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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】油中水型乳化化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/81 20060101AFI20240618BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 8/31 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 8/891 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 8/894 20060101ALI20240618BHJP
   A61Q 1/04 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
A61K8/81
A61K8/06
A61K8/31
A61K8/34
A61K8/37
A61K8/49
A61K8/891
A61K8/894
A61Q1/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019085239
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020180089
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-11-29
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】古勢 美緒
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】野田 定文
【審判官】齊藤 真由美
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-187951(JP,A)
【文献】特開2004-359483(JP,A)
【文献】特開2013-221028(JP,A)
【文献】小野猪智郎(信越シリコーン電子材料技術研究所),化粧品原料としてのシリコーンの開発,FRAGRANCE JOURNAL,2003年05月,p.98-103
【文献】スペシャリティシリコーン シリコーン変性アクリルポリマー,東レ・ダウコーニング社,2006年10月,p.15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(a)~(g)を含む油中水型乳化化粧料。
(a)アクリルシリコーン系グラフト共重合体16~21質量%
(b)揮発性シリコーン油35~50質量%
(c)界面活性剤
(d)ワックス類
(e)揮発性シリコーン油を除く液状油1~20質量%
(f)水相7~15質量%
(g)顔料
【請求項2】
(a)アクリルシリコーン系グラフト共重合体が、(アクリレーツ/アクリル酸ベヘニル/メタクリル酸ジメチコン)コポリマー、(アクリレーツ/アクリル酸ステアリル/メタクリル酸ジメチコン)コポリマー、(アクリレーツ/アクリル酸エチルヘキシル/メタクリル酸ジメチコン)コポリマー、(アクリレーツ/メタクリル酸ポリトリメチルシロキシ)コポリマー、(アクリレーツ/ジメチコン)コポリマーから選ばれる1以上である、請求項1に記載の油中水型乳化化粧料。
【請求項3】
(f)水相がグリセリンを含有する、請求項1または2に記載の油中水型乳化化粧料。
【請求項4】
化粧料の硬度が150~400である、請求項1~3のいずれかに記載の油中水型乳化化粧料。
【請求項5】
口唇用である請求項1~4のいずれかに記載の油中水型乳化化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧持ちと使用感に優れた油中水型乳化化粧料の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
口紅やファンデーション等のメイクアップ化粧料は、しばしば衣服などへの色移りが問題とされてきた。特に口紅は、通常の生活行為で衣服に付着する、カップ等に口紅が転着する、といった現象が視認されやすく、メイクアップ化粧料処方設計者は、これらの問題を解決するために化粧持ちを改善する様々な試みを行ってきた。例えば、色材やワックス類とともに揮発性油剤を配合し、塗布後、油剤が揮発することにより塗布面に色材及びワックス成分が残るようにし、化粧持ちを改善する試みが知られている。また揮発性油剤とともにポリマー等の皮膜形成剤を配合し、これを塗布、乾燥することにより塗布面にポリマー皮膜を形成させ、化粧持ちを改善する試みが知られている。このような試みにより、化粧持ちに関してはある程度改善しつつある。しかしながら皮膜形成剤を増やして配合すると独特の皮膜感(ごわつき)や乾燥感(パサつき)が生じたり、油剤の過度の揮発からツヤ感のない仕上がりになったりして使用感が悪くなる新たな問題が生じた。このような中、さらなる技術提案がなされている。
特許文献1には、親水性有機基を含有し、有機溶剤に不溶なシリコーン架橋重合物0.1~30重量%、液状炭化水素、エステル、高級脂肪酸、高級アルコール、シリコーンオイルからなる群より選ばれた一種または二種以上の液状油10~90重量%、半固体油脂または固体油脂5~50重量%、顔料1~50重量%を含有する口唇化粧料が記載されている。この化粧料は、親水性有機基を含有するシリコーン架橋重合物を配合することにより、唇上の水分によって増粘、ゲル状化するため化粧持ちが向上し、また、当該シリコーン架橋重合物はゴム弾性を有するため皮膚への密着性に優れ、かつ唇の形状変化にも追随することのできる被膜を形成するため、使用に際し違和感が無く、密着性の高い色移りや色落ちしない口紅となることか記載されている。
【0003】
特許文献2には、パーフルオロアルキル基及び炭素数2~100のアルキル基を有するフッ素系高分子を含有する口唇化粧料が記載されている。この化粧料は、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系油剤とともに、特定の比誘電率を有する油剤を用いることにより、安定性が良好で、フッ素系油剤の高い撥水性及び撥油性を利用して色移りを防ぐとともに、長時間色落ちすることがなく、しかもしっとりとした感触の口紅組成物が得られることが記載されている。
【0004】
特許文献3には、(A)カルボシロキサンデンドリマー構造を側鎖に有するビニル系重合体0.1~30質量%、(B)25℃で液状であり、かつ溶解度パラメーターが16.5以上の不揮発性油剤0.1~30質量%、(C)疎水化処理粉体 1~30質量%を含有し、成分(A)と成分(B)の質量割合が、(A)/(B)=0.5~5である油中水型乳化化粧料が記載されている。この乳化化粧料は、口紅などのメイクアップ化粧料に適しており、肌上へ均一な化粧膜を形成し、肌につけた後の皮膜感が小さく、肌への密着性、小じわ、毛穴を目立たせなくする効果を有することが記載されている。
【0005】
特許文献4には、(a)デンドリマー型シロキサン構造を側鎖に有するアクリルポリマー、(b)パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、(c)Si/Cの加重平均値が0.25~0.46である液状油分を含有する化粧料が記載されている。この化粧料は、低温保存した場合でも安定性が高く、化粧持ちや使用感に優れることが記載されている。
【0006】
特許文献5には、シリコーンアクリレートコポリマーとポリエステルワックスを含むアイシャドウ、リップグロス、リップスティック、アイライナー、フェイスパウダーが記載されている。これらの化粧料は、シリコーンアクリレートコポリマーを含む良好な保持力のフィルムが形成される。このフィルムは硬すぎることなく、組成物が最初に皮膚に載った部分から離れて移動しないための十分なコンシステンシーをもったフィルムを形成することが記載されている。
このように、様々なタイプの化粧持ちを改善するための技術提案がある。しかしこれらの先行技術によっても、色移りしない十分な化粧持ち効果を実現しつつ、多めに配合する皮膜形成剤により発生する皮膚(唇)のごわつきや乾燥感といった違和感がなく、べたつきのない優れた使用感であり、ツヤのある仕上がりが持続するメイクアップ化粧料を実現させるには十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-163732号公報
【文献】特開2004-026681号公報
【文献】特開2010-018612号公報
【文献】特開2015-044884号公報
【文献】特表2011-525520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、皮膜形成剤を多く含むメイクアップ化粧料において、色移りしない化粧持ち効果と、べたつきや乾燥感の生じない優れた使用感と、ツヤ感のある仕上がりを実現した化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、特定の皮膜形成剤を選択し、皮膜形成剤と水相の配合量を特定させて油中水型の乳化化粧料とすることで、色移りしない化粧持ち効果と、べたつきや乾燥感のない優れた使用感を両立させ、さらにツヤ感のある仕上がりを実現させた極めて好ましいメイクアップ化粧料が得られる発明である。なお、本発明の油中水型乳化化粧料における水相には、水以外の成分としてグリセリンを含ませてもよく、さらにはグリセリンのみで水相を構成してもよいものである。
【0010】
すなわち本発明の構成は、次のとおりである。
1.次の(a)~(g)を含む油中水型乳化化粧料。
(a)アクリルシリコーン系グラフト共重合体16~21質量%
(b)揮発性シリコーン油
(c)界面活性剤
(d)ワックス類
(e)揮発性シリコーン油を除く液状油
(f)水相7~15質量%
(g)顔料
2.(a)アクリルシリコーン系グラフト共重合体が、(アクリレーツ/アクリル酸ベヘニル/メタクリル酸ジメチコン)コポリマー、(アクリレーツ/アクリル酸ステアリル/メタクリル酸ジメチコン)コポリマー、(アクリレーツ/アクリル酸エチルヘキシル/メタクリル酸ジメチコン)コポリマー、(アクリレーツ/メタクリル酸ポリトリメチルシロキシ)コポリマー、(アクリレーツ/ジメチコン)コポリマーから選ばれる1以上である、1に記載の油中水型乳化化粧料。
3.(f)水相がグリセリンを含有する、1または2に記載の油中水型乳化化粧料。
4.化粧料の硬度が150~400である、1~3のいずれかに記載の油中水型乳化化粧料。
5.口唇用である1~4のいずれかに記載の油中水型乳化化粧料。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、色移りがなく化粧持ち効果に優れ、かつべたつき感や皮膚(唇)の乾燥感や違和感のない使用感に優れた化粧料が提供される。そして、本発明の化粧料はツヤ感のある仕上がりが持続する。本発明の油中水型乳化化粧料は、これらの特性から口紅やリップグロスなど口唇用化粧料に適している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、配合成分及び製造工程について説明する。
(a)アクリルシリコーン系グラフト共重合体
本発明の油中水型乳化化粧料は、皮膜形成剤としてアクリルシリコーン系グラフト共重合体を含有する。本発明に使用可能なアクリルシリコーン系グラフト共重合体としては、通常化粧料に使用可能な成分であればどのような化合物であっても使用可能である。このような化合物としては、(アクリレーツ/アクリル酸ベヘニル/メタクリル酸ジメチコン)コポリマー、(アクリレーツ/アクリル酸ステアリル/メタクリル酸ジメチコン)コポリマー、(アクリレーツ/アクリル酸エチルヘキシル/メタクリル酸ジメチコン)コポリマー、(アクリレーツ/メタクリル酸ポリトリメチルシロキシ)コポリマー、(アクリレーツ/ジメチコン)コポリマーを例示できる。中でも(アクリレーツ/メタクリル酸ポリトリメチルシロキシ)コポリマー、(アクリレーツ/ジメチコン)コポリマーが好ましい。
アクリルシリコーン系グラフト共重合体は、1種以上の複数の成分を配合することができる。アクリルシリコーン系グラフト共重合体の配合量は、化粧料当たり16~21質量%である。本発明においては、(a)成分を16~21質量%とし、以下に説明する(b)~(g)成分を構成要件とすることで、優れた化粧持ち効果と良好な使用感、ツヤのある仕上がりが実現される。
【0013】
(b)揮発性シリコーン油
成分(b)の揮発性シリコーン油において、揮発性とは、35~87℃の引火点を有するものをいう。
本発明に使用可能な揮発性シリコーン油としては、オクタメチルシクロテトラシロキサン、シクロペンタシロキサン(デカメチルシクロペンタシロキサン)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等の環状ジメチルシロキサンなどが挙げられる。シクロペンタシロキサンが特に好ましい。
【0014】
成分(b)の揮発性シリコーン油は、本発明の油中水型乳化化粧料の全量に対し23質量%以上配合することが好ましく、35質量%以上がより好ましく、39質量%以上がさらに好ましい。60質量%を超えないことが好ましく、50質量を超えないことがより好ましい。なお成分(b)の揮発性シリコーン油は、(a)成分の溶媒として使用された市販品を配合してもよい。(a)成分と(b)成分を含有する市販品としては、東レ・ダウコーニング社製のDOWSIL FA 4001 CM SILICONE ACRYLATE ((アクリレーツ/メタクリル酸ポリトリメチルシロキシ)コポリマー30質量%、シクロペンタシロキサン70質量%)が例示できる。
【0015】
(c)界面活性剤
本発明に用いる界面活性剤としては、油中水型乳化組成物が得られる界面活性剤であって化粧料に配合できるものであればいずれも使用可能である。例えば、ポリエーテル変性シリコーンやソルビタン脂肪酸エステルが例示できる。
ポリエーテル変性シリコーンは、主鎖のシリコーン鎖に、側鎖としてポリエーテル鎖を有するものである。側鎖としてポリエーテル鎖以外に、アルキル鎖、シリコーン鎖を含むものであっても良い。ソルビタン脂肪酸エステルとしては、セスキイソステアリン酸ソルビタンが例示できる。(c)界面活性剤は組成に応じて単独或いは適宜選択して配合する。本発明では、化粧品表示名称で、セチルジメチコンコポリオール、PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、ラウリルPEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、PEG-9ジメチコン、セスキイソステアリン酸ソルビタン等を用いることが好ましい。界面活性剤の配合量は、合計量で1~7質量%、好ましくは2~5質量%、特に好ましくは3~4質量%であると好ましい。7質量を超えると界面活性剤に由来するべたつきが発生し使用感に影響を及ぼす恐れがある。1質量%に満たないと油中水型乳化化粧料の安定性に影響を及ぼす恐れがある。
【0016】
(d)ワックス類
本発明で用いる成分(d)のワックス類は、化粧料に使用可能なワックス類であればいずれも使用可能である。本発明においては25℃で固体のものを使用することが好ましい。
例えば、キャンデリラワックス、ライスワックス、サンフラワーワックス、カルナウバロウ、木ロウ等の植物性ワックス;ミツロウ、鯨ロウ等の動物性ワックス;モンタンワックス、オゾケライト等の鉱物系ワックス;パラフィン、セレシン等の石油系ワックス、ポリエチレン等の合成ワックス、などが挙げられる。成分(d)ワックス類は、一種又は二種以上を組み合わせても良い。
成分(d)のワックス類は、油中水型乳化化粧料を使用する時に、容器から指で取り出し易い硬度を付与するために配合する。柔らかい使用感となるセレシンを主体とし、単独使用では固めの使用感となるが硬度を調整する目的では扱いやすいポリエチレンを組み合わせて配合することが好ましい。成分(d)のワックス類は、油中水型乳化化粧料当たり0.1~30質量%、好ましくは2~25質量%、特に好ましくは9~15質量%配合すると好ましい。30質量%を超えて配合すると硬度が高くなりすぎる可能性が高まるだけでなく、相対的に(e)液状油の配合量が減るため塗布面のツヤが損なわれる恐れがある。また30質量%を超えて配合すると(b)揮発性シリコーンの揮発速度(乾燥速度)が遅くなりべたつきが発生する恐れが高まる。本発明の油中水型乳化化粧料に適切な硬度を付与する場合、(d)ワックス類の配合が0.1質量%に満たないと化粧料に十分な硬度が得られなくなる恐れが生じ、その結果、指で取り出し難くなるなど使用性(使い勝手)が悪くなる恐れがある。セレシンとポリエチレンを組み合わせて配合する場合、セレシンとポリエチレンを質量比で5:1~3:2とすると好ましい。
【0017】
(e)揮発性シリコーン油を除く液状油
本発明で用いる(e)液状油は、常温(25℃)で液状であって化粧料に用いられる油であればいずれを用いてもよい。例えばトリグリセリド、液体蝋、炭化水素油、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル油、不揮発性シリコーン油等が挙げられる。
本発明に用いられるトリグリセリドとしてはオリーブ油、マカデミアナッツ油、ヒマワリ種子油、アボカド油、サフラワー油、米糠油、米胚芽油、小麦胚芽油、ヒマシ油、ブドウ種子油、アーモンド油、ヤシ油、パーム油、トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリル、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル等、液体蝋としてはホホバ油等、炭化水素油としてはミネラルオイル、水添ポリイソブテン、スクワラン等、高級脂肪酸としてはイソステアリン酸、オレイン酸等、高級アルコールとしてはオクチルドデカノール、オレイルアルコール等が好ましく挙げられる。エステル油としては、例えばイソノナン酸オクチル、イソノナン酸イソノニル、ミリスチン酸イソプロピル、イソノナン酸イソデシル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ラウリン酸ヘキシル、イソパルミチン酸オクチル、オクタン酸イソセチル、イソステアリン酸イソプロピル、イソステアリン酸エチル、イソオクタン酸セチル(2-エチルヘキサン酸セチル)、オクタン酸ステアリル、オクタン酸イソステアリル、イソノナン酸トリシクロデカンメチル、イソノナン酸イソトリデシル、エチルヘキサン酸アルキル(C14-18)、ジイソノナン酸BG、エチルヘキサン酸ヘキシルデシル、ジイソノナン酸ネオペンチルグリコール、また不揮発性シリコーン油としてはジメチコン、フェニルトリメチコン等が挙げられる。本発明において、特にツヤ感のある仕上がりを重視する場合には、(e)液状油として水添ポリイソブテン、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、イソノナン酸イソノニル、パルミチン酸イソプロピル、イソノナン酸トリシクロデカンメチル、イソノナン酸イソトリデシル、エチルヘキサン酸アルキル(C14-18)、ジイソノナン酸BG、エチルヘキサン酸ヘキシルデシル、エチルヘキサン酸セチル、ジイソノナン酸ネオペンチルグリコールから選ばれる一種以上を配合することが好ましい。
(e)液状油の配合量は、本発明の油中水型乳化化粧料当たり0.1~35質量%、好ましくは0.5~30質量%、特に好ましくは1~20質量%であると好ましい。
【0018】
(f)水相
本発明の油中水型乳化化粧料における水相とは、水以外の成分としてグリセリンを含ませてもよく、さらにはグリセリンのみで水相を構成してもよい。すなわち本発明の油中水型乳化化粧料は、水及び/またはグリセリンを含有する。なお一般的な油中水型乳化化粧料を常法で調製するときに水相に含める成分は、本発明の油中水型乳化化粧料においても水相に含めてよい。水相成分は、本発明の油中水型乳化化粧料当たり7~15質量%、好ましくは9~13質量%含有すると好ましい。本発明は、水及び/またはグリセリンを含有する水相が配合組成に構成された油中水型乳化化粧料であり、(a)成分を16~21質量%と多く配合しても、皮膚や口唇に塗布した時の皮膜感や乾燥感が低減された効果が得られる。なお(f)水相にグリセリンを含めると、水相にグリセリンを含まない時よりも、得られた油中水型乳化化粧料を皮膚や唇に塗布した時の塗布面のツヤ感が持続する効果が高まるので好ましい。水相の配合量がこの範囲を外れると、色移り抑制効果が低下する恐れがある。
【0019】
(g)顔料
本発明の油中水型乳化化粧料に用いる顔料は、メイクアップ化粧料とする場合の着色を目的としたタール色素、天然色素、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、グンジョウ、コンジョウ、酸化チタン、マンガンバイオレット、酸化クロム、パール剤等の着色顔料が例示できる。顔料には、感触及び質感を調整することを目的としたタルク、マイカ、カオリン、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、シリカ粉末、ベントナイト等の体質顔料等があるが、本発明の(g)顔料には、化粧品に配合可能な顔料が全て含まれる。本発明の(g)顔料としては、着色を目的とした顔料の配合は必須である。
顔料の含有量は、好ましくは0.1~30質量%であり、更に好ましくは0.2~15質量%である。0.1質量%未満では塗布した時の塗布面の発色の程度が低く、本発明の色移りしない効果が十分に感じられない恐れがある。また30質量%を超えて配合すると油中水型乳化組成物の安定性が悪くなる恐れがある。
【0020】
(任意成分)
本発明の油中水型乳化化粧料には、任意成分として、本発明の効果を損なわない範囲で、各種感触改良粉体、保湿剤、香料、紫外線吸収剤、防腐剤等を配合することができる。
(調製方法)
本発明の油中水型乳化化粧料は、常法により調製する。水相成分と油相成分を別々に加温して溶解した後、油相に水相を添加しながら撹拌乳化させ、十分混合した後気泡を除去して化粧料とする。
【0021】
本発明の油中水型乳化化粧料は、その特性からメイクアップ用の化粧料に適する。例えば、口紅、リップグロス等の口唇用化粧料に最適である。
【実施例
【0022】
以下に実施例及び比較例の油中水型乳化化粧料(口唇用化粧料)を調製し、これを用いた評価試験を示し、本発明を具体的に説明する。
1.化粧料の調製
表1に示す組成の実施例1~7、および比較例1~3の油中水型乳化化粧料を調製した。
【0023】
2.調製方法
以下に示す工程に従って、油中水型乳化化粧料を調製した。なお本試験では、(a)と(b)を含む混合原料(東レ・ダウコーニング社製のDOWSIL FA 4001 CM SILICONE ACRYLATE:(アクリレーツ/メタクリル酸ポリトリメチルシロキシ)コポリマー30質量%、シクロペンタシロキサン70質量%)を用いた。
(1)成分(c)~(e)及び(g)を計りとり、90℃以上に加熱し均一に溶解する。
(2)さらに成分(a)と成分(b)を加え、80℃で撹拌しながら、80℃に温めた水相(f)を加え、3000rpmで1分撹拌処理する(50gの場合)。
(3)脱泡器にて脱泡する。
(4)再度80℃まで撹拌しながら加温し、充填する。
【0024】
3.試験方法
(1)専門の官能評価員5名により評価項目(耐色移り性、ツヤの持続性、べたつき、塗布面(口唇)の乾燥感のなさ、ジャー容器に充填した化粧料の指でのトレやすさ)について官能評価を行った。
<耐色移り性>
上腕内側に得られたサンプルを塗布し、10分後にティッシュを押し付けて、ティッシュへの色移りを目視観察し、下記基準により評価した。
〇:色移りがない
△:わずかな色移りがある
×:色移りがある
【0025】
<ツヤの持続性>
上腕内側に得られたサンプルを塗布し、塗布面のツヤの有無を塗布直後、15分後、30分後に目視観察し、下記基準により評価した。
〇:30分後にツヤがある(塗布時のツヤが維持されている)
△:15分後にツヤがあるが、30分後には塗布時のツヤが維持されていない
×:15分後に塗布時のツヤが維持されていない
【0026】
<べたつきのなさ>
上腕内側に得られたサンプルを塗布し、10分後に塗布部を指で触り評価した。
〇:べたつきがない
△:わずかにべたつく
×:べたつく
【0027】
<塗布面の乾燥感のなさ>
サンプルを口唇に塗布し、30分後の唇の乾燥感を評価した。
〇:唇が乾燥したように感じない
△:唇がやや乾燥した感じがあるが違和感はない
×:唇が乾燥した感じがあり、あきらかな違和感がある
【0028】
<ジャー充填時のトレやすさ>
〇:指で適量がとれる
△:やや指で適量がとれにくい
×:指でとれにくい
【0029】
(2)硬度
(株)レオテック FUDOHレオメーターDシリーズを用いて、25℃における硬度を測定した。測定条件と硬度の単位は下記のとおりである。
アダプター:10mmΦ、スピード:6cm/min、深さ:2mm、レンジ:2K*200
硬度の単位:(g重)
表において空欄は測定していない。
【0030】
4.試験結果
下記の表1の下段に試験結果を記載した。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例1~7は、本発明の構成(a:アクリルシリコーン系グラフト共重合体16~21質量%+b:揮発性シリコーン油+c:界面活性剤+d:ワックス類+e:液状油+f:水相7~15質量%+g:顔料)をとる組成である。
なお、実施例1、2、5~7、比較例1~3にはアクリルシリコーン系グラフト共重合体として、(アクリレーツ/メタクリル酸ポリトリメチルシロキシ)コポリマー(30質量%)シクロペンタシロキサン(70質量%)を含有する原料、実施例3、4にはアクリルシリコーン系グラフト共重合体として、(アクリレーツ/ジメチコン)コポリマー(30質量%)シクロペンタシロキサン(70質量%)を含有する原料を用いた。
比較例1と2は、(a):アクリルシリコーン系グラフト共重合体の配合量が、本発明で特定する範囲よりも少なく、11.58質量%(比較例1)、13.35質量%(比較例2)である。そして(a)成分が少ない分は(e)の液状油に置き換えた組成である(本試験ではaとbの混合原料を用いたためb成分も少なくなっており、少ない分は(e)の液状油に置き換えている)。比較例3は、(f)水相に当たる成分を含まない油性化粧料の組成である。このため比較例3の組成には乳化に必要な(c)界面活性剤を配合していない。
実施例1~7の油中水型乳化化粧料は、いずれも速やかに、光沢(ツヤ)のある塗布面を形成した。
比較例1、2と、実施例1、2を対比すると、実施例1と2は耐色移り性の評価が「○評価:色移りがない」であるのに対し、(a)の配合量が少ない比較例1と2の耐色移り性の評価は「×評価:色移りがある」であった。比較例1、2の(a)成分の配合量は、従来技術に一般的にみられる配合量であり、「ツヤの持続性」、「べたつきのなさ」はいずれも○評価であったが、色移りすることが確認された。つまり、比較例1、2の組成は消費者が重要視する「耐色移り性」の問題が解決しておらず、従来技術では「耐色移り性」と「良好な使用感」は両立しないことが確認できた。
また、実施例1、2の(a)成分はアクリレーツ/メタクリル酸ポリトリメチルシロキシ)コポリマーである。実施例1の(a)成分は16.92質量%の配合で「○評価:色移りがない」のに対し、実施例3、4の(a)成分は(アクリレーツ/ジメチコン)コポリマーであるが、この(アクリレーツ/ジメチコン)コポリマーは16.92質量%の配合では、「△評価:わずかな色移りがある」であったが、増量して20.46質量%配合すると「○評価:色移りがない」となり、十分な色移り性抑制効果が得られた。実施例1~4の別の評価項目を見ると、使用感や仕上がりの項目(べたつきのなさ、ツヤ持続性)は(a)成分を増加すると、△評価になる傾向が見られたが、この評価結果は実使用には問題とならないレベルであった。以上のことから、(a)成分のアクリルシリコーン系グラフト共重合体は16質量%以上配合することが十分な色移り抑制効果を得るためには必要であり、16~21質量%の配合が、ツヤの持続性もあり、べたつきといった使用感の悪さも感じさせない、「耐色移り性」と「良好な使用感」を両立させた適切な配合量であることがわかった。
次に(f)水相に着目すると、実施例5は水相成分が水9質量%とグリセリン2質量%であるのに対し、実施例1の水相成分はグリセリン11質量%である。実施例1の(ツヤの持続性が○評価であるのに対し、実施例5ではツヤの持続がやや劣っており△評価(15分後にツヤがあるが、30分後には塗布時のツヤが維持されていない)であった。ツヤ持続性の△評価は、実使用では問題とならないレベルであるが、特にツヤの持続性を重要視する場合には、本発明の(f)水相のグリセリン量を高めるとよいことがわかった。
次に化粧料の剤形に着目すると、比較例3は水相成分を含まない油性化粧料であり本願の油中水型乳化化粧料ではない。比較例3の(a)成分は19質量%であり実施例2とほぼ同量配合された組成であるが、油性化粧料の剤形では耐色移り性(色移り抑制効果)が弱くなり(×評価:色移りがある)、べたつきが生じて×評価になることがわかった。
また実施例1、5~7の硬度の測定値から、ジャーに充填した化粧料を指で適量を取り出しやすい硬度は、172~360(g重)が適していることがわかった。処方のバリエーションを考慮すると、硬度が150~400(g重)に入るように調整すればよいと判断した。
また表には記載していないが、実施例1~7の油中水型乳化化粧料を口紅として唇に塗布したときの塗布面の乾燥感評価は、(a)成分を多く配合したときに生じやすいとされる乾燥感や違和感が全くなかった(評価「○」)。
以上の実施例、比較例の結果から、本発明の構成をとる油中水型乳化化粧料は、色移りがなく、皮膜形成剤を多く含有することにより生じやすい乾燥感や違和感がなく、またべたつき感がなく、仕上がりのツヤの持続性に優れたメイクアップ化粧料となることがわかった。
【0033】
<処方例1>
下記の組成の油中水型乳化化粧料を常法により調製した。単位は質量%である。

1.グリセリン 11
2.赤色202分散物※1
3.水添ポリイソブテン 12.2
4.(アクリレーツ/メタクリル酸ポリトリメチルシロキシ)コポリマー 16.92
5.シクロペンタシロキサン 39.48
6.SAフラメンコグリーン(三好化成(株)製:マイカ、酸化チタン、ジメチコン) 0.8
7.NH-RAS06(日興リカ(株)製:ポリメチルシルセスキオキサン、アルミナ) 3
8.KSG-016F(信越化学工業(株)製:ジメチコン、(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー) 3
9.セレシン 6
10.ポリエチレン 2
11.セスキイソステアリン酸ソルビタン 1.8
12.PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン 1.8

得られた油中水型乳化化粧料は、唇に塗布すると、べたつき感がなかった。また唇に乾燥感が生じず、塗布した時のツヤが持続し、カップ等に色移りの生じない優れたメイクアップ化粧料であった。