(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20240618BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240618BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240618BHJP
C08L 9/06 20060101ALI20240618BHJP
B29B 7/22 20060101ALI20240618BHJP
B29B 7/28 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C08J3/20 D CEQ
B60C1/00 Z
C08K3/04
C08L9/06
B29B7/22
B29B7/28
(21)【出願番号】P 2020051436
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2019223047
(32)【優先日】2019-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 剛久
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-254148(JP,A)
【文献】特開2011-025500(JP,A)
【文献】特開2018-203902(JP,A)
【文献】特開2002-347022(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163253(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00- 3/28、 99/00
B60C 1/00- 19/12
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
B29B 7/00- 11/14、 13/00- 15/06
B29C 31/00- 31/10、 37/00- 37/04
B29C 71/00- 71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム組成物の製造方法であって、
混練室と、前記混練室内に設置されたロータと、前記混練室を加圧するラムウェイトとを備えた密閉式混練機で、ゴム成分と、加硫促進剤を含む加硫系薬品とを含む原料を混練りする混練工程を含むものであり、
前記混練工程において、混練開始の5秒以上後に、前記ラムウェイトによる加圧が開始され
、前記ラムウェイトによる加圧の圧力が0.2~0.4MPaの範囲内である、製造方法。
【請求項2】
前記ラムウェイトによる加圧が、混練開始の15秒後以内に開始される、請求項
1記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ラムウェイトによる加圧の圧力が、前記混練工程を通して一定である、請求項1
または2記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記加硫系薬品が、さらに加硫剤を含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項5】
前記混練工程が、前記加硫系薬品以外の原料を予め混練りするベース練り工程によって得られる混練物に前記加硫系薬品を加えて混練りする仕上げ練り工程である、請求項
4記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項6】
前記ゴム成分が、スチレンブタジエンゴムを10質量%以上含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項7】
前記原料がさらにカーボンブラックを含む、請求項1~
6のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項8】
前記加硫促進剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.3~4.0質量部である、請求項1~
7のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項9】
前記加硫剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.5~6.0質量部である、請求項
4記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項10】
タイヤの製造方法であって、
請求項1~
9のいずれか1項に記載の製造方法によりゴム組成物を製造する工程、および、
前記ゴム組成物を用いて、常法により、タイヤを製造する工程
を含むタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法に関し、より詳しくは、密閉式混練機を用いた所定の混練工程を含むゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム成分に各種添加剤を分散させて混練りするための混練装置として、従来、密閉式混練機が多用されている。このような密閉式混練機において、ゴム成分や各種添加剤は、混練機に投入された後、ラムウェイト(フローティングウェイトや加圧蓋とも呼ばれる)の下降により混練室内に押し込まれ、ラムウェイトの下降による加圧状態において、混練室内のロータを回転させることにより混練されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイヤ等のゴム製品に求められる性能の確保や、品質、生産性においては、混練機内部の原料を均一に分散・分配させることが非常に重要な要素となる。密閉式混練機で、各配合に処方された原料を均一に分散・分配させるためには、各原料に適した生産条件を設定することが重要となるが、原料の特性値、計量実績、原料の温度や、環境温度によって混練り状態のばらつきが発現することがわかっている。
【0005】
ゴム成分と加硫剤や加硫促進剤などの加硫系薬品とを含む原料を混練りする場合、混練りの初期におけるゴム成分からの内部発熱によって、加硫系薬品が融解し、ロータの回転トルクが原料に十分に伝わらないスリップ現象が発生し、原料の均一分散を効率よく達成することが困難となる。
【0006】
これに対し、予め融点の低い薬品を、ゴム成分と共に、ペレット状としてマスターバッチ化すれば、スリップ現象をある程度改善することはできるが、その加工コストのために全体の生産コストが上昇してしまう。
【0007】
本発明は、原料の均一分散を効率よく達成することで生産性を向上させることができる、ゴム成分と加硫系薬品とを含むゴム組成物の製造方法、および該製造方法により製造したゴム組成物を用いたタイヤの製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、混練室と、混練室内に設置されたロータと、混練室を加圧するラムウェイトとを備えた密閉式混練機で、ゴム成分と、加硫促進剤を含む加硫系薬品とを含む原料を混練りする工程において、混練開始から所定時間経過後にラムウェイトによる加圧を開始することで、スリップ現象を改善し、生産性を向上できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]ゴム組成物の製造方法であって、
混練室と、前記混練室内に設置されたロータと、前記混練室を加圧するラムウェイトとを備えた密閉式混練機で、ゴム成分と、加硫促進剤を含む加硫系薬品とを含む原料を混練りする混練工程を含むものであり、
前記混練工程において、混練開始の5秒以上後、好ましくは6秒以上後、より好ましくは7秒以上後、より好ましくは8秒以上後、より好ましくは9秒以上後、より好ましくは10秒以上後に、前記ラムウェイトによる加圧が開始される、製造方法、
[2]前記ラムウェイトによる加圧の圧力が0.2~0.5MPa、好ましくは0.3~0.5MPa、または、好ましくは0.2~0.4MPa、より好ましくは0.3~0.4MPaの範囲内である、上記[1]記載のゴム組成物の製造方法、
[3]前記ラムウェイトによる加圧が、混練開始の15秒後以内、好ましくは14秒後以内、より好ましくは13秒後以内、より好ましくは12秒後以内、より好ましくは11秒後以内、より好ましくは10秒後以内に開始される、上記[1]または[2]記載のゴム組成物の製造方法、
[4]前記ラムウェイトによる加圧の圧力が、前記混練工程を通して一定である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法、
[5]前記加硫系薬品が、さらに加硫剤(好ましくは硫黄)を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法、
[6]前記混練工程が、前記加硫系薬品以外の原料を予め混練りするベース練り工程によって得られる混練物に前記加硫系薬品を加えて混練りする仕上げ練り工程である、上記[5]記載のゴム組成物の製造方法、
[7]前記ゴム成分が、スチレンブタジエンゴムを10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、より好ましくは30~80質量%、より好ましくは30~60質量%、さらに好ましくは30~40質量%含む、上記[1]~[6]のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法、
[8]前記原料がさらにカーボンブラックを好ましくは10~150質量部、より好ましくは30~110質量部、さらに好ましくは50~80質量部含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法、
[9]前記加硫促進剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.3~4.0質量部、好ましくは0.5~3.0質量部、より好ましくは0.6~2.0質量部、より好ましくは0.7~1.0質量部である、上記[1]~[8]のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法、
[10]前記加硫剤(好ましくは硫黄)の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.5~6.0質量部、好ましくは1.0~6.0質量部、より好ましくは1.5~6.0質量部、より好ましくは2.0~5.5質量部、より好ましくは2.5~5.0質量部、より好ましくは3.0~4.5質量部である、上記[5]記載のゴム組成物の製造方法、
[11]タイヤの製造方法であって、
上記[1]~[10]のいずれかに記載の製造方法によりゴム組成物を製造する工程、および、
前記ゴム組成物を用いて、常法により、タイヤを製造する工程
を含むタイヤの製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、原料の均一分散を効率よく達成することで生産性を向上させた、ゴム成分と加硫系薬品とを含むゴム組成物の製造方法、および該製造方法により製造したゴム組成物を用いたタイヤの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】バンバリーミキサーの一例を示す概略断面図であり、ラムウェイトを下限位置まで下降させた状態を示す。
【
図2】バンバリーミキサーの一例を示す概略断面図であり、ラムウェイトを上限位置まで上昇させた状態(混練室が開放された状態)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一の実施形態は、ゴム組成物の製造方法であって、混練室と、前記混練室内に設置されたロータと、前記混練室を加圧するラムウェイトとを備えた密閉式混練機で、ゴム成分と、加硫促進剤を含む加硫系薬品とを含む原料を混練りする混練工程を含むものであり、前記混練工程において混練開始の5秒以上後に前記ラムウェイトによる加圧が開始される製造方法である。
【0013】
前記ラムウェイトによる加圧の圧力は、0.2~0.5MPaの範囲内であることが好ましい。
【0014】
前記ラムウェイトによる加圧は、混練開始の15秒後以内に開始されることが好ましい。
【0015】
前記ラムウェイトによる加圧の圧力は、前記混練工程を通して一定であることが好ましい。
【0016】
前記加硫系薬品は、さらに加硫剤を含むことが好ましい。
【0017】
前記混練工程は、前記加硫系薬品以外の原料を予め混練りするベース練り工程によって得られる混練物に前記加硫系薬品を加えて混練りする仕上げ練り工程であることが好ましい。
【0018】
前記ゴム成分は、スチレンブタジエンゴムを10質量%以上含むものであることが好ましい。
【0019】
前記原料は、さらにカーボンブラックを含むものであることが好ましい。
【0020】
前記加硫促進剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して0.3~4.0質量部であることが好ましい。
【0021】
前記加硫剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して0.5~6.0質量部であることが好ましい。
【0022】
他の実施形態は、タイヤの製造方法であって、前記製造方法によりゴム組成物を製造する工程、および、前記ゴム組成物を用いて常法によりタイヤを製造する工程を含むタイヤの製造方法である。
【0023】
理論に拘束されることは意図しないが、上記効果が発揮されるメカニズムとしては以下が考えられる。すなわち、本開示では、密閉式混練機でゴム成分と加硫系薬品とを含む原料を混練りする工程において、ラムウェイトによる加圧の開始を混練開始から所定時間経過後とすることで、混練開始から所定時間未加圧状態で混練りされるため、ゴム成分の粉砕や加硫系薬品の分散が予め程よく進行する。そのため、所定時間経過後に加圧下で混練りする際には、ゴム成分のさらなる粉砕と加硫系薬品のさらなる分散がスムーズに進行する。以上により、スリップ現象の発生が効果的に抑制されるためと考えられる。
【0024】
以下、ゴム成分と、加硫促進剤を含む加硫系薬品とを含むゴム組成物の各種原料について説明する。
【0025】
<ゴム成分>
ゴム成分は特に限定されず、従来、ゴム工業で用いられるものをいずれも好適に用いることができる。例えば、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンゴム(SIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのジエン系ゴム、ブチルゴム(IIR)、臭素化ブチルゴム(Br-IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl-IIR)およびフッ素化ブチルゴム(F-IIR)を含むハロゲン化ブチルゴムなどのブチル系ゴムがあげられる。これらのゴム成分は、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。なかでも、本開示の効果をより良好に発揮できるという理由から、SBRを含むことが好ましく、SBRおよびイソプレン系ゴムを含むことがより好ましく、SBRおよびイソプレン系ゴムのみであることがさらに好ましい。
【0026】
(スチレンブタジエンゴム)
スチレンブタジエンゴム(SBR)としては、特に限定されず、例えば未変性の乳化重合スチレンブタジエンゴム(E-SBR)や溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)、これらを変性した変性乳化重合スチレンブタジエンゴム(変性E-SBR)や変性溶液重合スチレンブタジエンゴム(変性S-SBR)などの変性SBRがあげられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性された変性SBR、スズ、ケイ素化合物などでカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するものなど)などがあげられる。またSBRとしては、伸展油を加えて柔軟性を調整した油展タイプのものと、伸展油を加えない非油展タイプのものとがあるが、このいずれも使用可能である。SBRは、例えば、JSR(株)、旭化成ケミカルズ(株)、日本ゼオン(株)、ZSエラストマー(株)等によって製造販売されるものなどを用いることができる。これらのSBRは、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。なかでも、本開示の効果をより良好に発揮できるという理由から、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)が好ましく、変性溶液重合スチレンブタジエンゴム(変性S-SBR)がより好ましい。
【0027】
SBRのスチレン含量は、15.0質量%~40.0質量%であることが好ましい。スチレン含量は、ゴム強度やグリップ性能の観点から、20.0質量%以上がより好ましい。また、スチレン含有量は、低燃費性の観点から、30.0質量%以下がより好ましい。なお、SBRのスチレン含量は、1H-NMR測定により算出される値である。
【0028】
SBRのビニル含量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、10.0~80.0%であることが好ましい。ビニル含量は、ゴム強度やグリップ性能の観点から、25.0%以上が好ましく、40.0%以上がより好ましい。また、ビニル含量は、低燃費性の観点から、75.0%以下が好ましく、70.0%以下がより好ましい。なお、SBRのビニル含量は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定される値である。
【0029】
SBRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、生産性の観点から、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。また、SBRの含有量は、80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。SBRの含有量を上記範囲内とすることにより、ゴム成分の粉砕と加硫系薬品の分散向上の効果をより良好に発揮できる傾向がある。なお、SBRとして油展タイプのSBRを用いる場合は、当該油展タイプのSBR中に含まれる固形分としてのSBR自体の含有量をゴム成分中のSBRの含有量とする。
【0030】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)および天然ゴム等ゴム工業において一般的なものを使用することができる。このうち、天然ゴムには、非改質天然ゴム(NR)の他に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度化天然ゴム、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等も含まれる。なかでも、NRが好ましい。これらのイソプレン系ゴムは、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0031】
NRとしては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等のゴム工業において一般的なものを用いることができる。
【0032】
イソプレン系ゴムを含有する場合のゴム成分中の含有量は、生産性、発熱抑制効果等の観点から、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。また、イソプレン系ゴムの含有量は、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。
【0033】
<加硫系薬品>
本開示において、加硫系薬品とは、いわゆる加硫(すなわち、可塑性体であるゴム成分の高分子鎖を網目状に架橋結合すること)に係る薬品であり、加硫促進剤の他、加硫剤等があげられる。本開示において、加硫系薬品としては、少なくとも加硫促進剤を含むものであり、さらに、加硫剤を含んでいてもよい。本開示の混練工程が、いわゆる仕上げ練り工程である場合、通常、加硫系薬品としては、加硫促進剤と加硫剤を含む。
【0034】
(加硫促進剤)
加硫促進剤としては、特に限定されず、公知の加硫促進剤を用いることができ、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤などがあげられる。なかでも、スルフェンアミド系、チウラム系、グアニジン系が好ましく、スルフェンアミド系がより好ましい。加硫促進剤は、例えば、大内新興化学工業(株)、三新化学工業(株)等によって製造販売されるものなどを用いることができる。これらの加硫促進剤は、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0035】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N’-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DZ)などがあげられる。なかでも、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)が好ましい。
【0036】
チウラム系加硫促進剤としては、例えば、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)等があげられる。
【0037】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジンなどがあげられる。
【0038】
加硫促進剤の形態としては、粉末、ペレット、グラニュール、オイル混合、ゴムバインダーのマスターバッチなどがあげられ、いずれも使用可能である。なかでも、全体の生産コストの観点からは、粉末、グラニュールが好ましい。本開示の混練工程を含む製造方法によれば、粉末やグラニュールを使用した場合でも、マスターバッチのような加工を施すことなく、スリップ現象を抑制することができ、原料の均一分散を効率よく達成できるという効果が得られる。
【0039】
加硫促進剤の融点は、65℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、90℃以上がさらに好ましい。また、加硫促進剤の融点は、200℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、115℃以下がさらに好ましい。加硫促進剤の融点を上記範囲内とすることにより、加硫促進剤の分散向上の効果をより良好に発揮できる傾向があり、本開示の効果をより良好に発揮できる。
【0040】
加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.3~4.0質量部が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、0.6質量部以上がより好ましく、0.7質量部以上がさらに好ましい。また、加硫促進剤の含有量は、3.0質量部以下が好ましく、2.0質量部以下がより好ましく、1.0質量部以下がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、加硫促進剤の分散向上の効果をより良好に発揮できる傾向があり、本開示の効果をより良好に発揮できる。
【0041】
(加硫剤)
加硫剤としては、特に限定されず、公知の加硫剤を用いることができ、例えば、有機過酸化物、硫黄系加硫剤、樹脂加硫剤、酸化マグネシウム等の金属酸化物などがあげられる。なかでも、硫黄系加硫剤が好ましい。硫黄系加硫剤としては、例えば、硫黄、モルホリンジスルフィド等の硫黄供与体等を用いることができる。これらのなかでも、硫黄を用いることが好ましい。これらの加硫剤は、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0042】
硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄(オイル処理硫黄、分散剤で処理された特殊硫黄、マスターバッチタイプの硫黄など)、不溶性硫黄(オイル処理不溶性硫黄など)などがあげられ、いずれも好適に用いられる。なかでも、粉末硫黄が好ましい。硫黄は、例えば、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等によって製造販売されるものなどを用いることができる。
【0043】
加硫剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5~6.0質量部が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上がより好ましく、2.5質量部以上がより好ましく、3.0質量部以上がさらに好ましい。また、加硫剤の含有量は、5.5質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましく、4.5質量部以下がさらに好ましい。加硫剤の含有量を上記範囲内とすることにより、本開示の効果をより良好に発揮できる。なお、加硫剤として硫黄を用いる場合の硫黄の含有量は、オイル処理硫黄などの硫黄以外の成分が含まれるものを用いる場合、オイル処理硫黄などに含まれる硫黄成分自体の含有量を意味する。
【0044】
<その他の成分>
本開示のゴム組成物は、上記した成分に加え、ゴム組成物の製造に一般に使用される他の成分、例えば、充填剤、オイル、樹脂、ステアリン酸、酸化亜鉛、老化防止剤、ワックス、加工助剤等を適宜含有することができる。
【0045】
(充填剤)
充填剤としては、特に限定されず、例えば、カーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、炭酸カルシウム、タルク、クレーなどこの分野で一般的に使用される充填剤をいずれも用いることができる。これらの充填剤は、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。なかでも、充填剤は、カーボンブラックおよびシリカの少なくとも1つを含むことが好ましく、カーボンブラックを含むことがより好ましく、ゴム強度の観点から、カーボンブラックが好ましい。
【0046】
カーボンブラックとしては特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなど、ゴム工業において一般的なものを使用できる。カーボンブラックは、例えば、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱ケミカル(株)、ライオン(株)、日鉄カーボン(株)、コロンビアカーボン社等によって製造販売されるものなどを用いることができる。これらのカーボンブラックは、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0047】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、特に限定されないが、十分な補強性および良好な耐摩耗性が得られる観点から、50m2/g以上が好ましく、80m2/g以上がより好ましく、110m2/g以上がさらに好ましい。また、カーボンブラックのN2SAは、分散性に優れ、発熱しにくいという観点から、500m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、200m2/g以下がさらに好ましい。なお、カーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217-2:2001に準拠して測定される値である。
【0048】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、10質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、50質量部以上がさらに好ましい。また、カーボンブラックの含有量は、150質量部以下が好ましく、110質量部以下がより好ましく、80質量部以下がさらに好ましい。カーボンブラックの含有量が上記範囲内の場合は、十分な補強性、ゴムへの良好な分散、良好な加工性が得られる傾向があり、本開示の効果をより良好に発揮できる。
【0049】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水ケイ酸)、湿式法により調製されたシリカ(含水ケイ酸)等があげられる。なかでも、表面のシラノール基が多く、シランカップリング剤との反応点が多いという理由から、湿式法により調製されたシリカが好ましい。シリカは、例えば、エボニックデグサ社、ソルベイ社、東ソー・シリカ(株)、(株)トクヤマ等によって製造販売されるものなどを用いることができる。これらのシリカは、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0050】
シリカのN2SAは、特に限定されないが、低燃費性、耐摩耗性の観点から、80m2/g以上が好ましく、110m2/g以上がより好ましく、140m2/g以上がより好ましく、170m2/g以上がさらに好ましい。また、シリカのN2SAは、シリカの分散性、加工性の観点から、500m2/g以下が好ましく、400m2/g以下がより好ましく、300m2/g以下がより好ましく、200m2/g以下がさらに好ましい。なお、シリカのN2SAは、ASTM D3037-81に準じてBET法で測定される値である。
【0051】
シリカのゴム成分100質量部に対する含有量は、特に限定されないが、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、30質量部以上がさらに好ましい。また、シリカの含有量の上限は、特に限定されないが、200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましく、110質量部以下がさらに好ましい。シリカの含有量が上記範囲内の場合は、良好な分散性、良好な加工性が得られる傾向があり、本開示の効果をより良好に発揮できる。
【0052】
(シランカップリング剤)
シリカを含有する場合、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができる。そのようなシランカップリング剤としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド基を有するシランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン等のメルカプト基を有するシランカップリング剤;3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリメトキシシラン等のチオエステル基を有するシランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル基を有するシランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系のシランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系のシランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系のシランカップリング剤等があげられる。このようなシランカップリング剤として、例えば、モメンティブ社、エボニックデグサ社等によって製造販売されるものなどを用いることができる。これらのシランカップリング剤は、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0053】
シランカップリング剤のシリカ100質量部に対する含有量は、十分なシリカ分散効果が得られるという理由から、1.0質量部以上が好ましく、2.0質量部以上がより好ましく、4.0質量部以上がより好ましく、6.0質量部以上がさらに好ましい。また、十分なカップリング効果やシリカ分散効果を効率的に得て補強性を確保するという理由から、シランカップリング剤の含有量は、20.0質量部以下が好ましく、18.0質量部以下がより好ましく、15.0質量部以下がさらに好ましい。
【0054】
(オイル)
オイルとしては、特に限定されず、ゴム工業において通常使用されるものをいずれも好適に用いることができ、例えば、パラフィン系、芳香族系、ナフテン系プロセスオイル等のプロセスオイルがあげられる。また、環境対策で多環式芳香族(polycyclic aromatic compound:PCA)化合物の含量の低いプロセスオイルがあげられる。前記低PCA含量プロセスオイルとしては、芳香族系プロセスオイルを再抽出したTreated Distillate Aromatic Extract(TDAE)、アスファルトとナフテン油の混合油であるアロマ代替オイル、軽度抽出溶媒和物(mild extraction solvates)(MES)、および重ナフテン系オイル等があげられる。なかでも、芳香族系プロセスオイルが好ましい。オイルは、例えば、H&R社、JXTGエネルギー(株)、出光興産(株)、三共油化工業(株)等によって製造販売されるものなどを用いることができる。これらのオイルは、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0055】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、特に限定されないが、1質量部以上がより好ましく、5質量部以上がより好ましく、10質量部以上がさらに好ましい。また、オイルの含有量は、70質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。オイルの含有量を上記範囲内とすることにより、ゴムの可塑化、加硫系薬品を含む原料の分散向上の効果をより良好に発揮できる傾向があり、本開示の効果をより良好に発揮できる。なお、オイルの含有量は油展やオイル処理で使用されたオイルの量も含むものである。
【0056】
(樹脂)
樹脂としては、特に限定されず、芳香族系石油樹脂などの従来タイヤ用ゴム組成物で慣用される樹脂を用いることができる。芳香族系石油樹脂としては例えば、フェノール系樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン系樹脂、テルペン系樹脂、アクリル樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)などがあげられる。フェノール系樹脂としては、例えば、BASF社製、田岡化学工業(株)製のものなど、クマロンインデン樹脂としては、例えば、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製、JXTGエネルギー(株)製のものなど、スチレン系樹脂としては、例えば、アリゾナケミカル社製のものなどを使用することができる。テルペン系樹脂としては、例えば、アリゾナケミカル社製、ヤスハラケミカル(株)製のものなどを使用することができる。ロジン系樹脂としては、例えば、ハリマ化成(株)製、荒川化学工業(株)製のものなどを使用することができる。これらの樹脂は、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0057】
樹脂を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、2質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、4質量部以上がさらに好ましい。また、樹脂の含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。樹脂の含有量を上記範囲内とすることにより、本開示の効果をより良好に発揮できる。
【0058】
(ステアリン酸)
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0059】
(酸化亜鉛)
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0060】
(老化防止剤)
老化防止剤としては、特に限定されず、ゴム工業において通常使用されるものをいずれも好適に用いることができ、例えば、キノリン系老化防止剤、キノン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、フェニレンジアミン系老化防止剤や、カルバミン酸金属塩等があげられる。なかでも、本開示の効果をより良好に発揮できるという理由から、フェニレンジアミン系老化防止剤が好ましい。フェニレンジアミン系老化防止剤としては、例えば、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン(IPPD)、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(6PPD)等があげられ、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(6PPD)がより好ましい。老化防止剤は、例えば、大内新興化学工業(株)、川口化学工業(株)、住友化学(株)等によって製造販売されるものなどを用いることができる。これらの老化防止剤は、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0061】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、0.8質量部以上がより好ましく、1.0質量部以上がさらに好ましい。また、老化防止剤の含有量は、7.0質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下がさらに好ましい。老化防止剤の含有量を上記範囲内とすることにより、老化防止効果を十分に得るとともに、老化防止剤がタイヤ表面に析出することによる変色を抑制することができる傾向がある。
【0062】
(ワックス)
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.3質量部以上が好ましく、0.7質量部以上がより好ましく、0.8質量部以上がさらに好ましい。また、ワックスの含有量は、3.0質量部以下が好ましく、2.5質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下がさらに好ましい。ワックスの含有量を上記範囲内とすることにより、本開示の効果をより良好に発揮できる。
【0063】
(加工助剤)
加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、0.8質量部以上がより好ましく、1.0質量部以上がさらに好ましい。また、加工助剤の含有量は、10.0質量部以下が好ましく、8.0質量部以下がより好ましく、6.0質量部以下がさらに好ましい。加工助剤の含有量を上記範囲内とすることにより、本開示の効果をより良好に発揮できる。
【0064】
<ゴム組成物の製造方法>
以下、ゴム組成物およびタイヤの製造方法について説明する。
【0065】
本開示のゴム組成物の製造方法は、混練室と、混練室内に設置されたロータと、混練室を加圧するラムウェイトとを備えた密閉式混練機で、ゴム成分と、加硫促進剤を含む加硫系薬品とを含む原料を混練りする工程を含むものである。
【0066】
(密閉式混練機)
密閉式混練機としては、従来からゴム工業で使用されている公知の密閉式混練機を用いることができる。このような密閉式混練機は、一般に、ロータが設置された混練室上に昇降可能なラムウェイトが設置されている。ロータは、その両端または片端に軸部を備え、軸部は、軸受けで回転可能に支持されており、その軸部が回転することにより、ロータが回転する。ロータは、二つを1対として、混練室内に設置されているのが一般的である。そして、当該ラムウェイトの下降により混練室にゴム成分等の原料を押し込みながら、混練室内のロータを回転することにより混練を行う。このような密閉式混練機としては、例えば、バンバリーミキサーやニーダー等があげられる。なかでも、作業性や生産性に優れるという理由から、バンバリーミキサーが好ましい。ロータの形状は、接線式、噛み合い式のいずれであってもよい。また、ロータは、2枚羽根ロータ、4枚羽根ロータ、6枚羽根ロータのいずれであってもよい。密閉式混練機の容量は特に限定されず、例えば1.7~619Lの範囲の各種容量のものを用いることができる。
【0067】
図1および
図2はバンバリーミキサーの一例を示したものである。
図1はラムウェイトを下限位置まで下降させた状態を示し、
図2はラムウェイトを上限位置まで上昇させた状態(混練室が開放された状態)を示す。これら図から明らかなとおり、ラムウェイトの上下動により、混練室内の容積が変化するため、それに応じて、ラムウェイトによる加圧の圧力が変化する。
【0068】
(混練工程)
ゴム成分と、加硫促進剤を含む加硫系薬品とを含む原料を混練りする混練工程は、混練開始の5秒以上後に、ラムウェイトによる加圧が開始されることを特徴とする。
【0069】
ゴム成分と、加硫促進剤を含む加硫系薬品とを含む原料は、密閉式混練機に設けられた、原料を投入するための投入口から投入される。混練工程において、ゴム成分および加硫促進剤を含む加硫系薬品の混練室への投入は、複数回に分けて行ってもよく、1回でその全量を投入してもよい。なかでも、生産効率の観点から、いずれも1回でその全量を投入することが好ましい。なお、本開示の混練工程をベース練り工程において実施する場合は、加硫系薬品はその一部を投入することが好ましい。
【0070】
混練工程において、原料としてゴム成分や加硫系薬品以外の原料を含む場合の、それら原料の投入回数も、特に限定されないが、通常は、生産効率の観点から、いずれも、1回で各全量を投入することが好ましい。
【0071】
加硫促進剤を含む加硫系薬品の投入タイミングは、ゴム成分と同時であってもよく、ゴム成分を先に投入し、次いで加硫促進剤を含む加硫系薬品を投入してもよく、ゴム成分、加硫促進剤を含む加硫系薬品の順に投入してもよい。なかでも、分散性や生産性の観点から、加硫促進剤を含む加硫系薬品はゴム成分と同時に投入することが好ましい。
【0072】
なお、上記において、同時とは、各原料を意図的に間隔あけることなく投入していれば足りる趣旨であり、厳密な意味での同時(すなわち、原料の投入を同じ瞬間に行う)まで求めるものではない。
【0073】
混練工程において、ラムウェイトによる加圧開始は、ゴム成分と、加硫促進剤を含む加硫系薬品とを含む原料の混練開始の5秒以上後である。5秒未満である場合、ゴム成分の粉砕や加硫系薬品の分散が不十分であるために、スリップ現象が発生し、原料の均一分散を行うためには生産性が悪化する。該加圧開始は、スリップ現象の発生をより効果的に抑制する観点から、混練開始の6秒以上後が好ましく、7秒以上後がより好ましく、8秒以上後がより好ましく、9秒以上後がより好ましく、10秒以上後がさらに好ましい。また、該加圧開始の上限は特に限定されないが、生産サイクルが長くなることを回避するためには、混練開始の15秒後以内が好ましく、14秒後以内がより好ましく、13秒後以内がより好ましく、12秒後以内がより好ましく、11秒後以内がより好ましく、10秒後以内がさらに好ましい。ラムウェイトによる加圧開始が上記範囲内であることにより、スリップ現象を改善し、ゴム成分の粉砕や加硫系薬品の分散の時間を確保しながら、全体としての混練時間を短縮して、生産性がより向上する傾向がある。
【0074】
なお、混練りは、ロータの回転により行うものであるが、ロータの回転は、原料を投入し終えた後に開始してもよいし、生産性の観点から、原料を投入する前に、予めロータを回転させた状態としていてもよい。本開示おいて、「混練開始」とは、原料を投入し終えた後にロータの回転を開始した場合は、当該ロータの回転開始からであり、原料を投入する前に予めロータを回転させた状態としていた場合は、原料投入時点からである。
【0075】
混練工程において、ラムウェイトによる加圧の圧力は、0.2~0.5MPaの範囲内であることが好ましい。0.2MPa以上であると、ゴム成分の粉砕や加硫系薬品の分散を確保できるために、スリップ現象の発生を抑制でき、原料の均一分散を効率よく達成することで生産性が向上する傾向がある。また、0.5MPa以内であると、ゴム成分からの内部発熱に起因する加硫系薬品の融解によるスリップ現象の発生を抑制でき、生産サイクルが短縮し、生産性が向上する傾向がある。該圧力は、0.3MPa以上がより好ましい。また、該圧力は、0.4MPa以下がより好ましい。ラムウェイトによる加圧の圧力が上記範囲内であることにより、スリップ現象を改善し、原料の均一分散が効率よく達成され、生産性が向上する傾向がある。
【0076】
混練工程において、ラムウェイトによる加圧が開始されるまでは、
図1に示すように、ラムウェイトは上限位置に上昇させた状態である。加圧を開始する際のラムウェイトは、目的とする圧力がかかる位置に下降させた状態であればよく、下限位置であってもよい。
【0077】
混練工程において、ラムウェイトによる加圧の圧力は、所定の範囲内(例えば0.2~0.5MPaの範囲内)で変動させてもよく、混練工程を通して一定であってもよい。なかでも、生産性の観点から、混練工程を通して一定であることが好ましい。なお、本開示において、ラムウェイトによる加圧の圧力が「一定」とは、密閉式混練機でラムウェイトによる加圧の圧力を一定に設定したまま変動させないことを意味する。
【0078】
混練工程において、ロータの回転数は、特に限定されないが、20rpm以上が好ましく、30rpm以上がより好ましく、40rpm以上がさらに好ましい。また、ロータの回転数は、80rpm以下が好ましく、60rpm以下がより好ましく、50rpm以下がさらに好ましい。ロータの回転数を上記範囲内とすることにより、生産性がより向上する傾向がある。
【0079】
ゴム組成物の製造方法において、混練工程は、通常、加硫系薬品(加硫剤および加硫促進剤)以外の原料を混練りする、いわゆるベース練り工程と、その後、ベース練り工程で得られた混練物に加硫系薬品(加硫剤および加硫促進剤)を加えてさらに混練りする、いわゆる仕上げ練り工程とに大別される。本開示の混練工程は、ベース練り工程と仕上げ練り工程のいずれの工程でもあり得る。ベース練り工程においても加硫促進剤を含む加硫系薬品をゴム成分とともに混練りする場合があるからである。但し、本開示の混練工程は、通常は、仕上げ練り工程として実施されるものである。
【0080】
(ゴム組成物の製造)
本開示のゴム組成物は、上記所定の混練工程を含むこと以外には、一般的な製造方法を適用して製造することができる。例えば、上記所定の混練工程をベース練り工程として実施する場合、ゴム成分と、加硫促進剤を含む加硫系薬品の全部または一部とを含む原料を上記所定の混練工程に付した後、所望の排出温度に達するまで引き続き密閉式混練機で混練りして排出する(ベース練り工程)。その後、ベース練り工程で得られた混練物に加硫促進剤を含む加硫系薬品の残部を添加し、密閉式混練機を用いてさらに混練りし(仕上げ練り工程)、その後加硫する方法などにより製造できる。また、例えば、上記所定の混練工程を仕上げ練り工程において実施する場合、加硫促進剤を含む加硫系薬品以外の原料を混練りして、所望の排出温度で排出する(ベース練り工程)。その後、ベース練り工程で得られた混練物に、加硫促進剤を含む加硫系薬品を加えて上記所定の混練工程に付した後、所望の排出温度に達するまで引き続き密閉式混練機で混練りし(仕上げ練り工程)、その後加硫する方法などにより製造できる。なお、ベース練りと仕上げ練りの間にリミル(再練り)を行ってもよい。
【0081】
ベース練り工程で得られる混練物は、通常、50℃以下、好ましくは20~30℃となるまで冷却することが好ましい。本開示の混練工程を仕上げ練り工程において実施する場合、仕上げ練り工程の混練り初期におけるゴム成分からの内部発熱を抑制して、加硫系薬品の融解によるスリップ現象を改善できる傾向がある。なお、冷却は、通常、ベース練り工程で得られる混練物をシーティングロールなどでシート状ゴム(ベースゴムシート)とした状態で行われ、冷却されたベースゴムシートは次工程(仕上げ練り工程)で使用されるまで所定の場所で保管される。本開示の混練工程を仕上げ練り工程において実施する場合、ベースゴムシートとともに加硫系薬品を混練りするが、所定時間経過後に加圧が開始されることによりベースゴムシートの粉砕や加硫系薬品の分散を確保できるために、スリップ現象を改善できる傾向がある。
【0082】
本開示の混練工程を仕上げ練り工程として実施する場合の混練り条件は、例えば、排出温度70~110℃で、混練り時間1~10分間である。その場合、ベース練り工程の混練り条件は、例えば、排出温度120~170℃で、混練り時間1~15分間である。この場合において、さらに再練り工程を実施する場合、その混練り条件は、例えば、排出温度120~170℃で、混練り時間1~15分間である。排出温度および混練時間を上記範囲とすることにより、原料の均一分散を効率よく達成でき、生産性がより向上する傾向がある。
【0083】
本開示の混練工程をベース練り工程として実施する場合の混練り条件としては、加硫系薬品が硫黄等の架橋が容易に進行する加硫剤を含まない場合には、上記ベース練り工程の排出温度および混練り時間を採用することができる。一方、加硫系薬品が、架橋が容易に進行する加硫剤を含む場合には、上記仕上げ練り工程の排出温度を採用し、混練時間は排出温度が低い分、長めに設定するのがよい。そのような変更は、当業者が適宜対応できるものである。
【0084】
(生産サイクル)
生産サイクルは、本開示の混練工程(ベース練り工程または仕上げ練り工程)において、ゴム成分と、加硫促進剤とを含む加硫系薬品とを含む原料の混練開始から、所定の排出温度で排出した時点までに要した1バッチあたりの時間として定義される。生産サイクルは、排出温度の設定や配合処方等に応じて変動し得る。例えば、本開示の混練工程を仕上げ練り工程で実施する場合において、排出温度を95℃に設定したとき、生産サイクルは、好ましくは80~94(秒/バッチ)である。
【0085】
<タイヤの製造方法>
本開示のゴム組成物は、各種タイヤ部材(例えば、トレッド、サイドウォール、カーカス被覆ゴム、クリンチ、チェーファー、ビード、ブレーカークッション、インナーライナーなど)に好適に用いることができる。
【0086】
本開示のタイヤは、上記製造方法によりゴム組成物を製造する工程、および、上記ゴム組成物を用いて、ゴム工業における常法によりタイヤを製造する工程を含む製造方法により、製造することができる。
【0087】
例えば、該タイヤは、
(1)上記製造方法により未加硫のゴム組成物を得る工程、
(2)上記(1)で得た未加硫のゴム組成物を所望のタイヤ部材の形状(例えば、トレッド等)に押出し加工して、当該タイヤ部材を得る工程、
(3)上記(2)で得たタイヤ部材(例えば、トレッド等)を、タイヤ成型機上で、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、成型して未加硫タイヤを得る工程、および、
(4)上記(3)で得た未加硫タイヤを、加硫機中で、加圧加硫してタイヤを得る工程
を含む製造方法により、製造することができる。
【0088】
本開示のタイヤは、空気入りタイヤ、非空気入りタイヤを問わないが、空気入りタイヤであることが好ましい。また、空気入りタイヤとしては、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤなどの高性能タイヤ、ランフラットタイヤなど各種タイヤに用いることができる。
【実施例】
【0089】
実施例に基づいて本開示を具体的に説明する。本開示は、これら実施例に限定されない。
【0090】
<実施例および比較例で使用した各種原料>
・SBR:NS616(末端変性溶液重合SBR、スチレン含量:21質量%、ビニル含量:66%、非油展、ZSエラストマー(株)から入手可能)
・NR:TSR20
・カーボンブラック:N220(N2SA:111m2/g、キャボットジャパン(株)から入手可能)
・オイル:Vivatec500(TDAEオイル、H&R社から入手可能)
・酸化亜鉛:酸化亜鉛2種(三井金属鉱業(株)から入手可能)
・ステアリン酸:ビーズステアリン酸つばき(日油(株)から入手可能)
・老化防止剤:ノクラック6C(N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(6PPD)、大内新興化学工業(株)から入手可能)
・硫黄:粉末硫黄(鶴見化学工業(株)から入手可能)
・加硫促進剤:ノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、融点:93℃、大内新興化学工業(株)から入手可能)
【0091】
実施例および比較例
<未加硫ゴム組成物の製造>
(ベース練り工程)
表1に示す配合処方にしたがい、バンバリーミキサー(容量240L、2枚羽根ロータ)を用いて、硫黄および加硫促進剤以外の原料を、排出温度150℃になるまで2分間混練りし、排出して混練物を得た。
【0092】
(仕上げ練り工程)
ベース練り工程で得られた混練物を30℃になるまで冷却した後、上記バンバリーミキサーに、該混練物、硫黄および加硫促進剤を投入し、表2に示す仕上げ練り工程の条件にしたがって、混練りし、排出温度95℃で排出して、未加硫ゴム組成物を得た。但し、比較例1では、混練開始に先立ち、ラムウェイトを下限位置まで下降した状態にして、混練を開始した。比較例1におけるラムウェイト下降圧は0.7MPaであった。
【0093】
<評価>
結果を表2に示す。
【0094】
(生産サイクル)
上記仕上げ練り工程における混練り開始から排出までの時間を、生産サイクル(秒/バッチ)として記録し、比較例1の生産サイクル(秒/バッチ)を100として指数表示した(生産サイクル指数)。数値が大きいほど、1バッチあたりの混練時間が短いことを示す。
【0095】
(バッチ内均一性)
未加硫ゴム組成物について、JSRトレーディング(株)製のキュラストメーター7を用いて10ヶ所のキュラスト測定を実施し、最大トルク値(dN・m)の変動係数(標準偏差/平均値)を求め、比較例1の変動係数を100として指数表示した(バッチ内均一性指数)。数値が大きい程、変動係数が小さく、最大トルク値(dN・m)のばらつきが少ない。すなわち、バッチ内の均一性に優れる、つまり、原料の均一分散に優れることを示す。
【0096】
(総合評価)
生産サイクル指数およびバッチ内均一性指数の数値の総和を、総合評価として示した。数値が大きい程、生産サイクルおよびバッチ内均一性の総合評価に優れる。
【0097】
【0098】
【0099】
目標は、比較例1の評価の総和(=200)を超えることである。表2の結果より、本開示の所定の混練工程を含む製造方法によれば、原料の均一分散が効率よく達成され、生産性が向上することがわかる。
【0100】
1 バンバリーミキサー
10 混練室
11 ラムウェイト
12 投入口
13a、13b ロータ
14 ドロップドア