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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】自動二輪車用タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20240618BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240618BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20240618BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240618BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240618BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
B60C11/00 D
B60C1/00 A
C08L9/06
C08K3/04
C08K3/36
C08K5/54
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019212483
(22)【出願日】2019-11-25
(65)【公開番号】P2021084455
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨田 皓太
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-248115(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00301138(EP,A1)
【文献】特表平06-507662(JP,A)
【文献】特表2004-505149(JP,A)
【文献】特表2004-530783(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0210885(US,A1)
【文献】特開昭63-068405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動二輪車用タイヤであって、
路面に接地する、ゴム組成物からなるトレッドを備え、
該トレッドのゴム硬度であるHsと300%伸長時の引張応力(MPa)であるM300とが、式1、式2および式3を満たし、前記ゴム組成物がシリカをゴム成分100質量部に対し30質量部以上含む、自動二輪車用タイヤ。
式1:62≦Hs≦80
式2:4≦M300≦11
式3:(M300-2)/(Hs-60)≦0.53
【請求項2】
自動二輪車用タイヤであって、
路面に接地する、ゴム組成物からなるトレッドを備え、
該トレッドのゴム硬度であるHsと300%伸長時の引張応力(MPa)であるM300とが、式1、式2および式3を満たし、前記ゴム組成物が、スチレンブタジエンゴムをゴム成分100質量%中60質量%以上含むゴム成分を含む、自動二輪車用タイヤ。
式1:62≦Hs≦80
式2:4≦M300≦11
式3:(M300-2)/(Hs-60)≦0.53
【請求項3】
自動二輪車用タイヤであって、
路面に接地する、ゴム組成物からなるトレッドを備え、
該トレッドのゴム硬度であるHsと300%伸長時の引張応力(MPa)であるM300とが、式1、式2および式3を満たす、自動二輪車用タイヤ。
式1:72≦Hs≦80
式2:4≦M300≦11
式3:(M300-2)/(Hs-60)≦0.53
【請求項4】
自動二輪車用タイヤであって、
路面に接地する、ゴム組成物からなるトレッドを備え、
該トレッドのゴム硬度であるHsと300%伸長時の引張応力(MPa)であるM300とが、式1、式2および式3を満たし、前記ゴム組成物が、カーボンブラックをゴム成分100質量部に対し65質量部以上含む、自動二輪車用タイヤ。
式1:62≦Hs≦80
式2:4≦M300≦11
式3:(M300-2)/(Hs-60)≦0.53
【請求項5】
自動二輪車用タイヤであって、
路面に接地する、ゴム組成物からなるトレッドを備え、
該トレッドのゴム硬度であるHsと300%伸長時の引張応力(MPa)であるM300とが、式1、式2および式3を満たす、自動二輪車用タイヤ。
式1:62≦Hs≦80
式2:7.2≦M300≦11
式3:(M300-2)/(Hs-60)≦0.53
【請求項6】
自動二輪車用タイヤであって、
路面に接地する、ゴム組成物からなるトレッドを備え、
該トレッドのゴム硬度であるHsと300%伸長時の引張応力(MPa)であるM300とが、式1、式2および式3を満たす、自動二輪車用タイヤ。
式1:73≦Hs≦80
式2:4≦M300≦11
式3:(M300-2)/(Hs-60)≦0.75
【請求項7】
自動二輪車用タイヤであって、
路面に接地する、ゴム組成物からなるトレッドを備え、
該トレッドのゴム硬度であるHsと300%伸長時の引張応力(MPa)であるM300とが、式1、式2および式3を満たし、前記ゴム組成物がシリカをゴム成分100質量部に対し60質量部以上含む、自動二輪車用タイヤ。
式1:62≦Hs≦80
式2:4≦M300≦11
式3:(M300-2)/(Hs-60)≦0.75
【請求項8】
前記ゴム組成物が、スチレンブタジエンゴムを含むゴム成分を含む、請求項1、3、4、5、6または7記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項9】
前記ゴム組成物が、カーボンブラックをさらに含む、請求項1、2、3、5、6または7記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項10】
前記ゴム組成物が、シリカおよびシランカップリング剤をさらに含む、請求項2~のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項11】
前記ゴム組成物が、樹脂をさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の自動二輪車用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車は、旋回走行時に車体が大きく傾けられる。このため、自動二輪車用タイヤには、直進安定性のみならず、旋回安定性も要求される(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-307933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動二輪車は、四輪車と違い、タイヤのグリップを失うと操舵することが完全にできなくなる。直進時には、タイヤのグリップ感が、実車での車両安定性の官能評価の重要なファクターとなる。この直進時のグリップ感は、タイヤとしての剛性がある方が向上につながる。つまり、直進安定性が向上する。一方、自動二輪車は、旋回をする際にハンドルを切るだけでは曲がることができず、車両を傾けて旋回する。旋回時には、タイヤの接地感が、実車での車両安定性の官能評価の重要なファクターとなる。この旋回時の接地感は、タイヤの高歪み領域でのソフトさ(路面追従性)がある方が向上につながる。つまり、旋回安定性が向上する。特に、ウェット路面では路面の摩擦係数(μ)が下がるため、路面追従性がウェット旋回安定性に大きく影響する。しかし、タイヤの剛性を高めると、路面追従性は低下する傾向にある。
【0005】
本発明は、ウェット旋回安定性を向上せしめた自動二輪車用タイヤを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題解決のため鋭意検討した結果、タイヤのトレッドゴムについて、剛性の指標として所定のHsを用い、かつ、路面追従性の指標として所定のM300を用いた上で、このHsとM300とをいずれも所定の範囲内とし、さらに、Hsの上昇に対するM300の上昇幅を所定の範囲内に抑えれば、優れたウェット旋回安定性が得られることを見出し、さらに検討を重ねて、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
[1]自動二輪車用タイヤであって、
路面に接地する、ゴム組成物からなるトレッドを備え、
該トレッドのゴム硬度であるHsと300%伸長時の引張応力(MPa)であるM300とが、式1、式2および式3を満たす、自動二輪車用タイヤ
式1:60≦Hs≦80、好ましくは62≦Hs≦80、より好ましくは64≦Hs≦79、さらに好ましくは66≦Hs≦78
式2:2≦M300≦12、好ましくは2≦M300≦11、より好ましくは2≦M300≦10、さらに好ましくは3≦M300≦9、さらに好ましくは3≦M300≦8
式3:(M300-2)/(Hs-60)≦0.75
[2]前記式3が、
(M300-2)/(Hs-60)≦0.69
である、上記[1]記載の自動二輪車用タイヤ
[3]前記式3が、
(M300-2)/(Hs-60)≦0.53
である、上記[1]記載の自動二輪車用タイヤ
[4]前記式1が、
68≦Hs≦78
である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤ
[5]前記式2が、
4≦M300≦11、好ましくは4≦M300≦10、より好ましくは4≦M300≦9、さらに好ましくは4≦M300≦8
である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤ
[6]前記ゴム組成物が、スチレンブタジエンゴムを含むゴム成分を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤ
[7]前記ゴム組成物が、カーボンブラックをさらに含む、上記[6]記載の自動二輪車用タイヤ
[8]前記ゴム組成物が、シリカおよびシランカップリング剤をさらに含む、上記[6]または上記[7]記載の自動二輪車用タイヤ
[9]前記ゴム組成物が、樹脂をさらに含む、上記[6]~[9]のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤ
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ウェット旋回安定性を向上せしめた自動二輪車用タイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、自動二輪車用タイヤであって、路面に接地する、ゴム組成物からなるトレッドを備え、該トレッドのゴム硬度であるHsと300%伸長時の引張応力(MPa)であるM300とが、式1、式2および式3を満たす、自動二輪車用タイヤに関する。
式1:60≦Hs≦80
式2:2≦M300≦12
式3:(M300-2)/(Hs-60)≦0.75
【0010】
前記式3は(M300-2)/(Hs-60)≦0.69であることが好ましい。
【0011】
前記式3は(M300-2)/(Hs-60)≦0.53であることが好ましい。
【0012】
前記式1は68≦Hs≦78であることが好ましい。
【0013】
前記式2は4≦M300≦11であることが好ましい。
【0014】
前記ゴム組成物はスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分を含むことが好ましい。
【0015】
前記ゴム組成物はカーボンブラックをさらに含むことが好ましい。
【0016】
前記ゴム組成物はシリカおよびシランカップリング剤をさらに含むことが好ましい。
【0017】
前記ゴム組成物は樹脂をさらに含むことが好ましい。
【0018】
以下、本開示について、詳細に説明する。
【0019】
前記「ゴム硬度(Hs)」は、JIS K 6253に基づきデュロメータータイプAにより、23℃の環境下で測定した硬さである。
【0020】
前記「300%伸長時の引張応力(M300)」は、JIS K 6251に準拠し、3号ダンベル型試験片について、23℃雰囲気下、(株)島津製作所製の卓上型精密万能試験機(AGS-X)を用いて測定した300%伸長時の引張応力(MPa)である。
【0021】
<トレッド>
本開示のトレッドは、路面に接地する、ゴム組成物からなるものである。該トレッドのゴム硬度である前記Hsと300%伸長時の引張応力(MPa)である前記M300とは、下記の式1、式2および式3を満たす。
式1:60≦Hs≦80
式2:2≦M300≦12
式3:(M300-2)/(Hs-60)≦0.75
【0022】
自動二輪車の直進安定性はタイヤのグリップ感によって影響を受けるが、この直進時のグリップ感は、タイヤとしての剛性が高いことが向上につながる。一方、自動二輪車の旋回安定性は、タイヤの接地感により影響を受けるが、この旋回時の接地感は、タイヤの高歪み領域でのソフトさ(路面追従性)があることが向上につながる。特に、ウェット路面では路面の摩擦係数(μ)が下がるため、路面追従性がウェット旋回安定性に大きく影響する。しかし、一般に、剛性を改善しようとすると路面追従性が悪化してしまい、逆に、路面追従性を改善しようとすると剛性が悪化してしまうため、直進安定性に加えて、ウェット旋回安定性の優れたタイヤを得ることは困難であった。
【0023】
本開示では、剛性の指標として所定のHsを用い、かつ、路面追従性の指標として所定のM300を用いた上で、このHsとM300とをいずれも所定の範囲内とし、さらに、Hsの上昇に対するM300の上昇幅を所定の範囲内に抑えることにより、優れたウェット旋回安定性を実現している。
【0024】
式1は、Hsが60~80の範囲内にあることを要求するものである。Hsが60未満であると、直進安定性が悪化する傾向がある。一方、Hsが80超であると、ウェット旋回安定性の悪化を抑止することが困難となる傾向がある。Hsは62以上が好ましく、64以上がより好ましく、66以上がさらに好ましく、68以上がさらに好ましい。一方、Hsは79以下が好ましく、78以下がより好ましい。Hsは常法により調節することができる。例えば、オイルの含有量を減らすことにより、または、カーボンブラックの含有量を増やすことにより高めることができ、一方、オイルの含有量を増やすことにより、または、カーボンブラックの含有量を減らすことにより低くすることができる。
【0025】
式2は、M300が2~12の範囲内にあることを要求するものである。M300が2未満であると、直進安定性の悪化を抑止することが困難となる傾向がある。一方、M300が12超であると、ウェット旋回安定性が悪化する傾向がある。M300は3以上が好ましく、4以上がより好ましい。一方、M300は11以下が好ましく、10以下がより好ましく、9以下がさらに好ましく、8以下がさらに好ましい。M300は常法により調節することができる。例えば、加硫促進剤の含有量を増やすことにより、または、硫黄の含有量を増やすことにより高めることができ、一方、加硫促進剤の含有量を減らすことにより、または、硫黄の含有量を減らすことにより低くすることができる。
【0026】
式3は、Hsの上昇に伴い同じく上昇する傾向にあるM300が、Hsとの関係で所定の値以下であることを要求するものである。より具体的には、M300-2で算出される値が、Hs-60で算出される値の0.75倍以下であることを要求する。Hsの上昇に伴うM300の上昇を抑えることで、タイヤでの実車評価において、優れた直進安定性を確保しつつ、ウェット旋回安定性をも向上させることができる。(M300-2)/(Hs-60)の値が0.75超であると、十分なウェット旋回安定性が確保できない傾向にある。(M300-2)/(Hs-60)の値は、0.69以下であることが好ましく、0.53以下であることがより好ましい。
【0027】
<ゴム組成物>
本開示のゴム組成物について、以下、説明する。
【0028】
<<ゴム成分>>
ゴム成分としては、この分野で通常使用されるジエン系ゴムおよび非ジエン系ゴムをいずれも使用することができるが、少なくともジエン系ゴムを含むものである。ジエン系ゴムとしてはスチレンブタジエンゴム(SBR)を含むことが好ましく、SBRからなるものであることがより好ましく、あるいは、SBRとブタジエンゴム(BR)を含むものであることが好ましく、SBRとBRとからなるものであることがより好ましい。
【0029】
(SBR)
SBRとしては特に限定されず、例えば、乳化重合SBR(E-SBR)、溶液重合SBR(S-SBR)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。SBRは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
また、SBRとしては、非変性SBRでもよいし、変性SBRでもよいが、変性SBRを用いることが好ましい。変性SBRとしては、タイヤ工業において一般的なものをいずれも使用することができ、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基を導入したものが挙げられる。そのようなSBRとしては、例えば、SBRの少なくとも一方の末端を、下記官能基を有する化合物(変性剤)で変性した末端変性SBRや、主鎖に下記官能基を有する主鎖変性SBRや、主鎖および末端に下記官能基を有する主鎖末端変性SBR(例えば、主鎖に下記官能基を有し、少なくとも一方の末端を下記官能基を有する化合物(変性剤)で変性した主鎖末端変性SBR)や、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物により変性(カップリング)され、水酸基やエポキシ基が導入された末端変性SBR等が挙げられる。
【0031】
上記官能基としては、例えば、アミノ基(好ましくはアミノ基が有する水素原子が炭素数1~6のアルキル基に置換されたアミノ基)、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシシリル基)、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、アミノ基、アミド基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、水酸基等の官能基が導入されたものを挙げることができる。
【0032】
さらに、変性SBRとしては、上記の非変性SBRや変性SBRを、さらに水素添加したもの、エポキシ化したもの、スズ変性したもの等を挙げることができる。中でも、上記変性SBRをさらに水素添加したSBR(変性水添SBR)が好ましい。水添SBRは、二重結合を減らして単結合を増やすことで、分子鎖の運動性を向上せしめたものであり、ポリマー同士の絡み合い効果が向上し、補強性が増す傾向があるので、本開示の効果の観点から好ましい。
【0033】
SBRとしては油展SBRを用いることもできるし、非油展SBRを用いることもできる。油展SBRを用いる場合、SBRの油展量、すなわち、SBRに含まれる油展オイルの含有量は、SBRのゴム固形分100質量部に対して、10~50質量部であることが好ましい。
【0034】
SBRとしては、例えば、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等により製造・販売されているSBRを使用することができる。
【0035】
SBRのスチレン含量は、本開示の効果がより好適に得られるという理由から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。また、該スチレン含量は、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRのスチレン含有量は、1H-NMR測定により算出される。
【0036】
SBRのビニル結合量は、本開示の効果がより好適に得られるという理由から、10%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましく、35%以上がさらに好ましい。また、該ビニル結合量は、80%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、65%以下がより好ましい。なお、本明細書において、SBRのビニル結合量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定される。
【0037】
SBRのガラス転移温度(Tg)は、本開示の効果がより好適に得られるという理由から、好ましくは-90℃以上、より好ましくは-50℃以上、さらに好ましくは-40℃以上である。また、該Tgは、好ましくは0℃以下、より好ましくは-10℃以下、さらに好ましくは-15℃以下である。なお、本明細書において、ガラス転移温度は、JIS K 7121に従い、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製の示差走査熱量計(Q200)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定される値である。
【0038】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、本開示の効果がより好適に得られるという理由から、20万以上が好ましく、30万以上がより好ましい。また、該Mwは、200万以下が好ましく、150万以下がより好ましく、100万以下がより好ましい。なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0039】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。また、SBRは100質量%であってもよい。SBRの含有量とは、油展SBRの場合には、油展オイルを除いたSBR自体の含有量である。
【0040】
(BR)
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス1,4結合含有率(シス含量)が90%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。変性BRとしては、上記SBRで説明したのと同様の変性を受けたBRが挙げられる。BRは1種または2種以上を用いることができる。
【0041】
ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)製のもの、宇部興産(株)製のもの、JSR(株)製のもの等が挙げられる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性能を向上させることができる。シス含量は、好ましくは、95%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上である。なお、本明細書において、シス含量は、赤外吸収スペクトル分析により算出される値である。希土類系BRとしては、希土類元素系触媒を用いて合成され、ビニル結合量(1,2結合ブタジエン単位量)が好ましくは1.8%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.8%以下であり、シス含量(シス-1,4結合含有率)が好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上である。希土類系BRとしては、例えば、ランクセス(株)製のものなどを用いることができる。
【0042】
SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。このようなSPB含有BRとしては、宇部興産(株)製のもの等を用いることができる。
【0043】
変性BRの具体例としては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)や、ブタジエンゴムの活性末端に縮合アルコキシシラン化合物を有するブタジエンゴム(シリカ用変性BR)等が挙げられる。このような変性BRとしては、例えば、ZSエラストマー(株)製のもの等を用いることができる。
【0044】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。BRの含有量の下限について特に限定はなく、0質量%でもよいし、例えば、5質量%以上、10質量%以上、または、20質量%以上であってもよい。
【0045】
(その他のゴム成分)
ゴム成分は、前記のSBRおよびBR以外のその他のゴム成分を含有してもよい。その他のゴム成分としては、ゴム工業で一般的に用いられる架橋可能なゴム成分を用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等が挙げられる。これらその他のゴム成分は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
<<充填剤>>
充填剤としては、ゴム工業で一般的に使用される充填剤をいずれも使用することができる。そのような充填剤としては、カーボンブラックまたはシリカが挙げられる他、さらに、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、クレー、炭酸カルシウム、マイカ等を挙げることができる。充填剤は1種または2種以上を使用することができる。充填剤としては、カーボンブラックを含むもの、カーボンブラックのみからなるもの、シリカを含むもの、シリカのみからなるもの、シリカとカーボンブラックを含むもの、シリカとカーボンブラックのみからなるものを好適に使用することができる。とりわけ、カーボンブラックのみからなるもの、または、シリカとカーボンブラックのみからなるものが本開示の効果を発揮する観点から好ましい。
【0047】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては、ゴム工業において一般的なものを適宜利用することができ、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等を挙げることができ、あるいは、N110、N115、N120、N125、N134、N135、N219、N220、N231、N234、N293、N299、N326、N330、N339、N343、N347、N351、N356、N358、N375、N539、N550、N582、N630、N642、N650、N660、N683、N754、N762、N765、N772、N774、N787、N907、N908、N990、N991等を挙げることができる。市販品としては、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱ケミカル(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、50m2/g以上が好ましく、80m2/g以上がより好ましく、100m2/g以上がさらに好ましく、120m2/g以上がさらに好ましく、150m2/g以上がさらに好ましく、175m2/g以上がさらに好ましい。下限以上にすることで、良好な耐摩耗性、グリップ性能が得られる傾向がある。また、該N2SAは、300m2/g以下が好ましく、250m2/g以下がより好ましく、200m2/g以下がさらに好ましく、160m2/g以下がさらに好ましく、150m2/g以下がさらに好ましい。上限以下にすることで、カーボンブラックの良好な分散が得られる傾向がある。なお、カーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217-2:2001によって求められる。
【0049】
カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸油量は、十分な補強性の観点から、50ml/100g以上が好ましく、100ml/100g以上がより好ましい。また、カーボンブラックのDBPは、ウェットグリップ性能の観点から、200ml/100g以下が好ましく、150ml/100g以下がより好ましい。なお、カーボンブラックのDBPは、JIS K 6217-4:2001に準拠して測定される。
【0050】
カーボンブラックの含有量は、良好な紫外線クラック性能、良好な耐摩耗性の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは10質量部以、さらに好ましくは20質量部以、さらに好ましくは30質量部以である。また、該含有量は、加工性や発熱性の観点から、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは120質量部以下、さらに好ましくは110質量部以下、さらに好ましくは100質量部以下である。
【0051】
(シリカ)
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。シリカは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、低燃費性能および耐摩耗性能の観点から、140m2/g以上が好ましく、160m2/g以上がより好ましく、170m2/g以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、350m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、250m2/g以下がさらに好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0053】
シリカのゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましく、30質量部以上がさらに好ましく、40質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、150質量部以下が好ましく、130質量部以下がより好ましく、110質量部以下がさらに好ましく、90質量部以下がさらに好ましい。
【0054】
充填剤の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、充分な補強性の観点から、好ましくは50質量部以上、より好ましくは70質量部以上である。一方、該含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、好ましくは250質量部以下、より好ましくは180質量部以下、さらに好ましくは150質量部以下である。
【0055】
(シランカップリング剤)
ゴム組成物は、シランカップリング剤を使用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、ゴム工業において、従来から使用される任意のシランカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤の具体例としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド基を有するシランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、モメンティブ社製のNXT-Z30、NXT-Z45、NXT-Z60、NXT-Z100、エボニックデグサ社製のSi363等のメルカプト基を有するシランカップリング剤;3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリメトキシシラン等のチオエステル基を有するシランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル基を有するシランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系のシランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系のシランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系のシランカップリング剤等が挙げられる。なかでも、スルフィド基を有するシランカップリング剤、メルカプト基を有するシランカップリング剤、およびチオエステル基を有するシランカップリング剤が好ましく、スルフィド基を有するシランカップリング剤がより好ましい。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
シランカップリング剤の含有量は、充分な耐チッピング性能の観点から、シリカ100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上である。また、シランカップリング剤の含有量は、含有量に見合った配合効果の観点から、シリカ100質量部に対し、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは12質量部以下である。
【0057】
<<樹脂成分>>
ゴム組成物は、タイヤ工業で慣用される樹脂成分を含んでいてもよい。そのような樹脂成分としては、例えば、石油樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、フェノール系樹脂、クマロン系樹脂等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、本開示の効果の観点から、クマロン系樹脂が好ましい。
【0058】
(石油樹脂)
石油樹脂としては、特に限定されないが、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂が挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。脂肪族系石油樹脂としては、炭素数4~5個相当の石油留分(C5留分)であるイソプレンやシクロペンタジエンなどの不飽和モノマーをカチオン重合することにより得られる樹脂(C5系石油樹脂とも称される。)を用いることができる。芳香族系石油樹脂としては、炭素数8~10個相当の石油留分(C9留分)であるビニルトルエン、アルキルスチレン、インデンなどのモノマーをカチオン重合することにより得られる樹脂(C9系石油樹脂とも称される。)を用いることができる。脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂としては、上記C5留分とC9留分を共重合することにより得られる樹脂(C5C9系石油樹脂とも称される。)が用いられる。また、前記の石油樹脂を水素添加したものを使用してもよい。なかでもC5C9系石油樹脂が好適に用いられる。
【0059】
C5C9系石油樹脂としては、例えば、LUHUA社製のもの、Qilong社製のもの、東ソー(株)製のもの等の市販品が好適に用いられる。
【0060】
(テルペン系樹脂)
テルペン系樹脂としては、ポリテルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、テルペンスチレン樹脂等が挙げられる。なかでもテルペンスチレン樹脂は、SBRとBRの両方に対して特に相溶性がよく、ゴム成分中に硫黄が分散しやすくなることから、好適に用いられる。
【0061】
ポリテルペン樹脂は、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテン等のテルペン化合物から選ばれる少なくとも1種を原料とする樹脂である。テルペンフェノール樹脂は、前記テルペン化合物およびフェノール系化合物を原料とする樹脂である。テルペンスチレン樹脂は、前記テルペン化合物およびスチレンを原料とする樹脂である。ポリテルペン樹脂およびテルペンスチレン樹脂は、水素添加処理を行った樹脂(水添ポリテルペン樹脂、水添テルペンスチレン樹脂)であってもよい。テルペン系樹脂への水素添加処理は、公知の方法で行うことができ、また市販の水添樹脂を使用することもできる。
【0062】
テルペン系樹脂は、前記例示のものからいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本開示では、テルペン系樹脂は市販品が用いられてもよい。このような市販品は、ヤスハラケミカル(株)等によって製造販売されるものが例示される。
【0063】
(ロジン系樹脂)
ロジン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば天然樹脂ロジン、それを水素添加、不均化、二量化、エステル化等で変性したロジン変性樹脂等が挙げられる。
【0064】
(フェノール系樹脂)
フェノール系樹脂としては、特に限定されないが、フェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールアセチレン樹脂、オイル変性フェノールホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0065】
(クマロン系樹脂)
クマロン系樹脂は、クマロンを主成分する樹脂であり、例えば、クマロン樹脂、クマロンインデン樹脂、クマロンとインデンとスチレンを主成分とする共重合樹脂等が挙げられる。なかでも、本開示の効果の観点から、クマロンとインデンとスチレンとを主成分とする共重合樹脂が好ましい。
【0066】
(樹脂成分の含有量)
樹脂成分のゴム成分100質量部に対する含有量は、接着性能およびグリップ性能の観点から、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましく、5質量部以上が特に好ましい。また、耐摩耗性能およびグリップ性能の観点からは、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましく、25質量部以下が特に好ましい。
【0067】
(樹脂成分の軟化点)
樹脂成分の軟化点は、グリップ性能の観点から、160℃以下が好ましく、145℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。また、軟化点は、グリップ性能の観点から、20℃以上が好ましく、35℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましく、80℃以上がさらに好ましく、100℃以上がさらに好ましい。なお、本開示において、軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0068】
(樹脂成分の重量平均分子量)
樹脂成分の重量平均分子量(Mw)は、揮発しにくく、グリップ性能が良好である点から、300以上が好ましく、400以上がより好ましく、500以上がさらに好ましい。また、該Mwは、15000以下が好ましく、10000以下がより好ましく、8000以下がさらに好ましい。
【0069】
(樹脂成分のSP値)
樹脂成分のSP値は、ゴム成分(特にSBR)との相溶性が優れる点から、8~11の範囲が好ましく、8~10の範囲がより好ましく、8.3~9.5の範囲がさらに好ましい。上記範囲内のSP値を持つ樹脂を使用することでSBRおよびBRとの相溶性が向上し、耐摩耗性能および破断伸びを改善できる。
【0070】
<<その他の配合剤>>
本開示に係るゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、オイル、液状ポリマー、ワックス、加工助剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、硫黄等の加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0071】
(オイル)
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、またはその混合物を用いることができる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。なかでも、本開示の効果の観点から、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイルが好ましい。
【0072】
オイルの含有量は、氷上性能の観点から、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましい。該含有量は、操縦安定性の観点から、80質量部以下が好ましく、60質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0073】
(液状ポリマー)
液状ポリマーは、常温(25℃)で液体状態のポリマーであれば特に限定されないが、例えば、液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)等の液状ジエン系重合体が挙げられる。なかでも、グリップ性能の観点から、液状SBRが好ましい。液状ポリマーの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算重量平均分子量が1.0×103~2.0×105であることが好ましい。
【0074】
液状ポリマーを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、グリップ性能の観点から、1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましく、10質量部以下が特に好ましい。
【0075】
(ワックス)
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、ブルームによるタイヤの白色化の抑制の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0076】
(加工助剤)
加工助剤としては、例えば、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、アミドエステル、シリカ表面活性剤、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩とアミドエステルとの混合物、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、脂肪酸金属塩、アミドエステル、脂肪酸金属塩とアミドエステル若しくは脂肪酸アミドとの混合物が好ましく、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物が特に好ましい。加工助剤としては、例えば、Schill+Seilacher社製の脂肪酸石鹸系加工助剤等を用いることができる。
【0077】
加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の改善効果を発揮させる観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性および破壊強度の観点からは、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。
【0078】
(老化防止剤)
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤が挙げられ、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-メチルヘプチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-エチル-3-メチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N-4-メチル-2-ペンチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジアリール-p-フェニレンジアミン、ヒンダードジアリール-p-フェニレンジアミン、フェニルヘキシル-p-フェニレンジアミン、フェニルオクチル-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系老化防止剤、および2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等のキノリン系老化防止剤が好ましい。これらの老化防止剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能やウェットグリップ性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0080】
(ステアリン酸)
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0081】
(酸化亜鉛)
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0082】
(加硫剤)
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0083】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保し、良好なグリップ性能および耐摩耗性能を得るという観点から、0.5質量部以上が好ましく、0.7質量部以上がより好ましい。また、劣化の抑制の観点からは、5.0質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下がさらに好ましい。
【0084】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、田岡化学工業(株)製のもの、フレキシス社製のもの、ランクセス社製のもの等の硫黄原子を含む加硫剤や、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物等を用いることができる。
【0085】
(加硫促進剤)
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系若しくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系、グアニジン系、およびチアゾール系の少なくとも一つが好ましく、スルフェンアミド系およびチアゾール系を併用することがより好ましい。
【0086】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミドが好ましい。
【0087】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩、1,3-ジ-o-クメニルグアニジン、1,3-ジ-o-ビフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-クメニル-2-プロピオニルグアニジン等が挙げられる。なかでも、1,3-ジフェニルグアニジンが好ましい。
【0088】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。なかでも、2-メルカプトベンゾチアゾールが好ましい。
【0089】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、6質量部以下がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0090】
<ゴム組成物の製造>
ゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、密閉式混練機(バンバリーミキサー、ニーダー等)等のゴム混練装置を用いて混練りすることにより製造できる。混練り工程は、例えば、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤を混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程とを含んでなるものである。さらに、前記ベース練り工程は、所望により、複数の工程に分けることもできる。混練条件としては特に限定されるものではないが、例えば、ベース練り工程では、排出温度150~170℃で3~10分間混練りし、ファイナル練り工程では、50~110℃で1~5分間混練りする方法が挙げられる。
【0091】
<トレッドおよびタイヤの製造>
上記成分を配合したゴム組成物は、未加硫の段階でトレッドの形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤとすることができる。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧(加硫)することによりタイヤを得ることができる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、150~200℃で10~30分間加硫する方法が挙げられる。
【0092】
<自動二輪車用タイヤ>
本開示のタイヤは、自動二輪車用タイヤとして好適に用いることができる。
【実施例
【0093】
実施例に基づいて、本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらのみに限定されるものではない。
【0094】
以下に、実施例および比較例で用いた各種薬品について説明する。
SBR1:旭化成(株)製のスチレンブタジエンゴム(T4850、重量平均分子量(Mw):35万、スチレン含量:40質量%、ビニル結合量:46%、ガラス転移温度(Tg):-17℃)
SBR2:下記製造例1により合成した変性スチレンブタジエンゴム(アミノ基変性SBR、スチレン含量:21質量%、ビニル結合量:63%)
SBR3:下記製造例2により合成した変性スチレンブタジエンゴム(シラノール基変性SBR、スチレン含量:21質量%、ビニル結合量:59.2%)
SBR4:下記製造例3により合成した変性スチレンブタジエンゴム(末端トリエトキシシリル基変性S-SBR、スチレン含量:27質量%、ビニル結合量:58%)
SBR5:旭化成(株)製のスチレンブタジエンゴム(T3830、S-SBR、スチレン含有量:33質量%、ビニル結合量:36%、ゴム成分100重量部に対しオイル分37.5重量部を含む油展品)
SBR6:JSR(株)製のスチレンブタジエンゴム(SBR1502、E-SBR、スチレン含量:23.5質量%)
SBR7:下記製造例4により合成した変性水素添加スチレンブタジエンゴム(変性水添SBR、水添率:96mol%、スチレン含有量:30質量%、Mw:51万、Tg:-31℃)
BR:宇部興産(株)製のブタジエンゴム(BR150、シス含量:98%)
カーボンブラック1(CB1):試作品(窒素吸着比表面積(N2SA):181m2/g、DBP吸油量:117~129ml/100g)
カーボンブラック2(CB2):キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220、N2SA:114m2/g、DBP吸油量:114ml/100g)
シリカ:エボニックデグサ社製のウルトラシルVN3(粒状シリカ、N2SA:175m2/g)
シランカップリング剤(カップリング剤):エボニックデグサ社製のSi69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
酸化亜鉛:ハクスイテック(株)製の酸化亜鉛3種(平均一次粒子径:1.0μm)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「つばき」
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
オイル:(株)ジャパンエナジー製のダイアナプロセスオイルX140(アロマ系プロセスオイル)
液状SBR:(株)クラレ製のL-SBR-841(液状SBR、ランダム共重合体、Mn:10000)
樹脂:日塗化学(株)製のクマロンV120(クマロンとインデンとスチレンとを主成分とする共重合樹脂、軟化点120℃)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーM-P(2-メルカプトベンゾチアゾール)
【0095】
<SBRの製造>
(製造例1)
SBR2(アミノ基変性SBR)の製造
攪拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン5670g、スチレン170g、1,3-ブタジエン430g、およびテトラメチルエチレンジアミン8.4mmolを仕込んだ後、n-ブチルリチウムを、シクロヘキサン、スチレン、および1,3-ブタジエンに含まれる重合を阻害する不純物の中和に必要な量を添加した。その後、n-ブチルリチウムを重合反応に用いる分として6.0mmolを加え、40℃で重合を開始した。次いで、重合を開始してから10分経過後、スチレン40g、1,3-ブタジエン360gを60分間かけて連続的に添加した。なお、重合反応中の最高温度は70℃であった。そして、連続添加終了後、さらに10分間重合反応を継続し、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、カップリング剤としての四塩化錫0.6mmolを20重量%シクロへキサン溶液の状態で加え、65℃で10分間反応させた。次いで、変性剤としてN-フェニル-2-ピロリドン5.4mmolを40重量%キシレン溶液の状態で添加し、65℃で20分間反応させた。その後、重合停止剤として、重合反応に使用したn-ブチルリチウムの2倍molに相当する量のメタノールを添加して、アミノ基変性スチレンブタジエンゴムを含有する溶液を得た。そして、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、固形状ゴムの回収を行ない、ロールにかけて脱水し、さらに熱風乾燥機にて乾燥することで、アミノ基変性スチレンブタジエンゴムを得た。得られたアミノ基変性スチレンブタジエンゴムは、スチレン含量が21質量%であり、ビニル結合量が63%であった。
【0096】
(製造例2)
SBR3(シラノール基変性SBR)の製造
(1)重合開始剤の製造(m-キシレンのリチオ化)
窒素雰囲気下、ガラス反応容器に、シクロヘキサン20部、m-キシレン0.531部、およびテトラメチルエチレンジアミン0.581部を加えた。次に攪拌しながら、n-ブチルリチウム0.641部(n-ブチルリチウム1mol当たりテトラメチルエチレンジアミン0.5mol)を加え、反応温度60℃にて1日間撹拌することで反応させ、重合開始剤を得た。
【0097】
(2)シラノール基変性SBRの製造
窒素雰囲気下、オートクレーブに、シクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン94.8部、スチレン25.2部、およびテトラメチルエチレンジアミン0.075部を仕込んだ後、上記で得た重合開始剤の溶液0.950部を添加し、60℃で重合を開始した。60分間重合反応を継続し、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、ジメチルアミノ(メチル)ジクロロシラン0.013部を添加し、15分間反応させた。さらに、ジメチル(ジメチルアミノ)クロロシラン0.059部を添加し、30分間反応させた後、重合停止剤としてメタノール0.064部を添加することで、重合体を含有する溶液を得た。そして、スチームストリッピングにより、溶媒を除去し、60℃で24時間真空乾燥することで、固形状の変性SBR3を得た。この変性SBR3について、1H-NMR測定を行ったところ、シラノール基が導入されていることが確認できた。
【0098】
(製造例3)
SBR4(トリエトキシシリル基変性SBR)の製造
(1)重合開始剤の製造(1,3,5-トリメチルベンゼンのリチオ化)
窒素雰囲気下、ガラス反応容器に、シクロヘキサン16部、1,3,5-トリメチルベンゼン0.841部、およびテトラメチルエチレンジアミン0.813部を加えた。次に攪拌しながら、n-ブチルリチウム1.345部(n-ブチルリチウム1mol当たり前記テトラメチルエチレンジアミン0.3molとなる)を加え、反応温度60℃にて2日間攪拌しながら反応させ、重合開始剤の溶液(リチオ化された1,3,5-トリメチルベンゼン)18.999部を得た。
【0099】
(2)トリエトキシシリル基変性SBRの製造
窒素雰囲気下、オートクレーブに、シクロヘキサン800部、1,3-ブタジエン94.8部、スチレン25.2部、およびテトラメチルエチレンジアミン0.185部を仕込んだ後、上記で得た重合開始剤の溶液(リチオ化された1,3,5-トリメチルベンゼン)0.812部を添加し(反応系中に存在するテトラメチルエチレンジアミンの量は、1,3,5-トリメチルベンゼンのリチオ化に用いたn-ブチルリチウム1mol当たり2.0molである)、60℃で重合を開始した。60分間重合反応を継続し、重合転化率が95%~100%の範囲になったことを確認してから、変性剤としての1,4-ビス(トリエトキシシリル)-2-ブテンを添加し、30分間反応させた後、重合停止剤としてメタノール0.064を添加して重合体を含有する溶液を得た。そして、スチームストリッピングにより、溶媒を除去し、60℃で24時間真空乾燥して、固形状の変性SBR4を得た。この変性SBR4について、1測定によりトリエトキシシリル基が導入されていることを確認した。
【0100】
(製造例4)
SBR7(変性水添SBR)の製造
充分に窒素置換した耐熱反応容器にn-ヘキサン2000ml、スチレン60g、1,3-ブタジエン140g、THF2.5g、n-ブチルリチウム0.45mmolを加えて、50℃で5時間攪拌し、重合反応を行った。その後、アミン系変性剤を0.15mol加えて、0℃で1時間撹拌した。次いで、水素ガスを0.4MPa-Gaugeの圧力で供給しながら20分間撹拌し、未反応のポリマー末端リチウムと反応させ、水素化リチウムとした。水素ガス供給圧力を0.7MPa-Gauge、反応温度を90℃とし、チタノセンジクロリドを主体とする触媒を用いて水素添加を行った。水素の吸収が目的の水素添加率となる積算量に達した時点で、反応温度を常温とし、水素圧を常圧に戻して反応容器より抜き出し、反応溶液を水中に撹拌投入して溶媒をスチームストリッピングにより除去することによって、目的とする水添SBRを得た。
【0101】
<ゴム組成物、タイヤの製造>
表1に示す配合内容に従い、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の材料を80~180℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄および加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、50℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
【0102】
得られた未加硫ゴム組成物をシート状に成形し、これを150℃の条件下で30分間プレス加硫し、試験用加硫ゴムシートを得た。
【0103】
得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、150℃の条件下で30分間プレス加硫し、試験用タイヤ(タイヤサイズ:200/50R18)を得た。得られた試験用タイヤについて以下に示す試験方法により性能を評価した。
【0104】
<ゴム硬度(Hs)>
各試験用加硫ゴムシートについて、JIS K 6253に準拠し、デュロメータータイプAを用いて、23℃でのゴム硬度Hsを測定した。
【0105】
<300%モジュラス(M300)>
JIS K 6251に準拠し、各試験用加硫ゴムシートからなる3号ダンベル型試験片について、23℃雰囲気下、(株)島津製作所製の卓上型精密万能試験機(AGS-X)を用いて引張試験を行い、300%伸長時の引張応力(MPa)M300を測定した。
【0106】
<直進安定性>
上記試験用タイヤを排気量1300ccの大型自動二輪車の後輪に装着し(後輪空気圧:290kPa)、サーキットコースを周回したときの直進安定性を、運転者の官能により評価した。直進安定性は、低速および高速で直進コースを走行した時のテスト車両の安定性として、総合的に評価された。結果は、比較例1を100とする指数で示した。数値が大きい程良好であることを示す。
【0107】
<ウェット旋回安定性>
上記試験用タイヤを排気量1300ccの大型自動二輪車の後輪に装着し(後輪空気圧:290kPa)、路面に水膜を形成したウェット路面を走行させた。そして、走行時の旋回性能をドライバーの官能評価に基づいて、比較例1を100とする指数で評価した。数値が大きいほどウェット路面での旋回性能に優れる。
<結果>
【0108】
【表1】
【0109】
表1に示すように、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比して、優れたウェット旋回性能を示す。また、本開示のタイヤは、直進安定性においても優れている。なお、表1において、総合性能は、直進安定性およびウェット旋回安定性についての指数を総和したものである。