、モータ、圧電モータ
2 ステータ
3、33 ロータ
4 固定要素
5 可動要素
6、7、8 アーム、可撓性アーム
9、39 歯車
10 内側歯部
12 外側歯部
29 共振器
49 可撓性ブレード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11