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特許7505100性能を向上させるための熱分解反応器への入力を調整する方法及びシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】性能を向上させるための熱分解反応器への入力を調整する方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   F23N 1/02 20060101AFI20240617BHJP
   C01B 3/24 20060101ALI20240617BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20240617BHJP
【FI】
F23N1/02 K
C01B3/24
C01B32/05
【請求項の数】 20
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023180892
(22)【出願日】2023-10-20
【審査請求日】2024-02-13
(31)【優先権主張番号】63/433,567
(32)【優先日】2022-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521251545
【氏名又は名称】エコナ パワー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】デヴィッド アーロン レボー
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ベンジャミン ヒンキー ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】ゲイリー エドワード シュバック
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー エドウィン ジョン リード
(72)【発明者】
【氏名】ケネス ウィリアム クラットシュマール
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ジョン アールニオ
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-094918(JP,A)
【文献】国際公開第2022/126240(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2022/0387952(US,A1)
【文献】特開平11-228102(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0045844(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0227130(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23N 1/00 - 5/26
C01B 3/24
C01B 32/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分解反応器を作動するための方法であって、
燃料/酸化剤の当量比の範囲内で第1の量の燃料及び酸化剤を燃焼室に供給し且つ前記第1の量の燃料及び酸化剤を燃焼させて燃焼生成物を生成し、混合室に原料及び前記燃焼生成物を供給するステップを含み、前記燃焼生成物は、前記原料と混合され、前記原料は、熱分解工程において水素及び炭素を含む反応生成物に分解され、
前記熱分解工程の間に、前記炭素及び水素の生成物を測定するステップを含み、
前記測定された炭素及び水素の生成物が、目標とする炭素及び水素の仕様外であるときに、前記混合室に第2の量の酸化剤を供給し、前記供給した酸化剤を前記混合室の壁に付着した炭素と反応させるステップを含み、
前記測定された炭素の生成物のみが、目標とする炭素の仕様外であるときに、前記燃料/酸化剤の当量比の範囲を超える濃い燃料/酸化剤の割合で第3の量の前記燃料及び前記酸化剤を前記燃焼室に供給し且つ前記第3の量の前記燃料及び前記酸化剤を燃焼させて前記燃焼生成物及び煤煙を生成し、前記原料、前記燃焼生成物及び前記煤煙を前記混合室に供給するステップを含み、前記燃焼生成物及び前記煤煙は、前記原料と混合され、前記原料は、熱分解工程において前記反応生成物に分解され、前記煤煙は、炭素生成の因子となる、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記燃料/酸化剤の当量比の範囲は、0.9と1.1の間である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの前記燃料及び前記原料は、メタン、天然ガス、水素、エタン、プロパン、ブタン、及びその混合気からなる群から選択される請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記測定された炭素及び水素の生成物が、前記目標とする炭素及び水素の仕様外であるとき、前記方法は、前記燃焼室への前記燃料の供給を停止し且つ前記混合室への前記原料の供給を停止するステップと、前記燃焼室に前記第2の量の酸化剤を供給し、次いで、前記混合室に前記第2の量の酸化剤を供給して前記混合室の壁に付着した前記炭素と反応させるステップとを含む付着物除去工程を実行するステップを更に含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記測定された炭素及び水素の生成物が、前記目標とする炭素及び水素の仕様外であるときに、前記方法は、前記燃料/酸化剤の当量比の範囲を下回る薄い燃料/酸化剤の割合で前記混合室に第4の量の燃料及び酸化剤を供給し、前記第4の量の燃料及び前記第4の量の一部の酸化剤を燃焼させて前記燃焼生成物を生成し、前記混合室に不燃性の酸化剤を供給して前記混合室の壁に付着した前記炭素と反応させるステップを含むリーンバーン工程を実行するステップを更に含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記熱分解反応器は、混合室を各々有する多数の反応器を備え、前記方法は、1つの前記反応器の前記混合室で前記付着物除去工程を実行すると共に、1又はそれ以上の他の前記反応器で熱分解工程を実行するステップを更に含む請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記燃料の供給を停止し、前記第2の量のみの前記酸化剤を順次前記多数の反応器の各々の反応器に供給し、それによって、各々の前記反応器の前記混合室で前記付着物除去工程を連続して実行するステップを更に含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
炭素及び水素の生成物を測定するステップは、前記炭素及び水素の流量を測定するステップを含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
熱分解システムであって、
(a)燃料入口、酸化剤入口、燃焼生成物出口、及び排気口を有する少なくとも1つの燃焼室と、
(b)前記燃焼室、前記燃焼生成物出口、原料入口、及び反応生成物出口と連通する燃焼生成物入口を有する少なくとも1つの混合室と、
(c)前記反応生成物出口と通じている水素及び炭素センサと、
(d)制御装置は、前記制御装置によって実行可能なプログラムコードと共に符号化されるメモリを有し、前記制御装置は、
燃料/酸化剤の当量比の範囲内で第1の量の燃料及び酸化剤の前記少なくとも1つの燃焼室への供給を制御し、前記第1の量の燃料及び酸化剤は燃焼して燃焼生成物が生成され、前記少なくとも1つの混合室への前記原料及び前記燃焼生成物の供給を制御し、前記燃焼生成物は、前記原料と混合され、前記原料は、熱分解工程において水素及び炭素を含む反応生成物に分解され、
前記熱分解工程の間に、前記水素及び炭素センサを測定して前記水素及び炭素の生成物を確定し、
前記測定された炭素及び水素の生成物が、目標とする炭素及び水素の仕様外であるときに、第2の量の酸化剤の前記少なくとも1つの混合室への供給を制御し、前記供給された酸化剤が、前記少なくとも1つの混合室の壁に付着した炭素と反応させられ、
前記測定された炭素の生成物のみが、目標とする炭素の仕様外であるときに、前記燃料/酸化剤の当量比の範囲より高い濃い燃料/酸化剤の割合の第3の量の前記燃料及び前記酸化剤の前記少なくとも1つの燃焼室への供給を制御し、前記第3の量の前記燃料及び前記酸化剤が燃焼して、前記燃焼生成物及び煤煙が生成され、前記少なくとも1つの混合室への前記原料、前記燃焼生成物、前記煤煙の供給を制御し、前記燃焼生成物及び前記煤煙は、前記原料と混合され、前記原料は、熱分解工程において前記反応生成物に分解され、前記煤煙は、炭素生成の因子となる、ことを特徴とするシステム。
【請求項10】
前記燃料/酸化剤の当量比の範囲は、0.9~1.1の間である請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記炭素及び水素センサは、質量流量センサである請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
少なくとも1つの前記原料及び前記燃料は、メタン、天然ガス、水素、エタン、プロパン、ブタン、及びその混合気からなる群から選択されることを特徴とする請求項9又は10に記載のシステム。
【請求項13】
多数の反応器を更に含み、各々の反応器は、少なくとも1つの前記燃焼室を備える請求項9~11のいずれか一つに記載のシステム。
【請求項14】
前記少なくとも1つの混合室は、前記多数の反応器の各々の燃焼室と連通する共通の混合室である請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
各々の反応器が、少なくとも1つの前記混合室を備え、前記多数の反応器の各々の混合室と連通する共通の反応生成物導管を更に備え、前記水素及び炭素センサは、前記共通の反応生成物導管内に位置する請求項13に記載のシステム。
【請求項16】
前記多数の反応器の各々の混合室及並びに炭素セパレータ及び水素セパレータと連通する共通の反応生成物導管を更に備え、前記水素センサは、前記水素セパレータの下流に位置し、前記炭素センサは、前記炭素セパレータの下流に位置する請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記制御装置のメモリが、前記多数の反応器の各々の反応器に対して付着物除去工程を順次実行するように、前記制御装置によって実行可能なプログラムコードと共に更に符号化され、前記付着物除去工程は、各々の反応器について、前記燃焼室及び前記混合室のそれぞれへの前記燃料及び前記原料の供給を停止し、前記燃焼室に前記第2の量の酸化剤のみを供給し、次いで、前記混合室に前記第2の量の酸化剤のみを供給することを順次行ない、前記供給された酸化剤が、前記各々の混合室の壁に付着した前記炭素と反応させられる請求項に記載のシステム。
【請求項18】
前記制御装置が、前記付着物除去工程を実行している前記反応器を除く全ての前記反応器への前記燃料、前記酸化剤、及び前記原料の供給を制御して通常の熱分解工程を実行させ、前記システムが、前記各々の反応器で前記付着物除去工程を順次実行している間に炭素及び水素を生成し続けるようにする請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
熱分解反応器を作動させる方法であって、
0.9~1.1の燃料/酸化剤の当量比内で第1の量の燃料及び酸化剤を燃焼室に供給し且つ前記第1の量の燃料及び酸化剤を燃焼させて燃焼生成物を生成し、原料及び前記燃焼生成物を混合室に供給するステップを含み、前記原料は、前記燃焼生成物と混合され、熱分解工程において水素及び炭素を含む反応生成物に分解され、
前記熱分解工程の間に、前記炭素及び水素の生成物を測定モニタリングするステップを含み、
前記測定モニタリングされた炭素及び水素の生成物が、目標とする炭素及び水素の仕様外であるときに、第2の量の酸化剤を前記混合室に供給し、前記供給された第2の量の酸化剤を前記混合室の壁に付着した前記炭素と反応させるステップを含む、方法。
【請求項20】
熱分解反応器を作動させる方法であって、
0.9~1.1の燃料/酸化剤の当量比内で第1の量の燃料及び酸化剤を燃焼室に供給し且つ前記第1の量の燃料及び酸化剤を燃焼させて燃焼生成物を生成し、原料及び前記燃焼生成物を混合室に供給するステップを含み、前記原料は、前記燃焼生成物と混合され且つ熱分解工程において水素及び炭素を含む反応生成物に分解され、
前記熱分解工程の間に、前記炭素及び水素の生成物を測定するステップを含み、
前記測定された炭素の生成物のみが目標とする炭素の仕様外にあるときに、1.1より大きい燃料及び酸化剤の当量比を有する濃い燃料/酸化剤の割合で第2の量の前記燃料及び前記酸化剤を前記燃焼室に供給し且つ前記第2の量の前記燃料及び前記酸化剤を燃焼させて前記燃焼生成物及び煤煙を生成するステップを含み、前記原料、前記燃焼生成物、及び前記煤煙を前記混合室に供給するステップを含み、前記燃焼生成物及び前記煤煙は、前記原料と混合され、前記原料は、熱分解工程において反応生成物に分解され、前記煤煙は、炭素生成の因子となる、ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱分解に関し、特に、性能を向上させるために熱分解反応器への入力を調整するための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱分解は、炭化水素のような原料ガスを、構成元素(炭化水素の場合、炭素及び水素)に分解する方法である。分解は、原料ガスの元素の化学結合が破壊する点まで原料ガスの温度を十分に上昇させることにより引き起こされる。
【0003】
そのような熱分解は、例えば、原料ガスを高温流体と熱接触させることにより達成されてもよい。例えば、酸化剤と共に可燃性燃料を燃焼させた結果として作られる燃焼生成ガスを原料ガスと混合させてもよい。十分に高い温度では、原料ガスと高温流体の混合、及び、高温流体から原料ガスへの熱エネルギーの伝達は、原料ガスを破壊及び分解させるには十分である。
【0004】
熱分解反応器を、炭化水素原料から炭素及び水素を生成するために設けることができる。熱分解反応器は、炭素を生成する温度及び時間を減少させることにより、炭素生成の割合を増加させるための触媒を使用することができる。しかしながら、触媒の効力は、熱分解反応器中のコークス堆積物により減少する傾向にある。コークス生成は、流体組成物、滞留時間、及び温度の作用である。コークスは、炭化水素が使用又は処理されるほとんどすべての産業において、装置性能にひどく有害な影響を与え得る炭素質の堆積物である。コークスの蓄積は、「くすぶり」とも称され、熱分解反応器において、運転中の難題及び面倒な且つ多額の費用がかかるメンテナンス方法をもたらす。
【0005】
他の出願の公知のくすぶり緩和技術は、例えば、装置表面のコーティング、コークス化した触媒の再生(その場又はその場ではないどちらかで、触媒の失活を避けるために触媒基質からコークス堆積物を除去すること)、蒸気空気付着炭素除去、熱衝撃(オンラインスポーリング)及び機械ピッグ(機械的にこすって洗うこと/こすって取り去ること)を含む。これらの各々の技術は、特定の用途又は工程に合わせて作られるが、結合を弱めること又は機械的に取り除くことによって、遠く離れた炭素に反応するか或いは堆積物を取り除くように設計される。これらの緩和方法の大部分は、メンテナンス方法の間に根幹を成す工程が中断され、炭素堆積物が取り除かれることを必要とし、それゆえに熱分解工程にとって理想的ではない。いくつかの緩和方法は、工程(オンラインスポーリングのような)を中断することなく、実施され得るが、全ての堆積したコークスを取り除くには有効ではなく、かくして熱分解工程にとってもまた理想的ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、1又はそれ以上の先行技術の熱分解工程を改良し、それによって、熱分解性能を向上させることが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様によると、熱分解反応器を作動させるための方法が提供され、この方法は、燃料/酸化剤の当量比の範囲内の第1の量の燃料及び酸化剤を、燃焼室に供給し、且つ第1の量の燃料及び酸化剤を燃焼させて、燃焼生成物を生成すること、原料及び燃焼生成物を混合室に供給することを含み、燃焼生成物が、原料と混合され、原料は、熱分解工程において、水素及び炭素を含む反応生成物に分解され、熱分解工程の間に炭素及び水素の生成物を測定(monitoring)すること、測定された炭素及び水素の生成物が、目標とする炭素及び水素の仕様(specification)外であるとき、第2の量の酸化剤を混合室に供給し、供給された酸化剤を混合室の壁に付着した炭素と反応させること、測定された炭素の生成物のみが、目標とする炭素の仕様外であるとき、燃料/酸化剤の当量比の範囲以上の濃い(リッチな)燃料/酸化剤割合で第3の量の燃料及び酸化剤を燃焼室に供給し、第3の量の燃料及び酸化剤を燃焼させて、燃焼生成物及び煤煙を生成すること、原料、燃焼生成物、及び煤煙を混合室に供給することを含み、燃焼生成物及び煤煙は、原料と混合され、原料は、熱分解工程において反応生成物に分解され、煤煙は炭素生成の因子(種)となる。
【0008】
燃料/酸化剤の当量比の範囲は0.9と1.1の間にあり得る。少なくとも1つの燃料及び原料は、メタン、天然ガス、水素、エタン、プロパン、ブタン、及び混合気からなる群から選択され得る。炭素、水素の生成物の測定は、質量流量のような、炭素及び水素の流量の測定を含むことができる。
【0009】
測定された炭素及び水素の生成物が、目標とする炭素及び水素の仕様外であるとき、本発明の方法は、燃焼室への燃料の供給を停止し且つ混合室への原料の供給を停止すること、及び、燃焼室に第2の量の酸化剤を供給し、次いで、混合室の壁に付着した炭素と反応させるために、混合室に第2の量の酸化剤を供給することを含む付着物除去工程の実行を更に含むことができる。変形例として、測定された炭素及び水素の生成物が、目標とする炭素及び水素の仕様外であるとき、本発明の方法は、燃料/酸化剤の当量比の範囲以下の薄い(リーンな)燃料/酸化剤割合で、第4の量の燃料及び酸化剤を燃焼室に供給すること、第4の量の燃料及び第4の量の一部の酸化剤を燃焼して、燃焼生成物を生成すること、及び、混合室の壁に付着した炭素と反応させるために、混合室に不燃性の酸化剤を供給することを含むリーンバーン工程の実行を更に含むことができる。
【0010】
熱分解反応器は、混合室を各々有する多数の反応器を含むことができ、その場合には、本発明の方法は、1つの反応器の混合室内で付着物除去工程を実施すると共に(同時に)、1又はそれ以上の他の反応器内で熱分解工程を実施することを更に含む。さらに、本発明の方法は、燃料の供給の停止及び酸化剤ののみを次々と多数の反応器の各々の反応器に供給し、それによって、各々の反応器の混合室内で付着物除去工程を順次実施することを含むことができる。
【0011】
本開示の別の態様によると、熱分解システムが提供され、この熱分解システムは、
(a)燃料入口、酸化剤入口、燃焼生成物出口、及び排気出口を有する少なくとも1つの燃焼室と、
(b)燃焼室、燃焼生成物出口、原料入口、及び反応生成物出口と連通する燃焼生成物入口を有する少なくとも1つの混合室と、
(c)反応生成物出口と通じている水素及び炭素センサと、
(d)制御装置によって実行可能なプログラムコードと共に符号化されるメモリを有する制御装置とを含み、この制御装置は、
燃料/酸化剤の当量比の範囲内で少なくとも1つの燃焼室への第1の量の燃料及び酸化剤の供給を制御することを含み、第1の量の燃料及び酸化剤は燃焼して、燃焼生成物を生成し、また、少なくとも1つの混合室への原料及び燃焼生成物の供給を制御することを含み、燃焼生成物は原料と混合され、原料は、熱分解工程において、水素及び炭素を含む反応生成物に分解され、
水素センサ及び炭素センサを測定し、熱分解工程の間に水素及び炭素の生成物を決定(確定)することを含み、
測定された炭素及び水素の生成物が、目標とする炭素及び水素の仕様外であるときに、少なくとも1つの混合室への第2の量の酸化剤の供給を制御することを含み、供給された酸化剤は、少なくとも1つの混合室の壁に付着した炭素と反応させられ、
測定された炭素の生成物が、目標とする炭素の仕様外であるときに、燃料/酸化剤の当量比の範囲より高い、濃い(リッチな)燃料/酸化剤割合で、第3の量の燃料及び酸化剤の少なくとも1つの燃焼室への供給を制御することを含み、第3の量の燃料及び酸化剤は、燃焼して、燃焼生成物及び煤煙を生成し、また、少なくとも1つの混合室への原料、燃焼生成物、及び煤煙の供給を制御することを含み、燃焼生成物と煤煙は原料と混合され、原料は、熱分解工程において反応生成物に分解され、その煤煙は炭素生成の因子(種)となる。
【0012】
本発明のシステムは、多数の反応器を含むことができ、各々の反応器は、少なくとも1つの燃焼室を含む。共通の混合室は、多数の反応器の各々の燃焼室と連通して設けられ得る。代替的に、各々の反応器は、少なくとも1つの混合室を含むことができ、且つ本発明のシステムは、多数の反応器の各々の混合室と連通する共通の反応生成物導管を更に含むことができ、その場合、水素センサ及び炭素センサは、その共通の反応生成物導管内に配置される。さらに、本発明のシステムは、多数の反応器の各々の混合室に連通する共通の反応生成物導管を更に含むことができ、炭素セパレータ及び水素セパレータを有し、その場合、水素センサは、水素セパレータの下流に配置され、炭素センサは、炭素セパレータの下流に配置される。
【0013】
制御装置メモリは、制御装置によって実行可能なプログラムコードと共に更に符号化(エンコード)され、多数の反応器の各々の反応器のために付着物除去工程を順次実行し、付着物除去工程は、各々の反応器について、燃焼室及び混合室のそれぞれへの燃料及び原料の供給を停止すること、及び、第2の量の酸化剤のみを燃焼室に供給し、次いで、第2の量の酸化剤を混合室へ供給することを順次行なうことを含み、供給された酸化剤は、各々の混合室の壁に付着した炭素と反応させられる。さらに、制御装置は、付着物除去工程を実行している反応器を除いた全ての反応装置への燃料、酸化剤、及び原料の供給を制御して通常の熱分解工程を実行することができ、本発明のシステムは、各々の反応器で付着物除去工程を順次実行しながら、炭素及び水素を生成し続けるようにすることができる。
【0014】
本発明の別の態様によると、熱分解反応器を作動する方法が提供され、この方法は、0.9~1.1の燃料/酸化剤の当量比内で、第1の量の燃料及び酸化剤を燃焼室に供給すること、及び、第1の量の燃料及び酸化剤を燃焼させて、燃焼生成物を生成することを含み、原料及び燃焼生成物を混合室に供給することを含み、原料は、燃焼生成物と混合され、且つ、熱分解工程において水素及び炭素を含む反応生成物に分解され、また、熱分解工程の間に炭素及び水素の生成物を測定することを含み、測定された炭素の生成物が目標とする炭素の仕様外であるときに、第2の量の酸化剤を混合室に供給することを含み、供給された第2の量の酸化剤を混合室の壁に付着した炭素と反応させることを含む。
【0015】
本発明のさらに別の態様によると、熱分解反応器を作動させる方法が提供され、この方法は、燃焼室に0.9~1.1の燃料/酸化剤の当量比の範囲内で第1の量の燃料及び酸化剤を供給すること、及び、第1の量の燃料及び酸化剤を燃焼させて、燃焼生成物を生成することを含み、原料及び燃焼生成物を混合室に供給することを含み、原料は、燃焼生成物と混合され且つ熱分解工程において水素及び炭素を含む反応生成物に分解され、また、熱分解工程の間に炭素及び水素の生成物を測定することを含み、測定された炭素の生成物のみが目標とする炭素の仕様外であるとき、1.1より大きい燃料/酸化剤の当量比を有する濃い(リッチな)燃料/酸化剤割合で、第2の量の燃料及び酸化剤を燃焼室に供給すること、及び、第2の量の燃料及び酸化剤を燃焼させて、燃焼生成物及び煤煙を生成することを含み、混合室に原料、燃焼生成物及び煤煙を供給することを含み、燃焼生成物及び煤煙は、原料と混合され、原料は、熱分解工程において反応生成物に分解され、煤煙は、炭素生成の因子となること含む。
【0016】
上述した課題を解決するための手段における説明は、必ずしも本発明の全ての態様の範囲全体を記載していない。他の態様、特徴及び利点は、特定の実施形態の以下の記載を参照すれば当業者に明白であろう。
【0017】
本開示の実施形態について、添付の図面と関連して、以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A-1C】図1Aは、本発明の実施形態による熱分解システムにおける熱分解サイクルの点火段階を示し、図1Bは、熱分解サイクルの混合段階を示し、図1Cは、熱分解サイクルの反応前段階を示す。
図1D-1F】図1Dは、熱分解サイクルの反応後段階を示し、図1Eは、熱分解サイクルの急冷段階を示し、図1Fは、熱分解サイクルの充填段階を示す。
図2】多数の反応器、及び、反応器への原料、水素及び酸化剤の供給の制御を含み、各々の反応器における熱分解サイクルの作動を制御するようにプログラムされた制御装置を含む熱分解システムの実施形態を示す概略図である。
図3】本発明の実施形態による、制御装置によって実行される熱分解作動プログラムの作動ロジックを示すフローチャートである。
図4A】本発明の別の実施形態による多数の反応器熱分解システムにおける工程を示す図であり、通常の熱分解工程を全て実行する一連の熱分解反応器を示す。
図4B】本発明の別の実施形態による多数の反応器熱分解システムにおける作動を示す図であり、他の反応器が通常の熱分解工程を実行する間に、順次付着物除去工程を実行する各反応器を示す。
図5A】本発明の別の実施形態による6つの反応器の熱分解システムから排出される反応生成物を示すグラフであり、全ての反応器が通常の熱分解工程を実行するときの、熱分解システムの反応生成物の排出量を示す。
図5B】本発明の別の実施形態による6つの反応器の熱分解システムから排出される反応生成物を示すグラフであり、他の反応器が通常の熱分解工程を実行する間に、各反応器が付着物除去工程を連続して実行するときの、熱分解システムの反応生成物の排出量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書で説明される実施形態は、熱分解反応器システムの炭素及び水素の生成物を測定する方法及びシステムに関し、測定された炭素及び水素の生成物の一方又は両方が目標とする性能仕様(target performance specification)を外れているとき、反応器システムへの1又はそれ以上の供給を調整し、性能を向上させる。特に、反応器システムの燃焼室に供給される酸化剤に対する燃料の割合(「燃料/酸化剤割合」)は、炭素及び水素の両方の生成物が、目標とする炭素及び水素の仕様に満たないとき、選択された燃料/酸化剤の当量比の範囲以下に調整され、炭素の生成物のみが、目標とする炭素の仕様に満たないとき、燃料/酸化剤の当量比の範囲以上に調整される。いくつかの実施形態において、選択された燃料/酸化剤の当量比の範囲が、0.9~1.1の間にある。上述した目標仕様は、生成率、(炭素の)組織、及び作動温度を含むいくつかのパラメータを含むことができる。
【0020】
水素及び炭素の両方の生成物の性能は、炭素が反応器システムの混合室の壁を覆うと、低下する傾向がある。いくつかの実施形態において、反応器システムの燃焼室に供給される燃料/酸化剤割合は、リーンバーン状態に調整され、燃料/酸化剤割合は、測定された炭素及び水素の両方の生成物が、目標とする水素及び炭素の生成物の仕様外にあるときに、燃料/酸化剤の当量比の範囲以下である。いくつかの他の実施形態において、燃料供給及び原料の供給は、停止され、且つ酸化剤のみが、付着物除去工程において反応器の混合室に供給される。リーンバーン状態又は付着物除去工程において反応器システムを作動させるとき、不燃性の酸化剤が、炭素と反応してCO2ガスを生成する混合室に供給され、それによって混合室の壁を覆う炭素の量を除去又は減少させる。
【0021】
熱分解の間に混合室内で炭素を形成するのに必要とされる時間の長さは、滞留時間として知られ、所望される炭素生成物の量及び組織に依存する。理想的には、反応器システムのローディング及びアンローディングのバルブタイミング及び点火時期は、燃焼ガスが原料ガスと混合されてから、反応生成物を放出するために反応器の排出バルブが開放されるまでの時間が、滞留時間と等しくなるように設定され、所与の反応器の大きさに対して、水素及び炭素の生成物を最大化するために可能な限り短くするべきである。炭素の生成性能のみが低下するとき、炭素の滞留時間の増加により、炭素の生成が完了するまでの時間が不足すると推定される。いくつかの実施形態において、燃料/酸化剤割合は、リッチバーン状態に調整され、測定された炭素の生成物が目標とする炭素の生成物の仕様外にあるのみのとき、燃料/酸化剤割合は、燃料/酸化剤の当量比の範囲を超える。リッチバーン状態において反応器システムを作動させるとき、煤煙が燃焼室内で形成されて混合室に供給され、熱分解中、原料分解による炭素生成の因子(種)となることによって、炭素の滞留時間を減少させる。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、図1A~1Fを参照すると、炭化水素の原料ガスを水素及び炭素を含む反応生成物に分解するための熱分解システム100における熱分解サイクルの間に起こる一連のステップが詳細に示される。
【0023】
図1Aを参照すると、熱分解システム100は、一対の燃焼室30を有し、これらの燃焼室30は、それぞれの流体経路32を介して混合室10に接続されている。流体経路32は、燃焼室30から混合室10への流体の流れを選択的に可能にする。いくつかの実施形態によると、燃焼室30は、流体経路32を介する必要なく混合室10に直接接続されてもよい。更なる実施形態によると、燃焼室30は、流体が、燃焼室30の外に流れ且つ混合室10の内部に直接流れてもよいように混合室10内に設けられてもよい。図1Aは、2つの燃焼室30を示すが、本発明の開示は、混合室(又は多数の混合室)に接続される任意の個数の燃焼室(たとえば、単一又は多数の燃焼室)にまで及ぶということは理解されるであろう。
【0024】
混合室10の第1端には、混合室10への原料ガスの流入を選択的に可能にするための入口バルブ12が設けられる。反対側の混合室10の第2端には、混合室10の外部への混合室10内のガスの流出を選択的に可能にするためのバルブ14によって制御される排出口が設けられる。
【0025】
各々の燃焼室30は、燃焼室30への燃料及び酸化剤燃焼ガスの流入を選択的に可能にするための入口バルブ36,37、及び燃焼室30の外部への燃焼室30内の燃焼生成ガスの流出を選択的に可能にするためにバルブ38によって制御される排出口を含む。各々の燃焼室30は、燃焼室30に流れ込んだ燃焼ガスの燃焼を推進するのに十分な燃焼エネルギーを供給するための1又はそれ以上の点火装置34を更に有する。
【0026】
熱分解システム100の一般的な構造は、その作動の間、不変のままであり、それゆえに、図1A~1Fを参照して熱分解システム100の構造を更に詳細には説明しない。
【0027】
図1Aから始まり、熱分解サイクルの点火段階が示される。この段階の前に、燃焼燃料及び酸化剤が、バルブ36,37(「燃料及び酸化剤バルブ」)によって制御される各々の燃料入口及び酸化剤入口を介して、各々の燃焼室30に提供される。変形例として(図示せず)、燃料及び酸化剤の混合物が、単一のバルブを通して、各々の燃焼室30に提供される。
【0028】
同時に、メタンのような炭化水素の原料ガス50が、バルブ12により制御される入口を介して、混合室10に提供される。流体経路32が恒久的に開放される場合には、燃焼室30及び混合室10は、各々の室内の圧力がほぼ同等になるようにそれぞれのガスで満たされ、燃焼ガスと原料ガス50の混合がほとんど生じないようになっている。一度、燃焼室30及び混合室10の充填が完了すると、原料バルブ、燃料バルブ、及び酸化剤バルブ12、36、37は、閉ざされ、したがって、熱分解システム100は、一定の体積システムとみなされる。
【0029】
点火段階の間、点火装置34は、点火装置34に適切に作用するように接続されたマイクロプロセッサ又は電子回路のような、適切な制御装置60(図2に示す)によって作動され、燃焼室30内の燃焼ガスの燃焼が引き起こされる。燃焼ガスの燃焼は、燃焼室30内で1又はそれ以上の高温の燃焼生成物ガス(燃焼生成物40)を生成し、混合室10内の圧力に対して、燃焼室30内の圧力及び温度をかなり増加させる。
【0030】
次に図1Bを見ると、熱分解サイクルの混合段階が示される。混合段階の間、燃焼生成物40は、流体経路32を介して混合室10に流れ、原料ガス50と混合し始め、反応前燃焼生成物ガスと原料ガスの混合気42を形成する。これが発生すると、燃焼室30内の圧力が下がり始める。
【0031】
次に図1Cを見ると、熱分解サイクルの反応前段階が示される。反応前段階の間、かなりの割合の燃焼生成物40が、混合室10に流れ、原料ガス50と混合され、混合室10を反応前燃焼生成物ガスと原料ガスの混合気42で満たす。しかしながら、燃焼室30内の圧力が混合室10内の圧力とほぼ同等の圧力まで下がったことに応答して、燃焼生成物40の一部は、燃焼室30内に残ったままとなる。この段階の最後まで、燃焼室30及び混合室10内の圧力は、点火前レベルより依然として高い状態で、ほぼ同等のレベルまで戻っている。
【0032】
混合室10への燃焼生成物40の流れの結果として、且つ特に原料ガス50と燃焼生成物40が混合して混合気42を形成する結果として、熱エネルギーは、燃焼生成物40から原料ガス50に伝達される。エネルギーもまた、高温で加圧された燃焼生成物40の混合室10内への流れに応答して混合室10内で増加する圧力の結果として、原料ガス50の動的圧縮により、燃焼生成物40から原料ガス50に伝達される。或るポイントを過ぎると、原料ガス50の温度の増加は、原料ガス50の分解又は熱分解を推進するために十分である。メタンの場合は、分解は、以下の形式をとる。
【数1】
【0033】
次に図1Dを見ると、熱分解サイクルの反応後段階が示される。反応後段階の間、燃焼室30及び混合室10内の圧力は、同等にされる。燃焼室30は、燃焼生成物40で満たされたままである。混合室10は、一般に、原料ガス50の分解により形成された反応生成物52を含む。例えば、炭化水素原料の場合、混合室10は、一般に、反応生成物52として炭素及び水素を含む。
【0034】
次に図1Eを見ると、熱分解サイクルの急冷段階が示される。急冷段階の間、排出バルブ14が開放され、混合室10内の反応生成物52の圧力及び温度を急速に低下させて熱分解反応を抑制し、その結果、混合室10内の急冷された反応生成物54が排出バルブ14を介して混合室10から排出される。加えて、燃焼室30及び流体経路32内に残る燃焼生成物40は、排出バルブ38を開放することによって排出される。
【0035】
次に図1Fを見ると、熱分解サイクルの充填段階が示される。充填段階の間、新しい燃料46及び酸化剤47が、燃料バルブ及び酸化剤バルブ36,37を介して燃焼室30内に供給される。これは燃焼室30内の圧力を増加させ、急冷された燃焼生成物ガス48及び急冷された反応生成物54を、燃焼室30及び流体経路32の外に排出し、混合室10内に流入させる。同時に、新しい原料ガス50は、入口バルブ12を介して混合室10内に供給され、且つ排出バルブ14を介して混合室10内の急冷された燃焼生成物ガス48及び急冷された反応生成物54を混合室10の外に押し出す。充填段階の最後には、次の反応サイクルにおける分解に備えて、燃焼室30及び流体経路32は、一般に、加圧された原料ガス50(及び混合室10から排出されなくてよい任意の反応生成物又は燃焼生成物)を収容し、一方、混合室10は、一般に、加圧された燃焼ガス(及び任意の残留している反応を起こしていない原料ガス44)を収容する。
【0036】
次に図2を参照し、いくつかの実施形態において、熱分解システム100は、多数の反応器を有する。図2に示されるいくつかの実施形態において、多数の反応器が、反応器1~nとして概略的に示され、各反応器は、図1A~1Fに示されるように燃焼室に流体的に結合された混合室を各々備えている。各々の燃焼室が、共通の燃焼ヘッダー58から燃料及び酸化剤を受け取るための燃料バルブ及び酸化剤バルブ36-1~n、37-1~n、及び共通の排出ヘッダー64に燃焼生成物を排出するための燃焼生成物バルブ38-1~nを有する。各々の混合室は、共通の原料供給ヘッダー62から原料を受け取るための入口バルブ12-1~n及び共通の反応生成物ヘッダー66に反応生成物を排出するための排出バルブ14-1~nを有する。
【0037】
図2を参照すると、制御装置60は、各々の反応器1~nのためにバルブ12、14、36,37,38と通信可能であり、且つ、各点火サイクルの後、各燃料バルブ及び酸化剤バルブ36,37と各混合室の入口バルブ12を順次開放して、各混合室に燃料及び酸化剤を供給すると共に、各混合室に原料ガスを供給する一方、他の燃料バルブ及び酸化剤バルブと混合室バルブを閉じたままとする(ボックス「X」として示される)ように、バルブタイミングを制御するよう作動可能である。同様に、制御装置60は、各々の反応器1~nがその熱分解サイクルを完了した後、各々の混合室の排出バルブ14及び燃焼生成物排出バルブ38を順次開放する。6つの反応器を有する例示的な熱分解システム100の排出が、図5Aに示され、各反応サイクルの後に各混合室の排出バルブを順次開放することにより、正弦波の動的出力を引き起こし、準定常状態出力につながる。
【0038】
熱分解システムは、反応生成物センサ70を有し、この反応生成物センサ70は、反応生成物導管66内に位置し、且つ各々の反応器1~nからの水素及び炭素の排出量を測定するように構成される。変形例として、反応生成物センサ70は、炭素セパレータ及び水素セパレータ(図示せず)の下流に配置することができる。反応生成物センサ70は、炭素ガス及び水素ガスの或る性質を検知するために適切な商業的に入手可能な、コリオリ、タービン、及び超音波のような質量又は体積流量計と、質量分析計のようなガス組成センサと、熱電対及びサーミスタのような温度センサと、ピエゾ抵抗及び可変容量センサのような圧力センサを含むセンサから選択され得る。他の実施形態において(図示せず)、センサ70は、例えば、各々の混合室の10の排出バルブ14などの、混合室10の他の場所の下流又は熱分解システムのそれぞれの炭素及び水素セパレータ(図示せず)の下流に配置することができる。
【0039】
制御装置60は、ダイレクトデジタルコントローラ(DDC)、比例・積分・微分コントローラ(PID)、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)、特定用途向け集積回路(ASIC)、又は汎用コンピューターのような、本技術に公知のプログラマブルコントローラの任意の種類であることができる。制御装置60は、センサ70と通信し、センサ70によって取得される水素及び炭素の生成物の測定値を受け取る。
【0040】
図3を参照すると、制御装置60は、測定された水素及び炭素の生成物が目標とする水素及び炭素の仕様内にあるときに通常の熱分解を実行し、また、1又はそれ以上の水素及び炭素の生成物が目標とする水素及び炭素の生成物の仕様外にあるときに1又はそれ以上のリーンバーン工程及びリッチバーン工程を実行するように、制御装置60によって実行可能な熱分解工程プログラムと共に符号化(エンコード)されるメモリを有する。
【0041】
通常の熱分解工程において、制御装置60は、理論空燃比混合気が燃焼室10に供給されるように、水素及び酸化剤のバルブ36,37を調整する。燃料がメタンのとき、メタンを完全に消費するために必要とされる酸化剤の正確な量は、CH4の全てのmolに対して2molのO2であり、理論混合気と称される。当量比Φは、任意の燃料/酸化剤割合と当量比を比較するために使用され、以下の式、
【数2】
によって与えられる。ここで、
【数3】
であり、リッチ燃焼では、Φ>1.1、リーン燃焼では、Φ<0.9、ストイキ燃焼では、Φ=0.9~1.1(以下、「当量比の割合の範囲」と言う)となる。
【0042】
一度、熱分解システム100が、新しい熱分解サイクルを始めると、制御装置60は、センサ70をチェック(ステップ80)し、熱分解システム100が目標とする仕様内で水素及び炭素を生成しているかどうかを判定(決定、確定)する。Yes(82)の場合は、制御装置60は、通常運転84を実行し、燃料バルブ及び酸化剤バルブ36,37を調節し、燃料/酸化剤の当量比の範囲(Φ=0.9~1.1)内で燃料/酸化剤の混合物を維持する。
【0043】
センサ測定により、水素及び炭素の質量流量の減少及び/又は目標仕様外の温度の増加が検知されたとき(85)、混合室10の内側は、炭素で覆われてしまっている可能性がある。炭素の蓄積は、混合室10内の総ガス体積を実質的に減少させ、その結果として、熱分解システム100は、それほど多くの原料を混合室10に積めなくなり、かくして、水素及び炭素の生成物の生成率の減少を引き起こす。また、炭素の蓄積は、混合室10内部の温度を上昇させる可能性があり、燃焼室30は一定の容積を有するので、燃焼による同等の量のエネルギーは、混合室10内のより少ない量の原料に加えられる。
【0044】
制御装置60が、測定された水素及び炭素の両方の生成物が、目標とする仕様から外れていることを判定したとき(86)、制御装置60は、リーンバーン工程88を実行し、燃料バルブ及び酸化剤バルブ36,37を調節し、燃焼室30に薄い(リーンな)燃料/酸化剤の混合物(Φ<0.9)を供給する。全ての供給された酸化剤を燃焼するためには燃料が不十分であるので、不燃性の酸化剤(酸素)が混合室10に導かれ、それが壁上の炭素と反応してCO2及び/又はCOに変換され、下流で除去され或いは処理される。リーンバーン工程は、炭素及び水素の生成率が、目標とする仕様内に戻るまで、連続的に(反応サイクルごと)或いは周期的に(n番目のサイクルごと)行なうことができる。
【0045】
制御装置60が、測定された炭素の生成物のみが目標とする炭素の仕様外であると判定するとき(90)、混合室10のバルブタイミング(混合室の入口バルブ12の開放と混合室の排出バルブ14の開放の間の時間)は、混合室10における炭素の生成を完了させるために十分に長くない場合がある。つまり、反応サイクルタイミングが炭素の滞留時間より短いので、炭素生成物の減少又は炭素組織の望ましくない変化につながる可能性がある。混合サイクルのバルブタイミングの延長は、水素の生成率を低下させるので、制御装置60は、その代わりに、燃料バルブ及び酸化剤バルブ36,37を調節し、燃焼室(92)に濃い(リッチな)燃料/酸化剤の混合物(Φ>1.1)を供給する。これにより、燃料の不完全燃焼を引き起こし、燃焼室内に煤煙を生成させる。煤煙は、炭素粒子の集まりであり、混合室10に注入されて、炭素生成の因子(種)となり(炭素生成の因子(種)を供給し)、炭素の滞留時間を減少させる。
【0046】
いくつかの実施形態によると、熱分解システム100は、1又はそれ以上の反応器において実行される付着物除去工程を含む熱分解工程プログラムと共に符号化された制御装置60を有する。付着物除去工程は、燃料が燃焼室30に供給されず、かくして点火サイクルが存在しないということを除いて、混合室内の炭素堆積物を除去するためのリーンバーン工程と目的が類似した工程である。つまり、燃料/酸化剤割合が0であるので、当量比は付着物除去工程において0である。酸化剤は、燃焼室30に供給され、次いで、混合室10に供給され、これにより、酸素を炭素堆積物と反応させてCO及びCO2を形成し、次いで、これらを混合室10から排出させることができる。
【0047】
図4B及び5Bを参照すると、一実施形態は、多数の反応器の熱分解システム100を有し、この熱分解システム100は、反応器の反応サイクル(1~n)の通常の工程において、各々の単一の反応器内で、付着物除去サイクルを順次実行するようにプログラムされた制御装置60を有する。多数の反応器を順次点火させると準定常状態出力が得られるので、単一サイクルで1つの反応器をオフラインにしても、製品の生産の流れに与える影響は最小限に抑えられると予想される。付着物除去サイクルは、次いで、他の反応器が依然として生成している間に、各反応器に対して異なる順序で繰り返され、それによって熱分解システム100が、炭素及び水素の生成を中断することなく、その各反応器の各々において付着物除去工程を行うことを可能にする。
【0048】
制御装置60は、以下のように、反応器1~nのグループ中の反応器に対して、付着物除去工程を実行する。
1.対象の反応器1のために酸化剤バルブ37を開放しながら、定期的に燃料バルブ36を閉じて、燃焼室30に対する燃料の供給を停止し、それによって、酸化剤(例えば、純粋なO2)を、反応器1の燃焼室30に供給し、次いで、混合室10に供給し、反応器1の混合室10の入口バルブ12を閉じ、反応器1への原料ガスの供給を停止させる。
2.通常の反応サイクルの間、O2を反応器1の混合室10内で堆積した炭素と反応させ、主にCO2の排出ガスを形成させる。
3.反応器1の混合室の排出バルブ14を開放し、反応器1から排出ガスを排出する。
4.熱分解システム100における他の反応器2~nについても上記順序を繰り返す。
5.必要ならば、十分なサイクルが完了したことが判定(決定、確定)されるまで、全ての反応器に対して、再び付着物除去工程を繰り返し、炭素堆積物を除去する。
【0049】
図5Bは、生成過程への影響を最小限に抑えつつ、付着物除去サイクルを通常の運転順序に介入する方法を説明する。通常の状況下では、内燃機関におけるピストン点火が安定した出力トルクを生み出すことと同様に、多数の反応器を順次作動させることで、公称の定常状態出力を生成される。付着物除去工程において、単一の反応器のサイクルで付着物除去工程を実行し、残りの反応器を通常通りに作動させてもよい。次いで、付着物除去工程が繰り替えされるか、或いは、次の反応器移すことができ、この工程は、必要に応じて、反応器の堆積物を取り除くために繰り返され得る。図5Bにおいて、生成量を、付着物除去工程の効果を表すため誇張して示すように、小さな時間的変動を有することがある。その結果、その工程が作動状態のまま、付着物のメンテナンスルーチンを実行することができる。
【0050】
上記の実施形態は、一般に、メタンの分解に関連して説明しているが、本明細書に記載される概念は、天然ガス、水素、エタン、プロパン、ブタン及びその混合気のような、他の原料の炭化水素ガスに適用されてもよい。また、炭素と水素に分離されなかった混合室内のガスは、原料ガスとしての使用のために再利用することができる。
【0051】
用語「a」または「an」は、特許請求の範囲及び/又は明細書における用語「comprising(訳文では「備える」、「有する」としている場合が多い)または「including(訳文では「含む」としている場合が多い)」と関連させて用いられる場合、「1つ」を意味する場合があるが、内容的に明確に別の明示の指定がなければ、「1又はそれ以上」、「少なくとも1つ」及び「1又は1以上」の意味ともまた一致する。同様に、「another」という用語は、内容的に明確に別の明示の指定がなければ、少なくとも2つ目又はそれ以上を意味する場合がある。
【0052】
本明細書で使用される「結合された」又は「接続された」という用語は、用語が使用される文脈に依存するいくつかの異なる意味を有してもよい。例えば、結合された又は接続されたという用語は、機械的な、電気的な意味を有してもよい。例えば、本明細書で使用されるように、結合された又は接続されたという用語は2つの要素又は装置が、電気的又は機械的要素を介して、直接又は1又はそれ以上の中間要素又は装置を介して、お互いに接続されるということを指してもよく、特に文脈に依存する。項目リストと組み合わせて使用されるとき、本明細書で使用されるように「及び/又は」という用語は、リストを含む任意の1又はそれ以上の項目を参照する。
【0053】
本明細書で使用されるように、「約」又は「ほぼ」又は「実質的に」は、その数字の+/-10%内を意味する数字と等しい。
【0054】
本発明を特定の実施形態に関連して説明したが、本発明は、これらの実施形態に制限されないということ、且つこれらの実施形態の変更、修正、及び変化は、本発明の範囲から逸脱することなく当業者によって実施されてもよいということは、理解される。
【0055】
本明細書で説明された任意の態様又は実施形態の任意の部分は、本明細書で論じられる任意の他の態様又は実施形態の任意の部分と共に実施され或いは組み合わされることができるということが、更に予想される。
【要約】
【課題】1又はそれ以上の先行技術の熱分解工程を改良し、それによって、熱分解性能を向上させる熱分解反応器への入力を調整する方法及びシステムを提供する。
【解決手段】方法及びシステムが、熱分解反応器システムの炭素及び水素の生産を測定し、且つ測定された炭素及び水素の1又は両方の生産が対象の性能仕様外にあるときに、性能を向上させるために反応器システムへの1又はそれ以上の供給を調整するということが開示される。特に、反応器システムの混合物に供給される酸化剤に対する燃料割合(「燃料/酸化剤比率」)は、炭素及び水素の両方の生産が、対象の炭素及び水素の仕様以下であるときに0.9~1.1として定義された燃料/酸化剤の当量比の範囲以下に調整され、且つ炭素の生産のみが、対象の炭素の仕様以下にあるとき、燃料/酸化剤の当量比の範囲以上に調整される。対象の仕様は、生成率、組織(炭素の)、及び動作温度を含むいくつかのパラメータを含むことができる。
【選択図】図3
図1A-1C】
図1D-1F】
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B