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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】車両用制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20240618BHJP
   B60T 8/36 20060101ALI20240618BHJP
   B60T 13/138 20060101ALI20240618BHJP
   B60T 17/18 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
B60T8/17 B
B60T8/36
B60T13/138 A
B60T17/18
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020063143
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021160497
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100174713
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧川 彰人
(72)【発明者】
【氏名】坂田 康典
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/105526(WO,A1)
【文献】特開2019-172077(JP,A)
【文献】特開2002-255021(JP,A)
【文献】特開2015-013526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
B60T 13/00-17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータにより駆動されるピストンがシリンダ内を摺動してフルードを供給可能な電動シリンダと、
第1液路を介して前記電動シリンダに接続されており、前記第1液路の液圧を加減圧して、第1ホイールシリンダに接続された供給液路に液圧を出力する液圧出力部と、
前記ピストンと前記シリンダとの相対位置に応じて、前記電動シリンダ及び前記液圧出力部の少なくとも一方により前記第1ホイールシリンダに液圧を発生させる制御部と、
を備え
前記制御部は、前記ピストンがボトミングする位置を含み且つ初期位置を含まない範囲である所定範囲内に位置する場合、前記相対位置を維持した状態で前記液圧出力部により前記第1ホイールシリンダを加減圧する、車両用制動装置。
【請求項2】
電気モータにより駆動されるピストンがシリンダ内を摺動してフルードを供給可能な電動シリンダと、
第1液路を介して前記電動シリンダに接続されており、前記第1液路の液圧を加減圧して、第1ホイールシリンダに接続された供給液路に液圧を出力する液圧出力部と、
前記ピストンと前記シリンダとの相対位置に応じて、前記電動シリンダ及び前記液圧出力部の少なくとも一方により前記第1ホイールシリンダに液圧を発生させる制御部と、
を備え、
前記制御部は、目標制動力の増大勾配が所定勾配以上である場合、前記相対位置にかかわらず、前記電動シリンダ及び前記液圧出力部により前記第1ホイールシリンダを加圧する、車両用制動装置。
【請求項3】
電気モータにより駆動されるピストンがシリンダ内を摺動してフルードを供給可能な電動シリンダと、
第1液路を介して前記電動シリンダに接続されており、前記第1液路の液圧を加減圧して、第1ホイールシリンダに接続された供給液路に液圧を出力する液圧出力部と、
前記ピストンと前記シリンダとの相対位置に応じて、前記電動シリンダ及び前記液圧出力部の少なくとも一方により前記第1ホイールシリンダに液圧を発生させる制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記第1ホイールシリンダを加圧する加圧制御において、車両に付与されている制動力が所定制動力以上である場合、前記相対位置にかかわらず、前記相対位置を維持する、車両用制動装置。
【請求項4】
電気モータにより駆動されるピストンがシリンダ内を摺動してフルードを供給可能な電動シリンダと、
第1液路を介して前記電動シリンダに接続されており、前記第1液路の液圧を加減圧して、第1ホイールシリンダに接続された供給液路に液圧を出力する液圧出力部と、
前記ピストンと前記シリンダとの相対位置に応じて、前記電動シリンダ及び前記液圧出力部の少なくとも一方により前記第1ホイールシリンダに液圧を発生させる制御部と、
を備え、
第2ホイールシリンダに接続された第2液路と、
前記第1液路と前記第2液路とを接続する連通路に設けられた電磁弁である連通制御弁と、
前記第2液路で液漏れが発生しているか否かを判断する液漏れ判断部と、
を更に備え、
前記制御部は、
前記液漏れ判断部により前記液漏れが発生していないと判断された場合、前記連通制御弁を開弁した状態で前記電動シリンダから前記連通制御弁を介して第2ホイールシリンダにフルードを供給させ、
前記液漏れ判断部により前記第2液路で前記液漏れが発生していると判断された場合、前記連通制御弁を閉弁し、前記液漏れが発生したと判断されたときの前記相対位置に応じて、前記電動シリンダ及び前記液圧出力部の少なくとも一方により前記第1ホイールシリンダに液圧を発生させる、車両用制動装置。
【請求項5】
前記液漏れ判断部は、前記液漏れが発生しているか否かを判断する場合、前記ピストンの移動速度を、前記第1ホイールシリンダにおける目標圧と実圧との差に基づいて設定される通常移動速度よりも低くする、請求項に記載の車両用制動装置。
【請求項6】
前記液圧出力部は、前記第1液路と前記第1ホイールシリンダとを接続する主液路にフルードを供給するフルード供給源と、前記主液路のうち前記フルード供給源によりフルードが供給される部分と前記第1液路との間に設けられた電磁弁である差圧制御弁と、を備え、
前記液漏れ判断部は、前記液漏れが発生しているか否かを判断する場合、前記差圧制御弁を閉弁する、請求項に記載の車両用制動装置。
【請求項7】
前記相対位置を取得する位置取得部と、
前記電動シリンダの出力液圧を取得する液圧取得部と、
を更に備え、
前記液漏れ判断部は、前記位置取得部によって取得された前記ピストンの位置と、前記液圧取得部によって取得された前記出力液圧とに基づいて、前記液漏れが発生しているか否かを判断する、請求項4~6の何れか一項に記載の車両用制動装置。
【請求項8】
前記第2液路を介して前記第2ホイールシリンダに接続されたマスタシリンダと、
電磁弁であるシミュレータカット弁を介して前記マスタシリンダに接続されたシミュレータと、
前記第2液路のうち前記第2液路と前記連通路との接続部よりも前記マスタシリンダ側に設けられた電磁弁であるマスタカット弁と、
を更に備え、
前記制御部は、
通常時には前記マスタカット弁を閉弁した状態で前記電動シリンダに液圧を発生させ、
前記第2液路で前記液漏れが発生していると前記液漏れ判断部により判断された場合、前記マスタカット弁を閉弁し且つシミュレータカット弁を開弁した状態で、前記電動シリンダ及び前記液圧出力部の少なくとも一方により前記第1ホイールシリンダに液圧を発生させる、請求項4~7の何れか一項に記載の車両用制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第9205821号で開示されているブレーキシステムは、電動シリンダとポンプとを備えている。電動シリンダは、シリンダと当該シリンダ内を摺動可能なピストンとを有する。シリンダ内には出力室が形成されている。電動シリンダはピストンを摺動させて出力室の容積を小さくすることで液圧を発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第9205821号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動シリンダが発生可能な液圧は、出力室の残存容積に依存する。残存容積はピストンの摺動に応じて増減する出力室の容積である。例えばピストンがボトミングしそうな場合、それ以上に出力室の容積を小さくするようにピストンが摺動しても発生できる液圧は限られる。しかし、いかなる目標発生液圧に対してもピストンがボトミングしないように出力室を大きくすると、電動シリンダが大型化してしまう。
【0005】
本発明の目的は、電動シリンダを大型化することなくホイールシリンダを加圧することができる車両用制動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両用制動装置は、電気モータにより駆動されるピストンがシリンダ内を摺動してフルードを供給可能な電動シリンダと、第1液路を介して前記電動シリンダに接続されており、前記第1液路の液圧を加減圧して、第1ホイールシリンダに接続された供給液路に液圧を出力する液圧出力部と、前記ピストンと前記シリンダとの相対位置に応じて、前記電動シリンダ及び前記液圧出力部の少なくとも一方により前記第1ホイールシリンダに液圧を発生させる制御部と、を備え、前記制御部は、前記ピストンがボトミングする位置を含み且つ初期位置を含まない範囲である所定範囲内に位置する場合、前記相対位置を維持した状態で前記液圧出力部により前記第1ホイールシリンダを加減圧する。
また、本発明の車両用制動装置は、電気モータにより駆動されるピストンがシリンダ内を摺動してフルードを供給可能な電動シリンダと、第1液路を介して前記電動シリンダに接続されており、前記第1液路の液圧を加減圧して、第1ホイールシリンダに接続された供給液路に液圧を出力する液圧出力部と、前記ピストンと前記シリンダとの相対位置に応じて、前記電動シリンダ及び前記液圧出力部の少なくとも一方により前記第1ホイールシリンダに液圧を発生させる制御部と、を備え、前記制御部は、目標制動力の増大勾配が所定勾配以上である場合、前記相対位置にかかわらず、前記電動シリンダ及び前記液圧出力部により前記第1ホイールシリンダを加圧する。
また、本発明の車両用制動装置は、電気モータにより駆動されるピストンがシリンダ内を摺動してフルードを供給可能な電動シリンダと、第1液路を介して前記電動シリンダに接続されており、前記第1液路の液圧を加減圧して、第1ホイールシリンダに接続された供給液路に液圧を出力する液圧出力部と、前記ピストンと前記シリンダとの相対位置に応じて、前記電動シリンダ及び前記液圧出力部の少なくとも一方により前記第1ホイールシリンダに液圧を発生させる制御部と、を備え、前記制御部は、前記第1ホイールシリンダを加圧する加圧制御において、車両に付与されている制動力が所定制動力以上である場合、前記相対位置にかかわらず、前記相対位置を維持する。
更に、本発明の車両用制動装置は、電気モータにより駆動されるピストンがシリンダ内を摺動してフルードを供給可能な電動シリンダと、第1液路を介して前記電動シリンダに接続されており、前記第1液路の液圧を加減圧して、第1ホイールシリンダに接続された供給液路に液圧を出力する液圧出力部と、前記ピストンと前記シリンダとの相対位置に応じて、前記電動シリンダ及び前記液圧出力部の少なくとも一方により前記第1ホイールシリンダに液圧を発生させる制御部と、を備え、第2ホイールシリンダに接続された第2液路と、前記第1液路と前記第2液路とを接続する連通路に設けられた電磁弁である連通制御弁と、前記第2液路で液漏れが発生しているか否かを判断する液漏れ判断部と、を更に備え、前記制御部は、前記液漏れ判断部により前記液漏れが発生していないと判断された場合、前記連通制御弁を開弁した状態で前記電動シリンダから前記連通制御弁を介して第2ホイールシリンダにフルードを供給させ、前記液漏れ判断部により前記第2液路で前記液漏れが発生していると判断された場合、前記連通制御弁を閉弁し、前記液漏れが発生したと判断されたときの前記相対位置に応じて、前記電動シリンダ及び前記液圧出力部の少なくとも一方により前記第1ホイールシリンダに液圧を発生させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ピストンとシリンダとの相対位置すなわち出力室の残存容積に応じて、電動シリンダ及び液圧出力部の少なくとも一方により液圧を発生させる。これにより、例えば出力室の残存容積が小さい場合、電動シリンダが加圧上限に達する前に、液圧出力部により第1ホイールシリンダを加圧させることができる。したがって、出力室の大型化に伴う電動シリンダの大型化は不要となる。本発明によれば、電動シリンダを大型化することなく、第1ホイールシリンダを加圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の車両用制動装置の構成図である。
図2】第1実施形態の電動シリンダを説明するための概念図である。
図3】第1実施形態のアクチュエータの構成図である。
図4】第1実施形態の制御例を示すフローチャートである。
図5】第1実施形態の制御例を示すフローチャートである。
図6】第1実施形態の制御例を示すフローチャートである。
図7】第1実施形態の制御例を示すフローチャートである。
図8】第2実施形態の車両用制動装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。説明に用いる各図は概念図である。
【0010】
<第1実施形態>
第1実施形態の車両用制動装置1は、図1に示すように、上流ユニット11と、下流ユニットを構成するアクチュエータ3と、第1ブレーキECU901と、第2ブレーキECU902と、電源装置903と、を備えている。上流ユニット11は、アクチュエータ3に基礎液圧を供給可能に構成されている。
【0011】
上流ユニット11は、電動シリンダ2と、マスタシリンダ4と、第1液路51と、第2液路52と、連通路53と、ブレーキ液供給路54と、連通制御弁61と、マスタカット弁62と、を備えている。第1ブレーキECU901は、少なくとも上流ユニット11を制御する。第2ブレーキECU902は、少なくともアクチュエータ3を制御する。なお、図1は、車両用制動装置1の非通電状態を表している
【0012】
(電動シリンダ)
電動シリンダ2は、第1ホイールシリンダ81、82及び第2ホイールシリンダ83、84を加圧可能な加圧ユニット(調圧ユニット)である。第1ホイールシリンダ81、82は第1系統のホイールシリンダであり、第2ホイールシリンダ83、84は第2系統のホイールシリンダである。配管の接続は、例えば第1系統が後輪に対して配置され、第2系統が前輪に対して配置された前後配管である。なお、配管の接続は、第1系統及び第2系統のそれぞれに前輪と後輪が配置されたクロス配管であってもよい。
【0013】
電動シリンダ2は、シリンダ21と、電気モータ22と、ピストン23と、出力室24と、付勢部材25と、を有する。電気モータ22は、回転運動を直線運動に変換する直動機構22aを介してピストン23に接続されている。電動シリンダ2は、シリンダ21内に単一の出力室24が形成されているシングルタイプの電動シリンダである。
【0014】
ピストン23は、電気モータ22の駆動によりシリンダ21内を軸方向に摺動する。ピストン23は、軸方向一方側に開口し軸方向他方側に底面を有する有底円筒状に形成されている。つまり、ピストン23は、開口を形成する筒状部分と、底面(受圧面)を形成する円柱部分と、を備えている。
【0015】
出力室24は、シリンダ21とピストン23により区画されており、ピストン23の移動により容積が変化する。出力室24は、リザーバ45及びアクチュエータ3に接続されている。図2に示すように、ピストン23は、軸方向において、出力室24の容積が最小となる位置と、出力室24の容積が最大となる位置とを含む摺動領域R内で摺動する。摺動領域Rは、出力室24とリザーバ45との間を連通させる連通領域R1、及び出力室24とリザーバ45との間を遮断する遮断領域R2で構成されている。連通領域R1は、出力室24の容積が最大となるピストン23の初期位置を含んでいる。遮断領域R2は、出力室24の容積が最小となるピストン23の位置を含んでいる。出力室24の容積が最小となるピストン23の位置をボトミング位置とも称す。遮断領域R2は、軸方向において、連通領域R1よりも大きい。なお、図2では、各領域R、R1、R2がピストン23の軸方向一端(先端)の位置を基準に表されている。本実施例では、ピストン23が初期位置から出力室24の容積を小さくする方向を先端方向とも称す。ピストン23がボトミング位置から初期位置に向かう方向を基端方向とも称す。なお、本説明における先端方向と基端方向とは、あくまで説明を容易とするために用いられる方向であり、製品上における方向を示すものではない。
【0016】
より詳細に、シリンダ21には、入力ポート211及び出力ポート212が形成されている。出力ポート212は、出力室24と第1液路51とを連通させている。入力ポート211は、ピストン23が初期位置に位置する場合、ピストン23の筒状部分とオーバーラップしている。ピストン23の筒状部分には、貫通孔231が形成されている。貫通孔231は、ピストン23が初期位置にある場合に、入力ポート211に対向する位置(オーバーラップする位置)に形成されている。
【0017】
入力ポート211と貫通孔231がオーバーラップしている状態では、出力室24とリザーバ45とが連通する。ピストン23が先端方向に移動することで、入力ポート211と貫通孔231とがオーバーラップしている量は減少する。入力ポート211と貫通孔231とがオーバーラップしない状態になると、出力室24とリザーバ45との間が遮断される。
【0018】
シリンダ21には、シール部材X1、X2が設けられている(図2参照)。入力ポート211は、シール部材X1とシール部材X2の間に形成されている。軸方向一方側のシール部材X1は、環状のカップシールである。したがって、シール部材X1は、ピストン23の位置が遮断領域R2にある状態(遮断状態)において、出力室24からリザーバ45へのフルードの流通を禁止し、リザーバ45から出力室24へのフルードの流通を許可する。
【0019】
オーバーラップ量(貫通孔231及び/又は入力ポート211の軸方向の長さ)が大きいほど、連通領域R1が大きくなる。本実施形態では、入力ポート211と貫通孔231とは同レベルの軸方向長さを有している。ピストン23の先端方向への移動において、連通領域R1は、ピストン23が初期位置から所定量(オーバーラップ距離)移動するまで継続する。所定量は、初期位置と切替位置との離間距離に相当する。付勢部材25は、出力室24に配置され、ピストン23を基端方向に(初期位置に向けて)付勢するばねである。
【0020】
連通領域R1は、ピストン23の初期位置と切替位置との間の領域である。ピストン23が初期位置から先端方向に移動して切替位置に到達すると、貫通孔231と入力ポート211とのオーバーラップがなくなり、出力室24とリザーバ45との接続状態が連通状態から遮断状態に切り替わる。つまり、電動シリンダ2は、出力室24に液圧が発生する液圧発生状態になるといえる。反対に、遮断状態(液圧発生状態)において、ピストン23が基端方向に移動して切替位置に到達すると、貫通孔231と入力ポート211とがオーバーラップし始め、接続状態が遮断状態から連通状態に切り替わる。ピストン23の位置は、ピストン23のシリンダ21に対する相対位置といえる。
【0021】
(アクチュエータ)
アクチュエータ3は、第1ホイールシリンダ81、82を調圧可能に構成された第1液圧出力部(「液圧出力部」に相当する)31と、第2ホイールシリンダ83、84を調圧可能に構成された第2液圧出力部32と、を備える調圧ユニット(下流ユニット)である。アクチュエータ3は、電動シリンダ2に接続されている。
【0022】
第1液圧出力部31は、入力された液圧と第1ホイールシリンダ81、82の液圧との間に差圧を発生させることで第1ホイールシリンダ81、82を加圧するように構成されている。同様に、第2液圧出力部32は、入力された液圧と第2ホイールシリンダ83、84の液圧との間に差圧を発生させることで第2ホイールシリンダ83、84を加圧するように構成されている。
【0023】
アクチュエータ3は、いわゆるESCアクチュエータであって、各ホイールシリンダ81~84の液圧を独立に調圧することができる。アクチュエータ3は、第2ブレーキECU902の制御に応じて、例えばアンチスキッド制御(ABS制御とも呼ばれる)、横滑り防止制御(ESC)、又はトラクションコントロール等を実行する。第1液圧出力部31と第2液圧出力部32とは、アクチュエータ3の液圧回路上、互いに独立している。アクチュエータ3の構成については後述する。
【0024】
(マスタシリンダ)
マスタシリンダ4は、リザーバ45に接続され、ブレーキ操作部材Zの操作量(ストローク及び/又は踏力)に応じて機械的にアクチュエータ3の第1液圧出力部31にブレーキ液を供給する。マスタシリンダ4と電動シリンダ2とは、互いに独立して液圧を発生させることができる。マスタシリンダ4は、第1液圧出力部31を介してホイールシリンダ81、82を加圧可能に構成されている。マスタシリンダ4は、シリンダ41と、ピストン42と、を備えている。
【0025】
シリンダ41は、有底円筒状の部材である。シリンダ41には、入力ポート411と出力ポート412が形成されている。ピストン42は、ブレーキ操作部材Zの操作量に応じて、シリンダ41内を摺動するピストン部材である。ピストン42は、先端側に開口し基端側に底面を有する有底円筒状に形成されている。
【0026】
シリンダ41内には、ピストン42により単一のマスタ室41aが形成されている。換言すると、マスタシリンダ4には、シリンダ41とピストン42とによりマスタ室41aが形成されている。マスタ室41aの容積は、ピストン42の移動により変化する。ピストン42が先端側に移動すると、マスタ室41aの容積が小さくなり、マスタ室41aの液圧(以下「マスタ圧」という)が増大する。マスタ室41aには、ピストン42を初期位置に向けて付勢する付勢部材41bが設けられている。本実施形態のマスタシリンダ4は、シングルタイプのマスタシリンダである。
【0027】
出力ポート412は、マスタ室41aと第2液路52とを連通させる。入力ポート411は、ピストン42の筒状部分に形成された貫通孔421を介して、マスタ室41aとリザーバ45とを連通させる。マスタ室41aの容積が最大となるピストン42の初期位置において、入力ポート411と貫通孔421とはオーバーラップし、マスタ室41aとリザーバ45とが連通する。ピストン42が初期位置から軸方向一方側に所定量(オーバーラップ距離)移動すると、マスタ室41aとリザーバ45との接続が遮断される。
【0028】
マスタシリンダ4には、ストロークシミュレータ43及びシミュレータカット弁44が接続されている。ストロークシミュレータ43は、ブレーキ操作部材Zの操作に対して反力(負荷)を発生させる装置である。ブレーキ操作が解除されると、付勢部材41bによりピストン42が初期位置に戻される。ストロークシミュレータ43は、例えばシリンダ、ピストン、及び付勢部材により構成される。ストロークシミュレータ43とシリンダ41の出力ポート412とは、液路43aにより接続されている。シミュレータカット弁44は、液路43aに設けられたノーマルクローズ型の電磁弁である。
【0029】
(液路と電磁弁)
第1液路51は、電動シリンダ2と第1液圧出力部31とを接続している。第2液路52は、マスタシリンダ4(マスタ室41a)と第2液圧出力部32とを接続している。連通路53は、第1液路51と第2液路52とを接続している。供給液路510は、第1液圧出力部31と第1ホイールシリンダ81、82とを接続している。供給液路520は、第2液圧出力部32と第2ホイールシリンダ83、84とを接続している。
【0030】
連通制御弁61は、連通路53に設けられたノーマルクローズ型の電磁弁である。連通制御弁61は、電動シリンダ2による第2液圧出力部32へのブレーキ液の供給を許可又は禁止する。連通制御弁61は、閉弁時の第2ホイールシリンダ83、84から電動シリンダ2へのブレーキ液の逆流を防ぐため、弁体が弁座よりも第2ホイールシリンダ83、84側(第2系統側)に配置されている。これにより、連通制御弁61閉弁時に第2ホイールシリンダ83、84の液圧が電動シリンダ2の出力液圧よりも高くなっても、弁体には弁座に押し付けられる方向に力が加わるため(セルフシールされ)、閉弁が維持される。
【0031】
マスタカット弁62は、第2液路52のうち、第2液路52と連通路53との接続部50と、マスタシリンダ4との間に設けられたノーマルオープン型の電磁弁である。マスタカット弁62は、マスタシリンダ4から第2液圧出力部32へのブレーキ液の供給を許可又は禁止する。
【0032】
ブレーキ液供給路54は、リザーバ45と電動シリンダ2の入力ポート211とを接続している。なお、リザーバ45は、ブレーキ液を貯留し、内部の圧力は大気圧に保たれている。また、リザーバ45の内部は、各々ブレーキ液が貯留された2つの部屋451、452に区画されている。リザーバ45の一方の部屋451にはマスタシリンダ4が接続され、他方の部屋452にはブレーキ液供給路54を介して電動シリンダ2が接続されている。リザーバ45は、2つの部屋でなく、2つの別々のリザーバで構成されてもよい。
【0033】
(アクチュエータの構成例)
アクチュエータ3の構成例について、第1ホイールシリンダ81に接続された液路を例に簡単に説明する。アクチュエータ3の第1液圧出力部31は、図3に示すように、主液路311と、差圧制御弁312と、保持弁313と、減圧弁314と、ポンプ315と、電気モータ316と、リザーバ317と、を備えている。
【0034】
主液路311は、第1液路51と第1ホイールシリンダ81とを接続している。差圧制御弁312は、ノーマルオープン型のリニアソレノイドバルブである。差圧制御弁312の開度(電磁力による閉弁側への力)が制御されることで、上下流間に差圧を発生させることができる。第1液路51から第1ホイールシリンダ81へのブレーキ液の流通のみを許可する逆止弁312aが差圧制御弁312と並列に設けられている。
【0035】
保持弁313は、主液路311のうち差圧制御弁312と第1ホイールシリンダ81との間に設けられたノーマルオープン型の電磁弁である。また、逆止弁313aが保持弁313と並列に設けられている。減圧弁314は、減圧液路314aに設けられたノーマルクローズ型の電磁弁である。減圧液路314aは、主液路311のうち保持弁313と第1ホイールシリンダ81との間の部分と、リザーバ317とを接続している。
【0036】
ポンプ315は、電気モータ316の駆動力により作動する。ポンプ315は、ポンプ液路315aに設けられている。ポンプ液路315aは、主液路311のうち差圧制御弁312と保持弁313との間の部分(以下「分岐部X」という)と、リザーバ317とを接続している。ポンプ315が作動すると、リザーバ317内のブレーキ液が分岐部Xに吐出される。
【0037】
リザーバ317は、調圧リザーバである。還流液路317aは、第1液路51とリザーバ317とを接続している。リザーバ317は、ポンプ315の作動により、リザーバ317内のブレーキ液が優先的に吸入され、リザーバ317内のブレーキ液が減少すると開弁して還流液路317aを介して第1液路51からブレーキ液が吸入されるように構成されている。
【0038】
第2ブレーキECU902は、アクチュエータ3によりホイールシリンダ81を加圧する場合、差圧制御弁312に目標差圧(ホイールシリンダ81の液圧>第1液路51の液圧)に応じた制御電流を印加し、差圧制御弁312を閉弁する。この際、保持弁313は開弁しており、減圧弁314は閉弁している。また、ポンプ315が作動することで、第1液路51からリザーバ317を介して分岐部Xにブレーキ液が供給される。これにより、ホイールシリンダ81が加圧される。
【0039】
第1ホイールシリンダ81の液圧(以下「第1ホイール圧」という)と第1液路51の液圧との差が目標差圧を超えて高くなろうとすると、力の大小関係から差圧制御弁312が開弁する。加圧後の第1ホイール圧は、第1液路51の液圧と目標差圧との和になる。このように、アクチュエータ3は、電動シリンダ2の出力液圧と第1ホイール圧との間に差圧を発生させることで、第1ホイールシリンダ81を加圧する。他のホイールシリンダ82、83、84の加圧も同様である。
【0040】
第2ブレーキECU902は、アンチスキッド制御等でアクチュエータ3により第1ホイール圧を減圧する場合、減圧弁314を開弁し且つ保持弁313を閉弁した状態でポンプ315を作動させ、第1ホイールシリンダ81内のブレーキ液をポンプバックさせる。第2ブレーキECU902は、アクチュエータ3により第1ホイール圧を保持する場合、保持弁313及び減圧弁314を閉弁する。電動シリンダ2又はマスタシリンダ4の作動のみにより第1ホイール圧を加圧又は減圧する場合、第2ブレーキECU902は、差圧制御弁312及び保持弁313を開弁し、減圧弁314を閉弁する。
【0041】
このように、第1液圧出力部31は、第1液路51と第1ホイールシリンダ81、82とを接続する主液路311と、主液路311にポンプ液路315aを介してフルードを供給するポンプ315と、主液路311のうち主液路311とポンプ液路315aとの接続部(X)と第1液路51との間に設けられた電磁弁である差圧制御弁312と、差圧制御弁312に対して並列に接続され電動シリンダ2から第1ホイールシリンダ81、82へのフルードの流通のみを許可する逆止弁312aと、を備えている。
【0042】
第2液圧出力部32の構成は、第1液圧出力部31と同じであるため、説明は省略する。また、第1液圧出力部31の主液路311に相当する第2液圧出力部32の主液路321は、第2液路52と第2ホイールシリンダ83、84とを接続している。主液路321には、圧力センサ75が設置されている。このように、第2液圧出力部32は、主液路311に相当する主液路321と、差圧制御弁312に相当する差圧制御弁322と、逆止弁312aに相当する逆止弁322aと、保持弁313に相当する保持弁323と、逆止弁313aに相当する逆止弁323aと、減圧弁314に相当する減圧弁324と、ポンプ315に相当するポンプ325と、リザーバ317に相当するリザーバ327と、を備えている。アクチュエータ3は、電動シリンダ2とは独立して、ホイールシリンダ81~84を加圧可能に構成されている。なお、以下、説明において、ホイールシリンダ81~84の液圧をホイール圧ともいう。
【0043】
(ブレーキECU及び各種センサ)
第1ブレーキECU901及び第2ブレーキECU902(以下「ブレーキECU901、902」ともいう)は、それぞれCPUやメモリを備える電子制御ユニットである。各ブレーキECU901、902は、各種制御を実行する1つ又は複数のプロセッサを備えている。第1ブレーキECU901と第2ブレーキECU902とは、別個のECUであって、互いに情報(制御情報等)を通信可能に接続されている。
【0044】
第1ブレーキECU901は、電動シリンダ2及び各電磁弁61、62、44に制御可能に接続されている。第2ブレーキECU902は、アクチュエータ3に制御可能に接続されている。各ブレーキECU901、902は、各種センサの検出結果に基づいて各種制御を実行する。各種センサとして、車両用制動装置1には、例えば、ストロークセンサ71、圧力センサ72、73、75、回転角センサ74、車輪速度センサ(図示略)、ヨーレートセンサ(図示略)、及び加速度センサ(図示略)等が設けられている。
【0045】
ストロークセンサ71は、ブレーキ操作部材Zのストロークを検出する。車両用制動装置1には、各ブレーキECU901、902に一対一で対応するように、2つのストロークセンサ71が設けられている。ブレーキECU901、902は、それぞれ対応するストロークセンサ71からストローク情報を取得する。圧力センサ72は、マスタ圧を検出するセンサであって、例えば第2液路52のうちマスタカット弁62よりもマスタシリンダ4側の部分に設けられている。圧力センサ73は、電動シリンダ2の出力液圧すなわち出力室24の圧力を検出するセンサであって、例えば第2液路52に設けられている。回転角センサ74は、電動シリンダ2の電気モータ22に対して設けられ、電気モータ22の回転角(回転位置)を検出する。圧力センサ75は、第2液路52から第2液圧出力部32への入力液圧を検出する。各種センサの検出値は、両方のブレーキECU901、902に送信されてもよい。
【0046】
第1ブレーキECU901は、ストロークセンサ71、圧力センサ72、73、及び回転角センサ74の検出結果を受信し、当該検出結果に基づいて電動シリンダ2及び各電磁弁61、62、44を制御する。第1ブレーキECU901は、圧力センサ72、73の検出結果及びアクチュエータ3の制御状態に基づいて、各ホイール圧を演算することができる。
【0047】
第2ブレーキECU902は、ストロークセンサ71及び圧力センサ75の検出結果を受信し、当該検出結果に基づいてアクチュエータ3を制御する。第2ブレーキECU902は、圧力センサ75及びアクチュエータ3の制御状態に基づいて、各ホイール圧を演算することができる。第2ブレーキECU902は、第1差圧(入力圧とホイールシリンダ81、82の液圧との差圧)の目標値である第1目標差圧、及び第2差圧(入力圧とホイールシリンダ83、84の液圧との差圧)の目標値である第2目標差圧を設定する。
【0048】
電源装置903は、各ブレーキECU901、902に電力を供給する装置である。電源装置903は、バッテリを備えている。電源装置903は、両ブレーキECU901、902に接続されている。つまり、本実施形態では、2つのブレーキECU901、902に共通の電源装置903から電力が供給される。なお、第1ブレーキECU901は、第2ブレーキECU902に指示することで、アクチュエータ3を制御することができる。
【0049】
(ピストンとシリンダとの相対位置に応じた制御)
第1ブレーキECU901は、制御部91を備えている。制御部91は、電動シリンダ2のピストン23とシリンダ21との相対位置に応じて、電動シリンダ2及び第1液圧出力部31の少なくとも一方によりホイールシリンダ81~84に液圧を発生させる。換言すると、制御部91は、ホイールシリンダ81~84を加圧する加圧制御の実行にあたり、ピストン23の位置に応じて電動シリンダ2及び第1液圧出力部31の少なくとも一方を駆動対象として選択し、選択した駆動対象によりホイールシリンダ81~84を加圧する。
【0050】
例えば電動シリンダ2の出力室24の残存容積が小さい場合、電動シリンダ2が加圧上限に達する前に、液圧出力部31、32によりホイールシリンダ81~84を加圧させることができる。残存容積とは、ピストン23がボトミングするまでに残された出力室24の容積に相当する。したがって、残存容積は、ピストン23が初期位置に位置する場合に最大となり、ボトミング位置に位置する場合に最小となる。加圧上限とは、電動シリンダ2のピストン23が初期位置からボトミング位置まで移動することで出力可能な液圧の上限である。出力室24の大型化を抑制できるため電動シリンダ2の大型化は不要となる。第1実施形態によれば、電動シリンダ2を大型化することなく、ホイールシリンダ81~84を加圧することができる。なお、出力室24の残存容積は、ピストン23が先端方向に移動するほど減少する。出力室24の残存容積は、出力室24の縮小可能な容積といえる。
【0051】
(具体例)
制御部91は、加圧制御において、ピストン23が所定範囲外に位置する場合、少なくとも電動シリンダ2によりホイールシリンダ81~84を加圧する。所定範囲とはピストン23がボトミングする位置を含み且つ初期位置を含まない範囲である。図2に示すように、所定範囲とはシリンダ21の先端から基端方向に延びる範囲である。制御部91はピストン23の先端が所定範囲内であるか否かに応じて、駆動対象を設定する。後述するように、ピストン23の先端位置は回転角センサ74等で取得される。制御部91は、加圧制御において、ピストン23が所定範囲内に位置する場合、電動シリンダ2の出力液圧を維持しつつ液圧出力部31、32によりホイールシリンダ81~84を加圧する。制御部91は、加圧制御において、ピストン23が所定範囲外に位置する場合には上流優先制御(通常制御)を実行し、ピストン23が所定範囲内に位置する場合には下流優先制御を実行するといえる。
【0052】
制御部91は、下流優先制御において、ピストン23の位置を維持することで、電動シリンダ2の出力液圧を維持する。アクチュエータ3とリザーバ45とが電動シリンダ2によって遮断されていても、アクチュエータ3のポンプ315、325が駆動することで、リザーバ45のフルードが電動シリンダ2のシール部材X1を介してアクチュエータ3に吸入される。つまり、アクチュエータ3は、ピストン23が遮断領域R2に位置していても、ホイールシリンダ81~84を加圧することができる。
【0053】
制御部91は、回転角センサ74の検出値に基づいて、ピストン23の位置(位置情報)を演算する。制御部91は、例えば回転角センサ74の検出値と直動機構22aのギヤ比からピストン23の位置を演算(推定)する。電気モータ22の回転角(回転位置)とピストン23の位置とは相関関係にある。ブレーキECU901、902は、当該相関関係を記憶していてもよい。
【0054】
図2に示すように、所定範囲は、出力室24の残存容積の最大容積に対する割合が所定割合(例えば約20%)となるピストン23の位置から、ピストン23がボトミングする位置までの範囲に設定されている。本実施形態では、シリンダの径は軸方向において略一定である。そのため所定範囲はピストン23が摺動可能な全範囲のうち、ピストン23がボトミングする位置から基端方向に向けて全範囲の20%程度延びた範囲である。つまり、制御部91は、加圧制御において、出力室24の残存容積の最大容積に対する割合(以下「残存割合」という)が所定割合より高い場合、少なくとも電動シリンダ2によりホイールシリンダ81~84を加圧する。また、制御部91は、加圧制御において、出力室24の残存割合が所定割合以下である場合、電動シリンダ2の出力液圧を維持しつつ液圧出力部31、32によりホイールシリンダ81~84を加圧する。
【0055】
さらに換言すると、制御部91は、出力室24の残存容積が閾値より大きい場合、上流優先制御を実行し、出力室24の残存容積が閾値以下である場合、下流優先制御を実行するともいえる。ピストン23の位置と出力室24の残存容積とは相対関係にある。ブレーキECU901、902は、当該相関関係を記憶していてもよい。
【0056】
この構成によれば、出力室24の残存容積が小さい場合、電動シリンダ2のピストン23の位置を維持しつつ、アクチュエータ3によりホイールシリンダ81~84を加圧することができる。なお、下流優先制御において、電動シリンダ2の出力液圧を維持せずに、ピストン23を初期位置に戻しつつアクチュエータ3で加圧してもよい。ただし、この場合、ピストン23を基端方向に移動させることで電動シリンダ2の出力液圧が減圧され得る。したがって、当該減圧を考慮した制御が実行されることが好ましい。上述した本実施例では電動シリンダ2の出力圧が維持されるため、ホイールシリンダ81~84が減圧されることを抑制できる。
【0057】
所定割合の設定例について説明する。例えば所定割合は20%に設定できる。所定割合は、アクチュエータ3の起動から作動(安定作動)までの所要時間に基づいて設定してもよい。残存割合が20%のときに加圧源を電動シリンダ2からアクチュエータ3に切り替える指示を出したとしても、アクチュエータ3が安定作動するまでの時間(残存容積が20%から最小値になる時間に相当する)は電動シリンダ2のピストン23が先端方向に移動しつづけて目標圧を実現することができる。
【0058】
駆動対象を選択パターンは、3つ以上でもよい。制御部91は、例えば、出力室24の残存割合が50~100%である場合、電動シリンダ2による加圧(通常制御)を実行する。また、制御部91は、出力室24の残存割合が20~50%である場合、残存割合が閾割合(例えば20%付近)になるまで電動シリンダ2による加圧を実行し、閾割合になったら電動シリンダ2を作動させつつアクチュエータ3を起動させ作動させる。そして、制御部91は、最小値~20%である場合、アクチュエータ3により加圧を実行する。このように、制御部91は、ピストン23の位置に応じて適切な駆動対象を選択することができる。
【0059】
(急ブレーキ時の制御)
制御部91は、目標制動力の増大勾配が所定勾配以上である場合、ピストン23の位置にかかわらず、電動シリンダ2及び液圧出力部31、32によりホイールシリンダ81~84を加圧する。制御部91は、例えばブレーキ操作部材Zの操作量又は自動ブレーキ制御での指令値に基づいて、目標制動力を設定する。制御部91は、この目標制動力の増大勾配が大きい場合すなわち急ブレーキ時には、ピストン23の位置による優先制御でなく、両方の加圧装置(電動シリンダ2及びアクチュエータ3)を駆動させてホイールシリンダ81~84を加圧する。これにより、急ブレーキ時の制動力の応答性を向上させることができる。
【0060】
(省電力制御)
第1ブレーキECU901は、省電判断部92をさらに備えている。省電判断部92は、電動シリンダ2への供給電力を抑制するか否かを判断する。省電判断部92は、電動シリンダ2に給電するバッテリの充電量を把握し、充電量が閾値以下となると、電動シリンダ2への供給電力を抑制すると判断する。
【0061】
制御部91は、加圧制御において、省電判断部92により供給電力を抑制すると判断され且つ車両に付与されている制動力が所定制動力以上である場合、ピストン23の位置にかかわらず、電動シリンダ2の出力液圧を維持する(省電力制御)。制動力が十分に車両に付与されている状態であれば、電動シリンダ2のピストン23の位置を維持して出力液圧を維持しても問題はない。ピストン23を移動させないことで、電力消費を抑えることができる。制動力が所定制動力以上であることは、ホイール圧が所定圧(必要制動圧)以上あることに対応する。
【0062】
この省電力制御は、例えば急ブレーキ時やAEB(衝突被害軽減ブレーキ)の作動時には解除される。つまり、省電力制御の実行の優先度は、緊急性が高い制御よりも低い。また、バッテリが十分に充電されると、省電力制御は解除される。
【0063】
(液漏れ判断制御)
第1ブレーキECU901は、さらに、液漏れ判断部93と、位置取得部94と、液圧取得部95と、を備えている。液漏れ判断部93は、第2液路52で液漏れが発生しているか否かを判断する。位置取得部94は、回転角センサ74の検出値に基づいて、ピストン23の位置(位置情報)を取得する。液圧取得部95は、圧力センサ73の検出値に基づいて、電動シリンダ2の出力液圧を取得する。
【0064】
液漏れ判断部93は、第1液漏れ判断制御として、位置取得部94によって取得されたピストン23の位置と、液圧取得部95によって取得された電動シリンダ2の出力液圧とに基づいて、液漏れが発生しているか否かを判断する。ピストン23の位置と電動シリンダ2の出力液圧とは相関関係にある。ピストン23が先端方向に移動するほど、電動シリンダ2の出力液圧は高くなる。この相関関係と、実際のピストン23の位置と電動シリンダ2の出力液圧との関係とを比較することで、液漏れの有無が判断できる。位置取得部94が取得した実際のピストン23の位置に対して、予め設定された相関関係から想定される電動シリンダ2の出力液圧(想定圧)よりも、液圧取得部95が取得した実際の電動シリンダ2の出力液圧のほうが所定値以上低い場合、液漏れが発生していると判断できる。
【0065】
液漏れ判断部93は、第1液漏れ判断制御で液漏れが発生していると判断した場合、第2液漏れ判断制御として、差圧制御弁312、322を閉弁し、ホイール圧を保持する。この状態において、液漏れ判断部93は、圧力センサ75の検出値が低下している場合、第2液路52で液漏れが発生していると判断し、圧力センサ75の検出値が低下していない場合、第1液路51で液漏れが発生していると判断する。
【0066】
液漏れ判断部93は、所定のタイミング、例えばブレーキ操作部材Zが踏み込まれたとき又は前回の第1液漏れ判断制御から所定時間経過したとき等に、第1液漏れ判断制御を実行する。液漏れは、例えば、第1液路51及び第2液路52のうち上流ユニット11とアクチュエータ3とを接続する部分、又はアクチュエータ3とホイールシリンダ81~84とを接続する部分で発生し得る。なお、液漏れ判断方法は、上記に限らない。例えば、液漏れ判断部93は、目標ホイール圧と実際のホイール圧との差が所定値以上である状態が所定時間継続した場合に、液漏れが発生していると判断してもよい。
【0067】
(液漏れ発生時の制御)
制御部91は、液漏れ判断部93により第2液路52で液漏れが発生していると判断された場合、連通制御弁61を閉弁し、液漏れが発生したと判断されたときのピストン23の位置に応じて、電動シリンダ2及び第1液圧出力部31の少なくとも一方により第1ホイールシリンダ81、82に液圧を発生させる。
【0068】
連通制御弁61が閉弁されることで、第1液路51(第1系統)と第2液路52(第2系統)との接続が液圧的に遮断される。これにより、液漏れしている第2液路52と正常な第1液路51とが分離される。正常な第1液路51からフルードが漏れることを防止できる。この状態で、制御部91は、液漏れ発生検出時のピストン23の位置に応じて駆動対象を選択し、駆動対象により第1ホイールシリンダ81、82を加圧する。これにより、第1ホイールシリンダ81、82は正常に加圧される。
【0069】
また、制御部91は、第2液路52で液漏れが発生していると液漏れ判断部93により判断された場合、マスタカット弁62を閉弁した状態で、電動シリンダ2及び第1液圧出力部31の少なくとも一方により第1ホイールシリンダ81、82に液圧を発生させる。これにより、液漏れ発生時にもかかわらず、バイワイヤモードを継続したまま、第1ホイールシリンダ81、82を加圧することができる。
【0070】
バイワイヤモードとは、マスタシリンダ4とホイールシリンダ81~84とを液圧的に切り離し、各ブレーキECU901、902の制御によりホイール圧を調整するモードである。バイワイヤモードでは、シミュレータカット弁44が開状態でマスタシリンダ4とストロークシミュレータ43とが連通しているため、運転者のブレーキフィーリングは良好(通常通り)である。したがって、この構成によれば、第2液路52で液漏れが発生している場合でも、ブレーキフィーリングを損なうことなく、第1ホイールシリンダ81、82を加圧することができる。以下、第2液路52が液漏れ状態の際の上記制御を、「第2液漏れ時制御」と称する。
【0071】
一方、液漏れ判断部93により第1液路51で液漏れが発生していると判断された場合、制御部91は、連通制御弁61及びシミュレータカット弁44を閉弁し、マスタカット弁62を開弁する。この状態で、制御部91は、マスタシリンダ4から第2液圧出力部32に供給されるマスタ圧を基礎液圧として、第2液圧出力部32を制御し、第2ホイールシリンダ83、84を加圧する。以下、第1液路51が液漏れ状態の際の上記制御を、「第1液漏れ時制御」と称する。
【0072】
(移動抑制制御)
液漏れ判断部93は、第1液漏れ判断制御の実行にあたり、ピストン23の移動速度を通常移動速度よりも低くする移動抑制制御を実行する。通常移動速度は、ホイールシリンダ81~84の目標圧と実圧との差に基づいて設定される速度である。ピストン23の移動速度は、電気モータ22の回転数制御により制御される。
【0073】
このように、液漏れ判断部93は、第1液漏れ判断制御において、ピストン23の移動速度を抑制する。第1液漏れ判断制御において移動抑制制御が実行されることにより、出力室24の残存容積の減少が抑制され、液漏れが発生している場合のフルードの外部への流出が抑制される。この構成によれば、ピストン23がボトミングする前に液漏れの有無を判断することができる。また、移動速度を抑制しない場合と比べて、電動シリンダ2の残存容積を確保することができる。
【0074】
液漏れ判断部93は、第1液漏れ判断制御の実行にあたり、差圧制御弁312、322を閉弁する。これにより、移動抑制制御が実行されて出力液圧の増大勾配が低下しても、ホイール圧は少なくとも閉弁時の液圧で保持される。つまり、第1液漏れ判断制御時の制動力の減少は抑制される。いずれの液路でも液漏れが発生していない場合、電動シリンダ2の出力液圧は、逆止弁312a、322aを介してホイールシリンダ81~84に供給される。
【0075】
(液漏れに関する制御の流れ)
図4を参照して第1実施形態の制御の流れを説明する。車両用制動装置1が液漏れ状態でない場合(S101:No)、液漏れ判断部93は、第1液漏れ判断制御の実行条件が満たされたか否かを判断する(S102)。実行条件は、上記のように例えばブレーキ操作が開始されたこと又は前回の第1液漏れ判断制御から所定時間経過したこと等である。実行条件が満たされていない場合(S102:No)、通常制御が実行される(S103)。
【0076】
通常制御では、連通制御弁61及びシミュレータカット弁44が開弁され、マスタカット弁62が閉弁され、ピストン23の位置に応じて駆動対象が選択される。なお、制御部91は、液漏れ発生時にのみ、ピストン23の位置に応じて駆動対象を選択するように構成されてもよい。つまり、制御部91は、通常制御時、常に電動シリンダ2をメインにホイール圧を調圧してもよい。
【0077】
実行条件が満たされた場合(S102:Yes)、液漏れ判断部93は、第1液漏れ判断制御を実行する(S104)。液漏れ判断部93は、第1液漏れ判断制御の実行にあたり、差圧制御弁312、322を閉弁し且つ移動抑制制御を実行する。液漏れ判断部93が液漏れが発生していないと判断した場合(S105:No)、制御部91は通常制御を実行する(S103)。
【0078】
液漏れ判断部93は、液漏れが発生していると判断した場合(S105:Yes)、第2液漏れ判断制御を実行し、第2液路52で液漏れが発生しているか否かを判断する(S106)。液漏れ判断部93が第2液路52で液漏れが発生していると判断した場合(S106:Yes)、制御部91は第2液漏れ時制御を実行する(S107)。液漏れ判断部93が第1液路51で液漏れが発生していると判断した場合(S106:No)、制御部91は第1液漏れ時制御を実行する(S108)。
【0079】
図5を参照して第1液漏れ判断制御(S104)の流れを説明する。液漏れ判断部93は、連通制御弁61が開弁され且つマスタカット弁62が閉弁された状態で、差圧制御弁312、322を閉弁し、移動抑制制御によりピストン23を先端方向に移動させる(S201)。液漏れ判断部93は、電動シリンダ2のピストン23の位置と電動シリンダ2の出力液圧との関係から液漏れが発生しているか否かを判断する(S202)。ピストン23の位置により想定される出力液圧(想定圧)と実際の出力液圧(実圧)との差が所定値以下である場合(実圧≒想定圧)(S202:No)、液漏れ判断部93は液漏れが発生していないと判断する(S203)。ピストン23の位置により想定される出力液圧が実際の出力液圧よりも高く且つ両者の差が所定値より大きい場合(実圧+所定値<想定圧)(S202:No)、液漏れ判断部93は液漏れが発生していると判断する(S204)。
【0080】
第2液漏れ時制御(S107)について図6を参照して説明する。制御部91は、連通制御弁61及びマスタカット弁62を閉弁する(S301)。制御部91は、ピストン23が所定範囲内に位置するか否か、すなわち出力室24の残存割合が20%以下であるか否かを判断する(S302)。出力室24の残存割合が20%以下である場合(S302:Yes)、制御部91は、電動シリンダ2の出力液圧を維持しつつ第1液圧出力部31により第1ホイールシリンダ81、82を加圧する(S303)。
【0081】
急ブレーキが発生した場合(S304:Yes)、制御部91は、電動シリンダ2と第1液圧出力部31とにより加圧制御を実行する(S305)。次に制御部91は、出力室24の残存割合が5%以下であるか否か判断する(S306)。出力室24の残存割合が5%以下である場合(S306:Yes)、差圧制御弁312の目標差圧を、電動シリンダ2が出力する液圧が0の場合に相当する目標圧に設定する(S307)。電動シリンダ2がボトミングし且つポンプ315、325が作動すると電動シリンダ2の出力液圧が0になってしまう。このように差圧制御弁312の目標差圧を設定する(電動シリンダ2の出力液圧を0として目標差圧を増大させる)ことで、ホイール圧が低下しないように圧力維持できる。出力室24の残存割合が5%より大きい場合(S306:No)、ステップS305で設定されたように制御を実行する(S308)。急ブレーキが発生していない場合(S304:No)、制御部91は、引き続き第1液圧出力部31により加圧制御を実行する(S309)。
【0082】
出力室24の残存割合が20%より大きい場合(S302:Yes)、制御部91は、出力室24の残存割合が50%未満であるか否かを判断する(S310)。出力室24の残存割合が50%未満である場合(S310:Yes)、制御部91は、電動シリンダ2の出力液圧(圧力センサ73の検出値)が必要制動圧以上であるか否かを判断する(S311)。必要制動圧とは、目標減速度を達成するために必要な制動力である。電動シリンダ2の出力液圧が必要制動圧以上である場合(S311:Yes)、制御部91は、省電力制御を実行して、電動シリンダ2のピストン23の位置を維持する(S312)。これにより、電動シリンダによる加圧制御継続を継続することができる。
【0083】
出力室24の残存割合が50%以上である場合(S310:No)又は電動シリンダ2の出力液圧が必要制動圧未満である場合(S311:No)、制御部91は、通常制御を実行する(S313)。出力室24の容積は、4つのホイールシリンダ81~84を加圧可能に設計されている。このため、出力室24の残存割合が50%以上であれば、少なくとも1つの系統の2つのホイールシリンダを電動シリンダ2のみで加圧可能となる。したがって、出力室24の残存割合が50%以上であれば、電動シリンダ2により、後輪のホイールシリンダ81、82を十分に加圧することができる。
【0084】
(液漏れ発生時以外の制御例)
液漏れ発生時以外の制御例について図7を参照して説明する。ブレーキ操作による制動要求又は自動ブレーキによる制動要求があった場合(S401:Yes)、制御部91は、出力室24の残存割合が所定割合以下であるか否かを判断する(S402)。出力室24の残存割合が所定割合以下である場合(S402:Yes)、制御部91は、電動シリンダ2の出力液圧を維持しつつアクチュエータ3によりホイールシリンダ81~84を加圧する(S403)。次に制御部91は、出力室24の残存割合が5%以下であるか否か判断する(S404)。出力室24の残存割合が5%以下である場合(S404:Yes)、差圧制御弁312の目標差圧を、電動シリンダ2が出力する液圧が0の場合に相当する目標圧に設定する(S405)。このように差圧制御弁312の目標差圧を設定することで、ホイール圧が低下しないように圧力維持できる。出力室24の残存割合が5%より大きい場合(S404:No)、ステップS403で設定されたように制御を実行する(S406)。
【0085】
出力室24の残存割合が所定割合より大きく(S402:No)且つ電動シリンダ2の出力液圧が必要制動圧以上である場合(S407:Yes)、制御部91は、省電力制御を実行する(S408)。一方、電動シリンダ2の出力液圧が必要制動圧未満である場合(S407:No)、制御部91は、通常制御を実行する(S409)。
【0086】
(その他)
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、ピストン23の位置に応じて駆動対象を選択する制御は、正常時及び液漏れ発生時の少なくとも一方で実行されればよい。また、第1ブレーキECU901の各部91~95は、第1ブレーキECU901及び第2ブレーキECU902の少なくとも一方に設けられればよい。例えば、第2ブレーキECU902は、第1ブレーキECU901に指示することで、上流ユニット11を制御することができる。また、シミュレータカット弁44はなくてもよい。シミュレータカット弁44がない場合の制御例について、第2実施形態で説明する。
【0087】
<第2実施形態>
図8に示すように、第2実施形態の車両用制動装置10は第1実施形態の車両用制動装置1と比較して、主に、シミュレータカット弁44を備えず、第2ブレーキECU902が補正部96を備える点で異なっている。以下、異なっている点について説明する。第2実施形態の説明において、第1実施形態の説明及び図面を適宜参照できる。
【0088】
車両用制動装置10では、シミュレータカット弁44がないため、マスタ室41aとストロークシミュレータ43とは常に連通している。したがって、失陥時(例えば第1液路51で液漏れが発生している場合)、マスタカット弁62を開弁し且つ連通制御弁61を閉弁すると、マスタシリンダ4から第2液圧出力部32だけでなくストロークシミュレータ43にもフルードが供給される。これにより、マスタ圧を増大させるために必要なフルード量は、シミュレータカット弁44が液路43aを遮断する場合に比べて大きくなる。つまり、制動力(ホイール圧、マスタ圧)を変化させるために必要なブレーキ操作部材Zのストロークが大きくなる。運転者は、ストロークに対して制動力が出ていないと感じやすくなる。
【0089】
第1実施形態同様、制御部91は、液漏れ判断部93により第1液路51で液漏れが発生していると判断された場合、連通制御弁61を閉弁し且つマスタカット弁62を開弁する。そして、制御部91は、マスタ圧を基礎液圧として、第2液圧出力部32により第2ホイールシリンダ83、84を加圧する。つまり、制御部91は、第1液漏れ時制御を実行する。
【0090】
第2ブレーキECU902(及び/又は第1ブレーキECU901)は、目標制動力を補正する補正部96を備えている。目標制動力は、ブレーキ操作部材Zの操作量(ストローク及び/又は踏力)により設定される。補正部96は、第1液漏れ時制御において、加圧時に、目標制動力を増大させる側に補正する。つまり、補正部96は、加圧制御で、目標制動力すなわち目標ホイール圧を嵩上げする。これにより、シミュレータカット弁44がない車両用制動装置10において、第1液漏れ時制御の制動力の応答性は向上する。
【0091】
以下、具体例を説明する。説明において、補正前の目標ホイール圧すなわちオリジナルの目標ホイール圧を単に「目標ホイール圧」と称し、補正後の目標ホイール圧を「補正目標ホイール圧」と称し、実際のホイール圧を「実ホイール圧」と称する。補正部96は、目標ホイール圧に対する実ホイール圧の割合が閾割合(例えば70%)に達するまで、目標ホイール圧にゲインをかけた補正目標ホイール圧(目標ホイール圧<補正目標ホイール圧)を目標値として設定する。
【0092】
目標値の増大勾配が大きくなることで、実ホイール圧の増大勾配が大きくなる。実ホイール圧の増大勾配は、例えば電気モータ316の回転数や差圧制御弁322の制御電流(目標差圧)により調整可能である。なお、実ホイール圧は、圧力センサ75の検出値と第2液圧出力部32の制御状態に基づいて演算(推定)される。また、実ホイール圧は、ホイールシリンダに圧力センサが設けられている場合、その検出値により取得できる。
【0093】
目標ホイール圧に対する実ホイール圧の割合(以下「目標達成割合」という)が閾割合に達した後は、補正部96は、実ホイール圧が目標ホイール圧に収束するようにゲインを下げる。これにより、実ホイール圧のオーバーシュートを抑制しつつ、実ホイール圧の応答性を向上させることができる。
【0094】
第1液漏れ時制御においてホイール圧を減圧する場合も、加圧時同様、補正部96は、目標達成割合が閾割合に達するまで、目標ホイール圧にゲインをかけて補正目標ホイール圧(目標ホイール圧>補正目標ホイール圧)を目標値として設定する。つまり、補正部96は、減圧制御において、目標ホイール圧を減少させる補正をする。これにより、目標値の減少勾配が大きくなり、実ホイール圧の減少勾配も大きくなる。つまり、加圧時同様、ブレーキ操作に対する制動力の応答性は向上する。また、目標達成割合が閾割合に達した後は、実ホイール圧が目標ホイール圧に収束するようにゲインを下げる。補正部96は、目標圧に到達する前にブレーキ操作方向が異なることが検知されたら、補正をキャンセルさせる。ブレーキ操作方向はブレーキペダルのストロークセンサに基づいて検知されてもよい。ブレーキ操舵方向ではなく、目標減速度の増減に基づいて補正のキャンセルが判断されてもよい。これにより、実ホイール圧のアンダーシュートを抑制しつつ、実ホイール圧の追従性を向上させることができる。
【0095】
なお、第2実施形態において、液漏れ判断部93により第2液路52で液漏れが発生していると判断された場合、制御部91は、第1実施形態同様の第2液漏れ時制御を実行する。
【0096】
(その他)
本発明は、第1及び第2実施形態に限られない。例えば、アクチュエータ3は、ポンプ315に替えて電動シリンダを備えてもよい。また、マスタシリンダ4は、2つのマスタ室をもつタンデム型のマスタシリンダであってもよい。この場合、一方のマスタ室が第1液圧出力部31に接続され、他方のマスタ室が第2液圧出力部32に接続される。また、本発明は、例えば、回生制動装置を含む車両(ハイブリッド車や電気自動車)、自動ブレーキ制御を実行する車両、又は自動運転車両にも適用できる。また、車両用制動装置は、1つのブレーキECUで制御されてもよい。
【0097】
(構成まとめ)
車両用制動装置1、10は、電気モータ22により駆動されるピストン23がシリンダ21内を摺動してフルードを供給可能な電動シリンダ2と、第1液路51を介して電動シリンダ2に接続されており、第1液路51の液圧を加減圧して、第1ホイールシリンダ81、82に接続された供給液路510に液圧を出力する第1液圧出力部31と、ピストン23とシリンダ21との相対位置(以下単に「相対位置」という)に応じて、電動シリンダ2及び第1液圧出力部31の少なくとも一方により第1ホイールシリンダ81、82に液圧を発生させる制御部91と、を備えている。
制御部91は、ピストン23がボトミングする位置を含み且つ初期位置を含まない範囲である所定範囲内に位置する場合、相対位置を維持した状態で第1液圧出力部31により第1ホイールシリンダ81、82を加減圧する。
制御部91は、目標制動力の増大勾配が所定勾配以上である場合、相対位置にかかわらず、電動シリンダ2及び第1液圧出力部31により第1ホイールシリンダ81、82を加圧する。
制御部91は、第1ホイールシリンダ81、82を加圧する加圧制御において、車両に付与されている制動力が所定制動力以上である場合、相対位置にかかわらず、相対位置を維持する。
車両用制動装置1、10は、第2ホイールシリンダ83、84に接続された第2液路52と、第1液路51と第2液路52とを接続する連通路53に設けられた電磁弁である連通制御弁61と、第2液路52で液漏れが発生しているか否かを判断する液漏れ判断部93と、を備えている。制御部91は、液漏れ判断部93により液漏れが発生していないと判断された場合、連通制御弁61を開弁した状態で電動シリンダ2から連通制御弁61を介して第2ホイールシリンダ83、84にフルードを供給させ、液漏れ判断部93により第2液路52で液漏れが発生していると判断された場合、連通制御弁61を閉弁し、液漏れが発生したと判断されたときの相対位置に応じて、電動シリンダ2及び第1液圧出力部31の少なくとも一方により第1ホイールシリンダ81、82に液圧を発生させる。
液漏れ判断部93は、液漏れが発生しているか否かを判断する場合、ピストン23の移動速度を、第1ホイールシリンダ81、82における目標圧と実圧との差に基づいて設定される通常移動速度よりも低くする。
第1液圧出力部31は、第1液路51と第1ホイールシリンダ81、82とを接続する主液路311にフルードを供給するポンプ(「フルード供給源」に相当する)315と、主液路311のうちポンプ315によりフルードが供給される部分Xと第1液路51との間に設けられた電磁弁である差圧制御弁312と、を備えている。液漏れ判断部93は、液漏れが発生しているか否かを判断する場合、差圧制御弁312を閉弁する。
車両用制動装置1、10は、相対位置を取得する位置取得部94と、電動シリンダ2の出力液圧を取得する液圧取得部95と、を備えている。液漏れ判断部93は、位置取得部94によって取得されたピストン23の位置と、液圧取得部95によって取得された出力液圧とに基づいて、液漏れが発生しているか否かを判断する。
車両用制動装置1は、第2液路52を介して第2ホイールシリンダ83、84に接続されたマスタシリンダ4と、電磁弁であるシミュレータカット弁44を介してマスタシリンダ4に接続されたストロークシミュレータ(「シミュレータ」に相当する)43と、第2液路52のうち第2液路52と連通路53との接続部50よりもマスタシリンダ4側に設けられた電磁弁であるマスタカット弁62と、を備えている。制御部91は、通常時にはマスタカット弁62を閉弁した状態で電動シリンダ2に液圧を発生させ、第2液路52で液漏れが発生していると液漏れ判断部93により判断された場合、マスタカット弁62を閉弁し且つシミュレータカット弁44を開弁した状態で、電動シリンダ2及び第1液圧出力部31の少なくとも一方により第1ホイールシリンダ81、82に液圧を発生させる。
【符号の説明】
【0098】
1、10…車両用制動装置、2…電動シリンダ、21…シリンダ、22…電気モータ、23…ピストン、24…出力室、31…第1液圧出力部(液圧出力部)、43…ストロークシミュレータ(シミュレータ)、44…シミュレータカット弁、51…第1液路、52…第2液路、53…連通路、61…連通制御弁、62…マスタカット弁、81、82…第1ホイールシリンダ、91…制御部、92…省電判断部、93…液漏れ判断部、94…位置取得部、95…液圧取得部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8