(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】アスタチン同位元素の製造方法およびアスタチン同位元素の分離・回収装置
(51)【国際特許分類】
G21G 1/10 20060101AFI20240617BHJP
G21G 4/08 20060101ALI20240617BHJP
G21K 5/08 20060101ALI20240617BHJP
G21K 1/00 20060101ALI20240617BHJP
A61K 33/00 20060101ALI20240617BHJP
A61K 41/00 20200101ALI20240617BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
G21G1/10
G21G4/08 G
G21K5/08 Z
G21K1/00 Z
A61K33/00
A61K41/00
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2023065456
(22)【出願日】2023-04-13
(62)【分割の表示】P 2019224085の分割
【原出願日】2019-12-11
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 真哉
(72)【発明者】
【氏名】湯原 勝
(72)【発明者】
【氏名】和田 怜志
(72)【発明者】
【氏名】宮寺 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】中田 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】手塚 勝
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/112034(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105148732(CN,A)
【文献】平成2 9年度放射線安全規制研究戦略的推進事業費 (短寿命a線核種の合理的規制のためのデータ取得による 安全性検証と安全管理・教育方法の開発)事業 成果報告書,日本,大阪大学,2018年03月
【文献】豊嶋厚史 他,アスタチン(At)の核化学,RADIOISOTOPES,Vol. 67 No.10,日本アイソトープ協会,2018年,p.463
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21G 1/10
G21G 4/08
G21K 5/08
G21K 1/00
A61K 33/00
A61K 41/00
A61P 35/00
JDreamIII
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被照射元素であるビスマスを含む照射試料に加速器で加速されたヘリウムを照射する照射ステップと、
前記照射ステップで生成されたアスタチン同位元素を回収する回収ステップと、
を有し、
前記回収ステップは、気体状の前記アスタチン同位元素を
塩化カリウムまたはヨウ化カリウムの粒子であるエアロゾルに吸着させて
ヘリウムガスにより回収管を介して回収容器に移送するステップと、前記回収容器内の溶液中で前記アスタチン同位元素を吸着した前記エアロゾルおよび前記アスタチン同位元素をそれぞれ溶解させて前記アスタチン同位元素を回収するステップと、前記回収容器に流入した
前記ヘリウムガスを排気フィルタ経由で大気に開放するステップを含む、
ことを特徴とするアスタチン同位元素の製造方法。
【請求項2】
被照射元素を含み加速器で加速されたヘリウムで照射された照射試料の加熱が可能な加熱容器と、
前記加熱により前記被照射元素の
前記加速器で加速されたヘリウムの照射により生成されたアスタチン同位元素を
塩化カリウムまたはヨウ化カリウムの粒子であるエアロゾルに吸着させて
ヘリウムガスにより移送するためのエアロゾル供給部と、
前記加熱容器からの前記アスタチン同位元素を吸着した前記エアロゾルを含む
前記ヘリウムガスの流路となる回収管と、
前記
ヘリウムガスとともに前記回収管から噴き出した前記アスタチン同位元素を吸着した前記エアロゾルを前記アスタチン同位元素とともに溶解させる溶解液を内部に保持する回収容器と、
前記回収容器に流入した前記
ヘリウムガスを、排気フィルタを経由して前記回収容器から大気に開放させる排気部と、
を備え、
前記加熱容器は、前記照射試料を、前記被照射元素の沸点より低くかつ前記アスタチン同位元素の沸点より高い温度に昇温する、
ことを特徴とするアスタチン同位元素の分離・回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、アスタチン同位元素の製造方法およびアスタチン同位元素の分離・回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がん治療において、アルファ線を用いたがん治療が注目されている。これは、アルファ線の飛程が短いことから、アルファ線薬剤を用いたがん治療が、標的となるがん細胞を選択的に攻撃することができ、正常細胞への影響が小さいことによる。
【0003】
アルファ線薬剤を用いたがん治療用の線源の中でも、アスタチン-211は半減期が短く、すみやかに安定核に崩壊することから、最も期待されている放射性同位元素である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アスタチン-211は、がん治療用の線源として期待されている一方で、その半減期が短いために、分離に時間をかけてしまうと、生成したアスタチン-211がほとんど消滅してしまうため、迅速な分離方法が求められている。
【0006】
これまでに、生成したアスタチン-211の分離・回収方法に関しては、開発・検討されているものとして、大きく2つの方法がある。
【0007】
第1の方法は、ターゲット材中に生成したアスタチン-211をビスマスターゲット材ごと酸溶解して、アスタチンを溶液中に溶解させ、この溶液から溶媒抽出等の手法によって精製する方法である。ただし、溶解、抽出などの分離操作に時間が必要であり、かつ廃棄物の発生量が多いなどの課題がある。
【0008】
第2の方法は、分離・回収対象であるアスタチンおよびターゲット材であるビスマスターゲットの膜として一般的に使用される可能性のあるアルミニウムの沸点、融点の違いを利用して、アスタチンを加熱分離する方法である。この方法は、回収部や搬送部であるキャピラリなどの壁面にアスタチン-211が付着するため、有機溶剤やアルカリ溶液などを用いて、付着したアスタチン-211を溶離、回収する必要がある。
【0009】
これらの方法の他に、迅速かつ、連続的に合成した核種を分離・回収するための一般的な手法として、ガスジェットを用いた方法が、超重元素などを対象として古くから知られている。この方法は、核種合成のためのビーム照射時に、反跳によりターゲット材後方に飛び出してくる合成核種をヘリウムガスなどにヨウ化カリウムなどのエアロゾルを共存させて搬送する方法である。ただし、この方法がアスタチンについて適用可能か否かについての検討は、ほとんどなされていない。
【0010】
本発明の実施形態は、がん治療やその他の用途で用いる放射性核種のうち、アスタチン同位元素を、効率的かつ迅速に分離することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するため、本実施形態に係るアスタチン同位元素の製造方法は、被照射元素であるビスマスを含む照射試料に加速器で加速されたヘリウムを照射する照射ステップと、前記照射ステップで生成されたアスタチン同位元素を回収する回収ステップと、を有し、前記回収ステップは、気体状の前記アスタチン同位元素を塩化カリウムまたはヨウ化カリウムの粒子であるエアロゾルに吸着させてヘリウムガスにより回収管を介して回収容器に移送するステップと、前記回収容器内の溶液中で前記アスタチン同位元素を吸着した前記エアロゾルおよび前記アスタチン同位元素をそれぞれ溶解させて前記アスタチン同位元素を回収するステップと、前記回収容器に流入した前記ヘリウムガスを排気フィルタ経由で大気に開放するステップを含む、ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造装置のうちの照射試料の照射のための装置の構成を示す縦断面図である。
【
図2】第1の実施形態に係るアスタチン同位元素の分離・回収装置の構成を示す縦断面図である。
【
図3】第1の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造方法の手順を示すフロ―図である。
【
図4】第1の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造方法におけるアスタチン同位元素の分離の詳細手順を示すフロ―図である。
【
図5】第1の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造方法におけるアスタチン同位元素の回収の詳細手順を示すフロ―図である。
【
図6】第2の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造装置の構成を示す縦断面図である。
【
図7】第2の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造装置の照射試料の移送部分の構成を示す斜視図である。
【
図8】第2の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造方法の手順を示すフロ―図である。
【
図9】第2の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造方法における照射試料の加熱容器内への移送の詳細手順を示すフロ―図である。
【
図10】第3の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造装置の構成を示す縦断面図である。
【
図11】第3の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造方法の手順を示すフロ―図である。
【
図12】第3の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造方法における照射試料の移送の手順を示すフロ―図である。
【
図13】第4の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造装置の構成を示す
図14のXIII-XIII線矢視断面図である。
【
図14】第4の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造装置の構成を示す
図13のXIV-XIV線矢視部分断面図である。
【
図15】第4の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造装置の
図14のA部の詳細な構成を示す縦断面図である。
【
図16】第4の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造方法の手順を示すフロ―図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造方法および分離・回収装置について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0014】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造装置のうちの照射試料の照射のための照射部110の構成を示す縦断面図である。
【0015】
照射部110は、照射試料10に放射線照射装置1からの加速器で加速されたヘリウムを照射するための反応容器20および真空ポンプ70を有する。
【0016】
反応容器20は、容器本体21および試料保持部24を有する。試料保持部24は、容器本体21内に設けられ、照射試料10を水平な状態に搭載する。照射試料10は、照射材受け皿12およびそれに収納されるビスマス照射材11を有する。ここで、ビスマス照射材11は、常温では固体状のビスマスである。照射材受け皿12の材料は、たとえば、アルミニウムのような、加速器で加速されたヘリウムの照射に対して核的に安定で2次的生成物が生じず、かつ、融点もビスマスおよびアスタチンに比較して高い材料である。試料保持部24に搭載される照射試料10の数は、
図1に示すような2つあるいはそれ以上、あるいは1つでもよい。
【0017】
また、容器本体21には、放射線照射装置1からの加速器で加速されたヘリウムを透過させる照射窓22が取り付けられている。ここで、照射窓22を透過した加速器で加速されたヘリウムは、照射材受け皿12中のビスマス照射材11に到達するような位置関係となっている。
【0018】
照射試料10に加速器で加速されたヘリウムが照射されると、照射試料10中のビスマス209はアスタチン-211に変換し、アスタチン-211が生成される。
【0019】
なお、照射される加速器で加速されたヘリウムのエネルギーが、30MeV程度になると、アスタチン-211のみでなく、アスタチン-210が生成される。アスタチン-210はベータ崩壊してポロニウム-210になる。ポロニウム-210は、α線源であり、しかもガンマ線等を放出しないため、その存在を検出することが難しいという意味では危険物ということができる。したがって、ポロニウム-210の生成につながらないように、照射される加速器で加速されたヘリウムのエネルギーは、たとえば、29MeV程度以下と、上限を設けた管理を行う。
【0020】
また、容器本体21には、排気口28が形成されており、真空ポンプ70に連通している。真空ポンプ70は、反応容器20内を所定の圧力まで低下させる能力を有する。ここで、所定の圧力は、放射線照射装置1から発せられた加速器で加速されたヘリウムに対して、ビスマス照射材11に到達する当該ヘリウムの強度およびエネルギーの低下を所定範囲にとどめる条件から設定される。
【0021】
容器本体21には、さらに、照射試料10を出し入れするための出し入れ開口25が形成されており、閉止蓋26により閉止されている。
【0022】
図2は、第1の実施形態に係るアスタチン同位元素の分離・回収装置120の構成を示す縦断面図である。分離・回収装置120は、照射部110において加速器で加速されたヘリウムが照射された照射試料10内に生成されたアスタチン-211を分離し回収するための装置である。
【0023】
分離・回収装置120は、加熱容器30、エアロゾル供給部40、回収部50、および排気部60を有する。
【0024】
加熱容器30は、容器本体31、試料保持部32、およびヒータ37を有する。
【0025】
試料保持部32は、容器本体31内にあって、容器本体31内に持ち込まれた照射後の照射試料10を搭載する。なお、試料保持部32の構成は、
図2に示すような2段構成に限らない。照射試料10の出し入れ、ヒータ37との位置関係等から設定すればよい。
【0026】
ヒータ37は、容器本体31に取り付けられた複数の電気ヒータである。なお、複数には限らず、1つであってもよい。また、ヒータ37は、電気ヒータに限らず、たとえば加熱流体を通す伝熱管であってもよい。
【0027】
ヒータ37は、容器本体31内を加熱し、照射された照射試料10を所定の温度に昇温する容量を有する。ここで、所定の温度は、アスタチンの沸点を超えた温度で、かつビスマスの沸点未満の温度である。また、ビスマスの融点以上の温度である。所定の温度まで昇温することによって、ビスマスは液体状態、アスタチンは気体状となる。
【0028】
表1に、アスタチンとビスマスの融点(℃)および沸点(℃)を示した。また、照射試料10の照射材受け皿12に使用される材料の例としてアルミニウムについても併せて示している。温度は、小数点以下は省略している。
【0029】
【0030】
容器本体31には、照射試料10を出し入れするための出し入れ開口38、エアロゾル供給口33、および回収口34が形成されている。エアロゾル供給口33は、エアロゾル供給部40に連通している。また、回収口34は、回収部50に連通している。
【0031】
エアロゾル供給部40は、エアロゾルを容器本体31に供給するための装置である。エアロゾル供給部40は、供給容器41、ガス供給部45、供給配管42および止め弁43を有する。供給容器41は、エアロゾルを発生させ、あるいは貯留する部分である。ここで、エアロゾルは、たとえば、塩化カリウム、ヨウ化カリウムなどの粒子である。粒子の粒径は、たとえば、1nm程度から1mm程度である。ガス供給部45は、エアロゾルを移動させるための担体ガス、たとえば、ヘリウムガスなどの不活性なガスを供給する。
【0032】
供給容器41内で発生あるいは貯留されたエアロゾルは、ガス供給部45からのガスにより、止め弁43の開閉に応じて、供給配管42より加熱容器30の容器本体31に導入される。容器本体31内で気体状となったアスタチンは、エアロゾルに吸着する。
【0033】
回収部50は、エアロゾルに吸着したアスタチンを回収する部分である。
【0034】
回収部50は、回収容器51と、回収容器51内の溶解液52と、加熱容器30の回収口34と回収容器51とを接続する回収管53とを有する。
【0035】
回収容器51内に保持されている溶解液52は、エアロゾルを溶解する。ここで、溶解液は、水、あるいはアルカリ性の溶液である。アルカリ性の溶液としては、たとえば、エアロゾルが、塩化カリウムやヨウ化カリウムの場合には水酸化カリウムのように、エアロゾルの成分に対応するものが好ましい。
【0036】
回収管53の回収容器51内の先端は、溶解液52の液面下に開放され、水没している。
【0037】
回収容器51は、ベントラインとして、排気部60に接続されている。排気部60は、排気管61および排気フィルタ62を有する。回収容器51に流入したガスは、排気フィルタ62を経由して大気に開放される。
【0038】
図3は、第1の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造方法の手順を示すフロ―図である。
【0039】
アスタチン同位元素の製造方法としては、まず、照射試料を作製する(ステップS10)。ここで、照射試料10としては、
図1および
図2に示したようなビスマス照射材11が照射材受け皿12に保持されているような形態に限らない。たとえば、ビスマス照射材11がアルミニウムなどに密閉されているような形態でもよい。
【0040】
次に、照射試料10を反応容器20内に設置する(ステップS20)。すなわち、
図1に示したように、出し入れ開口25から照射試料10を反応容器20内の試料保持部24上に搭載する。
【0041】
次に、照射試料10に加速器で加速されたヘリウムを照射する(ステップS30)。なお、加速器で適切なエネルギーで加速されたヘリウムの照射に先立って、真空ポンプ70により、容器本体21内を所定の圧力まで低下させておく。
【0042】
次に、照射試料10を加熱容器30に移送する(ステップS40)。
【0043】
次に、生成されたアスタチン同位元素の分離を行う(ステップS50)。
【0044】
図4は、第1の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造方法におけるアスタチン同位元素の分離の詳細手順を示すフロ―図である。
【0045】
アスタチン同位元素の分離ステップS50としては、まず、加熱容器30内を密閉状態に形成する(ステップS51)。次に、加熱容器30内を昇温する(ステップS52)。具体的には、加熱容器30内を所定の温度まで昇温する。
【0046】
次に、生成されたアスタチン同位元素の回収を行う(ステップS60)。
【0047】
図5は、第1の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造方法におけるアスタチン同位元素の回収の詳細手順を示すフロ―図である。
【0048】
アスタチン同位元素の回収ステップS60としては、まず、エアロゾル供給部40からエアロゾルを加熱容器30内に移送する(ステップS61)。すなわち、止め弁43を開いて、ガス供給部45からのガスでエアロゾルを加熱容器30に注入する。
【0049】
さらに、アスタチンが吸着したエアロゾルを回収部50に移送する(ステップS62)。ステップS61およびS62は、供給ガスを供給することにより連続して行われる。この結果、エアロゾルを含むガスは、回収部50の回収容器51内の溶解液52内に噴き出す。溶解液52内に噴き出したエアロゾルを含むガス中のエアロゾルは、これに付着したアスタチンとともに溶解液52に溶解する。溶解しない担体ガスは、排気部60に流出し、排気フィルタ62を経由して、外気に排出またはリサイクルされる。
【0050】
次に、回収容器51内の溶解液52から、アスタチン同位元素を回収する(ステップS63)。この際の回収は、通常の化学的な処理により容易に行うことができる。
【0051】
従来のように加熱部で分離されたアスタチン-211を担体ガスのみで移送する方式では、回収部や搬送部であるキャピラリなどの壁面にアスタチン-211が付着するため、有機溶剤やアルカリ溶液などを用いて、付着したアスタチン-211を溶離、回収する必要がある。
【0052】
一方、本実施形態は、ビスマス209に加速器で加速されたヘリウムを照射することにより生じたアスタチン-211を加熱容器31内で分離した後に、アスタチン-211をエアロゾルン吸着させて、回収部50に移送する方式である。この結果、アスタチン-211が、キャピラリなどの回収部に至る経路に付着することを防止することができ、回収効率を向上することができ、かつ洗浄による生ずる廃液の処理も不要である。
【0053】
以上のように、本実施形態によるアスタチン同位元素の製造装置100およびこれを用いたアスタチン同位元素の製造方法によって、アスタチン同位元素を、効率的かつ迅速に分離することができる。
【0054】
[第2の実施形態]
本第2の実施形態は、第1の実施形態の変形である。
【0055】
第1の実施形態においては、反応容器20で照射された照射試料10は、反応容器20に形成された出し入れ開口25から取り出して、加熱容器30に形成された出し入れ開口38から、容器本体31内の試料保持部32上に搭載される。
【0056】
一方、本第2の実施形態においては、反応容器20で照射された照射試料10は、外部に取り出されることなく、反応容器20内から加熱容器30内に移送されるように構成されている。その他の点では、第1の実施形態と同様である。
【0057】
図6は、第2の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造装置の構成を示す縦断面図である。また、
図7は、第2の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造装置の照射試料の移送部分の構成を示す斜視図である。
【0058】
アスタチン同位元素の製造装置100aは、照射部110と分離・回収装置120との間に配された中間部130を有する。
【0059】
中間部130は、中間部容器131、ターンテーブル132、および回転駆動部133を有する。
【0060】
中間部容器131は、反応容器20の容器本体21と、加熱容器30の容器本体31とに挟まれ、その内部に設けられた回転駆動部133と、回転駆動部133上に搭載され回転駆動部133により回転駆動されるターンテーブル132とを有する。
【0061】
ターンテーブル132上には、照射試料10が搭載される。ターンテーブル132は、その一部が、反応容器20の容器本体21および加熱容器30の容器本体31のそれぞれの内部に突出している。このため、ターンテーブル132上に搭載された照射試料10が、反応容器20の容器本体21および加熱容器30の容器本体31のそれぞれの内部に存在する状態とすることができる。
【0062】
図7に示すように、ターンテーブル132が回転した場合に、それに搭載されている照射試料10を含めて、干渉しないように、反応容器20の容器本体21には出し入れ開口25が、また、加熱容器30の容器本体31には出し入れ開口38が、それぞれ形成されている。
【0063】
このため、容器本体21には、出し入れ開口25を閉止するための反応容器仕切り扉27が、また、容器本体31には、出し入れ開口38を閉止するための加熱容器仕切り扉35が、それぞれ設けられている。反応容器仕切り扉27および加熱容器仕切り扉35は、それぞれ、閉止状態においては、ターンテーブル132に密着し、シール性が確保される。
【0064】
また、中間部130は、図示しない真空ポンプに連通しており、中間部容器131の内
部を真空状態に移行できる。
【0065】
さらに、中間部130には、図示しないが、外部との出し入れ開口が形成されている。
【0066】
エアロゾル供給部40および回収部50については、第1の実施形態と同様である。
【0067】
図8は、第2の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造方法の手順を示すフロ―図である。
【0068】
ステップS10の照射試料10の作製については、第1の実施形態と同様である。
【0069】
次に、反応容器20内で、照射試料10をターンテーブル132上に設置する(ステップS20a)。
【0070】
次に、照射試料10に加速器で加速されたヘリウムを照射する(ステップS30)。
【0071】
次に、照射試料10を加熱容器30内に移送する(ステップS40a)。
【0072】
図9は、第2の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造方法における照射試料の加熱容器内への移送の詳細手順を示すフロ―図である。
【0073】
照射試料の加熱容器内への移送ステップS40aとして、まず、中間部130を真空状態に移行する(ステップS41a)。
【0074】
次に、反応容器仕切り扉27および加熱容器仕切り扉35を、それぞれ開状態とする(ステップS42a)。
【0075】
次に、ターンテーブル132を回動させる(ステップS43a)。ターンテーブル132は、たとえば、180度回転させる。この結果、反応容器20内でターンテーブル132上に搭載されていた照射試料10が、加熱容器30内に移動する。
【0076】
次に、反応容器仕切り扉27および加熱容器仕切り扉35を、それぞれ閉状態とする(ステップS44a)。
【0077】
以上のように、本第2の実施形態においては、照射試料10を外部に取り出すことなく、反応容器20から加熱容器30に移動することができる。また、照射試料10は、中間部130において出し入れが可能である。この結果、たとえば、反応容器20内の真空状態を破壊することなく、照射試料10の照射、加熱装置20への移送を行うことができ、アスタチンの製造効率を向上させることができる。
【0078】
[第3の実施形態]
図10は、第3の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造装置100bの構成を示す縦断面図である。
【0079】
本第3の実施形態は、第1の実施形態の変形である。本第3の実施形態においては、第2の実施形態と同様に、反応容器20で照射された照射試料10aは、外部に取り出されることなく、反応容器20内から加熱容器30内に移送されるように構成されている。その他の点では、第1の実施形態と同様である。
【0080】
ここで、本実施形態における照射試料10aは、照射試料10aがいかなる姿勢の場合でも、ビスマス照射材11が流出しないように、ビスマス照射材11およびこれを収納する照射材収納部13を有する。
【0081】
アスタチン同位元素の製造装置100bは、照射部110、分離・回収装置120、およびこれらを連通させる中間部130を有する。
【0082】
照射部110は、反応容器20への照射試料10aの出し入れが、第1の実施形態とは異なる。反応容器20への照射試料10aの導入部分には、閉止蓋26aおよび入口試料保持部24aが設けられている。照射試料10aは、閉止蓋26aを開くことにより、導入され、まず、入口試料保持部24aに保持される。入口試料保持部24aは、図示しない駆動部により開閉可能であり、閉状態では照射試料10aを保持し、開状態では、照射試料10aは重力により下方に落下する。
【0083】
反応容器20内の照射箇所には、照射箇所試料保持部24bが設けられている。照射箇所試料保持部24bも入口試料保持部24aと同様に図示しない駆動部により開閉可能である。照射箇所試料保持部24bに照射試料10aが保持されておらず、かつ照射箇所試料保持部24bが閉状態において、照射試料10aを保持する入口試料保持部24aが開くと、入口試料保持部24aが保持していた照射試料10aは、重力落下して照射箇所試料保持部24bに保持される。
【0084】
中間部130は、反応容器20と加熱容器30とを連通する連通管134、連通管134に設けられた第1仕切弁135および第2仕切弁136、および連通管134に接続する排気部137を有する。
【0085】
連通管134の第1仕切弁135と第2仕切弁136との間の部分には、照射試料10aが収納可能である。
【0086】
排気部137には、止め弁137aが設けられている。排気部137は、連通管134の第1仕切弁135および第2仕切弁136に挟まれた部分の圧力をほぼ真空状態に移行可能である。
【0087】
加熱容器30内には、試料保持部32が設けられている。試料保持部32は、重力落下により連通管134を通過して加熱容器30内に入ってくる照射試料10aを保持可能である。
【0088】
図11は、第3の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造方法の手順を示すフロ―図である。
【0089】
ステップS10の照射試料10aの作製については、第1の実施形態と同様である。
【0090】
次に、照射試料10aを反応容器20内に導入する(ステップS20b)。具体的には、閉止蓋26aを開き、照射試料10aを導入し、入口試料保持部24aに保持される。さらに、入口試料保持部24aを開き、重力により落下する照射試料10aを、照射箇所試料保持部24bで保持する。
【0091】
次に、照射試料10aに加速器で加速されたヘリウムを照射する(ステップS30)。
【0092】
次に、照射試料10aを加熱容器30内に移送する(ステップS40b)。
【0093】
図12は、第3の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造方法における照射試料の移送の手順を示すフロ―図である。
【0094】
照射試料の移送ステップS40bは、以下のようなステップを有する。
【0095】
まず、第1仕切弁135および第2仕切弁136の間の真空状態に移行する(ステップS41b)。詳細には、止め弁137aを開き、排気部137により、連通管134の第1仕切弁135および第2仕切弁136の間の部分の圧力を、反応容器20内の圧力と同様の圧力まで低下させる。
【0096】
次に、第1仕切弁135を開く(ステップS42b)。第1仕切弁135を開くことにより、連通管134の第1仕切弁135と第2仕切弁136との間の部分が、反応容器20の容器本体21内の空間と連通する。
【0097】
次に、照射箇所試料保持部24bを開放する(ステップS43b)。この結果、容器本体21内で照射箇所試料保持部24bに保持されていた照射試料10aが、重力落下して、第2仕切弁136に保持される(ステップS44b)。
【0098】
連通管134の第1仕切弁135と第2仕切弁136との間の部分を、加熱容器30内と同圧まで加圧する(ステップS45b)。
【0099】
次に、第2仕切弁136を開く(ステップS46b)。第2仕切弁136を開くことにより、第2仕切弁136に保持されていた照射試料10aが、加熱容器30内まで重力落下する。加熱容器30内に移動した照射試料10aは、加熱容器30内の試料保持部32により保持される。
【0100】
以上のように、本第3の実施形態においては、第2の実施形態と同様に、照射試料10aを外部に取り出すことなく、反応容器20から加熱容器30に移動することができる。この結果、たとえば、反応容器20内の真空状態を維持して、照射試料10aの照射、加熱装置20への移送を行うことができ、アスタチンの製造効率を向上させることができる。
【0101】
[第4の実施形態]
図13は、第4の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造装置の構成を示す
図14のXIII-XIII線矢視断面図、
図14は、第4の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造装置の構成を示す
図13のXIV-XIV線矢視部分断面図である。また、
図15は、第4の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造装置の
図14のA部の詳細な構成を示す縦断面図である。
【0102】
まず、照射試料は、テープ状照射試料15である。
図15に示すように、テープ状照射試料15は、基材テープ15aと、これの一方の表面に形成されるビスマス層15bを有する。基材テープ15aの材質は、たとえばアルミニウムである。基材テープ15aの厚みは、たとえば1ないし数ミクロン(μm)である。また、ビスマス層15bの厚みは、たとえば50ないし100nmである。
【0103】
本実施形態におけるアスタチン同位元素の製造装置100cは、
図13に示すように、反応容器20、エアロゾル供給部40、回収部50、および排気部60を有する。したがって、アスタチンの分離装置としての加熱部を有しない。エアロゾル供給部40、回収部50、および排気部60については、第1の実施形態と同様である。
【0104】
図14に示すように、反応容器20には、エアロゾル供給部40と連通するエアロゾル流入口28a、および回収部50と連通する排気口28、および照射窓22が形成されている。
【0105】
また、反応容器20は、その内部に複数のテープ状照射試料15を連続的に通過させ、連続的に照射可能に構成されている。このために、反応容器20は、複数のローラ機構を有する。
【0106】
すなわち、反応容器20は、複数のテープ状照射試料15を反応容器20内に導入するための入口ローラ23、複数のテープ状照射試料15を反応容器20外に取り出すための出口ローラ29を有する。さらに、反応容器20は、
図15に示すように、入口側第1分岐ローラ23a、入口側第2分岐ローラ23b、出口側第1合流ローラ29a、および出口側第2合流ローラ29bを有する。なお、入口ローラ23および出口ローラ29にはそれぞれの駆動部が設けられているが、駆動部の図示は省略している。ここで、駆動部が出口ローラ29のみに設けられることでもよい。また、入口側第1分岐ローラ23a、入口側第2分岐ローラ23b、出口側第1合流ローラ29a、および出口側第2合流ローラ29bは、それぞれ、テープ状照射試料15の移動に応じて回転するガイド機能のみを有する。
【0107】
入口ローラ23および出口ローラ29は、それぞれ、一対の回転部分を有し、これらの回転部分の間にテープ状照射試料15を挟みながら回転方向に移送する。入口ローラ23と出口ローラ29は、互いに対応する壁にそれぞれ設けられている。
【0108】
図15では、テープ状照射試料15が4枚の場合を示している。ただし、テープ状照射試料15が4枚以外の枚数であってもよい。反応容器20内のローラの数は、テープ状照射試料15の枚数に応じて設定すればよい。
【0109】
入口ローラ23の後段に入口側第1分岐ローラ23aを配し、入口側第1分岐ローラ23aの後段に入口側第2分岐ローラ23bを配することにより、入口ローラ23から送り出された4枚のテープ状照射試料15の相互の間隔を確保する。逆に、入口側第2分岐ローラ23bの後段に出口側第1合流ローラ29aを配し、出口側第1合流ローラ29aの後段であって、かつ出口ローラ29の前段に出口側第2合流ローラ29bを配することにより、相互の間隔を確保された4枚のテープ状照射試料15を重なるように一体化して出口ローラ29から送り出すように構成されている。
【0110】
図16は、第4の実施形態に係るアスタチン同位元素の製造方法の手順を示すフロ―図である。
【0111】
まず、照射試料を作製する(ステップS10c)。ここで、照射試料は、テープ状照射試料15である。
【0112】
次に、テープ状照射試料15を反応容器20内に所定の速度で移送する(ステップS20c)。ここで、全てのテープ状照射試料15は、ビスマス層15bが放射線照射装置1の方向とは反対側に配される方向に装着されている。
【0113】
次に、テープ状照射試料15に加速器で加速されたヘリウムを照射し、生成されたアスタチン同位元素の分離を行う(ステップS30c)。ビスマスへの加速器で加速されたヘリウムの照射によりアスタチンの同位元素が生成される。この際、アスタチン原子は、反跳、すなわち放射線照射装置1の方向とは反対側の方向に飛び出す。本実施形態においては、ビスマス層15bが薄いため、反跳により飛び出したアスタチン同位元素は、ビスマス層15bの外側、すなわち、放射線照射装置1から見て、テープ状照射試料15の裏側の空間に飛び出す。
【0114】
次に、反応容器20内にエアロゾルを含むガスを注入、排出する(ステップS40c)。具体的には、止め弁43を開き、エアロゾルを担体ガスで駆動し、反応容器20内に流入させる。複数のテープ状照射試料15は、互いに間隔をおいて配されているため流路が形成されており、エアロゾルを含むガスはこの流路を通過する。テープ状照射試料15の裏側に移行したアスタチン同位元素は、このエアロゾルに吸着する。
【0115】
次に、排出されたエアロゾルから生成されたアスタチン同位元素を回収する(ステップS50c)。すなわち、アスタチン同位元素が吸着したエアロゾルは、回収容器50内に流入し、アスタチン同位元素が回収される。
【0116】
以上のように、本実施形態では、加速器で加速されたヘリウムの照射方向に厚みの薄いテープ状照射試料15を用いることにより、反跳現象を利用して反応容器20内でアスタチンを分離することができる。また、テープ状照射試料15であることから、連続的に照射位置を変更することができる。このように、本実施形態では、アスタチン同位元素に連続的に生成し、分離することができる。また、生成したアスタチン同位元素を、連続的に回収部50に移送することができる。
【0117】
この結果、本実施形態においては、アスタチン同位元素を、効率的かつ迅速に分離することができる。
【0118】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0119】
また、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。たとえば、第2の実施形態の特徴と、第3の実施形態の特徴とを組み合わせてもよい。
【0120】
また、実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0121】
実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0122】
1…放射線照射装置、10、10a…照射試料、11…ビスマス照射材、12…照射材受け皿、13…照射材収納部、15…テープ状照射試料、15a…基材テープ、15b…ビスマス層、20…反応容器、21…容器本体、22…照射窓、23…入口ローラ、23a…入口側第1分岐ローラ、23b…入口側第2分岐ローラ、24…試料保持部、24a…入口試料保持部、24b…照射箇所試料保持部、25…出し入れ開口、26、26a…閉止蓋、27…反応容器仕切り扉、28…排気口、28a…エアロゾル流入口、29…出口ローラ、29a…出口側第1合流ローラ、29b…出口側第2合流ローラ、30…加熱容器、31…容器本体、32…試料保持部、33…エアロゾル供給口、34…回収口、35…加熱容器仕切り扉、37…ヒータ、38…出し入れ開口、40…エアロゾル供給部、41…供給容器、42…供給配管、43…止め弁、45…ガス供給部、50…回収部、51…回収容器、52…溶解液、53…回収管、60…排気部、61…排気管、62…排気フィルタ、70…真空ポンプ、100、100a、100b、100c…アスタチン同位元素の製造装置、110…照射部、120…分離・回収装置、130…中間部、131…中間部容器、132…ターンテーブル、133…回転駆動部、134…連通管、135…第1仕切弁、136…第2仕切弁、137…排気部、137a…止め弁