(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】脳卒中の評価のためのRET(トランスフェクション再編成)
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240617BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20240617BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20240617BHJP
【FI】
G01N33/68
C12Q1/68
C07K14/47
(21)【出願番号】P 2022551757
(86)(22)【出願日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 EP2021056970
(87)【国際公開番号】W WO2021185976
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-08-26
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(73)【特許権者】
【識別番号】503285519
【氏名又は名称】ユニベルシテイト マーストリヒト
(73)【特許権者】
【識別番号】517079054
【氏名又は名称】アカデミシュ ジーケンハウス マーストリヒト
【氏名又は名称原語表記】ACADEMISCH ZIEKENHUIS MAASTRICHT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】カストナー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ロルニー,ビンツェント
(72)【発明者】
【氏名】ビーンヒューズ-テレン,ウルスラ-ヘンリケ
(72)【発明者】
【氏名】ツィーグラー,アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ディートリッヒ,マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】ショッテン,ウルリヒ
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-207097(JP,A)
【文献】国際公開第2020/039085(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0011880(US,A1)
【文献】ASNANI, A. et al.,Management of atrial fibrillation in patients taking targeted cancer therapies,Cardio-Oncology,2017年,Vol.3, No.2,p.1-10,https://doi.org/10.1186/s40959-017-0021-y
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
C12Q 1/68
C07K 14/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の脳卒中および/または認知症のリスクを予測するための方法であって、
a)前記対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された前記量を、基準と比較する工程、および
c)脳卒中および/または認知症のリスクを予測するための情報を提供する工程
を含
み、
該認知症が血管性認知症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症および/または前頭側頭型認知症である、方法。
【請求項2】
前記対象が心房細動を患う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脳卒中のリスクが予測され、前記脳卒中が虚血性脳卒中である、請求項1および2に記載の方法。
【請求項4】
認知症のリスクが予測され
る、請求項1および2に記載の方法。
【請求項5】
前記基準よりも低いRETの量が、脳卒中および/または認知症のリスクがある対象について示され、かつ/または前記基準よりも大きいRETの量が、脳卒中および/または認知症のリスクがない対象について示される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記対象が1年~10年以内に脳卒中および/または認知症に罹患するリスクが予測される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記対象が3年以内または5年以内に脳卒中および/または認知症に罹患するリスクが予測される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
対象の脳卒中および/または認知症を予測するためのコンピュータ実装方法であって、
a)処理ユニットにおいて、前記対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量についての値を受け取る工程、
b)工程(a)において受け取った前記値を前記処理ユニットで処理する工程であって、前記処理する工程が、前記バイオマーカーRETの量について1つまたは複数の閾値をメモリから検索することと、工程(a)において受け取った前記値を前記1つまたは複数の閾値と比較することとを含む、前記値を前記処理ユニットで処理する工程、および
c)出力装置を介して脳卒中および/または認知症の予測を提供する工程であって、前記予測が工程(b)の結果に基づいている、脳卒中および/または認知症の予測を提供する工程
を含
み、
該認知症が血管性認知症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症および/または前頭側頭型認知症である、コンピュータ実装方法。
【請求項9】
対象の臨床脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するための方法であって、
a)前記対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、および
b)前記バイオマーカーRETの量の値を前記臨床脳卒中リスクスコアと組み合わせる工程
を含み、それにより前記臨床脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するための情報を提供する、方法。
【請求項10】
対象の白質病変の程度を評価するための方法であって、
a)前記対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、および
b)工程a)で決定された前記量に基づいて、対象の白質病変の程度を評価するための情報を提供する工程
を含む、方法。
【請求項11】
対象の白質病変の程度
をモニタリングするための方法であって、
a)前記対象由来の第1のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
b)前記第1のサンプルの後に得られた前記対象由来の第2のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
c)前記第1のサンプル中の前記バイオマーカーRETの量を前記第2のサンプル中の前記バイオマーカーRETの量と比較する工程、および
d)工程c)の結果に基づいて、前記対象の白質病変の程度
をモニタリングするための情報を提供する工程
を含む、方法。
【請求項12】
対象の認知機能をモニタリングするための方法であって、
a)前記対象由来の第1のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
b)前記第1のサンプルの後に得られた前記対象由来の第2のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
c)前記第1のサンプル中の前記バイオマーカーRETの量を前記第2のサンプル中の前記バイオマーカーRETの量と比較する工程、および
d)工程c)の結果に基づいて、前記対象の認知機能をモニタリングするための情報を提供する工程
を含み、前記第1及び第2のサンプルが、血液、血清もしくは血漿サンプルであるか、または心臓もしくは神経組織サンプルである、方法。
【請求項13】
対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかを評価するための方法であって、
a)前記対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された前記量を、基準と比較する工程、および
c)対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかを評価するための情報を提供する工程
を含む、方法。
【請求項14】
対象の心房細動を診断するための方法であって、
a)前記対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成
)の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された前記量を、基準と比較する工程、および
c)心房細動を診断するための情報を提供する工程
を含む、方法。
【請求項15】
請求項1~10、
13、及び
14で定義したサンプル並びに請求項11で定義した第1及び第2のサンプルが、血液、血清もしくは血漿サンプルであるか、または心臓もしくは神経組織サンプルである、請求項1~
11、13
、及び14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記対象がヒト対象である、請求項1~
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
a)対象の脳卒中および/または認知症のリスクを予測するための、
b)対象の白質病変の程度を評価するための、
c)対象の心房細動を診断するための、または
d)対象についての臨床脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するための、
情報を提供するための、
対象のサンプル中のバイオマーカーRETまたは前記バイオマーカーRETに結合する薬剤のインビトロ使用
であって、
前記認知症が血管性認知症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症および/または前頭側頭型認知症である、インビトロ使用。
【請求項18】
i.前記バイオマーカーRETがRETポリペプチドであり、
ii.前記対象がヒトであり、
iii.前記対象が65歳以上であり、および/または
iv.前記対象が、脳卒中および/またはTIA(一過性虚血発作)の既知の病歴を有していない、
請求項1~
16のいずれか一項に記載の方法、または請求項
17に記載のインビトロ使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象の脳卒中および/または認知症の予測を補助するための方法に関し、前記方法は、a)対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、b)工程a)で決定された量を参照と比較する工程、およびc)脳卒中および/または認知症の予測を補助する工程を含む。本発明はさらに、対象の白質病変の程度の評価を補助するための方法、対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかの評価を補助するための方法、および対象の心房細動の診断を補助するための方法に関する。本発明はさらに、対応する用途を包含する。
【背景技術】
【0002】
背景セクション
脳卒中は、高所得国における失われた障害調整生存年数(disability-adjusted-life years)の原因として、また世界中の死因として、虚血性心疾患に次いで、2番目となっている。脳卒中のリスクを低減するためには、抗凝固療法が最も適切な治療法と考えられる。
【0003】
心房細動(AF)は、脳卒中の重要なリスク因子である(Hart et al.,Ann Intern Med 2007;146(12):857-67;Go AS et al.JAMA 2001;285(18):2370-5)。心房細動は、不規則な心臓の鼓動を特徴とし、短時間の異常な鼓動から始まることが多く、時間の経過とともに増加し、永続的な状態となる場合がある。米国では推定270~610万人が心房細動を発症し、全世界で約3300万人が心房細動を発症している(Chugh S.S.et al.,Circulation 2014;129:837-47)。心房細動は脳卒中および全身性塞栓症の重要なリスクファクターであることから、心房細動の早期診断および脳卒中のリスクの早期診断が非常に望ましい(Hart et al.,Ann Intern Med 2007,146(12):857-67;Go AS et al JAMA 2001;285(18):2370-5)。
【0004】
心房細動等の心不整脈の診断には、通常、不整脈の原因の特定、および不整脈の分類が含まれる。米国心臓病学会(ACC)、米国心臓協会(AHA)、および欧州心臓病学会(ESC)による心房細動の分類のガイドラインは、主に単純性および臨床上の関連性に基づいている。第1のカテゴリーは「最初に検出されたAF」と呼ばれる。このカテゴリーの人々は、最初にAFと診断され、以前に検出されなかったエピソードがあったかどうかは不明である。最初に検出されたエピソードが1週間以内に自然に停止したが、その後に別のエピソードが続く場合、カテゴリーは「発作性AF」に変わる。このカテゴリーの患者は最大7日間続くエピソードを持つが、発作性AFのほとんどの場合、エピソードは24時間以内に止まる。エピソードが1週間以上続く場合は、「持続性AF」に分類される。そのようなエピソードが電気的または薬理学的な心臓除細動によって停止できず、1年以上続く場合、分類は「永続性AF」に変更される。
【0005】
近年の根拠は、AF患者が認知機能障害および認知症のリスク上昇に直面することも示唆している(Conen et al.,J Am Coll Cardiol 2019;73:989-99)。AFと認知症との間の関連の一部は、AFを有する患者の中で脳卒中リスクが高いことによって説明されるが、認知症のリスクは、AFを有するが脳卒中の臨床歴のない患者でも上昇していた。臨床的に認識されていない脳梗塞(すなわち、無症候性脳梗塞)または他の脳病変、例えば白質病変が、この関連を説明し得る。白質は、主に有髄軸索で構成される中枢神経系(CNS)の領域を指す。白質病変の程度は、Fazekasスコア(Fazekas,JB Chawluk,A Alavi,HI Hurtig,and RA Zimmerman American Journal of Roentgenology 1987 149:2,351-356)によって表すことができる。Fazekasスコアは0~3の範囲である。0はWMLなし、1は軽度WML、2は中等度WML、および3は重度WMLを示す。
【0006】
磁気共鳴画像法での白質病変(WML)は、認知障害および鬱病等のいくつかの有害な転帰に関連している。例えば、白質変化は、速度および微細運動協調における運動機能の低下、ならびに血管性認知症、レビー小体型認知症、および精神障害を含む多くの疾患に関連することが報告されている。さらに、認知症の重症度は、アルツハイマー病患者の白質変化と有意に関連することが示されている(Kao et al.,J.Clin.Med.2019,8,167;doi:10.3390/jcm8020167)。対照的に、正常に見える白質の全体的な微細構造の完全性は、パーキンソン病患者と健康な対照の対象との間で異ならなかった(de Schipper et al.,Neurobiology of Aging 80(2019)203-209)。
【0007】
脳卒中および/または認知症のリスクの予測および心房細動の診断を可能にするバイオマーカーが非常に必要とされている。
【0008】
RET(トランスフェクション再編成:Rearranged during transfection)は、癌原遺伝子チロシン-プロテインキナーゼ受容体(UniProtKB-P07949)である。
【0009】
RETは、細胞増殖、細胞遊走、細胞分化、造血およびニューロン誘導を含む、発生中および発生後の両方の多くの細胞機構に関与することが提案されている。
【0010】
RETは、ニューロン機能ならびに造血幹細胞(HSC)の生存および機能の両方を駆動する神経栄養因子受容体である(Mulligan,Nature Rev.Cancer 2014,Vol.14,pp 173,Fonseca-Pereira et al.,Nature,2014,Vol.514,pp98)。HSCは、成体期には静止しているが、生理学的要求に応じて増殖性になり得る。自律神経はHSCに近接していることが示されている。
【0011】
Salebyらは、肺動脈高血圧症(PAH)を有する患者の静脈血漿中の28のバイオマーカーを測定した。測定されたバイオマーカーの1つはRETであった。バイオマーカーはPAHを有する対象で減少することが示された(Saleby et al.,ERJ Open Res 2019;5:00037-2019)。
【0012】
いくつかの癌における発癌駆動因子としてのRETの役割は、多様な腫瘍型における浸潤および拡散の重要な決定因子として十分に記載されている(Mulligan,Nature Rev.Cancer 2014,Vol.14,pp173)。多様な癌におけるRETの重要性のために、貴重な治療標的としても記載されている(Mulligan,Frontiers in Physiology,2019,Vol.9,pp1873)。
【0013】
動物モデルでは、RETアブレーションは、腸の恒常性を損ない、腸における炎症または感染のリスクを上昇させることが観察された(Ibiza et al.,Nature,2016,Vol.535,pp440-443)。
【0014】
さらなる動物モデルにおいて、GDNFおよびRETは、虚血に応答して脳において上方制御されることが記載された(Arvidsson et al.,Neuroscience 2001,Vol.106,pp 27;Sarabi et al.,Neurosci Lett 2003,Vol.341,pp241)。
【0015】
Rydbergらは、パーキンソン病および多系統萎縮症患者の前頭前皮質におけるサイトカインプロファイリングを記載している。RET mRNAレベルは、パーキンソン病(PD)患者および多系統萎縮症患者の両方の脳組織において、正常対照と比較して上昇した(Rydberg et al.,Neurobiology of Disease 106(2017)269-278)。さらに、RET発現がパーキンソン病においてヒト黒質ニューロンにおいて持続することが示された(Walker et al.,Brain Research 792 1998.207-217)。
【0016】
しかしながら、これまでのところ、低下した循環RETレベルは、脳卒中のリスクの評価のために、または白質病変の程度の評価のために、または心房細動の評価のために記載されていない。
【0017】
好都合なことに、RETが脳卒中および/または認知症の予測のためのバイオマーカーであることが、本発明の基礎となる研究において見出されている。さらに、心房細動を有する患者ではRETのレベルが低下する。したがって、本発明によって、血液、血清または血漿サンプルなどのサンプル中のRETの量に基づいて、例えば心房細動を有する患者における脳卒中および/または認知症のリスクを予測することが可能になる。RETの決定によってさらに、臨床脳卒中リスクスコアの臨床精度の予測を改善することが可能になる。
【0018】
さらに、バイオマーカーRETは、患者の白質病変(WML)の存在と負の相関があることが示された。WMLの程度は臨床的に無症候性の脳卒中(Wang Y,Liu G,Hong D,Chen F,Ji X,Cao G.White matter injury in ischemic stroke.Prog Neurobiol.2016;141:45-60)によって引き起こされ得るため、バイオマーカーRETは、白質病変の程度の評価のため、および対象が過去に1回以上の無症候性の脳卒中、すなわち臨床的に無症候性の脳卒中を経験したかどうかの評価のために使用され得る。
【発明の概要】
【0019】
本発明の簡単な説明
本発明は、対象の脳卒中および/または認知症の予測を補助するための方法に関し、前記方法は、
a)前記対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された量を、基準と比較する工程、および
c)脳卒中および/または認知症の予測を補助する工程
を含む。
【0020】
本発明はさらに、対象における脳卒中および/または認知症の予測を補助するためのバイオマーカーRETまたはバイオマーカーRETに結合する薬剤のインビトロ使用に関する。
【0021】
前述の方法および前述の使用の好ましい実施形態において、対象は心房細動に罹患している。
【0022】
前述の方法および前述の使用の好ましい実施形態において、虚血性脳卒中のリスク等の脳卒中のリスクが予測される。
【0023】
前述の方法および前述の使用の好ましい実施形態において、認知症のリスク、例えば、血管性認知症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、および/または前頭側頭型認知症のリスクが予測される。
【0024】
前述の方法および前述の使用の好ましい実施形態において、基準よりも低いRETの量は、脳卒中および/または認知症のリスクがある対象について示され、および/または基準よりも大きいRETの量は、脳卒中および/または認知症のリスクがない対象について示される。
【0025】
前述の方法および前述の使用の好ましい実施形態において、対象が1~10年以内に脳卒中および/または認知症に罹患するリスクが予測される。
【0026】
本発明はさらに、対象の白質病変の程度の評価を補助するための方法に関し、前記方法は、
a)前記対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、および
b)工程a)で決定された量に基づいて、対象の白質病変の程度の評価を補助する工程
を含む。
【0027】
本発明はさらに、対象における白質病変の程度の評価を補助するためのバイオマーカーRETまたはバイオマーカーRETに結合する薬剤のインビトロ使用に関する。
【0028】
前述の方法および前述の使用の好ましい実施形態において、対象は心房細動に罹患している。
【0029】
本発明はさらに、対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかの評価を補助するための方法に関し、前記方法は、
a)前記対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された量を、基準と比較する工程、および
c)前記対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかの評価を補助する工程
を含む。
【0030】
本発明はさらに、対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかの評価を補助するためのバイオマーカーRETまたはバイオマーカーRETに結合する薬剤のインビトロ使用に関する。
【0031】
前述の方法および前述の使用の好ましい実施形態において、対象は心房細動に罹患している。
【0032】
前述の方法および前述の使用の好ましい実施形態において、基準よりも低いRETの量は、1回以上の無症候性脳卒中を経験した対象を示し、かつ/または基準よりも大きいRETの量は、無症候性脳卒中を経験していない対象を示す。
【0033】
本発明はさらに、対象(例えば、心房細動に罹患している対象)をモニタリングするための方法に関し、前記方法は、
a)対象由来の第1のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
b)第1のサンプルの後に得られた対象由来の第2のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
c)第1のサンプル中のバイオマーカーRETの量を第2のサンプル中のバイオマーカーRETの量と比較する工程、および
d)工程c)の結果に基づいて患者をモニタリングする工程
を含む。
【0034】
また、本発明は、対象(例えば、心房細動に罹患している対象)をモニタリングするためのバイオマーカーRETまたはバイオマーカーRETに結合する薬剤のインビトロ使用に関する。
【0035】
いくつかの実施形態において、対象における白質病変の程度および/または対象の認知機能がモニタリングされる。いくつかの実施形態において、第2のサンプルは、第1のサンプルの少なくとも6ヶ月後に得られたものである。いくつかの実施形態において、第1のサンプルと比較した第2のサンプルにおけるバイオマーカーRETの量の減少は、対象の白質病変の程度の上昇および/または対象の認知機能の低下を示す。
【0036】
本発明はさらに、対象における心房細動の評価を補助するための方法に関し、前記方法は、
a)対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された量を、基準と比較する工程、および
c)心房細動の診断を補助する工程
を含む。
【0037】
本発明はさらに、対象における心房細動の診断を補助するためのバイオマーカーRETまたはバイオマーカーRETに結合する薬剤のインビトロ使用に関する。
【0038】
前述の方法および前述の使用の好ましい実施形態において、心房細動は発作性または持続性の心房細動である。
【0039】
前述の方法および前述の使用の好ましい実施形態において、サンプルが得られた時点で対象は洞調律であった。
【0040】
本発明はさらに、対象の臨床脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するための方法に関し、前記方法は、
a)対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、および
b)バイオマーカーRETの量の値を臨床脳卒中リスクスコアと組み合わせる工程
を含み、それにより、前記臨床脳卒中リスクスコアの予測精度が改善される。
【0041】
本発明はさらに、対象の臨床脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するためのバイオマーカーRETまたはバイオマーカーRETに結合する薬剤のインビトロ使用に関する。
【0042】
本発明の方法および使用の好ましい一実施形態において、対象は、脳卒中またはTIA(一過性虚血発作)の病歴が知られていない。
【0043】
本発明の方法および使用の好ましい一実施形態において、対象は、65歳以上である。
【0044】
本発明の方法および使用の好ましい一実施形態において、対象は、体液サンプル、例えば血液、血清または血漿サンプルである。
【0045】
本発明の方法および使用の他の好ましい一実施形態において、サンプルは組織サンプルである。
【0046】
本発明の方法および使用の好ましい一実施形態において、バイオマーカーRETはRETポリペプチドである。
【0047】
本発明の方法および使用の好ましい一実施形態において、対象はヒト対象である。
図は以下のとおりである:
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】マッピング研究におけるRETの測定:探索的AFibパネル:開胸手術、および持続性AF(perAF)または洞調律SRの心外膜マッピングを受けている心房細動の病歴のある患者(マッピング研究)。心房組織のRNA発現プロファイルを評価した。
【
図2】マッピング研究におけるRETの測定:探索的AFibパネル:開胸手術を受ける心房細動の病歴を有する患者および発作性AF、持続性AFまたはSRの心外膜マッピング(マッピング研究)。循環RETレベルを評価した。
【
図3】Fazekasスコアが2未満(no)対Fazekasスコアが2以上(yes)を用いたSWISS AF研究におけるRETの測定:WMLの検出/無症候性脳卒中のリスクの予測:循環 RETレベルを評価した。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明の詳細な説明-定義
上述のように、本発明は、対象の脳卒中および/または認知症の予測を補助するための方法に関し、前記方法は、
a)対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された量を、基準と比較する工程、および
c)脳卒中および/または認知症の予測を補助する工程
を含む。
【0050】
好ましい実施形態において、工程b)における予測は、サンプル中のバイオマーカーの量に基づく、すなわち比較工程b)に基づく。
【0051】
本発明によって言及される方法は、本質的に上述の工程からなる方法、またはさらなる工程を含む方法、を含む。さらに、本発明の方法は、好ましくは、エクスビボ、より好ましくはインビトロの方法である。さらに、方法は、先に明示的に述べられたものに加えて、複数の工程を含んでもよい。例えば、さらなる工程は、さらにマーカーを決定すること、および/または処置前のサンプルを採取すること、もしくは上記方法で得られた結果を評価することに関し得る。この方法は、手動で実行されてもよく、自動化によって補助されてもよい。好ましくは、工程(a)、(b)および/または(c)は、全体的または部分的に、自動化によって、例えば、工程(a)における決定または工程(b)におけるコンピュータを実装した計算のため、適切なロボットおよび感覚的機器によって、補助されてもよい。
【0052】
当技術分野の当業者によって理解されるように、脳卒中および/または認知症の予測、白質病変の程度の評価、対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかの評価、対象における心房細動の診断、および対象の臨床脳卒中リスクスコアの予測精度の改善等の本明細書に記載の評価は、通常、対象の100%に対して正しいことを意図するものではない。一実施形態において、予測は、統計的に有意な対象の一部において適切かつ正確な方法でなされ得る。前記一部が統計的に有意であるかどうかは、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントt検定、マン-ホイットニー検定等の様々な周知の統計評価ツールを使用して、当業者がさらに苦労することなく決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden,Statistics for Research,John Wiley&Sons,New York 1983に見出される。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。
【0053】
本発明の方法および使用に従って試験される「対象」は、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物としては、限定されないが、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌおよびウマ)、霊長類(例えば、ヒトおよびサル等の非ヒト霊長類)、ウサギ、齧歯類(例えば、マウスおよびラット)が挙げられる。好ましくは、対象は、ヒト対象である。「対象」および「患者」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0054】
本発明の方法および使用の一実施形態において、対象は、65歳以上である。他の実施形態において、対象は70歳以上である。別の実施形態において、対象は75歳以上である。
【0055】
本発明の方法の好ましい一実施形態において、試験される対象は、心房細動に罹患している。心房細動は、発作性、持続性、または永続性心房細動であり得る。したがって、対象は、発作性、持続性または恒久性の心房細動を患っていてもよい。特に、対象は、発作性、持続性、または恒久性の心房細動に罹患していることが想定される。ベストパフォーマンスは、持続性の心房細動の患者で観察された。
【0056】
したがって、本発明の方法の一実施形態において、対象は、発作性の心房細動に罹患している。本発明の他の実施形態において、対象は、持続性の心房細動に罹患している。本発明の他の実施形態において、対象は、恒久性の心房細動に罹患している。
【0057】
「心房細動」という用語は、当該技術分野において周知である。本明細書で使用される場合、この用語は、好ましくは、心房の機械的機能の結果としての悪化を伴う、非協調的な心房活動を特徴とする上室性頻拍性不整脈を指す。特に、この用語は、急速で不規則な鼓動を特徴とする異常な心臓のリズムを指す。心房細動は、心臓の2つの上部房と関連する。正常な心臓のリズムでは、洞房結節によって生成されたインパルスが心臓全体に広がり、心筋の収縮と血液のポンピングを引き起こす。心房細動では、洞房結節の規則的な電気インパルスが、不規則な心臓の鼓動を引き起こす、無秩序で急速な電気インパルスに置き換えられる。心房細動の症状は、心臓の動悸、失神、息切れ、または胸痛である。ただし、ほとんどのエピソードには症状がない。心電図では、心房細動は、振幅、形状、およびタイミングが変化する急速な振動または細動波による均一なP波の置換を特徴とし、心房室伝導が正常な場合に、不規則に頻繁に心室応答が速くなることに関連する。
【0058】
The American College of Cardiology(ACC)、American Heart Association(AHA)、およびthe European Society of Cardiology(ESC)は、次の分類システムを提案する。(これと共に、その全体が参考として組み込まれるFuster(2006)Circulation 114(7):e257-354を参照のこと、例えば、書類中
図3を参照のこと):最初に検出されたAF、発作性AF、持続性AF、および永続性AF。
【0059】
AFを有する全ての人々は、最初は、最初に検出されたAFと呼ばれるカテゴリーに属する。ただし、対象は、以前に検出されなかったエピソードを持っている場合と持っていない場合があってもよい。AFが1年を超えて持続した場合、対象は恒常性AFに罹患している。特に、洞調律へ戻る変換は、行われない(または医学的介入によってのみ)。AFが7日を超えて続く場合、対象は持続性AFに罹患している。対象は、心房細動を止めるには、薬理学的または電気的な介入が必要な場合がある。したがって、持続性AFはエピソードで発生するが、不整脈は、典型的に自発的に(すなわち、医学的介入なしで)洞調律へ戻る変換はされない。発作性の心房細動は、好ましくは、心房細動の断続的なエピソードを指し、7日以上持続せずに、自然に(すなわち、医学的介入なしで)終了する心房細動である。発作性のAFのほとんどの場合、エピソードが続くのは、24時間未満である。したがって、発作性の心房細動は自然に終了するが、持続性の心房細動は自然に終了せず、終了のための電気的または薬理学的な電気的除細動、またはアブレーション処置(Fuster(2006)循環114(7):e257-354)などの他の処置を必要とする。「発作性心房細動」という用語は、48時間未満、より好ましくは24時間未満、最も好ましくは12時間未満で自然に終了するAFのエピソードとして定義される。持続性および発作性のAFのどちらも再発する可能性がある。
【0060】
上記のように、試験される対象は、発作性、持続性または恒久性の心房細動に罹患していることが好ましい。
【0061】
さらに、最小を得る時点で対象が心房細動のエピソードに罹患していることが想定される。これは、例えば、対象が恒久性または持続性のAFに罹患している場合である。他の実施形態において、対象はサンプルを得る時点において、心房細動のエピソードに罹患していないことが想定される。これは、例えば、被検者が持続性または発作性のAFに罹患している場合である。したがって、対象は、心房細動に罹患しているが、サンプルが得られた時点において正常な洞調律を有する、すなわち洞調律である患者であり得る。したがって、サンプルが得られた時点で対象が洞調律であることが想定される。
【0062】
さらに、心房細動は、対象において以前に診断されていると考えられる。したがって、心房細動は、診断された、すなわち検出された心房細動である。
【0063】
さらに、本発明の方法および使用に従って試験される対象は、脳卒中および/またはTIA(一過性虚血発作)の既知の病歴を有していなくてもよいことが想定される。
【0064】
一実施形態において、対象は既知の脳卒中の病歴を有さない。他の実施形態において、対象は、脳卒中およびTIAの両方の既知の病歴を有さない。したがって、試験される対象は、臨床的に認識された脳卒中および/またはTIAに罹患していないものとする。
【0065】
「サンプル」という用語は、体液のサンプル、分離された細胞のサンプル、または組織もしくは器官由来のサンプルを指す。体液のサンプルは、周知の技術によって採取することができ、血液、血漿、血清、尿、リンパ液、痰、腹水、唾液、涙液、脳脊髄液またはその他の体分泌物もしくはその誘導体のサンプルが含まれる。組織または器官のサンプルは、例えば生検によって、任意の組織または器官から入手し得る。分離された細胞を、体液または組織もしくは器官から、遠心分離または細胞選別等の分離技術によって得てもよい。例えば、バイオマーカーを発現または生成する細胞、組織、器官から、細胞、組織、器官のサンプルを採取してもよい。例えば、サンプルは心筋組織サンプルであり得る。さらに、サンプルは、神経組織サンプルまたは腸組織サンプルであり得る。いくつかの実施形態において、サンプルは、骨髄サンプルである。サンプルは、凍結された、新鮮な、固定(例えば、ホルマリン固定)された、遠心分離された、および/または包埋(例えば、パラフィン包埋)等されたものであり得る。細胞サンプルは、サンプル中のマーカーの量を評価する前に、当然のことながら、種々の周知の収集後調製および保管技法(例えば、核酸および/またはタンパク質抽出、固定、保管、冷凍、超濾過、濃縮、蒸発、遠心分離等)に供され得る。
【0066】
したがって、サンプルは組織サンプルであり得る。好ましい実施形態において、組織サンプルは、心筋組織サンプル等の心臓組織サンプルである。特に、サンプルは、右心耳由来の組織サンプルである。他の好ましい実施形態において、サンプルは、脳組織サンプルまたは脊髄サンプル等の神経組織サンプルである。
【0067】
他の好ましい一実施形態において、サンプルは、血液(すなわち、全血)、血清または血漿サンプルである。例えば、サンプルは、静脈血、血清または血漿サンプルであり得る。あるいは、サンプルは毛細管血液サンプル(例えば、指から得られる)であってもよい。いくつかの実施形態において、サンプルは、末梢血サンプルである。血清とは、血液を凝血させた後に入手される全血の液体画分である。血清を得るためには、遠心分離によって血餅を除去して、それから上清が収集される。血漿は、血液の無細胞流動部分である。血漿サンプルを得るために、全血は、抗凝固剤処理されたチューブ(例えば、クエン酸塩処理またはEDTA処理されたチューブ)に収集される。遠心分離により細胞をサンプルから除去し、上清(すなわち、血漿サンプル)を入手する。
【0068】
さらに、サンプルは、骨髄または末梢血由来の幹細胞、リンパ球、心筋細胞、神経細胞または腸細胞等の幹細胞を含み得る。
【0069】
いくつかの実施形態において、サンプルは、脳脊髄液サンプルである。
【0070】
本明細書で使用される「リスクを予測する」という用語は、好ましくは、対象が脳卒中および/または認知症に罹患する確率を評価することを指す。典型的には、対象が脳卒中に罹患するリスクがある(また、それ故にリスクが高い)か、リスクがない(また、それ故にリスクが低い)かどうかが予測される。したがって、本発明の方法によって、脳卒中および/または認知症に罹患するリスクのある対象と、リスクのない対象とを区別することが可能になる。さらに、本発明の方法は、リスクが低い、平均、または高い被験者間の区別を可能にすることが想定される。「補助する」という用語は、好ましくは、本明細書に記載の評価、例えばさらなるバイオマーカーの決定、またはMRI等のさらなる手段による評価の確認のためにさらなる手段が考慮されることを意味する。
【0071】
上記のように、特定の時間枠内に脳卒中および/または認知症に罹患するリスク(および確率)が予測されるものとする。本発明の一実施形態において、予測ウィンドウは、好ましくは、少なくとも1ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも9ヶ月、少なくとも1年、少なくとも2年、少なくとも3年、少なくとも4年、少なくとも5年、少なくとも10年、少なくとも15年、もしくは少なくとも20年の間隔、または任意の間欠時間範囲である。好ましくは、予測ウィンドウは約3年の期間である。また好ましくは、予測ウィンドウは約5年の期間であり得る。
【0072】
好ましい一実施形態において、予測ウィンドウは、1~3年の期間である。したがって、1~3年以内に脳卒中および/または人試聴に罹患するリスクが予測される。好ましい一実施形態において、予測ウィンドウは、1~10年の期間である。したがって、対象が1~10年以内に脳卒中および/または認知症に罹患するリスクが予測される。
【0073】
好ましくは、予測ウィンドウは、本発明の方法の完了から計算される。より好ましくは、予測ウィンドウは、試験されるサンプルが採取された時点から計算される。
【0074】
好ましい一実施形態において、「脳卒中のリスクを予測する」という表現は、本発明の方法によって分析される対象が、脳卒中および/または認知症に罹患するリスクがある対象の群、または脳卒中のリスクがない対象の群のいずれかに割り当てられることを意味する。したがって、対象が脳卒中および/または認知症に罹患するリスクがあるか否かが予測される。本明細書で使用される「脳卒中および/または認知症に罹患するリスクがある対象」は、好ましくは(好ましくは、予測ウィンドウ内で)脳卒中および/または認知症に罹患するリスクが高い。好ましくは、上記リスクは、対象のコホートにおける平均リスクと比較して上昇する。本明細書で使用される場合、「脳卒中および/または認知症に罹患するリスクがない対象」は、好ましくは、(好ましくは予測ウィンドウ内で)脳卒中および/または認知症に罹患するリスクが低い。好ましくは、上記リスクは、対象のコホートにおける平均リスクと比較して低下する。脳卒中および/または認知症に罹患するリスクがある対象は、好ましくは約3年の予測ウィンドウ内で、少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%の脳卒中および/または認知症に罹患するリスクがある。脳卒中および/または認知症に罹患するリスクがない対象は、好ましくは3年の予測ウィンドウ内で、好ましくは12%未満、より好ましくは10%未満の当該有害事象に罹患するリスクを有する。
【0075】
好ましい一実施形態において、脳卒中のリスクが予測される。「脳卒中」という用語は、当該技術分野において周知である。前記用語は、好ましくは、虚血性脳卒中、特に脳虚血性脳卒中を指す。本発明の方法によって予測される脳卒中は、脳細胞への酸素の供給不足をもたらす脳またはその部分への血流の減少によって、引き起こされるものとする。特に、脳卒中は、脳細胞死によって、不可逆的な組織損傷をもたらす。脳卒中の症状は、当該技術分野において周知である。虚血性脳卒中は、主要な大脳動脈のアテローム血栓症または塞栓症によって、凝固障害または非アテローム性血管疾患によって、または全体的な血流の減少につながる心虚血によって引き起こされる可能性がある。虚血性脳卒中は、アテローム血栓性脳卒中、心塞栓性脳卒中およびラクナ脳卒中からなる群から選択されることが好ましい。「脳卒中」という用語は、好ましくは、出血性脳卒中を含まない。
【0076】
対象が、脳卒中、特に虚血性脳卒中を患っているかどうかは、周知の方法によって判定することができる。さらに、脳卒中の症状は、当該技術分野において周知である。例えば、脳卒中の症状としては、顔、腕、脚、特に体の片側の突然のしびれや脱力、突然の混乱、会話や理解の障害、片目または両目の突然の見えづらさ、および突然の歩行困難、めまい、バランスまたは調整の喪失などが挙げられる。
【0077】
上述の方法および上述の使用の好ましい一実施形態において、認知症のリスクが予測される。あるいは、対象が認知低下のリスクがあるか否かが予測され得る。
【0078】
本明細書で使用される「認知症」という用語は、好ましくは、様々な障害によって引き起こされる知覚または意識の障害を伴わないが、最も一般的には構造的脳疾患に関連する、認知および知的機能の通常は進行性の喪失として特徴付けることができる状態を指す。認知症の最も一般的なタイプはアルツハイマー病であり、これは症例の50%~70%を占める。他の一般的なタイプとしては、脳血管性認知症(25%)、レビー小体型認知症、および前頭側頭型認知症が挙げられる。「認知症」という用語は、限定されないが、AIDS認知症、アルツハイマー型認知症、初老性認知症、老人性認知症、脱力性認知症、レビー小体型認知症(びまん性レビー小体型疾患)、多発梗塞性認知症(血管性認知症)、麻痺性認知症、外傷後認知症、プラエコックス型認知症、血管性認知症を含む。
【0079】
一実施形態において、認知症という用語は、血管性認知症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、および/または前頭側頭型認知症を指す。したがって、血管性認知症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、および/または前頭側頭型認知症に罹患するリスクが予測される。
【0080】
一実施形態において、「アルツハイマー病」に罹患するリスクが予測される。「アルツハイマー病」という用語は、当該技術分野において周知である。アルツハイマー病は、通常、ゆっくりと始まり、経時的に徐々に悪化する慢性神経変性疾患である。疾患が進行するにつれて、症候としては、言語の問題、見当識障害、気分変動、動機の喪失、セルフケアを管理しないこと、および行動上の問題が挙げられる。
【0081】
一実施形態において、「血管性認知症」に罹患するリスクが予測される。「血管性認知症」という用語は、好ましくは、脳内の血管損傷または疾患によって引き起こされる記憶および他の認知機能の進行性喪失を指す。したがって、この用語は、脳への血液の循環の問題によって引き起こされる認知症の症状を指すものとする。これは、脳卒中後に発生するか、または経時的に蓄積する可能性がある。
【0082】
本発明の方法は、より多くの対象の集団のスクリーニングにも使用できる。したがって、少なくとも100人の対象、特に少なくとも1000人の対象が例えば、脳卒中のリスクに関して評価されることが想定される。したがって、バイオマーカーRETの量は、少なくとも100人の、または特に少なくとも1000人の対象由来のサンプルで決定される。さらに、少なくとも1万人の対象が評価されることが想定される。
【0083】
バイオマーカー「Rearranged during transfection」(略してRET)は、当技術分野で周知である。RET(Rearranged during transfection)は、癌原遺伝子チロシン-プロテインキナーゼ受容体(UniProtKB-P07949)である。RETポリペプチド、すなわち癌原遺伝子チロシン-プロテインキナーゼ受容体Retは、グリア細胞由来神経栄養因子ファミリーリガンドと結合すると、細胞増殖、ニューロン誘導、細胞遊走および細胞分化を含む多数の細胞機構に関与する。さらに、細胞死/生存バランスと位置情報の両方を調節する。RETの代替名は、「Cadherin family member 12」および「Proto-oncogene c-Ret」である。好ましくは、バイオマーカーRETはヒトRETである。RET転写物およびRETポリペプチドの配列は当技術分野で周知であり、受託番号UniProtKB-P 07949のUniProt、Entrez(遺伝子ID:5979、2020年2月3日に更新)またはEnsembl(ENSG 00000165731)で評価することができる。
【0084】
本発明の方法および使用の好ましい実施形態において、バイオマーカーRETはRETポリペプチドである。したがって、RETポリペプチドの量が決定される。
【0085】
本発明の方法および使用の好ましい実施形態において、バイオマーカーRETはRET mRNAである。したがって、RET mRNAの量を決定する(直接または間接的に行うことができる)。
【0086】
明細書でいうバイオマーカーの量を「決定する」という用語は、バイオマーカーの定量化を指し、例えば、本明細書の他の箇所に記載されている適切な検出方法を使用して、サンプル中のバイオマーカーのレベルを測定することを指す。「測定する」および「決定する」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0087】
一実施形態において、バイオマーカーの量は、サンプルをバイオマーカーと特異的に結合する薬剤と接触させ、それにより薬剤と上記バイオマーカーとの間に複合体を形成し、形成された複合体の量を検出し、それから上記バイオマーカーの量を測定することにより、決定される。
【0088】
本明細書でいうバイオマーカーは、当該技術分野で概して公知の方法を使用して検出することができる。検出方法は一般的に、サンプル中のバイオマーカーの量を定量する方法(定量的方法)を包含する。以下の方法のいずれがバイオマーカーの定性的および/または定量的検出に適しているかは、当業者に概して公知である。サンプルは、例えば、ウエスタン法およびELISA、RIA、蛍光および発光ベースのイムノアッセイのようなイムノアッセイ、ならびに市販されている近接拡張アッセイを使用して、タンパク質について簡便にアッセイすることができる。バイオマーカーを検出するためのさらに適切な方法は、ペプチドまたはポリペプチドに特異的な物理的または化学的特性、例えば、その正確な分子量またはNMRスペクトル等を測定することを含む。上記方法は、例えば、バイオセンサー、免疫学的検定法と連関した光学装置、バイオチップ、質量分析計、NMR分析機、またはクロマトグラフィー装置等の分析装置を含む。さらに、方法には、マイクロプレートELISAベースの方法、完全自動化またはロボットイムノアッセイ(Elecsys(商標)アナライザーなどで利用可能)、CBA(酵素的Cobalt Binding Assay、Roche-Hitachi(商標)アナライザーなどで利用可能)、およびラテックス凝集アッセイ(例えば、Roche-Hitachi(商標)アナライザーで使用可能)が含まれる。
【0089】
本明細書で言及するバイオマーカータンパク質の検出については、このようなアッセイ形式を使用する広範な免疫学的検定技術が利用可能であり、例えば、米国特許第4,016,043号、第4,424,279号、および第4,018,653号を参照されたい。これらは、従来の競合結合アッセイだけでなく、非競合タイプの1部位および2部位または「サンドイッチ」アッセイの両方を含む。これらのアッセイはまた、標識された抗体の標的バイオマーカーへの直接結合も含む。
【0090】
電気化学発光標識を用いる方法は、周知である。このような方法は、特殊な金属錯体の能力を利用して、酸化によって、励起状態となり、金属錯体は、励起状態から基底状態へ緩和して、電気化学発光を放出する。総説については、Richter,M.M.,Chem.Rev.2004;104:3003-3036を参照のこと。
【0091】
一実施形態において、バイオマーカーの量を測定するのに使用される検出抗体(またはその抗原結合断片)は、ルテニウム化(ruthenylated)またはイリジウム化(iridinylated)されている。そのため、抗体(またはその抗原結合断片)は、ルテニウム標識を含むものとする。一実施形態において、前記ルテニウム標識は、ビピリジン-ルテニウム(II)錯体である。あるいは、抗体(またはその抗原結合断片)は、イリジウム標識を含むものとする。一実施形態において、前記イリジウム標識は、国際公開第2012/107419号において開示されているような錯体である。
【0092】
RETの決定のためのサンドイッチアッセイの一実施形態において、アッセイは、(捕捉抗体として)RETを特異的に結合するビオチン化された第1のモノクローナル抗体と、検出抗体として)RETを特異的に結合する第2のモノクローナルのルテニウム化されたF(ab’)2-断片とを含む。2つの抗体は、サンプル中でRETとサンドイッチ免疫学的測定複合体を形成する。
【0093】
ポリペプチドの量を測定することは、好ましくは、(a)ポリペプチドを上記ポリペプチドと特異的に結合する薬剤と接触させる工程、(b)(任意で)結合していない薬剤を除去する工程、(c)結合した結合剤、すなわち工程(a)で形成された薬剤の複合体の量を測定するステップ、を含んでよい。好ましい実施形態によれば、前記接触させる工程、除去する工程および測定する工程は、分析装置ユニットにより実施し得る。いくつか実施形態によれば、前記工程は、前記システムの単一の分析装置ユニットによって、または互いに作動可能な通信状態にある複数の分析装置ユニットによって実施し得る。例えば、特定の実施形態によれば、本明細書で開示される上記システムは、前記接触させる工程および除去する工程を実施するための第1の分析装置ユニット、ならびに上記測定するステップを実施する、輸送ユニット(例えば、ロボットアーム)により、上記第1の分析装置ユニットに作動可能に接続された第2の分析装置ユニットを含んでよい。
【0094】
バイオマーカーを特異的に結合する作用物質(本明細書では「結合剤」ともいう)は、結合した作用物質の検出および測定を可能にする標識に、共有結合または非共有結合していてもよい。標識化は、直接または間接的な方法により行ってもよい。直接標識化は、標識を結合剤に直接的に(共有結合または非共有結合により)結合させることによって行われる。間接標識化は、第2の結合剤を第1の結合剤に(共有結合または非共有結合により)結合させることによって行われる。第2の結合剤は、第1の結合剤に特異的に結合するものとする。前記第2の結合剤は、適切な標識と結合する、および/または第2の結合剤に結合する第3の結合剤の標的(受容体)となり得る。好適な第2の、およびより高次の結合剤は、抗体、二次抗体、および周知のストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories,Inc.)を含んでよい。結合剤または基質はまた、当該技術分野で公知の1つ以上のタグで「タグ付けされ」ていてもよい。そうすることで、このようなタグは、より高次の結合剤の標的となり得る。好適なタグとしては、ビオチン、ジゴキシゲニン(digoxygenin)、His-タグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc-タグ、インフルエンザAウイルス赤血球凝集素(HA)、マルトース結合タンパク質等が挙げられる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは、好ましくはN末端および/またはC末端にある。好適な標識は、適切な検出方法で検出可能な任意の標識である。典型的な標識としては、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム錯体、イリジウム錯体、酵素的に活性な標識、放射性標識、磁気標識(「例えば磁気ビーズ」、常磁性および超常磁性標識を含む)、ならびに蛍光標識が挙げられる。酵素的に活性な標識としては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびそれらの誘導体が挙げられる。検出に適した基質としては、ジアミノベンジジン(DAB)、3,3’-5,5’-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(Roche Diagnostics製の既成の保存溶液として入手可能な4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリドおよび5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ホスファート)、CDP-Star(商標)(Amersham Bio-sciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)が挙げられる。適切な酵素-基質の組合せにより、着色された反応産物、蛍光または化学発光が生じてもよく、これは、当該技術分野で公知の方法によって(例えば感光フィルムまたは適切なカメラシステムを使用して)、決定することができる。酵素反応を測定することについては、上記の基準が同様に適用される。典型的な蛍光標識としては、蛍光タンパク質(例えば、GFPおよびその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、およびAlexa色素(例えばAlexa568)が挙げられる。さらなる蛍光標識が、例えばMolecular Probes(オレゴン州)から入手可能である。また、蛍光標識としての量子ドットの使用が、企図される。放射性標識は、公知かつ適切な、例えば感光膜またはホスホイメージャー(phosphor imager)等の任意の方法により検出され得る。
【0095】
ポリペプチドの量はまた、好ましくは、以下のとおり:(a)本明細書の他の箇所で記載されるようなポリペプチド用の結合剤を含む固体支持体を、ペプチドまたはポリペプチドを含むサンプルと接触させること、および(b)支持体に結合したペプチドまたはポリペプチドの量を測定して決定し得る。支持体を製造するための材料は、当該技術分野で周知であり、とりわけ、市販のカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンのチップおよび表面、ニトロセルロースストリップ、メンブレン、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレイのウェルおよび壁、プラスチックチューブ等が挙げられる。
【0096】
さらなる他の態様において、結合剤と少なくとも1つのマーカーとの間で形成された複合体から、形成された複合体の量の測定前に、サンプルが除去される。そのため、一態様において、結合剤は固形支持体上に固定されていてもよい。さらなる他の態様において、洗浄溶液を適用することによって、固体支持体上で形成された複合体からサンプルが除去され得る。
【0097】
「サンドイッチアッセイ」は、最も有用かつ通常使用されるアッセイに含まれ、サンドイッチアッセイ技術のいくつかのバリエーションを包含する。簡潔にいうと、典型的なアッセイでは、未標識の(捕捉)結合剤が固定化されているか、または固体基質上に固定化することができ、そして検査されるサンプルを、捕捉結合剤と接触させる。結合剤-バイオマーカー複合体の形成を可能にするのに十分な時間の、適切なインキュベート時間の後、検出可能なシグナルを生成できるレポーター分子で標識した第2の(検出)結合剤を添加し、結合剤-バイオマーカーで標識した結合剤という別の複合体の形成に十分な時間を許容してインキュベートする。未反応の物質は洗い流されてよく、バイオマーカーの存在は、検出結合剤に結合したレポーター分子により生成されるシグナルの観察により、決定される。その結果は、可視シグナルの単純な観察によって定性的であってもよいか、または既知量のバイオマーカーを含有する対照サンプルとの比較によって定量されてもよいかのいずれかである。
【0098】
典型的なサンドイッチアッセイのインキュベーション工程は、必要に応じて適切であるように変更することができる。このような変更には、例えば、2つ以上の結合剤およびバイオマーカーが共インキュベートされる同時インキュベーションが含まれる。例えば、分析されるサンプルおよび標識化された結合剤の両方が同時に、固定化された捕捉結合剤に添加される。また、分析されるサンプルおよび標識化された結合剤を最初にインキュベートし、その後、固相に結合した抗体、または固相に結合することができる抗体を添加することもできる。
【0099】
特異的な結合剤とバイオマーカーの間で形成される複合体は、サンプル中に存在するバイオマーカーの量に比例するものとする。適用される結合剤の特異性および/または感度が、サンプル中に含まれる、特異的に結合することができる少なくとも1つのマーカーの比率の程度を規定することは理解されるであろう。測定を実行する方法の詳細については、本明細書の別の箇所にも記載されている。形成された複合体の量は、サンプル中に実際に存在する量を反映するバイオマーカーの量へと変換されるものとする。
【0100】
「結合剤」、「特異的な結合剤」、「分析対象特異結合剤」、「検出剤」「バイオマーカーに結合する薬剤」、および「バイオマーカーに特異的に結合する薬剤」という用語は、本明細書では相互互換可能に使用される。好ましくは、それは、対応するバイオマーカーと特異的に結合する結合部分を含む薬剤に関する。「結合剤」、「検出剤」、「薬剤」の例は、核酸プローブ、核酸プライマー、DNA分子、RNA分子、アプタマー、抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)または化学物質である。好ましい薬剤は、決定されるバイオマーカーに特異的に結合する抗体である。本明細書で使用される「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および所望の抗原結合活性を示す限り抗体断片(すなわちその抗原結合断片)を含むが、これらに限定されず、様々な抗体構造を包含する。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体(または、それ由来の抗原結合断片)である。より好ましくは、抗体はモノクローナル抗体(または、それ由来の抗原結合断片)である。さらに、本明細書の他の箇所に記載されるように、(サンドイッチイムノアッセイにおいて)RETポリペプチドの異なる位置で結合する2つのモノクローナル抗体が使用されることが想定される。したがって、RETの量を決定するために少なくとも1つの抗体が使用される。
【0101】
薬剤または検出剤は、バイオマーカーRETに特異的に結合するものとする。「特異的な結合」または「を特異的に結合する」という用語は、結合対の分子が、別の分子に有意に結合しない条件下で、互いへの結合を呈する結合反応を指す。「特異的な結合」または「特異的に結合する」という用語は、バイオマーカーとしてのタンパク質またはペプチドに関する場合、好ましくは結合剤が、対応するバイオマーカーに少なくとも107M-1の親和性(「会合定数」Ka)で結合する結合反応を指す。「特異的な結合」または「特異的に結合する」という用語は、その標的分子に対して、好ましくは少なくとも108M-1、またはさらにより好ましくは少なくとも109M-1の親和性を指す。「特異的な」または「特異的に」という用語は、サンプル中に存在するその他の分子が、標的分子に特異的な結合剤に、有意に結合しないことを示すために使用される。
【0102】
「量」という用語は、本明細書で使用される場合、本明細書でいうバイオマーカー(例えば、RET)の絶対量、前記バイオマーカーの相対量または濃度、およびそれらと相関するまたはそれらから導き出され得る任意の値またはパラメータを包含する。このような値またはパラメータは、直接的な測定により当該ペプチドから得られる、全ての具体的な物理的または化学的特性に由来する強度シグナル値、例えば、質量スペクトルまたはNMRスペクトルにおける強度値を含む。さらに、本明細書の他の箇所で明示される間接測定により得られる値またはパラメータ全て、例えば、特異的に結合したリガンドから得られるペプチドまたは強度シグナルに応答して生物学的読み出しシステムにより決定される応答量が包含される。上述の量またはパラメータと相関する値は、全ての標準的な数学的演算によっても得ることができるということを理解されたい。
【0103】
「比較する」という用語は、本明細書で使用される場合、対象からのサンプルにおけるバイオマーカー(RET)の量を、本明細書の他の箇所で明示されるバイオマーカーの基準と比較することを指す。本明細書で使用する場合の比較することは、通常、対応するパラメータまたは値の比較を指し、例えば、絶対量は基準の絶対量と比較されるのに対し、濃度は基準の濃度と比較され、またはサンプル中のバイオマーカーから得られた強度シグナルは基準サンプルから得られた同じ種類の強度シグナルと比較されることを理解されたい。比較は、手作業またはコンピュータを利用して実施してもよい。したがって、比較は、コンピューティングデバイスによって実施することができる。対象からのサンプル中のバイオマーカーの決定量または検出量、および基準についての値は、例えば、互いに比較することができ、また前記比較は、比較のためのアルゴリズムを実行するコンピュータプログラムにより自動的に実施され得る。前記評価を実施するコンピュータプログラムは、適切な出力形式で、所望の評価を提供する。コンピュータを利用した比較のために、決定された量の値は、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている適切な基準に相当する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較の結果をさらに評価してもよく、すなわち、適切な出力形式で所望の評価を自動的に提供してもよい。コンピュータを利用した比較のために、決定された量の値は、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている適切な基準に相当する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較結果をさらに評価する、すなわち、好適なアウトプット様式で所望の予測を自動的に提供してもよい。
【0104】
本発明によれば、バイオマーカーRETの量は、基準、すなわち基準量(または複数の基準量)と比較されるものとする。したがって、基準は、好ましくは基準量である。「基準量」または「基準」という用語は、当業者によく理解されている。基準量は、本明細書の他の箇所に記載されているように、脳卒中および/または認知症の予測、白質病変の程度の評価、対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかの評価、対象の心房細動の診断、および対象の臨床脳卒中リスクスコアの予測精度の改善を補助することを可能にすることを理解されたい。例えば、脳卒中および/または認知症のリスクの予測を補助するための方法に関連して、基準量は、好ましくは、(i)脳卒中および/または認知症に罹患するリスクがある対象の群、または(ii)脳卒中および/または認知症に罹患するリスクがある対象の群のいずれかに対象を割り当てることが可能になる量を指す。例えば、心房細動の診断を補助するための方法に関連して、基準量は、好ましくは、(i)心房細動に罹患している被験者群、または(ii)心房細動に罹患していない被験者群、のいずれかに、被験者を割り当てることを可能にする量を指す。適切な基準量は、検査サンプルと一緒に、すなわち同時にまたは続いて分析される基準サンプルから決定されてもよい。
【0105】
基準量は、原則として、統計学の標準的な方法を適用することによって、所定のバイオマーカーの平均または平均値に基づいて、先に指定したような対象のコホートについて算出することができる。特に、事象の診断を目的とする方法などの試験が正確であるか否かは、受信者動作特性(ROC)により最もよく説明される(特に、Zweig MH.et al.,Clin.Chem.1993;39:561-577を参照のこと)。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって決定閾値を継続的に変動させることにより生じる、全ての感度対特異性のペアのプロットである。診断方法の臨床成績は、その正確性、すなわち被験者を特定の予後または診断に正確に割り当てる能力に依存する。ROCプロットは、区別を行うのに適した閾値の全範囲について、感度対1-特異性をプロットすることにより、2つの分布間の重複を示す。y軸は、感度、または真陽性率であり、真陽性の検査結果の数および偽陰性の検査結果の数の積に対する、真陽性の検査結果の数の比率として定義される。y軸は、影響を受ける下位群からのみ計算される。x軸上は、偽陽性率、または1-特異性であり、これは、真陰性の数および偽陽性結果の数の積に対する、偽陽性結果の数の比率として定義される。x軸は、特異性の指標であり、影響を受けない下位群からのみ計算される。真陽性率および偽陽性率は、2つの異なる下位群からの検査結果を使用することによって完全に別個に計算されるので、ROCプロットはコホートにおける事象の有病率に非依存性である。ROCプロット上の各点は、特定の決定閾値に相当する感度/1-特異性の対を表す。完全な区別のある(結果の2つの分布に重なりがない)検査は、左上隅を通過するROCプロットを有しており、真陽性率は1.0、または100%(完全な感度)であり、偽陽性率は0(完全な特異性)となる。区別のない(2つの群についての結果の分布が同一である)検査についての理論上のプロットは、左下隅から右上隅への45°の対角線となる。ほとんどのプロットは、これらの2つの極値の間に収まる。ROCプロットが45°対角線を完全に下回って収まる場合、これは、「陽性率」についての基準を「より高い」から「より低い」に入れ替え、逆もまた同様にすることによって、容易に修正される。定性的には、プロットが左上隅に近いほど、試験全体の精度が高くなる。所望の信頼区間に応じて、ROC曲線から閾値を導くことができ、これにより、感度および特異性の適切な平衡状態をそれぞれ備えた所与の事象についての診断が可能になる。したがって、本発明の方法に使用される参照、すなわち、脳卒中および/または認知症の予測、白質病変の程度の評価、対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかの評価、対象の心房細動の診断、および対象の臨床脳卒中リスクスコアの予測精度の改善等のそれぞれの評価を可能にする閾値は、好ましくは、上記のように前記コホートのROCを確立し、そこから閾値を導くことによって生成することができる。評価における所望の感度および特異性に応じて、ROCプロットは、好適な閾値を導き出すことができる。例えば、脳卒中および/または認知症のリスクがある対象を除外する(すなわちルールアウト)ためには、最適な感度が望ましく、脳卒中および/または認知症のリスクがあると予測される対象に対しては(すなわちルールイン)、最適な特異性が想定されることが理解されるはずである。
【0106】
RETの量は年齢と共に減少することが当技術分野で知られているため、年齢に特異的な、すなわち年齢が一致した基準量を使用することができる。これは当業者により考慮される。
【0107】
好ましくは、本明細書における「基準量」という用語は、所定の値を指す。前記所定の値は、脳卒中および/または認知症の予測、白質病変の程度の評価、対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかの評価、対象における心房細動の診断、および対象の臨床脳卒中リスクスコアの予測精度の改善等、本明細書で言及される評価を可能にするものとする。
【0108】
脳卒中および/または認知症のリスクの予測を補助するための方法では、例えば、基準、すなわち基準量は、脳卒中および/または認知症に罹患するリスクがある対象と、脳卒中および/または認知症に罹患するリスクがない対象とを区別することを可能にするものとする。AFの診断を補助するための方法において、例えば、参照は、AFに罹患している対象とAFに罹患していない対象とを区別することを可能にするものとする。
【0109】
脳卒中および/または認知症のリスクの予測に関連して、診断アルゴリズムは、好ましくは以下のとおりである:
【0110】
好ましくは、基準よりも低いRETの量は、脳卒中および/または認知症のリスクがある対象について示され、および/または基準よりも大きいRETの量は、脳卒中および/または認知症のリスクがない対象について示される。
【0111】
本発明の基礎となる研究では、RETの決定により、対象についての臨床脳卒中リスクスコアの予測精度を改善することができることがさらに示されている。したがって、臨床脳卒中リスクスコアの決定とRETの量の決定との組合せにより、RETの決定または臨床脳卒中リスクスコアの決定単独と比較して、脳卒中のさらにより信頼性の高い予測が可能となる。さらに、ESCガイドラインによって推奨されているリスクスコアは十分に高感度ではなく、抗凝固療法のために患者を見逃す。
【0112】
適宜、脳卒中のリスクを予測するための方法は、RETの量を脳卒中の臨床リスクスコアと組み合わせることをさらに含んでもよい。RETの量と臨床リスクスコアとの組合せに基づいて、検査対象の脳卒中のリスクが予測される。
【0113】
あるいは、本方法は、臨床脳卒中リスクスコアの値を取得することまたは提供することを含んでもよい。好ましくは、上記値は数値である。一実施形態において、臨床脳卒中リスクスコアは、医師が利用できる臨床ベースのツールの1つによって生成される。好ましくは、その値は、対象の臨床脳卒中リスクスコアの値を決定することによって提供されたものである。より好ましくは、対象の値は、その対象の患者記録データベースおよび病歴から得られる。したがって、上記スコアの値は、対象の病歴または公開データを使用して決定することもできる。
【0114】
本発明によれば、RETの量は、臨床脳卒中リスクスコアと組み合わせ得る。これは、好ましくは、RETの量についての値が、脳卒中の臨床リスクスコアと組み合わされることを意味する。したがって、これらの値は、対象が脳卒中に罹患するリスクを予測するために機能的に組み合わされる。これらの値を組み合わせることにより、単一の値を計算でき、それ自体を予測に使用することができる。
【0115】
臨床脳卒中リスクスコアは、当該技術分野において周知である。例えば、上記スコアは、Kirchhof P.et al(European Heart Journal 2016;37:2893-2962)に記載されている。一実施形態において、スコアは、CHA2DS2-VAScスコアである。他の実施形態において、スコアは、CHADS2スコア(Gage BF.Et al.,JAMA,285(22)(2001),pp.2864-2870)およびABCスコア、すわなち、ABC(age,biomarkers,clinical history)脳卒中リスクスコア(Hijazi Z.et al.,Lancet 2016;387(10035):2302-2311)である。この段落の全ての出版物は、その全ての開示内容に関して、参照により本明細書に組み込まれる。
【0116】
したがって、一実施形態において、臨床脳卒中リスクスコアは、CHA2DS2-VAScスコアである。したがって、本発明の代替的な一実施形態において、臨床脳卒中リスクスコアは、CHADS2スコアである。さらなる一実施形態において、臨床リスクスコアは、ABCスコアである。上記ABC脳卒中リスクスコアは、AFの脳卒中を予測するため新規のバイオマーカーベースのリスクスコアで、AF患者の大規模なコホートで検証され、さらに独立したAFコホートで外部的に検証された(上述Hijazi et al,2016を参照のこと)。それは、対象の年齢、対象における心臓トロポニンTおよびNT-proBNPの血液、血清または血漿レベル、および対象が脳卒中の病歴を有するかどうかに関する情報を含む。好ましくは、ABC脳卒中スコアは、Hijazi et al.2016で開示されたスコアである。
【0117】
好ましい実施形態において、(本明細書の他の個所に記載されるように)対象における脳卒中のリスクを予測するための上記方法は、対象が脳卒中に罹患するリスクがあると特定された場合、抗凝固療法を推奨する工程、または抗凝固療法の強化を推奨する工程をさらに含む。
【0118】
本発明はさらに、対象の臨床脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するための方法に関し、前記方法は、
a)対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、および
b)バイオマーカーRETの量の値を臨床脳卒中リスクスコアと組み合わせる工程
を含み、それにより、前記臨床脳卒中リスクスコアの予測精度が改善される。
【0119】
この方法は、c)工程b)の結果に基づいて、前記臨床脳卒中リスクスコアの予測精度が改善されるさらなる工程を含んでもよい。
【0120】
脳卒中および/または認知症のリスクの予測を補助する方法に関連して本明細書で上に与えられる定義および説明は、好ましくは前述の方法にも適用される。例えば、対象は、既知の臨床脳卒中リスクスコアを有する対象であることが想定される。あるいは、本方法は、臨床脳卒中リスクスコアの値を取得することまたは提供することを含んでもよい。
【0121】
上述によれば、RETの量は、臨床脳卒中リスクスコアと組み合わされる。これは、好ましくは、RETの量についての値が、脳卒中の臨床脳卒中リスクスコアと組み合わされることを意味する。その結果、これらの値を機能的に組み合わせて、前記臨床脳卒中リスクスコアの予測精度を改善させる。
【0122】
本発明の方法は、個別化医療を補助することができる。好ましい一実施形態において、対象の脳卒中のリスクを予測するための方法は、対象が脳卒中に罹患するリスクがあると特定された場合に、i)抗凝固療法を推奨する工程、またはii)抗凝固療法の強化を推奨する工程をさらに含む。他の好ましい一実施形態において、対象の脳卒中のリスクを予測するための方法は、(本発明の方法によって)対象が脳卒中に罹患するリスクがあると識別された場合、i)抗凝固療法を開始する工程、またはii)抗凝固療法を強化する工程をさらに含む。
【0123】
抗凝固療法は、好ましくは、上記対象における抗凝固のリスクを低減することを目的とする治療である。少なくとも1つの抗凝固剤を投与することは、血液の凝固および関連する脳卒中を低減または防止することを目的とする。好ましい一実施形態において、少なくとも1つの抗凝固剤は、ヘパリン、クマリン誘導体(すなわち、ビタミンK拮抗薬)、特にワルファリンまたはジクマロール、経口抗凝固剤、特にダビガトラン、リバーロキサバンまたはアピキサバン、組織因子経路阻害剤(TFPI)、アンチトロンビンIII、第IXa因子阻害剤、第Xa因子阻害剤、第Va因子と第VIIIa因子の阻害剤、およびトロンビン阻害剤(抗IIa型)からなる群から選択される。
【0124】
特に好ましい一実施形態において、抗凝固剤は、ワルファリンまたはジクマロール等のビタミンK拮抗薬である。ワルファリンまたはジクマロール等のビタミンK拮抗薬は、安価であるが、不便で扱いにくく、また治療範囲において時間変動を伴う信頼性の低い治療が多いため、患者のコンプライアンスを改善する必要がある。NOAC(新しい経口抗凝固剤)は、直接第Xa因子阻害剤(アピキサバン、リバーロキサバン、ダレキサバン、エドキサバン)、直接トロンビン阻害剤(ダビガトラン)およびPAR-1拮抗薬(ボラパクサル、アトパキサール)を含む。
【0125】
試験対象が抗凝固療法を受けている場合、および(本発明の方法によって)対象が脳卒中に罹患するリスクがないと識別された場合、抗凝固療法の投与量を減らすことができる。したがって、投与量を減らすことが推奨される場合がある。投与量を減らすことで、副作用(出血等)に罹患するリスクが減る可能性がある。
【0126】
本明細書で使用される「推奨する」という用語は、対象に適用できる治療法の提案を確立することを意味する。しかしながら、実際の治療法を適用することは、どんなものであれ、この用語に含まれないことを理解されたい。推奨される治療は、本発明の方法によって、例えば予測の結果に依存する。
【0127】
特に、以下が適用される:
試験される対象が抗凝固療法を受けていない場合、対象が脳卒中に罹患するリスクがあると識別されていれば、抗凝固療法の開始が推奨される。したがって、抗凝固療法を開始するものとする。
【0128】
試験される対象がすでに抗凝固療法を受けている場合、対象が脳卒中に罹患するリスクがあると識別されていれば、抗凝固療法の強化が推奨される。したがって、抗凝固療法を強化するものとする。
【0129】
好ましい一実施形態において、抗凝固療法は、抗凝固剤の投与量、すなわち現在投与されている凝固剤の投与量を増やすことにより強化される。
【0130】
特に好ましい一実施形態において、現在投与されている抗凝固剤を、より効果的な抗凝固剤への置き換えることにより、抗凝固療法が強化される。したがって、抗凝固剤の置き換えが推奨される。
【0131】
Hijazi at al.,The Lancet 2016 387,2302-2311,(
図4)に示されているように、高リスク患者のより良い予防は、ビタミンK拮抗薬であるワルファリンと比較して経口抗凝固剤アピキサバンで達成されることが記載されている。
【0132】
したがって、試験される対象は、ワルファリンまたはジクマロール等のビタミンK拮抗薬で治療される対象であることが想定される。対象が脳卒中に罹患するリスクがあると(本発明の方法により)特定された場合、ビタミンK拮抗薬の経口抗凝固剤、特にダビガトラン、リバーロキサバンまたはアピキサバンによる置き換えが推奨される。したがって、ビタミンK拮抗薬による治療が中止されることにより、経口抗凝固剤による治療が開始される。
【0133】
上記の本明細書に示される定義は、好ましくは、白質病変の程度の評価を補助するための以下の方法に準用される。
【0134】
興味深いことに、本発明の基礎となる研究では、バイオマーカーRETは、心房細動患者の認知症および認知機能障害の原因としての脳血管損傷のリスク、存在および/または重症度を推定するために使用できることが示された。具体的には、RETは患者の白質病変(WML)の存在と負の相関があることが示された。RETの量が少ないほど、白質病変の程度が高くなる(逆もまた同様である)。したがって、RETは、白質病変の程度を評価するためのマーカーとして使用することができる。
【0135】
したがって、本発明はさらに、対象の白質病変の程度の評価を補助するための方法に関し、前記方法は、
a)前記対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、および
b)好ましくは、工程a)で決定された量に基づいて、対象の白質病変の程度の評価を補助する工程
を含む。
【0136】
「サンプル」および「対象」という用語は上記で定義されている。定義は、適宜、適用される。特に、対象は心房細動に罹患していないことが想定される。さらに、サンプルは、例えば、血液、血清もしくは血漿サンプル、または組織サンプルであり得る。
【0137】
「白質病変」という用語は、当技術分野で周知である。白質とは、主に有髄軸索で構成される中枢神経系(CNS)の領域を指す。白質病変(「白質疾患」とも呼ばれる)は、一般的に、老化個体の脳MRIで白質過強度(WMH)または「白質萎縮症」として検出される。WMHの存在および程度は、小脳血管疾患のX線マーカーであり、脳卒中、認知障害および機能障害の生涯リスクの重要な予測因子であることが記載されている(Chutinet A,Rost NS.White matter disease as a biomarker for long-term cerebrovascular disease and dementia.Curr Treat Options Cardiovasc Med.2014;16(3):292.doi:10.1007/s11936-013-0292-z)。RETの決定は、WMLの程度、すなわちWMLの負担を評価することを可能にする。したがって、バイオマーカーは、対象におけるWMLの定量化を可能にする、すなわち、機能的脳組織の体積の喪失のマーカーである。
【0138】
白質病変の程度は、Fazekasスコア(Fazekas,JB Chawluk,A Alavi,HI Hurtig,and RA Zimmerman American Journal of Roentgenology 1987 149:2,351-356)によって表すことができる。Fazekasスコアは0~3の範囲である。0はWMLなし、1は軽度WML、2は中等度WML、3は重度WMLを示す。
【0139】
本明細書で提供する上記の定義は、好ましくは、以下の方法について準用する。
【0140】
WMLの程度は、臨床的に無症候性の脳卒中によって引き起こされ得る。したがって、バイオマーカーRETは、対象が過去、すなわちサンプルが得られる前に1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかの評価を補助するためにさらに使用することができる。
【0141】
したがって、本発明はさらに、対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかの評価を補助するための方法に関し、前記方法は、
a)対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された量を、基準と比較する工程、および
c)好ましくは比較工程の結果に基づいて、対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかの評価を補助する工程
を含む。
【0142】
無症候性脳卒中、すなわち無症候性脳卒中(cerebral stroke)は、当技術分野で知られており、例えば、Conenら(Conen et al.,J Am Coll Cardiol2019;73:989-99)に記載されており、その開示内容全体に関して参照により本明細書に組み込まれる。無症候性脳卒中は、脳卒中または一過性虚血発作の臨床歴のない患者における臨床的に無症候性の脳卒中である。したがって、試験される対象は、脳卒中および/またはTIA(一過性虚血発作)の既知の病歴を有さないものとする。
【0143】
好ましい一実施形態において、試験される対象は、心房細動に罹患している。
【0144】
好ましくは、診断アルゴリズムとして以下が適用される。
【0145】
基準よりも低いRETの量は、1つ以上の無症候性脳卒中を経験した対象について示され、かつ/または基準よりも大きいRETの量は、無症候性脳卒中を経験していない対象について示される。
【0146】
本明細書での上記の定義は、好ましくは、以下に適用される:
本発明の研究で行われた研究は、RET量の変化に基づいて対象をモニタリングすることが可能であることを示している。例えば、白質病変の程度、すなわち白質病変の体積が増加するか否かをモニタリングすることができる。白質病変の程度の増加は認知機能の低下に関連し得るので、バイオマーカーRETの決定はまた、対象の認知機能のモニタリングを可能にし得る。
【0147】
したがって、本発明はさらに、対象をモニタリングするための方法に関し、前記方法は、
a)対象由来の第1のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
b)第1のサンプルの後に得られた対象由来の第2のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
c)第1のサンプル中のバイオマーカーRETの量を第2のサンプル中のバイオマーカーRETの量と比較する工程、および
d)工程c)の結果に基づいて対象をモニタリングする工程
を含む。
【0148】
また、本発明はさらに、対象をモニタリングするためのバイオマーカーRETまたはバイオマーカーRETに結合する薬剤のインビトロ使用に関する。いくつかの実施形態において、バイオマーカーRETまたは薬剤は、対象由来の第1および第2のサンプルにおいて使用される。
【0149】
モニタリングされる対象は、脳卒中および/または認知症のリスクを予測するための方法に関連して定義される対象であり得る。例えば、対象は心房細動に罹患している可能性がある。
【0150】
好ましくは、対象における白質病変の程度および/または対象の認知機能がモニタリングされる。しかしながら、心筋心房の形態変化、脳梗塞、脳微小出血、不整脈の進行、併存症(高血圧または糖尿病)の進行および/または鬱病症状の進行をモニタリングすることも想定される。あるいは、機能的脳組織の量をモニタリングしてもよい。
【0151】
モニタリングは、第1のサンプル中のバイオマーカーRETの量と第2のサンプル中のバイオマーカーRETの量との比較に基づくものとする。「第2のサンプル」は、第1のサンプルにおけるRET量と比較したバイオマーカーRET量の変化を反映させるために得られるサンプルであると理解される。したがって、第2のサンプルは第1のサンプルの後に取得するものとする。好ましくは、第2のサンプルは、(モニタリングを可能にするのに十分に有意な変化を観察するために)第1のサンプルの直後には得られない。一実施形態において、第2のサンプルは、第1のサンプルの少なくとも1ヶ月後に得られる。他の実施形態において、第2のサンプルは、第1のサンプルの少なくとも6ヶ月後に得られる。他の実施形態において、第2のサンプルは、第1のサンプルの少なくとも1年後または2年後に得られる。さらに、第2のサンプルは、第1のサンプルから15年以内、10年以内、または特に5年以内に得られることが想定される。したがって、第2のサンプルは、例えば、第1のサンプルの少なくとも6ヶ月後であるが5年以内に得ることができる。
【0152】
さらに、対象は、第1のサンプルと第2のサンプルとの間に脳素中を示したことが想定される。「脳卒中」という用語は、本明細書では上記で定義されている。
【0153】
好ましくは、第1のサンプルと比較して第2のサンプル中のバイオマーカーRETの量の減少、特に有意な量の減少は、対象の白質病変の程度の上昇および/または対象の認知機能の低下を示す。したがって、第1のサンプルと第2のサンプルとの間で、白質の程度が増加し、および/または認知機能が低下した。バイオマーカーRETの有意に減少した量は、対照の対象の群における平均減少よりも大きい減少であると理解されるべきである。いくつかの実施形態において、少なくとも1%(例えば1年毎)の減少等の、少なくとも0.5%(例えば1年毎)のバイオマーカーRETの量の減少は、白質病変の程度の上昇および/または認知機能の低下を示す。
【0154】
本明細書での上記の定義は、好ましくは、以下に適用される:
好都合なことに、本発明の基礎となる研究では、対象由来のサンプル中のRETの測定によって心房細動の診断が可能になることが示されている。
【0155】
ヒト対象の心房細動の評価を補助するための方法であって、前記方法は、
a)対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された量を、基準量比較する工程、および
c)心房細動の診断を補助する工程
を含む、方法。
【0156】
本明細書によって言及される「診断する」という用語は、本発明によって言及される対象が心房細動(AF)に罹患しているか否かを評価することを意味する。好ましい実施形態において、対象は心房細動に罹患していると診断される。代替の実施形態において、対象はAFに罹患していないと診断される。
【0157】
本発明によれば、全てのタイプのAFを診断することができる。したがって、心房細動は、発作性、持続性、または恒常性のAFであり得る。好ましくは、発作性または持続性の心房細動は、例えば恒常性心房細動に罹患していない対象において診断される。いくつかの実施形態において、持続性のAFが診断される。
【0158】
対象がAFに罹患しているか否かの実際の診断は、診断の確認(例えば、ホルターECG等のECGによる)等のさらなる工程を含み得る。したがって、本発明は、患者が心房細動に罹患する可能性を判定することを可能にする。基準を下回るRETの量を有する対象は、心房細動に罹患している可能性が高いのに対し、基準量を上回るRETの量を有する対象は、心房細動に罹患していない可能性が低い。したがって、本発明の文脈における「診断する」という用語は、対象が心房細動に罹患しているか否かを評価するために医師を補助することも包含する。
【0159】
好ましい実施形態において、基準量、すなわちRETについての基準量基準量は、心房細動に罹患している対象と心房細動に罹患していない対象とを区別することを可能にするものとする。好ましくは、前記基準量は所定の値である。
【0160】
好ましくは、基準と比較して減少した対象由来のサンプル中のRETバイオマーカーの量は、心房細動に罹患している対象について示され、および/または基準と比較して上昇した対象由来のサンプル中のRETバイオマーカーの量は、心房細動に罹患していない対象について示される。
【0161】
「対象」および「サンプル」という用語は上記で定義されている。定義は、適宜、適用される。例えば、サンプルが得られた時点で対象が洞調律であったことが想定される。
【0162】
心房細動を診断する方法の一実施形態において、前記方法は、診断の結果に基づいて心房細動の治療を推奨および/または開始する工程をさらに含む。好ましくは、対象がAFに罹患していると診断された場合、治療が推奨または開始される。心房細動の好ましい治療は、本明細書の他の箇所に開示されている抗凝固療法である。
【0163】
認知症に罹患している対象における認知症の重症度の診断を補助するための方法であって、前記方法は、
a)対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された量を、基準量比較する工程、および
c)好ましくは、工程c)の結果に基づいて、対象の認知症の重症度の診断を補助する工程
を含む、方法。
【0164】
MWLおよび/または臨床的に無症候性の梗塞(病変のサイズ、位置およびタイプを含む)等の脳血管損傷の診断は、今日では、典型的には長く費用のかかる磁気共鳴画像法(MRI)を用いて行われている。しかしながら、RETの決定によって、脳MRIのための迅速かつ費用効率の高い事前選択が可能になる。
【0165】
本発明の方法は、脳卒中または認知症のリスクがあると特定された患者、WMLの程度が高いと特定された患者、過去に1回以上の無症候性脳卒中を経験したことが特定された患者、および/またはAFに罹患していると診断された患者を脳の磁気共鳴画像法(MRI)、特に脳血管損傷を評価するためのMRIに供する工程をさらに含み得る。
【0166】
本発明はさらに、対象における脳卒中および/または認知症の予測を補助するためのバイオマーカーRETまたはバイオマーカーRETに結合する薬剤のインビトロ使用に関する。
【0167】
本発明はさらに、対象における白質病変の程度の評価を補助するためのバイオマーカーRETまたはバイオマーカーRETに結合する薬剤のインビトロ使用に関する。
【0168】
本発明はさらに、対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかの評価を補助するためのバイオマーカーRETまたはバイオマーカーRETに結合する薬剤のインビトロ使用に関する。
【0169】
本発明はさらに、対象における心房細動の診断を補助するためのバイオマーカーRETまたはバイオマーカーRETに結合する薬剤のインビトロ使用に関する。
【0170】
本発明はさらに、対象の臨床脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するためのバイオマーカーRETまたはバイオマーカーRETに結合する薬剤のインビトロ使用に関する。
【0171】
好ましくは、上述の使用は、インビトロ使用である。したがって、それらは好ましくは対象から得られたサンプル中で行われる。さらに、検出剤は、好ましくは、バイオマーカーRETに特異的に結合するモノクローナル抗体(またはその抗原結合断片)等の抗体である。
【0172】
本発明の方法はまた、コンピュータ実装方法として実施されてもよい。
【0173】
したがって、本発明は、対象の脳卒中および/または認知症の予測を補助するためのコンピュータ実装方法に関し、前記方法は、
a)処理ユニットにおいて、前記対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション中に再配列)の量についての値を受け取る工程、
b)工程(a)で受け取った値を処理ユニットで処理する工程であって、前記処理する工程が、バイオマーカーRETの量についての1つ以上の閾値をメモリから検索すること、および工程(a)で受け取った値を1つ以上の閾値と比較することとを含む、値を処理ユニットで処理する工程、および
c)出力装置を介して脳卒中および/または認知症の予測を提供する工程であって、前記予測が工程(b)の結果に基づく、予測を提供する工程
を含む。
【0174】
本発明はさらに、対象の白質病変の程度の評価を補助するためのコンピュータ実装方法に関し、前記方法は、
a)処理ユニットにおいて、前記対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション中に再配列)の量についての値を受け取る工程、
b)工程(a)で受け取った値を処理ユニットで処理する工程であって、前記処理する工程が、バイオマーカーRETの量についての1つ以上の閾値をメモリから検索することと、工程(a)で受け取った値を1つ以上の閾値と比較することとを含む、値を処理ユニットで処理する工程、および
e)出力装置を介して対象の白質病変の程度の評価を提供する工程であって、前記評価が工程b)の結果に基づく、評価を提供する工程
を含む。
【0175】
本発明はさらに、対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかの評価を補助するためのコンピュータ実装方法に関し、前記方法は、
a)処理ユニットにおいて、対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション中に再配列)の量についての値を受け取る工程、
b)工程(a)で受け取った値を処理ユニットで処理する工程であって、前記処理する工程が、バイオマーカーRETの量についての1つ以上の閾値をメモリから検索することと、工程(a)で受け取った値を1つ以上の閾値と比較することとを含む、値を処理ユニットで処理する工程、および
c)出力装置を介して対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかの評価を提供する工程であって、前記評価が工程(b)の結果に基づく、評価を提供する工程
を含む。
【0176】
本発明はさらに、対象における心房細動の診断を補助するためのコンピュータ実装方法に関し、前記方法は、
a)処理ユニットにおいて、対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション中に再配列)の量についての値を受け取る工程、
b)工程(a)で受け取った値を処理ユニットで処理する工程であって、前記処理する工程が、バイオマーカーRETの量についての1つ以上の閾値をメモリから検索することと、工程(a)で受け取った値を1つ以上の閾値と比較することとを含む、値を処理ユニットで処理する工程、および
c)出力装置を介して心房細動の診断を提供する工程であって、前記診断が工程(b)の結果に基づく、診断を提供する工程
を含む。
【0177】
本発明の方法の一実施形態において、(本発明のコンピュータ実装方法の最後の工程による)予測、評価または診断に関する情報は、予測、評価または診断を提示するように構成されたディスプレイを介して提供される。例えば、対象が脳卒中および/または認知症のリスクがあるか否かに関する情報が提供されてもよい。さらに、適切な治療法の推奨を表示することができる。
【0178】
本発明の前述のコンピュータ実装方法の実施形態において、該方法は、工程c)で行われた判定に関する情報を対象の電子医療記録に転送するさらなる工程を含み得る。
【0179】
あるいは、本発明の方法の最後の工程で行われた評価を、プリンタによって印刷することができる。印刷出力は、患者にリスクがあるか、リスクがないか、および/または適切な治療措置の推奨に関する情報を含むものとする。
【0180】
本発明はさらに、コンピュータまたはコンピュータネットワーク上でプログラムが実行される際に、本発明による方法の工程を実施するためのコンピュータ実行可能命令を含むコンピュータプログラムに関する。典型的には、コンピュータプログラムは、具体的には、本明細書に開示される方法の工程を実施するためのコンピュータ実行可能命令を含むことができる。具体的には、コンピュータプログラムは、コンピュータ可読データ媒体に記憶され得る。
【0181】
本発明はさらに、プログラムがコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行されるときに、脳卒中および/または認知症の予測を補助するためのコンピュータ実装方法等の本発明によるコンピュータ実装方法を実行するために、機械可読キャリア上に記憶されたプログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品、例えばコンピュータプログラムの文脈で論じられた上述の工程の1つ以上に関する。本明細書中で用いられる場合、コンピュータプログラム製品は、取引可能な製品としてのプログラムを指す。製品は、一般的に、紙のフォーマットなどの任意のフォーマットで、またはコンピュータ可読データキャリア上に存在することができる。具体的には、コンピュータプログラム製品は、データネットワーク上で配信されてもよい。
【0182】
本発明はさらに、少なくとも1つの処理ユニットを備えるコンピュータまたはコンピュータネットワークに関し、処理ユニットは、本発明によるコンピュータ実装方法の全ての工程を実施するように適合される。
【0183】
さらに、本発明はまた、以下を企図する:
- 前記プロセシングユニットが、この説明で記載され実施形態の1つによる方法を実行するように適合された少なくとも1つの処理ユニットを含むコンピュータまたはコンピュータネットワーク、
- データ構造がコンピュータ上で実行されている間に、本明細書に記載された実施形態のうちの1つにかかる方法を実行するように適合されたコンピュータロード可能データ構造、
- プログラムがコンピュータ上で実行されている間に、この明細書に記載された実施形態の1つによる方法を実行するように適合されたコンピュータスクリプト、
- コンピュータプログラムがコンピュータ上またはコンピュータネットワーク上で実行されている間に、この明細書に記載された実施形態のうちの1つにかかる方法を実行するためのプログラム手段を備えるコンピュータプログラム、
- プログラム手段がコンピュータに読み取り可能な記憶媒体上に記憶された、先行する実施形態にかかるプログラム手段を備えるコンピュータプログラム、
- データ構造が記憶媒体に記憶され、データ構造が、コンピュータもしくはコンピュータネットワークの主記憶装置および/または作業記憶装置にロードされた後、本明細書に記載の実施形態のうちの1つにかかる方法を実行するように適合された、記憶媒体、
- コンピュータまたはコンピュータネットワーク上でプログラムコード手段が実行された場合に、この明細書に記載された実施形態のうちの1つにかかる方法を実行するために、プログラムコード手段が記憶されることができる、または記憶媒体上に記憶されることができる、プログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品、
- 典型的には暗号化された、本明細書中上記で特定されるような個体から得られるグルコースデータ測定値を含むデータストリームシグナル、ならびに
- 本発明の方法によって得られたガイダンスの評価を補助する情報を含む、典型的には暗号化されたデータストリームシグナル。
【0184】
本発明の実施形態
以下では、本発明の実施形態が概要される。本明細書での上記の定義は、好ましくは、以下について適用される。
【0185】
1.対象における脳卒中および/または認知症の予測を補助するための方法であって、
a)対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された量を、基準量比較する工程、および
c)脳卒中および/または認知症の予測を補助する工程
を含む、方法。
【0186】
2.対象が、心房細動に罹患している、実施形態1に記載の方法。
【0187】
3.脳卒中のリスクが予測され、脳卒中が虚血性脳卒中である、実施形態1および2に記載の方法。
【0188】
4.認知症のリスクが予測され、認知症が、血管性認知症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症および/または前頭側頭型認知症である、実施形態1および2に記載の方法。
【0189】
5.バイオマーカーRETがRETポリペプチドである、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0190】
6.サンプルが血液、血清もしくは血漿サンプルであるか、またはサンプルが組織サンプルである、実施形態1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0191】
7.基準よりも低いRETの量が、脳卒中および/または認知症のリスクがある対象について示され、かつ/または、基準よりも大きいRETの量が、脳卒中および/または認知症のリスクがない対象について示される、実施形態1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0192】
8.対象が、脳卒中および/またはTIA(一過性脳虚血発作)の病歴を有する、実施形態1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0193】
9.対象が1年から10年以内、例えば3年以内または5年以内に脳卒中および/または認知症に罹患するリスクが予測される、実施形態1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0194】
10.対象が65歳以上である、実施形態1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0195】
11.対象における白質病変の程度の評価を補助するための方法であって、
a)対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
b)工程a)で決定された量に基づいて、対象の白質病変の程度の評価を補助する工程
を含む、方法。
【0196】
12.対象が、心房細動に罹患している、実施形態11に記載の方法。
【0197】
13.サンプルが、血液、血清、もしくは血漿サンプルである、またはサンプルが組織サンプルである、実施形態11および12に記載の方法。
【0198】
14.対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかの評価を補助するための方法であって、
a)対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された量を、基準量比較する工程、および
c)対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかの評価を補助する工程
を含む、方法。
【0199】
15.対象が、脳卒中またはTIA(一過性脳虚血発作)の既知の病歴を有さない、実施形態14に記載の方法。
【0200】
16.対象が、心房細動に罹患している、実施形態14および15に記載の方法。
【0201】
17.サンプルが血液、血清もしくは血漿サンプルであるか、またはサンプルが組織サンプルである、実施形態14~16のいずれか1つに記載の方法。
【0202】
18.基準よりも低いRETの量が、1つ以上の無症候性脳卒中を経験した対象について示され、かつ/または基準よりも大きいRETの量が、無症候性脳卒中を経験していない対象について示される、実施形態14~17のいずれか1つに記載の方法。
【0203】
19.対象における心房細動の診断を補助するための方法であって、
a)対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、
b)工程a)において決定された量を、基準量比較する工程、および
c)心房細動の診断を補助する工程
を含む、方法。
【0204】
20.心房細動が発作性または持続性の心房細動である、実施形態19に記載の方法。
【0205】
21.サンプルが得られた時点で対象が洞調律であった、実施形態19および20に記載の方法。
【0206】
22.対象の臨床脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するための方法であって、
a)対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション再編成)の量を決定する工程、および
b)バイオマーカーRETの量の値を臨床脳卒中リスクスコアと組み合わせる工程
を含み、それにより、臨床脳卒中リスクスコアの予測精度が改善される、方法。
【0207】
23.対象における脳卒中および/または認知症の予測を補助するためのバイオマーカーRETまたはバイオマーカーRETに結合する薬剤のインビトロ使用。
【0208】
24.対象における白質病変の程度の評価を補助するためのバイオマーカーRETまたはバイオマーカーRETに結合する薬剤のインビトロ使用。
【0209】
25.対象が1回以上の無症候性脳卒中を経験したかどうかの評価を補助するための、バイオマーカーRETまたはバイオマーカーRETに結合する薬剤のインビトロ使用。
【0210】
26.対象における心房細動の診断を補助するためのバイオマーカーRETまたはバイオマーカーRETに結合する薬剤のインビトロ使用。
【0211】
27.対象の臨床脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するためのバイオマーカーRETまたはバイオマーカーRETに結合する薬剤のインビトロ使用。
【0212】
28.対象の脳卒中および/または認知症の予測を補助するためのコンピュータ実装方法であって、
a)処理ユニットにおいて、対象由来のサンプル中のバイオマーカーRET(トランスフェクション中に再配列)の量についての値を受け取る工程、
b)工程(a)で受け取った値を処理ユニットで処理する工程であって、処理ユニットで処理する工程が、バイオマーカーRETの量についての1つ以上の閾値をメモリから検索することと、工程(a)で受け取った値を1つ以上の閾値と比較することとを含む、値を処理ユニットで処理する工程、および
c)出力装置を介して脳卒中および/または認知症の予測を提供する工程であって、予測が工程(b)の結果に基づく、予測を提供する工程
を含む、コンピュータ実装方法。
【0213】
本明細書で引用された全ての参考文献は、その全体の開示内容および本明細書で具体的に言及された開示内容に関して、参照により本明細書で組み込まれる。
【実施例】
【0214】
実施例1:AF患者の心臓組織におけるRETの差次的発現
差次的RET発現レベルは、n=40患者の右心耳に由来の組織サンプルにおいて決定された。右心耳は、心臓の右心房に関連する。
【0215】
RNAseq分析
心房組織は、CABGまたは弁手術のための開胸手術中にサンプル採取した。AFまたはSR(対照)の根拠は、同時の内部心外膜高密度活性化(Endo-Epicardial High Density Activation)マッピングを使用して手術中に生成した。心房細動および対照の患者は、性別、年齢、および併存疾患に関して一致させた。
【0216】
以下について、心房組織サンプルを調製した。
● AF患者;n=11人の患者
● SRの対照患者;n=28人の患者
【0217】
RET(エイリアスCDHF12、CDHR16、HSCR1、MEN2A、MEN2B、MTC1、PTC、RET-ELE1、RET51)の差次的発現を、アルゴリズムRSEMおよびDESEQ2を適用してRNAseq分析で決定した。
【0218】
図1に示すように、RET発現は、11人の持続性AF患者対28人の洞調律の対照患者の解析された心房組織において下方制御されていることが見出された。発現の倍数変化(FC)は、1.24であった。
【0219】
RETの発現の変化を、損傷した末端器官、右心耳、心臓の右心房の心房組織の一部において決定した。RET mRNAレベルを、手術の経過中に進行中の心房細動事象を有する患者について、洞調律の対照サンプルと比較した。心房細動の状態は、心房組織の高密度マッピングの結果であった。RET mRNAレベルの低下は、電気的マッピングを特徴とするような伝導障害を用いて心房組織サンプルにおいて検出した。コンダクタンス障害は、脂肪浸潤または間質性線維症によって引き起こされ得る。心房細動に罹患している患者の心房組織で観察されたRETの差次的発現は、RETが心筋、特に心房、詳細には右心耳から循環中に放出され、血清/血漿力価の低下がAFのエピソードの検出を補助することを支持する。
【0220】
RETは、心臓から血中に放出されており、AFエピソードの検出を補助することができ、AF関連の脳卒中を発症するリスクを予測することができると結論付けられる。
【0221】
実施例2:循環RETによるAFの判定
開胸手術を受けている患者に関連するマッピング研究。麻酔および手術の前にEDTA血漿サンプルを得た。患者を、多電極アレイを使用した高密度心外膜マッピング(高密度マッピング)を使用して電気生理学的に特徴付けた。
【0222】
循環RETタンパク質レベルは、(年齢、性別、併存疾患について)可能な限り一致させた14人の発作性心房細動患者、16人の持続性心房細動患者、および30人の対照で決定した。RETを、マッピング研究のサンプルで測定した。
【0223】
測定は、30人の洞調律(SR)患者、12人の発作性心房細動(parAF)患者、および16人の持続性心房細動(persAF)で行った。
【0224】
図2は、RET力価が、SRの患者と比較して、発作性AFの患者およびpersAFの患者において低下することを示す(それぞれAUC 0.59およびAUC 0.62)。したがって、RETは、異なるタイプのAFを有する患者の診断を補助するために使用することができる。RET値が小さいほど、AFの可能性が高いことを示す。
【0225】
実施例3:循環RETによる臨床脳卒中の予測
臨床脳卒中の評価におけるRETは、
1.血清/血漿中の循環RETレベルに基づく心房細動患者における脳卒中のリスクを予測する(BeatAF研究、SWISSAF研究、表1)
2.血清/血漿中の循環RETレベルに基づく臨床脳卒中リスクスコアの臨床精度の予測を改善する(例えば、CHA2DS2-VASc、CHADS2、ABCスコア)方法を提供する。
【0226】
循環RETが脳卒中の発生のリスクを予測する能力を、同様の組み入れ基準で実証された心房細動を有する患者の2つの前向き多施設登録試験、Beat AFおよびSWISS AF試験で評価した(Conen D.,Forum Med Suisse 2012;12:860-862;Conen et al.,Swiss Med Wkly.2017;147)。SWISS AFコホートの患者は、年齢中央値74歳、以前の臨床脳卒中またはTIAの割合20%、血管疾患の割合34%および糖尿病の病歴17%を有する。Beat AFコホートの患者は、年齢中央値70歳、以前の臨床脳卒中またはTIAの割合16%、血管疾患の割合24%および糖尿病の病歴14%を有する。
【0227】
RETを、層別化された症例コホート設計を使用して測定した。5年間(Beat AFでは70人の臨床脳卒中患者)3年間(SWISS AFでは66人の臨床脳卒中患者)の追跡調査期間中に脳卒中を経験した患者(「事象」)の各々について、事象ごとに1人の対照を選択した。
【0228】
Olinkプラットフォームを使用してRETを測定した。そのため、絶対濃度値は入手できず、報告することができない。結果は任意の信号スケール(NPX)で報告される。
【0229】
RETの単変量予後値を定量するために、比例ハザードモデルを転帰脳卒中で使用した。
【0230】
RETの一変量予後性能は、RETによって与えられた予後情報の2つの異なる組み込みによって評価された。
【0231】
第1の比例ハザードモデルは、中央値で2値化されたRETを含んでおり、それゆえ、RETが中央値以下の患者のリスクを、RETが中央値を上回る患者と比較した。
【0232】
第2の比例ハザードモデルは、元のRETレベルを含んでいたが、log2尺度に変換した。log2変換をモデル較正を改善するために実行した。
【0233】
症例対照コホートのナイーブ比例ハザードモデルからの推定値にはバイアスがかかるため(症例と対照の比率が変化するため)、重み付け比例ハザードモデルを使用した。加重は、症例対照コホートに選択される各患者の逆確率に基づいている。二分されたベースラインのRET測定(中央値以下対中央値超)に基づいて2つの群における絶対生存率についての推定値を取得するために、カプラン・マイヤープロットの重み付けバージョンを作成した。
【0234】
RETが脳卒中の予後についての既存のリスクスコアを改善する能力を評価するために、CHADS2、CHA2DS2-VAScおよびABCスコアを、(log2変換された)RETによって拡張した。拡張は、RETとそれぞれのリスクスコアを独立変数として含む部分ハザードモデルを作成することによって行った。
【0235】
CHADS2およびCHA2DS2-VAScおよびABCスコアのc指標を、これらの拡張モデルのc指標と比較した。症例コホート設定でのc指標の計算には、Ganna(2011)で提案されているようにc指標の重み付けバージョンを使用した。
【0236】
実施例4:循環RETによる無症候性脳卒中の予測
SWISS-AFデータ中のデータは、RETが患者の白質病変(WML)の存在と相関することを示している。物質病変の程度は、Fazekasスコア(Fazekas,JB Chawluk,A Alavi,HI Hurtig,and RA Zimmerman American Journal of Roentgenology 1987 149:2,351-356)によって表すことができる。Fazekasスコアは0~3の範囲である。0はWMLなし、1は軽度WML、2は中等度WML、3は重度WMLを示す。RETとWML患者との関連を比較するために、Fazekasスコア2未満(no)対Fazekasスコア2以上(yes)の2つの群に分類した。
図3は、中等度または重度のWMLを有する患者では、軽度またはWMLを有しない患者と比較してRETが低下することを示す。
【0237】
WMLの程度は、臨床的に無症候性の脳卒中(Wang Y,Liu G,Hong D,Chen F,Ji X,Cao G.White matter injury in ischemic stroke.Prog Neurobiol.2016;141:45-60.doi:10.1016/j.pneurobio.2016.04.005)によって引き起こされ得る。これは、臨床脳卒中のリスクを予測するためのRETの有用性をさらに主張する。
【0238】
Fazekasスコア2未満(no)対Fazekasスコア2以上(yes)の患者を識別する循環RETの能力は、AUC0.64によって示される。認知症患者の脳の白質変化。加齢およびWMLスコアの変化は、アルツハイマー病患者の認知症の重症度に関連することが記載されている(Kao et al.,2019)。
【0239】
年齢もまた、臨床脳卒中の重要な予測因子である。そのため、循環中のRETレベルが有意に低下したデータは、中等度または重度のWMLを示すだけでなく、加齢性脳疾患、例えば血管性認知症も示すと考えられる。
【0240】
結果
表1はRETの対数変換値を含む単変量重み付け比例ハザードモデルの結果を示す。
【0241】
脳卒中を経験することについてのリスクとRETのベースライン値との相関は、非常に有意である。
【0242】
RETのハザード比は、Beat AF研究の患者において脳卒中のリスクが0.39倍高く、SWISS AFコホートの患者において脳卒中のリスクが0.43倍高いことを意味する。log2変換線形リスク予測因子としてRETを含む比例ハザードモデルの結果は、log2変換値RETが脳卒中を経験するリスクに比例することを示唆する。
【表1】
【0243】
表1に示されるように、Beat AF研究データは、経過観察期間中に脳卒中を経験した心房細動患者のサンプルにおける循環RET力価のレベルが非常に有意に低下しているという驚くべき発見を示す。この知見は、独立した研究コホート(SWISS AF)で再現された。SWISS AFコホートの患者は、Beat AFコホートの患者と比較して、例えば、より高い年齢、より多くの併存症、脳卒中の経験までの時間が短いことを含む、脳卒中のより多くの危険因子を有する。
【0244】
明らかに、循環RETレベルはリスクの重症度と関連している。今後数年間に脳卒中を経験するリスクがある患者のRETレベルが有意に低下したという知見は、2つのコホート間で一貫していた(Beat AFおよびSWISS AF)。循環RETレベルが、調査されたコホートにおいて異なる合併症の負荷の差異とは独立して脳卒中のリスクを示すことは注目に値する。
【0245】
表1に示されるように、循環中のRETレベルの低下は、臨床脳卒中を経験するリスクの重症度に関連する。
【0246】
これらのデータは、RETを使用して脳卒中のリスクを評価し、疾患を分類し、疾患の重症度を評価し、(治療強化/減少を目的として)治療をガイドし疾患転帰を予測し、(リスク予測、例えば脳卒中)、治療モニタリングを行い(例えば、RETレベルに対する抗凝固薬の効果)、治療層別化(治療選択肢の選択)を行うことができることを示唆している。
【0247】
表2は、RET単独、CHADS2、CHA2DS2-VASc、ABCスコア、およびRET(log2)と組み合わせたCHADS2、CHA2DS2-VASc、ABCスコア重み付け比例ハザードモデルの、症例コホート選択に対する推定c-指標を示す。
【0248】
RETを追加すると、2つの独立した研究コホートのサンプルにおける3つ全てのリスクモデルのc指標が改善されることが分かる。
【0249】
改善は、CHADS2、CHA2DS2-VASc、ABCスコアでそれぞれ0.0326、0.0396、および0.0598である。
【0250】
SWISS AFサンプルで観察された改善は、CHADS2、CHA2DS2-VASc、ABCスコアについてそれぞれ0.0451、0.0341および0.019である。
【0251】
表2は、RETの追加が脳卒中の予測のための確立されたリスクスコアの予後性能を改善できることを示している。単変量予後性能に関しては、BEAT-AF研究の結果をSWISS-AF研究で再現することができた。
【表2】
【図 】